説明

通信装置、通信制御方法

【課題】周波数偏差に起因するクロックまたは時刻情報のずれを精度よく算出する通信装置、及び通信方法を提供すること
【解決手段】基準クロック生成部20は、クロック信号を出力する。無線部10は、クロック信号に基づいて、情報の送受信を行う。距離推定部40は、情報を送受信した時刻を示す複数の時刻情報に基づいて対向する通信装置との推定距離を算出する。補正部50は、推定距離と、予め設定された対向する通信装置との装置間距離と、の差分に基づいて、時計部30の生成する時刻情報または基準クロック生成部20の生成するクロック信号の補正処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通信装置及び通信制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、無線LAN等の無線通信では、送受信端末間でのデータ衝突の回避手段が必要となる。このデータ衝突の回避手段は、通信規格毎に方法が定められる。これらの方法はいずれも、全ての送受信装置のタイマーの精度が許容範囲内に収まっていることが前提に定められている。
【0003】
近年、通信速度の向上により、上述のタイマー精度の許容範囲が小さくなってきている。タイマーの精度を向上させるためには精度の高い発振器を搭載する必要があるが、これによりコストが高くなってしまう。このため、精度の高い発振器を搭載しなくとも装置の出荷後にタイマーの基準となるクロックの誤差を正しく調整する手段が求められる。一般的な手法として、ユーザがロジックアナライザ等のツールを用いて装置のタイマー誤差を観測し、観測結果に応じて手動で調整するという方法がある。しかし、この方法ではユーザの手間を要する。
【0004】
特許文献1には、時刻同期を用いた無線データ通信によって高速な検出回路を用いることなく周波数偏差を検出して補正することができる無線装置に関する技術が開示されている。図11に当該無線装置の構成を示す。
【0005】
無線装置は、無線チップ201と、発振回路202と、PLL203と、時計204と、時刻同期手段205と、差分抽出回路206と、RAM207と、微分回路208と、補正パターン生成回路209と、を備える。時計204は、発振回路202から供給されるクロック信号を動作元として時刻情報を生成する。時刻同期手段205は、通信相手と時刻情報を送受信することにより同期時刻情報を出力する。RAM207は、時刻情報と同期時刻情報との誤差値としての時刻補正幅の履歴情報を記憶する。微分回路208は、履歴情報に基づいてクロック信号の周波数偏差を算出する。補正パターン生成回路209を備える発振周波数補正手段(図示せず)は、周波数偏差に基づいてクロック周波数を補正する。
【0006】
特許文献2には、正確な時刻情報を有する主局と、従局との間で時刻同期を行う時刻同期システムが開示されている。特許文献3には、基準時刻送信装置から送信される基準時刻により時刻の同期を行う時刻同期システムが開示されている。特許文献4には、標準時刻を管理する送信装置により、他の装置の時計を同期させる時刻同期システムが開示されている。しかしながら、特許文献2〜4に開示の技術は、一定の装置が正しい時刻情報を持つことが前提となっており、前述の無線通信の環境に応用することが困難な技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−258800号公報
【特許文献2】特開平10−285140号公報
【特許文献3】特開2006−119010号公報
【特許文献4】特開2006−234425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の特許文献1に記載の無線装置は、通信相手と時刻情報を送受信することにより同期時刻情報を算出し、この情報を用いて時刻の補正を行っている。しかしながら、無線装置及び通信相手のクロック周波数がともに理想値からずれている(周波数偏差が0ではない)場合、誤差を正確に算出できない。たとえば、無線装置及び通信相手の装置が100MHzのクロック周波数で動作することが理想である場合であって、両者が101MHzのクロック周波数で動作しているとする。この場合、両装置は、理想値とは異なる周波数である101MHzでの動作が正常であると判定し、補正を行わずに動作を続けてしまう。
【0009】
