説明

透析装置

【課題】返血時、血液ポンプ及び補液ポンプの流速に誤差が生じても、当該血液ポンプと補液ポンプとの間の流路に過大な正圧が生じてしまうのを防止することができる透析装置を提供する。
【解決手段】一端aが透析液導入ラインL1と接続されるとともに、他端側が分岐して第1の分岐端b及び第2の分岐端cを有した流路から成り、当該第1の分岐端bが動脈側血液回路2と接続されるとともに、返血時、第2の分岐端bが動脈側血液回路2の先端に接続可能とされた補液ラインL3と、補液ラインL3における分岐部Pより透析液導入ラインL1との接続部側に配設され、当該透析液導入ラインL1の透析液を第1の分岐端b及び第2の分岐端cまで流動させ得る補液ポンプ7とを備えた透析装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液回路に接続された血液浄化器にて透析を行わせしめる透析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、透析治療に使用される透析装置は、血液回路に接続されたダイアライザに透析液を供給するとともに、透析により老廃物を含んだ透析液をダイアライザから排出すべく透析液導入ライン及び透析液排出ラインがそれぞれ延設されている。これら透析液導入ライン及び透析液排出ラインの先端は、ダイアライザの透析液導入口及び透析液導出口にそれぞれ接続されており、透析液の供給及び排出が行われている。
【0003】
ところで、血液浄化器が血液透析濾過(HDF)に適用されるものであって、補液として透析液を利用したもの(以下、オンラインHDFという)においては、除水分だけ患者の血液に透析液を補液する必要がある。然るに、図6に示すように、ダイアライザ101、血液ポンプ104が配設された動脈側血液回路102及び静脈側血液回路103から成る血液回路と、ポンプ105から供給された透析液をダイアライザ101に導入する透析液導入ラインL1と、ダイアライザ101から透析液を排出する透析液排出ラインL2と、これら透析液導入ラインL1と透析液排出ラインL2とをダイアライザ101を介さずに結ぶバイパスラインL4と、補液の際に使用されるための補液ラインL3とを有した透析装置が例えば特許文献1にて提案されている。
【0004】
かかるオンラインHDF方式の透析装置は、透析治療を行う際に血液から所定量の水分を取り除き(濾過)、その分補液ラインL3から透析液を供給して、血液中の水分と透析液とを置換せしめるもので、補液時の補液ラインL3の流量を制御するための補液ポンプ106を有している。尚、同図中符号109、110は、透析液導入ラインL1を流れる透析液を濾過して浄化するための濾過フィルタを示しており、符号104及びVは、それぞれ血液ポンプ、電磁バルブを示している。また、動脈側血液回路102及び静脈側血液回路103の途中には、それぞれエアトラップチャンバD1、D2が接続されている。
【0005】
そして、補液ラインL3の基端をバイパスラインL4の一方のT字管107に接続するとともに、当該補液ラインL3の先端を動脈側血液回路102のエアトラップチャンバD1から延設したチューブC先端に接続して、濾過される水分量だけ当該エアトラップチャンバD1から透析液を補液(前補液)しつつ透析治療を行っていた。尚、エアトラップチャンバD2からチューブを延設させ、その先端に補液ラインL3の先端を接続させて補液(後補液)する場合もある。
【0006】
かかる透析装置によって、透析治療後の返血を行うには、図7に示すように、静脈側血液回路103先端の穿刺針を患者に穿刺したまま、補液ラインL3の先端を動脈側血液回路102の先端(プライミング時と同様、動脈側穿刺針を取り外した後のコネクタ)に接続し、ポンプ105から透析液を供給する。これにより、血液回路内に残存した血液と透析液とが置換し、当該残存血液を静脈側穿刺針から患者の体内に戻すことができる。尚、かかる返血時においても、補液ポンプ106及び血液ポンプ104を正転させておく必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−313522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の透析装置においては、以下の如き問題があった。
