通信装置
【課題】 特に、磁性部材の構造を改良して、薄型で且つ、各通信部材の通信感度を向上させることが可能な通信装置を提供することを目的としている。
【解決手段】 第1の通信部材及び第2の通信部材と、第1の通信部材と第2の通信部材の間に位置する金属部材と、第1の通信部材と金属部材との間に位置する第1の磁性部材と、第2の通信部材と金属部材との間に位置する第2の磁性部材と、を有して構成され、第1の磁性部材及び第2の磁性部材は、積層された複数の軟磁性膜と、各軟磁性膜間に介在する絶縁膜とを有して構成され、各軟磁性膜は、主成分の元素T(元素TはFeまたはCoまたはその混合物を表す)と、元素M(元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Ca、Ce、Yのうち少なくともいずれか一種を表す)と、元素X(OまたはNのうち少なくともいずれか1種を表す)とを有して形成される。
【解決手段】 第1の通信部材及び第2の通信部材と、第1の通信部材と第2の通信部材の間に位置する金属部材と、第1の通信部材と金属部材との間に位置する第1の磁性部材と、第2の通信部材と金属部材との間に位置する第2の磁性部材と、を有して構成され、第1の磁性部材及び第2の磁性部材は、積層された複数の軟磁性膜と、各軟磁性膜間に介在する絶縁膜とを有して構成され、各軟磁性膜は、主成分の元素T(元素TはFeまたはCoまたはその混合物を表す)と、元素M(元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Ca、Ce、Yのうち少なくともいずれか一種を表す)と、元素X(OまたはNのうち少なくともいずれか1種を表す)とを有して形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、複数の通信部材を一枚に集約することが可能な通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非接触式のICカード(通信部材)をリーダライタ上にかざすことで両者間で無線通信を行う通信システムが普及している。
【0003】
しかしながら利用者が、例えば周波数帯が同じだが規格の異なる複数種類のICカードを重ねて使用すると、リーダライタ側で混信し、適切に通信することが出来ない問題があった。
【0004】
特許文献1に記載された発明には、非接触式のICカード/磁性体の層/金属の層/磁性体の層/非接触式ICカードと積層して2枚の非接触式のICカードを一枚に集約した通信装置の発明が開示されている。これにより、無線通信の際の混信を防止し、各ICカードを適切に認識することが出来るとしている。
【0005】
また、特許文献2には組成式がA−M−Oから成るRFID用の磁性シートの発明が開示されている。
【特許文献1】特開2005−327208号公報
【特許文献2】特開2010−10641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1に記載された発明には、磁性体の層について詳しい説明がなされていない。
【0007】
また特許文献2には二枚の非接触式のICカードを一枚に集約した通信装置の構造について何も記載されていない。
【0008】
特許文献2に記載された単層の磁性シートを特許文献1の磁性体の層に用いた場合、どのような通信結果が得られるか定かでないが、後述する比較例1の実験結果から類推すると、一枚に集約した各ICカードの通信感度は大きく低下するものと思われる。
【0009】
実用化に向けては、複数のICカードを一枚に集約した際に、通信装置を薄型で且つ無線通信の際に混信することなく各ICカードを夫々、優れた通信感度にて通信できることが必要とされる。
【0010】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、磁性部材の構造を改良して、薄型で且つ、各通信部材の通信感度を向上させることが可能な通信装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明における通信装置は、
外部装置との間で無線通信を行うための第1の通信部材及び第2の通信部材と、前記第1の通信部材と前記第2の通信部材の間に位置する金属部材と、前記第1の通信部材と前記金属部材との間に位置する第1の磁性部材と、前記第2の通信部材と前記金属部材との間に位置する第2の磁性部材と、を有して構成され、
前記第1の磁性部材及び前記第2の磁性部材は、積層された複数の軟磁性膜と、各軟磁性膜間に介在する絶縁膜とを有して構成されることを特徴とするものである。
【0012】
本発明によれば、上記のように磁性部材を複数の軟磁性膜に分断し、各軟磁性膜間に絶縁膜を介在させた積層構造とすることで、第1の通信部材と第2の通信部材とを一枚に集約した通信装置を薄型で、無線通信の際に混信することなく、しかも軟磁性膜の単層構造を用いるよりも各通信部材の夫々の通信感度を効果的に向上させることが可能となる。
【0013】
本発明では、各軟磁性膜は、主成分の元素T(元素TはFeまたはCoまたはその混合物を表す)と、元素M(元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Ca、Ce、Yのうち少なくともいずれか一種を表す)と、元素X(OまたはNのうち少なくともいずれか1種を表す)とを有して形成されることが好ましい。特に、本発明では、前記軟磁性膜は,Fe−M−Nにて形成されることが好ましい。より効果的に、通信装置を薄型で、且つ、各通信部材の夫々の通信感度を向上させることが可能となる。
【0014】
また本発明では、前記絶縁膜は、SiO2膜で形成されることが好ましい。
また本発明では、前記第1の磁性部材、及び、前記第2の磁性部材は、各通信部材あるいは、前記金属部材に直接、成膜されていることが好ましい。より通信装置の薄型化を実現できる。
【0015】
また、本発明では、前記第1の磁性部材、及び、前記第2の磁性部材は、樹脂シート上に成膜されているものであることが好ましい。
【0016】
また本発明では、前記軟磁性膜は、膜構造が、元素Mと元素Xの化合物を含むアモルファス相と、前記アモルファス相中に元素Tを主体とした微結晶相とを有してなることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、第1の通信部材と第2の通信部材とを一枚に集約した通信装置を薄型で、且つ、無線通信の際に混信することなく、各通信部材の夫々の通信感度を効果的に向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の通信装置及びリーダライタの模式図、
【図2】図2の各図は、本実施形態の通信装置に用いられる磁性部材の部分拡大縦断面図、
【図3】図3は金属部材の部分拡大縦断面図、
【図4】実験で使用した通信装置Bとリーダ装置Cとの模式図、
【図5】実験に使用した実施例の通信装置の模式図、
【図6】実験に使用した従来例の通信装置の模式図、
【図7】実験に使用した比較例1の通信装置の模式図、
【図8】実験に使用した比較例2の通信装置の模式図、
【図9】(a)(b)は、実施例の通信装置における周波数と信号出力との関係を示すグラフ((a)は第1のICカードに対する実験結果であり、(b)は第2のICカードに対する実験結果)、
【図10】従来例の通信装置における周波数と信号出力との関係を示すグラフ、
【図11】(a)(b)は、比較例1の通信装置における周波数と信号出力との関係を示すグラフ((a)は第1のICカードに対する実験結果であり、(b)は第2のICカードに対する実験結果)、
【図12】(a)(b)は、比較例2の通信装置における周波数と信号出力との関係を示すグラフ((a)は第1のICカードに対する実験結果であり、(b)は第2のICカードに対する実験結果)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本実施形態の通信装置及びリーダライタの模式図、図2の各図は、本実施形態の通信装置に用いられる磁性部材の部分拡大縦断面図、図3は金属部材の部分拡大縦断面図である。
【0020】
図1に示すように通信装置1は、コイル及びICチップを備える機能シート2及び表面印刷シート3を有する第1のICカード(第1の通信部材)4と、コイル及びICチップを備える機能シート5及び表面印刷シート6を有する第2のICカード(第2の通信部材)7と、第1のICカード4と第2のICカード7との間に位置する金属部材8と、第1のICカード4と金属部材8間に位置する第1の磁性部材9と、第2のICカード7と金属部材8間に位置する第2の磁性部材10とを有して構成される。
【0021】
このように本実施形態の通信装置1は、二枚のICカード4,7が一枚に集約された積層構造を構成する。
【0022】
今、図1では、通信装置1の第2のICカード7が、前記第2のICカード7を認識可能なリーダライタ11側に向けられている。そして、図1に示すように、リーダライタ11からの磁束が通信装置1に引き寄せられ、通信装置1とリーダライタ11との間で還流磁束Aが形成される。これにより、第2のICカード7とリーダライタ11との間で無線通信を行うことが出来る。
【0023】
