説明

透明導電膜及びその透明導電膜を用いた有機EL素子

【課題】発光層に輸送される正孔と電子とのバランスを調整することで発光効率を向上させることが可能な透明導電膜及びその透明導電膜を用いた有機EL素子を提供する。
【解決手段】有機EL素子1は、少なくとも発光層4bを有する有機層4を陽極3と陰極5との間に形成してなる。陽極3は、透光性材料からなり有機層4と接するように形成される非混合層(非ドープ層)3bとこの非混合層3bと接するように形成され前記透光性材料に前記透光性材料よりも原子価が大きいドーパントを混合してなる混合層(ドープ層)3aとを備える透明導電膜からなる。有機層4は、非混合層3bと発光層4bとの間に形成され陽極3から注入される正孔を発光層4bに輸送する正孔輸送層4aを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜及びその透明導電膜を用いた、少なくとも発光層を有する有機層を一対の電極で挟持してなる有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料によって形成される自発光素子である有機EL素子は、例えば、ITO(酸化インジウム錫)等からなる透光性の陽極と、少なくとも発光層を有する有機層と、アルミニウム(Al)等からなる非透光性の陰極と、を順次積層して前記有機EL素子を形成するものが知られている。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
かかる有機EL素子は、前記陽極から正孔を注入し、また、前記陰極から電子を注入して正孔及び電子が前記発光層にて再結合することによって前記発光層を構成する有機化合物が励起状態となり、この励起状態から基底状態に遷移する際に光を発するものである。
【0004】
また、前記発光層に正孔あるいは電子を効率よく輸送するための構造としては、特許文献1に開示される陽極と発光層との間に正孔輸送層を形成する構造や、特許文献2に開示されるような陰極と発光層との間に電子輸送層を形成する構造が知られている。
【特許文献1】特開昭59−194393号公報
【特許文献2】特開平2−250952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる有機EL素子の発光は、前記発光層の励起状態から基底状態への遷移に基づくものであるため、前記発光層における発光効率を向上させるためには、前記発光層に輸送される正孔と電子とのバランスを調整することが望まれる(正孔:電子が1:1となることが最も望ましい)。ここで、前記陽極から前記有機層への正孔注入効率は、前記陽極と前記陽極に接する層との間のエネルギー差によって生じる障壁に依存し、また、前記陰極から前記有機層への電子注入効率は、前記陰極と前記陰極に接する層との間のエネルギー差によって生じる障壁に依存する。例えば、前記有機層として正孔輸送層,発光層及び電子輸送層の少なくとも3層を備える有機EL素子においては、前記陽極からの正孔注入効率は、前記陽極と前記正孔輸送層との間のエネルギー差によって生じる障壁の大きさに依存し、また、前記陰極からの電子注入効率は、前記陰極と前記電子輸送層との間のエネルギー差によって生じる障壁に依存する。正孔あるいは電子の注入効率を向上させるためには上述の障壁を小さくすることが必要となる。しかしながら、上述の障壁はそれぞれ前記陽極及び前記有機層を構成する各材料あるいは前記陰極と前記有機層を構成する各材料によって決定されるものであるため、正孔及び電子のバランスを取ることが困難であるという問題点があった。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑み、発光層に輸送される正孔と電子とのバランスを調整することで発光効率を向上させることが可能な透明導電膜及びその透明導電膜を用いた有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の透明導電膜は、前記課題を解決するために、透光性材料に前記透光性材料よりも原子価の価数が大きいドーパントを混合してなる混合層と、前記透光性材料からなる非混合層と、を積層形成してなることを特徴とする。
【0008】
また、前記非混合層は、膜厚が2nm以上20nm以下となるように形成されてなることを特徴とする。
【0009】
また、前記透光性材料は酸化インジウムであり、前記ドーパントは錫であることを特徴とする。
【0010】
本発明の有機EL素子は、前記課題を解決するために、少なくとも発光層を有する有機層を陽極と陰極との間に形成してなる有機EL素子であって、前記陽極は、透光性材料からなり前記有機層と接するように形成される非混合層とこの非混合層と接するように形成され前記透光性材料に前記透光性材料よりも原子価が大きいドーパントを混合してなる混合層とを備える透明導電膜からなることを特徴とする。
【0011】
また、前記有機層は、前記非混合層と前記発光層との間に形成され前記陽極から注入される正孔を前記発光層に輸送する前記正孔輸送層を有してなることを特徴とする。
【0012】
また、前記非混合層は、膜厚が2nm以上20nm以下となるように形成されてなることを特徴とする。
【0013】
前記透光性材料は酸化インジウムであり、前記ドーパントは錫であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、透明導電膜及びその透明導電膜を用いた少なくとも発光層を有する有機層を一対の電極で挟持してなる有機EL素子に関するものであり、発光層に輸送される正孔と電子とのバランスを調整することで発光効率を向上させることが可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を適用した実施の形態である有機EL素子を添付の図面に基いて説明する。
