説明

透析液調製用水製造装置

【課題】 パイロジェンフリーな透析液用水を供給すると同時に、従来のRO法に対して、透析液配管ライン全体を連続的に洗浄することを可能にし、透析用水製造部及びその下流における配管中のバイオフィルムの形成を抑制する透析液調製用水製造装置を提供すること。および、該装置により、ろ過膜の寿命を長期化し、捨水量を低減することにより経費の低減を測ること。
【解決手段】 原水取り込み手段2と、プレろ過手段3と、軟水化手段4と、膜分離手段5と、透析用水供給手段6とがこの順に配管上に設けられてなる透析液調製用水製造装置1において、該膜分離手段5は、貯留部5a、送液ポンプ5bおよび限外ろ過膜モジュール5cがこの順に接続されてなり、該貯留部5aには、循環ろ過を行うためのクロスフロー配管と、貯留部5aから下流部への薬液洗浄とを行うための洗浄液注入手段7とが接続されている透析液調製用水製造装置1として構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性腎不全患者の透析治療に必須な透析液調製用水の製造装置に関する。また、本発明は該装置を用いて透析液調製用水を得る方法、更には該装置における透析液配管の洗浄方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
慢性腎不全患者の治療法として、患者の血液を半透膜を介して透析液に接触させ、血液中の有害成分を除去する人工腎臓を用いた透析治療法が普及し、顕著な効果を収めている。この治療に用いられる透析液を調製するために必要な透析液調製用水(以下、透析用水とも称する)は、多くの場合、水道水を原水として、プレフィルター、活性炭、イオン交換樹脂、及び逆浸透膜(RO膜)モジュールなどから構成される装置(RO装置)を利用し、その中に含まれる微粒子、イオン成分、エンドトキシンなどのパイロジェン物質を除去する、いわゆる逆浸透法(RO法)によって製造されている(例えば、非特許文献1)。このように清浄化された透析用水は、透析液配管により透析液溶解・供給装置、更には透析用監視装置にまで送液されて治療に用いられている。
【0003】
一方、最近、透析治療の効果をより高め患者のQOL(quality of life)を向上するために、大孔径化により低分子の除去性能を上げた人工腎臓膜が普及するようになった。この大孔径膜を用いた透析においては、透析液が膜を介して血液側へ流入する、いわゆる逆ろ過も起こることが判明している。また、より除去効率の高い透析法として、透析液を補液として血中に流入させることで、透析とろ過を同時に実施する血液透析ろ過療法も実施されるようになった。このような治療法の変遷に伴い、これら治療に用いられる透析液の水質に関して医科器械開発協会(AMMI)、日本透析医学会、日本臨床工学技士会などからガイドラインが提示され、特に有害と見られるエンドトキシンと生菌については、透析液中の濃度に関して上限値が示されている。
【0004】
透析用水及び透析液中のエンドトキシンや生菌の低減化は、原水からのRO装置による除去のみでは不十分であり、配管中に形成されるエンドトキシン、生菌の発生源となるバイオフィルムの形成を抑制しなければならない。そのために、透析治療施設では、次亜塩素酸ナトリウム、酢酸などを主成分とする薬液による透析液配管の洗浄が日常的に行われている。一方、RO膜は一般に配管洗浄で使用される濃度の薬液、例えば次亜塩素酸ナトリウムでは300ppm以上、に対する耐性がないために、次亜塩素酸ナトリウムなど安価な薬液による洗浄は透析液溶解供給装置から下流部でのみ行われ、RO装置及びその処理水の貯水タンクを含む配管の洗浄は熱水、低濃度薬液、或いは温水と低濃度薬液の組み合わせといった方法によって行われている。
【0005】
しかしながら、これらRO装置の洗浄方法では遊離した生菌の殺菌は可能であるが、活性層と支持体からなる多層膜であるRO膜の内部に形成されたバイオフィルムの除去は不可能で、そこで発生したバイオフィルムから放出される生菌はRO膜から透析液溶解・供給装置に到る配管中で新たなバイオフィルムの形成を促進させる。そのため、RO装置及び該装置から透析液溶解・供給装置に到る配管洗浄は頻繁に行わなければならないが、この洗浄は通常手動で行われるため煩雑であり、使用されるクエン酸などの薬液や熱水によってRO膜が劣化しその頻繁な交換を余儀なくされる。
【0006】
RO法を経済性の観点からみると、洗浄用の薬液が次亜塩素酸系に比較し高価、運転時に原水の約3割から4割の濃縮水を廃棄、また温度による流量調節のための高圧運転による多い電力消費量など、限外ろ過など他の水のろ過方法に比べ極めて不利になっている。
【0007】
