説明

通信ケーブル用抗張力体および通信ケーブル

【課題】本来の抗張力体としての機能とクマゼミの産卵被害による光心線の損傷を未然に防ぐ機能とを併せ持つ通信ケーブル用抗張力体、および従来の通信ケーブルよりも低コストで加工することができ、機能性、加工性および作業性に有利な通信ケーブルの提供。
【解決手段】通信ケーブル1に内設された光心線2の周囲に併設し、前記光心線2を保護するために使用する合成樹脂モノフィラメントからなる抗張力体3であって、前記合成樹脂モノフィラメントは、光心線2の少なくとも一部を囲んで保護するための凹状部6を一つ以上有する異形断面形状に形成されており、且つヤング率が12000N/mm以上であることを特徴とする通信ケーブル用抗張力体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信ケーブル用抗張力体およびこれを通信ケーブル内の一部に配置した通信ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、FTTH(fiber to the home)に使用されるケーブルには、多大な情報を瞬時に送受信することができるとの理由から、光心線(光ファイバー)を使用した通信ケーブルが主に使用されている。
【0003】
ここで、一般に通信ケーブルは、図3に示したように、その中心に情報伝達媒体となる光心線2と、電柱から宅内に引き込むための抗張力体3(または補強線)と呼ばれるケーブル部材を有し、さらに光心線2と抗張力体3の周りにはシース4と呼ばれる部材が被覆された構造となっている。
【0004】
また、シース4には、通信ケーブルを受信機器等に接続する際にシース4を引き裂き、光心線2を露出させるためのノッチ5と呼ばれる引き裂き溝が形成されており、このノッチ5がシース4の側面に形成されていることで、シース4を引き裂き、光心線2を容易に露出せしめることができるようになっている。
【0005】
しかし、光心線を使用した通信ケーブルが増張設される一方で、近年、クマゼミなどの害虫が通信ケーブルに産卵管を刺し込んでその内部に産卵するという被害が増えており、刺し込まれた産卵管が光心線を損傷して情報伝達に支障を生じるばかりか、産卵管により開けられた傷穴を通って、雨水が通信ケーブルの内部に浸水し、光心線の光伝達特性が大幅に低下するなどの問題が発生している。
【0006】
特に、光心線とノッチ間のシースの厚さは他の所に比べて薄いため、ノッチ部分から産卵された場合は、容易に産卵管が光心線に達し、被害を受けやすかった。
【0007】
この問題の対策として、シースの材質を硬くし、クマゼミなどが産卵管を刺し込みにくくする方法が実際に試みられたが、この場合には、通信ケーブルを接続するに際してシースが引き裂きにくくなるなどの問題が生じ、実用性に欠けることが明らかとなった。
【0008】
また、クマゼミの産卵管が光心線まで到達しないように、シースを厚くするなどの方法も実際に試みられたが、シースを厚くすることにより、通信ケーブルが太くなって可撓しにくくなるため、張設するに際しては、取り扱いが難しくなるなどの問題があった。
【0009】
さらに、ノッチから産卵管が刺し込まれることによる被害を低減するために、ノッチを設けない方法やノッチを光心線の平行線上からずらした方法も試みられたが、その効果は全く認められなかった。
【0010】
これらの試みに対して、ケーブルが鳥虫獣に噛み付かれないように、シースの構成素材に辛み成分を添加するか、あるいはケーブルの表面に防虫・殺虫成分を塗布した光ファイバードロップケーブル(例えば、特許文献1参照)がすでに知られているが、実際には、クマゼミなどの産卵防止にはほとんど効果がなかった。
【0011】
また、光心線とその左右に平行に配置された一対の抗張力体とをシースで被覆した光エレメン部にノッチを設け、この表面に金属線編組と外側シースを施した自己支持型引込用光ケーブル(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0012】
この光ケーブルは、光エレメント部の周囲に金属線編物が被覆されているため、クマゼミの産卵管が刺さりにくく、光心線への損傷を低減することができるものではあるが、光エレメント部の周囲に金属線編物を外装しているため、外側シースと金属線編物を取り除いた後、さらに光エレメント部のシースを引き裂いて光心線を露出させなければならず、受信機器等に接続する際の作業性が極めて悪いものであった。
【0013】
