説明

連続鋳造用パウダーおよびそれを用いた鋼の連続鋳造方法

【課題】Ca含有量が15ppm以上のAl−Siキルド鋼を連続鋳造するに際し、拘束性ブレークアウト予知信号が多発している。本発明は、拘束性ブレークアウトの予知信号発生を少なくすることのできる連続鋳造用パウダー及び連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】Caを添加したAl−Siキルド鋼では、鋳造中のパウダーフィルム中への気泡の発生やフィルム厚の増大により、凝固殻から鋳型壁への抜熱量が減少、またばらつきも大きく、拘束性ブレークアウト予知信号多発につながっている。そこで、パウダー中のCaOの増加によってパウダーフィルム中のOHイオンを溶鋼中に還元し、気泡発生を防止する。すなわちCaを15ppm以上、Siを0.1質量%以上、Alを0.015質量%以上0.035%未満の鋼の連続鋳造に用いる、塩基度Bが1.5以上であることを特徴とする連続鋳造用パウダー及び当該パウダーを用いた連続鋳造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造において鋳型内に添加する連続鋳造用パウダー及びそれを用いた鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、鋳型内に連続鋳造用パウダーが添加される。連続鋳造用パウダーは鋳型内の溶鋼表面において溶融し、鋳型壁と凝固シェルとの間に潤滑層を形成する。連続鋳造用パウダーはスラブおよび大断面ブルームにおいてはほとんどすべて採用されている。連続鋳造用パウダーは、鋳型内溶鋼表面の酸化防止、鋳型と鋳片の間の潤滑、浮上した介在物の捕捉、鋳型内溶鋼表面の保温といった役割を持つ。パウダーはその溶融速度、溶融温度、粘性などの多くの管理要因があり、鋼種、鋳造速度、鋳片断面形状などによって最適パウダーは異なるため、その選択が極めて重要である。非特許文献1の第638頁表12・9にも記載の通り、従来の連続鋳造用パウダーにおいては、塩基度(CaO/SiO2)が0.6〜1.1の範囲のものが多く使用されていた。
【0003】
連続鋳造の鋳造速度の増加にともない、メニスカス直下での凝固シェルから鋳型への局所熱流束が増大する。そこで、過度の熱流束増大を抑えるため、連続鋳造用パウダーによって形成されるパウダーフィルムの伝熱抵抗増大が図られている。具体的には、非特許文献2に記載のように、パウダー組成の高塩基度化により、メニスカス直下のパウダーフィルムの結晶化を促進させることで伝熱抵抗の増大を図る。また、鋳片の縦割れ防止にも緩冷却化が有効とされ、中炭素鋼などの鋳造には結晶化しやすいパウダーが使用されている(非特許文献2)。
【0004】
特許文献1においては、高速鋳造時あるいは中炭素鋼を鋳造する際の鋳片表面の縦割れを防止するためには、パウダーフィルムの伝熱抵抗を大きくして凝固殻を緩冷却するとき、凝固殻の厚みはより均一化され、鋳片表面が割れにくくなるとしている。そのためにパウダーの塩基度を増大し、結晶の析出量を増大させてパウダーフィルムの伝熱抵抗を大きくする主旨の発明が記載されている。
【0005】
パウダー組成の塩基度を増大させると、上記のように凝固殻の緩冷却化が実現する一方、パウダーフィルムの流入性が低下し、鋳型と凝固殻の隙間への流入が不均一となり、特に高速鋳造の場合に拘束性ブレークアウトが発生しやすくなるという問題がある。拘束性ブレークアウトとは、メニスカス近傍で凝固殻が鋳型壁に固着して破断し、凝固殻の破断部が鋳造の進行とともに下方に移動し、最終的に破断部が鋳型下端に達してブレークアウトに到るものである。そこで、特許文献2においてはパウダー中にCe酸化物等を含有させることにより、鋳型と凝固殻間の潤滑性と凝固殻の緩冷却化の機能とを同時に満足させようとしている。また、極端な高速鋳造などで鋳片の縦割れが問題とならない限り、連続鋳造用パウダーの塩基度としては1.3以下程度の値が採用されていた。
【0006】
