説明

透過性電気化学式バイオバリアとその使用方法

【課題】 従来のものよりも、設置コストとランニングコストの安価なバイオバリアを提供することを課題とする。
【解決手段】 上記課題を解決するために本発明は、バイオバリアを適当な電圧が印加される少なくとも1個の導電性繊維層と、前記導電性繊維層の隣辺に設置される陰極とを備えた透過性電気化学式のものとすることで解決した。また、その使用方法としては、少なくとも1個の導電性繊維層及び前記導電性繊維層の隣辺に設置される少なくとも1個の陰極とを備える透過性電気化学式バイオバリアを提供するステップと、前記透過性電気化学式バイオバリアに適当な電圧を印加するステップとを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過性電気化学式バイオバリアに関し、特に、いかなる化学薬剤も添加する必要がなく、有機汚染物を効果的に分解して、地下水の汚染の拡散を回避する透過性電気化学式バイオバリアに関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるバイオバリアとは、汚染物が地下水の流れに伴って拡大するのを防止する方法の一つで、ガソリンスタンド、石油精錬所、さらに一部の石油化学工場区等に設置されて、有機汚染物に汚染された地下水が拡散するのを防止する。その使用方式は、汚染された地下水の下流に垂直方向にこの装置を設置することで機能する。
【0003】
従来のバイオバリアは、透過性バイオバリアで、その原理は汚染物が前記透過性バイオバリアを流れて通過する時、前記透過性バイオバリアによって阻止され、さらに、物理方式(例、沈殿等)、化学方式(例、酸化、還元等)または生物方式(例、生物的分解作用等)によって汚染物を除去して、汚染された地下水の拡散を防止するものである。
【0004】
しかしながら、物理方式による場合、多くの例で効果が顕著でないという問題が存在する。汚染物の性質は様々に異なるため、全ての汚染物が同様の物理方式によって除去されるのは難しく、手間と物資を費やして残った汚染物を取り除く必要があるという問題があった。また、化学方式によるメカニズムは、有機汚染物を分解する際に反応剤を消耗し切ってしまうため、交換しなければならないという問題があった。そして、生物方式によって分解する場合では、充分な量の電子を受けなければならず、大量の動力を消費して充分な量を供給する必要がある。同時に、物質移動が不均衡であるという現象が発生しやすい。したがって、常に酸化剤(微生物の電子受容体)を補充または追加し続ける必要があり、このため、全体的なコストの増加を招くという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題点を解決すべくなされたもので、高表面積、高通透性の導電性繊維を利用してバイオバリアを構成し、関連する分解微生物の土壌微生物がバイオバリアに直接付着して生長し、適当な電圧を印加しさえすれば、微生物及び従来の酸化剤を使用することなく、持続的かつ効果的に有機汚染物を分解して地下水が汚染されるのを回避することのできる透過性電気化学式バイオバリアとその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の透過性電気化学式バイオバリアは、少なくとも1個の導電性繊維層(すなわち生物陽極)と、少なくとも1個の陰極を備える。導電性繊維層に適当な電圧が印加され、さらに、陰極は電性繊維層の隣辺に設置される。このうち、陰極は電荷全体のバランスを取るのに使用される。
【0007】
好適な条件は、導電性繊維層が導電性炭繊維、金属繊維またはその組合せから成ることである。
【0008】
さらに理想とする条件は、導電性炭繊維が導電性活性炭繊維から成ることである。
【0009】
本発明はまた、透過性電気化学式バイオバリアの使用方法に関し、その使用方法は、少なくとも1個の導電性繊維層及び少なくとも1個の陰極を備える透過性電気化学式バイオバリアを提供するステップと、透過性電気化学式バイオバリアに適当な電圧を印加するステップとを備える。このうち、陰極は電荷全体のバランスを取るのに使用される。
【0010】
上記使用方法において、好適な条件は、導電性繊維層が導電性炭繊維、金属繊維またはその組合せから成ることである。
【0011】
