説明

透明電波吸収パネル

【課題】主に電波による通信が行われる道路に沿って設置される透明電波吸収パネルに関し、溶接を不要とし、簡易な構造で、必要な部材点数が少なく、安価であり、しかもパネル全体の強度を十分に確保する透明電波吸収パネルを提供する。
【解決手段】透明電波吸収パネル1は、L形部材で成る縦フレーム2及び横フレーム3の端部同士をリベット6止め、及び/又はボルト8・ナット止めにより接合して構成された枠体4と、枠体4の前面に取り付けられた透明な電波吸収板7とから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に電波による通信が行われる道路に沿って設置される透明電波吸収パネルの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路の側壁に沿って構築される遮音壁等に、景観性・視界性の優れた透明なパネル板が使用されている。また、車両合流地点付近等の仕切壁にも使用して、隣接車線の見通しを良くして交通事故を未然に防いでいる。
ところで近年、道路に設置したセンサー等から車や障害物等の道路上の情報を、無線通信を利用して収集し、走行の支援を行う走行支援システム(Advanced Cruise−Assist Highway System)や、自動料金収受システム(Electronic Toll Collection System、以下単にETCと云う。)などの導入により、道路上には多くの電波が行き交うようになってきている。そのため、前記仕切壁や遮音壁のほか中央分離帯や防護柵の金属部分が多重反射を生じさせて前記システムの制御に大きな悪影響を及ぼすことが懸念されている。
【0003】
上記の点から透明な電波吸収板を用いて透視性を確保しつつも、不要電波を十分に吸収できる透明電波吸収パネルが早急に求められている。上記の要請に応える技術が下記の特許文献に開示され、実用に供されている。
【0004】
特許文献1には、図8の側面図に示すように、仕切壁に透明な電波吸収板80を用い、前記電波吸収板80の強度を十分に確保する横梁81及び同横梁81と支柱83間の間隔を自在に調整するスペーサー82を介して同支柱83にボルト接合された透明電波吸収仕切壁が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、周囲にアルミニウム製の金属枠体を取り付けた透明な電波吸収板を用いた技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−289220号公報
【特許文献2】特開2003−218581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の技術は、図8に示すように、透明な電波吸収板80と横梁81とをボルト接合し、横梁81とスペーサー82とをボルト接合し、更に同スペーサー82と支柱83とをボルト接合するという複雑な取り付け構造となり、取り付け作業の効率が悪く、部材点数の多さからコストが嵩む。
【0008】
特許文献2の技術は、電波吸収板の全周を取り囲むようにアルミニウム製の金属枠体を取り付けているが故に、透視性と意匠感の良さを阻害するほか、同枠材の金属部分が電波を多重反射する虞がある。その対策として枠体前面の全てに電波吸収シートを貼るなどの面倒な処理が必要でコストも嵩む。
【0009】
本発明の目的は、L形部材で成る横フレームと縦フレームとをリベット止め及び/又はボルト・ナット止めにより接合して、溶接を不要とし、簡易な構造で、必要な部材点数が少なく、安価であり、しかもパネル全体の強度を十分に確保する透明電波吸収パネルを提供することにある。
【0010】
本発明の次の目的は、枠体の内周辺の隙間から電波が漏洩することを防止し、更に壁体全体の電波吸収能力及び意匠的美観を向上させる透明電波吸収パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した従来技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した透明電波吸収パネルは、
道路の側壁に沿って複数立設した支柱に支持される透明電波吸収パネルにおいて、
透明電波吸収パネルは、L形部材で成る縦フレーム及び横フレームの端部同士をリベット止め、及び/又はボルト・ナット止めにより接合して構成された枠体と、前記枠体の前面に取り付けられた透明な電波吸収板とから成ることを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載した透明電波吸収パネルにおいて、