通常、血液ポンプや透析ポンプ等の如き汎用ポンプの駆動により得られる流速には設定駆動量に対して誤差があることから、返血時、図7の如く血液ポンプ104と補液ポンプ106とが直列に接続されていると、流速の誤差によって、例えば血液ポンプ104の方が補液ポンプ106より流速が低くなってしまうと、血液ポンプ104と補液ポンプ106との間の流路には過大な正圧が生じてしまい、その流路の破損等が生じる虞があった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、返血時、血液ポンプ及び補液ポンプの流速に誤差が生じても、当該血液ポンプと補液ポンプとの間の流路に過大な正圧が生じてしまうのを防止することができる透析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、血液浄化膜を内在するとともに、血液導入口、血液導出口、透析液導入口及び透析液排出口が形成され、前記血液浄化膜を介して血液に透析液を接触させて透析浄化作用を施す血液浄化器と、基端が前記血液浄化器の血液導入口に接続され、その途中において血液ポンプが配設された動脈側血液回路と、基端が前記血液浄化器の血液導出口に接続された静脈側血液回路と、前記血液浄化器の透析液導入口に接続され、前記血液浄化器に透析液を導入する透析液導入ラインと、前記血液浄化器の透析液排出口に接続され、前記血液浄化器から透析液を排出する透析液排出ラインと、調製された透析液を前記透析液導入ラインに供給する供給手段とを具備した透析装置であって、一端が前記透析液導入ライン又は透析液排出ラインと接続されるとともに、他端側が分岐して第1の分岐端及び第2の分岐端を有した流路から成り、当該第1の分岐端が前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路と接続されるとともに、返血時、前記第2の分岐端が前記動脈側血液回路の先端に接続可能とされた補液ラインと、該補液ラインにおける分岐部より前記透析液導入ライン又は透析液排出ラインとの接続部側に配設され、当該透析液導入ライン又は透析液排出ラインの透析液を前記第1の分岐端及び第2の分岐端まで流動させ得る補液ポンプとを備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の透析装置において、前記補液ラインにおける分岐部と第2の分岐端との間には、透析液の流動を遮断又は開放し得る弁手段が配設されたことを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の透析装置において、前記第1の分岐端は、前記動脈側血液回路の途中に接続された動脈側エアトラップチャンバ、又は前記静脈側血液回路の途中に接続された静脈側エアトラップチャンバに接続されたことを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れか1つに記載の透析装置において、前記血液ポンプ及び補液ポンプの駆動を制御する制御手段を具備するとともに、当該制御手段は、返血時、当該血液ポンプの駆動速度よりも補液ポンプの駆動速度の方が所定比率高くなるよう同期制御可能とされたことを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の透析装置において、前記所定比率は、略10%であることを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項4又は請求項5記載の透析装置において、前記制御手段は、返血開始時には前記血液ポンプ及び補液ポンプの両方を駆動させるとともに、所定時間後に前記血液ポンプを停止させて前記補液ポンプのみ駆動させるよう制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、補液ラインは、一端が透析液導入ライン又は透析液排出ラインと接続されるとともに、他端側が分岐して第1の分岐端及び第2の分岐端を有した流路から成り、当該第1の分岐端が動脈側血液回路又は静脈側血液回路と接続されるとともに、返血時、第2の分岐端が動脈側血液回路の先端に接続可能とされたので、返血の際に補液ラインにおける分岐部から第2の分岐端までの間を透析液が流通し、且つ、当該分岐部から第1の分岐端までの間を透析液が流通可能とされる。従って、返血時、血液ポンプ及び補液ポンプの流速に誤差が生じて、例えば血液ポンプの流速が補液ポンプの流速より低くなっても、補液ラインにおける分岐部から第1の分岐端までの間にて透析液を流通させることができ、当該血液ポンプと補液ポンプとの間の流路に過大な正圧が生じてしまうのを防止することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、補液ラインにおける分岐部と第2の分岐端との間には、透析液の流動を遮断又は開放し得る弁手段が配設されたので、当該弁手段により、返血前は透析液の流動を遮断させ、返血時に透析液の流動を開放させることができ、透析治療中の補液時に第2の分岐端から透析液が排出されてしまうのを確実に回避することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、第1の分岐端は、動脈側血液回路の途中に接続された動脈側エアトラップチャンバ、又は静脈側血液回路の途中に接続された静脈側エアトラップチャンバに接続されたので、補液時、動脈側血液回路又は静脈側血液回路に透析液を流入させる際、除泡を施すことができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、血液ポンプ及び補液ポンプの駆動を制御する制御手段を具備するとともに、当該制御手段は、返血時、血液ポンプの駆動速度よりも補液ポンプの駆動速度の方が所定比率高くなるよう同期制御可能とされたので、血液ポンプ及び補液ポンプの流速に誤差が生じても、補液ラインにおける分岐部から第1の分岐端までの間を透析液が逆流してしまうのを防止できる。
【0020】
請求項5の発明によれば、所定比率は、略10%であるので、血液ポンプ及び補液ポンプの如き汎用ポンプが通常生じ得る流速の誤差(略10%とされる)を十分吸収させることができる。
【0021】
請求項6の発明によれば、制御手段は、返血開始時には血液ポンプ及び補液ポンプの両方を駆動させるとともに、所定時間後に血液ポンプを停止させて補液ポンプのみ駆動させるよう制御するので、返血時の透析液の使用量を削減することができるとともに返血時間を短縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る透析装置を示す模式図
【図2】同透析装置における補液ラインを示す模式図
【図3】同透析装置における補液ラインの返血時の接続状態を示す模式図
【図4】本発明の他の実施形態に係る透析装置における補液ラインの返血時の接続状態を示す模式図
【図5】本発明の更に他の実施形態に係る透析装置における補液ラインの返血時の接続状態を示す模式図
【図6】従来の透析装置(血液透析治療時或いは補液時)を示す模式図
【図7】従来の透析装置(返血時)を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る透析装置は、血液透析(HD)に適用されるものであり、図1に示すように、血液浄化器としてのダイアライザ1に動脈側血液回路2及び静脈側血液回路3が接続された血液回路Aと、透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2を有した透析装置本体Bと、補液ポンプ7が配設された補液ラインL3とから主に構成されている。
【0024】
ダイアライザ1は、不図示の血液浄化膜(本実施形態においては中空糸膜であるが半透膜及び濾過膜を含む)を内在し、血液を導入する血液導入口1a及び導入した血液を導出する血液導出口1bが形成されるとともに、透析液を導入する透析液導入口1c及び導入した透析液を排出する透析液排出口1dが形成されたもので、中空糸膜を介して血液導入口1aから導入した血液に透析液を接触させて透析浄化作用を施すものである。
【0025】
動脈側血液回路2は、主に可撓性チューブから成り、基端がダイアライザ1の血液導入口1aに接続されて患者の動脈から採取した血液をダイアライザ1の中空糸膜内に導くものである。かかる動脈側血液回路2の先端には、動脈側穿刺針11aを取り付け得るコネクタ6aが形成されているとともに、途中にエアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)が接続されている。また、動脈側血液回路2におけるエアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)よりも先端側には、しごき型のポンプ(正転させると可撓性チューブの外側から所定方向にしごいて血液を流動させる構成のもの)から成る血液ポンプ8が配設されている。
【0026】
静脈側血液回路3は、動脈側血液回路2と同様に主に可撓性チューブから成り、基端がダイアライザ1の血液導出口1bに接続されて中空糸膜内を通過した透析液を導出させるものである。かかる静脈側血液回路3の先端には、静脈側穿刺針11bを取り付け得るコネクタ6bが形成されているとともに、途中にエアトラップチャンバD2(静脈側エアトラップチャンバ)が接続されている。
【0027】
ダイアライザ1の透析液導入口1c及び透析液排出口1dには、それぞれ透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2が接続されており、当該透析液導入ラインL1を介してダイアライザ1に導入された透析液が、中空糸膜の外側を通過して透析液排出ラインL2から排出され得るよう構成されている。これら透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2の途中には、電磁弁V1及び電磁弁V2がそれぞれ接続されている。更に、これら透析液導入ラインL1と透析液排出ラインL2とをダイアライザ1を介さずに結ぶバイパスラインL4が形成されており、当該バイパスラインL4には電磁弁Vが配設されている。
【0028】
