説明

透湿性隔膜材料

【課題】多孔質フッ素樹脂膜、透湿性樹脂連続層、及び補強用繊維層から構成される全熱交換膜の全熱交換特性を低下させることなく、難燃性を高める。
【解決手段】多孔質フッ素樹脂膜と、この多孔質フッ素樹脂膜の表面に形成された透湿性樹脂連続層と、これら多孔質フッ素樹脂膜及び透湿性樹脂連続層を補強する繊維層とから構成される透湿性隔膜材料であって、前記繊維層は、繊維内部に難燃剤を含有し、かつ繊維表面が難燃剤で処理されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換膜、加湿膜、除湿膜、ベーパレーション膜[例えば水と他の液体(エタノールなど)を分離するための膜]などとして(特に熱交換膜として)有用な透湿性隔膜材料に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換膜は、例えば、空調システムに利用されており、室内と室外の空気を混合することなく熱交換できる。近年では、顕熱のみならず、潜熱(湿度)も交換できる全熱交換膜が使用されている。なお熱交換器がビル、工場、家屋などの建物内部に設置されることが多いことから、火災防止のために、熱交換膜も防炎性や難燃性が求められている。
【0003】
全熱交換膜には、例えば、紙製の熱交換膜が採用されており、この紙製熱交換膜には親水性の難燃剤が含浸されている。しかし、紙製熱交換膜は、耐水性が低い。例えば、熱交換器の使用状況によっては結露水が熱交換膜に付着することがある。この結露水が凍結することで紙製熱交換膜が破れることがある。また結露水によって難燃剤が溶出し、難燃性及び潜熱交換性能が低下する。
【0004】
結露水による破れを防止するため、多孔質フッ素樹脂膜の表面に透湿性樹脂の連続層を形成した積層体を全熱交換膜として使用することが提案されている(特許文献1、2)。この積層体は、通常、不織布などで補強されている。また特許文献2には、この積層体の難燃性を高めるため、透湿性樹脂層に難燃剤を配合することも開示されている。
【0005】
ところでエレクトロフィルターと難燃不織布とから構成される除塵フィルターにおいて、これらを接着する接着剤にも難燃剤を配合することが開示されている(特許文献3)。なお除塵フィルターは通気性を有しており、透湿性隔膜材料は通気性がないため、これらは通気性の有無の点で全く異なる技術分野に属している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−133994号公報
【特許文献2】特開2006−150323号公報
【特許文献3】特開2002−292214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、多孔質フッ素樹脂膜、透湿性樹脂連続層、及び補強用繊維層から構成される全熱交換膜の全熱交換特性を低下させることなく、難燃性を高めること(好ましくは、JIS−Z−2150で定める防炎2級以上の難燃レベルを達成すること)にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
多孔質フッ素樹脂膜、透湿性樹脂連続層、及び補強用繊維層から構成される全熱交換膜の難燃性を高めるには、特許文献2に示される様に、透湿性樹脂連続層に難燃剤を配合するのが最良と思料される。また繊維層にも難燃剤を配合するのが最良と思料される。フッ素樹脂は、元々、不燃性素材であり、このフッ素樹脂と組み合わせる他の層(透湿性樹脂連続層、繊維層)をそれぞれ難燃化することで、難燃性が改善できるものと思料される。特許文献3も、不織布、及びこの不織布と積層される接着剤層を難燃化することで、積層体の難燃性を高めている。
【0009】
しかし、本発明者らが検討したところ、各層を難燃化した場合には、全熱交換膜の透湿性が低下することが判明した。難燃剤としては、液体難燃剤、粉体難燃剤などが知られており、水または有機溶剤に溶解してから乾燥すると樹脂状になる難燃剤も知られている。これらを透湿性樹脂に混入することは可能であるが、液状難燃剤は使用中にブリードアウトしたり、べたつきの原因となるなどの問題があり、粉体や樹脂状難燃剤は透湿性の低下を引き起こす。そこでさらに検討したところ、繊維層を構成する繊維内部に難燃剤を含有させかつ繊維表面も難燃剤で処理する一方、透湿性樹脂連続層には実質的に難燃剤を配合しないようにすると、透湿性の低下なく難燃性が高まることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明に係る透湿性隔膜材料は、多孔質フッ素樹脂膜(特に多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜)と、この多孔質フッ素樹脂膜の表面に形成された透湿性樹脂連続層(特にポリウレタン系樹脂連続層)と、これら多孔質フッ素樹脂膜及び透湿性樹脂連続層を補強する繊維層とから構成されており、前記繊維層は、繊維内部に難燃剤を含有し、かつ繊維表面が難燃剤で処理されている。前記繊維層は、多孔質フッ素樹脂膜の透湿性樹脂連続層側に積層されているのが望ましい。繊維内部、繊維表面の難燃剤としては、環境負荷低減の観点から非ハロゲン系の難燃剤(特に非ハロゲン系のリン系難燃剤)が好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透湿性樹脂連続層を難燃化するのではなく、これと積層する補強繊維層の繊維内部と繊維表面の両方を難燃化しているため、全熱交換特性を低下させることなく、難燃性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
透湿性隔膜材料は、透湿性樹脂連続層が透湿性の隔膜として機能する。この透湿性樹脂連続層は、単独では湿潤時の膨潤が大きい、強度が弱いなど薄膜形状を維持するのが困難であるため、多孔質フッ素樹脂膜と複合化して使用される。多孔質フッ素樹脂膜と透湿性樹脂連続層とからなる積層体を本明細書では、複合膜と称する。また多孔質フッ素樹脂膜は、単独ではコシが弱くて後工程の取り扱い性が悪く、また強度が不足するため、通常、繊維層で補強されている。以下、各層について詳述しつつ、本発明について説明する。
【0013】
1)透湿性樹脂連続層
例えば全熱交換膜に使用される膜の場合、全熱(顕熱及び潜熱)交換はするが空気(炭酸ガスなど)交換が起こってはならない。よって透湿性樹脂連続層は、透湿性樹脂よりなる無孔質の膜状の層であり、多孔質フッ素樹脂膜の表面に形成される。透湿性樹脂は多孔質フッ素樹脂の一部又は全部に含浸していてもよい。本発明は、透湿性隔膜材料の難燃化を目的とするにも拘わらず、透湿性樹脂連続層を実質的に難燃化していない点に特徴がある。透湿性樹脂連続層が実質的に難燃剤を含有すると、透湿質性隔膜材料の透湿性が低下する。その理由の詳細は不明であるが、難燃剤が透湿性樹脂連続層全体に均一に分散すると、透湿阻害物質として作用するためと思料される。
【0014】
透湿性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸などの水溶性樹脂;親水性ポリウレタンなどの非水溶性透湿性樹脂などが例示できる。
【0015】
親水性ポリウレタン系樹脂は、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、オキシエチレン基などの親水基を有している点に特徴があり、ポリエーテル系ポリウレタン及びポリエステル系ポリウレタンのいずれであってもよい。またこれらのプレポリマーを適宜使用することもできる。さらに樹脂としての融点(軟化点)を調整するために、イソシアナート基を2個以上有するイソシアナート類(ジイソシアナート類、トリイソシアナート類など)やそのアダクト体を単独又は混合して架橋剤として使用してもよい。また、末端がイソシアナートであるプレポリマーに対しては、2官能以上のポリオール類(ジオール類、トリオール類など)や2官能以上のアミン類(ジアミン類、トリアミン類など)を硬化剤として用いることができる。透湿性を高く保つためには2官能の硬化剤が好ましい。
【0016】
好ましい親水性ポリウレタン系樹脂は、親水性主鎖を有する樹脂(例えば、ダウケミカル社製の商品名「ハイポール」)である。この好ましい親水性ポリウレタン系樹脂は、例えば、ポリエーテル系主鎖(例えば、ポリオキシエチレン単位の主鎖)を有しており、その末端が適当なイソシアネート基(例えば、トルエンジイソシアネート基)になっている反応性プレポリマーである。このプレポリマーは、水、多官能性アミン(例えば、ブロックドカルバメートアミンなど)で架橋される。