【非特許文献1】臨床透析(6月増刊号、血液浄化機器2000)、vol.16、No.8、2000、p93−p100
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記RO法の課題を解決するためになされたものであり、パイロジェンフリーな透析用水を供給すると同時に、従来のRO法に対して、透析液配管ライン全体を連続的に洗浄することを可能にし、透析用水製造部及びその下流における配管中のバイオフィルムの形成を抑制する透析液調製用水製造装置を提供することを目的とする。また、本発明は、該装置により、ろ過膜の寿命を長期化し、捨水量を低減することにより経費の低減を測ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、従来の透析液調製用水製造装置に汎用されてきたRO装置ではなく、限外ろ過膜を特定のろ過方法で運転できるように組み込むことにより、前記課題が解決できることを見出して本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は以下を含む。
【0011】
(1)原水取り込み手段と、プレろ過手段と、軟水化手段と、膜分離手段と、透析用水供給手段とがこの順に配管上に設けられてなる透析液調製用水製造装置において、前記膜分離手段は、貯留部、送液ポンプおよび限外ろ過膜モジュールがこの順に接続されてなり、該貯留部には、循環ろ過を行うためのクロスフロー配管と、前記貯留部から下流側への薬液洗浄を行うための洗浄液注入手段とが接続されていることを特徴とする透析液調製用水製造装置。
【0012】
(2)前記限外ろ過膜モジュールが第十一改定日本薬局方追補の54項(2)超ろ過法で定める注射用水製造用であることを特徴とする前記(1)に記載の透析液調製用水製造装置。
【0013】
(3)前記(1)または(2)に記載の透析液調製用水製造装置により透析液調製用水を製造する方法において、前記貯留部と前記限外ろ過膜モジュールとの間で循環式の十字流ろ過を行いながら、ろ過液として透析液調製用水を得ることを特徴とする透析液調製用水製造方法。
【0014】
(4)前記(1)または(2)に記載の透析液調製用水製造装置に設けられた透析液配管を洗浄する方法において、前記洗浄液注入手段から前記貯留部に洗浄剤を注入し、該貯留部から下流側の配管内を連続的に洗浄することを特徴とする透析液配管の洗浄方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、透析液調製用水製造装置において、限外ろ過膜を使用した十字ろ過を行うことにより、従来のRO法並みの水質の透析用水が得られる。
【0016】
また、本発明によれば、透析液配管の洗浄を行う際に、本発明の装置により調製した洗浄液は透析液配管末端でもその濃度をほぼ維持し、透析液配管全体の洗浄に使用できる。例えば、濃度が0.1%の次亜塩素酸ナトリウムで透析液配管の洗浄を行っても、下流側の末端までその濃度が維持され、部品の交換もなく1年以上にわたって初期のろ水量と水質を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の透析液調製用水製造装置1の一例を示す概念図である。図1において、透析液調製用水製造装置1は、原水取り込み手段2と、プレろ過手段3と、軟水化手段4と、膜分離手段5と、透析用水供給手段6とがこの順に配管上に設けられてなる。この基本的構成であれば、例えばプレフィルターを二段にする、他の分離手段を挿入する、等の付加的な工程が含まれても良い。
【0019】
本発明において、原水取り込み手段2は、装置内に原水を導入するために配管末端(最上流側)に設けられる接続部品であり、一般的なコネクター等である。原水としては水道水を使用するのが望ましいが、未処理の地下水なども利用できる。
【0020】
プレろ過手段3は、装置内の目詰まりや保護のために微粒子や微生物を除去するものであり、ミクロン〜サブミクロンサイズの細孔径を有するろ過手段がプレフィルターとして用いられる。プレフィルターとして、不織布状或いは網目状のデプス型フィルター、或いは微細多孔状の精密ろ過膜を使用することによって、原水に含まれる微生物、有機物或いは金属コロイドなどを減少させることができ、プレフィルターより下流の種々のユニットにおける負荷を低減できる。
【0021】
軟水化手段4は、専らスケール成分である硬度成分を除去するものであり、活性炭吸着部4aと共にイオン交換部4bがその主体を担っている。
【0022】
イオン交換部4bはイオン交換樹脂を充填した装置であり、陽イオン交換樹脂としては、例えば架橋ポリスチレンにカルボン酸、或いはスルフォン酸などの強酸性イオンを担持した樹脂が用いられ、原水中のカルシウム、マグネシウムイオンを除去し軟水化する。また、陰イオン交換樹脂としては、例えば架橋ポリスチレンに4級アミノ基などの強塩基性イオンを担持した樹脂が用いられ、原水中或いは陽イオン交換の過程で生成した硫酸、塩酸、硝酸陰イオンなどを吸着し、水に変換する。両イオン交換樹脂の効力は例えば電気伝導度計等によって定量的に検知できる。
【0023】
活性炭吸着部4aは有機成分を吸着除去するための天然または石油ピッチ系の活性炭を充填した装置である。活性炭は原水中の遊離塩素や次亜塩素イオンの除去に不可欠であり、市販の粒状、或いは繊維状活性炭を使用できる。一方、活性炭は塩素類を除去することによる微生物繁殖のリスクが高いため、原水の水質にもよるが、約半年程度の周期で交換する必要がある。これらの接続順番には特に限定はなく、活性炭吸着部−イオン交換部、或いはイオン交換部−活性炭吸着部の何れでも良い。
【0024】
本発明において、膜分離手段5は、従来のRO(逆浸透膜)モジュールに代わって透析用水の清浄化の最終段を担う部分である。膜分離手段5は、貯留部5a、送液ポンプ5bおよび限外ろ過膜モジュール5cがこの順に接続されてなり、貯留部5aには、循環ろ過を行うためのクロスフロー配管5dと、貯留部5aから下流側への薬液洗浄を行うための洗浄液注入手段7とが接続されている。ここで、下流側或いは下流側の配管内とは、本発明の透析液調製用水製造装置1においては、貯留部5aからクロスフロー配管5dも含めて透析用水供給手段6までの透析用水が流れる部分のことである。更には、図2に示すように本発明の透析液調製用水製造装置1の下流側に接続される透析液溶解・供給装置8や透析用監視装置9の内部配管までも含まれる。
【0025】
限外ろ過膜モジュール5cは、第十一改定日本薬局方追補の54項(2)超ろ過法で定める注射用水製造用であり、分子量約6000以上の物質を除去できるものが用いられる。限外ろ過膜は平膜や中空糸膜の何れでも良いが、中空糸膜型の方がモジュールがコンパクトで好ましい。透析液配管の殺菌、洗浄には一般に次亜塩素酸ナトリウムや酢酸など酸系洗浄剤が使用されるため、限外ろ過膜の材質はそれら薬液耐性のあるポリスルホン、及びポリエーテルスルホンが望ましい。また、これらを主成分とする限外ろ過膜は80℃以上の熱水耐性があり熱水洗浄も可能である。限外ろ過膜モジュール5cは濾水の水質を維持するために濾水側のデッドスペースが少なく、配管接続部もサニタリーヘレールのものが望ましい。このようなヘレールは、限外ろ過膜モジュール5cからろ過された清浄な透析用水を導出する配管末端(最下流側)であると同時に、本発明の透析液調製用水製造装置1の下流側に設置される透析液溶解・供給装置8へ送液するための接続部品の一例であり、透析用水供給手段6として機能する。
【0026】
また、膜分離手段5の貯留部5aは、軟水化手段4を経た原水を、送液ポンプ5bにより限外ろ過膜モジュール5cへ供給するために一時的に貯留すると同時に、限外ろ過膜モジュール5cから排出された濃縮水をクロスフロー配管5dを経て受け入れ、循環ろ過させるために貯留するタンクである。この貯留部5aには、該貯留部5aから下流側を薬液洗浄するための洗浄液タンク7a、洗浄液注入ライン、洗浄液受入れ口等が、洗浄液注入手段7として設けられている。
【0027】
本発明においては、前記の透析液調製用水製造装置1によって透析液調製用水を得る際、循環式のろ過が行われる。ろ過方法は膜表面に平行に液体が流れ、その流れ方向に垂直方向にろ過が行われる十字流ろ過(クロスフロー)方式である。即ち、貯留部5aと限外ろ過膜モジュール5cとの間で循環式の十字流ろ過(クロスフロー)を行いながら、ろ液として透析液調製用水を得るものである。具体的には、貯留部5aと限外ろ過膜モジュール5cの間に設けた送液ポンプ5bにより、該貯留部5aの原水を限外ろ過膜モジュール5cに供給してろ過を行い、濃縮水をクロスフロー配管5dを経て貯留部5aに戻して再循環することにより行われる。この方法は限外膜表面の濃度分極を抑制する効果があり、水質保持のみならず水量の確保、即ち膜の長寿化に寄与する。濃縮水の循環による水質悪化を防ぐために、濃縮水の約5%程度を貯留部5a或いは限外ろ過膜モジュール5cの近辺に設けたドレン管から排水するのが望ましい。なお、貯留部5a内の微生物繁殖を抑制するために殺菌灯などを設置すると、サニタリー性は一層向上する。
【0028】
本発明においては、前記の透析液調製用水製造装置1において、洗浄液注入手段7を介して貯留部5aに殺菌剤、スケール除去剤などの配管洗浄剤を注入することにより、貯留部5aから下流側の配管内を連続的に洗浄することができる。即ち、貯留部5aから限外ろ過膜モジュール5cを経て透析用水供給手段6まで、更には本製造装置の下流側に設置される透析液溶解・供給装置8〜透析用監視装置9の透析液配管内を連続的に洗浄することができる。
