説明

通気性多孔質電極と通気性セパレータおよびそれらを用いた燃料電池とそれらの製造方法とそれを用いた乗り物

【課題】通気性多孔質電極と、通気性多孔質スペーサーと、通気性多孔質電極および/または通気性多孔質スペーサーを用いた燃料電池と、その燃料電池を用いた乗り物を提供する。
【解決手段】担持体となる貫通孔を有する多孔質基材表面に、一端に反応性の感応基、他端にチオール基を含む化合物より形成された被膜で覆われた反応性金属微粒子と溶媒を含むペーストを塗布する工程と硬化する工程とにより作成した貫通孔を有する通気性の基材表面に直接結合した通気性多孔質電極と、同様の方法で作成した電気絶縁性微粒子ペーストを通気性多孔質電極上に塗布硬化して作成した通気性多孔質電極と直接結合した通気性多孔質スペーサー13とから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気性多孔質電極と通気性セパレータ、およびそれらを用いた燃料電池とそれらの製造方法とそれを用いた乗り物に関するものである。
【0002】
特に、本発明において、燃料電池用の通気性多孔質電極として用いる金属には、触媒作用を有するPtやPd,Ro,Ru,V等がある。
【背景技術】
【0003】
従来、燃料電池用の通気性多孔質電極兼触媒は、触媒効率を向上させたり、使用量を低減するため、担持体の表面に触媒金属微粒子を塗布したり、担持体に触媒金属微粒子を混入する方法が用いられている。
例えば、ナノスケールサイズの触媒金属微粒子を担持体の表面の微小な任意の領域に任意の形状で分散固定する技術、あるいは表面が樹脂からなる基体と、基体上に備わり、不飽和結合部を有するシランモノマーと触媒微粒子とを含む触媒微粒子層とを有し触媒微粒子層が、シランモノマーの不飽和結合部と基体との化学結合により、基体に固定する技術に関する下記の特許文献がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−80084号公報
【特許文献2】特開2008−161838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、担持体に触媒金属微粒子を分散表面固定する方法では、露出する触媒の割合が少なくなり利用効率が悪いという課題があった。
また、シランモノマーの脱水縮合を用いる方法では、表面に水酸基を有しない純粋なPt等の貴金属の微粒子を固定できないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題に鑑み、
(1)触媒金属微粒子と、前記触媒金属微粒子の担持体となる貫通孔を有する通気性の基材(例えば、通気性個体高分子電解質等)と、前記基材表面と反応性する官能基と触媒金属微粒子表面と反応するチオール基等の官能基を合わせ持つ物質とを用いて、
担持体となる貫通孔を有する多孔質基材表面に、一端に反応性の感応基、他端にチオール基を含む化合物より形成された被膜で覆われた反応性金属微粒子と溶媒を含むペーストを塗布する工程と硬化する工程とにより作成した貫通孔を有する通気性の基材表面に直接結合した通気性多孔質電極と
(2)同様の方法で作成した電気絶縁性微粒子ペーストを通気性多孔質電極上に塗布硬化して作成した通気性多孔質電極と直接結合した通気性多孔質セパレータを提供する。
【0007】
さらに、
(3)それら通気性多孔質電極および/または通気性多孔質セパレータを用いた燃料電池(図5)を提供する。
さらにまた、その燃料電池を用いた乗り物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したとおり、本発明によれば、通気性多孔質電極と通気性セパレータ、およびそれらを用いた燃料電池を塗布工程と硬化工程を用いて作成できる効果がある。また、それらを用いた燃料電池を低コストで提供できる格別の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、触媒金属微粒子表面に直接担持体の表面と反応性する官能基を有する単分子膜を形成する工程を概念的に説明するために、分子レベルまで拡大した図である。(実施例1)
【0010】
【図2】図2(a)は、活性水素を有する通気性個体高分子電解質表面に、前記通気性個体高分子電解質表面と反応性する官能基を有する単分子膜で被覆した触媒金属微粒子のペーストを塗布し硬化する工程を説明するための断面概念図であり、微粒子触媒層を形成した状態である。また、図2(b)は、さらにスぺーサー層を積層した状態を示す断面図である。(実施例3)
【0011】
【図3】図3(a)は、表面に活性水素を含む通気性基材(この場合は、通気性個体高分子電解質ナフィオン)の断面図である。 図3(b)は、図2の○A部を分子レベルまで拡大した図であり、通気性個体高分子電解質表面に、前記通気性個体高分子電解質表面と結合した通気性触媒金属微粒子層を形成する工程を概念的に説明するための拡大図である。(実施例3)
【0012】
【図4】図4は、図2の○B部を分子レベルまで拡大した図であり、通気性個体高分子電解質表面に、通気性個体高分子電解質表面と結合した通気性触媒金属微粒子層を形成する工程と、さらに前記通気性触媒金属微粒子層と結合した通気性セパレータを形成する工程を概念的に説明するための拡大断面図である。(実施例3)
【0013】
【図5】図5は、本発明の燃料電池の構造を概念的に説明するために作成した斜視図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、担持体の表面と反応性する官能基と触媒金属微粒子表面と反応する官能基を持つ物質を用いて、
(1)貫通孔を有する通気性多孔質基材表面に、一端に反応性の感応基、他端にチオール基を含む化合物より形成された被膜で覆われた反応性金属微粒子と溶媒を含むペーストを塗布する工程と硬化する工程とにより、通気性多孔質電極を製造提供する。
【0015】
さらに、同様にして、(2)金属微粒子の代わりに電気絶縁性微粒子を用いて通気性多孔質スぺーサーを製造提供する。
【0016】
このとき、微粒子ペーストはバインダー成分を全く含まず、微粒子は微粒子表面の互いに接触する部分の反応性の被膜を介してのみ結合硬化されるので、通気性は粒子間の空隙で十分確保される。
【0017】
さらに、金属として触媒作用を有する貴金属、例えばPtを使用し、前記と同様の技術を用いて、(3)固体高分子電解質両面に通気性多孔質触媒電極と通気性多孔質スぺーサーを重ねて燃料電池単一セルを作成する工程と、このセルを複数層積層して圧着する工程とにより、スタック構造に組み立てられた燃料電池を製造提供する。
【0018】
なお、複数の前記燃料電池セルを重ねて圧着加熱すると、セル表面の前記通気性多孔質スペーサー表面には、互いに反応性の官能基が残っているので、加熱するだけで前記通気性多孔質スペーサーを介して電池セルを接着できる。
【0019】
したがって、本発明の燃料電池では、通気性多孔質固体高分子電解質と通気性多孔質触媒電極層と通気性多孔質スペーサーと通気性多孔質触媒電極層がそれぞれ互いに共有結合しているため、耐剥離性が高く、衝撃に強く、信頼性が高い軽量且つコンパクトな燃料電池を提供できる。
【0020】
なお、起電圧を高めるためには、通気性多孔質固体高分子電解質と通気性多孔質触媒電極層と通気性多孔質スペーサーとからなる燃料電池のセル単体(単一セル)を必要層数分スタック構造にして重ねて組み立てれば良い。
【0021】
また、このとき、通気性多孔質触媒電極層をナノ金属粒子で作成しておけば、金属微粒子は微粒子表面の互いに接触する部分の反応性の被膜を介してのみ結合硬化されるので、反応性の被膜として単分子膜状の被膜を使用すれば、微粒子間はせいぜい1〜2nmの有機被膜で隔てられるのみであり、電子は、トンネル現象で流れ、反応ガスは触媒金属微粒子表面まで拡散しうるので、通気性の金属電極でありながら、導電性はバルク並みの導電性(バルク金属の70%程度)を確保でき、且つ触媒利用効率の高い通気性多孔質触媒電極層を製造できる。なお、この単分子膜は、耐熱性は300℃程度まであるので、通常の燃料電池として使用する場合は問題はない。
【0022】
さらに、この製造方法では、スタック構造の燃料電池を印刷と圧着で製造できるため、製造コストを大幅に低減できる作用がある。
【0023】
以下、本願発明の実施例を詳細に説明するが、本願発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0024】
なお、本発明において、単なるガス透過性の電極としてなら、金属微粒子には、導電性のAu、Ag、Cu、Ni等の貴金属微粒子や、透明導電性の酸化物であるZnO、ITO、FTO、あるいはそれらを含む合金が使用できた。また、触媒作用を有するガス透過性の電極としてなら、Pt、Pd、Ro、Ru、V等の貴金属微粒子、あるいはそれらを含む合金が使用できた。
以下、代表例として触媒作用を有する貴金属微粒子であるPt(白金)微粒子を取り上げて説明するが、この限りではない。
【実施例1】
【0025】
まず、100nm程度の大きさの白金微粒子1を用意し、よく乾燥した。(図1(a)) ここで、白金以外には、Pd,Ro,Ru,V等、あるいはそれらの合金の触媒作用を有する貴金属微粒子が利用できた。また、粒径は、小さいほど単位重量あたりの表面積が大きくなり触媒効率は高くなるが、好ましくはナノメートル乃至数十ミクロンである。これより大きくなると、単位重量あたりの表面積が小さくなり触媒利用効率が悪くなる。また、これより小さくなると酸素や水素の通気性が悪くなる。
【0026】
次に、化学吸着剤として一端にチオール基、他端に反応性官能基を有する薬剤、例えば、下記化学式(化1)で示す薬剤を1重量%(好ましくい化学吸着剤の濃度は、0.05〜3重量%程度)となるように秤量し、エタノールに溶かして化学吸着液を調製した。
【0027】
【化1】

【0028】
この吸着液に前記100nm程度の白金微粒子1を混入撹拌して普通の空気中(相対湿度45%でも可能であったが、湿度は低いほどよい。)で2時間程度反応させた。このとき、白金微粒子表面は、前記薬剤のチオール基と直接チオレート結合2するので、前記化学吸着剤の−Si(OCH)基を表面にした反応性の単分子膜で被覆される。
【0029】
その後、エタノール中に入れて撹拌洗浄すると、余分の吸着剤を除去でき、下記化学式(化2)で示す単分子膜状の反応性の被膜3が、白金の微粒子を被うように形成できた。(図1(b))
【0030】
【化2】

【0031】
なお、この処理では、被膜は、ナノメートルレベルの膜厚で極めて薄いため、粒子形状を損なうことはなかった。また、この被膜を、そのまま残しておいても酸素や水素の気体はこの被膜分子の間を自由に通過することができ、下地微粒子の触媒作用が損なわれることはなかった。
【0032】
一方、洗浄せずに空気中に取り出すと、反応性はほぼ変わらないが、溶媒が蒸発し白金粒子表面に残った化学吸着剤が粒子表面で空気中の水分と一部反応して、粒子表面に前記化学吸着剤よりなる極薄のポリマー膜が形成された微粒子が得られた。
この場合は、膜厚が数十nm程度となるため、そのままでは下地微粒子の触媒作用が低下するが、耐熱性を上げるため、通気性多孔質触媒電極の微粒子を融着、あるいは焼結する場合には、分解除去できるので触媒作用に問題はなかった。
【実施例2】
【0033】
次に、この微粒子を非水系の有機溶媒(例えば、オクタン)中に分散させて、表面が反応性の白金微粒子ペーストを作成した。なお、ペーストの溶媒として、非水系の有機溶媒以外にも、アルコールや水系溶媒、または水を使用できた。
また、ペースト粘度については、濃度を調整することで容易に制御可能であったので、インクジェットプリンター、スクリーン印刷装置、グラビア印刷装置等、塗布印刷装置に合わせて適宜調整すればよかった。
【実施例3】
【0034】
さらに、図2(a)で示したように、貫通孔を有する多孔質基材表面、例えば、通気性の固体電解質フィルム11(デュポン社のナフィオン等が利用できる。)の両面に数ミクロンの膜厚で塗布(塗布厚みは、必要とする性能に応じて任意に調整できる。)し、有機溶媒を蒸発させて、空気中の水分と反応させると、白金微粒子の接触部では、脱アルコール反応して化学式(化3)の様に架橋硬化して通気性の触媒微粒子被膜12を形成できた。
【0035】
【化3】

【0036】
このとき、図3(a)に示したように、固体電解質フィルム21の表面(図2(a)の11)にもスルホン酸基由来の水酸基22が多数含まれているので、脱アルコール反応して、化学式(化4)の様な結合23が生成され、通気性の固体電解質フィルム21(例えばナフィオン等)の通気性を損なわずに、白金(触媒金属)微粒子24が共有結合23を介して硬化し、固体電解質フィルム21表面に結合固定され、触媒微粒子層25を形成できた。(図3(b))
【化4】

【0037】
また白金微粒子24表面の非接触部の単分子膜は、空気中の水分と脱アルコール反応して、化学式(化5)の様に親水性の水酸基に変化した。
【0038】
【化5】

【0039】
なお、この場合、白金微粒子24は、1ナノメートル程度の被膜で被われているだけなので、粒子間隙が損なわれることもなく通気ルート26が確保でき、反応でできた水蒸気も、微粒子間隙を自由に通過することがでた。
また、ここで、貫通孔27の大きさは、微粒子の大きさより小さい方が好ましいが、この限りではない。
【0040】
さらに、ここでは、フィルム表面と直接反応する系を用いたが、前記反応性基と直接あるいは間接に反応する他の官能基を含む被膜で、あらかじめフィルム表面を被っておいても、前記他の反応性を有する微粒子表面の被膜とフィルム表面を直接あるいは多官応の架橋剤を介して架橋反応させて、フィルム表面に微粒子を結合固定させ、通気性の触媒微粒層の耐剥離性をさらに向上できた。
【0041】
さらにまた、この通気性触媒微粒子層形成後、もう一度、一端にフッ化炭素基を含み他端にメトキシシリルキを含む物質、例えば、化学式(化6)で示したような物質を含む反応液を通気性触媒微粒子層の表面に塗布し反応させると、表面近傍の微粒子の表面にのみ撥水性の単分子膜を形成でき、固体電解質フィルムに近い側、すなわち、固体電解質フィルムに近い側の触媒微粒子の表面は、化学式(化5)のように水酸基が多数あるので親水性のままで、固体電解質フィルムから遠い外側の触媒微粒子のみを撥水性に加工でき、触媒微粒子膜内の反応で発生した水分の逆流を防止できた。
【0042】
【化6】

【0043】
次に、前述と同様の方法で作成したスペーサーとなる数十ミクロンレベルの大きさの反応性を有する電気絶縁性シリカ微粒子28(好ましい微粒子の大きさは、数百ナノメートル乃至数百ミクロンである。また、この場合は、シリカ表面は、チオール基とは反応しないので、前述のチオール基の代わりに、シリカ表面の水酸基と反応する官能基、例えば、トリメトキシシリル基やクロロシリル基の様な反応性基で置換し、他端をエポキシ基やアミノ基のような反応性基に置換した薬剤(例えば、化学式(化7や8)で表される薬剤が使用できた。)を用いて被覆した絶縁性微粒子のペーストを作成し、塗布して通気性で且つ絶縁性のスペーサー層を両面に形成すると、多孔質のスペーサー層((図2(b)の13と図4の29)を形成できた。
【0044】
【化7】

