説明

造血幹細胞をinvitroで維持する方法と組成物

【課題】ヒト間葉幹細胞の拘束系統への分化を減少しあるいは除去するヒト造血幹細胞を維持するための方法と組成物を提供する。
【解決手段】ヒト造血幹細胞の、CD34+/Thy1+表現型が維持されるように、ヒト造血幹細胞をヒト間葉幹細胞と共に共存培養する方法、及びそのための組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は造血幹細胞に関し、とりわけヒト間葉幹細胞の拘束系統への分化を減少しあるいは除去するヒト造血幹細胞を維持するためのプロセスと組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
培養での前駆造血幹細胞の維持は、幹細胞がその上に住み着く付着層を提供し、また、増殖、自己再生および造血幹細胞の各種造血系統への分化のために必要とされる異なったシグナルを産出するストローマ細胞の混合集団の存在に依存することは公知である。間葉幹細胞(MSCs)から生じるストローマ細胞と脂肪細胞を含む異なった細胞型が骨髄に存在する。
【0003】
細胞が増殖し大多数の細胞がそのCD34+表現型を保持するように、CD34+細胞などの前駆造血幹細胞を培養中で維持することはある状況の下では望ましいことである。
【0004】
もし分化が起こるとすれば、分化は単球、破骨細胞もしくは他の細胞型などの選択された造血細胞系統に沿って存在するように造血幹細胞を維持することは更に有益なことである。
【発明の概要】
【0005】
この発明の一つの見地に従って、ヒト造血幹細胞を維持するプロセスと組成物が提供され、ここでヒト造血幹細胞はヒト間葉幹細胞あるいは脂肪細胞と共存培養される。脂肪細胞はヒト間葉幹細胞から誘導される。出願人は、このような共存培養がこのような造血幹細胞のための前駆CD34+表現型を維持するのに有用であることを見出した。
【0006】
この発明の別の見地に従って、ヒト造血幹細胞についてのCD34+/Thy1+表現型が維持されるように、ヒト造血幹細胞をヒト間葉幹細胞と共に共存培養で維持するためのプロセスと組成物が提供される。
【0007】
この発明の特定の態様では、脂肪細胞はヒト間葉幹細胞から誘導される。
【0008】
この発明の別の見地において、ヒト造血幹細胞は対象となる遺伝子、とりわけ生理的あるいは薬理的活性タンパク質の発現のために遺伝子をその中で運ぶように遺伝子的に修飾される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、ヒト間葉幹細胞との共存培養での全造血CD34+集団の増殖増殖と維持を示す。
【図2】図2は、21日にフローサイトメトリーによりアッセイされた共存培養での異なった造血細胞表現型の数を示す。図2Aは、CD34+細胞表現型が共存培養期間を通じて維持されることを示す。図2Bは、CD34+/CD14+細胞表現型が増加したことを示す。図2Cは、CD34+/CD90+細胞表現型が僅かに増加したことを示す。
【図3】図3は、CD34+細胞とMSCsあるいはCD34+細胞とMSC由来脂肪細胞の共存培養での14日目と21日目の全造血細胞数を示す。
【図4】図4は、MSCsあるいはMSC由来脂肪細胞と共存培養されるCD34+細胞での異なった造血細胞表現型の数を示す。図4Aは、CD34+細胞表現型が14日目には維持され21日目には25%減少したことを示す。図4Bは、CD34+/CD14+細胞表現型が14日目と21日目にはMSC由来脂肪細胞と共存培養されたCD34+細胞で、MSCsと共存培養されたものから得られたものより増加したことを示す。図4Cは、CD34+/CD90+表現型が14日目と21日目にMSCsと共存培養された場合とMSC由来脂肪細胞と共存培養された場合の両方でCD34+細胞で増加したことを示す。
【図5】図5は、CD34+細胞とMSC由来脂肪細胞との共存培養から生じる造血細胞で生成したコロニーの写真である。
【発明の開示】
【0010】
この発明は一般にヒトCD34+幹細胞の維持を支持するためのヒト間葉幹細胞の使用に関し、またヒトCD34+細胞とヒト間葉幹細胞を含む組成物に関する。
