説明

透明導電膜、透明導電膜付き基材、及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】透明導電膜、透明導電膜付き基材、及びそれを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子において、導電性を低下させることなく、機能層が形成される一面を平滑化する。
【解決手段】透明導電膜付き基材6は、基材2と、基材2上に形成される透明導電膜3と、を備え、透明導電膜3は、導電性を有する複数の金属細線3aと、透明樹脂層3bと、を含む。複数の金属細線3aは、透明樹脂層3bの作用面3cから一部が突出する。作用面3cにおける複数の金属細線3aの存在割合P1と、透明樹脂層3bの基材2と平行で、作用面3cよりも基材2側に存在する断面3dにおける金属細線3aの存在割合P2とが、P1<P2となっている。従って、突出する金属細線3aが少なくなり、作用面3cを平滑化できる。また、作用面3cよりも基材2側における金属細線3aの存在割合が多くなり、導電性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の光学デバイスに用いられる透明導電膜、透明導電膜付き基材、及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的な有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELという)素子は、一対の電極で挟持された有機発光層が透明な基材上に形成されたものであり、有機発光層からの光は、一方の電極を透過して基材側から取り出される。この種の有機EL素子において、基材側の電極の材料として、導電性及び透光性を有するものが用いられ、インジウムスズ酸化物(以下、ITOという)が広く用いられる。しかし、ITOを材料として用いた電極は曲げや物理的な応力に対して脆弱で壊れやすい。また、ITOを用いた電極の導電性を向上させるためには、高い蒸着温度及び/又は高いアニール温度が必要となり、有機EL素子を用いたデバイスの製造において、コスト高となる虞がある。
【0003】
そこで、ITOに代えて、複数の金属細線を含む透明導電膜を電極として用いた技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この種の透明導電膜付き基材の構成例について、図3を参照して説明する。透明導電膜付き基材101は、透光性を有する基材102と、この基材102上に形成される透明導電膜103と、を備える。透明導電膜103は、細線状の複数の金属細線103aと、バインダとしての透明樹脂層103bと、を含む。複数の金属細線103aは、透明樹脂層103bによって、基材102上に接着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−505358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の透明導電膜付き基材101においては、複数の金属細線103aが、透明樹脂層103bの基材102と対向する面と反対側の一面から突出しているので、この一面が凹凸状となり、表面平滑性が悪い。そのため、この透明導電膜付き基材101が有機EL素子に用いられた場合、例えば正孔注入層、正孔輸送層、又は有機発光層等といった機能層を透明導電膜103上に形成するとき、これら機能層を均一な厚さに成膜できないことがある。
【0006】
上述した有機EL素子は、面発光体としての利用が期待されており、均一な面発光をなすためには機能層の厚さが均一であることが望まれると共に、機能層が形成される透明導電膜103の一面を平滑化する必要がある。透明導電膜103の一面を平滑化するには、金属細線103aの量を減らすことが考えられるが、金属細線103aの量が減ると、透明導電膜103の導電性が低下する。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、導電性を低下させることなく、機能層が形成される一面を平滑化することができる透明導電膜、透明導電膜付き基材、及びそれを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の透明導電膜は、基材上に設けられ、金属細線を含む透明樹脂層を備えた透明導電膜であって、前記透明樹脂層の前記基材と対向する面と反対側の一面における前記金属細線の存在割合P1と、前記透明樹脂層の前記基材と平行で、前記一面より前記基材側に存在する断面における前記金属細線の存在割合P2とが、P1<P2の関係となるように構成されていることを特徴とする。
【0009】
この透明導電膜において、前記断面は、前記基材と平行に前記透明樹脂層を二等分する断面であり、前記金属細線の存在割合P1,P2が、P1<0.7P2の関係となることが好ましい。
