説明

通気栓とその製造方法

【課題】透気度が大きく撥水性を高め、低コストで量産化可能に構成されたPBT樹脂多孔質体の通気栓を作る。
【解決手段】PBTとペンタエリスリトールと液状多官能アルコールのコンパウンドを作成し、射出成形して形状化し、成形品からペンタエリスリトール等を温水で抽出する。ペンタエリスリトールの抽出された成形品をPBT製の多孔質体とし、乾燥後パーフルオロアルキル基と酸無水物基を有する分子量で数千程度の撥水剤を、濃度0.2%以下とした有機溶剤溶液にこの多孔質体を浸漬し、数時間浸漬の後に取り出して乾燥し、加熱硬化して通気栓とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動機械、電子、電気機器、一般機械、その他の製造分野一般に用いられる通気栓とその製造方法に関する。更に詳しくは、密閉を要する部品、例えば、自動車のヘッドライトやバックライトのケース部品、電子機器、家電機器等のモーター等の回転機器のケース等に使用されている通気栓とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
密閉部品、例えば、自動車のヘッドライトやバックライトのケース、モバイル電子機器のモーター、重要部品のケース等では、外気による低温や高温、更には内部部品の発熱により高温に曝される。これらの部品、回路等をケースで完全密閉して、水や塵埃の浸入を防ぐのが理想的ではあるが、密閉空間を作ると長期間の温度変化や温度衝撃で、ケース内の空気、水蒸気等の内部圧力が変化し、ケースの変形、破壊等に至ることがある。
【0003】
そのため、水や塵埃の浸入を防ぎつつ内圧を外気圧と等しくさせる通気栓、即ち、撥水性を有し、水の浸入を防止するが外部の大気と通気が可能な通気栓が多用されている。又、屋内用電子機器、家電機器等のモーター、重要部品等のケースでは、屋外で使用される部品ほどは温度変化を受けないものの、塵埃の侵入を防ぐことは同様に重要であるので、どのような環境であっても同様な機能を有する通気栓が多用されている。
【0004】
このような通気栓は種々開発され提案されているが、現行の通気栓は、その大部分がポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下、「PTFE」という。)から製造した不織布を、円筒状プラスチック部品に接着したものである。この技術の例として、通気シートとして構成される通気部材が知られている(例えば特許文献1参照)。この通気部材は、通気性と防水性を有していて、例えば孔径が0.1μm〜10μmの多数の不規則形状の微細孔の形成されたPTFE製の防水性通気膜として、不織布であるパッキングシートを積層したものである。
【0005】
このように、従来からも通気栓部品を使用することで十分に前記した機能は果たされており、現状品に対抗する新製品はまだ見出されていない。しかしながら、現状品も多くの問題点を抱えており、例えば、PTFE製の不織布が高価であること、PTFE製の不織布を貼り付ける工程の信頼性が高くないこと、それ故に出荷前に全数検査を必要とすること、従ってコストが高いこと、等が難点となっている。
【0006】
本発明者等は、既に従来と異なる別の方法で通気栓を試作し、これに十分な性能のあることを既に開示している(特許文献2参照)。これは、先ずポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT」という。)、ペンタエリスリトール(pentaerythritol)、及び少々の第3成分との混合物(コンパウンド)を作成し、これを原料にして射出成形し、得た成形品を温水に浸漬する抽出工程にかけ、ペンタエリスリトール等を抜き出した多孔質体とするものである。
【0007】
この多孔質体を乾燥後に、PTFEエマルジョン系の撥水剤を溶かした懸濁液に浸漬して長時間放置した後、乾燥するものである。この通気栓は、高い通気性と撥水性を有しており、且つ、耐熱性があるエンジニアリングプラスチックでもあるPBTを使用しているので、信頼性がありコスト面でも低コスト化が可能であり、前述のPTFE系の通気栓に比して、効果のあるものである。
【0008】
一方、撥水剤については、多分野に亘って適用可能なものが開発されている。パーフルオロアルキル基を有する撥水剤については、撥水性向上と石油系溶剤への溶解性向上による撥水剤が知られている(例えば特許文献3参照)。これは、溶液型撥水撥油剤組成物が、パーフルオロアルキル基を有するビニルモノマーから誘導された繰り返し単位、及び重合性環状酸無水物から誘導された繰り返し単位を有するグラフト共重合体、及び有機溶剤を含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−315725号
【特許文献2】特開2008−007534号
【特許文献3】特開2001−158811号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明者らが前述した通気栓の製造法に関する量産方法の開発研究を行ったところ、撥水性の獲得にまだ不安定さがあることが判明した。理論的にも試作レベルでも前述したとおり、製造可能なものである。しかし、量産化する上では、撥水性を維持する点においてはまだ不安定なところがあり、改良の余地を有していた。その不安定さについて簡単に理由を記載すると、通気栓自体が保有する連続型気泡の平均直径が、撥水剤付与水溶液中のPTFEエマルジョン径に比較して、十分には大きくないことである。
【0011】
本発明者らが使用した撥水性付与材は、乳化重合で製作したPTFEエマルジョンであり、PTFE高分子を界面活性剤分子が取り巻いて親水性としたものを購入調達したものであった。市販のPTFEエマルジョン粒径は、いずれも特に粒径範囲が決められたものではなく、基本的には布や紙等の表面に吸着させて撥水性を付与するものである。従って、PTFE高分子の凝集や会合があったためか、直径(エマルジョン径)が大きかったものである。