図1の状態から通信装置1をひっくり返して、第1のICカード4を認識可能なリーダライタに、前記第1のICカード4を対向させた状態にすると、第1のICカード7とリーダライタとの間で無線通信を行うことが可能になる。
【0024】
各ICカード4,7とリーダライタ間での無線通信は、例えば、RFID(Radio Frequency Identification)における周波数13.56MHzの電磁誘導方式を用いて行うことが出来る。各ICカード4,7には、別々に用意された各ICカード4,7を重ねて使用するとリーダライタ側で混信して通信できない種類のものが選択される。
【0025】
本実施形態では、図1に示すように第1のICカード4と第2のICカード7の間にシールドとしての金属部材8が設けられている。金属部材8は単層構造でもよいし、あるいは図3に示すように、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の基材20の両面に金属層21,22が形成された構造としてもよい。金属で形成された板状の金属部材8や図3に示す金属層21,22の材質は特に問わないが、例えば、Alやステンレス鋼(SUS)、真鍮を用いることが出来る。金属部材8は、0.1μm〜100μm程度の膜厚範囲内で形成される。
【0026】
ところで、各ICカード4,7の間に金属部材8が存在すると、リーダライタからの磁界により金属部材8に渦電流が生じ、渦電流による反磁界が、無線通信に必要な磁界をキャンセルしてしまう。
【0027】
このため本実施形態では、リーダライタからの磁束をICカード側に引き寄せて無線通信を可能とするために、第1のICカード4と金属部材8の間に第1の磁性部材9を介在させ、第2のICカード7と金属部材8との間に第2の磁性部材10を介在させた。
【0028】
しかも本実施形態では、図2(a)に示すように、第1の磁性部材9(第2の磁性部材10についても同様の積層構造)を、複数の軟磁性膜12,13と、各軟磁性膜12,13間に介在する絶縁膜14aとを有する積層構造とした。各磁性膜12,13及び絶縁膜14aは、物理蒸着法により成膜されたものであることが好適である。
【0029】
各軟磁性膜12,13は、T−M−X(ただし、TはFeまたはCoまたはその混合物を表し、元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Ca、Ce、Yのうち少なくともいずれか一種を表し、元素Xは、OまたはNのうち少なくともいずれか1種を表す)から成る。
【0030】
各軟磁性膜12,13は、成膜中、あるいは成膜後に熱処理を施すことなく形成されたものであり、このように非熱処理においても元素Mと元素Xの化合物を含むアモルファス相と、前記アモルファス相中に元素Tを主体とした微結晶相とを有する混相構造で形成されている。微結晶相16の平均粒径を30nm以下にできる。
【0031】
本実施形態の軟磁性膜12,13は、高抵抗軟磁性膜であり、軟磁気特性に優れる。例えば、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を200以上、好ましくは300以上、好ましくは800以上、より好ましくは1400以上、更に好ましくは2000以上にでき、また比抵抗ρを100(μΩ・cm)以上、好ましくは150(μΩ・cm)以上、より好ましくは200(μΩ・cm)以上、更に好ましくは300(μΩ・cm)以上に設定できる。
【0032】
本実施形態の軟磁性膜12,13は、Fe−M−Nで形成されることが好ましく、そのときのNの組成比は13at%以上で18at%以下であると良い。より具体的には、Nの組成比は、13at%以上で16at%以下の範囲内であることが好ましい。また残りのFeとMの組成比(at%)は、[M/(Fe+M)]×100(%)が16〜20%の範囲内となるように調整することが好適である。かかる場合、Fe−M−NをRFコンベンショナルスパッタ法で形成することが好適である。これにより、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約2000以上にできる。
【0033】
あるいは、Nの組成比は、15at%以上で18at%以下の範囲内であることが好ましい。また残りのFeとMの組成比(at%)は、[M/(Fe+M)]×100(%)が17〜19%の範囲内となるように調整することが好適である。かかる場合、Fe−M−NをDC対向ターゲットスパッタ法で形成することが好適である。これにより、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約1400以上にできる。
Fe−M−Nにおいて、元素MにはAlを選択することが好ましい。
【0034】
または、本実施形態の軟磁性膜12,13は、組成式がTaMbXcで示され、元素TにはFeを、元素XにはOを選択することも可能である。このとき、元素MがZrで、Zrの組成比bが、7.95〜8.36at%の範囲内、Oの組成比cが、8.11〜9.27at%の範囲内であることが好適である。そして、組成比a+b+cの合計が100at%である。
【0035】
あるいは、本実施形態の軟磁性膜12,13は、組成式がTaMbXcで示され、元素TがFeで、元素MがAlで、元素XがOであり、Alの組成比bが、9.79〜21.38at%の範囲内、Oの組成比cが、6.99〜16.75at%の範囲内であることが好適である。また組成比a+b+cの合計が100at%である。
【0036】
Fe−M−Oからなる軟磁性膜では、Fe−M−Nからなる軟磁性膜よりも複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)が小さくなりやすいものの、上記のように組成比の調整により、約800以上、好ましくは約1000以上の複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を得ることが可能である。
【0037】
軟磁性膜12,13におけるアモルファス相は、微結晶相間の粒界に限らず、その周囲を囲むように存在する。上記したように軟磁性膜12,13は、アモルファス相中に微結晶相が存在した混相構造となっている。
【0038】
軟磁性膜12,13中に含まれるアモルファス相15は体積比率で20〜80%程度であることが好適である。
【0039】
軟磁性膜12,13と交互に積層される絶縁膜14aは、軟磁性膜12,13間を電気的に絶縁する膜である。本実施形態では、少なくとも軟磁性膜12,13の間に介在する絶縁膜14aを有することが必要である。
【0040】
絶縁膜14aには、酸化絶縁膜、窒化絶縁膜、炭化絶縁膜等を提示できるが、酸化絶縁膜であることが好ましい。また、絶縁膜14aにはSiO2膜、Al2O3膜、Fe2O3膜、Ta2O3膜、TiO2膜、Mo2O3膜のうち1種以上を選択できる。また、絶縁膜14aは、軟磁性膜12,13と同じT−M−O膜であるがOの組成比が高く(具体的には30at%以上)絶縁性のT−M−O膜とすることも出来る。この場合、絶縁膜14aの成膜と、軟磁性膜12,13の成膜に同じターゲットを使用できるメリットがある。このT−M−O膜は全て酸化物の結晶相からなるか、または、アモルファス相と酸化物の結晶相からなる非磁性膜であり、軟磁性膜12,13の結晶構造と異なるものである。
【0041】
本実施形態では図2(a)に示すように、各軟磁性膜12,13の膜厚をT1に薄くできる。ここで各軟磁性膜12,13を同じ膜厚あるいは異なる膜厚にすることも出来る。各軟磁性膜12,13の膜厚は0.5μm以上で3μm以下であることが好ましい。
【0042】
特に、本実施形態における各軟磁性膜12,13がFe−M−Nで形成されるとき、各軟磁性膜12,13の膜厚を0.5μm以上で1.2μm以下に設定することができる。このように、各軟磁性膜12,13の膜厚を1.2μm以下にし、複数の磁性膜の総厚を薄くしても、優れた通信感度を得ることが出来る。
【0043】
軟磁性膜12,13を複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)が高いFe−M−Nで形成することで、Fe−M−Oに比べて各軟磁性膜12,13の膜厚及び複数の軟磁性膜12,13の総厚を薄くしても、優れた通信感度を得ることが出来る。
【0044】
ただし、各軟磁性膜12,13(Fe−M−O、Fe−M−Nに係り無く)の膜厚を薄くしすぎても、十分な通信感度の向上を図ることができない。そのため、各軟磁性膜12,13の膜厚の下限値を0.5μmと設定した。
【0045】
本実施形態では、軟磁性膜12,13の膜厚をT1で形成するとともに、軟磁性膜12,13の積層数を2〜8程度にすることができ、積層数を2〜4程度とすることが好ましく、積層数を2とすることがより好適である。本実施形態では、各軟磁性膜12,13を上記したように薄く形成するが、極端に細分化せず、積層数を少なくすることで、軟磁性膜12,13の総厚を薄くでき、しかも効果的に通信感度を向上させることができる。
【0046】
各絶縁膜14aの膜厚は、10nm〜500nm程度とすることが好ましく、100nm以下とすることがより好ましい。
【0047】
そして本実施形態では、各磁性部材9,10の膜厚T2は、夫々、1μm以上で12μm以下であることが好ましい。また、前記総厚を、8μm以下、あるいは6μm以下、又は4μm以下、更には2μm以下にすることも出来る。
【0048】
このように本実施形態では、各磁性部材9,10を複数の高抵抗の軟磁性膜12,13に分離し、各軟磁性膜12、13間に絶縁膜14aを介在させた構造としたが、これに対して各磁性部材9,10を軟磁性膜の単層構造とした比較例1と対比すると本実施形態では、磁性部材9,10の膜厚T2を、比較例1における磁性部材の膜厚以下に抑えることができるとともに、比較例1に比べて各ICカード4,7の通信感度を効果的に向上させることが可能になる。本実施形態のように高抵抗の軟磁性膜を薄く複数枚に分離することで、渦電流損失の低減等をより効果的に図ることができ、これにより軟磁性膜を単層構造にするよりも優れた通信感度を得ることができるものと考えられる。
【0049】
また例えば磁性粉末と結着材とを有し基材上に既存の手法(例えばドクターブレード法)にて形成されてなる磁性シートを各ICカード4,7と金属部材8間に介在させた比較例2の構成では、各ICカード4,7の通信感度を優れたものに出来ても各磁性シートが数十μm〜数百μmと非常に厚く通信装置1の薄型化を促進できない。
【0050】
これに対して本実施形態によれば第1のICカード4及び第2カード7を一枚に集約した通信装置1を薄型で、且つ、無線通信の際に混信することなく、各ICカード4,7の夫々の通信感度を効果的に向上させることが可能になる。
【0051】
各ICカード4,7の厚みにもよるが、本実施形態では、通信装置1全体の厚みを、概ね、700μm〜900μm程度に設定することが可能である。
【0052】
本実施形態では図2(b)に示すように、金属部材8と軟磁性膜12との間に絶縁膜14bを介在させたり、図2(c)に示すように、軟磁性膜13とICカード4との間に絶縁膜14cを介在させることが可能である。あるいは、図2(b)と図2(c)とを合わせて、金属部材8と軟磁性膜12との間、及び、軟磁性膜13とICカード4との間の夫々に絶縁膜14b,14cを介在させることも可能である。
【0053】
なお第2の磁性部材10についても図2(b),図2(c)と同様の積層構造を適用することが出来る。
【0054】
本実施形態では、各磁性部材9,10を金属部材8の表面、あるいは、各ICカード4,7の表面に直接、成膜することが可能である。各磁性部材9,10を金属部材8の表面に成膜したほうが、各ICカード4,7が磁性部材9,10の成膜下に曝されることがなく好ましい。すなわち本実施形態では、各磁性部材9,10を金属部材8の両面に成膜し、各磁性部材9,10とICカード4,7の間を図示しない粘着層を介して接合することが好適である。
【0055】
また各磁性部材9,10を金属部材8やICカード4,7とは別の基材表面(樹脂シートの表面)に成膜する構成であってもよい。かかる場合、各磁性部材9,10と金属部材8、及び、各磁性部材9,10とICカード4,7間を粘着層を介して接合する。
【0056】
ただし、各磁性部材9,10を金属部材8の表面、あるいは、各ICカード4,7の表面に直接、成膜する構成とするほうが、軟磁性膜12,13や絶縁膜を成膜するのに別に基材を設けなくても金属部材8やICカード4,7を基材として用いることができ、また粘着層の数も減らすことができ、通信装置1全体の厚みをより効果的に薄くすることができ好適である。
【0057】
本実施形態の軟磁性膜12,13及び絶縁膜14a,14b,14cは、物理蒸着法により成膜されるが、物理蒸着法としては、RFまたはDC平行平板マグネトロンスパッタ法(MT法)、DC対向ターゲットスパッタ法(FTS法)、RF対向ターゲットスパッタ法、RFコンベンショナルスパッタ法、蒸着法、反応性プラズマ蒸着法等を提示できる。
【0058】
また本実施形態における軟磁性膜は高抵抗を有する軟磁性膜であれば、Fe−M−Xに限定されるものではない。
【0059】
なお本実施形態における「通信部材」とはリーダライタとの間で無線通信を行うものを指し限定されるべきものではない。例えば人が電子マネーや乗車券等して利用するものを「ICカード」と称し、物に使用するものを「ICタグ」と称して、分けて定義されるような場合には、図1に示すICカード4,7の部分をICタグとすることもできる。
【実施例】
【0060】
実施例、従来例、比較例1及び比較例2の各通信装置の通信感度について以下の実験を行った。
【0061】
実施例、従来例、比較例1及び比較例2の全ての実験において、図4に示すように、通信装置Bとリーダ装置C(1ターンコイル、ネットワークアナライザー)との間に15mmのギャップ(gap1)を設けた状態で周波数と信号出力との関係を測定した。
【0062】
まず実施例の通信装置を図6に示す積層構造で形成した。すなわち図6に示すように、第1の通信部材Dと、第2の通信部材Eと、第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間に位置する金属部材8と、第1の通信部材Dと金属部材8との間に位置する第1の磁性部材9と、第2の通信部材Eと金属部材8との間に位置する第2の磁性部材10とを有する積層構造とした。
【0063】
第1の通信部材D及び第2の通信部材Eには、図1に示すコイル及びICチップを備える機能シートを用いた。金属部材8には、SUS304の金属板を用いた。また、第1の磁性部材9及び第2の磁性部材10をFe69.75at%Al16.04at%N14.21at%(0.9μm)/SiO2(0.1μm)/Fe69.75at%Al16.04at%N14.21at%(0.9μm)の積層構造で形成した。括弧内の数値は膜厚を示している。なお、磁性部材の各層はRFコンベンショナルスパッタ法にて成膜した。
【0064】
また第1の通信部材Dと第1の磁性部材9間には0.2mm程度のギャップを設けた。一方、第2の通信部材Eと第2の磁性部材10間にはギャップを設けなかった。このように第1の通信部材D側にギャップを設けたのは、共振周波数を第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間でずらすためである。
【0065】
図9(a)は、第1の通信部材Dをリーダ装置側に対向させて測定した周波数と信号出力との関係を示すグラフ、図10(b)は、第2の通信部材Eをリーダ装置側に対向させて測定した周波数と信号出力との関係を示すグラフである。
信号出力の絶対値が大きいほど通信感度が優れていることを意味する。
【0066】
本実施例では、図9(a)(b)に示すように、第1の通信部材Dの共振周波数と、第2の通信部材Eの共振周波数とが干渉せず、しかも優れた通信感度を得ることが出来るとわかった。なお図9(a)(b)には、第1の通信部材D/金属部材とし、あるいは、第2の通信部材E/金属部材として実験を行った結果(グラフ上では「金属」を称する)もあわせて掲載した(図10〜図12についても同様である)。
【0067】
本実施例では、第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間を、金属部材8と第1の磁性部材9及び第2の磁性部材10により分離した。さらに本実施例では各磁性部材9,10をFeAlN/SiO2/FeAlNの積層構造とした。これにより、リーダ装置からの磁束を通信装置へ適切に引き寄せることができるとともに渦電流損失をより効果的に低減できる。以上により、各通信部材D,Eとリーダ装置との間で無線通信を可能とし、且つ各通信部材D,Eの通信感度を効果的に向上させることができる。しかも本実施例では、各磁性部材9,10の厚さを後で説明する比較例1と同等以下にでき、また比較例2よりも十分に薄く形成でき、複数の通信部材を一枚に集約した通信装置の薄型化を効果的に促進することができる。
【0068】
図6は、従来例の通信装置の構造である。すなわち図6では第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間に金属部材や磁性部材を介在させずに2枚の通信部材D,Eを重ねた構造である。図6では、第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間に、0.2mmのギャップ(gap2)を設けた。
【0069】
図10に、従来例の通信装置の実験結果を示す。2つの通信部材D,Eは夫々、共振周波数が13.56MHzであるにも関わらず、図11に示すように、第1の通信部材D及び第2の通信部材Eの共振周波数は13.56MHzから大きくずれることがわかった。
【0070】
よって第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとを重ねて使用するとリーダ装置との間で無線通信不能となることがわかった。
【0071】
次に、図7は、比較例1の通信装置の構造である。図7の比較例1では、第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間を金属部材8により分離した。更に第1の通信部材Dと金属部材8との間に第1の磁性部材30を介在し、第2の通信部材Eと金属部材8との間に第2の磁性部材31を介在した。
【0072】
第1の通信部材D及び第2の通信部材Eには、図1に示すコイル及びICチップを備える機能シートを用いた。金属部材8には、SUS304の金属板を用いた。また、第1の磁性部材30をFe69.75at%Al16.04at%N14.21at%(2μm)の単層で形成し、第2の磁性部材31をFe69.75at%Al16.04at%N14.21at%(3μm)の単層でRFコンベンショナルスパッタ法にて成膜した。括弧内の数値は膜厚を示している。
【0073】
また第1の通信部材Dと第1の磁性部材30間には0.2mm程度のギャップを設けた。一方、第2の通信部材Eと第2の磁性部材31間にはギャップを設けなかった。このように第1の通信部材D側にギャップを設けたのは、共振周波数を第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間でずらすためである。
【0074】
図11(a)は、第1の通信部材Dをリーダ装置側に対向させて測定した周波数と信号出力との関係を示すグラフ、図11(b)は、第2の通信部材Eをリーダ装置側に対向させて測定した周波数と信号出力との関係を示すグラフである。
【0075】
比較例1では、図11(a)(b)に示すように、第1の通信部材Dの共振周波数と、第2の通信部材Eの共振周波数とが干渉しないことがわかった。
【0076】
しかしながら図11(a)(b)の比較例1では、図9(a)(b)の実施例に比べて、信号出力の絶対値が小さく、優れた通信感度を得ることが出来ないとわかった。比較例1では、第1の磁性部材30及び第2の磁性部材31をFeAlNの単層構造で形成し、第1の磁性部材30と第2の磁性部材31とを足した膜厚は5μmであった。これに対して本実施例では、第1の磁性部材9と第2の磁性部材10とを足した膜厚が3.8μmであった。
【0077】
このように、比較例1では実施例に比べて磁性部材の膜厚を厚くしたのにも関わらず、通信感度が低下し、十分な通信距離を得ることができないとわかった。これは比較例1のように磁性膜の単層構造で各磁性部材9,10を形成すると、渦電流損失の低減を十分に図ることができないためと考えられる。
【0078】
次に、図8は、比較例2の通信装置の構造である。図8の比較例2では、第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間を金属部材8により分離した。更に第1の通信部材Dと金属部材8との間に第1の磁性部材32を介在させ、第2の通信部材Eと金属部材8との間に第2の磁性部材33を介在させた。
【0079】
第1の通信部材D及び第2の通信部材Eには、図1に示すコイル及びICチップを備える機能シートを用いた。金属部材8には、SUS304の金属板を用いた。また、第1の磁性部材32及び第2の磁性部材33には、アルプス電気(株)製のRFID用の磁性シート(80R50)を用いた。この磁性シートは金属磁性粉末をバインダー樹脂と混合してスラリーとし、シート状に成形したものである。
【0080】
また第1の通信部材Dと第1の磁性部材30間には0.2mm程度のギャップを設けた。一方、第2の通信部材Eと第2の磁性部材31間にはギャップを設けなかった。このように第1の通信部材D側にギャップを設けたのは、共振周波数を第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間でずらすためである。
【0081】
図12(a)は、第1の通信部材Dをリーダ装置側に対向させて測定した周波数と信号出力との関係を示すグラフ、図12(b)は、第2の通信部材Eをリーダ装置側に対向させて測定した周波数と信号出力との関係を示すグラフである。
【0082】
比較例2では、図12(a)(b)に示すように、第1の通信部材Dの共振周波数と、第2の通信部材Eの共振周波数とが干渉しないことがわかった。しかも、優れた通信感度を得ることも出来た。
【0083】
しかしながら比較例2では、各磁性部材32,33の厚みが夫々、50μmであった。これに対して本実施例では、各磁性部材9,10の厚みを1.9μmに抑えることが出来るから比較例2に比べて本実施例は、優れた通信感度を得ることができるとともに、通信装置の薄型化を効果的に促進することができるとわかった。
【0084】
次に磁性膜の膜組成と複素比透磁率の実数部μ´等との関係に関する実験を以下の通り行った。
【0085】
RFマグネトロンスパッタ法にて各基材上に、FeZrO(0.2μm)磁性膜を成膜し、このとき、各基材上に成膜された各FeZrOの組成比を夫々、下記の表1に示す値で成膜した。
【0086】
次に、RFコンベンショナルスパッタ法にて各基材上に、FeAlN(0.2μm)磁性膜を成膜し、このとき、各基材上に成膜された各FeAlNの組成比を夫々、下記の表1に示す値で成膜した。
【0087】
次に、DC対向ターゲットスパッタ法にて各基材上に、FeAlN(0.2μm)磁性膜を成膜し、このとき、各基材上に成膜された各FeAlNの組成比を夫々、下記の表1に示す値で成膜した。
【0088】
なお、各磁性膜の組成比は、EDS(エネルギー分散型蛍光X線分光法)あるいはAES(オージェ電子分光法)により測定した。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示すように磁性膜としてFeMO膜を使用した場合、Oの組成比を8.11〜9.27at%の範囲内とすると複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を800以上、好ましくは1000以上にできることがわかった。また複素比透磁率の虚数部μ″(13.56MHz)を50〜70程度に小さくできることがわかった。また、FeとMとの組成比を、[M/(Fe+M)]×100(%)が8.8〜9.1%の範囲内となるように調整することが好適であるとわかった。
【0091】
次に、RFコンベンショナルスパッタ法にて成膜されたFeMN膜を使用した場合、Nの組成比を、13at%以上で16at%以下の範囲内とすると、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約2000以上にできることがわかった。また、複素比透磁率の虚数部μ″(13.56MHz)を約100〜300程度に小さくできることがわかった。また残りのFeとMの組成比(at%)を、[M/(Fe+M)]×100(%)が16〜20%の範囲内となるように調整することが好適であるとわかった。なお、上記実施例において使用した磁性膜は、表1中、Fe69.75at%Al16.04at%N14.21at%の組成と同じものである。
【0092】
次に、DC対向ターゲットスパッタ法にて成膜されたFeMN膜を使用した場合、Nの組成比を、15at%以上で18at%以下の範囲内とすると、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約1400以上にできることがわかった。また、複素比透磁率の虚数部μ(13.56MHz)を約100〜200程度に小さくできることがわかった。また残りのFeとMの組成比(at%)を、[M/(Fe+M)]×100(%)が、17〜19%の範囲内となるように調整することが好ましいとわかった。またNの組成比を、15at%〜17.4at%程度とすると、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約1700以上にできより好ましいことがわかった。
【0093】
以上から上記のような組成を有する磁性膜は優れた透磁率の特性を有しており、本発明に当該磁性膜を適用すれば優れた通信感度を得ることができることは明らかである。
【符号の説明】
【0094】
B、1 通信装置
D 第1の通信部材
E 第2の通信部材
4 第1のICカード(第1の通信部材)
7 第2のICカード(第2の通信部材)
8 金属部材
9 第1の磁性部材
10 第2の磁性部材
11 リーダライタ
12、13 軟磁性膜
14a、14b、14c 絶縁膜
15 アモルファス相
16 微結晶相
21 金属層
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、複数の通信部材を一枚に集約することが可能な通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非接触式のICカード(通信部材)をリーダライタ上にかざすことで両者間で無線通信を行う通信システムが普及している。
【0003】
しかしながら利用者が、例えば周波数帯が同じだが規格の異なる複数種類のICカードを重ねて使用すると、リーダライタ側で混信し、適切に通信することが出来ない問題があった。
【0004】
特許文献1に記載された発明には、非接触式のICカード/磁性体の層/金属の層/磁性体の層/非接触式ICカードと積層して2枚の非接触式のICカードを一枚に集約した通信装置の発明が開示されている。これにより、無線通信の際の混信を防止し、各ICカードを適切に認識することが出来るとしている。
【0005】
また、特許文献2には組成式がA−M−Oから成るRFID用の磁性シートの発明が開示されている。
【特許文献1】特開2005−327208号公報
【特許文献2】特開2010−10641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1に記載された発明には、磁性体の層について詳しい説明がなされていない。
