説明

通信装置

【課題】屋内配線を利用して電力線搬送通信を行うにあたり、クロストークを防止し、分岐ロスを低減することができる通信装置、及び屋内配線に利用されるユニットケーブルを提供する。
【解決手段】通信装置1は、信号透過フィルタ部12fと、ブロッキングフィルタ部10a,10bとを具え、通信端末装置60,61の間で、分電盤101を介さず通信信号の伝送を可能にする。信号透過フィルタ部12fは、分電盤101に繋がる主電源用分岐線20に接続される(第一)通信用配線11aと、主電源用分岐線30に接続される(第二)通信用配線11bとの間に配置される。各ブロッキングフィルタ部10a,10bは、それぞれ主電源用分岐線20,30に配置される。フィルタ部12fを介して接続される両配線11a,11bを信号伝送路として、通信端末装置60,61の間で通信を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋内配線を信号伝送路に利用して電力線搬送通信を行うために利用する通信装置、及び屋内配線を構築し、電力供給路や信号伝送路に利用されるユニットケーブルに関するものである。特に、クロストークを防止することができる通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家屋内(宅内)に配されて電力供給路に利用される屋内配線に、高周波信号を重畳して高速通信を行う電力線搬送通信(PLC:Power Line Communication)が検討されている(特許文献1,2参照)。図3に示すように家屋100には、低圧配電線に接続される引込線200が分電盤101に導入される。引込線200に繋がる分電盤101の主線路から複数の分岐幹線102〜104が分岐され、各分岐幹線102〜104から更に複数の分岐線が分岐される。これら分岐幹線102〜104や分岐線から屋内配線が構築される。各分岐線の端部には、照明器具などの電気機器が接続されたり、種々の電気機器が接続可能なコンセントが設けられる。
【0003】
このような家屋100において、分岐幹線102,103の分岐線にそれぞれ電力線搬送通信装置(PLCモデム)110,111を接続し、各PLCモデム110,111にそれぞれパソコンなどの通信端末装置120,121を接続する。このとき、通信端末装置120,121は、分岐線、分岐幹線102,103、分電盤101を介して接続され、これらを信号伝送路として宅内PLCを行える。
【0004】
図3に示す屋内配線は、主線路(分岐幹線)に対して複数の分岐点を有するバス型と呼ばれる配置形態である。これに対し、近年、ユニットケーブルと呼ばれるケーブルを利用して、一つの分岐点に複数の分岐線が接続されるスター型の配置形態の屋内配線を構築することが行われている。
【0005】
図4に示すようにユニットケーブルUは、複数の分岐線(配線用ケーブル)u1,u2,…unと、これら分岐線u1,u2,…unの一端を電気的に接続する分岐接続部Sと、分岐接続部Sを覆う樹脂製のモールド部(キャップ)Mとを具える。ユニットケーブルは、予め工場で製造して各家屋に運ばれて、配線される。具体的には、モールド部Mを家屋の柱などに固定し、複数の分岐線のうち一つを分電盤に接続し(以下、この分岐線を主電源用分岐線と呼ぶ)、残りの分岐線(以下、この分岐線を配線用分岐線と呼ぶ)の他端にコンセントなどを設ける。
【0006】
【特許文献1】特開2006-166016号公報
【特許文献2】特開2006-115481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の宅内PLCでは、分電盤を経由して通信信号の伝送を行う。そのため、宅内PLCを行う家屋の分電盤から引込線を介して低圧配電線に通信信号が伝送され、当該家屋の近隣の別の家屋にまで通信信号が伝送されたり、逆に近隣の別の家屋から通信信号や外部のノイズが当該家屋に伝搬する、いわゆるクロストークが生じる。
【0008】
特許文献2のシステムのように、通信信号の周波数帯域で高インピーダンスとなり、商用周波数帯域で低インピーダンスとなるフィルタ回路を分電盤の主線路に取り付けることで、クロストークを防止できる。また、主線路にフィルタ回路を取り付ける場合、フィルタ回路が一つで済む。しかし、フィルタ回路を取り付ける際に分電盤の主線路を損傷する恐れがある。この主線路が損傷すると、通信だけでなく、電力供給が行えない。また、主線路にフィルタ回路を取り付ける工事は、ほぼ全停電を伴うため、家屋内に常時運転している家電機器が多い今日、好ましくない。更に、この主線路にフィルタ回路を設けても、分電盤を介して通信を行う形態では、通信に利用しない分岐幹線や分岐線にも通信信号が流れる、いわゆる分岐ロスが生じるため、通信に利用する分岐線間において良好な通信を行えない恐れがある。
【0009】
そこで、本発明の主目的は、宅内PLCを行うにあたり、クロストークを防止し、分岐ロスを低減することができる通信装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、宅内PLCを行うにあたり、クロストークを防止して、良好な通信の実現に寄与することができるユニットケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、図3に示すようなバス型の屋内配線において、例えば、電力線搬送通信(以下、PLCと呼ぶ)に利用する各分岐線の分電盤側に通信信号を減衰させるフィルタ回路を取り付け、これら分岐線において上記フィルタ回路の取り付け位置よりも通信端末装置側同士を別途用意した通信専用の配線で接続する構成を検討した。接続した配線とこの配線で繋がれた分岐線とを信号伝送路として、分電盤を介することなく通信を行えるため、クロストークを防止できる。また、分電盤の主線路を損傷せず、全停電を行うことも無い。しかし、上記配線を分岐線に接続するために、分岐線を更に分岐するなどの作業を行う際、分岐線を引っ張ることで損傷したり、作業中の振動などにより分岐部分が損傷する恐れがある。
【0011】
そこで、本発明者らは、図4に示すようなユニットケーブルを用いたスター型の屋内配線をPLCの信号伝送路に利用する構成を検討した。そして、異なるユニットケーブルに属する主電源用分岐線から分電盤を介した信号伝送路とするのではなく、各ユニットケーブルに属するいずれか一の配線用分岐線同士を接続し、これら分岐線を通信信号のバイパス経路として利用する。即ち、これら接続された配線用分岐線と、各ユニットケーブルに属する別の配線用分岐線とを信号伝送路として通信を行う。そして、各ユニットケーブルの主電源用分岐線にフィルタ回路を設けることでクロストークを防止でき、設置作業の際に全停電を行うことも無い。また、分電盤を介して通信信号の伝送を行わないため、分岐ロスを低減できる。
【0012】
しかし、配線用分岐線同士を接続することで、両分岐線は、商用周波数帯域で短絡する。従って、短絡防止のためにコンデンサといった短絡防止フィルタを設ける必要がある。そこで、バイパス経路として利用する配線用分岐線は、短絡防止フィルタに接続可能な構成とすれば、フィルタの取り付け作業中に、分岐線などが損傷することもない。このようにユニットケーブルに属するいずれか一の配線用分岐線を通信専用の配線(通信用配線)として利用することで、クロストークの防止、及び分岐ロスの低減を実現すると共に、分岐線の損傷をも防止することができる。このような知見に基づき、本発明通信装置は、上記通信用配線が接続される短絡防止フィルタと、主電源用分岐線に配置するフィルタ回路とを具える構成とする。また、本発明ユニットケーブルは、少なくとも一つの配線用分岐線を通信専用の配線とし、この分岐線の端部に短絡防止フィルタが接続される端子部を具え、かつ主電源用分岐線にフィルタ回路を具える構成とする。
【0013】
具体的には、本発明通信装置は、分電盤に第一電力供給路を介して接続される第一通信端末装置と、同じ分電盤に第二電力供給路を介して接続される第二通信端末装置との間で電力線搬送通信を行うためのものである。この通信装置は、上記第一電力供給路に接続される第一通信用配線と、上記第二電力供給路に接続される第二通信用配線との間に配置される信号透過フィルタ部と、二つのブロッキングフィルタ部とを具える。信号透過フィルタ部は、上記両通信端末装置間で通信を行うとき、商用周波数帯域の電力を減衰させるものである。上記第一ブロッキングフィルタ部は、上記第一通信用配線から上記第一電力供給路の上記分電盤側に通信信号が伝送されることを防止し、上記第二ブロッキングフィルタ部は、上記第二通信用配線から上記第二電力供給路の上記分電盤側に通信信号が伝送されることを防止するものである。
【0014】
本発明ユニットケーブルは、分電盤に接続される主電源用分岐線と、屋内配線に利用される複数の配線用分岐線と、これら全ての分岐線を接続する分岐接続部とを具える。特に、このユニットケーブルは、複数の配線用分岐線のうち、いずれか一の配線用分岐線の端部に信号透過フィルタ部が接続されるフィルタ接続部を有し(以下、この配線用分岐線を通信用配線と呼ぶ)、主電源用分岐線にブロッキングフィルタ部を有する。上記信号透過フィルタ部は、上記複数の配線用分岐線のうち、上記フィルタ接続部を有する通信用配線以外の他の配線用分岐線に第一通信端末装置を接続し、同じ分電盤に接続される主電源用分岐線を有する別のユニットケーブルにおいて上記通信用配線以外の他の配線用分岐線に第二通信端末装置を接続し、両通信端末装置間で電力線搬送通信を行うとき、上記両通信用配線間に介在されて、商用周波数帯域の電力を減衰させるものである。上記ブロッキングフィルタ部は、上記通信用配線から上記主電源用分岐線の分電盤側に通信信号が伝送されることを防止するものである。
【0015】
本発明通信装置は、分電盤を介して通信信号の伝送を行うのではなく、第一通信用配線及び第二通信用配線を信号透過フィルタ部により高周波的に接続して、これらを信号伝送路に用いる。また、本発明通信装置は、分電盤側に通信信号が伝送されないようにブロッキングフィルタ部を具える。このような本発明通信装置を利用することで、クロストークを防止し、分電盤を介して通信を行う場合と比較して分岐ロスを低減できる。従って、本発明通信装置を利用して宅内PLCを行う場合、良好な通信が行える。
【0016】
本発明ユニットケーブルは、複数の配線用分岐線のうち、いずれか一の配線用分岐線(通信用配線)を主として通信専用の配線(通信信号の伝送路)に利用し、かつその端部に信号透過フィルタ部を接続するフィルタ接続部を具え、かつ主電源用分岐線にブロッキングフィルタ部を設けている。このようなユニットケーブルが複数存在するとき、各ユニットケーブルに属する通信用配線のフィルタ接続部に信号透過フィルタ部を接続し、信号透過フィルタ部を介して上記通信用配線同士を接続し、これら通信用配線を信号伝送路として電力線搬送通信を行う場合に、クロストークの防止及び分岐ロスの低減を図ることができる。また、このようなユニットケーブルを利用することで、家屋内で分岐線同士を直接接続する必要がなく、この接続による屋内配線の損傷を防止できる。
【0017】
以下、本発明をより詳しく説明する。
第一電力供給路及び第二電力供給路は、宅内に配置される屋内配線の一部を構成する。各電力供給路は、連続した配線で構成することもできるが、後述する通信用配線との接続点から分電盤側までの配線と、接続点から通信端末装置側までの配線とを別々の配線で構成することができる。具体的には、各電力供給路は、分電盤(の主線路)に接続される主電源用分岐線と、家屋内の各部屋などに配される少なくとも一つの配線用分岐線と、主電源用分岐線の一端と各配線用分岐線の一端とを接続する分岐接続部とを具えるユニットケーブルが好適に利用できる。より具体的には、分電盤側配線を主電源用分岐線、端末装置側配線を配線用分岐線、接続点を分岐接続部とする。
【0018】
第一通信用配線及び第二通信用配線はそれぞれ、上記第一電力供給路及び第二電力供給路に接続されて、通信端末装置間の通信信号を伝送するバイパス路として機能する。このような通信用配線は、上記電力供給路に接続されて、商用周波数帯域の電力が印加されるため、この電力に耐え得ることができ、所望の通信信号が伝送可能な構成のものが利用できる。例えば、通信用配線は、商用周波数帯域の電力の供給に汎用されている配線、具体的には、遮蔽層のない平行二線(平型ケーブル又は平行2心ケーブル)を利用することができる。この平行二線は、ユニットケーブルの配線用分岐線にも利用される。遮蔽層を有する平行二線を通信用配線とすると、誘導によるノイズの影響を受け難い。
【0019】
第一(第二)通信用配線は、第一(第二)電力供給路を構成するユニットケーブルの分岐接続部に接続させておく。即ち、通信用配線は、ユニットケーブルに属する一の配線である。本発明ユニットケーブルでは、任意の一の配線用分岐線を通信用配線とする。通信用配線をユニットケーブルに属する配線とすることで、家屋において各電力供給路と各通信用配線との接続作業が不要であり、この接続作業により他の分岐線を損傷することもない。
【0020】
上述のように各通信用配線の一端はそれぞれ、各電力供給路に接続され、他端は、後述する信号透過フィルタ部が接続される。従って、通信用配線は、信号透過フィルタ部に対して着脱自在な構成としておく。具体的には、通信用配線の端部に、信号透過フィルタ部が接続されるフィルタ接続部を設けておく。フィルタ接続部は、例えば、端子部が挙げられる。
【0021】
第一通信用配線と第二通信用配線とを接続すると、第一電力供給路と第二電力供給路同士が電気的に接続される。即ち、これら電力供給路は、商用周波数帯域(例えば、50Hz又は60Hz)において短絡する。そこで、通信用配線同士は、高周波的に接続する。具体的には、商用周波数帯域の電力を減衰、或いは遮断し、通信信号の使用周波数帯域(通常、商用周波数(例えば、50Hz又は60Hz)よりも高周波、例えば、1〜50MHz程度、特に2〜30MHz)の信号を伝送が可能な信号透過フィルタ部を介して両配線間を接続する。
【0022】
信号透過フィルタ部のフィルタ本体としては、通信信号の使用周波数帯域において低インピーダンスとなり、商用周波数帯域において高インピーダンスとなるハイパスフィルタ(HPF)や、特定の周波数帯域の電力を遮断するバンドパスフィルタ(BPF)やバンドエリミネーションフィルタ(BEF)が利用できる。HPFは、コンデンサ(キャパシタ、C)が挙げられる。信号透過フィルタ部は、このようなフィルタ本体を具え、この本体に通信用配線を接続可能な構成とする。例えば、フィルタ本体に配線を設けておき、配線の端部に、通信用配線の端部に具えるフィルタ接続部が接続可能な嵌合部を設ける。
【0023】
信号透過フィルタ部が露出された状態であると、本発明通信装置を移動したり設置する際に損傷する恐れがある。従って、信号透過フィルタ部は、筐体に収納することが好ましい。筐体は、フィルタ部を保護可能な構成であれば特に問わない。具体的には、例えば、筐体は、フィルタ本体を収納すると共に、この本体の端部に通信用配線を接続する嵌合部を設け、この嵌合部が露出されるようにする。
【0024】
本発明通信装置は、両電力供給路に伝送される通信信号が分電盤(の主線路)に伝わり、分電盤から引込線を介して外部に漏洩したり、逆に、外部からの通信信号やノイズが電力供給路に伝送されることを低減するために、各電力供給路にそれぞれ配置するブロッキングフィルタ部を有する。各ブロッキングフィルタ部は、分電盤から各電力供給路に商用周波数の電力が伝送可能なものとする。例えば、商用周波数帯域で低インピーダンスとなり、通信信号の周波数帯域で高インピーダンスとなるローパスフィルタ(LPF)や、特定の周波数帯域の電流を遮断するBPFやBEFをフィルタ本体として利用することができる。LPFは、インダクタンス成分(L)とコンデンサ(キャパシタ、C)とを組み合わせたL-C回路が挙げられる。
【0025】
各ブロッキングフィルタ部は、上記フィルタ本体と、この本体を各電力供給路に接続する本体接続部とを具える構成が挙げられる。フィルタ本体は、ケースなどに収納して保護することが好ましい。
【0026】
ブロッキングフィルタ部は、PLCを行う第一電力供給路、第二電力供給路のみに取り付けてもよいし、屋内配線が上記両電力供給路を構築するユニットケーブル以外のユニットケーブルを具える場合、全てのユニットケーブルの主電源用分岐線に取り付けてもよい。後者の場合、任意のユニットケーブルに具える分岐線を利用してPLCを行う場合にクロストークを防止することができる。
【0027】
各ブロッキングフィルタ部は、各電力供給路において通信用配線の接続点から分電盤までの間の任意の位置に取り付けることできる。電力供給路をユニットケーブルの配線用分岐線及び主電源用分岐線で構成する場合、主電源用分岐線にブロッキングフィルタ部を取り付ける。予め主電源分岐線にブロッキングフィルタ部を設けた本発明ユニットケーブルを作製して家屋に配してもよい。
【0028】
接続された通信用配線間でインピーダンスが整合していないと、両配線の接続部分近傍で、通信信号が反射し、この反射により、当該通信信号が減衰する。従って、通信用配線間においてインピーダンスを整合することが好ましい。例えば、通信用配線間にインピーダンス整合部を設けた通信装置を構築する。インピーダンス整合部には、フェライトコアといった磁性部材の外周に1次巻線及び2次巻線を巻回してなる変成器が利用できる。信号上流側(送り側)が高インピーダンスに、信号下流側(受け側)が低インピーダンスになるように各巻線の巻線比を調整することで、インピーダンスを整合することができる。インピーダンス整合部も筐体に収納すると、本発明通信装置の設置作業時に損傷する恐れが少なく好ましい。
【0029】
通信用配線が第一通信用配線と第二通信用配線の二つである場合、一方を1次巻線に接続し、他方を2次巻線に接続することで、インピーダンスの整合をとることができる。つまり、インピーダンス整合部は一つだけ、即ち、磁性部材を一つ、1巻線を一つ、2次巻線を一つでよい。三つ以上の通信用配線を接続可能にする場合、複数のインピーダンス整合部を利用する。例えば、各インピーダンス整合部の1次巻線は、各通信用配線に接続可能とし、2次巻線がループを描くような構成とすることが挙げられる。
【発明の効果】
【0030】
本発明通信装置を利用して宅内電力線搬送通信を行うことで、クロストークや分岐ロスを低減して良好な通信を行える。また、屋内配線を本発明ユニットケーブルで構築し、信号透過フィルタ部を介して通信用配線同士を接続することで、宅内電力線搬送通信を行う際、クロストークや分岐ロスを低減して良好な通信を行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
<実施例1>
図1(I)は、本発明通信装置を具える宅内電力線搬送通信システムを示す概略構成図、(II)は、この装置に具える接続箱の概略構成図、(III)は、この装置に具えるブロッキングフィルタ部の概略構成図である。以下、図において同一符号は同一物を示す。このシステムは、家屋内の屋内配線(配線用分岐線21,22,31,32,41,42…)のうち、一部の屋内配線(配線用分岐線21,31)を信号伝送路に利用して宅内PLCを行うものである。具体的には、分電盤101に第一電力供給路(主電源用分岐線20及び配線用分岐線21)を介して接続されるパソコンといった通信端末装置(第一通信端末装置)60と、分電盤101に第二電力供給路(主電源用分岐線30及び配線用分岐線31)を介して接続される通信端末装置(第二通信端末装置)61との間で第一電力供給路及び第二電力供給路を信号伝送路として通信信号の授受を行う。
【0032】
屋内配線は、ユニットケーブル2,3,4から構成される。ケーブル2は、複数の配線用分岐線21,22と、分電盤101に接続される主電源用分岐線20と、これら配線用分岐線21,22及び主電源用分岐線20を電気的に接続する分岐接続部23と、この接続部23を覆う樹脂製のモールド部24とから構成される。ケーブル3,4についても同様であり、主電源用分岐線30,40、配線用分岐線31,32,41,42、分岐接続部33,43、樹脂製のモールド部34,44をそれぞれ具える。各配線用分岐線21,22,31,32,41,42の一端は、分岐接続部23,33,43に接続され、他端にコンセントや照明機器などが設けられる。各主電源用分岐線20,30,40は、一端が分岐接続部23,33,43に接続され、他端が分電盤101に接続されている。この主電源用分岐線20,30,40により、各配線用分岐線21,22,31,32,41,42は、電力が供給される。
【0033】
このような屋内配線をPLCの信号伝送路とするにあたり、このシステムでは、配線用分岐線21,31に電力線搬送通信装置(PLCモデム)50,51を接続すると共に、通信装置1を具える。通信装置1は、分電盤101から引込線200を介してクロストークが生じることを防止すると共に、通信端末装置60,61間で良好に通信を行えるようにするための装置である。以下、この通信装置1を説明する。
【0034】
通信装置1は、通信端末装置60,61の間で、分電盤101を介することなく通信信号の伝送を可能とするものである。具体的には、主電源用分岐線20に配置されるブロッキングフィルタ部(第一ブロッキングフィルタ部)10aと、主電源用分岐線30に配置されるブロッキングフィルタ部(第二ブロッキングフィルタ部)10bと、分岐接続部23に接続される通信用配線(第一通信用配線)11aと分岐接続部33に接続される通信用配線(第二通信用配線)11bとの間を高周波的に接続する信号透過フィルタ部12fを収納する接続箱12とを具える。
【0035】
ブロッキングフィルタ部10a,10bは、商用周波数帯域(50Hz又は60Hz)の電力の通過を許容し、通信信号の使用周波数帯域(1〜50MHz)の信号を減衰させるローパスフィルタ(LPF)を具える。このようなフィルタ部10a(10b)を主電源用分岐線20(30)に配置することで、通信端末装置60(61)からの通信信号は、配線用分岐線21(31)から分岐接続部23(33)を介して主電源用分岐線20(30)に伝送されても、フィルタ部10a(10b)で減衰する。従って、通信信号がフィルタ部10a(10b)よりも分電盤側に伝送されることを防止できる。また、外部からの通信信号やノイズが引込線200から分電盤101を介して主電源用分岐線20(30)に伝送されても、フィルタ部10a(10b)で減衰して、配線用分岐線21(31)側に伝送されることを防止できる。
【0036】
ブロッキングフィルタ部10a(10b)は、図1(III)に示すようにインダクタンス成分となるコイルLと、コンデンサCとからなるL-C回路で構成している。回路は、保護のためにケースに収納している。
【0037】
通信用配線11a,11bは、通信端末装置60,61間において通信信号を伝送する伝送路として利用される。これら両配線11a,11bは、接続箱12を介して接続することで、通信端末装置60,61間における通信を可能にする。
【0038】
通信用配線11a,11bは、いずれも遮蔽層を有する平行二線である。配線11a(11b)は、一端をユニットケーブル2(3)の分岐接続部23(33)に予め接続されており、他端を接続箱12に接続させる。配線11a(11b)の端部には、予め端子部を設けておき、接続箱12に接続可能としている。
【0039】
接続箱12は、通信用配線11a,11b間を通信信号の伝送が可能なように接続するものであり、配線11a,11bの端子部が接続可能な複数の嵌合部12tと、配線11a,11bの平行二線を構成する各配線において同電位の配線が接続される嵌合部12t間を繋ぐ配線部12lと、配線部12lに設けられた信号透過フィルタ部12fと、これらを収納する筐体12hとを具える。
【0040】
接続箱12を介して通信用配線11a,11bを接続することで、結果的にユニットケーブル2,3(主電源用分岐線20,30)が電気的に接続されることになり、商用周波数帯域の電力において主電源用分岐線20,30間が短絡する。そこで、接続箱12は、通信用配線11a,11bを高周波的に接続する信号透過フィルタ部12fを具える。フィルタ部12fは、商用周波数帯域で高インピーダンスとなり、通信信号の使用周波数帯域で低インピーダンスとなるハイパスフィルタ(HPF)であり、コンデンサを利用している。フィルタ部12fは、配線部12lに属する配線に接続させている。
【0041】
配線部12lは、通信信号を伝送可能な配線を利用して構成しており、接続させる通信用配線を構成する配線数以上の配線を具える。この実施形態では、四つの通信用配線が接続可能なように合計8個の嵌合部12tを設け、一つの通信用配線を構成する二つの配線のうち、同電位の配線同士が接続されるように配線部12lを構成している。図1に示す接続箱12では、通信用配線11a,11bの接続だけでなく、より多くの通信用配線を接続できるように配線部の配線数及び嵌合部数を多くしている。従って、例えば、ユニットケーブル4が通信用配線を具える場合、この配線を接続箱12の空いている嵌合部12tに接続することで、ケーブル4の配線用分岐線41に接続される通信端末装置と通信端末装置60,61との間で通信を行える。
【0042】
配線部12lを構成する各配線の端部には、通信用配線11a,11bを接続可能なように、配線11a,11bの端子部が嵌め込まれる嵌合部12tを設けている。接続箱12と通信用配線11a,11bとを容易に着脱可能な構成とすることで、接続作業を行い易い。
【0043】
これら配線部12lや信号透過フィルタ部12fは、筐体12hに収納する。筐体12hに収納することで、通信装置1を設置する際や搬送する際にフィルタ部12fなどが損傷することを防止できる。筐体12hは、樹脂などの絶縁性材料から構成することが好ましい。
【0044】
このような通信装置1を屋内配線に取り付けるには、まず、ユニットケーブル2,3の主電源用分岐線20,30にブロッキングフィルタ部10a,10bをそれぞれ装着する。フィルタ部10a,10bの取り付け位置は、分岐ロスなどを考慮すると分岐接続部23,33の近傍が好ましい。
【0045】
次に、ユニットケーブルに具える通信用配線11a,11bの端子部をそれぞれ接続箱12の嵌合部12tに接続する。このように通信装置1は、屋内配線に簡単に取り付けることができる。なお、通信用配線が接続されない嵌合部12tが存在する場合、配線部12lが閉ループとなるように、空いている嵌合部12tに別途配線を接続させてもよい。
【0046】
本発明通信装置を具えた宅内PLCシステムを構築することで、分電盤を介して通信信号の授受を行うことが無いため、クロストークを防止することができる。かつ、分電盤を介さないことで、PLCを行わない配線、例えば、ユニットケーブル4に具える配線に通信信号が伝送されることがないため、本発明通信装置を具えるシステムは、分岐ロスによる通信信号の減衰を効果的に低減することができる。従って、このシステムは、良好な宅内PLCを行うことができる。また、本発明通信装置は、簡単に屋内配線に取り付けることができ、設置作業性に優れる上に、設置作業中に通信装置の構成部材や屋内配線を損傷する恐れが少ない。
【0047】
<実施例2>
次に、インピーダンス整合部を具える本発明通信装置を説明する。図2は、本発明通信装置を具える宅内電力線搬送通信システムを構築した状態を説明する概略構成図である。このシステムは、実施例1に示すシステムと同様に屋内配線を利用して宅内PLCを行うものであり、通信装置1'を具える。通信装置1'は、実施例1の通信装置1と基本的構成が同様であり、ブロッキングフィルタ部10a,10bと、通信用配線11a,11bとの間を高周波的に接続する信号透過フィルタ部12fとを具える。フィルタ部12fは、接続箱12に収納される。通信装置1'の特徴とするところは、インピーダンス整合部13を具える点にある。以下、この点を中心に説明し、その他の構成については説明を省略する。
【0048】
インピーダンス整合部13は、フェライトコアといった磁性部材13mと、磁性部材13mに巻回される1次巻線13c1及び2次巻線13c2とから構成される。つまり、通信装置1'では、接続箱12内の配線部を1次巻線13c1と2次巻線13c2とで構成する。通信装置1'は、このようなインピーダンス整合部13を複数具える(図2では、四つ)。これらインピーダンス整合部13も接続箱12の筐体12h内に収納することで整合部13を保護することができ、通信装置1'の設置作業時や搬送する際に整合部13が損傷することを防止できる。
【0049】
1次巻線13c1は、両端部に嵌合部12tを設けており、通信用配線11a,11bをなす平行二線を構成する二線の端部に設けた端子部がそれぞれ接続される。嵌合部12tと磁性部材13mとの間の配線(1次巻線13c1の端部側)には、信号透過フィルタ部12fを設ける。
【0050】
2次巻線13c2は、両端部が他のインピーダンス整合部の磁性部材に巻回される2次巻線の端部に接続される。つまり、これら四つのインピーダンス整合部13の2次巻線13c2は、全て接続されて一つのループをつくる。
【0051】
これら1次巻線13c1、2次巻線13c2の巻き数を適宜調整し、通信信号の受け側のインピーダンスと送り側のインピーダンスとができるだけ等しくなるようにする。このようなインピーダンス整合部を具える通信装置1'は、通信用配線同士の接続部分において信号の反射を防止し、信号の減衰を低減することができる。
【0052】
なお、上述した実施例1,2は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、ユニットケーブルとして、主電源用分岐線に予めブロッキングフィルタ部を具えるものを利用してもよい。このようなユニットケーブルを屋内配線とすることで、家屋内でブロッキングフィルタ部を取り付ける必要がない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明通信装置は、屋内配線を信号伝送路として利用する宅内電力線搬送通信を行う際に好適に利用することができる。本発明ユニットケーブルは、屋内配線、特に、宅内電力線搬送通信を行うことが予想される屋内配線に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】(I)は、本発明通信装置を具えるPLCシステムを構築した状態を示す概略構成図、(II)は、本発明通信装置の接続箱の概略構成図、(III)は、本発明通信装置のブロッキングフィルタ部の概略構成図である。
【図2】インピーダンス整合部を具える本発明通信装置を具えるPLCシステムを構築した状態を示す概略構成図である。
【図3】屋内配線を利用してPLCシステムを構築した状態を説明する概略構成図である。
【図4】ユニットケーブルを模式的に示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0055】
1,1' 通信装置 2,3,4 ユニットケーブル
10a,10b ブロッキングフィルタ部 11a,11b 通信用配線 12 接続箱
12f 信号透過フィルタ部 12t 嵌合部 12l 配線部 12h 筐体
13 インピーダンス整合部 13m 磁性部材 13c1 1次巻線 13c2 2次巻線
20,30,40 主電源用分岐線 21,22,31,32,41,42 配線用分岐線
23,33,43 分岐接続部 24,34,44 モールド部 50,51 PLCモデム
60,61 通信端末装置
100 家屋 101 分電盤 102,103,104 分岐幹線 110,111 PLCモデム
120,121 通信端末装置 200 引込線
U ユニットケーブル u1,u2,…,un 分岐線 S 分岐接続部 M モールド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分電盤に第一電力供給路を介して接続される第一通信端末装置と、同じ分電盤に第二電力供給路を介して接続される第二通信端末装置との間で電力線搬送通信を行うための通信装置であって、
前記第一電力供給路に接続される第一通信用配線と、前記第二電力供給路に接続される第二通信用配線との間に配置され、前記第一通信端末装置と前記第二通信端末装置との間で通信を行うとき、商用周波数帯域の電力を減衰させる信号透過フィルタ部と、
前記第一通信用配線から前記第一電力供給路の前記分電盤側に通信信号が伝送されることを防止する第一ブロッキングフィルタ部と、
前記第二通信用配線から前記第二電力供給路の前記分電盤側に通信信号が伝送されることを防止する第二ブロッキングフィルタ部とを具えることを特徴とする通信装置。
【請求項2】
通信装置は、更に、前記両通信用配線間でインピーダンスの整合をとるインピーダンス整合部を具えることを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記第一電力供給路及び前記第一通信用配線は、第一ユニットケーブルの配線で構成され、
前記第二電力供給路及び前記第二通信用配線は、第二ユニットケーブルの配線で構成されることを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
分電盤に接続される主電源用分岐線と、屋内配線に利用される複数の配線用分岐線と、これら全ての分岐線を接続する分岐接続部とを具えるユニットケーブルであって、
前記複数の配線用分岐線のうち、いずれか一の配線用分岐線は、その端部に信号透過フィルタ部が接続されるフィルタ接続部を有しており、
前記信号透過フィルタ部は、
前記複数の配線用分岐線のうち、前記フィルタ接続部を有さない他の配線用分岐線に第一通信端末装置を接続し、同じ分電盤に接続される主電源用分岐線を有する別のユニットケーブルにおいて前記フィルタ接続部を有さない他の配線用分岐線に第二通信端末装置を接続し、両通信端末装置間で電力線搬送通信を行うとき、前記フィルタ端子部を有する両配線用分岐線間に介在されて、商用周波数帯域の電力を減衰させるものであり、
前記主電源用分岐線には、ブロッキングフィルタ部が設けられており、
前記ブロッキングフィルタ部は、
前記フィルタ接続部を有する配線用分岐線から前記主電源用分岐線の分電盤側に通信信号が伝送されることを防止するものであることを特徴とするユニットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−141521(P2008−141521A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326077(P2006−326077)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(592189860)住友電工産業電線株式会社 (7)
【Fターム(参考)】