説明

透明電極積層体

【課題】透明性および導電性を損なうことなく、光の散乱が低減された透明電極積層体を提供することである。
【解決手段】実施形態の透明電極積層体は、透明基板(11)と、前記透明基板上に形成された光透過性の電極層(13)とを具備する。前記電極層は、直径が20nm以上200nm以下の金属ナノワイヤー(21)の三次元網目構造(22)を含み、それぞれの金属ナノワイヤーは表面の一部に、前記金属ナノワイヤーを構成する金属の反応生成物(23)を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、透明電極積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明電極は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどの表示素子、および太陽電池などの電気素子に用いられ、最近では、銀ナノワイヤーなどの金属ナノワイヤーを用いた透明電極が提案されている。金属ナノワイヤーを用いた透明電極は、透明性が高く表面抵抗も低い。しかも、フレキシビリティも高い点では有利であるものの、金属である故に光の表面散乱が大きく、目視では白濁が認識される。
【0003】
そのため、表示素子に用いた場合には、表示される画像が白っぽくなってしまう。また、表面プラズモン吸収に起因して、吸収スペクトルの平坦性が損なわれる。これは表示素子のみならず、太陽電池や照明用途においても問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−196923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、透明性および導電性を損なうことなく、光の散乱が低減された透明電極積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の透明電極積層体は、透明基板と、前記透明基板上に形成された光透過性の電極層とを具備する。前記電極層は、直径が20nm以上200nm以下の金属ナノワイヤーの三次元網目構造を含み、それぞれの金属ナノワイヤーは表面の一部に、前記金属ナノワイヤーを構成する金属の反応生成物を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】一実施形態にかかる透明電極積層体の断面構造を示す概略図。
【図2】一実施形態にかかる透明電極積層体の電極層側からの模式図。
【図3】他の実施形態にかかる透明電極積層体の断面構造を示す概略図。
【図4】実施例1の透明電極積層体の写真。
【図5】実施例1の透明電極積層体のスペキュラー透過スペクトル。
【図6】比較例1の透明電極積層体の写真。
【図7】比較例1の透明電極積層体のスペキュラー透過スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0009】
図1に示す透明電極積層体10においては、透明基板11上に光透過性の電極層13が設けられている。この電極層13を上面からみた模式図を図2に示す。透明基板11上の電極層13は、図2の模式図に示されるように金属ナノワイヤー21の三次元網目構造22を含み、金属ナノワイヤー21の直径は20nm以上200nm以下である。電極層13の厚さは、金属ナノワイヤー21の直径等に応じて適宜選択することができるが、一般的には30〜300nm程度である。
【0010】
金属ナノワイヤー21の材質は、銀および銅から選択することができる。銀および銅は電気抵抗が2×10-8Ωm以下程度と小さく、化学的にも比較的安定であることから、本実施形態において好ましく用いられる。金属ナノワイヤー21の三次元網目構造22には、金属ナノワイヤーが存在しない空隙24が存在し、この空隙24は電極層13をその厚み方向に貫通している。電極層13においては、金属ナノワイヤー21が互いに接触し合うことにより三次元網目構造22を形成し、三次元的に連続しているので高い導電性を発現する。しかも、金属ナノワイヤー21が存在しない空隙24を光が透過することができる。こうして、本実施形態の透明電極積層体10の電極層13においては、導電性と光透過性とが確保される。
【0011】
