通過立坑の構築方法と推進工法
【課題】通過立坑の構築と推進を行なう従来の推進工法の問題点を解消し、作業やコスト負担を大幅に低減し、トラブルと危険性を未然に回避することのできる新しい技術手段を提供する。
【解決手段】発進坑と到達坑の間に通過立坑6を配置して推進を行うための通過立坑6の構築方法であって、あらかじめ推進機7の通過口となる穴61を開けた鋼製ケーシング62を、推進時に必要な土被り以上に鋼製ケーシング62内の土砂を掘削しないで土中に圧入する。そして、この方法によって構築した通過立坑6に開けておいた通過口穴61に推進機7を通過させ、その後鋼製ケーシング62内の土砂を掘削する。
【解決手段】発進坑と到達坑の間に通過立坑6を配置して推進を行うための通過立坑6の構築方法であって、あらかじめ推進機7の通過口となる穴61を開けた鋼製ケーシング62を、推進時に必要な土被り以上に鋼製ケーシング62内の土砂を掘削しないで土中に圧入する。そして、この方法によって構築した通過立坑6に開けておいた通過口穴61に推進機7を通過させ、その後鋼製ケーシング62内の土砂を掘削する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシールド工事や推進工事(トンネル特殊工事)において、発進立坑から到達立坑の間に通過立坑を構築する方法とこれを利用した推進工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
推進工事は発進立坑を構築して到達立坑に向けて掘削していく工事であるが、発進立坑には推進するための元押しジャッキ等の設備が必要となり、下水管路の維持・補修のための点検に必要な人孔、もしくは流入人孔の大きさに比較してより大きな立坑を構築することになる。
【0003】
従って、近年では、大きな用地確保の困難な問題や経済性のためより発進立坑を減少させる必要性が増してきている。
【0004】
発進立坑を減少させるには、たとえば図12に示したように、発進立坑1において元押しジャッキ2等の設備を配置して掘進機3および推進管4をもってできるだけ長距離を推進させ、必要な立坑は通過立坑5として通過させる方法が主体となっている。このような通過立坑5は中間立坑とも呼ばれている(たとえば特許文献1−2)。通過立坑5構築には、経済性から鋼製ケーシング立坑が多用されている。
【0005】
すなわち、たとえば、図13、図14および図15に示したように、まず、鋼製ケーシング(円形の鋼管)の下端に切削ビットを取り付け、鋼管ケーシングを揺動・回転圧入させながら垂直に下ろし、平行してバケットで鋼管内部の土砂を掘削し所定の位置まで圧入する。鋼製ケーシングの長さは架空線等による上空制限や製作上の問題等で3m程度である。それ以上の深さが必要な場合は、現場で鋼製ケーシングのジョイント作業をすることになる。ジョイント方法としては現場溶接による方法がとられている。
【0006】
圧入、掘削が終わったら、底盤コンクリートを打設し床付けを行い鋼製ケーシング内の泥水やスライムを処理し通過立坑としている。
【0007】
たとえばこのようにして築造した通過立坑5に向けて、図16に示したように発進立坑より推進して掘進機を到達させる。この時鋼製ケーシング内に掘進機を通過させるためケーシングをガス切断する鏡切りで、土砂や水の鋼製ケーシング内への流入を防止する目的で予め薬液注入工事で地盤改良を行っておく。
【0008】
次いで、図17のように、掘進機位置の確認後に鋼製ケーシングをガス切断して鏡切りを行い、再推進時に土砂や水の流出を防ぐために止水器を取り付け、推進機を通過立坑5内に押し出す。立坑内では、図18のように、掘進機や推進管が通過するための架台を設置し、今度は再び発進するために鋼製ケーシングをガス切断して鏡切りを行う。到達時と同様、この時土砂や水の流出を防止するため、予め薬液注入工事で地盤改良を行っておく。
【0009】
さらに、たとえば図19に示したように、止水器を発進側に取り付け、その後発進立坑より推力をかけて掘進機を地山に押し出す。通過立坑内では推進管や仮管が左右・上下方向に振れて推力上昇の原因となる為、通過立坑で推進管や仮管が振られないようにH型鋼等で拘束する。
【0010】
以上の準備が完了すると再び推進が開始される。
【0011】
止水器からの滑材・土砂などの流出を防ぐために、図20のように、立坑内では水を張っておく等の安全策をとることが多い。
【0012】
推進が完了すると人孔構築の工事が開始される。
【特許文献1】特開平11−247592号公報
【特許文献2】特開2003−41886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来は、上記のとおりの手順によって通過立坑の構築と推進が行われてきているが、このような従来の技術においては、実際の工程での作業やコストの負担は極めて大きく、また、具体的にもたとえば鏡切りでの水、土砂の流入などによって多発している立坑の埋没とその大きな危険性、滑材漏れによる推力上昇で推進が不可能になるなどの多発するトラブルを解消することが大きな問題であった。
【0014】
そこで、本発明は、以上のとおりの問題点を解消し、作業やコスト負担を大幅に低減し、トラブルと危険性を未然に回避することのできる新しい技術手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するために、第1には、発進立坑と到達立坑の間に通過立坑を配置して推進を行うための通過立坑の構築方法であって、あらかじめ推進機の通過口となる穴を開けた鋼製ケーシングを、推進時に必要な土被り以上に鋼製ケーシング内の土砂を掘削しないで土中に圧入することを特徴とする通過立坑の構築方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、第2には、上記の方法によって構築した通過立坑に開けておいた通過口穴に推進機を通過させ、その後鋼製ケーシング内の土砂を掘削することを特徴とする推進工法をも提供する。
【0017】
円形の鋼管である鋼製ケーシングに予め掘進機が通過する穴を設けておき、この通過口となる穴が開けられた鋼製ケーシングを、推進時に必要な土被り以上に、鋼管内部の土砂を掘削しないで地中に圧入して通過立坑を構築することを特徴としている。そしてまた、本発明は、このようにして構築された通過立坑の穴に掘進機を通過させ、推進終了後に通過立坑の掘削を行う推進工法であことを特徴としている。
【0018】
以上のとおりの本発明においては、立坑が深い場合で円筒鋼製ケーシングを降ろす時に摩擦抵抗が大きい場合は、鋼管内部の土砂の上部を掘削することも必要となるが、推進時に必要となる最低土被り以上は掘削しない。なお、必要に応じて水を張る等の安全対策を講じることもある。
【発明の効果】
【0019】
上記のとおりの本発明によれば、立坑内部を掘削しないで掘進機を通過させることにより、鏡切りでの水・土砂の流入などによる多発している立坑の埋没、滑材漏れでの推力上昇による推進不能などの多発している工事トラブルを防止できるだけでなく、鏡切り・止水器取り付け・架台設置などの施行日数が短縮できる。
【0020】
推進日数の大幅な短縮は推力上昇を防止できるだけでなく、工事費も非常に安価となる。
【0021】
従来は掘進機が通過できる断面の鏡切りをしていたため崩壊などの危険性が高かったが、推進終了後の立坑掘削では、予め大きくしておいた穴と推進管との間の断面は掘進機断面を引いた断面になり、従来の鏡切りでの断面に比較して非常に小さいため安全が高いことは明白である。従って、断面が小さいため薬液注入量も少なくなり、経済的に大きな効果を有する。
【0022】
また、高い止水器を使用することなく安価な鉄板等を使用でき、経済的にも有効な手段である。
【0023】
以上により、本発明は多発している工事トラブルを防止する高い安全性と非常に大きな経済性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の通過立坑の構築方法とこれを利用した推進工法の概要を例示したものが図1である。
【0025】
すなわち、以下の要件を有している。
【0026】
1)通過口となる穴61を開けた鋼製ケーシング62を地中に圧入して通過立坑6を構築する。
【0027】
2)穴61を開けた通過口を推進機7(推進機と推進管)で通過させ推進工事を完了させる。
【0028】
3)推進完了後に、鋼製ケーシング62内の土砂を掘削する。
【0029】
4)その後、たとえばマンホール人孔を構築する。
【0030】
以上の工法、工事においては、あらかじめ設けられた穴に掘進機を通過させるには高い測量精度と掘進機をコントロールする技術が必要となる。
【0031】
測量精度、コントロール技術が低レベルであれば、大きな穴が必要となり、前記の経済性、安全性が失われ意味がなくなる。
【0032】
直線施工における長距離施工での通過立坑通過はレーザ測量を基本としているため、比較的測量精度も良いが、曲線施工における測量精度は測量システムに依存することとなる。
【0033】
中大口径においては人力測量も可能であるため、比較的精度も良いが、小口径800mm未満においては一番多く採用されている磁力線測量では、数cmの測量精度を確保する可能性は非常に少ない。一方、本発明では、高い測量技術とこれに裏付けされた掘進機の姿勢制御技術によって実現可能とされる。
【0034】
通過立坑6を構成する鋼管の鋼製ケーシング62にあらかじめ明けられた穴61に掘進機等を通過させトンネルを造成するためには、地中立て込みした後に穴61の位置を正確に把握することが重要であり、次に掘進機を制御して正確に穴の中を通すことが要求される。
【0035】
通常、鋼製ケーシング62には地中への圧入前に工場等で2箇所に穴61を明けることになるが、この穴61のズレ要因としては、立て込み位置の基線からのズレおよび立て込み時に立坑鋼管である鋼製ケーシング62を鉛直に立て込むことが出来ず、斜めに入ってしまうことである。
【0036】
穴61の位置を正確に把握するためには、通過立坑6設置(立て込み)後
1)立坑鋼製ケーシング62設置位置の基線からのズレ量の計測
2)鋼製ケーシングが斜めに入っていないかの鋼製ケーシング62の傾斜角度の計測
を行うことにより、通過穴61の位置を把握することが可能となる。
【0037】
このため、たとえば、工場等において鋼製ケーシング62に穴空け位置をけ書きする時に、図2Aに示したように、け書き線を管上端分まで延長してマーキング63し、現場圧入施工時に穴61部が地中に圧入された後でも穴61位置が地上に出ている鋼製ケーシング62上部を見れば分かるようにする。同時に鋼製ケーシング62圧入後ケーシングの傾斜角度を測るため、測定基準点として穴位置から円周方向に90°位置にも2箇所マーキング63する。
【0038】
通過立坑が深く2段目以上の鋼製ケーシングを使用する必要がある場合は、図2Bに示したように、2段目以上の鋼製ケーシング62には1段目に空けられた穴の位置が分かるように2箇所にマーキング63を行う。
【0039】
それらのマーキング後、現場へ運搬し鋼製ケーシング62を地中圧入する。圧入方法は、穴が空けられていない鋼製ケーシングを圧入するのと同様に、円形の鋼製ケーシング62を図3のように揺動・回転圧入させながら垂直に下ろし地中に押し込んで行く形で行う。この時、鋼製ケーシング内部の土砂の掘削は原則的に行わないまま所定の位置まで圧入する。立坑が深くて鋼製ケーシングを圧入する時に摩擦抵抗が大きい場合は、鋼管内部の土砂の上部を掘削する事が必要となるが、推進時に必要となる最低土被り以上は掘削しない。必要に応じて水を張る等の安全対策を講じることもある。
【0040】
立坑が深かく(一般的には3mを超える深さ)1段目鋼製ケーシングだけでは所定の深さまで施工出来ない場合は、図4のように、鋼製ケーシングのジョイントを行うため、上部に継ぎ足す鋼製ケーシングのマーキングと1段目鋼製ケーシングのマーキングに合わせてジョイントする。上部鋼製ケーシングと1段目鋼製ケーシングのマーキングがズレた場合、2段目の鋼製ケーシングに新たな書き換えたマーキング64を行う。
【0041】
また、図5に示したように、接合する上部鋼製ケーシグと下部鋼製ケーシングに、オス・メス型の位置合せ構造65とすることも有効である。接合される上下のケーシング62の位置が一律的に固定され、通過口の位置をケーシング上部で正確に把握できる。
【0042】
この位置合わせ構造65では、片側に簡単な突起部65Aを部を設け、もう片方には切り込み65Bを設けることにより、容易にケーシングを定位置で固定することが出来る。突起部65Aと切り込み65Bとは様々な形態であってよい。たとえば図6の例1と例2のように例示される。接合する上部ケーシングは、クレーンで吊り下げながら接合の位置合わせを行うが、突起物の合わせ構造を例2のように三角形状にすることで、吊り下げながら容易に位置を合わせることも可能となる。
【0043】
ほぼ所定の深さまで鋼製ケーシングが圧入されたなら、トンネルを造成する基線位置に通過穴が合うようにマーキングを確認しながら打ち止める。
【0044】
立て込み完了後、基線からの鋼製ケーシングの位置のズレ量を把握するために、たとえば図7のように、トランシットを使用して鋼製ケーシング頂部のマーキング位置と基線とのズレ量を計測する。この計測により鋼製ケーシング頂部位置が把握できる。
【0045】
鋼製ケーシングが地上から完全に鉛直に入っていれば上記のトランシット測量だけで通過穴の位置の割り出しが可能であるが、斜めに入っている可能性もあるため、図8のように、どの現場でも保有しているレベルにてマーキングした4点の高さを計測して、鋼管の傾斜角度を3次元的に把握する、レベルに変えて傾斜計を使用してマーキング位置の対角同士の傾斜を2箇所測定し、傾斜角度を3次元的に把握することも可能である。