また、透析装置本体B内には、透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2に跨って複式ポンプ5(供給手段)が配設されている。かかる複式ポンプ5は、調製された透析液を当該透析液導入ラインL1に供給するためのものである。また、透析液排出ラインL2には、複式ポンプ5をバイパスするバイパスラインL5及びL6が配設されており、バイパスラインL5に患者の血液中の余剰水分を取り除くための除水ポンプ12が配設されているとともに、バイパスラインL6に電磁弁V3が配設されている。尚、図中符号4a、4bは、透析液を濾過して清浄化するための濾過フィルタを示している。かかる濾過フィルタ4a、4bは、少なくとも1つ配設されるのが好ましいが、本実施形態の如く2つ或いは3つ以上の複数配設するようにしてもよい。
【0029】
而して、血液透析治療時においては、動脈側穿刺針11a及び静脈側穿刺針11bを患者に穿刺し、複式ポンプ5を駆動させてダイアライザ1に透析液を導入させつつ血液ポンプ8を駆動させれば、動脈側血液回路2、ダイアライザ1及び静脈側血液回路3にて血液が体外循環されるとともに、ダイアライザ1にて血液が浄化され、更には除水ポンプ12の駆動にて除水がなされるようになっている。
【0030】
透析液導入ラインL1の途中(濾過フィルタ4bと電磁弁V1との間)には、補液ラインL3の一端aを接続するためのT字管9が接続されている。本実施形態に係る補液ラインL3は、一端aがT字管9を介して透析液導入ラインL1と接続されるものとされ、図2で示すように、他端側が分岐して第1の分岐端b及び第2の分岐端cを有した流路(例えば可撓性チューブ等)から成り、当該第1の分岐端bが動脈側血液回路2のエアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)と接続されるとともに、返血時、第2の分岐端cが動脈側血液回路2の先端に接続可能とされたものである。尚、図中符号14は、補液ポンプ7により扱かれる被扱き部を示しており、太径且つ軟質チューブから成る。
【0031】
ここで、便宜上、補液ラインL3における一端aから分岐部Pまでの間の流路を主流路L3a、分岐部Pから第1の分岐端bまでの流路を第1分岐流路L3b、分岐部Pから第2の分岐端cまでの流路を第2分岐流路L3cと定義する。第1分岐流路L3bの先端(第1の分岐端b)は、予めエアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)と接続されているとともに、第2分岐流路L3cの先端(第2の分岐端c)には、動脈側血液回路2の先端のコネクタ11aと接続可能なコネクタ10が形成されている。
【0032】
補液ポンプ7は、補液ラインL3における分岐部Pより透析液導入ラインL1との接続部側(主流路L3aにおける一端aと分岐部Pとの間)に配設され、当該透析液導入ラインL1の透析液を第1分岐流路L3bを介して第1の分岐端bまで、及び第2分岐流路L3cを介して第2の分岐端cまで流動させ得るしごき型のポンプから成る。これにより、血液透析治療中、補液ポンプ7を駆動させることにより、透析液導入ラインL1の透析液をエアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)を介して動脈側血液回路2に供給し、補液(前補液)を行わせることができる。
【0033】
更に、補液ラインL3における分岐部Pと第2の分岐端cとの間(即ち、第2分岐流路L3cの途中)には、透析液の流動を遮断又は開放し得る弁手段15が配設されている。かかる弁手段15は、手動で流路をクランプ又はアンクランプして透析液の流動を遮断又は開放し得るクランプ手段、或いは流路をクランプ又はアンクランプして透析液の流動を遮断又は開放し得る電磁弁等で構成されている。
【0034】
本実施形態においては、血液透析治療時(補液時含む)、図1に示すように、弁手段15は流路を閉じた状態とされて透析液の流動を遮断するよう構成されている。そして、血液透析治療が終了した後、血液回路等の血液を患者に戻すための返血を行う際、図3に示すように、静脈側穿刺針11bを患者に穿刺したまま動脈側穿刺針11aを取り外し、動脈側血液回路2先端のコネクタ6aに補液ラインL3における第2の分岐端cに形成されたコネクタ10を接続させる。尚、返血時は弁手段15を開状態として透析液の流動を開放させている。
【0035】
また、電磁弁V1及びV2を閉状態としつつ電磁弁Vを開状態(ダイアライザ1をバイパスさせる流路を構成させる)とすることにより、透析装置本体Bの配管部とダイアライザ1内の血液流路との切り離しを行うとともに、バイパスラインL6の電磁弁V3を開状態とする。この状態で、血液ポンプ8及び補液ポンプ7を正転駆動させることにより、透析液導入ラインL1の透析液が補液ラインL3における主流路L3a及び第2分岐流路L3cを介して動脈側血液回路2に流入し、その透析液と血液とを置換させることにより返血を行わせる。これにより、血液ポンプ8の駆動による流速よりも補液ポンプ7の駆動による流速の方が高くても、透析液の一部は、分岐部Pから第1分岐流路L3bを介して第1の分岐端bに至ることとなり、その透析液を血液ポンプ8を迂回(バイパス)させつつ動脈側血液回路2に流入させることができる。
