説明

透明性に優れるアクリル系樹脂組成物およびその製造方法

【課題】 透明性に優れると共に剛性、硬度、耐熱性等の特性にも優れるアクリル系樹脂組成物、その製造方法及び当該アクリル系樹脂組成物からなる成形体の提供。
【解決手段】 アクリル系樹脂100部に対し平均粒径50nm以下のコロイダルシリカを1〜50部の割合で含有し、溶融賦形後の可視光線領域の全光線透過率が85%以上及びヘイズが1.5%以下のアクリル系樹脂組成物、当該アクリル系樹脂組成物を、アクリル系樹脂との溶解度パラメータの差の絶対値が1.2未満である表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを系の誘電率を3.9以上になるようにして混合・添加して製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズのコロイダルシリカを含有する、透明性に優れ、更に剛性、硬度、耐熱性などの特性にも優れるアクリル系樹脂組成物およびその製造方法並びに当該アクリル系樹脂組成物よりなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透明な有機重合体材料が、その軽量性を活かして、ガラスの代わりに電子や電気機器分野、光学機器分野におけるレンズ材、建材分野のカーポート屋根材などの種々の分野で汎く用いられており、透明の有機重合体材料の代表の一つとしてアクリル系樹脂を挙げることができる。しかしながら、アクリル系樹脂をはじめとして、透明な有機重合体材料は、剛性、硬度、耐熱性などの低いものが多く、前記した特性を改善する目的で、無機物との複合化が試みられている。
【0003】
そのような従来技術としては、(メタ)アクリル酸エステルなどのラジカル重合性ビニル化合物を、コロイド状シリカ分散系中で、シラン化合物の加水分解・縮合物よりなる重合体の存在下で重合させて、コロイド状シリカを含有する透明な複合体組成物を製造する方法が知られている(特許文献1を参照)。しかしながら、この方法は、原料費が高く、工程も複雑で工業的に有効な方法であるとは言い難い。しかも、この方法で得られる複合体組成物は、樹脂とシリカ系網目との相互進入網目構造を有する複合体であるため、溶融成形できず、キャスト法などによって重合と成形を同時に行う必要がある。
【0004】
また、アルキル(メタ)アクリレートおよびアルコシアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種と、架橋点モノマーを乳化重合または懸濁重合させ、所定の重合度に達した時点にシランカップリン剤で処理したシラン水分散液を添加してシリカ含有アクリル系重合体組成物を製造する方法が知られている(特許文献2を参照)。しかしながら、この方法では、シリカの分散および後架橋のために、架橋点モノマーを用いることが必須であり、更にシリカ粒子を水中に分散させてシランカップリング剤で予め処理する必要があるため、工程が複雑である。しかも、アクリル系重合体組成物中ではシリカ粒子はサブミクロンオーダー以上の粒子サイズで分散しており、それに伴って透明性が高いとは言えない。
【0005】
さらに、透明性を保持しながら弾性率の向上と熱膨張係数の低減を図ることを目的として、コロイダルシリカなどの水性型の無機微粒子を乾燥して粉末とし、その乾燥粉末を、親水性モノマーを含む溶液に分散させた後、親水性モノマーと共重合可能な他のモノマーを添加して共重合させて無機微粒子を含有する複合樹脂組成物を製造する方法が提案されている(特許文献3を参照)。しかしながら、この方法では、水性型の無機微粒子を乾燥して乾燥粉末にした後に、再び親水性モノマーを含む溶液に分散させる必要があるため、工程が煩雑であり、工業的製法としては不向きである。
【0006】
また、無機粒子充填剤と合成樹脂の密着性を向上させる目的で、有機溶媒中に単分散した負電荷または正電荷を有する無機酸化物コロイド粒子の表面に該コロイド粒子と異なる電荷を有するラジカル重合開始剤を導入した後、重合性モノマーを添加し重合させて、鎖状高分子化合物で修飾された無機酸化物コロイド粒子をつくることが知られている(特許文献4を参照)。しかしながら、この方法は、原料費が高く、工程が複雑であるため、実用性に乏しい。
【0007】
【特許文献1】特開平5−209027号公報
【特許文献2】特開平6−322036号公報
【特許文献3】特開2004−175915号公報
【特許文献4】特開平5−287213号公報
【非特許文献1】「SP値基礎・応用と計算方法」、情報機構発行、2005年3月、p.71−78
【非特許文献2】「化学便覧基礎編改訂4版」 丸善株式会社発行 社団法人日本化学会編集、1993年9月30日、p.II−498−II−501
【非特許文献3】「濃厚系対応粒径アナライザー取扱説明書」、大塚電子株式会社発行、2001年、p.31−32
【非特許文献4】「Technical News プレンアクト」、味の素ファインテクノ株式会社発行、1997年、p.4−5
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、無機固体微粒子を含有していることによって剛性、硬度、耐熱性に優れ、しかも無機微粒子を含有しているにも拘わらず可視光線の透過率が高く且つヘイズが小さくて透明性に優れるアクリル系樹脂組成物を提供することである。
そして、本発明の目的は、前記した優れた特性を備える無機固体微粒子含有アクリル系樹脂組成物を、簡単に且つ効率的に製造することのできる実用性に優れる製造方法を提供することである。
さらに、本発明の目的は、前記した優れた特性を備える無機固体微粒子含有アクリル系樹脂組成物よりなる成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記した目的を達成するために鋭意検討を重ねてきた。その結果、特定の表面改質剤で表面を改質したナノサイズのコロイダルシリカを、特定の条件下に、アクリル系樹脂の重合前、重合中および/または重合後に添加すると、ナノサイズのコロイダルシリカが凝集することなく一次粒子の状態でアクリル系樹脂中に均一に分散していて、可視光線の透過率が高く且つヘイズ(曇価)が低くて透明性に優れ、しかも剛性、硬度、耐熱性などの物性に優れるアクリル系樹脂組成物が得られること、およびそのアクリル系樹脂組成物は各種成形体の製造に有効に用いることを見出して本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) アクリル系樹脂100質量部に対して平均粒径50nm以下のコロイダルシリカを1〜50質量部の割合で含有し、溶融成形後の可視光線領域の全光線透過率が85%以上およびヘイズが1.5%以下であることを特徴とするアクリル系樹脂組成物である。
【0011】
そして、本発明は、
(2) コロイダルシリカが、アクリル系樹脂との溶解度パラメータの差の絶対値が1.2未満である表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカである前記(1)のアクリル系樹脂組成物;および、
(3) 表面改質剤がチタネート系表面改質剤である前記(2)のアクリル系樹脂組成物;
である。
【0012】
さらに、本発明は、
(4) (メタ)アクリル酸エステルを50質量%以上の割合で含有するラジカル重合性単量体の重合前、重合中および/または重合後に、平均粒径50nm以下のコロイダルシリカを、アクリル系樹脂100質量部に対するコロイダルシリカの含有量が1〜50質量部になる量で添加してコロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物を製造する方法であって、前記コロイダルシリカとして、アクリル系樹脂との溶解度パラメータの差の絶対値が1.2未満の表面改質剤によって表面改質したコロイダルシリカを用いると共に、当該表面改質したコロイダルシリカの添加後の系の誘電率が3.9以上になるようにして、表面改質したコロイダルシリカを添加・混合することを特徴とするアクリル系樹脂組成物の製造方法である。
【0013】
そして、本発明は、
(5) 前記表面改質剤が、チタネート系表面改質剤である前記(4)のアクリル系樹脂組成物の製造方法;および、
(6) ラジカル重合性単量体のラジカル重合を有機溶媒の存在下で行い、表面改質したコロイダルシリカをラジカル重合性単量体の重合前および/または重合中に重合系に添加する前記(4)または(5)のアクリル系樹脂組成物の製造方法;