【0045】
【化8】

【0046】
なお、末端がエポキシ基の単分子膜で被覆した場合には、トリアゾール等の多感能架橋剤を用いて、効率よく微粒子間を架橋硬化できた。
また、微粒子の材質は、電気絶縁性で且つ表面が親水性で有れば、無機物でも良いし有機物でも良かった。
さらに、このスぺーサー層は、後工程でのスタック構造に組み立て容易性と、通気量を多くするためには、両面塗布した方がよいが、必要に応じて片面でも良い。
【0047】
さらにまた、この場合も、前述と同様に通気ルート26’を確保できた。(図4)
【0048】
最後に、図5に示したように、プラス、マイナスのリード線31,32を引き出した単一セル33を必要数積み重ね、スタック構造に組合せて加熱圧着し、空気吹き込み口34と水素ガス(ダイレクトメタノール型の燃料電池の場合はメタノール)吹き込み口35、さらに反応した水取出口36の層端面を残して他の層端面を封止すると、軽量小型の積層型燃料電池37を印刷で製造できた。
【0049】
なお、このとき、それぞれの微粒子膜表面には、接触すると互いに脱水縮合反応する化学式(化4)、あるいは化学式(化4)類似のシラノール基が残存している。したがって、圧着加熱するだけで接触点で脱アルコール反応が生じ、単一セル間を接着積層できた。また、この様な接着層は、互いに共有結合を介して、結合しているので、反応ガスを端面から圧入しても単一セル間およびそれぞれの層間で簡単に剥がれることは無かった。
【0050】
また、ここで、触媒金属微粒子やスペーサーの粒子の形状は、大きさが異なる微粒子を混合して用いていても良い、この場合、微粒子密度を向上でき通気速度を低減できる効果がある。
反対に、あらかじめ塗布微粒子ペーストに発泡剤を混入させておき、硬化時に発泡させて、前記微粒子より大きな空隙を含んだ状態で微粒子を結合固定させると、通気抵抗を低減でき流速を稼ぐことが可能となる。
【0051】
さらに、微粒子として、同様の方法であらかじめ小さな金属微粒子で被われた大きな金属微粒子を作成しておき、それを用いても、空隙をより大きくでき、通気抵抗を低減でき流速を稼ぐことが可能となる。特に、触媒金属層形成の場合、材質が異なる大きな微粒子の表面に固定された触媒金属微粒子を用いている。例えば、大きな粒子に低コストなシリカ等の無機微粒子を用い、小さな微粒子に白金等の微粒子を用いると、触媒使用料を低減できる効果がある。
ここで、大きな微粒子が500〜1ミクロンであり、小さな金属微粒子の大きさが、前記大きな微粒子の1/5〜1/100である方が好ましい。
【0052】
さらにまた、反応性の触媒金属微粒子の表面に、一端に反応性の感応基を含み他端にチオール基を含む化合物の膜を形成する際、一端に反応性の感応基を含み他端にチオール基を含む化合物と、一端にフッ化炭素基を含み他端にチオール基を含む化合物を任意の比率で混合して形成しておくと、反応性で且つ適度に撥水性を有する被膜で被われた微粒子を作成でき、生成される水の離水性を向上できた。
【0053】
さらにまた、金属微粒子を単なる電極としてもう1層追加して用いる場合には、導電性のAu、Ag、Cu、Niや、透明導電性のZnO、ITO、FTOの微粒子を触媒金属表面に塗布して利用できるが、燃料電池の場合には、触媒作用を有するPt、Pd、Ro、Ru、V、あるいはそれらを含む合金そのものを用いるほうが、電極と兼用できて都合がよい。
この場合、通気性の電極の導電率は、用いる導電性の微粒子のバルク導電率に依存するが、良好に作成すれば、バルク導電率の70%程度を確保できた。
【0054】
なお、使用薬剤については、(化1)のチオール基を含む化合物の代わりに、下記一般化学式(9)で表される化学物質が使用できた。
(化9)
(AO)3Si−(CH2−T
【0055】
具体的には、下記化学式(11)〜(18)ので表される化合物が使用可能であった。
(11)HN−(CH2−T
(12)HOOC−(CH2−T
(13)EP−(CH2−T
(14)(AO)3Si−(CH2−T
(15)HS−(CH2−T
(16)HO−(C)−T
(17)HN−(C)−T
(18)HS−(C)−T
ここで、(11)〜(18)の化合物において、
Tは、SH基を含めて、トリアジンチオール(下記化学式19)基、トリアゾールチオール(下記化学式20)基等、SH基を含む官能基を表す。
また、nは0〜16の整数であり、Aはアルキル基であり、EPは、下記化学式(21)または(22)を表す。
【0056】
【化19】

【0057】
【化20】

【0058】
【化21】

【0059】
【化22】

【0060】
また、上記実施例においては、フッ化炭素系化学吸着剤としてCF3(CF27(CH22SiSi(OCH)3を用いたが、上記のもの以外にも、下記(31)〜(42)に示した物質が利用できた。
(31) CF3CH2O(CH2)15Si(OCH)3
(32) CF3(CH2)Si(CH3)2(CH2)15Si(OCH)3
(33) CF3(CF2)(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9Si(OCH)3
(34) CF3(CF2)(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9Si(OCH)3
(35) CF3COO(CH2)15Si(OCH)3
(36) CF3(CF2)5(CH2)2Si(OCH)3
(37) CF3CH2O(CH2)15Si(OC)3
(38) CF3(CH2)Si(CH3)2(CH2)15Si(OC)3
(39) CF3(CF2)(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9Si(OC)3
(40) CF3(CF2)(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9Si(OC)3
(41) CF3COO(CH2)15Si(OC)3
(42) CF3(CF2)5(CH2)2Si(OC)3
【0061】
さらに、エポキシ基やアミノ基を含む(化7)や(化6)の代わりに、下記一般化学式(51〜66)で表される物質が使用できた。
(51) (CHOCH)CH2O(CH2)Si(OCH)3
(52) (CHOCH)CH2O(CH2)11Si(OCH)3
(53) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OCH)3
(54) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OCH)3
(55) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OCH)3
(56) (CH2OCH)CH2O(CH2)Si(OC)3
(57) (CHOCH)CH2O(CH2)11Si(OC)3
(58) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OC)3
(59) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OC)3
(60) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OC)3
(61) H2N (CH2)Si(OCH)3
(62) H2N (CH2)Si(OCH)3
(63) H2N (CH2)Si(OCH)3
(64) H2N (CH2)Si(OC)3
(65) H2N (CH2)Si(OC)3
(66) H2N (CH2)Si(OC)3
【0062】
ここで、(CHOCH)基は、前記化学式(化21)で表される官能基を表し、(CHCHOCH(CH)CH基は、前記化学式(化22)で表される官能基を表す。
【0063】
さらにまた、触媒金属微粒子およびスペーサーの微粒子の形状は、微細フィラメントやファイバーも利用可能であった。また、スペーサーの材質は、電気絶縁性の粒状のシリカ、アルミナ、セラミックス、あるいはガラス等の無機物、または有機物であることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0064】
なお、この状態では、耐熱性は300℃程度である。そこで、より高温の耐熱性を必要とする場合には、触媒金属微粒子やスペーサー粒子の溶融温度以下で且つ有機膜が分解する温度以上で加熱すると、前記有機被膜は酸化あるいは分解除去されて有機膜を含まない微粒子膜を形成でき、耐熱性は触媒金属微粒子やスペーサー粒子の溶融温度以下まで向上できた。
【0065】
また、この燃料電池は、極めて軽量且つコンパクトであるため、長時間通話が可能な携帯電話の電源や、CO負荷を低減、およびエネルギー利用効率の向上が求められる乗り物のガソリンに代わるエネルギー供給装置として組み込めば、最大限の効果を発揮できる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
上記実施例では、通気性の触媒電極を用いた燃料電池について説明したが、本発明の通気性多孔質電極は、触媒電極に限定されるものではない。通気性を必要とされる多孔質電極としてならどのような分野にも利用可能である。
【0067】
また、通気性のスペーサーは、電気絶縁を必要とする通液性あるいは通イオン性のスペーサーとしても利用可能である。
【0068】
特に、本発明の燃料電池は、極めて軽量且つコンパクトであるため、電源を必要とする移動用装置、例えば携帯電話や乗り物に利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 白金微粒子
2 チオレート結合
3 反応性の被膜
11 通気性の固体電解質フィルム
12 白金微粒子
13 多孔質のスぺーサー層
21 固体電解質フィルム
22 水酸基
23 結合
24 白金微粒子
25 触媒微粒子層
26、26’ 通気ルート
27 貫通孔
28 電気絶縁性シリカ微粒子
29 多孔質のスぺーサー層
31 プラスのリード線
32 マイナスのリード線
33 単一セル
34 空気吹き込み口
35 空水素ガス吹き込み口
36 水取出口
37 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に反応性の感応基、他端にチオール基を含む化合物より形成された被膜で覆われた反応性金属微粒子が前記被膜を介して貫通孔を有する通気性の基材表面に結合固定されていることを特徴とする通気性多孔質電極。
【請求項2】
反応性金属微粒として、大きさが異なる微粒子を混合して用いていることを特徴とする請求項1に記載の通気性多孔質電極。
【請求項3】
反応性金属微粒子が、前記微粒子より大きな空隙を含んだ状態で結合固定されていることを特徴とする請求項1に記載の通気性多孔質電極。
【請求項4】
反応性金属微粒子として、小さな金属微粒子で被われた大きな金属微粒子を用いていることを特徴とする請求項1に記載の通気性多孔質電極。
【請求項5】
反応性の金属微粒子として、あらかじめ材質が異なる大きな微粒子の表面に固定された金属微粒子を用いていることを特徴とする請求項1に記載の通気性多孔質電極。
【請求項6】
反応性の金属微粒子の表面が、一端に反応性の感応基を含み他端にチオール基を含む化合物と、一端にフッ化炭素基を含み他端にチオール基を含む化合物の混合被膜で被われていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の撥水撥油通気性多孔質電極。
【請求項7】
前記被膜が、前記化合物の硫黄を介して直接金属微粒子表面に結合形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の撥水撥油通気性多孔質電極。
【請求項8】
前記被膜が単分子膜であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の撥水撥油通気性多孔質電極。
【請求項9】
前記金属微粒子が、導電性のAu、Ag、Cu、Ni、透明導電性のZnO、ITO、FTO、触媒作用を有するPt、Pd、Ro、Ru、V、あるいはそれらを含む合金であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の通気性多孔質電極。
【請求項10】
前記金属微粒子の大きさが、ナノメートル乃至数百ミクロンであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の通気性多孔質電極。
【請求項11】
貫通孔の大きさが微粒子の大きさより小さなことを特徴とする請求項1、2および4〜10のいずれか1項に記載の通気性多孔質電極。
【請求項12】
貫通孔を有する多孔質基材表面に、一端に反応性の感応基、他端にチオール基を含む化合物より形成された被膜で覆われた反応性金属微粒子と溶媒を含むペーストを塗布する工程と硬化する工程を含むことを特徴とする通気性多孔質電極の製造方法。
【請求項13】
反応性金属微粒として、大きさが異なる微粒子を混合して用いていることを特徴とする請求項13に記載の通気性多孔質電極の製造方法。
【請求項14】
ペーストに発泡剤を混合しておき、硬化時に加熱発泡させることを特徴とする請求項12および13のいずれか1項に記載の通気性多孔質電極の製造方法。
【請求項15】
反応性金属微粒子として、あらかじめ小さな金属微粒子で被われた大きな金属微粒子を用いることを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載の通気性多孔質電極の製造方法。
【請求項16】
反応性の金属微粒子として、あらかじめ材質が異なる大きな微粒子の表面に固定された金属微粒子を用いることを特徴とする請求項12〜15のいずれか1項に記載の通気性多孔質電極の製造方法。
【請求項17】
反応性の金属微粒子の表面を、一端に反応性の感応基を含み他端にチオール基を含む化合物と、一端にフッ化炭素基を含み他端にチオール基を含む化合物の混合物で被うことを特徴とする請求項12〜16のいずれか1項に記載の撥水撥油通気性多孔質電極の製造方法。
【請求項18】
前記被膜を、前記化合物の硫黄を介して直接金属微粒子表面に結合形成することを特徴とする請求項12〜17のいずれか1項に記載の撥水撥油通気性多孔質電極の製造方法。
【請求項19】
チオール基を含む化合物として、下記の化学式(11)〜(18)のいずれかで表される化合物を用いることを特徴とする請求項12〜18のいずれか1項に記載の撥水撥油通気性多孔質電極の製造方法。
(11)HN−(CH2−T
(12)HOOC−(CH2−T
(13)EP−(CH2−T
(14)(AO)3Si−(CH2−T
(15)HS−(CH2−T
(16)HO−(C)−T
(17)HN−(C)−T
(18)HS−(C)−T
なお、化学式(11)〜(18)において、
Tは、SH基、または、トリアジンチオール(下記化学式19)基、トリアゾールチオール(下記化学式20)基を表す。
また、nは0〜16の整数であり、
Aはアルキル基であり、
EPは、下記化学式3または4を表す。

【化19】

【化20】

【請求項20】
前記被膜として単分子膜を用いることを特徴とする請求項12〜19のいずれか1項に記載の通気性多孔質電極の製造方法。
【請求項21】
前記金属微粒子として、導電性のAu、Ag、Cu、Ni、透明導電性のZnO、ITO、FTO、触媒作用を有するPt、Pd、Ro、Ru、V、あるいはそれらを含む合金を用いることを特徴とする請求項12〜20のいずれか1項に記載の通気性多孔質電極の製造方法。
【請求項22】
前記金属微粒子として、大きささがナノメートル乃至数百ミクロンのものを用いることを特徴とする請求項12〜121のいずれか1項に記載の通気性多孔質電極の製造方法。
【請求項23】
ペーストの溶媒として、非水系の有機溶媒、水系溶媒、または水を用いることを特徴とする請求項12〜22のいずれか1項に記載の通気性多孔質電極の製造方法。
【請求項24】
多孔質基材表面に、前記反応性基と直接あるいは間接に反応する官能基を含む基材を用いることを特徴とする請求項12〜23のいずれか1項に記載の通気性多孔質電極の製造方法。
【請求項25】
貫通孔を有する多孔質基材表面と微粒子の表面の反応性基とを直接あるいは間接に反応させることを特徴とする請求項12〜24のいずれか1項に記載の通気性多孔質電極の製造方法。
【請求項26】
大きな微粒子と小さな微粒子の表面に、それぞれの反応性基が互いに異なる被膜を形成しておき、互いに直接あるいは間接に反応させて小さな金属微粒子で被われた大きな金属微粒子を作成することを特徴とする請求項15に記載の通気性多孔質電極の製造方法。
【請求項27】
前記大きな微粒子が500〜1ミクロンであり、小さな金属微粒子の大きさが、前記大きな微粒子の1/5〜1/100であることを特徴とする請求項26に記載の通気性多孔質電極の製造方法。
【請求項28】
請求項1乃至11において、チオール基の代わりにアルコキシシリルキを用い、金属微粒子の代わりに電気絶縁性微粒子を用いたことを特徴とする通気性多孔質スペーサー。
【請求項29】
電気絶縁性微粒子がシリカまたはアルミナであることを特徴とする請求項28に記載の通気性多孔質スペーサー。
【請求項30】
請求項12乃至28において、チオール基の代わりにアルコキシシリルキを用い、金属微粒子の代わりに電気絶縁性微粒子を用いることを特徴とする通気性多孔質スペーサーの製造方法。
【請求項31】
電気絶縁性微粒子がシリカまたはアルミナであることを特徴とする請求項30に記載の通気性多孔質スペーサーの製造方法。
【請求項32】
請求項1乃至11の通気性多孔質電極および/または請求項28、29の通気性多孔質スペーサーを用いたことを特徴とする燃料電池。
【請求項33】
請求項12乃至27の通気性多孔質電極の製造方法および/または請求項31、32の通気性多孔質スぺーサーの製造方法を用いたことを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項34】
請求項1乃至33を用いて製造した燃料電池を搭載した乗り物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−96476(P2011−96476A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248565(P2009−248565)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(503002662)
【Fターム(参考)】