説明

連続鋳造用浸漬ノズル及び連続鋳造方法

【課題】鋳造時間が経過しても、非金属介在物による閉塞が生じ難く、その効果を維持できるようにする。
【解決手段】ノズル本体1の内部を流下する下降流が旋回流である場合に使用する浸漬ノズルである。ノズル本体1の底部1a近傍の外周部1bに設けられた1対の側面孔2に加えて底部1aに底孔3を設けると共に、前記側面孔2を穿った部分における任意のノズル本体横断面内に存在する孔が2つである。この浸漬ノズルを使用し、20〜80m3/hrの流量速度Qで浸漬ノズルから鋳型内へ溶融金属を供給する。
【効果】溶融金属を供給する流量速度が大きい場合であっても、鋳型内の流動を静穏に保って連続鋳造を行うことができ、モールドパウダーの巻き込み欠陥や凝固シェルの再溶解などの問題を改善できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造に使用する浸漬ノズル、及びこの浸漬ノズルを用いて鋼等を連続鋳造する方法に係り、溶融金属の流量速度が大きい場合にも鋳型内の溶融金属の流動を静穏に保ち、湯面におけるモールドパウダーの巻き込みや凝固シェルの再溶融を防止しようとするものである。具体的には、幅が1000〜2500mm、厚みが200〜400mmの横断面を有するスラブの連続鋳造に適する技術である。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造において、浸漬ノズルから鋳型内へ供給する溶融金属の流量速度が大きい場合は、鋳型内に激しい流動が生じ、鋳型内溶融金属の湯面におけるモールドパウダーの巻き込みや、一旦形成された凝固シェルの再溶解が生じる。このような品質や操業上の問題を防止するには、浸漬ノズルの有効吐出孔面積を拡大して吐出流速を低減することが有効である。
【0003】
しかしながら、底部近傍の側面に1対の2つの吐出孔を有する通常の浸漬ノズルの吐出流は吐出孔の下部から集中的に流出するので、単に吐出孔面積を拡大するだけでは有効吐出孔面積の増大には繋がらない。
【0004】
これは、通常の浸漬ノズルでは、ノズル本体の内部を流下してきた下降流がノズル本体の底部に強く当って流れの方向を変え、水平方向の流速ベクトルを付加する形態であることに起因する。
【0005】
よって、ノズル本体の底部に新たな吐出孔(以下、底孔という。)を穿って有効吐出孔面積を拡大した場合、ノズル本体の内部を流下する下降流が前記底孔から集中的に吐出し、側面の吐出孔(以下、側面孔という。)には広範囲に吸い込み流が生じ易くなる。
【0006】
このように、通常の浸漬ノズルのノズル本体の底部に、底孔を単に追加するだけでは、有効吐出孔面積の拡大に繋がらないばかりか、非金属介在物や気泡が底部に追加した底孔からの吐出流に乗って鋳片深くに持ち込まれる問題が生じる。
【0007】
このような問題を回避しつつ有効吐出孔面積を拡大し、鋳型内流動を静穏に保つ浸漬ノズルとして、従来、例えば特許文献1,2で開示されている技術が知られている。
【0008】
これらの技術は、浸漬ノズルのノズル本体の底部に設けたスリット状の開口に特徴がある。これは、スリット状の狭い流路を形成することによって流路壁の摩擦抵抗を利用して吐出流速を軽減しつつスリットの長さによって吐出孔面積を拡大することを狙いとしている。
【0009】
このようなスリット状の開口と、独立もしくはスリットによって繋がった2つの側面孔を有する浸漬ノズルは、単に2つの側面孔を底部近傍の側面に有する通常の浸漬ノズルに比べて吐出孔の有効面積を拡大することができる。
【0010】
しかしながら、スリット状の狭い流路はアルミナ等の非金属介在物の付着によって閉塞しやすく、鋳造時間の経過とともに、その効果が損なわれるという難点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第2778455号公報
