説明

連続焼鈍炉

【課題】ハースロールの一端部を焼鈍炉本体の外部で回転自在に且つハースロールの軸方向に移動可能に支承する軸受ユニットの軸受損傷のトラブルを防止するとともに、軸受交換作業を容易に行うことのできる連続焼鈍炉を提供する。
【解決手段】ハースロール12の一端部を回転自在に支承する軸受ユニット22は、焼鈍炉本体11に固定された軸受ハウジング23と、軸受ハウジング23に収容された自動調心ころ軸受24と、自動調心ころ軸受24の外輪外周面に固設されたスリーブ30と、ハースロール12の回転トルクを自動調心ころ軸受24の内輪に伝えるトルク伝達キー27とから構成される。スリーブ30の外周面は軸受ハウジング23の内周面に摺動自在に接触し、トルク伝達キー27はハースロール12の周面部と自動調心ころ軸受24の内輪内周面に形成されたキー溝と隙間なく嵌合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯の連続焼鈍ラインに用いられる連続焼鈍炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼帯の連続焼鈍ラインに用いられる連続焼鈍炉は、鋼帯を連続焼鈍するための焼鈍炉本体と、この焼鈍炉本体の内部で鋼帯を搬送する複数のハースロールと、これらハースロールの両端部を焼鈍炉本体の外部で回転自在に支承する複数の軸受ユニットとを備えた構成となっている。そして、このような連続焼鈍炉に用いられる軸受ユニットとして、図5及び図6に示すものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
図5及び図6中符号11は焼鈍炉本体、12はハースロールを示し、このハースロール12の一端部に形成された小径軸部121は、焼鈍炉本体11の外部に設けられた軸受ユニット13によって回転自在に支承されている。
軸受ユニット13は円筒状の軸受ハウジング14を有し、この軸受ハウジング14は焼鈍炉本体11に固定されている。また、軸受ユニット13はハースロール12の小径軸部121を回転自在に支承する玉軸受15を有し、この玉軸受15は軸受ハウジング14の中に収容されている。さらに、軸受ユニット13は玉軸受15の内輪内周面に止めネジ16によって固定されたスライドキー17を有し、このスライドキー17はハースロール12の軸方向に沿って小径軸部121の周面部に形成されたキー溝18と摺動自在に嵌合している。
【0004】
このような軸受ユニットによると、連続焼鈍炉の炉内熱によってハースロール12が軸方向に伸長すると、スライドキー17がハースロール12の軸方向伸び量に応じてハースロール12の軸方向に変位する。従って、ハースロール12の一端部に形成された小径軸部121を焼鈍炉本体11の外部で回転自在に且つハースロール12の軸方向に移動可能に支承することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭56−20132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した軸受ユニットでは、ロール回転時のトルクがスライドキー17により軸受内輪に伝達されるが、キー溝18に対してスライドキー17が摺動可能に設けてあるため、スライドキー17とキー溝18との間の隙間を大きくとらざるを得ず、ロール回転のトルク変動が発生した際にはスライドキー17がキー溝18に叩かれてしまう。このような状態で長期間使用すると、スライドキー17が変形してしまい、ひいては軸受損傷のトラブルを発生させるといった問題がある。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであって、ハースロールの一端部を焼鈍炉本体の外部で回転自在に且つハースロールの軸方向に移動可能に支承する軸受ユニットの軸受損傷のトラブルを防止するとともに、軸受交換作業を容易に行うことのできる続焼鈍炉を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に係る本発明は、鋼帯を連続焼鈍するための焼鈍炉本体と、該焼鈍炉本体の内部で前記鋼帯を搬送する複数のハースロールと、該ハースロールの両端部を前記焼鈍炉本体の外部で回転自在に支承する複数の軸受ユニットとを備えた連続焼鈍炉において、前記複数の軸受ユニットのうち前記ハースロールの一端部を当該ハースロールの軸方向に移動可能に支承する軸受ユニットを、前記焼鈍炉本体に固定された軸受ハウジングと、該軸受ハウジングに収容された自動調心軸受と、該自動調心軸受の外輪外周面に固設されたスリーブと、前記ハースロールの回転トルクを前記自動調心軸受の内輪に伝えるトルク伝達キーとから構成し、前記スリーブの外周面を前記軸受ハウジングの内周面に摺動自在に接触させるとともに、前記トルク伝達キーと嵌合するキー溝を前記ハースロールの軸方向に沿って前記ハースロールの周面部と前記自動調心軸受の内輪内周面にそれぞれ形成したことを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る本発明は、請求項1に記載の連続焼鈍炉において、前記スリーブの先端部を前記自動調心軸受から前記ハースロールの中央部に向かって突出させるとともに、前記ハースロールの周面部と全周にわたって接触するシール部材を前記スリーブの先端部に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、ハースロールの一端部と軸受内輪の内周面との間に設けられるキーおよびキー溝は、専らハースロールと軸受内輪とを固定するための機能を有し、一方、軸受ハウジングの内周面とスリーブの外周面とを摺動自在に嵌合することにより、ハースロールの一端部をハースロールの軸方向に移動可能に支承したため、スライドキーを有する場合に懸念される軸受損傷のトラブルを防止することができる。
【0010】
また、ハースロールの一端部を焼鈍炉本体の外部で回転自在に且つハースロールの軸方向に移動可能に支承する軸受ユニットの自動調心軸受を交換するときに軸受ハウジングを焼鈍炉本体から取り外す必要がないので、軸受ユニットの軸受交換作業を容易に行うことができる。また、連続焼鈍炉の炉内熱が軸受ハウジングの内周面と自動調心軸受の外輪外周面との間隙やハースロールの周面部と自動調心軸受の内輪内周面との間隙から焼鈍炉本体の外部に放出されることをスリーブとシール部材によって防止できるので、焼鈍炉本体の内部を高温状態に保った状態で鋼帯を連続焼鈍することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る連続焼鈍炉の要部を示す図である。
【図2】図1のA−A断面を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る連続焼鈍炉の作用効果を説明するための図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る連続焼鈍炉の他の作用効果を説明するための図である。
【図5】連続焼鈍炉に用いられる軸受ユニットの従来例を示す図である。
【図6】図5のB−B断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の一実施形態に係る連続焼鈍炉の要部を示す図、図2は図1のA−A断面を示す図であり、本発明の一実施形態に係る連続焼鈍炉は、図5に示したものと同様に、焼鈍炉本体11及びハースロール12を備えているとともに、複数の軸受ユニット22(図では1つの軸受ユニットを示している。)を備えている。
軸受ユニット22はハースロール12の一端部に形成された小径軸部121を焼鈍炉本体11の外部で回転自在に且つハースロール12の軸方向に移動可能に支承するものであって、軸受ハウジング23、自動調心ころ軸受24、トルク伝達キー25、エンドプレート28、スリーブ30、外輪固定用リング31及びシール部材33を有している。
【0013】
軸受ハウジング23は自動調心軸受としての自動調心ころ軸受24を収納するものであって、焼鈍炉本体11に固定されている。また、軸受ハウジング23は焼鈍炉本体11から水平に突出する円筒部231と、この円筒部231の先端部に形成されたフランジ部232と、このフランジ部232に装着された端板部233とを有し、端板部233をフランジ部232から取り外すことによって軸受ハウジング23の内部が開放されるようになっている。
【0014】
自動調心ころ軸受24はハースロール12の小径軸部121を回転自在に支承するものであって、この自動調心ころ軸受24の内輪241は小径軸部121の周面部と隙間を持って嵌合している。また、自動調心ころ軸受24は内輪241の外周側に外輪242を有し、この外輪242の外径は軸受ハウジング23の内径より小さい外径となっている。
トルク伝達キー25はハースロール12の回転トルクを自動調心ころ軸受24の内輪241に伝えるものであって、小径軸部121の周面部と自動調心ころ軸受24の内輪内周面には、トルク伝達キー25と隙間なく嵌合するキー溝26,27がハースロール12の軸方向に沿って形成されている。
【0015】
エンドプレート28はトルク伝達キー25がハースロール12の軸方向に移動してキー溝26,27から抜け出るのを防止するためのものであって、エンドプレート固定用ビス29により小径軸部121の端面に固定されている。
スリーブ30は連続焼鈍炉の炉内熱が軸受ハウジング23の内周面と自動調心ころ軸受24の外輪外周面との間に生じる隙間から焼鈍炉本体11の外部に放出されるのを防止するとともに、ハースロール12の一端部を自動調心ころ軸受24と共にハースロール12の軸方向に移動可能にするためのものであって、軸受ハウジング23の内周面と摺動自在に嵌合する外周面301を有している(図2参照)。また、スリーブ30は内周面302を有し、この内周面302は自動調心ころ軸受24の外輪外周面に固定されている。
【0016】
外輪固定用リング31はスリーブ30の内周面302に全周にわたって形成された段部303との間で自動調心ころ軸受24の外輪242をスリーブ30の内周面302に固定するためのものであって、外輪242の外径より小さい内径で環状に形成されている。また、この外輪固定用リング31はスリーブ30の内周面302に全周にわたって形成されたリング取付け溝32に着脱可能に装着されている。
【0017】
従って、上述した本発明の一実施形態では、トルク伝達キー25は専ら、自動調心ころ軸受24の内輪241とハースロール12とを固定するために設けるとともに、軸受ハウジング23の内周面とスリーブ30の外周面301とを摺動自在に嵌合させたため、キーの変形による軸受損傷を防止しつつ、熱伸縮によるハースロール一端部の軸方向への移動を可能にすることができる。
【0018】
シール部材33は連続焼鈍炉の炉内熱が小径軸部121の周面部と自動調心ころ軸受24の内輪内周面との間に生じる隙間から焼鈍炉本体11の外部に放出されるのを防止するためのものであって、小径軸部121の周面部に全周にわたって接触しているとともに、自動調心ころ軸受24からハースロール12の中央部に向かって突出するスリーブ30の先端部304に設けられている。
【0019】
図3は本発明の一実施形態に係る連続焼鈍炉の作用効果を説明するための図であり、軸受ユニット22の自動調心ころ軸受24を交換する場合は、図3(a)に示すように、まず、軸受ハウジング23の端板部233を軸受ハウジング23のフランジ部232から取り外す。そして、小径軸部121の端面からエンドプレート28を取り外し、さらに小径軸部121の周面部に形成されたトルク伝達キー収納溝26からトルク伝達キー25を引き抜いた後、図3(b)に示すように、自動調心ころ軸受24をスリーブ30及びシール部材33と一体に軸受ハウジング23の内部から取り出して新しい自動調心ころ軸受と交換する。
【0020】
図5および図6に示した軸受ユニットでは、玉軸受15の中心を軸受ハウジング14の中心に一致させるために、玉軸受15の外輪外周面に凸球面19が全周にわたって形成されているとともに、凸球面19と摺動自在に接触する凹球面20が軸受ハウジング14の内周面に全周にわたって形成されている。このため、磨耗した玉軸受15やスライドキー17を交換するときには、軸受ハウジング14を焼鈍炉本体11から取り外す必要があり、軸受の交換作業に多くの時間や手間を要するという難点がある。
【0021】
これに対し、上述した本発明の一実施形態では、ハースロール12の一端部を焼鈍炉本体11の外部で回転自在に且つハースロール12の軸方向に移動可能に支承する軸受ユニット22の自動調心ころ軸受24を交換するときに軸受ハウジング23を焼鈍炉本体11から取り外す必要がないので、軸受ユニット22の軸受交換作業を容易に行なうことができる。
【0022】
また、トルク伝達キー27と隙間なく嵌合するキー溝26,27をハースロール12の軸方向に沿ってハースロール12の周面部と自動調心ころ軸受24の内輪内周面に形成したことで、図5および図6に示した従来例のように、玉軸受15の内輪に設けたスライドキー17とハースロール12の周面部に形成したキー溝18との間に、スライドキー17をハースロール12の軸方向に移動させるための隙間をハースロール12の周方向に形成する必要がない。従って、ハースロール12のトルク変動によって交換を要する損傷が軸受ユニット22に生じることを防止でき、軸受ユニット22の自動調心ころ軸受24やトルク伝達キー27を頻繁に交換する必要がないので、鋼帯を効率的に連続焼鈍することができる。
【0023】
また、軸受ハウジング23の内周面と摺動自在に嵌合する外周面301を有するスリーブ30の内周面302を自動調心ころ軸受24の外輪外周面に固定するとともに、ハースロール12の小径軸部周面部に全周にわたって接触するシール部材33を自動調心ころ軸受24からハースロール12の中央部に向かって突出するスリーブ30の先端部304に設けたことで、連続焼鈍炉の炉内熱が軸受ハウジング23の内周面と自動調心ころ軸受24の外輪外周面との間隙やハースロール12の小径軸部周面部と自動調心ころ軸受24の内輪内周面との間隙から焼鈍炉本体11の外部に放出されることをスリーブ30とシール部材33によって防止することができる。従って、焼鈍炉本体11の内部を高温状態に保った状態で鋼帯を連続焼鈍することができる。
【0024】
さらに、上述した本発明の一実施形態では、スリーブ30の内周面302に全周にわたって形成されたリング取付け溝32に外輪固定用リング31を着脱可能に装着したことで、軸受ユニット22の自動調心ころ軸受24を交換するときに、図4に示すように、スリーブ30とシール部材33を軸受ハウジング23の内部に残した状態で自動調心ころ軸受24の交換作業を行なうこともできる。従って、自動調心ころ軸受24の交換作業時に連続焼鈍炉の炉内熱が焼鈍炉本体11の外部に放出されることを防止することができる。
【0025】
上述した本発明の一実施形態では、ハースロール12の一端部を焼鈍炉本体11の外部で回転自在に且つハースロール12の軸方向に移動可能に支承する軸受ユニット22の自動調心軸受として自動調心ころ軸受24を用いたものを例示したが、これに限られるものではなく、例えば自動調心玉軸受を用いてもよい。
また、スリーブ30の内周面302を自動調心ころ軸受24の外輪外周面に固定するために、自動調心ころ軸受24の外輪242を外輪固定用リング31によってスリーブ30の内周面302に固定したが、これに限られるものではなく、例えばネジ等によってスリーブ30の内周面302を自動調心ころ軸受24の外輪外周面に着脱可能に固定してもよい。
【符号の説明】
【0026】
11…焼鈍炉本体
12…ハースロール
121…ハースロールの小径軸部
13…軸受ユニット
14…軸受ハウジング
15…玉軸受
16…止めネジ
17…スライドキー
18…キー溝
19…凸球面
20…凹球面
22…軸受ユニット
23…軸受ハウジング
24…自動調心ころ軸受
241…自動調心ころ軸受の内輪
242…自動調心ころ軸受の外輪
25…トルク伝達キー
26,27…キー溝
28…エンドプレート
29…エンドプレート固定用ビス
30…スリーブ
301…スリーブの外周面
302…スリーブの内周面
304…スリーブの先端部
31…外輪固定用リング
32…リング取付け溝
33…シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯を連続焼鈍するための焼鈍炉本体と、該焼鈍炉本体の内部で前記鋼帯を搬送する複数のハースロールと、該ハースロールの両端部を前記焼鈍炉本体の外部で回転自在に支承する複数の軸受ユニットとを備えた連続焼鈍炉において、
前記複数の軸受ユニットのうち前記ハースロールの一端部を当該ハースロールの軸方向に移動可能に支承する軸受ユニットを、前記焼鈍炉本体に固定された軸受ハウジングと、該軸受ハウジングに収容された自動調心軸受と、該自動調心軸受の外輪外周面に固設されたスリーブと、前記ハースロールの回転トルクを前記自動調心軸受の内輪に伝えるトルク伝達キーとから構成し、前記スリーブの外周面を前記軸受ハウジングの内周面に摺動自在に接触させるとともに、前記トルク伝達キーと嵌合するキー溝を前記ハースロールの軸方向に沿って前記ハースロールの周面部と前記自動調心軸受の内輪内周面にそれぞれ形成したことを特徴とする連続焼鈍炉。
【請求項2】
請求項1に記載の連続焼鈍炉において、前記スリーブの先端部を前記自動調心軸受から前記ハースロールの中央部に向かって突出させるとともに、前記ハースロールの周面部と全周にわたって接触するシール部材を前記スリーブの先端部に設けたことを特徴とする連続焼鈍炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−136732(P2012−136732A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289507(P2010−289507)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】