説明

透明ガスバリア性フィルム及び透明ガスバリア性フィルムの製造方法

【課題】過酷な環境下で保存されても密着性に優れ、かつ良好な透明性、ガスバリア耐性を備えた透明ガスバリア性フィルムを提供し、更に製膜速度の遅いセラミック層を高速に製膜しても緻密性を損なわず高い生産性を達成した透明ガスバリア性フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】基材2上に、少なくとも低密度層3及び高密度層4から構成されるガスバリア層を有する透明ガスバリア性フィルム1において、該基材1側から順に低密度層3、高密度層4の順に積層され、かつ該低密度層3及び高密度層4が積層された状態で、波長が200nm以下の真空紫外光による照射処理を施して作製された透明ガスバリア性フィルム1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に食品や医薬品等の包装材料や電子デバイス等のパッケージ、あるいは有機エレクトロルミネッセンス素子や液晶等のプラスチック基板といったディスプレイ材料に用いられる透明ガスバリア性フィルムとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック基板やフィルムの表面に酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化珪素等の金属酸化物の薄膜を形成したガスバリア性フィルムは、水蒸気や酸素等の各種ガスの遮断を必要とする物品の包装、食品や工業用品及び医薬品等の変質を防止するための包装用途に広く用いられている。また、包装用途以外にも、例えば、液晶表示素子、太陽電池、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと略記する)素子の基板等で使用されている。
【0003】
この様な分野では、包装材料としてはアルミ箔等が広く用いられているが、使用後の廃棄処理が問題となっているほか、基本的には不透明であり、外から内容物を確認することができないという課題を抱えており、更に、ディスプレイ材料では透明性が求められており、全く適用することができない。
【0004】
一方、ポリ塩化ビニリデン樹脂や塩化ビニリデンと他のポリマーとの共重合体樹脂からなる基材、あるいはこれらの塩化ビニリデン系樹脂をポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂にコーティングしてガスバリア性を付与した材料が、特に、包装材料として広く用いられているが、焼却処理過程で塩素系ガスが発生するため、現在、環境保護の観点から問題となっており、更にガスバリア性が必ずしも充分ではなく、高度なバリア性が求められる分野への適用に対し大きな障害となっている。
【0005】
特に、液晶表示素子、有機EL素子などへの応用が進んでいる透明基材には、近年、軽量化、大型化という要求に加え、長期信頼性が高いこと、形状の自由度が高いこと、曲面表示が可能であること等の高度な要求が加わり、重く割れやすく大面積化が困難なガラス基板に代わって、透明プラスチック等のフィルム基材が採用され始めている。例えば、特開平2−251429号公報や特開平6−124785号公報には、有機エレクトロルミネッセンス素子の基板として、高分子フィルムを用いた例が開示されている。
【0006】
しかしながら、透明プラスチック等のフィルム基材は、ガラスに対しガスバリア性が劣るという問題がある。例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子の基板として用いた場合、ガスバリア性が劣る基材を用いると、水蒸気や空気が有機エレクトロルミネッセンス素子内部に浸透して有機膜が劣化し、発光特性あるいは耐久性等を損なう要因となる。また、電子デバイス用基板として高分子基板を用いた場合には、酸素が高分子基板を透過して電子デバイス内に浸透、拡散し、デバイスを劣化させてしまうことや、電子デバイス内で求められる真空度を維持できないといった問題を引き起こす。
【0007】
この様な問題を解決するため、フィルム基板上に金属酸化物薄膜を形成してガスバリア性フィルム基材とする方法が知られている。包装材料や液晶表示素子に使用されるガスバリア性フィルムとしては、プラスチックフィルム上に酸化珪素膜を蒸着したもの(例えば、特許文献1参照)や、酸化アルミニウム膜を蒸着したもの(例えば、特許文献2参照)が知られているが、これらのガスバリア性フィルムは、いずれも2g/m/day程度の水蒸気バリア性、あるいは2ml/m/day程度の酸素透過性を有するにすぎないのが現状である。近年では、更なるガスバリア性が要求される有機ELディスプレイや、液晶ディスプレイの開発において、大型化や高精細ディスプレイ等の開発に伴い、フィルム基板へのガスバリア性能についても、水蒸気バリア性として10−3g/m/dayオーダー程度まで要求が上がってきている。
【0008】
これら高い水蒸気遮断性の要望に応える方法の1つとして、緻密なセラミック層と、柔軟性を有し、外部からの衝撃を緩和するポリマー層とを交互に繰り返し積層した構成のガスバリア性フィルムが提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、セラミック層とポリマー層とでは、一般には組成が異なるため、それぞれの接触界面部での密着性が劣化し、膜剥離等の品質劣化を引き起こすことがある。特に、この密着性の劣化は、高温高湿等の過酷な環境下や紫外線の照射を長期間にわたり受けた際に顕著に現れ、早急な改良が求められている。
【0009】
また、バリア性能を担うセラミック層には、水分子や酸素分子の通り抜けを阻止する為の緻密性が要求されるが、この緻密な層を形成するには、製膜速度を低下させる必要がある。このことは生産性低下に繋がり、バリアフィルムが高価なものになる原因である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭53−12953号公報
【特許文献2】特開昭58−217344号公報
【特許文献3】米国特許第6,268,695号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、過酷な環境下で保存されても密着性に優れ、かつ良好な透明性、ガスバリア耐性を備えた透明ガスバリア性フィルムを提供し、更に製膜速度の遅いセラミック層を高速に製膜しても緻密性を損なわず高い生産性を達成した透明ガスバリア性フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0013】
1.基材上に、少なくとも低密度層及び高密度層から構成されるガスバリア層を有する透明ガスバリア性フィルムにおいて、該基材側から順に低密度層、高密度層の順に積層され、かつ該低密度層及び高密度層が積層された状態で、波長が200nm以下の真空紫外光による照射処理を施して作製されたことを特徴とする透明ガスバリア性フィルム。
【0014】
2.前記真空紫外光を照射する際、前記高密度層が最上層であることを特徴とする前記1に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【0015】
3.基材側から前記低密度層及び高密度層が積層された積層体を1つのユニットとした時、該ユニットが2回以上繰り返して積層されていることを特徴とする前記1または2に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【0016】
4.前記低密度層及び高密度層が、それぞれ酸化珪素及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする前記1から3のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【0017】
5.前記高密度層が酸化珪素を含有し、真空紫外光照射後の該高密度層の膜密度が2.1g/cm以上であることを特徴とする前記1から4のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【0018】
6.前記高密度層が酸化アルミニウムを含有し、真空紫外光照射後の該高密度層の膜密度が3.5g/cm以上であることを特徴とする前記1から4のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【0019】
7.基材上に、少なくとも低密度層及び高密度層から構成されるガスバリア層を有する透明ガスバリア性フィルムの製造方法において、該基材側から順に低密度層、高密度層の順に積層され、かつ該低密度層及び高密度層が積層された状態で、波長が200nm以下の真空紫外光による照射処理を施して製造することを特徴とする透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【0020】
8.前記真空紫外光を照射する際、前記高密度層が最上層であることを特徴とする前記7に記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【0021】
9.基材側から前記低密度層及び高密度層が積層された積層体を1つのユニットとした時、該ユニットが2回以上繰り返して積層して製造することを特徴とする前記7または8に記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【0022】
10.前記低密度層及び高密度層が、それぞれ酸化珪素及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする前記7から9のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【0023】
11.前記高密度層が酸化珪素を含有し、真空紫外光照射後の該高密度層の膜密度が2.1g/cm以上であることを特徴とする前記7から10のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【0024】
12.前記高密度層が酸化アルミニウムを含有し、真空紫外光照射後の該高密度層の膜密度が3.5g/cm以上であることを特徴とする前記7から10のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、過酷な環境下で保存されても密着性に優れ、かつ良好な透明性、ガスバリア耐性を備えた透明ガスバリア性フィルムを提供し、更に製膜速度の遅いセラミック層を高速に製膜しても緻密性を損なわず高い生産性を達成した透明ガスバリア性フィルムの製造方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の透明ガスバリア性フィルムの層構成とその密度プロファイルの一例を示す模式図である。
【図2】本発明の透明ガスバリア性フィルムの層構成とその密度プロファイルの他の一例を示す模式図である。
【図3】本発明に有用なジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示した概略図である。
【図4】本発明に有用な対向電極間で基材を処理する方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【図5】ロール回転電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【図6】角筒型電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0028】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、基材上に、少なくとも低密度層及び高密度層から構成されるガスバリア層を有する透明ガスバリア性フィルムにおいて、該基材側から順に低密度層、高密度層の順に積層され、かつ該低密度層及び高密度層が積層された状態で、波長が200nm以下の真空紫外光による照射処理を施して作製されたことを特徴とする透明ガスバリア性フィルムにより、過酷な環境下で保存されても密着性に優れ、かつ良好な透明性、ガスバリア耐性を備えた透明ガスバリア性フィルムを現することができることを見出し、本発明に至った次第である。
【0029】
更に、上記で規定する構成に加えて、低密度層、高密度層に同一の元素を含有せしめること、基材側から前記低密度層、高密度層の積層体を1つのユニットとした時、該ユニットが2回以上繰り返して積層した構成をとること、低密度層、高密度層が、酸化珪素、酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種を含有することにより、本発明の上記目的効果がより一層発揮されることを見出したものである。
【0030】
以下、本発明の透明ガスバリア性フィルム及びその製造方法の詳細について説明する。
【0031】
本発明の透明ガスバリア性フィルムにおいては、基材上に少なくとも低密度層及び高密度層から構成されるガスバリア層を有する透明ガスバリア性フィルムにおいて、該基材側から順に低密度層、高密度層の順に積層され、かつ積層された状態で、波長が200nm以下の真空紫外光による照射処理が施されていることを特徴とする。
【0032】
本発明に係る高密度層の膜密度の範囲としては、酸化珪素で構成されている場合には、膜密度としては2.0以上、2.2以下が好ましく、酸化アルミニウムで構成されている場合には、膜密度が3.4以上、4.0以下であることが好ましい。
【0033】
一方、本発明に係る低密度層の膜密度の範囲としては、酸化珪素で構成されている場合には、膜密度としては1.8以上、2.0以下であることが好ましく、酸化アルミニウムで構成されている場合には、膜密度としては3.0以上、3.4以下であることが好ましい。
【0034】
本発明でいう密度とは、公知の分析手段を用いて求めることができるが、本発明においては、X線反射率法により求めた値を用いている。
【0035】
X線反射率法の概要は、X線回折ハンドブック 151ページ(理学電機株式会社編 2000年 国際文献印刷社)や化学工業1999年1月No.22を参照して行うことができる。
【0036】
本発明に有用な測定方法の具体例を以下に示す。
【0037】
測定装置としては、マックサイエンス社製MXP21を用いて行う。X線源のターゲットには銅を用い、42kV、500mAで作動させる。インシデントモノクロメータには多層膜パラボラミラーを用いる。入射スリットは0.05mm×5mm、受光スリットは0.03mm×20mmを用いる。2θ/θスキャン方式で0から5°をステップ幅0.005°、1ステップ10秒のFT法にて測定を行う。得られた反射率曲線に対し、マックサイエンス社製Reflectivity Analysis Program Ver.1を用いてカーブフィティングを行い、実測値とフッティングカーブの残差平方和が最小になるように各パラメータを求める。各パラメータから積層膜の厚さ及び密度を求めることができる。本発明における積層膜の膜厚評価も上記X線反射率測定より求めることができる。
【0038】
本発明の透明ガスバリア性フィルムにおいては、高密度層の膜厚としては、5nm以上、100nm以下が好ましく、低密度層の膜厚としては、100nm以上、500nm以下が好ましい。
【0039】
本発明の透明ガスバリア性フィルムにおいては、低密度層、高密度層に同一の元素を含有せしめること、基材側から前記低密度層、高密度層の積層体を1つのユニットとした時、該ユニットが2回以上、即ち4層以上積層されていることが好ましく、より好ましくは積層されるユニット数としては2〜4である。
【0040】
真空紫外光の照射条件としては、180nmから200nmの波長範囲における照度と照射時間の積で決定される積算照度により処理レベルが決定される。通常、エキシマランプを使用する場合は、処理物からの距離を2〜3mm離した状態で、10〜30mW/cmの照度が一般的で、処理時間としては、適宜選定される。
【0041】
また、真空紫外光を照射するタイミングとしては、各ユニット毎に、高密度層が最表層の状態で逐次照射することが好ましいが、全ユニットを積層後、照射してもほぼ同様の効果が得られる。
【0042】
図1は、本発明の透明ガスバリア性フィルムの層構成とその密度プロファイルの一例を示す模式図である。
【0043】
本発明の透明ガスバリア性フィルム1は、基材2上に密度の異なる層を積層した構成をとる。本発明においては、該基材2側から順に低密度層3、高密度層4の順に積層され、かつ積層された状態で、波長が200nm以下の真空紫外光を照射する真空紫外光照射手段100による照射処理が施されていることを特徴とし、更に基材2側から前記低密度層3、高密度層4の積層体を1つのユニットとし、図1には1ユニット分を、図2には2ユニット分を積層した例を示してある。この時、それぞれの図の右側に示すように、各密度層内における密度分布(密度プロファイル)は均一とし、隣接する層間での密度変化が階段状となるような構成をとる。
【0044】
本発明の透明ガスバリア性フィルムにおいて、図1、図2に示すように各層間での密度を所望の条件に制御する方法としては、特に制限はないが、後述する本発明で好ましく用いられる大気圧プラズマ法を用いた成膜においては、供給する膜形成原料の種類及び供給量、あるいはプラズマ放電時の出力条件を適宜選択することにより得ることができる。
【0045】
また、本発明に係る波長200nmの真空紫外光を照射する真空紫外光照射手段100としては、エキシマランプが一般的で、エムディエキシマ社製のMEUT−1を使用することができる。
【0046】
本発明の透明ガスバリア性フィルムにおいて、上記説明した密度の異なる低密度層、高密度層から構成される積層体に波長200nmの以下の真空紫外光を照射することを特徴とするが、更には、基材上に少なくとも高密度層として低炭素含有層及び低密度層として高炭素含有層から構成されるガスバリア層を有し、波長200nm以下の真空紫外光を照射した透明ガスバリア性フィルムを、好ましい態様として挙げることができる。
【0047】
本発明で規定する各密度層における炭素含有量は、公知の分析手段を用いて求めることができる。
【0048】
本発明において炭素含有率を示す原子数濃度とは、下記のXPS法によって算出されるもので、以下に定義される。
【0049】
原子数濃度%(atomic concentration)=炭素原子の個数/全原子の個数×100
XPS表面分析装置は、本発明では、VGサイエンティフィックス社製ESCALAB−200Rを用いた。具体的には、X線アノードにはMgを用い、出力600W(加速電圧15kV、エミッション電流40mA)で測定した。エネルギー分解能は、清浄なAg3d5/2ピークの半値幅で規定したとき、1.5eV〜1.7eVとなるように設定した。
【0050】
測定としては、先ず、結合エネルギー0eV〜1100eVの範囲を、データ取り込み間隔1.0eVで測定し、いかなる元素が検出されるかを求めた。
【0051】
次に、検出された、エッチングイオン種を除く全ての元素について、データの取り込み間隔を0.2eVとして、その最大強度を与える光電子ピークについてナロースキャンをおこない、各元素のスペクトルを測定した。
【0052】
得られたスペクトルは、測定装置、あるいは、コンピュータの違いによる含有率算出結果の違いを生じせしめなくするために、VAMAS−SCA−JAPAN製のCOMMON DATA PROCESSING SYSTEM (Ver.2.3以降が好ましい)上に転送した後、同ソフトで処理を行い、各分析ターゲットの元素(炭素、酸素、ケイ素、チタン等)の含有率の値を原子数濃度(atomic concentration:at%)として求めた。
