説明

通気栓とその製造方法

【課題】透気度が大きく撥水性を高め、低コストで量産化可能に構成されたPBT樹脂多孔質体の通気栓の製造方法と、その素材を提供する。
【解決手段】PBTとペンタエリスリトールとグリセリンのコンパウンドを作成する。射出成形して形状化し、その成形品からペンタエリスリトールを湯で抽出する。湯抽出後の成形品はPBT製の多孔質体となり、乾燥後にメチル系シリコーン化合物の濃度1〜5%とした有機溶剤溶液にこの多孔質体を浸漬し、取り出して乾燥し、更に加熱硬化し、通気栓とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動機械、電子、電気機器、一般機械、その他の製造分野一般に用いられる通気部品に関する。更に詳しくは、密閉を要する部品、例えば、自動車のヘッドライトやバックライトのケース部品、電子機器や家電機器のモーター等の回転機器のケース等に使用される通気栓とその製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
密閉部品、例えば、自動車のヘッドライト、バックライト等のケース、モバイル電子機器のモーター、重要部品のケース等では、外気の低温、又は高温、更には内部部品の発熱による高温に曝される。これらのケースを完全密閉して、水、塵埃等の異物の浸入を防ぐのが最も好ましいが、密閉空間を作ると長期間の温度変化、温度衝撃等で、この内部に封入されている空気の内部圧力が変化し、ケースの破壊に至ることもある。
【0003】
そのため、水や塵埃の浸入を防ぎつつ内圧を外気圧と等しくさせる部品、即ち、撥水性を有し水の浸入を防止しつつ、外部と通気可能な通気栓が多数使用されている。又、屋内用電子機器、家電機器のモーター等の重要部品のケースでは、屋外で使用される部品ほどは温度変化を受けないものの、塵埃の侵入を防ぐことは同様に重要であるので、どのような環境であっても同様な機能を有する通気栓が多用されている。
【0004】
このような通気栓は種々開発されているが、現行の通気栓は、その大部分がポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下、「PTFE」という。)から製造した不織布を円筒状プラスチック部品に接着したものである。この技術の例として、通気シートとして構成される通気部材が知られている(例えば特許文献1参照)。この通気部材は、通気性と防水性を有していて、例えば孔径が0.1μm〜10μmの多数の不規則形状の微細孔の形成されたPTFE製の防水性通気膜として、不織布であるパッキングシートを積層したものである。
【0005】
このように、従来からも通気栓部品を使用することで前述の機能は果たされており、現状品に対抗する新製品はまだ見出されていない。しかしながら、現状品も多くの問題点を抱えており、例えば、PTFE製不織布が高価であること、PTFE製不織布を貼り付ける工程の信頼性が高くないこと、それ故に出荷前に全数検査を必要とすること等である。従ってコストが高いこと等が難点となっている。
【0006】
本発明者らは既に従来と異なる別の方法で通気栓を試作し、これに十分な性能のあることを既に開示している(特許文献2参照)。これは、先ずポリブチレンテレフタレート樹脂(以下「PBT」という。)と、ペンタエリスリトール(pentaerythritol)と、少々の第3成分との混合物(コンパウンド)を作成し、これを原料にして射出成形し、得た成形品を湯に浸漬する抽出工程にかけ、ペンタエリスリトール等を抜き出した多孔質体とするものである。
【0007】
これを乾燥後に、PTFEエマルジョン系撥水剤を溶かした懸濁液に浸漬して長時間放置した後、乾燥し通気栓とする。この通気栓は高い通気性と撥水性を有しており、且つ、耐熱性あるエンプラでもあるPBTを使用しているので、前述のPTFE系の通気栓に比し信頼性がありコスト面でも低コスト化が可能であり効果のあるものである。
【0008】
一方、撥水剤については、撥水効果のあるものとして、シリコーン系のものが多分野に亘って適用可能であり、市販もされている。メチル系シリコーン高分子化合物はその一例であり、その性質等に関しては非特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2006−315725号
【特許文献2】特開2008−007534号
【非特許文献1】東レ・ダウコーニング社の技術資料N0.F001、p9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献2の通気栓の製造法につき量産法の開発研究を行ったところ、撥水性の獲得にまだ不安定であることが判明した。理論的には、前述のとおり製造可能なものである。しかし特に量産化する上では、撥水性を維持する点においてまだ不安定なところがあり、改良の余地を有していた。その不安定さについて簡単に理由を記載すると、通気栓自体が保有する連続型気泡の平均直径が、撥水剤付与水溶液中のPTFEエマルジョン径に比較して十分には大きくないことである。
【0010】
本発明者らが使用した撥水性付与材は、乳化重合で製作したPTFEエマルジョンであり、PTFE高分子を界面活性剤分子が取り巻いて親水性としたものである。市販のPTFEエマルジョン粒径は、いずれも特に粒径範囲が決められたものではなく、基本的には布や紙等の表面に吸着させて撥水性を付与するものである。従って、PTFE高分子の凝集や会合があったためか、直径(エマルジョン径)が大きかった。
【0011】
