説明

透析液給排装置

【課題】チャンパの切替異常等の作動不良を発生させることがない、安定した作動が可能な改良されたチャンバ方式の透析液給排装置を提供する。
【解決手段】膨出方向が反転可能な球面状の膨出部を有する可撓性チャンバ膜と、該チャンバ膜の両面側に配置され、前記球面状膨出部に対応する球面状の凹部を有する一対のチャンバピースとを備え、該一対のチャンバピースの球面状凹部同士を対面配置して内部にチャンバ膜の球面状膨出部の膨出方向の反転が可能な膜作動空間を形成するとともに、該膜作動空間に対し給排口を設けた、血液透析装置におけるチャンバ方式の透析液給排装置において、チャンバ膜の球面状膨出部の中心位置を、チャンバピースの球面状凹部の中心位置に対し、給排口が存在する位置とは反対の方向に所定量オフセットしたことを特徴とする透析液給排装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液透析装置における透析液給排装置に関し、とくに、可撓性チャンバ膜を用いた、いわゆるチャンバ方式の透析液給排装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明で改良の対象としているチャンバ方式の透析液給排装置を用いた血液透析装置が知られている(例えば、特許文献1)。この血液透析装置は、例えば図1に示すように構成されている。図1は、通常の血液透析時の一状態を例示しており、図1において、1は、例えば中空糸等からなる透析膜2を備えた血液透析要素(ダイアライザー)を示しており、血液透析要素1では、患者の体内との間で血液を循環させる血液回路3と透析液を流通させる透析液回路4との間で透析膜2を介して血液透析を行う。血液回路3は、患者の動脈側に接続される動脈側血液回路5と静脈側に接続される静脈側血液回路6からなる。透析液回路4内には、膨出方向が反転可能な球面状の膨出部を有する、例えばシリコン系ゴム等の弾力性を有する材料からなる可撓性チャンバ膜11、12と、各チャンバ膜11、12の両面側に配置され、球面状の膨出部に対応する球面状の凹部を有する一対のチャンバピース13a、13bと14a、14bとを備え、該一対のチャンバピース13a、13bと14a、14bの球面状凹部同士を対面配置して内部にチャンバ膜11、12の球面状膨出部の膨出方向の反転が可能な膜作動空間を形成するとともに、該膜作動空間に対し該膜作動空間に臨む給排口を設けた、チャンバ方式の透析液給排装置15、16(以下、単にチャンバと言うこともある。)が設けられている。チャンバ15、16内の膜作動空間は、チャンバ膜11、12によってその両側の小室に区画され、図示例では、チャンバ15が新鮮透析液側小室17aと使用済み透析液側小室17bに、チャンバ16が新鮮透析液側小室18aと使用済み透析液側小室18bに、それぞれ区画されている。
【0003】
血液透析時には、例えば図1に示すように、チャンバ16の新鮮透析液側小室18aに収容されている新鮮透析液がチャンバ膜12に押し出され血液透析要素1内に送液されて血液透析が行われ、使用済み透析液が使用済み透析液側小室18bに戻される。この回路は密閉系回路に形成され、送液量と戻り量は、実質的に同じで、球面状膨出部の膨出方向の反転が可能なチャンバ膜12の移動量(移動による各小室の容積変化量)に相当している。この透析液の循環は、戻り側回路に設けられた循環ポンプ21によって行われる。また、この透析液回路4には、フロースイッチ22が設けられており、循環ポンプ21の上流側には、除水ポンプ23が接続されており、患者体内からの余剰の水分を、例えばメスシリンダ24内へと除去できるようになっている。チャンバ16側を血液透析に使用している際に、チャンバ15側では、その新鮮透析液側小室17a内に、脱気ポンプ25によりフロースイッチ26を介して新鮮透析液が供給され、新鮮透析液側小室17a内が新鮮透析液で満たされる。同時に、使用済み透析液側小室17bに収容されていた使用済み透析液は、排液回路27を介して、系外に排出される。チャンバ15、16の新鮮透析液側小室17a、18aと使用済み透析液側小室17b、18bに対しては、それぞれ、一対の切替弁28(ノーマルクローズド2方電磁弁)が配置されており、各切替弁28のオンオフ動作によって、血液透析に供されるチャンバと新鮮透析液を受け入れるチャンバとが交互に切替可能となっている。この切替により、血液透析要素1への透析液の供給を実質的に連続的に行うことができるようになっている。
