説明

造影剤調製用化合物及びキット並びにイメージング法

位置選択的脱離基にターゲティング部分を結合してなる化合物は、造影剤の調製に有用である。固体担体の使用によって、造影剤は、脱離基由来の副生物から、分子の化学的属性(例えば、正味電荷若しくは極性)又は物理的属性の相違に基づいて単離することができる。造影剤の製造方法は、検出性種の位置選択的置換部位を含むリンカー基を介してターゲティング部分が担体に結合した化合物を準備する段階と、検出性種を含有する溶液とこの化合物を接触させる段階と、造影剤を回収する段階を含む。検出性種を含有する溶液(31)を収容する第一の容器(5)と、検出性種の位置選択的置換部位を含む脱離基を介して担体(30)に結合しているターゲティング部分を含む化合物を収容する第二の容器(2)とを含むキットも造影剤の調製に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば陽電子放射型断層撮影のような医用イメージングに適した標識ターゲティング分子の製造方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
陽電子放射型断層撮影(PET)は、ヒトの病気を視覚化するための高解像度・非侵襲性イメージング技術である。PETでは、陽電子消滅崩壊時に生ずる511keVのγ線光子を検出する。臨床では、フッ素18(18F)が、最も広く使用される陽電子放出核種の1つである。18Fは最も簡便にはサイクロトロンによって水溶液中の18Fフッ化物として生成する。18Fは半減期が2時間であるので画像形成に望ましいが、18Fフッ化物を所望の放射性医薬品に転化するため特殊な合成/精製プロトコルを用いる必要がある。放射能の減衰による18Fの損失を最小限にするため、プロトコル全体が迅速でなければならない。さらに、合成は容易に自動化できるように頑強で簡単でなければならない。実験室職員の放射能被曝を最小限にし、臨床での実施ができるようにするため自動化が望まれる。
【0003】
18F標識放射性医薬品合成の一般的手法は、18Fフッ化物を、求電子脱離基で活性化した大過剰の医薬品前駆体で処理するもので、PET分野では求電子性脱離基としてトリフルオロメタンスルホネート(トリフレート)基が常用される。出発原料の18Fフッ化物による標識生成物が妥当な反応速度で高い収率で得られるように大過剰の前駆体が用いられる。18Fフッ化物は、求核置換として知られる反応で求電子脱離基を置換して所望の標識化合物を生成させる。PET放射化学合成の第一の目標は、標識導入後の工程数及び各工程の時間を最小限にすることであるが、所望の18F標識放射性医薬品の製造には後段での1以上の反応が必要とされることがある。
【0004】
求核置換反応後の粗製反応混合物は少量の所望の18F標識化合物と大量の未反応前駆体からなる。未反応前駆体と副生物から所望の18F標識生成物を精製することが望まれる又は必要とされることが多い。トリフルオロメタンスルホネートの場合、所望18F標識生成物は非標識前駆体と挙動がさほど異ならないことが多い。そのため、高速液体クロマトグラフ(HPLC)での困難で時間のかかる分離が必要になることがある。そのため総合成時間が延び(そのため放射性生成物の収率が低下する)、安定な自動化のための課題を呈し、PETイメージングを実施するための有効時間枠が制限され、ひいては新規PET用放射性医薬品の開発の妨げとなる。
【特許文献1】米国特許第6379328号明細書
【特許文献2】米国特許第6172207号明細書
【特許文献3】国際公開第03/027677号パンフレット
【特許文献4】国際公開第03/005026号パンフレット
【特許文献5】国際公開第03/002157号パンフレット
【特許文献6】国際公開第02/085903号パンフレット
【非特許文献1】Hirai, K., “trans−iodopropenylation of alkyl halides: (E)−1−iodo−4−phenyl−2−butene”, Organic Syntheses, Coll., 6, 704−708(1988)
【非特許文献2】Hirai, K. et al., “A New Synthetic Method Using Thiazoline Derivative. VI. C2−unit Elongation Reactions: Alkoxycarbonylmethylation (−CH2CO2R) and Alkoxycarbonyliodomethylation (−CHICO2R) Reactions”, Tetrahedron Lett. 31, 2677−2680(1977)
【非特許文献3】Kayed, et al., “Common Structure of Soluble Amyloid Oligomers Implies Common Mechanism of Pathogenesis”, Science, 300: 486−489(April 18, 2003)
【非特許文献4】Lidstrom et al., “Microwave assisted organic synthesis − a review”, Tetrahedron, 57, 9225−9283(2001)
【非特許文献5】Mukaiyama, T. at al., “New Synthetic Reactions Based on the Onium Salts of Aza−Arenes”, Angewand. Chem., Int. Ed. Engl., 18(10), 707−808(1979)
【非特許文献6】Wolf, et al., “Synthesis of Radiopharmaceuticals and Labeled Compounds Using Short−Lived Isotopes”, Radiopharmaceuticals and Labeled Compounds, Vol.1, 345−381(1973)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、ルーチン臨床陽電子放射型断層撮影に使用できるようなターゲティング分子への18F放射性核種の簡単で効率的な導入法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書では、位置選択的な脱離基にターゲティング部分を結合してなる化合物について開示する。脱離基は、検出性種の位置選択的置換部位を与えて、造影剤を生じ、造影剤は脱離基由来の副生物から簡単に単離できる。ある実施形態では、造影剤は、分子の化学的属性(例えば、正味電荷又は極性)の差に基づいて、脱離基由来の副生物から単離される。他の実施形態では、造影剤は、分子の物理的属性の差に基づいて、脱離基由来の副生物から単離される。
【0007】
後者の種類の特に有用な実施形態では、脱離基を介して固体ターゲティング部分が担体に結合した化合物について本明細書で開示する。脱離基は、検出性種の位置選択的置換部位を与え、造影剤は固体担体から放出される。
【0008】
本発明の造影剤の製造方法は、検出性種の位置選択的置換部位を含むリンカー基を介してターゲティング部分が担体に結合した化合物を準備する段階と、該化合物を検出性種含有溶液と接触させる段階と、造影剤を回収する段階とを含む。
【0009】
他の態様では、検出性種の位置選択的置換部位を含む脱離基を介してターゲティング部分が担体に結合した化合物を収容する第一の容器と、検出性種含有溶液を収容する第二の容器とを備えるキットについて開示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の化合物は、位置選択的脱離基に結合したターゲティング部分を含む。脱離基は、検出性種の位置選択的置換部位を与えて、造影剤を生じ、造影剤は脱離基由来の副生物から簡単に単離できる。本明細書で用いる「位置選択的」という用語は、分子のある特定の部位が優先的反応性であることをいう。優先的反応性は、立体障害、静電相互作用(反発又は引力)又はこれらの組合せに起因するものでよい。「造影剤」という用語は、検出性種が結合(例えば共有結合又はキレート化による)したターゲティング分子をいう。
【0011】
本明細書で用いる「ターゲティング部分」という用語は、被験体(例えばヒト)に投与したときに、その化学的又は物理的属性によって特定の部位に優先的に蓄積される傾向のある分子をいう。ターゲティング部分は、合成品、半合成品又は天然物のいずれでもよい。ターゲティング部分として作用する材料又は物質としては、例えば、抗生物質を始めとするタンパク質、糖タンパク質及びレクチン、ペプチド、ポリペプチド、単糖類及び多糖類を始めとする糖類、ビタミン、ステロイド、ステロイド類似体、ホルモン、補助因子、並びにヌクレオシド、ヌクレオチド及びポリヌクレオチドを始めとする遺伝物質が挙げられる。蓄積は、例えば、ターゲティング部分の細胞表面の受容体との結合、ターゲティング部分の優先的代謝、或いはすべての組織には存在しないがある種の組織(例えば疾患組織)に存在する開口を通してのターゲティング部分の通過など、どのような過程でもたらされるものでもよい。
【0012】
適当なターゲティング部分には、特に限定されないが、2−デオキシ−2−フルオロ−D−グルコース(FDG)、6−フルオロ−L−DOPA(F−DOPA)、6−フルオロ−L−メタ−チロシン(6−FMT)、9−[4−フルオロ−3−(ヒドロキシメチル)ブチル]グアニン(FHBG)、3’−デオキシ−3’−フルオロ−チミジン(FLT)、2−メチル−2−フルオロメチルグリシン、ベンズイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール及び国際公開第02/085903号に記載されているようなチオブラビンT(thiovlavin T)アナログが挙げられる。
【0013】
特に有用な実施形態では、ターゲティング部分は可溶性βアミロイドに結合するものであり、小分子、ペプチド、タンパク、酵素、デンドリマー、ポリマー、抗体又は抗体断片のいずれでもよい。可溶性βアミロイドに対する特異抗体は、βアミロイドのアミノ酸残基13〜26からなる結合領域及び/又はアミノ酸残基33〜42からなるカルボキシ末端基のような所望の目標エピトープを含む適当な抗原又はハプテンに対して調製できる。可用性βアミロイドに対する適当な抗体の一例は、Kayed, et al., Science, vol.300, p.486, April 18, 2003に開示されている。
【0014】
位置選択的脱離基は、検出性種の置換が起こり、ターゲティング部分から離れたときに造影剤から簡単に分離できる位置選択的部位を含む有機部分であればどんなものでもよい。脱離基の反応性部位の正確な性状は、用いる個々の検出性種に依存する。例えば、位置選択的脱離基には、ハライド(例えば、18F)による求核置換を起こすことのできる部位としてスルフォネート基がある。検出性種と使用できる他の位置選択的脱離基としては、N−アルキル−2−メルカプトチアゾリニウム−2−イル、1−アルキル−2−メルカプト−ピリミジニウム−2−イル、1,4−ジアルキル−2−メルカプトピリミジニウム−2−イル、5−アルキル−1,3−ジメチル−2−メルカプト−ベンズイミダゾリウム−2−イル、5−アルコキシ−1,3−ジメチル−2−メルカプト−ベンズイミダゾリウム−2−イル、5−アルコキシ−2−メルカプト−3−メチル−ベンゾチアゾリウム−2−イル、5−アルコキシ−2−メルカプト−3−メチルベンゾオキサゾリウム−2−イル、3−アルキル−2−メルカプト−1−メチル−イミダゾリウム−2−イル、4−アリール−2−メルカプト−3−メチルチアゾリウム−2−イルが挙げられる。特に有用な脱離基は、トリフレート脱離基の置換速度と同程度の置換速度を示す。検出性種による脱離基の置換速度は、当業者に公知の方法で求めることができる。かかる方法としては、ガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)及び液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC/MS)が挙げられる。置換生成物の経時的定量分析によって各脱離基−検出性種ペアに対する速度定数が得られる。
【0015】
幾つかの実施形態では、前駆体として、2−メルカプト N−アルキルピリミジン、2−メルカプト−5−アルコキシ−N−アルキルベンゾチアゾールと2−メルカプト−5−アルコキシ−N−アルキルベンズイミダゾール、及び2−メルカプト−5−ニトロ−N−アルキルベンゾチアゾールと2−メルカプト−5−ニトロ−N−アルキルベンズイミダゾールが挙げられるが、これらはLancaster Research Chemicals社及びAldrich Chemical社から市販されている。
【0016】
位置選択的脱離基は、脱離基由来の副生物からの造影剤の分離で促す構造も含んでいる。分離を促す具体的構造の選択は、生成する造影剤の属性を始めとする複数の因子に依存する。ある実施形態では、脱離基の化学的属性によって、脱離基由来の副生物からの造影剤の分離を促す。例えば、造影剤が荷電していない場合、脱離基が正又は負に荷電した部分を含んでいれば分離(例えば、イオン交換樹脂による)が容易になる。或いは、分離を容易にするため脱離基は極性基を含んでいてもよい。生成する造影剤が電荷又は極性基を含んでいる場合、中性電荷の副生物が得られるように脱離基を設計すべきである。標識生成物の前駆体からの分離は、反応混合物をシリカゲルやイオン交換樹脂のような短栓固相媒体に適切な溶媒で流すことによって達成し得る。特に有用な実施形態では、この単純化した方法を用いた分離で、求核置換反応後に存在する前駆体の99%超が除去される。
【0017】
この部類に属する位置選択的脱離基の非限定的な例として、以下の構造を有する基が挙げられる。
【0018】
次式の基:
【0019】
【化1】

式中、X=S又はOであり、各Rは同一又は異なるものでC〜C20アルキル基から選択される。
【0020】
以下に挙げるようなピリジニウム塩及びピリミジニウム塩:
【0021】
【化2】

式中、YはN又はCHである。
【0022】
以下に挙げるようなベンゾオキサゾリウム/ベンゾチアゾリウム塩:
【0023】
【化3】

式中、XがSのときYはO又はSであり、XがOのときYはSである。
【0024】
【化4】

式中、XはC〜C10アルキレン、−CN、−N(CH又は−(Q)OCHから選択され、QはC〜Cアルコキシであり、n=1〜6である。
【0025】
【化5】

式中、XはC〜C10アルキレン、−CN、−N(CH又は−(Q)OCHから選択され、QはC〜Cアルコキシであり、n=1〜6である。
【0026】
【化6】

式中、XはC〜C10アルキレン、−CN、−N(CH又は−(Q)OCHから選択され、QはC〜Cアルコキシであり、n=1〜6である。最後に挙げた3つのの特に有用な実施形態では、Xは−(CHCH、−(OCHCHOCH、−CN又は−N(CHから選択される。
【0027】
上記の基を誘導できる化合物は、例えばLancaster Research Chemicals社及びAldrich Chemical社から市販されている。
【0028】
その他の実施形態では、脱離基を含む化合物の物理的属性によって、脱離基由来の副生物からの造影剤の分離を容易にする。例えば、脱離基は、例えば固相合成の分野の当業者に公知の種類のポリマービーズなどの固相担体に結合すればよい。固相担体は、通常、樹脂又はゲル形態の小さな多孔質ビーズ又は粒子からなる。数多くの材料が、現在考えられる合成法の固相担体として適している。一般に、かかる担体は、細孔に出入りする物質移動に優れ、化学的に不活性で、試薬及び溶媒による影響が少なく、誘導体化の可能なものであるべきである。好ましい固相材料は、ポリスチレン誘導体、孔径制御ガラス、酸化アルミニウムビーズ及びシリカビーズが挙げられる。この種の適当な化合物としては、特に限定されないが、以下のものが挙げられる。
【0029】
【化7】

式中、は、ターゲティング部分が位置する部位を示し、Rは置換基であって、高分子担体へのリンカーとしても使用し得る。適当なR基としては、メチル(n−アルキル)、アルコキシ及びニトロが挙げられる。これらの物質は当業者に公知であり、市販されている。
【0030】
脱離基−ターゲティング剤の前駆体は、当業者には明らかな通り、従来のアルキル化法で調製できる。一実施形態では、こうした前駆体合成のためのアルキル化法は、以下の段階:イミダゾール、ピリミジン又はベンズイミダゾールのような出発原料をジクロロメタンと混合する段階、次いで、撹拌しながらメチルトリフレートを添加する段階を含む。反応は無水条件下で実施される。水は、それ自身求核物質であり、造影剤の早期置換を起こすおそれがあるからである。こうして、溶液中でオニウム塩が生成し、次いで検出性種を付加させればよい。
【0031】
検出性種は、陽電子放射断層撮影(「PET」)による生体内画像診断に適した検出可能な信号を発する化学物質であればどんなものでもよい。かかる検出性種としては、特に限定されないが、11C、18F、123I及び125Iが挙げられる。放射性標識化合物の合成プロトコルは、Tubis and Wolf, Eds., “Radiopharmacy”, Wiley−Interscience, New York(1976)並びにWolf, et al., “Synthesis of Radiopharmaceuticals and Labeled Compounds Using Short−Lived Isotopes”, Radiopharmaceuticals and Labeled Compounds, Vol.1., pp.345−381(1973)に記載されている。
【0032】
検出性種と位置選択的基との反応は、当業者に公知の技術で実施できる。検出性種が18Fである場合の典型的合成法では、まず18FをKRYPTOFIX(登録商標)(K2.2.2とも呼ばれる)(化合物4,7,13,16,21,24−ヘキサオキソ−1,10−ジアザビシクロ−[8.8.8]−ヘキサコサンに用いられる商標)のような「活性化」剤で活性化して反応性を高める。刊行物によっては、「相間転移剤」とも呼ばれる。放射性核種は一般に18O濃縮水を粒子加速器から発生した陽子ビームで照射することによってF(例えば、水溶液中のH18F)として予め生成させておく。次に、アセトニトリル(CHCN)の添加と蒸発乾固によって完全に無水としたフッ素化剤を、アセトニトリル中で可溶化した本発明の化合物と混合する。すると置換反応が起こって、本発明の化合物の脱離基の位置選択的基がフッ素化剤で攻撃され、造影剤と副生物を生ずる。同様に、検出性種としてI及びBrの放射性同位元素を導入できる。また、検出性種が11Cである場合、メチルリチウム及びメチルマグネシウムブロマイドのような求核剤が使用できる。次に、簡単な分離(例えば、反応混合物のイオン交換カラム通過)で造影剤を単離することができる。無論、脱離基が固体担体に結合されている場合、分離段階を要しない。
【0033】
単離した造影剤は医薬担体担体を含む組成物に調合し、患者に投与することができる。医薬担体担体は、標識化合物を患者に送達するのに適した適合性、無毒性物質であればどんなものでもよく、滅菌水、アルコール、脂肪、ワックス、タンパク質及び不活性固体が挙げられる。医薬担体として許容し得る補助剤(緩衝剤、分散剤)を、医薬組成物に配合してもよい。担体は、造影剤溶液又は造影剤を適当な担体、好ましくは水性担体中に溶解したカクテルを含んでいてもよい。各種の水性滅菌担体、例えば、水、緩衝水、0.4%食塩水、0.3%グリシンなどが使用できる。溶液は、パイロジェンフリー、滅菌かつ一般に粒状物を含まないものとすべきである。
【0034】
本発明の組成物は、生理学的条件に近づけるため必要に応じてpH調節剤及び緩衝剤、毒性調節剤など、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム及び乳酸ナトリウムのような医薬担体として許容される追加の物質を含んでいてもよい。
【0035】
組成物溶液中の造影剤の濃度は所要に応じて変更し得る。通例、濃度は、イメージングモダリティに応じて約10−7重量%〜約10−4重量%の痕跡量から約5重量%まであり、主に選択に係る特定の投与形態における液量及び粘度に基づいて選択される。
【0036】
静脈注射用の典型的組成は、滅菌リンゲル液250mL及び造影剤1mg以下を含むように調製できる。造影剤を含む組成物は、皮下、筋肉内又は静脈内で患者に投与できる。
【0037】
一実施形態では、医薬担体担体は、標識βアミロイド「Aβ」結合性化合物の患者への送達に適した適合性無毒性物質である。かかる担体及び化合物は、米国特許出願第10/431202号に開示されている。かかる化合物は、小分子、抗体、抗体断片、核酸、タンパク質、ペプチド、デンドリマー及びポリマーのような、可溶性βアミロイドに結合する造影剤を含んでいてもよい。これらの化合物が結合するβアミロイドの形態として、Aβ1−38、Aβ1−39、Aβ1−40、Aβ1−41、Aβ1−42、Aβ1−43又はこれらの組合せのモノマー、ダイマー、トリマー及びオリゴマーが挙げられる。適当な担体として、滅菌水、アルコール、脂肪、ワックス、タンパク質が挙げられ、不活性固体も担体として挙げることができる。医薬担体として許容される補助剤(緩衝剤、分散剤)を医薬組成物に配合してもよい。
【0038】
画像を得るため、造影剤を被験体に投与する。投与後、所望に応じて、造影剤が被験体の体内に行き渡って、所定のターゲティング部分によって支配される様式で蓄積し、非結合造影剤は被験体の体を通過できるようなクリアランス時間が存在してもよい。クリアランス時間は、使用した所定の検出性種に応じて異なり、1分乃至24時間の範囲である。次に造影剤は、陽電子放射型断層撮影(「PET」)によって被験体の体内で非侵襲的に検出される。PET画像診断の装置及び方法は容易に利用でき、当業者には周知である。
【0039】
本発明の化合物を用いて製造した造影剤は、例えば状態又は罹患前の状態の診断又は評価に使用できる。本発明の化合物は、治療有効性の判定にも使用できる。経時的に得た複数の画像を用いて、個々の被験体が必要とする治療の量と頻度を医師が判断できる。この実施形態では、本発明の造影剤を投与し、基準画像を得る。次に、評価すべき治療を被験体に施す。所定時間経過後に、本発明の造影剤の2回目の投与を行う。第二の画像を得る。基準画像と第二の画像の定性的及び定量的比較から、評価すべき治療の有効性を、第二の画像の信号強度の低下に基づいて判定することができる。無論、所望に応じて、1回目の造影剤投与前に評価すべき治療を施すこともできる。
【0040】
図1に示す一実施形態では、本発明のキットは、上述の方法による造影剤の製造に使用される検出性種含有溶液31を収容した第一の容器5を備える。キットは、固体担持材料粒子30を収容した第二の容器2も備えており、固体担持材料粒子には、造影剤部分と位置選択的脱離基とを含む本発明の化合物が結合している。容器2は、その下端部に、粒子状材料30が容器2外に漏れるのを防ぐための透過膜20を備える。
【0041】
造影剤を調製するには、溶液31を容器5から容器2へ注ぐ。溶液31が粒子状材料30を通過するにつれて、置換反応が起こり、ターゲティング部分と検出性種を含む造影剤を含有する注射可能な溶液10が得られる。注射可能な溶液10は、膜20を通過して回収容器25に入る。脱離基由来の副生物はいずれも固体粒子30に結合したまま残り、膜20によって容器2内に保持される。注射可能な溶液10を次いで従来の注射器(図示せず)に吸引し患者に投与する。
【0042】
特に有用な実施形態では、容器2はCEM社(米国ノースカロライナ州マシューズ)又はPersonal Chemistry社(スウェーデン国ウプサラ)から市販されているようなマイクロ波促進化学セットに適合する寸法及び構成のものにする。この実施形態では、反応剤を、Lidstrom et al., “Microwave assisted organic synthesis − a review”, Tetrahedron, 57, 9225(2001)に記載されているようなマイクロ波促進化学に付す。
【0043】
図2に示す他の実施形態では、キットの構成部材は使い捨て注射器(全体を符号100で示す)の形態に組み立てられる。図に示す通り、キットは、先端103が出口で細くなっており、例えば造影剤を含む組成物を、患者の体に注射するのに用いられる着脱可能な中空針104を装着するための取付け手段を備えた円筒形プラスチック管つまりシリンダー102を備える。使用前、この針取り付け手段は普通はゴム栓(図示せず)でキャップされる。
【0044】
中空円筒形管102は、後部開口106を有し、それを通してキットの第二の構成部材つまり中空円筒形ピストン105が挿入される。図2に示す通り、使用前はピストン105の一部が管102から突き出ている。
【0045】
ピストン105には所定量の検出可能溶液131を含む溶液が(例えばH18Fを含む溶液)充填される。管102は、ターゲティング部分と位置選択的脱離基を含む化合物が結合した固体担体形状の本発明の一実施形態に係る固体粒子130が収容されている(図2参照)。粒状成分130の下に位置する透過膜120は注射可能な溶液110を収容し得る空間125を画成し、注射可能な溶液110は溶液131と粒状成分130の反応生成物である造影剤を含有する。膜120は開口を有しており、開口の大きさは粒状成分130の通過を防ぐのには十分な小さいが、造影剤を含む注射可能な液体組成物110は通過できるものである。
【0046】
中空円筒形ピストン105は、流体オリフィス118と連結突出栓117とを備える。連結栓117の構造及び動作は公知であり、米国特許第6379328号に詳細に記載されている。
【0047】
中空ピストン105は、検出性種を含む溶液で予め充填してもよい。この目的のため、ピストン105は後端112にオリフィス126を備えていてもよく、それによって従来法で溶液を注入することができる。オリフィス126はゴム栓127で密封し得る。この栓は、ピストン105内の溶液131の完全な滅菌を維持するために密に嵌合される。安全のため、栓127は製造業者で封止されていてもよい。
【0048】
造影剤の生成反応が起こるように溶液131と粒状成分130を混合するため、ピストン105を、米国特許第6379328号に詳細に記載のように、連結栓117が流体通路を形成し、ピストン105と管102の間に流体接続ができるまで回転させる。流体通路が形成されたら、使用者はピストンの上半部を引き上げて内部容積109内に真空作用を生じさせる。この真空作用によって、ピストン105内に収容された溶液131が、内部容積つまりチャンバー109内に入り、溶液131と、既に内部容積109に充填された固体粒状成分130との所要の置換反応が起こる。
【0049】
注射の操作を行うためには、流体通路を封じるためにピストン105を再回転し、さらに押し進めてまず流体を空間125に押し込み、最終的に中空針104を通して外へ押し出す必要がある。
【0050】
図2に示す実施形態では、注射の操作が終了したら、ピストン105は完全に管102内に納まる。したがって、この実施形態の注射器は再使用できない。
【0051】
既に記載した実施形態と同じく、上記のアセンブリ全体を、マイクロ波促進合成を起こすことができるように、マイクロ波共振キャビティに嵌合するように作製することができる。Lidstrom et al. “Microwave assisted organic synthesis −a review”, Tetrahedron, 57,9225(2001)に記載されている通り、この方法を利用すると反応時間を短縮し、収率を高めることができる。
【0052】
本発明は、本発明の化合物を患者又は被験体に投与する方法も包含する。本方法は、検出性種の位置選択的置換部位を含む脱離基にターゲティング部分を結合してなる化合物の形成を含む。この化合物を、検出性種を含む溶液と接触させて反応混合物を形成させ、検出性種を回収し、次に検出性種を被験体に投与する。一実施形態では、本方法は、検出性種を検出し、画像を生成する段階を含む。
【実施例】
【0053】
以下の実施例では、ベンジル部分又は3,4,5−トリメトキシベンジル部分を造影剤として利用した。したがって、標識放射性同位元素として18Fを使用した場合、標識プロセスの反応速度はKF−K2.2.2錯体(「コールド」KF、つまり19Fを利用)での処理時のベンジルフロライド(又は3,4,5−トリメトキシベンジルフロライド)の経時的放出量に基づく。同様に、放射性同位元素として124Iを使用した場合、対応ヨウ化ベンジル(通常のK127Iを利用)を経時的にモニターした。最後に、11Cが所望の放射性同位元素である場合、エチルベンゼン又は1−エチル−3,4,5−トリメトキシベンゼンとMeLi(12CHLi、Aldrichから市販されている)の反応をモニターした。「コールド」化合物ともいう天然存在量の多い(非放射性)同位元素は放射能を出さないので、それらを使用して化学反応を評価した。放射性同位元素は、天然存在量の多いもので置換した(例えば、化学反応は19Fで展開したが、イメージングは18Fで実施した)。すべての「コールド標識」生成物はGC−MSで同定及び定量した。
【0054】
以下の各実施例において、反応の進行はGC−MS分析(Hewlett−Packard社製5890 series II、DB−5 MSカラム、温度勾配)によって、製造業者の指示通り、製造業者のソフトウェアを使用してモニターした。精製はISCO CombiFlash Companionクロマトグラフ及び溶媒勾配を用いた中圧フラッシュクロマトグラフィー(MPFC)で行った。マイクロ波促進合成はCEM Explorerマイクロ波合成ステーションを使用して行った。
【0055】
実施例1
2−メルカプト−1−メチルイミダゾール(228.5mg、2mmol)N,N−ジイソプロピルエチルアミン(0.45ml、1.25当量)及び3,4,5−トリメトキシベンジルクロライド(455mg、1.05当量)を、乾燥ジメチルホルムアミド2mlに加え、混合物を室温で4時間撹拌した。減圧下で溶媒を除去し、残渣を、MPFC(ヘキサン/ジクロロメタン勾配)で精製して、所望の1−メチル−2−(3,4,5−トリメトキシベンジルチオ)−イミダゾールをワックス状の白色固体として82%の収率で得た。これは化合物1と同定された。この化合物の構造は以下の通りであった。
【0056】
【化8】

実施例2
5−メトキシ−ベンズイミダゾールチオール(181mg、1mmol)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(0.22ml、1.25当量)及びベンジルブロマイド(130μl、1当量)を乾燥ジクロロメタン1ml中で混合し、室温で3時間撹拌した。粗生成物を、MPFC(ヘキサン−酢酸エチル10〜75容量%)で精製して所望の5−メトキシ−2−ベンジルチオ−ベンズイミダソールを白色結晶として収率68%で得た。これは化合物2と同定された。この化合物の構造は以下の通りであった。
【0057】
【化9】

実施例3
実施例2の手順に従って、1−メチル−2−ベンジルチオ−ピリミジンを、ベンジルブロマイド及び2−メルカプト−1−メチルピリミジンから85%の収率で得た。これは化合物3と同定された。この化合物の構造は以下の通りであった。
【0058】
【化10】

実施例4
乾燥バイアルに化合物2(26.4mg、98μmol)、乾燥テトラヒドロフラン(0.2ml)、乾燥N,N−ジイソプロピルエチルアミン(18μl、1.5当量)を加え、次に直前に蒸留したメチルトリフレート(11.5μl、1.08当量)を滴下した。無色の溶液を室温で一晩撹拌し、所望の生成物をMPFC(ヘキサン−酢酸エチル10〜60容量%)で精製して、1−メチル−5−メトキシ2−ベンジルチオベンズイミダゾール及び1メチル−6−メトキシ−2−メチルチオベンズイミダゾール(62%、2種類の位置異性体の混合物)を得た。これらは化合物4a及び4bと同定された。(化合物2は化合物4a及び4bの合成に必要な中間体にすぎない。)。これらの化合物の構造は以下の通りであった。
【0059】
【化11】

実施例5
以下は、オニウム塩の現場形成とその後の模擬標識化(求核剤の付加)の一般的手順である。
【0060】
乾燥バイアルに、イミダゾール、ピリミジン又はベンズイミダゾール前駆体(0.1mmol)及び乾燥ジクロロメタン(0.2ml)を加えた。バイアルを密封し、次にメチルトリフレート(12μl、1.05当量)を滴下し、バイアルを室温で一晩撹拌した。オニウム塩は概してこれらの条件下で可溶性であった。次に、求核剤溶液2当量を加え、次いで乾燥THF中の3,4−ジメトキシトルエン(0.01mmol)の1M溶液10μlを内部標準として加えた。バイアルをマイクロ波管に入れ、常時冷却しながら予め選択した温度60℃で5〜15分間照射した。上記手順の完了後、直ちにサンプルを取り出してGC−MSで分析した。以下の溶液を求核剤として使用した:18F、76Br及び124I標識化のシミュレーションには乾燥アセトニトリル中のKX−K222錯体(X=F,Br,I)(0.1M)、11C標識にはMeLi(THF中3.0M)。オニウム塩は、後者の場合、テトラヒドロフランをジクロロメタンに置き換えて調製した。白色微結晶の沈殿が生じたが、反応はメチルリチウムの添加によって順調に進行した。化合物1、3、4a、及び4bから調製したオニウム塩(いずれの場合も対イオンはトリフレート、CFSO、であった)の構造は以下の通りであった。
【0061】
【化12】

表1は上述のオニウム塩の形成に至る反応条件のまとめである。
【0062】
【表1】

表中、「時間」はマイクロ波の合計照射時間を示し、その間に空気冷却も開始した。つまり、サンプルをマイクロ波キャビティに導入してすぐにマイクロ波の電源と空気冷却のスイッチを同時に入れ、マイクロ波促進反応の全期間中オンのままにした。装置は実験の温度限界の設定が可能で、照射される全マイクロ波電力の調節によって自動的に維持した。赤外線センサーでバイアル底部の温度を読み取って、データの記録及び温度調節のためにフィードバックした。使用した小規模反応では温度の逸脱が起きたが、最大電力の限度設定によって、一般に〜10℃に抑えられた。
【0063】
表1から分かる通り、(化合物3から調製した)オニウム塩化合物6以外の他のオニウム塩では、フッ化物との反応は、短寿命放射性同位元素18Fと両立し得るような条件(つまり半減期110分以内)では進行しなかった。
【0064】
本明細書では代表的な実施形態について例示し、説明してきたが、本発明の技術的思想の範囲内で、様々な変更及び置換が可能であり、本発明は、本明細書に記載された詳細に限定されない。本明細書で開示した開示内容の変更及び均等は、単なるルーチン実験で当業者が容易に想到でき、かかる変更及び均等はすべて特許請求の範囲で規定される本発明の技術的思想及び技術的範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態に係るキットを示す透視図。
【図2】本発明の他の実施形態に係るキットを示す断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱離基にターゲティング部分を結合してなる化合物であって、該脱離基が検出性種の位置選択的置換部位を含む化合物。
【請求項2】
前記ターゲティング部分が、タンパク質、糖タンパク質、レクチン、ペプチド、ポリペプチド、糖、ビタミン、ステロイド、ステロイド類似体、ホルモン、補助因子、ヌクレオシド、ヌクレオチド及びポリヌクレオチドからなる群から選択される、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
前記脱離基が以下の(i)〜(vi)からなる群から選択される、請求項1記載の化合物。
(i)次式の基
【化1】

式中、XはS又はOであり、各Rは同一又は異なるものでC〜C20アルキル基から選択される。
(ii)次式の基
【化2】

式中、YはN又はCHである。
(iii)次式の基
【化3】

式中、XがSのときはYはO又はSであり、XがOのときはYはSである。
(iv)次式の基
【化4】

式中、XはC〜C10アルキレン、−CN、−N(CH又は−(Q)OCHから選択され、QはC〜Cアルコキシであり、n=1〜6である。
(v)次式の基
【化5】

式中、XはC〜C10アルキレン、−CN、−N(CH又は−(Q)OCHから選択され、QはC〜Cアルコキシであり、n=1〜6である。
(vi)次式の基
【化6】

式中、XはC〜C10アルキレン、−CN、−N(CH又は−(Q)OCHから選択され、QはC〜Cアルコキシであり、n=1〜6である。
【請求項4】
前記脱離基が固体担体に結合している、請求項1記載の化合物。
【請求項5】
造影剤の製造方法であって、
検出性種の位置選択的置換部位を含む脱離基にターゲティング部分を結合してなる化合物を準備する段階、
検出性種を含有する溶液と上記化合物を接触させて反応混合物を形成する段階、及び
造影剤を回収する段階
を含んでなる方法。
【請求項6】
前記化合物を準備する段階が、脱離基が固体担体に結合した化合物を準備することを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記検出性種を含有する溶液と化合物を接触させる段階が、18Fを含有する溶液と前記化合物を接触させることを含む、請求項5記載の方法。
【請求項8】
検出性種を含有する溶液(31)を収容する第一の容器(5)、及び
上記検出性種の位置選択的置換部位を含む脱離基を介してターゲティング部分が担体(30)に結合した化合物を収容する第二の容器(2)
を備えるキット。
【請求項9】
検出性種を含有する溶液と、検出性種の位置選択的置換部位を含む脱離基にターゲティング部分を結合してなる化合物を接触させて反応混合物を形成する段階、
検出性種を回収する段階、及び
検出性種を被験体に投与する段階
を含んでなる方法。
【請求項10】
検出性種を検出する段階及び画像を生成する段階をさらに含む、請求項9記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−503438(P2007−503438A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524638(P2006−524638)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/021600
【国際公開番号】WO2005/023317
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】