説明

速度分離のための工学的吸着構造

【課題】PSA、TSA、およびPPSAプロセス、ならびにその組み合わせのような特定の速度制御吸着プロセスの速度選択性を増強するための改善された吸着シートに基づく平行流路吸着構造を提供する。
【解決手段】本発明の改善された吸着構造の実行を通して可能となった速度選択性の増強は、ビーズ型または押出型の従来の吸着材料によって達成可能な性能と比較して、選択された速度吸着プロセスの有意な強化を意外にも可能にしうる。本発明の吸着構造によって可能なそのようなプロセスの強化は、吸着サイクル数の増加および吸着床内のガス流速の増加を提供することができ、これは本発明の吸着剤を組み入れる速度的吸着システムの生産性および/または回収率を増加させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本発明は、速度選択性に基づく圧力スイング吸着および他の吸着ガス分離プロセスの性能改善のための吸着構造に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2005年1月7日に提出された米国特許仮出願第60/642,366号のより早い提出日の恩典を主張する。仮出願第60/642,366号の全開示は、付随する出願の開示の一部であると見なされ、参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
背景
圧力スイング吸着(PSA)によるガス分離、ならびに温度スイング吸着(TSA)および分圧(partial pressure)スイング吸着または置換パージ吸着(displacement purge)(PPSA)のような他の吸着ガス分離プロセスは、吸着材料に比較的遅く吸着される第二のガス成分と比較して、第一のガス成分が吸着材料に比較的速く吸着される場合に実現できる。「平衡制御型」プロセスとして記述される多くの重要な応用において、吸着選択性は主に、第一と第二の成分の平衡取り込み量の差に基づく。「速度制御型」プロセスとして記述されるもう一つの重要なクラスの応用において、吸着選択性は主に、第一と第二の成分の取り込み速度の差に基づく。
【0004】
PSAプロセスでは、第一および第二のガス成分を含むフィードガス混合物が、吸着容器における固定された吸着材料床に接する流路の流れの方向の周期的逆転と協調した圧力の周期的変動によって分離される。TSAまたはPPSAプロセスの場合、ガス成分の温度および/または分圧の周期的変動が、分離を行うために、流路の中のガス流と協調しうる。任意の特定のPSAの利用におけるプロセスは、その期間を特徴とするサイクル数で、および第一の比較的高い圧力と第二の比較的低い圧力とのあいだの圧力包絡線に対して動作する。PSAにおける分離は、圧力の変動を流路内での流れのパターンと協調させることによって得られ、それによって流路におけるガス混合物は、流路の第一の方向に流れると第二の成分が(吸着材料における第一の成分の優先的な吸着取り込みにより)濃縮され、流路の反対方向に流れると第一の成分(吸着材料によって脱着されている)が濃縮される。分離性能の目標を達成するために(すなわち、生成ガス純度、回収率、および生産性)、プロセスパラメータおよび動作条件は、前記サイクル数および前記圧力包絡線において、吸着材料に対する第一および第二の成分の十分に高い吸着選択性を達成するように設計されなければならない。
【0005】
平衡制御されるように設計されたPSAプロセスにおいて、内因性の吸着選択性は典型的にはサイクル数に非依存的であり、フィード流体中の流体成分と比較した当該吸着材料の内因性の平衡吸着優先性にのみ依存する可能性がある。実際の分離性能は、物質移動抵抗および軸分散を含む散逸効果によって低下する可能性がある。被膜物質移動(例えば流体流動境界層効果に起因)、マクロ孔物質移動、およびミクロ細孔物質移動に関連した物質移動抵抗が平衡制御型分離性能に及ぼす有害な効果は、典型的にはより高いサイクル数に関連したより高いガス流速において増加する。したがって、平衡制御型分離において達成可能な最大の実践可能なPSAサイクル数は典型的に、そのような物質移動抵抗によって制限される可能性がある。所定の吸着容器容積に関する特定の生産性を最大限にするために、(1)物質移動抵抗に関連した性能の低下、および(2)典型的な従来の顆粒充填床の流動化速度に近づいた場合の吸着性の低下によって課される制約内で、サイクル数を増加させることが望ましい。より小さい吸着ペレットは典型的にはより低いマクロ孔および被膜の物質移動抵抗を有する可能性があるが、過度の流体摩擦圧力勾配(flow friction pressure gradient)ならびに流動化および関連する吸着ペレット劣化のリスクが起こる前に、ペレットの直径を約0.5 mm〜約1 mm未満に低減させることは一般的に実施不可能である。
【0006】
先行の同一出願人による米国特許第5,082,473号(特許文献1)、第6,451,095号(特許文献2)、第6,692,626号(特許文献3)、および米国特許出願第10/041,536号(特許文献4)(その内容が参照により本明細書に組み入れられる)に述べられているように、平衡制御型PSAプロセスは、吸着材料を吸着シートに形成し、そのようなシートに適した補強材を組み入れて、または組み入れずに、吸着体を層状の「吸着ラミネートシート」平行流路接触構造の形状にすることによって増強することができる。上記の参考文献において記述されるように、そのような吸着シートは好ましくは、例示的なエキスパンデッドメタルもしくは金網のメッシュシートスペーサーまたはプリントスペーサーのようなスペーシング手段によって離れていてもよく、吸着シートの隣接する表面間に一般的に平行な流動経路を確立する。そのような平行流路吸着接触構造は、吸着シートおよびスペーシング手段を積み重ねた層または多層のらせん状ロールとして例示的に形成するような、当技術分野で公知の方法に従って組み立ててもよい。押出型のモノリスとして製作された平行流路吸着体も同様に当技術分野において公知であるが、上記のように、多層の吸着シートから形成された吸着構造は、サイクル吸着の実行にとって望ましい大きい表面積および狭い流動経路を得るために特に適している。