三次元網目構造22全体としては電極に要求される導電性を確実に維持しつつ、それぞれの金属ナノワイヤー22の表面の一部には、図2に示されるように反応生成物23が形成されている。反応生成物23は、金属ナノワイヤー22の表面の一部の金属を反応させることによって、金属ナノワイヤーの表面の一部に形成されるが、その形成方法については後述する。反応生成物23は、金属の硫化物、酸化物、ハロゲン化物、またはこれらの混合物であることが好ましい。ハロゲン化物は特に限定されないが、安価な塩酸などを反応原料として用いることができることから塩化物が好ましい。
【0012】
銀または銅の硫化物、酸化物またはハロゲン化物は、金属光沢がなく、また色も黒色のものが多い。こうした反応生成物23がそれぞれの金属ナノワイヤー21の表面の一部に存在することによって、光散乱を低減することができる。また、反応生成物23によって表面プラズモンも低減されることから、後述するように吸収スペクトルの凹凸を低減して平坦性を高めるといった効果も得られる。
【0013】
電極層13を支持する透明基板11の材質としては、例えばガラス等の無機材料、およびポリメチルメタクリレート(PMMA)等の有機材料を用いることができる。透明基板11の厚さは、材質、および透明電極の用途等に応じて適宜選択することができる。例えばガラス基板の場合には、0.1〜5mm程度とすることができ、PMMA基板の場合には0.1〜10mm程度とすることができる。
【0014】
上述したように、三次元網目構造22を構成する金属ナノワイヤー21のそれぞれは、表面の金属の一部が反応して生成物23が生じているものの、三次元網目構造22全体としては、電極として十分な導電性を有する。すなわち、三次元網目構造22中のいずれの金属ナノワイヤーにおいても、電極としての機能を損なう程度まで反応が進行して生成物が生じることはない。無機材料からなる透明基板は、金属ナノワイヤーのさらなる化学反応を防止する作用を有している。これは、外部環境に存在する硫黄化合物成分やハロゲン化合物成分、窒素化合物成分等を遮断するためである。したがって、無機材料からなる透明基板の上に設けられた電極層13においては、電極としての機能が損なわれる程度まで、金属ナノワイヤー21の反応が進行することは避けられる。
【0015】
PMMA等の有機材料からなる透明基板11は、外部環境の酸素や水、空気中に含まれるアミン成分や窒素酸化物合物、ハロゲン化合物および硫黄化合物などが透過することができる。こうした透過成分によって、電極層13中の金属ナノワイヤー21のさらなる反応が進行するおそれがある。有機材料からなる透明基板は、その表面に反応抑制層を設けることによって、金属ナノワイヤーがさらに反応するのを防止することができる。反応抑制層12は、例えば、図3に示すように、透明基板11の裏面(電極層13が形成される面とは反対側の面)に形成することができるが、電極層13の下部に形成されるのであれば同じ面に形成されてもよい。有機材料からなる透明基板の所定の面に一様に形成されていれば、反応抑制層12の厚さは特に規定されない。例えば、0.1〜10μm程度の厚さを有すれば、所望の効果が得られる。
【0016】
外部環境の酸素や水、空気中に含まれるアミン成分や窒素化合物、硫黄化合物等の拡散を防止する作用を有することから、反応抑制層12の材質としてはSiO2膜等のシリコン酸化物が特に好ましい。シリコン酸化物膜は、例えばスパッタリング法、ゾルゲル法などによって成膜することができる。シリコン酸化物膜中には、雲母片などを混入させてもよい。この場合には、拡散を防止する効果が高められる。
【0017】
こうした反応抑制層は、電極層13の下部に形成することができる。この場合には、電極層13の安定性がよりいっそう高められる。
【0018】
上述したように金属ナノワイヤー21の材質は、銀および銅から選択することができる。銀ナノワイヤーが用いられた透明電極積層体は、スペキュラー透過スペクトルが所定の条件を満たすことが好ましい。スペキュラー透過率は、散乱光を含まないほぼ平行な透過光に対する透過率であり、通常の紫外可視吸収スペクトロメーターを用いて測定することができる。
【0019】
銀ナノワイヤーが用いられた場合には、スペキュラー透過スペクトルの320nm近傍における透過率の極大ピークと、360nm近傍における透過率の極小ピークとの吸光度比が2.5以下となることがある。なお、本明細書において近傍とは、±15nmの範囲をさす。この吸光度比が2.5以下であれば、太陽光における近紫外光(波長350〜400nm領域)を効率よく利用することができる。これに加えて、波長が360nm付近の近紫外LEDやLDの発光を、高い効率で外部に取り出すことができる。
【0020】