【0004】
上記のようなチャンバ方式の透析液給排装置15、16は、上述の如く、膨出方向が反転可能な球面状の膨出部を有する可撓性チャンバ膜11、12と、各チャンバ膜11、12の両面側に配置され、球面状の膨出部に対応する球面状の凹部を有する一対のチャンバピース13a、13bと14a、14bとから構成されるが、図6に、透析液給排装置15の半断面を例示するように、可撓性チャンバ膜11の球面状の膨出部51に対応するようにチャンバピース13bの球面状の凹部52が対面配置され、チャンバ膜11の球面状膨出部51とチャンバピース13bの球面状凹部52との間に、容積が拡大、縮小可能な新鮮透析液側小室17aが形成されるようになっている。この新鮮透析液側小室17aに対しては、新鮮透析液を給排する給排口53が新鮮透析液側小室17aに臨むようにチャンバピース13bに接続されている。図示を省略したが、反対側のチャンバピース13aには、使用済み透析液側小室17bに対して使用済み透析液を給排する給排口が使用済み透析液側小室17bに臨むように接続されている。透析液給排装置16側についても、同様に構成されている。このように構成されたチャンバ方式の透析液給排装置15、16において、チャンバ内の膜作動空間内での、球面状膨出部の膨出方向反転を伴うチャンバ膜の移動動作により、新鮮透析液の給排と使用済み透析液の給排とが同時に行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−093193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような基本構成を有する透析液給排装置においては、現状、以下のような問題がある。すなわち、例えば図6に示した形態で、チャンバ膜11の球面状膨出部51がさらに膨出されると、やがてチャンバ膜11が球面状凹部52に当接し、図6における上部側では、膨出されてきたチャンバ膜11が、給排口53の新鮮透析液側小室17a内への開口部(流路開口部)に当接する。このとき、現行のシリコン系ゴムからなるチャンバ膜のままでは、チャンバ膜が流路開口部に当接するかしないかの状態において、異音(ビビリ音)が発生することがあるため、流路開口部に当接するチャンバ膜部分にディンプル加工を施し、異音の発生を防止するようにしているが、ディンプル加工によりその部分の耐久性が局部的に低下し、当該部分に亀裂が入りやすくなって膜の寿命の低下を引き起こしている。ビビリ音発生の原因としては、チャンバ膜11の球面状膨出部51を形成する部分がチャンバピース13bの球面状凹部52を形成する部分よりも一回り小さく形成されているので、チャンバ膜11が膨出されチャンバ膜11が引っ張られた状態で膜にストレスがかかり、そのストレスと給排口の流路開口部を通して給排される透析液の受入れまたは排出圧力との力バランスが、丁度上記チャンバ膜が流路開口部に当接するかしないかの状態において不安定になり、膜が微小振動してビビリ音が発生すると考えられる。ビビリ音の発生を防止するために、上記の如く膜上部にデインブル加工を施したが、さらに、そこに引張り応力がかかりやすくなったため、亀裂の発生が促進されたものと考えられる。
【0007】
対策として、チャンバ膜の耐薬品性向上も併せて狙い、チャンバ膜の材質をシリコン系ゴムからフッ素系ゴムに変更するとともに、そのチャンバ膜の形状、とくに球面状膨出部の外径サイズをチャンバピースの形状、とくに球面状凹部の内径に合わせ、膜の曲率を変更したチャンバ膜(曲率変更フッ素系チャンバ膜)を製作したが、耐薬品性の向上と鼻音は解消できたものの、新たな問題点が発生した。すなわち、通常作動における液の受入時には膜が反対側チャンバピース壁面側に徐々に押され、液が満たされると膜がチャンバピース壁面に当摸するが、上記曲率変更フッ素系ゴムからなるチャンバ膜では、液の受入れや排出の中途でチャンパ膜が流路開口部を塞いでしまうため、作動不良(チャンパの切替異常)を発生することがある。そこで、上記曲率変更フッ素系ゴムからなるチャンバ膜からさらに進んだ改良構造を鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の課題は、チャンバ膜作動の際に異音の発生がなく、かつ、チャンバ膜が十分な耐久性を備えることが可能で、しかも、チャンパの切替異常等の作動不良を発生させることもない、安定した作動が可能な改良されたチャンバ方式の透析液給排装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る透析液給排装置は、膨出方向が反転可能な球面状の膨出部を有する可撓性チャンバ膜と、該チャンバ膜の両面側に配置され、前記球面状の膨出部に対応する球面状の凹部を有する一対のチャンバピースとを備え、該一対のチャンバピースの前記球面状凹部同士を対面配置して内部に前記チャンバ膜の球面状膨出部の膨出方向の反転が可能な膜作動空間を形成するとともに、該膜作動空間に対し該膜作動空間に臨む給排口を設けた、血液透析装置におけるチャンバ方式の透析液給排装置において、前記チャンバ膜の球面状膨出部の中心位置を、前記チャンバピースの球面状凹部の中心位置に対し、前記給排口が存在する位置とは反対の方向にオフセットしたことを特徴とするものからなる。
【0010】
このような本発明に係るチャンバ方式の透析液給排装置においては、チャンバ膜の球面状膨出部の中心位置が、チャンバピースの球面状凹部の中心位置に対し、反給排口設置側に所定量オフセットされるので、チャンバ膜移動時に、給排口設置側においては、チャンバ膜の球面状膨出部とチャンバピースの球面状凹部との間の隙間空間が、上記のオフセットが行われない場合に比べて、意図的に拡大されることになる。したがって、本発明に係る改良構造では、チャンバ膜の膨出が進行し、反給排口設置側においてチャンバ膜の球面状膨出部がチャンバピースの球面状凹部に当接した状態にあっても、給排口設置側においては、チャンバ膜の球面状膨出部とチャンバピースの球面状凹部との間に所定の隙間が確保される(残される)ことになり、膨出されてきたチャンバ膜が給排口を塞ぐことは確実に防止される(但し、チャンバ膜移動完了時には、給排口の流路開口部は閉塞される)。その結果、液の受入れや排出の中途でチャンパ膜が流路開口部を塞いでしまう不具合が確実に防止され、チャンバの切替異常等の作動不良を招くことも確実に防止され、安定した作動が確保される。また、給排口設置側において、チャンバ膜の球面状膨出部とチャンバピースの球面状凹部との間に所定の隙間が確保される結果、チャンバ膜が球面状凹部に当接するかしないかの、ビビリ音の発生しやすい状態が現出されることも回避され、異音の発生防止の点でも優れた性能が得られることになる。
【0011】
上記本発明に係る透析液給排装置においては、上記チャンバ膜の球面状膨出部の外径が、上記チャンバピースの球面状凹部の内径よりも小さく設定されている形態とすることが好ましい。このようにすることにより、上述の如く、チャンバ膜の球面状膨出部の中心位置を、容易に所定方向に所定量オフセットさせることができるようになり、そのような望ましい設計も容易に行うことができるようになる。
【0012】
また、上記チャンバ膜の球面状膨出部の上記給排口が存在する位置側の曲率半径が、該給排口が存在する位置側とは反対の位置側の曲率半径よりも大きく設定されていることが好ましい。すなわち、チャンバ膜の球面状膨出部は、完全な球面の一部をなす形状ではなく、チャンバ膜の成形段階で、可能であれば、曲率半径に差を持たせておくことが好ましい。このようにすれば、反給排口設置側においてチャンバ膜の球面状膨出部がチャンバピースの球面状凹部に当接する状態において、給排口設置側において、より確実に、チャンバ膜の球面状膨出部がチャンバピースの球面状凹部との間、とくに給排口との間に、所望の隙間空間を形成できるようになる。
【0013】
また、上記給排口は、膜作動空間に対し単なる一つの流路として開口させてもよいが、給排口の少なくとも一つ(つまり、新鮮透析液の給排口と使用済み透析液の給排口の少なくとも一つ)が、複数の小孔から形成されていることが好ましい。このように構成すれば、給排の際の液の流れを細かく分散させることができ、流れ状態を安定させて給排動作をより安定させることができるとともに、たとえチャンバ膜の球面状膨出部が局部的にチャンバピースの球面状凹部に近接し給排口の一部を塞ぎそうな状態になった場合にあっても、給排口の他の部分に存在する小孔からの流れが確保されているため、チャンバ膜が球面状凹部にくっついて給排口を塞いだりする事態の発生が防止されることになり、より確実に安定した給排動作を確保することが可能になる。
【0014】
上記チャンバ膜としては、所定の球面状膨出部反転動作を行うことが可能な可撓性チャンバ膜であればとくに限定しないが、上述した一連の動作をより安定して行わせるためには、弾力性を備えていることが好ましく、この面からは、上記チャンバ膜がゴムからなることが好ましい。とくに、耐薬品性および耐久性の面から、フッ素系ゴムからなることが好ましい。
【0015】
また、上記オフセットの量としては、膨出されたチャンバ膜の球面状膨出部が、一方のチャンバピースの、上記給排口が存在する位置側とは反対側に位置する球面状凹部に接したとき、上記給排口が存在する位置側においては、チャンバ膜の球面状膨出部とチャンバピースの球面状凹部との間にチャンバ膜の球面状膨出部の外径に対し1%〜20%に相当する寸法の隙間が形成されるように、設定されていることが好ましい。ただし、この隙間の具体的な数値は、チャンバのサイズおよびチャンバ膜のゴム弾性係数等に応じて決めればよく、現実的には、形状の異なる幾つかのチャンバ膜について試験を行い、最も良い結果が得られたものに設計すればよい。
【0016】
また、上記チャンバ膜が、上記球面状膨出部の周囲にフランジ状の取付部を有し、上記一対のチャンバピースが、このチャンバ膜の取付部を挟持する挟持部を有する構造とすれば、チャンバ膜の装着、装置全体の所定形態への組み付けを容易に行うことができる。この場合、とくに、上記取付部と上記挟持部が、互いに対応した形状に形成されていることが好ましい。なかでも、互いに対応した形状が、上記給排口が存在する位置側とその反対の位置側とを画する平面に対し、非対象の形状に形成されていることが好ましい。例えば、給排口が存在する位置側とは反対の位置側に、上記取付部と挟持部が、互いに対応した形状のスカート部を有する形状に形成されている形態(いわゆるシェル型の形態)を採用することができる。すなわち、本発明においては、チャンバ膜の球面状膨出部の中心位置が、チャンバピースの球面状凹部の中心位置に対し、反給排口設置側に所定量オフセットされることが必要構成となるが、組み付け前はチャンバ膜と各チャンバピースとは別部品であるので、チャンバ膜がチャンバピースに対し相対的に誤組み付け可能な構造になっていると、上記のような必要構成が達成されないおそれが残る。しかし、上記のような互いに対応した形状、とくに給排口が存在する位置側とその反対の位置側とについて非対象の形状に形成されていると、誤組み付けが発生するおそれは完全に除去される。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明に係る透析液給排装置によれば、透析液給排のためにチャンバ膜に円滑で安定した動作を行わせることができ、チャンパの切替異常等の作動不良の発生を確実に防止できる。加えて、チャンバ膜作動の際の異音の発生防止、チャンバ膜の十分な耐久性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明が適用可能なチャンバ方式の透析液給排装置を用いた血液透析装置の一例を示す機器系統図である。
【図2】本発明の一実施態様に係る透析液給排装置の外観正面図(図2A)および内部概略透視正面図(図2B)である。
【図3】図2の透析液給排装置におけるチャンバ膜の正面図(図3A)および縦断面図(図3B)である。
【図4】図2の透析液給排装置の組み付け状態でかつチャンバ膜が一方のチャンバピース側に膨出した状態の半縦断面図である。
【図5】図2の透析液給排装置を用いた場合と本発明の検討途中における曲率変更フッ素系チャンバ膜を用いた場合を比較するためのチャンバ切替時の流量変化特性図である。
【図6】従来の透析液給排装置の半縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
血液透析装置の基本形態、およびその血液透析装置内におけるチャンバ方式の透析液給排装置の配置の基本形態は、図1に示した通りである。図1に示したように、透析液給排装置は、切替可能に、少なくとも一対配置されるが、ここでは、一つの透析液給排装置の構造例について説明する。
【0020】
図2は、本発明の一実施態様に係る透析液給排装置の外観正面図(図2A)および内部概略透視正面図(図2B)を示しており、図3は、その透析液給排装置におけるチャンバ膜の正面図(図3A)および縦断面図(図3B)を示しており、図4は、透析液給排装置の組み付け状態において、チャンバ膜が一方のチャンバピース側に膨出した状態の半縦断面図を示している。図において、透析液給排装置31は、膨出方向が反転可能な(図3(B)、図4における左右方向に膨出方向が反転可能な)球面状の膨出部32を有する、耐薬品性、耐久性に優れたフッ素系ゴムからなる可撓性チャンバ膜33と、チャンバ膜33の両面側に配置され、球面状膨出部32に対応する球面状の凹部34を有する、プラスチックまたは金属製の一対のチャンバピース35とを備えている。一対のチャンバピース35が、図1にも示したように球面状凹部34同士が対面配置されて内部にチャンバ膜33の球面状膨出部32の膨出方向の反転が可能な膜作動空間37(図4に図示)を形成するように、間にチャンバ膜33を挟持した状態で組み付けられる。組み付けは、例えば留め具用挿通穴36に挿通されるボルト等の適当な留め具(図示略)を介して共締めによって行われる。一対のチャンバピース35内に形成される膜作動空間37に対しては、該膜作動空間37に臨む給排口38(図4に図示)が設けられる。図1を用いた説明で前述したように、膜作動空間37はチャンバ膜33によって新鮮透析液側小室と使用済み透析液側小室の2つの小室に区画されるが、各小室に対してそれぞれ給排口38が設けられ、各給排口38は、それらの各小室への流路開口部39が実質的に互いに対面するような位置に配置されている。この給排口38、とくに各小室への流路開口部39は、複数の小孔から構成されていることが好ましく、それによって、前述の如く、給排の際の液の流れを細かく分散させて給排動作をより安定させることができるとともに、チャンバ膜33が球面状凹部34にくっついて給排口38を塞ぐ事態の発生が容易に防止される。
【0021】
図2(B)に示すように、チャンバ膜33の球面状凹部34の外径が、チャンバピース35の球面状凹部34の内径よりも小さく設定されている。そして本発明においては、上記チャンバ膜33の球面状膨出部32の中心41の位置(図示例では、図2(B)、図4における図の上下方向に関しての中心の位置)が、チャンバピース35の球面状凹部34の中心42の位置(図示例では、図2(B)、図4における図の上下方向に関しての中心の位置)に対し、上記給排口38が存在する位置とは反対の方向に所定量δだけオフセットされている。図示例では給排口38がチャンバピース35の上部側に配置されているので、チャンバ膜33の球面状膨出部32の中心41の位置のオフセットは下方に向けて行われているが、これに限定されず、給排口38が設けられる位置に応じて、反給排口38設置側にオフセットされればよい。
【0022】
上記オフセット量δとしては、図4に示すように、膨出されたチャンバ膜33の球面状膨出部32が、一方のチャンバピース35の、給排口38が存在する位置側とは反対側に位置する球面状凹部(図4の下部側部分)に接したとき、給排口38が存在する位置側(図4の上部側部分)においては、チャンバ膜33の球面状膨出部32とチャンバピース35の球面状凹部34との間に所定量の隙間Gが形成されるように、設定されている。この所定量の隙間Gとしては、チャンバ膜33の球面状膨出部32の外径に対し1%〜20%から適切に選定すればよく、上記の状態時に、確実に隙間が形成されるように設定されればよい。例えば、本発明の好ましい試験例においては、チャンバ膜33の球面状膨出部32の中心41の位置を、チャンバピース35の球面状凹部34の中心42の位置に対し、下方に1.6mmオフセットさせた結果、上記の状態時に、隙間Gとして3.4mmの隙間が形成された。この隙間空間S(図4に図示)の存在により、円滑な透析液給排動作が可能となった。
【0023】
また、上記実施態様においては、チャンバ膜33は、球面状膨出部32の周囲にフランジ状の取付部43(図3)を有し、一対のチャンバピース35は、チャンバ膜33の取付部43を挟持する、取付部43と対応した形状のフランジ状の挟持部44を有している。チャンバ膜33の取付部43は、対応した形状を有する一対のフランジ状の挟持部44で挟持して固定するだけで所定形態に組み付けられるので、組み付けは容易に行われる。この場合、前述の如く、互いに対応したチャンバ膜33の取付部43とチャンバピース35の挟持部44の形状が、給排口38が存在する位置側とその反対の位置側とを画する平面(中立面)に対し、非対象の形状に形成されていることが好ましく、それによってオフセット方向の間違いや、誤組み付けが確実に防止される。本実施態様では、チャンバ膜33の取付部43とチャンバピース35の挟持部44が、互いに対応した形状のスカート部45a、45bを有するシェル型形状に形成されており、誤組み付けは確実に防止されるようになっている。
【0024】
上記のような構造を採用することにより、つまり、チャンバ膜33の球面状膨出部32の中心位置を所定方向に所定量オフセットさせることにより、チャンバ膜33の膨出が進行し、反給排口設置側においてチャンバ膜33の球面状膨出部32がチャンバピース35の球面状凹部34に当接した状態になったとき(図4の状態になったとき)、給排口設置側においては、チャンバ膜33の球面状膨出部32とチャンバピース35の球面状凹部34との間に所定の隙間Sが確実に確保されることになり、膨出されてきたチャンバ膜33が給排口38を塞ぐことが確実に防止され、透析液の円滑で安定した給排動作が確保される。また、この隙間Sを適切に設定しておくことで、チャンバ膜33が給排口38に近接した際のビビリ音の発生も確実に防止されることとなる。さらに、チャンバ膜33の材質として、耐薬品性、耐久性に優れたフッ素系ゴムを使用することで、装置の耐久性も十分に確保される。
【0025】
このようなチャンバ膜33の円滑な所定の動作により、チャンバ膜33が給排口38の設置部あるいはその近傍においてチャンバピース35の球面状凹部34に張りつく(密着してしまう)ような不具合の発生も防止されるので、例えば図1に示したように2つのチャンバ(透析液給排装置)を併設し、血液透析に供されるチャンバと新鮮透析液を受け入れるチャンバとが交互に切替可能とした構成においては、切替もより短時間のうちに円滑に行われるようになる。
【0026】
ちなみに、上記実施態様に係る透析液給排装置を用いた血液透析装置(図1に示した構成の血液透析装置)と、本発明の検討途中で試作した、従来型に比べチャンバ膜の球面状膨出部の曲率半径を大きくした前述の曲率変更フッ素系(フッ素系ゴムからなる)チャンバ膜を組み込んだ透析液給排装置を用いた血液透析装置とにおける、チャンバ切替時の流量センサ(例えば、図1におけるフロースイッチ22)にて測定した流量(流量変化)特性を比較した結果を、図5に示す。図5から明らかなように、本発明チャンバ膜では、切替時間が0.6秒であり、曲率変更フッ素系チャンバ膜の切替時間0.8秒に比べて大幅に短縮されるとともに、切替の際の流量低下時の特性においても、特性が乱れて若干切替ムラが発生した曲率変更フッ素系チャンバ膜に比べ、本発明チャンバ膜では、切替ムラの発生しない滑らかで安定した流量変化特性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る透析液給排装置は、チャンバ膜を用いたあらゆるチャンバ方式の透析液給排装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 血液透析要素
