説明

透析用剤および透析用剤の製造方法

【課題】製造効率の向上を図りつつ、粒状物に含まれる成分量がバラつく不都合を抑える透析用剤、および透析用剤の製造方法を提供する。
【解決手段】塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと酢酸ナトリウムとを成分に含む粒状物4を混在した透析用剤の製造方法であって、上記成分のうちの塩化ナトリウムの一部又は全部を除いた状態で混合する混合工程と、該混合工程により得られた混合物から前記粒状物を造粒する造粒工程と、を含み、前記造粒工程により湿式造粒での造粒粒子形成に必要な水分を、飽和水蒸気量又はそれ以下に加湿された加湿気体を吹き付けることにより行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析用剤および透析用剤の製造方法に関し、特に、人工透析に用いる重炭酸透析液の調製に使用され、粒状物を含んで構成された固体透析用剤などの透析用剤、及び湿式造粒法により製造される透析用剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透析液(具体的には、重炭酸透析液)の調製に使用される透析用剤には、液体型と固体型の2種類の型がある。液体型の透析用剤は、その大部分が水で占められており、重量と容量が大きくなるため、透析医療従事者への運搬作業の負荷が大きく、保管スペースも大きくなってしまう。一方、固体型の透析用剤は、主に粉末状や顆粒状に構成されており、水に溶解されて透析液となる。また、液体型の透析用剤と比較して重量や容量が小さい。このため、近年では、固体型の透析用剤(固体透析用剤)が急速に普及している。
【0003】
固体透析用剤は、当該固体透析用剤を構成する複数の原材料(成分)を固体状態(例えば、粉末状態、粒状態、顆粒状態)で混合・攪拌し、この混合物から粒状物を造粒して製造されている(例えば、特許文献1〜6参照)。なお、固体透析用剤の原材料は、電解質成分としての塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウムと、糖質成分としてのブドウ糖と、アルカリ化成分としての炭酸水素ナトリウム(重曹)と、pH調整剤としての酢酸(氷酢酸)である。また、調製後の透析液の成分濃度を適切な濃度(詳しくは透析治療を受ける患者にとって適切な濃度)とするため、固体透析用剤内の塩化ナトリウムの含有量が他の原材料の含有量よりも極めて多く設定されている。なお、上記した各原材料は一例であり、他の原材料を用いて固体透析用剤を構成することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−261454号公報
【特許文献2】特開2005−239618号公報
【特許文献3】特許第4001062号明細書
【特許文献4】特開2009−233008号公報
【特許文献5】特開2010−29654号公報
【特許文献6】特開2010−43073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、透析用剤の1バッチ当たりの製造効率を向上させるために、原材料の大部分を占める塩化ナトリウムを含まない混合物から粒状物を造粒し、この粒状物と市販の塩化ナトリウム粉末とを含ませて固体透析用剤を製造することが考えられている。このような製造方法を行えば、1バッチ当たりの透析用剤の包数(個数)の増量を図ることができる。しかしながら、塩化ナトリウムを除く原材料は、塩化ナトリウムと比較して溶解性、具体的には潮解性が高く、混合・攪拌し続けるとべとついて粘度が高くなってしまい、各成分の含量均一性を得られるまで混合・攪拌を十分に行うことができない。また、各成分が均一に混ざる前に、高粘度化した原材料が混合・攪拌装置に付着してしまう。この結果、造粒工程を経て粒状物を造粒できたとしても、この粒状物に含まれる成分量がバラついてしまい、調製後の透析液の成分濃度が予め設定された許容範囲から外れてしまう虞がある。さらに、造粒された粒状物においても表面がべとついてしまい、粒状物が凝集して塊を形成し易い。そして、凝集状態の粒状物を含んだ固体透析用剤では、透析液を調製し難いため(具体的には水に溶解し難いため)、好ましくない。
【0006】