である。
さらに、本発明は、
(7) 前記(1)〜(3)のいずれかのアクリル系樹脂組成物よりなる成形体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアクリル系樹脂組成物は、可視光線の透過率が高く且つヘイズが小さくて透明性に優れ、しかも剛性、硬度、耐熱性などの特性にも優れている。
そのため、本発明のアクリル系樹脂組成物は、前記した優れた特性を活かして、高い透明性、剛性、硬度、耐熱性などが要求される種々の用途、例えば、電子や電気機器分野、光学機器分野におけるレンズ材、建材分野のカーポート屋根材、表層材などの種々の用途に有効に使用することができる。特に、本発明のアクリル系樹脂組成物は、その極めて高い可視光線透過率、低いヘイズ、高い力学物性、表面硬度などを活かして、ガラス代替材の各種物品の表層材、例えば、自動車のグレージング材などとして好適である。
また、本発明のアクリル系樹脂組成物を成形して得られる本発明の成形体は、表面研磨処理、帯電防止処理、ハードコート処理、その他の後処理を行うことが可能であり、必要に応じてそれらの処理を行うことで、上記した用途やその他の用途に有効に使用することができる。
本発明の製造方法による場合は、前記した優れた特性を兼ね備える本発明のアクリル系樹脂組成物を、簡単な操作で効率良く、円滑に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のアクリル系樹脂組成物のベースをなすアクリル系樹脂(以下「本発明で用いるアクリル系樹脂」ということがある)は、(メタ)アクリル酸エステル、すなわちメタクリル酸エステルおよび/またはアクリル酸エステルに由来する構造単位から主としてなる熱可塑性樹脂である。
本発明で用いるアクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有割合が50質量%以上、更には60質量%以上、特に80質量%以上のアクリル系樹脂であることが、アクリル系樹脂組成物の透明性、耐候性などの点から好ましい。
【0016】
本発明で用いるアクリル系樹脂は、透明なアクリル系樹脂を形成する(メタ)アクリル酸エステルのいずれから形成されていてもよく、アクリル系樹脂を形成する(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸と炭素数1〜12の直鎖状または分岐状の脂肪族アルコールとのエステル;シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸と炭素数5〜7の環状アルコールとのエステル;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸と芳香族アルコールとのエステルなどを挙げることができる。アクリル系樹脂は、前記した(メタ)アクリル酸エステルの1種または2種以上から形成されていることができる。
【0017】
そのうちでも、本発明で用いるアクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有割合が、アクリル系樹脂の質量に基づいて、50質量%以上、更には60質量%以上、特に80質量%以上のアクリル系樹脂であることが、透明性、耐候性などの点から好ましい。
【0018】
本発明で用いるアクリル系樹脂は、必要に応じて(メタ)アクリル酸エステル以外の他のラジカル重合性単量体に由来する構造単位を有していてもよい。
アクリル系樹脂が有することのできる他のラジカル重合性単量体に由来する構造単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン類;クロトン酸、フタル酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和酸類の塩または炭素数1〜18のモノアルキルエステル類もしくはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその酸塩などのアクリルアミド類;メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその酸塩などのメタクリルアミド類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドなどのN−ビニルアミド類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;炭素数1〜18のアルキル鎖を有するアルキルビニルエ−テル、ヒドロキシアルキルビニルエ−テル、アルコキシアルキルビニルエ−テルなどのビニルエ−テル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;トリメトキシビニルシランなどのビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコ−ル、ジメチルアリルアルコ−ルなどのアリル化合物などに由来する構造単位を挙げることができる。
アクリル系樹脂は、前記した他のラジカル重合性単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0019】
アクリル系樹脂における他のラジカル重合性単量体に由来する構造単位の含有割合は、アクリル系樹脂の質量に基づいて、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下の割合であることが更に好ましい。
アクリル系樹脂における他のラジカル重合性単量体に由来する構造単位の割合が多くなり過ぎると、透明性の低下、耐候性の低下などを生じ易くなる。
【0020】
アクリル系樹脂は、場合によっては、ラジカル重合性の不飽和結合を2個以上有する多官能ラジカル重合性単量体に由来する構造単位を少量(好ましくはアクリル系樹脂の質量に基づいて20質量%以下、より好ましく10質量%以下)であれば有していてもよい。
多官能ラジカル重合性単量体の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのジオール類のジ(メタ)アクリル酸エステル、グリセリン、ペンタエリストールなどの3官能以上のポリオールのポリ(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。
アクリル系樹脂における2官能以上の多官能性ラジカル重合性単量体に由来する構造単位の含有割合は、アクリル系樹脂の質量に基づいて20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
多官能性ラジカル重合性単量体に由来する単位の」の含有割合が多くなると、アクリル系樹脂の架橋度が高くなって、熱可塑性が失われる。
【0021】
本発明で用いるアクリル系樹脂の分子量は特に制限されず、アクリル系樹脂組成物の用途などに応じて適宜選択することができる。
そのうちでも、アクリル系樹脂としては、その数平均分子量が1,000〜1,000,000、更には10,000〜500,000、特に20,000〜200,000のものが、アクリル系樹脂組成物から得られる成形体の強度、耐熱性、成形性などが優れたものとなる点から好ましく用いられる。アクリル系樹脂の分子量が低すぎると、アクリル系樹脂組成物から得られる成形体の強度(特に低温での衝撃強度)に劣るようになり、一方分子量が高すぎると、アクリル系樹脂組成物の溶融粘度が高くなり過ぎて、溶融成形時の流動性が悪くなり、成形性が劣るようになり、成形の際に欠肉などのある不良品が多発し易くなる。
ここで、本明細書でいうアクリル系樹脂の前記数平均分子量は、アクリル系樹脂を溶解可能な溶媒(通常はテトラヒドロフランなど)に溶解した後、ゲルパーミションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、基準物質としてポリスチレンを使用して換算した値ある。
【0022】
本発明で用いるアクリル系樹脂の製法は特に制限されず、従来から知られている方法で製造することができ、また市販されているアクリル系樹脂をそのまま用いても何ら構わない。後記するように、本発明では、アクリル系樹脂を製造するための重合反応を、コロイダルシリカを添加した系で行って、コロイダルシリカを含有する本発明のアクリル系樹脂組成物をそのまま直接製造する方法が好ましく採用される。
【0023】
本発明のアクリル系樹脂組成物は、上記したアクリル系樹脂100質量部に対して、平均粒径50nm以下のコロイダルシリカを1〜50質量部の割合で含有し、コロイダルシリカは、アクリル系樹脂中に、粒子同士の凝集による塊化を殆ど生ずることなく、その大半が一次粒子状で均一に分散している。
本発明のアクリル系樹脂組成物は、透明性、力学的特性、溶融成形性などの点から、アクリル系樹脂100質量部に対して、コロイダルシリカを1〜25質量部の割合で含有することが好ましく、3〜15質量部の割合で含有することがより好ましく、5〜10質量部の割合で含有することが更に好ましい。
コロイダルシリカの含有量が少なすぎると、アクリル系樹脂組成物およびそれからなる成形体の剛性、硬度、耐熱性などが低下し、一方多すぎると、透明性、溶融成形性などが低下する。
【0024】
本発明では、コロイダルシリカとして、平均粒径が50nm以下のものを用いることが必要であり、平均粒径が20nm以下のものを用いることが好ましくい。
コロイダルシリカの平均粒径が50nmよりも大きいと、アクリル系樹脂組成物における可視光線の透過率の低下、ヘイズの上昇などが生じ易くなる。
本明細書でいう「コロイダルシリカの平均粒径」は、有機溶媒中に分散させたコロイダルシリカをレーザー粒径解析装置を用いて動的散乱法により粒径を測定して得られる粒度分布曲線をキュムラント法により解析して得られる平均粒径をいい、その詳細は以下の実施例に記載するとおりである。
【0025】
本発明では、平均粒径が50nm以下のコロイダルシリカであればいずれも使用できる。平均粒径50nm以下のコロイダルシリカは、通常、有機溶媒中に分散させた分散液の形で種々のものが市販されており、本発明ではそのような市販のコロイダルシリカ分散液を用いることができる。
【0026】
本発明では、アクリル系樹脂中にコロイダルシリカを粒子同士の凝集を生ずることなく一次粒子状で均一に分散させて、透明性、剛性、硬度、耐熱性などの特性に優れるアクリル系樹脂組成物を得るために、コロイダルシリカとして、アクリル系樹脂と溶解度パラメータの値が近い表面改質剤で処理した表面を改質したコロイダルシリカを使用することが好ましい。
特に、アクリル系樹脂の溶解度パラメータと、表面改質剤の溶解度パラメータとの差の絶対値が1.2未満になるような表面改質剤を用いて表面改質したコロイダルシリカを用いることがより好ましい。溶解度パラメータの差の絶対値が1.2未満である表面改質剤で表面を改質処理したコロイダルシリカを用いることによって、アクリル系樹脂中にコロイダルシリカ粒子が粒子同士の凝集を生ずることなく一次粒子状で良好に分散し、その良好な分散状態がアクリル系樹脂組成物の溶融混練後や溶融成形後も維持されて、可視光線領域の全光線透過率が85%以上で且つヘイズが1.5%以下であって透明性に優れ、しかも剛性、硬度、耐熱性に優れるアクリル系樹脂組成物およびその成形体を円滑に得ることができる。
コロイダルシリカの表面改質剤としては、アクリル系樹脂の溶解度パラメータと表面改質剤の溶解度パラメータとの差の絶対値が1.0以下、特に0.5以下であるものが更に好ましく用いられる。
アクリル系樹脂の溶解度パラメータと、コロイダルシリカの表面改質剤の溶解度パラメータの差の絶対値が1.2以上であると、コロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物の溶融混練時や溶融成形時などにコロイダルシリカの凝集、凝集に伴う得られる成形体の白化などを生ずる恐れがある。
【0027】
ここで、本明細書におけるアクリル系樹脂の溶解度パラメータは、下記の数式(1)(Smallの式)により算出される溶解度パラメータをいい、その詳細については非特許文献1に記載されているとおりである。

アクリル系樹脂の溶解度パラメータ(SP)=dΣG/M (1)

[式中、Mはアクリル系樹脂を構成する単位(単量体単位)の分子量(アクリル系樹脂が共重合体である場合には共重合組成に応じて単量体単位の分子量を加重平均した値)、dはアクリル系樹脂(ポリマー)の密度、Gはアクリル系樹脂(ポリマー)の有する原子団および基に固有の定数を示す。]
【0028】
また、本明細書における表面改質剤の溶解度パラメータは、下記の数式(2)により算出される溶解度パラメータをいう。

表面改質剤の溶解度パラメータ(SP)=dH/M (2)

[式中、Mは表面改質剤の分子量、dは表面改質剤の密度、Hは表面改質剤の蒸発潜熱を示す。]
なお、表面改質剤が蒸発潜熱を測定できないものである場合には、上記の数式(1)により溶解度パラメータを算出してもよい。
【0029】
本発明では、コロイダルシリカの表面改質剤として、アクリル系樹脂の溶解度パラメータと表面改質剤の溶解度パラメータとの差の絶対値が1.2未満であるチタネート系表面改質剤が好ましく用いられる。そのようなチタネート系表面改質剤は、マトリックスをなすアクリル系樹脂に親和性のある基とコロイダルシリカに親和性のある基とを有しており、コロイダルシリカを当該チタネート系表面改質剤で処理してコロイダルシリカの表面を改質した状態でアクリル系樹脂中に含有させることによって、アクリル系樹脂中にコロイダルシリカ粒子を粒子同士の凝集を生ずることなく一次粒子の形で良好に分散させ、その良好な分散状態はアクリル系樹脂組成物の溶融賦形後も維持されて、高い透明性、良好な剛性、硬度、耐熱性を付与することができる。
【0030】
本発明で使用し得るチタネート系表面改質剤の具体例としては、味の素ファインテクノ株式会社から販売されているプレンアクトKR−TTS、KR−46B、KR−55、KR−41B、KR−38S、KR−138S、KR−238S、338X、KR−12、KR−44、KR−9SA、KR−34S、KR−ET、日本曹達株式会社から販売されているチタコートS−151、S−152、S−152P、S−181、S−581、S−582、P−151P、R−161、R−291、C−151、C−231、PR−581、W−585、W−184、W−586、W−292などを挙げることができる。
アクリル系樹脂の溶解度パラメータの値に基づいて、アクリル系樹脂の溶解度パラメータの差の絶対値が1.2未満になるようなる溶解度パラメータを有するチタネート系表面改質剤を前記したもののうちから選択して使用するようにするとよい。
【0031】
表面改質剤で表面を改質したコロイダルシリカの調製法としては、コロイダルシリカの有機溶媒分散液に、表面改質剤を添加して混合撹拌して、有機溶媒中に分散しているコロイダルシリカの表面を表面改質剤で被覆する方法、コロイダルシリカの表面に表面改質剤をそのまま直接付着させる方法などを挙げることができる。
【0032】
表面改質剤の使用量は、コロイダルシリカ100重量部に対して、0.5〜50重量部が好ましくは、1〜30重量部がより好ましく、1.5〜25質量部が更に好ましい。表面改質剤の使用量が少なすぎると、表面改質剤による表面改質効果が十分に発揮されず、アクリル系樹脂組成物の溶融混練時や溶融成形時にコロイダルシリカの凝集などが生じ易くなる。一方、表面改質剤の使用量が多すぎると、アクリル系樹脂組成物の溶融混練時や溶融成形時に表面改質剤の熱分解が生じて、樹脂の着色、それに伴う光学性能の低下などを招くおそれがある。
【0033】
アクリル系樹脂中にコロイダルシリカが一次粒子状で均一に分散していて、溶融成形後の可視光線領域の全光線透過率が85%以上およびヘイズが1.5%以下である本発明のアクリル系樹脂組成物は、以下の方法によって円滑に製造することができる。
すなわち、(メタ)アクリル酸エステルを50質量%以上の割合で含有するラジカル重合性単量体を重合してアクリル系樹脂を製造するに当たって、その重合前、重合中および/または重合後に、重合により生成するアクリル系樹脂との溶解度パラメータの差の絶対値が1.2未満である前記した表面改質剤によって表面改質した平均粒径50nm以下のコロイダルシリカを、重合により生成するアクリル系樹脂100質量部に対するコロイダルシリカの含有量が1〜50質量部になる量で添加し、その際に当該表面改質剤したコロイダルシリカの添加後の系(重合系など)の誘電率が3.9以上になるように調整することによって本発明のアクリル系樹脂組成物を円滑に製造することができる。
【0034】