【0012】
この事実に対し、本発明者らにはデータ不足で、テトラフルオロエチレン乳化重合の超微粒子で高分散型のPTFEエマルジョンを安定して得るまでには至っていなかった。超微粒子で高分散型のPTFEエマルジョンを安定供給するためには、保管時間が長く、且つ保管温度が上昇してもエマルジョン同士の凝集や会合が生じない製造時の粒径が維持できるものが必要である。そこで本発明者らは、市販PTFEエマルジョンを、多孔質体の奥の穴壁まで吸着可能にする大口径で連続気泡型のPBT多孔質体を作成しようとしたが、大口径にすると多孔質体の機械的強度が急速に低下する事態が生じ、安定的に生産するための量産化技術の構築には不十分であった。
【0013】
本発明者らは現行品を再検討し、更に改良の努力を行った。現状のPTFE不織布は高価である上に、自動車等が廃棄されシュレッダーダストにされた後に燃焼されると、弗化水素に変化し燃焼炉を損傷させるおそれがある。それに対し、本発明者らが得た前述の発明(特許文献2)で使用する材料は、PBT、ペンタエリスリトールであり、安価な化学材料である上、ペンタエリスリトールは簡単にリサイクル使用できて資源ロスが非常に少ない材料である。
【0014】
又、本発明者らの考慮する通気栓といえども、撥水剤が必要であるが、使用する撥水剤としては高価である。しかし、本発明においては、その使用量はPBT製多孔質体の孔部も含む表面積への吸着分のみであり、表面積が広くても吸着量はそれほど要しない。本発明によるものの通気栓が量産化できれば、環境負荷が小さくなり、コストも下がる可能性が高い。
【0015】
そこで、本発明者らは、PBT製の多孔質の成形品を得るまでの工程は前述の特許文献2で示す技術によりなし得るので、それで良しとし、より安定的に高い耐水圧を与える撥水剤について更に開発研究を行うこととした。本発明者らが得たPBT製多孔質体に最も適した撥水剤を探し出し、安定した量産が可能になるようにしたかったのである。そのため取り扱い時に、火災の危険性の全くない水性撥水剤を使うという発想を変え、生産設備を整えれば有機溶剤系の物も十分安全に扱えるという考え方に変えた。
【0016】
一方、パーフルオロアルキル基含有のモノマーとその他モノマーとを使って共重合体にすると得られる高分子に結晶性が生じることは殆どなく、溶剤に可溶となり易い。撥水剤を軽質の有機溶剤に溶解できれば、その溶液に前記多孔質体を浸漬して吸着させ乾燥する等の簡単な処理で、撥水性の付与をすることができる可能性が高い。既に布や紙製品への撥水性付与で有機溶剤に溶解できる撥水剤が開発され使用されており、傘や防水布の製造で量産処理されている例がある。エマルジョン型でなく溶液型であるので、溶解した撥水剤分子径は凝集や会合がなく、ずっと小さいことも予期できる。そこで本発明者らは、特許文献2の技術で得た多孔質体を改良した上で、その多孔質体に付与する最適の撥水剤を探索すべく可溶型撥水剤を試した。
【0017】
本発明は以上の技術背景のもとに開発されたものであり、次の目的を達成する。本発明の目的は、撥水性効果を高め、コスト削減を実現し、量産化を可能にした通気栓とその製造技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、前記目的を達成するために次の手段をとる。
即ち、本発明1の通気栓は、
通気性を保ちながら異物の混入を防ぐ通気栓において、
ポリブチレンテレフタレート樹脂を25〜50質量%、ペンタエリスリトールを75〜50質量%、液状の多官能アルコール化合物を0.5〜4質量%を含むコンパウンドにより構成され、前記コンパウンドを射出成形後、前記コンパウンドに含まれるアルコール類を抽出、排除して乾燥させた多孔質体形状物を、有機溶剤溶液に浸漬して、パーフルオロアルキル基を含有する高分子化合物を吸着させ、乾燥により前記有機溶剤を揮発させた通気栓であり、
前記通気栓が厚さ2mmの板状形状物のときの透気度がガーレー値で40秒以下で、且つ撥水性が耐水圧1m以上であることを特徴とする。
【0019】
本発明2の通気栓は、本発明1の通気栓において、前記通気栓が厚さ2mmの板状形状物のときの透気度がガーレー値で20秒以下であることを特徴とする。
本発明3の通気栓は、本発明1又は2の通気栓において、前記アルコール類の前記抽出は、水に浸漬して行ったものであることを特徴とする。
本発明4の通気栓は、本発明1ないし3の通気栓において、前記有機溶剤溶液は、少なくとも前記パーフルオロアルキル基を有するアクリル系モノマーと重合性環状酸無水物とを含む共重合体の溶液であることを特徴とする。
【0020】
本発明5の通気栓の製造方法は、
通気性を保ちながら異物の混入を防ぐ通気栓の製造方法であって、
ポリブチレンテレフタレート樹脂を25〜50質量%、ペンタエリスリトール75〜50を質量%、液状の多官能アルコール化合物を0.5〜4質量%を含むコンパウンドを作成するコンパウンド作成工程と、
前記コンパウンドを射出成形機で射出成形し成形品とする射出成形工程と、
前記成形品からアルコール類を抽出、排除し、前記成形品を乾燥し多孔質体形状物とする多孔質体形成工程と、
前記多孔質体形状物を、パーフルオロアルキル基を有する高分子化合物の有機溶剤溶液に浸漬する有機溶剤浸漬工程と、
前記有機溶剤溶液に浸漬した前記多孔質体形状物を乾燥により前記有機溶剤を揮発させて、厚さ2mmの板状形状物のときの透気度がガーレー値で40秒以下で、且つ撥水性が耐水圧1m以上とする有機溶剤揮発工程とからなることを特徴とする。
【0021】
本発明6の通気栓の製造方法は、本発明5の通気栓の製造方法において、前記有機溶剤揮発工程において、前記有機溶剤溶液に浸漬した前記多孔質体形状物を乾燥により前記有機溶剤を揮発させて、厚さ2mmの板状形状物のときの透気度がガーレー値で20秒以下とすることを特徴とする。
本発明7の通気栓の製造方法は、本発明5又は6の通気栓の製造方法において、前記アルコール類の前記抽出は、水に浸漬して行うことを特徴とする。
本発明8の通気栓の製造法は、本発明5ないし7の通気栓の製造方法において、前記有機溶剤溶液は、少なくとも前記パーフルオロアルキル基を有するアクリル系モノマーと重合性環状酸無水物とを含む共重合体の溶液であることを特徴とする。
【0022】
本発明9の通気栓の製造方法は、本発明5ないし8の通気栓の製造方法において、前記有機溶剤溶液は、前記有機溶剤の濃度が0.2質量%以下であることを特徴とする。
本発明10の通気栓の製造方法は、本発明5ないし9の通気栓の製造方法において、前記液状の多官能アルコール化合物はグリセリンであることを特徴とする。
以下、上記本発明を構成する要素である素材、及び製造工程につき詳細に説明する。
【0023】
〔PBT/ペンタエリスリトールのコンパウンドの作成〕
コンパウンドの原材料としては、ペンタエリスリトール、PBT、及び、液状の多官能アルコールを使用する。ペンタエリスリトールとしては、市販されているペンタエリスリトールが使用でき、且つ、その二量体(正確には脱水二量体)、三量体(正確には脱水三量体)を含んでいてもよく、本発明ではその二量体や三量体を含んでいるものを総称して「ペンタエリスリトール」という。この市販品のペンタエスリトールが使用でき、且つ、その二量体(正確には脱水二量体)、三量体(正確には脱水三量体)を含んでいてもよく、本発明ではその二量体や三量体を含んでいるものを総称して「ペンタエリスリトール」という。この市販品のペンタエリスリトールについての意味や理由については後述する。
【0024】
PBTは市販のPBTペレットが使用できるが、PBT粉末が好ましく使用できる。又、液状の多官能アルコールとしては、グリセリン、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタントリオール、等が使用できる。しかし、安価で最も本発明者らが必要としている機能に適しているのはグリセリンであり、その使用が特に好ましい。
【0025】
コンパウンドを作成するに当たって、その混合組成比は、PBTを25〜50質量%、ペンタエリスリトールを75〜50質量%、多官能アルコール化合物であるグリセリンを0.5〜4質量%にすることが好ましい。PBT使用量が25質量%以下でも本発明で目的とする透気度、耐水圧の多孔質体を作成できるが、その強度(構造的強度)が低くなり、通気栓として実際に使用したときに損壊する恐れが生じることと、射出成形での離型が難しくなること等から、商業的な量産製造にはそぐわない。
【0026】
逆に、PBTを50質量%以上にすると、最終製品の透気度が低いものになる。又、グリセリンの組成比が0.5質量%以下であると、最終製品の透気度が不十分なものになり、グリセリンの組成比が4質量%以上であると透気度は増すが最終製品の強度(構造的強度)が不十分なものになる。従って、PBT、グリセリンの割合が、前述した好適な割合以外のものは推奨できない。好ましく選択された所定混合比になる全原料を、ヘンシェルミキサー等の混合撹拌機で混合し、押出機への供給原料とする。
【0027】
〔押し出し成形〕
攪拌、混合された原料は、押出機にて加熱、溶融、押出しを行い、これを切断してペレット化する。以下に述べる押出し方法は、本発明者らが特許出願し提案したものである。その技術内容の詳細は、前述した特許文献2に記載されているので、詳細な説明は省略するが、その原理には単純な溶融、押出し方法と異なるものが含まれている。これらは本発明者らが見出したものであり、本発明に関わる重要な内容を含んでいるので、再度それ説明する。
【0028】
即ち、市販のペンタエリスリトールを加熱して行くと、ほぼ190℃の温度で溶融し、更に加熱して230℃付近の温度を越えると、水蒸気が発生する沸騰状況と類似の危険な状況になる。一般の化学便覧等の文献の記載によると、ペンタエリスリトールの融点は温度260℃近辺とあり、前記の市販品の融点(〜190℃)と異なる。その差異は、ペンタエリスリトールが溶融して液状になれば簡単に脱水二量化すること、及び、ペンタエリスリトールとその脱水二量体の平衡が、250℃付近の温度で後者に10%以上の組成比を与えることによるものである。
【0029】
約190℃の温度は、脱水二量体を約10%含むペンタエリスリトールの融点であり、一般の市販品はこの組成物である。ペンタエリスリトールの融点を正確に測定するには、以下の方法を採用する。即ち、溶剤を使用した再結晶法を繰り返して高純度のペンタエリスリトール結晶を得て、これを試料として融点を測るのである。この方法で測定すると、融点は温度255〜260℃となる。
【0030】
しかしこの融点測定で、ペンタエリスリトールは溶融すると同時に水蒸気を発して沸騰状況になり、直ちに脱水二量体が10%近く生じる。そして前記試料を直ちに冷却して得た二量体含有のペンタエリスリトールを再度加熱すると、190℃付近の温度で溶融し、更に昇温を続けると230℃付近の温度で水蒸気を発して更なる脱水反応が進行する。
【0031】
即ち、190℃の温度は、二量体を10%程度含んだペンタエリスリトールの融点であり、230℃以上の温度にして水蒸気が再び発するのは、二量体への平衡反応や二量体から三量体への平衡反応が更に進むためとみられる。ただし、二量体も三量体も固体のアルコールであり水溶性は高いので、本発明での役割は変わらない。それ故に、これら脱水オリゴマー類を含む全体を本発明では「ペンタエリスリトール」と称することとした。
【0032】
一方、市販されているPBTは、実質的な溶融点が250〜260℃であり、このPBTと市販されているペンタエリスリトールとを溶融、混合しようとすれば、危険温度である230℃を超えてしまうおそれがある。要するに、PBTと市販されているペンタエリスリトールとを溶融、混合する温度まで上げると、市販されているペンタエリスリトールは、脱水縮合反応が起こり、水蒸気を激しく発するので、押出機内で内圧が急上昇し危険である。
【0033】