さらに、上記使用方法において、理想の条件は、導電性炭繊維が導電性活性炭繊維から成ることである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、設置場所の土壌微生物が透過性電気化学式バイオバリア上に自然に付着して生長することを利用し、導電性繊維に適当な電圧を印加するだけで微生物の電子受容体となるため、いかなる化学酸化剤の添加も必要とせずに、効果的に有機汚染物の分解を行うことができる。したがって、コスト全体の削減が可能であると同時に、極めて高い地下水の汚染防止効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好適な実施例における透過性電気化学式バイオバリアを示す図である。
【図2】図1に示した透過性電気化学式バイオバリアの実施状態における平面図である。
【図3】本発明の図2に示した実施状態における部分拡大図である。
【図4】実験例におけるベンゼンの濃度と生物電流の数値関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好適な実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0015】
図1において、本発明の透過性電気化学式バイオバリアは、少なくとも1個の導電性繊維層及び少なくとも1個の陰極を備える。導電性繊維層は適当な電圧が印加される。導電性繊維層の材料は、導電性を有するものでさえあれば、特に制限されないが、好適なのは、導電性炭繊維、金属繊維またはその組合せである。本実施例においては、導電性炭繊維は導電性活性炭繊維であり、導電性繊維層は例えば、導電性活性炭繊維層10で、透過性電気化学式バイオバリアは一層の導電性活性炭繊維層10及び陰極20を有する。このうち、導電性活性炭繊維層10の好適な厚さは約15cm以内である。陰極20の材料は、その他の金属材質の棒状物または網状物も可能で、前記導電性活性炭繊維層10の隣辺に設置される。前記導電性繊維層10(すなわち陽極)と陰極の設置距離は適当な距離で、好適なのは20mより小さく、さらに理想的なのは1mより小さいものだが、ショート現象を回避するために、両極は直接接触してはならない。例えば、導電性活性炭繊維層10(すなわち陽極)と陰極を海辺に設置する場合、海水の導電性が加わるため、両者の設置距離は20m離される。
【0016】
本発明の、導電性活性炭繊維層10は、汚染地下水が流れる下流域(図中のAが地下水の流れる方向を示す)に直立に設置される。さらに、その近隣側辺に陰極20が設置される。関連する汚染物分解菌は、導電性活性炭繊維層10の表面に設置場所の分解微生物が直接付着して生長するため、酸化剤を必要とせず、適当な電圧を印加するだけで、汚染物分解菌の生物反応によって発生する電子を導き出し、このバイオバリアの正常な機能を維持する。この場合の好適な電圧は、-10から10ボルトの電圧(参考電極はAg/AgCl)で、さらに理想とする電圧は-0.5から0.5ボルトの電圧(参考電極はAg/AgCl)である。例えば、適当な電圧を超して印加された場合、微生物内部の電子を取り出しすぎて、微生物が死亡したり、関連する汚染物代謝分解速度が遅くなったりする。
【0017】
次に、図2及び図3において、電極上の汚染物分解菌は、土壌中に既存する微生物30である。電極に適当な電圧をかけると、陽極が微生物30が有機物を分解する過程において受け続ける電子は、外部回路を経て陰極に伝達され、その後、陰極表面において還元反応(例えば、H2等を発生させる)を行なって、電荷全体のバランスを取り、汚染した地下水中の有機汚染物を導電性活性炭繊維10に進入させた後(Bに示した有機汚染物分解の化学反応方向)、酸化剤を使用することなく、順調に微生物30によって分解されて、二酸化炭素(CO2)を発生させる。
【0018】
実験例1 現地微生物の分解効果テスト(電極が電子を受ける場合)
本実験例は、ベンゼンを標的有機汚染物(濃度は約350 ppm)とし、汚染された土壌の複合微生物は植種菌源として、実験用フラスコの中で、分解及び生物電流発生テストを行い、電圧0.2 V vs. Ag/AgClを印加すると、実験の過程において、導電性活性炭繊維表面が徐々に生物膜に包まれるのが観察できる。
【0019】
ベンゼンの存在と生物電流の関連性は、図4に示したとおりである。実験初期に140 ppmのベンゼンを加えた時(図4の矢印aで示す)、瞬間電流の発生はない(ベンゼンは直接電極酸化されないことを意味する)。その後電流が徐々に上昇して最高値は100 μAに達し、最後には300時間後に0 μAに下がり、その後さらにベンゼンを加えた時(矢印b、c、d(濃度はそれぞれ約350 ppm))、明らかに電流反応現象が見られる。さらに、電流発生の時間が速ければ速いほど、実験全体が終了した後、電極上の生物膜を取り、微生物検証を行なう。分子生物学関連の測定実験を経て、若干の電気発生微生物が大量に培養されているのが明らかになる。各種の証拠により、ベンゼンは直接電極酸化されたのではなく、微生物酸化を通して電流が発生したことがわかる。