換言すると、特許文献1に記載の無線装置は、理想値からの周波数偏差の測定精度が十分ではなく、この測定に基づいて補正を行ってしまう。理想値と異なるクロック周波数により通信を行う場合、たとえば周期的な転送処理において音声の音飛びやコマ落ち等の問題を引き起こす恐れがある。すなわち、特許文献1に記載の無線装置では、周波数偏差(理想値からのクロック周波数のずれ)の測定精度が十分ではないために、通信において様々な問題が生じてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる通信装置の一態様は、
クロック信号を出力する基準クロック生成部と、
前記クロック信号に基づいて、情報の送受信を行う無線部と、
前記クロック信号に基づいて、時刻情報を生成する時計部と、
前記情報を送受信した時刻を示す複数の時刻情報に基づいて対向する通信装置との推定距離を算出する距離推定部と、
前期推定距離と、予め設定された前記対向する通信装置との装置間距離と、の差分に基づいて、前記クロック信号の周波数偏差を算出する補正部と、を備える、ものである。
【0011】
本発明にかかる通信制御方法の一態様は、
クロック信号に基づいて、情報の送受信を行い、
前記クロック信号に基づいて、時刻情報を生成し、
前記情報を送受信した時刻を示す複数の時刻情報に基づいて対向する通信装置との推定距離を算出し、
前期推定距離と、予め設定された前記対向する通信装置との装置間距離と、の差分に基づいて、前記クロック信号の周波数偏差を算出する、ものである。
【0012】
本発明では、通信装置は、対向する通信装置との推定距離と、対向する通信装置との装置間距離と、の差分を算出し、当該差分から周波数偏差を算出する。対向する通信装置との装置間距離は、正確な値を設定することが可能である。このため、通信装置は、対向する通信装置が正常であるか否かに関わらず、正確な周波数偏差を算出することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、周波数偏差を精度よく算出する通信装置、及び通信制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態1にかかる通信装置の代表的な構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1にかかる通信装置の構成を示すブロック図である。
【図3】実施の形態1にかかる通信装置の構成を示すブロック図である。
【図4】実施の形態1にかかる通信装置の構成を示すブロック図である。
【図5】実施の形態1にかかる通信装置によるパケット送受信を示す模式図である。
【図6】実施の形態1にかかる通信装置による処理を示すフローチャートである。
【図7】実施の形態1にかかる通信装置の代表的な構成を示すブロック図である。
【図8】実施の形態2にかかる通信装置の構成を示すブロック図である。
【図9】実施の形態3にかかる通信装置の構成を示すブロック図である。
【図10】実施の形態4にかかる通信装置の構成を示すブロック図である。
【図11】特許文献1にかかる通信装置の代表的な構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施の形態1>
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態にかかる通信装置の構成を示すブロック図である。通信装置1は、無線部10と、基準クロック生成部20と、時計部30と、距離推定部40と、補正部50と、を備える。通信装置1は、例えば無線LAN(Local Area Network)、ワイヤレスUSB(Universal Serial Bus)、Bluetooth(登録商標)等による無線通信が可能な各種の装置である。例えば、通信装置1の一例として、携帯電話端末、タブレット型コンピュータ、PDA(Personal Digital Assistant)が挙げられる。
【0016】
無線部10は、データパケットを無線信号として通信相手に送出する。さらに、無線部10は、通信相手からのデータパケットを受信し、受信したデータパケットを無線装置1内の各処理部に供給する処理部である。
【0017】
基準クロック生成部20は、発振回路21と、PLL22と、を備える。発振回路21は、クロック信号fb(第1クロック信号)を生成し、PLL22に供給する回路である。PLL22は、クロック信号fbを基に、高速クロックCL(第2クロック信号)を生成する回路である。