また、水を添加して造粒する湿式造粒法は、設備の大型化が比較的容易であるため、製造効率が高く、広く工業的に用いられているが、原料の水分量、原料の粒子経や製造環境などによって、必要な水分量が微妙に変動するため、水分量のコントロールが難しい。
【0007】
また、上記湿式造粒法によって、原材料の大部分を占める塩化ナトリウムを含まない、または減量した混合物の造粒を行う場合、更に水分のコントロールが難しくなる。例えば、水分量が少なすぎる場合には造粒ができず、逆に水分量が多すぎる場合には高粘度化が著しく生じ、造粒工程を経て粒状物を造粒できたとしても、収率が低下し製造効率が悪くなり、この粒状物に含まれる成分量にばらつきが生じ、その結果、水分を添加して調製された透析液の成分濃度が予め設定された許容範囲から外れてしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、以上のような状況を鑑みてなされたものであり、製造効率の向上を図りつつ、粒状物に含まれる成分量がバラつく不都合を抑えることができる透析用剤および透析用剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下に示す本発明を完成するに至った。本願発明は、以下の特徴を有する。
【0010】
(1)塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと酢酸ナトリウムとを成分に含む粒状物を混在した透析用剤の製造方法であって、必要な成分のうちの塩化ナトリウムの一部又は全部を除いた状態で混合する混合工程と、該混合工程により得られた混合物から電解質造粒物を造粒する造粒工程と、前記電解質造粒物を乾燥させ、乾燥処理後の電解質造粒物のpHを酢酸を用いて調整し前記粒状物を得るpH調整工程と、を含み前記造粒工程により湿式造粒での造粒粒子形成に必要な水分添加を、従来は水添加によって行うところを、飽和水蒸気量又はそれ以下に加湿された加湿気体を吹き付けることにより行う透析用剤の製造方法である。
【0011】
(2)前記混合工程において、飽和水蒸気量またはそれ以下に加湿された加湿気体は、塩化カルシウム、塩化マグネシウムの少なくとも一方が吸湿して発熱し、塩化カルシウムの結晶水、塩化マグネシウムの結晶水の少なくとも一部が蒸発可能な風量および湿度に設定されている上記(1)に記載の透析用剤の製造方法である。
【0012】
(3)前記粒状物と、該粒状物とは別個に形成された固形状の透析用成分剤とを含み、前記粒状物の含有量および透析用成分剤の含有量を、粒状物と透析用成分剤とを水に溶解して調製された透析液の成分濃度が予め設定された許容成分濃度条件を満たすように設定する上記(1)または(2)に記載の透析用剤の製造方法である。ここで、「固形状」は、粉末状、顆粒状、粒状を含む概念であり、以下同様に用いることとする。
【0013】
(4)前記透析用成分剤がブドウ糖および塩化ナトリウムを含む上記(3)に記載の透析用剤の製造方法である。
【0014】
(5)前記粒状物と、該粒状物とは別個に形成された固形状の透析用成分剤とを含み、前記粒状物の含有量および透析用成分剤の含有量を、粒状物と透析用成分剤とを水に溶解して調製された透析液の成分濃度が予め設定された許容成分濃度条件を満たすように設定し、前記透析用成分剤がブドウ糖、塩化ナトリウムおよび酢酸を含む上記(1)または(2)に記載の透析用剤の製造方法である。
【0015】
(6)前記粒状物と透析用成分剤とを含ませてA剤を製造し、炭酸水素ナトリウムからなるB剤をA剤とは別個に製造する上記(3)から(5)のいずれか1つに記載の透析用剤の製造方法である。
【0016】
(7)塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと、酢酸ナトリウムとを成分に含む粒状物を混在した透析用剤であって、上記(1)から(6)のいずれか1つに記載された製造方法によって製造された透析用剤である。
【0017】
(8)塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと有機酸塩とを成分に含む粒状物を混在した透析用剤の製造方法であって、上記成分のうちの塩化ナトリウムの一部又は全部を除いた状態で混合する混合工程と、該混合工程により得られた混合物から電解質造粒物を造粒する造粒工程と、前記電解質造粒物を乾燥させる乾燥工程と、乾燥処理後の電解質造粒物のpHを有機酸を用いて調整し前記粒状物を得るpH調整工程と、を含み、前記造粒工程により湿式造粒での造粒粒子形成に必要な水分を、飽和水蒸気量又はそれ以下に加湿された加湿気体を吹き付けることにより行う透析用剤の製造方法である。