本実施形態の透明電極積層体10においては、電極層13の少なくとも一方の面には、グラフェンを含有するカーボン層が設けられていることが好ましい。言い換えると、グラフェンを含有するカーボン層は、金属ナノワイヤー21の三次元網目構造22の少なくとも一方の側に積層することができる。グラフェンは、単層および多層のいずれであってもよい。図2に示したように、金属ナノワイヤー21の三次元網目構造22には空隙24が存在する。空隙24は電極層13の透明性に寄与するものの、この部分では電荷のやり取りが行なわれない。グラフェンを含有するカーボン層を金属ナノワイヤーの三次元網目構造に積層することによって、このカーボン層を介して電荷のやり取りを電極層の全面にわたって均一に行なうことができる。
【0021】
グラフェンを含有するカーボン層が、金属ナノワイヤーの三次元網目構造の上に設けられた場合には、表面の平坦性を高めることができる。例えば単層グラフェンが設けられた表面は、原子間力顕微鏡(AMF:Atomic Force Microscope)により測定される凹凸が10nm以下程度となる。電荷注入や超薄膜を積層する点で有利であることから、こうした透明電極積層体は、例えば有機EL素子や太陽電池等に好適である。
【0022】
なお、本実施形態の透明電極積層体を素子の陰極として用いる場合には、グラフェンにおける炭素の一部は窒素置換されていることが好ましい。ドーピング量(N/C原子比)は、例えばX線光電子スペクトル(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)に基いて求めることができる。このドーピング量(N/C原子比)が1/200〜1/10程度のグラフェンは、窒素置換されていないグラフェンと比較して、仕事関数が小さく、接合される機能層としての電子の授受は容易であるため陰極としての性能が高められる。
【0023】
一実施形態の透明電極積層体における電極層は、例えば金属ナノワイヤーを含む分散液を用いて、透明基板上に形成することができる。具体的には、まず、直径20nm以上200nm以下の金属ナノワイヤーを分散媒に分散させて分散液を得る。金属ナノワイヤーの直径は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)や原子間力顕微鏡(AMF)により求めることができる。金属ナノワイヤーの直径が200nmより大きい場合には、分散媒への分散性が低下して、均一な塗布膜を形成することが困難となる。一方、直径が20nm未満の場合には、ワイヤーの長さが短くなる傾向となり塗布膜の表面抵抗が大きくなる。金属ナノワイヤーの直径は、60nm以上150nm以下であることがより好ましい。
【0024】
金属ナノワイヤーの平均長さは、得られる電極の導電性および透明性を考慮して適切に決定することができる。具体的には、導電性の観点から1μm以上であることが好ましく、凝集による透明性の低下を避けるために100μm以下であることが好ましい。最適な長さは金属ナノワイヤーの直径に応じて決定され、金属ナノワイヤーの長さと直径との比(長さ/直径)は、例えば100〜1000程度とすることができる。
【0025】
所定の直径を有する銀ナノワイヤーは、例えばSeashell Technology社から入手することができる。あるいは、Liangbing Huら、ACS Nano, 4巻、5号、2955頁、2010年に基いて、所定の直径を有する銀ナノワイヤーを作製してもよい。所定の直径を有する銅ナノワイヤーは、例えば特開2004−263318号公報もしくは特開2002−266007号公報に基いて、所定の直径を有する銅ナノワイヤーを作製してもよい。ただし、実施の形態に用いられる金属ナノワイヤーが得られるのであれば、これらに限られるものではない。
【0026】
金属ナノワイヤーが分散される分散媒は、金属を酸化させず、また乾燥により容易に除去可能であれば特に限定されない。例えば、メタノール、エタノールおよびイソプロパノール等を用いることができる。分散液中における金属ナノワイヤーの濃度は特に規定されず、良好な分散状態が確保される範囲内で適宜設定すればよい。
【0027】
金属ナノワイヤーの分散液は、例えばスピンコート、バーコート印刷およびインクジェット印刷等により透明基板の表面に塗布して、塗布膜を形成することができる。例えば50〜100℃程度の窒素またはアルゴン気流中で0.5〜2時間程度乾燥して分散媒を除去することによって、金属ナノワイヤーの三次元網目構造が得られる。場合により、分散液の塗布および乾燥を繰り返すことによって、所望の厚さを有する三次元網目構造を形成することができる。