【0010】
この透明導電膜において、前記金属細線の存在割合P1,P2が、0.1P2<P1の関係となることが好ましい。
【0011】
この透明導電膜において、前記金属細線は、金属ナノワイヤであることが好ましい。
【0012】
この透明導電膜において、前記金属ナノワイヤは、銀を含むことが好ましい。
【0013】
この透明導電膜が基材上に形成されて、透明導電膜付き基材として構成されることが好ましい。
【0014】
この透明導電膜付き基材は、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る透明導電膜によれば、透明樹脂層の基材と対向する面と反対側の一面における金属細線の存在割合が少なく、突出する金属細線が少なくなっているので、この面を平滑化することができる。また、この面よりも基材側における金属細線の存在割合が多いので、導電性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る透明導電膜付き基材を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子の断面図。
【図2】同透明導電膜付き基材の断面図。
【図3】従来の透明導電膜付き基材の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る透明導電膜について、図面を参照して説明する。本実施形態の透明導電膜は、透光性を有する基材上に形成され、透明導電膜付き基材として構成され、例えば有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELという)素子に用いられる。図1は、有機EL素子の断面構成を示す。有機EL素子1は、基材2と、透明導電膜3と、機能層としての有機発光層4と、導体層5と、を備え、基材2上に透明導電膜3、有機発光層4、及び導体層5が順次積層された構成となっている。基材2と透明導電膜3とが、透明導電膜付き基材6を構成する。透明導電膜3は、有機EL素子1の陽極として機能し、有機発光層4に正孔(ホール)を注入する。一方、導体層5は、有機EL素子1の陰極として機能し、有機発光層4に電子を注入する。
【0018】
有機発光層4は、透明導電膜3からの正孔の注入を促進する正孔注入層が、透明導電膜3との間に設けられることが好ましく、導体層5からの電子の注入を促進する電子注入層が導体層5との間に設けられることが好ましい。さらに、正孔を効率的に輸送する正孔輸送層や、電子を効率的に輸送する電子輸送層が設けられてもよい。
【0019】
このように構成された有機EL素子1において、透明導電膜3と導体層5との間に透明導電膜3側を+電位として電圧が印加されると、正孔が透明導電膜3から有機発光層4に注入され、電子が導体層5から有機発光層4に注入される。そして、有機発光層4に注入された正孔と電子とが、有機発光層4内で再結合することにより、有機発光層4が発光する。有機発光層4から発せられた光は、透明導電膜付き基材6(透明導電膜3及び基材2)を透過して、有機EL素子1の外へ取り出される。なお、導体層5に照射された光は、導体層5の表面で反射され、透明導電膜付き基材6を透過して、有機EL素子1の外へ取り出される。
【0020】
なお、基材2の材料は、透光性を有していれば、特に限定されない。このような基材2としては、例えばソーダガラス若しくは無アルカリガラス等のリジッドな透明ガラス板、又はポリカーボネイト若しくはエチレンテレフタレート等のフレキシブルな透明プラスチック板等が用いられる。基材2としてリジッドな透明ガラス板が用いられた場合、この基材2を用いたデバイスの強度が優れると共に、基材2上への透明導電膜3の形成を容易にすることができる。基材2としてフレキシブルな透明プラスチック板が用いられた場合、基材2を用いたデバイスを軽量化できると共に、柔軟性を有するデバイスとすることができる。
【0021】
また、有機発光層4の材料としては、例えばアントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、トリス(5−フェニル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、トリ−(p−ターフェニル−4−イル)アミン、ピラン、キナクリドン、ルブレン、若しくはこれらの誘導体、1−アリール−2,5−ジ(2−チエニル)ピロール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、スチリルアミン誘導体、又はこれらの発光性化合物からなる基を分子の一部分に有する化合物若しくは高分子等が用いられる。また、例えばイリジウム錯体、オスミウム錯体、白金錯体若しくはユーロピウム錯体等の発光材料、又はこれらを分子内に有する化合物若しくは高分子等の燐光発光材料も用いることができる。これらの材料は、必要に応じて、適宜選択して用いることができる。