【0046】
鋼製ケーシング管頂部の位置と鋼製ケーシングの3次元的傾斜角度から通過穴の位置割り出し、それに合わせて掘進機を運転制御することにより、通過穴を通過させトンネルを造成する。
【0047】
推進完了後には、図9に示したように管内の土砂8を掘削し人孔を構築することになる。鋼製ケーシング62の通過口(穴)と推進管の隙間は断面が非常に小さいが、そのまま掘削していくとこの隙間より土砂や水が立坑に流入するため、たとえば図9のように、この狹い隙間のみの部分的な薬液注入9を行い土砂や水の流入を防ぐようにする。当然部分的な薬液注入9である為、注入量は通常の通過立坑に使用する量よりもはるかに少量で注入が完了する。
【0048】
通過口と推進管の隙間は、薬液注入で土砂や水の流入は防止されている。管内の土砂を全て取り除いた後、隙間よりの水の漏水状態と土質条件で、立坑内へ土砂や水の流入の心配が無い場合には、そのまま人孔構築を行うことができる。
【0049】
しかし、立坑内へ流入の可能性がある場合には、既に薬液注入で止水されており、しかも隙間が非常に狹い為、図10のように鉄板等の簡易な止水器10を取り付けるだけで安全に人孔構築を行うことが出来る。
【0050】
簡易止水器10の例としては、たとえば図11のように、通過部の推進管周囲の隙間に止水パッキン11を巻き、この止水パッキン11を押さえ板12でボルト13固定し土砂や水の流入を簡易的に防ぐ。このボルト穴も予め鋼製ケーシングの通過口の外周に組み込むことで安易に取り付けることが可能となる。
【0051】
高価な止水器を使用すること無く、通過立坑掘削後直ぐに人孔構築が可能である等、従来の通過立坑に比べて安価で施工日数も短縮でき経済的に大きな効果が期待できる。
【0052】
また、施工的にも従来の鏡切りでの土砂流入や通過立坑による推力上昇等についても回避することができ、安全性が非常に高く施工できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の概要説明図である。
【図2】A、Bは穴位置および傾斜測定位置のマーキングを例示した斜視図である。
【図3】穴明き鋼製ケーシングの圧入について例示した断面図である。
【図4】鋼製ケーシングの上下位置合わせを例示した斜視断面図である。
【図5】鋼製ケーシングの別の位置合わせを例示した斜視図である。
【図6】位置合わせの例を示した要部斜視図である。
【図7】穴位置の基線からのズレ計測を例示した斜視図である。
【図8】鋼製ケーシングの斜視角度の計測について例示した斜視図である。
【図9】通過口の薬液注入について例示した断面図である。
【図10】簡易止水器の装着について例示した断面図である。
【図11】簡易止水器例を示した要部斜視図である。
【図12】通過立坑の概要断面図である。
【図13】鋼製ケーシング立坑構築状況について示した断面図である。
【図14】鋼製ケーシングの溶接ついて示した断面図である。
【図15】床付けコンクリートの打設について示した断面図である。
【図16】掘進機接近と薬液注入について示した断面図である。
【図17】鏡切り、止水器取付、頭出しについて示した断面図である。
【図18】受架台、薬液注入、鏡切りについて示した断面図である。
【図19】止水器取付け、押出し、頭押さえについて示した断面図である。
【図20】再推進、人孔構築について示した断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 発進立坑
2 元押しジャッキ
3 掘進機
4 推進管
5 通過立坑
6 通過立坑
61 穴
62 鋼製ケーシング
63 マーキング
64 マーキング
65 位置合わせ構造
65A 突起部
65B 切り込み部
7 推進機
8 土砂
9 薬液注入
10 止水器
11 止水パッキン
12 押さえ板
13 ボルト
【技術分野】
【0001】
本発明はシールド工事や推進工事(トンネル特殊工事)において、発進立坑から到達立坑の間に通過立坑を構築する方法とこれを利用した推進工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
推進工事は発進立坑を構築して到達立坑に向けて掘削していく工事であるが、発進立坑には推進するための元押しジャッキ等の設備が必要となり、下水管路の維持・補修のための点検に必要な人孔、もしくは流入人孔の大きさに比較してより大きな立坑を構築することになる。
【0003】
従って、近年では、大きな用地確保の困難な問題や経済性のためより発進立坑を減少させる必要性が増してきている。
【0004】
発進立坑を減少させるには、たとえば図12に示したように、発進立坑1において元押しジャッキ2等の設備を配置して掘進機3および推進管4をもってできるだけ長距離を推進させ、必要な立坑は通過立坑5として通過させる方法が主体となっている。このような通過立坑5は中間立坑とも呼ばれている(たとえば特許文献1−2)。通過立坑5構築には、経済性から鋼製ケーシング立坑が多用されている。
【0005】
すなわち、たとえば、図13、図14および図15に示したように、まず、鋼製ケーシング(円形の鋼管)の下端に切削ビットを取り付け、鋼管ケーシングを揺動・回転圧入させながら垂直に下ろし、平行してバケットで鋼管内部の土砂を掘削し所定の位置まで圧入する。鋼製ケーシングの長さは架空線等による上空制限や製作上の問題等で3m程度である。それ以上の深さが必要な場合は、現場で鋼製ケーシングのジョイント作業をすることになる。ジョイント方法としては現場溶接による方法がとられている。
【0006】
圧入、掘削が終わったら、底盤コンクリートを打設し床付けを行い鋼製ケーシング内の泥水やスライムを処理し通過立坑としている。
【0007】
たとえばこのようにして築造した通過立坑5に向けて、図16に示したように発進立坑より推進して掘進機を到達させる。この時鋼製ケーシング内に掘進機を通過させるためケーシングをガス切断する鏡切りで、土砂や水の鋼製ケーシング内への流入を防止する目的で予め薬液注入工事で地盤改良を行っておく。
【0008】
次いで、図17のように、掘進機位置の確認後に鋼製ケーシングをガス切断して鏡切りを行い、再推進時に土砂や水の流出を防ぐために止水器を取り付け、推進機を通過立坑5内に押し出す。立坑内では、図18のように、掘進機や推進管が通過するための架台を設置し、今度は再び発進するために鋼製ケーシングをガス切断して鏡切りを行う。到達時と同様、この時土砂や水の流出を防止するため、予め薬液注入工事で地盤改良を行っておく。
【0009】
さらに、たとえば図19に示したように、止水器を発進側に取り付け、その後発進立坑より推力をかけて掘進機を地山に押し出す。通過立坑内では推進管や仮管が左右・上下方向に振れて推力上昇の原因となる為、通過立坑で推進管や仮管が振られないようにH型鋼等で拘束する。
【0010】
以上の準備が完了すると再び推進が開始される。
【0011】
止水器からの滑材・土砂などの流出を防ぐために、図20のように、立坑内では水を張っておく等の安全策をとることが多い。
【0012】
推進が完了すると人孔構築の工事が開始される。
【特許文献1】特開平11−247592号公報
【特許文献2】特開2003−41886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来は、上記のとおりの手順によって通過立坑の構築と推進が行われてきているが、このような従来の技術においては、実際の工程での作業やコストの負担は極めて大きく、また、具体的にもたとえば鏡切りでの水、土砂の流入などによって多発している立坑の埋没とその大きな危険性、滑材漏れによる推力上昇で推進が不可能になるなどの多発するトラブルを解消することが大きな問題であった。
【0014】
そこで、本発明は、以上のとおりの問題点を解消し、作業やコスト負担を大幅に低減し、トラブルと危険性を未然に回避することのできる新しい技術手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するために、第1には、発進立坑と到達立坑の間に通過立坑を配置して推進を行うための通過立坑の構築方法であって、あらかじめ推進機の通過口となる穴を開けた鋼製ケーシングを、推進時に必要な土被り以上に鋼製ケーシング内の土砂を掘削しないで土中に圧入することを特徴とする通過立坑の構築方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、第2には、上記の方法によって構築した通過立坑に開けておいた通過口穴に推進機を通過させ、その後鋼製ケーシング内の土砂を掘削することを特徴とする推進工法をも提供する。
【0017】
円形の鋼管である鋼製ケーシングに予め掘進機が通過する穴を設けておき、この通過口となる穴が開けられた鋼製ケーシングを、推進時に必要な土被り以上に、鋼管内部の土砂を掘削しないで地中に圧入して通過立坑を構築することを特徴としている。そしてまた、本発明は、このようにして構築された通過立坑の穴に掘進機を通過させ、推進終了後に通過立坑の掘削を行う推進工法であことを特徴としている。
【0018】
以上のとおりの本発明においては、立坑が深い場合で円筒鋼製ケーシングを降ろす時に摩擦抵抗が大きい場合は、鋼管内部の土砂の上部を掘削することも必要となるが、推進時に必要となる最低土被り以上は掘削しない。なお、必要に応じて水を張る等の安全対策を講じることもある。
【発明の効果】
【0019】
上記のとおりの本発明によれば、立坑内部を掘削しないで掘進機を通過させることにより、鏡切りでの水・土砂の流入などによる多発している立坑の埋没、滑材漏れでの推力上昇による推進不能などの多発している工事トラブルを防止できるだけでなく、鏡切り・止水器取り付け・架台設置などの施行日数が短縮できる。
【0020】
推進日数の大幅な短縮は推力上昇を防止できるだけでなく、工事費も非常に安価となる。
【0021】
従来は掘進機が通過できる断面の鏡切りをしていたため崩壊などの危険性が高かったが、推進終了後の立坑掘削では、予め大きくしておいた穴と推進管との間の断面は掘進機断面を引いた断面になり、従来の鏡切りでの断面に比較して非常に小さいため安全が高いことは明白である。従って、断面が小さいため薬液注入量も少なくなり、経済的に大きな効果を有する。
【0022】
また、高い止水器を使用することなく安価な鉄板等を使用でき、経済的にも有効な手段である。
【0023】
以上により、本発明は多発している工事トラブルを防止する高い安全性と非常に大きな経済性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の通過立坑の構築方法とこれを利用した推進工法の概要を例示したものが図1である。
【0025】
すなわち、以下の要件を有している。
【0026】
1)通過口となる穴61を開けた鋼製ケーシング62を地中に圧入して通過立坑6を構築する。
【0027】
2)穴61を開けた通過口を推進機7(推進機と推進管)で通過させ推進工事を完了させる。
【0028】
3)推進完了後に、鋼製ケーシング62内の土砂を掘削する。
【0029】
4)その後、たとえばマンホール人孔を構築する。
【0030】
以上の工法、工事においては、あらかじめ設けられた穴に掘進機を通過させるには高い測量精度と掘進機をコントロールする技術が必要となる。
【0031】
測量精度、コントロール技術が低レベルであれば、大きな穴が必要となり、前記の経済性、安全性が失われ意味がなくなる。
【0032】
直線施工における長距離施工での通過立坑通過はレーザ測量を基本としているため、比較的測量精度も良いが、曲線施工における測量精度は測量システムに依存することとなる。
【0033】
中大口径においては人力測量も可能であるため、比較的精度も良いが、小口径800mm未満においては一番多く採用されている磁力線測量では、数cmの測量精度を確保する可能性は非常に少ない。一方、本発明では、高い測量技術とこれに裏付けされた掘進機の姿勢制御技術によって実現可能とされる。
【0034】
通過立坑6を構成する鋼管の鋼製ケーシング62にあらかじめ明けられた穴61に掘進機等を通過させトンネルを造成するためには、地中立て込みした後に穴61の位置を正確に把握することが重要であり、次に掘進機を制御して正確に穴の中を通すことが要求される。
【0035】
通常、鋼製ケーシング62には地中への圧入前に工場等で2箇所に穴61を明けることになるが、この穴61のズレ要因としては、立て込み位置の基線からのズレおよび立て込み時に立坑鋼管である鋼製ケーシング62を鉛直に立て込むことが出来ず、斜めに入ってしまうことである。
【0036】
穴61の位置を正確に把握するためには、通過立坑6設置(立て込み)後
1)立坑鋼製ケーシング62設置位置の基線からのズレ量の計測
2)鋼製ケーシングが斜めに入っていないかの鋼製ケーシング62の傾斜角度の計測
を行うことにより、通過穴61の位置を把握することが可能となる。
【0037】
このため、たとえば、工場等において鋼製ケーシング62に穴空け位置をけ書きする時に、図2Aに示したように、け書き線を管上端分まで延長してマーキング63し、現場圧入施工時に穴61部が地中に圧入された後でも穴61位置が地上に出ている鋼製ケーシング62上部を見れば分かるようにする。同時に鋼製ケーシング62圧入後ケーシングの傾斜角度を測るため、測定基準点として穴位置から円周方向に90°位置にも2箇所マーキング63する。
【0038】
通過立坑が深く2段目以上の鋼製ケーシングを使用する必要がある場合は、図2Bに示したように、2段目以上の鋼製ケーシング62には1段目に空けられた穴の位置が分かるように2箇所にマーキング63を行う。
【0039】
それらのマーキング後、現場へ運搬し鋼製ケーシング62を地中圧入する。圧入方法は、穴が空けられていない鋼製ケーシングを圧入するのと同様に、円形の鋼製ケーシング62を図3のように揺動・回転圧入させながら垂直に下ろし地中に押し込んで行く形で行う。この時、鋼製ケーシング内部の土砂の掘削は原則的に行わないまま所定の位置まで圧入する。立坑が深くて鋼製ケーシングを圧入する時に摩擦抵抗が大きい場合は、鋼管内部の土砂の上部を掘削する事が必要となるが、推進時に必要となる最低土被り以上は掘削しない。必要に応じて水を張る等の安全対策を講じることもある。
【0040】
立坑が深かく(一般的には3mを超える深さ)1段目鋼製ケーシングだけでは所定の深さまで施工出来ない場合は、図4のように、鋼製ケーシングのジョイントを行うため、上部に継ぎ足す鋼製ケーシングのマーキングと1段目鋼製ケーシングのマーキングに合わせてジョイントする。上部鋼製ケーシングと1段目鋼製ケーシングのマーキングがズレた場合、2段目の鋼製ケーシングに新たな書き換えたマーキング64を行う。
【0041】
また、図5に示したように、接合する上部鋼製ケーシグと下部鋼製ケーシングに、オス・メス型の位置合せ構造65とすることも有効である。接合される上下のケーシング62の位置が一律的に固定され、通過口の位置をケーシング上部で正確に把握できる。
【0042】
この位置合わせ構造65では、片側に簡単な突起部65Aを部を設け、もう片方には切り込み65Bを設けることにより、容易にケーシングを定位置で固定することが出来る。突起部65Aと切り込み65Bとは様々な形態であってよい。たとえば図6の例1と例2のように例示される。接合する上部ケーシングは、クレーンで吊り下げながら接合の位置合わせを行うが、突起物の合わせ構造を例2のように三角形状にすることで、吊り下げながら容易に位置を合わせることも可能となる。
【0043】
ほぼ所定の深さまで鋼製ケーシングが圧入されたなら、トンネルを造成する基線位置に通過穴が合うようにマーキングを確認しながら打ち止める。
【0044】
立て込み完了後、基線からの鋼製ケーシングの位置のズレ量を把握するために、たとえば図7のように、トランシットを使用して鋼製ケーシング頂部のマーキング位置と基線とのズレ量を計測する。この計測により鋼製ケーシング頂部位置が把握できる。
【0045】
鋼製ケーシングが地上から完全に鉛直に入っていれば上記のトランシット測量だけで通過穴の位置の割り出しが可能であるが、斜めに入っている可能性もあるため、図8のように、どの現場でも保有しているレベルにてマーキングした4点の高さを計測して、鋼管の傾斜角度を3次元的に把握する、レベルに変えて傾斜計を使用してマーキング位置の対角同士の傾斜を2箇所測定し、傾斜角度を3次元的に把握することも可能である。
【0046】
鋼製ケーシング管頂部の位置と鋼製ケーシングの3次元的傾斜角度から通過穴の位置割り出し、それに合わせて掘進機を運転制御することにより、通過穴を通過させトンネルを造成する。
【0047】
推進完了後には、図9に示したように管内の土砂8を掘削し人孔を構築することになる。鋼製ケーシング62の通過口(穴)と推進管の隙間は断面が非常に小さいが、そのまま掘削していくとこの隙間より土砂や水が立坑に流入するため、たとえば図9のように、この狹い隙間のみの部分的な薬液注入9を行い土砂や水の流入を防ぐようにする。当然部分的な薬液注入9である為、注入量は通常の通過立坑に使用する量よりもはるかに少量で注入が完了する。
【0048】
通過口と推進管の隙間は、薬液注入で土砂や水の流入は防止されている。管内の土砂を全て取り除いた後、隙間よりの水の漏水状態と土質条件で、立坑内へ土砂や水の流入の心配が無い場合には、そのまま人孔構築を行うことができる。
【0049】
しかし、立坑内へ流入の可能性がある場合には、既に薬液注入で止水されており、しかも隙間が非常に狹い為、図10のように鉄板等の簡易な止水器10を取り付けるだけで安全に人孔構築を行うことが出来る。
【0050】
簡易止水器10の例としては、たとえば図11のように、通過部の推進管周囲の隙間に止水パッキン11を巻き、この止水パッキン11を押さえ板12でボルト13固定し土砂や水の流入を簡易的に防ぐ。このボルト穴も予め鋼製ケーシングの通過口の外周に組み込むことで安易に取り付けることが可能となる。
【0051】
高価な止水器を使用すること無く、通過立坑掘削後直ぐに人孔構築が可能である等、従来の通過立坑に比べて安価で施工日数も短縮でき経済的に大きな効果が期待できる。
【0052】
また、施工的にも従来の鏡切りでの土砂流入や通過立坑による推力上昇等についても回避することができ、安全性が非常に高く施工できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の概要説明図である。
【図2】A、Bは穴位置および傾斜測定位置のマーキングを例示した斜視図である。
【図3】穴明き鋼製ケーシングの圧入について例示した断面図である。
【図4】鋼製ケーシングの上下位置合わせを例示した斜視断面図である。
【図5】鋼製ケーシングの別の位置合わせを例示した斜視図である。
【図6】位置合わせの例を示した要部斜視図である。
【図7】穴位置の基線からのズレ計測を例示した斜視図である。
【図8】鋼製ケーシングの斜視角度の計測について例示した斜視図である。
【図9】通過口の薬液注入について例示した断面図である。
【図10】簡易止水器の装着について例示した断面図である。
【図11】簡易止水器例を示した要部斜視図である。
【図12】通過立坑の概要断面図である。
【図13】鋼製ケーシング立坑構築状況について示した断面図である。
【図14】鋼製ケーシングの溶接ついて示した断面図である。
【図15】床付けコンクリートの打設について示した断面図である。
【図16】掘進機接近と薬液注入について示した断面図である。
【図17】鏡切り、止水器取付、頭出しについて示した断面図である。
【図18】受架台、薬液注入、鏡切りについて示した断面図である。
【図19】止水器取付け、押出し、頭押さえについて示した断面図である。
【図20】再推進、人孔構築について示した断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 発進立坑
2 元押しジャッキ
3 掘進機
4 推進管
5 通過立坑
6 通過立坑
61 穴
62 鋼製ケーシング
63 マーキング
64 マーキング
65 位置合わせ構造
65A 突起部
65B 切り込み部
7 推進機
8 土砂
9 薬液注入
10 止水器
11 止水パッキン
12 押さえ板
13 ボルト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発進坑と到達坑の間に通過立坑を配置して推進を行うための通過立坑の構築方法であって、あらかじめ推進機の通過口となる穴を開けた鋼製ケーシングを、推進時に必要な土被り以上に鋼製ケーシング内の土砂を掘削しないで土中に圧入することを特徴とする通過立坑の構築方法。
【請求項2】
請求項1の方法によって構築した通過立坑に開けておいた通過口穴に推進機を通過させ、その後鋼製ケーシング内の土砂を掘削することを特徴とする推進工法。
【請求項1】
発進坑と到達坑の間に通過立坑を配置して推進を行うための通過立坑の構築方法であって、あらかじめ推進機の通過口となる穴を開けた鋼製ケーシングを、推進時に必要な土被り以上に鋼製ケーシング内の土砂を掘削しないで土中に圧入することを特徴とする通過立坑の構築方法。
【請求項2】
請求項1の方法によって構築した通過立坑に開けておいた通過口穴に推進機を通過させ、その後鋼製ケーシング内の土砂を掘削することを特徴とする推進工法。
【図2】
【図3】
【図5】
【図11】
【図1】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図3】
【図5】
【図11】
【図1】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−115597(P2008−115597A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299537(P2006−299537)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(502218617)株式会社エム・シー・エル・コーポレーション (14)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(502218617)株式会社エム・シー・エル・コーポレーション (14)
【Fターム(参考)】
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