説明

透明ガスバリアフィルム

【課題】高温条件下でも樹脂基材由来の不純物ガスを抑制するとともに、優れた耐熱性を発揮して長期にわたり良好なガスバリア特性を期待できるガスバリアフィルムを提供する。
【解決手段】基材フィルム10の一方の面にガスバリアフィルム20、他方の面に透明導電膜30を成膜してガスバリアフィルム1を得る。基材フィルム10は、石英ガラスクロス11に対し、エン・チオール系の紫外線硬化型または熱硬化型の透明樹脂を含浸させて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明ガスバリアフィルムに関し、特に耐熱性の向上を図るための改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)、電子ペーパー等の各種ディスプレイが開発され、民生用薄型テレビや小型電子機器(PDA)、カーナビゲーションシステム、OA・医療機器、POSレジスタ、券売機、FA機器、デジタルサイネージ、携帯電話の表示手段として普及が進められている。また、有機ELや無機ELを用いた照明の利用普及が進んでいる。これらのディスプレイの液晶層や発光層を大気中の酸素や水分等から遮断して劣化防止する手段として、ガスバリアフィルムが開発されている。
【0003】
ガスバリアフィルムは、平板状の基材の表面に、アルミナ、ジルコニア、シリカ等の無機成分を含む無機層や、紫外線熱硬化樹脂または熱硬化樹脂等の有機成分からなる有機層を一層以上積層してなるガスバリア層を形成して構成される。基材は透明性や熱的安定性に優れるガラス基板が用いられるが、近年では割れにくいフレキシブル性を有し、軽量で十分な透明性を備える樹脂基材が広く用いられている。
【0004】
このような樹脂基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、環状ポリオレフィン材料(JSR株式会社製の「アートン」、日本ゼオン株式会社製の「ゼオノア」)、ポリイミド等が挙げられる。また、これらの樹脂基材に対して紫外線硬化樹脂や熱硬化樹脂からなるハードコート層を積層して強度の向上を図る場合もある。PETフィルムの両面にアクリル系紫外線硬化樹脂からなるハードコート層を形成すれば、200℃程度の加熱処理を良好に行うことが可能となる。樹脂基材を用いたガスバリアフィルムは、薄型・軽量化・フレキシブル化が求められる各種ディスプレイに対して最適なガスバリアフィルムであると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−21575号公報
【特許文献2】特開2007−217673号公報
【特許文献3】特開2007−291313号公報
【特許文献4】特開2008−184514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した各種樹脂基材を用いた透明ガスバリアフィルムにおいては、以下の課題がある。
第一に、約250℃以上の高温状態に曝しても十分な耐熱性を有することが要求されている。既存の透明樹脂基材でも200℃程度の加熱処理は可能であるが、例えばガスバリア特性を確保する目的で、比較的膜厚が厚いガスバリア層をスパッタリング法やCVD法等で樹脂基材上に成膜する場合、樹脂基材が長時間にわたり、高温状態に曝される。このとき樹脂基材に十分な耐熱性がないと、成膜中に樹脂基材が変質したり、熱損傷によりダレや波打ち等の変形を生じうる。
【0007】
また、大気中に取り出した後には反りが発生し、取り扱いができないなどの不具合を生じる。そこで、樹脂基材の両面に対称的にガスバリア層等の構成層を形成することで、両面に発生する応力を釣り合わせることで反りの発生を防止することができる。しかし、別途、ガスバリアフィルムの生産効率の低下や生産コスト増大を招くという課題が生じる。
また、完成したガスバリアフィルムをディスプレイの製造工程に導入する場合にも樹脂基材の耐熱性は重要である。例えば有機EL表示パネル等の薄膜トランジスタ形成等のデバイス形成工程に導入した場合、ガスバリアフィルムは約250℃以上の高温に曝されるため、樹脂基材の耐熱性が不足してデバイス製造が困難な問題がある。また、相当な加熱処理を経ることで樹脂基材の熱膨張や熱収縮による変形が無視できなくなり、ガスバリアフィルムに寸法誤差が生じる。このような寸法誤差は微細構造を形成するディスプレイの各製造工程において特に問題となり、完成したディスプレイの画像表示性能にも影響を及ぼすおそれがある。
【0008】
第二に、デガス(不純物ガスの真空槽中への放出)の問題も存在する。樹脂基材を高温に加熱すると、基材中に残留するモノマー、オリゴマー、残留溶媒等の不純物ガスや水分が発生し、工程中のトラブルの原因となりうる。特にモノマーやオリゴマーは、真空チャンバーにフィルムを入れてスパッタ膜やCVD膜を形成する際に減圧加温下雰囲気の形成に伴って発生し、真空チャンバー内壁や真空ポンプの汚染源になるため、発生防止をできるだけ図る必要がある。
【0009】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、高温条件下でも樹脂基材由来の不純物ガスを抑制するとともに、優れた耐熱性を発揮して長期にわたり良好なガスバリア特性を期待できるガスバリアフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のガスバリアフィルムは、基材フィルムとガスバリア層を含む積層構造を有するガスバリアフィルムであって、ガスバリア層は有機層及び無機層の少なくともいずれかを含んで構成され、基材フィルムは、エン・チオール反応によるラジカル重合で紫外線硬化または熱硬化する透明樹脂を繊維構造物に含浸して硬化形成されたものであり、繊維構造物と透明樹脂との屈折率差が0.1以下である構成とした。
