説明

連続流式二重触媒反応装置を用いてn−ブテンから1,3−ブタジエンを製造する方法

本発明は、固定層反応器に2種の触媒が充填され、2触媒層が物理的に混ぜられないように設計した連続流式二重触媒反応装置を用いて、n−ブテンの酸化的脱水素化反応によって1,3−ブタジエンを製造する方法に関する。さらに具体的には、本発明は、n−ブテンの異性体(1−ブテン、トランス−2−ブテン、シス−2−ブテン)の酸化的脱水素化反応に対して活性が異なる多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒とフェライト系触媒を使用した連続流式二重触媒反応装置を用いて、n−ブテンとn−ブタンの含まれたC4混合物を反応物として、n−ブテンの酸化的脱水素化反応によって1,3−ブタジエンを製造することが可能な方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続流式二重触媒反応装置を用いた1,3−ブタジエンの製造方法に係り、さらに具体的には、n−ブテンの酸化的脱水素化反応においてそれぞれのn−ブテン異性体(1−ブテン、トランス−2−ブテン、シス−2−ブテン)に対して互いに異なる反応活性を示す多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒とフェライト系触媒を製造し、これらの触媒を用いて連続流式二重触媒反応装置を構成して、別途のn−ブタン除去工程またはn−ブテン精製工程なしで、n−ブタンとn−ブテンなどの含まれた低価のC4混合物を反応物として用いて高付加価値の1,3−ブタジエンを製造することが可能な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油化学市場において多くの石油化学製品の中間体として中国を中心に全世界的にその需要と価値が益々増加している1,3−ブタジエンを製造する方法としては、ナフサ分解、n−ブテンの直接脱水素化反応、n−ブテンの酸化的脱水素化反応がある。これらの中でも、ナフサ分解工程は、高い反応温度によりエネルギー消費量が多い。このナフサ分解工程によって、増える1,3−ブタジエンの需要を充足させるためには、新しいナフサ分解装置を新・増設しなければならないが、この工程は、1,3−ブタジエン生産のみのための単独工程ではないため、ナフサ分解装置に対する投資と運営を1,3−ブタジエンの生産需要に最適に合わせることができず、1,3−ブタジエン以外に別の基礎留分が余剰生産されるという問題点があるので好ましくない。よって、1,3−ブタジエン単独生産工程の必要性が台頭している。これに対する代案として研究されていることが、n−ブテンから脱水素化反応によって1,3−ブタジエンを製造する方法である。n−ブテンの脱水素化反応には直接脱水素化反応と酸化的脱水素化反応があるが、これらの中でも、n−ブテンの直接脱水素化反応は反応熱が非常に高い吸熱反応であって、高収率の1,3−ブタジエン生産のために高温および低圧の条件が要求され、熱力学的にも不利であって、1,3−ブタジエンを生産する商用化工程としては適しない[M.A. Chaar, D. Patel, H.H. Kung, J. Catal., volume 109, p463(1988)/E.A. Mamedov, V.C. Corberan, Appl. Catal. A, volume 127, p1(1995)/L.M. Madeira, M.F. Portela, Catal. Rev., volume 44, p247(2002)]。
【0003】
したがって、単独工程でありながらも1,3−ブタジエン市場の状況変化にフレキシブルに対処することができる効果的な代案として、n−ブテンの酸化的脱水素化反応の重要性が益々台頭してきている。n−ブテンの酸化的脱水素化反応は、n−ブテンと酸素とが反応して1,3−ブタジエンと水を生成する反応であって、生成物として安定な水が生成されるので、熱力学的に非常に有利である。また、n−ブテンの酸化的脱水素化反応は、n−ブテンの直接脱水素化反応とは異なり発熱反応なので、直接脱水素化反応に比べて低い反応温度でも高収率の1,3−ブタジエンを得ることができ、追加の熱供給が不要なので、商用化工程には非常に向いている。よって、n−ブテンの酸化的脱水素化反応を用いて1,3−ブタジエンを生産する工程は、増える1,3−ブタジエンの需要を充足させることができる効果的な単独生産工程になれる。特に、n−ブタンなどの不純物を含むC4混合物を反応物として用いても高収率の1,3−ブタジエンを得ることが可能な触媒を開発し、n−ブテンの供給源としてn−ブタンなどの不純物を含むC4ラフィネート−3またはC4混合物を別途のn−ブテン分離工程なしで反応物として直接活用することができれば、低価の余剰C4留分の高付加価値化を遂げることができるという利点がある。
【0004】
前述したように、n−ブテン(1−ブテン、トランス−2−ブテン、シス−2−ブテン)の酸化的脱水素化反応は、n−ブテンと酸素とが反応して1,3−ブタジエンと水を生成する反応であって、1,3−ブタジエンを生産する他の工程に比べて多くの利点を持っており、1,3−ブタジエンを単独で製造することができる効果的な代案であるが、それにも拘らず、前記反応では、酸素を反応物として用いるため、完全酸化反応などの多くの副反応が予想される。よって、適切な酸化能力の調節によって高い活性を維持しながらもこのような副反応を最大限抑制する、1,3−ブタジエン選択度の高い触媒を開発することが最も重要な核心技術である。
【0005】
これまで知られているn−ブテンの酸化的脱水素化反応に用いられる触媒としては、モリブデン酸ビスマス系触媒[A.C.A.M. Bleijenberg, B.C. Lippens, G.C.A. Schuit, J. Catal., volume 4, p581(1965)/Ph.A. Batist, B.C. Lippens, G.C.A. Schuit, J. Catal., volume 5, p55(1966)/M.W.J. Wolfs, Ph.A. Batist, J. Catal., volume 32, p25(1974)/W.J. Linn, A.W. Sleight, J. Catal., volume 41, p134(1976)/W. Ueda, K. Asakawa, C.-L. Chen, Y. Moro-oka, T. Ikawa, J. Catal., volume 101, p360(1986)/J.C. Jung, H. Kim, A.S. Choi, Y.-M. Chung, T.J. Kim, S.J. Lee, S.-H. Oh, I.K. Song, J. Mol. Catal. A, volume 259, p166(2006)/Y. Moro-oka, W. Ueda, Adv. Catal., volume 40, p233(1994)/R.K. Grasselli, Handbook of Heterogeneous Catalysis, volume 5, p2302(1997)]、フェライト系触媒[R.J. Rennard, W.L. Kehl, J. Catal., volume 21, p282(1971)/W.R. Cares, J.W. Hightower, J. Catal., volume 23, p193(1971)/M.A. Gibson, J.W. Hightower, J. Catal., volume 41, p420(1976)/H.H. Kung, M.C. Kung, Adv. Catal., volume 33, p159(1985)/J.A. Toledo, M.A. Valenzuela, H. Armendariz, G.Aguilar-Rios, B. Zapzta, A. Montoya, N. Nava, P. Salas, I. Schifter, Catal. Lett., volume 30, p279(1995)]、錫系触媒[Y.M. Bakshi, R.N. Gur’yanova, A.M. Mal’yan, A.I. Gel’bshtein, Petroleum Chemistry U.S.S.R., volume 7, p177(1967)]などがある。
【0006】
n−ブテンの酸化的脱水素化反応の反応メカニズムは、未だ正確には解明されていないが、第1段階として、n−ブテンからC−H結合を断つと同時に触媒自体の酸化−還元反応が起こると知られており、これにより様々な酸化状態を有する金属イオンを含む特定の結晶構造を持つ複合酸化物形態の触媒が酸化的脱水素化反応に使用できる[W.R. Cares, J.W. Hightower, J. Catal., volume 23, p193(1971)]。したがって、前記触媒はいずれも特定の結晶構造を持つ複合酸化物形態の触媒であり、これらの中でも、モリブデン酸ビスマス系触媒とフェライト系触媒がn−ブテンの酸化的脱水素化反応に高い活性を示すものと報告された[F.-Y. Qiu, L.-T. Weng, E. Sham, P. Ruiz, B. Delmon, Appl. Catal., volume 51, p235(1989)/B. Grzybowska, J. Haber, J. Komorek, J. Catal., volume 25, p25(1972)/J.C. Jung, H. Kim, Y.S. Kim, Y.-M. Chung, T.J. Kim, S.J. Lee, S.-H. Oh, I.K. Song, Appl. Catal. A, volume 317, p244(2007)]。
【0007】
n−ブテンの酸化的脱水素化反応に使用される前記複合酸化物触媒の中でも、モリブデン酸ビスマス系触媒には、ビスマスとモリブデン酸化物のみからなる純粋なモリブデン酸ビスマス系触媒と、多様な金属成分の追加された多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒がある。純粋なモリブデン酸ビスマス系触媒は、製造条件に応じて多様な相として存在するが、α−モリブデン酸ビスマス(BiMo12)、β−モリブデン酸ビスマス(BiMo)、およびγ−モリブデン酸ビスマス(BiMoO)の3相が触媒として活用可能であると知られている[B. Grzybowska, J. Haber, J. Komorek, J. Catal., volume 25, p25(1972)/A.P.V. Soares, L.K. Kimitrov, M.C.A. Oliveira, L. Hilaire, M.F. Portela, R.K. Grasselli, Appl. Catal. A, volume 253, p191(2003)/J.C. Jung, H. Kim, A.S. Choi, Y.-M. Chung, T.J. Kim, S.J. Lee, S.-H. Oh, I.K. Song, Catal. Commun., volume 8, p625(2007)]。ところが、純粋なモリブデン酸ビスマス触媒上でn−ブテンの酸化的脱水素化反応によって1,3−ブタジエンを製造する工程は、1,3−ブタジエンの収率を高めるのに限界があって商用化工程には向いていない[Y. Moro-oka, W. Ueda, Adv. Catal., volume 40, p233(1994)]。これに対する代案として、モリブデン酸ビスマス触媒のn−ブテンの酸化的脱水素化反応に対する活性を増加させるために、ビスマスとモリブデン以外の多様な金属成分が追加された多成分系モリブデン酸ビスマス触媒に対する研究が行われた[M.W.J. Wolfs. Ph.A. Batist. J. Catal., volume 32, P25(1974)/S. Takenaka, A. Iwamoto, U.S. Patent No. 3,764,632(1973)]。
【0008】
幾つかの特許および文献には、n−ブテンの酸化的脱水素化反応のための多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒について報告されている。具体的には、ニッケル、セシウム、ビスマスおよびモリブデンからなる複合酸化物触媒を用いて520℃で1−ブテンの酸化的脱水素化反応を行って69%の1,3−ブタジエン収率を得たことが報告されており[M.W.J. Wolfs, Ph.A. Batist, J. Catal., volume 32, p25(1974)]、コバルト、鉄、ビスマス、マグネシウム、カリウムおよびモリブデンからなる複合酸化物触媒を用いて、n−ブタンおよびn−ブテンを含むC4混合物の酸化的脱水素化反応を470℃で行って最高62%の1,3−ブタジエン収率を得たことが報告されており[S. Takenaka, H. Shimizu, A. Iwamoto, Y. Kuroda, U.S. Patent No. 3,998,867(1976)]、ニッケル、コバルト、鉄、ビスマス、リン、カリウムおよびモリブデンからなる複合酸化物触媒を用いて320℃で1−ブテンの酸化的脱水素化反応を行って最高96%の1,3−ブタジエン収率を得たことが報告されている[S. Takanaka, A. Iwamoto, U.S. Patent No. 3,764,632(1973)]。
【0009】
これらの文献に明示された多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒を用いて1,3−ブタジエンを製造する工程は、n−ブテン異性体のうち比較的反応活性の高い1−ブテンのみを反応物として用いて高収率の1,3−ブタジエンを得るか、あるいはn−ブタンおよびn−ブテンを含むC4混合物を反応物として用いる場合には6種以上の金属成分が任意の割合で組み合わせられた非常に複雑な多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒を使用している。すなわち、触媒活性を高めるために持続的に追加的な金属成分が添加されることにより、触媒構成成分および触媒製造経路が複雑であって触媒製造の再現性の確保が難しいという欠点がある。
【0010】
一方、前記複合酸化物触媒のうち、モリブデン酸ビスマス系触媒以外に、n−ブテンの酸化的脱水素化反応に活性が高いものと知られているフェライト系触媒は、常温でスピネル構造を有するが、具体的には、AFe(A=Zn、Mg、Mn、Co、Cuなど)の化学式を有し、Oが立方結晶を成し、O粒子間の空いたサイトの一部にAとFeが結合している結晶構造を有する[S. Bid, S.K. Pradhan, Mater. Chem. Phys., volume 82, p27(2003)]。このようなスピネル結晶構造を有するフェライトにおいて2価と3価の2種の酸化数状態を持つことが可能な鉄イオンの酸化/還元と結晶内の酸素イオン、気相酸素の相互作用によってn−ブテンから1,3−ブタジエンを製造する酸化的脱水素化反応に触媒として活用可能なものと知られている[M.A. Gibson, J.W. Hightower, J. Catal., volume 41, p420(1976)/R.J. Rennard, W.L. Kehl, J. Catal., volume 21, p282(1971)]。
【0011】
n−ブテンの酸化的脱水素化反応に関連して幾つかの特許および文献には、フェライト系触媒の活用について報告されている。具体的には、共沈法によって作られた純粋なスピネル相として存在する亜鉛フェライト触媒を用いて2−ブテンの酸化的脱水素化反応を行って375℃で41%の1,3−ブタジエン収率を得たことが報告されており[R.J. Rennard, W.L. Kehl, J. Catal., volume 21, p282(1971)]、5mol%(5mol%酸素、90mol%ヘリウム)の1−ブテンを反応物として亜鉛フェライト触媒を用いて420℃で21%の1,3−ブタジエン収率を得たことが報告されており[J.A. Toledo, P.Bosch, M.A. Valenzuela, A. Montoya, N. Nava, J. Mol. Catal. A, volume 125, p53(1997)]、マグネシウムフェライト触媒を用いて1−ブテン(1−ブテン:酸素:水:ヘリウム=2:4:20:38)の酸化的脱水素化反応を行って450℃で47%の1,3−ブタジエンを得たことが報告されている[B.L. Yang, D.S. Cheng, S.B. Lee, Appl. Catal. volume 75, p161(1991)]。また、酸化的脱水素化反応にフェライト系触媒を活用する方法において、触媒に添加剤を処理するなどの前処理および後処理を行い、あるいは他の金属酸化物を物理的に混合して助触媒としての機能を果たすようにして、n−ブテンの酸化的脱水素化反応に対する活性を増加させることもあった[F.Y. Qiu, L.-T. Weng, E. Sham, P. Ruiz, B. Delmon, Appl. Catal., volume 51, p235(1989)/L.J. Crose, L. Bajars, M. Gabliks, U.S. Patent No.3,743,683(1973)/J.R. Baker, U.S. Patent No. 3,951,869(1976)/W.-Q. Xu, Y.-G. Yin, G.-Y. Li, S. Chen, Appl. Catal. A, volume 89, p131(1992)]。
【0012】
これらの文献に明示された前処理、後処理、物理的混合による触媒製造法など、触媒の焼成後の処理過程によるフェライト系触媒の活性増進方法以外にも、触媒自体の活性を増加させるための試みとして、フェライトの2価陽イオンを有する金属成分または3価陽イオンを有する金属成分としての鉄を他の金属で一部置換して多成分系フェライト触媒を製造することにより触媒活性を増進させる方法が文献に報告されている。特に、3価陽イオンを有する金属成分としての鉄をクロムまたはアルミニウムで一部置換した触媒を使用する場合、触媒活性が増加すると文献に報告されている[J.A. Toledo, P. Bosch, M.A. Valenzuela, A. Montoya, N. Nova, J. Mol. Catal. A, volume 125, p53(1997)/R.J. Rennard Jr., R.A. Innes, H.E. Swift, J. Catal., volume 30, p128(1973)/B.L. Yang, D.S. Cheng, S.B. Lee, Appl. Catal. volume 70, p161(1991)]。
【0013】
前記酸化的脱水素化反応に使用されるフェライト系触媒に対する文献および特許に報告された触媒は、単相のフェライト触媒、あるいはこれを中心成分として他の金属酸化物が助触媒として作用する触媒、あるいは多成分系のフェライト触媒であって、主に共沈によって製造される。共沈によるフェライト触媒の製造方法は、文献によって多少異なるが、2価陽イオンを成す金属の前駆体および鉄前駆体の水溶液を過量の塩基性水溶液に添加することにより合成する方法が代表的である[L.J. Crose, L. Bajars, M. Gabliks, U.S. Patent No. 3,743, 683(1973)/J.R. Baker, U.S.Patent No. 3,951,869(1976)]。
【0014】
n−ブテンの酸化的脱水素化反応を行う際に、フェライト系触媒を用いた1,3−ブタジエン製造工程において、純粋な単相のフェライト触媒は多成分系フェライト触媒に比べてその活性が比較的低下する[J.A. Toledo, P. Bosch, M.A. Valenzuela, A. Monotoya, N. Nava, J. Mol. Catal. A, volume 125, p53(1997)/R.J. Rennard Jr., R.A. Innes, H.E. Swift, J. Catal., volume 30, p128(1973)]。ところが、金属の一部が置換されたフェライト触媒または多成分系フェライト触媒を使用すると、既存の純粋な単相の触媒より高収率で1,3−ブタジエンを得ることができるが、触媒の製造において再現性の確保が難しいため、商業化工程のための触媒としては適用することが難しい。また、本発明で使用する反応物としてのC4混合物は、n−ブテンの酸化的脱水素化反応において触媒の活性を低下させるものと知られているn−ブタン以外にも[L.M. Welch, L.J. Croce, H.F. Christmann, Hydrocarbon Processing, p131(1978)]、多様な成分が含まれているので、触媒の構成成分が多様な前記多成分系フェライト触媒では多様な触媒成分による副反応が起こるおそれがあるという欠点がある。
【0015】
これにより、本発明者は、複雑な成分を有するあるいは複雑な処理工程を経ることなく、触媒製造の再現性に優れると共にn−ブテンの酸化的脱水素化反応への活性が高い4種の金属成分のみからなる多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒、および単相の亜鉛フェライト触媒を製造することが可能な技法を新規開発した。しかも、このようなモリブデン酸触媒とフェライト触媒の相異なる反応活性に起因した相乗作用を用いて1,3−ブタジエン収率を極大化しようとする試みは未だ報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明者は、前述した従来の技術の限界を克服するために持続的に研究を行った結果、複雑な成分を有する触媒を製造するあるいは複雑な処理工程を経ることなく、触媒製造の再現性に優れると共にn−ブテンの酸化的脱水素化反応への活性が高い、4種の金属成分のみからなる多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒および単相の亜鉛フェライト触媒を製造することが可能な技法を確立した。ひいては、前記新規に製造されたフェライトおよび多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒がn−ブテンの酸化的脱水素化反応において互いに異なる特徴を示すことを観察したが、具体的には、n−ブテンの酸化的脱水素化反応において、フェライト系触媒はn−ブテンの異性体のうち2−ブテンに対する反応活性が1−ブテンに対する反応活性に比べてさらに高く、多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒はフェライト系触媒とは異なり、1−ブテンに対する酸化的脱水素化反応活性がさらに高いことを観察した。本発明で使用されるC4混合物は大部分がn−ブタンとn−ブテンから構成されており、n−ブテンは3つの異性体(1−ブテン、トランス−2−ブテン、シス−2−ブテン)を含んでいるので、本発明者は、2−ブテンに対する反応活性の良いフェライト系触媒と1−ブテンに対する反応活性の良い多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒の相乗作用を用いて、n−ブテンの異性体全てに高い活性を示す触媒反応工程を開発しようとした。このため、前記2種の触媒を用いて連続流式触媒反応装置に適用し、本発明に至ることになった。
【0017】
したがって、本発明の目的は、n−ブテンの異性体に対して互いに異なる反応特徴を有する2系列の触媒を同時に用いて別途のn−ブタンの分離工程またはn−ブテンの抽出工程なしでC4混合物を反応物として直接用いて1,3−ブタジエン収率を高めることができるように、連続流式二重触媒反応装置を用いた1,3−ブタジエンの製造方法を提供することにある。
【0018】
本発明の他の目的は、n−ブテンの異性体に対して互い異なる反応特徴を有する触媒であって、前記1,3−ブタジエン製造用連続流式二重触媒反応装置に充填される、4種の金属成分からなる多成分系モリブデン酸ビスマス触媒および純粋な単相の亜鉛フェライト触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明は、a)反応器に触媒固定層として、モリブデン酸ビスマス系第1触媒およびフェライト系第2触媒が、石英層によって分離された層状構造を成すように充填される段階と、b)n−ブテンを含むC4混合物、空気およびスチームを含有する反応物を前記反応器の触媒層に連続的に通過させながら酸化的−脱水素化反応を行う段階と、c)1,3−ブタジエンを得る段階とを含んでなる、連続流式二重触媒反応装置を用いた1,3−ブタジエンの製造方法を提供する。
【0020】
前記第1触媒は、a1)マンガン、コバルト、およびニッケルよりなる群から選ばれた、2価陽イオンを有する金属の前駆体、鉄の前駆体およびビスマス前駆体を含む第1溶液を準備する段階と、b1)モリブデン前駆体を溶解させた第2溶液を準備する段階と、c1)前記第2溶液に前記第1溶液を滴加して共沈させる段階と、d1)前記共沈溶液を1〜2時間攪拌させた後、水分を除去して固体成分を得る段階と、e1)前記固体成分を150〜200℃で乾燥させた後、400〜600℃で熱処理する段階とを含んで製造される。
【0021】
前記第2触媒は、a2)亜鉛前駆体および鉄前駆体を蒸留水に溶解させる段階と、b2)前記前駆体水溶液に1.5〜4.0モル濃度の水酸化ナトリウム溶液を混合させながら共沈溶液のpH範囲を6〜10に調節する段階と、c2)前記pHの調節された混合溶液を濾過して固体触媒を得る段階と、d2)前記固体触媒を70〜200℃で乾燥させる段階と、e2)前記乾燥した触媒を350〜800℃で熱処理する段階とを含んで製造される。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、n−ブテンの酸化的脱水素化反応に高い活性を示す1,3−ブタジエン製造用触媒として、4種の金属成分のみからなる多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒、およびpHの調節された溶液上で共沈させた亜鉛フェライト触媒を製造し、これら2種の触媒を用いて連続流式二重触媒反応装置を構成して、前記2種の触媒の相異なる反応特徴を融合することにより、n−ブテンの酸化的脱水素化反応に対する活性を極大化して高収率の1,3−ブタジエンを得ることができる。本発明に係る連続流式二重触媒反応装置は、追加的な新規反応装置の導入または既存工程の変化なしで、既存の石油化学産業で使用されている触媒反応装置をそのまま使用しながら単に2種の触媒の物理的な分離によってのみ高収率の1,3−ブタジエンを得ることができるため、直ちに商用化工程への適用が可能であるという利点がある。
【0023】
また、本発明に係る連続流式二重触媒反応装置を用いて、別途のn−ブタン除去工程またはn−ブテン分離工程なしで、高い含量のn−ブタンを含むC4混合物を反応物として直接用いてC4混合物内のn−ブテンの酸化的脱水素化反応によって1,3−ブタジエンを製造することが可能である。
【0024】
本発明に係る触媒工程は、既存のナフサ分解工程による1,3−ブタジエン生産工程とは異なり、n−ブテンの酸化的脱水素化反応を用いた1,3−ブタジエン単独生産工程なので、増える1,3−ブタジエンの需要変化に応じる能動的な対処が可能であって市場の需要による最適化生産が可能であるという利点がある。また、石油化学産業で活用価値の少ないC4混合物またはC4ラフィネート−3から活用価値の高い1,3−ブタジエンを直接製造することにより、低価のC4留分の高付加価値化を成し遂げることができるため、石油活用度の側面で、すなわちエネルギーの側面においても多くの利点を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は本発明の製造例1に係る多成分系モリブデン酸ビスマス触媒のX線回折分析結果を示すグラフである。
【図2】図2は本発明の製造例3に係る亜鉛フェライト触媒のX線回折分析結果を示すグラフである。
【図3】図3は本発明に係る実施例1、実施例2および比較例3の反応結果を比較して示す。
【図4】図4は本発明の実施例1および実施例2に係る触媒反応器でn−ブテン異性体に対する反応活性の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明をより具体的に説明する。
【0027】
前述したように、本発明は、n−ブテンの酸化的脱水素化反応において従来の技術に比べて構成成分と合成経路が簡単であって触媒製造の再現性に優れた多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒およびフェライト系触媒を共沈法によって製造し、製造された触媒を用いて連続流式二重触媒反応装置を構成し、これに用いてn−ブテンの酸化的脱水素化反応を行って1,3−ブタジエンを製造する方法に関するもので、別途のn−ブタン除去工程またはn−ブテン分離工程を経ていない、n−ブタンを高い含量で含んでいるC4混合物を反応物として用いて、高収率の1,3−ブタジエンを得る方法を提供する。
【0028】
前記1,3−ブタジエン製造用連続流式二重触媒反応装置は、既存の触媒反応装置をそのまま使用しながら充填方式だけを変えて連続流式二重触媒反応装置への構成が可能であって、特別な工程追加なしで、既存の商用工程に直ちに適用することができるので、前記反応器内の触媒固定層として、多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒からなる第1触媒と、フェライト系からなる第2触媒とが層状構造を成し、2系列の触媒は既存の固定層反応器に一緒に充填されるが、本反応に何の活性も示さず且つ高温でも非常に安定な物質として知られている石英層によって単に物理的に分離され、それぞれ独立的な触媒層を成す。
【0029】
具体的に、本発明において、C4混合物とは、ナフサ分解によって生産されたC4混合物から有用な化合物を分離して残った低価のC4ラフィネート−3を意味し、前記C4ラフィネート−3は、大部分が2−ブテン(トランス−2−ブテンおよびシス−2−ブテン)、n−ブタンおよび1−ブテンからなるC4混合物である。
【0030】
n−ブテンの酸化的脱水素化反応において高収率で1,3−ブタジエンを得るための本発明の連続流式二重触媒反応装置に充填される1,3−ブタジエン製造用触媒としては、上述したように、4種の金属成分からなる多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒(第1触媒)と、純粋な単相の亜鉛フェライト触媒(第2触媒)が使用される。
【0031】
上述したように、前記第1触媒は、4種の金属成分からなる多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒であって、2価陽イオンを有する金属成分、3価陽イオンを有する金属成分、ビスマスおよびモリブデンを構成成分として有し、構成成分の種類およびその比によって多様な多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒の製造が可能である。前記2価陽イオンを有する金属成分としては、好ましくはマンガン、コバルトおよびニッケルが使用され、最も好ましくはコバルトが使用されるが、本発明の一実施例によれば、コバルト、鉄、ビスマスおよびモリブデンからなる多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒を使用した場合がn−ブテンの酸化的脱水素化反応に最も高い活性を示した。
【0032】
一方、多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒の製造のための金属前駆体は、通常、当該分野で使用されるものであればいずれでも使用可能であるが、本発明では、コバルトの前駆体としては硝酸コバルト(Cobalt Nitrate)、鉄の前駆体としては硝酸鉄(Iron Nitrate)、ビスマスの前駆体としては硝酸ビスマス(Bismuth Nitrate)、モリブデンの前駆体としてはモリブデン酸アンモニウム(Ammonium Molybdate)を使用した。前記前駆体の比は多様に変化して多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒が製造可能であるが、本発明で実現しようとする連続流式二重触媒反応装置を用いた1,3−ブタジエンの収率を極大化するために、コバルト/鉄/モリブデン前駆体の比を1〜10/1〜5/0.1〜2/5〜20、好ましくは9/3/1/12に調節した。
【0033】
前記コバルト、鉄、ビスマス前駆体を同時に蒸留水に溶解させ、モリブデン前駆体を別途に蒸留水に溶解させた後、互いに混合するが、この際、前駆体に応じて溶解度を増加させるために酸性溶液(例えば、硝酸)などを添加することもある。前駆体が完全に溶解すると、コバルト、鉄、ビスマスの含まれた前駆体溶液をモリブデンの含まれた前駆体溶液に注入させて金属成分を共沈させる。共沈した溶液は、共沈が十分行われるように0.5〜24時間、好ましくは1〜2時間攪拌させる。攪拌させた溶液から真空または遠心濃縮器を用いて水分およびその他の液体成分を除去して固体成分の試料を得る。得られた固体試料は20〜300℃、好ましくは150〜200℃で24時間乾燥させる。こうして生成された固体触媒を電気炉に入れた後、300〜800℃、好ましくは400〜600℃、さらに好ましくは450〜500℃の温度を維持して熱処理することにより、多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒を製造した。
【0034】
一方、n−ブテンの酸化的脱水素化反応において高収率で1,3−ブタジエンを得るための第2触媒としての亜鉛フェライト触媒は、単相の亜鉛フェライト触媒であって、触媒の製造条件によって触媒の特性が変わり、それにより触媒活性が変わる。本発明者は、微細なpH調節によってn−ブテンの酸化的脱水素化反応に高い活性を示す亜鉛フェライト触媒を製造し、共沈の際に共沈溶液のpHによって亜鉛フェライト触媒のn−ブテンの酸化的脱水素化反応の活性が変わることを発見した。すなわち、前記第2触媒は亜鉛前駆体と鉄前駆体の共沈の際にpHの範囲を6〜10の範囲に調節する場合、酸化的脱水素化反応の活性に優れるうえ、共沈溶液のpHを9に調節する場合が最も好ましかった。前記pHと関連して、pHを6未満に調節する場合、1,3−ブタジエン選択度が低下するものと知られているα−酸化鉄(α−Fe)(III)が形成され、pHを10超過に調節する場合、反応活性が低調であって収率が高くないので好ましくない。前記亜鉛フェライト触媒を製造するための亜鉛前駆体および鉄前駆体は、通常使用される前駆体であればいずれでも使用可能であるが、一般に塩化物(Chloride)前駆体または硝酸塩(Nitrate)前駆体を使用し、本発明では亜鉛および鉄の前駆体として塩化亜鉛と塩化鉄を使用した。
【0035】
前記亜鉛前駆体および鉄前駆体は、鉄/亜鉛の原子数比値は1.5〜2.5、好ましくは2となるように2種の前駆体の量を調節してそれぞれ蒸留水に溶解させた後、一緒に混合するが、前記鉄/亜鉛の原子数比が1.5〜2.5の範囲を外れる場合には、亜鉛が鉄格子内に入り込み難くなり、あるいは触媒の活性が非常に低くなる。一方、亜鉛フェライトを共沈させるために1.5〜4.0モル濃度、好ましくは3モル濃度の水酸化ナトリウム水溶液を別途製造する。前記塩基性溶液の濃度が1.5モル未満であれば、フェライト構造が形成され難く、前記塩基性溶液の濃度が4モル超過であれば、洗浄の際に水酸基と結合したNaイオンの除去が難しく、これにより活性低下が現れる。
【0036】
亜鉛前駆体および鉄前駆体から亜鉛フェライトを得るために、蒸留水媒質にシリンジを用いて前駆体水溶液を注入するが、この際、製造した塩基性溶液をpHが一定に保たれるように速度を調節しながら一緒に注入して共沈溶液のpHを6〜10、好ましくは9に維持させ、共沈が十分行われるように2〜12時間、好ましくは6〜12時間攪拌させる。攪拌させた共沈溶液は固体触媒が沈殿するように十分な時間分離させ、減圧濾過器などを介して、沈殿した固体試料を得る。得られた固体試料は70〜200℃、好ましくは120〜180℃で16時間乾燥させ、乾燥した触媒を電気炉に入れた後、350〜800℃、好ましくは500〜700℃の温度で熱処理して純粋な単相の亜鉛フェライト触媒を製造した。
【0037】
本発明によれば、n−ブテンの酸化的脱水素化反応は、反応物としてのn−ブテンが触媒に吸着した後、触媒格子内の酸素が、吸着したn−ブテンの2つの水素と反応して1,3−ブタジエンと水を生成し、反応物としての分子酸素が触媒格子の酸素空孔のサイトを充填する経路で反応が行われる。よって、触媒のn−ブテン吸着によってn−ブテンを活性化させることが可能なサイトと触媒内格子酸素の性格が反応活性に影響を及ぼし、それぞれ異なる結晶構造を有する多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒とフェライト系触媒は、n−ブテンを吸着させ活性化させることが可能なサイトと触媒内格子酸素の特性が互いに異なってn−ブテンの酸化的脱水素化反応に対する触媒活性特徴が互いに異なり得ることを容易に予想することができる。特に、本発明の実施例によれば、多成分系モリブデン酸ビスマス触媒と亜鉛フェライト触媒は、n−ブテンの異性体に対してそれぞれ異なる触媒活性を示すが、具体的には、多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒の場合、n−ブテン異性体のうち1−ブテンに対する反応活性が良くてC4混合物内の1−ブテンの含量が多いほど酸化的脱水素化反応に対する活性が高いだろうと予想され、亜鉛フェライト触媒の場合、n−ブテン異性体のうち2−ブテンに対する反応活性が1−ブテンより良くて1−ブテンと2−ブテンが同時に存在するC4混合物を反応物として用いる場合、2−ブテンに対する酸化的脱水素化反応が優勢であった。よって、本発明者は、n−ブテン異性体に対して互いに反対の特性を持つ2種の触媒を同時に用いると、C4混合物内のn−ブテンの酸化的脱水素化反応への活性を極大化することができるものと予想し、本発明の実施例によって2種の触媒の利点を全て生かすことが可能な連続流式二重触媒反応装置を用いて高収率で1,3−ブタジエンを製造することができた。
【0038】
多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒とフェライト系触媒の相乗効果を得るための反応装置の構成方式は、2つに大別される。その一つは、2種の触媒を機械的に混合して単一反応層でn−ブテンの酸化的脱水素化反応を行うことであり、もう一つは、2種の触媒を連続流式二重触媒反応層に物理的に分離して充填した後、n−ブテンの酸化的脱水素化反応を行うことである。ところが、本発明の実施例によって2種の触媒を物理的に混合することは、本発明の目的のために好ましくないことを発見した。よって、本発明の目的を達成するための触媒反応装置は、多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒とフェライト系触媒が物理的に分離されて独立的な触媒層を成す連続流式二重触媒反応装置が適し、このような事実は本発明の実施例によって立証された。
【0039】
連続流式二重触媒反応装置を構成する方式は、2種の触媒の充填順序によって2つに分けられる。すなわち、フェライト系触媒によってn−ブテンの酸化的脱水素化反応が先行し、しかる後に、多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒によって本反応が行われる方法と、これとは逆に、多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒によって本反応が先行し、しかる後に、フェライト系触媒によって反応が連続的に行われる方法がある。前記両方の方法はいずれも、連続流式二重触媒反応装置を用いて、n−ブテンの酸化的脱水素化反応において前記2種の触媒の相乗効果によって1,3−ブタジエンの収率を高めることができるものと期待されるが、n−ブテンの異性体(1−ブテン、トランス−2−ブテン、シス−2−ブテン)の含量によって好適な方法が異なるものと判断される。本発明では、フェライト系触媒によるn−ブテンの酸化的脱水素化反応を先行する連続流式二重触媒反応装置がさらに適するものと観察された。これは本発明で反応物として用いたC4混合物内には2−ブテンの含量が1−ブテンの含量より多かったためであると判断される。通常、石油化学産業において1−ブテンの活用価値が2−ブテンより多く、それにより本反応に活用可能な大部分のC4混合物は2−ブテンを1−ブテンより多く含有している。よって、フェライト系触媒によるn−ブテンの酸化的脱水素化反応が先行し、しかる後に、多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒によって本反応が行われることが一般に一層好ましいだろうと思われる。このような事実は本発明の実施例によって立証された。ところが、本発明で実現しようとする連続流式二重触媒反応装置を構成するにおいて、触媒充填順序が前述の方法に限定されず、反応物内のn−ブテン異性体の含量によって触媒充填順序は変わり得る。
【0040】
本発明の実験例による連続流式二重触媒反応装置の構成方法は、反応装置を追加するあるいは反応器を変更することなく容易に適用可能な方法であって、反応物との接触順序に対して亜鉛フェライト触媒、粉砕して粉末状にした石英、多成分系モリブデン酸ビスマス触媒を順次反応器に充填することだけで多成分系モリブデン酸ビスマス層と亜鉛フェライト触媒層が物理的に分離された連続流式二重触媒反応装置を構成することが可能な方法である。前記2種の触媒は中間の石英層によって互いに分離され、石英は非常に安定して高温でもC4混合物と反応しないため、前記2種の触媒を物理的に分離するのに適した物質として思われる。ところが、本発明で実現しようとする目的を達成するために、連続流式二重触媒反応装置を構成するにおいて、前記2種の触媒層の分離のために必ず石英を使用する必要はなく、単に前記2種の触媒層を物理的に互いに分離するための目的なので、本反応に影響を及ぼさないいずれの物質あるいは装置を用いても構わない。
【0041】
次に、本発明は、前記多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒とフェライト系触媒を用いた連続流式二重触媒反応装置による酸化的脱水素化反応を介して、n−ブテンの供給源として、別途のn−ブタン除去工程およびn−ブテン分離工程を行っていない、高含量のn−ブタンを含むC4混合物またはC4ラフィネート−3を用いて、1,3−ブタジエンを製造する方法を提供する。
【0042】
本発明の実験例によれば、触媒反応のために線形パイレックス(登録商標)反応器に反応物との接触順序に対してフェライト触媒、石英、多成分系モリブデン酸ビスマス触媒を順次充填し、反応器を電気炉内に設置して反応温度を一定に維持し、反応物が反応器内の触媒層を連続的に通過しながら反応が行われるようにした。反応温度は300〜600℃、好ましくは350〜500℃、さらに好ましくは420℃を維持しながら反応を行った。n−ブテンを基準にして空間速度(GHSV:Gas Hourly Space Velocity)が50〜5000h−1、好ましくは100〜1000−1、さらに好ましくは150〜500h−1となるように触媒の量を設定した。反応物としてはC4混合物、空気およびスチームを使用し、注入されるn−ブテン:空気:スチームの比率は1:0.5〜10:1〜50、好ましくは1:3〜4:10〜30に設定した。本発明において、n−ブテンの供給源であるC4混合物またはC4ラフィネート−3の量、および別の反応物である空気の量は質量流速調節器を用いて精密に調節した。また、スチームを注入するために液状の水を注射器ポンプを用いて注入しながら気化させて反応器に供給されるようにした。液状の水が注入される部分の温度を150〜300℃、好ましくは180〜250℃に維持し、シリジンポンプによって注入される水を直ちにスチームに気化させることにより別の反応物(C4混合物および空気)と完全に混合されて触媒層を通過するようにした。
【0043】
本発明の触媒上で反応する反応物のうち、C4混合物は0.5〜50重量%のn−ブタン、40〜99重量%のn−ブテンおよび0.5〜10重量%のその他のC4混合物を含む。前記その他のC4混合物は、例えばイソブタン、シクロブタン、メチルシクロプロパン、イソブテンなどを意味する。
【0044】
本発明に係る連続流式二重触媒反応装置を用いて、フェライト系触媒と多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒を同時に使用すると、n−ブタンおよびn−ブテンを含んでいる低価のC4混合物またはC4ラフィネート−3を反応物として用いても、n−ブテンの酸化的脱水素化反応によって高収率の1,3−ブタジエンを生産することができる。よって、本発明の連続流式二重触媒反応装置を介して、別途のn−ブタン除去工程なしで、20重量%以上の高濃度のn−ブタンが含まれたC4混合物を反応物として直接用いても高いn−ブテン転換率と高い1,3−ブタジエン選択度を得ることができる。
【0045】
また、本発明は、フェライト系触媒と多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒を石英層で分離して充填させることさえすれば、従来の技術に適用されている触媒反応装置を変更することなく、そのまま連続流式二重触媒反応装置として使用することができるので、商用化工程に直接容易に適用することができるという利点がある。
[発明を実施するための形態]
【0046】
以下、製造例、実験例および実施例によって本発明をより具体的に説明する。ところが、本発明の範疇はこれらに限定されない。
【0047】
製造例1
多成分系モリブデン酸ビスマス(CoFeBiMo1251)触媒の製造
コバルトの前駆体としては硝酸コバルト6水和物(Co(NO・6HO)を使用し、鉄の前駆体としては硝酸鉄9水和物(Fe(NO・9HO)、ビスマスの前駆体としては硝酸ビスマス5水和物(Bi(NO・5HO)、モリブデンの前駆体としてはモリブデン酸アンモニウム4水和物((NHMo24・4HO)を使用した。他の金属前駆体は蒸留水によく溶解するが、硝酸ビスマス5水和物は強い酸性溶液でよく溶解するので、蒸留水に硝酸溶液を添加して硝酸ビスマス5水和物を別途に溶解させた。
【0048】
多成分系モリブデン酸ビスマス触媒の製造のために、コバルト:鉄:ビスマス:モリブデンのモル比を9:3:1:12に固定して触媒を製造した。硝酸 コバルト6水和物(Co(NO・6HO)7.94gと硝酸鉄9水和物(Fe(NO・9HO)3.66gを蒸留水(50mL)に溶かして攪拌し、これとは別途に1.47gの硝酸ビスマス5水和物(Bi(NO・5HO)を硝酸3mLの添加された蒸留水(15mL)に入れて攪拌しながら溶かした。ビスマスが完全に溶解したことを確認した後、ビスマス溶液を、コバルト、鉄の前駆体が溶解している溶液に添加し、コバルト、鉄、ビスマスの前駆体が溶解している酸性溶液を製造した。また、モリブデン酸アンモニウム4水和物((NHMo24・4HO)6.36gを蒸留水(100mL)に溶かし、攪拌して別途準備した。準備されたニッケル、鉄、ビスマスの前駆体が溶解している酸性溶液をモリブデン酸塩溶液に一滴ずつ滴下した。こうして生成された前記混合溶液を磁力攪拌器を用いて常温で1時間攪拌させた後、沈殿した溶液から真空または遠心濃縮器を用いて固体試料を得た。得られた固体試料を175℃で24時間乾燥させた。生成された固体触媒を電気炉に入れた後、475℃の温度を維持しながら熱処理することにより、多成分系モリブデン酸ビスマス触媒を製造した。製造された触媒は、X線回折分析および元素成分分析(ICP−AES)を介して成功的な製造を確認した。その結果はそれぞれ図1および表1のとおりである。図1に示すように、X線回折分析の結果、多成分系モリブデン酸ビスマスは一般に文献に報告されているようにβ−CoMoO、Fe(MoO、α−BiMo12、γ−BiMoOの混合相として形成され、元素成分分析(ICP−AES)を介して分析上の誤差範囲内でわれわれの所望する金属前駆体の量が正確に共沈したことを確認した。
【0049】
【表1】

【0050】
製造例2
2価陽イオンを有する金属成分としてマンガンとニッケルを用いた多成分系モリブデン酸ビスマス触媒の製造
マンガンおよびニッケルを、2価陽イオンを有する金属成分として含む多成分系モリブデン酸ビスマス触媒の製造のために、それぞれ硝酸マンガン6水和物(Mn(NO・6HO)7.83g、硝酸ニッケル6水和物(Ni(NO・6HO)7.93gを使用した。前記2価陽イオンの前駆体の種類と量以外は全ての触媒の製造条件を製造例1と同様にして触媒を製造した。製造された触媒は元素成分分析(ICP−AES)を介して分析上の誤差範囲内でわれわれの所望する金属前駆体の量が正確に共沈したことを確認し、その結果は表2のとおりである。
【0051】
【表2】

【0052】
比較製造例1
多様な2価陽イオンを有する金属成分からなる多成分系モリブデン酸ビスマス触媒の製造
比較のために、製造例1で製造された触媒と、2価陽イオンを有する金属成分が相異なる多成分系モリブデン酸ビスマス触媒を製造した。マグネシウム、銅、亜鉛を、2価陽イオンを有する金属成分として含む多成分系モリブデン酸ビスマス触媒の製造のために、それぞれ硝酸マグネシウム6水和物(Mg(NO・6HO)6.99g、硝酸銅3水和物(Cu(NO・3HO)6.59g、硝酸亜鉛6水和物(Zn(NO・6HO)8.11gを使用した。2価陽イオンの前駆体の種類と量以外は全ての触媒の製造条件を製造例1と同様にして触媒を製造した。製造された触媒は元素成分分析(ICP−AES)を介して分析上の誤差範囲内でわれわれの所望する金属前駆体の量が正確に共沈したことを確認した。その結果は表3のとおりである。
【0053】
【表3】

【0054】
製造例3
亜鉛フェライト(ZnFe)触媒の製造
亜鉛の前駆体として塩化亜鉛(ZnCl)を、鉄の前駆体としては塩化鉄6水和物(FeCl・6HO)をそれぞれ使用した。亜鉛フェライト触媒の製造のために、塩化亜鉛(1.42g)と塩化鉄6水和物(5.61g)を蒸留水(100mL)に溶かし、混合した後、攪拌した。十分な攪拌の後、前駆体が完全に溶解したことを確認し、前駆体水溶液を蒸留水(100mL)に一滴ずつ滴下しながらpH調節および共沈のために3モル濃度の水酸化ナトリウム水溶液を一緒に添加して共沈溶液のpHが9となるように調節した。
【0055】
前記混合溶液は、十分な攪拌が行われるように磁力攪拌器を用いて常温で12時間攪拌させた後、さらに相分離のために常温で12時間放置した。沈殿した溶液を減圧濾過器で濾過し、得た固体試料を175℃で16時間乾燥させた。生成された固体試料を空気雰囲気の電気炉で650℃の温度を維持して熱処理することにより、単相の亜鉛フェライト(ZnFe)相を有する触媒を製造した。
【0056】
製造された触媒はX線回折分析および元素成分分析(ICP−AES)を介して成功的な製造を確認した。その結果はそれぞれ図2および表4のとおりである。図2に示すように、X線回折分析の結果、単相の亜鉛フェライト相がよく形成されたことを確認し、元素成分分析(ICP−AES)を介して分析上の誤差範囲内でわれわれの所望する金属前駆体の量が正確に共沈したことを確認した。
【0057】
【表4】

【0058】
比較製造例2
多様な共沈溶液のpHにおける亜鉛フェライト(ZnFe)触媒の製造
比較のために共沈溶液のpHを3〜5、11および12に調節した以外は、製造例3と同一の条件下で、亜鉛フェライト触媒を製造した。製造された触媒はX線回折分析によって形成された相を確認した。低いpH(3〜5)で共沈させた触媒は、亜鉛フェライトではなく、α−酸化鉄(α−Fe)が生成されたものと確認された。pH11および12で共沈させた触媒はいずれも単相の亜鉛フェライト相が形成されたことを確認した。
【0059】
製造例4
多成分系モリブデン酸ビスマス触媒と亜鉛フェライト触媒を使用した連続流式二重触媒反応装置の構成
多成分系モリブデン酸ビスマス触媒と亜鉛フェライト触媒の相異なるn−ブテン異性体に対する反応特性を融合して相乗効果を得るための方法で連続流式二重触媒反応装置を構成した。多成分系モリブデン酸ビスマス触媒と亜鉛フェライト触媒を用いた連続流式二重触媒反応装置は、従来の技術に係る工程で使用している線形固定層反応器に多成分系モリブデン酸ビスマス触媒を充填し、石英を粉砕して多成分系モリブデン酸ビスマス触媒層上に積層した後、さらに亜鉛フェライト触媒を充填し、あるいはその逆順に従って亜鉛フェライト触媒層、石英層、多成分系モリブデン酸ビスマス触媒層の順で充填する方式を取った。2種の触媒層は石英層によって物理的に分離されて独立に作用しうるように設計された。この際、充填される多成分系モリブデン酸ビスマス触媒と亜鉛フェライト触媒の量は、正確な触媒活性の比較のために、それぞれの触媒が単一層反応に使用される触媒量の50%体積を使用することにより、単一層触媒反応と連続流式二重触媒反応に使用した触媒体積の総量を同一にした。また、2触媒層の分離のために使用した石英の量は、反応に及ぼす影響を最小化するために、2触媒層の物理的な分離が行われ得る最小限の量にした。
【0060】
比較製造例3
多成分系モリブデン酸ビスマスと亜鉛フェライトを機械的に混合した複合酸化物触媒の製造
多成分系モリブデン酸ビスマス触媒と亜鉛フェライト触媒の相異なる反応特徴を融合してn−ブテンの酸化的脱水素化反応に対する活性を極大化するために、2種の触媒を機械的に混合した複合酸化物触媒を製造した。製造例1のように製造された多成分系モリブデン酸ビスマス触媒と製造例3のように製造された亜鉛フェライト触媒を一緒に粉砕して機械的に混合した。この際、多成分系モリブデン酸ビスマス触媒:亜鉛フェライト触媒の混合比率が50体積%:50体積%である混合相の複合酸化物形態の触媒を製造した。
【0061】
実験例1
C4ラフィネート−3またはC4混合物の酸化的脱水素化反応
製造例1による方法で製造された多成分系モリブデン酸ビスマス触媒、製造例3による方法で製造された亜鉛フェライト触媒、製造例4による方法で準備された前記2種の触媒の順次充填による触媒、および比較製造例3による方法で準備された前記2種の触媒が機械的に混合された触媒を用いてn−ブテンの酸化的脱水素化反応を行った。反応物としてはC4混合物、空気およびスチームを使用し、反応器としては線形パイレックス(登録商標)反応器を使用した。前記全ての実験において、同じn−ブテンに対する空間速度を基準として触媒活性を比較するために使用した触媒の総体積を同一にして反応を行った。反応物として用いたC4混合物の組成は下記表5のとおりである。反応物の組成はn−ブテン:空気:スチームの比率が1:3.75:15となるようにそれぞれ反応物の注入速度を設定した。スチームは反応器の入口から水の形で注入されるが、水は200℃でスチームに直接気化して別の反応物としてのC4混合物および空気と共に完全に混合されて反応器に流入するように反応装置を設計した。C4混合物と空気の量は質量流速調節器を用いて制御し、スチームの量は水入りのシリンジポンプの注入速度を調節することにより制御した。C4混合物内のn−ブテンを基準にして空間速度(GHSV)が475h−1となるように触媒量を設定した。反応温度は触媒層の温度が420℃となるように維持して反応を行った。反応後の生成物はガスクロマトグラフィーを用いて分析し、生成物には、目標とする1,3−ブタジエン以外にも、完全酸化による二酸化炭素、分解による副産物、n−ブタンなどが含まれていた。多成分系モリブデン酸ビスマス触媒上でn−ブテンの酸化的脱水素化反応によるn−ブテンの転換率、1,3−ブタジエンの選択度および1,3−ブタジエンの収率は下記数式1、数式2および数式3によってそれぞれ計算した。
【0062】
【数1】

【0063】
【数2】

【0064】
【数3】

【0065】
【表5】

【0066】
実施例1
多成分系モリブデン酸ビスマス触媒と亜鉛フェライト触媒の反応活性
製造例1および2の方法によって製造された多成分系モリブデン酸ビスマス触媒と、製造例3の方法によって製造された亜鉛フェライト触媒を、実験例1の方法によってC4混合物の酸化的脱水素化反応を行った。その結果は表6と図3に示す。亜鉛フェライト触媒が多成分系モリブデン酸ビスマス触媒に比べてn−ブテンの酸化的脱水素化反応においてさらに高い1,3−ブタジエン収率を得ることができることが分かった。他の結晶構造を有する多成分系モリブデン酸ビスマス系触媒とフェライト系触媒は、n−ブテンを吸着し活性化させることが可能なサイトと触媒内格子酸素の特性が互いに異なり、n−ブテンの酸化的脱水素化反応に対する触媒活性が互いに異なるものと予想される。
【0067】
【表6】

【0068】
注目すべき点は、C4混合物内にn−ブテン異性体に対する活性が多成分系モリブデン酸ビスマス触媒と亜鉛フェライト触媒上で異なることである。その結果は表7および図4に示す。それぞれのn−ブテン異性体に対する反応活性は、下記数式4、数式5および数式6によって計算した。表7に示すように、多成分系モリブデン酸ビスマス触媒はn−ブテンの酸化的脱水素化反応において1−ブテンに対する活性が2−ブテン(トランス−2−ブテン、シス−2−ブテン)に対する活性より良いが、亜鉛フェライト触媒は2−ブテン(トランス−2−ブテン、シス−2−ブテン)に対する活性が1−ブテンに対する活性より良い。したがって、前記2種の触媒を同時に用いてn−ブテンの酸化的脱水素化反応を行うと、2種の触媒の相乗作用によって全てのn−ブテン異性体に対する活性が良くなって1,3−ブタジエン収率を高めることができるものと期待される。よって、前述したように、2種の触媒の相乗作用を図るために、比較例3では2種の触媒の機械的混合による複合酸化物触媒を用いたn−ブテンの酸化的脱水素化反応を、実施例2では連続流式二重触媒反応装置を用いたn−ブテンの酸化的脱水素化反応をそれぞれ行った。
【0069】
【表7】

【0070】
【数4】

【0071】
【数5】

【0072】
【数6】

【0073】
比較例1
多様な2価陽イオンを金属成分として有する多成分系モリブデン酸ビスマス触媒の活性
比較製造例1の方法によって製造されたそれぞれ異なる2価陽イオンを金属成分として有する多成分系モリブデン酸ビスマス触媒上で、実験例1の方法によってC4混合物の酸化的脱水素化反応を行った。その結果は表8のとおりである。それぞれの金属成分に応じて触媒毎に形成された相が異なり、それにより触媒表面の特性と触媒内格子酸素の性格の変化によって製造された触媒は、それぞれ異なる活性を示すものと判断される。表6と表8を比較するとき、コバルトが2価陽イオンとして含まれた多成分系モリブデン酸ビスマス触媒がC4混合物の酸化的脱水素化反応に最も高い活性を示した。よって、本発明が実現しようとする連続流式二重触媒反応装置を構成する多成分系モリブデン酸ビスマス触媒としてCoFeBiMo1251触媒が最も適すると判断される。
【0074】
【表8】

【0075】
比較例2
多様な共沈溶液のpHで製造された亜鉛フェライト触媒の反応活性
比較製造例2の方法によって製造されたそれぞれ異なる共沈溶液のpHで製造された亜鉛フェライト触媒上で、実験例1の方法によってC4混合物の酸化的脱水素化反応を行った。その結果は表8のとおりである。それぞれの共沈溶液のpHによって形成された相が異なり、それにより触媒表面特性と触媒内格子酸素の性格の変化によって製造された触媒はそれぞれ異なる活性を示すものと判断される。表6と表9を比較するとき、pH9で共沈した亜鉛フェライト触媒がC4混合物の酸化的脱水素化反応に最も高い活性を示した。よって、本発明が実現しようとする連続流式二重触媒反応装置を構成する亜鉛フェライト触媒として、共沈溶液のpH9で製造された亜鉛フェライト触媒が最も適するものと判断される。
【0076】
【表9】

【0077】
比較例3
多成分系モリブデン酸ビスマス触媒と亜鉛フェライト触媒を機械的に混合した触媒の反応活性
比較製造例3の方法によって準備された多成分系モリブデン酸ビスマス触媒と亜鉛フェライト触媒を機械的に混合した複合酸化物触媒上で実験例1の方法によってC4混合物の酸化的脱水素化反応を行った。その結果を表10と図3に示す。多成分系モリブデン酸ビスマス触媒と亜鉛フェライト触媒とを機械的に混合した触媒は、各触媒を単独で使用して反応を行ったときより(実施例1、表6)反応活性が大幅減少したが、これは2種の触媒が互いに接触することにより、n−ブテンの酸化的脱水素化反応に対するそれぞれの触媒作用を互いに妨害してn−ブテンに対する反応活性が減少するものと判断される。
【0078】
【表10】

【0079】
実施例2
連続流式二重触媒反応装置を用いた酸化的脱水素化反応の反応活性
製造例1および3の方法によって準備された触媒を用いて、実験例1の方法によってC4混合物の酸化的脱水素化反応を行った。その結果を表11と図3に示す。表11に示すように、亜鉛フェライト触媒上でn−ブテンの酸化的脱水素化反応を先に行った場合、すなわち亜鉛フェライト触媒が反応物に対して先に反応に用いられる場合には、1,3−ブタジエン収率が増加したが、多成分系モリブデン酸ビスマス触媒がn−ブテンの酸化的脱水素化反応を先に行った場合、すなわち多成分系モリブデン酸ビスマス触媒が先に反応に用いられる場合には、1,3−ブタジエン収率が減少した。これはC4混合物内のn−ブテン異性体の含量によるもので、本発明の目的を達成するために使用したC4混合物内には2−ブテン(50.4重量%)が1−ブテン(7.5重量%)に比べて多く含まれているため、2−ブテンに対する活性に優れたフェライト触媒上でn−ブテンの酸化的脱水素化反応を先に行ったため、1,3−ブタジエン収率が増加するものと思われる。C4混合物内に1−ブテンの含量が多くなると、1−ブテンに対して活性に優れた多成分系モリブデン酸ビスマス触媒上でn−ブテンの酸化的脱水素化反応を先行する場合、さらに優れた2種の触媒の相乗効果を確認することができるものと期待される。本発明では、亜鉛フェライト触媒上でn−ブテンの酸化的脱水素化反応を先行する場合、すなわち反応物に対して亜鉛フェライト触媒が先に位置する場合、より優れた1,3−ブタジエン収率を得ることができた。ところが、反応物の組成は多様に変化しうるので、本発明はこのような触媒層の順序に限定されない。
【0080】
【表11】

【0081】
要するに、前記2種の触媒を活用して連続流式二重触媒反応装置を介してn−ブテンの酸化的脱水素化反応を行った結果、単一触媒を用いて本反応を行った場合よりさらに高い1,3−ブタジエン収率を得ることができた。このような現象は、本発明に係る連続流式二重触媒反応装置を用いて、n−ブテン異性体のうち1−ブテンに対する反応活性の高い多成分系モリブデン酸ビスマス触媒の特性と、2−ブテンに対する反応活性の高い亜鉛フェライト触媒の特性とを融合することにより、本発明の目的とおりに全てのn−ブテンの異性体に対する酸化的脱水素化反応の活性を高めて1,3−ブタジエン収率を高めることができることを示す。連続流式二重触媒反応装置において亜鉛フェライト触媒がn−ブテンの酸化的脱水素化反応を先行した場合、すなわち亜鉛フェライト触媒が上層、多成分系モリブデン酸ビスマス触媒が下層にそれぞれ充填されてn−ブテンの酸化的脱水素化反応を行った場合、数式4、数式5および数式6によって計算されたC4混合物内のn−ブテン異性体に対する活性は、表12および図4に示す。図4に示したn−ブテン異性体に対する活性変化を考察すると、連続流式二重触媒反応装置における2種の触媒の相乗作用をさらに明確に分かることができる。それぞれの触媒を用いた場合より連続流式二重触媒反応装置においてn−ブテンの酸化的脱水素化反応を行う場合、全てのn−ブテンの異性体に対して良い活性を示し、これにより1,3−ブタジエン収率が高くなったことが分かる。
【0082】
【表12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)反応器に触媒固定層として、モリブデン酸ビスマス系の第1触媒およびフェライト系の第2触媒を、石英層によって分離された層状構造を成すように積層して充填させる段階と、
b)n−ブテンを含むC4混合物、空気およびスチームを含有する反応物を前記反応器の触媒層に連続的に通過させながら酸化的−脱水素化反応を行う段階と、
c)1,3−ブタジエンを得る段階とを含むことを特徴とする、連続流式二重触媒反応装置を用いた1,3−ブタジエンの製造方法。
【請求項2】
前記C4混合物は0.5〜50重量%のn−ブタン、40〜99重量%のn−ブテンおよび0.5〜10重量%の残余C4混合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の1,3−ブタジエンの製造方法。
【請求項3】
前記反応物はn−ブテン:空気:スチームが1:0.5〜10:1〜50の比率で含まれたことを特徴とする、請求項1に記載の1,3−ブタジエンの製造方法。
【請求項4】
前記b)段階の反応は300〜600℃の反応温度および50〜5000h−1の空間速度で行われることを特徴とする、請求項1に記載の1,3−ブタジエンの製造方法。
【請求項5】
前記第1触媒は、
a1)マンガン、コバルト、およびニッケルよりなる群から選ばれた2価陽イオンを有する金属の前駆体、鉄の前駆体およびビスマス前駆体を含む第1溶液を準備する段階と、
b1)モリブデン前駆体を溶解させた第2溶液を準備する段階と、
c1)前記第2溶液に前記第1溶液を滴加して共沈させる段階と、
d1)前記共沈溶液を1〜2時間攪拌させた後、水分を除去して固体成分を得る段階と、
e1)前記固体成分を150〜200℃で乾燥させた後、400〜600℃で熱処理する段階とを含んで製造される、4種金属を含むモリブデン酸ビスマス触媒であることを特徴とする、請求項1に記載の1,3−ブタジエンの製造方法。
【請求項6】
前記2価陽イオンを有する金属はコバルトであることを特徴とする、請求項5に記載の1,3−ブタジエンの製造方法。
【請求項7】
前記2価陽イオンを有する金属の前駆体:前記鉄の前駆体:ビスマス前駆体:モリブデン前駆体のモル比が7〜10:2〜4:1:5〜20であることを特徴とする、請求項5に記載の1,3−ブタジエンの製造方法。
【請求項8】
前記a1)段階の前記2価陽イオン金属成分の前駆体は硝酸マンガン、硝酸コバルトまたは硝酸ニッケルであり、鉄の前駆体は硝酸鉄であり、前記ビスマス前駆体は硝酸ビスマスであることを特徴とする、請求項5に記載の1,3−ブタジエンの製造方法。
【請求項9】
前記b1)段階のモリブデン前駆体はモリブデン酸アンモニウムであることを特徴とする、請求項5に記載の1,3−ブタジエンの製造方法。
【請求項10】
前記第2触媒は、
a2)亜鉛前駆体および鉄前駆体を蒸留水に溶解させる段階と、
b2)前記前駆体水溶液に1.5〜4.0モル濃度の水酸化ナトリウム溶液を混合させながら共沈溶液のpH範囲を6〜10に調節する段階と、
c2)前記pHの調節された混合溶液を濾過して固体触媒を得る段階と、
d2)前記固体触媒を70〜200℃で乾燥させる段階と、
e2)前記乾燥した触媒を350〜800℃で熱処理する段階とを含んで製造される、亜鉛フェライト触媒であることを特徴とする、請求項1に記載の1,3−ブタジエンの製造方法。
【請求項11】
前記a2)段階の前記亜鉛前駆体および鉄前駆体の鉄/亜鉛の原子数比は1.5〜2.5であることを特徴とする、請求項10に記載の1,3−ブタジエンの製造方法。
【請求項12】
前記a2)段階の前記亜鉛前駆体および鉄前駆体は亜鉛/鉄の塩化物(Chloride)または硝酸塩(Nitrate)であることを特徴とする、請求項10に記載の1,3−ブタジエンの製造方法。
【請求項13】
前記C4混合物内に1−ブテンが2−ブテンに比べて多量含有される場合、前記a)段階で、前記触媒固定層は上方から第1触媒/石英層/第2触媒の順序で積層されることを特徴とする、請求項1に記載の1,3−ブタジエンの製造方法。
【請求項14】
前記C4混合物内に2−ブテンが1−ブテンに比べて多量含有される場合、前記a)段階で、前記触媒固定層は上方から第2触媒/石英層/第1触媒の順序で積層されることを特徴とする、請求項1に記載の1,3−ブタジエンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−521892(P2011−521892A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501709(P2011−501709)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【国際出願番号】PCT/KR2009/000598
【国際公開番号】WO2009/119975
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(507268341)エスケー イノベーション カンパニー リミテッド (57)
【出願人】(508298075)ソウル大学校産学協力団 (27)
【Fターム(参考)】