説明

連続鋳造方法

【課題】連続鋳造鋳片の不均一凝固に伴う縦割れとオシレーションマーク底部に発生する横割れを防止する。
【解決手段】継目無鋼管の素材となる、鋼中の炭素濃度が0.08質量%以上、0.18質量%以下の丸断面連続鋳造鋳片の鋳造において、1573Kにおける粘度が0.2Pa・s以上、0.8Pa・s以下のモールドパウダーを使用し、2.0m/min以上、4.0m/min以下の速度で連続鋳造して、鋳型と鋳片間の摩擦力を60kN/m2以下にする。
【効果】鋳片品質と操業能率の向上を両立することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンネスマン法に使用する丸断面鋳片を連続鋳造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
継目無鋼管の製造方法として、丸断面鋳片を回転させながら中心部の穿孔を行うマンネスマン法がある。このマンネスマン法に表面欠陥が存在する鋳片を使用した場合、製管時に前記表面欠陥を起点として破断或いは被れ状の疵が発生し、製管後の手入れやスクラップ化が必要となって、コスト悪化の原因となる。
【0003】
従って、継目無鋼管の素材となる丸断面鋳片を連続鋳造する場合に、製造する鋳片の表面品質は重要である。
【0004】
ところで、連続鋳造鋳片の表面欠陥は初期凝固異常により発生し、凝固シェルの不均一冷却による縦割れや、鋳型のオシレーションマークの主に谷部を起点として発生する横割れがある。また、炭素濃度が0.08質量%以上、0.18質量%以下の亜包晶鋼領域では、初期凝固時の体積収縮が大きく、鋳片表面欠陥が発生しやすいことが知られている。
【0005】
前記表面欠陥対策として、一般には、鋳型のオシレーションのハイサイクル化によるパウダーの均一流入、ショートストローク化によるオシレーションマーク深さの低減、緩冷却モールドパウダーの使用による鋳型内抜熱量の低下などの方法が採られてきた。
【0006】
しかしながら、能率向上を目的として鋳造速度を高速化した場合、前記のハイサイクル化やショートストローク化では、鋳型と鋳片間へのモールドパウダーの流入量が減少するので、鋳片の抜熱量が増加して鋳片の表面品質を確保することができない。
【0007】
そこで、特許文献1では、横割れの起点となるオシレーションマークの深さ(鋳片表面からオシレーションマーク底部までの深さ。)の低減とモールドパウダーの流入量確保を目的に、オシレーション振動時に当該振動と同期して磁界強度を変化する交番磁界を印加する方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1で開示された方法では、メニスカス付近に電磁コイルを設置し、強度の変化する磁界を印加する必要があり、湯面変動(メニスカスの上下動)が大きくなる高速鋳造には適していない上、磁界強度を変化する交番磁界を発生させるための新たな電磁コイルが必要となり、設備設置費用が問題となる。
【0009】
また、特許文献2では、鋳型の振動を、通常のオシレーション方向である鉛直方向(鋳込方向)に加えて水平方向にも振動させることで、凝固シェルの変形を防止し、オシレーションマークの抑制を行う方法が開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献2で開示された方法は、組み立て鋳型と異なり、丸断面鋳型等に使用されるチューブラー鋳型に適用することができない。
【0011】
一方、特許文献3では、2〜10m/分で高速連続鋳造する場合に、ブレイクアウトの発生および鋳片表面の縦割れ発生を防止し、安定して良好な表面品質の鋳片を得ることができる薄鋳片の連続鋳造方法が提案されている。この方法は、鋳型内壁と凝固殻との間の摩擦力を6.37×10-2N/mm2以下に、かつ鋳型による凝固殻からの抜熱量Q(MW/m2)を、鋳造速度Vc(m/分)で規定されるBの値(=0.30×(1+Vc))の0.7倍から1.1倍の間の値に調整するものである。
【0012】
しかしながら、特許文献3で開示された方法は薄スラブを対象としたものであり、鋳型内壁と凝固殻との間の摩擦力の該値に低減するためのモールドパウダー物性に対する記載はない。また、丸断面連続鋳造鋳片での鋳型内壁と凝固殻との間の摩擦力に対する記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平5−115952号公報
【特許文献2】特開平6−198409号公報
【特許文献3】特開2001−129648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
表面品質の良好な連続鋳造鋳片を製造することを目的とした、特許文献1、2で開示された方法を実施するには、新たな電磁コイルが必要になったり、オシレーション装置が複雑化するという問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の連続鋳造方法は、
継目無鋼管の素材となる、鋼中の炭素濃度が0.08質量%以上、0.18質量%以下の初期凝固時の体積収縮が大きい丸断面連続鋳造鋳片の鋳造において、
凝固シェルの不均一冷却による縦割れとオシレーションマークを起点として発生する横割れを、上記従来方法にあった問題点を解決しつつ防止するために、
1573Kにおける粘度が0.2Pa・s以上、0.8Pa・s以下のモールドパウダーを使用し、2.0m/min以上、4.0m/min以下の速度で連続鋳造して、鋳型と鋳片間の摩擦力を60kN/m2以下にすること最も主要な特徴としている。
【0016】
上記本発明では、新たな電磁コイルが必要になったり、オシレーション装置を複雑化することなく、表面品質の良好な連続鋳造鋳片を製造することができる。
【0017】
本発明においては、凝固点が1273K以上、CaO/SiO2で表されるモールドパウダー中の質量比(塩基度)が0.8〜1.0、Na2O量が3.0質量%以下、F濃度が5.0質量%以下、MgO量が8.0質量%以下、AL2O3量が5.0質量%以下のモールドパウダーを使用することが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、粘度が0.2Pa・s以上、0.8Pa・s以下の低粘性のモールドパウダーを2.0m/min以上、4.0m/min以下の速度で高速鋳造して、鋳型と鋳片間の摩擦力を60kN/m2以下とすることで、鋳片品質と操業能率の向上を両立することができる。そして本発明の実施に際し、新たな電磁コイルを必要としたり、オシレーション装置を複雑化することもない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】鋳造速度と溶鋼過熱度の関係を示した図である。
【図2】鋳造速度と初期凝固シェルの関係を示した図である。
【図3】鋳造速度と熱電対変動標準偏差の関係を示した図である。
【図4】ネガティブストリップ時間率とオシレーションマーク深さの関係を示した図である。
【図5】モールドパウダーの粘度と鋳型と鋳片間の摩擦力の関係を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明では、新たな電磁コイルを必要としたり、オシレーション装置を複雑化することなく、縦割れと横割れを防止するという目的を、低粘性のモールドパウダーを高速鋳造して、鋳型と鋳片間の摩擦力を60kN/m2以下とすることで実現した。
【実施例】
【0021】
以下、従来の問題点を解決するために発明者らが行った実験と、この実験結果に基づいて成立した本発明の形態例を、図1〜図5を用いて説明する。
【0022】
初期凝固の異常により発生する連続鋳造鋳片の欠陥として、凝固シェルの不均一冷却による縦割れと、オシレーションマークが深くなることにより発生する横割れが存在する。
【0023】
初期凝固時の不均一冷却によって発生する不均一凝固は、鋳型と鋳片間へのモールドパウダーの局部的な流入量差、鋳型形状の違いにより、冷却条件が凝固シェルの位置ごとに異なるために発生する。
【0024】
これらの課題に対し、従来は、緩冷却モールドパウダーを使用して不均一凝固を抑制することによって縦割れを防止し、オシレーションの振幅を小さくするショートストローク化により凝固シェルのオシレーションマーク谷部の深さを抑制して横割れを防止するという方法が採られてきた。
【0025】
しかしながら、この方法は、先に説明したように、鋳造速度を高速化した場合、前記のハイサイクル化やショートストローク化では、鋳型と鋳片間へのモールドパウダーの流入量が減少するので、鋳片の抜熱量が増加して鋳片の表面品質を確保することができない。
【0026】
そこで、上記の課題に対し、高速鋳造時におけるモールドパウダーの、鋳型と鋳片間への均一流入、初期凝固シェルの薄肉化による均一成長、低粘性のモールドパウダー適用による鋳型と鋳片間の摩擦抵抗の減少を図り、高速鋳造における縦割れ、横割れの防止を両立させることを考えた。
【0027】
連続鋳造の初期凝固における不均一冷却の原因として、モールドパウダーの鋳型と鋳片間への不均一流入と初期凝固シェルの体積収縮が挙げられる。
【0028】
連続鋳造に用いられるモールドパウダーは鋳型内に粉末状で供給され、溶鋼からの熱供給によって溶融し、鋳型と鋳片の間に流入していく。このため、鋳造速度が低速の場合や鋳型内の溶鋼過熱度(溶鋼温度の液相線温度からの差分)が不足している場合、モールドパウダーへの熱供給不足によりモールドパウダーの滓化が不完全なものとなり、鋳型と鋳片間へのモールドパウダーの流入が不均一になる。
【0029】
これに対して、鋳造速度を高速化すれば、図1に示すように、鋳型内の溶鋼表面への熱供給が増加するため、モールドパウダーの滓化が促進され、モールドパウダーの流入が安定する。なお、図1は内直径が191mmの鋳型内に0.8Pa・sの粘度のモールドパウダーを供給した場合の結果である。
【0030】
連続鋳造時に形成される初期凝固シェルは、鋳型からの冷却によりδ相からγ相に変態し、結晶構造の体積の違いから体積収縮を起こす。この際、鋳型に設けたテーパ量が適正でないと、体積収縮により凝固シェルが鋳型より離れ、不均一凝固の原因となる。
【0031】
しかしながら、鋳型のテーパ量は、鋼種を変更する毎に変更することができない。
そこで、発明者らは、連続鋳造機固有の凝固係数と鋳造速度を用いて、下記数式1より計算することができる初期凝固シェル厚が、図2に示すように、鋳造速度の高速化に伴い薄肉化することに着目した。なお、本願明細書における初期凝固シェル厚は、メニスカスから鋳造方向へ50mmの位置での計算値を示す。
【0032】
【数1】

【0033】
発明者らは、鋳造速度を高速化して初期凝固シェル厚を薄肉化することで、体積収縮量の減少による不均一凝固を抑制することを試み、2.0m/min以上の高速鋳造領域での鋳造試験を行った。その際、高速鋳造に伴う初期凝固シェルの薄肉化により、ブレイクアウトの危険性があるため、鋳造速度の上限を4.0m/minとした。
【0034】
その結果、発明者らは、2.0m/min以上、4.0m/min以下の高速での後述する連続鋳造試験により、図3に示すように、鋳片表面の不均一凝固を示す鋳型内熱電対の温度変動標準偏差を抑制することが可能であることを見出した。なお、図3中の温度変動標準偏差は、鋳型上端より鋳造方向下流側に200mm隔てた位置に埋め込んだ熱電対により温度測定を行い、鋳込定常部の測定値より計算を行って求めた。
【0035】
連続鋳造では、鋳型と鋳片間の摩擦低減と、モールドパウダーの流入量の適正化を目的として、鋳造速度に応じて鋳型を鋳片に沿う形で振動(オシレーション)させている。
【0036】
このオシレーションのストローク延長により、ネガティブストリップ時間率が増え、モールドパウダー供給量も増加するが、同時に凝固シェルの溶鋼側への倒れ込み変形時間が増加する。そのため、オシレーションマークの深さが深くなる(図4参照)。なお、ネガティブストリップ時間率とは、下記数式2に示すように、鋳造速度と鋳型平均下降速度との差の鋳造速度に対する割合をいう。
【0037】
【数2】

【0038】
凝固シェルは、鋳型との摩擦により凝固シェルの引き抜き方向(鋳造方向)と逆方向の抵抗を受けるため、凝固シェルの表面に深いオシレーションマークが存在した場合、その谷部のノッチ効果により凝固シェルが破断し横割れが発生する。
【0039】
この横割れ対策としては、ショートストローク化によるオシレーションマーク深さの低減が有効であるが、ショートストローク化はモールドパウダー供給量の減少を招き、高速での鋳造時にはモールドパウダーの供給量が不足して表面品質悪化の原因となる。
【0040】
このモールドパウダーの供給量不足に対しては、低粘性のモールドパウダーを使用して鋳型と鋳片間の摩擦力を減少することで、対応することができる。しかしながら、モールドパウダーの粘度を大幅に低下した場合、モールドパウダーの過剰流入によりパウダー噛み込み等の表面品質悪化を招く。
【0041】
発明者らは、このモールドパウダーの最適な粘性範囲を得るため、継目無鋼管の素材となる、鋼中の炭素濃度が0.08質量%以上、0.18質量%以下の溶鋼を丸断面の鋳型に鋳込み、2.0m/min以上、4.0m/min以下の高速で連続鋳造した。
【0042】
その結果、1573Kにおける粘度が0.2Pa・s以上、0.8Pa・s以下の低粘性のモールドパウダーを使用することで、鋳型と鋳片間の摩擦力の60kN/m2以下への制御とモールドパウダーの適正流入を両立し、縦割れと横割れの発生を防止することができた。これが請求項1の発明である。
【0043】
上記のように、本発明の連続鋳造方法に使用するモールドパウダーは、上記範囲の粘度と鋳型内での安定した結晶化による鋳型内抜熱の適正化の両立が求められる。このため、上記粘度に加えて、凝固点が1273K以上、CaO/SiO2で表されるモールドパウダー中の質量比(塩基度)が0.8〜1.0、Na2O量が3.0質量%以下、F濃度が5.0質量%以下、MgO量が8.0質量%以下、AL2O3量が5.0質量%以下であることが望ましい。これが請求項2の発明である。なお、粘度は1573Kに保持した溶融モールドパウダー中に振動片を浸漬し、振動時の粘性抵抗より測定した。
【0044】
発明者らは、丸断面鋳型での鋳型と鋳片間の摩擦力とモールドパウダーの粘度を把握するため鋭意調査を行った。
2.8m/minの鋳造速度の場合における、モールドパウダーの粘度ごとの、鋳型(内直径:191mm)と鋳片間の摩擦力を図5に示す。この図5に示した鋳型と鋳片間の摩擦力は、オシレーション振動を発生させる油圧シリンダーの油圧を測定し、鋳型の表面積より鋳型に作用する面積当りの平均荷重を求め、鋳造していない状態との荷重の差より求めたものである。
【0045】
目標の成分及び温度に調整した溶鋼を、取鍋、タンディッシュ、浸漬ノズルを介して内直径が191mm〜225mmのサイズの鋳型にて鋳込んだ。鋳造速度を2.0m/min以上、4.0m/min以下の範囲にして、粘度が0.2Pa・s以上、0.8Pa・s以下の、請求項2の発明の成分範囲であるモールドパウダーを使用して鋳込みを行い、二次冷却帯を出た鋳片を製管長さまで切断し、鋳片を無手入れでマンネスマン法により製管した。
【0046】
その結果を下記表1及び図3に示す。なお、下記表1における縦割れ及び横割れの評価は、割れ無しの場合を○、手入れ除去が可能な割れがある場合を△、手入れ除去が不可能な割れがある場合を×とした。
【0047】
【表1】

【0048】
図3に示すように、鋳造速度の高速化に伴い、鋳片の不均一凝固の発生を示す、鋳型壁面に設置された熱電対の温度変動標準偏差は低下した。
【0049】
また、表1に示すように、発明例1〜5は、何れの場合も鋳片に縦割れ及び横割れの発生はなかった。
【0050】
一方、粘度が本発明で規定する範囲より高い比較例1,4,7,8は、鋳造速度が本発明の範囲内の高速鋳造でも、鋳型と鋳片間の摩擦力が60kN/m2以上となって、オシレーションマークを起点とする横割れが発生した。加えて、比較例4,8は不均一凝固による縦割れも発生した。
【0051】
反対に、粘度が本発明で規定する範囲より低い比較例3は、鋳造速度が本発明の範囲内の高速鋳造で、鋳型と鋳片間の摩擦力が60kN/m2以下であっても、モールドパウダーの過剰流入による縦割れが発生し、表面品質が悪化した。
【0052】
また、鋳造速度が本発明の範囲内の高速鋳造でない比較例1,2,5,6については、粘度が本発明で規定する範囲の低粘性の場合の比較例2,5,6はもとより、本発明で規定する範囲より高い場合の比較例1であっても、初期凝固時の不均一凝固による縦割れが発生した。
【0053】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
継目無鋼管の素材となる、鋼中の炭素濃度が0.08質量%以上、0.18質量%以下の丸断面連続鋳造鋳片の鋳造において、
1573Kにおける粘度が0.2Pa・s以上、0.8Pa・s以下のモールドパウダーを使用し、2.0m/min以上、4.0m/min以下の速度で連続鋳造して、鋳型と鋳片間の摩擦力を60kN/m2以下にすることを特徴とする連続鋳造方法。
【請求項2】
前記モールドパウダーは、凝固点が1273K以上、CaO/SiO2で表されるモールドパウダー中の質量比(塩基度)が0.8〜1.0、Na2O量が3.0質量%以下、F濃度が5.0質量%以下、MgO量が8.0質量%以下、AL2O3量が5.0質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−183569(P2012−183569A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49244(P2011−49244)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】