【0053】
定量処理を行う前に、各元素についてCount Scaleのキャリブレーションをおこない、5ポイントのスムージング処理をおこなった。定量処理では、バックグラウンドを除去したピークエリア強度(cps*eV)を用いた。バックグラウンド処理には、Shirleyによる方法を用いた。また、Shirley法については、D.A.Shirley,Phys.Rev.,B5,4709(1972)を参考にすることができる。
【0054】
本発明の透明ガスバリア性フィルムにおける各炭素含有層間での炭素含有量プロファイルとしては、前記図1、図2で示した密度パターンと同様のパターンを適用することができる。但し、図1、図2における低密度層は、高炭素含有層と相関を持ち、また高密度層は低炭素含有層と相関を持つため、密度パターンと炭素含有量パターンとは、正反対のプロファイルを持つこととなる。
【0055】
本発明の透明ガスバリア性フィルムにおいて、各層間での炭素含有量を所望の条件に制御する方法としては、特に制限はないが、後述する本発明で好ましく用いられる大気圧プラズマ法を用いた成膜においては、供給する膜形成原料の種類及び供給量、あるいはプラズマ放電時の出力条件を適宜選択することにより得ることができる。
【0056】
次いで、本発明の透明ガスバリア性フィルムの構成要素について説明する。
【0057】
《ガスバリア層》
はじめに、本発明に係る低密度層、高密度層から構成され、且つ積層された状態に於いて、波長が200nm以下の真空紫外光による照射処理が施されたガスバリア層について説明する。
【0058】
本発明に係るガスバリア層とは、酸素及び水蒸気の透過を阻止する層であれば、その組成等は特に限定されるものではない。本発明に係るガスバリア層を構成する材料として、具体的には、無機酸化物が好ましく、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ等を挙げることができる。また、本発明におけるガスバリア層の厚さは、用いられる材料の種類、構成により最適条件が異なり、適宜選択されるが、5〜2000nmの範囲内であることが好ましく、更には、高密度層の膜厚としては、5nm以上、100nm以下が好ましく、低密度層の膜厚としては、100nm以上、500nm以下が好ましい。
【0059】
ガスバリア層の厚さが、上記の範囲より薄い場合には、均一な膜が得られず、ガスに対するバリア性を得ることが困難であるからである。また、ガスバリア層の厚さが上記の範囲より厚い場合には、ガスバリア性フィルムにフレキシビリティを保持させることが困難であり、成膜後に折り曲げ、引っ張り等の外的要因により、ガスバリア性フィルムに亀裂が生じる等のおそれがあるからである。
【0060】
本発明に係るガスバリア層は、後述する原材料をスプレー法、スピンコート法、スパッタリング法、イオンアシスト法、後述するプラズマCVD法、後述する大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法等を適用して形成することができる。
【0061】
しかしながら、スプレー法やスピンコート法等の湿式法では、分子レベル(nmレベル)の平滑性を得ることが難しく、また溶剤を使用するため、後述する基材が有機材料であることから、使用可能な基材または溶剤が限定されるという欠点がある。
【0062】
そこで、本発明においては、プラズマCVD法等で形成されたものであることが好ましく、特に大気圧プラズマCVD法は、減圧チャンバー等が不要で、高速製膜ができ生産性の高い製膜方法である点から好ましい。上記ガスバリア層を大気圧プラズマCVD法で形成することにより、均一かつ表面の平滑性を有する膜を比較的容易に形成することが可能となるからである。プラズマCVD法、大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法であるが、特に好ましくは、大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法を用いて形成される。尚、プラズマCVD法の層形成条件の詳細については、後述する。
【0063】
プラズマCVD法、大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法により得られるガスバリア層は、原材料(原料ともいう)である有機金属化合物、分解ガス、分解温度、投入電力などの条件を選ぶことで、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物、金属硫化物、金属ハロゲン化物、またこれらの混合物(金属酸窒化物、金属酸化ハロゲン化物、金属窒化炭化物など)も作り分けることができるため好ましい。
【0064】
例えば、珪素化合物を原料化合物として用い、分解ガスに酸素を用いれば、珪素酸化物が生成する。また、亜鉛化合物を原料化合物として用い、分解ガスに酸素を用いれば、酸化亜鉛が生成する。これはプラズマ空間内では非常に活性な荷電粒子・活性ラジカルが高密度で存在するため、プラズマ空間内では多段階の化学反応が非常に高速に促進され、プラズマ空間内に存在する元素は、熱力学的に安定な化合物へと非常な短時間で変換されるためである。
【0065】
このような無機物の原料としては、典型または遷移金属元素を有していれば、常温常圧下で気体、液体、固体いずれの状態であっても構わない。気体の場合にはそのまま放電空間に導入できるが、液体、固体の場合は、加熱、バブリング、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用する。又、溶媒によって希釈して使用してもよく、溶媒は、メタノール,エタノール,n−ヘキサンなどの有機溶媒及びこれらの混合溶媒が使用出来る。尚、これらの希釈溶媒は、プラズマ放電処理中において、分子状、原子状に分解されるため、影響は殆ど無視することができる。
【0066】
このような有機金属化合物として、
ケイ素化合物としては、例えば、シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラキスジメチルアミノシラン、テトライソシアナートシラン、テトラメチルジシラザン、トリス(ジメチルアミノ)シラン、トリエトキシフルオロシラン、アリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン、ベンジルトリメチルシラン、ビス(トリメチルシリル)アセチレン、1,4−ビストリメチルシリル−1,3−ブタジイン、ジ−t−ブチルシラン、1,3−ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン、フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン、プロパルギルトリメチルシラン、テトラメチルシラン、トリメチルシリルアセチレン、1−(トリメチルシリル)−1−プロピン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ビニルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、Mシリケート51等が挙げられる。
【0067】
チタン化合物としては、例えば、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンイソプロポキシド、チタンテトライソポロポキシド、チタンn−ブトキシド、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−エチルアセトアセテート)、チタンジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンアセチルアセトネート、ブチルチタネートダイマー等が挙げられる。
【0068】
ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムn−プロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムt−ブトキシド、ジルコニウムトリ−n−ブトキシドアセチルアセトネート、ジルコニウムジ−n−ブトキシドビスアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムヘキサフルオロペンタンジオネート等が挙げられる。
【0069】
アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムs−ブトキシド、アルミニウムt−ブトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、トリエチルジアルミニウムトリ−s−ブトキシド等が挙げられる。
【0070】
硼素化合物としては、例えば、ジボラン、テトラボラン、フッ化硼素、塩化硼素、臭化硼素、ボラン−ジエチルエーテル錯体、ボラン−THF錯体、ボラン−ジメチルスルフィド錯体、三フッ化硼素ジエチルエーテル錯体、トリエチルボラン、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリ(イソプロポキシ)ボラン、ボラゾール、トリメチルボラゾール、トリエチルボラゾール、トリイソプロピルボラゾール、等が挙げられる。
【0071】