表面改質したコロイダルシリカの添加後の系の誘電率が3.9以上になるように系の誘電率を調整して、(メタ)アクリル酸エステルを主体とするラジカル重合性単量体の重合前、重合中および/または重合後に、表面改質したコロイダルシリカを添加することによって、コロイダルシリカがアクリル系樹脂中に一次粒子状で均一に分散したアクリル系樹脂組成物を円滑に得ることができる。
コロイダルシリカの添加後の系の誘電率が3.9よりも低いと、コロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物の溶融混練時や溶融成形時などにコロイダルシリカの凝集が生じて、透明性の低下、力学的特性の低下などが生じ易くなる。
コロイダルシリカの添加後の系の誘電率が4.0以上、特に5.0以上になるように系の誘電率を調整して、コロイダルシリカを添加することがより好ましい。
【0035】
本明細書でいう「誘電率」は、真空の誘電率を1としたときの誘電率であって、比誘電率ともいい、非特許文献2に記載された値に基づくものである。
また、コロイダルシリカの添加後の系は、複数の物質を含む混合系(混合液)であり、混合液の誘電率は、以下の数式(3)から求められる。
【0036】
【数1】

[式中、εiは物質iの誘電率(比誘電率)、Miは物質iの質量を示す。]
【0037】
コロイダルシリカの添加後の系の誘電率が3.9以上になるようにするためには、系を構成する(メタ)アクリル酸エステルから主としてなるラジカル重合性単量体やアクリル系樹脂を溶解するための有機溶媒の種類や量、系におけるラジカル重合性単量体やアクリル系樹脂の種類や含有量などを選択したり、調整する方法などを採用すればよい。
例えば、誘電率の高い有機溶媒(例えばメチルアルコール、メチルエチルケトンなど)を多く用いると、系の誘電率を高くすることができる。
【0038】
コロイダルシリカの添加後の系の誘電率が3.9以上になるのであれば、表面改質したコロイダルシリカは、前記したように、(メタ)アクリル酸エステルを主体とするラジカル重合性単量体の重合前、重合中および/または重合後のいずれの段階で添加してもよく、そのうちでも、(メタ)アクリル酸エステルを主体とするラジカル重合性単量体の重合前および/または重合中、特に重合前に表面改質したコロイダルシリカを添加して、(メタ)アクリル酸エステルを主体とするラジカル重合性単量体の重合を行って、重合と同時に、コロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物を製造することが、コロイダルシリカが一次粒子状でより均一に分散したアクリル系樹脂組成物が円滑に得られる点から好ましい。
かかる点から、本発明のアクリル系樹脂組成物の製造に当たっては、(メタ)アクリル酸エステルを主体とするラジカル重合性単量体を、ラジカル重合開始剤を用いてラジカル重合してアクリル系樹脂を製造する際に、ラジカル重合性単量体を含む重合原料(例えばラジカル重合性単量体を含有する重合原料溶液)に、表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを予め添加すると共に重合系の誘電率がコロイダルシリカの添加後に3.9以上になるようにしておき、そこにラジカル重合開始剤を添加してラジカル重合を行って、コロイダルシリカを含有する本発明のアクリル系樹脂組成物を製造する方法が好ましく採用される。
なお、その際に、コロイダルシリカを添加する重合系に、ラジカル重合性単量体と共に、場合により重合済みのアクリル系樹脂を溶解含有させておいてもよい。
【0039】
アクリル系樹脂の製造に用いる(メタ)アクリル酸エステルを主体とするラジカル重合性単量体は、(メタ)アクリル酸エステルを50質量%以上の割合で含有することが好ましく、(メタ)アクリル酸エステルを60質量%以上、更には80質量%以上の割合で含有することが好ましい。
特に、アクリル系樹脂の製造に用いる(メタ)アクリル酸エステルを主体とするラジカル重合性単量体は、特に、メタクリル酸メチルを50質量%以上の割合で含有することが好ましく、メタクリル酸メチルを60質量%以上の割合で含有することがより好ましく、メタクリル酸メチルを80質量%以上の割合で含有することが更に好ましい。
【0040】
アクリル系樹脂の製造に用いる(メタ)アクリル酸エステルを主体とするラジカル重合性単量体は、必要に応じて(メタ)アクリル酸エステル以外の他のラジカル重合性単量体を、50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下の割合で含有していてもよい。
(メタ)アクリル酸エステルを主体とするラジカル重合性単量体が他のラジカル重合性単量体を含有する場合は、他のラジカル重合性単量体として、本発明のアクリル系樹脂組成物に用いるアクリル系樹脂が必要に応じて有していてもよい他のラジカル重合性単量体に由来する構造単位として上記で挙げた各種の単官能性のラジカル重合性単量体およびラジカル重合性不飽和基を2個以上有する多官能性のラジカル重合性単量体の1種または2種以上を用いることができる。
【0041】
アクリル系樹脂を得るための重合方法は特に制限されず、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の重合方法を採用して重合することによって製造することができ、その際の重合装置としては、例えば、連続バルク重合装置、懸濁重合装置、乳化重合装置、セルキャスト重合装置、連続キャスト重合装置などを使用することができる。そのうちでも、本発明で用いるアクリル系樹脂の製造、または本発明のアクリル系樹脂組成物の製造に当たっては、溶媒不使用の塊状重合法または有機溶媒中での溶液重合法が好ましく採用され、特に溶液重合法がより好ましく採用される。
アクリル系樹脂を得るための溶液重合時に、表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを有機溶媒に分散させた分散液を重合溶液に添加することで、コロイダルシリカをアクリル系樹脂中に一次粒子状で均一に分散・含有させることができる。
【0042】
(メタ)アクリル酸エステルを溶液重合する際に用いる有機溶媒としては、メチルアルコ−ル、エチルアルコ−ル、プロピルアルコ−ルなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン(別名2−ブタノン)、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレンなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、メチルエチルケトン(2−ブタノン)が誘電率が高く且つアクリル系樹脂の良溶媒であるの点から好ましく用いられる。
【0043】
アクリル系樹脂の製造に用いるラジカル重合開始剤の種類も特に制限されず、(メタ)アクリル酸エステルを主体とするラジカル重合性単量体の重合に従来から用いられているラジカル重合開始剤のいずれもが使用でき、具体例としては、第三ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドなどの有機ハイドロパーオキサイド類からなる酸化剤と、含糖ピロリン酸鉄処方、スルホキシレート処方、含糖ピロリン酸鉄処方/スルホキシレート処方の混合処方などの還元剤との組み合わせによるレドックス系の開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの有機過酸化物などを挙げることができる。
ラジカル重合開始剤の使用量は、(メタ)アクリル酸エステルを主体とするラジカル重合性単量体100質量部に対して、0.01〜5質量部、更には0.05〜3質量部、特に0.1〜1質量部であることが好ましい。
また、重合は、窒素、アルゴンなどの不活性ガス気流下またはバブリング下に実施することが好ましい。
重合温度、特に溶液重合法により重合する場合の重合温度は、一般に40〜200℃、更には50〜150℃、特に60〜120℃が好ましい。
【0044】
上記とは異なり、重合の終了したアクリル系樹脂を用いるか、予め製造されている市販のアクリル系樹脂を用いて本発明のアクリル系樹脂組成物を製造する場合は、アクリル系樹脂を、コロイダルシリカの添加後に系の誘電率を3.8以上にする有機溶媒中に溶解しておき、そこに表面改質剤で表面を改質したコロイダルシリカを添加する方法などが採用される。
【0045】