【0028】
透明基板がガラス基板の場合には、塗布膜が形成される面に親水化処理を施しておくことが望まれる。親水化処理は、例えば窒素プラズマ処理などによって行なうことができる。窒素プラズマ処理は、具体的にはマグネトロンスパッタ装置(13.56MHz、150W)で窒素プラズマ(0.1ミリバール)中で10分間程度放置することにより行なうことができる。塗布膜が形成されるガラス基板の表面の親水性を高めることによって、塗布膜の均一性が良好となる。
【0029】
透明基板がPMMAのような有機材料からなる場合には、上述したような反応抑制層が少なくとも一方の面に形成される。反応抑制層は、必ずしも金属ナノワイヤーの分散液が塗布される前のPMMA基板に形成する必要はない。反応抑制層を電極層とは反対の面に形成する場合には、金属ナノワイヤーを反応させた後に形成してもよい。
【0030】
透明基板上に配置された金属ナノワイヤーの表面の一部を反応させて反応生成物を形成することによって、本実施形態の透明電極積層体が得られる。ここでの反応は、硫化、酸化、またはハロゲン化とすることができ、例えば所定の反応性ガスと金属ナノワイヤーの三次元網目構造とを気相で反応させればよい。硫化物を得るには、硫黄蒸気、硫化水素ガスが好ましい。酸化物を得る場合にはオゾンガスが好ましく、UVを照射しつつオゾンガスと反応させることによって、反応速度が高められる。ハロゲン化物を得る場合には、単体ハロゲンガスまたはハロゲン化水素ガスを用いることができ、塩素ガスが特に好ましい。
【0031】
上述した方法は、透明基板上に金属ナノワイヤーの三次元網目構造を形成した後、この金属ナノワイヤーの表面の一部を反応させるものである(塗布後反応)。このため、形成される電極層の表面抵抗や透過率を基板ごとに制御することができ、種々の要求仕様に応じることができる。
【0032】
表面の一部の金属を反応させて生成物が生じることによって、金属ナノワイヤーの光沢が低減されるものの、電極層の表面抵抗は増大する。本実施形態においては、電極層の表面抵抗は100Ω/□以下であることが望まれる。したがって、表面抵抗が過剰に大きくならないように制御しつつ、金属ナノワイヤーの表面を反応させる。例えば、予備実験を行なって、適切な表面抵抗が得られる条件を予め調べておくことができる。あるいは、透過スペクトルを測定するといった手法により、反応を制御してもよい。
【0033】
金属ナノワイヤーの表面の一部は、透明基板上に配置される前に反応させてもよい。この場合には、まず、金属ナノワイヤーの分散液を調製し、この分散液中で金属ナノワイヤーの表面の一部を反応させる(塗布前反応)。例えば、金属ナノワイヤーの分散液を攪拌しつつ反応性ガスを導入することによって、金属ナノワイヤーの表面の一部を反応させることができる。あるいは、反応性ガスや反応性物質を予め溶解させた溶液を、金属ナノワイヤーの分散液中に攪拌しながら添加してもよい。反応性物質とは、硫黄や硫化水素酸、塩酸および過マンガン酸カリウム等をさす。反応性ガスが用いられる方法は、大量製造に適切であり、溶液が用いられる場合には、より精度よく反応を制御することができる。
【0034】
塗布前反応における反応性ガスおよび反応性物質は、目的の反応生成物に応じて適宜選択することができる。硫化物を得るには、硫化水素ガスまたは硫化水素水が特に好ましく、酸化物を得るには、オゾンガスまたは過マンガン酸カリウム水溶液が好ましい。また、ハロゲン化物を得るには、単体ハロゲンガス、ハロゲン化水素酸が好ましく、塩素ガスもしくは塩酸が特に好ましい。
【0035】
表面の一部に反応生成物が形成された金属ナノワイヤーの分散液を、透明基板の上に塗布して塗布膜を形成する。例えば50〜100℃程度の窒素あるいはアルゴン気流中で0.5〜2時間程度乾燥して分散媒を除去することによって、表面の一部に反応生成物が生じた金属ナノワイヤーの三次元網目構造が得られて電極層となる。
【0036】
すでに説明したように、透明基板がガラス基板の場合には、塗布膜が形成される面に親水化処理を施しておくことが望まれ、透明基板がPMMA製の場合には、少なくとも一方の面に、上述したような反応抑制層が設けられる。
【0037】