【0029】
図2は、本発明の透析液調製用水製造装置1を用いた洗浄法の説明図であり、図2(a)は透析液溶解・供給装置(多人数用透析液供給装置)8から透析用監視装置(多人数用透析用監視装置)9までの配管がカスケード状の場合の洗浄液の流れを示し、図2(b)はループ状の場合の洗浄液の流れを示す。これら図2(a),(b)の何れの場合においても、透析液調製用水製造装置1の貯留部5aに注入された洗浄剤は、該貯留部5a内に貯水された水により所定の濃度に希釈される。希釈された洗浄液の一部は、限外ろ過膜モジュール5cの特に膜表面の洗浄に使用され、ろ過により濃縮液として排水される。続いて、配管がカスケード状の場合は、ろ過液が透析液溶解・供給装置8を通過後、各透析用監視装置9に送られ、装置内配管を通って排水されることにより、透析液配管内の最末端までが洗浄される。一方、配管がループ状の場合は、ろ過液が各透析用監視装置9の配管とループ状配管とに同時或いは時期を違えて送られることにより、透析液配管全体が洗浄される。
【0030】
なお、透析液溶解・供給装置8にて洗浄液を調製し、その液を透析液調製用水製造装置1の貯留部5aに注入した後、上記の方法によって透析液配管全体を洗浄することもできる。また、本発明の透析液調製用水製造装置1に個人用透析用監視装置9を連結する場合も、該製造装置1の貯留部5aで洗浄剤を調製し下流に流すことによって、透析液配管全体を簡便に洗浄することができる。このように、多人数用透析用監視装置9、個人用透析用監視装置9いずれの場合も、洗浄液を限外ろ過膜モジュール5c内も含む透析配管全体に滞留させて洗浄効果をあげることができる。
【0031】
以上説明したとおり、本発明の透析液調製用水製造装置1において、原水をプレろ過手段でろ過することにより、原水に含まれる微生物、有機物、或いは金属コロイドなどが減少し、さらに原水中の陰、陽イオンは軟水化手段のイオン交換樹脂で除去される。続いて、分画分子量6000以下の限外ろ過膜で十字ろ過することにより、エンドトキシン、生菌の除去ができ、膜の長寿化を図ることができる。その際、十字ろ過による濃縮液の水質悪化抑制に必要な排水量は、濃縮液の5%程度であり、原液量の約30%〜40%を排水するRO膜によるろ過に比べて桁違いの節水が可能である。
【0032】
また、本発明の透析液調製用水製造装置1において、洗浄剤を膜分離手段5の貯留部5aに注入し、洗浄液を調製し、下流側に流すことにより、膜分離手段5から下流側の透析用監視装置9までを比較的安価な次亜塩素酸ナトリウムなどの洗浄剤を用い自動的、且つ連続的に洗浄することができる。この点においてもRO装置の場合よりも手間が省け、経済的な洗浄が可能である。
【0033】
[実施例]
以下に、本発明をより具体的に明らかにするために実施例を用いて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
原水取り込み手段2、20μmカットのプレフィルター2本(直列)、活性炭ボンベ、陰、陽イオン交換ボンベ、100L容量タンク、ブースターポンプ、限外ろ過膜モジュール5c各1本をこの順に備えた透析液調製用水製造装置1を組み上げた。限外ろ過膜モジュール5cの膜は、ポリスルホン製の内径0.8mmの中空糸膜であり、分画分子量は6000である。モジュールは長さ1129mm、外径89mm、有効膜面積4.7mであり、排出側をタンクに戻るように接続して循環ラインを設けた。濾水側には、透析用水供給手段6として1Sサニタリーヘレールの継ぎ手を設けた。
【0035】
この透析液調製用水製造装置1に、原水取り込み部から、1,050L/hで水道水(pH7.5;濁度、0.1度以下;硬度53;鉄及びその化合物0.03mg/L)を送液した。さらに、タンクからブースターポンプにて1500L/hの流量で限外ろ過膜モジュール5cに送液し、クロスフローによる循環ろ過を室温下で実施した。
【0036】
運転開始から24時間後の濾水量は1000L/hであり、濾水の導電率は0.2μS/cm(25℃)であった。また、トキシノメーターを用いた比色時間分析法で測定したエンドトキシンは検出限界の0.1EU/L以下であった。ろ液をシャーレに採取し、R2A寒天培地にて30℃、7日間の培養によりコロニー形成の有無を確認したが、コロニーは観測されなかった。このように、限外ろ過膜によってエンドトキシン、生菌フリーな透析用水が得られる。
【実施例2】
【0037】