【0018】
時計部30は、高速クロックCLを基に、時刻情報を生成し、生成した時刻情報を距離推定部40に供給する処理部である。時刻情報とは、例えば高速クロックCLのカウント数がデジタル化された情報である。
【0019】
距離推定部40は、時計部30が生成した時刻情報を含むデータパケットを、通信相手と少なくとも2往復の送受信をすることにより、通信相手との推定距離L1及びL2を計算する処理部である。距離推定部40による推定距離の算出については後述する。
【0020】
補正部50は、差分抽出部51と、周波数偏差計算部52と、補正パターン生成部53と、を備える。差分抽出部51は、距離推定部40が算出した推定距離L1及びL2と、装置間距離Lと、の差分を計算し、当該差分を周波数偏差計算部52に供給する。ここで、装置間距離Lとは自身と対向する通信装置との正確な距離である。
【0021】
周波数偏差計算部52は、差分抽出部51から供給された距離差分から、PLL22の生成する高速クロックCLの周波数偏差(理想とする周波数からのずれの割合)を算出する処理部である。周波数偏差計算部52は、算出した周波数偏差を補正パターン生成回路53に供給する。
【0022】
補正パターン生成回路53は、周波数偏差を基に、発振回路21に対する補正に用いる補正パターン、PLL22に対する補正に用いる補正パターン、時計部30に対する補正に用いる補正パターン、のいずれかを生成する。以下、図2〜図4を用いて各処理部に対する補正パターンの生成について説明する。なお、図2〜図4の構成では、装置間距離Lの入力を外部から受け付ける装置間距離入力部60を有する。
【0023】
発振回路21に対して補正を行う場合の通信装置1の構成、動作を図2を参照して説明する。なお、同一符号を付した処理部は、前述の動作を行う。発振回路21の生成するクロック信号fbを補正する場合、補正パターン生成部53は、基準クロック生成部50内のキャパシタンス23に対して補正パターンを供給する。
【0024】
キャパシタンス23は、発振回路21と接続されている。キャパシタンス23は、発振回路21の容量調整回路として動作する。本例では補正パターンは、キャパシタンス23の容量を調整する指示信号である。補正パターン生成部53は、周波数偏差に応じてキャパシタンス23の容量を調整する指示信号を生成する。例えば、周波数偏差が5%である(クロック周波数の理想値に対して5%遅い)場合、補正パターン生成部53は、5%の遅れを取り戻すように、補正パターンを生成する。
【0025】
続いて、図3を参照して、PLL22の補正を行う場合の通信装置1の構成、動作を説明する。PLL22は、一般的な位相同期回路であり、本例では、PLL22は、PFD(Phase Frequency Detector)24と、アナログフィルタ25と、VCO(Voltage Controlled Oscillator)26と、分周器27と、を備える。
【0026】
PLL22の生成する高速クロックCLを補正する場合、補正パターン生成部53は、分周器27に対して補正パターンを供給する。本構成では、補正パターンは、分周器27の分周比を変更する指示信号である。
【0027】
続いて、図4を参照して時計部30に対して補正を行う場合の通信装置1の構成、動作を説明する。時計部30は、セレクタ31と、カウンタ32と、加算器33と加算器34と、を備える。セレクタ31は、加算器33からの出力、加算器34からの出力、経路35からの出力、のいずれか1つを補正パターン生成部53からの出力に応じて選択するセレクタである。カウンタ32は、高速クロックCLが入力されたタイミングでセレクタ31からの出力を記憶する。カウンタ32は、いわゆるフリップフロップ回路である。加算器33は、カウンタ32からの出力値に1を加算し、加算値をセレクタ31に供給する。加算器34は、カウンタ32からの出力値に2を加算し、加算値をセレクタ31に供給する。
【0028】
本構成では、補正パターンは、セレクタ31がどの入力を選択するかを指示する指示信号である。周波数偏差が0である場合、補正パターンは、セレクタ31が常に加算器33からの出力を選択するように指示する信号となる。例えば、周波数偏差が5%である(クロック周波数の理想値に対して5%遅い)場合、補正パターンは、大半は加算器33からの出力を選択するように指示する信号となるが、この遅れを取り戻すために所定のタイミングで加算器34からの出力を選択するような指示信号となる。一方、周波数偏差が−5%である(クロック周波数の理想値に対して5%速い)場合、補正パターンは、大半は加算器33からの出力を選択するように指示する信号となるが、所定のタイミングで経路35からの出力を選択するような指示信号となる。