そして、アクリル系樹脂を溶解し且つコロイダルシリカを分散含有する有機溶媒溶液からコロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂を析出させるか、および/または有機溶媒を除去することで、コロイダルシリカが一次粒子状で均一に分散した本発明のアクリル系樹脂組成物を得ることができる。
が得られる。
【0046】
本発明のアクリル系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐侯安定剤、可塑剤、着色剤、離型剤、滑剤、香料、フィラー、界面活性剤等などの従来公知の添加剤の1種または2種以上を含有してもよい。本発明のアクリル系樹脂組成物中における前記した成分の含有率は20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
本発明のアクリル系樹脂組成物は熱可塑性であり、溶融混練を伴う溶融成形や、加熱可塑化を伴う成形・加工成形によって各種の成形体や製品の製造に有効に用いることができる。
溶融混練を伴う成形(溶融成形)は、一般に、150〜300℃の範囲内の温度で行うことが好ましく、200〜260℃の範囲内の温度で行うことがより好ましい。溶融成形温度が低いと溶融混練が困難になる場合があり、一方、溶融成形温度が高いとアクリル系樹脂の分解、着色などが生ずることがある。
【0048】
本発明のアクリル系樹脂組成物は、熱可塑性重合体材料に対する公知の成形方法、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、プレス成形などによってフィルム、シート、容器、型物などの種々の形状の成形体にして使用することができる。また、シートや板状に成形した後に、真空成形、圧空成形、真空圧空成形などの二次成形加工を行うことによって、種々の形状の成形体に加工することができる。
本発明のアクリル系樹脂組成物は、その極めて高い可視光線透過率、優れた力学的特性が有効に利用される用途であればいずれの用途に使用してもよく、例えば、各種物品の表層材(フィルム、シートなど)、箱、容器などの製造に好適に用いられる。
本発明のアクリル系樹脂組成物からフィルムまたはシートを製造する場合は、それらの厚みは10〜100,000μm程度とするのが一般的であり、50〜10,000μm程度とするのが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら制限されるものではない。なお、以下に示す実施例および比較例における各物性の測定または算出は以下のようにして行った。
【0050】
(1)コロイダルシリカの平均粒径:
コロイダルシリカ2gをイソプロピルアルコール8mlに分散させた分散液を調製し、その分散液を用いて、レーザー粒径解析装置(大塚電子株式会社製「FPAR−1000」)を使用して、温度25℃で、動的光散乱法により個々の粒子の粒径を測定して粒度分布曲線を求め、キュムラント法(非特許文献3を参照)により解析し、コロイダルシリカの平均粒径を求めた。
【0051】
(2)アクリル系樹脂の溶解度パラメータ:
上記の数式(1)(Smallの式)に基づいて、アクリル系樹脂を構成する構造単位の分子量M、密度d、原子団子・基に固有の定数Gを用いてアクリル系樹脂の溶解度パラメータを算出した。
(3)チタネート系表面改質剤の溶解度パラメータ:
上記の数式(2)に基づいて算出された溶解度パラメータを採用した[味の素ファインテクノ株式会社より入手した技術資料(非特許文献4)]に記載されている溶解度パラメータを参照]。
【0052】
(4)コロイダルシリカの添加後の重合系(混合液)の誘電率:
重合系に含まれる成分(ラジカル重合性単量体(メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル)、有機溶媒、チタネート系表面改質剤、コロイダルシリカ、ポリメタクリル酸メチルなど)のそれぞれの誘電率と含有率から、上記の数式(3)にしたがって、コロイダルシリカの添加後の重合系(混合液)の誘電率を求めた。
【0053】
(5)アクリル系樹脂組成物中のコロイダルシリカの含有量:
以下の実施例または比較例で得られたアクリル系樹脂組成物A(約5g)を、るつぼに入れて、500℃で3時間強熱し、その時の残分(B)(g)を測定し、式:(B/A)×100から、アクリル系樹脂組成物中のコロイダルシリカの含有量(質量%)を求めた。
【0054】
(6)アクリル系樹脂組成物の可視光線領域における全光線透過率およびヘイズ:
(i) 東洋精機(株)製ラボプラストミルを使用して、以下の実施例または比較例で得られたアクリル系樹脂組成物を設定温度230℃およびスクリュー回転数150rpmで5分間溶融混練した後、ストランド状に押し出し、切断して、ペレット(直径×長さ=2mm×3mm)にし、そのペレットの10gを型(60mm×140mm×1mm)内に充填して、東洋精機(株)製のプレス機を使用して、温度230℃、プレス圧力1.0MPa(100kgf)で3分間プレス成形して厚さ1mmのシートを製造した。
(ii) 上記(i)で製造した厚さ1mmのシートから試験片(厚さ)を採取し、ヘーズメータ[(株)村上色彩技術研究所製「HR−100」]を使用して、波長400〜750nmの可視光線領域における全光線透過率およびヘイズ(全線透過率に対する入射光束から平均2.5度を越えて逸れた拡散透過光の百分比)(ASTM D883)を求めた。
【0055】
(7)アクリル系樹脂組成物の曲げ弾性率および曲げ強度:
上記(6)の(i)で製造した厚さ1mmのシートから試験片を採取して、(株)島津製作所製「オートグラフAG−2000B」を使用して、ASTM D790に準じて曲げ試験を行なって、曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。
【0056】
(8)アクリル系樹脂組成物におけるコロイダルシリカの分散状態の確認:
上記(6)の(i)で製造した厚さ1mmのシートから試験片を採取し、透過型電子顕微鏡[(株)日立製作所製「H−7100FA」]を使用して、加速電圧100kVにてアクリル系樹脂組成物におけるコロイダルシリカの分散状態を確認(写真撮影)した。
【0057】
《実施例1》
(1) コロイダルシリカの有機液体分散液[日産化学工業(株)製「IPA−ST−S」、分散用有機液体=2−プロパノール、コロイダルシリカ含量=25質量%、コロイダルシリカの平均粒径=10nm]20.6gに、チタネート系表面改質剤[味の素ファインテクノ(株)製「プレーンアクトKR−138S」、溶解度パラメータ=9.2]0.5g(0.00070モル)を加えて、良く撹拌して、チタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液を調製した。
(2) 冷却管、温度計および撹拌機を備えた1リットルのセパラブルフラスコ内の気体を窒素ガスで置換した後、メタクリル酸メチル97.5g(0.974モル)、アクリル酸メチル2.5g(0.029モル)および2−ブタノン224gを入れて混合し、そこに上記(1)で調製したチタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液の全量を加えて80℃にて1時間撹拌して混合液とした(なお、これにより得られた混合液の上記した方法で求めた誘電率=13.8)。
【0058】
(3) 上記(2)で得られた混合液に、重合開始剤としてα,α’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.17g(0.001モル)を2−ブタノン5gに溶解した溶液を添加し、80℃で24時間重合した後、重合停止剤としてp−メトキシフェノール0.2g(0.002モル)を2−ブタノン10gに溶かした溶液を加えて、室温で10分間攪拌した。
(4) 上記(3)で得られた重合後の反応溶液をヘキサン20リットル中に投入し、析出物を濾別・回収した後、減圧下に溶媒を留去して、コロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物70gを得た。
(5) 上記(4)で得られたアクリル系樹脂組成物を用いて上記した方法で物性測定用の厚さ1mmのシートを製造し、このシートから試験片を採取して、上記した方法で、アクリル系樹脂組成物中のコロイダルシリカの含有量、可視光線領域における全光線透過率、ヘイズ、曲げ弾性率および曲げ強度を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0059】
《実施例2》
(1) 実施例1の(1)で使用したのと同じコロイダルシリカの有機液体分散液20.6gに、チタネート系表面改質剤[味の素ファインテクノ(株)製「プレーンアクトKR−41B」、溶解度パラメータ=9.5]0.5g(0.00070モル)を加えて、良く撹拌して、チタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液を調製した。
(2) 冷却管、温度計および撹拌機を備えた1リットルのセパラブルフラスコ内の気体を窒素ガスで置換した後、メタクリル酸メチル97.5g(0.974モル)、アクリル酸メチル2.5g(0.029モル)および2−ブタノン224gを入れて混合し、そこに上記(1)で調製したチタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液の全量を加えて80℃にて1時間撹拌して混合液とした(なお、これにより得られた混合液の上記した方法で求めた誘電率=13.8)。
(3) 上記(2)で得られた混合液を用いて、実施例1の(3)と同じ重合および重合停止操作並びに実施例1の(4)と同じ回収操作を行って、コロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物70gを得た。
(4) 上記(3)で得られたアクリル系樹脂組成物を用いて上記した方法で物性測定用の厚さ1mmのシートを製造し、このシートから試験片を採取して、上記した方法で、アクリル系樹脂組成物中のコロイダルシリカの含有量、可視光線領域における全光線透過率、ヘイズ、曲げ弾性率および曲げ強度を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0060】
《実施例3》
(1) 実施例1の(1)で使用したのと同じコロイダルシリカの有機液体分散液20.6gに、チタネート系表面改質剤[味の素ファインテクノ(株)製「プレーンアクトKR−9SA」、溶解度パラメータ=9.6]0.5g(0.00070モル)を加えて、良く撹拌して、チタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液を調製した。
(2) 冷却管、温度計および撹拌機を備えた1リットルのセパラブルフラスコ内の気体を窒素ガスで置換した後、メタクリル酸メチル97.5g(0.974モル)、アクリル酸メチル2.5g(0.029モル)および2−ブタノン224gを入れて混合し、そこに上記(1)で調製したチタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液の全量を加えて80℃にて1時間撹拌して混合液とした(なお、これにより得られた混合液の上記した方法で求めた誘電率=13.8)。
(3) 上記(2)で得られた混合液を用いて、実施例1の(3)と同じ重合および重合停止操作並びに実施例1の(4)と同じ回収操作を行って、コロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物70gを得た。
(4) 上記(3)で得られたアクリル系樹脂組成物を用いて上記した方法で物性測定用の厚さ1mmのシートを製造し、このシートから試験片を採取して、上記した方法で、アクリル系樹脂組成物中のコロイダルシリカの含有量、可視光線領域における全光線透過率、ヘイズ、曲げ弾性率および曲げ強度を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
また、この実施例3のアクリル系樹脂組成物におけるコロイダルシリカの分散状態を透過型電子顕微鏡[(株)日立製作所製「H−7100FA」]を使用して上記した方法で確認したところ、図1(電子顕微鏡写真)に示すとおりであった。
【0061】
《実施例4》
(1) 実施例1の(1)で使用したのと同じコロイダルシリカの有機液体分散液20.6gに、チタネート系表面改質剤[味の素ファインテクノ(株)製「プレーンアクトKR−9SA」、溶解度パラメータ=9.6]0.25g(0.00035モル)を加えて、良く撹拌して、チタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液を調製した。
(2) 冷却管、温度計および撹拌機を備えた1リットルのセパラブルフラスコ内の気体を窒素ガスで置換した後、メタクリル酸メチル97.5g(0.974モル)、アクリル酸メチル2.5g(0.029モル)および2−ブタノン224gを入れて混合し、そこに上記(1)で調製したチタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液の全量を加えて80℃にて1時間撹拌して混合液とした(なお、これにより得られた混合液の上記した方法で求めた誘電率=13.8)。
(3) 上記(2)で得られた混合液を用いて、実施例1の(3)と同じ重合および重合停止操作並びに実施例1の(4)と同じ回収操作を行って、コロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物70gを得た。
(4) 上記(3)で得られたアクリル系樹脂組成物を用いて上記した方法で物性測定用の厚さ1mmのシートを製造し、このシートから試験片を採取して、上記した方法で、アクリル系樹脂組成物中のコロイダルシリカの含有量、可視光線領域における全光線透過率、ヘイズ、曲げ弾性率および曲げ強度を測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0062】
《実施例5》
(1) 実施例1の(1)で使用したのと同じコロイダルシリカの有機液体分散液20.6gに、チタネート系表面改質剤[味の素ファインテクノ(株)製「プレーンアクトKR−9SA」、溶解度パラメータ=9.6]1.25g(0.00175モル)を加えて、良く撹拌して、チタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液を調製した。
(2) 冷却管、温度計および撹拌機を備えた1リットルのセパラブルフラスコ内の気体を窒素ガスで置換した後、メタクリル酸メチル97.5g(0.974モル)、アクリル酸メチル2.5g(0.029モル)および2−ブタノン224gを入れて混合し、そこに上記(1)で調製したチタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液の全量を加えて80℃にて1時間撹拌して混合液とした(なお、これにより得られた混合液の上記した方法で求めた誘電率=13.8)。
(3) 上記(2)で得られた混合液を用いて、実施例1の(3)と同じ重合および重合停止操作並びに実施例1の(4)と同じ回収操作を行って、コロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物70gを得た。
(4) 上記(3)で得られたアクリル系樹脂組成物を用いて上記した方法で物性測定用の厚さ1mmのシートを製造し、このシートから試験片を採取して、上記した方法で、アクリル系樹脂組成物中のコロイダルシリカの含有量、可視光線領域における全光線透過率、ヘイズ、曲げ弾性率および曲げ強度を測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0063】
《実施例6》
(1) 実施例1の(1)で使用したのと同じコロイダルシリカの有機液体分散液41.2gに、チタネート系表面改質剤[味の素ファインテクノ(株)製「プレーンアクトKR−9SA」、溶解度パラメータ=9.6]0.5g(0.0007モル)を加えて、良く撹拌して、チタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液を調製した。
(2) 冷却管、温度計および撹拌機を備えた1リットルのセパラブルフラスコ内の気体を窒素ガスで置換した後、メタクリル酸メチル97.5g(0.974モル)、アクリル酸メチル2.5g(0.029モル)および2−ブタノン224gを入れて混合し、そこに上記(1)で調製したチタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液の全量を加えて80℃にて1時間撹拌して混合液とした(なお、これにより得られた混合液の上記した方法で求めた誘電率=13.9)。