連続鋳造で製造される鋼は通常はキルド鋼であり、Alを0.015質量%以上、Siを0.1%以上添加することによって脱酸された鋼はAl−Siキルド鋼と言われ、薄鋼板、厚鋼板、鋼管、線材等の製品として幅広く製造されている。さらに、極めて脱酸力の強いCaを15ppm以上添加すると、CaO−Al−SiOを主体とする介在物が形成される。通常Alを主体とする介在物は溶鋼中で凝集・合体しやすくアルミナクラスターを形成し、連続鋳造で用いられる浸漬ノズルに付着し、ノズル閉塞を招いたり、あるいは鋼にアルミナクラスターが残存すると、表面疵の原因となったり、製品の機械的な特性の劣化を招く。これに対して、Ca添加により形成されるCaO−Al−SiO系の介在物は凝集・合体しにくい。したがって、Caの添加はノズル閉塞の防止や鋼製品の機械的特性の改善に有効である。さらに通常鋼には不可避的不純物としてSが存在し、鋼中にMnSを形成する。MnSは圧延時に延伸しやすく、これも製品の機械的特性を悪化させる、例えば水素誘起割れを発生させる。MnSの生成抑制に対しても、硫化物形成能の高いCa添加は有効であり、圧延時に延伸されないCaSとして硫化物を生成させることにより、材質を著しく向上させることができる。
【0007】
特許文献3では、Al含有量が0.015質量%未満のSiキルド鋼の連続鋳造に際し、拘束性ブレークアウトの予知信号を防止する方法が述べられている。鋳型壁内に熱電対を設置しておけば、凝固殻の破断部が鋳型の下方に移動するに際してこの温度測定部を通過するときに温度が非定常に上昇するので、ブレークアウトの発生を予知することができる。予知信号が発生したときに鋳造速度を急減速すれば、凝固殻の破断部を修復してブレークアウト発生を防止することができる。特許文献3によれば、パウダー中にOHとして存在するHが、Al含有量の高いAlキルド鋼の場合には、溶鋼中のAlが溶融プールのパウダーと反応してOHイオン濃度を低下させるのに対して、低Al品種では溶鋼中のAlが少ないので溶融パウダープールのOHイオン濃度が還元されにくく、OHイオンが高い濃度でパウダーフィルム中に残存する。その結果、低Al品種ではパウダーフィルム中のOHイオン濃度が冷却過程で溶解濃度を超え、水蒸気気泡がパウダーフィルム中に発生することとなる。さらに低Al品種であってもパウダー中のSiOの活量を低下、すなわち塩基度を増加させれば、溶鋼中のSiによって溶融パウダー中のOHイオンを還元し、OHイオン濃度の上昇を抑制し、気泡の発生は防ぐことができる。すなわち、塩基度の高いパウダーを適用することで、ブレークアウトが防止できることが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−218348号公報
【特許文献2】特開2005−305456号公報
【特許文献3】特開2007−229803号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】第3版鉄鋼便覧II製銑・製鋼、昭和54年10月、丸善株式会社発行
【非特許文献2】第4版鉄鋼便覧、平成14年7月、社団法人日本鉄鋼協会発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、特許文献3においてはブレークアウトが多発することがないとされるAlを0.015%以上含有する鋼であっても、Siを0.1%以上含有するAl−Siキルド鋼においてはブレークアウト予知信号の発生が多く発生する傾向があり、さらに、材質を向上させるために、Caを15ppm以上添加した鋼を連続鋳造するに際して、拘束性ブレークアウトの予知信号が非常に多く発生するという現象を、新たに知見した。Ca含有量が20ppm以上になるとさらに発生頻度が増大する。
【0011】
本発明は、Caを15ppm以上、Siを0.1質量%以上、Alを0.015質量%以上0.035質量%未満の鋼を連続鋳造するに際し、拘束性ブレークアウトの予知信号発生を少なくすることのできる連続鋳造用パウダー及び連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
Caを含有するAl−Siキルド鋼を連続鋳造するに際し、鋳型内のメニスカス近傍に埋設した熱電対の温度の変動が他の品種に比較して大きくなっている。それが拘束性ブレークアウト予知信号多発の原因と推定される。
【0013】
そこで、鋳造後に鋳型に付着したパウダーフィルムを採取し、フィルムの断面観察を行った。その結果、Ca含有量が高い鋼を鋳造した際には、他の品種の鋳造に比べて、パウダーフィルムが分厚く、またフィルム断面に気泡の発生が見られた。このことから、Ca処理鋼においては、鋳造中にパウダーフィルムの気泡発生やフィルム厚の変動により、特にメニスカス近傍で凝固殻から鋳型壁への抜熱のばらつきが増加し、凝固シェル厚の薄い部分からシェルが破れ、拘束性ブレークアウト予知信号多発につながっているものと考えられる。
【0014】
パウダーフィルム中の気泡中に含まれる気体の種類を特定したところ、水素の含有量が多く、気泡成分には水素ガスあるいは水蒸気ガスが含まれることが判明した。溶融パウダーフィルム中に溶解しているOHの濃度が飽和溶解度以上となったときに、パウダーフィルム中で水蒸気となって気泡が生成するものと考えられる。またOHの濃度が大きいと、パウダーの結晶化が促進されるため、これもフィルム厚の変動に影響していると考えられる。