この事実に対し、本発明者らは、テトラフルオロエチレン乳化重合の超微粒子で高分散型のPTFEエマルジョンを安定して得るまでには至っていなかった。超微粒子で高分散型のPTFEエマルジョンを安定供給するためには、保管時間が長く、且つ保管温度が上昇してもエマルジョン同士の凝集や会合が生じず、製造時の粒径維持のできるものが必要である。そこで、本発明者らは、市販PTFEエマルジョンを、多孔質体の奥の穴壁まで吸着可能にする大口径連続気泡型のPBT多孔質体を作成しようとしたが、大口径にすると多孔質体の機械的強度が急落する等の問題が生じ、安定生産するための量産化技術の構築には不十分であった。
【0012】
本発明者らは現行品を再検討し、改良の努力を行った。現状のPTFE不織布は高価である上に、自動車等が廃棄されシュレッダーダストにされた後に燃焼されると、弗化水素に変化し燃焼炉を損傷させるおそれがある。それに対し、本発明者らが得た前述の発明(特許文献2)で使用した材料は、PBT、ペンタエリスリトールであり、安価な化学材料である上、ペンタエリスリトールは簡単にリサイクル使用できて資源ロスが非常に少ない材料である。
【0013】
又、本発明者らの考慮する通気栓には、撥水剤処理が必要であり、撥水剤は一般に高価である。しかし本発明においては、その使用量はPBT製多孔質体の孔部も含む表面積への吸着分のみであり、表面積が広くても吸着量はそれほど要しない。本発明によるものの通気栓が量産化できれば、環境負荷が小さくなり、コストも下がる可能性が高い。
【0014】
本発明者らは、PBT製の多孔質の成形品を得るまでの工程は、前述の特許文献2で示す技術によりなし得るため、その技術を利用した。その上で、撥水剤について適したものを選択し、その適用の開発研究を行った。これにより量産化に適した通気栓の可能性を求め、撥水性を付与する際に有機溶剤を使用することとした。
【0015】
一方、メチル系シリコーン高分子化合物は、撥水効果のあることは前述の通りである。シリコーンが水をはじく基本的特性があることは、よく知られており、市販されており容易に購入可能である。このシリコーンは口紅などに使用されていることが知られているが、最近はスポーツウェアの繊維処理剤に使用されている。このメチル系シリコーン高分子化合物の市販品は、いずれも分子量が数千〜数万の高分子の溶液である。これをPBTに付着し易くし、撥水性を高める処理を行うようにすれば、安価で量産化の可能な製造品とすることができる。
【0016】
既に、布や紙製品への撥水性付与で、有機溶剤に溶解できる撥水剤が開発され使用されており、傘や防水布の製造で量産処理されている例がある。浸漬液がエマルジョン型でなく溶液型であるので、溶解した撥水剤分子径は凝集や会合がなく、多孔質体の表面に吸着し易いと考えられる。本発明者らは、特許文献2の技術で得た多孔質体を改良した上で、その多孔質体に付与する最適の撥水剤を探索すべく可溶型撥水剤を試した。
【0017】
本発明は以上の技術背景のもとに開発されたものであり、次の目的を達成する。本発明の目的は、撥水性効果を高め、コスト削減を実現し、量産化を可能にした通気栓とその製造技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、前記目的を達成するために次の手段をとる。
本発明1に係る通気栓は、ポリブチレンテレフタレート樹脂を25〜40質量%、ペンタエリスリトールを75〜60質量%、及び液状の多官能アルコール化合物を0.25〜2.5質量%含むコンパウンドを構成し、このコンパウンドを射出成形し、その射出成形により得られた通気栓型の射出成形品を水に浸漬してアルコール類を抽出した後、乾燥して多孔質体とし、この多孔質体となった前記射出成形品をメチル系シリコーン高分子化合物の有機溶剤溶液に浸漬してシリコーン高分子化合物を吸着させた後、乾燥して前記有機溶剤を揮発させることにより製造されたものであることを特徴とする。
この通気栓を厚さ2mmの板状物とした場合、透気度がガーレー値25秒以下で、且つ撥水性が耐水圧1m以上であることを特徴とする。
【0019】
本発明2に係る通気栓の製造方法は、ポリブチレンテレフタレート樹脂を25〜40質量%、ペンタエリスリトールを75〜60質量%、及び液状の多官能アルコール化合物を0.25〜2.5質量%含むコンパウンドを作成するコンパウンド作成工程と、前記コンパウンドを射出成形機にて射出成形することにより通気栓型の射出成形品を得る成形工程と、前記射出成形品を水に浸漬してアルコール類を抽出した後、乾燥して多孔質体とする抽出工程と、この多孔質体となった前記射出成形品をメチル系シリコーン高分子化合物の有機溶剤溶液に浸漬してシリコーン高分子化合物を吸着させる浸漬工程と、この浸漬工程を経た前記射出成形品を乾燥して前記有機溶剤を揮発させる乾燥工程とからなることを特徴とする。
この製造方法によって得られた通気栓を厚さ2mmの板状物とした場合、透気度がガーレー値25秒以下で、且つ撥水性が耐水圧1m以上であることを特徴とする。
【0020】
本発明3に係る通気栓の製造方法は、本発明2に記載した通気栓の製造方法において、前記乾燥工程は、前記射出成形品を140℃以上の温度に加熱して前記メチル系シリコーン高分子化合物を定着させる工程を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明4に係る通気栓の製造方法は、本発明2又は3に記載した通気栓の製造方法において、前記有機溶剤溶液は、メチル系シリコーン高分子化合物の濃度が0.5質量%以上であることを特徴とする。
【0022】
本発明5に係る通気栓の製造方法は、本発明2ないし4から選択される1に記載した通気栓の製造方法において、前記多官能アルコール化合物は、グリセリンであることを特徴とする。
【0023】
以下、目的物である通気栓の好ましい製造工程につき詳細に説明する。
〔PBT/ペンタエリスリトールのコンパウンドの作成〕
コンパウンドの原材料としては、ペンタエリスリトール、PBT、及び、液状の多官能アルコールを使用する。ペンタエリスリトールとしては、市販ペンタエリスリトールが使用でき、且つ、その二量体(正確には脱水二量体)、三量体(正確には脱水三量体)を含んでいてもよく、本発明ではその二量体や三量体を含んでいるものを総称して「ペンタエリスリトール」という。
【0024】
PBTは、市販のPBTペレットが使用できるが、PBT粉末が好ましく使用できる。又、液状の多官能アルコールとしては、グリセリン、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタントリオール等が使用できる。しかし、安価で最も本発明者らが必要としている機能に適しているのはグリセリンであり、その使用が特に好ましい。
【0025】
コンパウンドを作成するに当たって、その混合組成比は、PBTを25〜40質量%、ペンタエリスリトールを75〜60質量%、多官能アルコール化合物であるグリセリンを0.25〜2.5質量%にすることが好ましい。PBT使用量が25質量%以下でも本発明で目的とする透気度、耐水圧の多孔質体を作成できる。しかしながら、その強度(構造的強度)が低くなり、通気栓としての現場使用で損壊するおそれが生じることと、射出成形での離型が難しくなること等から商業的量産製造にはそぐわない。一方、PBT使用料を40質量%以上にすると最終製品の透気度が低いものになる。
【0026】
又、グリセリンの組成比が0.25質量%以下であると最終製品の透気度が不十分なものになり、2.5質量%以上であると最終製品の強度(構造的強度)が不十分で実用的でなくなる。従って、PBT、グリセリンの割合が前述の好適割合以外のものは推奨できない。好ましく選択された所定混合比になる全原料をヘンシェルミキサー等の混合撹拌機で混合し、押し出し機への供給原料とする。
【0027】
〔押し出し成形〕
攪拌された原料は押し出し機にて加熱溶融押し出しを行い、切断してペレット化する。以下に述べる押し出し方法は、本発明者らの出願によるものである。技術内容の詳細は特許文献2に記載されているので、その詳細な説明は省略するが、その原理には単純な溶融押し出し方法と異なるものが含まれている。これらは本発明者らが見出したものであり本発明に関わる重要内容を含んでいるので、再度説明する。
【0028】
即ち、市販のペンタエリスリトールを加熱して行くと、ほぼ190℃の温度で溶融し、更に加熱して230℃付近の温度を越えると、水蒸気が発生する沸騰状況と類似の危険な状況になる。一般的な化学便覧によると、ペンタエリスリトールの融点は260℃近辺とあり、前記の市販品の融点(〜190℃)と異なる。その差異は、ペンタエリスリトールが溶融して液状になれば簡単に脱水二量化すること、及び、ペンタエリスリトールとその脱水二量化物の平衡が、250℃付近の温度で後者に10%以上の組成比を与えることによるものである。
【0029】
約190℃の温度は、脱水二量化品を約10%含むペンタエリスリトールの融点であり、市販品はこの組成物である。ペンタエリスリトールの融点を正確に測定するには以下の方法を採用する。即ち、溶剤を使用した再結晶法を繰り返して高純度のペンタエリスリトール結晶を得て、これを試料として融点を測るのである。この方法で測定すると、融点は255〜260℃の温度となる。
【0030】
しかし、この融点測定で、ペンタエリスリトールは溶融すると同時に水蒸気を発して沸騰状況になり、直ちに二量体が10%近く生じる。そして前記試料を直ちに冷却して得た二量体含有のペンタエリスリトールを再度加熱すると、190℃付近の温度で溶融し、更に昇温を続けると230℃付近の温度で水蒸気を発して更なる脱水反応が進行する。
【0031】
即ち、190℃の温度は、二量体を10%程度含んだペンタエリスリトールの融点であり、230℃以上の温度にして水蒸気が再び発するのは、二量体への平衡反応や二量体から三量体への平衡反応が更に進むためとみられる。ただし、二量体も三量体も固体のアルコールであり水溶性は高いので、本発明での役割は変わらない。それ故にこれら脱水オリゴマー類を含む全体を本発明では「ペンタエリスリトール」と称することとした。
【0032】
一方、市販PBTは実質的な溶融点が250〜260℃であり、前記の市販ペンタエリスリトールと溶融混合しようとすれば危険温度である230℃を超えてしまう。要するに、溶融混合する温度まで上げると、市販ペンタエリスリトールは脱水縮合反応が起こり、水蒸気を激しく発するので押し出し機内で内圧が急上昇し危険である。
【0033】
本発明者らは前述の特許文献2にこの対応策を記載しているが、押し出し機のスクリュー/シリンダー温度を230℃の単一温度に保ちつつ押し出すことで、脱水反応の発生を抑えるようにした。この方法により、どのようなポリエステルでも熱アルコールには多少溶解するが、特に230℃の温度のペンタエリスリトール液に対しては、ポリエステルであるPBTが非常によく溶解したのである。よく溶解したのは、水酸基を4個有する多官能アルコールのペンタエリスリトール故に生じたことと考えられる。
【0034】
本発明者らは、ペンタエリスリトールによるPBTのエステル交換反応に留意した。高温では無触媒でもポリエステルとアルコール間にエステル交換反応が起こり、エステル交換反応が生じるとポリエステルの分子が結果的に切断されて短分子化する。PBTが短分子化すると、コンパウンド化がよく行われても最終的な通気栓の機械強度が低下するので好ましくない。それ故、シリンダー温度を230℃以上にしないこと、押し出し機のL/Dを実質的に短くして排出を速めること等が押し出し工程の要点となる。
【0035】
押し出し機から押し出された溶融物は、冷風で固化するのが最も好ましい。しかし冷風固化は工程設備の作成に費用がかかる。このため、溶融物は冷水中に通してから固化させ切断するのが有効である。0℃に近い温度の冷水では、ペンタエリスリトールの水への溶解度も低く固化も速いので有効である。
【0036】
得られるペレットの組成がやや変化するが、逆に言えばペレットが目標の組成になればよいわけであり、やや多めのペンタエリスリトールを加えて原材料を作成すればよい。冷却水は昇温しないように冷却装置で冷却しながら循環させる。長時間の使用で冷却水の冷却部にペンタエリスリトールの結晶が付着するが、これは剥がして再利用すればよい。
【0037】
〔射出成形〕
前記工程で得たペレットを原料として射出成形し、通気栓の形状物を得る。尚、本発明者らが得た試験用試作品の形状は、厚さ2mm直径46mmの円板状物であった。射出温度は240℃までとし、金型温度は常温〜70℃程度とした。射出温度を上げ過ぎると、ペンタエリスリトールの脱水縮合反応により射出筒内で水蒸気が生じる。このため成形作業が困難となり、高くても245℃の温度までに抑制する必要がある。そしてこの場合でも射出筒内での滞留時間が長くなり過ぎないように順調な成形が求められる。
【0038】
ただし、むしろ注意すべきは成形品形状にある。即ち、射出物に占める高分子の比率が通常の樹脂成形より遥かに少ない原料を使用しているので、成形品は成形収縮率がゼロに近い。成形収縮率がゼロに近いと円滑に離型しないおそれがある。それ故、離型時に、成形品にエジェクターピンの押し出しによる穴が生じたり、離型出来ても成形品が割れるおそれも生じてトラブルになり易い。これを解消するためには、形状的に離型が容易なように高い抜き勾配を付けた形状品とするか、あるいは押し出し部の広い面積を有するエジェクターピンやエジェクタープレートの金型設計をすること等の配慮をすることが好ましい。
【0039】
〔ペンタエリスリトールの抽出〕
前記工程で得た成形品を50〜80℃温度の大量の水中に投入して放置し、成形品中のペンタエリスリトールとグリセリンを抽出するのが好ましい。6時間も浸漬すると、殆どの前記成分は湯に溶解する。その後に湯から取り出して別の新しい湯に浸漬して、更に6時間程度浸漬し、取り出して90℃程度の温度で熱風乾燥機に24時間入れて乾燥するのが好ましい。浸漬物が多くて槽内で重なるおそれがあるときは、重なりを防ぐために、ゆっくりとした撹拌が必要となる。
【0040】
大量の連続型量産処理では、図1に示すような向流式の抽出装置が使用できる。図1中の水槽1、水槽2、及び水槽3は、水が貯蔵され温度制御できる水槽であり、各水槽1、水槽2、及び水槽3の水は、70℃付近の温度に自動制御されている。水槽1には、水道水又は工業用水が供給管6から常時少量供給される。水槽1から溢れた水は水槽2に、又水槽2を溢れた水は水槽3に順に供給され、水槽3を溢れた水は冷却槽4に供給される。冷却槽4では、冷媒が冷媒管9を通じて水を5℃付近の温度まで冷す。冷却槽4では、溶解していたペンタエリスリトールが析出し、析出物は冷却槽4の内壁や冷媒管9に付着する。
【0041】
これにより、水中のペンタエリスリトールの濃度は下り、水はポンプ5、管7を経て水槽2に戻される。又、冷却槽4の水の一部は管8を経て排出される。排出水には、ペンタエリスリトールとグリセリンが含まれておりBODが高いので、排水後活性汚泥等で処理する。浸漬治具10は、成形品を入れた浸漬治具であり、この浸漬治具10を水の流れとは逆に水槽3に浸漬する。
【0042】
次に、水槽2に浸漬し、次に水槽1に浸漬する方法で、順に図1の矢印で示す方向に送り、成形品からアルコール分を抽出する。水槽3、2、1への浸漬時間は数時間程度にして最終的には99%以上のペンタエリスリトールを抽出する。又、冷却槽4での析出物を時々回収し自然乾燥することで、ペンタエリスリトールは90%以上回収できる。このようにして、浸漬冶具10内の成形品は多孔質体となる。
【0043】
〔撥水剤及びその多孔質体への担持方法〕
撥水剤としては、前述したとおり多種多様なものが開発されている。その中で、本発明者らが撥水剤に求める性質は、先ず第1に、溶剤に分散した状態でその大きさ(分子、イオン、エマルジョンなどの直径)が小さいことである。これは、多孔質体の表面から穴を通って中心部分まで撥水剤が侵入し得ることを保証するためである。エマルジョン型ではその直径が大きく安定して孔の奥まで侵入できないので、溶剤に可溶性のものを使用する。
【0044】
又、吸着後に脱離や移動(脱離と再吸着)をしないことが好ましく、移動があっても移動速度が遅いことが望ましい。その為には分子量がある程度大きい、即ち分子量が数千以上の高分子が望ましい。但し、分子量が十万レベルのいわゆる射出成形用ポリマーのレベルの高分子では、溶剤への溶解度が低くなり過ぎてしまう。従って、これらのことから、撥水剤としては分子量が数千〜1万程度の高分子であることが好ましい。
【0045】
一般に撥水剤として知られるのは、弗化炭化水素系高分子化合物、又はシリコーン系高分子化合物の何れかである。撥水性能は、前者が優れているが後者より高価である。後者は、大量消費されるシリコーンオイル、シリコーンシーラント、シリコーンゴム等の生産品であり、これらの大量消費品のおかげで安価に入手できる。
【0046】
本発明では、撥水剤が吸着する対象の担体が厚みある多孔質体であり、担体表面積は十分に広く、且つ、孔径が小さいので撥水剤は水滴と近づき易い。それ故、本発明においてはシリコーン系撥水剤を用いても、弗素系化合物並に十分使用可能なレベルの撥水機能を付与できるとした。本発明では、市販のコーティング用シリコーン材の内、メチル系シリコーン高分子化合物を使ったコーティング用シリコーン材を使用する。シリコーン系素材メーカーは国内外に生産メーカーが多くあり、どのメーカーも数種の前記市販品を扱っている。何れも分子量が数千〜数万の高分子で、炭化水素系有機溶剤の溶液で市販している。
【0047】
これら市販品は、基本構造がジメチルポリシロキサンであり、且つ、コーティング後に更に高分子化硬化できるよう修飾したものである。この硬化の原理は、各製品によって異なるが、分子端の一部を変性して他の分子端部と脱アルコール反応、脱オキシム反応等で前記化合物同士を縮合させる、又、分子端部をアルケニル化してラジカル反応で結合させる等の方法が採用される。これらの市販品には前記縮合硬化型が多いが、これらの系では硬化を促進する触媒があり、市販時に触媒が既に加えられているものもある。
【0048】
この様な硬化促進能力ある触媒はジブチル錫等である。ただし、ジブチル錫の製造に当たって環境ホルモンとされるトリブチル錫が副生し、その精製工程でこれが完全除去できない問題点があり、昨今は触媒を非錫系品に変える研究開発が行われている。本発明は環境問題に対応するため、硬化促進用触媒を含まないメチル系シリコーン化合物の使用を考慮し、且つ、長期的に十分な撥水機能を持たせられるようにした。
【0049】
即ち、本発明者らが撥水剤とするメチル系シリコーン化合物の基本構造は、ジメチルポリシロキサンである。ジメチルポリシロキサンは、所謂シリコーンオイルの1種でありこれ自身にも撥水性がある。前述の非特許文献1に、ジメチルポリシロキサンを何らかの素材(ここでは担体と称する)に塗布した場合についての説明がなされている。
【0050】
これによると、ジメチルポリシロキサン自身の酸素原子が担体と半結合し、珪素原子が担体から並んで浮いて整列する形となり、その各々の珪素原子から2個づつのメチル基が担体面から外部を向いた方向に並ぶ(均等に林立する状態)場合に強い撥水性が生じるとしている。要するに、液状相のような厚みあるジメチルポリシロキサン層は、撥水性があるもののそれほど強くなく、これがごく薄くコーティングされた後に何らかの経過措置を得て担体上で均等に整列したときに高撥水性を生むとの記載である。
【0051】
化学的に言えば、珪素原子が撥水性の根源ではなく、珪素に結合しているメチル基、しかも集団で林立しているメチル基が撥水性の根源であるとの解釈である。本発明は、担体が耐熱性ポリマーのPBTであることから薄く塗布された後に百数十℃の温度に加熱でき、ジメチルポリシロキサン分子が熱運動を得て前述のように整列させることが出来るので、その適用が可能である。加えて、その高温に長く保つことにより無触媒でも縮合反応が進み、高分子化でき、現象的にはメチル基を担体面に焼付けすることができる。
【0052】
即ち、繰り返しになるが、メチル基を担体上で均等に林立した状態にするには、ジメチルポリシロキサンを担体に載せた後に、昇温させてポリシロキサン分子の熱振動を盛んにする。これにより、自身の酸素原子と担体(本発明ではPBT)が干渉する機会を増やし、その経過で担体との半結合が多くできるようにし向けることである。担体は耐熱性のあるPBTであり、170℃程度の温度までなら多孔質体に悪い大きな変化は生じない。
【0053】
ただし、PBT融点や軟化点以下であってもこれに近い高温下に置くとアニールと同様に微細構造に変化が生じる。具体的には、180〜200℃の温度を境にこれより高温では透気度が不安定になることが実験結果で確認されている。
【0054】
本発明者らは、ジメチルポリシロキサンのメチル基を担体上で均等に林立させて撥水性を高めるには、120℃以上の温度の加熱が必要と考えている。同時にジメチルポリシロキサン同士を縮合させて高分子化して担体に定着させる(焼付けする)ため、無触媒ならば120℃以上、好ましくは150〜160℃の加熱が望まれる。
【0055】
更に焼付け条件について述べる。ジメチルポリシロキサンが無触媒で縮合する温度として120℃は十分高い温度であるとは言い難い。しかしながら加熱時間を数日レベルの長時間にすれば目的を達することができる。これらを考慮し、本発明者らは標準的通気栓を製造する時の撥水剤焼付け条件を、120℃の温度であれば1昼夜、150℃の温度であれば数時間とした。
【0056】
しかし、この焼付け条件に限定されることはなく、得られた多孔質体に即して実験し適宜条件設定をすればよい。即ち、通気栓の評価は、得られたものの透気度、耐水圧、及び、−55℃/+100℃レベルの温度衝撃サイクルを1000回程度繰り返し、その後の耐水圧試験等によって定まる。撥水剤の多孔質体への付着は、軽質有機溶媒使用の撥水剤溶液に多孔質体を浸漬することで行われる。
【0057】
市販のメチル系シリコーン化合物を使用したコーティング用シリコーン材は、イソパラフィン、トルエン、キシレン等に溶解されているものが多く、これらはそのまま同様な溶剤で更に希釈すれば、好ましく使用できる。浸漬後に温風乾燥して溶剤を揮発させ、撥水剤を担体に載せる。溶剤を揮発させただけのものも撥水性はあるが、前述のように、これらを更に高温で加熱すれば、その撥水性がさらに高まり好ましい。その場合の加熱温度は120℃以上で、好ましくは150℃程度の温度である。
【0058】
次に、具体的な撥水性付与の工程について述べる。先ずは多孔質体に撥水剤を薄く均一に付着させるため、撥水剤をメチル系シリコーン材の液中濃度が0.25質量%以上になるよう軽質炭化水素、例えばヘキサン等で希釈して浸漬用溶液とする。その濃度は、好ましくは1〜5質量%である。撥水剤溶液を容器にとり、この容器に水浸漬抽出・乾燥工程を終えた成形品を投入し、1時間〜数時間放置し、次にこの容器から成形品を取り出して風乾する。
【0059】
この風乾は、軽質の揮発性溶剤の大部分を揮発させるのに好適である。次いで乾燥機に入れて90〜100℃の温度の熱風乾燥を、1時間程度行って溶媒の殆どを取り除くのが望ましい。その後、120〜150℃の温度に温風乾燥機のセット温度を上げて、数時間〜数日保持し焼き付けするのが好ましい。
【0060】
〔製品評価/透気度〕
次に、本来は紙や布の透気度を測定するための測定機であるガーレー式透気度計を使用して本発明品を評価する。現状の通気栓であるPTFE不織布製品も同透気度計を使用して評価しているので比較測定となる。透気度はガーレー値で示され、この値は1220Pa(0.012気圧)の差圧ある空気を6.42cmの面積にかけ、空気100ccが紙や布を通過する秒数で表される。本発明により製造された製品は、射出成形で形状を得ているので厚みはあるが、本発明の製品の透気度はその厚さに反比例する。
【0061】
一般に厚さが薄いものはガーレー値を低くでき、高い透気度を必要とする製品に使用できるのであるが、実際には、本発明品は多孔質体であり、一般の樹脂成形品に比較すると機械強度が低い。即ち、本発明者らは、0.5mm以下の厚さの製品は実用品として使用すべきでないと考えている。ただし、2mm厚の平板状成形品としてのガーレー値が10秒程度であると、1mm厚の製品でガーレー値は5秒、0.5mm厚品で2.5秒となる。この程度の透気度であると通気栓として十分使用可能な要件を満たしている。
【0062】
更に言えば、透気度が良すぎると困る用途の場合には、元々のコンパウンドに於けるグリセリン含量を減らすか、コンパウンドでの液状多官能アルコールの種類を変えるか(グリセリンをエチレングリコールに変更するか)、の何れかを行えばよい。これにより通気栓の形状を変えることなく透気度を低下させることも可能である。通気栓形状を変えてよいのであれば、通気部の厚さを厚くするか、あるいは通気部の面積を小さくすればよい。
【0063】
〔製品評価/撥水性/耐水圧〕
耐水圧の測定には市販の測定機を用いた。耐水圧測定機は傘布や防水着布や防水紙の耐水圧を測定するのが目的であり、測定対象は直径150mm程度以上の大きな物となっているのが通常である。通気栓にそのような大きさのものは求められないし、本発明者らが得た多孔質体も直径50mm程度と前記より小さいので以下の工夫をした。即ち、1mm厚の塩化ビニルシートを購入して、一辺200mmの正方形に切断し、その中心に直径30mmの孔を開けた。この孔を覆うように通気栓試料を接着剤で貼り付けた。接着剤が十分硬化したのを待って耐水圧を測定した。
【0064】
通気栓に使用されるPTFE製不織布も前述の方法で耐水圧を求めているので、本発明でもこの類の機器を使用して耐水圧を測定する。測定結果からいうと、本発明品の通気栓が2mm厚の平板状物であった場合、耐水圧1m以上、高いものは3.0m以上のものが得られる。本発明品での耐水圧は製品厚さにほぼ比例する。これは撥水剤が連続気泡の内側全体に吸着しているからである。
【発明の効果】
【0065】
本発明の多孔質成形品であるPBT製の通気栓は、撥水剤としてメチル系シリコーン化合物を使用することにより撥水効果を高めることができものとなった。厚さ2mmの板状物としたときの透気度がガーレー値25秒以下で、且つ撥水性が耐水圧1m以上である。また、安価な材料の使用でコスト低減され量産化が可能な通気栓の製造ができることとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0066】
以下、本発明の実施の形態を次の実施例に代えて説明する。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例について比較例を添えて詳記する。
以下に実施例より得られた複合体の評価・測定方法を示す。
(a)透気度測定(ガーレー値測定)
「ガーレ式デンソメータ」(株式会社東洋精機製作所(日本国東京都)製)を使用した。
(b)耐水圧測定
「高水圧型耐水度試験機」(株式会社大栄科学精機(日本国京都府)製)を使用した。
(c)温度衝撃試験
「TCC−150W温度衝撃試験機」(エスペック株式会社(日本国大阪府)製)を使用した。
【0068】
[実施例1](PBT多孔質体の作成)
市販のPBT「トレコン1401(東レ株式会社(日本国東京都)製)」を樹脂用粉砕機「ターボディスクミルTD−150型(株式会社マツボー(日本国東京都)製)」にて粉砕し、粉砕物を20メッシュのシフターにかけ粉末側を回収しこれをPBT原料とした。ペンタエリスリトールは市販品「ペンタエリスリトール(三菱瓦斯化学株式会社(日本国東京都)製)」を使用した。これには10%程度の脱水二量体が含まれていた。グリセリンは「グリセリン(昭和化学社製)」を使用した。
【0069】
ヘンシェルミキサーにPBT30質量部、ペンタエリスリトール69質量部、グリセリン1質量部を取ってよく混合した。次いで押し出し機「FS50−22(池貝鉄工社製)」でシリンダー温度を全て230℃として高速押し出しした。押し出し品は5℃の温度とした冷水を通して高速固化させ、ペレタイザーで破砕した。硬化物は硬いが脆く、ペレタイザーの切断でやや粉末混じりのペレットとなったがそのまま使用した。
【0070】
前述の押し出し品を60T型射出成形機「PS−60(日精樹脂工業株式会社(日本国長野県)製)」にかけ、射出温度を230℃、金型温度を50℃として、厚さ2mmで直径46mmの円板状物を200枚射出成形した。この円板状物数枚を、70℃の温度の湯20リットルに漬けて最初の8時間は1時間毎に1分程度軽く撹拌して24時間置き、湯を新しいものに取り替えて温度70℃で同じ操作をして24時間浸漬後に取り出し、更に湯を新しいものに取り替えて70℃の温度で同じ操作をして24時間浸漬後に取り出し、90℃で2時間乾燥した。乾燥後の円板状物の透気度を測定したところ、ガーレー値で11〜21秒の範囲内にあり平均は16.8秒であった。
【0071】
[実施例2](PBT多孔質体の作成)
当初のコンパウンドのレシピーを、PBT30質量部、ペンタエリスリトール69.5質量部、グリセリン0.5質量部とした他は、実施例1と全く同様の実験を行った。得られた多孔質体のガーレー値は平均20.8秒であり、透気度が実施例1よりやや低かった。
【0072】
[比較例1](PBT多孔質体の作成)
当初のコンパウンドのレシピーを、PBT30質量部、ペンタエリスリトール70質量部、グリセリン0質量部とした他は、実施例1と全く同様の実験を行った。得られた多孔質体のガーレー値は測定した10枚の全てが150秒以上であり、平均は190秒だった。透気度が実施例1、2より顕著にに低下していた。
【0073】
[実施例3](PBT多孔質体の作成)
当初のコンパウンドのレシピーを、PBT30質量部、ペンタエリスリトール67.5質量部、グリセリン2.5質量部とした他は、実施例1と全く同様の実験を行った。多孔質体は得られたが、作成工程はやや難渋した。即ち、射出成形工程で離型時にランナーがよく千切れてランナー回収に手間を取られ、それ故に成形サイクルが安定しなかった。更には、成形品を湯抽出して得た多孔質体は、表面の荒れが目視で確認できる物も多くPBT製構造体として十分な強度の物に出来たとは考えられなかった。但し、これらは金型ランナー部の抜き勾配を更に大きくすること等で改善できる可能性があるので、必ずしも製造不可とは判断できなかった。得られた多孔質体のガーレー値は5〜300秒まで大きくバラついたが、この原因は湯抽出時にかき混ぜをやや激しく行ったために多孔質体を支える内部の柱部が壊れて孔の中で詰まったり孔構造自体が潰れていたせいとみられた。透気度測定時に多孔質板状物を締め付けて密閉する際のの絞め方でも多少の差が出た。軽く締めた試料5個では透気度はガーレー値で5〜30秒であり、きつく締めた試料5個では10〜50秒となった。孔部が大き過ぎて脆いスポンジの様な構造になり、その崩れも生じていることが分かった。通気栓形状が板状物の場合、湯抽出工程でかき混ぜをしないと板状物同士が重なり合って抽出不良になり易く、その対策から湯に何らかの方法で流れを作ることになるが、この工程の量産化を見越して激しくかき混ぜる方法を取ったのである。これが通気孔の大きなこの多孔質体では部分的な破壊を呼んだものである。実際の透気度は実施例1より向上しているはずだが構造的には弱い。通気栓としての実用性を具備しているか否かは孔部の形状次第であり、レシピーとしては上記グリセリンの組成比が上限であるといえる。
【0074】
[比較例2](PBT多孔質体の作成)
当初のコンパウンドのレシピーを、PBT45質量部、ペンタエリスリトール54質量部、グリセリン1質量部とした他は、実施例1と全く同様の実験を行った。ガーレー値は平均で98秒あり透気度は低かった。
【0075】
[実施例4](PBT多孔質体の作成)
当初のコンパウンドのレシピーを、PBT25質量部、ペンタエリスリトール74質量部、グリセリン1質量部とした他は、実施例1と全く同様の実験を行った。何とか多孔質体は得られたが途中工程は難渋した。即ち、押し出し物が非常に脆くペレタイザーから得られる物は破砕が行き過ぎて粉状物が過半となった。更には射出成形の離型時にエジェクターの押し出しで2個に1個が壊れるか傷付き品になる支障が生じ、且つ、ランナーが成形毎に折れた。これらは射出物中の高分子組成分が少ないことによる。金型設計を変更して射出成形工程を改善することでよくなるとも考えられるが、量産上はこのレシピーのPBT組成比が下限といえる。破壊を免れた多孔質体のガーレー値は5〜11秒であった。
【0076】
[実施例5](PBT多孔質体の作成)
当初のコンパウンドのレシピーを、PBT25質量部、ペンタエリスリトール74.5質量部、グリセリン0.5質量部とした他は、実施例4と全く同様の実験を行った。工程の難渋さは実施例4と似たようなものであった。得られた多孔質体のガーレー値は5〜10秒であった。
【0077】
[実施例6](撥水剤溶液)
トルエンにメチル系シリコーン化合物が溶解されている撥水剤溶液「SR2406(東レ・ダウコーニング社製)」を入手した。固形物濃度は50%であった。これにヘキサン(昭和化学工業株式会社(日本国東京都)製)を加えて、固形物濃度を0.5%、1%、2%、及び5%にした溶液を作成した。そしてこれらの撥水剤溶液の名称を「SR2406/0.5」、「SR2406/1」、「SR2406/2」、「SR2406/5」とし、各実施例に適用した。
【0078】
[実施例7](浸漬と乾燥:通気栓の完成)
実施例1で作成した多孔質板状物8枚を実施例6で作成した撥水剤溶液「SR2406/0.5」に1時間浸漬した。液から取り出し、ステンレス鋼(SUS)製の網の上に載せて、ドラフトの中で数十分放置した後、80℃の温度にした熱風乾燥機に網ごと入れ1時間乾燥した。そして熱風乾燥機の温度を150℃に昇温し、この温度で2時間置いた。この物の透気度と耐水圧を測定した。
【0079】
[実施例8〜10](浸漬と乾燥:通気栓の完成)
撥水剤溶液を、実施例8では「SR2406/1」、実施例9では「SR2406/2」、実施例10では「SR2406/5」に各々変更して、実施例7と同様の実験を行った。
【0080】
[実施例11](浸漬と乾燥:通気栓の完成)
実施例2で作成した多孔質板状物8枚を実施例6で作成した撥水剤溶液「SR2406/0.5」に1時間浸漬した。液から取り出し、ステンレス鋼(SUS)製の網の上に載せて、ドラフトの中で数十分放置した後、80℃の温度にした熱風乾燥機に網ごと入れ1時間乾燥した。そして熱風乾燥機の温度を150℃に昇温し、この温度で2時間置いた。この物の透気度と耐水圧を測定した。
【0081】
[実施例12〜14](浸漬と乾燥:通気栓の完成)
撥水剤溶液を、実施例12では「SR2406/1」、実施例13では「SR2406/2」、実施例14では「SR2406/5」に各々変更して、実施例11と同様の実験を行った。
【0082】
実施例7〜14における測定結果を表1に示す。いずれの透気度、耐水圧も、通気栓として非常に優れた値を示しており、良い結果であった。
【0083】
【表1】

【0084】
[実施例15〜18](通気栓の耐久試験)
実施例9、10、13、14で得た通気栓形状物を、それぞれ−55℃/+100℃の温度衝撃試験1000サイクルにかけた。即ち、−55℃の温度に30分置き、5分以内に+100℃の温度にしてこの温度に30分置き、5分以内に元の−55℃の温度に戻す約1時間10分が1サイクルの温度衝撃試験である。この試験後に透気度と耐水圧を測定した。その結果を表2に示す。いずれの測定値も、温度衝撃試験前と殆ど変化なく、上記通気栓の温度衝撃に対する耐久性を確認することができた。
【0085】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、成形品からペンタエリスリトールを抽出して多孔質体を量産製造する設備のプロセス概要図である。
【符号の説明】
【0087】
1…水槽
2…水槽
3…水槽
4…冷却槽
5…ポンプ
6…供給管
7…管
8…管
9…冷媒管
10…浸漬治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂を25〜40質量%、ペンタエリスリトールを75〜60質量%、及び液状の多官能アルコール化合物を0.25〜2.5質量%含むコンパウンドを構成し、
このコンパウンドを射出成形し、その射出成形により得られた通気栓型の射出成形品を水に浸漬してアルコール類を抽出した後、乾燥して多孔質体とし、
この多孔質体となった前記射出成形品をメチル系シリコーン高分子化合物の有機溶剤溶液に浸漬してシリコーン高分子化合物を吸着させた後、乾燥して前記有機溶剤を揮発させることにより製造されたものである
ことを特徴とする通気栓。
【請求項2】
ポリブチレンテレフタレート樹脂を25〜40質量%、ペンタエリスリトールを75〜60質量%、及び液状の多官能アルコール化合物を0.25〜2.5質量%含むコンパウンドを作成するコンパウンド作成工程と、
前記コンパウンドを射出成形機にて射出成形することにより通気栓型の射出成形品を得る成形工程と、
前記射出成形品を水に浸漬してアルコール類を抽出した後、乾燥して多孔質体とする抽出工程と、
この多孔質体となった前記射出成形品をメチル系シリコーン高分子化合物の有機溶剤溶液に浸漬してシリコーン高分子化合物を吸着させる浸漬工程と、
この浸漬工程を経た前記射出成形品を乾燥して前記有機溶剤を揮発させる乾燥工程と
からなることを特徴とする通気栓の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載した通気栓の製造方法において、
前記乾燥工程は、前記射出成形品を140℃以上の温度に加熱して前記メチル系シリコーン高分子化合物を定着させる工程と
を含むことを特徴とする通気栓の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載した通気栓の製造方法において、
前記有機溶剤溶液は、メチル系シリコーン高分子化合物の濃度が0.5質量%以上であることを特徴とする通気栓の製造方法。
【請求項5】
請求項2ないし4から選択される1項に記載した通気栓の製造方法において、
前記多官能アルコール化合物は、グリセリンであることを特徴とする通気栓の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−24361(P2010−24361A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187978(P2008−187978)
【出願日】平成20年7月19日(2008.7.19)
【出願人】(000206141)大成プラス株式会社 (87)
【Fターム(参考)】