錫化合物としては、例えば、テトラエチル錫、テトラメチル錫、二酢酸ジ−n−ブチル錫、テトラブチル錫、テトラオクチル錫、テトラエトキシ錫、メチルトリエトキシ錫、ジエチルジエトキシ錫、トリイソプロピルエトキシ錫、ジエチル錫、ジメチル錫、ジイソプロピル錫、ジブチル錫、ジエトキシ錫、ジメトキシ錫、ジイソプロポキシ錫、ジブトキシ錫、錫ジブチラート、錫ジアセトアセトナート、エチル錫アセトアセトナート、エトキシ錫アセトアセトナート、ジメチル錫ジアセトアセトナート等、錫水素化合物等、ハロゲン化錫としては、二塩化錫、四塩化錫等が挙げられる。
【0072】
また、その他の有機金属化合物としては、例えば、アンチモンエトキシド、ヒ素トリエトキシド、バリウム2,2,6,6−テトラメチルヘプタンジオネート、ベリリウムアセチルアセトナート、ビスマスヘキサフルオロペンタンジオネート、ジメチルカドミウム、カルシウム2,2,6,6−テトラメチルヘプタンジオネート、クロムトリフルオロペンタンジオネート、コバルトアセチルアセトナート、銅ヘキサフルオロペンタンジオネート、マグネシウムヘキサフルオロペンタンジオネート−ジメチルエーテル錯体、ガリウムエトキシド、テトラエトキシゲルマン、テトラメトキシゲルマン、ハフニウムt−ブドキシド、ハフニウムエトキシド、インジウムアセチルアセトナート、インジウム2,6−ジメチルアミノヘプタンジオネート、フェロセン、ランタンイソプロポキシド、酢酸鉛、テトラエチル鉛、ネオジウムアセチルアセトナート、白金ヘキサフルオロペンタンジオネート、トリメチルシクロペンタジエニル白金、ロジウムジカルボニルアセチルアセトナート、ストロンチウム2,2,6,6−テトラメチルヘプタンジオネート、タンタルメトキシド、タンタルトリフルオロエトキシド、テルルエトキシド、タングステンエトキシド、バナジウムトリイソプロポキシドオキシド、マグネシウムヘキサフルオロアセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、ジエチル亜鉛、などが挙げられる。
【0073】
また、これらの金属を含む原料ガスを分解して無機化合物を得るための分解ガスとしては、水素ガス、メタンガス、アセチレンガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、アンモニアガス、亜酸化窒素ガス、酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、酸素ガス、水蒸気、フッ素ガス、フッ化水素、トリフルオロアルコール、トリフルオロトルエン、硫化水素、二酸化硫黄、二硫化炭素、塩素ガスなどが挙げられる。
【0074】
金属元素を含む原料ガスと、分解ガスを適宜選択することで、各種の金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物、金属ハロゲン化物、金属硫化物を得ることができるが、金属酸化物がより好ましい。
【0075】
また、これらの金属を含む原料ガスを分解して無機化合物を得るための分解ガスとしては、水素ガス、メタンガス、アセチレンガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、アンモニアガス、亜酸化窒素ガス、酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、酸素ガス、水蒸気、フッ素ガス、フッ化水素、トリフルオロアルコール、トリフルオロトルエン、硫化水素、二酸化硫黄、二硫化炭素、塩素ガスなどが挙げられるが、酸素を用いるのがより好ましい。
【0076】
金属元素を含む原料ガスと、分解ガスを適宜選択することで、各種の金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物、金属ハロゲン化物、金属硫化物を得ることができるが、金属酸化物がより好ましい。
【0077】
これらの反応性ガスに対して、主にプラズマ状態になりやすい放電ガスを混合し、プラズマ放電発生装置にガスを送りこむ。このような放電ガスとしては、窒素ガスおよび/または周期表の第18属原子、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。これらの中でも特に、窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられる。
【0078】
上記放電ガスと反応性ガスを混合し、混合ガスとしてプラズマ放電発生装置(プラズマ発生装置)に供給することで膜形成を行う。放電ガスと反応性ガスの割合は、得ようとする膜の性質によって異なるが、混合ガス全体に対し、放電ガスの割合を50%以上として反応性ガスを供給する。
【0079】
本発明に係るガスバリア層においては、ガスバリア層が含有する無機化合物が、SiO、SiO(x=1〜2、y=0.1〜1)であることが好ましく、特に水分の透過性、光線透過性及び後述する大気圧プラズマCVD適性の観点から、SiOであることが好ましい。
【0080】
また、本発明に係るガスバリア層は、透明であることが好ましい。上記ガスバリア層が透明であることにより、ガスバリア性フィルムを透明なものとすることが可能となり、有機EL素子の透明基板等の用途にも使用することが可能となるからである。
【0081】
しかしこれら何れの膜種及び製膜法を用いたとしても、特にバリア性を担うセラミック層の製膜速度を上げると膜の緻密性が損なわれバリア性能が劣化する傾向がある為、本発明では、本発明に係る波長200nm以下の真空紫外光を照射し、脱水縮合反応を促進させて膜を緻密化させることにより、製膜速度を高めてもバリア性能を維持することが出来る。
【0082】
本発明で用いる波長200nm以下の真空紫外光を照射する装置としては、エキシマランプが一般的であるが、これに限らずDCアークプラズマでも真空紫外光を発することができる。また一酸化炭素を含有した不活性ガスをプラズマ放電させることにより真空紫外光を発生させることも出来る。
【0083】
本発明に係る波長200nm以下の真空紫外光を照射するタイミングとしては、照射光に曝される表面には、より高密度な層が配置されることが好ましい。
【0084】
図4に、本発明に適用可能な大気圧プラズマCVD装置の下流側に、エキシマランプ100を設置した構成図を示す。
【0085】
上流の大気圧プラズマCVD装置40にて連続的に、基材側から低密度層、高密度層を積層し、その下流側の設置したエキシマランプ100にて真空紫外光を連続的に照射する。これにより高い生産性が得られる。
【0086】
《基材》
本発明の透明ガスバリア性フィルムで用いられる基材は、上述したバリア性を有するガスバリア層を保持することができる有機材料で形成された膜であれば特に限定されるものではない。
【0087】
具体的には、エチレン、ポリプロピレン、ブテン等の単独重合体または共重合体または共重合体等のポリオレフィン(PO)樹脂、環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン樹脂(APO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド系(PA)樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のポリビニルアルコール系樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリサルホン(PS)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリビニルブチラート(PVB)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PFA)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニル(PVF)、パーフルオロエチレン−パーフロロプロピレン−パーフロロビニルエーテル−共重合体(EPA)等のフッ素系樹脂等を用いることができる。
【0088】
また、上記に挙げた樹脂以外にも、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物によりなる樹脂組成物や、上記アクリルレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物よりなる樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート等のオリゴマーを多官能アクリレートモノマーに溶解せしめた樹脂組成物等の光硬化性樹脂およびこれらの混合物等を用いることも可能である。さらに、これらの樹脂の1または2種以上をラミネート、コーティング等の手段によって積層させたものを基材フィルムとして用いることも可能である。
【0089】
これらの素材は単独であるいは適宜混合されて使用することも出来る。中でもゼオネックスやゼオノア(日本ゼオン(株)製)、非晶質シクロポリオレフィン樹脂フィルムのARTON(ジェイエスアール(株)製)、ポリカーボネートフィルムのピュアエース(帝人(株)製)、セルローストリアセテートフィルムのコニカタックKC4UX、KC8UX(コニカミノルタオプト(株)製)などの市販品を好ましく使用することが出来る。
【0090】
また、基材は透明であることが好ましい。基材が透明であり、基材上に形成する層も透明であることにより、透明なガスバリア性フィルムとすることが可能となるため、有機EL素子等の透明基板とすることも可能となるからである。
【0091】
また、上記に挙げた樹脂等を用いた本発明の基材は、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。
【0092】
本発明に係る基材は、従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。例えば、材料となる樹脂を押し出し機により溶融し、環状ダイやTダイにより押し出して急冷することにより、実質的に無定形で配向していない未延伸の基材を製造することができる。また、未延伸の基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、基材の流れ(縦軸)方向、または基材の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することにより延伸基材を製造することができる。この場合の延伸倍率は、基材の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向および横軸方向にそれぞれ2〜10倍が好ましい。
【0093】
また、本発明に係る基材においては、蒸着膜を形成する前にコロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、薬品処理などの表面処理を行ってもよい。
【0094】
さらに、本発明に係る基材表面には、蒸着膜との密着性の向上を目的としてアンカーコート剤層を形成してもよい。このアンカーコート剤層に用いられるアンカーコート剤としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、およびアルキルチタネート等を、1または2種以上併せて使用することができる。これらのアンカーコート剤には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記のアンカーコート剤は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法により基材上にコーティングし、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりアンカーコーティングすることができる。上記のアンカーコート剤の塗布量としては、0.1〜5g/m(乾燥状態)程度が好ましい。
【0095】
基材は、ロール状に巻き上げられた長尺品が便利である。基材の厚さは、得られるガスバリア性フィルムの用途によって異なるので一概には規定できないが、ガスバリア性フィルムを包装用途とする場合には、特に制限を受けるものではなく、包装材料としての適性から、3〜400μm、中でも6〜30μmの範囲内とすることが好ましい。
【0096】
また、本発明に用いられる基材は、フィルム形状のものの膜厚としては10〜200μmが好ましく、より好ましくは50〜100μmである。
【0097】
本発明のガスバリア性フィルムの水蒸気透過度としては、有機ELディスプレイや高精彩カラー液晶ディスプレイ等の高度の水蒸気バリア性を必要とする用途に用いる場合、JIS K7129 B法に従って測定した水蒸気透過度が、1.0g/m/day以下であることが好ましく、さらに有機ELディスプレイ用途の場合、極わずかであっても、成長するダークスポットが発生し、ディスプレイの表示寿命が極端に短くなる場合があるため、水蒸気透過度が、0.1g/m/day未満であることが好ましい。
【0098】
《プラズマCVD法》
次いで、本発明の透明ガスバリア性フィルムの製造方法において、本発明に係る低密度層及び高密度層の形成に好適に用いることのできるプラズマCVD法及び大気圧プラズマCVD法について、その詳細を説明する。
【0099】
はじめに、本発明に係るプラズマCVD法について説明する。
【0100】
プラズマCVD法は、プラズマ助成式化学的気相成長法、PECVD法とも称され、各種の無機物を、立体的な形状でも被覆性・密着性良く、かつ基材温度をあまり高くすることなしに製膜することができる手法である。
【0101】
通常のCVD法(化学的気相成長法)では、揮発・昇華した有機金属化合物が高温の基材表面に付着し、熱により分解反応が起き、熱的に安定な無機物の薄膜が生成されるというものである。このような通常のCVD法(熱CVD法とも称する)では、通常500℃以上の基板温度が必要であるため、プラスチック基材への製膜には使用することができない。
【0102】
一方、プラズマCVD法は、基材近傍の空間に電界を印加し、プラズマ状態となった気体が存在する空間(プラズマ空間)を発生させ、揮発・昇華した有機金属化合物がこのプラズマ空間に導入されて分解反応が起きた後に基材上に吹きつけられることにより、無機物の薄膜を形成するというものである。プラズマ空間内では、数%の高い割合の気体がイオンと電子に電離しており、ガスの温度は低く保たれるものの、電子温度は非常な高温のため、この高温の電子、あるいは低温ではあるがイオン・ラジカルなどの励起状態のガスと接するために無機膜の原料である有機金属化合物は低温でも分解することができる。したがって、無機物を製膜する基材についても低温化することができ、プラスチック基材上へも十分製膜することが可能な製膜方法である。
【0103】
しかしながら、プラズマCVD法においては、ガスに電界を印加して電離させ、プラズマ状態とする必要があるため、通常は、0.101kPa〜10.1kPa程度の減圧空間で製膜していたため、大面積のフィルムを製膜する際には設備が大きく操作が複雑であり、生産性の課題を抱えている方法である。
【0104】
これに対し、大気圧近傍でのプラズマCVD法では、真空下のプラズマCVD法に比べ、減圧にする必要がなく生産性が高いだけでなく、プラズマ密度が高密度であるために製膜速度が速く、更にはCVD法の通常の条件に比較して、大気圧下という高圧力条件では、ガスの平均自由工程が非常に短いため、極めて平坦な膜が得られ、そのような平坦な膜は、光学特性、ガスバリア性共に良好である。以上のことから、本発明においては、大気圧プラズマCVD法を適用することが、真空下のプラズマCVD法よりも好ましい。
【0105】
以下、大気圧或いは大気圧近傍でのプラズマCVD法を用いたガスバリア層を形成する装置について詳述する。
【0106】
本発明の透明ガスバリア性フィルムの製造方法において、低密度層、高密度層の形成に使用されるプラズマ製膜装置の一例について、図3〜図6に基づいて説明する。図中、符号Fは基材の一例としての長尺フィルムである。
【0107】
図3は、本発明に有用なジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示した概略図である。
【0108】
図3に記載のジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置は、プラズマ放電処理装置、二つの電源を有する電界印加手段、波長200nmの真空紫外光を照射する真空紫外光照射手段の他に、図3では図示してない(後述の図4に図示してある)が、ガス供給手段、電極温度調節手段を有している装置である。
【0109】
プラズマ放電処理装置10は、第1電極11と第2電極12から構成されている対向電極を有しており、該対向電極間に、第1電極11からは第1電源21からの周波数ω、電界強度V、電流Iの第1の高周波電界が印加され、また第2電極12からは第2電源22からの周波数ω、電界強度V、電流Iの第2の高周波電界が印加されるようになっている。第1電源21は第2電源22より高い高周波電界強度(V>V)を印加出来、また第1電源21の第1の周波数ωは第2電源22の第2の周波数ωより低い周波数を印加出来る。
【0110】
第1電極11と第1電源21との間には、第1フィルタ23が設置されており、第1電源21から第1電極11への電流を通過しやすくし、第2電源22からの電流をアースして、第2電源22から第1電源21への電流が通過しにくくなるように設計されている。
【0111】
また、第2電極12と第2電源22との間には、第2フィルタ24が設置されており、第2電源22から第2電極への電流を通過しやすくし、第1電源21からの電流をアースして、第1電源21から第2電源への電流を通過しにくくするように設計されている。
【0112】
第1電極11と第2電極12との対向電極間(放電空間)13に、後述の図4に図示してあるようなガス供給手段からガスGを導入し、第1電極11と第2電極12から高周波電界を印加して放電を発生させ、ガスGをプラズマ状態にしながら対向電極の下側(紙面下側)にジェット状に吹き出させて、対向電極下面と基材Fとで作る処理空間をプラズマ状態のガスG°で満たし、図示してない基材の元巻き(アンワインダー)から巻きほぐされて搬送して来るか、あるいは前工程から搬送して来る基材Fの上に、処理位置14付近で薄膜を形成させる。薄膜形成中、後述の図4に図示してあるような電極温度調節手段から媒体が配管を通って電極を加熱または冷却する。プラズマ放電処理の際の基材の温度によっては、得られる薄膜の物性や組成等は変化することがあり、これに対して適宜制御することが望ましい。温度調節の媒体としては、蒸留水、油等の絶縁性材料が好ましく用いられる。プラズマ放電処理の際、幅手方向あるいは長手方向での基材の温度ムラが出来るだけ生じないように電極の内部の温度を均等に調節することが望まれる。
【0113】
図3の下流側には、本発明に係る波長200nmの真空紫外光を照射する真空紫外光照射手段100としてエキシマランプが設置されている。ここでは図示されないが、その上流側に複数基接して直列に並べられた大気圧プラズマCVD装置で連続的に低密度層、高密度層が積層され、その下流側に配置されたエキシマランプにより真空紫外光を連続的に照射することで、高速製膜された高密度層の膜密度を更に向上させて、高いバリア性能を発揮する様構成されている。
【0114】
ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置を複数基接して直列に並べて同時に同じプラズマ状態のガスを放電させることが出来るので、何回も処理され高速で処理することも出来る。また各装置が異なったプラズマ状態のガスをジェット噴射すれば、異なった層の積層薄膜を形成することも出来る。
【0115】
図4は、本発明に有用な対向電極間で基材を処理するロール電極方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【0116】
本発明に係る大気圧プラズマ放電処理装置は、少なくとも、プラズマ放電処理装置30、二つの電源を有する電界印加手段40、ガス供給手段50、電極温度調節手段60、波長200nmの真空紫外光を照射する真空紫外光照射手段100を有している装置である。
【0117】
図4では、ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との対向電極間(放電空間)32で、基材Fをプラズマ放電処理して各密度層を形成するものである。
【0118】
図4においては、1対の角筒型固定電極群(第2電極)36とロール回転電極(第1電極)35とで、1つの電界を形成し、この1ユニットで、例えば、低密度層の形成を行う。
【0119】
図4においては、この様な構成からなるユニットを、計5カ所備えた構成例を示しあり、それぞれのユニットで、供給する原材料の種類、出力電圧等を任意に独立して制御することにより、本発明で規定する特性を備えた各密度層を積層した透明ガスバリア層を連続して形成することができる。
【0120】
ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との間の放電空間(対向電極間)32に、ロール回転電極(第1電極)35には第1電源41から周波数ω、電界強度V、電流Iの第1の高周波電界を、また角筒型固定電極群(第2電極)36にはそれぞれに対応する各第2電源42から周波数ω、電界強度V、電流Iの第2の高周波電界をかけるようになっている。
【0121】
ロール回転電極(第1電極)35と第1電源41との間には、第1フィルタ43が設置されており、第1フィルタ43は第1電源41から第1電極への電流を通過しやすくし、第2電源42からの電流をアースして、第2電源42から第1電源への電流を通過しにくくするように設計されている。また、角筒型固定電極群(第2電極)36と第2電源42との間には、それぞれ第2フィルタ44が設置されており、第2フィルタ44は、第2電源42から第2電極への電流を通過しやすくし、第1電源41からの電流をアースして、第1電源41から第2電源への電流を通過しにくくするように設計されている。
【0122】
なお、本発明においては、ロール回転電極35を第2電極、また角筒型固定電極群36を第1電極としてもよい。何れにしろ第1電極には第1電源が、また第2電極には第2電源が接続される。第1電源は第2電源より高い高周波電界強度(V>V)を印加することが好ましい。また、周波数はω<ωとなる能力を有している。
【0123】
また、電流はI<Iとなることが好ましい。第1の高周波電界の電流Iは、好ましくは0.3mA/cm〜20mA/cm、さらに好ましくは1.0mA/cm〜20mA/cmである。また、第2の高周波電界の電流Iは、好ましくは10mA/cm〜100mA/cm、さらに好ましくは20mA/cm〜100mA/cmである。
【0124】
ガス供給手段50のガス発生装置51で発生させたガスGは、流量を制御して給気口よりプラズマ放電処理容器31内に導入する。
【0125】
基材Fを、図示されていない元巻きから巻きほぐして搬送されて来るか、または前工程から搬送されて来て、ガイドロール64を経てニップロール65で基材に同伴されて来る空気等を遮断し、ロール回転電極35に接触したまま巻き回しながら角筒型固定電極群36との間に移送し、ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との両方から電界をかけ、対向電極間(放電空間)32で放電プラズマを発生させる。基材Fはロール回転電極35に接触したまま巻き回されながらプラズマ状態のガスにより薄膜を形成する。基材Fは、ニップロール66、ガイドロール67を経て、下流側に設置された波長200nmの真空紫外光を照射する真空紫外光照射手段100であるエキシマランプにて真空紫外光を照射され、図示してない巻き取り機で巻き取るか、次工程に移送する。放電処理済みの処理排ガスG′は排気口53より排出する。
【0126】
薄膜形成中、ロール回転電極(第1電極)35及び角筒型固定電極群(第2電極)36を加熱または冷却するために、電極温度調節手段60で温度を調節した媒体を、送液ポンプPで配管61を経て両電極に送り、電極内側から温度を調節する。なお、68及び69はプラズマ放電処理容器31と外界とを仕切る仕切板である。
【0127】
図5は、図4に示したロール回転電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【0128】
図5において、ロール回転電極35aは導電性の金属質母材35Aとその上に誘電体35Bが被覆されたものである。プラズマ放電処理中の電極表面温度を制御するため、温度調節用の媒体(水もしくはシリコンオイル等)が循環できる構造となっている。
【0129】
図6は、角筒型固定電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【0130】
図6において、角筒型固定電極36aは、導電性の金属質母材36Aに対し、図5同様の誘電体36Bの被覆を有しており、該電極の構造は金属質のパイプになっていて、それがジャケットとなり、放電中の温度調節が行えるようになっている。
【0131】
なお、角筒型固定電極の数は、上記ロール電極の円周より大きな円周上に沿って複数本設置されていおり、該電極の放電面積はロール回転電極35に対向している全角筒型固定電極面の面積の和で表される。
【0132】
図6に示した角筒型電極36aは、円筒型電極でもよいが、角筒型電極は円筒型電極に比べて、放電範囲(放電面積)を広げる効果があるので、本発明に好ましく用いられる。
【0133】
図5及び図6において、ロール電極35a及び角筒型電極36aは、それぞれ導電性の金属質母材35A及び36Aの上に誘電体35B及び36Bとしてのセラミックスを溶射後、無機化合物の封孔材料を用いて封孔処理したものである。セラミックス誘電体は片肉で1mm程度被覆あればよい。溶射に用いるセラミックス材としては、アルミナ・窒化珪素等が好ましく用いられるが、この中でもアルミナが加工し易いので、特に好ましく用いられる。また、誘電体層が、ライニングにより無機材料を設けたライニング処理誘電体であってもよい。
【0134】
導電性の金属質母材35A及び36Aとしては、チタン金属またはチタン合金、銀、白金、ステンレススティール、アルミニウム、鉄等の金属等や、鉄とセラミックスとの複合材料またはアルミニウムとセラミックスとの複合材料を挙げることが出来るが、後述の理由からはチタン金属またはチタン合金が特に好ましい。
【0135】
対向する第1電極および第2の電極の電極間距離は、電極の一方に誘電体を設けた場合、該誘電体表面ともう一方の電極の導電性の金属質母材表面との最短距離のことを言う。双方の電極に誘電体を設けた場合、誘電体表面同士の距離の最短距離のことを言う。電極間距離は、導電性の金属質母材に設けた誘電体の厚さ、印加電界強度の大きさ、プラズマを利用する目的等を考慮して決定されるが、いずれの場合も均一な放電を行う観点から0.1〜20mmが好ましく、特に好ましくは0.5〜2mmである。
【0136】
本発明に有用な導電性の金属質母材及び誘電体についての詳細については後述する。
【0137】
プラズマ放電処理容器31はパイレックス(登録商標)ガラス製の処理容器等が好ましく用いられるが、電極との絶縁がとれれば金属製を用いることも可能である。例えば、アルミニウムまたは、ステンレススティールのフレームの内面にポリイミド樹脂等を張り付けても良く、該金属フレームにセラミックス溶射を行い絶縁性をとってもよい。
【0138】
図3において、平行した両電極の両側面(基材面近くまで)を上記のような材質の物で覆うことが好ましい。
【0139】
本発明の大気圧プラズマ放電処理装置に設置する第1電源(高周波電源)としては、
印加電源記号 メーカー 周波数 製品名
A1 神鋼電機 3kHz SPG3−4500
A2 神鋼電機 5kHz SPG5−4500
A3 春日電機 15kHz AGI−023
A4 神鋼電機 50kHz SPG50−4500
A5 応用電機 90kHz* OH−10k
A6 パール工業 200kHz CF−2000−200k
A7 パール工業 400kHz CF−2000−400k
等の市販のものを挙げることが出来、何れも使用することが出来る。
【0140】
また、第2電源(高周波電源)としては、
印加電源記号 メーカー 周波数 製品名
B1 パール工業 800kHz CF−2000−800k
B2 パール工業 2MHz CF−2000−2M
B3 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
B4 パール工業 27MHz CF−2000−27M
B5 パール工業 150MHz CF−2000−150M
等の市販のものを挙げることが出来、何れも好ましく使用出来る。
【0141】
本発明においては、このような電界を印加して、均一で安定な放電状態を保つことが出来る電極を大気圧プラズマ放電処理装置に採用することが好ましい。
【0142】
本発明において、対向する電極間に印加する電力は、第2電極(第2の高周波電界)に1W/cm以上の電力(出力密度)を供給し、放電ガスを励起してプラズマを発生させ、エネルギーを薄膜形成ガスに与え、薄膜を形成する。第2電極に供給する電力の上限値としては、好ましくは50W/cm、より好ましくは20W/cmである。下限値は、好ましくは1.2W/cmである。なお、放電面積(cm)は、電極において放電が起こる範囲の面積のことを指す。
【0143】