【特許文献2】特許第3595464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする問題点は、特許文献1,2で開示された技術は、鋳造時間の経過とともに、スリット状の狭い流路が非金属介在物の付着によって閉塞しやすくなるので、その効果が損なわれるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の連続鋳造用浸漬ノズルは、
鋳造時間が経過しても、非金属介在物による閉塞が生じ難く、その効果を維持できるようにするために、
ノズル本体の内部を流下する下降流が旋回流である場合に使用する浸漬ノズルであって、
ノズル本体の底部近傍の外周部に設けられた1対の側面孔に加えて底部に底孔を設けると共に、前記側面孔を穿った部分における任意のノズル本体横断面内に存在する孔が2つであることを最も主要な特徴としている。
【0014】
本発明は、ノズル本体の内部を流下する下降流が旋回流である場合に使用する浸漬ノズルであるので、下降流は旋回流に作用する遠心力によって水平方向の流速ベクトルを付加され、底孔のみならず側面孔からも吐出する。従って、底孔に分配される流れが減少し、側面孔と底孔との吐出流量のバランスが改善される。
【0015】
そして、本発明では、スリット状の狭い流路でない底孔を用いて有効吐出孔面積を拡大するので、非金属介在物による閉塞が生じ難く、鋳造時間が経過してもその効果を維持することができる。
【0016】
すなわち、ノズル本体の内部を流下する下降流が旋回流である場合に限って、1対の側面孔に加えて、単に底孔を追加するという、本発明の浸漬ノズル設計が合理的に成立するのである。
【0017】
上記本発明の浸漬ノズルを使用した場合、浸漬ノズルから鋳型内に供給する溶融金属の流量速度が20〜80m3/hrの場合でも、鋳型内流動を静穏に保って連続鋳造することができる。これが本発明の連続鋳造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、浸漬ノズルから鋳型内に供給する溶融金属の流量速度が大きい場合であっても、鋳型内の流動を静穏に保って連続鋳造を行うことができるので、モールドパウダーの巻き込み欠陥や凝固シェルの再溶解などの問題を改善することができる。
【0019】
さらに、本発明は、鋳型内に水平方向の電磁撹拌流を形成する場合にも、電磁撹拌が形成する流れと浸漬ノズルからの吐出流との干渉を抑制することが可能となり、溶融金属の連続鋳造に幅広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】発明例Aの浸漬ノズルを示した図で、(a)は縦断面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)のB−B矢視図である。
【図2】発明例Cの浸漬ノズルを示した図で、(a)は縦断面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)のB−B矢視図である。
【図3】発明例Fの浸漬ノズルを示した図で、(a)は縦断面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)のB−B矢視図である。
【図4】発明例Gの浸漬ノズルを示した図で、(a)は縦断面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)のB−B矢視図である。
【図5】比較例Oの浸漬ノズルを示した図で、(a)は縦断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明では、鋳造時間が経過しても、非金属介在物による閉塞が生じ難く、その効果を維持できるようにするという目的を、浸漬ノズルのノズル本体内部を流下する下降流が旋回流である場合に限って、1対の側面孔に単に底孔を追加することによって実現した。
【実施例】
【0022】
以下、本発明について説明する。
本発明の連続鋳造用浸漬ノズルは、ノズル本体の内部を流下する旋回流を利用して、ノズル本体底部近傍の外周部に穿った1対の側面孔と底部に穿った底孔とに分配する溶融金属流の割合を調整するという、新たな思想に基づき成されたものである。
【0023】
すなわち、本発明の連続鋳造用浸漬ノズルは、例えば図1に示すように、円筒状のノズル本体1の底部近傍の外周部1bに穿った1対の側面孔2に加えて、底部1aに底孔3を穿ったものである。そして、この側面孔2を穿った部分における任意のノズル本体横断面内に存在する孔が2つであるものである。
【0024】
なお、本発明の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、ノズル本体1の内部を流下する下降流を旋回流とする態様は特に限定されないが、例えばノズル本体1の基端側内部に羽根を取付け、この羽根を通過する際に下降流に旋回を付与するもの等がある。また、タンディッシュの底部に設ける孔を斜め状とし、この孔から浸漬ノズルに溶鋼を供給することで浸漬ノズルの下降流に旋回を与えるものでも良い。
【0025】
本発明において、「1対の側面孔」とは、通常は2つの吐出孔を指すが、縦長の側面孔を上下で分割した4つ以上の吐出孔を有する形態であっても良い。
【0026】
また、「任意のノズル本体横断面内に存在する孔が2つ」であるとは、任意のノズル本体横断面に側面孔を4つ有するような形態を含まないことを指す。
【0027】
これは、任意のノズル本体横断面に2つの側面孔を有する場合には、側面孔からの吐出流を鋳型長辺面に平行に流出させることができるが、任意のノズル本体横断面に4つ以上の側面孔が存在すると、鋳型長辺面に向かう吐出流が形成されることを避け難いからである。
【0028】
本発明の連続鋳造方法のように、浸漬ノズルから鋳型内に供給する溶融金属の流量速度が20〜80m3/hrの範囲の条件下で適用する場合には、鋳型長辺面へ向かう吐出流が形成されると、凝固シェルの再溶融を招いてしまうので、好ましくない。
【0029】
また、「側面孔を底部近傍の外周部に穿つ」とは、具体的には、側面孔の下端がノズル本体の外周面の底から200mm以内の高さに存在するように穿つことを意味する。側面孔の下端からノズル本体の外周面の底までの距離が無用に大きいことは、耐火物の無駄となるからである。
【0030】
上記本発明の浸漬ノズルにあっては、側面孔2を穿った部分におけるノズル本体1の内径Dmはφ40〜φ120mm、側面孔2の平均幅Wは20〜100mm、総高さHは30〜250mm、底孔3の円相当最低直径Dbはφ20〜φ100mmとすることが望ましい。
【0031】
加えて、側面孔2の平均幅Wと側面孔2を穿った部分におけるノズル本体1の内径Dmとの比W/Dmが0.3〜0.9、底孔3の円相当最低直径Dbと側面孔2を穿った部分におけるノズル本体1の内径Dmとの比Db/Dmが0.2〜0.9、底孔3の開孔面積Abと側面孔2の総開孔面積Asとの比Ab/Asが0.02〜0.80とすることが望ましい。これが本発明の請求項2に係る発明である。
【0032】
なお、底孔3の開孔面積Abはπ(Dm/2)2で、また、側面孔2の総開孔面積Asは2WHで求められることは言うまでもない。
【0033】
ノズル本体1の内部を流下する下降流が旋回流である場合には、ノズル本体1の内径Dmに対して側面孔2の平均幅Wが小さいことが望まれる。これは、側面孔2の平均幅Wがノズル本体1の内径Dmと同じ、若しくは大きい場合には、旋回流の影響によって吐出流が水平面上で広がり、吐出流の一部が鋳型長辺に向かうことになって鋳型長辺側の凝固シェルの成長を妨げるからである。
【0034】
側面孔2を穿った部分におけるノズル本体1の内径Dmがφ40〜φ140mmが望ましいのは、内径Dmがφ40mm未満の場合は非金属介在物等による閉塞が生じ易くなるからである。一方、φ140mmよりも大きいと浸漬ノズルが巨大になって耐火物コストの上昇や取り扱い上の困難を引き起こすからである。
【0035】
また、側面孔の平均幅Wが20〜100mmが望ましいのは、20mm未満であると非金属介在物等による閉塞が生じ易くなるからであり、また100mmを超えるほど大きい平均幅は不要であるし、前記平均幅の増大に伴う浸漬ノズル使用時の亀裂発生リスクが増すからである。
【0036】
また、側面孔の総高さHが30〜250mmの範囲が望ましいのは、30mm未満であると非金属介在物等による閉塞が生じ易くなるからであり、また250mmを超えるほど大きい高さは不要であるし前記総高さの増大に伴う浸漬ノズル使用時の亀裂発生リスクが増すからである。
【0037】
ここで、「側面孔の総高さH」とは、1対2つの側面孔を有する場合には、その最大開孔高さを指し、縦長の側面孔を上下に分割している場合には、上下2つの孔の最大高さの和を指す。「開孔高さ」とは、側面孔出口(すなわちノズル本体の外周面)における孔の高さを言う。
【0038】
また、底孔の最低直径Dbがφ20〜φ100mmの範囲が望ましいのは、φ20mm未満であると非金属介在物等による閉塞が生じ易くなるからであり、φ100mmを超えるほど大きい底孔は不要であるし、浸漬ノズル径の無用な増大を招くからである。
【0039】
前記W/Dmを0.3〜0.9の範囲とするのが望ましいのは、0.3未満としても、吐出流の広がり抑制効果の向上は殆ど見込めないので、意味がないからである。反対に0.9を超える場合は、上記のように吐出流が大きく広がる弊害が顕著になるからである。W/Dのより好ましい範囲は、0.4〜0.8である。
【0040】
また、前記Db/Dmを0.9以下とするのは、ノズル本体の内径Dmよりも底孔の径Dbを規定の比率で小さく絞ることによって側面孔上部における吸い込み流の発生を防止できるからである。また、前記Db/Dmを0.2以上とするのは、0.2未満の場合は、逆に側面孔下部における吸い込み流が発生しやすくなるからである。
【0041】
このように、前記Db/Dmは、側面孔における吸い込み流の発生を防止する設計因子である。ここで、底孔3の径Dbを最低直径で規定するのは、例えば図1に示すように、底孔3がノズル本体1の内部から外部に向かって徐々に径を拡大する場合を想定している。
【0042】
そのような場合には、最低直径Dbと側面孔を穿った部分におけるノズル本体の内径Dmとの比Db/Dmが側面孔における吸い込み流の防止という底孔の機能を主に規定するからである。また、Dbを円相当径として規定するのは、底孔3の横断面が楕円形状や矩形形状である場合に、それと面積を同じくする円の直径をDbと定めることを意味する。
【0043】
また、前記Ab/Asは、大まかに底孔と側面孔からの吐出流量と吐出流速を規定している。Ab/Asを0.02〜0.80の範囲としたのは、0.02未満であると底孔からの吐出流量が小さくなって底孔による鋳型内流動静穏化作用が損なわれるからである。また逆に、側面孔からの吐出流速は増大し、気泡や非金属介在物がストランド深くまで持ち込まれてしまうからである。一方、Ab/Asが0.80よりも大きいと、底孔からの吐出流量が大きくなる一方、側面孔からの吐出流が不足し、鋳型内への溶融金属分配が浸漬ノズル直下に偏り、側面孔からの吐出流が担っている鋳型内湯面への熱供給が不足するからである。
【0044】
また、前記本発明においては、前記側面孔2は、浸漬ノズルの中心軸に対して軸対称に配置し、前記底孔3は、浸漬ノズルの中心軸を中心とした円断面を有するものとすることが望ましい。これが本発明の請求項3に係る発明である。
【0045】
側面孔2を、浸漬ノズルの中心軸を通る平面に対して面対称ではなく、浸漬ノズルの中心軸に対して軸対称に配置することは、旋回流を円滑に吐出させるのに有効だからである。側面孔2を浸漬ノズルの中心軸に対して軸対称に配置した場合、ノズル本体横断面における側面孔2の両側壁の長さに差が生じる。請求項3に係る発明では、側面孔2の長い方の側壁2aが旋回流の上流側になるよう配置するのである。
【0046】
最も好ましいのは、側面孔2の長い方の側壁2aが円断面であるノズル本体1の内周壁の接線と一致するよう配置する場合である。このとき、ノズル本体1の内周壁に沿った旋回流が円滑に側面孔2へと流れる。
【0047】
また、底孔3は、旋回流の周方向流速成分の減衰を抑制する観点から、浸漬ノズルの中心軸を中心とした円断面となるように鉛直に穿つべきである。
【0048】
前記本発明の浸漬ノズルを使用する溶融金属の連続鋳造においては、浸漬ノズルから鋳型内に供給する溶融金属の流量速度Qを20〜80m3/hrとする。これが本発明の溶融金属の連続鋳造方法である。
【0049】
浸漬ノズルから鋳型内に供給する溶融金属の流量速度Qが20m3/hr未満の場合には、本発明の浸漬ノズルを使用してまで鋳型内流動を静穏化する必要が無いからである。また、前記流量速度Qが80m3/hrを超えると、本発明の浸漬ノズルを使用しても鋳型内流動を静穏に保つことは難しいからである。
【0050】
前記本発明の連続鋳造方法にあっては、前記側面孔直上における旋回流の平均周方向流速Vと平均下降流速Uとの比V/Uと、前記側面孔の総高さH、前記側面孔の平均幅W、前記側面孔を穿った部分のノズル本体内径Dmとの関係が下記式を満たすことが望ましい。これが請求項5に係る発明である。
0.2<[H/{(π・Dm−2W)/2}]×(V/U)<3.5
【0051】
ここで、「側面孔直上」とは、ノズル本体の外周部に穿たれた側面孔を形成する上下左右の壁面の内、上壁がノズル本体の内面に交わる線の上端から上方50mm以内の領域を指す。
【0052】
前記式のH/{(π・Dm−2W)/2}は、側面孔の高さと、側面孔に挟まれたノズル本体の内周壁の周長との比を、簡易的に表す指数である。
【0053】
旋回流の周方向流速と下降流速との比V/Uが大きい、すなわち旋回が強い場合には、前記指数を小さく、すなわち側面孔の高さを低くしたり幅を狭くすることによって、遠心力によって分配される側面孔への吐出流の分配比率が過大になることや側面孔上部に吐出流が偏ることを抑制できる。
【0054】
また逆に、前記比V/Uが小さい、すなわち旋回が弱い場合には、前記指数を大きくする、すなわち側面孔の高さを高くしたり幅を広くすることによって、側面孔への吐出流の分配比率を高めることができる。
【0055】
すなわち、[H/{(π・Dm−2W)/2}]×(V/U)の値を0.2以上、3.5以下の範囲に規定することによって、側面孔と底孔への吐出流の分配比を適正化し、側面孔において上下方向の吐出流速分布を均一化することができる。
【0056】
このような前記式を指標とした調整と、請求項2の規定との組み合わせは、本発明による旋回流を活かした浸漬ノズル設計に多面的な指針を与え、適正な設計を可能にするものである。
【0057】
以下、本発明の効果を確認するために行った、実験結果について説明する。下記表1,2及び図1〜図4に本発明の実施例を、下記表3及び図5に本発明の比較例を示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
表1〜3において、「鋳型内流速指数」における「鋳型内流速」とは、浴深さが3mの、規定の断面サイズを有する連続鋳造鋳型の実物大水モデル実験装置において、それぞれの浸漬ノズルに規定のノズル本体内流れを与えて水を供給し、鋳型内1/4幅および3/4幅で1/2厚さ位置での水面下50mmにおける流速を、プロペラ流速計を用いて0.5秒ピッチで15分間測定した平均値をいう。そして、この鋳型内流速が12cm/s未満であるときを甲、12cm/s以上、18cm/s未満であるときを乙、18cm/s以上であるときを丙と定義した。なお、浸漬ノズルに設けた側面孔の上端よりも50〜200mm上方に鋳型内水面を維持するように、水を注入した。
【0062】
また、「鋳型内流動安定度」とは、上記と同じ水モデル実験を行って0.5秒ピッチで15分間測定したデータを5秒毎に平均化し、5秒ピッチで15分間のデータの標準偏差を平均値で除した値で、この値が0.30未満の場合を甲、0.30以上、0.35未満の場合を乙、0.35以上の場合を丙と定義した。
【0063】
表1のA〜Eは、本発明の請求項1〜5に規定する条件の全てを満たす実施例である。これら実施例A〜Eの浸漬ノズルを、表1に記載した浸漬ノズル内旋回流と組み合わせて使用すると、鋳型内流動を静穏に保つ連続鋳造が実現する。
【0064】
実施例Aの浸漬ノズルを図1に示す。実施例Aの浸漬ノズルでは、側面孔2は浸漬ノズルの中心軸に対して軸対称に穿たれている。その際、浸漬ノズル内の下降流が、図1(b)に矢印で示す旋回方向と側面孔2の開孔形態との対比から明らかなように、側面孔2の長い方の側壁2aが旋回流の上流側になるように側面孔2を穿っている。さらに、側面孔2は、側面孔2の長い方の側壁2aが円断面であるノズル本体1の内周壁の接線と一致するよう穿っている。これは、ノズル本体1の内周壁に沿って回転する旋回流が円滑に側面孔2を通じて流出する形態である。他の実施例B〜Eの場合も、側面孔2を同様の形態で穿っている。
【0065】
実施例Cの浸漬ノズルを図2に示す。実施例Cの浸漬ノズルは、180mmの総高さHの側面孔2を、出口側の高さが90mmの2段の孔で形成し、これら2段の孔間には上下方向の厚みが15mmの隔壁2bが存在している。
【0066】
このように側面孔2を上下に分割する場合には、その間に10〜30mmの厚さの隔壁2bを設ける。前記厚みが10mm未満の場合は強度や耐久性に問題があり、30mmを超えると浸漬ノズルが無用に長くなるからである。
【0067】
なお、実施例Bの浸漬ノズルの場合、側面孔2の平均幅Wが70mmと大きい反面、総高さHが160mmと低いことを除き、実施例Cと同じ形状の隔壁で側面孔の出口側の高さを2等分している。
【0068】
表2のFは、本発明の請求項1,2,4,5に規定する条件を満たす実施例である。
この実施例Fの浸漬ノズルを図3に示す。
【0069】
実施例Fは、前記実施例A〜Eに勝るとも劣らない鋳型内流動静穏化効果を有する。しかしながら、実施例Fは、側面孔2が面対称に穿たれているので、浸漬ノズル内の旋回流が側面孔2を通じて流出する過程において、実施例A〜Eに比べて渦や淀みを生じ易く、側面孔2の非金属介在物による閉塞が生じ易い。
【0070】
但し、側面孔の開孔形態が通常の浸漬ノズルと類似していることから、製造現場における浸漬ノズル取り付け上のミスが生じるおそれや、オペレーターの心理的な不安が小さいという利点がある。
【0071】
表2のGは、本発明の請求項1,2,4,5に規定する条件を満たす実施例である。
この実施例Gの浸漬ノズルを図4に示す。
【0072】
実施例Gは、前記実施例A〜Eに勝るとも劣らない鋳型内流動静穏化効果を有する。しかしながら、実施例Gは、矩形の底孔3が対称に穿たれているので、浸漬ノズル内の旋回流が底孔3を通じて流出する過程において、実施例A〜Eに比べて渦や淀みを生じ易く、底孔3の非金属介在物による閉塞が生じ易い。
【0073】
また、底孔3を通過する際に旋回流の周方向流速が大きく減衰するので、底孔3からの吐出流が遠心力によって広がる作用が弱まる。その結果、底孔3からの吐出流が鋳片深くまで侵入し、非金属介在物や気泡が鋳片深くに持ち込まれる点で、実施例A〜Fに劣る。
【0074】
表2のHは、本発明の請求項1,2,3に規定する条件を満たす実施例である。
この実施例Hの浸漬ノズルは、実施例Dの浸漬ノズルと同じ形状であり、十分な鋳型内流動静穏化効果を有する。
【0075】
しかしながら、実施例Hの浸漬ノズルを使用した連続鋳造では、流量速度Qが請求項4で規定する下限値よりも小さいので、本発明の浸漬ノズルを使用して鋳型内流動を静穏化する必要がない例である。逆に、このような流量速度Qが小さい場合に本発明の浸漬ノズルを用いると、鋳型内湯面の温度が低下する問題が生じるので、鋳型内電磁撹拌を合わせて適用するなどの対策が必要となる。
【0076】
表2のIは、本発明の請求項1,2,3に規定する条件を満たす実施例である。
この実施例Iの浸漬ノズルは、実施例Eの浸漬ノズルと同じ形状であり、鋳型内流動を静穏に保つ作用を有する。
【0077】
しかしながら、実施例Iの浸漬ノズルを使用した連続鋳造では、請求項4で規定する範囲に比べて流量速度Qが過剰に大きいので、本発明の浸漬ノズルを使用しても鋳型内流速の抑制が十分ではない例である。それでも、後述の比較例Nに示すような、底孔を穿たない従来の2孔の浸漬ノズルを用いる場合に比べると、鋳型内の流速を低下することができる。
【0078】
表1,2には、浸漬ノズルを溶鋼の連続鋳造に使用する具体的な例を合わせて示している。具体的には、規定サイズのスラブ連続鋳造鋳型内に、溶鋼と動粘度が同等の水を、これらの浸漬ノズルを使用して注入した場合の、鋳型内流動を測定した結果を評価して示している。
【0079】
前記実施例A〜Gは、鋳型内流速指数、鋳型内流動安定度ともに評価は甲と良好であった。
【0080】
一方、流量速度Qが請求項4で規定する下限値よりも小さい実施例Hでは、鋳型内流速は十分に小さく鋳型内流速指数は甲と良好であるが、鋳型内流動安定度はやや劣る乙であった。これは、鋳型内流動が停滞し、流動パターンが定まり難かったことに起因すると推定されるが、鋳型内流速の絶対値が小さいので問題とはならない。
【0081】
また、流量速度Qが請求項4で規定する範囲よりも大きい実施例Iでは、鋳型内流速を十分に下げることが難しく、鋳型内流速指数は乙とやや劣る結果であった。
【0082】
表3のJおよびKは、それぞれ実施例Aおよび実施例Dと同じ浸漬ノズルであるが、浸漬ノズル内の下降流が旋回流でない比較例である。
【0083】
これらの比較例JおよびKは、浸漬ノズル内の下降流に遠心力が作用しないので、側面孔への吐出流の分配が不足し、底孔からの吐出流速が大きくなる例である。これらの比較例JおよびKの場合、側面孔の上部では吸い込み流が発生する。
【0084】
側面孔への吐出流の分配が不足する結果、鋳型内湯面への熱移送が不足し、鋳型内湯面の温度低下に起因する様々な問題が生じることになる。様々な問題とは、非金属介在物や気泡の浮上分離が阻害されることや、モールドパウダーの溶融不良などである。
【0085】
また、底孔からの吐出流速が大きくなると、非金属介在物や気泡が鋳片深くにまで持ち込まれて欠陥になるという問題が生じる。
【0086】
これらの比較例JおよびKは、鋳型内流速は十分に小さく鋳型内流速指数は甲と良好であるが、上述のように湯面への熱移送が不足する問題が大きい。また、鋳型内流動安定度が丙と劣るのは、一定の流動パターンが形成されないからであると推定される。
【0087】
表3のLおよびMは、それぞれ実施例Aおよび実施例Dに対して浸漬ノズルの底孔が無い形状の浸漬ノズルを用いた例である。これらの比較例LおよびMは、浸漬ノズル内の旋回流の作用によって、側面孔からの吐出流が均一かつ均等になる利点はあるものの、底孔が無いので、本発明の実施例AおよびDのように、鋳型内流動を静穏化することはできない。
【0088】
これらの比較例LおよびMは、底孔に一定の吐出流を分配することができないので、鋳型内に強い流動が形成され、鋳型内流速指数は丙と劣る結果となった。一方、浸漬ノズル内の旋回流が有する遠心力が側面孔からの吐出流を安定に分配するので、鋳型内流動は安定し、鋳型内流動安定度は良好な甲であった。
【0089】
表3のNは、浸漬ノズル内の下降流が旋回流でなく、面対称に開孔した側面孔を有する通常の2孔浸漬ノズルを用いた、一般的な鋳型内給湯方法を示す比較例である。この比較例Nは、底孔の効果も旋回流の効果も得られないので、鋳型内流動の乱れが大きくなる。
【0090】
この比較例Nは、底孔が無いので、側面孔からの吐出流が強い鋳型内流動を形成し、鋳型内流動指数は丙と劣る結果になった。また、浸漬ノズル内下降流に遠心力が作用しないので、側面孔からの吐出流は乱れが大きく、鋳型内流動安定度が丙と劣る結果になった。
【0091】
表3のOは、浸漬ノズル内の下降流が旋回流であり、側面孔と底孔を有する点は本発明の実施例と同じであるが、図5に示すように側面孔2が同一高さで周方向に4つ開孔している点が異なる比較例である。
【0092】
側面孔が周方向に4つ開孔していると、側面孔からの吐出流が鋳型長辺側の凝固シェルに衝突して再溶解を誘発する問題が生じる。
【0093】
この比較例Oは、鋳型内流速指数および鋳型内流動安定度はともに甲と良好であったが、上述の凝固シェルの再溶解が問題となるので、実用に供することは難しい。
【0094】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0095】
例えば、本発明においては、浸漬ノズルの外径は特に規定しないが、耐火物の強度を確保し、かつ無駄な重量増加を避ける観点から、壁の厚みが15〜35mmの範囲になるよう浸漬ノズルの外径を定めるのが好ましい。また、浸漬ノズル底壁の厚みも同様に、15〜35mmの範囲とするのが好ましい。
【符号の説明】
【0096】
1 ノズル本体
1a 底部
1b 外周部
2 側面孔
3 底孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル本体の内部を流下する下降流が旋回流である場合に使用する浸漬ノズルであって、
ノズル本体の底部近傍の外周部に設けられた1対の側面孔に加えて底部に底孔を設けると共に、前記側面孔を穿った部分における任意のノズル本体横断面内に存在する孔が2つであることを特徴とする溶融金属の連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項2】
前記側面孔を穿った部分におけるノズル本体の内径Dmはφ40〜φ140mm、前記側面孔の平均幅Wは20〜100mm、総高さHは30〜250mm、前記底孔の円相当最低直径Dbはφ20〜φ100mmであり、
前記側面孔の平均幅Wと前記側面孔を穿った部分におけるノズル本体の内径Dmとの比W/Dmが0.3〜0.9、前記底孔の円相当最低直径Dbと前記側面孔を穿った部分におけるノズル本体の内径Dmとの比Db/Dmが0.2〜0.9、前記底孔の開孔面積Abと前記側面孔の総開孔面積Asとの比Ab/Asが0.02〜0.80であることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属の連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項3】
前記側面孔は、浸漬ノズルの中心軸に対して軸対称に配置され、
前記底孔は、浸漬ノズルの中心軸を中心とした円断面を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融金属の連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の浸漬ノズルを使用し、20〜80m3/hrの流量速度Qで浸漬ノズルから鋳型内へ溶融金属を供給することを特徴とする溶融金属の連続鋳造方法。
【請求項5】
前記側面孔直上における旋回流の平均周方向流速Vと平均下降流速Uとの比V/Uと、前記側面孔の総高さH、前記側面孔の平均幅W、前記側面孔を穿った部分のノズル本体の内径Dmとの関係が下記式を満たすことを特徴とする請求項4に記載の溶融金属の連続鋳造方法。
0.2<[H/{(π・Dm−2W)/2}]×(V/U)<3.5

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−183568(P2012−183568A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49243(P2011−49243)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】