【0015】
特許文献3で知られるように、溶融パウダーと接する溶鋼中にAlが含有されていると、パウダー中のOHと鋼中のAlが反応し、水素成分は鋼中に移動するので、パウダー中のOH濃度が減少する。そのため、パウダーフィルム中への気泡発生が少ない。
これに対して本発明者らは、溶鋼中にAlが含有されていても、溶鋼中にSiを含有すると、溶鋼中の水素の活量が増加することから、パウダー中のOHは鋼中に水素として移動しがたくなることに加えて、Caを含有する溶鋼では、より一層水素の溶鋼への移動が抑制され、パウダー中のOH濃度が減少することがなく、高い濃度に維持されることがわかった。そのため、パウダーフィルム中に多くの気泡が発生したり、結晶化が促進されフィルム厚が変動したりすることとなる。
【0016】
以上より、Caを含有するAl−Siキルド鋼を鋳造する際であっても、鋳造中の溶融パウダープールのOHイオンを溶鋼中に水素として移動させることができれば、パウダーフィルム内の気泡発生やフィルム厚の増大を防止できると考えられる。
【0017】
一方、Caを含有するAl−Siキルド鋼の連続鋳造において、種々の塩基度を有するパウダーを用いて鋳造を行った。その結果、パウダーフィルム中への気泡発生量が減少し、鋳型内の抜熱のばらつきが低減し、ブレークアウト予知信号発生頻度を低減できるパウダーを発明した。
【0018】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
(1)Caを15ppm以上、Siを0.1質量%以上、Alを0.015質量%以上0.035%未満含有する鋼の連続鋳造に用いられるパウダーであって、下記(1)式で示す塩基度Bが1.5以上であり、NaOを4〜12質量%、Alを1〜8質量%、Fを5〜12質量%、Cを1〜6質量%含有し、残部が不可避的不純物からなり、凝固温度が1230℃以下であることを特徴とする連続鋳造用パウダー。
B=T.CaO/SiO2 … (1)
ここで、T.CaOはパウダー中のCaがすべてCaOであるとしたときのCaO含有量(質量%)、SiO2はパウダー中のSiO2含有量(質量%)を表す。
(2)1300℃における粘度が0.5〜1.4poiseであることを特徴とする(1)に記載の連続鋳造用パウダー。
(3)LiOを0.5〜2質量%含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の連続鋳造用パウダー。
(4)鋼の連続鋳造がスラブ連続鋳造であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の連続鋳造用パウダー。
(5)(1)乃至(4)のいずれかに記載の連続鋳造用パウダーを用いて、Caを15ppm以上、Siを0.1質量%以上、Alを0.015質量%以上0.035質量%未満含有する鋼の連続鋳造を行うことを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の連続鋳造用パウダーあるいはそれを用いた連続鋳造方法においては、Caを含有するAl−Siキルド鋼の連続鋳造においてパウダーフィルムへの気泡発生を低減し、凝固殻から鋳型壁への抜熱のばらつきを低減し、ブレークアウト発生頻度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】Al−Siキルド鋼においてCa添加と2次精錬の真空処理がブレークアウト予知信号発生率への影響を示す図である。
【図2】鋼中Ca添加と鋳型内に埋設した熱電対温度の変動に対する鋼中Ca添加の影響を示す図である。
【図3】鋼中Ca添加と鋳型長辺面の抜熱量との関係を示す図である。
【図4】Ca添加したAl−Siキルド鋼を鋳造した後のパウダーフィルムの断面写真を示す図である。
【図5】Ca添加していないAl−Siキルド鋼を鋳造した後のパウダーフィルムの断面写真を示す図である。
【図6】Al−Siキルド鋼においてCa添加と2次精錬の真空処理がパウダー中に水酸イオンとして含有する水素の濃度に対する影響を示す図である。
【図7】パウダー塩基度と鋳型熱電対温度のばらつきとの関係を示す図である。
【図8】パウダー塩基度とパウダー中にOH-として存在する水素の量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の連続鋳造用パウダー(以下、パウダーという)は、Ca含有量が15ppm以上、Si含有量が0.1質量%以上、Al含有量が0.015質量%以上0.035質量%未満の範囲で含有されているAl−Siキルド鋼を連続鋳造する際に好適に用いられる。
【0022】
鋼中のCa含有量を15ppm以上とする理由は次の通りである。極めて脱酸力の強いCaを15ppm以上添加すると、溶鋼中にCaO−Al−SiOを主体とする介在物が形成するが、この介在物は凝集・合体しにくいので、連続鋳造設備のノズル閉塞の防止や鋼製品の機械的特性の改善に有効である。また、硫化物形成能の高いCa添加により、MnSの形成を抑制しつつ、圧延時に延伸されないCaSとして硫化物を生成させることで、材質を著しく向上させることができる。
その一方で、Caを添加した鋼のブレークアウトの予知信号の発生率がCaを添加しない鋼よりも高くなるところ、本発明のパウダーを好適に用いることで、ブレークアウトの予知信号の発生率を低減できる。
また、Ca含有量の上限値は特に規定するものではないが、浸漬ノズル等耐火物の溶損防止などの観点から40ppm以下とすることが好ましい。
なお、Ca添加によるブレークアウトの予知信号の発生率の増大と、ブレークアウトの予知信号低減との詳細については後述する。
【0023】
また、鋼中のSi含有量を0.1質量%以上とするのは、鋼を十分に脱酸するためである。一方、Si含有量の上限値は特に規定するものではないが、コストや材質の観点から0.4質量%以下とすることが好ましい。
【0024】
さらに、鋼中のAl含有量を0.015質量%以上とするのは、鋼を十分に脱酸するためである。一方、Al含有量を0.035質量%未満とするのは、コストや製品の機械的性質確保のためである。
【0025】
また、鋼の炭素濃度は特に規定しないが、本発明では0.04〜0.15質量%程度の低炭素鋼が主な対象であり、また、0.15〜0.40質量%程度の中炭素鋼であってもよい。
【0026】
また、鋼を連続鋳造する際の鋳型形状は特に限定しないが、本発明ではスラブ連続鋳造が主要な対象となる。なお、本明細書において、鋼中CaおよびAl含有量はトータルCaおよびトータルAlであり、すなわち溶存した量と酸化物、硫化物として存在する量の総量を意味する。
【0027】
なお、本発明のパウダーが適用される鋼には、Ca、Si、Al以外の他の添加元素が添加されていても良い。また、Ca、Si、Al及び他の添加元素以外の残部は、不可避的不純物及びFeである。
【0028】
本発明のパウダーは、下記(1)式で示す塩基度Bが1.5以上であり、NaOを4〜12質量%、Alを1〜8質量%、Fを5〜12質量%、Cを1〜6質量%含有し、残部が不可避的不純物からなるパウダーである。
【0029】
B=T.CaO/SiO2 … (1)
【0030】
上記式(1)において、T.CaOはパウダー中のCaがすべてCaOであるとしたときのCaO含有量(質量%)を表し、SiO2はパウダー中のSiO2含有量(質量%)を表す。
【0031】
Ca添加したAl−Siキルド鋼の連続鋳造に際しては、塩基度Bが1.5以上の連続鋳造用パウダーを用いることで、パウダーフィルム中の気泡発生を抑え、鋳型内の抜熱を安定化できる。この結果として、拘束性ブレークアウトの予知信号発生頻度を低減できるので、鋳造速度変動による品質非定常部の発生頻度を低減し、ブレークアウト発生頻度をも低減できる。また、パウダーの塩基度が高すぎると、連続鋳造時に形成されるパウダーフィルムの凝固温度が高くなり、液体スラグによる鋳片潤滑機能を著しく損なう場合があるので、パウダーの塩基度は2.2以下であることが好ましい。
【0032】
Ca、Si及びAlが所定の含有率で含まれる鋼を連続鋳造する際に、パウダーの塩基度を1.5以上に限定する理由については上記の通りであるが、詳細な限定理由については後述する。
【0033】
また、本発明のパウダーは、凝固温度が1230℃以下の範囲であり、好ましくは1130〜1230℃の範囲である。本発明のパウダーは塩基度が従来に比べて高いので、パウダーの組成によっては連続鋳造時のパウダーフィルムの凝固温度が高くなり、液体スラグによる鋳型潤滑機能を著しく損なう可能性がある。それを回避するためには、パウダーの凝固温度を1230℃以下にする必要があることが判った。但し、凝固温度を低下させすぎると鋳片表面の縦割れ発生が懸念されるので、凝固温度は1130℃以上とする。
【0034】
パウダーの凝固温度は、回転粘度計にてパウダーを溶融した後の冷却過程で、10℃おきに粘度を測定し、粘度が大きく上昇した温度である。
【0035】
パウダーの粘度は、連続鋳造時のパウダーの流入を安定化させるという観点から、好ましくは0.5〜1.4poise、より好ましくは1.0poise以下とする。0.5poiseより低いとパウダーの流入が過多となることがある。また1.4poiseより高いとパウダー流入が少なく、鋼に縦割れが発生することがある。
【0036】
パウダーの粘度の測定方法としては、回転円筒法を用いるとよい。測定対象のパウダーを坩堝に挿入し1400℃にて10〜15分間予備溶解した後に、縦型管状炉(エレマ炉)に入れ、E型粘度計のローターを溶融パウダー中に浸漬し、1300℃で30分間安定させた後、ローターを回転させ粘性抵抗によるトルクを測定し粘度を求める。なおE型粘度計は事前に標準粘度液にて校正しておくことが重要である。
【0037】
次に、パウダーの成分について説明する。
塩基度が高く、また凝固温度が1130〜1230℃となるパウダーを実現するには、Na2O、Al23の添加量を適量とする必要がある。Na2Oの添加量は、凝固温度低減のためある程度必要であるが、多量の添加は凝固温度を著しく低下させるので、4〜12質量%の範囲とし、望ましくは6〜9質量%とする。
【0038】
また、Al23は凝固温度低減に有効であるが、過度の添加は縦割れ発生を誘発する危険があるため、1〜8質量%の範囲で添加する。望ましくは2〜6質量%である。
【0039】
さらにLi2Oを0.5〜2質量%添加することが好ましい。LiOの微量添加は鋳片表面の縦割れが著しく改善されるため、特に縦割れの発生しやすい鋼中C濃度が0.08〜0.12質量%の鋼を鋳造する際に特に有効である。ただし過度の添加は凝固温度を著しく低下させる。LiOは高価であり、縦割れ発生の問題がない場合などには、添加しなくてもよい。
【0040】
また、Cは、連続鋳造時のパウダーの溶融速度を調整するために添加される。Cの含有量は、1〜6質量%の範囲としている。Cは、カーボンブラック、コークス粉、グラファイト等の炭素質成分として添加すればよい。
【0041】
また、Fは、パウダーの粘度を低下させ流入性を確保するのに有用であり、5質量%以上の添加が必要である。また過度の添加は粘度を下げすぎて、かえって不均一な流入となるため、12%以下とする。なお、Fが化合物としてどのような形態をとっている場合であってもよく、上記F含有量は全F含有量を示す。
【0042】
更に、パウダーの主成分としては、CaO、SiOがある。パウダー中の塩基度CaO/SiOを1.5以上に維持することが重要であることは既に述べた通りである。
【0043】
SiOは、溶融温度や粘度等の物性調整のために必要な成分である。SiO含有量が19質量%未満では、溶融温度や粘度等の物性調整が困難になる場合があるので、19質量%以上の添加が好ましい。但し、30質量%超ではパウダーと溶鋼との反応抑制効果が得られにくく、巻き込み性が悪化する場合があるので、30質量%以下が好ましい。
【0044】
また、CaOは、パウダーの凝固温度、流入性及び鋳型に対する潤滑性を調整するために必要な成分である。CaO含有量は50質量%以下とするのが好ましい。CaO含有量が50質量%超では凝固温度が高くなり、流入性や潤滑性が損なわれやすくなる。CaO含有量は、T.CaOを用いればよい。
【0045】
さらに、本発明のパウダーには、繊維や樹脂等の有機質を適宜含有させることができる。これらの有機質は溶融速度調整用や溶鋼表面保温効果、成形のためのバインダー等の目的で添加する。
【0046】
上記パウダーのそれぞれの成分は、蛍光X線や化学分析で分析された値を用いることができる。
【0047】
本発明のパウダーは、その50質量%以上がプリメルト基材より形成すると好ましい。プリメルト基材とは、パウダーの原料として一部の成分を前もって高温で溶融処理したものである。通常は1000〜1400℃に熱して溶融する。プリメルト基材は、CaO−Al−SiOをベースにしてNaO、Fなどを混合したものを上記温度で溶融し、凝固したものである。50質量%以上をプリメルト基材とするのは、鋳型内溶鋼湯面上においてパウダーを均一に溶融させるためである。本発明のパウダーの形態は、粉末であってもあるいは顆粒状であっても良いが、好ましくは、環境および溶鋼の保温性と被覆性に優れる中空顆粒状であることがより好ましい。
【0048】
本発明の鋼の連続鋳造法は、溶鋼を鋳型で連続的に鋳造する際に、溶鋼に対して本発明に係るパウダーを連続的または断続的に供給しつつ連続鋳造を行う。溶鋼上に供給されたパウダーは溶鋼の熱により溶融してスラグとなり、更に鋳型と溶鋼との間に引き込まれてパウダーフィルムを形成する。
また、連続鋳造に用いる溶鋼は、あらかじめ真空処理したものでもよいが、本発明に係るパウダーを使用することにより、真空処理を省略することができる。
【0049】
次に、パウダーの塩基度を規定した理由について詳細に説明する。
従来、Caを含有するAl−Siキルド鋼を連続鋳造するに際し、連続鋳造用パウダーとしては塩基度1.3程度の一般的なパウダーが、通常、用いられていた。なお、塩基度Bの定義は先に記載した通りである。
【0050】
連続鋳造に際しては、拘束性ブレークアウト発生を防止するため、鋳型壁内に熱電対を埋め込み、ブレークアウト予知信号を発生させている。拘束性ブレークアウトの原因となる凝固殻の破断部が鋳型の下方に移動するに際し、破断部がこの熱電対設置部を通過するときに温度が非定常に上昇するので、ブレークアウトの発生を予知することが可能である。
【0051】
質量ベースで、C:0.08〜0.12%、Si:0.15〜0.25%、Mn:1.0%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Alを0.025〜0.035%含有するAl−Siキルド鋼の鋳造に際して、ブレークアウト予知信号の発生頻度を、Ca添加の有無、2次精錬における真空処理の有無で比較してみた。
真空処理はRH脱ガス設備により行った。真空処理は溶鋼中の脱水素が目的であり、真空処理を行わない場合には溶鋼中の水素が3〜7ppm、真空処理を実施した溶鋼では水素が0.5〜2ppmとなった。
また、鋳造に用いたパウダーは、下記の表1に記載したパウダー2である。
【0052】
【表1】

【0053】
結果を図1に示す。図1から明らかなように、真空処理の有無にかかわらず、Caを添加した鋼(Caを20〜30ppm含有)ではCaを添加していない鋼(Ca:5ppm以下)に比べてブレークアウトの予知信号発生率が高いことが明らかになった。また、真空処理をしない鋼のほうが、真空処理したものよりもブレークアウト予知信号発生率が高くなった。
【0054】
ブレークアウト予知信号発生が起こる場合には、ブレークアウト発生を防止する対応が間に合わずにブレークアウトが発生してしまうこともある。Caを添加しないAl−Siキルド鋼ではブレークアウトがほとんど発生しないのに対し、Caを添加したAl−Siキルド鋼ではブレークアウト発生率が著しく高くなった。
【0055】
そこで上記と同じ鋼成分、同じパウダー(表1のパウダー2)での連続鋳造において、鋳型内での抜熱に関して以下の調査を行った。まず鋳型内のメニスカスから100mm下方に埋設した熱電対温度の時系列的な変化について調査した。この位置での凝固シェルは薄く破断しやすいために、ブレークアウトの発生と関わりが強い。
【0056】
図2には、熱電対による測定温度と鋳造時間との関係を示す。図2に示すように、熱電対温度のばらつきはCaを添加したAl−Siキルド鋼の方が、Caを添加しないAl−Siキルド鋼に比べて大きかった。
また、図3には鋳型による抜熱量と鋳造速度との関係を示す。図3に示すように、鋳型長辺面の冷却水の温度上昇代から鋳型抜熱量を比較したところ、Caを添加したAl−Siキルド鋼のほうが、Caを添加しないAl−Siキルド鋼に比べて、抜熱量が小さかった。
【0057】
以上のように、同じ連続鋳造用パウダーを用いているにもかかわらず、Ca添加したAl−Siキルド鋼では、Ca添加しない場合に比べて、伝熱のばらつきが大きく、抜熱量も小さいことが明らかになった。そこで、鋳造が完了した鋳型の壁面に残存しているパウダーフィルムを採取し、調査を行った。メニスカス近傍の抜熱挙動に大きな影響を与えるメニスカスから100mm程度の位置からパウダーフィルムを採取した。
【0058】
図4に、Ca添加したAl−Siキルド鋼鋳造後のパウダーフィルムの断面写真を示す。写真中に見られる黒い空隙が存在し、パウダーフィルムも分厚い。これに対して図5はCa添加なしのAl−Siキルド鋼鋳造後のパウダーフィルムの断面写真であるが、気泡が少なく、フィルム厚も薄くなっている。
【0059】
以上の結果から、Ca添加したAl−Siキルド鋼でメニスカス近傍の抜熱がばらつきかつ抜熱量も低下する原因は、パウダーフィルム中に気泡が多発すること、および結晶化が促進されてフィルム厚が大きく変動することが原因であると推定された。
【0060】
パウダーフィルム中の気泡に含まれる気体のガス分析は、ガス質量分析計にて行ったが、いずれのサンプルにも窒素に加えて、水素を含有するガス(水素、水蒸気など)が含まれていた。これより、溶融パウダー中の水酸イオンがパウダーフィルム中の気泡の発生と関係していることが示唆された。
【0061】
次に、パウダー中にOHとして存在する水素を、核磁気共鳴(固体NMR)を用いて分析した。鋳造前のパウダーおよび鋳造後採取したパウダーフィルムに対して、HのNMRスペクトルを測定した。また標準試料としてカオリナイトAl2Si25(OH)4を用いた。カオリナイトはOHとしてHを1.56質量%含むことが既知なので、パウダー試料のOHに相当するNMRスペクトルの面積値と標準試料のOHに相当するNMRスペクトルの面積値の比を知ることで、パウダー中にOHとして存在するHの質量を定量化した。
【0062】
鋳造前のパウダーのOHとして存在するHは70ppmであった。これに対して図6は、鋳造中に溶鋼湯面上のパウダー溶融プールから採取したパウダーにOHとして存在する水素を示している。図6において真空処理せずにCa添加をしたAl−Siキルド鋼では、鋳造中に108ppmに増加している。この鋳造ではメニスカスの抜熱変動が大きく、鋳型全体での抜熱量も低下し、最終的に拘束性ブレークアウトが発生した。
一方、真空処理せずにCa処理していないAl−Siキルド鋼では、85ppmである。
【0063】
これに対して、真空処理後Ca処理をしたAl−Siキルド鋼では、鋳造中にOHとして存在するHは90ppmであり、メニスカスの抜熱変動がやや大きかった。
一方、真空処理を行いCa処理は行っていないAl−Siキルド鋼では、鋳造中にOHとして存在するHは71ppmであり、メニスカス抜熱変動も小さく鋳造も極めて安定していた。
【0064】
この結果より、Ca処理したAl−Siキルド鋼を鋳造する際には、パウダー中のOHが増加し、パウダーフィルム中に気泡の発生もしくは結晶化を促進する。特に真空処理していない場合には、その傾向が顕著になる。一方Ca処理を行っていない溶鋼では、溶鋼中のAlがパウダー中のOHを還元し、OH濃度が低位になり、特に真空処理を行うとさらに低位になる。そのため気泡が発生しないし結晶化も促進されない。
【0065】
本発明者らの検討の結果、上述のようなパウダー中のOHイオンの変化は次の反応式で説明することができる。
【0066】
4[Al]+6(OH)+3(CaO)→2(Al23)+6[H]+3[Ca]+3(O2−) … (2)
【0067】
この反応式において( )はパウダー中、[ ]は溶鋼中にそれぞれ、カッコ内の化学種が存在することを意味する。この反応式は、溶鋼中のAlによってパウダー中のOHが還元される反応を示している。この式より、まず溶鋼中の水素が高いと、すなわち真空処理をしないと、反応は右に進みにくく、パウダー中のOHが高くなることがわかる。また鋼中のSiが高いと溶鋼中の水素の活量が増加するため、反応は右に進みにくく、パウダー中のOHは高くなる。さらに溶鋼中のCaが高いと、すなわちCaを添加したAl−Siキルド鋼では、反応は右に進みにくく、パウダー中のOHが高くなる。このように図6の結果は反応式(2)から、矛盾なく説明することができる。
【0068】
以上の解析より、Ca添加したAl−Siキルド鋼であっても、溶融パウダー中のOHイオン濃度の上昇を抑制できれば、気泡の発生やメニスカスの抜熱変動は防ぐことができる可能性があることを着想した。そのためにはパウダー中のCaOの活量を増加させて、すなわちパウダーの塩基度を高くすることにより、(2)式で示される反応を右に進めることによって、パウダーフィルム中の気泡を抑え、さらには拘束性ブレークアウトの発生を防止できる可能性があると考えた。
【0069】
そこで、Ca添加したAl−Siキルド鋼とCa添加しないAl−Siキルド鋼に対して、塩基度を1.1〜2.2の範囲で変更したパウダーを用いて、スラブ連続鋳造の鋳造試験を行った。使用したパウダーの成分は表2に示すとおりである。なお、表2のパウダー2は、表1のパウダー2と同じである。
【0070】
【表2】

【0071】
表2のパウダー1〜10を用いて鋳造実験を行った。図7には、パウダー塩基度と鋳型熱電対温度の標準偏差との関係を示す。図7の鋳型熱電対温度については、メニスカスから100mm位置にある熱電対の温度である。鋳造速度は1.5〜1.7m/minの範囲であった。Caを添加した水準、すなわちCa濃度20〜30ppm(●)とCaを添加していない、すなわちCa<5ppm(○)について示す。
【0072】
図7から明らかなように、パウダーの塩基度が1.5以上になると、熱電対温度の標準偏差(ばらつき)は特にCa添加したAl−Siキルド鋼で著しく低減される。さらに、核磁気共鳴で測定されたパウダー中にOHとして存在する水素と塩基度との関係を図8に示す。パウダーの塩基度を1.5まで増大することにより、OHイオンの濃度は低下し、Ca添加なしとほぼ同等にまで低減される。これより高塩基度パウダーでは、パウダー中のCaOの活量が大きいために、溶鋼中のAlによるパウダー中のOHイオンの還元反応が促進され、OHイオンが低下したと考えられる。さらに図7で熱電対温度のばらつきが低減したのも、OHイオンの低下により気泡の発生や結晶化のばらつきが抑制されたためであると推定される。
【0073】
以上より、Ca添加したAl−Siキルド鋼の連続鋳造に際しては、塩基度Bが1.5以上の連続鋳造用パウダーを用いることにより、パウダーフィルム中の気泡発生を抑え、鋳型内の抜熱を安定化できることが明らかになった。この結果として、後述の通り拘束性ブレークアウトの予知信号発生頻度を低減できるので、鋳造速度変動による品質非定常部の発生頻度を低減し、ブレークアウト発生頻度をも低減することができる。
【0074】
なお、Ca処理を行ったAl−Siキルド鋼のうち真空処理をしていない鋼においても、拘束性ブレークアウト予知信号の発生を大幅に低減できることから、本発明のパウダーを用いることで、2次精錬の工程省略、すなわち真空処理の省略も可能となる。またスラブ連続鋳造において効果が顕著に表れる。また本発明の効果は、鋼中の炭素濃度によらず得ることができるが、C:0.08〜0.15質量%の中炭素鋼では、拘束性ブレークアウトとともに鋳片表面の縦割れの防止も可能となる。
【実施例】
【0075】
垂直曲げ型のスラブ連続鋳造機において、連続鋳造用パウダーとして表3のパウダー1〜10を用いて、質量ベースで、C:0.08〜0.12%、Si:0.15〜0.25%、Mn:1.0%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Alを0.025〜0.035%含有し、Caを15〜35ppm含有するAl-Siキルド鋼の連続鋳造を行った。鋳造速度は1.0〜2.0m/minであった。表3にパウダー成分、パウダーの1300℃における粘度(poise)、凝固温度(℃)を示す。
【0076】
表3に、ブレークアウト発生予知信号発生率を示す。比較例のパウダー1〜3に比べて、本発明のパウダー4〜10ではブレークアウト予知信号の発生率が大きく低下している。
【0077】
パウダー1、2、3(比較例)では、塩基度Bが低いために、図8に示すようにパウダー中の水酸イオン濃度が非常に高く、これが鋳型内抜熱量の低下やばらつき増大を起こし、そのためブレークアウト予知信号も頻発していた。これに対して、塩基度Bを1.5以上としたパウダー4〜10(実施例)では塩基度Bが高いために、図8に示すようにパウダー中の水酸イオン濃度が75ppm以下にまで低減し、そのため表3に示すブレークアウト予知信号の大幅な低減に寄与した。
【0078】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Caを15ppm以上、Siを0.1質量%以上、Alを0.015質量%以上0.035質量%未満含有する鋼の連続鋳造に用いられるパウダーであって、下記(1)式で示す塩基度Bが1.5以上であり、NaOを4〜12質量%、Alを1〜8質量%、Fを5〜12質量%、Cを1〜6質量%含有し、残部が不可避的不純物からなり、凝固温度が1230℃以下であることを特徴とする連続鋳造用パウダー。
B=T.CaO/SiO2 … (1)
ここで、T.CaOはパウダー中のCaがすべてCaOであるとしたときのCaO含有量(質量%)、SiO2はパウダー中のSiO2含有量(質量%)を表す。
【請求項2】
1300℃における粘度が0.5〜1.4poiseであることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用パウダー。
【請求項3】
LiOを0.5〜2質量%含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の連続鋳造用パウダー。
【請求項4】
鋼の連続鋳造がスラブ連続鋳造であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の連続鋳造用パウダー。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の連続鋳造用パウダーを用いて、Caを15ppm以上、Siを0.1質量%以上、Alを0.015質量%以上0.035質量%未満含有する鋼を連続鋳造することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate