説明

連続鋳造圧延装置および連続鋳造圧延方法

【課題】トラフ内の湯面レベルを、目標湯面レベルと近い範囲に精度良く制御することができ、マグネシウム合金板を安定に製造することができる連続鋳造圧延装置の提供。
【解決手段】本発明は、トラフ4内のマグネシウム合金溶湯Mの湯面高さを、湯面高さ制御手段6により目標湯面高さH0と近い範囲に制御する。湯面高さ制御手段6は、トラフ4内に収容されたマグネシウム合金溶湯Mの湯面を検出する第1湯面検出部25および第2湯面検出部26と、これら湯面検出部25、26で検出された湯面Sの高さと、目標湯面高さH0との差を求め、この差を解消するための溶湯供給量制御部を備える。第1湯面検出部25は、湯面にレーザ光を照射するレーザ照射部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金溶湯を連続鋳造圧延してマグネシウム合金板を製造する連続鋳造圧延装置および連続鋳造圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金などを双ロール法によって合金板に成形することは、過去より盛んに行われており、得られたアルミニウム合金板は、各種電気製品の部材や車両用材等として広く用いられている。
【0003】
しかし、最近の電気製品の軽薄短小化や自動車等の燃費向上に向けた軽量化に対する要求から、実用合金中で最も軽いマグネシウム合金が注目されている。
マグネシウム合金によって製品を製造する方法としては、従来、インゴット製造を経て製品化する方法、ダイカスト法による成型によって製品を得る方法、または連続鋳造によって半製品を製造した後、熱間圧延などによって最終製品の形状に成型し、さらにそれを機械加工により仕上げる方法などが採られている。
【0004】
しかしながら、これらの方法は多数の工程を有することから、いずれにしても製造コストが高くなり、このことが、マグネシウム合金製品を一般に普及させるに当たっての障害となっている。
マグネシウム合金製品の製造コストを削減する方策としては、マグネシウム合金溶湯を、一対のロール(圧延ロール)間に供給し、連続鋳造圧延することによって薄肉板に成形する双ロール連続鋳造圧延法を使用することが有効である。双ロール連続圧延鋳造法によれば、簡易な工程で、効率よくマグネシウム合金板を得ることができる。
この双ロール連続鋳造圧延法によるマグネシウム合金板の製造装置(連続鋳造圧延装置)としては、例えば、マグネシウム合金を溶解する溶解炉と、溶解炉で溶解されたマグネシウム合金溶湯を一旦収容するタンディッシュ(トラフ)と、タンディッシュから供給されるマグネシウム合金溶湯を連続鋳造圧延する圧延ロールを有するものが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−88040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、連続鋳造圧延法においては、トラフへの溶湯供給量の変動、溶湯の温度や流動性等の各種溶湯条件の変動によって、トラフ内に収容された溶湯の上面の高さ(湯面レベル)が変動する可能性があるが、溶湯の湯面レベルが変動すると、一対の圧延ロール間に供給されるマグネシウム合金溶湯の供給圧が変化し、連続鋳造圧延によって得られるマグネシウム合金板の品質が不安定になる。したがって、マグネシウム合金板を安定な品質で製造するには、トラフ内における湯面レベルを、常に一定に近い範囲で維持することが重要である。
【0006】
しかし、マグネシウム合金の連続鋳造圧延装置については、マグネシウム合金溶湯の活性が非常に高いことが障害となって、ほとんど開発がなされておらず、その湯面レベルを制御する手法についても、ほとんど検討がなされていない。このため、連続鋳造圧延方法によって、マグネシウム合金板を安定に製造するのは難しいのが実情である。
【0007】
マグネシウム合金溶湯の湯面レベルを制御する手法としては、一般的な金属または合金溶湯の湯面レベル検出方法を採用することが考えられる。
金属または合金の溶湯の湯面レベルを検出する方法としては、熱電対を用いる方法、渦流センサを用いる方法、レーザー法、超音波法等が知られている。しかし、いずれもマグネシウム合金を連続鋳造圧延する場合に用いると、次のような問題が生じる。
【0008】
まず、熱電対を用いる方法は、熱電対の応答性が低いことから、連続鋳造圧延のように、湯面の微小な変動を応答性よく検出することが要求される場合には、不適当である。