分散液中で金属ナノワイヤーの表面の一部を反応させる方法においては、金属ナノワイヤーの接点の抵抗が大きめとなる傾向がある。得られる透明電極積層体の表面抵抗は、前述の方法で得られる透明電極積層体と比較すると大きくなるものの、電極としての機能が損なわれることはない。表面の一部が予め反応した金属ナノワイヤーの分散液が用いられるので、基板間での性能ばらつきを低減することができる。このため、大量生産に適した方法であるといえる。
【0038】
塗布前反応の場合と同様、塗布後反応で電極層が形成される場合においても、表面の一部に反応生成物が生じることによって、金属ナノワイヤーの光沢が低減されるものの、電極層の表面抵抗は増大する。本実施形態においては、電極層の表面抵抗は200Ω/□以下であることが望まれる。したがって、表面抵抗が過剰に大きくならないように制御しつつ、金属ナノワイヤーの表面を反応させる。例えば、予備実験を行なって、適切な表面抵抗が得られる条件を予め調べておくことができる。あるいは、透過スペクトルを測定するといった手法により、反応を制御してもよい。
【0039】
上述したように、金属ナノワイヤーの表面の反応は、表面抵抗が過剰に大きくならないように制御しつつ行なわれる。したがって、本実施形態の透明電極積層体は、光の散乱が低減されるにもかかわらず、透明性および導電性は従来の透明電極とは何等遜色ないものとなる。
【0040】
以下に、透明電極積層の具体例を示す。
【0041】
<実施例1>
透明基板11として厚さ0.4mmのガラス基板を用いて、図1に示す構成の透明電極積層体を作製する。電極層13の材料としては、平均直径115nmの銀ナノワイヤーのメタノール分散液を用いる。分散液中における銀ナノワイヤーの濃度は、0.3質量%程度である。銀ナノワイヤーは、Seashell Technology社製の、平均直径115nmのものを用いる。
【0042】
ガラス基板は、窒素プラズマ処理を施すことにより表面の親水性を高める。具体的には、マグネトロンスパッタ装置(13.56MHz、150W)で窒素プラズマ(0.1ミリバール)中で10分間放置して窒素プラズマ処理を施す。処理されたガラス基板上には、銀ナノワイヤーの分散液を滴下し、自然拡散させて塗布膜を形成する。
【0043】
60℃のアルゴン気流中で1時間乾燥することによって、分散媒としてのメタノールが塗布膜から除去されて銀ナノワイヤーの三次元網目構造が得られる。銀ナノワイヤーの三次元網目構造が形成されたガラス基板をガラス容器に収容し、80℃の大気中で18分間、銀ナノワイヤーを硫黄蒸気と反応させる。硫黄蒸気は硫黄粉末を加熱することにより発生させる。銀ナノワイヤー表面の一部が硫化して、本実施例の透明電極積層体が得られる。透明電極積層体における電極層の厚さは、200nm程度である。
【0044】
得られた透明電極積層体の写真を図4に示す。白濁が認識されないことから、光散乱が少ないことがわかる。可視−紫外光自記分光光度計を用いてスペキュラー透過率を測定し、四探針法により表面抵抗を求める。スペキュラー透過率は73%(550nm)であり、表面抵抗は10Ω/□である。人の視感度の高いことから、550nmにおけるスペキュラー透過率で評価される。表面抵抗は、適用される素子によって要求される値が異なる。一般的には、タッチパネル用の場合には数100Ω/□以下であり、液晶表示素子の場合には数10Ω/□以下であり、有機EL素子や太陽電池用の場合には10Ω/□以下である。
【0045】
図5には、本実施例の透明電極積層体のスペキュラー透過スペクトルを示す。320nm近傍に透過率の極大ピークが存在し、360nm近傍に透過率の極小ピークが存在している。これらの吸光度比は、1.9と小さい。吸収スペクトルの凹凸が比較的小さいことから、本実施例の透明電極積層体は、360nm付近の近紫外線を用いたデバイスにも好適に用いることができる。
【0046】
<比較例1>
硫黄蒸気で処理しない以外は実施例1と同様にして、本比較例の透明電極積層体を作製する。本比較例の透明電極積層体の写真を図6に示す。白濁が確認されており、光散乱が大きいことがわかる。得られた透明電極積層体は、スペキュラー透過率が73%(550nm)であり、表面抵抗は6Ω/□である。
【0047】
図7に、本比較例の透明電極積層体のスペキュラー透過スペクトルを示す。320nm近傍に透過率の極大ピークが存在し、360nm近傍には透過率の極小ピークが存在している。これらの吸光度比は3.0であり、実施例1の場合より大きい。こうした透明電極積層体は、360nm付近の近紫外線を用いたデバイスには適切ではない。
【0048】
<実施例2>
透明基板11としてポリメチルメタクリレート(PMMA)基板を用いて、図3に示す構成の透明電極積層体を作製する。電極層13の材料としては、平均直径60nmの銀ナノワイヤーのメタノール分散液を用いる。分散液中における銀ナノワイヤーの濃度は、0.3質量%程度である。ここでの銀ナノワイヤーは、Seashell Technology社製のものである。
【0049】
まず、転写用基板として、実施例1と同様に親水性処理されたガラス基板を用意し、この上に実施例1と同様の手法により銀ナノワイヤーの三次元網目構造を形成する。銀ナノワイヤーの三次元網目構造が形成されたガラス基板をガラス製反応容器に収容し、80℃の大気中で6分間、銀ナノワイヤーを硫黄蒸気と反応させる。銀ナノワイヤー表面の一部が硫化して、本実施例の透明電極積層体における電極層が形成される。透明電極積層体における電極層の厚さは、110nm程度である。
【0050】
PMMAを酢酸エチルに溶解して5質量%の溶液を調製し、基板材料溶液を得る。この溶液を電極層の上に塗布し、減圧下乾燥する。具体的には、ドライアイス冷却されたトッラプを備えた油回転式真空ポンプにより乾燥して酢酸エチルを除去し、PMMA膜が電極層上に形成される。硫黄処理された銀ナノワイヤーの三次元網目構造を含む電極層とともに、水中でPMMA膜をガラス基板から剥離することによって電極層が、PMMA膜上に転写される。PMMA膜の他方の面には、スパッタリングによりSiO2膜を成膜して反応抑制層を形成し、本実施例の透明電極積層体を得る。
【0051】
本実施例の透明電極積層体は、実施例1の場合と同様に目視により白濁が認識されず、光散乱が少ない。スペキュラー透過率は92%(550nm)であり、表面抵抗は80Ω/□である、スペキュラー透過スペクトルにおいては、320nm近傍の透過率極大ピークと360nm近傍の透過率極小ピークとの吸光度比は、2.4である。この程度の吸光度比であれば、360nm付近の近紫外線を用いたデバイスにも好適に用いることができる。
【0052】
<比較例2>
硫黄蒸気で処理しない以外は実施例2と同様にして、本比較例の透明電極積層体を作製する。得られた透明電極積層体は、スペキュラー透過率が92%(550nm)であり、表面抵抗は30Ω/□であるものの、比較例1の場合と同程度の白濁が確認される。したがって、本比較例の透明電極積層体は、光散乱は抑制されていない。
【0053】
また、スペキュラー透過スペクトルにおいては、320nm近傍の透過率極大ピークと360nm近傍の透過率極小ピークとの吸光度比は4.5である。比較例1の場合よりも吸光度比が大きいので、本比較例の透明電極積層体は、360nm付近の近紫外線を用いたデバイスには適切ではない。
【0054】
<実施例3>
透明基板11として厚さ0.5mmのガラス基板を用いて、図1に示す構成の透明電極積層体を作製する。電極層13の材料としては、平均直径90nmの銅ナノワイヤーのメタノール分散液を用いる。分散液中における銅ナノワイヤーの濃度は、0.2質量%程度である。銅ナノワイヤーは、特開2004−263318号公報に基いて作製する。
【0055】
実施例1の場合と同様の手法によりガラス基板の表面の親水性を高め、このガラス基板上には、銅ナノワイヤーの分散液を滴下し、自然拡散させて塗布膜を形成する。
【0056】
60℃のアルゴン気流下で1時間乾燥することによって、塗布膜からメタノールが除去されて銅ナノワイヤーの三次元網目構造が得られる。実施例1と同様の手法により銅ナノワイヤー表面の一部を硫化して、本実施例の透明電極積層体を得る。透明電極積層体における電極層の厚さは、170nm程度である。
【0057】
本実施例の透明電極積層体は、スペキュラー透過率は60%(550nm)であり、表面抵抗は20Ω/□である。また、目視により観察したところ、実施例1の場合と同様に白濁は認識されず、本実施例の透明電極積層体は光散乱が少ない。
【0058】
<比較例3>
硫黄蒸気で処理しない以外は実施例3と同様にして、本比較例の透明電極積層体を作製する。本比較例の透明電極積層体は、スペキュラー透過率が60%(550nm)であり、表面抵抗は30Ω/□であるものの、比較例1と同程度の白濁が生じて光散乱が大きい。
【0059】
<実施例4>
実施例1と同様にして、銀ナノワイヤーの三次元網目構造をガラス基板上に形成する。銀ナノワイヤーの三次元網目構造が形成されたガラス基板をUVオゾン洗浄装置に収容し、UVを照射しつつ、銀ナノワイヤーをオゾン蒸気と10分間反応させる。ここで用いるUV光源は低圧水銀灯であり、オゾン蒸気は空気中の酸素の反応により発生させる。銀ナノワイヤー表面の一部が酸化して、本実施例の透明電極積層体が得られる。透明電極積層体における電極層の厚さは、200nm程度である。