【0029】
続いて、本実施の形態にかかる通信装置の動作について説明する。図5は、本実施の形態にかかる通信装置同士が通信を実施し、この通信によって補正パターンを作成する際の様子を示す模式図である。以下の説明において、通信装置1−1及び1−2は上述の図1の通信装置1の構成を持つ。通信装置1−1は、通信装置1−2に対して、送信時刻T1の情報を含むデータパケット101を送信する。通信装置1−2は、通信装置1−1に対して、受信時刻R1及び送信時刻T2の情報を含むデータパケット102を送信する。そして、通信装置1−1は、受信時刻R2の情報を含むデータパケット103を通信装置1−2に送信する。以上の送受信により、通信装置1−1及び通信装置1−2は、通信装置1−2が測定した受信時刻R1及び送信時刻T2、通信装置1−1が測定した送信時刻T1及び受信時刻R2、の情報を保持する。
【0030】
次に、通信装置1−2は、通信装置1−1に対して、送信時刻T3の情報を含むデータパケット104を送信する。通信装置1−1は、通信装置1−2に対して、受信時刻R3及び送信時刻T4の情報を含むデータパケット105を送信する。そして、通信装置1−2は、受信時刻R4の情報を含むデータパケット106を通信装置1−1に送信する。以上の送受信により、通信装置1−1及び通信装置1−2は、通信装置1−2が測定した送信時刻T3及び受信時刻R4、通信装置1−1が測定した受信時刻R3及び送信時刻T4、の情報を保持する。
【0031】
通信装置1−1及び通信装置1−2は、この送信時刻T1〜T4、受信時刻R1〜R4を用いて自身または対向する通信装置の少なくとも一方の周波数偏差を算出する。図5及び図6を参照して、周波数偏差の算出方法を説明する。図6は、本実施の形態にかかる通信装置1−1の周波数偏差の算出方法を示すフローチャートである。なお、通信装置1−1及び通信装置1−2は、ともに内部の高速クロックCLの周波数の理想値をfとする。
【0032】
通信装置1−1及び通信装置1−2には、この装置間の正確な距離である装置間距離Lが入力される。通信装置1−1及び通信装置1−2は、パケット101〜103を送受信する(S12〜S14)。これにより、通信装置1−1及び通信装置1−2は、通信装置1−2が測定した受信時刻R1及び送信時刻T2、通信装置1−1が測定した送信時刻T1及び受信時刻R2、の情報を保持する。
【0033】
通信装置1−1内の距離推定部40は、これらの情報から通信装置1−2との推定距離L1を以下の式(1)から求める(S15)。以下の式は、(距離)=(時間)×(速度)を基に算出したものである。以下の式において光速をcとする。なお、高速クロックCLの周波数の理想値がfである場合、1クロックにかかる時間は(1/f)秒となる。そのため、以下の式(1)が導出される。
【0034】

【0035】
通信装置1−1内の時計部30が生成する時刻情報には、時刻T1〜時刻R2の間にクロック信号fbの周波数偏差に起因する誤差△1cが生じているものとする。同様に、通信装置1−2内の時計部30が生成する時刻情報には、時刻R1〜時刻T2の間にクロック信号fbの周波数偏差に起因する誤差△2cが生じているものとする。距離推定部40は、上述の式(1)、誤差△1c、及び誤差△2cを基に装置間距離Lを以下の式(2)により表わす。
【0036】

【0037】
誤差△1c、△2cは、単位時間当たりの周波数偏差をそれぞれ△1、△2とすると以下のように示される。
△1c=△1×(R2−T1)
△2c=△2×(T2−R1)
【0038】
距離推定部40は、これらの式を式(2)に代入することにより、以下の式(3)を得る。
【0039】

【0040】
差分抽出部51は、上述の式(1)と式(3)の差分を算出した以下の式(4)を算出する(S16)。
【0041】

【0042】
通信装置1−1及び通信装置1−2は、S12〜S16と同様の方法で、パケット104〜106を送受信し(S17〜S19)、推定距離L2を算出し(S20)、以下のL2の算出式(5)及び、式(4)に対応する以下の式(6)を算出する(S21)。
【0043】


【0044】