【0016】
図1において、有機EL素子1は、透光性の支持基板2上に形成されるものである。有機EL素子1は、透光性の陽極3と、有機層4と、陰極5と、から主に構成されている。また、有機EL素子1は、陽極3側が正、陰極5側が負となるように定電流源Aと接続されており、定電流源Aから直流電流を印加することによって陽極3から有機層4に正孔を注入し、また陰極5から有機層4に電子を注入して有機層4の後述する発光層を発光させ、この光を支持基板2側から取り出して所定形状の表示を行うものである。
【0017】
支持基板2は、長方形形状からなる透光性のガラス基板である。
【0018】
陽極3は、ドープ層(混合層)3aと非ドープ層(非混合層)3bとを積層形成してなる透明導電膜からなるものである。混合層3aは、支持基板2上に例えば透光性材料である酸化インジウム(In↓2O↓3)にドーパントとして錫(Sn)をドープ(混合)してなる導電性のITOからなり、蒸着法やスパッタリング法等の手段によって膜厚50〜200nmの層状に形成される。なお、酸化インジウムの原子価は3価であり、錫の原子価は4価である。ドープ層3aは、前記透光性材料に前記ドーパントをドープすることによって、前記透光性材料のサイトに前記ドーパントが置換されることでキャリア電子の密度が増大して高い導電性を得ることができるものである。非ドープ層3bは、ドープ層3b上に形成され混合層3bを構成する前記透光性材料と同一材料からなるものであり、膜厚2〜20nm(さらに望ましくは2〜10nm)の層状に形成される。また、非ドープ層3bは、ドープ層3aの形成工程において前記ドーパントのドープを停止し、前記透光性材料をドープ層3aに積層することで特別な形成工程を要することなく容易に形成することができる。非ドープ層3bは、前記ドーパントを含有しないことからドープ層3aよりも導電性が低く、ドープ層3aよりも抵抗値が高くなっている。なお、本発明の透光性材料としては、酸化亜鉛(ZnO)や酸化錫(SnO↓2)等を用いても良い。透光性材料として原子価が2価の酸化亜鉛を用いる場合にはドーパントして原子価が3価のアルミニウム(Al)をドープしてドープ層3aが形成され、原子価が4価の酸化錫を用いる場合はドーパントとして原子価が5価のアンチモン(Sb)をドープしてドープ層3aが形成される。また、陽極3は、ドープ層3aが定電流源Aと電気的に接続され、正孔をドープ層3aからトンネル効果によって非ドープ層3bを通過して有機層4に注入する。
【0019】
有機層4は、陽極3の非ドープ層3b上に形成されるものであり、正孔輸送層4aと発光層4bとを蒸着法等の手段によって順次積層形成してなるものである。
【0020】
正孔輸送層4aは、陽極3の非ドープ層3bと接するものであり、陽極3から正孔を取り込むとともに正孔を発光層4bへ伝達する機能を有し、例えばジアミン誘導体であるトリフェニルジアミン(TPD)等の正孔輸送材料を蒸着法等の手段によって膜厚10〜60nmの層状に形成してなる。
【0021】
発光層4bは、正孔及び電子の輸送が可能であり、正孔及び電子が輸送されて再結合することで緑色の発光を示す機能を有するとともに、電子移動度が正孔移動度よりも高い電子輸送性の特性を有する例えばキレート系化合物であるアルミキノリノール錯体(Alq3)等の有機化合物を蒸着法等の手段によって例えば膜厚40nmの層状に形成してなる。
【0022】
陰極5は、アルミニウム(Al)やマグネシウム銀(Mg:Ag)等の導電性材料を蒸着法等の手段によって膜厚50〜200nmの層状に形成してなるものである。陰極5は、定電流源Aと電気的に接続され、発光層4bに電子を注入する。
【0023】
本実施の形態である有機EL素子1は、少なくとも発光層4bを有する有機層4を陽極2と陰極5との間に形成してなり、陽極3が、前記透光性材料からなり有機層4と接するように形成される非ドープ層3bとこの非ドープ層3bと接するように形成され前記透光性材料に前記透光性材料よりも原子価が大きい前記ドーパントを混合してなるドープ層3aとを有する透明導電膜からなるものである。かかる有機EL素子1は、非ドープ層3bの膜厚を調整することによって、有機層4の発光層4bに輸送される正孔と電子とのバランスを調整することができ、発光層4bにおける発光効率を向上させることが可能となる。前述のように、有機EL素子1において、陽極3から有機層4への正孔注入効率は、陽極3の仕事関数と有機層4のうち陽極3と接する層(本実施の形態では正孔輸送層4a)の価電子帯上端との間のエネルギー差によって生じる障壁の大きさに依存する。ここで、非ドープ層3bは前記ドーパントを含有しないことからそのフェルミ準位はドープ層3aのフェルミ準位よりも低い値であるため、ドープ層3aにバイアス方向の電圧を印加するとドープ層3aの伝導帯下端及び価電子帯上端が見かけ上引き下げられることとなり、陽極3と正孔輸送層4aとの間の正孔注入に対する障壁が小さくなり、陽極3からの正孔注入効率を向上させることができる。また、ドープ層3aからの正孔はトンネル効果によって非ドープ層3bを通過して有機層4に注入されるため、非ドープ層3bの膜厚を薄くすると正孔注入効率は向上し、非ドープ層3bの膜厚を厚くすると正孔が非ドープ層3bを通過しにくくなることから正孔注入効率は低減する。有機層4の発光層4bに輸送される正孔と電子とのバランスを取るためには、陽極3からの正孔注入効率と陰極5からの電子注入効率とのバランスを取ることが必要であるため、非ドープ層3bの膜厚は陰極5からの電子注入効率に応じて決定される。すなわち、陰極5からの電子注入効率が高く発光層4bにおいて電子に対して正孔が不足する場合は、非ドープ層3bの膜厚を薄くして陽極3からの正孔注入効率を向上させることで発光層4bに輸送される正孔と電子とのバランスを取ることができ、反対に、陰極5からの電子注入効率が低く発光層4bにおいて正孔に対して電子が不足する場合は、非ドープ層3bの膜厚を厚くして陽極3からの正孔注入効率を低減させることで発光層4bに輸送される正孔と電子とのバランスを取ることができる。なお、陰極5からの電子注入効率は、前述のように、陰極5の仕事関数と有機層4のうち陰極5と接する層(本実施の形態においては発光層4b)の伝導帯下端との間のエネルギー差によって生じる障壁に依存する。
【0024】
図2は、本実施の形態の有機EL素子1における非ドープ層3bの膜厚と、有機EL素子1の発光輝度Lと陽極が非ドープ層3bを有さない(非ドープ層3bが0nm)従来の有機EL素子の発光輝度L0との比(L/L0)と、の関係を示す実験結果である。なお、従来の有機EL素子及び有機EL素子1における電流値及び発光面積は同一なものとする。図2に示すように、有機EL素子1は、非ドープ層3bが10nm以下にあっては膜厚を厚くするとともに従来の有機EL素子との発光輝度比が向上し、非ドープ層3bが10nmである場合に従来の有機EL素子との発光輝度比が最も高い、すなわち最も発光層4bにおける発光効率が高くなっている。したがって、陽極3としてドープ層3aと非ドープ層3bとの積層構造からなる透明導電膜を用い、非ドープ層3bの膜厚を調整することによって、本実施の形態である有機EL素子1が従来の有機EL素子よりも優れた発光効率を得ることができることは図2からも明らかである。なお、非ドープ層3bの膜厚が10nmを超えると膜厚が厚くなるのに応じて正孔と電子とのバランスが悪くなり、従来の有機EL素子との発光輝度比も低下しているが、上述のように、非ドープ層3bの最適な膜厚は有機層4及び陰極5を構成する材料の組み合わせによって決定される電子の注入効率によって異なる。
【0025】
なお、本実施の形態である有機EL素子1は、透光性の陽極3を備え、発光層4bの発光を支持基板2側から取り出し、所定の表示を行うものであったが、本発明は、有機層上の陰極を透光性の導電材料で形成し、この陰極側から光を取り出して所定の表示を行ういわゆるトップエミッション型の有機EL素子にも適用可能である。
【0026】
また、本実施の形態の有機EL素子1は、有機層4が正孔輸送層4aと発光層4bとを有するものであったが、本発明の有機EL素子においては、有機層は、正孔注入層,電子輸送層,電子注入層等を有するものであってもよく、また、発光層を複数有するものであってもよい。また、発光層4bは単一の前記有機化合物からなるものであったが、本発明の有機EL素子においては、発光層は、ホスト材料にゲスト材料として蛍光材料をドープしてなるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明が適用された実施の形態である有機EL素子を示す図。
【図2】同上の有機EL素子の非混合層の膜厚と発光輝度との関係を示す図。
【符号の説明】
【0028】
1 有機EL素子
2 支持基板
3 陽極(透明導電膜)
3a ドープ層(混合層)
3b 非ドープ層(非混合層)
4 有機層
4a 正孔輸送層
4b 発光層
5 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性材料に前記透光性材料よりも原子価が大きいドーパントを混合してなる混合層と、前記透光性材料からなる非混合層と、を積層形成してなることを特徴とする透明導電膜。
【請求項2】
前記非混合層は、膜厚が2nm以上20nm以下となるように形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜。
【請求項3】
前記透光性材料は酸化インジウムであり、前記ドーパントは錫であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜。
【請求項4】
少なくとも発光層を有する有機層を陽極と陰極との間に形成してなる有機EL素子であって、
前記陽極は、透光性材料からなり前記有機層と接するように形成される非混合層とこの非混合層と接するように形成され前記透光性材料に前記透光性材料よりも原子価が大きいドーパントを混合してなる混合層とを備える透明導電膜からなることを特徴とする有機EL素子。
【請求項5】
前記有機層は、前記非混合層と前記発光層との間に形成され前記陽極から注入される正孔を前記発光層に輸送する前記正孔輸送層を有してなることを特徴とする請求項4に記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記非混合層は、膜厚が2nm以上20nm以下となるように形成されてなることを特徴とする請求項4に記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記透光性材料は酸化インジウムであり、前記ドーパントは錫であることを特徴とする請求項4に記載の有機EL素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate