説明

連結した細胞におけるカルシウム過渡現象を分析するための方法および系

本発明は、生物学的、化学的、または物理的試料において動的現象を測定する、特に、インビトロの心臓細胞培養系などの生きている系においてCa2+過渡現象を測定するための系および方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動的現象、例えば、時間において得られるデータを発生する生物学的、化学的、または物理的現象、特に、生物学的過程、さらにより具体的に、筋肉組織、特に非排他的に、心臓組織などの生物学的組織におけるCa2+過渡現象を分析するための系(システム)および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経時的に得られるデータを発生する動的現象の測定手段は多数存在し、例えば、時間に対して変動する測定量のデータトレースおよび複数のピークを含むデータトレースがある。データトレースのピークが動的現象の過渡事象を表す場合、データトレースの分析は、典型的には、過渡事象を表すデータトレースのピークの分析に焦点を合わせる。これは、データ分析の速度の増加を伴って、詳細な分析を受けるデータ量を低下させる利点をもつことができる。しかしながら、動的現象の全体像を明らかにしないデータ分析のこのアプローチには危険性がある。
【0003】
それゆえに、動的現象のより全体的な像を表す意味のあるパラメータセットを作成するように、そのような動的現象を効率的かつ正確に分析するための迅速かつ信頼のおける系および方法のニーズがある。その後、パラメータセットは、動的現象の全体論的展望を得るように解釈することができる。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1態様によれば、以下を含む、動的現象を分析するための系(システム)が提供される:動的現象の測定視野を構成する少なくとも1つの関心領域(ROI)についてのデータトレースを保存するための記憶手段であって、データトレースが、時間に対する測定パラメータにおける変動を表す、記憶手段;ROIまたは各ROIについてデータトレースを調べて、動的現象における過渡事象に対応するピークをトレースに含むデータトレースの区画を同定するための手段;少なくとも1つの過渡ピークを含むROIを、含まれるROIとして選択するための手段;および、過渡ピークを含まないデータトレースの区画を分析して、含まれるROIまたはそれぞれの含まれるROIについての過渡間ノイズを表す第1のパラメータセットを作成するための手段。動的現象は、単離された試料、特に、単離された生物学的、化学的、または物理的試料などの試料に由来する測定可能な動的現象であり得る。
【0005】
動的現象は、経時的データを発生するように測定することができる生物学的、化学的、または物理的現象、特に表現型終点を有する生物学的現象であり得る。生物学的系において、過渡ピークは振動を表し得るが、過渡間ノイズは、それでもなお関心対象であり得る事象を表す可能性がある。測定視野は、選択された細胞または選択された細胞群などの関心領域(ROI)のグリッドへ分割された視野であってもよい。トレースデータは、時間をかけての所定のサンプリング速度での測定パラメータを表す1セットのデータ点を含んでもよい。測定パラメータは蛍光強度であってもよく、例えば、蛍光Ca2+探索研究から発生した蛍光強度であってもよい。この場合、過渡現象は、Ca2+放出、続いてCa2+隔離を含む事象を表し得る。本発明の例示的な実施形態において、データトレースは、筋肉組織、最も好ましくは、機能的融合細胞を供給するように連結した、少なくとも細胞収集物の形をとる心筋組織における、カルシウム周期的変動を表す。さらに最も理想的には、前記の細胞収集物は、理想的には、約500〜1000細胞/mmの密度で心臓細胞を培養することによって供給される単層を含む。
【0006】
系は、ROIまたは各ROIについてのデータトレースを分析して、そのROIについてのデータトレースを表す第2のパラメータセットを作成するための手段を含んでもよい。パラメータセットは、それぞれ、シグナル変動性の測定を含み得る。したがって、本発明による系は、完全なデータトレースに関するROIの全部についてデータを作成する。これは、なぜ、視野におけるROIについて、過渡事象を含むものもあれば、含まないものもあるのかということに関して、ユーザーに洞察を与えることができる。系は、追加として、過渡ピークを分析して、含まれるROIまたはそれぞれの含まれるROIについての過渡ピークを表す第3のパラメータセットを作成するための手段を含んでもよい。したがって、本発明による系は、そのROIにおける過渡事象に関する各ROIについてのデータを作成する。これは、ユーザーが、各過渡現象に特異的に何が起こるのかを分析することを可能にし、過渡間ノイズの別途の分析により、過渡現象の前と後に生じる過渡間ノイズと過渡パラメータのいずれかとの間に関連性があるかどうかをユーザーが突きとめることを可能にすることができる。これは、動的現象のより全体的な分析を提供する。系は、追加として、含まれるROIまたはそれぞれの含まれるROIについてのパラメータを別々に出力するための手段を含んでもよい。
【0007】
系は、追加として、第1のパラメータセットに基づいて過渡間ノイズを表す視野についてのパラメータセット、および第3のパラメータセットに基づいて過渡ピークを表す視野についてのパラメータセットを作成するための手段を含んでもよい。さらに、系は、第2のパラメータセットに基づいて、含まれるROIについてのデータトレースを表す視野についてのパラメータセット、第2のパラメータセットに基づいて、排除されるROIについてのデータトレースを表す視野についてのパラメータセット、および第2のパラメータセットに基づいて、視野における全てのROIについてのデータトレースを表す視野についてのパラメータセットを作成するための手段を含んでもよい。したがって、含まれるROIについてのパラメータセット(第1、第2、および第3)を別々に提供するだけでなく、含まれるROIのみのデータトレース、排除されるROIのみのデータトレース、および全てのROIのデータトレースに関する視野を表すパラメータセットも系のユーザーに提供することができる。これは、ユーザーが、含まれるROIと排除されるROIとの間の全体的な違いを確認することを可能にする。
【0008】
過渡ピークを表す視野についてのパラメータセットは、含まれるROIについての第3のパラメータセットに基づいた、視野にわたる過渡ピーク間の同期性の測定を含んでもよい。この場合、同期性の測定は、視野にわたる同期した過渡ピークの実際の数と比較して、視野にわたる同期した過渡ピークの可能性のある総数を決定する指数を計算することによって計算することができる。
【0009】
系は、追加として、ROIまたは各ROIについてのデータトレースを表示するための手段を含んでもよく、同時に、そのROIについてのデータトレースを調べて、動的現象における過渡事象に対応するピークをトレースに含むデータトレースの区画を同定する。したがって、方法は、異なるROIについてのトレースデータの別々の調査を可能にし、特に、同時にそのROIがユーザーによる目視観測のために表示される。これは、過渡事象を表すピークが適切に選択されていない場合には、ユーザーが介入することを可能にする。
【0010】