L形部材で成る縦フレームの前面辺と横フレームの前面辺の端部とは重ね合わせ接合されていることを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載した透明電波吸収パネルにおいて、
L形部材で成る横フレームの前面辺は前記縦フレームの前面辺の位置まで延長され、同横フレームの水平辺の端部は内側に向かって直角に屈曲され、L形部材で成る縦フレームの前面辺を前記横フレームの前面辺の延長部に重ね合わせ、同縦フレームの側面辺は前記横フレームの水平辺の屈曲部に重ね合わせ、各々の重ね合わせ部をリベット止め又はボルト・ナット止めで接合されて枠体が構成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一に記載した透明電波吸収パネルにおいて、
透明な電波吸収板は、少なくとも縦フレームの前面辺にかかる大きさに形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る透明電波吸収パネルは、以下の効果を奏する。
請求項1又は3に記載した発明に係る透明電波吸収パネルは、L形部材で成る縦フレーム及び横フレームの端部同士をリベット止め及び/又はボルト・ナット止めで接合して枠体を構成し、その前面に電波吸収板を取り付けるので、溶接が一切不要となり、溶接熱による製品の歪みや変形の虞がないので、両フレームに入熱による損傷を受けやすい表面処理鋼板や、屋外に適した高耐食性めっき鋼版を採用できる。
【0016】
また、上記のような簡単な構造で実施できるので、熟練者を必要とせずとも誰でも組み立て可能となり、作業効率が向上する。また、部材点数が少なくコストの低減が図れる。
【0017】
更に、L形部材で成る横フレームの前面辺を縦フレームの前面辺の位置まで延長して重ね合わせたので、この重ね合わせ部が剪断力を受け持つ。同横フレームの水平辺の端部は内側に向かって直角に屈曲して縦フレームの側面辺と重ね合わせたので、パネル全体にかかる曲げ応力を横フレームのみならず縦フレームにも伝達させて、パネルの面圧に対する強度を向上できる。
【0018】
請求項2及び4記載の発明に係る透明電波吸収パネルは、L形部材で成る縦フレームの前面辺と横フレームの前面辺の端部とを重ね合わせて接合し、縦フレームが横フレームの前面に突き出ないフラットな前面構成としたので、支柱との取り付け部においても縦フレームが電波吸収板の前面に突き出ることが無い。したがって、電波吸収板の横幅を少なくとも縦フレームと横フレームの前面辺にかかる大きさに形成したり、或いは支柱の一部を隠蔽する大きさに形成して、電波吸収面積を拡大でき、枠体の隙間等から背面への電波の漏洩を抑制でき、電波吸収能力を向上できるし、意匠的美観も良好にできる。のみならず、電波吸収シートを枠体のフレームに貼る必然性が無くなり、部材点数を更に減らしてコストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、道路の側壁に沿って複数立設した支柱10…に支持される透明電波吸収パネル1である。
前記透明電波吸収パネル1は、L形部材で成る縦フレーム2と横フレーム3の端部同士をリベット止めにより接合して形成した枠体4と、前記枠体4の前面に取り付けられた透明な電波吸収板7とから成る。
【実施例1】
【0020】
以下に、図面に基づいて本発明の実施例を説明する。図1は本発明の透明電波吸収パネル1の全体斜視図を示し、図2〜図3に各部分の詳細を示した。
この透明電波吸収パネル1は、道路の側壁に沿い間隔をあけて複数立設された支柱10…に支持されるもので、道路の合流地点の仕切壁として、又はETCの近傍に好適に実施される。
前記透明電波吸収パネル1は、鋼材を使用したL形部材(又はアングル材とも云う。)で成る縦フレーム2と横フレーム3の端部同士をリベット6で上下左右を接合して形成した枠体4と、同枠体4の前面に取り付けた透明な電波吸収板7とで構成されている。特に、枠体4はL形部材で成る縦フレーム2の前面辺20と、横フレーム3の前面辺30の延長部30aとを重ね合わせて、縦フレーム2が横フレーム3の前面に突き出ないフラットな前面形状に構成している(請求項2記載の発明)
【0021】
次に前記枠体4の具体的構成について説明する。枠体4を形成する横フレーム3は、図2Aに示す正面図、及び図2Bに示す側面図、並びに図2Cに示すA−A矢視平面図のとおり、その前面辺30が前記縦フレーム2の前面辺20の位置まで延長されており、同縦フレーム2の前面辺20と横フレーム3の前面辺30の延長部30aとを重ね合わせて接合している。重ね合わせた横フレーム3の前記延長部30aと縦フレーム2の前面辺20の端部には、支柱10へボルト止めする水平方向に長い切り欠き孔部5、5がそれぞれ共通形状に設けられており、同切り欠き孔部5、5を一致させて重ね合わされている。上記の重ね合わせ部は予めリベット6で接合されている。但し、ボルト止めによる接合、又はリベット止めとボルト止めの混合接合も実施できる(以下、単にリベット止めと説明する)
【0022】
前記枠体4を形成する横フレーム3の水平辺31の端部には、内側に向かって直角に屈曲させた屈曲部31aが形成されており、縦フレーム2の側面辺21と前記屈曲部31aとを重ね合わせ、リベット6により接合して枠体4が構成されている。
【0023】
上記の構成とされた枠体4の前面に、透明な電波吸収板7が取り付けられている。取り付け構造としては、上下に配置された横フレーム3、3の前面辺30の長手方向に、一定の間隔をあけて設けられたボルト孔300と、前記電波吸収板7の上下の長手方向に、同じく一定の間隔をおいて設けられたボルト孔700とを一致させ、ボルト8により強固に接合される(図2C参照)。但し、前記電波吸収板7と縦フレーム2との間にリング材80が介在されている。前記リング材80とは例えばエチレンプロピレンゴムである。
【0024】
また、前記縦フレーム2の側面辺21の上下方向の略中間位置に、同側面辺21と電波吸収板7の各辺に沿うL字形状の補強材9が、その側面辺90とリベット6で取り付けられ、同補強材9の前面辺91に設けられたボルト孔91aと、電波吸収板7の左右端の中間位置に設けられたボルト孔710とを一致させ、上記ボルト8により強固に接合して透明電波吸収パネル1を完成させる。勿論、電波吸収板7の左右端の中間位置ではボルト接合を行わず実施することもできる。
しかる後に、上記透明電波吸収パネル1の縦フレーム2の前面辺20(及び横フレーム3の延長部30a)が支柱10の前面に配置され、上記切り欠き孔部5と、支柱10に予め設けられたボルト孔(図示省略)とを一致させ、ボルト11により同支柱10に取り付ける。この際、切り欠き形状の範囲内で電波吸収板7を水平方向に移動させて適切な取り付け位置に調整する(図1参照)。
【0025】
本発明は、上述したように、横フレーム3の前面辺30の延長部30aと縦フレーム2の前面辺20とを重ね合わせて、縦フレーム2が横フレーム3の前面に出ないフラットな前面構成とし(図2C及び図3参照)、支柱10の取り付け部においても縦フレーム2が上記電波吸収板7の前面側に出ることがない。したがって、電波吸収板7を、少なくとも縦フレーム2の前面辺20の一部にかかる範囲まで伸ばした構成で実施することができる(請求項4記載の発明)。かくすると、枠体4の内周辺の隙間から電波が漏洩することを防止できる。
図示例の電波吸収板7は縦フレーム2の前面辺20及び支柱10の前面側の金属部分を覆うことなく露出させている。前記金属部分が電波を多重反射することを防止するべく樹脂又はシリコーンゴム等の電波吸収シート12(図1参照)を貼り付けて実施する。また、図4に示すように、電波吸収板7を縦フレーム2の前面辺20の全てを覆う範囲まで伸ばすことで、電波吸収面積を拡大させて電波吸収能力を向上させ、且つ意匠感を良好にできる。その際、上記電波吸収シート12を貼り付ける必然性はない。前記電波吸収板7は上記切り欠き孔部5の位置に合わせて、支柱取り付け用のボルト孔720を設けている。
【0026】
のみならず、図示することは省略したが、電波吸収板7の横幅(横寸)を更に長手方向に延長して支柱10の一部を隠蔽する大きさに形成して実施することもできる。
【0027】
次に、本発明の透明電波吸収パネル1の強度実験を行った。以下にその実験方法と実験結果について説明する。
実験に使用する試験体としては、従前のL型鋼で成る横フレームと縦フレームの突き合わせ部を隅肉溶接して形成した枠体の前面に電波吸収板を取り付けた電波吸収パネルX(以下、試験体Xと云う(図6A)。)と、本発明の透明電波吸収パネル1(以下、試験体Yとも云う(図7A)。)を使用した。
実験方法としては、図5に示すように、左右に配置されH型鋼によりその高さを調整した台座50の上に上記試験体(X、Y)の縦フレームを電波吸収板が上面を向くように載置したのち、同電波吸収板の上面におもり板51を順に載荷し、同電波吸収板7のたわみ量を、試験体(X、Y)直下の略中央部に設置した変位計52及びデジタル変位表示計53で測定した。
【0028】
試験体Xの強度測定結果を図6Bに示した。対する本発明の試験体Yの強度測定結果を図7Bに示した。
載荷量3KN/mのときのたわみ量を比較すると、試験体Xは10mmであるのに対し、本発明の試験体Yは5mmと半分の値になっていることが分かる。つまり、本発明の透明電波吸収パネルY(1)は溶接接合による試験体Xの2倍の強度を有しているということである。
【0029】
つまり、本発明の透明電波吸収パネル1(又は試験体Y)は、前記縦フレーム2の前面辺20と横フレーム3の前面辺30の延長部30aとを重ね合わせたので、その重ね合わせ部が剪断力を受け持つ。また、横フレーム3の水平辺31の端部は内側に向かって直角に屈曲させて屈曲部31aが形成され、同屈曲部31aと同縦フレーム2の側面辺21とを重ね合わせたので、パネル全体にかかる曲げ応力が横フレーム3のみならず縦フレーム2にも伝達されて、パネルの面圧に対する強度が飛躍的に向上されるのである。
対して枠体を溶接接合する試験体Xは、パネルにかかる剪断応力を溶接部のみが受け持つため当然強度は落ちてしまう。更に図6Bの実験結果を得るためには強度計算によれば横フレームのL断面の全周の少なくとも40%以上の溶接長を確保する必要がありコストもかかる。したがって、本発明の透明電波吸収パネル1を実施すると高い強度とコストの低減を期待できるのである。
【0030】
以上に実施形態を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の実施形態の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために付言する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る透明電波吸収パネルの構成を概略的に示した斜視図である。
【図2】Aは縦フレームと横フレームの接合辺を拡大した正面図である。BはAの側面図である。CはAのA−A矢視平面図である。
【図3】図2AのB−B断面図である。
【図4】本発明の他の実施例を示す参考図である。
【図5】強度実験を行う実験装置の概略を示した参考図である。
【図6】Aは試験体Xの平面図である。Bは試験体Xの実験結果を示したグラフである。
【図7】Aは試験体Yの平面図である。Bは試験体Yの実験結果を示したグラフである。
【図8】従来例を示す参考図である。
【符号の説明】
【0032】
1 透明電波吸収パネル
2 縦フレーム
20 前面辺
21 側面辺
3 横フレーム
30 前面辺
30a 延長部
31 水平辺
31a 屈曲部
4 枠体
6 リベット
7 透明な電波吸収板
8 ボルト
10 支柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路の側壁に沿って複数立設した支柱に支持される透明電波吸収パネルにおいて、
透明電波吸収パネルは、L形部材で成る縦フレーム及び横フレームの端部同士をリベット止め、及び/又はボルト・ナット止めにより接合して構成された枠体と、前記枠体の前面に取り付けられた透明な電波吸収板とから成ることを特徴とする、透明電波吸収パネル。
【請求項2】
L形部材で成る縦フレームの前面辺と、横フレームの前面辺の端部とは重ね合わせ接合されていることを特徴とする、請求項1に記載した透明電波吸収パネル。
【請求項3】
L形部材で成る横フレームの前面辺は前記縦フレームの前面辺の位置まで延長され、同横フレームの水平辺の端部は内側に向かって直角に屈曲され、L形部材で成る縦フレームの前面辺を前記横フレームの前面辺の延長部に重ね合わせ、同縦フレームの側面辺は前記横フレームの水平辺の屈曲部に重ね合わせ、各々の重ね合わせ部をリベット止め又はボルト・ナット止めにより接合して枠体が構成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載した透明電波吸収パネル。
【請求項4】
透明な電波吸収板は、少なくとも縦フレームの前面辺にかかる大きさに形成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載した透明電波吸収パネル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−214422(P2007−214422A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33618(P2006−33618)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)
【Fターム(参考)】