本発明者らは前述の特許文献2にこの対応策を記載しているが、押出機のスクリュウ/シリンダー温度を230℃の単一温度に保ちつつ押し出すことで、脱水反応の発生を抑えるようにした。この方法により、どのようなポリエステルでも熱アルコールには多少溶解するが、230℃の温度のペンタエリスリトール液に対しては、ポリエステルであるPBTが非常によく溶解したのである。よく溶解したのは、水酸基が4個もついた多官能アルコールのペンタエリスリトール故に生じたことと思われる。
【0034】
本発明者らは、ペンタエリスリトールによるPBTのエステル交換反応に留意した。高温では無触媒でもポリエステルとアルコール間にエステル交換反応が起こり、エステル交換反応が生じると、ポリエステルの分子が結果的に切断されて短分子化する。PBTが短分子化すると、コンパウンド化がよく行われても最終的な通気栓の機械強度が低下するので好ましくない。それ故、シリンダー温度を230℃以上にしないこと、押出機のL/Dを実質的に短くして排出を速めること、等が押出し工程の要点となる。
【0035】
押出機から押し出された溶融物は、冷風で固化するのが最も好ましい。しかし、冷風固化はこの工程のための設備の設置に費用がかかる。このため、溶融物は、冷水中に通してから固化させ切断するのが有効である。0℃に近い温度の冷水では、ペンタエリスリトールの水への溶解度も低く固化も速いので有効である。得られるペレットの組成がやや変化するが、逆に言えばペレットが目標の組成になればよいわけであり、やや多めのペンタエリスリトールを加えて原材料を作成すればよい。冷却水は、昇温しないように冷却装置で冷却しながら循環させる。冷却装置の長時間の使用で冷却水の冷却部には、ペンタエリスリトールの結晶が付着するが、これは剥がして再利用すればよい。
【0036】
〔射出成形〕
前記工程で得たペレットを原料として、これを射出成形し通気栓の形状物を得る。尚、本発明者らが得た試験用試作品の形状は、厚さ2mm直径46mmの円板状物であった。射出温度は240℃までとし、金型温度は常温〜70℃迄の程度とした。射出温度を上げ過ぎると、ペンタエリスリトールの脱水縮合反応により射出筒内で水蒸気が生じる。このため成形作業が困難となり、前述したように高くても245℃の温度までに抑制する必要がある。
【0037】
ただし、むしろ注意すべきは成形品形状にある。即ち、射出物に占める高分子の比率が、通常の樹脂成形より遥かに少ない原料を使用しているので、成形品は成形収縮率がゼロに近い。この成形収縮率がゼロに近いと、円滑に離型しないおそれがある。それ故、離型時に、成形品にエジェクターピンの押出しによる穴が生じたり、離型が出来ても成形品が割れるおそれも生じてトラブルになり易い。これを解消するためには、形状的に離型が容易なように高い抜き勾配を付けた形状品とするか、あるいは押出し部の広い面積を有するエジェクターピンやエジェクタープレートの金型設計をすること、等で配慮をすることが好ましい。
【0038】
〔ペンタエリスリトール等の抽出〕
前記工程で得た成形品から、アルコール分を抽出除去して多孔質体を得る工程である。ペンタエリスリトールはメタノール、エタノール等の軽質アルコールに溶け易く、常温ではこれらのアルコールはPBTに影響を与えない。又、ペンタエリスリトールは温水にも溶け易く、PBTは温水で実質的な影響を受けることはない。従って、抽出材としてメタノール、エタノール等の軽質アルコールも使用できるが、加熱する必要はあるものの安全な抽出工程として温水を使う方が実際的と思われる。
【0039】
例えば、前記工程で得た成形品を50〜80℃温度の大量の温水中に投入浸漬して放置し、成形品中のペンタエリスリトールとグリセリンを抽出する方法が使用できる。6時間も浸漬すると、殆どの前記成分は温水に溶解する。その後に温水から取り出して別の新しい温水に浸漬して更に6時間程度浸漬し、取り出して90℃程度の温度で熱風乾燥機に24時間入れて乾燥するのが好ましい。浸漬物が多くて槽内で成形品が重なるおそれがあるときは、重なりを防ぐゆっくりとした撹拌が必要となる。
【0040】
大量の連続型量産処理では、図1に示すような向流式の抽出装置が使用できる。図1中の水槽1、水槽2、及び水槽3は、水が貯蔵され温度制御できる水槽であり、各水槽1、水槽2、及び水槽3内の水は、約70℃付近の温度に自動制御されている。水槽1には、水道水又は工業用水が供給管6から常時少量ずつ供給されている。水槽1から溢れた水は水槽2に、又水槽2を溢れた水は水槽3に順に供給され、水槽3を溢れた水は冷却槽4に供給される。冷却槽4では冷媒が冷媒管9を通じて水を5℃付近の温度まで冷す。冷却槽4では溶解していたペンタエリスリトールが析出し、析出物は冷却槽4の内壁や管9に付着する。
【0041】
これにより、水中のペンタエリスリトールの濃度は下り、水はポンプ5、管7を経て水槽2に戻される。又、冷却槽4の水の一部は、排出管8を経て排出される。排出管8から排出された排出水には、ペンタエリスリトールとグリセリンが含まれておりBODが高いので、公知技術である活性汚泥等で処理する。治具10は、成形品を入れた浸漬容器であり、この浸漬字具10を水の流れとは逆に、最初に水槽3に浸漬する。
【0042】
次に、水槽2に浸漬し、最後に水槽1に浸漬する方法で、順に図1の矢印で示す方向に送り、成形品からアルコール分を抽出する。水槽3、水槽2、及び水槽1への浸漬時間は、数時間程度にして最終的には99%以上のペンタエリスリトールを抽出する。又、冷却槽4での析出物を時々回収し自然乾燥することで、ペンタエリスリトールは90%以上回収できる。このようにして、浸漬冶具10内の成形品は多孔質体となる。
【0043】
〔撥水剤〕
撥水剤としては、前述したとおり多種多様なものが開発されている。その中で、本発明者らが撥水剤に求める性質は、先ず第1に、溶剤に分散した状態でその大きさ(分子、イオン、エマルジョンなどの直径)が小さいことである。これは、多孔質体の表面から穴を通って中心部分まで撥水剤が侵入し得ることを保証するためである。エマルジョン型ではその直径が大きく安定して孔の奥まで侵入できないので、溶剤に可溶性のものを使用する。
【0044】
又、吸着後に脱離や移動(脱離と再吸着)をしないことが好ましく、移動があっても移動速度が遅いことが望ましい。その為には分子量がある程度大きい、即ち分子量数千以上、の高分子が望ましい。但し、分子量が十万レベルのいわゆる射出成形用ポリマーのレベルの高分子では、溶剤への溶解度が低くなり過ぎてしまう。従って、これらのことから、撥水剤としては分子量数千〜1万程度の高分子であることが好ましい。更には、基材のポリエステル(PBT)と親和性の高い部分が、撥水剤分子内にあって、基材から脱離し難くするのも大事な仕掛けであり好ましい。
【0045】
前述の撥水剤を得るための合成手段は、以下の通りである。即ち、弗素原子が多数付着した化合物を一旦作成し、これを何らかの方法で不飽和結合のあるモノマーの形にして高分子材料にする。次に、前記モノマーにその他モノマーも含めて共重合する。構造の異なるモノマーを使用して共重合すると、結晶性は生じず溶剤可溶性になり易い。しかも、重合度を抑制して数千レベルとすれば使用可能な撥水剤となる。この高分子が基材であるポリエステルに吸着し易くするために、酸無水物基、アミン基、SH基、等の強い官能基を有するモノマーを更にグラフト重合するのが好ましい。特に、無水マレイン酸などは、安価で重合もし易く、そのグラフト重合は最適な方法であると思われる。
【0046】
より具体的には、(1)「パーフルオロアルキル基を有するビニルモノマー」と、(2)「エステル基、酸無水物基、ペプチド結合基、チオエーテル基、等の官能基を有するビニルモノマー」とを共重合物し、更に(3)「酸無水物基を有する重合性モノマー」をグラフト重合したものが撥水剤として特に好ましく使用できる。この具体例は、前述の特許文献3に示されており、吸着させたい基材は、この特許文献3が目指した物と本発明者らが目指した物で異なるが、基本的な考え方は符合している。
【0047】
即ち、同特許文献3による合成例の一部を示すと、(1)としてパーフルオロアルキル基の結合したアルコールのアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルが記されており、(2)として他のアクリル酸エステル、イソシアネート崩れのペプチド結合基を有する(メタ)アクリル酸エステル、及び、チオエーテル基を有する(メタ)アクリル酸エステル等が記されている。
【0048】
(1)及び(2)をラジカル共重合して、分子量を数千程度にした高分子を作成し、これを主鎖として(3)の無水マレイン酸をグラフト重合し、撥水剤とする技術が開示されている。更にこの特許文献3によると、前記撥水性化合物はエステル系の有機溶剤存在下で合成できるが、もう一つの特徴は、合成された撥水剤の高濃度溶液を芳香族系溶剤で希釈でき、非芳香族系溶剤でも多くは希釈できるとある。要するに、単純な非芳香族型炭化水素溶剤にて撥水剤を会合がなく均一に溶解できれば、本発明者らが撥水剤として求めたものと同じになる。しかも、非芳香族炭化水素は、基材のPBTを何ら痛めることがないので非常に好ましい。
【0049】
おそらく、この様な優れた溶剤への可溶性は(2)に複数のモノマーを使用しているのが作用しているものと思われる。この様に合成された撥水剤のうち、ヘキサン等の軽質脂肪族炭化水素によく溶解する物が特に好ましい。その理由は、浸漬して吸着させた後で加熱して溶剤を揮発させるが、基材PBTの融点軟化点が温度250〜260℃であるから、せいぜい温度150℃程度までの加熱で完全揮発させたいからである。
【0050】
本発明によるPBT製多孔質体に、撥水剤を均一に吸着させるため、撥水剤化合物の液中濃度が0.005〜0.1質量%になるように、非芳香族型炭化水素、例えばヘキサン等で希釈し、これをそのまま浸漬用溶液とするのが好ましい。
【0051】
〔撥水性付与〕
前記工程で得た撥水剤溶液を浸漬槽に注入し、この浸漬槽に抽出工程を終えた成形品を投入し、1時間ないし1昼夜放置し、これを浸漬槽から取り出して風乾する。次に、温風乾燥機にて温度90〜150℃で熱風乾燥を数時間ないし1昼夜行うのが好ましい。撥水剤溶液中の撥水剤濃度は、0.1質量%以下の薄いものが使用に好ましい。
【0052】
撥水剤濃度が、0.1質量%以上であると、撥水剤の吸着量が多すぎて多孔質体の穴が細くなり、又、浸漬工程を終えて撥水剤溶液から出した時に溶液が多孔質体の下部に溜り、これがそのまま乾燥固化することも起こり得ることで、透気度が不安定な製品になる。更には、撥水剤合成時に使用した高沸点溶剤の希釈度低くて、それが乾燥後にも残ることがあり、これが多孔質体の穴が詰まること、等々で透気度が不安定な製品になる。従って、撥水剤溶液への浸漬処理は、撥水性を落とさない範囲で出来るだけ薄い溶液とし、むしろ浸漬時間を長く取った方が安定した撥水性(耐水圧)、透気度の商品を製造できる。
【0053】
〔製品評価/透気度〕
次に、本来は紙や布の透気度を測定するための測定機であるガーレー式透気度計(JIS−P8117)を使用して、本発明の通気栓を評価する。現状の通気栓であるPTFE不織布製品も、同じ透気度計を使用して評価しているので比較測定ができる。一般に、透気度はガーレー値で示され、この値は1,220Pa(0.012気圧)の差圧を有する空気を、6.42cmの面積を有する試料に透過させ、この空気100ccが紙、布等の試料を通過する秒数で表される。本発明の通気栓は、射出成形で形状を得ているので厚みはあるが、本発明品のガーレー値はその厚さに反比例する。
【0054】
一般に、厚さが薄いものはガーレー値を低くでき、高い透気度を必要とする製品に使用できるのであるが、実際には、本発明品は多孔質体であり、一般の樹脂成形品に比較すると機械強度が低い。即ち、本発明者らは、0.5mm以下の厚さの製品は実用品として使用すべきでないと考えている。多孔質体形状物を2mm厚の板状形状物とした場合、このときのガーレー値が40秒以下(1mm厚で20秒以下、0.5mm厚で10秒以下)であれば通気栓として使用可能な程度の透気度であるといえる。通常は、多孔質体形状物を2mm厚の板状形状物とした場合、ガーレー値が20秒以下(1mm厚で10秒以下、0.5mm厚で5秒以下)となる透気度が要求される場合が多い。また、用途によっては、多孔質体形状物を2mm厚の板状形状物とした場合、ガーレー値が10秒以下(1mm厚で5秒以下、0.5mm厚で2.5秒以下)となるような高い透気度が要求されることもある。