【0036】
ここで、本実施形態においては、血液ポンプ8及び補液ポンプ7の駆動制御部とそれぞれ電気的に接続されたマイコン等から成る制御手段13が透析装置本体Bに配設されている。かかる制御手段13は、血液ポンプ8及び補液ポンプ7の駆動を制御するもので、返血時、当該血液ポンプ8の駆動速度よりも補液ポンプ7の駆動速度の方が所定比率(本実施形態においては、略10%)高くなるよう同期制御可能とされたものである。即ち、血液ポンプ8及び補液ポンプ7は、駆動速度を設定しても、実際の流速には誤差が生じているので、その誤差を見込んで、所定比率だけ補液ポンプ7の駆動速度の方が血液ポンプ8の駆動速度より高く設定しているのである。
【0037】
これにより、制御手段13により、血液ポンプ8の駆動速度よりも補液ポンプ7の駆動速度の方が所定比率高くなるよう同期制御されるので、血液ポンプ8及び補液ポンプ7の流速に誤差が生じても、その誤差分を吸収することができ、実際の血液ポンプ8の流速が補液ポンプ7の流速よりも高くなってしまって補液ラインL3における分岐部Pから第1の分岐端bまでの間(第1分岐流路L3b)を血液が逆流(分岐端bから分岐部Pに向かう流れ)してしまうのを防止できる。特に、本実施形態においては、所定比率が略10%に設定されているので、血液ポンプ8及び補液ポンプ7の如き汎用ポンプが通常生じ得る流速の誤差(略10%とされる)を十分吸収させることができる。
【0038】
更に、本実施形態に係る制御手段13は、返血開始時には上記の如く同期制御にて血液ポンプ8及び補液ポンプ7の両方を駆動させるとともに、所定時間後に血液ポンプ8を停止させて補液ポンプ7のみ駆動させるよう制御するものとされている。ここで、所定時間後とは、動脈側血液回路2の先端からエアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)までの間の流路が全て透析液に置換された時間後であり、実際に実験で求めた時間であっても或いは当該流路の体積と透析液の流速とから理論的に求められた時間であってもよい。これにより、返血開始から終了時まで継続して血液ポンプ8及び補液ポンプ7を駆動させる場合に比べ、返血時の透析液の使用量を削減することができるとともに返血時間を短縮させることができる。尚、本実施形態においては、血液ポンプ8を停止させるトリガとして、血液を透析液に置換するまでの「時間」としているが、これに代えて例えば血液回路に血液濃度測定手段を配設することにより、血液が透析液に置換されたことを直接検出するようにしてもよい。
【0039】
上記実施形態によれば、補液ラインL3は、一端aが透析液導入ラインL1と接続されるとともに、他端側が分岐して第1の分岐端b及び第2の分岐端cを有した流路から成り、当該第1の分岐端bが動脈側血液回路2と接続されるとともに、返血時、第2の分岐端cが動脈側血液回路2の先端に接続可能とされたので、返血の際に補液ラインL3における分岐部Pから第2の分岐端cまでの間を透析液が流通し、且つ、当該分岐部Pから第1の分岐端bまでの間を透析液が流通可能とされる。
【0040】
従って、返血時、血液ポンプ8及び補液ポンプ7の流速に誤差が生じて、例えば血液ポンプの流速が補液ポンプ7の流速より低くなっても、補液ラインL3における分岐部Pから第1の分岐端bまでの間にて透析液を流通させることができ、当該血液ポンプと補液ポンプとの間の流路に過大な正圧が生じてしまうのを防止することができる。
【0041】
また、本実施形態によれば、補液ラインL3における分岐部Pと第2の分岐端cとの間には、透析液の流動を遮断又は開放し得る弁手段15が配設されたので、当該弁手段15により、返血前は透析液の流動を遮断させ、返血時に透析液の流動を開放させることができ、透析治療中の補液時に第2の分岐端から透析液が排出されてしまうのを確実に回避することができる。
【0042】
更に、本実施形態によれば、第1の分岐端bは、動脈側血液回路2の途中に接続されたエアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)に接続されたので、補液時、動脈側血液回路2に透析液を流入させる際、除泡を施すことができる。然るに、図4に示すように、第1の分岐端bを静脈側血液回路3の途中に接続されたエアトラップチャンバD2(静脈側エアトラップチャンバ)に接続し、補液時、透析液を静脈側血液回路3に供給して補液(後補液)を行わせるようにしてもよい。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば補液ラインは、一端aが透析液排出ラインL2と接続されたものとしてもよく、或いは、第1の分岐端が静脈側血液回路3と接続されたものとしてもよい。また、本実施形態においては、エアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)又はエアトラップチャンバD2(静脈側エアトラップチャンバ)に第1の分岐端bを接続しているが、図5に示すように、動脈側血液回路2を構成する流路自体(静脈側血液回路3を構成する流路自体であってもよい)に接続してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