【0018】
(9)前記有機酸塩が、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の有機酸塩であり、
前記有機酸が、酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、マロン酸からなる群から選択される少なくとも1種の有機酸である、上記(8)に記載の透析用剤の製造方法である。
【0019】
(10)前記混合工程において、飽和水蒸気量またはそれ以下に加湿された加湿気体は、塩化カルシウム、塩化マグネシウムの少なくとも一方が吸湿して発熱し、塩化カルシウムの結晶水、塩化マグネシウムの結晶水の少なくとも一部が蒸発可能な風量および湿度に設定されている、上記(8)または(9)に記載の透析用剤の製造方法である。
【0020】
(11)前記粒状物と、該粒状物とは別個に形成された固形状の透析用成分剤とを含み、前記粒状物の含有量および透析用成分剤の含有量を、粒状物と透析用成分剤とを水に溶解して調製された透析液の成分濃度が予め設定された許容成分濃度条件を満たすように設定する、上記(8)から(10)のいずれか1つに記載の透析用剤の製造方法である。
【0021】
(12)前記透析用成分剤がブドウ糖および塩化ナトリウムを含む、上記(11)に記載の透析用剤の製造方法である。
【0022】
(13)前記粒状物と透析用成分剤とを含ませてA剤を製造し、炭酸水素ナトリウムからなるB剤をA剤とは別個に製造する、上記(11)または(12)に記載の透析用剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の透析用剤の製造方法によれば、透析用剤の原材料の大部分を占める塩化ナトリウムを含まない、または減量した混合物から粒状物を造粒し、この粒状物と市販の塩化ナトリウムとを混合して固体透析用剤を製造するので、製造効率が向上する。
【0024】
本発明の透析用剤の製造方法によれば、原材料の大部分を占める塩化ナトリウムを含まない、または減量した混合物の湿式造粒法において、原料の水分量、原料の粒子径や製造環境などによって必要な水分量が微妙に変動したとしても、湿式造粒中の水分コントロールが容易になる。
【0025】
本発明の透析用剤の製造方法によれば、飽和水蒸気量またはそれ以下に加湿された加湿気体の流量、湿度によって、造粒開始時に必要な水分量の微調整が可能となる。また、加湿気体により、塩化カルシウム、塩化マグネシウムの少なくとも一方が吸湿して発熱し、塩化カルシウムの結晶水、塩化マグネシウムの結晶水の少なくとも一部が蒸発するので、さらに混合物全体にほぼ均一に水分が行きわたり、局部的に高粘度になることが抑制される。
【0026】
さらに、本発明の透析用剤の製造方法によれば、従来の水添加に比べ、加湿気体及び結晶水の蒸発に由来する少量の水分が均一にほぼ常時供給されるため、造粒の進行が急激にならず、粒状物の成分がほぼ均一になる。その結果、造粒工程が安定化し、製造効率及び透析用剤の含量均一性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明における透析用剤の一例の概略図である。
【図2】本発明の製造方法に用いる撹拌転動流動層造粒機の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施の形態における透析用剤および透析用剤の製造方法について、以下説明する。
【0029】
本実施形態における透析用剤(固体透析用剤)1は、図1に示すように、A剤2とB剤3とから構成されている。ここで、B剤3はアルカリ化成分の一種である固形状の炭酸水素ナトリウムである。また、A剤2は、透析用剤1からB剤3を除いた残りの成分からなり、後述の造粒工程で造粒される粒状物4と、粒状物4とは別個に加えられる固形状の透析用成分剤5とを混在して構成されている。そして、A剤2およびB剤3は、それぞれ別個の容器6、例えば高密度ポリエチレン製ボトルや可撓性のある合成樹脂シート材(フィルム材)を筒状に形成した袋に充填されている。
【0030】
次に、A剤2を構成する粒状物4および透析用成分剤5について説明する。