【0007】
多層吸着シート構造は、マクロ孔拡散が物質移動抵抗を支配する平衡制御型PSAプロセスにおいて、好適な性能を達成することが確立されている。吸着剤は従来の顆粒状吸着体の流動化限界を回避するためにシート形状で完全に固定される。流体摩擦圧の下落は、従来の充填顆粒床と比較して低減され、一方マクロ孔物質移動抵抗は薄い吸着シートを用いることによって低減することができる。物質移動および圧力の下落の制約が低減されうることから、このように、平衡制御型PSAプロセスは、高いサイクル数、例えば非限定的に厚さ約250ミクロンの吸着シートに関して約1サイクル/秒までのサイクル数で動作することができる。したがって、従来の顆粒状(ビーズ状)吸着床と比較して、吸着シート構造におけるマクロ孔物質移動抵抗による分離性能低下の開始は、より高い動作サイクル数にシフトされうるが(マクロ孔速度によって決定)、平衡制御型プロセスの固有の選択性は実質的に影響を受けずに残ったままである。
【0008】
速度制御型吸着プロセスでは、所定の吸着材料による分離は、特定のサイクル数で比較的より急速に吸着して典型的に脱着する第一の成分と、そのサイクル数で比較的遅く吸着して典型的に脱着する第二の成分とのあいだで実現することができる。速度制御型PSAプロセスの場合、そのような吸着および脱着は、周期的な圧力変動によって典型的に引き起こされるが、TSAプロセス、PPSAプロセス、および複合プロセスの場合では、吸着および脱着は、それぞれ温度、分圧、または圧力、温度、および分圧の組み合わせの周期的な変動によって引き起こされうる。
【0009】
PSAの例示的な場合において、速度制御型選択性は、ミクロ細孔の物質移動抵抗(例えば、吸着粒子または結晶内での拡散)および/または表面抵抗(例えば、狭いミクロ細孔の入口)によって主に決定されうる。プロセスの効果的な動作のために、比較的かつ有用に大きい第一の成分の作業取り込み(例えばそれぞれのサイクルのあいだに吸着および脱着された量)および比較的小さい第二の成分の作業取り込みが、好ましくは達成されうる。したがって、速度制御型PSAプロセスは好ましくは、両者のバランスをとり、第一の成分が有用な作業取り込みを達成することができない場合には過度の高い回数を回避し、かつ双方の成分が平衡吸着値に達する場合には過度に低い回数を回避しながら、適切なサイクル数で動作されてもよい。
【0010】
いくつかの確立された速度制御型PSAプロセスは、例えば第一のより吸着される成分を含む酸素と、第二のより遅く吸着される窒素との空気分離のための、炭素分子篩吸着剤を用いる。公知の速度制御型PSAのもう一つの例は、第一の成分としての窒素の、第二の成分としてのメタンからの分離であり、これは炭素分子篩吸着剤によって行ってもよく、またはより最近はETS-4(例えばKuznickiらに対する米国特許第6,197,092号(特許文献5)、および第6,315,817号(特許文献6)に開示されるもの)のようなチタノシリケートに基づく吸着剤による複合型速度/平衡PSA分離(主に速度に基づくが、吸着材料に対するメタンの部分的平衡吸着により周期的な熱再生を必要とする)として行ってもよい。これらの公知の速度制御型吸着分離(rapid-cycle kinetic-controlled adsorptive separation)用途は、比較的低いサイクル数およびガス流速を特徴としてもよく、この場合、従来のビーズ型または押出型の吸着剤を顆粒状の充填床に用いても流動化が起こることはない。速度制御型PSAプロセスのサイクル数は、そのサイクル数が典型的にマクロ孔速度によって制限される平衡制御型PSAプロセスとは対照的に、ミクロ細孔抵抗速度および/または表面抵抗速度によって典型的に決定されることから、PSA、TSA、およびPPSAプロセス、ならびにこれらの組み合わせのような速度制御型吸着プロセスの有意な強化(例えばより高い動作回数およびガス流速、ならびに結果として得られるより高い生産性および/または回収率)を可能にすることができるシステムが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,082,473号
【特許文献2】米国特許第6,451,095号
【特許文献3】米国特許第6,692,626号
【特許文献4】米国特許出願第10/041,536号
【特許文献5】米国特許第6,197,092号
【特許文献6】米国特許第6,315,817号
【発明の概要】
【0012】
概要
本発明は、PSAプロセス、TSAプロセス、およびPPSAプロセス、ならびにこれらの組み合わせのような、特定の速度制御型吸着プロセスの速度選択性を向上させるための改善された吸着シートに基づく平行流路吸着構造を含む。本発明の改善された吸着構造の実行を通して可能になった速度選択性の向上により、ビーズ型または押出型の従来の吸着材料によって得ることができる性能と比較して、速度吸着プロセスの有意な強化が意外にも可能となる。本発明の吸着構造によって可能となるそのようなプロセス強化は、吸着サイクル数の増加、および吸着床内のガス流速の増加を提供する可能性があり、これらは本発明の吸着構造を組み入れる速度吸着システムの生産性を増加させる可能性がある。特に、生産性の増加により、所定のシステム許容量に対する吸着材料の材料構成の低減が可能になり、それによってより小さくより低コストの吸着システムが得られる可能性があり、それによって吸着システムをこれまで発展できなかったコストおよび/またはスペースに影響を受けやすい分離用途に速度吸着システムを使用することが可能となると思われる。あるいは、速度プロセス強化に起因する生産性の増加によって、生成物回収の増加、および結果として得られる本発明の吸着構造を組み入れる吸着システムの動作コストの低減が可能となりうる。さらに、本発明の速度吸着構造は、充填吸着床における従来の吸着材料が有する、サイクル数および/またはガス流速における何らかの制限から本発明の吸着構造を解放することにより、充填床吸着体における従来の吸着剤では全く達成することができなかった速度分離を可能にしうる。