【0011】
とりわけ、CD34+細胞と共同してフィーダーレイヤー(feeder layer)として培養に使用されるヒト間葉幹細胞(hMSCs)が、低水準あるいは高水準のCD14あるいはCD90を発現するCD34+細胞を維持するのに有用であることを出願人は見出した。CD90はまたThy1としても公知である。かくして、CD34+細胞集団は、増殖し、維持され、例えば骨髄移植と再生のための造血前駆細胞源として利用することができる。
【0012】
一つの実施例で、この発明はヒトCD34+幹細胞の維持を支持する間葉幹細胞由来脂肪細胞の使用に関し、またヒトCD34+細胞、ヒト間葉幹細胞および/または間葉幹細胞由来脂肪細胞を含む組成物に関する。
【0013】
とりわけ出願人は、CD34+細胞と共同してフィーダーレイヤー(feeder layer)として培養で使用されるヒト間葉幹細胞(hMSCs)あるいは脂肪細胞が低水準あるいは高水準のCD14あるいはCD90を発現するCD34+細胞を維持するのに有用であることを出願人は見出した。
【0014】
発明者はここで、ヒト間葉幹細胞あるいは間葉幹細胞由来脂肪細胞の存在下で、適切なin vitro条件下で、造血細胞の維持と増殖に成功したことを示す。
【0015】
発明の方法に従って、間葉幹細胞あるいは間葉幹細胞由来脂肪細胞が造血幹細胞と共存培養される時、間葉細胞は、前駆CD34+細胞の分化とCD34+表現型の損失が減少し、幹細胞のより大きな潜在能が維持されるようなやり方で造血幹細胞の増殖を支持する。
【0016】
この発明の方法に従って、分離間葉幹細胞あるいは間葉幹細胞由来脂肪細胞および分離造血前駆細胞、望ましくはCD34+細胞は、それぞれ適切な培地中で培養拡張され、すなわち当業者には明らかな細胞増殖と均質な細胞集団の産生を助ける条件を用いる方法により培養される。
【0017】
間葉幹細胞あるいは間葉幹細胞由来脂肪細胞集団および造血前駆細胞は、次いでヒト間葉幹細胞の増殖を促進するが、造血幹細胞の維持に逆作用しない培地中で共存培養される。例えば、適した培地は合衆国特許番号第5,486,359号に記載されている。
【0018】
望ましい実施例において、間葉幹細胞あるいは間葉幹細胞由来脂肪細胞集団および造血幹細胞は、ヒト間葉幹細胞培地であるダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM-LG#11885、メリーランド、ゲイザーズバーグ、ライフ・テクノロジーズ)中で共存培養される。この培地は望ましくは、ヒト間葉幹細胞を維持する血清量を含む。この培地を使うと、ヒト間葉幹細胞がCD34+細胞集団を支持することができ、それにより初期段階ヒト造血幹細胞の特性である原始表現型(CD34+Thy1+)を含む幹細胞の喪失を減少させることが見出された。
【0019】
従って、この発明の目的のため、培養培地は、血清、例えば胎仔ウシ血清を、もっとも望ましくは少なくとも5%の濃度で含む。血清濃度は約25%までの濃度であってもよく、望ましくは20%を越えない濃度である。
【0020】
温度、pH、その他の培養条件は、この発明で利用されるヒト間葉幹細胞あるいは間葉幹細胞由来脂肪細胞と造血幹細胞でこれまでに使用されたものであり、当業者にとっては明らかなものであろう。
【0021】
ここに記載の方法のための主題のヒト間葉幹細胞を得るために、間葉幹細胞は、骨髄あるいは他の間葉幹細胞源から回収される。骨髄細胞は、腸骨稜、大腿骨、脛骨、脊髄、肋骨あるいは他の骨髄腔から得ることができる。ヒト間葉幹細胞の他の源には、胚卵黄包、胎盤、臍帯、胎仔および青年期の皮膚および血液が含まれる。培養コロニー中の間葉幹細胞の存在は、モノクロ-ナル抗体で同定される特異的細胞表面マーカーにより確認される。合衆国特許番号第4,586,359号を参照されたい。これらの分離間葉細胞集団は、間葉幹細胞とのみ関連するエピトープ特性を示し、分化することなく培養で増殖する能力を持ち、また損傷組織の部位でin vitroあるいはin vivoのいずれかで誘導された時に特異的な間葉系統に分化する能力を持つ。
【0022】
ヒト間葉幹細胞あるいは間葉幹細胞由来脂肪細胞集団は、造血幹細胞に対し、同種異系、すなわちドナー不適合であってもよく、あるいは間葉幹細胞は、造血幹細胞に対し自己由来のものであってもよい。
【0023】
従って、ヒト組織から間葉幹細胞を回収するのに有用ないずれのプロセスも、大抵の間葉幹細胞を含む細胞の集団を生むように利用することができる。一つの見地において、ヒト間葉幹細胞を分離する方法は、間葉幹細胞、望ましくは骨髄を含む組織標本を提供する工程、例えば密度勾配遠心分離により標本から間葉幹細胞を分離する工程、分化なしで間葉幹細胞増殖を刺激する因子を含み、また、培養中の基質表面に間葉幹細胞のみの選択的付着を可能にする培地に分離細胞を加える工程、標本-培地混合物を培養する工程、そして基質表面から非付着性物質を除去する工程を含み、その結果、間葉幹細胞の分離集団を生じる。
【0024】
間葉幹細胞由来脂肪細胞は、例えば合衆国特許番号第5,827,740号に記載された間葉幹細胞の脂肪細胞への分化を誘導する方法を使用して得ることができる。
【0025】
この発明の更なる見地おいて、ヒト組織から造血幹細胞を回収するのに有用であるいずれのプロセスも、ほとんどが造血細胞よりなる細胞の集団を生ずるために利用することができる。幹細胞は各種の組織、例えば骨髄および末梢血を含む血液から回収することができる。ヒト造血幹細胞は、骨髄吸引液あるいは末梢血から回収することができ、例えば合衆国特許番号第4,714,680号参照の当業者に公知の方法を用いて例えばCD34などの造血幹細胞表面抗原と結合する商業的に利用可能な抗体を使用して分離することができる。例えば、抗体は磁気ビーズに結合されていてもよく、そして免疫原性の手順を、所望の細胞型を回収するために使用することができる。
【0026】
ヒト間葉幹細胞と造血細胞は、間葉細胞が基質表面に付着し単層を形成するように適切な培養条件下で共存培養される。間葉幹細胞はcm2当り約3×103乃至5×103細胞の範囲の密度で平板培養される。脂肪細胞形成は、間葉幹細胞がコンフルエントに到達した後に、前に記載の通り誘導される。CD34+細胞は、望ましくはcm2当り約5×104細胞の細胞密度にある。
【0027】
ここに記載の方法に従って生産された造血幹細胞は、それを必要とする個体、例えば化学療法あるいは骨髄移植を受ける個体などの血液産物あるいは成分の輸血を必要とする個体に対し、造血幹細胞の信頼できる持続的な源を提供するのに使用できる。
【0028】
この発明の別の見地は、造血幹細胞が新しい遺伝物質を保持し、望ましい遺伝子産物を発現できるように、外来遺伝子を造血幹細胞へ導入することに関する。造血幹細胞への形質導入のための遺伝物質には、造血幹細胞の維持、組織の発生、リモデリング、修復、あるいは細胞外遺伝産物のin vivo産生で役割を果たす遺伝子産物を発現するものが含まれる。
【0029】
発明のこの見地に従って、造血幹細胞は、対象となる遺伝物質で修飾(形質導入あるいは形質転換もしくは形質移入)することができる。これらの修飾細胞は、次いで発現産物が有益な作用を与える標的組織、例えば骨髄に対し投与できる。修飾CD34+細胞もまた、間葉幹細胞あるいは間葉幹細胞由来脂肪細胞とin vitroで共存培養することができる。
【0030】
かくして、遺伝子は細胞内に導入され、それは次いで自己由来ドナーあるいは同種異系レシピエントに戻され、そこで遺伝子の発現が治療作用を持つことになる。例えば、造血幹細胞を、in vivoで変化した活性を持つように遺伝子操作することができる。
【0031】
造血幹細胞は、ヒト間葉幹細胞あるいは間葉幹細胞由来脂肪細胞の存在下あるいは不在下で、遺伝子的に修飾される。
【0032】
造血幹細胞は、例えば組換え発現ベクターを使用し、遺伝物質を細胞内にとり込むことにより遺伝子的に修飾される。
【0033】
ここで使用される場合「組換え発現ベクター」という用語は、(1)遺伝子発現に調節的役割を持つ(1または複数の)遺伝因子、例えば、プロモータまたはエンハンサ、(2)mRNAに転写されタンパク質に翻訳される構造配列あるいはコード配列、および(3)適切な転写開始配列と転写終結配列、のアセンブリーよりなる転写ユニットのことをいう。真核発現システムでの使用を意図した構造ユニットには、宿主細胞により翻訳タンパク質の細胞外分泌を可能にするリーダー配列が含まれる。あるいは、組換えタンパク質がリーダー配列あるいは輸送配列なしで発現される場合には、それには、N末端メチオニン残基が含まれていてもよい。この残基は、最終産物を提供するために、発現された組換えタンパク質から続いて切断されても、切断されなくてもよい。
【0034】
ヒト造血幹細胞は、かくして組換え転写ユニットを染色体DNAに安定して組込むことができ、あるいはレジデントプラスミドの成分として組換え転写ユニットを保持することができる。細胞は、例えばex vivoでポリペプチドをコード化するポリヌクレオチド(DNAあるいはRNA)で操作することができる。細胞は、ポリペプチドをコード化するRNAを含むレトロウイルス粒子の使用により、従来の技術で公知の手順で操作することができる。
【0035】
前に言及したレトロウイルスプラスミドベクターを誘導することができるレトロウイルスには、必ずしもそれらに限定されないが、モロニーマウス白血病ウイルス、脾臓壊死ウイルス、レトロウイルス、例えばラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫ウイルス、鳥類白血病ウイルス、テナガザル白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、アデノウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルス、および乳腺癌ウイルス、などが含まれる。一つの実施例では、レトロウイルスプラスミドベクターは、マウス胚性幹細胞から誘導さされるMGINである。
【0036】
ポリペプチドをコード化する核酸配列は、適切なプロモーターの制御下にある。使用することができるプロモーターには、必ずしもそれらに限定されないが、TRAPプロモーター、アデノウイルスプロモーター、例えばアデノウイルス主要後期プロモーター;サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター;呼吸器融合細胞ウイルス(RSV)プロモーター;ラウス肉腫プロモーター;誘導性プロモーター、例えばMMTプロモーター、メタロチオネインプロモーターなど;熱ショックプロモーター;アルブミンプロモーター;ApoAIプロモーター;ヒトグロビンプロモーター;ウイルスチミジンキナーゼプロモーター、例えば単純ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター;レトロウイルスLTRs;ITRs;βアクチンプロモーター;およびヒト成長ホルモンプロモーターが含まれる。プロモーターは更に、ポリペプチドをコード化する遺伝子を制御する天然プロモーターであってもよい。これらのベクターは、遺伝子操作した前駆細胞によりポリペプチドの産生を調節することも可能である。適切なプロモーターの選択は、当業者には明らかなものである。
【0037】
造血幹細胞を遺伝子的に操作あるいは修飾するために、レトロウイルス以外のビヒクルを使用することも可能である。対象の遺伝情報は、そのような細胞内で新しい遺伝物質を発現できるいずれかのウイルスにより導入することができる。例えばSV40、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、アデノ関連性ウイルス、およびヒト乳頭種ウイルスは、この目的に使用することができる。クローン化真核DNAを培養哺乳類細胞に導入するために他の方法も使用できる。例えば幹細胞に移転された遺伝物質は、ウイルス核酸の形態であってもよい。
【0038】
加えて、発現ベクターは、ジヒドロ葉酸レダクターゼあるいはネオマイシン耐性などの形質転換細胞選択のための表現型形質を提供するために、1個もしくはそれ以上の選択マーカー遺伝子を含んでもよい。
【0039】
造血幹細胞は、従来技術で公知の他の手段で形質移入することができる。このような手段には、必ずしもそれらに限定されないが、リン酸カルシウムあるいはDEAEデキストランにより媒介される形質移入;ポリカチオンポリブレンにより媒介される形質移入;プロトプラスト融合法;電気窄孔(エレクトロポレーション);リポソーム内でDNAあるいはRNAのいずれかの被包化を通じ、次いでリポソームを細胞膜と融合させるか、もしくは合成カチオン脂質で被覆したDNAが融合により細胞内に導入できるようにしたリポソーム、などが含まれる。
【0040】
この発明は更に、ヒト造血幹細胞が、造血幹細胞内では正常に生産されないポリペプチド、ホルモンおよびタンパク質を、生物学的に有意な量であるいは僅かな量ではあるが調節された発現が治療利益に導くような状況でin vitroあるいはin vivoで産生するやり方で、ヒト造血幹細胞を遺伝子的に操作することを可能にする。例えば造血幹細胞は、骨吸収を特異的に阻害する分子を発現する遺伝子で操作することができる。あるいは、細胞は正常に発現されたタンパク質がかなり低い水準で発現されるように修飾することができる。これらの産物は、次いで周囲の培地に分泌されるかあるいは細胞から精製される。このようなやり方で形成されたヒト造血幹細胞は、発現物質の連続的な短期あるいは長期の産生システムとして機能することができる。これらの遺伝子は、例えばホルモン、成長因子、基質タンパク質、細胞膜タンパク質、サイトカイン、付着分子、組織修復に重要な「再建」タンパク質などを発現することができる。外因性遺伝物質のin vivoでの発現はしばしば、「遺伝子治療」と呼ばれる。そのような処理が適用される疾病状態と手順には、遺伝疾患と骨および免疫系の疾患が含まれる。形質導入細胞の細胞送達は、各種の方法で実行することができる。それには、骨膜、骨髄および皮下の各部位への注入と直接デポー注射が含まれる。
【0041】
加えて、前に記載のように、形質導入細胞は望ましいタンパク質のin vitro産生に使用することができる。形質導入細胞は、更に薬剤探索のためのスクリーニングアッセイにも使用することができる。
【0042】
この発明の前の記載と以下の実施例は説明のみによるものである。この発明の変形と実例は以下の図面と組合せた前記の説明の見地から当業者により容易に予見されるであろう。従って、このような変形と変更はこの発明の範囲内である。
【実施例】
【0043】
間葉幹細胞とCD34+細胞の分離に使用されるヒト骨髄吸引液は、メリーランド、ゲイザーズバーグ、ポイエティック・テクノロジーズから購入された。
【0044】
実施例1:
ヒト間葉幹細胞(hMSCs)は、既知の方法(例えば合衆国特許番号第5,486,359号)に従って分離されそして培養された。ヘパリン化骨髄サンプルが、健康なヒトドナーから回収された。単核細胞は1.073のパーコル密度勾配を使用して分離され、10%FBSを補充されたDMEM-LG(低グルコース)培地に置かれた。
【0045】
MSCsの脂肪形成分化は、例えば合衆国特許番号5,827,740号に記載の通り実施された。
【0046】
健全な患者の骨髄から分離されたCD34+細胞(メリーランド、ゲイザーズバーグ、ポイエテック・テクノロジーズ、インコーポレイテッド)が、磁気ビーズに結合されたCD34に対する抗体を利用して95%の精製度まで精製され(CD34+細胞分離カラム:カリフォルニア、オーバーン、ミルテニィ・バイオテック、Ab:QBEND.10)、冷凍保存された。
【0047】
CD34+細胞はMSCsあるいはMSC由来脂肪細胞の層上にcm2当り5×104細胞で播種された。共存培養は、37℃で3週間、空気95%炭酸ガス5%で維持され、3日毎にhMSC培地を供給された。大抵のCD34+細胞が最初の2週間は非付着のままであったので、培養培地の半分は非付着細胞を攪拌することなくゆっくり吸引され、新鮮培地で置換された。
【0048】
フローサイトメトリー分析
造血細胞は5 mMのEDTAを含むCa2+-MG2+を含んでいないハンクス緩衝食塩液(HBSS)ベースの緩衝液を用いて穏やかに回収された。全細胞数が計数された。図1は、ヒト間葉幹細胞との共存培養での全造血CD34+集団の増殖と維持を示す。21日目での共存培養で全細胞数の増加は3倍であった。時々、MSCsが回収物中で発見されたが、形態学上認められたため、計数されなかった。未培養冷凍保存CD34+前駆細胞は、正の対照として使用された。約2×105細胞が非特異的結合を遮断するための0.5%のBSAとともにインキュベートされ、次いで、約20μg/mlの特異的抗体あるいは対照抗体と共にインキュベートされた。細胞は、CD34+;CD34+/90+(原始造血細胞);あるいはCD34+/14+(単球/マイクロファージ)表面マーカーについて分析された。CD34、CD90、CD14に対する抗体は、カリフォルニア、サンディエゴ、ファーミンゲン、インコーポレイテッドから購入された。すべてのインキュベーションは4℃、30分で行なわれた。未結合抗体は、遠心分離洗浄で廃棄された。インキュベーションの後、0.5%のBSAを含む3 mlのPBSが管に加えられ、それは次いで5分、600×gで遠心分離された。サンプルは、0.5 mlの同じ緩衝液で再懸濁され、フローサイトメトリーで直ちに分析された。バックグラウンド測定値は、各サンプルの読み取り値から差し引かれた。
【0049】
コロニーアッセイ
MSCsあるいはMSCs由来脂肪細胞と共存培養された造血細胞は、前に記載の通り21日目に穏やかに回収された。培養されなかった冷凍保存CD34+前駆細胞(すなわち細胞は解凍されアッセイに委ねられなかった)は、正の対照として使用された。収穫された細胞は計数され、サイトカインとエリスロポエチンを含む完全メチルセルロース培地のMethoCult(カナダ、バンクーバー、ステムセル・テクノロジーズ、インコーポレイテッド)と混合され、メーカーのプロトコルに従って平板培養された。培養物は、2週間、37℃で95%空気、5%炭酸ガスの下で維持された。100個以上の細胞を含むコロニー数は、全培養ウエルを一貫したやり方で手動でスキャナーで調べて顕微鏡の下で計数された。
【0050】
結果
表1で示されるコロニーアッセイの結果は、MSCsとの長期の共存培養(LTC)がLTC開始培養(LTC-IC)を生成したことを示している。
【0051】
【表1】

【0052】
造血細胞コロニーの全数(表2参照)は、MSCsとMSC由来脂肪細胞が、LTC-ICの形成を促進することを示す。
【0053】
【表2】

【0054】
共存培養での細胞のフローサイトメトリー分析の結果は、図2に示される。0日目では、CD34+(図2A)、CD34+/14+(図2B)、およびCD34+/90+(図2B)表面マーカーの発現は、(全細胞数50×103の内)それぞれ約90%、7%、13%の細胞集団を含んでいた。共存培養の21日目には、共存培養での細胞は、(全細胞数150×103の内)それぞれ約30%、9%および7%の細胞集団で、CD34(図2A)、CD34/14(図2B)およびCD34/90(図2C)の表面マーカーの発現を示した。CD34+細胞の全体の絶対数は、培養期間を通じて保持され、CD34+/CD14+細胞表現型の全体の絶対数は増加し、一方CD34+/90+細胞の全体の絶対数は僅かに増加した。
【0055】
CD34+細胞とMSCsあるいはCD34+細胞とMSC由来脂肪細胞の14日目と21日目での収穫造血細胞の全数が測定された。データは、MSCsあるいはMSC由来脂肪細胞がCD34+細胞の増殖を促進することを示した(図3)。
【0056】
14日目と21日目にMSCsあるいはMSC由来脂肪細胞と共存培養されたCD34+細胞の異なった造血細胞表現型の数が測定された(図4)。CD34+細胞の絶対数は、共存培養の最初の2週間保持され、次いで21日目に25%減少した(図4A)。CD34+/CD14+細胞表現型の細胞の絶対数は、CD34+細胞とMSCsの共存培養では21日目に増加し、またCD34+細胞とMSC由来脂肪細胞の共存培養では14日目と21日目の両方で増加した(図4B)。CD34+/CD90+細胞表現型を有する細胞の絶対数は、MSCsと共存培養された場合とMSC由来脂肪細胞と共存培養された場合の両方でCD34+細胞が14日目と21日目に増加した(図4C)。
【0057】
図5は、CD34+細胞とMSC由来脂肪細胞の共存培養から生じた造血細胞により生成されるコロニーの形態を示す。同様のコロニーはCD34+細胞とMSCsの共存培養で見られた。
【0058】
これらの結果は原始造血幹細胞がその原始造血幹細胞表現型を失すことなく培養で維持することができることを示している。かくして、ここに記載された方法は、例えば移植を促進するために細胞を投与する目的で、培養中でCD34+細胞を拡張するのに有利である。
【0059】
この発明の数多くの修飾と変化が前記の教示を参照して可能であり、従って添付の請求の範囲内でこの発明は特に記載されたもの以外にも実施することができる。
【0060】
具体的な態様:
態様1:
ヒト造血幹細胞がその幹細胞表現型を維持するように、ヒト間葉幹細胞をヒト造血幹細胞と共存培養すること含む、in vitroでヒト造血幹細胞を維持する方法。
態様2:
造血幹細胞がCD34+細胞である、態様1記載の方法。
態様3:
間葉幹細胞集団が造血幹細胞集団に対し同種異系あるいは自己由来である、態様1記載の方法。
態様4:
ヒト造血幹細胞がその幹細胞表現型を維持するように、脂肪細胞をヒト造血幹細胞と共存培養することを含む、in vitroでヒト造血幹細胞を維持する方法。
態様5:
脂肪細胞がヒト間葉幹細胞から誘導される、態様4記載の方法。
態様6:
造血幹細胞がCD34+細胞である、態様4記載の方法。
態様7:
脂肪細胞が造血幹細胞集団に対し同種異系あるいは自己由来である、態様4記載の方法。
態様8:
ヒト造血幹細胞がその表現型を保持するようにヒト造血幹細胞を維持するための、ヒト造血幹細胞とヒト間葉幹細胞を含む組成物。
態様9:
造血幹細胞がその表現型を保持するようにヒト造血幹細胞を維持するための、ヒト造血幹細胞とヒト間葉幹細胞を含む組成物。
態様10:
脂肪細胞がヒト間葉幹細胞から誘導される、態様9記載の組成物。
態様11:
造血幹細胞が遺伝的に修飾される、態様9記載の組成物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト造血幹細胞がその幹細胞表現型を維持するように、ヒト間葉幹細胞をヒト造血幹細胞と共存培養する工程を含む、in vitroでヒト造血幹細胞を維持する方法。
【請求項2】
造血幹細胞がCD34+細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
間葉幹細胞集団が造血幹細胞集団に対し同種異系あるいは自己由来である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ヒト間葉幹細胞が、フィーダーレイヤーとして共存培養において使用される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ヒト間葉幹細胞が、3×103細胞/cm2〜5×103細胞/cm2の範囲の密度で平板培養される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ヒト造血幹細胞が、ヒト間葉幹細胞上に播種される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ヒト造血幹細胞がその表現型を保持するようにヒト造血幹細胞を維持するための、ヒト間葉幹細胞と共存培養されるヒト造血幹細胞を含む組成物。
【請求項8】
造血幹細胞が遺伝的に修飾される、請求項7記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−142239(P2010−142239A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−18766(P2010−18766)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【分割の表示】特願2000−553556(P2000−553556)の分割
【原出願日】平成11年6月8日(1999.6.8)
【出願人】(500430486)オシリス セラピューティクス,インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】