【0011】
ここで、前記透明樹脂としてはシルセスキオキサン成分を含んでなるエン・チオール系樹脂を用いることができる。
また、繊維構造物にはガラスクロスを用いることができる。
さらに、前記ガスバリアフィルムにおけるいずれか一方の最上面には透明導電膜を形成することもできる。
【0012】
この場合、透明導電膜は、Ag―Pd―Cu系合金層に対し、その両主面に透明導電酸化物を積層した積層体で構成することもできる。
また、透明樹脂中には金属、セラミックスの少なくとも一方のフィラーを分散させることも可能である。
また、透明樹脂中にシリコーン樹脂を含有させることもできる。
【0013】
ここで、基材フィルムの少なくとも一方の面に平坦化樹脂層が形成され、当該平坦化樹脂層の上にガスバリア層が積層された構成とすることもできる。
或いは、基材フィルムの少なくとも一方の面にガスバリア層が積層され、当該ガスバリア層の上に平坦化樹脂層が形成された構成とすることも可能である。
いずれの場合も、前記平坦化樹脂層は紫外線硬化または熱硬化する透明樹脂で構成することができる。
【0014】
一方、無機層は、ケイ素化合物、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、亜鉛、錫、インジウム化合物の内のいずれか1種以上の酸化物、酸窒化物、窒化物を含むように構成することもできる。この場合、無機層は、スパッタリング法、CVD法、真空蒸着法などの薄膜形成法で形成することが可能である。また、無機層の膜厚を10nm以上5μm以下に設定することもできる。
【0015】
また有機層は、紫外線硬化樹脂成分または熱硬化樹脂成分の一方または両方を含むように構成することもできる。両方を含めた場合は紫外線硬化と熱硬化の併用型硬化樹脂である。この場合、有機層の膜厚を0.1μm以上10μm以下に設定することもできる。
【発明の効果】
【0016】
以上の構成を有する本発明のガスバリアフィルムは、例えばシルセスキオキサン等を含んでなるエン・チオール系の熱硬化型または紫外線硬化型樹脂からなる透明樹脂をガラスクロスに含浸させてなる基材フィルムを用いている。この透明樹脂は従来の一般的な基材フィルム材料の樹脂に比べて耐熱性が極めて優れており、約250℃以上の高温にも耐えることができる。そのため、基材フィルムの表面にガスバリア層を形成する際に、ある程度の加熱状態に基材フィルムを曝したり、本発明のガスバリアフィルムを有機ELパネル等の薄膜トランジスタ形成等のデバイス形成工程に導入しても、基材フィルムの熱損傷や変形・変質等の発生を防ぎ、良好なガスバリア特性を維持することができる。従って従来のように、基材フィルムの両面に対称的に構成要素の層を積層する必要がない。
【0017】
ここで、シルセスキオキサン成分を含んだエン・チオール系樹脂は高温に曝しても熱損傷や変形・変質を防止できるほか、黄変等の不要な色変化が少なく、良好な透明性を発揮できる等、特に優れた耐熱性の機能を有している。このため前記透明樹脂として、シルセスキオキサン等を含んでなるエン・チオール系樹脂を用いることで、特に本発明のガスバリアフィルムをディスプレイ面へ適用する場合等に高い画像表示性能を得ることができる。
【0018】
また、ガラスクロスと透明樹脂との屈折率差を0.1以下に設定することで、良好な透明性を発揮でき、ディスプレイ表面や照明デバイス表面に対する適応性が高度に高められている。
なお、エン・チオール反応系の重合反応で硬化する透明樹脂は、重合反応中に酸素成分による反応阻害を受けることがないため、高い重合効率で透明樹脂を得ることができる。このため、硬化の透明樹脂中におけるモノマー及びオリゴマーの残留量を極力低減できる。従って、透明樹脂由来の不純物ガスの発生が抑制されるので、透明樹脂中のモノマーやオリゴマーによって真空チャンバーや真空ポンプが汚染する問題を防止できる。また、同様にガスバリア層や透明導電膜への不純物ガスが混入も効果的に抑制することができる。
【0019】
このように本発明のガスバリアフィルムは、生産効率や歩留まりの面においても良好な効果を期待できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態1のガスバリアフィルムの構成を示す外観図である。
【図2】実施の形態1のガスバリアフィルムの構成を示す断面図である。
【図3】実施の形態2のガスバリアフィルムの構成を示す断面図である。
【図4】実施の形態3のガスバリアフィルムの構成を示す断面図である。
【図5】実施の形態4のガスバリアフィルムの構成を示す断面図である。
【図6】実施の形態4の基材フィルムの製造方法を示す図である。
【図7】実施の形態5のガスバリアフィルムの構成を示す断面図である。
【図8】実施の形態6のガスバリアフィルムの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施の形態1>
[ガスバリアフィルム1の構成]
本発明の実施の形態1のガスバリアフィルム1を図1の斜視図、図2の断面図に基づいて説明する。
当図に示されるガスバリアフィルム1は、基材フィルム10の一方の面にガスバリア層20を形成し、他方の面に透明導電膜30を形成した構成を有する、厚み約70μmの透明フィルムである。
【0022】
以下に示すように、ガスバリアフィルム1は基材フィルム10の構成に主な特徴を有する。
基材フィルム10は、繊維構造物であるガラスクロス11を芯体とし、これに所定の透明樹脂12を含浸させて硬化させ、一体成型してなるフィルムである。ガラスクロス11と透明樹脂12は互いの屈折率差が0.1以下となるように調整されている。
【0023】
ガラスクロス11は直径5μm程度の石英ガラス等の、主として無アルカリガラスからなる繊維を直交させて平織り構造とし、全体の厚みが約60μm程度となるように構成されている。
ガラスクロス11の繊維構造物としての形態は織物に限定されず、例えば不織布構造を採ってもよいが、強度的・光学的に異方性が生じたり、過度の厚みにならないように留意すべきである。
【0024】
透明樹脂12は、シルセスキオキサンを含むエン・チオール反応によるラジカル重合で紫外線硬化または熱硬化する透明樹脂(エン・チオール系紫外線硬化型または熱硬化型樹脂)を用いてなる。その具体的な化学構造は以下の組成(i)〜(iii)のように例示できる。以下にこれらの各成分を説明する。
組成(i):
一般式RSi(ORで示されるアルコキシシラン類を加水分解及び縮合してなる縮合物(A)と、二級チオール基を有する化合物(B)を含有する組成を持つ紫外線硬化樹脂。
【0025】
ここでRは、少なくとも1つのC=C二重結合を有する炭素数8以下の炭化水素基を示し、Rは水素原子、炭素数8以下の炭化水素基または芳香族炭化水素基である。
組成(ii):
一般式RSi(ORで示されるチオール含有アルコキシシラン類を加水分解及び縮合してなる縮合物(A‘)と、C=C二重結合を有する化合物(B’)を含有する組成を持つ紫外線硬化樹脂。
【0026】
ここでRは、少なくとも1つのチオール基を有する炭素数8以下の炭化水素基、または少なくとも1つのチオール基を有する芳香族炭化水素基を示す。Rは、水素原子、炭素数8以下の炭化水素基または芳香族炭化水素基である。
組成(iii):
一般式RSi(ORで示されるチオール基含有アルコキシシラン類を加水分解及び縮合してなる縮合物(A‘)に対し、エポキシ基を有する化合物(B’‘)及びイソシアネート化合物(C)の少なくともいずれかを加えてなる組成を持つ熱硬化樹脂。
【0027】
なお、これらの組成(i)〜(iii)については、特許文献2〜4を参照することができる。なお、シルセスキオキサンはその骨格により、ラダー型、T8体(かご型)、T10体、T12体、ダブルデッカー型、ランダム型などに分類されている。本発明に用いられるシルセスキオキサンの骨格は特に限定されるものではなく、むしろ骨格を適宜選定することによって繊維構造物に含浸させた後の構造物の物性を大きく変化できる点が有利である。
【0028】
例えば、ラダー型やランダム型のシルセスキオキサンでは、ゴム弾性を付与することができるため、従来のプラスチックフィルムとシリコーンラバーとの中間的な粘弾性を実現することができる。
ガラスクロス11と透明樹脂12との屈折率差を0.1以下に抑える方法としては、上記した縮合物A、A‘のR〜Rを変化させることで、ガラスクロス11の屈折率に近い屈折率を有する透明樹脂12を選択することが一つの目安になる。
【0029】
ガラスクロス11に透明樹脂12を含浸させて硬化させることにより、基材フィルム10の全体厚みは70μm程度に調整されている。
ガスバリア層20は、少なくとも水蒸気および酸素に対する高いガスバリア性と、高い光線透過性を有する層として構成される。材料としては、各種有機成分や無機成分をそれぞれ単独で、または組み合わせて構成することができる。
【0030】
有機成分としては、鉱酸(無機酸)、水及び有機溶剤の存在下で重縮合する、主成分がSi−O骨格を有する公知樹脂(シリコーン系熱硬化樹脂材料)や骨格中にビニル基を含むモノマー、オリゴマー成分に対して光重合開始剤および有機溶剤を配合した公知樹脂(紫外線硬化型アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂)等、各種公知の紫外線硬化樹脂材料や熱硬化樹脂材料の一方または両方)を用いることが好適である。有機成分のみで有機層を成膜する場合、その膜厚としては0.1μm以上10μm以下の範囲に設定するのが好適である。
【0031】
一方、無機成分としては、酸化物、酸窒化物、窒化物のうちの1種以上のケイ素化物(SiO、SiON、SiN等)を含む材料を用いることが望ましい。無機成分のみで無機層を成膜する場合、その膜厚としては10nm以上5μm以下の範囲に設定するのが望ましい。また、無機層としてはこれ以外にもケイ素化物、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、亜鉛、錫、インジウム化合物、の内のいずれか1種以上の酸化物、酸窒化物、窒化物を含むように形成できる。
【0032】
或いはガスバリア層20は、有機層または無機層の単層構造、或いは有機層及び無機層を積層した多層構造や、材料の異なる有機層同士または無機層同士を積層した多層構造で形成することもできる。
なお、上記のようにガスバリア層20の好適な膜厚範囲を例示したが、膜厚が厚過ぎるとクラックが発生するおそれがあり、薄過ぎると十分なガスバリア性を得にくいことがあるので留意すべきである。
【0033】
また、いずれの材料でガスバリア層20を形成する場合も、基材フィルム10に対して良好な密着性(濡れ性)を有する材料を選択すべきである。高い密着性の材料を用いることで、基材フィルム10との界面付近においてガスバリア層20の緻密度が上がり、高度なガスバリア特性を発揮できる可能性がある。