【0022】
また、導体層5の材料としては、例えばアルミニウム等が用いられる。また、アルミニウムと他の材料とを組み合わせて積層構造としてもよい。このような組み合わせとしては、アルカリ金属とアルミニウムとの積層体、アルカリ金属と銀との積層体、アルカリ金属のハロゲン化物とアルミニウムとの積層体、アルカリ金属の酸化物とアルミニウムとの積層体、アルカリ土類金属若しくは希土類金属とアルミニウムとの積層体、又はこれらの金属種と他の金属との合金などが挙げられる。具体的には、ナトリウム、ナトリウムとカリウムとの合金、リチウム、若しくはマグネシウム等とアルミニウムとの積層体、マグネシウムと銀との混合物、マグネシウムとインジウムとの混合物、アルミニウムとリチウムとの合金、フッ化リチウムとアルミニウムの混合物との積層体、又はアルミニウムと酸化アルミニウム(Al)の混合物との積層体等が挙げられる。
【0023】
次に、透明導電膜付き基材6の詳細について、図2を参照して説明する。透明導電膜付き基材6は、基材2と、この基材2上に形成されている透明導電膜3と、を備える。透明導電膜3は、導電性を有する複数の金属細線3aと、バインダとしての透明樹脂層3bと、を含む。透明導電膜付き基材6が、有機EL素子1に用いられる場合、透明樹脂層3bの基材2と対向する面と反対側の一面3cは、有機発光層4が積層され、有機発光層4に正孔を注入する等の作用をする面であるので、以下の説明においては、この面を作用面3cという。複数の金属細線3aは、この作用面3cから一部が突出した状態で、透明樹脂層3bによって基材2上に接着されている。このため、基材2上では、複数の金属細線3aの三次元的な導電ネットワークが形成されている。これにより、透明導電膜3は導電性を有するようになっている。ここで、複数の金属細線3aの三次元的な導電ネットワークとは、複数の金属細線3aが三次元的に互いに接触又は近接し合った状態を示す。
【0024】
透明導電膜付き基材6が有機EL素子1に用いられた場合、透明樹脂層3bの作用面3cから突出した金属細線3aが有機発光層4と接触し、有機EL素子1に電圧が印加されると、複数の金属細線3aから有機発光層4へ正孔が注入される。
【0025】
本実施形態においては、透明樹脂層3bの作用面3cにおける複数の金属細線3aの存在割合P1と、透明樹脂層3bの基材2と平行で、作用面3cよりも基材2側に存在する断面3dにおける金属細線3aの存在割合P2とが、P1<P2となるように調整される。
【0026】
ここで、上記の金属細線3aの存在割合P1はゼロではなく、所定の量の金属細線3aが透明樹脂層3bの作用面3cにおいて存在している。また、透明樹脂層3b内において、複数の金属細線3aが透明樹脂層3bの作用面3cから基材2と対向する面にかけて連続的に存在している。これら金属細線3aが上述したような三次元的な導電ネットワークを形成することにより、透明導電膜3は高い導電性を得ることができる。
【0027】
本実施形態において、透明樹脂層3bの断面3dが、基材2と平行に透明樹脂層3bを二等分する断面であるとき、金属細線3aの存在割合P1,P2が、P1<0.7P2の関係を満たすことが好ましい。これにより、透明導電膜3の作用面3cの平滑性を向上させることができる。また、金属細線3aの存在割合P1,P2が、0.1P2<P1の関係を満たすことが好ましい。これにより、透明導電膜3の作用面3cの導電性が低下して、作用面3cにおける表面抵抗値が不安定となることを防止することができる。
【0028】
このように金属細線3aの存在割合P1,P2を調整する方法としては、例えば以下のような方法が挙げられる。すなわち、基材2上に透明導電膜3を形成する工程において、金属細線3aの濃度が異なる複数のコーティング剤組成物を用意する。そして、金属細線3aの濃度が高いコーティング剤組成物から順に基材2上にそれら複数のコーティング剤組成物を塗布する。この場合、基材2上に最後に塗布されるコーティング剤組成物は、それら複数のコーティング剤組成物のうち金属細線3aの濃度が最も低いコーティング剤組成物である。そして、金属細線3aの存在割合P2は、透明樹脂層3b内において、透明樹脂層3bの作用面3cから基材2と対向する面に向かって、漸次大きくなる。
【0029】
金属細線3aは、数nm以上数十μm以下の線幅を有する繊維状金属、金属、又は金属微粒子から成る。金属細線3aの長さは、金属細線3aの長さ方向に垂直な断面の直径よりも十分に長い。透明導電膜3内に含まれる複数の金属細線3aの量は、0.1mg/m以上1000mg/mであることが好ましく、1mg/m以上100mg/mであることがより好ましい。複数の金属細線3aのそれぞれの長さは、透明導電膜3の透光性を考慮して、300nm以下であることが好ましく、複数の金属細線3aの平均直径は、0.3nm以上200nm以下であることが好ましい。また、同様の理由により、複数の金属細線3aの平均アスペクト比は、10以上10000以下であることが好ましい。さらに、透明導電膜3の導電性を考慮して、透明樹脂層3bの厚さは、複数の金属細線3aの平均直径以上500nm以下であることが好ましい。
