説明

造形用または建築用の無機質組成物およびその製造方法

【課題】 廃棄物の問題が生じないような無機質で、比較的比重が小さく強靱性を備え、軽くて薄い三次曲面が形成できる組成物とし、水に溶け易いカルシウム化合物を配合することなく、発錆を促進する強酸を使用しないで、常温常圧下で且つ短時間で弱アルカリ性製品を造形し得るFRPに近づく性能を備えた製品の成型技術を提供する。
【解決手段】 本発明の造形用または建築用の無機質組成物は、酸化マグネシウム20〜60重量%、塩化マグネシウム5〜40重量%、酸化アルミニウム5〜40重量%、二酸化珪素5〜30重量%を配合して成ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化アルミニウム、二酸化珪素を配合して成る造形用または建築用の無機質組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(a)FRPは、ガラス繊維、カーボン繊維などの繊維類に、ポリエステル樹脂,エポキシ樹脂などの樹脂類を含侵、硬化させて製造される繊維強化プラスチックである。後述する表4に示すように、比重が小さく、圧縮強度が大きいことから、軽量で、折損し難く、柔軟性を保持した材料であることは一般に良く知られている。この特徴を生かして、FRPは遊園地や公園の擬岩、美術工芸品あるいは建築物の装飾柱などに利用されている。
しかしながら、FRPなどプラスチック製品は腐敗しないので、劣化した場合には燃焼させる廃棄方法が取られて、その結果、有毒ガスが発生したり、又、使用中にも揮発性有機化合物VOCが形成されて、環境を悪化させる原因となっている。
【0003】
(b)一方、本出願人は、材料がガラス繊維補強石膏(GRG)やガラス繊維補強セメント(GRC)を扱っており、この材料は、石膏やコンクリートの無機質にガラス繊維等を加えたものである。このGRGやGRCの物性は、前記表4に示す通りで、美術館などでは優美な装飾品や造形品として演出されたり、天井埋め込み型間接照明用天井装飾材や、ローマ柱等として三次曲面に対応した内装工事が施工され、市場に提供されている。
しかし、これをそのまま前記FRPの代替品として利用しようとすると、比重が大きいので、重量物となって施工性が悪く、且つ、石膏を原料に含むGRGでは水に可溶となり、屋外での使用に耐えられない等の問題点が残される。
【0004】
(c)これに対し従来技術には、無機質で軽量であり、且つ、厚さの薄い構造物が特許文献1に提案されている、
即ち、酸化マグネシウムと塩化マグネシウムと硫酸カルシウムも組成の一つとしたカルシウム化合物とを常温常圧且つ、強酸の存在化で混合して12時間以上で造形し、マグネシウム・カルシウム構造体を形成している。
しかし、当該技術を上記FRPの代替品として使用しようとすると、(イ)該構造体の骨格を形成するカルシウム化合物は、構造体の歪を抑える働きがあり、強固な構造体であるが、石膏と同様にカルシウム化合物であるため、雨水などを吸収して溶解し易い性質を有する。従って、屋内品などの用途に限定され、屋外の利用には不向きとなっている。(ロ)また、マグネシウム・カルシウム構造体を形成するときに添加される強酸は、該構造体のpHを小さくしてしまい、この構造体で製造された建築材料は劣化が早く、鉄筋など金属を錆びさせてしまう、等の欠点が生じてしまう。
【特許文献1】特願2000−368219
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたもので、(1)廃棄物の問題が生じないような無機質で、(2)比較的比重が小さく強靱性を備え、(3)水に難溶性となるようカルシウム化合物を配合することなく、(4)発錆を促進する強酸を使用しないで、常温常圧下で且つ短時間で弱アルカリ性製品を造形し得るFRPに近づく性能を備えた製品の成型技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1記載の造形用または建築用の無機質組成物は、酸化マグネシウム20〜60重量%、塩化マグネシウム5〜40重量%、酸化アルミニウム5〜40重量%、二酸化珪素5〜30重量%を配合して成ることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の造形用または建築用の無機質組成物の製造方法は、酸化マグネシウム20〜60重量%、塩化マグネシウム5〜40重量%、酸化アルミニウム5〜40重量%、二酸化珪素5〜30重量%を配合混合して型に流し込み、比較的肉薄な三次曲面を常温常圧下で形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の造形用または建築用組成物は、各配合材料の比重が小さいので、軽量の無機質組成物を形成することができる。ガラス繊維を配合剤に入れないでも強度が出る。水に溶解するカルシウム化合物を使用していないので、雨水が掛かる屋外でも使用できる。また、組成物は弱アルカリ性を保持し、また、硫酸や塩酸など酸を使わない結晶化反応であるので、組成物の劣化がなく、鉄筋など金属を錆びさせることはない。
その製造方法は、酸化アルミニウムや二酸化珪素を配合し、焼成しないで、常温常圧下で結晶化反応が徐々に進行するので、急激な膨張、収縮や歪みがなく、且つ強度が大きい組成物を形成することができる。更に、酸化マグネシウムと二酸化珪素が多いので、質感は天然石に似た光沢のある白色を示す。天然石に似ているので緻密であり、磨くと光沢が増す。
また三次曲面を有する型に流し込むので、三次曲面や彫刻などあらゆる形を自由に作り出せる。厚さ5〜8mm、直径3000mmの三次曲面を容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
そこで本発明は、自然界に存在あるいは安価に購入できる金属酸化物や金属塩化物を配合し、造形用または建築用の無機質組成物として一体化するが、その製造方法を以下に説明する。
最初に、本発明では、造形用または建築用組成物として、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化アルミニウム、二酸化珪素の全てを用いることとし、これに言及する。
【0010】
先ず、各選定材料の特徴について記述する。
酸化マグネシウムの配合量は20〜60重量%で、配合剤のなかでは最も多い。酸化マグネシウムは、組成物の白さを出す配合剤であり、その白さを際立たせるために配合量を多くする。また、組成物とりわけ二酸化珪素が溶ける温度を低くするので、固溶体を形成し易くすると共に、引いては、緻密で光沢のある天然石状に一体化する働きをする。更に、水にはわずかしか溶けないので、形成される組成物は屋外においても、使用可能であり、風化し難い。
次に、塩化マグネシウムの性状は、色は白色で固体であるが、6水和物であるので吸湿性が強く液状に成り易い。本発明を構成する他の組成材料の沈殿防止剤であると共に、中性〜弱アルカリ性に調整する調整剤である。その結果、組成物の化学反応を進み易くする機能を有し、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、二酸化珪素を結合させる接着剤的な働きを行う。その配合量は、5〜40重量%である。
三つ目の酸化アルミニウムの配合量は5〜40重量%で、他の組成材料と反応して、強固な組成物を形成するための骨格となる。5〜40重量%としたのは、5重量%以下の過小量であったり、40重量%以上の過多な量であると、酸化アルミニウムは解け難く、脆い組成物となってしまうからである。また、組成物として一体化できたとしてもひびが入り易いからである。
四つ目の二酸化珪素は骨材であり、その配合量は5〜30重量%とした。二酸化珪素はガラス質の原料であり、艶のある柔らかい質感を出現させる材料である。二酸化珪素配合量が5〜30重量%であると白色〜乳白色を呈し、融点を上昇させ、ひび割れ防止効果が出てくる。しかし、配合量が30重量%超とすると溶け難くなり、不透明になってひび割れが起きる。5重量%未満では解けすぎてしまう。
【0011】
製造方法としては、各配合剤をポリエチレン製の容器に入れ、撹拌する。更に、水を加えながら良く混合した後、型に流し込む。常温常圧下で乾燥させて5〜8mm厚さとして、ひび割れを発生しないセラミック組成物を生成した。この組成物は、比較的肉薄な三次曲面を形成することが可能となった。ここで、本発明でいう三次曲面とは、多くは、湾曲した凹凸のある立体的な形状を指すが、表面が平坦な壁材等も含める意である。
また、本配合剤にガラス繊維を混ぜれば、更なる補強ができる。高炉スラグも配合剤として添加することも可能である。
【0012】
この発明の実施例を、上記実施の形態に基づいて製作した。その実施状況を表1、表2および表3に従って説明する。
【実施例1】
【0013】
上記の形態に基づいて製作した造形用または建築用の無機質組成物を形成するための配合表を表1に示す。
ポリエチレン製の容器に、酸化マグネシウム50g(31.2重量%)、塩化マグネシウム30g(18.8重量%)、酸化アルミニウム35g(21.9重量%)、二酸化珪素10g(6.2重量%)を混合し、ガラスさじで撹拌しながら水35g(21.9重量%)を投入する。その後、三次曲面を有する型に流し込み、常温常圧で20時間放置し、乾燥脱型させた。その結果、生成した組成物は厚さ5mmの白色セラミック組成物となり、比重は1.8、圧縮強度は25.0N/mmであった。
【0014】
【表1】

【実施例2】
【0015】
上記の形態に基づいて製作した造形用または建築用無機質組成物を形成するための比較配合表を表2に示す。実施例1に比べて酸化マグネシウム量を減らし、酸化アルミニウム量を増量した。
ポリエチレン製の容器に、酸化マグネシウム30g(20.7重量%)、塩化マグネシウム30g(20.7重量%)、酸化アルミニウム40g(27.6重量%)、二酸化珪素10g(6.9重量%)を混合し、ガラスさじで撹拌しながら水35g(24.1重量%)を投入する。その後、三次曲面を有する型に流し込み、常温常圧で20時間放置し、乾燥脱型させた。その結果、生成した組成物は厚さ5mmの白色セラミック組成物となって艶がなくなった。比重は1.9と大きくなり、圧縮強度は20.0N/mmと小さくなった。
【0016】
【表2】

【実施例3】
【0017】
上記の形態に基づいて製作した造形用または建築用の無機質組成物を形成するための比較配合表を表3に示す。実施例1に比べて酸化マグネシウム量を減らし、二酸化珪素量を増量した。
ポリエチレン製の容器に、酸化マグネシウム30g(20.7重量%)、塩化マグネシウム30g(20.7重量%)、酸化アルミニウム35g(24.1重量%)、二酸化珪素15g(10.3重量%)を混合し、ガラスさじで撹拌しながら水35g(24.1重量%)を投入する。その後、三次曲面を有する型に流し込み、常温常圧で20時間放置し、乾燥脱型させた。その結果、生成した組成物は滑りのある質感で、厚さ5mmで艶のある白色〜乳白色セラミック組成物が形成できた。比重は1.7と小さくなり、圧縮強度は31.2N/mmと大きくなった。
【0018】
【表3】

【0019】
この発明の試験例を、上記実施の形態に基づいて製作した造形用または建築用の無機質組成物の試験状況を表4および図1に従って説明する。
【試験例1】
【0020】
上記の形態に基づいて製作した造形用または建築用の無機質組成物、FRPおよび天然石の物性比較を比重の小さい物から順に並べた。その結果を表4に示す。
本発明の造形用または建築用組成物の実施例3種の比重は、FRPにほぼ等しいので、軽量であることを表している。圧縮強度はFRPのほぼ2倍であるので、FRPのような可撓性はないが、強固であることを示している。また、FRPと同様にガラス繊維を配合したGRGやGRCの比重は、基本配合剤の石膏やポルトランドセメントの影響により本実施例やFRPより大きく、圧縮強度は本実施例とFRPの中間位の値を示していることから、GRGやGRCはセラミック特有の重さがFRPに替われなかったことを表している。
また、本発明の硬度が天然石とほぼ同じであることから、天然石に似た光沢のある白色質感を示す。天然石に似ているので緻密であり、磨くと光沢が増す。
上記を要約すると、本発明は比重が小さくFRP程度であり、硬度、圧縮強度が大きいので、軽くて硬く、折れ難い材料となっていることを示している。
【0021】
【表4】

【試験例2】
【0022】
上記の形態に基づいて製作した本発明の造形用または建築用組成物と石膏をそれぞれ1辺5cmの立方体に成形した後、水に投入して、溶解試験を行った。
その結果を図1に示す。
20℃の水を張った2ケのプラスチック製のボウル(直径28cm)に、本発明の実施例1と石膏をそれぞれ投入し、30日毎にその重量を計量した。計量にあたり、水から取り出した試験体は5分間、ドライヤーにて乾燥した。試験は90日間行い、試験体の溶融状況を比較した。
その結果、本発明の組成物には重量変化がなく、90日間継続して225gを示し、ボウル内の水の白濁もなかった。劣化が全く起きていないことを示し、水に強い組成物であることを表している。一方、石膏は、試験前後で重量変化があり、試験前に290gであった試験体が90日後には210gに減少した。その減少率は27.6%であった。更に、ボウル内の水は白濁し、試験体の表面にザラザラ感が現れた。また試験体の角などは簡単に崩れてしまい、劣化が進行していることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、FRPの代替品としての使用が可能で、例えば遊園地や公園の擬岩、美術工芸品あるいは装飾柱などの一般建築物にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の造形用または建築用の無機質組成物と石膏の溶解比較試験

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウム20〜60重量%、塩化マグネシウム5〜40重量%、酸化アルミニウム5〜40重量%、二酸化珪素5〜30重量%を配合して成ることを特徴とする造形用または建築用の無機質組成物。
【請求項2】
酸化マグネシウム20〜60重量%、塩化マグネシウム5〜40重量%、酸化アルミニウム5〜40重量%、二酸化珪素5〜30重量%を配合混合して型に流し込み、比較的肉薄な三次曲面を常温常圧下で形成することを特徴とする請求項1記載の造形用または建築用の無機質組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−151714(P2006−151714A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341539(P2004−341539)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(505332347)
【Fターム(参考)】