説明

連成重合体の製造方法

【課題】分枝成分と線状成分を含有する重合体を連続的に製造する方法を提供する。
【解決手段】先ず、共役ジエン1種または2種以上を有機金属含有開始剤の存在下で転化率が少なくとも90%になるまで重合させ、次いで、連成剤を添加することで、分枝成分と線状成分を含有する重合体を得る。この連成剤は開始剤1当量当たり約0.3から約0.6当量の連成剤の比率で添加することにより、得られた重合体混合物は、約150から190cP(0.15kg/m・秒から0.19kg/m・秒)の範囲の溶液粘度および約60から85の範囲のムーニー粘度(ML4)を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は線状と分枝の共重合体(linear and branched copolymers)を単一工程で生成させる方法に関する。特に、本発明は、線状鎖と分枝鎖を有する重合体を連続的に製造する方法に関する。
【0002】
(発明の背景)
共役ジエン、例えばブタジエン、イソプレンなどの(共)重合体は、数多くの重要な用途、例えば合成ゴム、そして他の重合体系への添加剤などとして用いるに適した物性を有する。
【0003】
1つのそのような系である耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)の製造は、5から10%溶解しているブタジエンホモもしくは共重合体またはブタジエン共重合体ゴムの存在下でスチレンを重合させることにより実施可能である。この重合の早い時期に相分離が始まる、と言うのは、そのようなゴムは生成したポリスチレンと混和せずかつスチレン相が消費されるからである。その後にポリブタジエンと前記ポリスチレンとのグラフト化(grafting)が起こる。HIPSのじん性および他の機械的および流動学的特性はゴム相の性質の影響を強力に受ける。これに関して、HIPSが全体として示す性能を調節する目的で変性させることができるゴムの特性のいくつかには、濃度、体積、粒子の大きさ、グラフト化および架橋能力、分子量および粘度が含まれる。
【0004】
本発明の1つの焦点は、ポリブタジエンをHIPSまたはABS樹脂における添加剤として用いることにある。具体的には、本発明は、有用な分子量および粘度範囲を有する共役ジエン(共)重合体を提供することに関する。これに関して、低い分子量を有する厳密に線状のポリブタジエンは典型的に低いムーニー粘度を示し、そのことからこれは取り扱いが困難であり、逆に、同じ低分子量重合体の四連成形(tetra−coupled version)が示す粘度は典型的にあまりにも高いことから加工不能である。所望の分子量と粘度を達成する1つの機構は、四連成重合体鎖と線状重合体鎖のブレンド物を用いる機構である。
【0005】
線状セグメント(segment)と分枝セグメントを有する(共)重合体を製造するある方法では、成分Aが40−94重量部(pbw)で成分Bが60−66pbwのブレンド物がもたらされる。成分Aは共役ジエンのゴム状(共)重合体1種または2種以上を含有し、このA部分に含まれる成分の少なくとも60重量%は分枝重合体である。成分Bは一般に成分Aと同じではあるが、線状(共)重合体1種または2種以上からなっている。このような製造方法は、成分Aを1つの段階で生成させ、成分Bを別の段階で生成させた後、この2つの成分をブレンドすることを伴う。
【0006】
別の公知方法は、少なくとも1種のジエン単量体を転化率が30から70%になるまで重合させて低分子量のポリジエン鎖を生成させ、この鎖の20から70%を適切な分枝剤と結合させそして重合を継続してポリジエンゴムブレンド物を生成させることに向けたものである。しかしながら、前記1番目の段階で充分な転化率を達成することができないことから、もたらされる溶液粘度は充分ではない。
【0007】
(発明の要約)
本発明は重合体組成物を連続的に製造する方法を提供する。本方法では、ジエン単量体を有機金属含有開始剤(organometallic initiator)の存在下で転化率が少なくとも90%、好適には99%になるまで重合させることにより、分枝セ
グメントと線状セグメントを含有する重合体を生成させる。得られたポリジエン鎖に連成剤(coupling agent)を添加すると、分枝したポリジエン単位と線状のポリジエン単位が混合した重合体が得られる。前記連成剤を有機金属含有開始剤1当量当たり約0.3から約0.6当量の比率で添加する。得られた重合体混合物は約150から190cP(0.15kg/m・秒から0.19kg/m・秒)の範囲の溶液粘度および約60から85の範囲のムーニー粘度(ML4)を示す。
【0008】
本方法では、有利に、線状重合体と分枝重合体の混合物が生成し、それによって、個々の成分を生成させる個別の製造部分を設ける必要なく、個々別々の重合体が示す利点を得ることができる。その上、本方法の実施は連続的であり、重合段階を個別に行った後に成分をブレンドする必要はない。本発明では混合物全体の中の連成された重合体のパーセントを制限することにより、高分子量画分(他の様式でこれのみを加工するのは困難であり得る)を生成させる。
【0009】
得られる重合体は特にHIPSおよびABS樹脂を製造する時の添加剤として用いるに適する。
【0010】
(好適な態様の詳細な説明)
本発明の方法の出発材料を供給する目的で用いる原料には1種以上の共役ジオレフィン単量体が含まれる。この原料は典型的に共役ジオレフィン1種または2種以上と低分子量炭化水素の混合物である。そのような混合物(低濃度のジエン流れと呼ぶ)は多様な精留生成物流れ、例えばナフサ分解操作で得られる生成物流れなどから得られる。
【0011】
線状ポリジエン鎖を生成させる時に用いるに好適なジエン単量体は炭素原子を4から12個含有する単量体であり、最も一般的には炭素原子数が4から8の単量体を用いる。イソプレンおよび1,3−ブタジエンが本方法で最も通常に用いられる共役ジオレフィン単量体である。使用可能な追加的単量体には、これらに限定するものでないが、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、4−ブチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ピペリレン、2,3−ジブチル−1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、スチレンなどが含まれる。これらは単独または組み合わせて使用可能である。
【0012】
重合供給材料に含める前記単量体に混合可能な低分子量炭化水素のいくつかの例には、プロパン、プロピレン、イソブタン、n−ブタン、1−ブテン、イソブチレン、トランス−2−ブテン、シス−2−ブテン、ビニルアセチレン、シクロヘキサン、エチレン、プロピレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどが含まれる。
【0013】
本発明の方法を用いて、また、1種以上のジオレフィン単量体と他の1種以上のエチレン系不飽和単量体のコ−もしくはターポリマーであるポリジエンゴムを生成させることも可能である。有用であり得るエチレン系不飽和単量体の代表例のいくつかには、ビニリデン単量体、ビニル芳香族、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン、フルオロスチレンなど、α−オレフィン、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテンなど、ハロゲン化ビニル、例えば臭化ビニル、クロロエタン(塩化ビニル)、フッ化ビニル、ヨウ化ビニル、1,2−ジブロモエテン、1,1−ジクロロエタン(塩化ビニリデン)、1,2−ジクロロエタンなど、ビニルエステル、例えば酢酸ビニルなど、そしてα,β−オレフィン系不飽和ニトリル、例えばアクリロニトリルなど、アミド、例えば(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、メタアクリルアミドなどが含まれる。
【0014】
重合は通常炭化水素溶媒中で実施するが、この炭化水素溶媒は1種以上の芳香族、パラフィン系またはシクロパラフィン系化合物であってよい。このような溶媒が1分子当たりに含有する炭素原子の数は一般に4から10であり、これはそのような重合で典型的に用いられる条件下で液体である。有用であり得る有機溶媒の代表例には、ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの中の1種以上が含まれる。本発明の方法を用いた溶液重合では、重合用媒体に単量体を5から35重量パーセント、好適には単量体を10から30重量パーセント、より好適には単量体を20から25重量パーセント含むことができる。
【0015】
この重合用混合物は、有機溶媒および反応体である単量体に加えて、一般式M(R)x[式中、Mは、IもしくはII族の金属であり、そしてRは、有機基(以下により詳細に記述)である]で表される有機金属含有化合物から選択される少なくとも1種の開始剤を含有する。有機金属含有開始剤には、本明細書に記述する単量体を重合させるとして知られている一官能および多官能種が含まれる。一般に、一官能有機金属含有開始剤が好適である。好適な金属にはリチウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛、マグネシウムおよびアルミニウムが含まれる。これらの中で特に有機リチウム開始剤が好適である。
【0016】
用語「有機リチウム化合物」を本明細書で用いる場合、これは、式LiR[式中、RはC1−C20ヒドロカルビル基、好適にはC3−C6の有利には脂肪族基であるが、また、C6−C20、好適にはC6−C12の環状脂肪族もしくは芳香族基であってもよい]に相当する材料を指す。好適なR基にはn−ブチルおよびs−ブチルが含まれるが、他の適切なR基には、これらに限定するものでないが、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−アミル、sec−アミル、sec−ヘキシル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、オクタデシル、フェニル、トリル、ジメチルフェニル、エチルフェニル、ナフチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、エチルシクロヘキシル、シクロヘプチル、アリル、2−ブテニル、2−メチルブテニル、シクロペンチルメチル、メチルシクロペンチルエチル、フェニルエチル、シクロペンタジエニル、ナフチル、フェニルシクロヘキシルなどが含まれる。
【0017】
使用する有機金属含有開始剤の量は、重合させる単量体1種または2種以上および得られる重合体に望まれる分子量に応じて多様であり得る。しかしながら、一般的には、開始剤を典型的に0.01から1phm(単量体100pbw当たりの部数)用いる。多くの場合、そのような有機金属含有開始剤は0.025から0.07phm用いれば充分である。
【0018】
重合温度は約20から150℃の幅広い範囲に亘って多様であり得るが、多くの場合、約30から120℃の範囲内の温度が好適であり得る。使用される圧力は一般に反応混合物が重合反応条件下で実質的に液相として維持されるに充分な圧力である。
【0019】
この重合反応を一般に少なくとも約90%の転化率、好適には少なくとも99%の転化率が得られるに充分な時間実施する。従って、1,3−ブタジエンを単量体として用いかつ開始剤を好適な範囲で用いた場合、本方法の第一段階でもたらされるポリブタジエンが示す重量平均分子量(Mw)は典型的に約70,000から250,000の範囲である。
【0020】
線状ポリジエン単位と分枝ポリジエン単位の好適な混合物を得る目的で連成剤を添加することができる。本技術分野では多くの連成剤が知られていて本発明で使用可能であるが、少なくとも3本の重合体鎖を結合させる多官能連成剤が好適である。適切な連成剤の代表例には、マルチビニル(multi−vinyl)芳香族化合物、マルチエポキシド、
マルチイソシアネート、マルチアミン、マルチアルデヒド、マルチケトン、マルチハライド、マルチ無水物、マルチエステルなどが含まれる。好適な連成剤にはマルチハライド、例えばSiCl4、SiBr4およびSil4などが含まれる。そのような多ハロゲン化ケイ素に加えて、また、他の金属の多ハロゲン化物、特に錫、鉛またはゲルマニウムの多ハロゲン化物も連成剤として容易に使用可能である。とりわけ、SnCl3、ヘキサクロラルジシラン、メチルトリクロロシラン、CCl4およびCH3SnCl3が好適である。
【0021】
この連成反応は公知の如何なる方法で停止させることもでき、例えば活性水素を含有する化合物、例えば水、低級アルコールなどを添加することにより停止させることができる。
【0022】
連成剤は連成剤が開始剤1当量当たり約0.2から0.8当量であると言った比率で添加することができる。この比率はより好適には有機金属含有開始剤1当量当たり約0.3から約0.6当量の連成剤であり得る。このようにして、100から300cP(0.10から0.30kg/m・秒)の範囲の溶液粘度および30から120の範囲のムーニー粘度(ML4)を示す重合体を得ようとする時に望まれる線状単位と分枝単位の比率を達成することができる。約150,000から約350,000、好適には約225,000から約275,000の範囲のMwを得ることができる。
【0023】
技術を持つ技術者が認識するであろうように、本発明の意図から逸脱しない限り本発明の基本的方法にいろいろな変性および/または付加を行うことができる。例えば、いろいろな変性剤(modifiers)、安定剤および抗酸化剤を用いることもできる。
【0024】
本発明を更に説明する目的で下記の例示態様を示す。
【0025】
(実施例)
装置に最初にフラッシュ洗浄と乾燥を行った。1番目の混合用タンクにヘキサンを約285phm、1,3−ブタジエンを約100phm、1,2−ブタジエンを約0.02phm、滴定剤(titrating agent)およびビニル変性剤(vinyl modifier)を入れて一緒にした。このようにしてブレンドした混合物を2番目の反応用タンクに移した後、ブチルリチウム触媒を約0.067phm加えた。反応が起こって温度が約93から104℃の範囲の温度にまで上昇し、そして約98%を超える単量体転化率が達成されるまで反応を進行させた。得られたポリブタジエンを3番目の混合用タンクに移して、これにSiCl4を約0.02phm加えた(SiCl4/Li=0.45Cl/Li;連成剤の当量対開始剤の当量)。安定剤を加えた後、水を添加して反応を停止させた。その結果得られた生成物を乾燥した後、梱包した。このポリブタジエンが示した溶液粘度は約170cP(0.170kg/m・秒)であり、ムーニー粘度は約65(ML4)であり、そしてMwは260,000であった。従って、本発明の方法を用いて、連成ポリブタジエンと線状ポリブタジエンが混ざり合っていて所望の特性を有するポリブタジエンを生成させることができる。
【0026】
本発明を説明する目的で代表的な特定態様および詳細を示してきたが、本発明の範囲から逸脱しない限り本方法にいろいろな変性および変更を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分枝成分と線状成分を含有する重合体の製造方法であって、
a)少なくとも1種の共役ジエンを有機金属含有開始剤、または有機金属含有開始剤およびビニル変性剤、の存在下で転化率が少なくとも90%になるまで重合させ、そして
b)連成剤を開始剤1当量当たり0.3から0.6当量の連成剤の比率で添加することで、分枝鎖と線状鎖で構成されている重合体を生成させる、
ことを含んで成る方法。
【請求項2】
重合体であって、少なくとも1種の共役ジエンを有機金属含有開始剤の存在下で転化率が少なくとも90%完了に至るまで重合させそして連成剤を開始剤1当量当たり0.3から0.6当量の連成剤の比率で添加することにより分枝鎖と線状鎖を含んで成る重合体を生成させることにより製造された重合体。

【公開番号】特開2012−36400(P2012−36400A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224174(P2011−224174)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【分割の表示】特願2001−569021(P2001−569021)の分割
【原出願日】平成13年3月21日(2001.3.21)
【出願人】(502345360)フアイヤーストーン・ポリマース・エルエルシー (3)
【Fターム(参考)】