説明

通信用シート構造体

【課題】効率よく情報伝送、電力伝送を行うことができ、台や棚、床面等に通信用媒体を設置しても滑りにくく、使用中の安定性が良好な通信用シート構造体を提供する。
【解決手段】電磁波を伝播することによって通信を行う通信用シート構造体であって、該通信用シート構造体が、周波数800MHzから10GHzにおける比誘電率が1.0から15.0である平面状の基材からなり、該基材の一方の面には、導電体Aが存在する部分と存在しない部分があり、該基材の他方の面には90%以上に亘って導電体Bが存在し、かつ該他方の面に弾性シートが接合している通信用シート構造体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を伝播することによって通信を行う通信シートに関するものである。さらに詳しくは、二次元的な広がりを持つ通信用シート構造体であって、情報通信機器がその表面に接触もしくは近接することで、当該通信機器との間で通信を行ったり、複数の情報通信機器がその表面に接触もしくは近接している場合に、これらの間の通信を中継するのに最適な、通信用シート構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットに代表されるコンピューター通信網や情報ネットワークの利用が一般家庭・企業などを問わずに普及、一般化し増加してきている。最も一般的な利用形態は、パソコンなどにLANケーブルを直接接続したり、無線を用いて接続したりしてLAN(Local Area Network)を形成し、LAN内のコンピューターからインターネットなどのネットワークへのアクセスを可能としている。そのような中にあって、LANケーブルを用いる場合は、このケーブルが家屋やオフィス内に引き回され、歩行の妨げになったり、美観上の問題となる。また、無線LANを用いる場合、電波の放射を用いて通信を行うため、情報漏洩や不正アクセスなどのセキュリティ上の問題がある。
【0003】
そこで、通信手段を二次元にし、二次元状の通信媒体を用いることで、これら問題を解決できることが、特許文献1(特開2004−7448号公報)、特許文献2(特開2006−19979号公報)に示されている。
【0004】
また、近年、情報ネットワーク社会の発展によって、会社内、店舗内、工場内、倉庫内、自宅内、医療現場等に通信ネットワーク網が拡がりつつある。例えば、店舗内において、RFIDタグと本通信用シート構造体とを組合せ、商品管理や物流管理を行ったり、工場内において、通信用シート構造体をセンサーシートとして利用し品質管理を行ったり、自宅内で床面に通信用シート構造体を設置し、簡単にホームネットワークの設定を行ったりすることなどが考えられる。そのような中で、上記場所の床面、各作業台や棚の上などに通信用シート構造体を設置することは情報ネットワークの構築に大きく役立つものである。
【0005】
上記用途において、通信用シート構造体は、台の上や、床面等に通信用シート構造体を設置した場合、従来提案されている通信用媒体では、通信用媒体が滑りやすく、使用中の安定性が悪いといった問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2004−7448号公報
【特許文献2】特開2006−19979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、効率よく情報伝送、電力伝送を行うことができ、台や棚、床面等に通信用媒体を設置しても滑りにくく、使用中の安定性が良好な通信用シート構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため検討した結果、次の通信用シート構造体によりこれを解決することができることを見出した。
すなわち、本発明は、電磁波を伝播することによって通信を行う通信用シート構造体であって、該通信用シート構造体が、周波数800MHzから10GHzにおける比誘電率が1.0から15.0である平面状の基材からなり、該基材の一方の面には、導電体Aが存在する部分と存在しない部分があり、該基材の他方の面には90%以上に亘って導電体Bが存在し、かつ該他方の面に弾性シートが接合していることを特徴とする通信用シート構造体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の通信用シート構造体を用いることで、効率よく情報伝送、電力伝送を行うことができ、台や棚の上、床面に設置しても滑りにくく、安定性が良いため、会社内、店舗内、工場内、倉庫内、自宅内、医療現場等での配線の簡略化に役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の通信用シート構造体は、電磁波を伝播することによって通信を行う通信用シート構造体であって、該通信用シート構造体が、平面状の基材からなり、該基材の一方の面と他方の面に、それぞれ導電性能を有する導電体A及びBが存在するシート構造を有している。二次元で通信を行うには、このシート構成にて、シート媒体内に電磁波を閉じ込める必要がある。
【0011】
本発明においては、基材が、周波数800MHzから10GHzでの比誘電率が1.0から15、好ましくは1.0から5.0、より好ましくは1.0から3.0である平面状の基材である必要がある。上記特性をもつ基材を用いることで、通信用シート構造体は、シート内に伝播する電磁波の減衰を少なくすることができ、きわめて優れた二次元通信性能を発揮する。
【0012】
上記条件を満たす基材としては、加工性や上記の比誘電率を満足し、巻取り性等をも実現する上では、シート、フィルムや、繊維構造体であることが好ましい。ここで、繊維構造体とは、織物、編物および不織布などが挙げられ、特に織物が好ましい。
【0013】
上記のシート、フィルムや繊維構造体を構成する素材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)などのポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などの脂肪族ポリアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンテレフタルアミドなどの芳香族ポリアミド、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)を例示することができる。
【0014】
また、基材として織物、編物、不織布を用いる場合は、1本のフィラメントの繊度が、0.5から30dtexであることが好ましく、0.5dtexから10dtexであることがより好ましい。また、基材が織物、編物の場合は、総繊度が好ましくは30dtexから1500dtex、より好ましくは30dtexから800dtexのマルチフィラメント糸を用いることが好ましい。さらに、基材が織物の場合は、織物密度が、経糸密度、緯糸密度が共に、15本/inchから200本/inchであることが好ましく、15本/inchから150本/inchであることがより好ましい。なお、経糸密度と緯糸密度は、同じであっても異なっていてもよい。
【0015】
基材が繊維構造体、特に織物であり、これに後述するように導電体Aのペーストを基材表面にプリントする場合には、織物の表面が樹脂でコーティングされていることが好ましい。
【0016】
また、基材の一方の面には、導電体Aが存在する部分と存在しない部分がある必要があり、特に該導電体Aが存在する部分が、導電体Aが存在しない部分を囲繞していることが好ましい。このような形状を有する導電体Aが基材の一方の面に存在することにより、導電体Aが存在しない部分から電磁波がシート外部に漏れ、該通信用シート構造体に近接した外部の通信機器が電磁波を受信させることができる。
【0017】
導電体Aの電気抵抗値は、5Ω/□以下であることが好ましく、0.0001Ω/□から1Ω/□であることがより好ましい。導電体Aの電気抵抗値を、5Ω/□以下とすることにより、シート内を伝播する電磁波の減衰をより小さく抑えることができ、良好な二次元での通信を行うことができる。このため、導電体Aとしては、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレスを含んだ素材を使用することが好ましい。
【0018】
基材の一方の面に上記のような導電体Aを形成する手法としては、導電体Aをプリント、めっき、蒸着、ラミネートすれば良い。特に銅、銀、アルミニウム、ニッケルなどの金属を含んだものをめっきもしくはラミネートすれば、導電体Aの金属膜を厚く作製することができる。
【0019】
上記のような導電体Aが存在する部分と存在しない部分がある形態、特に該導電体Aが存在する部分が、導電体Aが存在しない部分を囲繞している形態としては、通信性能や加工性を考えた場合、図1から図7に示す形態を好ましく例示することができ、中でも図1に示すような格子状の形態が好ましい。導電体Aの形状が、図1、および、図3から図7のような線状である場合、線幅が0.5mmから5.0mmであることが好ましく、0.5mmから1.5mmであることがより好ましい。また、図1に示すような格子状である場合は、格子線間隔が3mmから50mmであることが好ましく、3.0mmから10.0mmであることが特に好ましい。本発明においては、少なくとも一部に、該導電体Aが存在する部分が、導電体Aが存在しない部分を囲繞していればよく、例えば図1に示すようにシートの端部等において、該導電体Aが存在する部分が、導電体Aが存在しない部分を囲繞していない部分があってもよい。
【0020】
また、導電体Aの厚みは、通信用シート構造体を伝播する電磁波の周波数に対応する導電体表皮深さよりも厚いことが好ましく、これにより電磁波を通信シート構造体内に閉じ込めやすくなる。したがって、導電体Aの厚みは0.00001μm以上であることが好ましい。また、通信用シート構造体をロール状に巻き取って運搬や使用することを考慮した場合は、導電体Aの厚みは50μm以下とすることが好ましい。
【0021】
一方、基材の他方の面においては、90%以上、好ましくは95%以上に亘り導電体Bが存在している必要があり、これにより良好な通信状態を保つことができる。また、基材の他方の面は、導電体Bで全面、すなわち100%覆れていてもよい。
【0022】
