説明

透析用カプラ

【課題】
優れた無菌状態を維持することとノズルへの着脱時における優れた操作性を有することの双方を両立させることのできる透析用カプラを提供すること。
【解決手段】
透析液循環用ノズルに封冠されるシール材が内周に配され、前記シール材の外周に固定されるスリーブ、前記スリーブに当接して前記ノズルに封冠される方向に伸縮可能なバネ材および前記バネ材の伸縮により前記スリーブに沿って摺動するスライダを備えた透析用カプラであって、前記シール材と前記スライダとの間にリング状部材を有し、前記リング状部材は前記スライダの摺動により押圧され前記封冠時の前記シール材と前記ノズルの先端部との液密性を増加させる態様とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透析器に透析液を供給するために取り付けられる透析用カプラに関し、特にこのカプラのシール操作性を低下させることなく、さらにカプラ内の汚染を防止することを目的とした透析用カプラに関する。
【背景技術】
【0002】
人工透析治療においては、血液内の水分、電解質あるいは老廃物などを除去するために、透析器内を通過させることでこれらの老廃物等を除去している。この透析器内には透析液が循環されており、この透析液は透析器の側面に設けられた透析液循環用のノズル(以下ノズルとする)を介して透析装置に接続されることで循環されている。
【0003】
そして、この透析液装置は所定長の配管とその端部に取り付けられた透析用カプラによって透析器に取り付けられている。
【0004】
この透析器のノズルに取り付けられる透析用カプラは、多数の部材で複雑に構成されており、その用途上、ノズルとの接触部を無菌状態に維持する必要がある。そして、接続部の液漏れを防止するために、接続具内にOリングが用いられている。
【0005】
しかし、例えば、細菌やエンドトキシンなどは透析液の滞留部で増殖しやすいことが分かっている。透析液の滞留は、各部材の接続部やOリングの裏側などの部分にて生じる。滞留部で増殖した細菌等が透析液内に侵入してしまうと、透析患者の体内に入り、各種の感染症の原因となる可能性もある。また、定期的に接続部の洗浄を行うのが一般的であるが、その時に、滞留しやすい部分のOリングの裏側などは洗浄できず、細菌等が残留してしまうことがある。
【0006】
そこで、Oリングを用いない透析用カプラとして、ノズル本体の外周を弾性体で覆うことで液密にシールし、透析用カプラの抜け防止にノズル外周のくびれ部分に透析用カプラを固定する試みがなされている(特許文献1、2)。この構造によって、透析中に透析液の滞留を防止し、また、透析用カプラ洗浄時においても未洗浄部分をつくらないことが可能であった。
【0007】
しかしながらこの場合、透析用カプラとノズルとを液密にシールしている箇所は、抜け防止の固定がされているノズルのくびれ部分になることは避けられない。そのために、透析後にノズルからカプラを取り外す際には、ノズル外部と透析用カプラ内周に溜まった透析液が飛散することが大いに考えられた。
【0008】
さらには、ノズル全体を液密にシールしようとしていることから、透析用カプラの着脱時の抵抗は大きく、操作性において劣ることは否めなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−151628号公報
【特許文献2】特開2001−299907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、透析用カプラについて、優れた無菌性と優れた操作性の双方を両立させることのできる透析用カプラを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は以下の方法を提供する。すなわち、
1. 透析液循環用ノズルに封冠されるシール材が内周に配され、前記シール材の外周に固定されるスリーブ、前記スリーブに当接して前記ノズルに封冠される方向に伸縮可能なバネ材および前記バネ材の伸縮により前記スリーブに沿って摺動するスライダを備えた透析用カプラであって、前記シール材と前記スライダとの間にリング状部材を有し、前記リング状部材は前記スライダの摺動により押圧され前記封冠時の前記シール材と前記ノズルの先端部との液密性を増加させることを特徴とした透析用カプラ。
2. 前記シール材が前記透析用カプラの封冠時に前記ノズルの長手方向におけるくびれ部に嵌合または掛合する突起または前記突起を備えたリング状構造体を有することを特徴とする前記1に記載の透析用カプラ。
3. 前記シール材における前記ノズルの第一円筒部に対応し押圧される外周面またはリング状部材の内周の少なくともいずれか一方がテーパ形状を有していることを特徴とする前記1または2に記載の透析用カプラ。
4. 前記1〜3のいずれかに記載された透析用カプラを備えていることを特徴とする透析装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、優れた無菌性と優れた操作性の双方を両立させることのできる透析用カプラを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】透析用カプラがノズルに封冠され、シール材がリング状部材に押圧されてシール状態が保たれている状態の一例を示す断面図である
【図2】透析用カプラ1の取り付け直前または取り外し直後における、液密シールが開放されている状態の一例を示す模式図である。
【図3】シール材にリング状構造体が備えられたバリエーション形状を示す模式図である。
【図4】シール材の先端にリング状構造体が備えられたバリエーション形状を示す模式図である。
【図5】段付形状のリング状部材を用いて、ノズルの天面を押圧することを可能とした態様を示す模式図である。
