説明

連続鋳造機の湯面レベル制御装置及び制御方法

【課題】連続鋳造機の鋳型内湯面レベルの制御において、非定常バルジングによる湯面レベル変動の発生の有無及び周期を自動的に検出し、最適な制御を使い分け良好な湯面レベル制御を実現する。
【解決手段】湯面レベル計によって鋳型内の湯面レベルを実測し、タンディッシュのスライディングノズルの開度を調整することで鋳型内への溶融金属の流入量を制御する湯面レベル制御方法において、外乱推定部によって計算される外乱推定値に基づき、非定常バルジング起因の周期性外乱の有無及び、変動周期を高速かつ的確に判定し、前記判定結果に基づき、常に最適な制御方式を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属の連続鋳造において、湯面レベル計によって鋳型内の湯面レベルを実測し、タンディッシュのスライディングノズルによって鋳型内への溶融金属の流入量を制御する湯面レベル制御装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業等の金属製造業の連続鋳造機において鋳型内の溶融金属の湯面レベルを制御することは、安定操業上のみならず、鋳造した鋳片の品質確保上にも極めて重要なことである。
通常の連続鋳造においては、鋳型上のタンディッシュから溶融金属を鋳型に連続的に注いで、鋳型の下から表面が凝固した鋳片を連続して徐々に引き抜いて、スラブやビレット等の鋳片を製造する。鋳型内で湯面レベルが変動すると、溶融パウダーを溶融金属中に巻き込んで介在物が生成され鋳片品質不良の原因となり、あるいは不均一な抜熱により鋳片に割れが生じることもある。さらに鋳型内で湯面が過剰に上昇すると鋳型壁上端から溶融パウダーや溶融金属がオーバーフローする事故につながり、逆に湯面が過剰に降下すると凝固した鋳片表面が破れるブレークアウトの原因となることがある。
【0003】
連続鋳造においてはタンディッシュから鋳型への溶融金属注入量を制御するために、タンディッシュ下部にスライディングノズルが設けらており、このスライディングノズルの開度を調整することによって鋳型内への溶融金属注入量を調整することができる。そして、鋳型内溶融金属の湯面レベルを渦電流式等の湯面レベル計により実測し、湯面レベル実測値が湯面レベル目標値に一致するようにスライディングノズル開度を調整し、溶融金属注入量を制御する湯面レベル制御が行われている。湯面レベル制御においては、湯面レベル実測値を湯面レベル目標値に一致させるように制御を行うフィードバック制御が行われる。
【0004】
ところが、上記フィードバック制御を行っているにもかかわらず、周期的な湯面レベル変動が発生することがある。この周期的な湯面レベル変動は、非定常バルジングと呼ばれる現象に起因していると考えられている。バルジングとは、鋳型の下方に引き抜かれる鋳片表面の凝固シェルが、鋳片の引き抜き経路に沿って設設された複数のガイドロール間で外側に膨らむ現象である。このバルジングの膨らみの度合いを維持したまま、鋳片が引き抜かれていくときは、凝固シェルの形状は変化しない。このとき、凝固シェルで囲まれた溶融金属プールの容積は一定に保たれており、周期的な湯面レベル変動は発生しない。しかし、凝固シェルの形状が不均一となると、ガイドロール間を鋳片が移動する際に凝固シェルで囲まれた溶融金属プールの容積が変動し、周期的な湯面レベル変動が生じるものと考えられる。このような現象は非定常バルジングと呼ばれている。このような非定常バルジングに起因する周期的な湯面レベル変動は、PI制御のような通常のフィードバック制御では、効果的な抑制が困難であり、変動が徐々に拡大して大きな振幅の変動となってしまうことがある。
【0005】
このような事情により、従来から非定常バルジングに起因する周期的な湯面レベル変動の抑制を図った湯面レベル制御方法が種々提案されている。
【0006】
特許文献1では、注湯手段の開度変更量を、湯面レベル実測値と目標レベルとの偏差を入力とするPI演算により求める。一方、注湯手段の開度及び鋳型内部の湯面レベルの検出値を入力とするオブザーバにより、周期的なレベル変動を引き起こす外乱を正弦波状に変化する流量外乱として推定し、この推定値を用いて外乱を打ち消し得る補正信号を求めて前記開度変更量に加算することにより、周期的な湯面レベル変動の抑制を図る方法を提案している。
【0007】
また、特許文献2では、注湯手段の開度変更量を、湯面レベル検出実績と目標レベルとの偏差を入力とするPI演算により求める。一方、前記偏差を特定の周波数に対応する位相進み補償器に与え、当該位相進み補償器の出力信号を前記開度変更量に加算することにより湯面レベル変動の抑制を図る方法及び装置を提案している。
【0008】
また、特許文献3では、注湯手段の開度変更量を、湯面レベル検出実績と目標レベルとの偏差を入力とするPI演算により求める。一方、鋳込み速度をスケジューリングパラメータとするゲインスケジューリングH∞制御理論により設計した補償器を備え、前記偏差を入力とする当該補償器の出力信号を前記開度変更量に加算することによりレベル変動の抑制を図る装置を提案している。
【0009】
また、特許文献4では、目標レベルと湯面検出レベルとの偏差を用い、注湯手段に必要とされる開度変更量を求める。一方、前記目標レベルと前記検出レベルとの偏差を用い、制御系の感度関数及び相補感度関数のゲインを所定の周波数に対して低減すべく、前記開度変更量に加える開度補正量を求め、当該開度補正量により前記開度変更量を補正して前記開度指令とする湯面レベル制御方法及び装置を提案している。
【0010】
ところで上記の湯面の変動以外にも、フィードバック制御を行っており、周期的な湯面レベル変動が発生していないときにおいても、湯面レベルには変動が発生することがある。すなわち、ゆったりとした湯面レベルの変動や、突発的に湯面レベルが上昇又は下降するような変動が見受けられる。これらの変動は、浸漬ノズルの流量特性の変化に起因していると考えられている。突発的な湯面の上昇・下降は、浸漬ノズル内に比較的大きな介在物が付着、あすいは付着した介在物が剥離することにより、鋳型内への溶鋼注入量が急激に変動することに起因と考えられる。また、ゆったりとした変動は、浸漬ノズル内部で、介在物が徐々に付着、剥離を繰り返していることにより、浸漬ノズル内の溶鋼流量が時々刻々と変化することに起因すると考えられる。これらの浸漬ノズルの流量特性に起因する変動は、前記の周期的な湯面レベル変動と同等もしくはそれ以上に鋳片品質、操業の安定に影響を与える。特に、介在物の突発的な詰まりによる急激な湯面の低下は、鋳片外側の凝固シェルの成長に大きな影響を与えるため、ブレークアウトを引き起こす懸念が大きい。
【0011】
上記の浸漬ノズルの流量特性の変化に起因する変動は、PI制御のような通常のフィードバック制御では、十分に抑制することができないため、これらの変動の抑制を図った制御が提案されている。特許文献1では、注湯手段の開度変更量を、湯面レベル実測値と目標レベルとの偏差を入力とするPI演算により求める一方、注湯手段の開度及び鋳型内部の湯面レベルの検出値を入力とする外乱推定オブザーバにより、ノズル内の流量変動を引き起こす外乱をランプ状に変化する流量外乱として推定し、この推定値を用いて外乱を打ち消し得る補正信号を求め、開度変更量に加算することにより、流量外乱に起因するレベル変動の抑制を図る方法を提案している。
【0012】
【特許文献1】特開平5−23811号公報
【特許文献2】特開平10−314911号公報
【特許文献3】特開平11−77268号公報
【特許文献4】特開2001−129647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、連続鋳造設備の鋳型内の溶融金属の湯面レベル制御方法において、非定常バルジング起因の周期的な湯面レベル変動を抑制する方法、及び浸漬ノズル内の流量特性の変化に起因する変動を抑制する方法は種々提案されている。しかし、実際の連続鋳造設備の操業においては、前述した二種類の変動のうち、一方のみが問題となるわけではなく、同時に問題となっている場合が多い。そのため、非定常バルジング起因の周期的な湯面レベル変動を抑制する方法、及び浸漬ノズル内の流量特性の変化に起因する変動を抑制する方法の両者の特性を同時に実現する方法、又は、各々の特性を持つ制御方法を最適に使い分ける方法が望まれていた。
【0014】
しかしながら、上記の浸漬ノズルの流量特性の変化による湯面レベル変動、及び非定常バルジングに起因する周期性変動の両者を同時に抑制を狙い、複数の従来技術の組合せ(例えば、周期的な湯面レベル変動を抑制する方法として特許文献3で提案しているゲインスケジューリングH∞制御、浸漬ノズル内の流量特性の変化による変動を抑制する方法として特許文献1で提案している、ランプ状の外乱を仮定したオブザーバの組み合わせ)を行うと、波立ちと呼ばれる高周波の変動を助長してしまう傾向があった。それぞれの制御のゲインを抑えることで波立ちはある程度抑えることができるが、その場合は、各々の制御方法が狙いとする変動の抑制効果は不十分であるという問題があった。
【0015】
また、これまでの知見により、非定常バルジング起因の周期的な湯面レベル変動は、2000mm以上の広い鋳型幅で鋳造する場合、あるいは、サポートロール帯での冷却水の噴霧による鋳片の冷却をゆっくりと行う必要がある鋼種において発生しやすいことがわかっている。一方で、流量特性の変化に起因する湯面レベル変動は、常時発生する変動であることがわかっている。そこで、鋼種情報、鋳型幅などの操業パターンに基づき、周期的な湯面レベル変動の発生しやすい操業パターンでは、周期的な湯面レベル変動の抑制を図る制御を用い、一方、周期性変動が発生しにくい操業パターンでは、流量特性の変化に起因する変動の抑制を図る制御を用いる、といった複数の制御方法の使い分けも行われてきた。しかし、湯面レベルの変動の発生状況は時々刻々と変化しており、周期的な湯面レベル変動の発生しやすい操業パターンであっても、鋳造開始から最後まで周期的な湯面レベル変動が発生し続けるとは限らない。逆に、周期的な湯面レベル変動の発生しにくい操業パターンであっても、大きな周期的な湯面レベル変動が発生する場合があり、最適な制御の使い分けは難しという問題があった。
【0016】
また、オペレータが湯面レベル実測値のチャートを監視し、周期的な湯面レベル変動の発生状況を見極め、上記の制御の切換を行う方法も行われてきた。しかし、オペレータにより、切換の判断が異なる点、及び常時監視できないため切換が遅れる点において問題があった。
【0017】
さらに、上記に示した二つの例のように異なる特性を持つ制御を使い分ける方法は、使い分けがうまくいっている場合は効果があるが、誤った使い分け行った場合に湯面レベル変動をかえって増幅してしまうことがあった。周期的な湯面レベル変動の抑制を図る制御は、浸漬ノズル内へ介在物の付着、あるいは付着した介在物の剥離による突発的な湯面の下降、上昇に対して過剰に反応して操作端を動かしてしまい、湯面レベルを変動を増大させてしまう問題があった。
【0018】
以上の状況に鑑みて、本発明は湯面レベル制御において、湯面レベル変動の発生状況を高速かつ適切に検知し、変動の発生状況の変化に高速に適応して常に最適な制御を用いることにより、常に安定した湯面レベルの制御装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)本発明の連続鋳造機の湯面レベル制御装置は、溶融金属の連続鋳造機において、鋳型内の湯面レベルを湯面レベル計で測定し、該湯面レベルの実績値を基にしてタンディッシュのスライディングノズルの開度を調節して鋳型内への溶融金属の注入量を制御する連続鋳造機の湯面レベル制御装置において、前記湯面レベル計の実績値と予め設定した湯面レベル目標値とに基づいてスライディングノズル開度指令値を導出し、スライディングノズルアクチュエータを制御して前記スライディングノズルの開度を調節するフィードバックループ、並びに、前記スライディングノズルの開度の実績値と前記湯面レベルの実績値とに基づき溶融金属の鋳型内への注入時の外乱を推定して外乱推定量を導出する外乱推定部、及び該外乱推定量について鋳造長に関するフーリエ成分振幅を導出する、鋳造長に基づくFFT演算部を有し、該フーリエ成分振幅に基づき鋳型下方の鋳造材の非定常バルジング発生による鋳型内の湯面レベルの周期的変動の有・無を判定し、周期的変動の有・無それぞれの場合に、予め設定した制御方式を選択して、前記フィードバックループによるスライディングノズル開度指令値を補正する開度補正量を演算して出力する、スライディングノズルの開度補正量を導出するループ、で構成されことを特徴とする。
(2)本発明の連続鋳造機の湯面レベル制御装置は、(1)に記載の連続鋳造機の湯面レベル制御装置において、前記スライディングノズルの開度補正量を導出するループは、前記外乱推定部が、前記スライディングノズルの開度の実績値と前記湯面レベルの実績値とに基づき所定のオブザーバを用いて溶融金属の鋳型内への注入時の外乱推定量を導出するもので、前記鋳造長に基づくFFT演算部が、該外乱推定量について鋳造長に関するフーリエ振幅を導出するものであり、さらに、該外乱推定量のフーリエ成分振幅のピークの空間周波数を検出して非定常バルジング発生ロールピッチを求める出力するピーク検出部と、該非定常バルジング発生ロールピッチと鋳造速度とにより非定常バルジング発生角周波数をリアルタイムで求める演算部と、前記外乱推定量から該非定常バルジング発生角周波数の周期性外乱量を抽出する演算部と、該周期性外乱量の強度及び前記非定常バルジング発生角周波数に応じて最適な開度補正量のための制御手段及び制御パラメータを決定する制御方式判定・制御ゲイン演算部と、該決定に基づき前記フィードバックループのスライディングノズル開度指令値を補正する開度補正量を導出する開度補正量演算部とからなることを特徴とする。
(3)本発明の連続鋳造機の湯面レベル制御方法は、溶融金属の連続鋳造機において、鋳型内の湯面レベルを湯面レベル計で測定し、該湯面レベルの実績値を基にしてタンディッシュのスライディングノズルの開度を調節して鋳型内への溶融金属の注入量を制御する連続鋳造機の湯面レベル制御方法において、前記湯面レベル計の実績値と予め設定した湯面レベル目標値とに基づきスライディングノズル開度指令値を導出し、スライディングノズルアクチュエータを制御して前記スライディングノズルの開度を調節するフィードバック工程、並びに、前記スライディングノズルの開度の実績値と前記湯面レベルの実績値とに基づき溶融金属の鋳型内への注入時の外乱を推定して外乱推定量を導出する外乱推定工程、及び該外乱推定量について鋳造長に関するフーリエ成分振幅を導出する、鋳造長に基づくFFT演算工程を有し、該フーリエ成分振幅に基づき鋳型下方の鋳造材の非定常バルジング発生による鋳型内の湯面レベルの周期的変動の有・無を判定し、周期的変動の有・無それぞれの場合に、予め設定した制御方式を選択して前記フィードバックループによるスライディングノズル開度指令値を補正する開度補正量を演算して出力する、スライディングノズルの開度補正量を導出する工程で構成されことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、連続鋳造機の鋳型内部における変動の原因となる外乱を湯面レベル測定値に基づき推定し、推定した外乱について鋳造長に関するFFT解析によって、非定常バルジングの発生による周期性変動の有無を判定するようにしたので、周期性変動発生状況に応じて最適な制御を実施することにより、常に安定した湯面レベルを実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の形態を鉄鋼業における連続鋳造機を1例として、図および数式を用いて詳細な説明を行う。なお、各図において同一物又は機能の部分には同一の符号を付して重複をさける。
図2に本実施の形態の連続鋳造機の湯面レベル制御装置を適用する連続鋳造機の側方断面を模式図で示す。タンディッシュ16から鋳型25内に注入する溶融金属(溶鋼)15の流量制御にはスライディングノズル17を用いており、スライディングノズル17を駆動するアクチュエータ19には油圧シリンダを用いている。湯面レベル計18としては、渦流式レベル計を備えている。
【0022】
図1は本実施の形態の湯面レベル制御装置の機能構成を表すブロック線図である。図3は、当該湯面レベル制御装置の一例の詳細を表すブロック線図である。
【0023】
<ブロック線図の概要>
図1及び図3に示す、本発明の制御方式のブロック線図はフィードバックループ、及び最適なスライディングノズル17の開度補正量を演算するループにより構成される。
【0024】
フィードバックループでは、予め設定された鋳型内湯面レベルの目標値と、湯面レベル計18(図1の7)によって測定した鋳型内湯面レベル実績値との偏差に基づき、フィードバック制御の位置指令値を演算し、当該位置指令値に基づきアクチュエータ19を駆動してスライディングノズル17を動かして開度を調整することにより、鋳型内への溶鋼注入量を調整し、鋳型内湯面レベル実績値を鋳型内湯面レベルの目標値との偏差をなくすようにフィードバック制御を行う。
【0025】
(フィードバックループ)
1は、予め設定された鋳型内湯面レベルの目標値と、湯面レベル計18によって測定した鋳型内湯面レベル実績値とを比較して、湯面レベルの偏差を出力する比較器である。2は、比較器1から入力された湯面レベルの偏差に基づき、スライディングノズル17の開度を指令するスライディングノズル位置指令を演算して第1の加算器3に出力するフィードバック制御演算部である。
【0026】
第1の加算器3では、入力されたスライティングノズル位置指令値と後述するスライディングノズル開度補正信号とが加算され、スライディングノズルアクチェエータ19に出力される。図1でスライディングノズル動特性4を、スライティングノズル17及びアクチェエータ19の動特性を時定数Tの一次遅れと仮定した伝達関数で示す。スライティングノズル動特性4からは、スライディングノズルの実際の位置(開度を示す)を、アクチェエータ19に取り付けられ位置センサ(図示せず)で測定されて、スライディングノズル位置実績値として出力される。
【0027】
5は、浸漬ノズル23の流量特性を示す。タンディッシュ16から浸漬ノズル23を経て鋳型25に流入する溶鋼の流入流量値は、上記のスライディングノズル位置実績値と比例関係(比例定数を流量係数Kとする)を保っていると仮定する。
【0028】
第2の加算器6は、浸漬ノズル23のノズル詰り等の流量外乱dが生じた場合に、その流量外乱dを上記の流入流量値に加えて、溶鋼総流入量値として算出し、その溶鋼総流入量値の溶鋼が鋳型25に流入する様子を表す。
【0029】
7は鋳型内現象を表しており、上記の溶鋼総流入量値と湯面レベル計18で測定される鋳型内湯面レベルとの関係を示す伝達関数で表している。この鋳型内現象7で、Aは鋳型内の水平断面積、sはラプラス演算子である。以上の構成により、鋳型内湯面レベル実績値を鋳型内湯面レベル目標値に一致させるべく作用するフィードバックループを形成する。
【0030】
(スライディングノズルの開度補正量を導出するループ)
本実施の形態の湯面レベル制御装置は、上記フィードバックループに加え、鋳型内の湯面レベルの変動状況に応じて最適なスライディングノズルの開度補正量を演算するループを有する。以下に示す当該ループにおける信号処理の概略手順で、最適なスライディングノズルの開度補正量を演算する。
(ステップ1)図1に示す外乱推定部8にて上記の湯面レベル実測値及び上記のスライディングノズル開度実測値に基づき、湯面レベル変動の原因となる外乱推定量d1を演算する。
(ステップ2)当該外乱推定量d1と、凝固しつつある鋳片が移動する速度である鋳造速度VCとから、湯面レベルの周期性変動の原因となる非定常バルジングの発生の原因となったロールピッチRPを同定する。
(ステップ3)上記で同定したロールピッチRPからリアルタイムに非定常バルジングの発生角周波数ωを演算する。
(ステップ4)(ステップ1)で演算した外乱推定量から、(ステップ3)で演算した非定常バルジングの発生角周波数ωの成分(周期性外乱とする)を抽出する。
(ステップ5)当該周期性外乱の大きさに応じて、最適な開度補正量演算方式を選択し、開度補正量を演算する。周期性外乱が大きい場合は周期的な湯面レベル変動を抑制する開度補正量演算を実行する。又、周期性外乱が小さい場合は流量特性の変化に起因する湯面レベル変動を抑制する開度補正量演算を用いる。
【0031】
つぎに、スライディングノズルの開度補正量を導出するループのブロック構成の概略を図1を用いて説明する。当該ループは、スライディングノズルの開度の実績値と湯面レベル実績値とに基づき鋳型へ溶鋼の注入量の変動を推定して外乱推定値を出力する外乱推定部8、及び当該外乱推定値から所望の周期性外乱を抽出するための、鋳造長に基づくFFT演算部9、ピーク検出部10、非定常バルジング角周波数リアルタイム演算部11、周期性外乱抽出部12、並びに、得られた所望周期性外乱の検出結果を基にしてスライディングノズルの開度補正量を導出するための、制御方式判定+制御ゲイン演算部13、開度補正量演算部14で構成される。以下では、まず、本発明におけるスライディングノズルの開度補正の方法の原理と着想について説明する。その後で、スライディングノズルの開度補正量を導出するループの各部における信号処理について、図3を用いて詳細に説明する。
【0032】
スライディングノズルの開度補正量を導出する原理・着想について説明する。連続鋳造機では、発生する周期的な湯面レベル変動(すなわち周期性湯面レベル変動)の周期は、鋳造速度(凝固しつつある鋳片が移動する速度)VCと、図2に示すような複数あるサポートロール22の各ロール間隔RPi(i=1,2,…)のうちの一つのロール間隔(すなわちロールピッチ)RPから<1>式により求められる非定常バルジングの発生周期TDに一致している場合が多い。
【数1】

このため、周期性湯面レベル変動の発生の有無を判定するため、及びその周期(又は角周波数ω)の特定するために、非定常バルジングに着目する。
【0033】
通常、非定常バルジング起因の周期的な湯面レベル変動は、渦流式レベル計18により検出される湯面レベル実績値の時間変化を解析することにより検出可能であることが知られている。しかし、周期的な湯面レベル変動を抑制する制御の適用時において周期的な湯面レベル変動が見られない場合、当該周期的な湯面レベル変動を抑制する制御により周期性湯面レベル変動が抑制されているのか、もともと周期性変動が発生していないのか区別できない。そのため、周期性変動の発生の有無や発生状況に応じて、複数の制御方法の内で、発生している変動に対して最適な制御を選択して実施することは難しかった。
【0034】
そこで、本発明では、非定常バルジング起因の周期的な湯面レベル変動の発生の検出にあたり、外乱推定部8により下記の方法で推定する外乱推定量d1を用いる。この外乱推定量は湯面レベル変動を発生させる外乱そのものを推定しており、上記したような制御の状況の影響を受けることなく、非定常バルジングの発生を検出できる。外乱推定部8は、上記の湯面レベル実績値と上記のスライディングノズル開度実績を入力データとし、湯面レベルに変動の原因となる外乱推定量d1を出力する。
【0035】
本発明においては、非定常バルジングに起因する正弦波状の外乱を想定し、振動的な外乱の時間変化を記述する<2>式で記述される動特性を仮定する。
【数2】

ここで、d1は外乱推定量であり、ωa及びηはd1の動特性において仮定する周波数及び減衰率である。
【0036】
<3>式により、d1を計算し外乱推定量とする。(ステップ1の処理)
【数3】

ただし、P、Qは連続鋳造機のプラントの動特性等により決定する行列、Gはオブザーバゲイン行列を示す。また、ymは湯面レベル計推定量、xmは真湯面レベル推定量、d1は外乱推定量、d2は外乱推定量微分値、Umはスライディングノズル開度実績を示す。
そして、行列Pと行列Qはそれぞれ<4>式と<5>式で与えられる。
【数4】

ただし、Tmは湯面レベル計時定数、Aは鋳型内水平断面積、Kは鋳型25に流入する溶鋼に関する流量係数である。すなわち、<2>式から<5>式は、溶鋼の鋳型25内への注入プロセスを“積分+一次遅れ系”でモデル化し、二次振動系の動特性を持つ外乱流量により湯面レベルが変動することを表す。そして、YmとYpが一致するようにオブザーバゲイン行列Gでフィードバックすることによって外乱流量を推定する。
【0037】
ここで、オブザーバゲインの決定方法について説明する。本発明では、外乱推定部8で検出した外乱推定量d1に基づいて非定常バルジングの発生角周波数の同定行うため、外乱推定量d1としては周期的な外乱が発生しうる角周波数帯域において出来るだけフラットな振幅特性を持つように溶鋼注入/湯面レベル測定系のオブザーバを設計し、広い角周波数帯域の外乱流量を均等に検知できることが望ましい。そこで、、湯面レベルへの仮想的な外乱Zを入力とした場合のZ→d1の振幅特性を考えることで、レベル変動量と外乱流量の振幅を対応させることにする。オブザーバゲインの決定は、数値計算によりZ→d1のボーデ線図を描き、適切な振幅特性が得られるよう試行錯誤により行ってもよい。一例として、周波数ωa=1.3程度[rad/sec],減衰率η=0.90程度としてオブザーバゲインをオブザーバ極により調整する方法がある。このようにしてオブザーバゲインを調整した場合の角周波数ωとZ→d1の振幅特性との関係の一例を図13に示す。以降、Z→d1の振幅特性を検出感度と呼ぶことにする。
【0038】
続いて、前記で推定した外乱推定量d1に基づき、非定常バルジングの発生角周波数ωの同定を行う。ωは、2π/TD(TDは非定常バルジングの発生周期)であり、<1>式から<6>式のように表される。
【数5】

本発明では、周期性外乱の有無によって最適な制御の使い分けを実現する上で、この非定常バルジングの発生角周波数ωを正確かつ、高速に同定することが重要である。
【0039】
<鋳造長に基づくFFT演算部9>
本発明では、非定常バルジングの発生に起因しているロールピッチそのものを周波数解析により、一定時間間隔で求める一方、求めたロールピッチと鋳造速度VCから、リアルタイムで非定常バルジングが発生する角周波数の演算を行うことにより、鋳造速度及び、非定常バルジングの発生ロールピッチの両者の変化に対して、正確な角周波数ωの同定を実現する。
【0040】
上記で示した非定常バルジングの発生に起因しているロールピッチの同定は、鋳造長と、外乱推定量の関係についてFFT解析を行うことにより実現できる。鋳造長は、鋳片の搬送ラインに設置されたPLG(鋳片の移動速度測定用のパルス発生器)等で測定された、鋳造スタートから鋳片が鋳造された長さである。(図4参照)。鋳造長と非定常バルジングの関係は、<1>式を<7>式のように変形することで説明できる。
【数6】

<7>式で、左辺のTD・VCは、非定常バルジングに起因する周期的な外乱が一周期発生する間に移動する鋳片の長さであり、これが周期的な外乱が発生しているロールピッチRPに等しいことを示している。これを言い換えると、“鋳辺が長さRP鋳造される(鋳造長がRP増加する)間に、周期的な外乱が一周期発生する”ことを示している(図5参照)。図5のように、鋳造長と外乱の間には、RPを一周期とする外乱が発生しているため、湯面レベル変動の周期を鋳造長ベースで解析すれば、周期的な外乱の原因となっている非定常バルジングが発生しているロールピッチRPを求めることができる。そこで本発明では、非定常バルジングが発生しているロールピッチを解析するため、鋳造長に基づくFFT解析部9にて、外乱推定量の変動周期を鋳造長ベースで解析する。
【0041】
鋳造長に基づくFFT演算部9では、外乱推定部8で演算された外乱推定量d1、鋳造速度VCの実績値を入力とし、外乱推定量d1の変動周期を鋳造長ベースでFFT解析する。図3に示すように、鋳造長に基づくFFT演算部9では、鋳造長計算部34、データリサンプリング部35、鋳造長FFT解析部36の処理が実施される。
【0042】
鋳造長計算部34:
鋳造長計算部34では、鋳造速度から鋳造長の計算を行う。鋳造長は、鋳造開始時点を0mとして鋳造速度を時間について積分することで計算される。
【0043】
データリサンプリング部35:
(図4参照)上記で計算される鋳造長は、制御に用いるコンピュータ等の制御装置の制御周期間隔でサンプリングされたデータから演算されるため、一定の鋳造長間隔データとはなっておらず、このままではFFTを実施することはできない。そこで、データリサンプリング処理25では、鋳造長計算部34にて計算された鋳造長、外乱推定部8にて計算された外乱推定量d1を入力とし、一定鋳造長間隔でのリサンプリングを実施する。図6には、外乱推定量について、リサンプリングの前後のサンプリング点(○、●)の位置を模式的に示す。
【0044】
鋳造長FFT解析部36:
鋳造長FFT解析部36では、前記でリサンプリングされた鋳造長及び外乱推定量データに対し、一定時間間隔で空間周波数に基づくFFTを実施する。非定常バルジングの発生角周波数ωは、<1>式から分かるように鋳造速度により変わる。しかし、本発明では上記のように鋳造長ベースで空間周波数を解析することにより、従来の時間周波数に基づくFFTを用いた変動周波数の検出方法が弱点とする鋳造速度変化を含む場合においても、正確に周波数を検出することができる。そして、FFTで得られたフーリエ成分の振幅がピークを迎える空間周波数の逆数は、非定常バルジングの発生するロールピッチに対応する。鋳造長FFT解析部36の結果、図7の鋳造長ベースのFFT解析部の結果に示すように、ロールピッチとフーリエ成分の振幅の関係が得られる。
【0045】
<ピーク検出部10>
鋳造長に基づくFFT演算部9の鋳造長FFT解析部36の解析結果(フーリエ成分)に対してピーク検出部10にてピーク位置の検出を行い、非定常バルジングが発生しているロールピッチPRPの値を抽出する。ピーク検出部には、検出範囲限定部39、第1の重み付け部38、第1の重み付けテーブル37、ピーク検出ロジック部40により構成される。(ステップ2の処理)
【0046】
検出範囲限定部39:
ピーク検出部では、まず、検出範囲限定部39にて、鋳造長FFT解析部36の解析結果に対して、予め設定した連続鋳造機のロールピッチが存在する範囲に検出範囲を限定する(図8参照のこと)。連続鋳造機のロールピッチが存在する範囲は、連続鋳造機のマシンプロフィルから設定しておく。このように、検出範囲を限定することで、非定常バルジングに起因の周期的な外乱のピークの検出に原因を限定することができ、その結果、他の種類の外乱の影響により、ピークを誤検出することを防ぐことができる。
【0047】
第1の重み付け部38:
正確なピーク検出を実現するため、上記の検出範囲限定に加え、角周波数による第1の重み付け部38を行う。上記の鋳造長FFT解析36の結果は、横軸のロールピッチに応じてフーリエ成分の振幅特性が異なっている。これは、外乱推定量の検出感度が、外乱入力の角周波数に対して異なるためである(図13参照)。角周波数よる重み付けを行い、上記の影響を取り除く。重み付け後のフーリエ成分の振幅特性PW’(RP)は、<8>式に示すように各ロールピッチRPごとのフーリエ成分の振幅PW(RP)に重み係数W (ω)を掛け合わせることにより演算する。
【数7】

ここで重み付け係数W(ω)は、予め実験的に外乱を発生させて導出するか、又は経験的に推定しておき、角周波数に対してテーブル化して記録装置内に保持しておく(第1の重み付けテーブル37)(図9(a)参照)。あるいは関数で近似して、当該関数の情報を記録装置に保持しておく。
【数8】

この重み付け部38により、周期性変動の発生ピークの高さを正しく検出できる。
【数9】

【0048】
ピーク検出ロジック部40:
重み付け部38において重み付けにより補正されたフーリエ成分の振幅特性PW’(RP)は、ピーク検出ロジック部40に入力され、非定常バルジングが発生するロールピッチPRPが特定される。この時、十分高く、明確に認識可能なピークが検出されない場合には、非定常バルジングが発生していないと考えられる。このようなときは、ピークのロールピッチを求めても誤検出をまねくため、前回明確に認識可能なピークが確認された時点での検出結果のピークのロールピッチをメモリに保持しておく。明確に認識可能なピークかどうかの判定を行う方法の例としては、ピークの大きさが閾値PRPTH以上か、どうかにより判断を行う方法を用いても良い。
【0049】
以上のピーク検出部10で実行する各処理を、ロールピッチPRPを検出するフローチャートに整理して図14に示す。すなわち、
(S101)・・・FFT解析を行うための時系列データを一定期間バッファする。
(S102)・・・鋳造速度を時間方向に積分して鋳造長の時系列データを生成する。
(S103)・・・一定間隔の鋳造長における外乱推定量をリサンプリングにより得る。
(S104)・・・鋳造長ベースのFFTを計算する。
(S105)・・・ロールピッチが存在する空間周波数帯域にピーク検出範囲を限定する。
(S106)・・・重み係数をフーリエ成分の振幅PW (RP)に乗算し、外乱流量の検出感度を補正する。
(S107)・・・補正後のフーリエ成分の振幅PW’(RP)のピークを閾値と比較する。
(S108)・・・PW’(RP)のピークが閾値PRPTHより大きいならばロールピッチを更新する。
(S109)・・・PW’(RP)のピークが閾値PRPTH以下ならばロールピッチの前回値を保持する。
【0050】
<非定常バルジング角周波数リアルタイム演算部11>
非定常バルジング角周波数リアルタイム演算部11は、ピーク検出部42により特定したロールピッチPRP及び、鋳造長VCを入力とし、非定常バルジングの発生角周波数ωPRPを<10>式を用いてリアルタイムに演算する。(ステップ3の処理)
【数10】

本発明では、非定常バルジングのロールピッチそのものを定期的に正確に求めた上で、<8>式のように鋳造速度を用いて角周波数を求めるため、鋳造速度の変化にリアルタイムで追従できるだけでなく、非定常バルジングの発生ロールピッチが変化する場合においても正確な角周波数を同定することができる効果がある。
【0051】
<周期性外乱抽出部12>
周期性外乱抽出部12は、外乱推定部8で演算された外乱推定量d1から、非定常バルジング角周波数リアルタイム演算11で演算される非定常バルジング発生周期の外乱量の大きさを抽出する。周期性外乱抽出部12は、バンドパスフィルタ部と、ピークツーピーク検出部により構成される。(ステップ4の処理)
【0052】
バンドパスフィルタ部45:
バンドパスフィルタ部45は、非定常バルジング角周波数リアルタイム演算部11で同定される非定常バルジングが発生する角周波数ωPRPを中心角周波数とし、入力される外乱推定量d1から、周期性外乱d1PRPを抽出する。バンドパスフィルタ部45の伝達関数H(s)の一例を<11>式に示す。
【数11】

バンドパスフィルタの中心角周波数ωPRPは<10>式のように鋳造速度VCの変化にリアルタイムで追従するため、バンドパスフィルタは常に、ロールピッチPRPに対応する非定常バルジング起因の周期性外乱を抽出することができる。
ピークツーピーク検出部46:
ピークツーピーク検出部46では、バンドパスフィルタ部45により抽出した非定常バルジング起因の周期性外乱d1PRPを入力とし、d1PRPのピークツーピーク値DPRPを求める。ピークツーピーク値は<12>式の演算式で導出される。
【数12】

ただし、
max d1はピークツーピーク検出期間内のd1PRPの最大値
min d1はピークツーピーク検出期間内のd1PRPの最小値
【0053】
求められたピークツーピーク値DPRPは非定常バルジングの発生強度を表す量である。ここで、予め設定しておくピークツーピーク検出期間は、最短で狙いとする周期の一周期分を入力してピークを取ればよく、非常に高速に周期性外乱の発生を検出できる。本発明ではこのように、バンドパスフィルタ部45を用いることにより高速に周期性外乱の大きさを精度よく抽出することができる。
【0054】
以上のようにして、本発明では、鋳造長ベースのFFT解析により、高精度かつリアルタイムで非定常バルジングの発生角周波数を同定し、検出した角周波数の周期性外乱をバンドパスフィルタを用いて高速に抽出することにより、高精度かつ高速に非定常バルジングの発生を検出することを実現している。
【0055】
<制御方式判定・制御ゲイン演算部13>
制御方式判定・制御ゲイン演算部13では、上記で求めたピークツーピーク値DPRPに基づき、湯面レベル制御に用いる制御方式の判定、制御ゲインの切換・設定を行う。(ステップ5の前半の処理)
【0056】
第2の重み付け部49:
前記で求めた周期性外乱量のピークツーピーク値DPRPはロールピッチPRPで発生している周期性外乱の強度を表す量であるが、狙いとする周期性外乱の角周波数ωPRPに応じて検出感度が異なってくる。これは、前記したように周期性外乱の角周波数ωPRPに応じて外乱推定量が検出される感度が異なるためである。そこで、この検出感度の違いを取り除くため、ピークツーピーク値DPRPに対して重み付けを第2の重み付け部49で行う。重み付けは、第2の重み付け係数Wa(ωPRP)を掛け合わせることにより実現する。第2の重み付け係数Wa(ωPRP)は、予め実験的に外乱を発生させて導出するか、又は推定しておき、バンドパスフィルタの中心角周波数ωPRPに対してテーブル化して、記録装置内に第2重み付けテーブル48として保持しておく。あるいはωPRPに対して関数近似で関数として求めておき、記録装置に保持しておく。
【0057】
ピークツーピーク値DPRPに重み付けを行ったものを重み付けピークツーピーク値DPRP’とする。重み付けピークツーピーク値DPRP’は、ロールピッチPRPの違いによらず、正確に周期性外乱の発生強度を表す量である。本発明では、DPRP’の大きさに基づいて制御方式の判定、制御ゲインの演算を行うことにより、角周波数ωの違いによらず、常に最適な制御方式の切換、制御ゲインの切換を実現することができる効果がある。
【0058】
開度補正量演算方式、ゲイン判定部50:
開度補正量演算方式・ゲイン判定部50では、前記で求めた重み付けピークツーピーク値DPRP’に基づき、以下で説明する開度補正量演算部14で用いる開度補正量演算方式、及びゲインを決定する。
<開度補正量演算部14>
開度補正量演算部14は、開度補正量演算方式・ゲイン判定50で決定した開度補正量演算方式、及びゲインに基づき、適切な開度補正量を演算する。流量特性変動補正開度演算部52、周期性変動補正開度演算部51、流量特性変動補正出力部53、周期性変動補正出力部54、及び開度補正量演算方式切換部55により構成される。(ステップ5の後半の処理)
【0059】
周期性変動補正開度演算部51:
周期性変動補正開度演算部51では、例えば、湯面検出レベル、スライディングノズル開度、鋳造速度、鋳型断面積を入力信号として、正弦波状の外乱を想定し、特定周期の周期的な湯面レベル変動の抑制を狙った外乱推定オブザーバを用いて外乱推定量d1に負のゲインを乗じてフィードバック演算部にフィードフォワード加算する方法がある。
【0060】
流量特性変動補正開度演算部52:
流量特性変動補正開度演算52では、例えば、湯面検出レベル、スライディングノズル開度、鋳造速度、鋳型断面積を入力信号として、ランプ状の外乱を想定し、流量外乱に起因するレベル変動の抑制を狙った外乱推定オブザーバを用いて外乱推定量微分値d2に正のゲインを乗じてフィードバック演算部にフィードフォワード加算する方法がある。
【0061】
次に、開度補正量演算方式と制御ゲインの決定、及び開度補正量演算の一例を示す。まず、ピークツーピーク値の演算を行う一定の評価時間TPTPの期間の外乱推定値d1のデータをバッファして集積する。評価時間TPTPのデータがバッファされたら、当該データについてピークツーピーク検出部46によりピークツーピーク値DPRPを演算し、さらに第2の重み付け部49で重み付けを実行し重み付けピークツーピーク値DPRP’を導出する。当該重み付けピークツーピーク値DPRP’に基づき、非定常バルジングの発生有無の判断を行うが、判定条件式として<13>式を用いる。
【数13】

ここで、DTHは予め実験等により設定しておく閾値である。
<13>式の関係が成立した場合、非定常バルジングが発生したと判定して非定常バルジング発生信号を後で説明する開度補正量演算部14へ出力する。当該非定常バルジング発生信号に基づいて、開度補正量演算部14にて周期性変動補正開度演算部51を実行し、フィードバック制御演算部27で演算される開度指令値に加算する。周期性変動補正出力部54のゲインは、予め重み付けピークツーピーク値DPRP’の大きさに対してテーブルの形式で表すか、あるいはDPRP’に対して関数近似で表わしておいたものを用いる。この場合、周期性外乱の強度に応じてゲインの大きさを変えることにより、強度の周期性外乱を効果的に抑制する一方で、小さな周期性外乱に対して操作端を過大に動かすことを防いでいる。
【0062】
<13>式が不成立の場合、非定常バルジングが発生していないと判定し、開度補正量演算部55にて流量特性変動補正開度演算部52を実行し、フィードバック制御演算部27で演算される開度指令値に加算する。流量特性変動補正部53のゲインは固定値を用いる方法、あるいは、鋳型幅や、鋳造速度に対してテーブル化しておいたものを用いる方法がある。
【0063】
上記の方法では、非定常バルジングの発生を判定する閾値DTHを用いることにより、非定常バルジングと関係のない外乱に対して誤って非定常バルジング発生と判定することを防いでいる。前述したように、周期的な湯面レベル変動の抑制を図る制御は、浸漬ノズル内を介在物が付着、あるいは付着した介在物が剥離することによる突発的な湯面レベルの上昇、下降に対しては、かえって湯面レベル変動を増大させることがあるため、非定常バルジングが発生していない状況では極力使わないようにすること重要である。
【0064】
以上の制御方式の判定、制御ゲインの演算の流れをフローチャートにまとめると、図15のようになる。すなわち、
(S201)・・・推定外乱量のバンドパスフィルタ出力の時系列データを一定期間バッファして集積する。
(S202)・・・判定期間内でのピークツーピーク値を計算する。
(S203)・・・ピークツーピーク値に重み係数を乗算する。
(S204)・・・補正したピークツーピーク値を閾値と比較する。
(S205)・・・閾値よりも大きいならば非定常バルジングが発生したと判定し、周期性変動補正出力を演算
(S206)・・・周期性変動補正演算の出力ゲインを調整
(S207)・・・閾値以下ならば非定常バルジングが発生していないと判定し、流量変動補正演算を選択
(S208)・・・流量変動補正演算の出力ゲインを調整
【0065】
(その他の実施するための形態)
上記のフィードバックループ及びスライディングノズルの開度補正量を導出するループからなる連続鋳造機の鋳型内湯面レベル制御装置は、キーボード、マウス、I/Oボード、及びネットワークボード等の入出力部と、半導体メモリ、HDD等の記録装置と、制御状態を表示するためのコンピュータディスプレー等の表示装置とを具備し、インストールされたOSの基に稼動するコンピュータを用いて構成することができる。そして、フィードバックループ、及びスライディングノズルの開度補正量を導出するループを構成する各部で実行する上記の各機能又は処理は、それぞれコンピュータプログラムを作成して上記の記録装置に組み込んで、湯面レベル計等のセンサの測定値(実績値)を上記入出力部から入力し、又、スライディングノズルアクチュエータへの制御出力を入出力部経由で出力して、実行させる。
【0066】
(シミュレーションによる本発明の効果の例)
本発明の鋳型内湯面レベル制御方法及び装置と従来技術とを数値計算によるシミュレーションにより比較した。従来技術の一つであるPI制御のみ(第1の比較例)で制御を行った時のシミュレーション結果の例を図10に、又別の例としてPI制御と周期的な湯面レベル変動を抑制する制御(第2の比較例)を組み合わせたときの、湯面レベル偏差のシミュレーション結果の例を図11に、本発明の湯面レベル制御を用いたときのシミュレーション結果の例を図12に示す。図10〜12の結果を導出したシミュレーションでは、0〜300秒の区間では、非定常バルジングを模擬した周期的な外乱を、300〜600秒の区間では、浸漬ノズル内に付着した介在物が剥離することによる突発的な湯面レベル上昇を模擬した外乱を入力している。PI制御と周期的な湯面レベル変動を抑制する制御の組み合わせた場合の結果である図11では、PI制御のみの場合の結果である図10に比べ、周期的な湯面レベル変動が抑制されているが、突発的な湯面レベル変動に対しては、抑制できないばかりか、かえって湯面を荒らしてしまっている。一方、本発明の場合の結果である図12では、周期的な外乱を入力した区間ではDPRP’>DTHとなっており、周期的な湯面レベル変動を抑制する制御が用いられ、突発的な湯面レベル上昇を模擬した外乱を入力した区間ではDPRP’<DTHとなっており、流量特性変化による湯面レベル変動を抑制する制御が用いられている。その結果、PI制御のみの場合の結果である図10に比べ、周期的な湯面レベル変動が抑制されており、さらに突発的な湯面レベル変動に対しても、変動幅が縮小し変動の収束も速くなっていることがわかる。
以上のシミュレーション結果より、本発明の鋳型内湯面レベル制御を適用することにより、従来の制御方法よりもに安定した湯面レベルを実現できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の湯面レベル制御装置の実施の形態の概略を示すブロック図である。
【図2】連続鋳造設備及び湯面レベル制御系の構成を示す概略図である。
【図3】本発明の湯面レベル制御装置の一例の詳細を示すブロック図である。
【図4】連続鋳造機において鋳造長を説明するための模式図である。
【図5】鋳造長と非定常バルジング起因の周期的な外乱の関係を表す図である。
【図6】鋳造長と外乱推定量のリサンプリングを説明するための図であり、(a)はリサンプリング前(等時間間隔データ)、(b)はリサンプリング後(等鋳造長間隔データ)の場合をそれぞれ示す。
【図7】鋳造長ベースのFFT解析の結果の一例を表す図である。
【図8】鋳造長ベースのFFT解析の結果において、検出範囲限定を説明する図である。
【図9】重み付けテーブルの演算例を説明する図であり、(a)は角周波数による重み付けテーブル、(b)はロールピッチによる重み付けテーブルへ変換後をそれぞれ示す。
【図10】従来技術の一例であるPI制御を行った時の湯面レベル偏差のシミュレーション結果例である。
【図11】従来技術の一例であるPI制御と周期的な湯面レベル変動を抑制する制御を組み合わせた時の湯面レベル偏差のシミュレーション結果例である。
【図12】本発明を適用した時のシミュレーション湯面レベル偏差の結果例であり、(a)は湯面レベル偏差を、(b)はDPRP’とDTHをそれぞれ示す。
【図13】角周波数ωと外乱の検出感度との関係の一例を表す図である。
【図14】本発明の実施の形態における、ピークロールピッチ検出の処理手順を表すフローチャートである。
【図15】本発明の実施の形態における、制御方式の判定、制御ゲインの演算の処理手順を表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0068】
1 比較器
2 フィードバック制御演算部
3 第1の加算器
4 アクチュエータ動特性
5 浸漬ノズル(流量特性)
6 第2の加算器
7 鋳型(内現象)
8 外乱推定部
9 鋳造長に基づくFFT演算部
10 ピーク検出部
11 非定常バルジング角周波数リアルタイム演算部
12 周期性外乱抽出部
13 制御方式判定・制御ゲイン演算部
14 開度補正量演算部
15 溶融金属(溶鋼)
16 タンディッシュ
17 スライディングノズル
18 湯面レベル計
19 アクチュエータ
20 湯面レベル制御装置
21 凝固シェル
22 サポートロール
23 浸漬ノズル
24 鋳型内湯面
25 鋳型
34 鋳造長計算部
35 データリサンプリング部
36 鋳造長FFT解析部
37 第1の重み付けテーブル
38 第1の重み付け部
39 検出範囲限定部
40 ピーク検出ロジック部
45 バンドパスフィルタ部
46 ピークツーピーク検出部
48 第2の重み付けテーブル
49 第2の重み付け部
50 開度補正量演算方式、ゲイン判定部
51 周期性変動補正開度演算部
52 流量変動補正開度演算部
53 周期性変動補正出力部(ゲイン)
54 流量変動補正出力部(ゲイン)
55 開度補正量演算方式切換部
59 ダミーバー
60 ロールピッチ(RP)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属の連続鋳造機において、鋳型内の湯面レベルを湯面レベル計で測定し、該湯面レベルの実績値を基にしてタンディッシュのスライディングノズルの開度を調節して鋳型内への溶融金属の注入量を制御する連続鋳造機の湯面レベル制御装置において、
前記湯面レベル計の実績値と予め設定した湯面レベル目標値とに基づいてスライディングノズル開度指令値を導出し、スライディングノズルアクチュエータを制御して前記スライディングノズルの開度を調節するフィードバックループ、並びに、前記スライディングノズルの開度の実績値と前記湯面レベルの実績値とに基づき、溶融金属の鋳型内への注入時の外乱を推定して外乱推定量を導出する外乱推定部、及び該外乱推定量について鋳造長に関するフーリエ成分振幅を導出する、鋳造長に基づくFFT演算部を有し、該フーリエ成分振幅に基づき鋳型下方の鋳造材の非定常バルジング発生による鋳型内の湯面レベルの周期的変動の有・無を判定し、周期的変動の有・無それぞれの場合に対して予め設定した制御方式を選択して、前記フィードバックループによるスライディングノズル開度指令値を補正する開度補正量を演算して出力する、スライディングノズルの開度補正量を導出するループ、で構成されことを特徴とする連続鋳造機の湯面レベル制御装置。
【請求項2】
前記スライディングノズルの開度補正量を導出するループは、前記外乱推定部が、前記スライディングノズルの開度の実績値と前記湯面レベルの実績値とに基づき所定のオブザーバを用いて溶融金属の鋳型内への注入時の外乱推定量を導出するもので、
前記鋳造長に基づくFFT演算部が、該外乱推定量について鋳造長に関するフーリエ振幅を導出するものであり、さらに、該外乱推定量のフーリエ成分振幅のピークの空間周波数を検出して非定常バルジング発生ロールピッチを求める出力するピーク検出部と、該非定常バルジング発生ロールピッチと鋳造速度とにより非定常バルジング発生角周波数をリアルタイムで求める演算部と、前記外乱推定量から該非定常バルジング発生角周波数の周期性外乱量を抽出する演算部と、該周期性外乱量の強度及び前記非定常バルジング発生角周波数に応じて最適な開度補正量のための制御手段及び制御パラメータを決定する制御方式判定・制御ゲイン演算部と、該決定に基づき前記フィードバックループのスライディングノズル開度指令値を補正する開度補正量を導出する開度補正量演算部とからなることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造機の湯面レベル制御装置。
【請求項3】
溶融金属の連続鋳造機において、鋳型内の湯面レベルを湯面レベル計で測定し、該湯面レベルの実績値を基にしてタンディッシュのスライディングノズルの開度を調節して鋳型内への溶融金属の注入量を制御する連続鋳造機の湯面レベル制御方法において、
前記湯面レベル計の実績値と予め設定した湯面レベル目標値とに基づきスライディングノズル開度指令値を導出し、スライディングノズルアクチュエータを制御して前記スライディングノズルの開度を調節するフィードバック工程、並びに、前記スライディングノズルの開度の実績値と前記湯面レベルの実績値とに基づき溶融金属の鋳型内への注入時の外乱を推定して外乱推定量を導出する外乱推定工程、及び該外乱推定量について鋳造長に関するフーリエ成分振幅を導出する、鋳造長に基づくFFT演算工程を有し、該フーリエ成分振幅に基づき鋳型下方の鋳造材の非定常バルジング発生による鋳型内の湯面レベルの周期的変動の有・無を判定し、周期的変動の有・無それぞれの場合に、予め設定した制御方式を選択して前記フィードバックループによるスライディングノズル開度指令値を補正する開度補正量を演算して出力する、スライディングノズルの開度補正量を導出する工程で構成されことを特徴とする連続鋳造機の湯面レベル制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2008−290082(P2008−290082A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135619(P2007−135619)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】