上記の式(4)、(6)において、変数値は△1及び△2の2つである。周波数偏差計算部52は、式(4)、(6)から連立一次方程式を解くことにより以下の式(7)及び(8)を算出する(S22)。
【0045】


【0046】
通信装置1−1の補正パターン生成部53は、算出された周波数偏差△1の値に応じて発振回路21に対する補正に用いる補正パターン、PLL22に対する補正に用いる補正パターン、時計部30に対する補正に用いる補正パターン、のいずれかを生成する(S23)。
【0047】
以下に、図5を参照して、通信装置1−1及び通信装置1−2の周波数偏差の算出の具体例を示す。通信装置1−1及び通信装置1−2は、ともに高速クロックCLの理想値を4224MHzとする。装置間距離Lは、7.1m(7100mm)とする。光速度cは、299792458000mm/sとする。また、通信装置1−1及び通信装置1−2の高速CLの理想値は4224MHz(4224000Hz)とする。
【0048】
通信装置1−1の計測した送信時刻T1は0、受信時刻R2は320とする。通信装置1−2の計測した受信時刻R1は0、送信時刻T2は100とする。通信装置1−1と通信装置1−2は、内部にそれぞれ異なる時計部30を持つため、これらは各通信装置の時計情報である。
【0049】
同様に通信装置1−2の計測した送信時刻T3は0、受信時刻R4は280とする。通信装置1−1の計測した受信時刻R3は0、送信時刻T4は100とする。なお、本例では、通信装置1−1は、送信時刻T1及び受信時刻R3を基準としているため両者を0としているが、実際にはこれに限られない。
【0050】
以上の数値を上述の式(1)に代入することにより以下のL1の算出式(9)を導出できる。
【0051】

【0052】
同様にL2についても以下の式(10)ように算出することができる。
【0053】

【0054】
L1、L2、R1〜R4、T1〜T4を上述の式(7)、(8)に代入することにより、周波数誤差△1=−0.04522613、△2=0.055276381を算出できる。本例では、通信装置1−1のクロック周波数が理想値よりも約5%速く、通信装置1−2のクロック周波数が理想値よりも約5%遅いことになる。これに応じて、補正パターン生成部53は、補正パターンを生成する。
【0055】
続いて、本実施の形態にかかる通信装置の効果について説明する。本実施の形態にかかる通信装置1−1は、対向する通信装置1−2との推定距離L1、L2と、対向する通信装置1−2との装置間距離Lと、の差分を算出し、当該差分から補正値(周波数誤差△1に基づく補正パターン)を算出する。対向する通信装置との装置間距離は、正確な値を設定することが可能である。このため、通信装置は、対向する通信装置が正常であるか否かに関わらず、基準クロック生成部20の生成するクロック信号(CLまたはfb)または時計部30の生成する時刻情報の補正を正確に行うことが可能である。
【0056】
なお、特許文献1に記載の通信装置では、3台以上での通信を行うことができないという問題がある。例えば、3台の端末の高速クロックの理想値が100MHzとした場合に、端末1が101MHz、端末2が102MHz、端末3が98MHzで動作しているとする。この場合、端末1と端末2が補正を行うものとする。端末1が100クロックをカウントした場合、端末2は101クロックのカウントを行う。そのため、誤差値は1となり、この誤差値を基に算出する周波数偏差は1%となる。この周波数偏差を基に補正を行うと、端末1及び端末2は、101MHzにて動作することになる。しかし、端末1と端末2の通信の最中に端末3が通信に参加した場合、動作周波数が異なってしまう。ここで、端末1と端末3にて補正処理を行っても、端末2の動作周波数とずれが生じてしまう。このため、特許文献1に記載の通信装置を用いた技術では、3台以上の通信を行うことができない。
【0057】
一方、本実施の形態にかかる通信装置は、上述のように正確な補正値を算出することが可能である。そのため、本実施の形態にかかる通信装置は、通信相手が複数となっても正確に動作を継続することができる。
【0058】
また、図2に示す構成であれば、ずれが生じているクロック信号fbを補正することができる。これにより、周波数偏差を根本的に補正することができる。
【0059】