【0060】
本実施例の透明電極積層体は、スペキュラー透過率が75%(550nm)であり、表面抵抗は20Ω/□である。また、目視により観察したところ、実施例1の場合と同様に白濁は認識されず、本実施例の透明電極積層体は光散乱が少ない。
【0061】
<実施例5>
実施例1と同様にして、銀ナノワイヤーの三次元網目構造をガラス基板上に形成する。銀ナノワイヤーの三次元網目構造が形成されたガラス基板をガラス製反応容器に収容し、室温下、銀ナノワイヤーを塩素・窒素の混合ガスと10分間反応させる。銀ナノワイヤー表面の一部が塩化して、本実施例の透明電極積層体が得られる。透明電極積層体における電極層の厚さは、200nm程度である。
【0062】
本実施例の透明電極積層体は、スペキュラー透過率が80%(550nm)であり、表面抵抗は30Ω/□である。また、目視により観察したところ、実施例1の場合と同様に白濁は認識されず、本実施例の透明電極積層体は光散乱が少ない。
【0063】
<実施例6>
まず、Cu箔を下地触媒層として用いて、窒素置換された単層グラフェンをCVD法により作製する。反応ガスとして、アンモニア、メタン、水素、およびアルゴンの(15:60:65:200ccm)混合ガスを用い、1000℃で5分間のCVDを行なう。得られるグラフェンのほとんどは単層グラフェンであるが、条件によっては、一部に二層またはこれ以上の多層のグラフェンも生成する。
【0064】
さらに、アンモニアとアルゴンとの15:200ccm混合気流下1000℃で5分処理した後、アルゴン気流下で冷却する。Cu箔表面は、レーザー照射による加熱処理を施すことによって、事前にアニールして結晶粒を大きくしておく。これによって、得られるグラフェンドメインのサイズが大きくなり、導電性が高められる。熱転写フィルムとしての表面がシリコーン樹脂でコートされた膜厚150μmのPETフィルムと単層グラフェンとを圧着した後、下地触媒層を構成しているCuを溶解して、単層グラフェンを転写フィルム上に転写する。Cuを溶解させるにあたっては、アンモニアアルカリ性の塩化第二銅エッチャントに浸漬する。同様の操作を繰り返すことによって、四層の単層グラフェンが転写フィルム上に積層される。
【0065】
グラフェンにおける窒素のドーピング量(N/C原子比)は、X線光電子スペクトル(XPS)で見積もることができる。ここで得られたグラフェンにおいては、窒素のドーピング量は1〜2atm%である。
【0066】
グラフェンの四層積層膜の上には、実施例1と同様の手法により銀ナノワイヤーの三次元網目構造を形成する。銀ナノワイヤーの三次元網目構造が形成されたグラフェンを有する転写フィルムをガラス製反応容器に収容し、実施例1と同様の手法により銀ナノワイヤー表面の一部を硫化して、本実施例の透明電極積層体における電極層を形成する。本実施例における電極層は、硫黄処理された銀ナノワイヤーの三次元網目構造と、グラフェンとを含む。
【0067】
PMMAを酢酸エチルに溶解して5質量%の溶液を調製し、基板材料溶液を得る。この溶液を電極層の上に塗布し、減圧下乾燥する。具体的には、ドライアイス冷却されたトッラプを備えた油回転式真空ポンプにより乾燥して酢酸エチルを除去し、PMMA膜が電極層上に形成される。転写フィルムからPMMA膜を剥離することによって、硫黄処理した銀ナノワイヤーの三次元網目構造とグラフェンとを含む電極層が、PMMA膜上に転写される。PMMA膜の他方の面には、スパッタリングによりSiO2膜を成膜して反応抑制層を形成し、本実施例の透明電極積層体を得る。
【0068】
本実施例の透明電極積層体は、スペキュラー透過率は60%(550nm)であり、表面抵抗は10Ω/□である。目視により観察したところ、実施例1の場合と同様に白濁は認識されず、本実施例の透明電極積層体は光散乱が少ない。原子間力顕微鏡(AMF)による観察したところ、表面の凹凸は10nm以下と平坦である。
【0069】
<実施例7>
実施例1と同様の銀ナノワイヤーのメタノール分散液を用意し、以下のような手法により銀ナノワイヤーの表面の一部を硫化させる。まず、硫化鉄に希硫酸を反応させて、発生する硫化水素ガスを純水に溶解させ硫化水素水を得る。メススリンダーを用いて、硫化水素水を銀ナノワイヤーのメタノール分散液に加え、オイルバスにより分散液の温度を40℃に高めて反応させる。5分後、銀ナノワイヤーの表面の一部が硫化して反応生成物(硫化銀)が生じる。