また、第1電極(第1の高周波電界)にも、1W/cm以上の電力(出力密度)を供給することにより、第2の高周波電界の均一性を維持したまま、出力密度を向上させることが出来る。これにより、更なる均一高密度プラズマを生成出来、更なる製膜速度の向上と膜質の向上が両立出来る。好ましくは5W/cm以上である。第1電極に供給する電力の上限値は、好ましくは50W/cmである。
【0144】
ここで高周波電界の波形としては、特に限定されない。連続モードと呼ばれる連続サイン波状の連続発振モードと、パルスモードと呼ばれるON/OFFを断続的に行う断続発振モード等があり、そのどちらを採用してもよいが、少なくとも第2電極側(第2の高周波電界)は連続サイン波の方がより緻密で良質な膜が得られるので好ましい。
【0145】
また、本発明で膜質をコントロールする際には、第2電源側の電力を制御することによっても達成できる。
【0146】
このような大気圧プラズマによる薄膜形成法に使用する電極は、構造的にも、性能的にも過酷な条件に耐えられるものでなければならない。このような電極としては、金属質母材上に誘電体を被覆したものであることが好ましい。
【0147】
本発明に使用する誘電体被覆電極においては、様々な金属質母材と誘電体との間に特性が合うものが好ましく、その一つの特性として、金属質母材と誘電体との線熱膨張係数の差が10×10−6/℃以下となる組み合わせのものである。好ましくは8×10−6/℃以下、更に好ましくは5×10−6/℃以下、更に好ましくは2×10−6/℃以下である。なお、線熱膨張係数とは、周知の材料特有の物性値である。
【0148】
線熱膨張係数の差が、この範囲にある導電性の金属質母材と誘電体との組み合わせとしては、
1:金属質母材が純チタンまたはチタン合金で、誘電体がセラミックス溶射被膜
2:金属質母材が純チタンまたはチタン合金で、誘電体がガラスライニング
3:金属質母材がステンレススティールで、誘電体がセラミックス溶射被膜
4:金属質母材がステンレススティールで、誘電体がガラスライニング
5:金属質母材がセラミックスおよび鉄の複合材料で、誘電体がセラミックス溶射被膜
6:金属質母材がセラミックスおよび鉄の複合材料で、誘電体がガラスライニング
7:金属質母材がセラミックスおよびアルミの複合材料で、誘電体がセラミックス溶射皮膜
8:金属質母材がセラミックスおよびアルミの複合材料で、誘電体がガラスライニング等がある。線熱膨張係数の差という観点では、上記1項または2項および5〜8項が好ましく、特に1項が好ましい。
【0149】
本発明において、金属質母材は、上記の特性からはチタンまたはチタン合金が特に有用である。金属質母材をチタンまたはチタン合金とすることにより、誘電体を上記とすることにより、使用中の電極の劣化、特にひび割れ、剥がれ、脱落等がなく、過酷な条件での長時間の使用に耐えることが出来る。
【0150】
本発明に適用できる大気圧プラズマ放電処理装置としては、上記説明し以外に、例えば、特開2004−68143号公報、同2003−49272号公報、国際特許第02/48428号等に記載されている大気圧プラズマ放電処理装置を挙げることができる。
【実施例】
【0151】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0152】
実施例1
《透明ガスバリア性フィルム1の作製》
基材として、厚さ100μmのポリエチレンナフタレートフィルム(帝人・デュポン社製フィルム、以下、PENと略記する)上に、下記の大気圧プラズマ放電処理装置及び放電条件で、図1に記載のプロファイル構成で、低密度層1及び高密度層1を1ユニットとして積層した透明ガスバリア性フィルム1を作製した。
【0153】
(大気圧プラズマ放電処理装置)
図4に記載の大気圧プラズマ放電処理装置を用い、誘電体で被覆したロール電極及び複数の角筒型電極のセットを以下のように作製した。
【0154】
図5に記載の構成からなる第1電極であるロール電極は、冷却水による冷却手段を有するチタン合金T64製ジャケットロール金属質母材に対して、大気プラズマ法により高密度、高密着性のアルミナ溶射膜を被覆し、ロール径1000mmφとなるようにした。一方、図6に記載の構成からなる第2電極の角筒型電極は、中空の角筒型のチタン合金T64に対し、上記同様の誘電体を同条件にて方肉で1mm被覆し、対向する角筒型固定電極群とした。
【0155】
この角筒型電極をロール回転電極のまわりに、対向電極間隙を1mmとして10本配置した。角筒型固定電極群の放電総面積は、150cm(幅手方向の長さ)×4cm(搬送方向の長さ)×10本(電極の数)=6000cmであった。なお、何れもフィルタは適切なものを設置した。
【0156】
プラズマ放電中、第1電極(ロール回転電極)及び第2電極(角筒型固定電極群)が80℃になるように調節保温し、ロール回転電極はドライブで回転させて薄膜形成を行った。上記10本の角筒型固定電極中、上流側より3本を下記第1層(低密度層1)の製膜用に、残り7本を下記第2層(高密度層1)の製膜用に使用し、各条件を設定して1パスで2層を積層した。この積層膜に、下流側に設置した波長200nmの真空紫外光を照射する真空紫外光照射手段100であるエキシマランプを10本、基材の搬送方向に対し垂直に設置して、連続的に真空紫外光を照射して、透明ガスバリア性フィルム1を作製した。
【0157】
(第1層:低密度層1の形成)
下記の条件で、プラズマ放電を行って、厚さ約375nmの低密度層1を形成した。
【0158】
〈ガス条件〉
・放電ガス:窒素ガス 94.5体積%
・薄膜形成性ガス:ヘキサメチルジシロキサン(以下、HMDSOと略記)
(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 0.5体積%
・添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈電源条件〉
・第1電極側 電源種類:応用電機社製高周波電源
周波数:90kHz
出力密度:20W/cm
・第2電極側 電源種類:パール工業社製高周波電源
周波数:13.56MHz
出力密度:10W/cm
(第2層:高密度層1の形成)
下記の条件で、プラズマ放電を行って、厚さ約21nmの高密度層1を形成した。
【0159】
〈ガス条件〉
・放電ガス:窒素ガス 94.9体積%
・薄膜形成性ガス:テトラエトキシシラン(以下、TEOSと略記)
(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 0.1体積%
・添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈電源条件〉
・第1電極側 電源種類:応用電機社製高周波電源
周波数:90kHz
出力密度:20W/cm
・第2電極側 電源種類:パール工業社製高周波電源
周波数:13.56MHz
出力密度:20W/cm
《透明ガスバリア性フィルムの評価》
〔密度分布の測定〕
密度を、前述の方法に従って、マックサイエンス社製MXP21を用いて、X線反射率法により求めた結果、第1層目の膜密度は1.95、第2層目の膜密度は2.20であった。
【0160】
〔安定性の評価〕
(密着性の評価)
上記作製した透明ガスバリア性フィルム1を、JIS K 5400に準拠した碁盤目試験により、密着性の評価を行った結果、形成膜の剥離がなく、極めて良好な結果を得ることができた。
【0161】
(保存性の評価)
上記作製した透明ガスバリア性フィルム1を、98℃の熱湯に48時間浸漬した後、JIS K 5400に準拠した碁盤目試験により、密着性の評価を行った結果、密着性の劣化はなく、良好な結果を得ることができた。
【0162】
(紫外線耐性の評価)
上記作製した透明ガスバリア性フィルム1を、メタルハライドランプで1500mW/cmの紫外線を96時間照射した後、JIS K 5400に準拠した碁盤目試験により、密着性の評価を行った結果、密着性の劣化はなく、良好な結果を得ることができた。
【0163】
〔ガスバリア性の評価〕
(水蒸気透過率の測定)
未処理の透明ガスバリア性フィルム1及び上記保存性及び紫外線耐性の評価で作製した各試料について、JIS K 7129Bで規定の方法に準拠して水蒸気透過率を測定した結果、いずれの試料も0.01g/m/day以下であった。
【0164】
(酸素透過率の測定)
未処理の透明ガスバリア性フィルム1及び上記保存性及び紫外線耐性の評価で作製した各試料について、JIS K 7126Bで規定の方法に準拠して酸素透過率を測定した結果、いずれの試料も0.01ml/m/day以下であった。
【0165】
実施例2
《透明ガスバリア性フィルム2の作製及び評価》
実施例1に記載の透明ガスバリア性フィルム1の作製において、図2に記載のように、低密度層1及び高密度層1からなる1ユニットを2つ積層して、4層構成とした以外は同様にして、透明ガスバリア性フィルム2を作製し、実施例1に記載の方法と同様にして安定性及びガスバリア性の評価を行った結果、透明ガスバリア性フィルム1と同様の結果を得ることができた。
【0166】
実施例3
《透明ガスバリア性フィルム3の作製及び評価》
実施例1に記載の透明ガスバリア性フィルム1の作製において、高密度層1に代えて、下記の酸化アルミニウムから構成される高密度層2へ、更に低密度層1に代えて、下記酸化アルミニウムから構成される低密度層2に変更した以外は同様にして、透明ガスバリア性フィルム3を作製し、実施例1に記載の方法と同様にして安定性及びガスバリア性の評価を行った結果、透明ガスバリア性フィルム1と同様の結果を得ることができた。
【0167】
(第1層:低密度層2の形成)
下記条件で、プラズマ放電を行って、厚さ約300nmの低密度層2を形成した。
【0168】
<ガス条件>
・放電ガス:窒素ガス 94.5体積%