さらに、この光ケーブルは、金属線編物の外装と外側シースの被覆が必要なため、従来のように容易に製造することが難しくなり、製造コストが高くなるなど加工性の面での問題があるばかりか、金属線編物を使用しているため、落雷による雷サージ電流の被害を受けやすいなどの問題も抱えていた。
【特許文献1】特開2005−37526号公報
【特許文献2】特開2006−126687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、本来の抗張力体としての機能とクマゼミの産卵被害による光心線の損傷を未然に防ぐ機能とを併せ持ち、従来の通信ケーブルのように、クマゼミの産卵被害防止のための新たな部材を内設する必要がなく、少ない部材で通信ケーブルを製造することができるため、従来の通信ケーブルよりも低コストで加工することができるとともに、通信ケーブルを受信機器等に接続する際には、従来の通信ケーブルと同じように簡単にシースを引き裂いて光心線を露出せしめることができる通信ケーブル用抗張力体およびこの抗張力体を使用した通信ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために本発明によれば、通信ケーブルに内設された光心線の周囲に併設し、前記光心線を保護するために使用する合成樹脂モノフィラメントからなる抗張力体であって、前記合成樹脂モノフィラメントは、前記光心線の少なくとも一部を囲んで保護するための凹状部を一つ以上有する異形断面形状に形成されており、且つJIS L1013−1999の8.10に準じて測定したヤング率が12000N/mm以上であることを特徴とする通信ケーブル用抗張力体が提供される。
【0016】
なお、本発明においては、
前記合成樹脂モノフィラメントの異形断面形状が、V型、U型、H型、Y型、T型、X型およびL型から選ばれたいずれかの形状であること、
前記合成樹脂モノフィラメントが、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、弗素系樹脂およびポリフェニレンサルファイドから選ばれた少なくとも一種からなること、
前記合成樹脂モノフィラメントが、エチレン−2,6−ナフタレート単位を85モル%以上含有するポリエステル系樹脂からなること、および
前記合成樹脂モノフィラメントのJIS L1013−1999の8.18.2のB法に準じて測定した140℃における乾熱収縮率が5.0%以下であること
が、いずれも好ましい条件として挙げられ、これらの条件をさらに満たすことで、より優れた効果を取得することができる。
【0017】
また、本発明の通信ケーブルは、上記通信ケーブル用抗張力体を複数本使用し、これら抗張力体をその凹状部でもって光心線の少なくとも一部を囲むように、前記光心線の周囲に併設すると共に、これら光心線と通信ケーブル用抗張力体との周囲にシースを被覆形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば以下に説明するとおり、特に光ファイバーを使用した通信ケーブルに使用した場合に、本来の抗張力体としての機能とクマゼミの産卵被害による光心線の損傷を未然に防ぐ機能とを併せ持ち、従来の通信ケーブルのように、クマゼミの産卵被害防止のための新たな部材を内設する必要がなく、少ない部材で通信ケーブルを加工することができるため、従来の通信ケーブルよりも低コストで製造可能な通信ケーブル用抗張力体を得ることができる。
【0019】
また、受信機器等に接続する際には、従来の通信ケーブルと同じように簡単にシースを引き裂いて光心線を露出せしめることができることから、機能性、加工性および作業性のあらゆる面において、従来の通信ケーブルでは得られなかった新たな性能を発揮する通信ケーブルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の通信ケーブル用抗張力体およびこれを用いた通信ケーブルについて具体的に説明する。
【0021】
図1は、本発明の通信ケーブル用抗張力体および通信ケーブルの一例を断面図で示したものであり、1は通信ケーブル、2は光心線、3は通信ケーブル用抗張力体(以下、単に抗張力体と言う)、4はシース、5はノッチをそれぞれ示している。
【0022】
また、図2の(a)〜(i)は、図1とは異なる断面形状の抗張力体を使用した場合の通信ケーブルの断面図を、図2の(g)〜(i)は抗張力体を図1とは異なるように配置した場合の通信ケーブルの断面図を示したものである。
【0023】
図1から明らかなように、本発明の通信ケーブル1は、図3に示した従来の通信ケーブルとは異なり、抗張力体3が凹状部6を一つ以上有する異形断面形状の合成樹脂モノフィラメントからなり、複数の抗張力体3(図1の場合は2つ)の凹状部6でもって光心線2の少なくとも一部(図1の場合は光心線2の全て)を囲むように抗張力体3が併設され、さらに光心線2と抗張力体3との集束体7の周囲にシース5が被覆形成されていることを特徴する。