2 透析膜
3 血液回路
4 透析液回路
5 動脈側血液回路
6 静脈側血液回路
11、12 チャンバ膜
13a、13b、14a、14b チャンバピース
15、16 透析液給排装置
17a、18a 新鮮透析液側小室
17b、18b 使用済み透析液側小室
21 循環ポンプ
22 フロースイッチ
23 除水ポンプ
24 メスシリンダ
25 脱気ポンプ
26 フロースイッチ
27 排液回路
28 切替弁
31 透析液給排装置
32 球面状膨出部
33 チャンバ膜
34 球面状凹部
35 チャンバピース
36 留め具用挿通穴
37 膜作動空間
38 給排口
39 流路開口部
41 球面状膨出部の中心
42 球面状凹部の中心
43 取付部
44 挟持部
45a、45b スカート部
51 球面状膨出部
52 球面状凹部
53 給排口
δ オフセット量
G 隙間
S 隙間空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨出方向が反転可能な球面状の膨出部を有する可撓性チャンバ膜と、該チャンバ膜の両面側に配置され、前記球面状の膨出部に対応する球面状の凹部を有する一対のチャンバピースとを備え、該一対のチャンバピースの前記球面状凹部同士を対面配置して内部に前記チャンバ膜の球面状膨出部の膨出方向の反転が可能な膜作動空間を形成するとともに、該膜作動空間に対し該膜作動空間に臨む給排口を設けた、血液透析装置におけるチャンバ方式の透析液給排装置において、前記チャンバ膜の球面状膨出部の中心位置を、前記チャンバピースの球面状凹部の中心位置に対し、前記給排口が存在する位置とは反対の方向にオフセットしたことを特徴とする透析液給排装置。
【請求項2】
前記チャンバ膜の球面状膨出部の外径が、前記チャンバピースの球面状凹部の内径よりも小さく設定されている、請求項1に記載の透析液給排装置。
【請求項3】
前記チャンバ膜の球面状膨出部の前記給排口が存在する位置側の曲率半径が、該給排口が存在する位置側とは反対の位置側の曲率半径よりも大きく設定されている、請求項1または2に記載の透析液給排装置。
【請求項4】
前記給排口の少なくとも一つが、複数の小孔から形成されている、請求項1〜3のいずれかに記載の透析液給排装置。
【請求項5】
前記チャンバ膜がゴムからなる、請求項1〜4のいずれかに記載の透析液給排装置。
【請求項6】
前記チャンバ膜がフッ素系ゴムからなる、請求項5に記載の透析液給排装置。
【請求項7】
前記オフセットの量は、膨出された前記チャンバ膜の球面状膨出部が、一方のチャンバピースの、前記給排口が存在する位置側とは反対側に位置する球面状凹部に接したとき、前記給排口が存在する位置側においては、チャンバ膜の球面状膨出部とチャンバピースの球面状凹部との間にチャンバ膜の球面状膨出部の外径に対し1%〜20%に相当する寸法の隙間が形成されるように、設定されている、請求項6に記載の透析液給排装置。
【請求項8】
前記チャンバ膜は、前記球面状膨出部の周囲にフランジ状の取付部を有し、前記一対のチャンバピースは、前記チャンバ膜の取付部を挟持する挟持部を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の透析液給排装置。
【請求項9】
前記取付部と前記挟持部は、互いに対応した形状に形成されている、請求項8に記載の透析液給排装置。
【請求項10】
前記互いに対応した形状は、前記給排口が存在する位置側とその反対の位置側とを画する平面に対し、非対象の形状に形成されている、請求項9に記載の透析液給排装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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