図4に示す構成であれば、時計部30の生成する時刻情報を補正することができる。時計部30に含まれる回路群はデジタル回路であるため、補正処理もデジタル処理により実行する。すなわち、アナログ回路を用いる必要がないため、回路規模を削減することができる。時刻情報を補正する構成は、無線部10に供給するクロックに周波数偏差があっても通信の問題にならないがパケット衝突の回避を行うプロトコル層では正確な時刻情報を要する場合に有効である。
【0060】
なお、上述の構成では、PLL22が高速クロックCLを時計部30と無線部10に供給する構成としたが必ずしもこれに限られない。例えば、図7に示すように、発振回路21がクロック信号fbをPLL22及び時計部30に供給し、PLL22が高速クロックCLを無線部10に供給する構成としても良い。すなわち、補正部50は、基準クロック生成部20の出力するクロック信号(fbまたはCL)、時計部30の出力する時刻情報、のいずれかを補正する構成であれば、クロック信号の供給関係は特に限定されない。クロック信号の供給関係に応じて、上述の周波数偏差の算出方法は適宜変更可能である。
【0061】
<実施の形態2>
実施の形態2にかかる通信装置は、記憶部が装置間距離Lを予め保持しておくことを特徴とする。図8を参照して、本実施の形態にかかる通信装置の構成、動作について実施の形態1と異なる部分を説明する。なお、図8において、同一名及び同一符号を付した処理部は実施の形態1と基本的に同じ処理を行う。本実施の形態及び以降の実施の形態にかかる補正部50は、基準クロック生成部20または時計部30のどちらを補正対象としても良い。
【0062】
通信装置1は、図1に示す構成に加えて記憶部70を備える。記憶部70は、メモリ装置であり、上述の装置間距離Lを記憶する。記憶部70は、一般的な通信装置であれば内部に備えている。ユーザは、予め通信装置1の操作部(図示せず)を操作して装置間距離Lを入力する。本構成によれば、装置間距離入力部60を備えない構成とすることができるため、通信装置1の構成を簡略化することができる。
【0063】
<実施の形態3>
実施の形態3にかかる通信装置は、自身および対向する通信装置の補正処理が終わっている場合に、両装置間の正確な距離を算出できることを特徴とする。図9を参照して、本実施の形態にかかる通信装置の構成、動作について実施の形態2と異なる部分を説明する。なお、図9において、同一名及び同一符号を付した処理部は実施の形態2と基本的に同じ処理を行う。
【0064】
補正パターン生成部53は、補正パターンを生成した際に、記憶部70に補正済フラグを書き込む。補正済フラグとは、補正部50による補正処理が行われたことを示すフラグである。無線部10は、パケット通信時に補正済みフラグが設定されているか否かも併せて送信する。
【0065】
距離推定部40は、パケット受信時に受信パケットに補正済みフラグが設定されているかを判定する。補正済みフラグが設定されている場合、距離推定部40は、自身の記憶部70にも補正済みフラグが設定されているかを判定する。両判定が成功した場合、距離推定部40は、上述の式(1)にて算出した距離L1を正確な距離として任意の処理部に出力する。例えば、距離推定部40は、通信装置1の液晶ディスプレイ等の表示部(図示せず)に当該距離を表示する。
【0066】
本実施の形態にかかる通信装置は、自身と対向する通信装置の両者のクロック周波数が正しい場合に通信装置間の距離を正確に計測及び表示することができる。
【0067】
<実施の形態4>
実施の形態4にかかる通信装置は、装置間距離Lを自動的に算出し、設定できることを特徴とする。図10を参照して、本実施の形態にかかる通信装置の構成、動作について他の実施の形態と異なる部分を説明する。なお、図10において、同一名及び同一符号を付した処理部は他の実施の形態と基本的に同じ処理を行う。
【0068】
通信装置1は、位置情報処理部80を備える。位置情報処理部80は、通信装置1の位置情報を処理する処理部であり、例えばGPS(Global Positioning System)の機能を有する。位置情報処理部80は、通信装置1の位置情報を取得し、取得した位置情報を無線部10に通知する。無線部10は、当該位置情報を含むパケットを対向する通信装置に送信する。無線部10は、パケット受信時に、当該パケットに含まれる位置情報を位置情報処理部80に通知する。
【0069】
位置情報処理部80は、自身の位置情報と、対向する通信装置の位置情報と、から装置間距離Lを算出する。ここで位置情報とは、例えば緯度、経度、高度、にかかる情報を含む。位置情報処理部80は、既存の測量技術を用いることにより装置間距離Lを算出することができる。他の処理は、実施の形態1と同様である。