【0020】
同時に、上記実験に基づき、本発明のバイオバリア内の微生物は、約350 ppmのベンゼン濃度に適応して激増することが予想される。これは、本発明のフレキシブルな応用性を示すものである。
【0021】
実験例2 透過性電気化学式バイオバリアの模擬土壌カラム検証実験
実験例2は、実験室中において、土壌カラムによって透過性電気化学式バイオバリアの模擬実験を行なったものである。本実施例における土壌カラムの長さは45 cm、内径3 cmで、一層の導電性活性炭繊維層(厚さ15cm)及びプラチナ(Pt)陰極を備え、前記陰極は、前記導電性活性炭繊維層隣側の距離5cmの位置に設置される。実験は連続流方式で行なわれ、水力の停留時間は2日以内である。進流溶液中に含まれる模擬汚染物質は、ベンゼン(benzene)、トルエン(toluene)、エチルベンゼン(ethylbenzene)、キシレン(xylene) (略称BTEX)で、テスト濃度は、それぞれ19524、15383、14981、7257 ppb前後である。その進出流を取り、そのBTEX残量を測定する。結果はBTEXにおいていずれも99%以上の除去効率を有することを示しており、これは、本バイオバリアの優越性を示している。
【0022】
以上2つの実験例により、本発明のバイオバリアの優れた効果を知ることができる。したがって、有機汚染物の汚染を受けた地下水下流の位置に本発明のバイオバリアを設置して適当な電圧を印加する(例えば、10 V vs.より小さい Ag/AgCl)だけで、現地の土壌微生物の自然付着生長を利用して、透過性電気化学式バイオバリアに変化させることが可能である。したがって、本発明の操作時には、前記導電性活性炭繊維層に適当な電圧を印加するだけで、いかなる化学薬剤も必要とせずに、順調に有機汚染物を分解することができる。尚、本発明は以上の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更は本発明の権利範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
以上、詳細に説明したように本発明によれば汚染された地下水の流路へ設置し、適当な電圧を印加するだけで、汚染物質を分解する土壌微生物(分解微生物)を受容し、この土壌微生物によって、汚染物質が分解されるので、設置コストとランニングコストの安価な環境汚染防止機器とその方法の分野で好適に用いられるものである。
【符号の説明】
【0024】
10 導電性活性炭繊維層
20 陰極
30 微生物
A 地下水の流れる方向
a〜d 矢印
B 有機汚染分解における化学反応方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
適当な電圧が印加される少なくとも1個の導電性繊維層と、
前記導電性繊維層の隣辺に設置される陰極と、
を備えることを特徴とする透過性電気化学式バイオバリア。
【請求項2】
前記導電性繊維層は、導電性炭繊維、金属繊維またはその組合せから成ることを特徴とする請求項1に記載の透過性電気化学式バイオバリア。
【請求項3】
前記導電性炭繊維は、導電性活性炭繊維から成ることを特徴とする請求項2に記載の透過性電気化学式バイオバリア。
【請求項4】
少なくとも1個の導電性繊維層及び前記導電性繊維層の隣辺に設置される少なくとも1個の陰極とを備える透過性電気化学式バイオバリアを提供するステップと、
前記透過性電気化学式バイオバリアに適当な電圧を印加するステップと、
を備えることを特徴とする透過性電気化学式バイオバリアの使用方法。
【請求項5】
前記導電性繊維層は、導電性炭繊維、金属繊維またはその組合せから成ることを特徴とする請求項4に記載の透過性電気化学式バイオバリアの使用方法。
【請求項6】
前記導電性炭繊維は、導電性活性炭繊維から成ることを特徴とする請求項5に記載の透過性電気化学式バイオバリアの使用方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−41945(P2011−41945A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185628(P2010−185628)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(504455908)国立成功大学 (18)
【Fターム(参考)】