【0070】
実施例1と同様の手法により表面の親水性を高めたガラス基板を用意し、一部表面に硫化銀が生じた銀ナノワイヤーの分散液を、そのガラス基板上に滴下して塗布膜を形成する。60℃のアルゴン気流中で1時間乾燥することによって塗布膜中からメタノールが除去され、硫化処理された銀ナノワイヤーの三次元網目構造が得られる。この三次元網目構造は、本実施例の透明電極積層体における電極層となり、こうして本実施例の透明電極積層体が作製される。
【0071】
本実施例の透明電極積層体は、スペキュラー透過率が80%(550nm)であり、表面抵抗は100Ω/□である。また、目視により観察したところ、実施例1の場合と同様に白濁は認識されず、本実施例の透明電極積層体は光散乱が少ない。
【0072】
<実施例8>
実施例3と同様の銅ナノワイヤーのメタノール分散液を用意し、以下のような手法により銅ナノワイヤーの表面の一部を硫化させる。まず、硫化鉄に希硫酸を反応させて、発生する硫化水素ガスを純水に溶解させ硫化水素水を得る。メスシリンダーを用いて、硫化水素水を銅ナノワイヤーのメタノール分散液に加え、オイルバスにより分散液の温度を40℃に高めて反応させる。3分後、銅ナノワイヤーの表面の一部が硫化して反応生成物(硫化銅)が生じる。
【0073】
実施例3と同様の手法により表面の親水性を高めたガラス基板を用意し、一部表面に硫化銅が生じた銅ナノワイヤーの分散液を、そのガラス基板上に滴下して塗布膜を形成する。60℃のアルゴン気流中で1時間乾燥することによって塗布膜中からメタノールが除去され、硫化処理された銅ナノワイヤーの三次元網目構造が得られる。この三次元網目構造は、本実施例の透明電極積層体における電極層となり、こうして本実施例の透明電極積層体が作製される。
【0074】
本実施例の透明電極積層体は、スペキュラー透過率が65%(550nm)であり、表面抵抗は200Ω/□である。また、目視により観察したところ、実施例1の場合と同様に白濁は認識されず、本実施例の透明電極積層体は光散乱が少ない。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0076】
10…透明電極積層体; 10’…透明電極積層体; 11…透明基板
12…反応抑制層; 13…電極層; 21…金属ナノワイヤー
22…三次元網目構造; 23…反応生成物; 24…空隙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、
前記透明基板上に形成された光透過性の電極層とを具備し、
前記電極層は、直径が20nm以上200nm以下の金属ナノワイヤーの三次元網目構造を含み、それぞれの金属ナノワイヤーは表面の一部に、前記金属ナノワイヤーを構成する金属の反応生成物を有することを特徴とする透明電極積層体。
【請求項2】
前記金属ナノワイヤーの材質は銀および銅からなる群から選択され、前記反応生成物は、硫化物、酸化物、およびハロゲン化物から選択されることを特徴とする請求項1に記載の透明電極積層体。
【請求項3】
前記金属ナノワイヤーの材質は銀であり、スペキュラー透過スペクトルにおいて320nm近傍の透過率極大ピークと350nm近傍の透過率極小ピークとの吸光度比が2.5以下であることを特徴とする請求項2に記載の透明電極積層体。
【請求項4】
前記電極層は、前記金属ナノワイヤーの三次元網目構造の少なくとも一方の面に設けられた単層グラフェンおよび/または多層グラフェンを含有するカーボン層をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の透明電極積層体。
【請求項5】
前記透明基板の材質は有機材料であり、前記透明基板は前記金属ナノワイヤーの反応を抑制する反応抑制層を、少なくとも一方の表面に有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の透明電極積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−73746(P2013−73746A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211012(P2011−211012)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】