【図6】リング状部材とスライダが一体形状である態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の透析用カプラの一様態を説明するが、下記好ましい様態、例示はこの場合に限定されるものではない。
【0015】
図1は本発明に係る透析用カプラ1がノズル60に被冠され、液密シール状態が保持されている状態の一例を示す模式図である。透析用カプラ1は透析液循環用ノズルを直接的に封冠する部分、すなわち内周部にシール材10が配され、シール材10の外周にはこれを固定するためのフランジ付スリーブ20が有り、このスリーブ20にはバネ材30が当接されている。バネ材はカプラがノズル60に被冠される方向に伸縮可能であり、バネ材30によってスリーブに沿って当該方向に摺動する動作を与えられるスライダ40がこれらの外周に配されている。さらに、スライダの摺動作用によりノズル60にシール材10をより液密に密着させるリング状部材50がシール材とスライダとの間の周内に配されている。
【0016】
シール材10とフランジ付スリーブ20はシール材10における抜け止め溝部11とフランジ付スリーブ20における抜け止め段部21によって固定されており、フランジ付スリーブ20に当接するバネ材30の延伸する力によってスライダ40がフランジ付スリーブ20に沿って摺動し、リング状部材50を介してノズル60の第一円筒部62にシール材10が密着させられることによって透析用カプラ1がノズル60と液密にシールされる。
【0017】
シール材10において、ノズル60と嵌合する部分の内周形状は、ノズル60の第一円筒部62の外周形状、大きさに等しいものとするか、または大きさをこれより若干小さくすることによって、リング状部材50によりシール材10が押圧される場合において、透析用カプラ1とノズル60とをより液密にシールすることが可能である。
【0018】
リング状部材50の内周形状は、求められる液密シール性によって適宜決定されるが、可能な限りノズル60の第一円筒部62を周方向から押さえる力を発現させることができる形状であることが好ましい。さらには、リング状部材50の内周形状は、シール完了時においてシール材10に押圧を加えることによって変形させることが可能な形状であることがより好ましい。シール材10が押圧されることで、シール材10をノズル60により密着させて液密シールすることが可能である。
【0019】
さらに好ましくは、リング状部材50の内周形状とそれに対応するシール材10の外周形状は、少なくともどちらか一方がノズル60の軸に対してある程度のテーパ形状を有していることが好ましい。これによってリング状部材50がスライダ40を介してバネ材30にてシール材10に当接させられた状態で摺動する際、液密シールが完了するまでの間に、シール材10とノズル60とのお互いの摩擦力による操作性の悪化を防ぐことができる。
テーパ形状は、求めるシール性および透析用カプラ1に着脱時の操作性によって適宜決定されるが、好ましくはノズルの軸方向に対して5°〜30°であり、さらに好ましくは10°〜20°であればよい。
【0020】
図2は透析用カプラ1の取り付け直前または取り外し直後における、液密シールが開放されている状態の一例を示す模式図である。
【0021】
透析用カプラ1を取り外す場合は、スライダ40を引き上げることで、リング状部材50に対し、内周鍔部41を介してシール材10から引き離す方向への力を与えられるため、容易に取り外すことが可能である。
【0022】
また、シール材10がノズル60に封冠され液密にシールされている際に、スライダを介してリング状部材50を押さえる力はバネ材30の形状によって適宜決定される。バネ材30の反発力が大きければ大きいほどリング状部材50はシール材10に押さえるけられるためシール性が向上するが、同時に透析用カプラを着脱する際に必要な力も大きくなり操作性を困難にする。よって女性の看護師でも問題なく着脱操作できる程度の力であることが好ましい。
【0023】
また、本発明に係る透析用カプラにおいては、液密シール完了時には、第一円筒部62とは異なった箇所においてもシール材10をノズル60に固定する構造をも有することが好ましい。これは、不慮の動作および環境の変化による外力が掛かった際に、透析用カプラ1がノズル60から外れ、透析液が漏れ出すことを防ぐため、ひいては確実な液密シールを持続するために必要なロック構造である。
【0024】
かかるロック構造の一例を挙げれば、ノズル60のくびれ部63を利用することが好ましく、透析用カプラの封冠時においてシール材10の内周面のノズルくびれ部63に対応する位置に内周突起14を設けることによって達成することが可能である。内周突起は後述のようにシール材に設けたリング状構造体70に付設することも可能である。
【0025】
透析器における透析液循環用のノズルの外周形状は、例えばJIS T3250:2005によって規格化されており、くびれ部についても例外ではなく一定であるため、内周突起の形状は常に求める嵌合を得ることが可能である。
【0026】
内周突起14の形状はシール材10の材質によって適宜決定されるが、ノズルくびれ部63の形状に沿った形であることが好ましい。また着脱時の操作性を悪化させないように、任意の等配で配置することがより好ましい。
【0027】
また、内周突起14によるシール材10のノズル60への固定をより強化するために、シール材10に外周突起13を設け、スライダ40の内周面に形成された掛合凸部42によって外周からバックアップ固定することで、シール材10の周方向への変形を防ぐことができ、かつ内周突起14によるシール材10の固定を持続させることが可能である。外周突起13と掛合凸部42との形状は特には指定されないが、双方とも全周に形成する必要は無く、固定が持続される程度に任意の等配で配置しても良い。