【0055】
更に言えば、透気度が良すぎると使用できない用途の通気栓の場合には、元々のコンパウンドに於けるPBT含量を増やすか、コンパウンドでの液状多官能アルコールの種類を変えるか(グリセリンをエチレングリコールに変更するか)、或いはコンパウンドでのグリセリンの含有率を下げるか、いずれかを行えばよい。これらの方法により、通気栓の形状を変えることなく透気度を低下させることが可能である。通気栓の形状を変えてよいのであれば、通気部の厚さを厚くするか、或いは通気部の面積を小さくすればよい。
【0056】
〔製品評価/撥水性/耐水圧〕
耐水圧の測定は、前述の図1に示した装置で行った。日本工業規格(JIS)には、直径150mm以上とれる布や紙の耐水圧測定装置が規定されているが、通気栓にそのような大きさのものは求められない。従って、直径50mm程度の試料で測定可能なように、図2に示す測定装置を作成した。図2は、この測定装置を模式的に示した概略図である。この測定装置の試料固定治具の構造、機能を図2をもとに説明すると、台座11は、水の注入側の基台であり、この中心部に貫通孔が開いている。ゴムシート12とゴムシート14は、中央に25mmΦ程度の穴の開いた直径50mmのゴム材で作られたパッキンである。
【0057】
試料13は、測定しようとする材料である。大口径硝子管15は、肉厚のある管状で、長さ50mm程度の短い硝子管である。押さえ用部品16は、大口径硝子管15、試料13等の全体を押さえるための部品であり、アルミニウム合金製である。手回しのネジ部材17は、ボルト状のネジ部材であり、測定装置の本体22にねじ込まれている。手回しのネジ部材17で、台座11と押さえ用部品16の間の部品及び試料13を押さえつけて固定する。一方、水タンク18は、水を貯めるタンクである。この水タンク18は吊り下げられていて、上下動が可能である。上下駆動は、自動昇降装置(図示せず)により行うものであり、この自動昇降装置によって高さを調整できるようにしている。
【0058】
コック19、及びコック21を開くと、水タンク18内の水は目盛付きガラス管20と、台座11の貫通孔で連通する関係になる。試料13の下面は、目盛付きガラス管20で示される水タンク18の水圧で、加圧された状態である。測定方法は、先ずコック21を閉じ、コック19を開放した状態とし、水タンク18を床位置まで下げて、目盛付きガラス管20の水柱高さをゼロmの位置とする。次に、試料固定治具で、試料13を図2に示すように、二枚のゴムシート12、及びゴムシート14で挟んでセットし、位置が定まったらネジ部材17でこの試料13の周縁部を締めて、台座11に押し付ける。
【0059】
次に、コック21を開放し、水タンク18をゆっくりと上方に持ち上げながら目盛付きガラス管20の水の位置を上げ、水圧を上昇させる。肉厚大口径硝子管15をよく監視して、試料13の表面に水滴が生じる水圧を測定する。この測定で、水圧を上昇させる速度が速すぎると耐水圧が高めになるが、目安をつけて何回もやり直すとよい。本発明者らの測定装置は、ガラス管長から測定できる最高の耐水圧は2.5mである。
【0060】
通気栓に使用されるPTFE製不織布も、前述の方法で耐水圧を求めているので、本発明でもこの種の機器を使用して耐水圧を測定する。測定結果からいうと、本発明の通気栓は、2mm厚の平板状物で耐水圧1m以上、高いものは2.0m以上のものが得られる。本発明の通気栓の耐水圧は、製品厚さにほぼ比例する。これは、撥水剤が連続気泡の内側全体に吸着しているからであるともいえる。
【発明の効果】
【0061】
本発明の多孔質成形品であるPBT製の通気栓は、撥水剤をパーフルオロアルキル基含有の高分子化合物の使用により、より撥水効果を高めることができものとなった。また、安価な材料の使用で、コスト低減され量産化が可能な通気栓の製造が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、成形品からペンタエリスリトールを抽出して多孔質体を量産製造する設備のプロセス概要図である。
【図2】図2は、多孔質体の耐水圧を測定するために自作した装置の概要図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
以下、本発明の実施の形態を次の実施例に代えて説明する。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例を詳記する。最初に、実施例より得られた複合体の評価・測定方法を示す。
(a)透気度測定(ガーレー値測定)
「No323ガーレー式デンソメーター(製品名)」(日本国兵庫県、株式会社安田精機製作所製)を使用した。
(b)FT−IR分析
「Magna−750(製品名)」(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式社(Thermo Fisher Scientific K.K.(日本国神奈川県)製)を使用した。
(c)耐水圧測定
前述したガラス管式の自作型測定器を使用した(図1参照)。
【0065】
[実施例1](PBT多孔質体の作成)
射出樹脂として、市販されているPBT「トレコン1401(東レ株式会社(日本国東京都)製)」を使用しているリサイクルラインの中にある、射出成形機のランナースプルー粉砕機から出る粉砕物を、20メッシュのシフターにかけて粉末側を回収し、これをPBT原料とした。ペンタエリスリトールは、市販品である「ペンタエリスリトール(三菱瓦斯化学株式会社(日本国東京都)製)」を使用した。これには10%程度の脱水二量体が含まれていた。
【0066】
グリセリンは、「グリセリン(昭和化学工業株式会社(日本国東京都)製)」を使用した。ヘンシェルミキサーにPBTを30質量部、ペンタエリスリトールを69質量部、グリセリン1質量部をよく混合して、押出し品であるペレットの素材とした。次に、この素材を、単軸押出機「FS50−22(株式会社池貝(日本国茨城県)製)」で、シリンダー温度を全て230℃として高速押出しした。押出し品は、5℃の温度とした冷水を通して高速固化させペレタイザーで破砕した。やや粉末混じりのペレットとなったがそのまま使用することとした。
【0067】
前述の押出し品を、油圧式横型成形機「NS−60(日精樹脂工業株式会社(日本国長野県)製)」にかけ、射出温度230℃、金型温度を50℃として図2に示す、厚さ2mmで直径46mmの円板状物を、200枚を射出成形した。その質量は、4.41〜4.43gで、平均は4.42gであった。この数枚の円板状物を、70℃の温度の温水20リットルに漬けて24時間浸漬し、更に、この温水を新しい物に取り替えて、70℃の温度で24時間浸漬した後に取り出し、更に、この温水を新しい物に取り替えて、70℃の温度で24時間浸漬して取り出し、これを90℃の温度で24時間乾燥した。
【0068】
これでアルコール分の全てが抽出し尽くしたと考え、得た円板状物の平均質量を測ったところ1.41gであり、質量が元の31.9%になっており68.9%が失われていた。元々のコンパウンドには、アルコール分が70%含まれていたから、押出し後の冷水固化の工程で、ペンタエリスリトールの1〜2%が失われるものと推定できた。
【0069】
射出成形機で得た上記と異なる円板状物200枚を、バケツに入れて水道水(群馬県太田市)10リットルを入れ、このバケツの上にポリ袋と輪ゴムで蓋をして、温風乾燥機に入れ70℃の温度にセットして4時間放置し、途中で蓋を取って内部をかき混ぜた。再度、この蓋をして放置し、翌日に蓋を取って温水を全て廃棄し、新たに水道水を10リットル入れて70℃の温度とした温風乾燥機に入れて前日と同じことをし、翌日まで放置した。更に同じことを1日行って温水でアルコール類を抽出した。
【0070】
その後、成形品を取り出して温風乾燥機内の金網の上に置き、90℃の温度で2時間放置して乾燥した。放冷後、全ての成形品の質量を測定した処、1.40〜1.42gの範囲で、平均は1.41gであり、前述のより丁寧な温水による抽出実験の結果と同じであった。この方法でほぼ100%の抽出率の得られることが分かった。この多孔質体10枚を使用してガーレー値を測定したところ、9.5〜12.0秒で平均11.0秒であった。
【0071】
[実施例2](PBT多孔質体の作成)
当初のコンパウンドのレシピーを、PBTを30質量部、ペンタエリスリトールを69.5質量部、グリセリンを0.5質量部とした他は、実施例1と全く同様の実験を行った。得られた多孔質体のガーレー値は、平均21秒であり、透気度が実施例1の約半分に低下していた。
【0072】
[比較例1](PBT多孔質体の作成)
当初のコンパウンドのレシピーを、PBTを30質量部、ペンタエリスリトールを70質量部、グリセリンを0質量部(混合せず)とした他は、実施例1と全く同様の実験を行った。得られた多孔質体のガーレー値は平均155秒であり、透気度が実施例1、及び実施例2よりも遥かに低下していた。
【0073】
[実施例3](PBT多孔質体の作成)
当初のコンパウンドのレシピーを、PBTを30質量部、ペンタエリスリトールを68質量部、グリセリンを2質量部とした他は、実施例1と全く同様の実験を行った。得られた多孔質体のガーレー値は平均6.1秒であり、透気度が実施例1の約2倍にUPしていた。
【0074】
[比較例2](PBT多孔質体の作成)
当初のコンパウンドのレシピーを、PBTを40質量部、ペンタエリスリトールを55質量部、グリセリンを5質量部とした他は、実施例1と全く同様の実験を行った。得られた多孔質体のガーレー値は平均5.0秒であり、透気度は実施例3より僅かにUPしていた。但し、多孔質体が実施例1〜3に比較して強度的に脆かった。
【0075】
[実施例4](PBT多孔質体の作成)
当初のコンパウンドのレシピーを、PBTを20質量部、ペンタエリスリトールを80質量部、グリセリンを1質量部とした他は、実施例1と全く同様の実験を行った。何とか実験は行えたが、押出し品の内に発泡がありペレタイザーから得られるペレットは、破砕が行き過ぎて粉状物が過半となった。これでは射出成形品の組成がバラつくおそれが増加するとともに、押出し作業全般が非常に扱い難くなることが予期された。
【0076】
更に、射出成形時に於いて、成形品の離型で2個に1個が壊れるか傷付き品になる支障が生じ、且つ、ランナーが成形毎に折れる支障が生じた。これらは射出物中の高分子組成分が少ないことによって、固化物が脆くなり、且つ成形収縮が小さいことに起因している。金型設計を変更して射出成形工程を改善することでよくなると思われたが、実際はこのレベルが限界とみられた。なお、得られた多孔質体のガーレー値は、平均6.5秒であり実施例1より高かったが、多孔質体は脆かった。
【0077】
[比較例3](PBT多孔質体の作成)
当初のコンパウンドのレシピーを、PBTを52質量部、ペンタエリスリトールを47質量部、グリセリンを1質量部とした他は、実施例1と全く同様の実験を行った。押出機による押出し工程全般は順調に出来た。又、射出成型機による射出成形も特に問題はなかった。しかし得られた多孔質体のガーレー値は平均80秒であり実施例1より大幅に高かった。
【0078】
[実施例5](撥水剤溶液)
有機溶剤に弗素系撥水剤が溶解されているという、撥水剤溶液「エフトーンGM−106(ダイキン工業株式会社(日本国大阪府)製)」を入手した。固形物濃度は15%であり、溶剤は製品安全データシート(MSDS)によると、主にミネラルスピリット(パラフィン混合物であり「液状パラフィン」とか「流動パラフィン」とも呼ばれ、その方がよく使われる名称である)で希釈されている。フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)で分析したところ、パーフルオロアルキル基に基づくと推定されるピーク(1242cm−1)、(メタ)アクリル酸等のエステル基によるピーク(1729cm−1)、無水マレイン酸によるピーク(1784cm−1)が観察された。
【0079】
撥水剤溶液「エフトーンGM−106」をヘキサンで10倍(質量基準)に薄め、撥水剤濃度が1.5%の溶液とし、これを撥水剤溶液(1.5%)原液とした。この原液を、更にヘキサンで10倍に薄めて、撥水剤溶液(0.15%)を作成した。更に、この希釈液の一部をヘキサンで10倍に薄めて、撥水剤溶液(0.015%)を作成した。
【0080】
[実施例5](浸漬と乾燥:通気栓の完成)
実施例1で作成した多孔質板状物各4枚(合計16枚)を、上記実施例5で作成した撥水剤溶液(0.15%)、撥水剤溶液(0.015%)に、1時間、及び26時間、それぞれ浸漬した。この浸漬後、多孔質板状物を撥水剤溶液から取り出して、SUS製の網の上に載せて数分放置した後、90℃の温度にした熱風乾燥機に網ごと入れ、24時間乾燥した。そして得られた物(通気栓のモデル品)の透気度と耐水圧を測定した。その結果を表1に示す。どれも非常に良い結果であった。
【0081】
[比較例4](浸漬と乾燥:通気栓の完成)
実施例1で作成した多孔質板状物各4枚(合計8枚)を、実施例5で作成した撥水剤溶液(1.5%)に、1時間、及び26時間、それぞれ浸漬した。液から取り出して、SUS製の網の上に載せて数分放置した後、90℃の温度にした熱風乾燥機に網ごと入れ、24時間乾燥した。得られた物(通気栓のモデル品)の透気度と耐水圧を測定した。その結果を表1に示すが、透気度が大きく悪化していた。
【0082】
【表1】

【符号の説明】
【0083】
1,2,3,4…水槽
5…ポンプ
6,7,8…管
10…浸漬治具
11…台座
12,14…ゴムシート
13…試料
15…肉厚大口径硝子管
16…押さえ用部品
17…ネジ部材
18…水タンク
19,21…コック
20…目盛付き硝子管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を保ちながら異物の混入を防ぐ通気栓において、
ポリブチレンテレフタレート樹脂を25〜50質量%、ペンタエリスリトールを75〜50質量%、液状の多官能アルコール化合物を0.5〜4質量%を含むコンパウンドにより構成され、前記コンパウンドを射出成形後、前記コンパウンドに含まれるアルコール類を抽出、排除して乾燥させた多孔質体形状物を、有機溶剤溶液に浸漬して、パーフルオロアルキル基を含有する高分子化合物を吸着させ、乾燥により前記有機溶剤を揮発させた通気栓であり、
前記通気栓が厚さ2mmの板状形状物のときの透気度がガーレー値で40秒以下で、且つ撥水性が耐水圧1m以上である
ことを特徴とする通気栓。
【請求項2】
請求項1に記載の通気栓において、
前記通気栓が厚さ2mmの板状形状物のときの透気度がガーレー値で20秒以下であることを特徴とする通気栓。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の通気栓において、
前記アルコール類の前記抽出は、水に浸漬して行ったものである
ことを特徴とする通気栓。
【請求項4】
請求項1ないし3から選択される1項に記載の通気栓において、
前記有機溶剤溶液は、少なくとも前記パーフルオロアルキル基を有するアクリル系モノマーと重合性環状酸無水物とを含む共重合体の溶液である
ことを特徴とする通気栓。
【請求項5】
通気性を保ちながら異物の混入を防ぐ通気栓の製造方法であって、
ポリブチレンテレフタレート樹脂を25〜50質量%、ペンタエリスリトール75〜50を質量%、液状の多官能アルコール化合物を0.5〜4質量%を含むコンパウンドを作成するコンパウンド作成工程と、
前記コンパウンドを射出成形機で射出成形し成形品とする射出成形工程と、
前記成形品からアルコール類を抽出、排除し、前記成形品を乾燥し多孔質体形状物とする多孔質体形成工程と、
前記多孔質体形状物を、パーフルオロアルキル基を有する高分子化合物の有機溶剤溶液に浸漬する有機溶剤浸漬工程と、
前記有機溶剤溶液に浸漬した前記多孔質体形状物を乾燥により前記有機溶剤を揮発させて、厚さ2mmの板状形状物のときの透気度がガーレー値で40秒以下で、且つ撥水性が耐水圧1m以上とする有機溶剤揮発工程と
からなる通気栓の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の通気栓の製造方法において、
前記有機溶剤揮発工程において、前記有機溶剤溶液に浸漬した前記多孔質体形状物を乾燥により前記有機溶剤を揮発させて、厚さ2mmの板状形状物のときの透気度がガーレー値で20秒以下とする
ことを特徴とする通気栓の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の通気栓の製造方法において、
前記アルコール類の前記抽出は、水に浸漬して行う
ことを特徴とする通気栓の製造方法。
【請求項8】
請求項5ないし7から選択される1項に記載の通気栓の製造方法において、
前記有機溶剤溶液は、少なくとも前記パーフルオロアルキル基を有するアクリル系モノマーと重合性環状酸無水物とを含む共重合体の溶液である
ことを特徴とする通気栓の製造方法。
【請求項9】
請求項5ないし8から選択される1項に記載の通気栓の製造方法において、
前記有機溶剤溶液は、前記有機溶剤の濃度が0.2質量%以下である
ことを特徴とする通気栓の製造方法。
【請求項10】
請求項5ないし9から選択される1項に記載の通気栓の製造方法において、
前記液状の多官能アルコール化合物はグリセリンである
ことを特徴とする通気栓の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−1464(P2010−1464A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120524(P2009−120524)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000206141)大成プラス株式会社 (87)
【Fターム(参考)】