【0031】
粒状物4は、透析用剤1を構成する複数の電解質成分とpH調整剤、具体的には、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと、酢酸ナトリウムと、酢酸(氷酢酸)とから構成されている。そして、粒状物4中の各成分のうち、塩化ナトリウムの一部または全部を除いた成分を混合し、得られた混合物から造粒することにより得られる。
【0032】
本実施の形態において、上記「酢酸ナトリウム」の代わりに、本実施の形態では、以下に例示する有機酸塩から選択される少なくとも1種の有機酸塩が用いられる。前記有機酸塩としては、クエン酸ナトリウム等のクエン酸塩、酢酸ナトリウム、二酢酸ナトリウム等の酢酸塩、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム等の乳酸塩、リンゴ酸ナトリウム等のリンゴ酸塩、フマル酸ナトリウム等のフマル酸塩、コハク酸ナトリウム等のコハク酸塩、マロン酸ナトリウム等のマロン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。好ましい有機酸塩としては、クエン酸塩、酢酸ナトリウム、二酢酸ナトリウムが挙げられ、特に好ましい有機酸塩としては、酢酸ナトリウムが挙げられる。
【0033】
また、上記「酢酸(氷酢酸)」の代わりに、本実施の形態では、以下に例示する有機酸から選択される少なくとも1種の有機酸が用いられる。前記有機酸としては、酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、マロン酸が挙げられます。好ましい有機酸としては、クエン酸、酢酸が挙げられる。特に好ましい有機酸としては、酢酸が挙げられる。
【0034】
透析用成分剤5は、透析液に必要な成分のうち粒状物4中の成分とは異なる粒状物非含有成分(具体的には、糖質成分としてのブドウ糖)と、粒状物4中にも含まれている粒状物含有成分(具体的には、電解質成分の一種である塩化ナトリウム)とを、それぞれ粒状物4とは別個に固形状(具体的には、粉末状、顆粒状、粒状)にして構成されている。なお、透析用成分剤5として透析用剤1内に混在する塩化ナトリウムの重量は、透析用剤1から調製された透析液の成分濃度、詳しくはナトリウムおよび塩素の成分濃度が予め設定された許容成分濃度条件を満たすことができるように設定されている。言い換えると、透析用成分剤5としての塩化ナトリウムは、粒状物4に含まれている分では足りない塩化ナトリウムの量を補充する補充剤として機能する。なお、透析液中の成分濃度の好適な範囲は以下の通りである。以下、有機酸塩として酢酸ナトリウムを例に取って説明する。
Na: 120〜150mEq/L
: 1.5〜3.0mEq/L
Ca++: 2.0〜4.0mEq/L
Mg++: 0.5〜2.0mEq/L
Cl: 90〜120mEq/L
HCO: 20〜35mEq/L
CHCOO:2.0〜12mEq/L
ブドウ糖: 0〜2.5g/L
【0035】
このような構成から成る透析用剤1の製造方法、主にA剤2の製造方法について、図1および図2に基づき説明する。なお、B剤3は、炭酸水素ナトリウムのみを容器6bへ所定の分量だけ充填して製造される。
【0036】
まず、A剤2の原材料として、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと、酢酸ナトリウムとからなる成分のうち、塩化ナトリウムの一部または全部を除いた成分を混合し、得られた混合物を得る。例えば、後述する実施例に示すように、塩化ナトリウム0kg、無水酢酸ナトリウム11.64kg、塩化カルシウム2水和物3.92kg、塩化カリウム2.64kg、塩化マグネシウム1.80kgを図2に示す撹拌転動流動層造粒機(フロイント産業株式会社製、「スパイラフロー SFC−15」)に投入し、水平に回転するロータディスクとその隙間から噴出する流動エアーと攪拌羽根を回転させることで、各成分が均一になるように混合・攪拌を十分に行う。
【0037】
さらに、撹拌転動流動層造粒機に投入された原材料を十分に混合・攪拌したならば、この混合物に飽和水蒸気量またはそれ以下に加湿された加湿気体を吹き付ける。このとき加湿気体は塩化カルシウム、塩化マグネシウムの少なくとも一方が吸湿して発熱し、塩化カルシウムの結晶水、塩化マグネシウムの結晶水の少なくとも一部が蒸発して、さらに混合物全体にほぼ均一に水分が行きわたって、湿式造粒が進行して造粒粒子からなる電解質造粒物が形成される。従来のような水の添加は行われない。