(3) 上記(2)で得られた混合液を用いて、実施例1の(3)と同じ重合および重合停止操作並びに実施例1の(4)と同じ回収操作を行って、コロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物75gを得た。
(4) 上記(3)で得られたアクリル系樹脂組成物を用いて上記した方法で物性測定用の厚さ1mmのシートを製造し、このシートから試験片を採取して、上記した方法でアクリル系樹脂組成物中のコロイダルシリカの含有量、可視光線領域における全光線透過率、ヘイズ、曲げ弾性率および曲げ強度を測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0064】
《実施例7》
(1) 実施例1の(1)で使用したのと同じコロイダルシリカの有機液体分散液61.8gに、チタネート系表面改質剤[味の素ファインテクノ(株)製「プレーンアクトKR−9SA」、溶解度パラメータ=9.6]0.75g(0.00105モル)を加えて、良く撹拌して、チタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液を調製した。
(2) 冷却管、温度計および撹拌機を備えた1リットルのセパラブルフラスコ内の気体を窒素ガスで置換した後、メタクリル酸メチル97.5g(0.974モル)、アクリル酸メチル2.5g(0.029モル)および2−ブタノン224gを入れて混合し、そこに上記(1)で調製したチタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液の全量を加えて80℃にて1時間撹拌して混合液とした(なお、これにより得られた混合液の上記した方法で求めた誘電率=13.9)。
(3) 上記(2)で得られた混合液を用いて、実施例1の(3)と同じ重合および重合停止操作並びに実施例1の(4)と同じ回収操作を行って、コロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物75gを得た。
(4) 上記(3)で得られたアクリル系樹脂組成物を用いて上記した方法で物性測定用の厚さ1mmのシートを製造し、このシートから試験片を採取して、上記した方法で、アクリル系樹脂組成物中のコロイダルシリカの含有量、可視光線領域における全光線透過率、ヘイズ、曲げ弾性率および曲げ強度を測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0065】
《比較例1》
(1) 冷却管、温度計および撹拌機を備えた1リットルのセパラブルフラスコ内の気体を窒素ガスで置換した後、メタクリル酸メチル97.5g(0.974モル)、アクリル酸メチル2.5g(0.029モル)および2−ブタノン224gを入れて混合し、そこに実施例1の(1)で使用したのと同じコロイダルシリカの有機液体分散液(日産化学工業(株)製「IPA−ST−S」)20.6gを、コロイダルシリカの表面改質を行うことなくそのまま加えて、80℃にて1時間撹拌して混合液とした(なお、これにより得られた混合液の上記した方法で求めた誘電率=13.8)。
(2) 上記(1)で得られた混合液に、実施例1の(3)と同じように、重合開始剤としてα,α’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.17g(0.001モル)を2−ブタノン5gに溶解した溶液を添加し、80℃で24時間重合した後、重合停止剤としてp−メトキシフェノール0.2g(0.002モル)を2−ブタノン10gに溶かした溶液を加えて、室温で10分間攪拌した。
(3) 上記(2)で得られた重合停止後の液を用いて、実施例1の(4)と同じ回収操作を行って、コロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物70gを得た。
(4) 上記(3)で得られたアクリル系樹脂組成物を用いて上記した方法で物性測定用の厚さ1mmのシートを製造し、このシートから試験片を採取して、上記した方法で、アクリル系樹脂組成物中のコロイダルシリカの含有量、可視光線領域における全光線透過率、ヘイズ、曲げ弾性率および曲げ強度を測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
また、この比較例1のアクリル系樹脂組成物におけるコロイダルシリカの分散状態を透過型電子顕微鏡[(株)日立製作所製「H−7100FA」]を使用して上記した方法で確認したところ、図2(電子顕微鏡写真)に示すとおりであった。
【0066】
《比較例2》
(1) 実施例1の(1)で使用したのと同じコロイダルシリカの有機液体分散液20.6gに、チタネート系表面改質剤[味の素ファインテクノ(株)製「プレーンアクトKR−TTS」、溶解度パラメータ=8.1]0.5g(0.00070モル)を加えて、良く撹拌して、チタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液を調製した。
(2) 冷却管、温度計および撹拌機を備えた1リットルのセパラブルフラスコ内の気体を窒素ガスで置換した後、メタクリル酸メチル97.5g(0.974モル)、アクリル酸メチル2.5g(0.029モル)および2−ブタノン224gを入れて混合し、そこに上記(1)で調製したチタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液の全量を加えて80℃にて1時間撹拌して混合液とした(なお、これにより得られた混合液の上記した方法で求めた誘電率=13.8)。
(3) 上記(2)で得られた混合液を用いて、比較例1の(2)[実施例1の(3)]と同じ重合および重合停止操作並びに実施例1の(4)と同じ回収操作を行って、コロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物70gを得た。
(4) 上記(3)で得られたアクリル系樹脂組成物を用いて上記した方法で物性測定用の厚さ1mmのシートを製造し、このシートから試験片を採取して、上記した方法で、アクリル系樹脂組成物中のコロイダルシリカの含有量、可視光線領域における全光線透過率、ヘイズ、曲げ弾性率および曲げ強度を測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0067】
《比較例3》
(1) 実施例1の(1)で使用したのと同じコロイダルシリカの有機液体分散液20.6gに、チタネート系表面改質剤[味の素ファインテクノ(株)製「プレーンアクトKR−44」、溶解度パラメータ=12.0]0.5g(0.00070モル)を加えて、良く撹拌して、チタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液を調製した。
(2) 冷却管、温度計および撹拌機を備えた1リットルのセパラブルフラスコ内の気体を窒素ガスで置換した後、メタクリル酸メチル97.5g(0.974モル)、アクリル酸メチル2.5g(0.029モル)および2−ブタノン224gを入れて混合し、そこに上記(1)で調製したチタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液の全量を加えて80℃にて1時間撹拌して混合液とした(なお、これにより得られた混合液の上記した方法で求めた誘電率=13.8)。
(3) 上記(2)で得られた混合液を用いて、比較例1の(2)[実施例1の(3)]と同じ重合および重合停止操作並びに実施例1の(4)と同じ回収操作を行って、コロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物70gを得た。
(4) 上記(3)で得られたアクリル系樹脂組成物を用いて上記した方法で物性測定用の厚さ1mmのシートを製造し、このシートから試験片を採取して、上記した方法で、アクリル系樹脂組成物中のコロイダルシリカの含有量、可視光線領域における全光線透過率、ヘイズ、曲げ弾性率および曲げ強度を測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0068】
《比較例4》