【0013】
本発明は、所定のサイクル数で吸着構造における速度選択的な吸着剤において比較的急速に吸着し、かつ典型的に脱着する第一の成分「A」(「速い成分」)と、その所定のサイクル数で吸着剤において比較的遅く吸着し、かつ典型的に脱着する第二の成分「B」(「遅い成分」)とのあいだで分離が達成される、速度制御型吸着プロセスを提供する。速度制御型吸着プロセスは、PSAの場合には圧力、TSAの場合には温度、およびPPSAの場合には分圧の周期的変動を通して、またはこれらの変数の組み合わせの周期的変動を通して達成することができる。
【0014】
本発明における改善された吸着構造を含む吸着シートは、上記で開示されるように参照により本明細書に組み入れられる、本出願人の既に公開された米国特許出願第10/041,536号において開示されている方法のような、任意の適した方法に従って作製してもよい。望ましい吸着材料は、望ましくは、吸着構造内で流動経路に接触する、特徴的な厚さ「X」の吸着シート層として支持される可能性がある。例示的態様において、流動経路は典型的に、吸着シート層に対して接線方向に向いている。そのような流動経路は典型的に、上記参考文献において開示されたメッシュスペーシング手段またはプリントスペーシング手段のような、隣接する吸着シート層間に位置するスペーシング手段によって確立されてもよく、または他の態様において、隣接する吸着シート間に位置するもう一つの典型的にはシート様の材料によって確立されてもよく、この場合他の材料は吸着シート層と比較して比較的高い流体透過性を有し、したがって吸着シート層間に流体流動経路を確立する。吸着シート層は平坦であってもよく、または典型的には層の厚さ「X」より著しく大きいと考えられる湾曲半径で湾曲してもよい。吸着層は典型的に、特徴的な半径「rc」のミクロ細孔吸着粒子のマクロ孔マトリクスを含んでもよく、吸着マクロ孔マトリクスはマクロ孔ボイド率(void fraction)「εp」を有する。ミクロ細孔吸着粒子は典型的には、ゼオライトもしくはチタノシリケートであってもよく、または半径「rc」の他の結晶性分子篩結晶もしくはクリスタライトであってもよく、またはシリカ、アルミナ、もしくは炭素のようなアモルファス吸着材料もしくはゲルの粒子もしくは領域となりうる。あるいは、他の公知の吸着材料が吸着層に含まれることもある。
【0015】
ガスの速度制御分離のために設計された本発明における吸着シート構造の吸着層に組み入れるために適した吸着剤は、吸着特性を示しかつ典型的には分離しようとするガス成分の一つまたは複数に類似した平均的な孔サイズを有する、任意の公知の結晶またはアモルファスミクロ細孔性の固体から選択してもよい。
【0016】
N2/O2またはプロパン/プロピレンのような大きさの類似した小分子を分離するために、菱沸石、ゼオライトAのような細孔ゼオライト、または8員環によって定義された孔を有する他の結晶ミクロ細孔分子篩(国際ゼオライト協会によって定義)を用いてもよい。そのような適した分子篩材料の組成または構造は、孔径を低減させるために、および吸着材料に対するガス成分種の拡散比として定義される望ましい速度選択性を生じさせるために、適切に改変されてもよい。
【0017】
ETS-4のようなチタノシリケート分子篩は、本発明の吸着構造を含む速度制御型吸着システム(特にPSA)設計に対してさらなる長所を有して用いられる可能性がある。従来の分子篩とは異なり、そのようなチタノシリケート分子篩吸着剤に対する様々な成分の吸着熱は、孔径とは無関係に改変させることができる。さらに、チタノシリケート分子篩の孔径は、吸着剤の合成および/または脱水を通して正確に制御することができ、望ましくは標的ガスの分離に対して高度の「カスタマイズ」が可能となりうる。孔径の低減を通して分離される所望のガス成分の拡散定数、および組成の改変を通した吸着熱の値(および/またはヘンリーの法則の吸着定数)を独立して変化させ、かつその結果「調整する」ことができることにより、特に速度制御分離、および特に速度制御型PSAサイクルの設計における、さらなるレベルの最適化が可能となりうる。
【0018】
本発明の吸着構造における吸着シート層には、吸着粒子を固定するための結合剤が含まれてもよく、構造補強のための繊維状またはフィラメント状の材料を含んでもよく、および吸着シート構造を一般的に作製する方法を開示する上記の参考文献に記述されるように、支持シート、支持メッシュ、または支持グリッドに接着させて、シートの片面または両面に吸着層を有する吸着シートを形成してもよい。
【0019】
速度制御型吸着選択性は、例えば、半径「rc」を有し、速い成分の結晶内拡散性「DcA」および遅い成分の結晶内拡散性「DcB」を有する、たとえばゼオライトまたは他の分子篩結晶もしくは分子篩クリスタライトのような、しかしこれに限定されない吸着粒子内部のミクロ細孔拡散によって、主に決定されうる。拡散輸送に関する標準的な線形駆動力近似を用いて、速いガス成分および遅いガス成分の拡散に関する時間定数は、本開示に関して以下のように定義される。
【数1】

ファクター1/15は、ほぼ球状の吸着粒子の周知のパルス反応を反映する。
【0020】
あるいは、速度制御型吸着選択性は、内部吸着粒子の表面抵抗(例えばおよび非限定的に、バリアコーティングまたは狭いミクロ細孔の入口による表面抵抗)によって主に決定される可能性がある。速い成分および遅い成分に関する速度係数「ksA」および「ksB」では、その時間定数は、(半径「rc」のほぼ球状の吸着粒子の表面抵抗に関して)この場合以下のように定義される。
【数2】

【0021】
時間定数に関する上記の定義によって、それらは、ベルグバウ・フォルシュング(Bergbau-Forschung)炭素分子篩に対する典型的な工業的速度制御型PSA空気分離に関して、速い成分を含む酸素、および遅い成分を含む窒素に関してtcA=25秒およびtcB=1130秒として与えられる。本発明および本発明の吸着構造は、特に、tcA<約2.5秒である、1桁速い速度分離および速度定数に特に関係している。本発明はまた、tcAが約<0.2秒である、もう1桁速い速度分離および速度定数を扱い、そのような分離は、実際に、従来のシステムにおいて可能な最大サイクル数を、上記の最も速い速度分離に関する閾値より下に制限する充填床におけるガス流速の流動化限界のために、充填床における従来の顆粒状吸着剤では実現することが不可能である。
【0022】
吸着材料におけるマクロ孔は、特徴的で典型的なねじれ「τ」および孔拡散性(pore diffusivity)「Dp」を有する。等モル拡散の場合および孔拡散性が分子拡散性「Dm」によって支配される場合、
Dp=Dm/τ
である。
【0023】
実行可能な速度制御型吸着分離プロセスにより、第一の成分の有用にかつ比較的大きい作業取り込み(例えば、各サイクルのあいだの吸着量および脱着量)、および第二の成分の比較的小さい作業取り込みが、プロセスの所定のサイクル動作回数で望ましくは達成されうる。平衡取り込みの差は以下のように吸着等温式の勾配によって定義される。
【数3】

【0024】
速度制御型分離に関して、理想的な選択性はS0>>1で以下のように定義される。
【数4】

【0025】
本発明によって克服されるべき問題が、マクロ孔物質移動抵抗および外被膜物質移動抵抗によって理想的な速度選択性が隠されるまたは無効にされる場合の吸着分離の用途において存在する。本発明の層状の吸着シート構造に関して、半経験的な速度選択性は以下のように線形駆動力モデルにおいておおよそ定義される。
【数5】

マクロ孔抵抗(X→0またはDp→∞のいずれか)の極限では、S=S0である。性能指数(figure of merit)「F」は、「F」の高い値がS→S0を意味するように定義してもよい。
【0026】
本発明の多層速度制御型平行流路吸着構造は、以下の不等式を特徴とする。
【数6】

この式は、ミクロ細孔拡散速度制御の場合に再提示することができ、分子拡散は、以下のようにマクロ孔拡散を決定する。
【数7】

【0027】
F<1の場合、したがってS<0.5*S0の場合、これは速度選択性の実質的な喪失を意味する。有効な速度制御型分離を可能にしうる本発明の速度制御型吸着構造のいくつかの態様における向上した速度選択性に関するパラメータの望ましい範囲において、F>3の場合、したがってS>0.75*S0であり;F>4の場合、S>0.80*S0であり;F>9の場合、S>0.90*S0;およびF>19の場合、S>0.95*S0である。
【0028】
したがって、本発明における態様において、「F」は、好ましくはF>3、より好ましくはF>4、さらにより好ましくはF>9、および最も好ましくはF>19となるように、応用可能な上記の不等式のいずれかに関して1より大きくなければならないことが望ましい。
【0029】
速い成分に関する吸着パラメータおよび拡散パラメータKA、kcA、およびDcAは、分離されるべきガス混合物に関する吸着材料に対するプロセス条件を表しており、本発明の速度制御型吸着構造における公称の作業温度で行われるPSAサイクルに関する速い成分および遅い成分に関するガス濃度の作業範囲内であり、かつこのサイクル数の作業圧包絡線(PSAサイクルの上限圧と下限圧のあいだ)内である。等温線およびミクロ細孔拡散性の非線形濃度感受性、速い成分と遅い成分とのあいだの吸着および拡散相互作用のために、吸着パラメータおよび拡散パラメータは、一般的にPSAサイクルの時間によって、および本発明の吸着構造における流動経路に沿った位置によって変化する可能性がある。「F」の定義における曖昧さを回避するために、上記の不等式における吸着パラメータおよび拡散パラメータKA、kcA、およびDcAは、フィードガス混合物の濃度およびPSAサイクルの上限圧に対応すると思われる。
【0030】
ミクロ細孔拡散制御の場合における所定の吸着パラメータおよび拡散パラメータに関して、かつ本発明の吸着構造設計パラメータを不等式の左側における可視度に関して分類すると、本発明の態様により以下が規定される。
【数8】