【0038】
加湿気体を、混合・撹拌工程における混合物からなる処理対象物に吹き付けることにより、混合物中の塩化カルシウム、塩化マグネシウムの少なくとも一方が吸湿して発熱し、その結果、塩化カルシウムの結晶水、塩化マグネシウムの結晶水の少なくとも一部が蒸発して、水分を提供するので、さらに処理対象物全体にほぼ均一に水分が行きわたり、局部的に高粘度になることが抑制される。
【0039】
上述した加湿気体は、例えば加湿空気を用いることができるが、これに限るものではなく、加湿された不活性気体(例えば、加湿された窒素、アルゴン等)であってもよい。加湿気体は、飽和水蒸気量またはそれ以下に加湿されており、例えば、湿度が30%RHから100%RHである。ここで、「飽和水蒸気量」は、1mの空間に存在できる水蒸気の質量をグラムで表され、空気中の飽和水蒸気量は気温に応じて決まり、その気温における空気が含むことができる最大水蒸気量をいう。また、本実施の形態における加湿気体は、好ましくは30℃から50℃に制御されている。好ましい湿度を調整した気体の相対湿度は、30℃において、41%RH〜10%RH、より好ましくは、35%RH〜20%RH、特に好ましくは、35%RH〜30%RHである。
【0040】
図2に、撹拌転動流動層造粒機の一例を示す。本実施の形態における混合撹拌工程及び造粒工程の一例では、撹拌転動流動層造粒機20に、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと、酢酸ナトリウムとからなる成分のうち、塩化ナトリウムの一部または全部を除いた成分を投入し、ロータディスク26を回転させ、さらにロータディスク26の隙間を介して流動エアー(図2の黒矢印)を撹拌転動流動層造粒機20に送気し、攪拌羽根28を回転させ、上記成分を混合する。その後、加湿気体温度を30℃として、露点温度が22.8℃〜−10.7℃となる加湿空気を流動エアーとしてロータディスク26の隙間を介して吹き込みながら、ロータディスク26及び攪拌羽根28を回転させて混合し、電解質造粒物である粒状物30を得る。次いで、例えば気体温度80℃、露点温度−12℃の乾燥空気を流動エアーとしてロータディスク26の隙間を介して吹き込み、電解質造粒物である粒状物30を乾燥させる。
【0041】
なお、従来の造粒工程では、本実施の形態における加湿気体の代わりに、図2に示す水タンク24から送液された水をノズルスプレー22から噴霧することにより造粒を行っていた。
【0042】
上述のように、加湿気体により造粒され電解質造粒物は、乾燥処理がなされ、さらに、図2に示すように、この電解質造粒物と氷酢酸とを混合機(容器回転型混合機,図示せず)で混合して電解質造粒物のpH調整処理を行う(pH調整工程)。さらに、pH調整処理がなされた粒状物4と、別途準備した透析用成分剤5(塩化ナトリウムおよびブドウ糖)とを所定の分量で容器6a(B剤3の容器6bとは別個の容器6a)に充填してA剤2を得る(充填工程)。このようにして行われるA剤2の製造方法においては、他の原材料と比較して大量の塩化ナトリウムを加えずに粒状物4を造粒し、この粒状物4の造粒後に塩化ナトリウムを加えて透析用剤1のA剤2を製造することができる。したがって、1バッチ当たりの透析用剤1の包数(個数)を増量することができ、透析用剤1の製造効率の向上を図ることができる。
【0043】
このようにして製造された透析用剤1(A剤2およびB剤3)から透析液を調製するには、A剤2を所定量の精製水に溶解してA原液を作製し、B剤3を所定量の精製水に溶解してB原液を作製し、これらのA原液とB原液とを所定の比率で混合希釈する。例えば、2682.0gのA剤2を9Lになるように精製水で溶解してA原液を作製し、661.6gのB剤3を11.34Lになるように精製水で溶解してB原液を作製する。そして、A原液:B原液:精製水=1:1.26:32.74の割合で混合すれば、315Lの透析液を調製することができる。
【0044】
本願明細書における『収率』とは、造粒工程の原料投入量に対する実際に得られた粒状物の収量の比率である。また、本願明細書における『粒状物の収量』とは、粒状物の粒径が1700μm〜355μmの範囲の粒状物の量をいう。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1〜7>