導電体Bの電気抵抗値としては、好ましくは5Ω/□以下、より好ましくは0.001Ω/□から3Ω/□でであればよい。ここで、電気抵抗値を1Ω/□以下とし、通信用シート構造体製造時の加工性を考えた場合、導電体Aとして、金、銀、銅、アルミニウム、ステンレス、ニッケルを含んだ素材を使用することが好ましい。
【0023】
樹脂層に上記のような導電性能を付与する手法としては、導電性を有する素材をプリント、めっき、蒸着、ラミネートすれば良い。特に銅、銀、アルミニウム、ニッケルなどの金属を含んだものをめっきもしくはラミネートすれば、金属膜を厚く作製することができるため良い。
【0024】
なお、導電体Bの厚みは0.00001μm以上であることが好ましい。また、通信用シート構造体をロール状に巻き取って運搬や使用することを考慮した場合は、導電体Bの厚みは50μm以下とすることが好ましい。
【0025】
本発明においては、通信用シート構造体の耐久性を向上させるため、一方の面において、導電体A及び基材が、保護層Aによって覆われているか、または、他方の面において、少なくとも導電体Bが、保護層Bによって覆われていることが好ましい。
【0026】
保護層AまたはBは、樹脂、シート、フィルムであってもよい。PETやPENなどのポリエステルフィルム、PEやPPなどのポリオレフィンフィルム、ポリイミドフィルム、エチレン−ビニルアルコールフィルムなどのフィルムや、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂などの樹脂が含まれる。
【0027】
また、保護層AまたはBは、織物、編物、不織布等の繊維構造体であってよい。該繊維の構成する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)などのポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などの脂肪族ポリアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンテレフタルアミドなどの芳香族ポリアミド、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)を例示することができる。
この保護層A及びBの厚みは、好ましくは0.05mmから10mm、より好ましくは0.1mmから0.3mmである。
【0028】
このように、保護層Aを設ける場合は、前述したように、基材に直接導電体Aを、形成し、さらに保護層Aをその上から被覆してもよいが、基材と接合する面に導電体Aが形成された保護層Aと、基材とを接合して成形してもよい。
一方、保護層Bを設ける際にも、基材と接合する面に導電体Bが形成された保護層Bを作成しておき、これと基材とを接合し、通信用シート構造体を製造してもよい。
【0029】
本発明の通信用シート構造体は、台や棚、床面に設置できるよう、通信用シート構造体の導電体Bが存在する面に弾性シートが接合されている必要がある。上記のように、導電体B上に保護層Bがある場合は、さらに保護層Bの上にさらに弾性シートが接合されていることが好ましい。
【0030】
次に、本発明で基材と接合する弾性シートは、通信用シート構造体を滑りにくくするためのものであり、通信用シート構造体全体の厚さが5mm未満になるようなものを使用することが好ましい。該厚さが5mmを超えると通信用シート構造体全体の柔軟性が不足して、台や床面等の平面においたときにフィット性が不足するので好ましくない。また、通信用シート構造体を持ち運ぶためにロール状に巻いた場合、巻き径が大きくなってしまうために、持ち運びに不便となる。
【0031】
かかる弾性シートは、ウレタン系ゴム、その他のゴム、さらにエラストマー繊維からなる弾性不織布が例示され、特に、弾性不織布からなるものが柔軟性に優れているために最適に例示される。
【0032】
該弾性不織布には、平均繊維径が0.1μmから20μmのエラストマー繊維を使用することが好ましい。また、弾性不織布の厚みが0.1μmから0.5mmであることが好ましく、また、密度は0.1g/mから0.8g/mが好ましく、0.1g/cmから0.4g/cmがより好ましい。特に、該弾性不織布を使用した通信用シート構造体では、樹脂シート等を使用した通信用シート構造体に比べて柔軟性に富み、収納時や持ち運び時に折り曲げたり、丸めたりすることができる。
【0033】
該平均繊維径が0.1μm未満では、不織布が高密度化して硬くなり、柔軟性が不足するようになり好ましくない。一方、平均繊維径が、20μmを超えると繊維が太すぎるため織編物の表面が粗くなり、表面凹凸のために設置面との接触点が少なくなり通信用シート構造体が滑りやすくなるため好ましくない。また、該不織布の密度が、0.1g/cm未満では不織布が柔らかすぎて繊維間の絡み合いが弱く、毛羽立ちが発生しやすく、逆に該密度が0.8g/cmを超えると不織布が硬くなり、柔軟性が低下し好ましくない。
【0034】
なお、該弾性不織布の厚みは、通信用シート構造体全体の厚みが0.1mmから5mmになるように、0.1μmから0.5mmのものを使用することが好ましい。
また、前記のエラストマー繊維は、弾力性のある滑り抵抗の高いエラストマーであれば、ウレタン系、ナイロン系、又はオレフィン系のエラストマーやポリエステル系エラストマーが使用でき特に制限されないが、耐光性や耐湿熱性、加工特性の点からみてポリエステル系エラストマーを使用するものが好ましい。