(1) 実施例1の(1)で使用したのと同じコロイダルシリカの有機液体分散液20.6gに、チタネート系表面改質剤[味の素ファインテクノ(株)製「プレーンアクトKR−9SA」、溶解度パラメータ=9.6]2.5g(0.0035モル)を加えて、良く撹拌して、チタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液を調製した。
(2) 冷却管、温度計および撹拌機を備えた1リットルのセパラブルフラスコ内の気体を窒素ガスで置換した後、メタクリル酸メチル97.5g(0.974モル)、アクリル酸メチル2.5g(0.029モル)および2−ブタノン224gを入れて混合し、そこに上記(1)で調製したチタネート系表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカを含有する有機液体分散液の全量を加えて80℃にて1時間撹拌して混合液とした(なお、これにより得られた混合液の上記した方法で求めた誘電率=13.8)。
(3) 上記(2)で得られた混合液を用いて、比較例1の(2)[実施例1の(3)]と同じ重合および重合停止操作並びに実施例1の(4)と同じ回収操作を行って、コロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物70gを得た。
(4) 上記(3)で得られたアクリル系樹脂組成物を用いて上記した方法で物性測定用の厚さ1mmのシートを製造し、このシートから試験片を採取して、上記した方法で、アクリル系樹脂組成物中のコロイダルシリカの含有量、可視光線領域における全光線透過率、ヘイズ、曲げ弾性率および曲げ強度を測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0069】
《比較例5》
(1) 比較例1の(1)において、コロイダルシリカの有機液体分散液(日産化学工業(株)製「IPA−ST−S」)の添加量を41.2gに変更した以外は、比較例1の(1)〜(3)と同じ操作を行って、コロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物75gを得た。
(2) 上記(1)で得られたアクリル系樹脂組成物を用いて上記した方法で物性測定用の厚さ1mmのシートを製造し、このシートから試験片を採取して、上記した方法で、アクリル系樹脂組成物中のコロイダルシリカの含有量、可視光線領域における全光線透過率、ヘイズ、曲げ弾性率および曲げ強度を測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0070】
《比較例6》
(1) 比較例1の(1)において、コロイダルシリカの有機液体分散液(日産化学工業(株)製「IPA−ST−S」)の添加量を61.8gに変更した以外は、比較例1の(1)〜(3)と同じ操作を行って、コロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物75gを得た。
(2) 上記(1)で得られたアクリル系樹脂組成物を用いて上記した方法で物性測定用の厚さ1mmのシートを製造し、このシートから試験片を採取して、上記した方法で、アクリル系樹脂組成物中のコロイダルシリカの含有量、可視光線領域における全光線透過率、ヘイズ、曲げ弾性率および曲げ強度を測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
《実験例1》
撹拌子を備えた50mlの栓付き三角フラスコに、メタクリル酸メチルおよび実施例1で使用したのと同じコロイダルシリカの有機液体分散液(日産化学工業(株)製「IPA−ST−S」)を下記の表4に示す量で入れて、室温にて10分間撹拌(回転速度400rpm)した後、ベンゼンまたはメタクリル酸メチル樹脂(株式会社クラレ製「パラペットHR−L」)を溶解したベンゼン溶液を下記の表4に示す量で撹拌下に滴下して、下記の表4に示す誘電率を有する、メタクリル酸メチルを溶解含有するコロイダルシリカのベンゼン分散液またはタクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチル樹脂を溶解含有するコロイダルシリカのベンゼン分散液を調製し、当該分散液中でのコロイダルシリカの分散状態(コロイダルシリカの粒径)を測定したところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0075】
【表4】

【0076】
上記の表4にみるように、分散液の誘電率が3.9以上であると、コロイダルシリカが15nmより小さな微細な粒径で液中に良好に分散している。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のアクリル系樹脂組成物は、可視光線の透過率が高く且つヘイズが小さくて透明性に優れ、しかも剛性、硬度、耐熱性などの特性に優れるため、それらの特性を活かして、高い透明性、剛性、硬度、耐熱性などが要求される種々の用途、例えば、電子や電気機器分野、光学機器分野におけるレンズ材、建材分野のカーポート屋根材、表層材などの種々の用途に有効に使用することができ、そして本発明の製造方法により、前記した優れた特性を兼ね備える本発明のアクリル系樹脂組成物を、簡単な操作で効率良く、円滑に製造することができるため、本発明は工業的に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例3で得られたアクリル系樹脂組成物中でのコロイダルシリカの分散状態を、透過型電子顕微にて撮影した写真である。
【図2】比較例1で得られたアクリル系樹脂組成物中でのコロイダルシリカの分散状態を、透過型電子顕微鏡にて撮影した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂100質量部に対して平均粒径50nm以下のコロイダルシリカを1〜50質量部の割合で含有し、溶融成形後の可視光線領域の全光線透過率が85%以上およびヘイズが1.5%以下であることを特徴とするアクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
コロイダルシリカが、アクリル系樹脂との溶解度パラメータの差の絶対値が1.2未満である表面改質剤で表面改質したコロイダルシリカである請求項1に記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
表面改質剤がチタネート系表面改質剤である請求項2に記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
(メタ)アクリル酸エステルを50質量%以上の割合で含有するラジカル重合性単量体の重合前、重合中および/または重合後に、平均粒径50nm以下のコロイダルシリカを、アクリル系樹脂100質量部に対するコロイダルシリカの含有量が1〜50質量部になる量で添加してコロイダルシリカを含有するアクリル系樹脂組成物を製造する方法であって、前記コロイダルシリカとして、アクリル系樹脂との溶解度パラメータの差の絶対値が1.2未満の表面改質剤によって表面改質したコロイダルシリカを用いると共に、当該表面改質したコロイダルシリカの添加後の系の誘電率が3.9以上になるようにして、表面改質したコロイダルシリカを添加・混合することを特徴とするアクリル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記表面改質剤が、チタネート系表面改質剤である請求項4に記載のアクリル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
ラジカル重合性単量体のラジカル重合を有機溶媒の存在下で行い、表面改質したコロイダルシリカをラジカル重合性単量体の重合前および/または重合中に重合系に添加する請求項4または5に記載のアクリル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル系樹脂組成物よりなる成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−174613(P2008−174613A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7989(P2007−7989)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】