【0031】
上記の式の右側の吸着パラメータおよびミクロ細孔拡散パラメータが、本発明の吸着構造におけるプロセス条件および特定の吸着剤の選択に対応する場合、幾何学的パラメータ「X」、「rc」、「εp」、および「τ」は、本発明における工学的吸着構造の基礎を提供する。これらの幾何学的パラメータは、望ましくは表面抵抗制御に基づく速度選択性の場合に関しても、本発明において同様に設計されてもよい。
【0032】
マクロ孔物質移動抵抗による速度選択性のマスキングを回避するために、吸着層内のマクロ孔構造は、可能な限り開いていることが望ましい。したがって、マクロ孔ボイド率「εp」は、望ましくは比較的高くてもよく、好ましくは約0.5>εp>0.3の範囲であってもよく(下限は従来のゼオライト吸着ペレットにほぼ対応する)、およびマクロ孔のねじれは、望ましくは可能な限り1に近似してもよい(τ→1.0)。本発明のいくつかの局面において、マクロ孔のねじれは、従来のゼオライト吸着ペレットに関するτ〜3の典型的な値と比較して、好ましくは2.5>τ>1.0の範囲であり、より好ましくは1.5>τ>1.0の範囲であると思われる。
【0033】
望ましい高い値の「F」を得るために、吸着層の厚さ「X」は、本発明の吸着構造によって可能であるように、望ましくは比較的小さくてもよく、本発明の吸着構造は、吸着シート材料を作製するための方法を開示する上記の参考文献に記述されているように、グリッド支持体、スクリーン支持体、メッシュ支持体、布支持体、または繊維状支持体を有する場合に第一のおおよその範囲150μm>X>50μmを達成することができる可能性があり、および吸着剤コーティングまたは被膜成長技術による場合に第二のおおよその範囲50μm>X>5μmを達成することができる可能性がある。第一のおおよその範囲の上限は、従来の顆粒状吸着床における最小の現実的な平均ペレット半径より小さい。
【0034】
高い「F」を得るために、吸着粒子またはゼオライト結晶の半径「rc」が大きいことは有用であると思われる。しかし、プロセス強化の目的は望ましくは、高いサイクル数およびガス流速を必要とする。ミクロ細孔拡散制御型速度PSAプロセスに関して、達成可能なサイクル数は結晶または粒子の半径「rc」の二乗に反比例すると考えられる。したがって、および十分な「F」値の達成を前提とすれば、比較的小さい半径「rc」はプロセス強化を促進すると思われる。本発明の態様に関して、吸着粒子またはクリスタライトの大きさの範囲は、典型的に約10μm>rc>1μmの範囲であってもよく、または好ましくは約4μm>rc>1μmの範囲であってもよい。
【0035】
その第二のおおよその範囲における吸着層と、吸着粒子または吸着結晶の寸法範囲が重なり合うことに注目してもよく、それによって本発明は、吸着層がインサイチューで不活性支持体において成長したゼオライト結晶のような吸着粒子の単層コーティングであってもよい特定の態様を企図する。
【0036】
本発明には、本発明の吸着構造を含む速度制御型吸着プロセス(特にPSAを用いる態様において)が含まれる。そのような本発明の速度制御型吸着プロセスは、速い成分の作業吸着取り込みをおおよそ相対的に最大限にし、一方遅い成分の作業吸着取り込みを最小限にするために適したサイクル数で動作してもよい。本発明は、用いる吸着サイクル(特にPSA、ただしTSA、PPSA、または三つ全ての組み合わせを含んでもよい)の段階に関して広い許容範囲を可能にし、これらの段階のあいだのサイクル期間の分割を可能にするが、サイクル期間「T」は典型的に、約10 tcA<T<2 tcBのおおよその範囲において選択されてもよい。
【0037】
本発明のもう一つの態様において、本発明の速度制御型平行流路吸着構造を、ロータリー式PSA装置における吸着床において用いてもよい。そのような適したロータリー式PSA装置には、その内容が参照により本明細書に組み入れられる、同一出願人による米国特許第RE38,493号、第6,051,050号、第6,451,095号、および第6,565,535号において開示されているような態様が含まれてもよい。そのような適したロータリー式PSA装置は、サイクル速度が好ましくは約1サイクル/分を超える、より好ましくは約5サイクル/分を超える、高速サイクルロータリーPSAとして好ましくは動作することができる可能性がある。さらに、そのような適したロータリー式PSA装置は典型的に、本発明の速度制御型吸着構造を含む吸着床における圧力および流量を制御するために、少なくとも一つのロータリーバルブを含んでもよい。少なくとも一つのロータリーバルブと本発明の吸着構造との組み合わせは、ロータリーバルブの速度の変化を通して吸着サイクルスピードの容易な制御を有利に提供することができ、そのような容易な制御は吸着サイクルスピードの微調節を促進して、吸着構造における速度制御型吸着分離プロセスを最適化する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ペレット状の改変4Aゼオライトによる空気分離に関する理論的な速度選択性を示し、ペレット半径およびクリスタライト直径に対する依存性を示す。
【図2】本発明の吸着ラミネート構造の概略図である。
【図3】実施例2の吸着ラミネートにおける改変4Aゼオライトによる空気分離に関する理論的な速度選択性を示し、吸着シートの厚さおよびクリスタライト直径に対する依存性を示す。
【図4】実施例3の吸着ラミネートに関する理論的な速度選択性を示し、吸着シートの厚さに対する依存性を示す。
【図5】実施例4の吸着ラミネートに関する理論的な速度選択性を示し、吸着シートの厚さおよび吸着等温線勾配に対する依存性を示す。
【0039】
いくつかの態様の詳細な説明
実施例1(先行技術)
窒素濃縮不活性ガスを発生させるための空気分離は、炭素分子篩、および改変4Aゼオライトのような孔の狭いゼオライトによって行ってもよい。そのような孔の狭いゼオライトは典型的に、速い成分としての酸素および遅い成分としての窒素に関する速度選択性に反して、酸素に対する窒素の平衡選択性を低減させるように改変されてもよい。本出願の改変4Aゼオライトは、典型的に、既に販売されている炭素分子篩より急速なミクロ細孔拡散時間定数を有してもよい。より高い回数で動作する速度制御型PSAプロセスに関して従来のペレット充填床では限界があることを示すこと、および先行技術と比較して本発明のいくつかの長所を示すことが、本発明の関心対象である。
【0040】
以下の表1は、Douglas M. Ruthven, S. Farooq and K. Knaebel, VCH Publishers, New York, 1993によるテキスト「Pressure Swing Adsorption」において報告されているように、改変4Aゼオライトに関する関連する吸着パラメータおよびミクロ細孔拡散パラメータを示す。
【0041】
【表1】

【0042】
図1は、ペレット状の改変4Aゼオライトによる空気分離に関する理論的な速度選択性を示し、ペレットの半径「R」およびクリスタライト直径dc=2 rcに対する依存性を示している。これらの計算は、速度選択性「S」に関する以下の半経験的線形駆動力近似に基づき、停滞流条件の近似におけるミクロ細孔拡散、マクロ孔拡散、および被膜抵抗に関する付加的な物質移動抵抗の項を分子および分母に示す。
【数9】

「S」対「R」の曲線を、結晶直径1μm、2μm、および4μmに関して示す。大きさの小さい範囲の20/40メッシュ(ペレットの直径420〜821μm)の顆粒吸着剤では、結晶直径4μmに関して極めて良好な性能が予想され(S/S0〜0.9)、結晶直径2μmでは有意に低下し(S/S0〜0.75)、および結晶直径1μmでは重度に低下する(S/S0〜0.5)。明らかに、直径約4μmの比較的大きいゼオライト結晶を用いることによって、F>9を得るために優れた性能が得られる可能性がある。
【0043】
この顆粒吸着剤を用いる従来の速度制御型PSAシステムは、約10サイクル/分のサイクル数を用いてもよい。そのようなPSAシステムは、飛行機において部分的に空の燃料タンク不活化するための安全手段として窒素を発生させるための「積載不活性ガス発生システム」として用いられている。
【0044】
図2
図2は、本発明の態様における多層吸着シート構造10の概略図である。構造10は、吸着シート11を含み、厚さ「X」の吸着層13は、隣接するシート11のあいだの高さ「h」の流動経路12に接し、そのような流動経路はスペーシング手段15によって明確に定められる。スペーサーは、逆向きの流れ16に対する障害を最少にしながら、経路の高さを正確に確立する。吸着層13は、直径「dc」の吸着粒子(例えば、ゼオライト結晶)からなる。支持グリッド、メッシュ、布、繊維、または他の適した補強材料が層13の内部またはそのあいだに含まれてもよい。
【0045】
さらなる本発明の態様において、吸着層を、例えばホイルのような不活性シートのそれぞれの厚さが「X」の二つの層13のあいだにコーティングするか、またはその直径が実質的に「X」より大きくてもよいワイヤの上にコーティングしてもよい。本発明のなおさらなる態様において、上記の参考文献において開示されるような吸着シート材料をコーティングするまたは形成する、任意の適したプロセスを用いて、本発明の速度制御型吸着構造において用いるための吸着シート構造を生成してもよい。
【0046】
実施例2
図3は、表1の吸着パラメータおよびミクロ細孔拡散パラメータを用いて、図2の吸着ラミネートにおける改変4Aゼオライトによる空気分離の半経験的理論的速度選択性を示し、吸着シートの厚さおよびクリスタライト直径に対する依存性を示す。これらの計算は、速度選択性「S」に関する以下の半経験的線形駆動力近似に基づいており、ミクロ細孔拡散、マクロ孔拡散、および被膜抵抗に関する付加的な物質移動抵抗の項を分子および分母に示す。
【数10】

図2に示されるように、本発明における吸着ラミネート構造は、X=100μm、S/S0>0.9(F>9)が1μmより大きい範囲の全ての結晶サイズにおいて達成され、2μmより大きい範囲の全ての結晶サイズではS/S0>0.95(F>19)が達成されるように、第一のおおよその厚さ範囲150μm>X>50μmにおいて容易に製造されうる。本発明の特定の態様に関して、本発明の速度制御吸着構造の上記の特性は、S/S0の値を最大限にするように選択されることが好ましい。
【0047】
この例示的な応用における本発明の予想外の利点が、実施例1の従来の20/40メッシュ顆粒吸着床と比較して、20/40メッシュ吸着剤において4μm未満の結晶直径では、速度選択性のマクロ孔での有意な低下が起こること、およびゼオライト結晶直径が4倍低減されると実質的にサイクル数が4倍強化されうることを思い出せば、今や明らかになると思われる。サイクル数の強化の他に、本発明の吸着構造内のガス流速は、従来の充填顆粒吸着床の場合のように流動化を回避するために必要な比較的低いレベルに限定されない。本発明のシステムおよびプロセスにおけるサイクル数とガス流速のそのような増加の組み合わせは、生産性、および/または回収率の望ましい増加を提供する可能性がある。
【0048】
本発明の吸着構造は、速度選択性、およびしたがってS/S0〜0.95(F>19)の分離性能を改善しながら、4倍の強化を達成するために(サイクル数を10サイクル/分から40サイクル/分に増加する)直径2μmのゼオライト結晶を利用してもよい。あるいは、本発明の吸着構造は、ほぼ等しい速度選択性、およびしたがってS/S0〜0.9(F>9)の分離性能を保持しながら、16倍の強化(サイクル数を160サイクル/分まで増加させる)を達成するために、直径1μmのゼオライト結晶を利用してもよい。
【0049】
4倍の強化または16倍の強化は、吸着体の容積および重量をそれに比例して低減させ、飛行機搭載燃料タンクの不活化にとって、ならびにより大きい回収および/または生産性(同様により小さい大きさおよび/またはより低い資本コストに貢献する可能性がある)が吸着分離システムにとって有利な任意の他の用途にとって極めて望ましいことが認識されると思われる。本発明の吸着構造はまた、顆粒吸着剤より飛行機の衝撃/振動曝露に対して本来強健かつ耐性があり、または他の任意の用途に特有の曝露による物理的ショックもしくはストレスに対して強健かつ耐性がある。
【0050】
実施例3
実施例3は、より速い時間定数およびいくぶん強い平衡吸着を有する速度制御型吸着分子を検討する。用いられる特定のパラメータは、
【数11】

である。
【0051】
これらの吸着パラメータおよびミクロ細孔速度パラメータは、プロピレン/プロパン分離の工業的に重要な応用に適用される可能性がある。有用な速度データおよび平衡データは、いずれもReyesらによる米国特許第6,730,142号、および第6,733,572号におけるAlPO-34およびAlPO-18吸着剤に対する分離に関して提供される。このデータは、このオレフィン/パラフィンPSA分離が、423 Kまたはそれ以上の高い温度で最も良く行うことができることを示唆しており、本モデルは、過度に高いKA値を回避するために、そのような高い温度が望ましいことを示している。
【0052】
図4は、実施例3の吸着ラミネートに関する理論的な速度選択性を示し、上記のパラメータの吸着シートの厚さに対する依存性を示している。X〜50μmに関してS/S0〜0.5(F〜1)であることから、第二のおおよその厚さ範囲50μm>X>5μmの吸着層の厚さが必要であると思われる。S/S0>0.9(F>9)であれば、吸着層は、X〜15μmの薄い結晶コーティングであってもよい。
【0053】
実施例4
実施例4は、等温線勾配の変化に対する感度を調査して、実施例3と同様の場合を一般化する。図5は、実施例4の吸着ラミネートに関する理論的な速度選択性を示し、吸着シートの厚さおよび吸着等温線勾配Kに対する依存性を示している。単純化のために、K=KA=KBであり、ここでも
tcA=0.025秒およびtcB=2.5秒
である。
【0054】
図5において認められるように、吸着層の厚さは、例えばS/S0〜0.8(F〜4)が許容される場合、K〜5においてX〜50μmまで増加してもよい。そのような低いKA値は、高温でおよび高い等温線上(飽和に近づく)で動作することによって得ても、またはεpを増加させることによって間接的に得てもよい。
【0055】
逆に、K>80の比較的高い値では、10μm>X>5μmの範囲までの非常に薄い吸着層を使用しなければならない可能性がある。そのように薄い層は、本発明の吸着シート構造における単層結晶コーティングとして提供されてもよい。吸着体における過剰な経路空間率を回避するために、同等の経路高「h」が同程度の範囲、例えば20μm>h>5μmに存在することが必要である可能性がある。
【0056】
本発明の吸着構造を含む吸着シート上に非常に薄い吸着層コーティング(および対応する狭い流動経路)が必要であることによる緩衝(relief)は、吸着剤結晶内または粒子内のバルクミクロ細孔抵抗制御よりむしろ表面抵抗制御に関して設計することによって提供することができる。バルク吸着剤結晶または粒子は比較的速いミクロ細孔拡散を有するミクロ細孔材料であってもよく、ミクロ細孔は熱水処置、シラン化、または例えばAlPO-34のようなミクロ細孔選択的材料の薄いオーバーレイコーティング(例えば、厚さ約1μm)によって結晶表面または粒子表面で狭くなっている。
【0057】
実施例5
実施例5は、本発明の吸着構造を用いる速度制御吸着分離を表す。約2〜5オングストロームの大きさのミクロ細孔を有する改変ゼオライトシリケート型吸着材料は、分子篩効果を示す可能性があり、本発明の速度制御吸着構造に組み入れるために、速度制御吸着材料としての使用に適している可能性がある。本発明の吸着構造においてそのような改変ゼオライトシリケート型吸着材料を用いて、速度制御吸着分離プロセスを用いて二つのガスの混合物において二酸化炭素からメタンを分離してもよい。
【0058】
マクロ孔物質移動抵抗および被膜物質移動抵抗は、材料を組み入れる本発明の吸着剤構造の適切な設計により、および適当なプロセス条件での吸着分離操作によって、そのような材料における速度制御型吸着を強化するために、適切に低減される可能性がある。そのような状況において、ミクロ細孔抵抗は速度制御型吸着分離プロセスを制御することが判明する可能性がある。そのような条件下で、ならびにゼオライトシリケート材料を含みかつ以下の表2において示される物理的特徴に対応する本発明の吸着構造を用いると、理想的な速度制御吸着選択性S0が、メタンから二酸化炭素を分離するための速度制御プロセスに関しておよそ100となる可能性があり、これは有効な分離にとって非常に有利でありうる。
【0059】
そのような改変ゼオライトシリケート吸着材料におけるCH4の拡散性は、比較的速い可能性があり、それによって約〜0.1秒の吸着時間定数に関して非常に小さい値が得られる。速度制御型吸着サイクルは、望ましくは吸着剤におけるメタンの有意な吸着を低減するために、好ましくは吸着サイクルの最も長い期間が、本発明の吸着構造において組み入れられた吸着材料に対するメタンの吸着時間定数より短い期間となるように、設計および動作されてもよい。したがって、本出願における吸着プロセスサイクルスピードは、そのような急速なサイクルスピードにおいて、CO2はその比較的速い拡散速度に基づいて吸着材料に吸着するが、メタンの吸着は望ましくは最小限にされるように、好ましくは従来のビーズ型PSAプロセスシステムより数桁速い範囲でもよい。
【0060】
【表2】

【0061】
実施例6
実施例6は、本発明の速度制御型吸着構造を含む構造化された吸着床を用いて、N2からCH4の速度制御吸着分離を可能にすることに向けられる本発明のさらなる態様を表す。改変ミクロ細孔構造を有するシリケート材料は、上記の実施例5において開示される場合と類似の場合には、望ましくはこの分離のために用いてもよい。そのような応用に関する拡散率、ヘンリー定数、および吸着材料結晶の大きさの適当な値を上記の表2に示す。そのような応用において、有効速度制御選択性は、そのような適した吸着材料に窒素が比較的より速く吸着して、メタンがより遅く吸着することによって、N2からCH4の分離を増強するように本発明の吸着構造が最適化されるように定義されてもよい。
【0062】
上記の実施例において開示されるように、本発明の速度制御吸着構造は、当技術分野において公知であるもののように、任意の適した吸着材料を組み入れる多くの異なる吸着分離プロセスに応用してもよい。
【0063】
本発明は、いくつかの例示的な態様を参照してこれまで記述してきた。特許請求の範囲によって定義される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、当業者はさらなる改変を行ってもよいことが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の吸着シートがスペーシング手段によって空間的に離れて隣接する吸着シート間に流動経路を形成し、かつこの吸着シートが、厚さXの吸着層を特徴とする少なくとも一つの吸着層を含み、それぞれの吸着層が、吸着粒子半径rcを特徴とする少なくとも一つの吸着材料の粒子を含み、ならびに厚さXの吸着層の寸法および吸着粒子半径rcの大きさが、高速サイクル速度制御型吸着分離(rapid-cycle kinetic-controlled adsorptive separation)を実行するために、少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性S0に対する吸着構造の有効速度選択性Sの値を最大限にするように選択される、
少なくとも第一のより急速に吸着されるガス成分と、第二のより遅く吸着されるガス成分とのあいだの高速サイクル速度制御型吸着分離を実行するための多層平行流路吸着構造(multi-layer parallel passage adsorbent structure)であって、このような吸着構造が第一と第二の成分のあいだで理想的な速度選択性S0を定義する少なくとも一つの吸着材料を含む多数の吸着シートを含む、多層平行流路吸着構造。
【請求項2】
高速サイクル速度制御型吸着分離が、高速サイクル速度制御型PSA分離である、請求項1記載の吸着構造。
【請求項3】
少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性に対する吸着構造の有効速度選択性の比の値S/S0が、少なくとも0.75である、請求項2記載の吸着構造。
【請求項4】
少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性に対する吸着構造の有効速度選択性の比の値S/S0が、少なくとも0.80である、請求項2記載の吸着構造。
【請求項5】
少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性に対する吸着構造の有効速度選択性の比の値S/S0が、少なくとも0.9である、請求項2記載の吸着構造。
【請求項6】
少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性に対する吸着構造の有効速度選択性の比の値S/S0が、少なくとも0.95である、請求項2記載の吸着構造。
【請求項7】
少なくとも一つの吸着材料がゼオライトシリケート分子篩を含み、第一のより急速に吸着されるガス成分が二酸化炭素を含み、第二のより遅く吸着されるガス成分がメタンを含む、請求項2記載の吸着構造。
【請求項8】
少なくとも一つの吸着材料がゼオライトシリケート分子篩を含み、第一のより急速に吸着されるガス成分が窒素を含み、第二のより遅く吸着されるガス成分がメタンを含む、請求項2記載の吸着構造。
【請求項9】
少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性に対する吸着構造の有効速度選択性の比の値S/S0が、少なくとも0.75である、請求項7記載の吸着構造。
【請求項10】
少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性に対する吸着構造の有効速度選択性の比の値S/S0が、少なくとも0.80である、請求項7記載の吸着構造。
【請求項11】
少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性に対する吸着構造の有効速度選択性の比の値S/S0が、少なくとも0.9である、請求項7記載の吸着構造。
【請求項12】
少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性に対する吸着構造の有効速度選択性の比の値S/S0が、少なくとも0.95である、請求項7記載の吸着構造。
【請求項13】
少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性に対する吸着構造の有効速度選択性の比の値S/S0が、少なくとも0.75である、請求項8記載の吸着構造。
【請求項14】
少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性に対する吸着構造の有効速度選択性の比の値S/S0が、少なくとも0.80である、請求項8記載の吸着構造。
【請求項15】
少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性に対する吸着構造の有効速度選択性の比の値S/S0が、少なくとも0.9である、請求項8記載の吸着構造。
【請求項16】
少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性に対する吸着構造の有効速度選択性の比の値S/S0が、少なくとも0.95である、請求項8記載の吸着構造。
【請求項17】
少なくとも一つのロータリーバルブ;
多数の吸着シートがスペーシング手段によって空間的に離れて隣接する吸着シート間に流動経路を形成し、かつこの吸着シートが、厚さXの吸着層を特徴とする少なくとも一つの吸着層を含み、それぞれの吸着層が、吸着粒子半径rcを特徴とする少なくとも一つの吸着材料の粒子を含み、ならびに厚さXの吸着層の寸法および吸着粒子半径rcの大きさが、高速サイクル速度制御型吸着分離を実行するために、少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性S0に対する吸着構造の有効速度選択性Sの値を最大限にするように選択される、
少なくとも第一のより急速に吸着されるガス成分と、第二のより遅く吸着されるガス成分とのあいだの高速サイクル速度制御型吸着分離を実行するために適合された、少なくとも一つの多層平行流路吸着構造であって、このような吸着構造が第一と第二の成分のあいだの理想的な速度選択性S0を定義する少なくとも一つの吸着材料を含む多数の吸着シートを含む、多層平行流路吸着構造
を含む、高速サイクルロータリーPSA装置。
【請求項18】
高速サイクル速度制御型吸着分離が高速サイクル速度制御型PSA分離である、請求項17記載の吸着構造。
【請求項19】
少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性に対する吸着構造の有効速度選択性の比の値S/S0が、少なくとも0.75である、請求項18記載の吸着構造。
【請求項20】
少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性に対する吸着構造の有効速度選択性の比の値S/S0が、少なくとも0.80である、請求項18記載の吸着構造。
【請求項21】
少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性に対する吸着構造の有効速度選択性の比の値S/S0が、少なくとも0.9である、請求項18記載の吸着構造。
【請求項22】
少なくとも一つの吸着材料の理想的な速度選択性に対する吸着構造の有効速度選択性の比の値S/S0が、少なくとも0.95である、請求項18記載の吸着構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−196670(P2012−196670A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−106034(P2012−106034)
【出願日】平成24年5月7日(2012.5.7)
【分割の表示】特願2007−550486(P2007−550486)の分割
【原出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】