説明

連続鋳造装置

【課題】ビレットの内周面における鋳肌表面性状の悪化を抑制できるとともにビレットの内周面でブレイクアウトが発生することを防止できる連続鋳造装置を提供する。
【解決手段】ビレットの内部12cに冷却水C2を供給するための冷却水供給経路60aを有し、鋳型20および中子40から引き抜かれたビレットの内周面12aに向けて、冷却水供給経路60aより供給される冷却水C2を噴射する冷却水噴射機構60と、ビレットの内部12cとビレットの外部とを連通するための吸引排出経路70aを有し、冷却水C2がビレットの内周面12aと接触して気化し、ビレットの内部12cに滞留する水蒸気Vを、吸引排出経路70aより吸引してビレットの外部に排出する吸引排出機構70と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型および中子の間に供給される溶湯を冷却して中空状のビレットを形成し、鋳型および中子からビレットを引き抜くことで、連続してビレットを鋳造する連続鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、連続鋳造装置を用いて鋳型および中子の間に供給される溶湯を冷却して凝固させた後で引き抜くことにより、中空状のビレットを鋳造している。このような連続鋳造装置としては、例えば、特許文献1、および特許文献2に記載される連続鋳造装置がある。
【0003】
特許文献1に開示された連続鋳造装置(中空ビレット鋳造装置)は、冷却剤をビレットに噴射可能な鋳型、内部に空気等を循環させて溶湯およびビレットを内側から冷却する中子、および中子外壁近くの温度を検出する温度検出装置を具備し、温度検出装置の検出値に応じて中子を循環する空気等の流量を制御する。
【0004】
このような特許文献1に開示された連続鋳造装置は、ビレットの内周面からの冷却を弱くして、中子とビレットとの間の離型抵抗を低減している。つまり、ビレットの外周面における冷却速度と比較して、ビレットの内周面における冷却速度が遅い構成である。
【0005】
特許文献2に開示された連続鋳造装置は、鋳型および水冷式中子により、ビレットの内周面および外周面に冷却水を直接噴射する。
【0006】
このような特許文献2に開示された連続鋳造装置(鋳造装置)では、連続鋳造開始当初は、ビレットの内周面および外周面の冷却能力に大きな差異は生じない。しかし、連続鋳造を続けるにつれて、ビレットの内周面に噴射されて気化した冷却水(水蒸気)が、ビレットの内部に滞留するとともに、その滞留量が増加する。従って、ビレットの内部が高圧および高温となる。
この場合、連続鋳造を続けるにつれて、ビレットの外周面における冷却速度と比較して、ビレットの内周面における冷却速度が低下してしまう。
【0007】
このようにビレットの内周面における冷却速度が低下した(ビレットの内周面における冷却速度が遅い)状態で、ビレット引抜速度を速くした場合には、ビレットの内周面における冷却速度が不足する場合がある。この場合、図6に示すように、ビレット112は、ビレットの内周面112aの凝固が不十分なままで、鋳型120および中子140から引き抜かれることとなる。
【0008】
このとき、ビレットの内周面112aからビレット112の厚み方向中途部までが高温な状態であるため、ビレットの内周面112aが再溶解してしまう。このように再溶解した溶湯111は、ビレットの内周面112aより滲み出る。そして、滲み出た溶湯111が再凝固して、ビレットの内周面112aに凹凸部112dが形成される。
このような凹凸部112dが形成されるビレット112は、ビレット本来の形状(鋳型120と中子140との間で形成されるビレット112の形状)とは異なる形状となってしまう。つまり、ビレットの内周面112aにおける冷却速度が不足した場合には、ビレットの内周面112aにおける鋳肌表面性状が悪化してしまう。
【0009】
また、ビレット引抜速度の上昇に伴い溶湯111の湯面111aの位置が低下(湯面111aの位置が図6における紙面下方向に移動)して、ビレットの内周面112aでブレイクアウト(溶湯漏れ)が発生する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平1−31971号公報
【特許文献2】特開平1−91947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、ビレットの内周面における鋳肌表面性状の悪化を抑制できるとともに、ビレットの内周面でブレイクアウトが発生することを防止できる連続鋳造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1においては、鋳型および該鋳型の内側に配置される中子の間に供給される溶湯を冷却して凝固させることによりビレットを成形し、前記鋳型および前記中子から前記ビレットを引き抜くことで、連続して前記ビレットを鋳造する連続鋳造装置であって、前記ビレットの内部に冷却水を供給するための冷却水供給経路を有し、前記鋳型および前記中子から引き抜かれたビレットの内周面に向けて、前記冷却水供給経路より供給される冷却水を噴射する冷却水噴射手段と、前記ビレットの内部と前記ビレットの外部とを連通するための吸引排出経路を有し、前記冷却水が前記ビレットの内周面と接触して気化し、前記ビレットの内部に滞留する水蒸気を、前記吸引排出経路より吸引して前記ビレットの外部に排出する吸引排出手段と、を具備する、ものである。
【0013】
請求項2においては、前記連続鋳造装置は、前記ビレットの内周面での溶湯漏れを検知する検出手段をさらに具備し、前記検出手段は、電気伝導性を有するとともに前記中子より鋳造方向下流側に配置され、前記鋳型および前記中子より前記鋳造方向下流側に漏れて、前記ビレットの内周面に沿って前記鋳造方向下流側に移動する溶湯と接触することで破断する接触部と、前記接触部に接続され、前記接触部に電圧を印加する電気回路と、前記電気回路に電流が流れていることを監視する監視部と、を備える、ものである。
【0014】
請求項3においては、前記ビレット引抜速度を上昇させた際に、前記冷却水噴射手段による前記冷却水の噴射量を、前記ビレット引抜速度に対応して増加させる、ものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、ビレットの内周面における冷却速度を向上できるため、ビレットの内周面における鋳肌表面性状の悪化を抑制できるとともに、ビレットの内周面でブレイクアウトが発生することを防止できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態の連続鋳造装置の全体的な構成を示す断面図。
【図2】ビレットの内周面に噴射される冷却水の流れを示す拡大断面図。
【図3】ビレット引抜速度を上昇させた状態を示す拡大断面図。
【図4】ビレットの内周面でブレイクアウトが発生した状態を示す拡大断面図。
【図5】ビレットの内周面でブレイクアウトが発生した後の状態を示す拡大断面図。
【図6】従来の連続鋳造装置の全体的な構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る連続鋳造装置の実施の一形態である連続鋳造装置1について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1に示すように、連続鋳造装置1は、中空状のビレット12を連続して鋳造するものである。本実施形態の連続鋳造装置1は、円筒状のビレット12を鋳造する。
【0019】
なお、本実施形態の溶湯11は、アルミニウムとするが、これに限定されるものでない。
【0020】
以下では、説明の便宜上、溶湯11が流れる方向(図1に示す矢印A方向)とビレット12が引き抜かれる方向(図1に示す矢印B1方向)とを基準として、「連続鋳造装置1の鋳造方向」を規定する。
なお、本実施形態の連続鋳造装置1は、重力が作用する方向(図1における紙面上下方向)に沿ってビレット12を引き抜くものとするが、これに限定されるものでなく、水平方向(図1における紙面左右方向)にビレット12を引き抜く構成とすることも可能である。
【0021】
連続鋳造装置1は、鋳型20、ホットトップ30、中子40、搬送機構50、冷却水噴射機構60、吸引排出機構70、検出機構80、および制御機構90等を具備する。
【0022】
鋳型20は、ビレット12の外形を成形するものである。鋳型20は、略リング状に形成されるとともに、冷却通路21およびスリット22が形成される。
【0023】
冷却通路21は、鋳型20の内部に形成され、図1における断面視略四角形状を有する。冷却通路21は、鋳型20の形状に沿って連続して形成される。つまり、冷却通路21は、鋳型20の外径よりもやや小さな外径を有するとともに、鋳型20の内径よりもやや大きな内径を有する略リング状に形成される。
このような冷却通路21は、配管等を介して冷却水タンク等の冷却水供給源に連結され、当該冷却水供給源よりポンプ等により冷却水C1が加圧供給される。
【0024】
スリット22は、鋳型20の冷却通路21の鋳造方向下流側(以下、単に「下流側」と表記する)端面より、下流側に向かうにつれて鋳型径方向内側に向かうような、図1における断面視略テーパ状の隙間である。スリット22は、鋳型20の下流側端面に沿って連続して形成され、鋳型20の下流側端面より外部に開口する。つまり、スリット22は、略リング状に形成される。
【0025】
前記冷却水供給源より冷却通路21に供給される冷却水C1は、スリット22を通ってビレットの外周面12bに噴射される(図1に示す矢印C1参照)。
【0026】
このような鋳型20は本実施形態では銅合金で構成される。従って、冷却通路21に供給される冷却水C1には、溶湯11の熱が伝熱することとなる。つまり、鋳型20の内側で、冷却水C1への伝熱による溶湯11の冷却が行われる。
【0027】
ホットトップ30は、鋳型20の鋳造方向上流側(以下、単に「上流側」と表記する)に取り付けられており、鋳型20の内径と略同一の内径を有する。ホットトップ30と鋳型20とは、互いに同心上に配置される。このようなホットトップ30は、例えば、耐熱レンガ等で構成される。
ホットトップ30は上流側にて溶解炉およびタンディッシュ等と連通している。つまり、溶解炉で生成される溶湯11が、タンディッシュ等を介してホットトップ30に供給される。
【0028】
中子40は、ビレット12の中空部を成形するものである。中子40は、鋳型20の内側、より詳細には、その中央部が鋳型20の中央部と重なる位置に配置される。つまり、鋳型20と中子40とは、互いに同心上に配置される。中子40とホットトップ30および鋳型20との間には、リング状の隙間が形成されている。このような中子40は、上型42と下型41とを備える。
【0029】
下型41は、鋳型20と同じ高さ位置(つまり、それぞれの上流側端部と下流側端部とが互いに同じ位置)に配置される部分であり、略円柱状に形成される。下型41には、冷却通路41aおよびスリット41bが形成される。
【0030】
冷却通路41aは、下型41の内部に形成され、図1における断面視略四角形状を有する。冷却通路41aは、下型41の外径よりもやや小さな外径を有する略円状に形成される。
冷却通路41aは、後述する冷却水噴射機構60の配管63等を介して冷却水供給源である冷却水タンク61に連結される。冷却通路41aには、前記冷却水タンク61より冷却水C2が供給される。
【0031】
スリット41bは、下型41の冷却通路41aの下流側端面より、下流側に向かうにつれて下型径方向外側に向かうような、図1における断面視略テーパ状の隙間である。スリット41bは、下型41の下流側端面に沿って連続して形成され、下型41の下流側端面より外部に開口する。つまり、スリット41bは、略リング状に形成される。
【0032】
前記冷却水タンク61より供給される冷却水C2は、スリット41bを通ってビレットの内周面12aに噴射される(図1に示す矢印C2参照)。
【0033】
このような下型41は、鋳型20と同様に銅合金で構成される。従って、冷却通路41aに供給される冷却水C2には、溶湯11の熱が伝熱することとなる。つまり、下型41の外側で、冷却水C2への伝熱による溶湯11の冷却が行われる。
【0034】
上型42は、鋳型20の高さ位置よりも高い位置(つまり、上型42の下流側端部が鋳型20の上流側端部よりも上流側)に配置される部分であり、下型41の外径と略同一の外径を有する略円筒状に形成される。上型42は、ホットトップ30と同様に耐熱レンガで構成されている。上型42は、下型41と互いに同心上に配置されるように、下型41の上流側端面に取り付けられる。
【0035】
このような中子40は、例えば、下型41の上流側端面より上流側に突出する雄ネジ部を形成するとともに、上型42の下流側端面の内周面に雌ネジ部を形成し、各ネジ部を互いに螺合することで構成される。
【0036】
搬送機構50は、鋳型20の下流側端部より下流側へ所定の間隔を空けて配置される。搬送機構50が駆動することで、ビレット12は、所定のビレット引抜速度(以下、単に「引抜速度」と表記する)B1で引き抜かれる。
【0037】
以下では、搬送機構50により引き抜かれるビレットの内周面12aと、下型41の下流側端面とにより囲まれる空間を「ビレットの内部12c」と表記する。
【0038】
冷却水噴射手段としての冷却水噴射機構60は、ビレットの内周面12aを冷却するものである。図3に示すように、冷却水噴射機構60は、冷却水タンク61、ポンプ62、および冷却水供給経路60aを備える。
【0039】
冷却水タンク61の内側には、冷却水C2が貯溜されるとともに、配管63の一端部が配置される。また、配管63の他端部は、ポンプ62に連結される。
【0040】
ポンプ62は、冷却水タンク61と下型41との間に設けられ、配管63の他端部および配管64の一端部が連結される。配管64の他端部は、下型41の冷却通路41aに連結される。