【0017】
透湿性樹脂連続層の厚みは、透湿性樹脂連続層で隔たれた気体同士の混合を防止しつつ、これら気体間で全熱交換できる限り特に限定されないが、例えば、0.01〜100μm程度である。薄すぎるとピンホールを生じやすくなる。透湿性樹脂連続層の厚みは、より好ましくは0.05μm以上、特に0.5μm以上である。一方、透湿性樹脂連続層が厚すぎると透湿性が低下しやすくなる。透湿性樹脂連続層の厚みは、より好ましくは50μm以下、特に20μm以下である。
【0018】
また透湿性樹脂連続層が多孔質フッ素樹脂膜の内部に侵入している方が、透湿性樹脂連続層の剥離を防止でき、耐久性が高まるので好ましい。多孔質フッ素樹脂膜の内部に侵入している部分の透湿性樹脂の厚さは、透湿性と耐久性の観点から、3〜30μmが好ましく、5〜20μmが最も好ましい。なお透湿性樹脂連続層が多孔質フッ素樹脂膜の内部に侵入している場合、前記透湿性樹脂連続層の厚みは、この侵入部分の厚みを含む。
【0019】
なお、透湿性樹脂連続層の厚さ及びその侵入部分の厚さは、電子顕微鏡の断面写真(1000〜3000倍)において該当部分(連続層又は侵入部分)の面積Sを測定し、電子顕微鏡写真のスケール(長さを表す目盛り)に基づいて決定される該当部分の長さLで前記面積Sを除すことによって算出される値である。
【0020】
透湿性樹脂連続層は、さらに吸湿剤を含んでいてもよい。吸湿剤によって、透湿性樹脂連続層の保水量が高まり、透湿性が更に高まる。吸湿剤としては、水溶性の塩(リチウム塩、リン酸塩など)を用いることができる。
【0021】
2)多孔質フッ素樹脂膜
多孔質フッ素樹脂膜は、透湿性樹脂連続層の保持層として機能する。またフッ素樹脂自体は不燃性であり、透湿性隔膜材料の難燃化に貢献する。
【0022】
好ましい多孔質フッ素樹脂膜は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜である。多孔質PTFE膜は、PTFEのファインパウダーを成形助剤と混合して得られるペーストを成形し、該成形体から成形助剤を除去した後、高温高速度で延伸し、さらに必要に応じて焼成することにより得られる。その詳細は、例えば特公昭51−18991号公報に記載されている。なお、延伸は、1軸延伸であってもよいし、2軸延伸であってもよい。1軸延伸多孔質PTFEフィルムは、ミクロ的には延伸方向と略直交する細い島状のノード( 折り畳み結晶) が存在し、このノード間を繋ぐようなすだれ状のフィブリル(前記折り畳み結晶が延伸により溶けて引き出された直鎖状の分子束)が延伸方向に配向している点に特徴がある。一方、2軸延伸多孔質PTFEフィルムは、フィブリルが放射状に拡がり、フィブリルを繋ぐノードが島状に点在してフィブリルとノードとで分画された空間が多数存在するクモの巣状の繊維質構造となっている点にミクロ的な特徴がある。2 軸延伸多孔質PTFEフィルムは、1軸延伸多孔質PTFEフィルムよりも広幅化が容易であり、縦方向・横方向の物性バランスに優れ、単位面積あたりの生産コストが安くなるため、特に好適に用いられる。
【0023】
多孔質フッ素樹脂膜の平均細孔径は、例えば、0.07〜10μm程度である。平均細孔径が小さすぎると多孔質フッ素樹脂膜の透湿性が低下する。より好ましい平均細孔径は0.09μm以上である。逆に平均細孔径が大きすぎると、多孔質フッ素樹脂膜内に透湿性樹脂連続層が入り込み易くなる。その結果、透湿性樹脂層の充実部分(非空隙部分)が厚くなり、水分の移動時間が長くなって透湿性が低下する。より好ましい平均細孔径は、5μm以下である。なお、多孔質フッ素樹脂膜の平均細孔径は、コールターエレクトロニクス社のコールターポロメーターを用いて測定した孔径の平均値を意味する。延伸多孔質PTFE膜の平均細孔径は延伸倍率等によって適宜制御できる。
【0024】
多孔質フッ素樹脂膜の空孔率は前記平均細孔径に応じて適宜設定できるが、例えば、30%以上(好ましくは50%以上)、98%以下(好ましくは90% 以下)程度であることが推奨される。なお、延伸多孔質PTFE膜の空孔率は、上記平均細孔径と同様、延伸倍率等によって適宜調整できる。
【0025】
多孔質フッ素樹脂膜の空孔率は、多孔質フッ素樹脂膜の質量Wと、空孔部を含む見かけの体積Vとを測定することによって求まる嵩密度D(D=W/V:単位はg/cm3)と、全く空孔が形成されていないときの密度Dstandard(PTFE樹脂の場合は2.2g/cm3)を用い、下記式に基づいて算出できる。なお、体積Vを算出する際の厚みは、ダイヤルシックネスゲージで測定した(テクロック社製「SM−1201」を用い、本体バネ荷重以外の荷重をかけない状態で測定した)平均厚みによる。
空孔率(%)=[1−(D/Dstandard)]×100
【0026】
多孔質フッ素樹脂膜の厚みは特に限定されないが、例えば、200μm以下、好ましくは100μm以下、さらに好ましくは60μm以下程度である。厚くなりすぎると透湿性隔膜材料の透湿能力が低下する。但し、薄くなりすぎると加工性を損なうため、例えば、0.1μm以上、好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上とする。
【0027】
3)補強用繊維層
補強用繊維層は、複合膜(多孔質フッ素樹脂膜及び透湿性樹脂連続層)の取り扱い性と強度を高めるため、この複合膜に積層される。補強用繊維層は、複合膜の多孔質フッ素樹脂膜側に積層してもよく、透湿性樹脂連続層側に積層してもよいが、好ましくは透湿性樹脂連続層側に積層する。透湿性樹脂連続層側に積層することで、透湿性樹脂連続層が傷つくのを防止できる。
【0028】
本発明では、前記補強用繊維層の繊維内部と繊維表面の両方を難燃化している点に特徴がある。補強用繊維層の繊維内部と繊維表面の両方を難燃化し、かつ不燃性の多孔質フッ素樹脂膜と組み合わせると、これらと積層する透湿性樹脂連続層を実質的に難燃化していなくても、透湿性隔膜材料の難燃性を高めることができる。
【0029】
繊維内部を難燃化するには、繊維内部に難燃剤を含有させればよく、例えば、繊維に難燃剤を混合(特に練り込み)したり、樹脂繊維の合成時に難燃剤を樹脂に結合(特に共重合)させればよい。内部が難燃化された繊維として、例えば、スパンボンド法で作られた不織布が市販されている。かかる市販不織布としては、東洋紡績(株)製「ハイム(登録商標)」、旭化成せんい(株)製「エルタスFR(登録商標)」などが例示できる。
【0030】
一方、繊維表面を難燃化するには、難燃剤を適当な溶媒に分散(又は溶解)した液で繊維をコーティング処理すればよい。補強用繊維層1m2当たりのコーティング量は、例えば、1g以上、好ましくは3g以上、さらに好ましくは6g以上である。コーティング量の上限は特に制限されないが、コーティング量が多すぎると、難燃剤が無孔質膜層を形成し透湿性を阻害することがある。補強用繊維層1m2当たり、例えば、100g以下、好ましくは50g以下、さらに好ましくは20g以下程度である。なおコーティング方法は特に限定されず、難燃剤を含む液に繊維を浸漬してもよく、ディッピングコート法、キスコート法、スプレーコート法などの公知のコート法を適宜採用してもよい。
【0031】
樹脂と結合し得る難燃剤としては、リン系難燃剤(含リンポリオールなどの非ハロゲン系リン系難燃剤)、ハロゲン系難燃剤(含臭素ポリオール、四塩化無水フタル酸、四臭化無水フタル酸など)が例示できる。
【0032】
樹脂に混合出来る難燃剤は粉体状の難燃剤であることが好ましい。粉体状の難燃剤はブリードやべたつきも少なく好適に用いられる。コーティングに使用する難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、非ハロゲン系難燃剤などが使用できる。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤が好ましく、例えば、リン酸エステル単量体、リン酸エステル縮合体などの有機リン系難燃剤、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン系難燃剤などが含まれる。リン系難燃剤でも、その性状は材料により液状、粉状、樹脂状などリン含有量、化合物構造により異なる性状を示す。液状の難燃剤としては脂肪族環式ホスホン酸エステルなどがある。また粉体難燃剤を界面活性剤と共存させることで水に分散させたものもある。これら粉体は70℃から融点のない(分解する)難燃剤もあり、分散剤をコーティング後、融点より高い温度で乾燥することにより基材に溶融付着する。融点のない難燃剤はバインダー樹脂を併用しコーティング処理を行うこともある。
【0033】
上記難燃剤のうち好ましい難燃剤は、非ハロゲン系難燃剤であり、特に好ましい難燃剤は非ハロゲン系のリン系難燃剤である。非ハロゲン系難燃剤は、環境負荷を軽減できる。
【0034】
補強用繊維層としては、繊維から形成される種々の布状物であれば特に限定されず、例えば、織物、編物、組物、不織布のいずれでもよいが、好ましくは形態維持性に優れた布(例えば、織物、不織布など。特に不織布)である。
【0035】
不織布は、紡糸直結法(スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法など)、短繊維を用いたウエブ形成法(ケミカルボンド法、サーマルボンド法など)などが適宜利用できる。好ましい不織布は、スパンボンド不織布、サーマルボンド不織布である。
【0036】
補強用繊維層の目付量は、例えば、2〜100g/m2程度、好ましくは5〜50g/m2程度、さらに好ましくは8〜40g/m2程度である。目付量が大きいほど、難燃性が向上する。また目付量が小さいほど、全熱交換率が向上する。
【0037】
補強用繊維層の厚さは、例えば、0.01〜1mm程度、好ましくは0.03〜0.5mm程度、さらに好ましくは0.05〜0.3mm程度である。
【0038】
透湿性樹脂連続層、多孔質フッ素樹脂膜及び補強用繊維層の積層法は特に限定されず、例えば、多孔質フッ素樹脂膜の表面に透湿性樹脂連続層を塗布等によって積層して予め複合膜を形成した後、この複合膜に補強用繊維層を接着(接着剤による接着、熱接着など)してもよい。また、多孔質フッ素樹脂膜と補強用繊維層とを接着(接着剤による接着、熱接着など)してから、透湿性樹脂を含む液を多孔質フッ素樹脂膜表面に供給して、透湿性樹脂連続層を形成してもよい。
【0039】
上記の様にして得られる本発明の透湿性隔膜材料は、透湿性樹脂連続層ではなく、これと積層する補強繊維層の繊維内部と繊維表面の両方を難燃化しているため、全熱交換特性が良好であり、かつ難燃性にも優れている。
【0040】
透湿性隔膜材料の通気度は、例えば、1000秒以上、好ましくは2000秒以上、さらに好ましくは3000秒以上である。
【0041】
透湿性隔膜材料の透湿度は、例えば、40g/m2・h以上、好ましくは50g/m2・h以上、さらに好ましくは70g/m2・h以上程度である。なお透湿度の上限は特に限定されないが、例えば、200g/m2・h以下、特に120g/m2・h以下程度であってもよい。
【0042】
透湿性隔膜材料の防炎等級(JIS Z 2150)は、例えば、2級以上、好ましくは1級である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0044】
実験例1A〜1F
厚さ20μm、空孔率85%、平均細孔径0.2μmの延伸多孔質PTFE膜の片面に親水性ポリウレタン樹脂(ダウケミカル社製「ハイポール2000」)を塗布し、乾燥することでPTFE膜の片面に厚さ10μmの透湿性樹脂連続層を形成した(複合膜1)。なお透湿性樹脂連続層はPTFE膜に一部侵入しており、侵入部の厚みは約5〜8μmであった。
【0045】
日華化学(株)製リン系難燃剤(商品名「ニッカファイノン」)を水に溶解して、下記表1に示す濃度に調製した。リン系難燃剤を共重合したポリエステル繊維からなるスパンボンド不織布(東洋紡績(株)製のハイム(登録商標)H3301(目付量30g/m2、厚さ0.18mm))を、前記リン系難燃剤の水溶液に浸漬した後、マングル(ローラー)で脱水し、乾燥した(表面難燃化不織布1A〜1F)。難燃剤のコーティング量は下記表1に示すとおりであった。
【0046】
複合膜1の透湿性樹脂(親水性ポリウレタン樹脂)連続層側に、表面難燃化不織布1を接着剤でラミネートした(透湿性隔膜材料1A〜1F)。
【0047】
実験例2A〜2F
リン系難燃剤を共重合したポリエステル繊維からなるスパンボンド不織布として、東洋紡績(株)製のハイム(登録商標)H3201(目付量20g/m2、厚さ0.12mm)を使用する以外は、実験例1A〜1Fと同様にした(透湿性隔膜材料2A〜2F)。
【0048】
実験例3A〜3C
日華化学(株)製リン系難燃剤(商品名「ニッカファイノン」)に代えて三洋化成工業(株)製リン系難燃剤(商品名「ファイヤータード」)を使用する以外は、実験例2A〜2Fと同様にした(透湿性隔膜材料3A〜3C)。
【0049】
実験例4A〜4D
親水性ポリウレタン樹脂(ダウケミカル社製「ハイポール2000」)100質量部に、表4に示す量のリン系難燃剤(日華化学(株)製、商品名ニッカファイノンを加えた。厚さ20μm、空孔率85%、平均細孔径0.2μmの延伸多孔質PTFE膜の片面に、前記難燃剤添加樹脂を塗布し、乾燥することでPTFE膜の片面に厚さ10μmの難燃剤含有透湿性樹脂連続層を形成した(複合膜4A〜4D)。なお透湿性樹脂連続層はPTFE膜に一部侵入しており、侵入部の厚みは約5〜8μmであった。
【0050】
リン系難燃剤を共重合したポリエステル繊維からなるスパンボンド不織布(東洋紡績(株)製のハイム(登録商標)H3201(目付量20g/m2、厚さ0.12mm))を複合膜4の難燃剤含有透湿性樹脂連続層側に接着剤でラミネートした(透湿性隔膜材料4A〜4D)。
【0051】
各実験例で得られた透湿性隔膜材料の通気度はいずれも10000秒以上であった。また他の物性を以下のようにして評価した。
【0052】
(1)透湿性
JIS L 1099(A−1法)に準拠して透湿性隔膜材料の透湿度を調べた。なお温度25℃、相対湿度75%の環境下で透湿度を測定した。
各透湿性隔膜材料の透湿性を、透湿性隔膜材料2の透湿性に対する相対値で示す。
【0053】
(2)初期難燃性
JIS Z 2150 A法に準拠(加熱時間10秒)して透湿性隔膜材料の難燃性を調べた。試験後の透湿性隔膜材料の炭化長を調べ、以下の基準で評価した。
合格(防炎1級):炭化長50mm以下
合格(防炎2級):炭化長50mm超、100mm以下
不合格:炭化長100mm超
【0054】
(3)難燃耐久性
透湿性隔膜材料を50℃の温水に5時間浸漬した。乾燥後、透湿性隔膜材料の難燃性を上記「(2)初期難燃性」と同様にして調べた。
【0055】
結果を表1〜4に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
実験例1B、1C、1D、1E、1F、2B、2C、2D、2E、2F、3B、3Cに示されるように、透湿性樹脂に難燃剤を添加しない一方で、補強繊維層では繊維内部と繊維表面の両方を難燃化すると、透湿性を低下させることなく、難燃性を高めることができる。これに対して、実験例4A〜4Dに示される様に、透湿性樹脂に難燃剤を添加することで難燃性を高める場合には、透湿性が低下していく。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質フッ素樹脂膜と、この多孔質フッ素樹脂膜の表面に形成された透湿性樹脂連続層と、これら多孔質フッ素樹脂膜及び透湿性樹脂連続層を補強する繊維層とから構成される透湿性隔膜材料であって、
前記繊維層は、繊維内部に難燃剤を含有し、かつ繊維表面が難燃剤で処理されていることを特徴とする透湿性隔膜材料。
【請求項2】
表面に透湿性樹脂連続層が形成された多孔質フッ素樹脂膜の透湿性樹脂連続層側に、前記繊維層が積層されている請求項1に記載の透湿性隔膜材料。
【請求項3】
前記多孔質フッ素樹脂膜が、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜である請求項1又は2に記載の透湿性隔膜材料。
【請求項4】
前記繊維内部の難燃剤及び繊維表面の難燃剤が、非ハロゲン系難燃剤である請求項1〜3のいずれかに記載の透湿性隔膜材料。
【請求項5】
前記繊維内部の難燃剤及び繊維表面の難燃剤が、リン系難燃剤である請求項4に記載の透湿性隔膜材料。
【請求項6】
前記透湿性樹脂が、ポリウレタン系樹脂である請求項1〜5のいずれかに記載の透湿性隔膜材料。

【公開番号】特開2010−214298(P2010−214298A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64473(P2009−64473)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】