【0035】
かかるポリエステル系エラストマーとしては、芳香族ジカルボン酸を主たる酸成分とする結晶性ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエーテル及び/又は低結晶性ないし非晶性のポリエステルをソフトセグメントとして構成されるものが好ましく例示される。さらに、該ハードセグメントである結晶性ポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、メチルテレフタル酸、メチルイソフタル酸などが例示される。これらのうち、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく例示され、特に2,6−ナフタレンジカルボン酸を用いるものが好ましい。
【0036】
また、ポリマーの結晶性を損なわない範囲(例えば、20モル%以下)で、これらの酸成分の一部をコハク酸、アジピン酸、セバチン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン
酸で置き換えてもよい。また、前記のジカルボン酸は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、前記ジカルボン酸と同様に、そのエステル形成性誘導体を用いてもよい。
【0037】
また、ハードセグメントである結晶性ポリエステルを構成するジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノールを挙げることができる。ジオール成分としてはこれらのうち、テトラメチレングリコールが特に好ましい。かかるジオール成分としては、2種以上を併用してもよい。また、前記ジオール成分と同様にそのエステル形成性誘導体を用いてもよい。
【0038】
また、前記の結晶性ポリエステルは、ポリマーの結晶性を損なわない範囲(例えば、20モル%以下)で、これらの一部をε−オキシカプロン酸、オキシ安息香酸、ヒドロキシエトキシ安息香酸などのオキシカルボン酸などの他種カルボン酸から構成されるポリエステルで置き換えてもよい。
【0039】
一方、ポリエステル系エラストマーのソフトセグメントを構成するポリエーテルとしては、ポリオキシアルキレングリコールを好ましく挙げることができる。かかるポリオキシアルキレングリコールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシトリメチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール及びこれらの共重合体が例示され、これらのうち特にポリオキシテトラメチレングリコールが好ましく例示される。これらのポリオキシアルキレングリコールの平均分子量は500〜20,000とすることが好ましく、さらに好ましくは600〜4,000の範囲にあるものがよい。
【0040】
また、ソフトセグメントを構成する低結晶ないし非晶性のポリエステルとしては、得られるポリエステル系エラストマーのソフトセグメントとして作用するならば特に限定されないが、例えば、下記の(i)ジカルボン酸成分及び(ii)ジオール成分とから構成されるポリエステルや下記の(iii)ヒドロキシカルボン酸成分から構成されるポリエステルを挙げることができる。
【0041】
すなわち、ソフトセグメントとしてのポリエステルを形成する(i)ジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、スペリン酸、セバチン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。また、(ii)ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコールおよびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。さらに、(iii)ヒドロキシカルボン酸成分としては、例えば、ε−カプロラクトン、γ−バレロラクトン、乳酸およびグリコール酸などが挙げられる。
【0042】
本発明におけるポリエステル系エラストマーは、ハードセグメントとしてポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートを、ソフトセグメントとしてはポリオキシテトラメチレングリコールを好ましく用いることができる。
【0043】
前記のポリエステル系エラストマーにおけるハードセグメントの含有量は、ハードセグメントとソフトセグメントの合計量に対して10〜50重量%であることが望ましい。ハードセグメントの含有量が10重量%未満であると得られるエラストマーの耐熱性が不足し、また50重量%を超える場合には、弾性特性が低下するおそれがあるため好ましくない。ハードセグメントの好適な含有量は20〜40重量%である。
【0044】
本発明で使用するポリエステル系エラストマーは、ソフトセグメントがポリエーテルの場合には、結晶性ポリエステルを構成する前記の芳香族ジカルボン酸およびジオール、およびポリエーテルとして、例えば、ポリオキシアルキレングリコールを用いて、従来から公知の重合法により製造することができる。また、ソフトセグメントがジカルボン酸成分とジオール成分よりなるポリエステルの場合には、ハードセグメントを構成する結晶性ポリエステルおよびソフトセグメントを構成する低結晶ないし非晶性のポリエステルを従来から公知の重合法により別々に製造し、かかる2種のポリエステルを溶融条件下に混練してエステル−エステル交換反応せしめることにより製造することができる。また、ソフトセグメントがヒドロキシカルボン酸誘導体からなるポリエステルの場合には、ヒドロキシカルボン酸誘導体の中にハードセグメント成分のポリエステルを加え、ヒドロキシカルボン酸誘導体を重合することによる製造することができる。
【0045】
本発明におけるポリエステル系エラストマーの固有粘度は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン混合溶媒(重量比4/6、温度35℃)中で測定したとき、0.5〜6.0であるものを使用することが好ましい。該固有粘度が0.5未満では、実用的な強度が不足し、エラストマーとしての弾性特性が十分に発揮できないことがある。
【0046】
本発明の通信用シートは、導電体Bが存在する基材の他方の面において、基材と弾性シートとを接合したものであるが、接着剤等で接着させたものでもよいし、弾性シートに前記のようなエラストマー繊維の弾性不織布を使用したものでは、該弾性不織布を構成する繊維の一部を熱融着させて接合したものでもよい。後者のように熱融着させたものは、弾性不織布の層内剥離を防止し、使用時の毛羽立ちを防止することができる。
【0047】
また、かかる接着ないし融着による接合方法は、点状に接合するもの、ストライプ状に接合するもの、又は、面状に接合するものが好ましい。すなわち、点状に接合したものは通信用シート構造体全体が柔らかく、収納性や通信用シート構造体の裏面に接する面(台や床等の面)に多少の凹凸があっても安定した使用が可能であり好ましい態様である。
【0048】
また、通信用シート構造体の厚みは0.1〜5.0mmとすることが好ましい。厚みが0.1mm未満では以上に説明した構成の通信用シート構造体を得ることが難しくなる。一方、厚みが5.0mmを超える場合は、通信用シート構造体が重くなるために容易に持ち運ぶことが難しくなり、ロール状に巻き取った場合にシワになり易い。
【0049】
本発明の通信シート構造体においては、表面摩擦係数が好ましくは5以上であり、より好ましくは8以上である。かかる表面摩擦係数とすることにより、通信シート構造体は非常に滑り難く、安定した設置ができ好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例より本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例、比較例中の物性は下記の方法で測定した。
(1)電気抵抗値
三菱化学製「ロレスタMP MCP−T350」を用いて、上層および下層の電気抵抗値を測定した。
(2)通信性能評価判定
図3に示したように、通信用シート構造体上に置かれた2つの近接コネクターを距離rだけ離して配置し、アジレント社製、ネットワークアナライザーを用いて、2.45GHzにおける透過係数Xを計測する。ここで、近接コネクターの距離は、1cm間隔とし10cmから80cmまで計測を行った。また、使用した近接コネクターは、通信用シート構造体で2.45GHzにピークを持つものを使用した。計測した透過係数Xの平均値(Xav.)を計測した。透過係数Xの平均値(Xav.)が−30dB以上のものを〇、−30dB以下のものを×とした。
(3)表面摩擦係数
カトーテック製「力学特性測定装置」を用いて、KES−F4表面特性試験によって、表面の平均摩擦係数MIUを測定した。
(4)滑りやすさ評価判定
通信用シート構造体を金属製のスチール棚に設置し、通信用シート構造体の上から荷重1kgをかけて滑らせた。通信用シート構造体が滑りやすいものを×、滑りにくいものを〇と判定した。
(5)シワ評価判定
通信用シート構造体を直径150mmの大きさに巻き、通信用シート構造体内側の状態変化を観察した。通信用シート構造体内側にシワが発生しなかった場合をAとし、シワが発生した場合をBとした。
【0051】
[実施例1]
基材には厚さ2mmの低密度ポリエチレン(PE)シート(下関パッキング社製、硬質ポリエチレンシート、以下同じ)を用い、導電体Aとして、基材の片面に格子状に打ち抜いた9μmのアルミニウム箔をラミネートした。導電体Aの格子形状は、線幅を1mm、線間隔を7mmとした。導電体Bとして、基材のもう一方の面には全面を100%覆うよう9μmのアルミニウム箔をラミネートし通信用シート構造体を作製した。
【0052】
一方、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレート30重量%からなり、ソフトセグメントがポリオキシメチレングリコール70重量%からなるポリエステルエラストマーポリマー(固有粘度:1.73、融点172℃)を用いて、メルトブロー法により弾性不織布を得た。この弾性不織布を構成する繊維径は平均で8μmであった。
【0053】
次いで、基材の導電体Bの面と弾性不織布とが接合するように積層させてエンボス加熱ローラにより加圧加熱して一体的に接合し、裏面は弾性不織布が張り合わされた通信用シート構造体を得た。得られた通信用シート構造体を構成する弾性不織布は、密度が0.25g/m、厚さが0.4mmであった。
【0054】
[実施例2]
保護層A及び導電体Aとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)織物にウレタン樹脂をラミネート加工したPET織物(川島織物セルコン社製「ニューシェルフII」)に格子状に銀ペーストをプリントして目付け200g/mのポリエチレンテレフタレート(PET)織物を得た。基材には厚さ2mm、目付け72g/mのポリエチレンテレフタレート(PET)繊維不織布(オーツカ社製ニードルパンチ不織布)を用いた。導電体Bとして、銅・ニッケルをメッキ加工した、目付け85g/mの電磁波シールド布帛(帝人ファイバー社製「ST2050」)を使用した。導電体Aの格子状は、線幅が1mm、線間隔が7mmとした。保護層A及び導電体Aと基材、保護層B及び導電体Bを合わせた積層体を作成した。これに実施例1と同様にして、弾性シートと接合させて通信用シート構造体を得た。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例3]
保護層A及び導電体Aとして、ステンレス繊維を格子状に織り込んだ目付200g/mのPET織物、基材には厚さ1mm、目付け110g/mのPET不織布(オーツカ社製のニードルパンチ不織布)、導電部BにはPET織物に銅・ニッケルをメッキ処理した、目付け85g/mの電磁波シールド布帛(帝人ファイバー社製「ST2050」)を使用した。導電部Aの格子形状は、線幅が1.3mm、線間隔が8mmとした。保護層A及び導電体Aと基材、保護層B及び導電体Bを合わせた積層体を作成した。これに実施例1と同様にして、弾性シートと接合させて通信用シート構造体を得た。
【0056】
[実施例4]
通信用シート基材は、厚さ2mmの基材及び厚さ0.4mmの弾性不織布に代えて、厚さ8mmの基材及び厚さ2.0mmの弾性不織布を用いた以外は実施例1と同様にした。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の通信用シート構造体は、周波数が800MHzから10GHzの周波数帯で、二次元での通信が可能であり、会社内、店舗内、工場内、倉庫内、自宅内、医療現場等の壁面もしくは床面、台の上、下に設置し、無線LAN代替やセンサーシートとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施態様で、通信用シート構造体の導電体Aの正面図である。
【図2】本発明の他の実施態様で、通信用シート構造体の導電体Aの正面図である。
【図3】本発明の他の実施態様で、通信用シート構造体の導電体Aの正面図である。
【図4】本発明の他の実施態様で、通信用シート構造体の導電体Aの正面図である。
【図5】本発明の他の実施態様で、通信用シート構造体の導電体Aの正面図である。
【図6】本発明の他の実施態様で、通信用シート構造体の導電体Aの正面図である。
【図7】本発明の他の実施態様で、通信用シート構造体の導電体Aの正面図である。
【図8】本発明の通信性能評価方法をするための通信用シート構造体上層の正面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を伝播することによって通信を行う通信用シート構造体であって、該通信用シート構造体が、周波数800MHzから10GHzにおける比誘電率が1.0から15.0である平面状の基材からなり、該基材の一方の面には、導電体Aが存在する部分と存在しない部分があり、該基材の他方の面には90%以上に亘って導電体Bが存在し、かつ該他方の面に弾性シートが接合していることを特徴とする通信用シート構造体。
【請求項2】
厚さが0.1mmから5mmである、請求項1記載の通信用シート構造体。
【請求項3】
弾性シートが平均繊維径0.1μmから20μmのエラストマー繊維からなる弾性不織布である請求項1記載の通信用シート構造体。
【請求項4】
エラストマー繊維が熱可塑性ポリエステル系エラストマー繊維である請求項1記載の通信用シート構造体。
【請求項5】
導電体Bが存在する基材の他方の面において、基材と、弾性不織布を構成する繊維の少なくとも一部とが加熱融着している請求項1記載の通信用シート構造体。
【請求項6】
導電体Bが存在する基材の他の面に、保護層が形成されている請求項1記載の通信用シート構造体。
【請求項7】
導電体Bが存在する基材の他の面において、保護層と、弾性不織布を構成する繊維の少なくとも一部とが加熱融着している請求項6記載の通信用シート構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−21737(P2010−21737A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179497(P2008−179497)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】