透明導電膜30は、既知の抵抗値(表面抵抗)を持つ透明導電材料をCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンビーム法等で成膜されたものである。材料としては、アンチモン添加酸化錫、フッ素添加酸化錫、アルミニウム添加酸化亜鉛、カリウム添加酸化亜鉛、シリコン添加酸化亜鉛、カリウム添加酸化亜鉛、酸化亜鉛−酸化錫系、酸化インジウム−酸化錫系、酸化インジウム−酸化タングステン系、酸化インジウム−酸化チタン系、或いはこれ以外の各種金属材料等のいずれか1種以上が挙げられる。ここではインジウムスズ酸化物(ITO)からなる単層構造で透明電極膜30を構成している。この場合、表面抵抗を10〜1kΩ/sq.、厚みを20nm以上200nm以下、屈折率は1.9〜2程度に調整することが望まれる。
【0034】
なお、本発明のガスバリアフィルムでは、透明導電膜30は必須の構成ではなく、必要に合わせて形成すればよい。また、基材フィルム10の両面に透明導電膜30を設けたり、ガスバリアフィルムの上に別の構成層を配設した上で、その最上層に透明導電膜を配設することもできる。
ガスバリアフィルム1の利用形態としては、例えばこれを一対用意し、各ガスバリアフィルム1の透明導電膜30を間隙(スペーサー)を挟んで対向配置させることで、抵抗膜式タッチパネルとして利用できる。
【0035】
また、ガスバリアフィルムを有機EL表示パネルに適用する場合、当該パネルの製造工程で、基板上に形成された発光層等の有機層を外部雰囲気より効果的に封止できるように、ガスバリア層20側の表面を発光層等に近接させてガスバリアフィルムを配設することが好適である。
[ガスバリアフィルム1の効果について]
以上の構成を有するガスバリアフィルム1では、基材フィルム10に用いられているシルセスキオキサン成分を含んでなるエン・チオール系の熱硬化型または紫外線硬化型樹脂からなる透明樹脂12が極めて良好な耐熱性を有しているので、約250℃程度の高温環境下でも熱損傷や熱変形が少なく、安定な性質を持っている。
【0036】
また、その他の構成要素であるガラスクロス11、透明導電膜30及びガスバリア層20は、本来良好な耐熱性を有している。
このため、ガスバリアフィルム1を半導体プロセスや有機EL表示パネル等の薄膜トランジスタ形成等のデバイス形成プロセスに導入しても、基材フィルム10が熱損傷や変形・変質等の問題を生じることが少なく、良好なガスバリア特性を維持することができる。また、基材フィルム10の表面に比較的膜厚の厚いガスバリア層20をスパッタリング装置、CVD装置や真空蒸着装置等を用いて成膜する際など、高温状態に基材フィルム10を曝しても、熱損傷や変形・変質の発生を防止でき、良好にガスバリア層20を形成できる。従って従来のように、基材フィルムの両面に対称的に構成要素の層を積層して、温度変化により生じる内部応力のバランスを採り、ガスバリアフィルムの形態を維持するといった対策は不要である。
【0037】
また、基材フィルム10中のガラスクロス11と透明樹脂12との屈折率差を0.1以下に設定することで、良好な透明性を発揮できる。このためガスバリアフィルム1をディスプレイ表面へ良好に配設することが可能であり、優れた適応性を期待することができる。
また、詳細を後述するように、透明樹脂12の材料として、エン・チオール反応を利用したラジカル重合で硬化する紫外線硬化樹脂または熱硬化樹脂を用いることにより、従来の一般的なアクリル系樹脂やエポキシ系樹脂等からなる紫外線硬化樹脂に比べて酸素による重合阻害を受けにくいため、高い重合率で樹脂を形成できる。このため、不純物ガスの元となる未反応のモノマーやオリゴマーの残留量を極めて少量に抑制できるので、硬化後の透明樹脂12を有する基材フィルム10を各種薄膜形成プロセスに導入し、真空チャンバーや真空ポンプを利用しても、これらを不純物ガスによる汚染から保護することができる。また、当該不純物ガスがガスバリア層や透明導電膜に混入し、これらの特性劣化を招く問題も抑制することができる。
【0038】
また、シルセスキオキサン成分を含んだエン・チオール系樹脂を基材フィルム10に用いることで、高温に曝しても黄変等の不要な色変化を効果的に防止でき、高い透明性を発揮できる。従って、ガスバリアフィルム1をディスプレイ面へ適用する場合等に良好な画像表示性能を期待することが可能である。
以下、上記以外の本発明のガスバリアフィルムについて、実施の形態1との差異を中心に説明する。
【0039】
<実施の形態2>
図3は、実施の形態2のガスバリアフィルム1Aの構成を示す部分的な断面図である。
当図に示すガスバリアフィルム1Aは、ガスバリア層20を形成した基材フィルム10の他方の面に、透明導電膜30AとしてITO層31、APC合金層32、ITO層33の3層を順次積層した積層体として構成している。
【0040】
APC合金層32は、Ag(主成分)−Pd−Cu系合金材料からなる透明な層(膜厚1〜30nm)であって、透明導電膜30Aにおける主な電極部として機能する。Ag−Pd−Cu系合金はAg材料に比べて耐熱性、耐腐食性に優れ、長期にわたり良好な電気伝導性(10Ω/□以下の表面抵抗)を発揮できる特徴を持つ。従って、比較的大面積にわたりAPC合金層32を形成しても良好な通電性能を期待できる。
【0041】
なお、表面抵抗(Rs)を10Ω/□以下にするためには、APC合金層32の膜厚を5nm以上に設定することが必要である。一方、膜厚が30nmを超えるとAPC合金層32の光透過性が低くなりすぎ、透明導電膜として用いることができない点にも留意する。
ITO層31、33は、透明導電膜30と同じ公知のインジウムスズ酸化物層であり、厚み10〜150nmでスパッタリング法や真空蒸着法等の薄膜形成法を用いて成膜される。透明導電膜30Aにおいて、ITO層31、33はAPC合金層32を被覆して環境性能を向上させ、当該合金層32が大気と触れて不要な酸化反応により劣化するのを防止する。ITO層31はAPC合金層32の下面において、基材フィルム10と直接積層されているが、ITO層は透明樹脂12との密着性に優れるため、ITO層31は基材フィルム10と強固に密着する目的でも用いられている。また、ITO層33はAPC合金層32を大気から隔離し、水分が容易にAPC合金層32に侵入しないように保護する役目をなす。
【0042】
なお、当然ながらITO層31、33は、いずれもAPC合金層32と同様に透明電極としての機能も併せて発揮する。
なお、透明導電膜30Aは、各構成要素を成膜した後にポストアニール処理を施すことによって結晶性を高め、低抵抗化及び透明性の向上が図られている。このポストアニール処理による効果は、例えば公知のX線回折(XRD)法等の解析により結晶構造を調べることで確認できる。このようなポストアニール処理は、単層構造の透明導電膜30に対して行っても同様の効果を期待できるので有効である。
【0043】
なお透明導電膜30Aは、当然ながら透明導電膜30と同様に、所定の配線構造に合わせて適宜パターニングを施すことができる。
以上の構成を有するガスバリアフィルム1Aにおいても、実施の形態1と同様に良好な耐熱性と透明性、並びに透明樹脂12由来の不純物ガスの抑制効果が奏される。また、多層構造からなる透明導電膜30Aを用いることで、一層良好な透明導電性を得ることができるとともに、透明導電膜30A及び基材フィルム10の高い密着性を期待できる。
【0044】
<実施の形態3>
図4は、実施の形態3のガスバリアフィルム1Bの構成を示す断面図である。当図に示されるガスバリアフィルム1Bは、実施の形態1の構成を基本とし、透明樹脂12中にフィラー13を分散させた構成を持つ。フィラー13は、熱伝導性に優れる金属材料やセラミックス材料、例えば(Cu、Fe、Ni、Al、SiC)の中から選ばれた1種以上の材料で構成され、平均粒径10〜100nm程度の粉体に加工されてなる。ガスバリアフィルム1Bでは、これを透明樹脂12中に5〜80wt%程度の量を分散させている。
【0045】
このガスバリアフィルム1Bにおいても、実施の形態1と同様の効果を期待できる。さらに、透明樹脂12中に添加したフィラー13によって、ガスバリアフィルム1Bの良好な放熱特性も期待できる。例えばガスバリア層20側をディスプレイ表面に配設すれば、当該フィルム1Bの広い表面を利用してディスプレイの駆動熱をガスバリア層20から基材フィルム10、透明導電膜30側に順次熱伝導させて外部に効率よく放熱できる。また、これによって熱的に安定したガスバリア特性を長期にわたり期待することが可能である。
【0046】
なお、上記放熱効果は金属やセラミックスからなるフィラー13の添加量にある程度比例して得られるものと思われるが、過剰な添加によりフィルムの透明性が低下する点に留意すべきである。
また、フィラー13は当該実施の形態だけでなく、他の実施の形態の構成にも適用することが可能である。
【0047】
<実施の形態4>
図5は、実施の形態4のガスバリアフィルム1Cの構成を示す断面図である。当図に示されるガスバリアフィルム1では、実施の形態1の基材フィルム10と同様の構成を持つフィルムの両面に、透明樹脂材料からなる平坦化樹脂層14、15を積層することにより、高度な平坦性を有する基材フィルム10cを構成している。ガスバリア層20、透明導電膜30はこの基材フィルム10cの各主面にそれぞれ配設される。
【0048】
実施の形態1における基材フィルム10は、ガラスクロス11に透明樹脂12を含浸・硬化させて構成されているため、その表面が若干凹凸形状を有している。本実施の形態4では、このような凹凸の表面を被覆するように、一様に平坦化樹脂層14、15を形成することで、ガスバリアフィルムの表面に優れた平坦性を付与している。その結果、実施の形態1と同様の効果に加え、各種ディスプレイの表面に隙間なく密にガスバリアフィルム1cを配設することができ、ディスプレイとガスバリアフィルム1cとの間にガスが侵入したり、隙間の存在により透明性が低下する問題を効果的に抑制する効果も期待できる。
【0049】
<実施の形態5>
図7は、タッチパネル用途等に適した実施の形態5のガスバリアフィルム1Dの構成を示す断面図である。
一般に、ガスバリアフィルムをタッチパネル等に適用する場合、フィルムの表面の凹凸はオペレータの入力時に良好な筆記性(いわゆる書き味)や風合いを付与する効果が期待できる。従って、ガスバリアフィルムの入力側表面には凹凸処理を施す場合がある。
【0050】
そこでガスバリアフィルム1Dでは、基材フィルム10dにおいて、透明導電膜30が形成される面(図中の下面)のみ平坦化樹脂層14を形成し、平坦面を確保する一方で、基材フィルム10dの他方の面(図中の上面)を凹凸面のまま残し、ガスバリア層20を配設している。この構成はタッチパネル用途に特化したものであって、ディスプレイへの配設時には透明導電膜30側をディスプレイ側に対向させるとともに、ガスバリア層20側をオペレータによる入力面側に配向させる。これにより、透明導電膜30はディスプレイ面に対して良好な平坦性で対向配置されて配設されるとともに、ガスバリア層20側は凹凸を残したままで構成される。よって、実施の形態1と同様の効果とともに、ディスプレイ側に確実にガスバリアフィルムを配設できるとともに、オペレータによる入力時の良好な書き味(風合い)を期待することができる。
【0051】
なお、透明樹脂12にシリコーン樹脂成分を添加すれば基材フィルム10dに弾力性を付与することができる。このような弾力性を付与することで、書き味(風合い)をさらに向上させることが期待できる。このようなシリコーン樹脂の添加は、本発明のその他の実施の形態にも適用することが可能である。
<実施の形態6>
図8は、実施の形態6のガスバリアフィルム1Eの構成を示す断面図である。当図に示されるガスバリアフィルム1Eは、基材フィルム10の両面にガスバリア層20、40を積層し、さらに各両面に、最外面として透明樹脂からなる平坦化樹脂層50、51を形成し、良好な平坦性を持たせたものである。
【0052】
このような構成を有する実施の形態6のガスバリアフィルム1Eによれば、実施の形態1と同様の効果が期待できるほか、ガスバリア層20が平坦化樹脂層50、51によって被覆されることで、一定の保護効果を期待することができる。
<ガスバリアフィルムの製造方法>
以下、本発明のガスバリアフィルムの製造方法について例示する。
【0053】
1.基材フィルムの作製
まず、ガラスクロス11を用意する。これには一般的なガラスクロスが利用可能であるため、例えばプリント配線板等に使用されている公知材料(例えば、旭化成イーマテリアルズ株式会社製ガラスクロス1086)を用意する。このガラスクロスの密度は縦60本/インチ、横60本/インチ、平均フィラメント径は約5μmである。また、ガラス材料と樹脂材料の各繊維を混合して用いることもできる。また、複数のガラスクロスを積層して用いることもできる。
【0054】
ガラスクロス11に対し、所定の透明樹脂含有塗料を含浸させた状態で、溶媒を除去するとともにモノマーを重合反応させて樹脂硬化させる。この具体的な工程としては、公知のハンドレイアップ法、スプレーアップ法、インジェクション成形の他、予めガラスクロス11に樹脂材料を含浸させてシート状に加工されたプリプレグをオートクレーブ等の窯で焼き固める方法等が挙げられる。
【0055】
透明樹脂として、例えばシルセスキオキサンを含むエン・チオール反応によるラジカル重合で紫外線硬化または熱硬化する透明樹脂塗料を用いる。このような紫外線硬化樹脂としては、荒川化学工業株式会社製「コンポセラン」が利用できる。樹脂の屈折率は樹脂中の硫黄成分の量によりガラスクロスの屈折率差が0.1以下となるように調整されているものを用いることが出来る。なお透明樹脂塗料には光重合開始剤も反応補助材として適宜加えてもよい。この場合の光重合開始剤としては、例えばチバ・スペシャリティーケミカル株式会社製「イルガキュア184」、「イルガキュア907」等を補助的に添加することが出来る。
【0056】
有機溶媒は紫外線硬化型塗料をフィルム表面に塗工する際の塗工特性を高めるために適宜用いられるものであり、例えばメチルイソブチルケトン(MIBK)等を用いることができる。
なお、実施の形態3の構成にするためには、さらに塗料に所定の金属フィラー13を適宜投入する。PETフィルム上に上記調整した塗料をメイヤーバーを用いてガラスクロス11に密に充填しつつ、所定の厚みで塗工する。その後は80℃で約1分加熱して塗膜の溶媒乾燥を行う。次に、高圧水銀ランプで波長365nmの紫外線を積算光量が400mJ/cm)になるまで照射する。これにより重合反応を生じさせ、基材フィルム11を得ることができる。
【0057】
従来のアクリル系紫外線硬化樹脂を大気下でラジカル重合させた場合では、IRスペクトルからの推算によれば酸素阻害の影響を受けることで約70%の二重結合しか消失(すなわち重合反応に供することが)できないが、窒素雰囲気下での重合ではさらに約90%程度の二重結合を消失させる。しかしながら、残りの約10%以上の二重結合は、重合せずに樹脂中に残留する。このように残留した未重合成分であるモノマーは、CVD、スパッタリング、真空蒸着等の真空プロセスを通過する際にフィルム中から不純物ガスとなって昇華し、真空チャンバーや真空ポンプを汚染する原因にもなる。また、ガスバリア層や透明導電膜にも混入し、性能劣化を引き起こすおそれもある。
【0058】
これに対して本発明では、エン・チオール反応による重合反応を利用するため酸素成分による反応阻害を受けるおそれがなく、大気中(酸素存在下)での反応でも従来のラジカル重合に比べて高い反応効率を期待することができる。従って、硬化後に透明樹脂中におけるモノマー及びオリゴマーの残留を極力低減できるので、当該透明樹脂を有する基材フィルムを、ディスプレイの製造工程における真空プロセスに通過させても、透明樹脂中からの不純物ガスの発生を効果的に抑制でき、真空チャンバーや真空ポンプを不純物汚染から保護することができる。また、ガスバリア層や透明導電膜への不純物ガスが混入も効果的に抑制できる。
【0059】
なお、塗料をガラスクロス11に充填する際には、気泡が残留しない程度の粘度に調整し、ディップコーティングやダイコーティング等、極力気泡かみを低減できる方法にて含浸させるようにする。ここで用いる塗料は、予めオートクレーブ等を用いた加圧雰囲気または真空雰囲気による脱泡を実施しておくことが好ましい。また、気泡の残留程度は全光線透過率およびヘイズ値(JIS K 7136)により評価することが可能である。これによりガラスクロス11と透明樹脂12の屈折率差が0.1以下程度にまで非常に低く調整され、優れた透明性を持つ基材フィルム10が形成される。
【0060】
なお、実施の形態4、5の構成を作製する場合は、得られたフィルムの所定の主面に紫外線硬化樹脂または熱硬化樹脂等の透明樹脂材料を塗工し、これを硬化させることで平坦化樹脂層(12、14、15等)を形成する。このとき、片面のみに平坦化樹脂層14を形成すると基材フィルム10dが得られる。
ここで、図6は当該透明樹脂材料の塗工例である、リバースロールコーティング法を示す模式図である。当図では、上記得られたフィルム(帯状の材料フィルム10x)をローラR1、R2の回転駆動により連続的にバッチ内の透明樹脂材料中に導入する。これを一対のリバースロールR3、R4の設定間隙に挿通させ、塗膜の膜厚を調整する。その後、塗膜の溶媒乾燥を経て樹脂硬化させると、精密に膜厚制御された平坦化樹脂層14、15が両面に形成された基材フィルム10cが得られる。なお、ここでバッチを利用せずに材料フィルム10xの片面のみに透明樹脂材料を塗布し、リバースロールR3、R4による膜厚制御を行えば、基材フィルム1dも作製することが可能である。
【0061】
2.ガスバリア層の作製
次に基材フィルム10、10c、10dの表面に、各種有機成分または無機成分のいずれかからなる単層構造、或いはこれらを組み合わせた多層構造でガスバリア層20を作製する。
このうち有機成分としては、鉱酸(無機酸)、水及び有機溶剤の存在下で重縮合する、主成分がSi−O直鎖状骨格よりなる公知樹脂(シリコーン系熱硬化樹脂材料)や骨格中にビニル基を含むモノマー、オリゴマー成分に対して光重合開始剤および有機溶剤を配合した公知樹脂(紫外線硬化型アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂)等、各種公知の紫外線硬化樹脂材料や熱硬化樹脂材料の一方または両方を用いることが好適である。
【0062】
有機成分を用いた成膜工程を例示すると、まず前記樹脂材料と溶媒を含む塗工液を用意する。公知塗工方式(ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ダイコートやディッピング等)により、前記塗工液を基材フィルムの表面に塗布し、溶媒を気化させる。その後、紫外線照射または加熱処理により塗工液を硬化させて成膜する。有機成分のみからなる有機層を成膜する場合、その膜厚としては0.1μm以上10μm以下の範囲に設定するのが好適である。
【0063】
一方、無機成分としては、酸化物、酸窒化物、窒化物のうちの1種以上のケイ素化物(SiO、SiON、SiN等)を用いることが望ましい。
無機成分を用いた成膜工程を例示すると、所定のチャンバーを用い、真空または減圧した雰囲気において、蒸着法、スパッタリング法、プラズマCVD法等、公知の薄膜形成法を用いて成膜する。
【0064】
無機成分のみからなる無機層でガスバリア層20を成膜する場合、その膜厚としては10nm以上5μm以下の範囲に設定するのが望ましい。また、無機層としてはこれ以外にもケイ素化物、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、亜鉛、錫、インジウム化合物、の内のいずれか1種以上の酸化物、酸窒化物、窒化物を含むように形成することができる。
【0065】
このうちスパッタリングを行う場合は、スパッタリング装置のチャンバー内にターゲット(基材フィルム)を載置する。チャンバー内を十分に減圧した後、酸素ガスを導入し、ターゲットに所定のスパッタ源(Si材料等)を用いてスパッタリングする。これにより、厚さ30nm(この場合、15nm以上35nm以下の範囲が好適である)のSiO膜をガスバリア層20として得る。
【0066】
3.透明導電膜の作製
次に、基材フィルム10、10c、10dの他方の面に単層構造或いは多層構造の透明導電膜30を形成する。
3−1.単層構造で成膜する場合
スパッタリング装置の内部に、基材フィルムを載置する。チャンバー内を減圧するとともにArと酸素ガスを導入し、ターゲットに酸化インジウムと酸化錫を混合して焼結させたセラミックターゲット等を用いてスパッタリングを実施する。Arガスと酸素ガスの流量比は、所定のタッチパネル特性(表面抵抗や透明性)が得られるように事前に確認された値に適宜設定する。また、スパッタに必要な放電電力やスパッタリング時間も適宜調整する。これにより、最終生成物として表面抵抗が200Ω/sq.以上1kΩ/sq.以下、且つ、厚みが20nm以上40nm以下の透明導電膜30(ITO層)を得る。なお、透明導電膜30の結晶性は、前記スパッタリング法による成膜の際に、例えばIn−SnOセラミックターゲットのSnO組成を低くしたもの(SnO組成が3〜10wt%含有)を用い、基板温度を調整することで制御できる。
【0067】
透明導電膜材料としては、ITO以外にも、アンチモン添加酸化鉛、フッ素添加酸化錫、アルミニウム添加酸化亜鉛(AZO等)、ガリウム添加酸化亜鉛(GZO等)、シリコン添加酸化亜鉛、チタン添加酸化インジウム系(ITiO)、酸化亜鉛−酸化錫系(ZnO等)、酸化インジウム−酸化スズ系(ITO等)、スズ酸化膜(SnO等)、タングステン添加酸化インジウム(IWO等)の中から選択された1種以上が例示できる。
【0068】
或いは、PSS−PEDOT(ポリスチレンスルホン酸−ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))などのチオフェン系導電性高分子材料やバインダーにカーボンナノチューブなどの導電材料を分散させてなる塗料を塗布し、これを焼成して形成することができる(塗布焼成法)。
3−2.多層構造で成膜する場合
ここではAPC合金層32をITO層31、33で挟設した構造の透明導電膜の成膜例を説明する。
【0069】
各ITO層については、上記した単層構造の場合と同様の手順で成膜する。
APC合金層32の形成方法としては、公知の金属スパッタリング法や材料ペーストを塗布して焼成する方法が挙げられる。APC合金層32の組成は適宜設定できるが、概ねAgを主成分とし、Pdを0.05〜3.50wt%、Cuを0.05〜3.50wt%の範囲に設定することが好適である。当該合金は、基本的にAg−Pd−Cu系の合金組成であれば、他に別の金属が含まれていてもよい。
【0070】
なお、APC合金材料についての一般的な製造方法や特性は、例えば公知文献である特許文献(WO2005/031016)を参照することができる。
以上の各工程を経ることで、実施の形態1〜5のいずれかのガスバリアフィルム1、1A〜1Dが完成する。
なお、実施の形態6のガスバリアフィルム1Eを得るためには、さらに上記得られた構成の各主面に対し、紫外線硬化樹脂または熱硬化樹脂の透明樹脂を塗工し、これを硬化させて平坦化樹脂層50、51を形成する。
<その他の事項>
上記各実施の形態に記載したガスバリアフィルム1、1A〜1Eは、各種ディスプレイにおける画像表示面への配設を想定しているので、極めて透明に構成されたものである。しかしながらガスバリアフィルムを加工食品の保存容器等に利用するなど、可視光線や紫外線の透過を遮断させたい場合や、透明性がそれほど要求されない場合は、透明性にこだわらないガスバリアフィルムとして作製してもよい。
【0071】
また、透明樹脂12としてシルセスキオキサン成分を含んでなるエン・チオール系紫外線硬化型または熱硬化型樹脂を用いる例を示したが、本発明はこの樹脂材料のみに限定するものではなく、アクリルシリコーン系等、シリコーン樹脂を用いてもよい。シリコーン樹脂を用いることで、基材フィルム10に適度な柔軟性を付与することができ、タッチパネルに適用した場合に良好な書き味を期待することが可能である。シリコーン樹脂は透明樹脂成分として単独で用いることも、前記エン・チオール系樹脂と所定比率で混合して用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のガスバリアフィルムは、例えば有機ELディスプレイや液晶ディスプレイ等のFPD、または電子ペーパー、携帯電話機やノート型パソコン等の電子機器用タッチパネル、或いは各種券売機、キャッシュディスペンサーの表示面に配設するほか、太陽電池に組み込んだり、各種食品や化学薬品の保存容器・素材として、幅広い利用が可能である。
【符号の説明】
【0073】
1、1A〜1E ガスバリアフィルム
10、10c、10d 基材フィルム
11 ガラスクロス(繊維構造物)
12 透明樹脂
13 フィラー
14、15、50、51 平坦化樹脂層
20、40 ガスバリア層
30 透明導電膜(単層構造)
30A 透明導電膜(多層構造)
31、33 ITO層
32 APC合金層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムとガスバリア層を含む積層構造を有するガスバリアフィルムであって、
ガスバリア層は有機層及び無機層の少なくともいずれかを含んで構成され、
基材フィルムは、エン・チオール系の紫外線硬化型または熱硬化型の透明樹脂が繊維構造物に含浸されてなり、
繊維構造物と透明樹脂の屈折率差が0.1以下である
ことを特徴とするガスバリアフィルム。
【請求項2】
前記透明樹脂はシルセスキオキサン成分を含んでなるエン・チオール系樹脂である
ことを特徴とする請求項1に記載のガスバリアフィルム。
【請求項3】
繊維構造物はガラスクロスである
ことを特徴とする請求項1または2に記載のガスバリアフィルム。
【請求項4】
いずれか一方の最上面に透明導電膜が形成されている
請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリアフィルム。
【請求項5】
透明導電膜は、Ag―Pd―Cu系合金層に対し、その両主面に透明導電酸化物を積層した積層体である
ことを特徴とする請求項4に記載のガスバリアフィルム。
【請求項6】
透明樹脂中には金属、セラミックスの少なくとも一方のフィラーが分散されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリアフィルム。
【請求項7】
透明樹脂中にはシリコーン樹脂が含まれている
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のガスバリアフィルム。
【請求項8】
透明樹脂はアルコキシシラン類を加水分解及び縮合して得られる縮合物を含んでなる
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のガスバリアフィルム。
【請求項9】
基材フィルムの少なくとも一方の面に平坦化樹脂層が形成され、当該平坦化樹脂層の上にガスバリア層が積層されている
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のガスバリアフィルム。
【請求項10】
基材フィルムの少なくとも一方の面にガスバリア層が積層され、当該ガスバリア層の上に平坦化樹脂層が形成されている
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のガスバリアフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−218586(P2011−218586A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87427(P2010−87427)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】