約10年間臨床使用中の透析液溶解・供給装置8と30台の透析用監視装置9をカスケード方式で連結使用している施設において、透析液溶解・供給装置8の前に前記実施例1の透析液調製用水製造装置1を設置した。該透析液調製用水製造装置1のタンクに市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を約1時間連続的に注入して1000ppmの次亜塩素酸ナトリウム液を調製した後、限外ろ過膜モジュール5cにてクロスフローろ過し、ろ過液を透析液溶解供給装置より下流に流した。
【0038】
透析用監視装置9の排水管末端での次亜塩素酸ナトリウム濃度は950ppmであり、元液の濃度をほぼ維持していた。したがって、前記実施例1の結果を加味すると、透析液供給の最下流側まで薬液洗浄の効果があると見なすことができる。
【実施例3】
【0039】
透析施設で実施されている透析液調製、及び洗浄工程に対応した運転による膜性能の変化を確認するために1年間運転相当の加速試験を行った。即ち、前記実施例1記載の透析液調製用水製造装置1において、前記実施例2に記載の施設と方法で0.1%の次亜塩素酸ナトリウムを調製し1時間半運転した。その後、配管の水置換のために前記実施例1に記載の方法で30分間、クロスフローによる水の循環ろ過を行った。その後、ポンプを停止し、タンクと限外ろ過膜モジュール5cとの間に水を22時間封入した。この洗浄と循環ろ過の操作を、装置の部品を交換することなく400回繰り返した。
【0040】
400回目の濾水量、電気伝導度はそれぞれ980L/h、0.5μS/cm(25℃)であった。また、前記実施例1の方法で測定したろ過水中のエンドトキシン濃度、及び生菌数は検出限界以下であった。このように、繰り返しによるろ過能力の低下や水質の低下は殆ど認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、限外ろ過膜から透析用監視装置までを、比較的安価な洗浄剤により自動的且つ連続的に洗浄することができ、RO装置の場合よりも手間が省け、経済的な洗浄が可能となる。したがって、透析施設における透析液調製用水製造装置として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の透析液調製用水調製装置の構成を示す概念図である。
【図2】本発明の透析液調製用水製造装置を用いた洗浄法の説明図である。
【符号の説明】
【0043】
1…透析液調製用水製造装置
2…原水取り込み手段
3…プレろ過手段
4…軟水化手段
4a…活性炭吸着部
4b…イオン交換部
5…膜分離手段
5a…貯留部
5b…送液ポンプ
5c…限外ろ過膜モジュール
5d…クロスフロー配管
6…透析用水供給手段
7…洗浄液注入手段
7a…洗浄液タンク
8…透析液溶解・供給装置
9…透析用監視装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水取り込み手段と、プレろ過手段と、軟水化手段と、膜分離手段と、透析用水供給手段とがこの順に配管上に設けられてなる透析液調製用水製造装置において、
前記膜分離手段は、貯留部、送液ポンプおよび限外ろ過膜モジュールがこの順に接続されてなり、該貯留部には、循環ろ過を行うためのクロスフロー配管と、前記貯留部から下流側への薬液洗浄を行うための洗浄液注入手段とが接続されていることを特徴とする透析液調製用水製造装置。
【請求項2】
前記限外ろ過膜モジュールが第十一改定日本薬局方追補の54項(2)超ろ過法で定める注射用水製造用であることを特徴とする請求項1に記載の透析液調製用水製造装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の透析液調製用水製造装置により透析液調製用水を製造する方法において、
前記貯留部と前記限外ろ過膜モジュールとの間で循環式の十字流ろ過を行いながら、ろ過液として透析液調製用水を得ることを特徴とする透析液調製用水製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の透析液調製用水製造装置に設けられた透析液配管を洗浄する方法において、
前記洗浄液注入手段から前記貯留部に洗浄剤を注入し、該貯留部から下流側の配管内を連続的に洗浄することを特徴とする透析液配管の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−82517(P2009−82517A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257020(P2007−257020)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000116806)旭化成クラレメディカル株式会社 (133)
【Fターム(参考)】