説明

通水部材のボーリング孔内面への設置方法とこれに用いるゴム膨張管,楔管,戻り防止部材及び通水部材

【課題】ボーリング孔の脆弱個所に通水部材を良好に設置することのできる通水部材のボーリング孔内面への設置方法を提供する。
【解決手段】管壁が多孔構造をなしていてそこに内外に貫通した多数の通水細孔を有する通水部材20を、岩盤に設けたボーリング孔16の脆弱個所で孔内面に固定し設置するに際し、移送部材26のパイプの22先端側に取り付けたゴム膨張管24を通水部材20の内側に軸方向に挿通し、これをエアの導入による内部加圧にて径方向に膨張させて通水部材20を内側から保持し、その状態で通水部材20をゴム膨張管24とともに目的とする脆弱個所まで移送して、その後内部減圧によりゴム膨張管24を縮径させ、通水部材20から抜き出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、岩盤に設けたボーリング孔の土砂の崩落し易い脆弱個所で管体状をなす通水部材をボーリング孔内面に固定し設置する、ボーリング孔内面への通水部材の設置方法及びこれに用いるゴム膨張管,楔管,戻り防止部材及び通水部材に関する。
【背景技術】
【0002】
日本で使用されるLPG(液化石油ガス)は大部分を輸入に頼っており、こうした情勢の下で供給の安定性を確保する観点から一定量のLPGを備蓄することが構想されている。
LPGの備蓄の方法としては(原油の備蓄についても同様)地上タンク方式と、地下に掘った岩盤の空洞をタンクとして、そこにLPGを蓄える水封式地下岩盤タンク方式とがある。
【0003】
水封式地下岩盤タンク方式では、地上タンク方式のように設備その他の制約がないので大容量の設備を作ることができ、また大気と遮断されるため火災や爆発の恐れがなく、更に地震などの自然災害の影響をあまり受けないなどの利点を有しており、現在この水封式地下岩盤タンク方式による備蓄が進められている。
【0004】
この水封式地下岩盤タンク方式の原理は、岩盤タンクを地下水位よりも深い位置(地下150m以深の位置)に設け、周りにある地下水の持つ圧力で高圧状態のLPGを岩盤タンク内に封じ込める(水封する)ものである。
【0005】
LPGを岩盤タンク内に貯蔵するには常温で約1MPa以上の高い圧力が必要で、高圧状態の岩盤タンク内のLPGは岩盤内部の亀裂を伝って外部に漏出しようとする。
水封式地下岩盤タンク方式では岩盤タンク周辺の地下水圧をLPG貯蔵圧力より高く保持し、岩盤タンク内へ向う岩盤内の地下水流により、亀裂を伝うLPGの漏出を防止する。
【0006】
ところで岩盤タンク内に周辺の地下水が岩盤の亀裂を通じて流入すると地下水位が低下し、地下水圧を維持することが難しくなる。
そこでこの方式では岩盤タンク周辺の地下水位を維持し、地下水の流れを確保するために、岩盤タンクの周辺上部に水封のボーリング孔を組織的に配置して、そのボーリング孔内に人工的に水を供給し、岩盤の亀裂をそのボーリング孔を通じて水封するとともに岩盤タンクに向う地下水流を確保し、以て岩盤タンクへのLPGの水封機能を確保する。
【0007】
水封のボーリング孔による水封システムでは、地上からの高低差を利用して高圧の水を水封ボーリング孔に、更にその水封ボーリング孔を通じて地山(岩盤の亀裂など)に注入するが、このときボーリング孔に脆弱な個所があってそこで土砂が崩落していると、それより奥に高圧の水を注入することができなくなってしまう。
【0008】
この場合の対策として、管体状をなし、内側に軸方向に貫通の通水路を有するとともに、管壁が多孔構造をなしていて管壁に内外に貫通した多数の通水細孔を有する剛性(土砂の崩落によって潰れてしまわないような剛性)の通水部材を、岩盤に設けたボーリング孔の土砂の崩落し易い脆弱個所でボーリング孔内面に固定し設置しておくことが考えられる。
【0009】
ボーリング孔を掘った時点で予めこのような通水部材をボーリング孔の脆弱個所に設置しておけば(土砂の崩落し易い脆弱個所はボーリング孔を掘る段階で知ることができる)、脆弱な亀裂のある個所で土砂の崩落が生じたとしても、通水部材によって水路を確保しておくことができ、従ってボーリング孔を通じて支障なく地山(岩盤)の各亀裂に高圧の水を注入することが可能となる。
【0010】
ところで、ボーリング孔は長さの極めて長いものであり(長さが例えば約60m程度)、土砂の崩落し易い脆弱個所がボーリング孔の始端から40mとか50m先の奥まった個所であったりすると、そこまでどのようにして通水部材を送り込むかが大きな問題となる。
【0011】
またたとえ通水部材をその個所まで送り込むことができたとしても、通水部材がボーリング孔内に固定してないと、ボーリング孔内の逆向きの水流によって通水部材が押し戻されてしまう。
従ってボーリング孔内の脆弱個所に通水部材を設置するには、どのようにしてそこに通水部材を送り込むか、またどのようにしてこれを脆弱個所に固定するか、といったことが大きな問題となる。
【0012】
尚、上記通水部材としては従来公知のものを用いることができる。
例えば下記特許文献1,特許文献2にこの主の通水部材が開示されている。尤もこれら特許文献1,特許文献2に開示のものは主として暗渠排水管などとして用いられているものである。
但し通水部材をボーリング孔内に設置する方法については、本発明者の知る限り従来知られていない。
【0013】
【特許文献1】特公平1−56209号公報
【特許文献2】実公昭57−16901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は以上のような事情を背景とし、ボーリング孔の脆弱個所に通水部材を良好に設置することのできる通水部材のボーリング孔内面への設置方法及びこれに用いるゴム膨張管,楔管,食込部材及び通水部材を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
而して請求項1は通水部材のボーリング孔内面への設置方法に関するもので、管体状をなし、内側に軸方向に貫通の通水路を有するとともに、管壁が多孔構造をなしていて該管壁に内外に貫通した多数の通水細孔の形成された通水部材を、岩盤に設けたボーリング孔の土砂の崩落し易い脆弱個所で該ボーリング孔の内面に固定し設置する通水部材のボーリング孔内面への設置方法であって、パイプの先端側に先端閉鎖構造のゴム膨張管を取り付けて成る移送部材の該ゴム膨張管を、前記通水部材の内側に軸方向に挿通し、前記パイプを通じて該ゴム膨張管に流体を導入して該ゴム膨張管を内部加圧し、該ゴム膨張管を前記通水部材を内側から保持する状態まで径方向に膨張させ、その状態で該通水部材を該ゴム膨張管とともに前記ボーリング孔内の目的とする前記脆弱個所まで移送して、その移送先で該通水部材を該ボーリング孔の内面に固定手段にて固定するとともに、該ゴム膨張管内部を減圧して径方向に収縮させ、該通水部材から該ゴム膨張管を引き抜くことを特徴とする。
【0016】
請求項2の方法は、請求項1において、一端に向って小径化する楔状部を有し、前記通水部材の軸方向の各端部の内部に該一端側から軸方向に押し込まれ、押込方向には該通水部材の内面に対して掛止せず、抜け方向に掛止する一方向性の掛止爪にて該通水部材から抜止めされる短管状の楔管を、前記固定手段として前記ゴム膨張管における前記通水部材の各端位置に外嵌状態に嵌挿して保持しておき、前記移送先で前記ゴム膨張管の内圧を高めることでゴム膨張管を径方向に膨張させるとともに軸方向に縮長させて、前記通水部材を拡管するとともに、該ゴム膨張管の縮長に伴って前記楔管を該通水部材の内部に押し込んで該通水部材を拡管状態に保持し、該通水部材を前記ボーリング孔内面に対し押圧状態に固定し設置することを特徴とする。
【0017】
請求項3の方法は、請求項2において、前記通水部材の前記管壁に、軸方向全長に亘って径方向に貫通した切れ目が入れてあることを特徴とする。
【0018】
請求項4の方法は、請求項1において、前記固定手段が、前記通水部材とは別体又は一体に設けられ、前記ボーリング孔内面に対して食込爪を該通水部材の移送方向には食い込ませず、逆方向である戻り方向に食い込ませて、その食込作用により該通水部材を該戻り方向に固定する戻り防止部材であり、該戻り防止部材を該通水部材とともに前記移送先まで移送した上で、前記ゴム膨張管を内部の減圧により該通水部材から引き抜き、該通水部材を前記脆弱個所で前記ボーリング孔の内面に固定し設置することを特徴とする。
【0019】
請求項5の方法は、請求項1〜4の何れかにおいて、前記通水部材が合成樹脂製の部材であることを特徴とする。
【0020】
請求項6はゴム膨張管に関し、このものは、請求項1の設置方法を実施するに際し、前記パイプの先端側に取り付けられて使用されるものであって、前記流体の導入により内部加圧されて径方向に膨張,軸方向に縮長し、該径方向の膨張により前記通水部材を内側から保持して該通水部材を前記ボーリング孔の前記目的とする脆弱個所まで移送し、該移送先で内部の減圧により径方向に収縮して、該通水部材から引抜き可能とされていることを特徴とする。
【0021】
請求項7は短管状の楔管に関し、このものは、請求項2の設置方法を実施するに際し、前記通水部材を前記ボーリング孔内面に固定する固定手段として使用されるものであって、一端に向って小径化する楔状部を有し、前記通水部材の軸方向の各端部の内部に該一端側から軸方向に押し込まれ、押込方向には該通水部材の内面に対して掛止せず、抜け方向に掛止する一方向性の掛止爪を備えて該通水部材から抜止めされ、該通水部材を拡管状態に保持することを特徴とする。
【0022】
請求項8は戻り防止部材に関し、このものは、請求項4の設置方法を実施するに際し、前記固定手段として用いられるものであって、前記通水部材とは別体に設けられ、前記ボーリング孔内面に対して食込爪を該通水部材の移送方向には食い込ませず、逆方向である戻り方向に食い込ませて、その食込作用により該通水部材を該戻り方向に固定することを特徴とする。
【0023】
請求項9は通水部材に関し、このものは、請求項4の設置方法を実施するに際し用いられるものであって、前記ボーリング孔内面に対して食込爪を移送方向には食い込ませず、逆方向である戻り方向に食い込ませて、その食込作用により該戻り方向に固定される戻り防止部材が一体に構成されて成ることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0024】
以上のように本発明は、パイプの先端側にゴム膨張管を取り付けて成る移送部材にて通水部材を保持し、詳しくはゴム膨張管を通水部材の内側に軸方向に挿通した後、ゴム膨張管に流体を導入して内部加圧し、これによりゴム膨張管を径方向に膨張させて通水部材を内側から保持し、その状態で通水部材をゴム膨張管とともにボーリング孔内の目的とする脆弱個所まで移送して、その移送先で通水部材をボーリング孔の内面に固定手段にて固定する一方、ゴム膨張管内部を減圧して径方向に収縮させ、通水部材からゴム膨張管を引き抜くもので、本発明によれば、土砂の崩落し易い脆弱個所がボーリング孔の奥まった位置にある場合であっても、通水部材をゴム膨張管の膨張により内側から保持した状態で、ゴム膨張管をパイプとともにその奥まった脆弱個所まで送り込むことで、通水部材を同個所まで移送することができる。
【0025】
而してその移動先でゴム膨張管を径方向に収縮させることで、通水部材を保持していたゴム膨張管を通水部材から離し、ゴム膨張管を通水部材から引き抜いて、更にボーリング孔を伝って引き戻し、ボーリング孔から取り出すことができる。
そしてこのようにすることによって、土砂の崩落し易い脆弱個所がボーリング孔の奥まった位置であっても、遠隔操作によって良好に通水部材をその目的とする脆弱個所に設置することができる。
【0026】
そしてまたこのような通水部材をボーリング孔内の脆弱個所に設置することで、その脆弱個所での土砂の崩落によりボーリング孔が埋ってしまい、ボーリング孔に対しそれより奥まで高圧の水を供給できなくなってしまうといった問題を解決し得、支障なく地山(岩盤)の隅々まで高圧の水を注入することが可能となる。
【0027】
次に請求項2は、上記固定手段として、一端に向って小径化する楔状部を有し、通水部材の軸方向の各端部の内部に、その一端側から軸方向に押し込まれ、押込方向には通水部材の内面に対して掛止せず、抜け方向に掛止する一方向性の掛止爪にて通水部材から抜止めされる短管状の楔管を用い、これをゴム膨張管における通水部材の各端位置に外嵌状態に嵌挿して保持しておき、移送先でゴム膨張管の内圧を高めることで、ゴム膨張管を径方向に膨張させるとともに軸方向に縮長させて、通水部材を拡管するとともに、ゴム膨張管の軸方向の縮長に伴って楔管を通水部材内部に押し込み、これにより通水部材を拡管状態に保持して、通水部材をボーリング孔内面に押圧状態に固定する。
この請求項2によれば、単にゴム膨張管を遠隔操作により膨張,収縮させるだけで、簡単に通水部材をボーリング孔内面の奥まった脆弱個所にも固定状態に設置することができる。
【0028】
この場合においてその通水部材には、管壁に沿って軸方向全長に亘り径方向に貫通した切れ目を入れておくことができる(請求項3)。
このようにすれば、通水部材を容易に且つ大きく拡管させ、且つ楔管の作用により拡管状態に保つことができる。
【0029】
次に請求項4は、上記固定手段として通水部材とは別体又は一体に設けられ、ボーリング孔内面に対して食込爪を通水部材の移送方向には食い込ませず、逆方向である戻り方向に食い込ませて、その食込作用により通水部材を戻り方向に固定する戻り防止部材を用い、その戻り防止部材を通水部材とともに移送した上で、ゴム膨張管を通水部材から引き抜いて、通水部材をボーリング孔の目的とする脆弱個所に固定し設置するもので、この請求項4の方法においても、簡単に通水部材をボーリング孔の内面に固定し設置することができる。
【0030】
本発明では上記通水部材として、合成樹脂製の部材を用いることができる(請求項5)。
【0031】
次に請求項6はゴム膨張管に関するもので、このゴム膨張管を用いることで、上記請求項1の設置方法を好適に実施することができる。
【0032】
また請求項7は固定手段としての楔管に関するもので、この楔管を用いることで請求項2の設置方法を好適に実施することができる。
【0033】
更に請求項8は固定手段としての食込爪を有する戻り防止部材に関するもので、このような戻り防止部材を用いることで請求項4の設置方法を好適に実施することができる。
【0034】
更に請求項9は同じく食込爪を備えた戻り防止部材を一体に有する通水部材に関するもので、この通水部材を用いることで請求項4の設置方法を好適に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10は地下水位12より深い位置(地下150m以深)において岩盤に設けられた岩盤タンク(空洞)で、14は水封用トンネル、16はトンネル14から多数延び出した水封のボーリング孔である。
ボーリング孔16は孔径がφ90mm程度、長さが60m程度の長く延びた孔である。
【0036】
18は水の供給管で、この供給管18を通じ地上からの高低差を利用してボーリング孔16に高圧の水が注入され、そしてこのボーリング孔16を通じて地山(岩盤)の亀裂等に高圧の水が注入される。
そして岩盤タンク10に向う地下水流によって岩盤タンク10内にLPGが水封される。
【0037】
図1(B)において、20はボーリング孔16の土砂の崩落し易い脆弱個所で、ボーリング孔16内面に設置される通水部材で、この実施形態では、長尺のパイプ22とその先端側に取り付けられた先端閉鎖構造のゴム膨張管24とを備えた移送部材26によって、通水部材20をボーリング孔16の目的とする脆弱個所まで移送して、そこにこれを固定する。
図2にその移送管26の構成が具体的に示してある。
【0038】
図2においてゴム膨張管24は、内面ゴム層28,補強層30,外面ゴム層32との積層構造をなしている。
ここで内面ゴム層28,補強層30,外面ゴム層32は一体に加硫接着されている。
また補強層30は、化学繊維からなる補強糸を編組(ブレード編組,スパイラル編組)して構成してある。
【0039】
ゴム膨張管24の先端部には、金属製の端部キャップ34が装着されており、この端部キャップ34によりゴム膨張管24の先端が閉鎖されている。
端部キャップ34は円筒状の嵌入部36を有していて、この嵌入部36がゴム膨張管24の内部に嵌入されている。
この嵌入部36の外周面には、断面形状が鋸歯形状をなす係合歯38が形成されており、この係合歯38がゴム膨張管24の内面に食い込むことによって、端部キャップ34がゴム膨張管24から抜け防止されている。
【0040】
ゴム膨張管24の先端部には、金属製の締付スリーブ40が外挿されており、この締付スリーブ40が縮径方向に締め付けられることで、端部キャップ34がゴム膨張管24に強固に固定されている。
【0041】
一方ゴム膨張管24の基端部(図中左端部)には、金属製の端部部材42が装着されている。
この端部部材42もまた、円筒状の嵌入部44を有していて、この嵌入部44がゴム膨張管24の内部に嵌入されている。
この嵌入部44においても、その外周面に断面形状が鋸歯形状をなす係合歯38が形成されていて、この係合歯38がゴム膨張管24の内面に食い込み、その食込作用で端部部材42がゴム膨張管24から抜け防止されている。
【0042】
この基端部においても、ゴム膨張管24には金属製の締付スリーブ46が外挿されており、この締付スリーブ46が縮径方向に締め付けられることで、端部部材42がゴム膨張管24の基端部に強固に固定状態とされている。
【0043】
この端部部材42にはエア(流体)の導入口47が備えられており、さらにこの端部部材42にはカプラ48が取り付けられていて、このカプラ48によってゴム膨張管24が上記のパイプ22に接続され取り付けられている。
尚この実施形態において、ゴム膨張管24は膨張前の状態においてその長さL=1m,外径D=27mmである。
またパイプ22は、ゴム膨張管24をボーリング孔16の奥まった位置まで送り込み可能な剛性を有するもので、ここではパイプ22は軽量である樹脂管にて構成されている。勿論他の材質にてパイプ22を構成することもできる。
【0044】
図3に通水部材20が示してある。
この通水部材20は、全体として管体状をなしており、内側に軸方向に貫通の通水路50を有している。
またその管壁52は立体網状の多孔構造をなしていて、管壁52全体に亘り内外に貫通した多数の通水細孔が形成されている。
更に管壁52には、軸方向全長に亘り且つ径方向に貫通した切れ目54が設けられており、通水部材20全体がその切れ目54によって容易に拡管するようになしてある。
【0045】
この図3に示す通水部材20は、熱可塑性合成樹脂を加熱融解し、ノズルから押し出して繊条55としたものを、カールさせたまま積み重ね、各繊条55の相互接点を融着して全体を一体化した多孔構造のものである。
ここでは通水部材20としてポリプロピレン樹脂製のものが用いられており、剛性で耐圧性能が高く、径方向の通水性に富んだものである。
【0046】
本実施形態では、通水部材20をボーリング孔16の目的とする脆弱個所の内面に固定するための固定手段として、図4に示す楔管56を用いる。
図4に示しているようにこの楔管56は、一端(図中右端)に向って連続的に小径化するテーパ状の楔状部58と、楔状部58の大径部と同径の円筒形状をなす大径部60とを有している。
【0047】
その楔状部58の外周面には、周方向複数個所に(ここでは90°ごと隔たった4個所に)掛止爪62が一体に設けられている。
これら掛止爪62のそれぞれは、楔状部58の外周面に沿ってほぼ平行に延びる基部64と、その先端部で楔状部58の外周面から離れる方向に曲げ起された形態の爪部66とを有している。
【0048】
この楔管56は次にような働きをなす。
即ち、楔管56は楔状部58の側から通水部材20の内部に押し込まれ、その押込みに際して、掛止爪62は爪の方向が押込方向と逆方向を向いていることから、押込時には掛止爪が通水部材20の内面に掛止することなく、従って楔管56を円滑に通水部材20内部に押込移動する。
【0049】
一方楔管56が通水部材20から抜けようとすると、掛止爪62の爪部66が通水部材20の内面に対しその抜き方向に掛止し、楔管56の通水部材20からの抜けを防止する。
従って通水部材20の各端部は、楔管56を押し込むことによって拡管状態に保持される。
【0050】
次に本実施形態の設置方法の手順を、図5〜図7に基づいて具体的に説明する。
本実施形態では、図5(I)に示しているように先ず通水部材20の両端部に一対の楔管56を、楔状部58の側から軽く嵌め込んでおき、その後図5(II)に示しているように、移送部材26におけるゴム膨張管24を、縮径状態でそれら楔管56及び通水部材20の内部に軸方向に挿入する。
【0051】
そしてその状態で、図5(III)に示しているようにパイプ22を通じてゴム膨張管24内部にエアを加圧状態で導入し、ゴム膨張管24を内部加圧により径方向に膨張させる。
このとき、ゴム膨張管24は通水部材20及び一対の楔管56を内側から保持する程度の膨張率で膨張させる。
【0052】
次に、図6(IV)に示しているようにゴム膨張管24にて通水部材20及び一対の楔管56を保持した状態で、ゴム膨張管24をパイプ22を通じてボーリング孔16の目的とする脆弱個所まで送り込み、ゴム膨張管24にて保持された通水部材20及び一対の楔管56をその脆弱個所に移送する。
そしてその状態で、図6(V)に示しているようにゴム膨張管24内に更に加圧状態のエアを導入して、ゴム膨張管24を内部から径方向に加圧膨張させる。
【0053】
このとき、ゴム膨張管24は通水部材20の全体的な拡管を伴って径方向に更に膨張し、そしてこの径方向の膨張に伴ってゴム膨張管20が軸方向に縮長する。
その縮長により、ゴム膨張管24にて保持された一対の楔管56が、互いに接近する方向に軸方向に移動し、それぞれが通水部材20の端部内側に強制的に押し込まれる。
そしてその楔管56の押込みに伴って、通水部材20の各端部がよりいっそう拡管せしめられ、ボーリング孔16の内面に強く押圧される。
【0054】
通水部材20の端部且つ軸方向に押し込まれた各楔管56は、掛止爪62の掛止作用によって、通水部材20から抜け防止され、従って通水部材20はその楔管56による押し拡げ作用によって拡管状態に保持される。
即ち通水部材20がボーリング孔16内面に対し押圧状態に保持され、ボーリング孔16内面に固定状態となる。
【0055】
その後、図6(VI)に示しているようにゴム膨張管24からエアを抜き出し、内部を減圧することでゴム膨張管24を径方向に収縮させる。
ここにおいてゴム膨張管24による通水部材20及び一対の楔管56に対する保持が解除され、従ってこの状態でパイプ22を通じてゴム膨張管24に対し図中左向きの引込みの力を加えることで、図7に示しているようにこれを通水部材20及び一対の楔管56から引き抜き、更にボーリング孔16から取り出すことができる。
【0056】
以上のように本実施形態によれば、土砂の崩落し易い脆弱個所がボーリング孔16の奥まった位置にある場合であっても、通水部材20をゴム膨張管24の膨張により内側から保持した状態で、ゴム膨張管24をパイプ22とともにその奥まった脆弱個所まで送り込むことで、通水部材20を同個所まで移送することができる。
【0057】
而してその移動先でゴム膨張管24を径方向に収縮させることで、通水部材20を保持していたゴム膨張管24を通水部材20から離し、通水部材20から引き抜いて、更にボーリング孔16から取り出すことができる。
そしてこのようにすることによって、土砂の崩落し易い脆弱個所がボーリング孔16の奥まった位置であっても、遠隔操作によって良好に通水部材20をその目的とする脆弱個所に設置することができる。
【0058】
そしてまたこのような通水部材20をボーリング孔16内の脆弱個所に設置することで、その脆弱個所での土砂の崩落によりボーリング孔16が埋ってしまい、ボーリング孔16に対しそれより奥まで高圧の水を供給できなくなってしまうといった問題を解決し得、支障なく地山(岩盤)の隅々まで高圧の水を注入することが可能となる。
【0059】
また本実施形態によれば、通水部材20をボーリング孔16に固定するための固定手段として短管状の楔管56を用いることで、通水部材20を容易にボーリング孔16内面に固定することができる。
【0060】
即ちこれをゴム膨張管24における通水部材20の各端位置に外嵌状態に嵌挿して保持しておいて、移送先でゴム膨張管24の内圧を高めることで、ゴム膨張管24を径方向に膨張させるとともに軸方向に縮長させ、その縮長に伴い楔管56を通水部材20内部に押し込んで、通水部材20を拡管状態に保持し、これをボーリング孔16内面に押圧状態に固定することができる。
【0061】
従ってこの実施形態によれば、単にゴム膨張管24を遠隔操作により膨張,収縮させるだけで、簡単に通水部材20をボーリング孔16内面の奥まった脆弱個所に運び込み且つそこに固定状態に設置することができる。
【0062】
またその通水部材20には管壁に沿って軸方向全長に亘り径方向に貫通した切れ目54が入れてあるため、通水部材20を容易に且つ大きく拡管させ、且つ楔管56の作用により拡管状態に保つことができる。
【0063】
図8は本発明の他の実施形態に用いられる通水部材20を表している。
この通水部材20もまた円筒形状をなしていて、その内側に軸方向に貫通の通水路50を有している。
更に管壁52もまた、上記と同様に網状の多孔構造をなしていて、内外に貫通した多数の通水細孔を有している。
但し図8の通水部材20は、合成樹脂を円筒状に押出成形したもので外周面,内周面ともにほぼ平滑な円周面をなしている。
【0064】
この図8に示す通水部材20は、外層と内層との2層構造をなしていて、それらが連結部にて径方向に連結されており、それら外層,内層共に網状構造をなしていて、それらの網目が上記の通水細孔を形成している。
図8の通水部材20もまた剛性を有する合成樹脂製のもので、その材質としては高密度ポリエチレン,ポリプロピレン,EVA,低密度ポリエチレン等各種の材質のものを用いることができる。
【0065】
図8(B)は、この実施形態において通水部材20の固定手段として用いられる戻り防止部材を示したもので、図に示しているようにこの戻り防止部材68は、円筒部70と、その一端からラッパ状に広がった形態の多数の食込爪72を備えている。
この戻り防止部材68において、円筒部70はゴム膨張管24に外嵌状態に嵌合される部分であり、また食込爪72は、ボーリング孔16の内面に対し通水部材20の移送方向には食い込まず、逆方向である戻り方向に食い込んで、通水部材20の戻り方向への移動を阻止する働きをなす。
尚この実施形態において、戻り防止部材68は金属製とすることもできるし樹脂製とすることもできる。また他の材質にてこれを構成することも可能である。
【0066】
次に、図9及び図10に基づいてこの実施形態の設置方法の具体的手順を説明する。
先ず図9(I)に示しているようにゴム膨張管24を収縮させた状態の下で、ゴム膨張管24を通水部材20の内側に軸方向に挿通する。
このとき併せて、一対の戻り防止部材68を通水部材20の両端部においてゴム膨張管24に外嵌しておく。
【0067】
尚図9(I)中の左側の戻り防止部材68については、円筒部70を通水部材20の内部に嵌入させておく。
また右側の戻り防止部材68については、ラッパ状に広がった食込爪72の内側に、通水部材20の端部が入り込む状態としておく。
【0068】
この状態で、図9(II)に示しているようにゴム膨張管24内部にエアを加圧状態で導入して、ゴム膨張管24を内部加圧により径方向に膨張させる。
そしてそのゴム膨張管24の膨張により、通水部材20を内側から保持させる。
このとき一対の戻り防止部材68もまた、ゴム膨張管24の膨張により、それぞれゴム膨張管24に保持された状態となる。
【0069】
この状態で図10(III)に示しているようにゴム膨張管24をパイプ22によってボーリング孔16内の目的とする脆弱個所まで送り込み、そのことによって通水部材20を同個所まで移送する。
このとき、ゴム膨張管24に保持された一対の戻り防止部材68の各食込爪72はボーリング孔16の内面に対して食い込むことはなく、これら一対の戻り防止部材68がゴム膨張管24により保持された状態で、通水部材20とともに円滑に目的とする個所まで移送される。
【0070】
この状態で、図10(IV)に示しているようにゴム膨張管24を内部減圧して径方向に収縮させ、通水部材20及び戻り防止部材68に対する保持を解除する。
そして図10(V)に示しているように、ゴム膨張管24をそれら通水部材20及び一対の戻り防止部材68から引き抜き、更にボーリング孔16に沿って図中左向きに移動させて、ボーリング孔16から取り出す。
【0071】
一方ゴム膨張管24による保持を解除された通水部材20は、戻り防止部材68の食込爪72がボーリング孔16の内面に対し移送方向とは逆方向である戻り方向に食い込むことにより、その戻り方向への移動が阻止され、従って目的とする脆弱個所に通水部材20が固定状態となる。
【0072】
尚、図10中右側の戻り防止部材68は、自身が食込爪72をボーリング孔16の内面に食い込ませることによって、移送方向とは逆方向に戻り防止されるが、通水部材20に対して直接的に図中左方向への戻り防止作用を行わない。
従って場合によって、図中右側の戻り防止部材68を省略して、通水部材20を設置することも可能である。
【0073】
但し通水部材20の右側端部にも戻り防止部材68をセットしておくことで、通水部材20をボーリング孔16内で良好に移送案内することができるとともに、一対の戻り防止部材68にて通水部材20をボーリング孔16の径方向中心位置に良好に保持することができる。
また通水部材20が何らかの原因によって図中左側の戻り防止部材68から離れて右方向に移動してしまうのを防止でき、左右一対の戻り防止部材68の間の位置に通水部材20を良好に保持した状態で、これをボーリング孔16内において移送することができる。
【0074】
以上は戻り防止部材68を、通水部材20とは別体に構成した場合の例であるが、図11に示しているように、かかる戻り防止部材68を通水部材20と一体に構成しておくことも可能である。
この場合には、戻り防止部材68における円筒部70が通水部材20の一部にて構成されることとなる。
但し戻り防止部材68が円筒部70を有しないものと考えることもできる。
【0075】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明は上記水封のボーリング孔16以外の岩盤のボーリング孔への通水部材の設置に際して適用することも可能である等、その趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】水封式地下岩盤タンク方式の概念図を本発明の実施形態の通水部材の設置方法の要部とともに示した図である。
【図2】同実施形態で用いる移送部材を示した図である。
【図3】同実施形態で用いる通水部材を示した図である。
【図4】同実施形態で用いる楔管を示した図である。
【図5】同実施形態の設置方法の手順を示した説明図である。
【図6】図5に続く手順を示した説明図である。
【図7】図6に続く手順を示した説明図である。
【図8】本発明の他の実施形態に用いられる通水部材及び戻り防止部材を示した図である。
【図9】図8に示した通水部材の設置方法の手順を示した説明図である。
【図10】図9に続く手順を示した説明図である。
【図11】本発明の更に他の実施形態で用いられる通水部材を示した図である。
【符号の説明】
【0077】
16 ボーリング孔
20 通水部材
22 パイプ
24 ゴム膨張管
26 移送部材
54 切れ目
56 楔管
58 楔状部
62 掛止爪
68 戻り防止部材
72 食込爪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管体状をなし、内側に軸方向に貫通の通水路を有するとともに、管壁が多孔構造をなしていて該管壁に内外に貫通した多数の通水細孔の形成された通水部材を、岩盤に設けたボーリング孔の土砂の崩落し易い脆弱個所で該ボーリング孔の内面に固定し設置する通水部材のボーリング孔内面への設置方法であって
パイプの先端側に先端閉鎖構造のゴム膨張管を取り付けて成る移送部材の該ゴム膨張管を、前記通水部材の内側に軸方向に挿通し、前記パイプを通じて該ゴム膨張管に流体を導入して該ゴム膨張管を内部加圧し、該ゴム膨張管を前記通水部材を内側から保持する状態まで径方向に膨張させ、その状態で該通水部材を該ゴム膨張管とともに前記ボーリング孔内の目的とする前記脆弱個所まで移送して、その移送先で該通水部材を該ボーリング孔の内面に固定手段にて固定するとともに、該ゴム膨張管内部を減圧して径方向に収縮させ、該通水部材から該ゴム膨張管を引き抜くことを特徴とする通水部材のボーリング孔内面への設置方法。
【請求項2】
請求項1において、一端に向って小径化する楔状部を有し、前記通水部材の軸方向の各端部の内部に該一端側から軸方向に押し込まれ、押込方向には該通水部材の内面に対して掛止せず、抜け方向に掛止する一方向性の掛止爪にて該通水部材から抜止めされる短管状の楔管を、前記固定手段として前記ゴム膨張管における前記通水部材の各端位置に外嵌状態に嵌挿して保持しておき、
前記移送先で前記ゴム膨張管の内圧を高めることでゴム膨張管を径方向に膨張させるとともに軸方向に縮長させて、前記通水部材を拡管するとともに、該ゴム膨張管の縮長に伴って前記楔管を該通水部材の内部に押し込んで該通水部材を拡管状態に保持し、該通水部材を前記ボーリング孔内面に対し押圧状態に固定し設置することを特徴とする通水部材のボーリング孔内面への設置方法。
【請求項3】
請求項2において、前記通水部材の前記管壁に、軸方向全長に亘って径方向に貫通した切れ目が入れてあることを特徴とする通水部材のボーリング孔内面への設置方法。
【請求項4】
請求項1において、前記固定手段が、前記通水部材とは別体又は一体に設けられ、前記ボーリング孔内面に対して食込爪を該通水部材の移送方向には食い込ませず、逆方向である戻り方向に食い込ませて、その食込作用により該通水部材を該戻り方向に固定する戻り防止部材であり、
該戻り防止部材を該通水部材とともに前記移送先まで移送した上で、前記ゴム膨張管を内部の減圧により該通水部材から引き抜き、該通水部材を前記脆弱個所で前記ボーリング孔の内面に固定し設置することを特徴とする通水部材のボーリング孔内面への設置方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかにおいて、前記通水部材が合成樹脂製の部材であることを特徴とする通水部材のボーリング孔内面への設置方法。
【請求項6】
請求項1の設置方法を実施するに際し、前記パイプの先端側に取り付けられて使用されるものであって、
前記流体の導入により内部加圧されて径方向に膨張,軸方向に縮長し、該径方向の膨張により前記通水部材を内側から保持して該通水部材を前記ボーリング孔の前記目的とする脆弱個所まで移送し、該移送先で内部の減圧により径方向に収縮して、該通水部材から引抜き可能とされているゴム膨張管。
【請求項7】
請求項2の設置方法を実施するに際し、前記通水部材を前記ボーリング孔内面に固定する固定手段として使用されるものであって
一端に向って小径化する楔状部を有し、前記通水部材の軸方向の各端部の内部に該一端側から軸方向に押し込まれ、押込方向には該通水部材の内面に対して掛止せず、抜け方向に掛止する一方向性の掛止爪を備えて該通水部材から抜止めされ、該通水部材を拡管状態に保持する短管状の楔管。
【請求項8】
請求項4の設置方法を実施するに際し、前記固定手段として用いられるものであって
前記通水部材とは別体に設けられ、前記ボーリング孔内面に対して食込爪を該通水部材の移送方向には食い込ませず、逆方向である戻り方向に食い込ませて、その食込作用により該通水部材を該戻り方向に固定する戻り防止部材。
【請求項9】
請求項4の設置方法を実施するに際し用いられるものであって
前記ボーリング孔内面に対して食込爪を移送方向には食い込ませず、逆方向である戻り方向に食い込ませて、その食込作用により該戻り方向に固定される戻り防止部材が一体に構成されて成る通水部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−62784(P2009−62784A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233437(P2007−233437)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】