【0030】
金属細線3aの材料としては、例えば金属メッシュ、金属ナノワイヤ、又は金属微粒子の集合体等が用いられるが、透明導電膜3の透明性及び導電性に優れる金属ナノワイヤを用いることが好ましい。このような金属細線3aに用いられる金属として、例えば金、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、コバルト、ニッケル、又はタングステン等が挙げられる。このような金属の中でも、導電率が高い金、銀、又は銅を用いることが好ましく、導電率が最も高い銀を用いることがより好ましい。
【0031】
金属細線3aとして金属ナノワイヤを用いた場合、金属ナノワイヤの長さは、透明導電膜8の導電性を考慮して、3μm以上であることが好ましく、3μm以上500μm以下であることがより好ましく、3μm以上300μm以下であることがさらに好ましい。また、金属ナノワイヤの平均直径は、透明導電膜8の透光性及び導電性を考慮して、10nm以上300nm以下であることが好ましく、30nm以上200nm以下であることがより好ましい。金属ナノワイヤの製造方法は、特に限定されることなく、例えば液相法又は気相法等の公知の方法が用いられる。
【0032】
透明樹脂層3bの材料としては、例えばポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びその部分又は全部ケン化物、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸メチル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体等のオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の塩化ビニル系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体等のアクリロニトリル系樹脂、ポリスチレン、スチレン−メタクル酸メチル共重合体等のスチレン系樹脂、ポリアクリル酸エチル等のアクリル酸エステル重合体、ポリメタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル重合体、それらの共重合体や他の共重合成分を加えた(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、エチルセルロース、アセチルセルロース等のセルロース樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコン系樹脂等が挙げられる。
【0033】
また、例えばフェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、珪素樹脂、又はポリシロキサン樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。さらに、これらの熱硬化性樹脂に必要に応じて架橋剤、重合開始剤、硬化剤、硬化促進剤、又は溶剤を加えてもよい。
【0034】
また、電離放射線硬化型樹脂としては、好ましくは、アクリレート系の官能基を有するもの、例えば、比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アクリレート等のオリゴマー、プレポリマー、及び反応性希釈剤としてエチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等の単官能モノマー、並びに多官能モノマー、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等を比較的多量に含有するものを使用することができる。さらに、上記の電離放射線硬化型樹脂を紫外線硬化型樹脂とするには、電離放射線硬化型樹脂の中に光重合開始剤を配合することが好ましい。光重合開始剤としてはアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、α−アミロキシムエステル、又はチオキサントン類等が用いられる。また、光重合開始剤に加えて光増感剤を用いてもよい。光増感剤としては、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、又はチオキサントン等が用いられる。
【0035】
透明導電膜3の塗工法としては、特に限定されることなく、例えばスピンコート、スクリーン印刷、ディップコート、ダイコート、キャスト、スプレーコート、又はグラビアコート等の公知の塗工法が用いられる。また、透明樹脂層3bの作用面3cを平滑化させると共にこの作用面3cにおける表面抵抗値を安定させるために、例えばローラープレス等による加圧工程を行ってもよい。
【0036】
このように本実施形態の透明導電膜付き基材6によれば、透明樹脂層3bの作用面3cにおける金属細線3aの存在割合が少なく、突出する金属細線3aが少なくなっているので、この作用面3cを平滑化することができる。また、この作用面3cよりも基材2側における金属細線3aの存在割合が多いので、導電性を向上させることができる。
【0037】
次に、実施例1及び実施例2並びに比較例1乃至3について説明する。
【0038】
以下に示すように、まず金属細線として銀ナノワイヤを作製した後、実施例1及び実施例2並びに比較例1乃至3のサンプルを作製した。
【0039】
(金属細線)
金属細線として、公知論文「Materials Chemistry and Physics vol.114 p333-338 “Preparation of Ag nanorods with high yield by polyol process”」に準じて銀ナノワイヤを作製した。この場合、銀ナノワイヤの平均直径を50nmとし、銀ナノワイヤの平均長さを5μmとした。
【0040】
(実施例1)
シグマアルドリッチ社製メチルセルロース「M7140」3質量部を水200質量部に溶解して、メチルセルロース溶液を作製した。次に、金属細線として上記の銀ナノワイヤを、水を分散媒として固形分3.0質量%で分散した分散液を作製した。次に、メチルセルロース溶液にこの分散液100質量部を加えてよく混合した。それにより、第1のコーティング剤組成物を作製した。また、銀ナノワイヤを、水を分散媒として固形分0.6質量%で分散した分散液をメチルセルロース溶液に加えて、上記と同様にして、第2のコーティング剤組成物を作製した。
【0041】
続いて、寸法が縦100mm、横100mm、及び高さ0.7mmであるガラス基材BK7上に第1のコーティング剤組成物を厚さが100nmとなるようにスピンコーターにより塗布した。そして、第1のコーティング剤組成物が塗布されたガラス基材を23℃の常温で3分間乾燥させた後、120℃で5分間加熱して乾燥させた。それにより、ガラス基材上に第1の透明導電膜を形成した。次に、第1の透明導電膜上に第2のコーティング剤組成物を厚さが50nmとなるようにスピンコーターにより塗布して、上記と同様にして、第1の透明導電膜上に第2の透明導電膜を形成した。こうして、実施例1のサンプルを作製した。
【0042】
(実施例2)
銀ナノワイヤを、水を分散媒として固形分1.8質量%で分散した分散液をメチルセルロース溶液に加えて、上記実施例1と同様にして、第3のコーティング剤組成物を作製した。そして、第2のコーティング剤組成物の代わりに、第3のコーティング剤組成物を用いて、第1の透明導電膜上に第3の透明導電膜を形成して、上記実施例1と同様にして、実施例2のサンプルを作製した。
【0043】
(比較例1)
第1のコーティング剤組成物のみを厚さが150nmとなるように基材上にスピンコーターにより塗布した点を除いて、上記実施例1と同様にして、比較例1のサンプルを作製した。
【0044】
(比較例2)
銀ナノワイヤを、水を分散媒として固形分2.1質量%で分散した分散液をメチルセルロース溶液に加えて、上記実施例1と同様にして、第4のコーティング剤組成物を作製した。そして、第2のコーティング剤組成物の代わりに、第4のコーティング剤組成物を用いて、第1の透明導電膜上に第4の透明導電膜を形成して、上記実施例1と同様にして、比較例2のサンプルを作製した。
【0045】
(比較例3)
銀ナノワイヤを、水を分散媒として固形分0.3質量%で分散した分散液をメチルセルロース溶液に加えて、上記実施例1と同様にして、第5のコーティング剤組成物を作製した。そして、第2のコーティング剤組成物の代わりに、第5のコーティング剤組成物を用いて、第1の透明導電膜上に第5の透明導電膜を形成して、上記実施例1と同様にして、比較例3のサンプルを作製した。
【0046】
上記実施例1及び実施例2並びに比較例1乃至3のサンプルについて、表面抵抗値、表面粗さRa、及びリーク電流の測定を行った。以下、これらの測定について順に説明する。
【0047】
(表面抵抗値の測定)
三菱化学株式会社製ロレスタEP MCP−T360を用いて各サンプルの透明導電膜の表面抵抗値を測定した。
【0048】
(表面粗さRaの測定)
株式会社島津製作所製ナノサーチ顕微鏡SFT−3500を用いて、測定視野を縦30μm及び横30μmとして、各サンプルの透明導電膜の表面粗さRaを測定した。
【0049】
(リーク電流の測定)
作製した各サンプルの透明導電膜上に株式会社同人化学研究所製N,N−ジフェニル−N,N−ビス3−メチル−フェニル−1,1−ジフェニル−4,4ジアミンを厚さが50nmとなるように真空蒸着した。これにより、各サンプルの透明導電膜上に正孔輸送層を形成した。次に、この正孔輸送層上に株式会社同人化学研究所製アルミキノリノール錯体(トリス(8−ヒドロキノリン)アルミニウム)を厚さが50nmとなるように真空蒸着した。これにより、正孔輸送層上に有機発光層を形成した。次に、この有機発光層上にアルミニウムを厚さが150nmとなるように真空蒸着した。これにより、有機発光層上にアルミニウムから成る導体層を形成した。こうして、各サンプルを備えた有機EL素子を作製した。続いて、各有機EL素子に、5Vの逆電圧を印加して、各サンプルのリーク電流を測定した。
【0050】
上記の測定の結果を表1に示す。なお、表1中でリーク電流の測定結果として示された「○」はリーク電流値が10−7Aよりも小さかったことを示し、「×」はリーク電流値が10−5Aよりも大きかったことを示している。また、P1/P2は、ガラス基材と平行に透明導電膜を二等分する断面における銀ナノワイヤの存在割合P2に対する、透明導電膜のガラス基材と対向する面と反対側の一面における銀ナノワイヤの存在割合P1の比率を示している。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、透明導電膜内に均一に銀ナノワイヤが含まれる比較例1及び透明導電膜内にほぼ均一に銀ナノワイヤが含まれる比較例2においては、表面粗さRaが大きく、リーク電流値が10−5Aよりも大きかった。透明導電膜の一面における銀ナノワイヤの量が、透明導電膜の断面における銀ナノワイヤの量に比べて極端に少ない比較例3においては、表面抵抗値が不安定となり、有機EL素子は電気的に絶縁してしまった。これに対して、実施例1及び実施例2は、表面抵抗値が維持されたまま、表面粗さRaが減少し、リーク電流値が10−7Aよりも小さかった。この結果は、透明導電膜の断面が、ガラス基材と平行に透明導電膜を二等分する断面に相当する場合、銀ナノワイヤの存在割合P1,P2が、0.1P2<P1<0.7P2の関係を満たすことが好ましいということを示している。
【0053】
本発明は上記実施形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変更が
可能である。例えば、透明導電膜3は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、又は太陽有機電池等の透明電極として用いることができる。また、金属細線3aの材料として、カーボンナノチューブを用いてもよく、透明樹脂層3bの材料として、導電性を有する高分子を用いてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 有機エレクトロルミネッセンス素子
2 基材
3 透明導電膜
3a 金属細線(金属ナノワイヤ)
3b 透明樹脂層
3c 作用面(透明樹脂層の基材と対向する面と反対側の一面)
3d 基材と平行に透明樹脂層を二等分する断面
6 透明導電膜付き基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に設けられ、金属細線を含む透明樹脂層を備えた透明導電膜であって、
前記透明樹脂層の前記基材と対向する面と反対側の一面における前記金属細線の存在割合P1と、前記透明樹脂層の前記基材と平行で、前記一面より前記基材側に存在する断面における前記金属細線の存在割合P2とが、P1<P2の関係となるように構成されていることを特徴とする透明導電膜。
【請求項2】
前記断面は、前記基材と平行に前記透明樹脂層を二等分する断面であり、
前記金属細線の存在割合P1,P2が、P1<0.7P2の関係となることを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜。
【請求項3】
前記金属細線の存在割合P1,P2が、0.1P2<P1の関係となることを特徴とする請求項2に記載の透明導電膜。
【請求項4】
前記金属細線は、金属ナノワイヤであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の透明導電膜。
【請求項5】
前記金属ナノワイヤは、銀を含むことを特徴とする請求項4に記載の透明導電膜。
【請求項6】
基材上に請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の透明導電膜が形成されたことを特徴とする透明導電膜付き基材。
【請求項7】
請求項6に記載の透明導電膜付き基材を用いたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−185919(P2012−185919A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46257(P2011−46257)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】