【0070】
本実施の形態にかかる通信装置は、外部からの装置間距離Lの入力を行うことなく、上述の補正を行うことができる。
【0071】
<実施の形態5>
実施の形態5にかかる通信装置は、対向する通信装置の補正部50が補正処理を終了している場合に、装置間距離Lの入力を行うことなく自身の補正処理を行えることを特徴とする。本実施の形態にかかる通信装置の構成、動作について他の実施の形態と異なる部分を説明する。なお、本実施の形態にかかる通信装置は図9と同一の構成を持つため、処理の異なる点のみを説明する。
【0072】
実施の形態2、3の構成と異なり、記憶部70は、装置間距離Lを記憶していない。距離推定部40は、パケット受信時に受信パケットに補正済みフラグが設定されているか、すなわち対向する通信装置の補正処理が終了しているかを判定する。同様に距離推定部40は、記憶部70に補正済みフラグが設定されているか、すなわち自身の補正処理が終了しているかを判定する。
【0073】
いずれか一方の装置の補正が終了している場合、距離推定部40は、上述の各式において、補正が終了している装置の誤差(△1,△2の一方)を0と設定する。ここで、△1を0とし、△2及びLを未知数とした場合として、式(4)及び式(6)にこれらを代入すると以下の式(11)及び式(12)となる。
【0074】


【0075】
周波数偏差計算部52は、式(11)、(12)から連立一次方程式を解くことにより以下の式(13)(14)を得ることができる。
【0076】


【0077】
これにより、対向する通信装置の補正処理が終了している場合、通信装置1は、装置間距離Lの入力を必要とすることなく、周波数偏差及び装置間距離Lを算出することができる。
【0078】
<実施の形態6>
実施の形態6にかかる通信装置は、対向する通信装置の補正部50が補正処理を終了しており、装置間距離Lを保持する場合に、自身の補正処理を行えることを特徴とする。本実施の形態にかかる通信装置の構成、動作について他の実施の形態と異なる部分を説明する。なお、本実施の形態にかかる通信装置は図9と同一の構成である。また、実施の形態
5にかかる通信装置との相違点は、装置間距離Lを有するか否かである。すなわち、本実施の形態にかかる通信装置は予め記憶部70に装置間距離Lが入力されているが、実施の形態5にかかる通信装置は装置間距離Lを有さない点が異なる。
【0079】
自身または対向する通信装置いずれか一方の装置の補正が終了している場合、距離推定部40は、上述の式(3)において、補正が終了している装置の誤差(△1,△2の一方)を0、記憶部70が記憶する装置間距離Lの定数を設定する。ここで、△1を0とし、△2を未知数とした場合として、式(3)にこれらを代入すると以下の式(15)となる。
【0080】

【0081】
これにより、対向する通信装置の補正処理が終了しており、装置間距離Lを認識できている場合、通信装置1は、上述の式(15)により周波数偏差を算出することができる。
【0082】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。上述の本発明の説明では、周波数偏差を測定して通信装置の補正に用いることを記載したが必ずしもこれに限られない。例えば、本発明を製品出荷前の通信装置のクロック周波数が正常であるか否かの品質検査に用いても良い。本発明では、周波数偏差を正確に算出できるため、クロック周波数が理想値からずれている通信装置を検出し、当該通信装置の出荷を中止することも可能である。
【0083】
さらに、本発明の周波数偏差の算出処理を数回繰り返し、その平均を算出することにより、より精度の高い周波数偏差を求めることも可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 通信装置
10 無線部
20 基準クロック生成部
21 発振回路
22 PLL
23 キャパシタンス
24 PFD
25 アナログフィルタ
26 VCO
27 分周器
30 時計部
31 セレクタ
32 カウンタ
33 加算器
34 加算器
40 距離推定部
50 補正部
51 差分抽出部
52 周波数偏差計算部
53 補正パターン生成部
60 装置間距離入力部
70 記憶部
80 位置情報処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロック信号を出力する基準クロック生成部と、