【0007】
また特許文献2には二枚の非接触式のICカードを一枚に集約した通信装置の構造について何も記載されていない。
【0008】
特許文献2に記載された単層の磁性シートを特許文献1の磁性体の層に用いた場合、どのような通信結果が得られるか定かでないが、後述する比較例1の実験結果から類推すると、一枚に集約した各ICカードの通信感度は大きく低下するものと思われる。
【0009】
実用化に向けては、複数のICカードを一枚に集約した際に、通信装置を薄型で且つ無線通信の際に混信することなく各ICカードを夫々、優れた通信感度にて通信できることが必要とされる。
【0010】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、磁性部材の構造を改良して、薄型で且つ、各通信部材の通信感度を向上させることが可能な通信装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明における通信装置は、
外部装置との間で無線通信を行うための第1の通信部材及び第2の通信部材と、前記第1の通信部材と前記第2の通信部材の間に位置する金属部材と、前記第1の通信部材と前記金属部材との間に位置する第1の磁性部材と、前記第2の通信部材と前記金属部材との間に位置する第2の磁性部材と、を有して構成され、
前記第1の磁性部材及び前記第2の磁性部材は、積層された複数の軟磁性膜と、各軟磁性膜間に介在する絶縁膜とを有して構成されることを特徴とするものである。
【0012】
本発明によれば、上記のように磁性部材を複数の軟磁性膜に分断し、各軟磁性膜間に絶縁膜を介在させた積層構造とすることで、第1の通信部材と第2の通信部材とを一枚に集約した通信装置を薄型で、無線通信の際に混信することなく、しかも軟磁性膜の単層構造を用いるよりも各通信部材の夫々の通信感度を効果的に向上させることが可能となる。
【0013】
本発明では、各軟磁性膜は、主成分の元素T(元素TはFeまたはCoまたはその混合物を表す)と、元素M(元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Ca、Ce、Yのうち少なくともいずれか一種を表す)と、元素X(OまたはNのうち少なくともいずれか1種を表す)とを有して形成されることが好ましい。特に、本発明では、前記軟磁性膜は,Fe−M−Nにて形成されることが好ましい。より効果的に、通信装置を薄型で、且つ、各通信部材の夫々の通信感度を向上させることが可能となる。
【0014】
また本発明では、前記絶縁膜は、SiO2膜で形成されることが好ましい。
また本発明では、前記第1の磁性部材、及び、前記第2の磁性部材は、各通信部材あるいは、前記金属部材に直接、成膜されていることが好ましい。より通信装置の薄型化を実現できる。
【0015】
また、本発明では、前記第1の磁性部材、及び、前記第2の磁性部材は、樹脂シート上に成膜されているものであることが好ましい。
【0016】
また本発明では、前記軟磁性膜は、膜構造が、元素Mと元素Xの化合物を含むアモルファス相と、前記アモルファス相中に元素Tを主体とした微結晶相とを有してなることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、第1の通信部材と第2の通信部材とを一枚に集約した通信装置を薄型で、且つ、無線通信の際に混信することなく、各通信部材の夫々の通信感度を効果的に向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の通信装置及びリーダライタの模式図、
【図2】図2の各図は、本実施形態の通信装置に用いられる磁性部材の部分拡大縦断面図、
【図3】図3は金属部材の部分拡大縦断面図、
【図4】実験で使用した通信装置Bとリーダ装置Cとの模式図、
【図5】実験に使用した実施例の通信装置の模式図、
【図6】実験に使用した従来例の通信装置の模式図、
【図7】実験に使用した比較例1の通信装置の模式図、
【図8】実験に使用した比較例2の通信装置の模式図、
【図9】(a)(b)は、実施例の通信装置における周波数と信号出力との関係を示すグラフ((a)は第1のICカードに対する実験結果であり、(b)は第2のICカードに対する実験結果)、
【図10】従来例の通信装置における周波数と信号出力との関係を示すグラフ、
【図11】(a)(b)は、比較例1の通信装置における周波数と信号出力との関係を示すグラフ((a)は第1のICカードに対する実験結果であり、(b)は第2のICカードに対する実験結果)、
【図12】(a)(b)は、比較例2の通信装置における周波数と信号出力との関係を示すグラフ((a)は第1のICカードに対する実験結果であり、(b)は第2のICカードに対する実験結果)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本実施形態の通信装置及びリーダライタの模式図、図2の各図は、本実施形態の通信装置に用いられる磁性部材の部分拡大縦断面図、図3は金属部材の部分拡大縦断面図である。
【0020】
図1に示すように通信装置1は、コイル及びICチップを備える機能シート2及び表面印刷シート3を有する第1のICカード(第1の通信部材)4と、コイル及びICチップを備える機能シート5及び表面印刷シート6を有する第2のICカード(第2の通信部材)7と、第1のICカード4と第2のICカード7との間に位置する金属部材8と、第1のICカード4と金属部材8間に位置する第1の磁性部材9と、第2のICカード7と金属部材8間に位置する第2の磁性部材10とを有して構成される。
【0021】
このように本実施形態の通信装置1は、二枚のICカード4,7が一枚に集約された積層構造を構成する。
【0022】
今、図1では、通信装置1の第2のICカード7が、前記第2のICカード7を認識可能なリーダライタ11側に向けられている。そして、図1に示すように、リーダライタ11からの磁束が通信装置1に引き寄せられ、通信装置1とリーダライタ11との間で還流磁束Aが形成される。これにより、第2のICカード7とリーダライタ11との間で無線通信を行うことが出来る。
【0023】
図1の状態から通信装置1をひっくり返して、第1のICカード4を認識可能なリーダライタに、前記第1のICカード4を対向させた状態にすると、第1のICカード7とリーダライタとの間で無線通信を行うことが可能になる。
【0024】
各ICカード4,7とリーダライタ間での無線通信は、例えば、RFID(Radio Frequency Identification)における周波数13.56MHzの電磁誘導方式を用いて行うことが出来る。各ICカード4,7には、別々に用意された各ICカード4,7を重ねて使用するとリーダライタ側で混信して通信できない種類のものが選択される。
【0025】
本実施形態では、図1に示すように第1のICカード4と第2のICカード7の間にシールドとしての金属部材8が設けられている。金属部材8は単層構造でもよいし、あるいは図3に示すように、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の基材20の両面に金属層21,22が形成された構造としてもよい。金属で形成された板状の金属部材8や図3に示す金属層21,22の材質は特に問わないが、例えば、Alやステンレス鋼(SUS)、真鍮を用いることが出来る。金属部材8は、0.1μm〜100μm程度の膜厚範囲内で形成される。
【0026】
ところで、各ICカード4,7の間に金属部材8が存在すると、リーダライタからの磁界により金属部材8に渦電流が生じ、渦電流による反磁界が、無線通信に必要な磁界をキャンセルしてしまう。
【0027】
このため本実施形態では、リーダライタからの磁束をICカード側に引き寄せて無線通信を可能とするために、第1のICカード4と金属部材8の間に第1の磁性部材9を介在させ、第2のICカード7と金属部材8との間に第2の磁性部材10を介在させた。
【0028】
しかも本実施形態では、図2(a)に示すように、第1の磁性部材9(第2の磁性部材10についても同様の積層構造)を、複数の軟磁性膜12,13と、各軟磁性膜12,13間に介在する絶縁膜14aとを有する積層構造とした。各磁性膜12,13及び絶縁膜14aは、物理蒸着法により成膜されたものであることが好適である。
【0029】
各軟磁性膜12,13は、T−M−X(ただし、TはFeまたはCoまたはその混合物を表し、元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Ca、Ce、Yのうち少なくともいずれか一種を表し、元素Xは、OまたはNのうち少なくともいずれか1種を表す)から成る。
【0030】
各軟磁性膜12,13は、成膜中、あるいは成膜後に熱処理を施すことなく形成されたものであり、このように非熱処理においても元素Mと元素Xの化合物を含むアモルファス相と、前記アモルファス相中に元素Tを主体とした微結晶相とを有する混相構造で形成されている。微結晶相16の平均粒径を30nm以下にできる。
【0031】
本実施形態の軟磁性膜12,13は、高抵抗軟磁性膜であり、軟磁気特性に優れる。例えば、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を200以上、好ましくは300以上、好ましくは800以上、より好ましくは1400以上、更に好ましくは2000以上にでき、また比抵抗ρを100(μΩ・cm)以上、好ましくは150(μΩ・cm)以上、より好ましくは200(μΩ・cm)以上、更に好ましくは300(μΩ・cm)以上に設定できる。
【0032】
本実施形態の軟磁性膜12,13は、Fe−M−Nで形成されることが好ましく、そのときのNの組成比は13at%以上で18at%以下であると良い。より具体的には、Nの組成比は、13at%以上で16at%以下の範囲内であることが好ましい。また残りのFeとMの組成比(at%)は、[M/(Fe+M)]×100(%)が16〜20%の範囲内となるように調整することが好適である。かかる場合、Fe−M−NをRFコンベンショナルスパッタ法で形成することが好適である。これにより、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約2000以上にできる。
【0033】
あるいは、Nの組成比は、15at%以上で18at%以下の範囲内であることが好ましい。また残りのFeとMの組成比(at%)は、[M/(Fe+M)]×100(%)が17〜19%の範囲内となるように調整することが好適である。かかる場合、Fe−M−NをDC対向ターゲットスパッタ法で形成することが好適である。これにより、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約1400以上にできる。
Fe−M−Nにおいて、元素MにはAlを選択することが好ましい。
【0034】
または、本実施形態の軟磁性膜12,13は、組成式がTaMbXcで示され、元素TにはFeを、元素XにはOを選択することも可能である。このとき、元素MがZrで、Zrの組成比bが、7.95〜8.36at%の範囲内、Oの組成比cが、8.11〜9.27at%の範囲内であることが好適である。そして、組成比a+b+cの合計が100at%である。
【0035】
あるいは、本実施形態の軟磁性膜12,13は、組成式がTaMbXcで示され、元素TがFeで、元素MがAlで、元素XがOであり、Alの組成比bが、9.79〜21.38at%の範囲内、Oの組成比cが、6.99〜16.75at%の範囲内であることが好適である。また組成比a+b+cの合計が100at%である。
【0036】
Fe−M−Oからなる軟磁性膜では、Fe−M−Nからなる軟磁性膜よりも複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)が小さくなりやすいものの、上記のように組成比の調整により、約800以上、好ましくは約1000以上の複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を得ることが可能である。
【0037】
軟磁性膜12,13におけるアモルファス相は、微結晶相間の粒界に限らず、その周囲を囲むように存在する。上記したように軟磁性膜12,13は、アモルファス相中に微結晶相が存在した混相構造となっている。
【0038】
軟磁性膜12,13中に含まれるアモルファス相15は体積比率で20〜80%程度であることが好適である。
【0039】
軟磁性膜12,13と交互に積層される絶縁膜14aは、軟磁性膜12,13間を電気的に絶縁する膜である。本実施形態では、少なくとも軟磁性膜12,13の間に介在する絶縁膜14aを有することが必要である。
【0040】
絶縁膜14aには、酸化絶縁膜、窒化絶縁膜、炭化絶縁膜等を提示できるが、酸化絶縁膜であることが好ましい。また、絶縁膜14aにはSiO2膜、Al2O3膜、Fe2O3膜、Ta2O3膜、TiO2膜、Mo2O3膜のうち1種以上を選択できる。また、絶縁膜14aは、軟磁性膜12,13と同じT−M−O膜であるがOの組成比が高く(具体的には30at%以上)絶縁性のT−M−O膜とすることも出来る。この場合、絶縁膜14aの成膜と、軟磁性膜12,13の成膜に同じターゲットを使用できるメリットがある。このT−M−O膜は全て酸化物の結晶相からなるか、または、アモルファス相と酸化物の結晶相からなる非磁性膜であり、軟磁性膜12,13の結晶構造と異なるものである。
【0041】
本実施形態では図2(a)に示すように、各軟磁性膜12,13の膜厚をT1に薄くできる。ここで各軟磁性膜12,13を同じ膜厚あるいは異なる膜厚にすることも出来る。各軟磁性膜12,13の膜厚は0.5μm以上で3μm以下であることが好ましい。
【0042】
特に、本実施形態における各軟磁性膜12,13がFe−M−Nで形成されるとき、各軟磁性膜12,13の膜厚を0.5μm以上で1.2μm以下に設定することができる。このように、各軟磁性膜12,13の膜厚を1.2μm以下にし、複数の磁性膜の総厚を薄くしても、優れた通信感度を得ることが出来る。
【0043】
軟磁性膜12,13を複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)が高いFe−M−Nで形成することで、Fe−M−Oに比べて各軟磁性膜12,13の膜厚及び複数の軟磁性膜12,13の総厚を薄くしても、優れた通信感度を得ることが出来る。
【0044】
ただし、各軟磁性膜12,13(Fe−M−O、Fe−M−Nに係り無く)の膜厚を薄くしすぎても、十分な通信感度の向上を図ることができない。そのため、各軟磁性膜12,13の膜厚の下限値を0.5μmと設定した。
【0045】
本実施形態では、軟磁性膜12,13の膜厚をT1で形成するとともに、軟磁性膜12,13の積層数を2〜8程度にすることができ、積層数を2〜4程度とすることが好ましく、積層数を2とすることがより好適である。本実施形態では、各軟磁性膜12,13を上記したように薄く形成するが、極端に細分化せず、積層数を少なくすることで、軟磁性膜12,13の総厚を薄くでき、しかも効果的に通信感度を向上させることができる。
【0046】
各絶縁膜14aの膜厚は、10nm〜500nm程度とすることが好ましく、100nm以下とすることがより好ましい。
【0047】
そして本実施形態では、各磁性部材9,10の膜厚T2は、夫々、1μm以上で12μm以下であることが好ましい。また、前記総厚を、8μm以下、あるいは6μm以下、又は4μm以下、更には2μm以下にすることも出来る。
【0048】
このように本実施形態では、各磁性部材9,10を複数の高抵抗の軟磁性膜12,13に分離し、各軟磁性膜12、13間に絶縁膜14aを介在させた構造としたが、これに対して各磁性部材9,10を軟磁性膜の単層構造とした比較例1と対比すると本実施形態では、磁性部材9,10の膜厚T2を、比較例1における磁性部材の膜厚以下に抑えることができるとともに、比較例1に比べて各ICカード4,7の通信感度を効果的に向上させることが可能になる。本実施形態のように高抵抗の軟磁性膜を薄く複数枚に分離することで、渦電流損失の低減等をより効果的に図ることができ、これにより軟磁性膜を単層構造にするよりも優れた通信感度を得ることができるものと考えられる。
【0049】
また例えば磁性粉末と結着材とを有し基材上に既存の手法(例えばドクターブレード法)にて形成されてなる磁性シートを各ICカード4,7と金属部材8間に介在させた比較例2の構成では、各ICカード4,7の通信感度を優れたものに出来ても各磁性シートが数十μm〜数百μmと非常に厚く通信装置1の薄型化を促進できない。
【0050】
これに対して本実施形態によれば第1のICカード4及び第2カード7を一枚に集約した通信装置1を薄型で、且つ、無線通信の際に混信することなく、各ICカード4,7の夫々の通信感度を効果的に向上させることが可能になる。
【0051】
各ICカード4,7の厚みにもよるが、本実施形態では、通信装置1全体の厚みを、概ね、700μm〜900μm程度に設定することが可能である。
【0052】
本実施形態では図2(b)に示すように、金属部材8と軟磁性膜12との間に絶縁膜14bを介在させたり、図2(c)に示すように、軟磁性膜13とICカード4との間に絶縁膜14cを介在させることが可能である。あるいは、図2(b)と図2(c)とを合わせて、金属部材8と軟磁性膜12との間、及び、軟磁性膜13とICカード4との間の夫々に絶縁膜14b,14cを介在させることも可能である。
【0053】
なお第2の磁性部材10についても図2(b),図2(c)と同様の積層構造を適用することが出来る。
【0054】
本実施形態では、各磁性部材9,10を金属部材8の表面、あるいは、各ICカード4,7の表面に直接、成膜することが可能である。各磁性部材9,10を金属部材8の表面に成膜したほうが、各ICカード4,7が磁性部材9,10の成膜下に曝されることがなく好ましい。すなわち本実施形態では、各磁性部材9,10を金属部材8の両面に成膜し、各磁性部材9,10とICカード4,7の間を図示しない粘着層を介して接合することが好適である。
【0055】
また各磁性部材9,10を金属部材8やICカード4,7とは別の基材表面(樹脂シートの表面)に成膜する構成であってもよい。かかる場合、各磁性部材9,10と金属部材8、及び、各磁性部材9,10とICカード4,7間を粘着層を介して接合する。
【0056】
ただし、各磁性部材9,10を金属部材8の表面、あるいは、各ICカード4,7の表面に直接、成膜する構成とするほうが、軟磁性膜12,13や絶縁膜を成膜するのに別に基材を設けなくても金属部材8やICカード4,7を基材として用いることができ、また粘着層の数も減らすことができ、通信装置1全体の厚みをより効果的に薄くすることができ好適である。
【0057】
本実施形態の軟磁性膜12,13及び絶縁膜14a,14b,14cは、物理蒸着法により成膜されるが、物理蒸着法としては、RFまたはDC平行平板マグネトロンスパッタ法(MT法)、DC対向ターゲットスパッタ法(FTS法)、RF対向ターゲットスパッタ法、RFコンベンショナルスパッタ法、蒸着法、反応性プラズマ蒸着法等を提示できる。
【0058】
また本実施形態における軟磁性膜は高抵抗を有する軟磁性膜であれば、Fe−M−Xに限定されるものではない。
【0059】
なお本実施形態における「通信部材」とはリーダライタとの間で無線通信を行うものを指し限定されるべきものではない。例えば人が電子マネーや乗車券等して利用するものを「ICカード」と称し、物に使用するものを「ICタグ」と称して、分けて定義されるような場合には、図1に示すICカード4,7の部分をICタグとすることもできる。
【実施例】
【0060】
実施例、従来例、比較例1及び比較例2の各通信装置の通信感度について以下の実験を行った。
【0061】
実施例、従来例、比較例1及び比較例2の全ての実験において、図4に示すように、通信装置Bとリーダ装置C(1ターンコイル、ネットワークアナライザー)との間に15mmのギャップ(gap1)を設けた状態で周波数と信号出力との関係を測定した。
【0062】
まず実施例の通信装置を図6に示す積層構造で形成した。すなわち図6に示すように、第1の通信部材Dと、第2の通信部材Eと、第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間に位置する金属部材8と、第1の通信部材Dと金属部材8との間に位置する第1の磁性部材9と、第2の通信部材Eと金属部材8との間に位置する第2の磁性部材10とを有する積層構造とした。
【0063】
第1の通信部材D及び第2の通信部材Eには、図1に示すコイル及びICチップを備える機能シートを用いた。金属部材8には、SUS304の金属板を用いた。また、第1の磁性部材9及び第2の磁性部材10をFe69.75at%Al16.04at%N14.21at%(0.9μm)/SiO2(0.1μm)/Fe69.75at%Al16.04at%N14.21at%(0.9μm)の積層構造で形成した。括弧内の数値は膜厚を示している。なお、磁性部材の各層はRFコンベンショナルスパッタ法にて成膜した。
【0064】
また第1の通信部材Dと第1の磁性部材9間には0.2mm程度のギャップを設けた。一方、第2の通信部材Eと第2の磁性部材10間にはギャップを設けなかった。このように第1の通信部材D側にギャップを設けたのは、共振周波数を第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間でずらすためである。
【0065】
図9(a)は、第1の通信部材Dをリーダ装置側に対向させて測定した周波数と信号出力との関係を示すグラフ、図10(b)は、第2の通信部材Eをリーダ装置側に対向させて測定した周波数と信号出力との関係を示すグラフである。
信号出力の絶対値が大きいほど通信感度が優れていることを意味する。
【0066】
本実施例では、図9(a)(b)に示すように、第1の通信部材Dの共振周波数と、第2の通信部材Eの共振周波数とが干渉せず、しかも優れた通信感度を得ることが出来るとわかった。なお図9(a)(b)には、第1の通信部材D/金属部材とし、あるいは、第2の通信部材E/金属部材として実験を行った結果(グラフ上では「金属」を称する)もあわせて掲載した(図10〜図12についても同様である)。
【0067】
本実施例では、第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間を、金属部材8と第1の磁性部材9及び第2の磁性部材10により分離した。さらに本実施例では各磁性部材9,10をFeAlN/SiO2/FeAlNの積層構造とした。これにより、リーダ装置からの磁束を通信装置へ適切に引き寄せることができるとともに渦電流損失をより効果的に低減できる。以上により、各通信部材D,Eとリーダ装置との間で無線通信を可能とし、且つ各通信部材D,Eの通信感度を効果的に向上させることができる。しかも本実施例では、各磁性部材9,10の厚さを後で説明する比較例1と同等以下にでき、また比較例2よりも十分に薄く形成でき、複数の通信部材を一枚に集約した通信装置の薄型化を効果的に促進することができる。
【0068】
図6は、従来例の通信装置の構造である。すなわち図6では第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間に金属部材や磁性部材を介在させずに2枚の通信部材D,Eを重ねた構造である。図6では、第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間に、0.2mmのギャップ(gap2)を設けた。
【0069】
図10に、従来例の通信装置の実験結果を示す。2つの通信部材D,Eは夫々、共振周波数が13.56MHzであるにも関わらず、図11に示すように、第1の通信部材D及び第2の通信部材Eの共振周波数は13.56MHzから大きくずれることがわかった。
【0070】
よって第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとを重ねて使用するとリーダ装置との間で無線通信不能となることがわかった。
【0071】
次に、図7は、比較例1の通信装置の構造である。図7の比較例1では、第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間を金属部材8により分離した。更に第1の通信部材Dと金属部材8との間に第1の磁性部材30を介在し、第2の通信部材Eと金属部材8との間に第2の磁性部材31を介在した。
【0072】
第1の通信部材D及び第2の通信部材Eには、図1に示すコイル及びICチップを備える機能シートを用いた。金属部材8には、SUS304の金属板を用いた。また、第1の磁性部材30をFe69.75at%Al16.04at%N14.21at%(2μm)の単層で形成し、第2の磁性部材31をFe69.75at%Al16.04at%N14.21at%(3μm)の単層でRFコンベンショナルスパッタ法にて成膜した。括弧内の数値は膜厚を示している。
【0073】
また第1の通信部材Dと第1の磁性部材30間には0.2mm程度のギャップを設けた。一方、第2の通信部材Eと第2の磁性部材31間にはギャップを設けなかった。このように第1の通信部材D側にギャップを設けたのは、共振周波数を第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間でずらすためである。
【0074】
図11(a)は、第1の通信部材Dをリーダ装置側に対向させて測定した周波数と信号出力との関係を示すグラフ、図11(b)は、第2の通信部材Eをリーダ装置側に対向させて測定した周波数と信号出力との関係を示すグラフである。
【0075】
比較例1では、図11(a)(b)に示すように、第1の通信部材Dの共振周波数と、第2の通信部材Eの共振周波数とが干渉しないことがわかった。
【0076】
しかしながら図11(a)(b)の比較例1では、図9(a)(b)の実施例に比べて、信号出力の絶対値が小さく、優れた通信感度を得ることが出来ないとわかった。比較例1では、第1の磁性部材30及び第2の磁性部材31をFeAlNの単層構造で形成し、第1の磁性部材30と第2の磁性部材31とを足した膜厚は5μmであった。これに対して本実施例では、第1の磁性部材9と第2の磁性部材10とを足した膜厚が3.8μmであった。
【0077】
このように、比較例1では実施例に比べて磁性部材の膜厚を厚くしたのにも関わらず、通信感度が低下し、十分な通信距離を得ることができないとわかった。これは比較例1のように磁性膜の単層構造で各磁性部材9,10を形成すると、渦電流損失の低減を十分に図ることができないためと考えられる。
【0078】
次に、図8は、比較例2の通信装置の構造である。図8の比較例2では、第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間を金属部材8により分離した。更に第1の通信部材Dと金属部材8との間に第1の磁性部材32を介在させ、第2の通信部材Eと金属部材8との間に第2の磁性部材33を介在させた。
【0079】
第1の通信部材D及び第2の通信部材Eには、図1に示すコイル及びICチップを備える機能シートを用いた。金属部材8には、SUS304の金属板を用いた。また、第1の磁性部材32及び第2の磁性部材33には、アルプス電気(株)製のRFID用の磁性シート(80R50)を用いた。この磁性シートは金属磁性粉末をバインダー樹脂と混合してスラリーとし、シート状に成形したものである。
【0080】
また第1の通信部材Dと第1の磁性部材30間には0.2mm程度のギャップを設けた。一方、第2の通信部材Eと第2の磁性部材31間にはギャップを設けなかった。このように第1の通信部材D側にギャップを設けたのは、共振周波数を第1の通信部材Dと第2の通信部材Eとの間でずらすためである。
【0081】
図12(a)は、第1の通信部材Dをリーダ装置側に対向させて測定した周波数と信号出力との関係を示すグラフ、図12(b)は、第2の通信部材Eをリーダ装置側に対向させて測定した周波数と信号出力との関係を示すグラフである。
【0082】
比較例2では、図12(a)(b)に示すように、第1の通信部材Dの共振周波数と、第2の通信部材Eの共振周波数とが干渉しないことがわかった。しかも、優れた通信感度を得ることも出来た。
【0083】
しかしながら比較例2では、各磁性部材32,33の厚みが夫々、50μmであった。これに対して本実施例では、各磁性部材9,10の厚みを1.9μmに抑えることが出来るから比較例2に比べて本実施例は、優れた通信感度を得ることができるとともに、通信装置の薄型化を効果的に促進することができるとわかった。
【0084】
次に磁性膜の膜組成と複素比透磁率の実数部μ´等との関係に関する実験を以下の通り行った。
【0085】
RFマグネトロンスパッタ法にて各基材上に、FeZrO(0.2μm)磁性膜を成膜し、このとき、各基材上に成膜された各FeZrOの組成比を夫々、下記の表1に示す値で成膜した。
【0086】
次に、RFコンベンショナルスパッタ法にて各基材上に、FeAlN(0.2μm)磁性膜を成膜し、このとき、各基材上に成膜された各FeAlNの組成比を夫々、下記の表1に示す値で成膜した。
【0087】
次に、DC対向ターゲットスパッタ法にて各基材上に、FeAlN(0.2μm)磁性膜を成膜し、このとき、各基材上に成膜された各FeAlNの組成比を夫々、下記の表1に示す値で成膜した。
【0088】
なお、各磁性膜の組成比は、EDS(エネルギー分散型蛍光X線分光法)あるいはAES(オージェ電子分光法)により測定した。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示すように磁性膜としてFeMO膜を使用した場合、Oの組成比を8.11〜9.27at%の範囲内とすると複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を800以上、好ましくは1000以上にできることがわかった。また複素比透磁率の虚数部μ″(13.56MHz)を50〜70程度に小さくできることがわかった。また、FeとMとの組成比を、[M/(Fe+M)]×100(%)が8.8〜9.1%の範囲内となるように調整することが好適であるとわかった。
【0091】
次に、RFコンベンショナルスパッタ法にて成膜されたFeMN膜を使用した場合、Nの組成比を、13at%以上で16at%以下の範囲内とすると、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約2000以上にできることがわかった。また、複素比透磁率の虚数部μ″(13.56MHz)を約100〜300程度に小さくできることがわかった。また残りのFeとMの組成比(at%)を、[M/(Fe+M)]×100(%)が16〜20%の範囲内となるように調整することが好適であるとわかった。なお、上記実施例において使用した磁性膜は、表1中、Fe69.75at%Al16.04at%N14.21at%の組成と同じものである。
【0092】
次に、DC対向ターゲットスパッタ法にて成膜されたFeMN膜を使用した場合、Nの組成比を、15at%以上で18at%以下の範囲内とすると、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約1400以上にできることがわかった。また、複素比透磁率の虚数部μ(13.56MHz)を約100〜200程度に小さくできることがわかった。また残りのFeとMの組成比(at%)を、[M/(Fe+M)]×100(%)が、17〜19%の範囲内となるように調整することが好ましいとわかった。またNの組成比を、15at%〜17.4at%程度とすると、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約1700以上にできより好ましいことがわかった。
【0093】
以上から上記のような組成を有する磁性膜は優れた透磁率の特性を有しており、本発明に当該磁性膜を適用すれば優れた通信感度を得ることができることは明らかである。
【符号の説明】
【0094】
B、1 通信装置
D 第1の通信部材
E 第2の通信部材
4 第1のICカード(第1の通信部材)
7 第2のICカード(第2の通信部材)
8 金属部材
9 第1の磁性部材
10 第2の磁性部材
11 リーダライタ
12、13 軟磁性膜
14a、14b、14c 絶縁膜
15 アモルファス相
16 微結晶相
21 金属層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部装置との間で無線通信を行うための第1の通信部材及び第2の通信部材と、前記第1の通信部材と前記第2の通信部材の間に位置する金属部材と、前記第1の通信部材と前記金属部材との間に位置する第1の磁性部材と、前記第2の通信部材と前記金属部材との間に位置する第2の磁性部材と、を有して構成され、
前記第1の磁性部材及び前記第2の磁性部材は、積層された複数の軟磁性膜と、各軟磁性膜間に介在する絶縁膜とを有して構成されることを特徴とする通信装置。
【請求項2】
各軟磁性膜は、主成分の元素T(元素TはFeまたはCoまたはその混合物を表す)と、元素M(元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Ca、Ce、Yのうち少なくともいずれか一種を表す)と、元素X(OまたはNのうち少なくともいずれか1種を表す)とを有して形成される請求項1記載の通信装置。
【請求項3】
前記軟磁性膜は、Fe−M−Nにて形成される請求項2記載の通信装置。
【請求項4】
前記絶縁膜は、SiO2膜で形成される請求項2又は3に記載の通信装置。
【請求項5】
前記第1の磁性部材、及び、前記第2の磁性部材は、各通信部材あるいは、前記金属部材に直接、成膜されている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項6】
前記第1の磁性部材、及び、前記第2の磁性部材は、樹脂シート上に成膜されたものである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項7】
前記軟磁性膜は、膜構造が、元素Mと元素Xの化合物を含むアモルファス相と、前記アモルファス相中に元素Tを主体とした微結晶相とを有してなる請求項1ないし5のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項1】
外部装置との間で無線通信を行うための第1の通信部材及び第2の通信部材と、前記第1の通信部材と前記第2の通信部材の間に位置する金属部材と、前記第1の通信部材と前記金属部材との間に位置する第1の磁性部材と、前記第2の通信部材と前記金属部材との間に位置する第2の磁性部材と、を有して構成され、
前記第1の磁性部材及び前記第2の磁性部材は、積層された複数の軟磁性膜と、各軟磁性膜間に介在する絶縁膜とを有して構成されることを特徴とする通信装置。
【請求項2】
各軟磁性膜は、主成分の元素T(元素TはFeまたはCoまたはその混合物を表す)と、元素M(元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Ca、Ce、Yのうち少なくともいずれか一種を表す)と、元素X(OまたはNのうち少なくともいずれか1種を表す)とを有して形成される請求項1記載の通信装置。
【請求項3】
前記軟磁性膜は、Fe−M−Nにて形成される請求項2記載の通信装置。
【請求項4】
前記絶縁膜は、SiO2膜で形成される請求項2又は3に記載の通信装置。
【請求項5】
前記第1の磁性部材、及び、前記第2の磁性部材は、各通信部材あるいは、前記金属部材に直接、成膜されている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項6】
前記第1の磁性部材、及び、前記第2の磁性部材は、樹脂シート上に成膜されたものである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項7】
前記軟磁性膜は、膜構造が、元素Mと元素Xの化合物を含むアモルファス相と、前記アモルファス相中に元素Tを主体とした微結晶相とを有してなる請求項1ないし5のいずれか1項に記載の通信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−8814(P2012−8814A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144356(P2010−144356)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
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