説明

通気筐体

【課題】体積増大や構造の複雑化を生じさせることなく簡易な構造で、通気を可能にすることのできる通気筐体を提供する。
【解決手段】筐体1の内側面1aに形成された凹形状の止まり孔としての第1通気孔(内側孔)3に連通するように筐体1の外側面1bに形成された第2通気孔(外側孔)4とからなる通気孔2を有し、その第1通気孔3を覆うようにして筐体1の内側面1aに通気膜5が取り付けられた通気筐体。この通気筐体では、第1通気孔3の最上端位置3bを、複数設けられた第2通気孔4のうち鉛直方向で最も上方に設けられた第2通気孔4B、4Cの最上端位置よりも上方位置に設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気筐体に関し、詳細には通気孔から筐体内部への異物侵入防止用の通気膜を備えた通気筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電子装置等の筐体には、内圧調整用の通気孔と、該通気孔から筐体内部へ塵、水、オイル等の異物が侵入するのを防止するための通気膜が設けられている(例えば、特許文献1に記載)。通気膜は、通気孔を覆ようにして筐体の内面に取り付けられている。
【0003】
この他、通気膜を補強する不織布からなる補強部材を、該通気膜に重ねて設けた通気筐体も提案されている(例えば、特許文献2に記載)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−152891号公報
【特許文献2】特開2001−168541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び2に記載の通気筐体では、通気孔から水が侵入した場合、通気膜全面が水に覆われる可能性があり、内圧調整のための通気孔としての機能を充分に果たせない恐れがある。
【0006】
そこで、本発明は、体積増大や構造の複雑化を生じさせることなく簡易な構造で、通気を可能にすることのできる通気筐体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の通気筐体においては、筐体の内側面に凹形状の止まり孔として形成された第1通気孔の最上端位置を、筐体の外側面に該第1通気孔と連通して形成された第2通気孔のうち鉛直方向で最も上方に設けられた該第2通気孔の最上端位置よりも上方位置に設置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の通気筐体によれば、筐体の内側面に形成した第1通気孔の最上端位置が筐体の外側面の最も上方に設けられた第2通気孔の最上端位置よも上方位置にあるため、最も上方位置の第2通気孔の上部に第1通気孔による空間部が形成され、例え水が第2通気孔から侵入してもこの空間部により通気膜全面が水に覆われることを防止でき、通気膜による通気を確保することができる。したがって、本発明の通気筐体によれば、体積増大や構造の複雑化を生じさせることなく簡易な構造で、例え水が侵入しても通気膜本来の持つ内圧調整機能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は本実施形態の通気筐体の全体斜視図である。
【図2】図2は図1の通気筐体を矢印A方向から見たときの正面図である。
【図3】図3は図1の通気筐体を矢印B方向から見たときの正面図である。
【図4】図4は図1の通気筐体をC−C線で切断したときの要部斜視図である。
【図5】図5は図3のD−D断面図である。
【図6】図6は最も上方に設けられた第2通気孔の位置と第1通孔の位置関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
図1は本実施形態の通気筐体の全体斜視図、図2は図1の通気筐体を矢印A方向から見たときの正面図、図3は図1の通気筐体を矢印B方向から見たときの正面図、図4は図1の通気筐体をC−C線で切断したときの要部斜視図、図5は図3のD−D断面図、図6は最も上方に設けられた第2通気孔の位置と第1通孔の位置関係を説明するための図である。
【0012】
図1に示す筐体1は、例えば自動車等の車室外に設置され、内部に電子制御装置やCPU(Central Control Unit)或いは電装品等を収容するための筐体である。図1では、天板及び底板を省略した平面視矩形状をなす枠形状の筐体1としている。もちろん、実際に電子制御装置等を収容する際には、図示を省略した天板及び底板を枠形状の筐体1に取り付ける。なお、図1に示す筐体1の形状は、一例であり、この形状に限定されるものではない。
【0013】
筐体1には、内部に収容した電子制御装置等が発生する熱や車室外設置に基づく温度差により筐体内外に生じる圧力差を調整するための通気孔2が形成されている。通気孔2は、図2から図5に示すように、筐体1の内側面1aに形成される内側孔である第1通気孔3と、筐体1の外側面1bに形成される外側孔である第2通気孔4とからなる。
【0014】
第1通気孔3は、筐体1の内側面1aに、内側から外側に向かって凹形状の止まり孔として形成されている。本実施形態では、第1通気孔3を、図1の矢印Hで示す方向を筐体1の高さ方向(鉛直方向)とした場合に、細長い略長方形をなす形状としている。この第1通気孔3は、全体的には細長い略長方形であるが、第1通気孔3の鉛直方向における下端部3aを円弧形状とし、上端部3bを直線形状としている。
【0015】
第2通気孔4は、筐体1の外側面1bに、鉛直方向Hで異なる位置に複数設けられており、前記第1通気孔3と連通して形成されている。本実施形態では、第1通気孔3の下端部3aと対応する位置に1箇所と、第1通気孔3の上端部3bよりも少し下の位置と対応する位置に2箇所と、合計3つの第2通気孔4(4A、4B、4C)を形成している。これら第1通気孔3は、筐体1の外側面1bから第1通気孔3に連通する貫通孔として形成されている。
【0016】
これら複数の第2通気孔4のうち鉛直方向Hで最も下方に設けられた第2通気孔4Aは、第1通気孔3の下端位置と同じ位置に設けられている。一方、これら第2通気孔4のうち鉛直方向Hで最も上方に設けられた第2通気孔4B、4Cは、第1通気孔3の鉛直方向における両側部3c、3dの近傍にそれぞれ同一高さとして設けられている。この2つの第2通気孔4B、4Cは、第1通気孔3の上端部3bから下端部3aに向かって所定距離だけ離れた位置に設けられている。換言すると、第1通気孔3の最上端位置(上端部3b)は、複数設けられた第2通気孔4A、4B、4Cのうち鉛直方向で最も上方に設けられた第2通気孔4B、4Cの最上端位置よりも上方位置にある。
【0017】
そして、前記筐体1には、図5に示すように第1通気孔3を覆うようにして該筐体1の内側面1aに気体(空気)を通過させる通気膜5が設けられている。通気膜5が設けられる部位は、図3の斜線で示す第1通気孔3の全領域を覆うに足る領域とされる。通気膜5は、例えば合成樹脂製(フッ素樹脂やポリオレフィン樹脂等)の多孔体からなる膜とされ、筐体1の内外を通気させる。
【0018】
通気膜5には、耐水性を確保させる目的で撥水処理又は撥油処理が施される。撥水処理又は撥油処理は、表面張力の小さな物質を多孔体からなる膜に塗布し、乾燥後、キュアすることにより行われる。前記通気膜5は、筐体1の内側面1aに接着又は溶着されることにより取り付けられる。
【0019】
このように構成された通気筐体では、筐体1の内部に収容した電子制御装置等から発生する熱の影響等で該筐体1の内外で圧力差が生じた場合、前記通気孔2を通して空気の出入りが行われることにより、前記筐体1の内外圧力が調整される。前記筐体1が車室内ではなく車室外に配置される場合は、前記通気孔2から筐体内部に水が侵入することがある。この筐体1の外側面1bに形成された第1通気孔3から水が侵入すると、水がかかった部位の通気膜5が水で覆われて通気できなくなる。
【0020】
しかしながら、本実施形態では、最も上方に設けられた第2通気孔4B、4Cの最上端位置よりも第1通気孔3の最上端位置(上端部3b)が上方位置にあるため、最も上方位置の第2通気孔4B、4Cの上部に第1通気孔3による空間部6が形成され、この空間部6によって通気膜5全面が水に覆われることを防止でき、該通気膜5による通気を確保することができる。したがって、本実施形態の通気筐体によれば、体積増大や構造の複雑化を生じさせることなく簡易な構造で、例え水が第1通気孔3から侵入しても通気膜5本来の持つ内圧調整機能を発揮させることができる。
【0021】
ところで、筐体1の内外で気圧差が生じた場合、筐体内部の空気の膨張収縮分を速やかに筐体外部と調整する必要がある。この際、通気膜5の通気抵抗を考慮し、通気膜5の常時気中にある部位の面積(以下、通気膜必要面積という)を確保すると共に、通気に必要な第1通気孔3の面積(以下、外側孔必要面積という)を確保する。通気膜必要面積を定義すると、筐体1の内部空気の単位時間当たりの収縮(膨張)量を上回る単位時間当たりの通気量を確保できる面積とする。外側孔必要面積を定義すると、通気膜5の単位時間当たりの通気量を上回る単位時間当たりの通気量を確保する面積とする。
【0022】
通気膜必要面積Yは、式(1)にて求められる。本実施形態では、前記空間部6と対応する通気膜5の部位の面積を、式(1)で求めた通気膜必要面積Yよりも広い面積とする。こうすることで、水の侵入があっても最低限必要な通気を確保することができる。
【0023】
式(1)・・・Y=ΔV/(S/ΔT)
Y:通気膜必要面積(通気膜5の常時気中部分面積)[mm
ΔV:温度変化による筐体内部空気の収縮量(又は圧縮量)[mm
S:通気膜が単位面積、単位時間当たりに通気できる空気量(通気膜通気可能量)[mm/(mm・sec)]
ΔT:温度変化に要した時間(筐体内温度下降(上昇)時間)[sec]
外側孔必要面積Zは、式(2)で求められる。本実施形態では、通気膜必要面積Yを、式(2)で求めた外側孔必要面積Zよりも広い面積とする。
【0024】
式(2)・・・Z=Q/(c√(2・ΔP/ρ))
Z:外側孔必要面積[mm
Q:流量[m](Q=ΔV/ΔT)
c:流出係数
ΔP:筐体内外の圧力差(差圧)[Pa]
ρ:流体の密度[kg/m
また、前記空間部6と対応する通気膜5の下端位置は、常時気中となる通気膜部分の下端位置H(図6で示す位置H)よりも上方位置であることが必要である。この常時気中となる通気膜部分の下端位置Hは、式(3)で求められる。なお、常時気中とは、第2通気孔4から水が侵入しても通気膜5が水に浸からないことを意味する。
【0025】
式(3)・・・A=a(b+B)/b
A:図6で示す位置Oから位置Hの距離
B:図6で示す第1通気孔から通気膜までの距離
a:図6で示す第2通気孔の高さ
b:図6で示す第2通気孔の深さ
このように、最も上方に設けられた第2通気孔4B、4Cが形成される位置よりも上方位置に空間部6を設け、その空間部6と対応する部位の通気膜5の面積を、少なくとも通気膜5が必要とする通気膜必要面積よりも大としたので、最も上方の第2通気孔4B、4Cから筐体内部へと水が侵入したとしても、前記空間部6と対応する通気膜5にて筐体内外の気圧差を調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、電子装置等を収納した筐体の内圧を調整する通気孔に通気膜を取り付けた通気筐体に利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1…筐体
1a…筐体の内側面
1b…筐体の外側面
2…通気孔
3…第1通気孔(内側孔)
4…第2通気孔(外側孔)
4B,4C…最も上方に設けられた第2通気孔
5…通気膜
6…空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体の内側面に、内側から外側に向かって凹形状の止まり孔として形成された第1通気孔と、
前記筐体の外側面に、鉛直方向で異なる位置に複数設けられ且つ前記第1通気孔と連通して形成された第2通気孔と、
前記第1通気孔を覆うようにして前記筐体の内側面に設けられた通気膜と、を備え、
前記第1通気孔の最上端位置は、複数設けられた前記第2通気孔のうち鉛直方向で最も上方に設けられた該第2通気孔の最上端位置よりも上方位置にある
ことを特徴とする通気筐体。
【請求項2】
請求項1に記載の通気筐体であって、
最も上方に設けられた前記第2通気孔が形成される位置よりも上方位置に前記第1通気孔による空間部が設けられ、その空間部と対応する部位の前記通気膜の面積を、少なくとも該通気膜が必要とする通気膜必要面積よりも大とした
ことを特徴とする通気筐体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−35239(P2011−35239A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181372(P2009−181372)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】