また、渦流センサを用いる方法は、渦流センサの測定精度および応答性が他のセンサに比べて優れるという利点を有する。しかし、マグネシウム合金溶湯は非常に活性が高いため、溶湯表面に皮膜やドロスが生成され易く、それらが渦流センサによる正常な測定を妨げるという問題がある。
また、レーザ法においては、マグネシウム合金溶湯の表面に生成された皮膜やドロスの影響によって、湯面に照射した可視光レーザの反射光が精度よく検出されず、湯面を安定に検出するのが困難である。
また、マグネシウム合金の連続鋳造圧延を行う場合、マグネシウム合金溶湯の活性が高いことから、溶湯を収容するトラフ内に不活性ガスを導入することが必要となるが、不活性ガスを導入するとトラフ内の雰囲気温度が変化する。
超音波法では、このようなトラフ内の雰囲気温度の変化によって、空気を伝播する超音波の出力が変動し、湯面レベルを安定に測定することが困難である。
【0009】
このように、マグネシウム合金の連続鋳造圧延装置では、一般的な湯面レベルの検出方法を採用するのが困難であり、湯面レベルを一定に維持できる湯面レベルの制御方法の開発が求められている。
本発明は前記した問題に鑑みて創案されたものであり、トラフ内の湯面レベルを、目標湯面レベルと近い範囲に精度良く制御することができ、マグネシウム合金板を安定に製造することができる連続鋳造圧延装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の連続鋳造圧延装置は、マグネシウム合金溶湯を移湯する溶湯移湯系と、マグネシウム合金溶湯が収容されるトラフと、該トラフ内に収容されたマグネシウム合金溶湯の湯面の高さを、目標湯面高さと近い範囲に維持するように制御する湯面高さ制御手段と、記トラフに収容されたマグネシウム合金溶湯を、連続鋳造圧延してマグネシウム合金板を形成する圧延ロールを有し、記湯面高さ制御手段は、前記トラフ内に収容されたマグネシウム合金溶湯の湯面を検出する湯面検出部と、前記湯面検出部で検出された検出値に基づいて、前記トラフ内に収容されたマグネシウム合金溶湯の湯面の高さと、目標湯面高さとの差を求め、この差を解消するように前記トラフへのマグネシウム合金溶湯の供給量を制御する溶湯供給量制御部を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の連続鋳造圧延装置において、前記湯面検出部は、前記トラフ内のマグネシウム合金溶湯の湯面に、レーザ光を照射するレーザ光照射部と、前記湯面から反射されるレーザ光に基づいた電気信号を出力する固体撮像素子と、信号処理部を有し、前記信号処理部は、前記電気信号に基づいて、前記トラフ内のマグネシウム合金溶湯の湯面の高さと、目標湯面高さとの差を求め、その差を解消するための前記溶湯移湯系の制御量を算出するものである。
【0012】
また、本発明の連続鋳造圧延装置において、前記溶湯移湯系は、前記溶解炉内のマグネシウム合金溶湯を、前記トラフ側に圧送するポンプを有することを特徴とする。
また、本発明の連続鋳造圧延装置において、前記トラフは、その内容部を気密的に囲む壁部を有し、このうち上側の壁部は、少なくとも前記レーザ照射部によって照射されるレーザ光の光線経路と重なる領域が、このレーザ光に対して透過性を有するように構成されている。
【0013】
また、本発明の連続鋳造圧延装置は、前記トラフにマグネシウム合金溶湯を供給する基となる溶解炉、前記トラフおよび前記溶湯移湯系の内部は、連通した密閉空間であり、前記密閉空間に不活性ガスを導入する不活性ガス供給手段を有することを特徴とする。
本発明の連続鋳造圧延装置において、前記湯面検出部は、前記トラフ内のマグネシウム合金溶湯の湯面上に浮上するフロートを備え、該フロートの位置に応じて前記トラフ内の湯面の高さを検出し、前記トラフ内のマグネシウム合金溶湯の湯面の高さと、目標湯面高さとの差を求め、その差を解消するための前記溶湯移湯系の制御量を算出する機能を具備したことを特徴とする。
本発明のマグネシウム合金の製造方法は先のいずれかに記載の連続鋳造装置を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、トラフ内に収容されたマグネシウム合金溶湯の湯面を検出する湯面検出部と、湯面検出部によって検出された検出値に基づいて、マグネシウム合金溶湯の湯面の高さと、目標湯面高さとの差を求め、この差を解消するための溶湯移湯系によるトラフへのマグネシウム合金溶湯の供給量を制御するので、トラフ内に収容されたマグネシウム合金溶湯の湯面の高さを、目標湯面高さと近い範囲に維持するように制御しながら、マグネシウム合金溶湯の連続鋳造圧延を行うので、マグネシウム合金板を、安定な品質で製造することができる。
マグネシウム合金溶湯の湯面の調整は、レーザ光による湯面検出により、予め規定しておいた目標湯面高さとの差異を無くするように移湯系のマグネシウム合金溶湯の供給量の調整により制御することができる。トラフ内のマグネシウム合金溶湯の供給量の調節ためには、具体的に溶湯ポンプを用いることができ、溶湯ポンプによるマグネシウム合金溶湯の調節によりマグネシウム合金溶湯の湯面管理が正確にできる。
【0015】
溶解炉、トラフ、溶湯移湯系を密閉構造として密閉空間に不活性ガスを流すことにより活性度の高いマグネシウム合金溶湯を酸化させることなく連続鋳造用の圧延ロールまで供給することができる。このため、酸化スケールやドロスなどの異物を発生させることなく鋳造するができ、得られたマグネシウム合金板材の品質を安定化することができる。
更に、湯面検出部として、フロートを利用することで、レーザ光を利用した湯面検出部とは別個に湯面検出ができ、仮にレーザ光を利用した湯面検出部の検出精度が低下しても、運転に支障のないようにマグネシウム合金溶湯の湯面管理ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明において限定する事項について説明する。
まず、本発明の連続鋳造圧延装置の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の連続鋳造圧延装置の第1実施形態を示す構成図、図2は、図1に示す連続鋳造圧延装置が備える第1湯面検出部および第2湯面検出部を示す構成図、図3は、図1に示す連続鋳造圧延装置のトラフ部分の構成図である。
【0017】
図1に示す連続鋳造圧延装置1は、マグネシウム合金を溶解してマグネシウム合金溶湯Mを得る溶解炉2と、溶解炉2で得られたマグネシウム合金溶湯Mを一時収容して圧延ロール3に供給するトラフ4と、マグネシウム合金溶湯Mを連続鋳造圧延してマグネシウム合金板15を製造するための一対の圧延ロール3a、3bと、溶解炉2で得られたマグネシウム合金溶湯Mをトラフ4内に圧送して移湯する溶湯移湯系5と、トラフ4内のマグネシウム合金溶湯Mの湯面レベルを制御する湯面レベル制御手段6とを備えている。
【0018】
溶解炉2は、加熱手段を有するるつぼ型の容器であり、上方が開放面となっている。この開放面は、一部を除いて蓋7で封止されており、この蓋7には、原料となるマグネシウム合金インゴット8を供給するインゴット挿入口9が形成されている。このインゴット挿入口9を有することによって、蓋7を取り外すことなく、マグネシウム合金インゴット8を溶解炉2内へ供給することができる。なお、マグネシウム合金インゴット8は、インゴット供給手段10に取り付けられており、このインゴット供給手段10の動作によって所望の速度および量で溶解炉2内に供給される。
【0019】
溶解炉2には、溶解炉2内で得られたマグネシウム合金溶湯Mをトラフ4内に移湯する溶湯移湯系5が接続されている。
溶湯移湯系5は、溶湯ポンプ11と、供給管12とを有している。溶湯ポンプ11の吸入口(溶湯吸入口)11aは、溶解炉2内のマグネシウム合金溶湯Mに挿入されており、溶湯ポンプ11の排出口11bには、供給管12の一端が接続されている。また、供給管12の他端は、トラフ4の上側の壁部13に接続されている。また、供給管12の周囲には、ヒータ部14が配設されている。これにより、管12内を移動する溶湯の凝固が防止される。
この溶湯移湯系5では、溶湯ポンプ11の動作がオンとされると、溶解炉2内で得られたマグネシウム合金溶湯Mが、溶湯ポンプ11内に汲み上げられ、供給管12内に導入される。供給管12内に導入されたマグネシウム合金溶湯Mは、トラフ4側に圧送され、トラフ4内に供給される。
【0020】
溶湯ポンプ11としては、本実施形態では、ケーシング内でインペラを回転させることにより溶湯にエネルギーを与えるインバータ制御式のポンプを使用する。インバータ制御式のポンプは、吸入口および排出口を有するケーシングと、ケーシング内に回転自在に配設されたインペラと、インペラを回転駆動するモータを有しており、インペラの回転数を変化させることによって、トラフ4への溶湯供給量が制御される。なお、溶湯ポンプ11は、インバータ制御式のポンプに限るものではなく、この他の電気モータ駆動のポンプ、または、エアー駆動のポンプ等であってもよい。
【0021】
この溶湯移湯系5によってトラフ4内に供給されたマグネシウム合金溶湯Mの上面(湯面S)の高さ(湯面レベル)は、湯面レベル制御手段6によって、目標湯面レベルH0に近い範囲に維持される。これにより、圧延ロール3a、3b間の隙間に、安定な供給圧でマグネシウム合金溶湯Mが供給され、マグネシウム合金板を安定に製造することができる。なお、湯面レベル制御手段6については、後述する。
【0022】
トラフ4は、マグネシウム合金溶湯Mを収容する収容部4aと、収容部4aと連通し、一対の圧延ロール3a、3b間の隙間にマグネシウム合金溶湯Mを導入する導入管4bとを有している。
収容管4aの内部空間は、目標湯面レベルH0よりも高さの低い空間であり、耐熱性を有する壁部によって気密的に囲まれることによって構成されている。このうち上側の壁部13には、後述する第3の支軸41が気密的に挿通される貫通孔16が設けられている。また、上側の壁部13は、後述するレーザ照射部25によって照射されるレーザ光の光線経路と重なる領域が、このレーザ光に対して透過性を有する耐熱性板材13aによって構成されている。この透過性を有する耐熱性板材13aとしては、例えば各種耐熱性ガラスが好適に用いられる。
導入管4bは、収容部4aの目標湯面レベルH0よりも低い部分から、一対の圧延ロール3a、3b間の隙間まで延在形成されている。すなわち、この導入管4bは、高さが目標湯面レベルH0よりも低く、幅が収容部4aと略等しい寸法とされており、耐熱性を有する壁部によって気密的に囲まれることによって構成されている。
【0023】
また、トラフ4の収容部4には、溶湯をオーバーフロー排出させ、溶解炉2に返送する返送管18が、溶解炉2側の側壁の上方に接続されている。返送管18の周囲には、ヒータ部19が配設されている。これにより、管18内を移動する溶湯の凝固が防止される。
供給管12および返送管18の周囲に配設されたヒータ部14、19は、温度制御機構を有するのが好ましい。これにより、管12、18内を移動するマグネシウム合金溶湯Mの温度を、ほぼ一定に保つことができ、移湯の最中に溶湯温度が低下し、凝固するのを防止することができる。
また、ヒータ部14、19は、供給管12および返送管18を例えば250℃以上の温度に加熱できるものであることが好ましい。これにより、管12、18内を移動するマグネシウム合金溶湯Mの凝固を確実に防止することができる。
【0024】
また、トラフ4には、返送管18が接続された接続開口(排出口)20の少なくとも一部を開閉するように、上下に移動操作される可動堰20aが配設されている。この可動堰20aを上下に移動操作することにより、排出口20の開口領域(可動堰によって閉塞されていない領域)の下限高さが調整される。そして、この可動堰20aを、下限高さが目標湯面レベルH0と略一致するような位置とすることにより、トラフ4内に、目標湯面レベルH0よりも超過して供給されたマグネシウム合金溶湯Mを、排出口20からオーバーフロー排出させ、返送管18を介して溶解炉2内に返送することができる。その結果、トラフ内のマグネシウム合金溶湯Mの湯面レベルを、概ね目標湯面レベルH0に近づけることができる。なお、このオーバーフロー排出による湯面レベルの制御は、精度の低いものである。この連続鋳造圧延装置1では、さらに湯面レベル制御手段6によって、トラフ4内のマグネシウム合金溶湯Mの湯面レベルを、目標湯面レベルH0となるように精密に制御する。
【0025】
溶解炉2、トラフ4、供給管12および返送管18のそれぞれの内部は連通しており、この連通した空間は密閉空間となっている。
また、溶解炉2、トラフ4および供給管12には、それぞれ不活性ガス供給管21、22、23、24が接続され、この不活性ガス供給管21、22、23、24には不活性ガス供給装置が接続されている。不活性ガス供給装置から供給される不活性ガスは、不活性ガス供給管21、22、23、24を通過して、溶解炉2、トラフ4および第1の供給管12の内部に供給され、密閉空間の空きスペースに満たされる。これにより、この密閉空間内にあるマグネシウム合金溶湯Mが大気に曝されて酸化することを防止することができる。
【0026】
不活性ガスとしては、SF(六フッ化硫黄)とNの混合ガス、SFとCOの混合ガス等の六フッ化硫黄を含有するガス等が使用できる。六フッ化硫黄は質量の大きいガスであり、マグネシウム合金溶湯と接触すると、4Mg+SF→3MgF+MgSの反応が起こり、マグネシウム合金溶湯の表面に安定した反応生成物(保護皮膜)を形成する。これにより、マグネシウム合金溶湯が大気から遮断され、その酸化および燃焼が抑制されるとともに、マグネシウム蒸気の発生が抑えられ、マグネシウム合金板を安定に製造することが可能になる。
【0027】
一対の圧延ロール3a、3bは、外周面間に所定の隙間を空けて略平行に並列され、トラフ4の導入管4bの排出口と、ロール3a、3b間の隙間とが対応するように配設されている。導入管4bを通過して、この一対の圧延ロール3a、3b間に導入されたマグネシウム合金溶湯Mは、これらロール3a、3b間を加圧されなから通過することにより、連続鋳造圧延され、マグネシウム合金板に形成される。このマグネシウム合金板の厚さは、2.5〜7mmであるのが好ましい。
また、圧延ロール3a、3bの近傍には、離型剤スプレー46および温度センサ47が配設されている。離型剤スプレー46は、圧延ロール3a、3bの外周面に、離型剤を噴霧して供給するものである。これにより、圧延ロール3a、3bの外周面のマグネシウム合金板に対する離型性を、必要に応じて補うことができる。また、温度センサ47は、圧延ロール3aの外周面の温度を検知するものである。温度センサ47によって、圧延ロール3aの外周面の温度を検知し、これに基づいて温度条件を制御することにより、圧延ロール3a、3bによる連続鋳造圧延の条件を安定なものとすることができる。
【0028】
次に、湯面レベル制御手段6について説明する。
図2〜図3に示すように、湯面レベル制御手段6は、第1湯面検出部25と、第2湯面検出部26と、溶湯供給量制御部27とを有しており、第1湯面検出部25または第2湯面検出部26によって検出された湯面レベルに基づいて、溶湯移湯系5によるトラフ4内へのマグネシウム合金溶湯Mの供給量を制御し、トラフ4内の湯面レベルが、目標湯面レベルH0と近い範囲に維持されるように構成されている。ここで目標湯面レベルH0とは、マグネシウム合金溶湯Mを、一対の圧延ロール6間に、適正な供給圧で供給し得るような湯面レベルである。
【0029】
第1湯面検出部25はレーザ照射部を備え、トラフ4の収容部4aの上側に配設されている。
レーザ照射部は、その光軸がトラフ4内のマグネシウム合金溶湯Mの表面に対して直交し、且つ、目標湯面レベルH0の高さ位置で焦点を結ぶようにレーザ光Lを照射する装置である。
【0030】
第1湯面検出部に設けられる撮像部は、固体撮像素子(CCD)および光学系を有しており、トラフ4内のマグネシウム合金溶湯Mの表面から反射されるレーザ光Lの反射像を撮像し、この撮像された画像に基づいて電気信号を出力する。
【0031】
第1湯面検出部25の溶湯供給量制御部27は、前記反射したレーザ光の反射像により入力された電気信号に基づいた値を算出し、この値と、予め入力しておいた値とを、所定の演算処理を用いて比較することにより、トラフ4内のマグネシウム合金溶湯Mの湯面レベルと、目標湯面レベルH0との差を求め、その差を解消するための溶湯移湯系5の制御量を算出する。
【0032】
ここで、コントラスト値の最大値とは、レーザ照射部から照射されたレーザ光Lがマグネシウム合金溶湯Mの湯面Sで合焦したときのコントラスト値、すなわちマグネシウム合金溶湯Mの湯面レベルが目標湯面レベル(レーザ光Lの焦点位置)H0と一致したときコントラスト値である。マグネシウム合金溶湯Mの湯面レベルH1が目標湯面レベルH0から外れると、マグネシウム合金溶湯Mの湯面Sとレーザ光Lの焦点がずれることから、湯面Sからの反射像はピンぼけ状態となり、コントラスト値は、湯面Sとレーザ光Lの焦点との距離に対応して、その最大値より小さくなる。したがって、湯面Sからの反射像のコントラスト値と、コントラスト値の最大値とを、所定の演算処理を用いて比較することにより、トラフ4内のマグネシウム合金溶湯Mの湯面レベルと、目標湯面レベルH0との差が得られる。
【0033】
第2湯面検出部26は、例えばトラフ4内のマグネシウム合金溶湯Mの湯面Sに皮膜やドロスが生成されることによって、第1湯面検出部25による湯面Sの検出が不可能となった場合に、これによって検出された検出値に基づいて、マグネシウム合金溶湯Mの湯面レベルを制御するために用いられるものである。
この第2湯面検出部26は、天秤部34と撮像装置とを有している。
【0034】
図2に示すように、天秤部34は、蓋13の上面に立設された第1支軸39と、その中途部が第1支軸39に回転可能に取り付けられた第2支軸40と、その一端部が第2支軸40の一端部に回転可能に取り付けられた第3支軸41と、第3支軸41の他端部に連結されたフロート42と、第2支軸40の他端部に取り付けられた重り43と、第1支軸30と重り43の間に、蓋13の上面に立設されたスケール44とを有する。
この天秤部34は、第1支軸39と第2支軸40との接続部が天秤の支点を構成し、第2支軸40が天秤の両腕を構成する。
【0035】
第3支軸41は、蓋13に形成された貫通孔16に、気密的に挿通されており、フロート42が連結している側の半部がトラフ4内に挿入されている。また、この第3支軸41の他端部に連結されたフロート42は、トラフ4内の溶湯表面に浮いた状態となっている。
一方、第2支軸40の他端部に取り付けられた重り43は、フロート42の重量からフロート42にかかる浮力を差し引いた重量と略等しい重量を有しており、フロート42がマグネシウム合金溶湯Mの表面に浮いた状態で、フロート42と重り43とが釣り合うようになっている。これにより、フロート42は、溶湯M内に沈まずに溶湯Mの表面に保持される。
スケール44には、0を中心に、上側が−、下側が+の目盛45が付されている。
【0036】
このような天秤部34では、マグネシウム合金溶湯Mの表面が目標湯面レベルH0と一致しているときには、第2支軸40が、スケール44の0の位置と重なっている。そして、マグネシウム合金溶湯Mの表面が目標湯面レベルH0よりも低い位置になると、フロート42が下方に移動し、これに連動して第2支軸40の他端部が上方に移動する。これにより、スケール44上では、第2支軸40が−側に振れる。一方、マグネシウム合金溶湯Mの表面が目標湯面レベルH0よりも高い位置になると、フロート42が上方に移動し、これに連動して第2支軸40の他端部が下方に移動する。これにより、スケール44上では、第2支軸40が+側に振れる。
【0037】
前記第2湯面検出部26は、その近傍に固体撮像素子(CCD)および光学系を備え、第2支軸40およびスケール44を撮像し、この撮像された画像に基づいて電気信号を出力する。
第2湯面検出部に備えられている演算装置は、先の電気信号を増幅し、第2信号処理部は、入力された電気信号に基づいて、スケール44上で、第2支軸40が重なる目盛を求め、これに基づいてトラフ4内のマグネシウム合金溶湯Mの湯面レベルと、目標湯面レベルH0との差、および、その差を解消するための溶湯移湯系の制御量を算出する。
【0038】
溶湯供給量制御部28は、インバータ回路を有しており、このインバータ回路は溶湯ポンプ11のモータに接続されている。溶湯供給量制御部28は、前記第1検出部あるいは第2検出部から入力された算出データに基づいた周波数で、インバータ回路から電力を出力する。すなわち、算出データが0である場合には、現状の周波数で電力を出力し、算出データが正の値である場合には、現状よりも高いモータ電力を出力し、算出データが負の値である場合には、現状よりも低いモータ電力を出力する。これにより溶湯ポンプ11のモータの回転数が変化し、インペラの回転数が変化する。従って溶湯移湯系によってトラフ4内に移湯される溶湯供給量が変化し、マグネシウム合金溶湯Mの湯面レベルが目標湯面レベルH0に近づくように移動する。
このような一連の工程により、トラフ4内のマグネシウム合金溶湯Mの湯面レベルを目標湯面レベルH0に近い範囲に連続的に維持する。
その結果、一対の圧延ロール3a、3b間に、マグネシウム合金溶湯が適正な供給圧で安定に供給され、マグネシウム合金板が安定に製造される。
【0039】
次に、具体的な連続鋳造方法について、図1に示す連続鋳造装置を用いた場合を例にして説明する。
まず、マグネシウム合金インゴット8を用意する。
マグネシウム合金インゴット8は、マグネシウムを主な構成元素とし、これに各種金属を添加したものである。
添加する金属としては、Al、Zn、Mn等が挙げられ、このうち1種類が添加されていてもよく、2種類以上が添加されてもよい。
【0040】
Alは、1〜11%の範囲内で添加されていることが好ましく、2〜4%の範囲内で添加されていることがより好ましい。Alは、鋳造性、強度等の機械的性質および耐食性の向上を目的として積極的に添加されるものであるが、Alの添加量が11%を超えると、圧延工程における加工性が低下する。また、Alの添加量が1%未満では、十分な鋳造性、強度および耐食性が得られない。
Znは、2.0%以下の範囲内で添加されていても良い。Znは、Alと同様に、鋳造性と強度等の機械的性質の向上に寄与するものであるが、Znの添加量が2.0%を超えると、鋳造性が低下する。
Mnは、0.1〜0.5%の範囲内で添加されていることが好ましい。Mnは、耐食性を低下させる元素の影響を緩和する効果を有するものである。すなわち、Mnを添加することによって、耐食性を低下させる不純物元素であるFeの影響を緩和することができる。そして、特に、上記の範囲内で添加することによって、その効果を最も発揮することができ、0.5%を超えると連続鋳造圧延時に粗大な金属間化合物が生成し、圧延性が悪化する。
【0041】
次に、このマグネシウム合金インゴット8を、インゴット挿入口9から溶解炉2内に供給する。
溶解炉2内に供給されたマグネシウム合金インゴット8は、溶解炉2において溶解されてマグネシウム合金溶湯Mとなる。このマグネシウム合金溶湯Mは、溶湯移湯系5によって所定の供給量でトラフ4内に移湯される。
なお、このとき、トラフ4内に、目標湯面レベルH0となる溶湯量よりも過多の量で溶湯が供給された場合、過分のマグネシウム合金溶湯Mは、排出口20からオーバーフロー排出され、返送管18を通って溶解炉2へ返送される。したがって、このような返送経路により、トラフ4の収容部4bのマグネシウム合金溶湯Mの湯面レベルは、目標湯面レベルH0と概ね一致するように維持される。
【0042】
そして、さらに、この連続鋳造圧延装置1では、湯面レベル制御手段6が、トラフ内のマグネシウム合金溶湯Mの湯面レベルを、目標湯面レベルH0と近い範囲となるように精密に制御する。
溶湯供給量制御部28は、第1湯面検出部あるいは第2湯面検出部から入力された測定データに基づいた周波数で、溶湯ポンプ11のモータに電力を出力する。溶湯ポンプ11のモータの回転数が変化し、インペラの回転数が変化する。これにより、溶湯移湯系によってトラフ4内に移湯される溶湯供給量を変化させ、マグネシウム合金溶湯Mの湯面レベルを目標湯面レベルH0に近づくように移動する。
以上により、トラフ4内のマグネシウム合金溶湯Mの湯面レベルを、目標湯面レベルH0と近い範囲となるように精密に制御できる。
【0043】
トラフ4内にマグネシウム合金溶湯Mは、導入管4bを通過して、一対の圧延ロール3a、3b間の隙間に供給され、圧延ロール3a、3b間で連続鋳造圧延される。このとき、トラフ4の収容部4bの湯面レベルが目標湯面レベルH0と略一致していることにより、一対の圧延ロール3a、3bに適正な供給圧でマグネシウム合金溶湯が供給され、マグネシウム合金板を安定に製造することができる。
【0044】
また、マグネシウム合金を連続鋳造圧延する場合、マグネシウム合金溶湯Mの活性が非常に高いことから、その表面に酸化皮膜やドロスが形成され、これがレーザ光を用いた湯面Sの検出に影響することが考えられるが、この連続鋳造圧延装置1では、マグネシウム合金溶湯Mの表面に配したフロート42の上下動によって湯面Sを間接的に検出する第2湯面検出部26を併用しており、第1湯面検出部25の検出値に基づいて求められた制御量がエラーと判断された場合には、第2湯面検出部26の検出値に基づいて算出された制御量によって、溶湯移湯系5が制御される。したがって、長時間に亘る運転によって、溶湯の表面に皮膜やドロスが形成された場合でも、トラフ4内のマグネシウム合金溶湯Mの湯面レベルH1を、目標湯面レベルH0となるように連続して制御することができる。
【0045】
なお、前記実施形態において、連続鋳造圧延装置を構成する各部および連続鋳造圧延方法の各工程は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
例えば、天秤部によって、フロートを湯面上に浮かべる代わりに、マグネシウム合金溶湯よりも比重が軽く、且つ、耐火性を有するフロートを直接湯面上に浮かべ、このフロートの上下動を、計測することによって、湯面の変動を検出するようにしてもよい。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例によって本発明を更に詳しく説明する。
図1に示す連続鋳造圧延装置を用い、目標湯面レベルを42mm、板厚を2.5〜7mmに設定してマグネシウム合金板を製造した。
【0047】
マグネシウム合金の組成は、Alが2.94%、Znが0.97%、Mnが0.32%、残部がMgである。
また、装置の稼動中、溶解炉、供給管およびトラフ内に、不活性ガスとして、2%SF+COを5L/minの流量で導入した。
第2湯面検出部において、フロートとしては、薄い円柱型(50φ×15mm)に切り出した珪素カルシウム(商品名ルミボード:ニチアス株式会社製)を使用し、重りとしては、六角形に切り出したものを使用した。
また、スケールは、目標湯面レベルの42mmから±15mmの範囲に5mm間隔で目盛が付されたものを使用した。
【0048】
そして、この連続鋳造圧延装置の稼動中、トラフ内のマグネシウム合金溶湯の湯面レベルを連続的に測定した。その結果を図4に示す。
図4に示すように、トラフ内のマグネシウム合金溶湯の湯面レベルは、長時間に渡り目標湯面レベルと近い範囲に維持され、湯面レベルが精度よく制御できることが確認できた。
また、この際、トラフ内のマグネシウム合金溶湯について、ドロスおよびヒュームの発生状況を目視にて観察したところ、ドロスおよびヒュームはほとんど確認されず、溶湯は高い清浄度に維持されていた。
また、得られたマグネシウム合金板は、均一な品質を有しており、この連続鋳造圧延装置によって、マグネシウム合金板が安定に製造できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、連続鋳造圧延装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示す連続鋳造圧延装置が備える第1湯面検出部および第2湯面検出部を示す模式図である。
【図3】図3は、図1に示す連続鋳造圧延装置が備える第1湯面検出部を示す模式図である。
【図4】実施例において、マグネシウム合金溶湯の湯面レベルの経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
1 連続鋳造圧延装置
2 溶解炉
3 圧延ロール
4 トラフ
5 溶湯移湯系
6 湯面レベル制御手段
8 マグネシウム合金インゴット
11 溶湯ポンプ
11a 吸入口
11b 排出口
21、22、23、24 不活性ガス供給管
25 第1湯面検出部
26 第2湯面検出部
27 溶湯供給量制御部
34 天秤部
42 フロート
44 スケール
M マグネシウム合金溶湯
S 湯面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金溶湯を移湯する溶湯移湯系と、マグネシウム合金溶湯が収容されるトラフと、該トラフ内に収容されたマグネシウム合金溶湯の湯面の高さを、目標湯面高さと近い範囲に維持するように制御する湯面高さ制御手段と、
前記トラフに収容されたマグネシウム合金溶湯を、連続鋳造圧延してマグネシウム合金板を形成する圧延ロールを有し、
前記湯面高さ制御手段は、前記トラフ内に収容されたマグネシウム合金溶湯の湯面を検出する湯面検出部と、前記湯面検出部で検出された検出値に基づいて、前記トラフ内に収容されたマグネシウム合金溶湯の湯面の高さと、目標湯面高さとの差を求め、この差を解消するように前記トラフへのマグネシウム合金溶湯の供給量を制御する溶湯供給量制御部を備えたことを特徴とする連続鋳造圧延装置。
【請求項2】
前記湯面検出部は、前記トラフ内のマグネシウム合金溶湯の湯面に、レーザ光を照射するレーザ光照射部と、前記湯面から反射されるレーザ光に基づいた電気信号を出力する固体撮像素子と、信号処理部を有し、
前記信号処理部は、前記反射レーザ光による電気信号に基づいて、前記トラフ内のマグネシウム合金溶湯の湯面の高さと、目標湯面高さとの差を求め、その差を解消するための前記溶湯移湯系の制御量を算出するものであることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造圧延装置。
【請求項3】
前記溶湯移湯系は、前記溶解炉内のマグネシウム合金溶湯を、前記トラフ側に圧送するポンプを有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の連続鋳造圧延装置。
【請求項4】
前記トラフは、その内容部を気密的に囲む壁部を有し、このうち上側の壁部は、少なくとも前記レーザ照射部によって照射されるレーザ光の光線経路と重なる領域が、このレーザ光に対して透過性を有するように構成されている請求項1〜請求項3のいずれかに記載の連続鋳造圧延装置。
【請求項5】
前記トラフにマグネシウム合金溶湯を供給する基となる溶解炉、前記トラフおよび前記溶湯移湯系の内部は、連通した密閉空間であり、前記密閉空間に不活性ガスを導入する不活性ガス供給手段を有することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の連続鋳造圧延装置。
【請求項6】
前記湯面検出部は、前記トラフ内のマグネシウム合金溶湯の湯面上に浮上するフロートを備え、該フロートの位置に応じて前記トラフ内の湯面の高さを検出し、前記トラフ内のマグネシウム合金溶湯の湯面の高さと、目標湯面高さとの差を求め、その差を解消するための前記溶湯移湯系の制御量を算出する機能を具備したことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の連続鋳造装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の連続鋳造装置を用いることを特徴とするマグネシウム合金の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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