以下に示す表1の配合量で各原料を攪拌転動流動層造粒機に投入し、ロータディスク200rpm、流動エアー8m/分(気体温度:30℃、露点温度:−12℃)、攪拌羽根300rpmで5分間混合する。その後、加湿気体温度を30℃として、実施例1〜7として露点温度を22.8℃、15.2℃、13.0℃、10.5℃、4.5℃、−4.9℃、−10.7℃とし、加湿空気を流動エアーとして、風量8m/分で吹き込みながら、ロータディスク200rpm、攪拌羽根300rpmで混合時間X分間(表2にそれぞれ明示されている)混合した。その後、気体温度80℃、露点温度−12℃の乾燥空気を流動エアーとして、風量8m/分で吹き込み乾燥させて、以下に示す表2の収率の電解質造粒物が得られた。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
<比較例1,2,3>
上記表1の配合量で各原料を攪拌転動流動層造粒機に投入し、ロータディスク200rpm、流動エアー8m/分、攪拌羽根300rpmで5分間混合する。その後、スプレーノズルから水1.7kgを、比較例3〜5として100g/分、150g/分、200g/分の流量で噴霧しながら、ロータディスク200rpm、流動エアー8m/分(気体温度:30℃、露点温度:−12℃)、攪拌羽根300rpmで20分間混合した。その後、気体温度80℃、露点温度−12℃の乾燥空気を流動エアーとして、風量8m/分で吹き込み乾燥させて、以下に示す表3の収率の電解質造粒物が得られた。
【0050】
【表3】

【0051】
<実施例8,9,10、参考例>
以下に示す表4の配合量で各原料を横枠転動流動層造粒機に投入し、ロータディスク200rpm、流動エアー8m/分(気体温度:30℃、露点温度:−12℃)、撹拌羽根300rpmで5分間混合する。その後、加湿気体温度を30℃として、露点温度を13℃とし、加湿空気を流動エアーとして、風量8m/分で吹き込みながら、ロータディスク200rpm、撹拌羽根300rpmでY分間(表5にそれぞれ明示されている)混合した。その後、気体温度80℃、露点温度−12℃の乾燥空気を流動エアーとして、風量8m/分で吹き込み乾燥させて、以下に示す表5の収率の電解質造粒物が得られた。
【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【0054】
実施例1から実施例8において、塩化ナトリウムを全部除いた状態であっても、混合・造粒することが可能であり、実施例9,10のように塩化ナトリウムを一部除いた条件(除去率97%、93%)でも、混合・造粒することが可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、人工透析用途に好適である。
【符号の説明】
【0056】
1 透析用剤、2 A剤、3 B剤、4 粒状物、5 透析用成分剤、6,6a,6b 容器、20 撹拌転動流動層造粒機、22ノズルスプレー、24 水タンク、26 ロータディスク、28 攪拌羽根、30 電解質造粒物である粒状物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと酢酸ナトリウムとを成分に含む粒状物を混在した透析用剤の製造方法であって、
上記成分のうちの塩化ナトリウムの一部又は全部を除いた状態で混合する混合工程と、 該混合工程により得られた混合物から電解質造粒物を造粒する造粒工程と、
前記電解質造粒物を乾燥させ、乾燥処理後の電解質造粒物のpHを酢酸を用いて調整し前記粒状物を得るpH調整工程と、
を含み、
前記造粒工程により湿式造粒での造粒粒子形成に必要な水分を、飽和水蒸気量又はそれ以下に加湿された加湿気体を吹き付けることにより行うことを特徴とする透析用剤の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程において、飽和水蒸気量またはそれ以下に加湿された加湿気体は、塩化カルシウム、塩化マグネシウムの少なくとも一方が吸湿して発熱し、塩化カルシウムの結晶水、塩化マグネシウムの結晶水の少なくとも一部が蒸発可能な風量および湿度に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の透析用剤の製造方法。
【請求項3】
前記粒状物と、該粒状物とは別個に形成された固形状の透析用成分剤とを含み、
前記粒状物の含有量および透析用成分剤の含有量を、粒状物と透析用成分剤とを水に溶解して調製された透析液の成分濃度が予め設定された許容成分濃度条件を満たすように設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の透析用剤の製造方法。
【請求項4】
前記透析用成分剤がブドウ糖および塩化ナトリウムを含むことを特徴とする請求項3に記載の透析用剤の製造方法。
【請求項5】
前記粒状物と、該粒状物とは別個に形成された固形状の透析用成分剤とを含み、
前記粒状物の含有量および透析用成分剤の含有量を、粒状物と透析用成分剤とを水に溶解して調製された透析液の成分濃度が予め設定された許容成分濃度条件を満たすように設定し、
前記透析用成分剤がブドウ糖、塩化ナトリウムおよび酢酸を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の透析用剤の製造方法。
【請求項6】
前記粒状物と透析用成分剤とを含ませてA剤を製造し、炭酸水素ナトリウムからなるB剤をA剤とは別個に製造することを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の透析用剤の製造方法。
【請求項7】
塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと、酢酸ナトリウムとを成分に含む粒状物を混在した透析用剤であって、
前記請求項1から請求項6のいずれか1項に記載された製造方法によって製造されたことを特徴とする透析用剤。
【請求項8】
塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと有機酸塩とを成分に含む粒状物を混在した透析用剤の製造方法であって、
上記成分のうちの塩化ナトリウムの一部又は全部を除いた状態で混合する混合工程と、 該混合工程により得られた混合物から電解質造粒物を造粒する造粒工程と、
前記電解質造粒物を乾燥させる乾燥工程と、
乾燥処理後の電解質造粒物のpHを有機酸を用いて調整し前記粒状物を得るpH調整工程と、
を含み、
前記造粒工程により湿式造粒での造粒粒子形成に必要な水分を、飽和水蒸気量又はそれ以下に加湿された加湿気体を吹き付けることにより行うことを特徴とする透析用剤の製造方法。
【請求項9】
前記有機酸塩が、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の有機酸塩であり、
前記有機酸が、酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、マロン酸からなる群から選択される少なくとも1種の有機酸であることを特徴とする請求項8に記載の透析用剤の製造方法。
【請求項10】
前記混合工程において、飽和水蒸気量またはそれ以下に加湿された加湿気体は、塩化カルシウム、塩化マグネシウムの少なくとも一方が吸湿して発熱し、塩化カルシウムの結晶水、塩化マグネシウムの結晶水の少なくとも一部が蒸発可能な風量および湿度に設定されていることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の透析用剤の製造方法。
【請求項11】
前記粒状物と、該粒状物とは別個に形成された固形状の透析用成分剤とを含み、
前記粒状物の含有量および透析用成分剤の含有量を、粒状物と透析用成分剤とを水に溶解して調製された透析液の成分濃度が予め設定された許容成分濃度条件を満たすように設定することを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の透析用剤の製造方法。
【請求項12】
前記透析用成分剤がブドウ糖および塩化ナトリウムを含むことを特徴とする請求項11に記載の透析用剤の製造方法。
【請求項13】
前記粒状物と透析用成分剤とを含ませてA剤を製造し、炭酸水素ナトリウムからなるB剤をA剤とは別個に製造することを特徴とする請求項11または請求項12に記載の透析用剤の製造方法。


【図1】
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【図2】
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