シール材10の材質は、リング状部材50に押圧されてノズル60を確実にシールするために適宜決定されるが、好ましくは硬度(タイプA)60〜80度の樹脂で形成されていることが好ましく、さらに本発明においては、高い要求クリーン度を達成するために、上記カプラ内の接液部であるシール材10がシリコンゴムで形成されていることが好ましい。接液部がシリコンゴムで形成されていると、接液面が劣化しにくいとともに接液面に汚れや異物が付着しにくく、さらにはノズル60に液密に密着させる際においてもシリコンゴムの優れた弾性により、着脱作業を円滑に行うことが可能になる。
【0028】
また、バネ材30の延伸する力をリング状部材50を介して効率良くシール材10に与えてノズル60に当接させるために、リング状部材50の材質は硬質であることが好ましく、金属または硬質の樹脂があげられる。より好ましくは耐食性に優れたステンレスや、耐薬品性に優れたポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアセタールまたはフッ素樹脂などがあげられる。
【0029】
図3は、内周突起14の変形を防いでシール材10をノズル60に固定するために、シール材10にリング状構造体70を設けた場合の透析用カプラ1の一例を表す模式図であり、さらなるシール材10の固定のために有効である。ここで、リング状構造体70は、リング状部材50とは異なり、図3に示すように、ノズル60の内周突起14に対応する位置に硬質樹脂で形成されたものであり、シール材10の外周に備えられている。これによってシール材10の変形および伸びを小さくすることができ、リング状部材50による固定と合せて、より強固にシール材10とノズル60との固定を達成することが可能である。
【0030】
さらに、シール材10とノズル60との固定をより強固にしたい場合においては、図4に示すように、ノズル胴部を覆う形状を有するリング状構造体70をシール材10の先端に備えた形状が好ましい。硬質樹脂にて形成されたリング状構造体70の内周突起14をノズル60のくびれ部63に嵌合することで、シール材10自体の変形および伸びを小さくすることができ、リング状部材50による固定と合せて、より強固にシール材10とノズル60との固定を達成することが可能である。
【0031】
また、いずれにしても硬質樹脂で形成されたリング状構造体70は、シール材10と強固に嵌合されているか、または接着固定されているか、またはシール材10との二色成形またはインサート成形によってシール材10に密着固定されていることが好ましく、リング状構造体70の材質はリング状部材50と同様に、耐薬品性にすぐれたポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアセタールまたはフッ素樹脂などがより好ましい。
【0032】
図5はリング状部材50の形状を段付にした場合の透析用カプラ1の一例を表す模式図である。
【0033】
シール材10とノズル60の液密シールをより強くするためには、ノズル60の第一円筒部62をシールするだけでなく、合せてノズル天面61をシールすることが好ましい。リング状部材50の形状を段付にして、シール材10をノズル天面61に当接させて押圧させ、密着せしめる機能を付加することによって、透析用カプラ1とノズル60とをより液密にシールすることが可能である。
【0034】
図6はリング状部材50をスライダ40と一体にした場合の透析用カプラ1の一例を表す模式図である。
【0035】
リング状部材50のシール材10を押圧する機能を、バネ材30によって摺動するスライダ40の内周面に一体化することによって、透析用カプラ1を構成する部品点数を減らすことが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 透析用カプラ
10 シール材
11 シール材10における抜け止め溝部
12 外周テーパ部
13 外周突起
20 フランジ付スリーブ
21 フランジ付スリーブ20における抜け止め段部
30 バネ材
40 スライダ
41 内周鍔部
42 掛合凸部
50 リング状部材
60 透析液循環用のノズル
61 天面
62 第一円筒部
63 くびれ部
70 リング状構造体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析液循環用ノズルに封冠されるシール材が内周に配され、前記シール材の外周に固定されるスリーブ、前記スリーブに当接して前記ノズルに封冠される方向に伸縮可能なバネ材および前記バネ材の伸縮により前記スリーブに沿って摺動するスライダを備えた透析用カプラであって、前記シール材と前記スライダとの間にリング状部材を有し、前記リング状部材は前記スライダの摺動により押圧され前記封冠時の前記シール材と前記ノズルの先端部との液密性を増加させることを特徴とした透析用カプラ。
【請求項2】
前記シール材が前記透析用カプラの封冠時に前記ノズルの長手方向におけるくびれ部に嵌合または掛合する突起または前記突起を備えたリング状構造体を有することを特徴とする請求項1に記載の透析用カプラ。
【請求項3】
前記シール材における前記ノズルの第一円筒部に対応し押圧される外周面またはリング状部材の内周の少なくともいずれか一方がテーパ形状を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の透析用カプラ。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれかに記載された透析用カプラを備えていることを特徴とする透析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−192062(P2012−192062A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58792(P2011−58792)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】