一端が透析液導入ライン又は透析液排出ラインと接続されるとともに、他端側が分岐して第1の分岐端及び第2の分岐端を有した流路から成り、当該第1の分岐端が動脈側血液回路又は静脈側血液回路と接続されるとともに、返血時、第2の分岐端が動脈側血液回路の先端に接続可能とされた補液ラインと、該補液ラインにおける分岐部より透析液導入ライン又は透析液排出ラインとの接続部側に配設され、当該透析液導入ライン又は透析液排出ラインの透析液を第1の分岐端及び第2の分岐端まで流動させ得る補液ポンプとを備えた透析装置であれば、他の機能が付加されたもの等に適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…ダイアライザ(血液浄化器)
2…動脈側血液回路
3…静脈側血液回路
4a、4b…濾過フィルタ
5…複式ポンプ(供給手段)
6a、6b…コネクタ
7…補液ポンプ
8…血液ポンプ
9…T字管
10…コネクタ
11a…動脈側穿刺針
11b…静脈側穿刺針
12…除水ポンプ
13…制御手段
14…被扱き部
15…弁手段
L1…透析液導入ライン
L2…透析液排出ライン
L3…補液ライン
L4…バイパスライン
L5…バイパスライン
L6…バイパスライン
V1…電磁弁
V2…電磁弁
V3…電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液浄化膜を内在するとともに、血液導入口、血液導出口、透析液導入口及び透析液排出口が形成され、前記血液浄化膜を介して血液に透析液を接触させて透析浄化作用を施す血液浄化器と、
基端が前記血液浄化器の血液導入口に接続され、その途中において血液ポンプが配設された動脈側血液回路と、
基端が前記血液浄化器の血液導出口に接続された静脈側血液回路と、
前記血液浄化器の透析液導入口に接続され、前記血液浄化器に透析液を導入する透析液導入ラインと、
前記血液浄化器の透析液排出口に接続され、前記血液浄化器から透析液を排出する透析液排出ラインと、
調製された透析液を前記透析液導入ラインに供給する供給手段と、
を具備した透析装置であって、
一端が前記透析液導入ライン又は透析液排出ラインと接続されるとともに、他端側が分岐して第1の分岐端及び第2の分岐端を有した流路から成り、当該第1の分岐端が前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路と接続されるとともに、返血時、前記第2の分岐端が前記動脈側血液回路の先端に接続可能とされた補液ラインと、
該補液ラインにおける分岐部より前記透析液導入ライン又は透析液排出ラインとの接続部側に配設され、当該透析液導入ライン又は透析液排出ラインの透析液を前記第1の分岐端及び第2の分岐端まで流動させ得る補液ポンプと、
を備えたことを特徴とする透析装置。
【請求項2】
前記補液ラインにおける分岐部と第2の分岐端との間には、透析液の流動を遮断又は開放し得る弁手段が配設されたことを特徴とする請求項1記載の透析装置。
【請求項3】
前記第1の分岐端は、前記動脈側血液回路の途中に接続された動脈側エアトラップチャンバ、又は前記静脈側血液回路の途中に接続された静脈側エアトラップチャンバに接続されたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の透析装置。
【請求項4】
前記血液ポンプ及び補液ポンプの駆動を制御する制御手段を具備するとともに、当該制御手段は、返血時、当該血液ポンプの駆動速度よりも補液ポンプの駆動速度の方が所定比率高くなるよう同期制御可能とされたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1つに記載の透析装置。
【請求項5】
前記所定比率は、略10%であることを特徴とする請求項4記載の透析装置。
【請求項6】
前記制御手段は、返血開始時には前記血液ポンプ及び補液ポンプの両方を駆動させるとともに、所定時間後に前記血液ポンプを停止させて前記補液ポンプのみ駆動させるよう制御することを特徴とする請求項4又は請求項5記載の透析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−160963(P2011−160963A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26622(P2010−26622)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】