本発明の第1態様による系は、含まれるセットにおけるROIの分析と比較して、排除されるROIの異なる分析を実施してもよい。排除されるROIの分析は、含まれるROIの分析より少ないパラメータを作成してもよい。これは、過渡ピークが生じるデータトレースの分析を、過渡ピークが生じないものから分離し、それゆえに、動的現象のこれらの2つの型の挙動が別々に分析され、その後、ユーザーによって合わせて考慮されるのを可能にする。加えて、選択されたROIのセットからの含まれるROIまたは排除されるROIは、天然で振動性ではない任意の動的現象、例えば、生物学的関連において、非収縮性/非拍動性細胞のみに関連した任意の実験についての分析の速度を増加させる。それはまた、過渡ピークとノイズとを識別することが可能ではない場合のROIが、それらが計算をゆがめないように排除されることを可能にする。
【0011】
少なくともシグナル変動性(SV)が、全部のROIのデータトレースについて、および含まれるROIの過渡間の区画について計算されることが好ましい。特に、パラメータ(測定されたパラメータのSV/平均)が、全部のROIについてのデータトレースについて、およびそれぞれの含まれるROIの過渡間の区画について計算されてもよい。これは、動的系を解読するのに非常に役に立つことが見出されている。シグナル変動性は、適切な過渡間部分(または全体)のデータトレースの連続したデータ点の間の値の差の和として計算することができる。
【0012】
【数1】

上記の式は、1セットのk個の強度値;x、x、x・・・xについての数学的記述を表す。
【0013】
図14は、どのようにして、過渡間ノイズ(ITN)についてのSVが、起こり得る危険の指数として用いることができるかという既報のデータを示す。細胞質レベルまたは核レベルで測定した場合、SVが増加するにつれて、細胞死もまた増加する。さらに、図13に示された例は、既知の不整脈誘発物質(ウアバイン)に応答したITNの全体的な上昇、および既知の(および臨床的に認可された)抗不整脈薬(抗不整脈薬のヴォーン・ウィリアムズ分類を用いてクラスI〜IVに指定される)に応答したそれの摂動も含む。
【0014】
データトレースを調べて、ピークを選択するための手段は、トレースの各データ点間の傾きを評価してそれが正か負かを決定するための手段;およびデータ点の前に正の傾きがあり、後に負の傾きが続く場合には、そのデータ点を可能性のあるピーク点と同定するための手段を含む、可能性のあるピーク点を同定するための手段を含んでもよい。また、データトレースを調べてピークを選択するための手段は、トレースの各データ点間の傾きを評価して、それが正か負かを決定するための手段、およびデータ点の前に負の傾きがあり、後に正の傾きが続く場合には、そのデータ点を可能性のある谷点と同定するための手段を含む、可能性のある谷点を同定するための手段を含んでもよい。これは、可能性のあるピークデータ点および谷データ点の最初の選択を提供し、それらはさらに、調べられて、過渡事象を表すピークに対応するデータ点を同定することができる。
【0015】
データトレースを調べてピークを選択するための手段は、いったん、可能性のあるピーク点および谷点が上記のように決定されたならば、可能性のある谷点についての測定パラメータの平均値に基づいて第1閾値を計算するための手段;および第1閾値より下にある、可能性のあるピーク点を捨てるための手段を追加として含む、自動検出モデルを含んでもよい。それから、それは、前または後に可能性のあるピーク点をもたない、可能性のある谷点を捨てるための手段を含んでもよい。それから、それは、可能性のある谷点についての測定パラメータの平均に基づいて第2の閾値を作成するための手段、および第2閾値より上にある、可能性のある谷点を捨てるための手段を含んでもよい。それから、それは、複数の隣接するピーク点を可能性のあるピークを表すとして指定するための手段を含んでもよい。それから、それは、合併した過渡ピークを表す可能性のあるピークを捨てるための手段を含んでもよい。それから、それは、トレースにおいて可能性のあるピークの数を数えるための手段、および所定の数より多い可能性のあるピークがある場合、可能性のあるピーク間の標準偏差が所定レベルまで低下するまでバックグラウンドノイズを表す可能性のあるピークを削除し、そうでない場合にはいかなる可能性のあるピークも削除しないための手段を含んでもよい。それから、それは、前または後に可能性のあるピーク点をもたない、可能性のある谷を捨てるための手段、および前または後に可能性のある谷をもたない、可能性のあるピークを捨てるための手段を含んでもよい。この自動検出モデルは、多数のデータトレースについての過渡事象に対応するピークを正確かつ確実に同定することができる。
【0016】
データトレースを調べてピークを選択するための手段は、複数の隣接するピーク点を可能性のあるピーク点を表すとして指定するための手段を含んでもよい。それから、それは、合併した過渡ピークを表す、可能性のあるピークを捨てるための手段を含んでもよい。特に、合併した過渡ピークを表すピークは、過渡事象を表すピークを分析してそのROIについての過渡ピークに関する第3のパラメータセットを作成することを目的として、捨てられてもよい。しかしながら、合併した過渡ピークを表す複数のピークは、同期性を計算することを目的として同定されてもよい。したがって、系は、合併した過渡ピークが、混じり合う、すなわち、次のものが開始する前に終了していない(一般的にサンプリング速度が原因)過渡ピークを表すために、不完全な過渡ピークのマーキングを可能にする。しかしながら、細胞細動のために単一体として分解しない「合併」ピークを得ることは、よくあることでもある。これは、サンプリング速度のせいではなく、細胞特性である(特に、抗細動治療を調べている場合)。
【0017】
不完全な過渡ピークを見逃すことは、速度および同期性の計算にマイナスの影響を及ぼし得る。しかしながら、合併過渡ピークは、個々の過渡ピークとは異なる特性を有する。合併過渡ピークは、何が過渡現象を構成するかというパラメータのガイドラインに従わず、それゆえに、合併過渡ピークが、各ROIについての過渡ピークに関する第3のパラメータセットの作成から捨てられる場合には、過渡特異的パラメータについてより良い結果が達成される。サンプリング速度が比較的低い場合、トレースデータ内に多数の合併過渡ピークが存在し得るため、これは、本発明の第1態様による系に従って達成される結果を著しく向上させる。
【0018】
いったん、可能性のあるピーク点および谷点が上記のように決定されたならば、データトレースを調べてピークを選択するための手段は、ピークカットオフ閾値を選択するための手段、谷カットオフ閾値を選択するための手段、ピークカットオフ閾値より下の可能性のあるピーク点を捨てるための手段、谷カットオフ閾値より上の可能性のある谷点を捨てるための手段、および前または後にピーク点をもたない、可能性のある谷点を捨てるための手段を追加として含む閾値検出モデルを含んでもよい。特に、ピークカットオフ閾値および谷カットオフ閾値は、ユーザーによってトレースデータを観察することで選択されてもよい。
【0019】
加えて、または代替として、データトレースを調べてトレースにおいて任意の過渡ピークを選択することは、少なくとも部分的に、トレースデータを観察するユーザーによって行われてもよい。
【0020】
記憶手段、調べるための手段、選択するための手段、および分析するための手段は、コンピュータプログラムを実行するコンピュータデバイスを含んでもよい。この場合、表示するための手段は、コンピュータデバイスに動作可能に接続されたディスプレイスクリーンを含んでもよい。加えて、系は、ユーザーがそれを介して系と相互作用することができるユーザーインターフェースを追加として含んでもよい。
【0021】
本発明の第2態様によれば、試料の測定視野を構成する少なくとも1つの関心領域(ROI)についてのデータトレースを保存する工程であって、データトレースが時間に対する動的現象の測定パラメータにおける変動を表す、工程;ROIまたは各ROIについてデータトレースを調べて、動的現象における過渡事象に対応するピークをトレースに含むデータトレースの区画を同定する工程;少なくとも1つの過渡ピークを含むROIを、含まれるROIとして選択する工程;および過渡ピークを含まないデータトレースの区画を分析して、含まれるROIまたはそれぞれの含まれるROIについての過渡間ノイズを表す第1のパラメータセットを作成する工程を含む、測定可能な動的現象を生じる単離された試料を分析するための方法が提供される。単離された試料は、生物学的、化学的、または物理的試料であってよい。
【0022】
動的現象は、前に本明細書に記載されている通りである。
【0023】
方法は、有利には、選択された型の組織、理想的には心臓組織への薬物の効果を決定するために薬物をスクリーニングするのに用いられる。この場合、機能性融合細胞についてのデータトレースを、試験薬物の組織への効果を捕捉および/または決定するために試薬薬物への暴露前および後に比較することができる。例えば、データトレースは、試験薬物が組織の同期拍動、収縮強度、収縮速度、細動の傾向もしくはさらに停止の傾向にどのように影響するか、または影響するかどうかを示すために用いることができ、または分析することができる。最も一般的には、試験中の薬物の不整脈誘発または抗不整脈の結果の決定が評価される。しかしながら、系が提供するCa2+「フィンガープリンティング」はまた、細胞の運命を全体的に予知するものとして用いることもできる。本発明者らは、心臓細胞生存率とSV上昇との間の密接な相関を発表している。細胞間同期性にごくわずかな、または穏和な効果を生じる薬物が、個々の細胞においてSV(またはITN)を上昇させ得、それゆえに、有害である可能性があることはもっともなことである。さらに、関心対象の細胞内コンパートメント(例えば、細胞質、核)に対応する関心領域(ROI)は、別々の細胞環境において細胞内Ca2+流動を調べるために特定的に選択されてもよい。図14参照。
【0024】
図13に示されているように、本発明者らは、系の薬理学的調節に応答したパラメータ変化を視覚的に表示する通常の「ヒートマップ」へ「生」の数値出力を変換する。図13において、本発明者らは、既知の抗不整脈摂動剤(強心配糖体、ウアバイン)を用いて、用量依存性の同期性消失が、多数のCa2+ハンドリングパラメータの全体的破壊に関連づけられることを例証している。とりわけ、ITNは、大いに影響を及ぼされ、試験中の薬理作用物質の可能性のある有益な性質または有毒な性質を決定するのにこのパラメータを本発明者らが用いることを強く裏付けている。
【0025】
図13はまた、既知の(臨床的に認可された)抗不整脈薬に関連した系から得られるデータを含む。図13は、細胞間同期性の回復がITNの抑制に関連づけられることを示している。抗不整脈薬理作用物質が、いくつかの状況下で、顕著な不整脈誘発の性質をもち得ることは十分確立されており、上記の方法が、より高い用量のクラスIV抗不整脈剤(ベラパミル、1〜10uM)によって誘起されるCa2+ハンドリングにおける正確な摂動を極めて明確に示している。
【0026】
方法は追加として、ROIまたは各ROIについてのデータトレースを分析して、そのROIについてのデータトレースを表す第2のパラメータセットを作成する工程を含んでもよい。パラメータセットは、それぞれ、シグナル変動性の測定を含んでもよい。方法は追加として、過渡ピークを分析して、含まれるROIまたはそれぞれの含まれるROIについての過渡ピークを表す第3のパラメータセットを作成する工程を含んでもよい。方法は追加として、含まれるROIまたはそれぞれの含まれるROIについてのパラメータを別々に出力する工程を含んでもよい。追加として、方法は、第1のパラメータセットに基づいて過渡間ノイズを表す視野についてのパラメータセット;および第3のパラメータセットに基づいて過渡ピークを表す視野についてのパラメータセットを作成する工程を含んでもよい。また、方法は追加として、第2のパラメータセットに基づいて、含まれるROIについてのデータトレースを表す視野についてのパラメータセット;第2のパラメータセットに基づいて、排除されるROIについてのデータトレースを表す関心対象野(the field of interest)についてのパラメータセット;および第2のパラメータセットに基づいて、視野における全てのROIについてのデータトレースを表す視野についてのパラメータセットを作成する工程を含んでもよい。
【0027】
本発明の態様によれば、動的現象が単離された生物学的試料に由来する、本発明による系の使用が提供される。
【0028】
本発明の好ましい実施形態において、生物学的試料は、単離された真核細胞、好ましくは哺乳類細胞、より具体的には筋肉細胞を含み、特に都合良いのは心筋細胞であり、理想的には、機能的に連結した単層の形をとる。
【0029】
本発明の代替の好ましい実施形態において、前記生物学的試料は、原核細胞、好ましくは細菌細胞を含む。
【0030】
本発明のさらに好ましい実施形態において、細胞を、測定される動的現象において変化を誘導する少なくとも1つの作用物質と接触させ、その作用物質と接触していない対照試料と比較する。
【0031】
本明細書の説明および特許請求の範囲を通して、語「含む(comprise)」および「含む(contain)」ならびにその語の変化形、例えば、「含むこと(comprising)」および「含む(comprises)」は、「含むが、限定されない」ことを意味し、他の部分、他の添加物、他の成分、他の整数、または他の工程を排除することを意図するものではない(および排除しない)。
【0032】
本明細書の説明および特許請求の範囲を通して、単数形は、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、複数形を含む。特に、不定冠詞が用いられる場合、本明細書は、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単数性だけでなく複数性も企図するものと理解されるべきである。
【0033】
本発明の特定の態様、実施形態、または例と共に記載された性質、整数、特性、化合物、化学的部分、または群は、不適合でない限り、本明細書に記載された任意の他の態様、実施形態、または例に適用可能であると理解されるべきである。
【0034】
本発明の教示の様々な態様、およびそれらの教示を具体化する配置は、以下、添付された図面を参照して、例証となる例として記載されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による方法および系によって実施される分析の工程を示すフローチャートである。
【図2】図1の「ピークおよび谷を選択する」段階に用いられる自動検出モデルにおいてピークおよび谷を選択するために用いられる段階を示すフローチャートである。
【図3】図1の「ピークおよび谷を選択する」段階に用いられる閾値検出モデルにおいてピークおよび谷を選択するために用いられる段階を示すフローチャートである。
【図4】図1の「分析する」段階に用いられる段階を示すフローチャートである。
【図5】図4の「ピーク点をチェックする」段階に用いられる段階を示すフローチャートである。
【図6】図4の「含まれるROIおよび排除されるROIの分析」の段階に用いられる段階を示すフローチャートである。
【図7】図4の「含まれるROIにおいてピークの同期性を計算する」段階に用いられる段階を示すフローチャートである。
【図8】図8A:図2の自動検出モデルによって検出されるピークを有する生トレースデータを示す図である。図8b〜8d:ピークおよび谷の異なるカットオフ閾値を有する、図3の閾値検出モデルによって検出されるピークを有する生トレースデータを示す図である。
【図9】閾値を設定するユーザーによってピークの手作業による削除を示す生トレースデータを示す図である。
【図10】どのようにして1つより多いピークデータ点が過渡現象を表すことができるかを示す生トレースデータを示す図である。
【図11】図2の「ピークを検査する」段階に用いられる段階を示すフローチャートである。
【図12】関心対象の動的現象を含むROI(a)およびそのような現象が存在しないROI(b)におけるデータトレースおよび対応するITNの計算を示す図である。
【図13】過渡間ノイズおよびいくつかのピークパラメータによって測定した場合のいくつかの薬物または薬理作用物質(ウアバイン、ジイソピラミド(II)、ナドロール(I)、アミオダロン(III)、およびベラパミル(IV))の心臓組織におけるカルシウムハンドリングへの効果を示す通常のヒートマップである。
【図14】心臓組織における、細胞死対細胞質SV、および細胞死対核SVのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、動的現象を分析するための方法および系に関し、本明細書ではSALVOと呼ばれる。SALVOは、生物学的(および他の)系の同期性、振幅、長さ、変動性、および振動挙動を定量化する、多パラメータ分析の系および方法である。それは、シグナル変動性の指数を用いてシグナル流動の大きさを計算し、生物学的過程における動的時空間的事象の関連においてそれを位置づける。それは、生物学的過程の時間分解能を解読することができる。それは、振動系を解読するのに特に有用である。
【0037】
SALVOは、細胞レベルでの形態学的評価、例えば、核サイズの周期的変動、経時的な形態学的評価、器官レベルでの形態学的評価、例えば、心臓収縮および肝臓酵素分泌の速度に適用することができる。それは、表現型終点を有する生物学的現象の周期的変動を記録するために特に有用である。
【0038】
1例において、SALVOは、Ca2+過渡周期性、放出速度、および細胞間Ca2+同期性を分析するために適用されている。SALVOは、インビトロで心臓単層における細胞の律動性、同期性、および収縮性のCa2+ハンドリング基盤を解読することができる。理想的には、分析は、生細胞における細胞性Ca2+周期的変動の共焦点顕微鏡画像化を用いて作成されるシグナルに適用されるが、他の画像化ツールを用いてもよい。Ca2+動態が測定される2つの稼働例において、本発明は、Ca2+流動の増加が培養中のヒト細胞およびマウス細胞における細胞生存率の変化と相関すること、ならびにCa2+流動の増加が、イオンハンドリングの細胞に基づいたモデルにおいて不整脈を起こしやすくすることを示した。図14参照。
【0039】
細胞データは、例えば、HL−1心臓細胞などの心臓細胞を用いる蛍光探索研究などのCa2+探索研究から作成することができる。
【0040】
HL−1心筋細胞は、成体心筋細胞の収縮性特性、プロテオミクス特性、および分子特性を保持する不死化心臓細胞系列である。それらは、単層へ培養された場合、自発的かつ同期的拍動を示す、ロバストで、急成長性で、表現型的に安定した細胞系である。現在、それらは、通常の(すなわち、非ウイルス性)トランスフェクション方法を用いる異種性組換えタンパク質の高効率トランスフェクションを受け入れられる唯一の心筋細胞由来系列である。高密度で、かつゼラチン−フィブロネクチンマトリックスなどの適切なマトリックス上で、それらは、心臓細胞の律動性、同期性、および収縮性のロバストなモデルを表す電気的に連結した単層(拍動性融合細胞)を形成する。
【0041】
例として、細胞を、ゼラチン−フィブロネクチン(GFN;0.2%(w/v)ゼラチン/10μg/mlフィブロネクチン(ウシ皮膚由来、Sigma)を含む)で(24時間)プレコーティングされたプラスチックウェア上のウシ胎児血清(10%(v/v))、グルタミン(2mM)、ノルエピネフリン(0.1mM)、ペニシリン(100ユニット/mL)、およびストレプトマイシン(100μg/mL)を含むClaycomb培地(SAFC Biosciences)中で培養する。日常的な表現型特徴づけのために、細胞に、毎日、(完全培地交換によって)栄養を与え、毎週、継代する(新鮮なGFNコーティングプラスチックウェアへ1:3に分割する)。低い方の分割密度は表現型の喪失を伴う。画像化のために、細胞播種密度を表面積に比例して調整する。細胞を、それらが電気的に連結した単層(拍動性融合細胞)を形成するように、ガラス底のチャンバー(Mattek Corp.、USA)上で非常に高い密度(約500〜1000細胞/mm)まで培養する。細胞は、この時点で物理的に収縮性であってもよいし、収縮性でなくてもよい。物理的収縮性は、細胞間および細胞内のイオンハンドリングを予知するものではなく、両方の集団型からのデータは全く等価である。
【0042】
特定の例として、細胞画像化およびデータ収集のために、単層に、200μl容量の追加されていないClaycomb培地下、30〜37℃で90分間、4.7μMのfluo4−AM(Invitrogen)を負荷する。この時点後、チャンバーを1.2mlのClaycomb培地(ノルエピネフリン(0.1mM)含有)であふれさせ、画像化前に20分間、37°まで戻す。少なくとも20細胞を含み、かつ明らかに検出可能な蛍光レベル(典型的には、約700Vの光電子倍増管チューブ電圧における>20の任意蛍光単位(256ビットスケーリング))を示す視野(FOV)を、488nmのアルゴンレーザー(20%電源)を用いて励起させる。データは、Leica LASソフトウェアで制御されたLeica SP5 acoutso−optic beam splitter(AOBS)共焦点顕微鏡を用いて40×または63×(>1.3NA)油浸対物レンズによって得られる。データは、512×512ピクセルまたはそれ以上のカメラ解像度での4次元画像化(XYZT;3つの物理的次元(X、Y、およびZ)および時間(T))を用いて一方向性スキャン様式において100ms間隔で得られる。生(画像)データは、.lifファイルとして保存され、外付けハードドライブまたはデジタルテープ(DAT)に日付順形式でアーカイブに入れられる。
【0043】
画像データは、LASソフトウェアの「Quantify」→「Tools」→「Stack Profile」の機能を用いて細胞の関心領域(ROI、典型的には50μm)から得られる。しかし、LASと互換性のあるプラグインを有する任意の画像分析ソフトウェア(NIH’s ImageJ、Imaris’Bitplane、Improvision’s Velocity)を用いてこれらのファイルからデータを得ることができる。得られた画像データは、多段組みデータ(各ROIについて時間対蛍光強度)であり、LASの「Report」機能を用いて作成される。画像データは、Microsoft Excel互換性フォーマット(デフォルト保存名は「Chart0」である)で保存され、これらのファイルのうち1つだけがレポート用に作成される。このフォーマットの画像データはSALVOへインポートされる。
【0044】
SALVO方法および系は、ROIにおいて過渡ピークを探す。過渡ピークは、谷からピークへ、そして谷へ進む時間に対する強度のトレースとして本明細書で定義され、所定の閾値より上で明らかに限定でき、かつバックグラウンドノイズより高く識別可能である。上記の蛍光Ca2+探索研究の例において、過渡ピークは、Ca2+放出、続いてCa2+隔離を表す。
【0045】
図1のフローチャートは、SALVO方法および系によって実行される分析の段階を示す。データはSALVOへインポートされる[図1の段階i]。このデータは、上記のように、または別の供給源からインポートされた生画像データ(各ROIについての時間に対する強度)であってもよい。インポートされた生データは、SAVLO系を用いてピークおよび谷について前に評価されていてもよい。このデータ(各ROIに関する1セットのあらかじめ保存されたピークデータ点および谷データ点についてのピークまたは谷の時間に対するピークまたは谷の強度)が存在する場合には、それは、ユーザーが改めてピークおよび谷を検出しなければならないことはなく、SALVO系へ直接、インポートすることができる[図1の段階iiを経て、段階v]。データが各ROIについての生画像データである場合、SALVOは、例えば、ユーザーにより手作業で、および/またはSALVOに実装されたピークおよび谷選択モデル(そのモデルは任意で、いくつかのユーザーインプットを必要とする場合がある)により、ピークデータ点および谷データ点の選択を促進する[図1の段階iiを経て段階iii]。ピークおよび谷選択モデルは、図2を参照して下に記載された自動検出モデル、または図3を参照して下に記載された閾値検出モデルを含む。ユーザーは、画像データのグラフ(時間に対する強度)を視覚的に分析することによってピーク点を手作業で選択してもよい。自動検出モデルまたは閾値検出モデルを用いてピーク点および谷点を検出する場合、データトレース上に選択されたピークおよび谷がマークされている(例えば、図8に示されているように)、表示されたデータトレースを含むこれらのモデルの結果は、任意で、ユーザーによって視覚的に観察することができ、その後、ユーザーは、モデルによって選択されたピークおよび谷に任意の適切な手作業での補正を行ってもよい。
【0046】
図1の段階iiiで選択されたピーク点および谷点(ピークまたは谷の時間に対するピークまたは谷の強度)は、その後、各ROIについて保存される[図1の段階iv]。保存された[図1の段階iv]、またはあらかじめ保存された[図1の段階v]ピーク点および谷点に加えて生データは、その後、図4に関して下に記載されているように、分析される[図1の段階viおよびvii]。
【0047】
SALVOは、SALVOにインポートされた時間対強度(例えば、蛍光)生画像データ(以下、生トレースデータと呼ぶ)においてピークおよび谷を検出するために2つの異なるモデルを用いる。SALVOのユーザーは、これらのモデルのどちらを各ROIについて用いるべきかを選択することができる。第1が自動検出であり、第2が閾値検出である。あるいは、ユーザーは、生トレースデータにおいてピークおよび谷を手作業で選択することを選ぶことができ、この選択肢は、過渡事象の数が少ない場合、特に、ROIあたりたった1個または2個の過渡ピークがある場合、好まれることがある。図8a〜8dは、検出されたピークおよび谷がマークされているトレース例を示す。図8aは、自動検出モデルによって同定された場合のピークおよび谷がマークされているトレース例を示す。たいていの場合、自動検出モデルは、用いるのに最善のものであるが、場合によっては、例えば、生トレースデータの有意な全体的な傾きがある場合には、閾値検出モデル内のユーザー相互作用によって、ピークおよび谷のより良い選択がもたらされる可能性がある。時々、自動検出モデルは、生トレースの最後尾に向けてのピークおよび谷を見落とし得る。図8bは、トレース例を示しており、閾値検出モデルによって同定された場合のピークおよび谷がそれにマークされ、デフォルト閾値ピーク=2および谷=2である。ピーク閾値は逆数指数である。したがって、例えば、2の閾値は、最大データトレース振幅の50%より大きい振幅を有する可能性のあるピークが検出されるであろうことを意味する。図8cおよび8dは、どのようにして閾値検出モデルとのユーザー相互作用が、ピーク谷選択の出力を変化させることができるかを示す。図8cにおいて、ユーザーは、閾値ピーク=3および谷=3を選択しており、図8dにおいて、ユーザーは、閾値ピーク=4および谷=4を選択しており、この後者の場合、全てのピークおよび谷の位置づけに成功している。
【0048】
ピークおよび谷を選択する自動検出モデルは、生トレースデータにおいて全ての妥当なピークおよび谷を自動的に検出しようと試みる。自動検出モデルの段階的方法は、図2に関して下記に述べられている。
【0049】
トレースデータにおける各データ点間の個々の傾きの全てが評価され、それらが正であるか負であるかを決定する[図2の段階i]。その後、各データ点について、データ点は、データ点の前(時間における)の傾きが正であり、かつデータ点の後(時間における)の傾きが負である場合、可能性のあるピーク点として割り当てられ、そうでないならば、可能性のあるピーク点として捨てられる[図2の段階ii]。その後、各データ点について、データ点は、データ点の前の傾きが負であり、かつデータ点の後の傾きが正である場合、可能性のある谷点として割り当てられ、そうでないならば、可能性のある谷点として捨てられる[図2の段階iii]。その後、ベースライン強度が、図2の段階iiiにおいて可能性のある谷点として割り当てられたデータ点の全部の強度の平均として計算される[図2の段階iv]。その後、それぞれの可能性のあるピークについて、可能性のあるピークの強度は、第1閾値と比較され、その第1閾値は、ベースライン強度より下に、好ましくはベースラインより10%〜30%下、特に20%下に設定される。パーセンテージは、実験検証に基づいて選択される。可能性のあるピークの強度が第1閾値未満である場合、可能性のあるピークは、次の方法段階についての可能性のあるピーク点として捨てられる[図2の段階v]。その後、それぞれの可能性のある谷点について、谷点は、それがその前または後(時間における)に可能性のあるピーク点をもたない場合、すなわち、それがそれと前の谷との間に可能性のあるピーク点をもたない、またはそれと次の谷との間に可能性のあるピーク点をもたない場合、次の方法段階についての谷点として捨てられる[図2の段階vi]。その後、それぞれの可能性のある谷について、可能性のある谷の強度は、第2の閾値と比較され、その第2の閾値は、ベースライン強度より上に、好ましくはベースラインより70%〜90%上、特に80%上に設定される。可能性のある谷の強度が第2の閾値より高い場合、次の方法段階についての可能性のある谷点として捨てられる[図2の段階vii]。これは、可能性のあるピーク点および谷点を同定する。しかしながら、ピークまたは谷は、それぞれ、1つより多い可能性のあるピーク点または谷点によって表される場合がある。
【0050】
それぞれの可能性のあるピーク点について、ピーク点が、2つの可能性のある谷点の間にある複数の可能性のあるピーク点(すなわち、複数の可能性のあるピーク点の間に可能性のある谷点がない)のうちの1つである場合、複数の可能性のあるピーク点は、次の方法段階についての単一の可能性のあるピークとして指定される[図2の段階viii]。図10は、単一の過渡を表す単一のピークがどのようにして1つより多いピーク点によって表され得るかを示す。
【0051】
その後、第3の閾値を計算することによって、合併しているように思われる任意の可能性のあるピークは、削除される。これを行うために、各ピークが発生した時間が考慮される。ピークを表す1つより多い可能性のあるピーク点がある場合には、第3の閾値を計算することを目的として、それぞれのそのようなピーク点についての時間の平均が、ピークが発生した時間であるとみなされる。その後、そのピークを構成する可能性のあるピーク点と(上記で計算されたような)そのピークが発生した時間との間の距離(時間における)が計算され、これらの差の平均が計算される。その後、1つより多い点によって表されるピークがスプリットピーク(すなわち、混ざっている2つの過渡ピーク)であるかどうか、またはそれが妥当なピーク(すなわち、単一の過渡を表す)であるかどうかを決定するために、ピークの広がりが計算される。広がりは、ピークの最初の点と最後の点との間の距離(時間における)である。その後、第3の閾値は、計算された平均距離の60%〜40%、好ましくは50%に設定される。その後、第3の閾値より大きい広がりを有するいかなる可能性のあるピークも、次の方法段階における可能性のあるピークとして捨てられる[図2の段階ix]。
【0052】
合併したピークは、それらが過渡計算に悪影響を及ぼさないように削除される。しかしながら、このようにそれらを削除することは、同期性計算および速度計算に影響を及ぼす。代わるべき方法は、合併したピークを不完全な過渡ピークとしてマークすることであり、それは、その後、下記の同期性計算および速度計算に含まれるが、高さ、長さなどの過渡特異的計算には含まれない。
【0053】
その後、バックグラウンドノイズを表すピーク点のより多くを削除するために図11に従って、検査ピーク段階[図2の段階x]が実行される。検査ピーク段階は、ピーク高さの標準偏差を低下させるためのチェックと、ROIがピーク点の除去を受けるべきかどうかを決定するための試験との混合である。第1に、ROIにおいて所定の数(例えば、所定の数が8〜13、好ましくは11であり得る)より少ないピークがある場合には、モデルは図2の段階xiにスキップする[図11の段階i]。そうでないならば、ピークの全部の高さが、各ピークの最初のピーク点を用いて計算される(すなわち、ピークを表す2つ以上のピーク点がある場合には、時間における最初のものがこの計算のために選択される)[図11の段階ii]。その後、高さの平均および標準偏差が計算される[図11の段階iii]。ベースラインが計算され(谷の平均強度)、谷の標準偏差(強度)が計算される[図11の段階iv]。その後:
(平均高さ+高さの標準偏差)/(ベースライン+ベースラインの標準偏差)<0.5
であるならば、図2の段階xiにスキップする[図11の段階v]。その後、強度が最大ピーク強度(最大ピーク強度は最初のピーク点の強度に基づいている)の20%未満であるいかなるピークも除去される[図11の段階vi]。
【0054】
その後:
(高さの標準偏差)/(平均高さ)>0.5[図11の段階vii]
であるならば、図11の段階viiiへ進み、そうでないならば、図2の段階xiに進む。
【0055】
図11の段階viiiで、ピークごとに、ピークの高さ<平均高さならば、そのピークを除去し[図11の段階viii]、残りのピークに基づいて平均高さおよび標準偏差を再計算し[図11の段階ix]、その後、図11の段階viiに戻る。
【0056】
図2の段階xiで、段階viが繰り返される[図2の段階xi]。
【0057】
最後に、前または後のいずれにも可能性のある谷がないいかなる可能性のあるピークも、次の方法段階における可能性のあるピークとして捨てられる[図2の段階xii]。残りの可能性のあるピークおよび可能性のある谷は、図2の自動検出モデルによって選択されるピークおよび谷である。
【0058】
閾値検出モデルの段階的方法は、図3に関連して下記に述べられている。
【0059】
図3の段階i〜iiiは、可能性のあるピーク点および可能性のある谷点の最初の選択を行うための図2の段階i〜iiiと同じである。その後、ピークカットオフ閾値が、以下の通り、トレースのユーザーの観察に基づいてSALVOのユーザーによって供給される第4の閾値に基づいて計算される[図3の段階iv]:
ピークカットオフ閾値=最大ピーク強度/第4閾値
【0060】
第4閾値についてのデフォルト値は2であり、ユーザーは、視覚でデフォルト閾値における変化を決定する。デフォルト閾値で多すぎるノイズが含まれるならば、第4閾値は1の方へ下げられ、デフォルト閾値で多すぎるピークが欠けているならば、第4閾値は>2であるように動かされる。ユーザーは、ユーザーがピーク点選択に満足するまで、これを数回、繰り返して、異なる閾値を選択してもよい。
【0061】
その後、谷カットオフ閾値が、以下の通り、SALVOのユーザーによって供給される第5の閾値に基づいて、計算される「図3の段階v」:
谷カットオフ閾値=最低谷強度/第5閾値
【0062】
この場合もやはり、第5閾値についてのデフォルト値は2であり、ユーザーは、視覚でデフォルト閾値における変化を決定する。どの谷が除去されているかに基づいて、第4閾値は1の方へ下げられ、または2より上に上げられる。ユーザーは、谷点選択が正確にデータトレースを記載しているとユーザーが納得するまで、これを数回、繰り返して、異なる閾値を選択してもよい。
【0063】
その後、ピークカットオフ閾値未満の強度をもつ全ての可能性のあるピーク点は、次の方法段階についての可能性のあるピーク点として捨てられ[図3の段階vi]、谷カットオフ閾値より大きい強度をもつ全ての可能性のある谷点は、次の方法段階についての可能性のある谷点として捨てられる[図3の段階vii]。その後、それぞれの可能性のある谷点について、可能性のある谷点は、それがその前または後に可能性のあるピーク点をもたない、すなわち、それがそれと前の谷との間に可能性のあるピーク点をもたない、またはそれと次の谷との間に可能性のあるピーク点をもたない場合、次の方法段階のために、捨てられる[図3の段階viii]。残りの可能性のあるピーク点および可能性のある谷点は、図3の閾値検出モデルによって選択されるピークおよび谷である。
【0064】
ユーザーは、いかなる時点でも、ピーク点および谷点を手作業で変更することができる。
【0065】
場合によっては、図2の自動検出モデルおよび図3の閾値検出モデルは、妥当なピーク点とノイズのピークとを識別することができない。これが生じた場合、ユーザーが強度閾値より下の全ての可能性のあるピーク点を除去する、さらなる段階を含めることが勧められる。この過程は図9aおよび9bに示されている。図9aは、自動検出モデルによって同定された場合のピークおよび谷の選択を示す。ユーザーは、図9aに示されているように、自動検出モデルの結果を観察し、この観察に基づいて、閾値より下の全てのピークが、例えば、それらがノイズとして分類されるという理由から、除去されるべきであるという閾値を選択する。図9aの例において、ユーザーが16の閾値を選択した場合、図9bのトレースがその結果である。
【0066】
過渡ピークを含まないいかなるROIも完全分析から排除され、過渡ピークとバックグラウンドノイズとを区別することが困難である場合のいかなるROIもまた同様である[図1の段階viおよび図6の段階i]。排除されたROIは、下記のように、含まれるROIとは異なって分析される。
【0067】
図1の段階viiでのデータの段階的分析は、図4に関連して下に記載されている。
【0068】
図4において、全てのROIについてのピーク点の最終チェックがなされる[図4の段階i]。最終チェックは、図5に示されているように、以下の段階を含む。
【0069】
それぞれの可能性のあるピーク点について、ピーク点が、2つの可能性のある谷点の間にある複数の可能性のあるピーク点(すなわち、複数の可能性のあるピーク点の間に可能性のある谷点がない)の1つである場合、複数の可能性のあるピーク点は、次の方法段階についての単一の可能性のあるピーク点として指定される[図5の段階i]。その後、図2の段階ixのように、合併しているように思われるいかなる可能性のあるピーク点も削除される[図5の段階ii]。最後に、前および後の両方に谷点をもたない、いかなる可能性のあるピーク点も削除される[図5の段階iii]。
【0070】
その後、「含まれる」として指定されている各ROIに完全分析が実施され、「排除される」として指定されている各ROIに、排除される分析が実施される[図4の段階ii]。含まれるROIについて、完全分析が実行され、下記の表1の左欄に列挙されているパラメータの全部が計算される[図6の段階ii]。全ての含まれるROIが、FOVにおける全ての含まれるROIから過渡ピークの同期性を計算するために下記の同期性計算に含まれる。
【0071】
いかなる排除されるROIも完全分析から排除され、過渡ピークとバックグラウンドノイズとを区別することが困難であるいかなるROIも同様である[図6の段階iii]。排除されるROIは、下記の同期性計算から排除される。SV、平均強度、ベースラインパラメータ、および発振周波数だけは、排除されるROIについて計算され[すなわち、SV(標準偏差)、SV合計、SV(分散)、SV/s、SVm、ITN(roi合計)、ITN(合計長さ)、ITN(平均合計)、ITN(平均長さ)、ITN(平均大きさ)、ITN/s]、したがって、排除されるROIは、全ての過渡特異的計算から排除される。
【0072】
排除されるROIについての過渡間ノイズITNの計算は、図12bに示されており、含まれるROIについての過渡間ノイズITNの計算は図12aに示されている。
【0073】
その後、ペリオドグラムおよび発振周波数が、各ROIについて、それらが含まれる、含まれないに関わらず、計算される[図4の段階iii]。各ROIについてのペリオドグラムを表すパワーおよび周波数を計算するために高速フーリエ変換が用いられる。その後、発振周波数パラメータ(表1)が、最大パワーをもつ発振周波数の値として指定される。
【0074】
同期性計算に関して、同期として分類されるべき2つのピークについて、それらが同時に生じなければならないという点において、厳密なアプローチが用いられる。ピークが2つ以上のデータ点によって表される場合、ピークが生じる時間は、そのピークについての最初のデータ点と最後のデータ点との間の任意の時間として分類される。含まれるROIのピーク間の同期性は、図7に関して下に記載されているように、計算される[図4の段階iv]。
【0075】
ROIピーク間の可能なマッチ(ペアで)の総数は、最大数のピークを有するROIに基づいて計算される[図7の段階i]。異なるROIにおける2つのピークは、上記のように、それらが同時に生じるマッチングペアとして指定される。例えば、最大数のピークを有するROIが60個のピークを有するならば、可能なマッチの総数は、全てのROIが60個のピークを有し、かつ各ROIにおける全ての60個のピークが正確に同時に生じた場合である。これは以下として計算されることになる:
可能なマッチの総数=組合せの数×ピークの最大数
【0076】
したがって、20個の含まれるROIがあるならば、RO1は、19個の他のものと比較され、RO2は18個の他のものと、・・・そして、RO19が1個の他のものと比較されるであろう。したがって、組合せの数は、19+18+・・・+1である。
【0077】
その後、ピークのマッチングされたペアの実際の数が、それぞれの含まれるROIを通じて繰り返し、かつそれぞれの含まれるROIについて、そのROIの各ピークを通じて繰り返し、かつ各ピークについて、現在のものの後に繰り返される含まれるROIにおけるピークにそのピークが何回マッチングするかを数えることによって、計算される[図7の段階ii]。その後、各ROIの各ピークについてマッチングされたピークペアの数は、数えられたマッチの数を計算するために合計される。その後、パーセンテージ同期性が以下のように計算される[図7の段階iii]:
(数えられたマッチの数/可能なマッチの合計)×100
【0078】
表1の右欄に列挙された他のパラメータは、FOVについて計算される[図4の段階v]。その後、出力ファイルが書き出される[図4の段階vi]。
【0079】
SALVOが、細胞間同期性のCa2+ハンドリング基盤を調べるために用いられる例において、それは、個々のROIにおけるシグナル流動を記載する表1の左欄に示されているような25個のパラメータ、および顕微鏡的視野(FOV)内の平均データを記載する表1の右欄に示されているような28個のパラメータを戻す。例えば、各ROIは、単細胞に対応してもよいし、FOVは10〜20個の細胞に対応してもよい。
【0080】
単層が既知の不整脈誘発物質のウアバインに曝される実験において示されているように(図13)、過渡間シグナルデータは、単層における細胞間同期性に逆相関する。既知の抗不整脈薬、特にクラスI(ジイソピラミド)およびクラスIII(アミオダロン)の作用物質は、過渡間ノイズ(ITN)を低下させることができ、これは、回復、さらに同期性の改善に関連づけられる。これらの作用物質を用いる単層におけるITNの相対的抑制および付随的な同期性挙動の回復はまた、ピーク高さ、長さ、面積、速度、およびピーク規則性指数を含む「過渡」Ca2+パラメータの重要な正常化にも関連づけられる(図13)。図13におけるデータは、強心性薬理作用物質候補の抗不整脈の可能性を、このモデル系を用いてスクリーニングできることを示している。また、出力の多パラメータ性により、薬物作用の機構的基盤の決定を可能にし得る。
【0081】
本発明は、不死化心臓細胞の単層を用いて例示されているが、幹細胞由来細胞、特に、筋肉細胞、理想的には心臓細胞などの幹細胞由来のCa2+ハンドリング細胞などの他の細胞を、本発明を行うのに用いてもよい。
【0082】
【表1】

【0083】
このように、結果のファイルは、個々のROI(それぞれが単細胞を表す)におけるシグナル流動を記載する25個のパラメータ、および複数の細胞(典型的にはFOVあたり10〜20個)についての28個のパラメータ(平均データ)を含む。
【0084】
表1の測定の説明は表2に提供されている。
【0085】
【表2】

【0086】
本発明による方法および系は、ソフトウェアに実装することができる。
【0087】
上記のもの以外の他の細胞系および非細胞(化学的および物理的)系、他の画像化系、ならびに他のデータ収集様式が、それらが経時的データを発生させるならば、SALVOによって分析され得ることは留意されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能的に連結した細胞のインビトロ試料において収縮またはCa2+過渡現象を分析するための系であって、
前記細胞を支持するためのマトリックス、
前記細胞を画像化するための画像化手段、
前記収縮またはCa2+過渡現象を表す少なくとも1つのシグナルを放射するためのシグナル伝達手段、
前記細胞の測定視野を構成する少なくとも1つの関心領域(ROI)についての前記画像のデータトレースを保存するための記憶手段であって、データトレースが時間に対する前記収縮またはCa2+過渡現象における変動を表す、記憶手段、
ROIまたは各ROIについてのデータトレースを調べて、収縮またはCa2+過渡現象におけるピークに対応するピークをトレースに含むデータトレースの区画を同定するための手段、
少なくとも1つの過渡ピークを含むROIを、含まれるROIとして選択するための手段、および
収縮またはCa2+過渡ピークを含まないデータトレースの区画を分析して、含まれるROIまたはそれぞれの含まれるROIについての過渡間ノイズを表す第1のパラメータセットを作成するための手段
を含む系。
【請求項2】
前記細胞が心筋細胞である、請求項1に記載の系。
【請求項3】
前記細胞が単層として供給される、請求項1または2のいずれか一項に記載の系。
【請求項4】
前記細胞が不死化心筋細胞である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の系。
【請求項5】
前記シグナルが蛍光分子である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の系。
【請求項6】
前記画像化手段が共焦点顕微鏡である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の系。
【請求項7】
前記細胞が、約500〜1000細胞/mmの密度で培養される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の系。
【請求項8】
ROIまたは各ROIについてのデータトレースを分析して、そのROIについてのデータトレースを表す第2のパラメータセットを作成するための手段を追加として含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の系。
【請求項9】
パラメータセットがそれぞれ、シグナル変動性の測定を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の系。
【請求項10】
過渡ピークを分析して、含まれるROIまたはそれぞれの含まれるROIについての過渡ピークを表す第3のパラメータセットを作成するための手段を追加として含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の系。
【請求項11】
含まれるROIまたはそれぞれの含まれるROIについてのパラメータを別々に出力するための手段を追加として含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の系。
【請求項12】
以下の少なくとも1つを作成するための手段を追加として含む、請求項10に記載の系:
第1のパラメータセットに基づいて過渡間ノイズを表す視野についてのパラメータセット、および
第3のパラメータセットに基づいて過渡ピークを表す視野についてのパラメータセット。
【請求項13】
以下の少なくとも1つを作成するための手段を追加として含む、請求項8に記載の系:
第2のパラメータセットに基づいて含まれるROIについてのデータトレースを表す視野についてのパラメータセット、
第2のパラメータセットに基づいて排除されるROIについてのデータトレースを表す視野についてのパラメータセット、
第2のパラメータセットに基づいて視野における全てのROIについてのデータトレースを表す視野についてのパラメータセット。
【請求項14】
過渡ピークを表す視野についてのパラメータセットが、含まれるROIについての第3のパラメータセットに基づいた、視野にわたる過渡ピーク間の同期性の測定を含む、請求項12に記載の系。
【請求項15】
同期性の測定が、視野にわたる同期する過渡ピークの実際の数と比較した、視野にわたる同期する過渡ピークの可能な総数の指数を計算することによって計算される、請求項14に記載の系。
【請求項16】
ROIまたは各ROIについてのデータトレースを表示するための手段であって、同時に、そのROIについてのデータトレースを調べて、動的現象における過渡事象に対応するピークをトレースに含むデータトレースの区画を同定する、手段を追加として含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の系。
【請求項17】
過渡ピークを分析して第3のパラメータセットを作成することを目的として、合併した過渡ピークを表すピークを捨てるための手段を含む、請求項10に記載の系。
【請求項18】
同期性を計算することを目的として、合併した過渡ピークを表すピークを同定するための手段を含む、請求項14または15に記載の系。
【請求項19】
トレースデータを観察するユーザーがトレースにおいて過渡ピークを選択することを可能にするための手段を含む、請求項16に記載の系。
【請求項20】
第2のパラメータセットがデータトレースについての発振周波数を含む、請求項8に記載の系。
【請求項21】
記憶手段、調べるための手段、選択するための手段、および分析するための手段が、コンピュータプログラムを実行するコンピュータデバイスを含む、請求項1〜20のいずれか一項に記載の系。
【請求項22】
表示するための手段が、コンピュータデバイスに動作可能に接続されたディスプレイスクリーンを含む、請求項16に従属する場合の請求項21に記載の系。
【請求項23】
ユーザーがそれを介して系と相互作用することができるユーザーインターフェースを追加として含む、請求項21または22に記載の系。
【請求項24】
以下の段階を含む機能的に連結した細胞のインビトロ試料において収縮またはCa2+過渡現象を分析するための方法:
マトリックスに支持された細胞を供給する工程であって、前記細胞が、1つまたは複数の前記細胞内のCa2+過渡現象をシグナル伝達するシグナル伝達手段を備えている、工程、
前記Ca2+過渡現象を画像化する工程、
試料の測定視野を構成する少なくとも1つの関心領域(ROI)についての前記画像のデータトレースを保存する工程であって、データトレースが、時間に対する前記収縮またはCa2+過渡現象における変動を表す、工程、
ROIまたは各ROIについてのデータトレースを調べて、収縮またはCa2+過渡現象におけるピークに対応するピークをトレースに含むデータトレースの区画を同定する工程、
少なくとも1つの過渡ピークを含むROIを、含まれるROIとして選択する工程、および
収縮またはCa2+過渡ピークを含まないデータトレースの区画を分析して、含まれるROIまたはそれぞれの含まれるROIについての過渡間ノイズを表す第1のパラメータセットを作成する工程。
【請求項25】
薬物をスクリーニングするのに用い、それに従って、画像化前に前記細胞を試験薬物に曝す工程をさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
実質的に本明細書に記載され、かつ添付の図を参照した系または方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公表番号】特表2012−527882(P2012−527882A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512447(P2012−512447)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001044
【国際公開番号】WO2010/136759
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(501125275)ユニバーシティ カレッジ カーディフ コンサルタンツ リミテッド (5)
【Fターム(参考)】