・薄膜形成ガス:アルミニウムトリセカンダリーブトキシド
(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 0.5体積%
・添加ガス:水素ガス 5.0体積%
<電源条件>
・第1電極側 電源種類:応用電機社製高周波電源
周波数:90kHz
出力密度:15W/cm
・第2電極側 電源種類:パール工業社製高周波電源
周波数:90kHz
出力密度:10W/cm
(第2層:高密度層2の形成)
下記の条件で、プラズマ放電を行って、厚さ約21nmの高密度層2を形成した。
【0169】
〈ガス条件〉
・放電ガス:窒素ガス 94.9体積%
・薄膜形成性ガス:アルミニウムトリセカンダリーブトキシド
(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 0.1体積%
・添加ガス:水素ガス 5.0体積%
〈電源条件〉
・第1電極側 電源種類:応用電機社製高周波電源
周波数:90kHz
出力密度:20W/cm
・第2電極側 電源種類:パール工業社製高周波電源
周波数:13.56MHz
出力密度:20W/cm
比較例1
《透明ガスバリア性フィルム4の作製》
実施例1に記載の透明ガスバリア性フィルム1の作製において、低密度層1及び高密度層1を積層した後のエキシマランプによる真空紫外光照射処理を除いた以外は同様にして、透明ガスバリア性フィルム4を作製した。
【0170】
《透明ガスバリア性フィルムの評価》
〔密度分布の測定〕
実施例1と同様にして、マックサイエンス社製MXP21を用い、X線反射率法でこの積層体の各層の密度を測定した結果、第1層の膜密度は1.90、第2層の膜密度は2.10であった。
【0171】
〔安定性の評価〕
(密着性の評価)
上記作製した透明ガスバリア性フィルム4を、JIS K 5400に準拠した碁盤目試験により、密着性の評価を行った結果、形成膜の剥離がなく、ほぼ良好な結果を得ることができた。
【0172】
(保存性の評価)
上記作製した透明ガスバリア性フィルム4を、98℃の熱湯に48時間浸漬した後、JIS K 5400に準拠した碁盤目試験により、密着性の評価を行った結果、ほぼ密着性の劣化はなく、良好な結果を得ることができた。
【0173】
(紫外線耐性の評価)
上記作製した透明ガスバリア性フィルム4を、メタルハライドランプで1500mW/cmの紫外線を96時間照射した後、JIS K 5400に準拠した碁盤目試験により、密着性の評価を行った結果、密着性の劣化はなく、ほぼ良好な結果を得ることができた。
【0174】
〔ガスバリア性の評価〕
(水蒸気透過率の測定)
透明ガスバリア性フィルム4及び上記保存性及び紫外線耐性の評価で作製した各試料について、JIS K 7129Bで規定の方法に準拠して水蒸気透過率を測定した結果、いずれの試料も0.8g/m/day程度とバリア性能としては、低レベルの結果であった。
【0175】
(酸素透過率の測定)
透明ガスバリア性フィルム4及び上記保存性及び紫外線耐性の評価で作製した各試料について、JIS K 7126Bで規定の方法に準拠して酸素透過率を測定した結果、いずれの試料も0.5ml/m/day程度とバリア性能としては、低レベルの結果であった。
【0176】
比較例2
《透明ガスバリア性フィルム5の作製》
実施例1に記載の透明ガスバリア性フィルム1の作製において、低密度層1と高密度層1の配置順を変更し、基材から高密度層1、低密度層1に変更し、低密度層1を最表層としてエキシマランプによる真空紫外光照射処理を行った以外は同様にして、透明ガスバリア性フィルム5を作製した。
【0177】
《透明ガスバリア性フィルム5の評価》
〔密度分布の測定〕
マックサイエンス社製MXP21を用い、X線反射率法で透明ガスバリア性フィルム5の各層の膜密度を測定した結果、第1層である高密度層の膜密度は2.12、第2層である低密度層の膜密度は2.05であった。
【0178】
〔安定性の評価〕
(密着性の評価)
上記作製した透明ガスバリア性フィルム5を、JIS K 5400に準拠した碁盤目試験により、密着性の評価を行った結果、形成膜の剥離が発生し、密着性に劣る結果であった。
【0179】
(保存性の評価)
上記作製した透明ガスバリア性フィルム5を、98℃の熱湯に48時間浸漬した後、JIS K 5400に準拠した碁盤目試験により、密着性の評価を行った結果、密着性の劣化が更に進行し、極めて密着性に乏しい結果となった。
【0180】
(紫外線耐性の評価)
上記作製した透明ガスバリア性フィルム5を、メタルハライドランプで1500mW/cmの紫外線を96時間照射した後、JIS K 5400に準拠した碁盤目試験により、密着性の評価を行った結果、密着性の劣化が更に進行し、極めて密着性に乏しい結果となった。
【0181】
〔ガスバリア性の評価〕
(水蒸気透過率の測定)
透明ガスバリア性フィルム5及び上記保存性及び紫外線耐性の評価で作製した各試料について、JIS K 7129Bで規定の方法に準拠して水蒸気透過率を測定した結果、いずれの試料も1.2g/m/dayとバリア性能としては、非常に低レベルの結果であった。
【0182】
(酸素透過率の測定)
透明ガスバリア性フィルム5及び上記保存性及び紫外線耐性の評価で作製した各試料について、JIS K 7126Bで規定の方法に準拠して酸素透過率を測定した結果、いずれの試料も1.0ml/m/day程度とバリア性能としては、低レベルの結果であった。
【符号の説明】
【0183】
1 透明ガスバリア性フィルム
2 基材
3、5 低密度層
4、6 高密度層
10、30 プラズマ放電処理装置
11 第1電極
12 第2電極
13、32 放電空間
14 処理位置
21、41 第1電源
22、42 第2電源
23、43 第1フィルタ
24 第2フィルタ
31 プラズマ放電処理容器
35、35a ロール回転電極
35A、36A 金属質母材
35B、36B 誘電体
36、36a 角筒型固定電極
40 電界印加手段
50 ガス供給手段
60 電極温度調節手段
100 真空紫外光照射手段
F 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、少なくとも低密度層及び高密度層から構成されるガスバリア層を有する透明ガスバリア性フィルムにおいて、該基材側から順に低密度層、高密度層の順に積層され、かつ該低密度層及び高密度層が積層された状態で、波長が200nm以下の真空紫外光による照射処理を施して作製されたことを特徴とする透明ガスバリア性フィルム。
【請求項2】
前記真空紫外光を照射する際、前記高密度層が最上層であることを特徴とする請求項1に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項3】
基材側から前記低密度層及び高密度層が積層された積層体を1つのユニットとした時、該ユニットが2回以上繰り返して積層されていることを特徴とする請求項1または2に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項4】
前記低密度層及び高密度層が、それぞれ酸化珪素及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項5】
前記高密度層が酸化珪素を含有し、真空紫外光照射後の該高密度層の膜密度が2.1g/cm以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項6】
前記高密度層が酸化アルミニウムを含有し、真空紫外光照射後の該高密度層の膜密度が3.5g/cm以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項7】
基材上に、少なくとも低密度層及び高密度層から構成されるガスバリア層を有する透明ガスバリア性フィルムの製造方法において、該基材側から順に低密度層、高密度層の順に積層され、かつ該低密度層及び高密度層が積層された状態で、波長が200nm以下の真空紫外光による照射処理を施して製造することを特徴とする透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記真空紫外光を照射する際、前記高密度層が最上層であることを特徴とする請求項7に記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項9】
基材側から前記低密度層及び高密度層が積層された積層体を1つのユニットとした時、該ユニットが2回以上繰り返して積層して製造することを特徴とする請求項7または8に記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記低密度層及び高密度層が、それぞれ酸化珪素及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記高密度層が酸化珪素を含有し、真空紫外光照射後の該高密度層の膜密度が2.1g/cm以上であることを特徴とする請求項7から10のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記高密度層が酸化アルミニウムを含有し、真空紫外光照射後の該高密度層の膜密度が3.5g/cm以上であることを特徴とする請求項7から10のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−84013(P2011−84013A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239917(P2009−239917)
【出願日】平成21年10月17日(2009.10.17)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】