前記クロック信号に基づいて、情報の送受信を行う無線部と、
前記クロック信号に基づいて、時刻情報を生成する時計部と、
前記情報を送受信した時刻を示す複数の時刻情報に基づいて対向する通信装置との推定距離を算出する距離推定部と、
前期推定距離と、予め設定された前記対向する通信装置との装置間距離と、の差分に基づいて、前記クロック信号の周波数偏差を算出する補正部と、を備える通信装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記周波数偏差に基づいて、前記時計部の生成する前記時刻情報または前記基準クロック生成部の生成する前記クロック信号の補正処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記距離推定部は、前記補正処理が実行され、前記対向する通信装置の生成する時刻情報が正確と推定される場合に、算出した前記推定距離を前記対向する通信装置との正確な距離として出力することを特徴とする請求項2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記装置間距離を記憶する記憶部を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項5】
現在の位置情報を取得し、前記位置情報と前記対向する通信装置の位置情報と、から前記装置間距離を算出する位置情報処理部を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項6】
前記基準クロック生成部は、第1クロック信号を生成する発振回路と、前記第1クロック信号に基づいて第2クロック信号を生成するPLLと、を備え、
前記クロック信号は、前記第1クロック信号または前記第2クロック信号であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項7】
前記補正部は、前記発振回路に接続された容量調整回路の容量を調整することにより前記補正処理を行うことを特徴とする請求項6に記載の通信装置。
【請求項8】
前記補正部は、前記PLLの分周比を調整することにより前記補正処理を行うことを特徴とする請求項6に記載の通信装置。
【請求項9】
前記時計部は、前記クロック信号の入力タイミングで保持するデータを更新し、かつ保持していたデータを出力するカウンタと、
前記カウンタからの出力値に加算する加算量を変更して生成した複数のカウント値の1つを選択するセレクタを備え、
前記補正部は、前記セレクタに前記複数のカウント値のうち、どの値を選択するかを指示する指示信号を供給することにより前記補正処理を行うことを特徴とする請求項6に記載の通信装置。
【請求項10】
前記無線部は、第1のパケットを前記対向する通信装置に送信し、前記第1のパケットに応答する第2のパケットを前記対向する通信装置から受信し、第3のパケットを前記対向する通信装置から受信し、前記3のパケットに応答する第4のパケットを前記対向する通信装置に送信し、前記第4のパケットの到着時刻を前記対向する通信装置から受信し、
前記距離推定部は、前記第1及び第2のパケットの送受信時刻から第1の推定距離を算出し、前記第3及び第4のパケットの送受信時刻から第2の推定距離を算出し、
前記補正部は、前記クロック信号の周波数誤差を前記第1及び前記第2の推定距離と、前記装置間距離と、の連立方程式から算出し、当該周波数誤差に基づいて、前記補正処理を行う請求項2乃至請求項9のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項11】
前記無線部は、ワイヤレスUSB、無線LAN、及びBluetoothのいずれかによる通信を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項12】
クロック信号に基づいて、情報の送受信を行い、
前記クロック信号に基づいて、時刻情報を生成し、
前記情報を送受信した時刻を示す複数の時刻情報に基づいて対向する通信装置との推定距離を算出し、
前期推定距離と、予め設定された前記対向する通信装置との装置間距離と、の差分に基づいて、前記クロック信号の周波数偏差を算出する、通信制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate