説明

通信システム

【課題】通信システムにおいて、セキュリティ性を向上させることにある。
【解決手段】両位相信号の位相は、それぞれ異なるように設定される。ここで、車載装置20及び電子キー10が遠く離れた位置にあっても、中継器を使用して不正に通信を成立させることで車両ドアの解錠が実行されるおそれがある。中継器が、LF帯の無線信号を中継する際に、一度、受信した無線信号を検波して、その検波信号に基づきより電波の強い無線信号を生成し、それを送信する場合、この受信した無線信号(位相信号)が包絡線検波される際に両位相信号間において異なっていた位相は同位相となる。このため、中継器を使用した不正な通信である場合には、受信した両位相信号間の位相が異ならない旨判断されて車両ドアの解錠が規制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、通信システムの一種である電子キーシステムにおいては、電子キー及び車両間での無線通信を通じて、車両ドアの施解錠、エンジン始動等が許可される。例えば、車両は、その車内外に要求信号を送信する。電子キーは、要求信号を受信するとIDコードを含む応答信号を送信する。車両は、応答信号に含まれるIDコードの照合が成立したとき車両ドアの施解錠やエンジンの始動を許可する(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−170162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電波(要求信号、応答信号)をリレーする中継器を使用して遠方に存在する電子キーがあたかも車両周辺に存在するかのように偽装する不正な通信が懸念されている。この中継器を使用した不正な通信によって、車両ドアの解錠等が実行されるおそれがある。そこで、中継機を使用した不正な通信に対するセキュリティ対策が求められている。
【0005】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、セキュリティ性を向上させた通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、少なくとも何れか一方が移動体通信機器である第1の通信機及び第2の通信機間での無線信号の授受を通じて制御対象の制御を許可する通信システムにおいて、前記無線信号は前記第1の通信機から時分割して、又は同時にLF帯の無線信号として特定の位相条件にて送信され、前記第2の通信機において受信された信号が前記特定の位相条件を満たす旨判断したとき中継器を使用した不正な通信でないとして前記制御の実行を許可し、前記特定の位相条件を満たさない旨判断したとき中継器を使用した不正な通信であるとして前記制御の実行を禁止することをその要旨としている。
【0007】
同構成によれば、時分割若しくは同時に特定の位相条件にて無線信号が送信される。ここで、両通信機が遠く離れた位置にあっても、第1の通信機からの無線信号を第2の通信機に中継する中継器を利用して不正に通信を成立させることで制御が実行されるおそれがある。一般的に、中継器は、LF帯の無線信号を中継する際に、一度、受信した無線信号を検波して、その検波信号に基づきより電波の強い無線信号を送信する。ここで、受信した無線信号が検波(包絡線検波)される際に、これら信号において異なっていた位相は同位相となる。このため、中継器を使用した不正な通信である場合には、無線信号における特定の位相条件を満たさない旨判断されて、制御の実行が禁止される。これにより、セキュリティ性を向上させることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の通信システムにおいて、前記特定の位相条件とは、前記無線信号として時分割で送信される第1の信号及び第2の信号間で位相差があることであって、前記第1又は第2の通信機は処理判定部を備え、前記処理判定部は、受信された前記第1又は第2の信号を一定以上受けたとき、その位相を再生する再生部と、前記再生部により再生されている信号の位相と、現在受信している前記第1又は第2の信号の位相とを比較する位相比較部と、前記位相比較部の比較結果に基づき前記現在受信している信号の位相差が生じたか否かを判断する位相差判断部と、受信中の信号が前記第1の信号から前記第2の信号に切り替わるタイミングに基づき、前記位相差判断部において位相差が検出されると予想される時間を認識する信号処理部と、を備え、前記信号処理部を通じて認識した前記位相差が生じると予想される時間において前記位相差判断部を通じて位相差が生じた旨判断したとき、中継器を使用した不正な通信でないとして前記制御の実行を許可し、前記位相差が生じると予想される時間において前記位相差判断部を通じて位相差が生じていない旨判断したとき、中継器を使用した不正な通信であるとして前記制御の実行を禁止することをその要旨としている。
【0009】
再生部は、入力信号を一定以上受けたときにその位相の再生を開始するところ、入力信号が第1から第2の信号に切り替わった直後は、第1の信号の位相を再生する。このため、第1から第2の信号に切り替わった直後において、位相比較部には位相の異なる2つの信号が入力される。位相差判断部は、位相比較部の比較結果に基づき位相差を判断する。一方、信号処理部は、位相差が検出されると予想される時間を認識する。この時間は、両信号間で切り替わった直後に設定される。これにより、中継器を使用した不正な通信でない場合には、位相差が生じると予想される時間において位相差判断部を通じて両信号間で位相差が生じた旨判断される。この判断がされたときには、制御の実行が許可される。また、中継器を使用した不正な通信である場合には、位相差が生じると予想される時間において位相差判断部を通じて両信号間で位相差が生じない旨判断されて、制御の実行が禁止される。これにより、セキュリティ性を向上させることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の通信システムにおいて、前記第1の通信機は前記処理判定部を備えたうえで前記制御対象である車両に設けられるとともに、前記第2の通信機はユーザに所持される電子キーとして設け、前記電子キーは、前記第1の通信機から送信されるLF帯の前記第1及び第2の信号を受けると、その信号に応じたUHF帯の第1及び第2の信号を前記第1の通信機に送信し、前記第1の通信機は、受信した前記UHF帯の第1及び第2の信号を検波することで、これら信号を前記LF帯の第1及び第2の信号と同位相とすることをその要旨としている。
【0011】
同構成によれば、車両に処理判定部を設けることで、より高い携帯性が要求される電子キーをコンパクトに構成することができる。
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の通信システムにおいて、前記両通信機間には前記無線信号として制御を要求する旨の制御要求信号が送信され、前記第1及び第2の信号は位相信号として前記制御要求信号とは別に送信されることをその要旨としている。
【0012】
同構成によれば、第1及び第2の信号は位相信号として制御要求信号とは別に送信される。従って、両通信機間において制御要求信号及び位相信号を異なる方向に送信させることもできる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の通信システムにおいて、前記特定の位相条件とは、前記無線信号として同時に送信される第1の信号及び第2の信号間で位相差があることであって、前記第2の通信機は、前記両信号が混信した信号の信号強度に基づき前記両信号間に位相差がある旨判断したとき、前記特定の位相条件を満たす旨判断することをその要旨としている。
【0014】
同構成によれば、第1及び第2の信号が同時に送信された場合であっても、それら信号間の位相差の有無の判断が可能である。これは、例えば両信号が逆位相の場合には干渉を起こして信号強度は小さくなって、両信号が同位相の場合には信号強度が大きくなるからである。これにより、第1及び第2の信号の送信に要する時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、通信システムにおいて、セキュリティ性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態における電子キーシステムの構成図。
【図2】第1の実施形態における車両におけるLF送信部の構成図。
【図3】第1の実施形態における(a)は基準信号を示したグラフ、(b)は第1及び第2の送信アンテナからの送信信号を示したグラフ、(c)はスイッチのオンオフ状態を示したグラフ。
【図4】第1の実施形態における各種信号の送信タイミングを示したタイミングチャート。
【図5】第1の実施形態における処理判定部等の構成図。
【図6】第1の実施形態における波形整形部により波形整形された信号を示したグラフ。
【図7】第1の実施形態における(a)はクロック再生部からの信号を示したグラフ、(b)は波形整形部からの信号を示したグラフ、(c)は位相比較部からの信号を示したグラフ。
【図8】第1の実施形態における位相差が検出される一定時間を示したグラフ。
【図9】第2の実施形態における電子キーシステムの構成図。
【図10】(a)は増幅器からの信号を示すグラフ、(b)はダイオードからの信号を示すグラフ、(c)は増幅器に出力される信号を示すグラフ、(d)は包絡線検波器からの信号を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる電子キーシステムの第1の実施形態について図1〜図8を参照して説明する。
【0018】
図1に示されるように、電子キーシステム1は、ユーザによって所持される電子キー10と、車載装置20とを備えている。電子キー10及び車載装置20間で相互通信が行われ、その相互通信が成立したことを条件として車両ドアの施解錠が許可される。以下、電子キーシステムの構成について説明する。
<車載装置>
図1に示すように、車載装置20は、車載制御部21と、LF送信部22と、第1の送信アンテナ22aと、第2の送信アンテナ22bと、UHF受信部24と、受信アンテナ24aと、を備えている。また、車載制御部21には、ロックスイッチ31と、ドアロック装置32とが電気的に接続されている。
【0019】
両送信アンテナ22a,22bは、車両ドアのアウトサイドドアハンドルに内蔵されている。また、ロックスイッチ31は、アウトサイドドアハンドルの表面に設けられるとともに、ユーザに押し操作されるとその旨の操作信号を車載制御部21に出力する。UHF受信部24は車室内の略中央に設けられている。また、ドアロック装置32は、車両ドアが閉じた状態において車両ドアを自動的に施解錠する。
【0020】
車載制御部21は、コンピュータユニットによって構成されるとともに、不揮発性のメモリ21aを備える。このメモリ21aには、電子キー10に記憶されるIDコードと同一のIDコードが記憶されている。
【0021】
図2に示すように、LF送信部22は、基準発振器41と、位相器42と、変調器43と、スイッチ44a,44bと、を備える。
基準発振器41は、スイッチ44aを介して送信アンテナ22aに、位相器42及びスイッチ44bを介して送信アンテナ22bにそれぞれ接続されている。また、変調器43は、各スイッチ44a,44bに接続されて、それらのオンオフを切り替える。
【0022】
基準発振器41は、図3(a)に示すように、LF(Low Frequency)帯(例えば125kHz)の基準信号を生成し、それを各アンテナ22a,22b側に出力する。変調器43は、図3(c)に示すように、車載制御部21からのデジタル信号に応じて各スイッチ44a,44bをオン、オフする。デジタル信号は例えば「0」及び「1」からなる。変調器43は「0」を受けるとスイッチ44a,44bの何れかをオフし、「1」を受けるとスイッチ44a,44bの何れかをオンする。これにより、図3(b)に示すように、デジタル信号の「0」及び「1」に応じて振幅を変化させた送信信号が生成される。この送信信号は各アンテナ22a,22bから無線送信される。このように、デジタル信号を振幅の違いで変調する方式をASK(Amplitude Shift Keying)変調方式という。
【0023】
位相器42は、基準発振器41から基準信号を受けると、同信号の位相を90°ずらす。従って、図3(b)の上段に示すように送信アンテナ22aからの送信信号が基準信号と同位相であるのに対して、図3(b)の下段に示すように送信アンテナ22bからの送信信号は、基準信号に対して位相が90°遅れている。
【0024】
図4に示すように、車載制御部21は、LF送信部22を通じて送信信号である要求信号を変調し、それを送信アンテナ22aを介して無線送信する。この要求信号は、送信アンテナ22aを通じて送信されるため、基準信号と同位相である。要求信号を受信した電子キー10から応答信号が返信される。
【0025】
図1に示すように、UHF受信部24は、その受信アンテナ24aを介して応答信号を受信する。そして、UHF受信部24は、応答信号を復調し、それを車載制御部21へ出力する。車載制御部21は、応答信号を認識すると、同信号に含まれるIDコードと、メモリ21aに記憶されるIDコードとの照合を行う。
【0026】
車載制御部21は、IDコードの照合が成立すると、上述した方法にてLF送信部22を通じて第1の位相信号及び第2の位相信号を連続的に変調する。具体的には、第1の位相信号を変調する際、変調器43は、スイッチ44bをオフに維持した状態でスイッチ44aをオンオフ制御する。変調された第1の位相信号は送信アンテナ22aから送信される。また、第2の位相信号を変調する際、変調器43は、スイッチ44aをオフに維持した状態でスイッチ44bをオンオフ制御する。変調された第2の位相信号は送信アンテナ22bから送信される。従って、両位相信号間においては位相に90°の差が生じている。なお、第1の位相信号における終端ビット、及び第2の位相信号における先頭ビットは論理「1」に設定される。
【0027】
詳しくは後述するが、電子キー10は、受信した両位相信号に基づき両位相信号間に正しく位相差が生じているか否かの判断、ひいては中継器を使用した不正な通信であるか否かの判断を行って、その判断結果を結果信号として返信する。
【0028】
UHF受信部24は受信アンテナ24aを通じて受信された結果信号を復調して、それを車載制御部21に出力する。車載制御部21は、結果信号を通じて中継器を使用した不正な通信でない旨判断したとき、施解錠許可状態となる。車載制御部21は、この施解錠許可状態において、ロックスイッチ31が操作されると、車両ドアの施解錠状態を切り替える。一方、車載制御部21は、結果信号を通じて中継器を使用した不正な通信である旨判断したとき、施解錠許可状態とならない。これにより、中継器を使用した不正な通信により車両ドアが解錠されることが規制される。
【0029】
<電子キー>
図1に示すように、電子キー10は、電子キー制御部11と、リミットアンプ57と、波形整形部58と、受信アンテナ12aと、検波回路14と、UHF送信部13と、送信アンテナ13aとを備える。
【0030】
電子キー制御部11は、コンピュータユニットによって構成されるとともに、不揮発性のメモリ11aを備える。メモリ11aには電子キー10に固有のIDコードが記憶されている。
【0031】
受信アンテナ12aは、各位相信号を受信すると、それをリミットアンプ57及び検波回路14に出力する。検波回路14は、受信アンテナ12aを介して受信した要求信号を検波して、それを電子キー制御部11に出力する。電子キー制御部11は、要求信号を認識すると、自身のメモリ11aに記憶されるIDコードを含む応答信号を生成し、それをUHF送信部13に出力する。UHF送信部13は、応答信号を変調し、それを自身の送信アンテナ13aを介してUHF(Ultra High Frequency)帯の無線信号として送信する。
【0032】
リミットアンプ57は、各位相信号を増幅することで、その波形を略台形波状として、それを波形整形部58に出力する。波形整形部58は、図7(b)に示すように、各位相信号を矩形波(パルス波)に波形整形して、それを電子キー制御部11に出力する。
【0033】
このパルス波は、図6に示すように、ビットが1の期間(図3(c)においてスイッチオンに対応する期間)においてのみ基準信号の周波数と同一の周波数(125kHz)にて生成される。また、パルス波は、ビットが0の期間(図3(c)においてスイッチオフに対応する期間)においては発生しない。
【0034】
パルスの周期は周波数の逆数で算出される。従って、本例ではパルスの周期は1/(125k)秒となる。また、電子キー制御部11は、受信した両位相信号間での位相差の有無、及び位相差が検出される時間を判断する処理判定部50を備える。また、図5に示すように、処理判定部50は、クロック再生部51と、位相比較部52と、位相差判断部53と、認証処理部54と、信号処理部55とを備える。
【0035】
クロック再生部51は、波形整形部58から100パルス分の信号を受けたとき、100パルス分だけ遅延してその信号を再生する。この100パルスは一例であって設定により変更可能である。
【0036】
例えば、クロック再生部51は、150パルス分の第1の位相信号を受けた後に、同信号に対して90°位相が遅れた10パルス分の第2の位相信号を受けたとする。この場合、クロック再生部51は、100パルス分の第1の位相信号を受けたときにその信号の再生を開始する。クロック再生部51は、図7(a)に示すように、150パルス分の第1の位相信号を受けた後に、第2の位相信号を受けても、しばらくは位相が遅れることなく、第1の位相信号を再生する。従って、位相比較部52は、クロック再生部51及び波形整形部58からそれぞれ位相の異なる信号、すなわち再生された第1の位相信号と、現在受信中の第2の位相信号とを受ける。位相比較部52は、図7(c)に示すように、クロック再生部51及び波形整形部58からの信号をAND演算する。すなわち、位相比較部52は、クロック再生部51及び波形整形部58の両方からの電圧VがHi(論理「1」)のときにのみHiを位相差判断部53に出力する。それ以外の場合にはLo(論理「0」)を位相差判断部53に出力する。従って、図7(c)において一点鎖線で示す領域は除去される。位相差判断部53は、位相比較部52からの信号に基づき、位相差の有無を判断する。具体的には、位相差がない場合には信号のデューティー比は約50%であるものの、位相差が90°となると図7(c)の右側に示すようにデューティー比は約25%に低下する。位相差判断部53は、デューティー比に基づく判断結果を認証処理部54に出力する。
【0037】
一方、検波回路14は、図8に示すように、受信アンテナ12aを介して受信した両位相信号を「0」及び「1」の信号に検波し、それを信号処理部55に出力する。信号処理部55は、検波回路14からの信号のビット数をカウントすることで、第2の位相信号の最初のビットBxを認識する。そして、信号処理部55は、ビットBxの開始から一定時間Tを位相差が検出される期間として認証処理部54に通知する。ここで、ビットBx及びその前のビットは、「1」となるように両位相信号は設定されている。例えばビットBxの前のビット(第1の位相信号の終端ビット)が「0」の場合には、クロック再生部51は再生源となる100パルス分の信号を受けられないため、一定時間Tにおいてパルスを含む信号を再生できない。また、例えばビットBx(第2の位相信号の先頭ビット)が「0」の場合には、波形整形部58から位相比較部52にパルスを含む信号が出力されない。何れの場合であっても、位相比較部52における比較対象が存在しないことになる。従って、上記のように両位相信号を設定する必要がある。
【0038】
認証処理部54は、一定時間Tにおいて、位相差判断部53の判断結果に基づき両位相信号間に90°の位相差があるか否かを判断する。電子キー制御部11は、認証処理部54による判断結果を含む結果信号を生成し、それをUHF送信部13に出力する。UHF送信部13は、結果信号を変調し、それを自身の送信アンテナ13aを介してUHF帯の無線信号として送信する。上述したように、この結果信号に基づき車両ドアの施解錠が許可又は規制される。
【0039】
ここで、中継器には、車両からのLF帯の無線信号を一度検波して、その検波信号に基づき生成した無線信号を送信する方式がある。この方式は、検波せずに周波数変換する方式に比べて、より強い電波にて中継できる。このため、特にLF帯の無線信号を中継する際に利用される。しかし、この方式においては、検波する際に信号の包絡線のみが取り出されるところ、その信号の位相まではコピーされない。よって、中継器は、位相の異なる両位相信号を受けても、同一の位相にて両位相信号を中継することとなる。これにより、中継器を使用した不正な通信の場合には、両位相信号間に位相差がない旨判断されて、車両ドアの施解錠が規制される。
【0040】
以上、説明した実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)両位相信号の位相は、それぞれ異なるように設定される。ここで、車載装置20及び電子キー10が遠く離れた位置にあっても、中継器を使用して不正に通信を成立させることで車両ドアの解錠が実行されるおそれがある。一般的に、中継器は、LF帯の無線信号を中継する際に、一度、受信した無線信号を検波して、その検波信号に基づきより電波の強い無線信号を生成し、それを送信する。この受信した無線信号(位相信号)が包絡線検波される際に、両位相信号間において異なっていた位相は同位相となる。このため、中継器を使用した不正な通信である場合には、受信した両位相信号間の位相が異ならない旨判断されて車両ドアの解錠が規制される。これにより、セキュリティ性を向上させることができる。
【0041】
(2)クロック再生部51は、入力信号に対して一定量(100パルス分)だけ遅延して信号の再生を行うところ、入力信号が第1から第2の位相信号に切り替わった直後は、第1の位相信号の位相にて信号を再生する。このため、第1から第2の位相信号に切り替わった直後においては、位相比較部52には位相の異なる2つの信号が入力される。ここで、両位相信号における境界部分におけるビットは「1」であるため、第1から第2の位相信号に切り替わった直後においては位相比較部52における2つの比較対象が確実に存在する。位相差判断部53は、位相比較部52の比較結果に基づき位相差を判断する。中継器を使用した不正な通信でない場合には、一定時間Tにおいて位相差判断部53を通じて両位相信号間で位相に差が生じた旨判断される。この判断がされたときには、車両ドアの解錠が許可される。また、中継器を使用した不正な通信である場合には、一定時間Tにおいて位相差判断部53を通じて両位相信号間で位相に差が生じない旨判断されて、車両ドアの解錠が規制される。これにより、セキュリティ性を向上させることができる。
【0042】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態について、図9を参照して説明する。この実施形態においては、電子キーで受けた両位相信号がUHF帯の信号として車両側に送信されて、それら信号に基づき車両側で位相差の有無が判断される点が上記第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0043】
図9に示すように、電子キー10は、増幅器61,62と、RSSI(Receive Signal Strength Indication)検出回路63と、アンド回路64と、発振部65と、スイッチ66と、ダイオード67と、を備える。増幅器61は、図10(a)に示すように、受信アンテナ12aを介して受信したLF帯の信号を増幅して、それを検波回路14及びダイオード67に出力する。検波回路14は、増幅器61からの信号を検波し、それを電子キー制御部11に出力する。電子キー制御部11は、検波回路14からの信号が要求信号である旨認識すると、第1の実施形態と同様に、UHF送信部13及び送信アンテナ13aを通じて応答信号を送信する。
【0044】
また、図10(b)に示すように、ダイオード67は、増幅器61からの信号における負成分を除去し、それをRSSI検出回路63に出力する。RSSI検出回路63は、ダイオード67からの信号の電圧Vが一定値以上となったとき、許可信号をアンド回路64に出力する。
【0045】
一方、電子キー制御部11は、応答信号の送信タイミングに基づき、両位相信号の受信期間を認識可能である。電子キー制御部11は、両位相信号の受信期間において、アンド回路64及び発振部65に許可信号を出力する。発振部65は、許可信号を受けると、UHF帯の無変調の信号を生成する。アンド回路64は、RSSI検出回路63及び電子キー制御部11の両方から許可信号を受けているとき、スイッチ66をオフ状態からオン状態とする。これにより、図10(c)に示すように、受信したLF帯の両位相信号をASK変調することができる。変調された信号は、増幅器62を通じて増幅された後に送信アンテナ13aを通じて無線送信される。
【0046】
本実施形態においては、図9に示すように、車載制御部21に処理判定部50が設けられている。また、受信アンテナ24aとリミットアンプ57との間には、第1の実施形態における検波回路14に替えて包絡線検波器68が設けられる。処理判定部50、リミットアンプ57、及び波形整形部58は第1の実施形態と同様に構成される。
【0047】
包絡線検波器68は、受信アンテナ24aを通じて受信した両位相信号を包絡線検波する。これにより、図10(d)に示すように、上記図10(c)の包絡線のみが取り出された波形が得られる。この波形は、上記図10(a)に示されたLF帯の位相信号と同一の周波数及び位相である。従って、上記第1の実施形態と同様に処理判定部50等を通じて、一定時間Tにおいて両位相信号間に90°の位相差があるか否かが判断可能となって、位相差がない場合には中継器を使用した不正な通信であるとして車両ドアの解錠が規制される。
【0048】
以上、説明した実施形態によれば、第1の実施形態の(1)及び(2)の効果に加え、以下の効果を奏することができる。
(3)車載装置20に処理判定部50等を設けることで、より高い携帯性が要求される電子キー10をコンパクトに構成することができる。
【0049】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
・上記両実施形態においては、第1の位相信号の後、第2の位相信号が送信されていた。しかし、第1及び第2の位相信号は交互に繰り返し送信されてもよい。この場合にも、両位相信号の境界部分におけるビットを「1」とする。これにより、1回の通信において、複数回に亘って位相差の有無の判断ができる。
【0050】
・上記両実施形態においては、応答信号を受けてIDコードの照合が成立したとき、第1の位相信号及び第2の位相信号が送信されていた。しかし、両位相信号は、要求信号の後に送信されてもよい。この場合、両位相信号間に位相の差があるか否かの判断結果を応答信号に含ませることもできる。よって、結果信号を省略することができる。また、要求信号を位相信号として、要求信号における位相を所定のタイミングで90°ずらしてもよい。この場合、両位相信号を要求信号と別個に送信する必要がなくなる。
【0051】
・上記両実施形態における両位相信号間の位相差は90°であったが、位相差は90°に限らない。両位相信号間の位相差が変化することに伴い、位相差判断部53における判断基準が変わる。
【0052】
・上記両実施形態においては、第1の位相信号及び第2の位相信号は連続的に送信されていた。しかし、両送信アンテナ22a,22bを介して第1の位相信号及び第2の位相信号を同時に送信してもよい。この場合、両位相信号の位相差に伴うRSSIの変化に基づき、中継器を使用した不正な通信であるか否かの判断が可能である。具体的には、両位相信号が同位相の場合には電子キー10におけるRSSIが大きくなる。また、両位相信号が逆位相の場合には干渉を起こして、電子キー10におけるRSSIが小さくなる。このような傾向からRSSIに基づき位相差、ひいては中継器を使用した不正な通信であるか否かを判断できる。本構成においては、両位相信号の送信に要する時間を短縮することができる。また、RSSIを通じて容易に両位相信号の位相差の有無を判断することができる。
【0053】
・上記両実施形態においては、第1の位相信号は送信アンテナ22aから、第2の位相信号は送信アンテナ22bから送信されていた。しかし、送信アンテナは1つであってもよい。この場合、単一の送信アンテナから第1の位相信号及び第2の位相信号が送信される。例えば、図2に示す構成において、各スイッチ44a,44bにおける基準発振器41と反対側の端子を単一の送信アンテナに接続する。これにより、位相器42を通過する経路と、通過しない経路とが構成されて、単一の送信アンテナから両位相信号を順次送信することが可能となる。
【0054】
・上記両実施形態においては、両位相信号は車載装置20から電子キー10に送信されていた。しかし、両位相信号は、電子キー10から車載装置20に送信されてもよい。この場合、電子キー10から車載装置20にLF帯の無線信号が送信可能に構成されるとともに、第2の実施形態と同様に、処理判定部50、波形整形部58及びリミットアンプ57は車載装置20に設けられる。
【0055】
・上記両実施形態においては、結果信号を通じて中継器を使用した不正な通信である旨判断されたとき、車両ドアの施解錠が規制されていたが、エンジンの始動が規制されてもよい。また、電子キー10の制御対象は車両に限らず、例えば住宅用のドア装置であってもよい。この場合であっても、上記両実施形態と同様に、中継器を使用した不正な通信を防止できる。
【0056】
・上記両実施形態においては、デジタル変調方式としてASK変調方式が採用されていたが、変調方式はこれに限らず、例えばFSK(Frequency Shift Keying)変調方式やPSK(Phase Shift Keying)変調方式を採用してもよい。
【0057】
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想をその効果と共に記載する。
(イ)請求項3に記載の通信システムにおいて、前記電子キーは、UHF帯の無線信号を送信する送信アンテナと、UHF帯の無変調信号を生成する発振部と、前記送信アンテナ及び前記発振部間に設けられるスイッチと、前記LF帯の第1及び第2の位相信号の信号強度に応じて前記スイッチをオンオフすることで、前記無変調信号に基づき変調された前記UHF帯の第1及び第2の位相信号を生成するスイッチ切替手段と、を備えた通信システム。
【0058】
同構成によれば、電子キーは、簡易な構成にてLF帯の第1及び第2の位相信号における位相を維持しつつUHF帯に変調して、それを無線送信することができる。
(ロ)上記(イ)に記載の通信システムにおいて、前記電子キーは、前記発振部における前記無変調信号の出力を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記LF帯の第1及び第2の位相信号を受信すると予想される時間に亘って、前記発振部から前記無変調信号を出力させる通信システム。
【0059】
同構成によれば、LF帯の第1及び第2の位相信号を受信すると予想される時間に限って、発振部から無変調信号が出力される。よって、無駄に無変調信号が出力されることが抑制される。
【0060】
(ハ)請求項3、上記(イ)及び(ロ)に記載の通信システムにおいて、前記第1の通信機は、前記第1及び第2の位相信号とは別の要求信号を無線送信し、前記電子キーは、受信した要求信号に応じて、自身のIDコードを含む応答信号を無線送信し、前記第1の通信機は、受信したIDコードの照合が成立したときであって、かつ受信された前記第1及び第2の位相信号の位相が異なる旨判断したとき前記制御の実行を許可する通信システム。
【0061】
同構成によれば、制御を実行させるには、さらにIDコードの照合成立が必要となる。よって、よりセキュリティ性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0062】
1…電子キーシステム、10…電子キー(第2の通信機、移動体通信機器)、11…電子キー制御部、13…UHF送信部、14…検波回路、20…車載装置(第1の通信機)、21…車載制御部、22…LF送信部、22a,22b…送信アンテナ、24…UHF受信部、41…基準発振器、42…位相器、43…変調器、44a,44b…スイッチ、50…処理判定部、51…クロック再生部、52…位相比較部、53…位相差判断部、54…認証処理部、55…信号処理部、57…リミットアンプ、58…波形整形部、61,62…増幅器、63…RSSI検出回路、64…アンド回路(スイッチ切替手段)、65…発振部、66…スイッチ、67…ダイオード、68…包絡線検波器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも何れか一方が移動体通信機器である第1の通信機及び第2の通信機間での無線信号の授受を通じて制御対象の制御を許可する通信システムにおいて、
前記無線信号は前記第1の通信機から時分割して、又は同時にLF帯の無線信号として特定の位相条件にて送信され、
前記第2の通信機において受信された信号が前記特定の位相条件を満たす旨判断したとき中継器を使用した不正な通信でないとして前記制御の実行を許可し、前記特定の位相条件を満たさない旨判断したとき中継器を使用した不正な通信であるとして前記制御の実行を禁止する通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の通信システムにおいて、
前記特定の位相条件とは、前記無線信号として時分割で送信される第1の信号及び第2の信号間で位相差があることであって、
前記第1又は第2の通信機は処理判定部を備え、
前記処理判定部は、
受信された前記第1又は第2の信号を一定以上受けたとき、その位相を再生する再生部と、
前記再生部により再生されている信号の位相と、現在受信している前記第1又は第2の信号の位相とを比較する位相比較部と、
前記位相比較部の比較結果に基づき前記現在受信している信号の位相差が生じたか否かを判断する位相差判断部と、
受信中の信号が前記第1の信号から前記第2の信号に切り替わるタイミングに基づき、前記位相差判断部において位相差が検出されると予想される時間を認識する信号処理部と、を備え、
前記信号処理部を通じて認識した前記位相差が生じると予想される時間において前記位相差判断部を通じて位相差が生じた旨判断したとき、中継器を使用した不正な通信でないとして前記制御の実行を許可し、前記位相差が生じると予想される時間において前記位相差判断部を通じて位相差が生じていない旨判断したとき、中継器を使用した不正な通信であるとして前記制御の実行を禁止する通信システム。
【請求項3】
請求項2に記載の通信システムにおいて、
前記第1の通信機は前記処理判定部を備えたうえで前記制御対象である車両に設けられるとともに、
前記第2の通信機はユーザに所持される電子キーとして設け、
前記電子キーは、前記第1の通信機から送信されるLF帯の前記第1及び第2の信号を受けると、その信号に応じたUHF帯の第1及び第2の信号を前記第1の通信機に送信し、
前記第1の通信機は、受信した前記UHF帯の第1及び第2の信号を検波することで、これら信号を前記LF帯の第1及び第2の信号と同位相とする通信システム。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の通信システムにおいて、
前記両通信機間には前記無線信号として制御を要求する旨の制御要求信号が送信され、
前記第1及び第2の信号は位相信号として前記制御要求信号とは別に送信される通信システム。
【請求項5】
請求項1に記載の通信システムにおいて、
前記特定の位相条件とは、前記無線信号として同時に送信される第1の信号及び第2の信号間で位相差があることであって、
前記第2の通信機は、前記両信号が混信した信号の信号強度に基づき前記両信号間に位相差がある旨判断したとき、前記特定の位相条件を満たす旨判断する通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−193514(P2012−193514A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56847(P2011−56847)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】