【0024】
本発明において特に重要な点は、抗張力体3を形成する合成樹脂モノフィラメントの断面形状とその機能であり、本来の抗張力体としての機能を持ちつつ、抗張力体3の凹状部6で光心線2を囲むことにより、クマゼミの産卵管を光心線2に到達させにくくして光心線2への損傷を未然に防ぐと言ったこれまでの抗張力体にはない機能を有するものである。
【0025】
したがって、本発明の抗張力体3は、上述の2つの機能を併せ持っているため、従来の通信ケーブルのように、クマゼミの産卵被害防止のために新たな部材、例えば他の抗張力体または補強線などを通信ケーブルに内設する必要がなく、少ない部材で通信ケーブルを製造することができることから、低コストで加工することができるといった加工性の面でも利点がある。
【0026】
また、図1から分かるように、複数で使用される各抗張力体3は、光心線2を囲みつつ、互いに切り離すことができるように配置されているため、通信ケーブル1を受信機器等に接続する際に、シース4と共に抗張力体3を容易に引き剥がして光心線2を露出せしめることができる。
【0027】
したがって、本発明の抗張力体3は、通信ケーブル1を接続する際の作業性の面でも極めて有利な特徴を持つものであるということができる。
【0028】
このように、本発明の抗張力体3は、機能性、加工性および作業性のあらゆる面において従来の通信ケーブルでは得られなかった新たな性能を発揮することができるのである。
【0029】
ここで、本発明の抗張力体3を構成する合成樹脂モノフィラメントの素材樹脂としては、本来の抗張力体3としての機能を持ちつつ、かつクマゼミの産卵管が貫通しにくい素材であれば特に限定はされないが、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、弗素系樹脂、ポリフェニレンサルファイドなどの公知の合成樹脂の中から少なくとも一種を選んで使用することが好ましい。
【0030】
例えば、ポリアミド系樹脂の場合は、6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体またはこれら2種類以上の共重合またはブレンドしたものが挙げられるが、中でもナイロン610が好ましい。
【0031】
ポリエステル系樹脂の場合は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートまたはこれら2種類以上の共重合またはブレンドしたものが挙げられ、中でもポリエチレンナフタレート、ポリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートの使用が好ましく、特に高強力が得られやすく、十分な硬さとクマゼミの産卵管が刺さりにくいとの理由から、エチレン−2,6−ナフタレート単位を85モル%以上含有するポリエステル系樹脂が好ましい。
【0032】
なお、上記ポリエステル系樹脂には、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他のジカルボン酸成分およびジオール成分を含有させることができ、例えば、ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、シクロヘキサンジカルボン酸およびデカリンジカルボン酸などが、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族グリコール、o−キシリレングリコール、p−キシリレングリコール、m−キシリレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ベンゼン、1,2−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,2−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ジフェニルスルホンなどの芳香族グリコール、およびヒドロキノン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、レゾルシン、カテコール、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシジフェニルスルホンなどのジフェノール類などを適宜選んで使用することもできる。
【0033】
また、フッ素系樹脂の場合は、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライドおよびテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフロライド共重合体などが挙げられるが、中でもエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体が好ましい。
【0034】
さらに、本発明の抗張力体3を形成する合成樹脂モノフィラメントには、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、燐酸バリウム、燐酸リチウム、燐酸カルシウム、燐酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニア、フッ化リチウム、カオリン、タルク等の無機粒子、耐熱剤、耐候剤、耐光剤、耐加水分解剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、平滑剤、ワックス類、シリコーンオイル、界面活性剤、染料、顔料などの添加剤を必要に応じて任意に添加することもできる。
【0035】
次に、本発明の抗張力体3は、JIS L1013−1999の8.10に準じて測定したヤング率が12000N/mm以上であることが必要であり、さらには18000N/mm以上であることがより好ましい。
【0036】
この理由は、抗張力体3のヤング率が上記範囲を下回ると、強度に欠けた抗張力体が得られやすくなり、この抗張力体を通信ケーブルに内設した場合は、通信ケーブル内で断線等の問題を招かれやすくなるからである。
【0037】
なお、抗張力体3のヤング率は、高ければ高いほど、通信ケーブルに内設した場合に優れた強度を発揮することから特に好ましいが、抗張力体3の製造上の問題や抗張力体3の素材自体の特性を考慮し、その上限は約30000N/mmであることが好ましい。
【0038】
本発明の抗張力体3を形成する合成樹脂モノフィラメントの断面形状は、図1に示した形状のように、光心線2の少なくとも一部を囲んで保護するために形成された凹状部6を一つ以上有すれば、如何なる形状のものであっても良いが、通信ケーブル1に内設した際の可撓性、後に記す抗張力体3となる合成樹脂モノフィラメントの溶融紡糸において、紡糸口金の加工性および紡糸口金からの合成樹脂の吐出安定性を考慮し、図2の(a)〜(i)に示すような、V型(a)、U型(b)、H型(c)、Y型(d)、T型(e)、X型(f)、L型(g)のいずれかの形状、またはこれらに類似する形状(h,i)であることがより好ましい。
【0039】
特にH型はシース4との密着性に優れているためより好ましく、H型以外の他の形状であっても、凹状部6とは別の凹凸形状を適宜設けることにより密着性を向上させることができる。
【0040】
本発明の抗張力体3を形成する合成樹脂モノフィラメントにおける凹状部6の大きさは、使用する光心線2の太さに応じて適宜選ぶことができ、特に規定はされないが、例えば、直径0.25mmの光心線2を使用した場合は、凹状部6の開口部分の幅を約0.3〜0.6mm、その深さを約0.3〜0.5mmに設定すると好適である。
【0041】
また、抗張力3を形成する合成樹脂モノフィラメントの大きさは、抗張力体3の使用本数および通信ケーブル1の太さに応じて適宜選ぶことができ、特に規定はされないが、通信ケーブルに十分な強度と可撓性を持たせるために、抗張力体3の断面形状に外接する円の直径が約0.5〜3.0mmのものが好適である。
【0042】
さらに、本発明の抗張力体3を形成する合成樹脂モノフィラメントは、JIS L1013−1999の8.18.2のB法に準じて測定した140℃における乾熱収縮率が5.0%以下であることが好ましく、さらには1.0%以下の範囲であることがより好ましい。
【0043】
この理由は、乾熱収縮率が上記範囲を上回ると、抗張力体3が熱収縮しやすいため、光心線2およびこの抗張力体3の周囲にシース4を溶融被覆して通信ケーブルを加工すると、抗張力体3が収縮して通信ケーブル1内で蛇行しやすくなり、品質に欠けた通信ケーブル1が得られやすい傾向となるからである。
【0044】
本発明の抗張力体3を形成する合成樹脂モノフィラメントは、例えば次の方法を用いて製造することができる。
【0045】
まず、原料となる合成樹脂を公知の溶融紡糸機、例えばエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練する。
【0046】
そして、溶融混練された合成樹脂は、所望の断面形状に対応する紡糸口金の孔から押し出された後、引き続き冷却浴中に導かれて冷却固化される。
【0047】
なお、冷却固化の工程においては、気体を液表面に吹き付けたり、液体を放流したり、さらにはポンプなどで波形を生じさせたりして冷却浴の液表面を動揺させると、未延伸糸の表面に凹凸が発生せず、線形斑の小さな合成樹脂モノフィラメントが得られることから好ましい。
【0048】
次に、得られた未延伸糸は、目標のヤング率を得るために必要な倍率条件加熱延伸される。目標のヤング率を得るための倍率条件は使用する合成樹脂の種類によって異なるが、例えば、ポリエステル系樹脂を使用した場合は2.5〜8.5倍、特にエチレン−2,6−ナフタレート単位を85モル%以上含有するポリエステル系樹脂を使用した場合は6.0〜7.8倍、ポリアミド系樹脂を使用した場合は2.5〜5.0倍、フッ素系樹脂を使用した場合は4.0〜5.0倍、PPSを使用した場合は3.0〜6.0倍で加熱延伸することが必要である。なお、加熱延伸時の温度条件についても、使用する合成樹脂の種類によって異なるが、通常は合成樹脂のガラス転移点以上融点以下の温度で行われる。
【0049】
その後、加熱延伸された合成樹脂モノフィラメントは、必要に応じて加熱弛緩処理を施され、一旦巻き取られる。
【0050】
次に、得られた合成樹脂モノフィラメントを使用して通信ケーブル1を加工する。通信ケーブル1は、何ら特殊な方法で製造する必要はなく、公知の装置および方法により加工することができるが、本発明の通信ケーブル1を加工するに際しては、抗張力体3を複数本使用し、これら抗張力体3の凹状部6でもって光心線2の少なくとも一部を囲むように、光心線2の周囲に併設することが重要である。
【0051】
したがって、もし光心線2が抗張力体3の凹状部6でもって囲まれていない場合は、クマゼミによる産卵被害を受けやすくなる。
【0052】
なお、通信ケーブル内の抗張力体3の配置は、抗張力体3がその凹状部6でもって光心線2を囲むように併設されていれば、どのような配置でも良く、図1および図2の(a)〜(g)のような配置だけではなく、例えば、図2の(h)のように、3本以上の抗張力体3を光心線2の周囲に併設する方法も可能であるが、通信ケーブル1に内設できるスペースと抗張力体3として十分な強度を発揮できる太さ等を考慮すると、通信ケーブル1内に内設する抗張力体3の本数は2〜4本が好ましい。
【0053】
また、通信ケーブル1に要求される特性に応じて、図2の(i)に示すように、異なる断面形状の抗張力体3を適宜組み合わせて使用しても良い。
【0054】
こうして得られた本発明の通信ケーブル1は、本発明の抗張力体3が本来の抗張力体としての機能とクマゼミの産卵被害による光心線の損傷を防止するための機能を併せ持つため、従来の通信ケーブルのように、クマゼミの産卵被害を防止するための新たな部材を通信ケーブルに内設する必要がなく、低コストで通信ケーブル1を加工することができる。
【0055】
また、通信ケーブル1を受信機器等に接続する際には、従来の通信ケーブルと同じように簡単にシース4を引き裂いて簡単に光心線2を露出せしめることができる。
【0056】
このように、本発明の抗張力体3を使用した通信ケーブル1は、機能性、加工性および作業性のあらゆる面において、従来の通信ケーブルでは得られなかった新たな性能を発揮するものであるということができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の抗張力体および通信ケーブルについて、実施例に基づいてさらに詳しく説明する。なお、本発明の抗張力体および通信ケーブルは、実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
また、抗張力体の各物性および通信ケーブルの性能評価は、次の方法で行ったものである。
【0059】
[ヤング率]
JIS L1013−1999の8.10に準じ、(株)オリエンテック社製“テンシロン”UTM−4−100型引張試験機を使用して、合成樹脂モノフィラメントの荷重−伸度曲線を得た。その後、得られた荷重−伸度曲線からヤング率(N/mm)を求めた。なお、引張速度は300mm/分で行い、10回の平均値で評価した。
【0060】
[140℃における乾熱収縮率]
JIS L1013−1999の8.18.2に準じ、合成樹脂モノフィラメントを500mmに切断し、140℃のギア・オーブン内で30分間放置した。その後、再び合成樹脂モノフィラメントの長さを測定し、収縮率(%)を算出した。なお、測定は5回行い、その平均値で評価した。
【0061】
[通信ケーブルの性能評価]
実施例で得られた2本の抗張力体を、図1に示すように配置して通信ケーブルを作成し、以下の性能評価に使用した。なお、光心線には直径0.3mmのものを、シースにはポリエチレン樹脂(ユニチカ製、9739)を使用し、通信ケーブルの断面の大きさは縦3.0mm×横2.0mmとした。
【0062】
A.クマゼミによる産卵被害(機能性評価)
7月から9月までの3ヶ月間、屋外の電柱間に通信ケーブルを10m張設して実際にクマゼミによる被害を調査し、次の基準で評価を行った。
○:クマゼミの産卵による光心線への損傷は全く見られず、至って良好であった、
△:クマゼミの産卵による光心線への損傷が1〜2箇所見られたが、実用上問題はなかった、
×:クマゼミの産卵による光心線への損傷が至るところで見られ、使えない状態となっていた。
【0063】
B.抗張力体としての機能(機能性評価)
得られた抗張力体がその機能を果たすか否かについて、次の基準で評価を行った。
○:通信ケーブルを張設する際に破断がなく、加工の際にも蛇行が生じなかった、
△:加工の際、多少蛇行が生じたが、問題となるものではなかった、
×:通信ケーブルを張設する際に破断したり、加工の際に蛇行が生じたりするなど、抗張力体として十分に機能を果たさなかった。
【0064】
C.取り扱い易さ(作業性評価)
実際に張設・接続作業を行い、通信ケーブルの取り扱い易さについて、次の基準で評価を行った。
○:従来の通信ケーブルと同等の可撓性を持つとともに、容易に光心線を露出することができるなど、極めて取り扱いがしやすかった、
△:従来の通信ケーブルよりも多少可撓性に欠け、容易に光心線を露出しにくいが、取り扱い上、特に問題はなかった、
×:可撓性が悪く、容易に光心線を露出しにくいなど、従来の通信ケーブルよりも取り扱いが難しいものであった。
【0065】
D.通信ケーブルの加工性およびコスト(加工性)
通信ケーブルへの加工性およびコストについて、図3に示す従来の通信ケーブルの加工と比較して次の基準で評価を行った。
○:従来よりも加工しやすく、低コストであった、
×:従来と同等以下の加工性、または同等以上のコストであった。
【0066】
[実施例1]
エチレン−2,6−ナフタレート単位を92モル%含有する共重合ポリエステル系樹脂(東洋紡社製 PN640。以下、PENという)をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練された共重合ポリエステル系樹脂の溶融物をH型状断面形状に相当する紡糸口金から押出し、直ちに冷却浴内に導いて、冷却固化した。
【0067】
その後、冷却固化された未延伸糸を、温度200℃の乾熱熱風浴中と温度240℃の乾熱熱風浴中で7.5倍の加熱延伸し、次いで温度260℃の乾熱熱風浴中で弛緩熱処理することにより、外接円直径1.0mmのH型断面形状の合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0068】
その後、得られた合成樹脂モノフィラメントを抗張力体として使用し、図2の(c)に示すような通信ケーブルを作成した。
【0069】
抗張力体の各種物性および通信ケーブルの性能評価を表1にまとめて示す。
【0070】
[実施例2〜7]
V型、U型、Y型、T型、X型及びL型断面形状に相当する紡糸口金をそれぞれ使用して溶融紡糸したこと以外は、実施例1と同じ条件でV型、U型、Y型、T型X型およびL型断面合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0071】
その後、得られた各合成樹脂モノフィラメントを抗張力体として使用し、図2の(a)〜(b)および(d)〜(g)に示すような通信ケーブルを作成した。
【0072】
抗張力体の各種物性および通信ケーブルの性能評価を表1にまとめて示す。
【0073】
[実施例8]
ポリエチレンテレフタレート樹脂(東レ社製 T701T。以下、PETという)をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練された共重合ポリエステル系樹脂の溶融物をH型状断面形状に相当する紡糸口金から押出し、直ちに冷却浴内に導いて、冷却固化した。
【0074】
その後、冷却固化された未延伸糸を、温度93℃の温水浴中と温度180℃の乾熱熱風浴中で5.5倍の加熱延伸し、次いで温度260℃の乾熱熱風浴中で弛緩熱処理することにより、外接円直径1.0mmのH型断面形状の合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0075】
その後、得られた合成樹脂モノフィラメントを抗張力体として使用し、図2の(c)に示すような通信ケーブルを作成した。
【0076】
抗張力体の各種物性および通信ケーブルの性能評価を表1にまとめて示す。
【0077】
[実施例9]
610ナイロン樹脂(東レ社製 M2001C。以下、N610という)をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練された共重合ポリエステル系樹脂の溶融物をH型状断面形状に相当する紡糸口金から押出し、直ちに冷却浴内に導いて、冷却固化した。
【0078】
その後、冷却固化された未延伸糸を、温度80℃の温水浴中と温度120℃の乾熱熱風浴中で4.8倍の加熱延伸し、次いで温度200℃の乾熱熱風浴中で弛緩熱処理することにより、外接円直径1.0mmのH型断面形状の合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0079】
その後、得られた合成樹脂モノフィラメントを抗張力体として使用し、図2の(c)に示すような通信ケーブルを作成した。
【0080】
抗張力体の各種物性および通信ケーブルの性能評価を表1にまとめて示す。
【0081】
[実施例10]
エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体樹脂(旭硝子社製 フルオロンETFE C−88AXMP。以下、ETFEという)をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練された共重合ポリエステル系樹脂の溶融物をH型状断面形状に相当する紡糸口金から押出し、直ちに冷却浴内に導いて、冷却固化した。
【0082】
その後、冷却固化された未延伸糸を、温度90℃の温水浴中と温度180℃の乾熱熱風浴中で4.8倍の加熱延伸し、次いで温度230℃の乾熱熱風浴中で弛緩熱処理することにより、外接円直径1.0mmのH型断面形状の合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0083】
その後、得られた合成樹脂モノフィラメントを抗張力体として使用し、図2の(c)に示すような通信ケーブルを作成した。
【0084】
抗張力体の各種物性および通信ケーブルの性能評価を表1にまとめて示す。
【0085】
[実施例11]
ポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ社製 E2080。以下、PPSという)をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練された共重合ポリエステル系樹脂の溶融物をH型状断面形状に相当する紡糸口金から押出し、直ちに冷却浴内に導いて、冷却固化した。
【0086】
その後、冷却固化された未延伸糸を、温度101℃の湿熱浴中と温度170℃の乾熱熱風浴中で5.0倍の加熱延伸し、次いで温度200℃の乾熱熱風浴中で弛緩熱処理することにより、外接円直径1.0mmのH型断面形状の合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0087】
その後、得られた合成樹脂モノフィラメントを抗張力体として使用し、図2の(c)に示すような通信ケーブルを作成した。
【0088】
抗張力体の各種物性および通信ケーブルの性能評価を表1にまとめて示す。
【0089】
[比較例1]
円形断面に相当する紡糸口金を使用して溶融紡糸したこと以外は、実施例1と同じ条件で直径0.8mmの円形断面合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0090】
その後、得られた合成樹脂モノフィラメントを抗張力体として使用し、図3に示すような通信ケーブルを作成した。
【0091】
抗張力体の各種物性および通信ケーブルの性能評価を表1にまとめて示す。
【0092】
[比較例2]
楕円形断面に相当する紡糸口金を使用して溶融紡糸したこと以外は、実施例1と同じ条件で長径1.0mm、短径0.5mmの楕円断面合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0093】
その後、得られた合成樹脂モノフィラメントを抗張力体として使用し、クマゼミがノッチから産卵管を刺し込んで光心線を傷付けないように、光心線とノッチとの間に、光心線を挟み込むように抗張力体を内設して通信ケーブルを作成した。
【0094】
抗張力体の各種物性および通信ケーブルの性能評価を表1にまとめて示す。
【0095】
[比較例3]
延伸倍率を下げて7.5倍から5.0倍に変更したこと以外は、実施例1と同じ条件でH型断面合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0096】
その後、得られた合成樹脂モノフィラメントを抗張力体として使用し、図2の(c)に示すような通信ケーブルを作成した。
【0097】
抗張力体の各種物性および通信ケーブルの性能評価を表1にまとめて示す。
【0098】
【表1】

【0099】
表1の結果から明らかなように、本発明の条件を満足する抗張力体およびこれを使用した通信ケーブル(実施例1〜11)は、本来の抗張力体としての機能とクマゼミの産卵被害による光心線の損傷を未然に防ぐ機能とを併せ持ち、従来の通信ケーブルのように、クマゼミの産卵被害防止のための新たな部材を内設する必要がなく、少ない部材で通信ケーブルを加工することができるため、従来の通信ケーブルよりも低コストで製造することができる。
【0100】
また、通信ケーブルを受信機器等に接続する際には、従来の通信ケーブルと同じように簡単にシースを引き裂いて光心線を露出せしめることができることから、本発明の条件を満足しない抗張力体およびこれを使用した通信ケーブル(比較例1〜3)に比べて、機能性、加工性および作業性のあらゆる面において優れた性能を有するものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の抗張力体は、上述したとおり、従来の抗張力体と機能を持ちつつ、クマゼミの産卵被害による光心線の損傷を未然に防ぐという機能性と、通信ケーブルを低コストで加工できるという優れた加工性を有する新規なものであることから、これからさらに増えると予想される光ファイバー通信ケーブルへの使用はもちろんのこと、その他各種電線ケーブルに使用した場合には、その機能を遺憾なく発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の抗張力体および通信ケーブルの一例を示す断面図。
【図2】(a)〜(g)は図1とは異なる断面形状の抗張力体を使用した場合の通信ケーブルを示す断面図、(h)〜(i)は抗張力体を図1とは異なるように配置した場合の通信ケーブルを示す断面図。
【図3】従来の通信ケーブルを示す断面図。
【符号の説明】
【0103】
1 通信ケーブル
2 光心線
3 抗張力体
4 シース
5 ノッチ
6 凹状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信ケーブルに内設された光心線の周囲に併設し、前記光心線を保護するために使用する合成樹脂モノフィラメントからなる抗張力体であって、前記合成樹脂モノフィラメントは、前記光心線の少なくとも一部を囲んで保護するための凹状部を一つ以上有する異形断面形状に形成されており、且つJIS L1013−1999の8.10に準じて測定したヤング率が12000N/mm以上であることを特徴とする通信ケーブル用抗張力体。
【請求項2】
前記合成樹脂モノフィラメントの異形断面形状が、V型、U型、H型、Y型、T型、X型およびL型から選ばれたいずれかの形状であることを特徴とする請求項1に記載の通信ケーブル用抗張力体。
【請求項3】
前記合成樹脂モノフィラメントが、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、弗素系樹脂およびポリフェニレンサルファイドから選ばれた少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1または2の記載の通信ケーブル用抗張力体。
【請求項4】
前記合成樹脂モノフィラメントが、エチレン−2,6−ナフタレート単位を85モル%以上含有するポリエステル系樹脂からなることを特徴とする請求項3に記載の通信ケーブル用抗張力体。
【請求項5】
前記合成樹脂モノフィラメントのJIS L1013−1999の8.18.2のB法に準じて測定した140℃における乾熱収縮率が5.0%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の通信ケーブル用抗張力体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の通信ケーブル用抗張力体を複数本使用し、これら抗張力体をその凹状部でもって光心線の少なくとも一部を囲むように、前記光心線の周囲に併設すると共に、これら光心線と通信ケーブル用抗張力体との周囲にシースを被覆形成したことを特徴とする通信ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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