【0041】
冷却水供給経路60aは、ビレットの内部12cに冷却水C2を供給するための経路である。具体的には、冷却水供給経路60aは、冷却水タンク61→ポンプ62→下型41の冷却通路41a→下型41のスリット41bを通る経路となる。
【0042】
連続鋳造装置1が駆動したとき、ポンプ62により冷却水タンク61より冷却水C2が下型41のスリット41bに加圧供給される。つまり、冷却水噴射機構60は、冷却水供給経路60aより冷却水C2をビレットの内周面12aに直接噴射する(図1に示す矢印C2参照)。
【0043】
ビレットの内周面12aに直接噴射される冷却水C2は、ビレットの内周面12aと接触して気化し、水蒸気V(図2参照)となる。これにより気化熱が奪われて、ビレットの内周面12aが冷却される。
【0044】
図2に示すように、吸引排出手段としての吸引排出機構70は、ビレットの内周面12aにおける冷却速度を向上させるものである。吸引排出機構70は、ポンプ71および吸引排出経路70aを備える。
【0045】
ポンプ71は、配管72・73を介してビレットの内部12cおよび外部と連通する。
【0046】
配管72は、その一端部がポンプ71に連結され、その他端部が外部に開口する。
【0047】
配管73は、その一端部がポンプ71に連結され、その他端部が中子40の下型41の略中央部を図2における紙面上下方向に沿って貫通し、中子40の下型41の下流側端面に対応する位置で外部にて開口する。つまり、配管73は、ビレットの内部12cで開口する。
【0048】
吸引排出経路70aは、ビレットの内部12cとビレット12の外部とを連通するための経路である。つまり、吸引排出経路70aは、ビレットの内部12c→ポンプ71→ビレット12の外部を通る経路となる。
【0049】
連続鋳造装置1が駆動したとき、ポンプ71により水蒸気Vを吸引してビレット12の外部に排出する。つまり、吸引排出機構70は、水蒸気Vを吸引排出経路70aよりビレット12の外部に排出する。
【0050】
図1に示すように、検出手段としての検出機構80は、ビレットの内周面12aでのブレイクアウト(溶湯漏れ)を検出するものである。検出機構80は、リング81、電気回路82、および検出器83を備える。
【0051】
図2に示すように、接触部としてのリング81は、ビレット12の内径よりもやや小さな外径を有する略円状の部材の一部を切り欠いて切欠部81aを形成し、下型41よりも下流側に配置される。リング81と下型41とは、互いに同心上に配置される。リング81は、ビレット12を搬送しているときには、ビレットの内周面12aと接触しない。
【0052】
なお、図1から図5までにおいて、リング81は、説明を分かり易くするために、リング81を斜め上から見たような略楕円形状となっているが、実際には(つまり、鋳型20等と同じ視点で見た場合には)、長手方向を紙面左右方向とする略長方形状となる。
【0053】
リング81は、溶湯11が凝固して生成されたビレット12より受ける輻射熱により破断しない(溶けない)ような部材により構成される。つまり、ビレット12の輻射熱により溶けないような高温強度を有する部材(つまり、ビレット12の輻射熱の温度より高い融点の部材)により構成される。
また、リング81は、溶湯11と接触して破断する(図4に示す符号P参照)。
【0054】
このように溶湯11と接触して破断するような構成としては、例えば、溶湯11と接触することで溶けるような高温強度を有する部材(溶湯11の温度以下の融点の部材)や、溶湯11と接触することで切断するような外力に対する強度を有する部材(非常に細い部材)等によってリング81を構成すればよい。
【0055】
図1および図2に示すように、リング81は、電気伝導性を有する。本実施形態のように、溶湯11が電気伝導率の高いアルミニウムである場合、リング81は、溶湯11と同じもの、つまり、本実施形態ではアルミニウムによって構成することが好ましい。
これによれば、ビレット12より受ける輻射熱によりリング81が破断せず(リング81が溶けず)、溶湯11と接触した際に確実にリング81が破断する。
【0056】
電気回路82は、切欠部81aの両端部と接続し、リング81に電圧を印加する電源82aを有する。連続鋳造装置1が駆動しているとき、電気回路82には、電源82aより一定の電圧が印加される。
【0057】
監視部としての検出器83は、電気回路82に電流が流れていることを監視する(図1および図2に示す矢印i参照)。本実施形態の検出器83は、制御機構90に電気的に接続される既存の電流計によって構成され、電気回路82に流れる電流値を測定する。検出器83は、制御機構90に所定の信号を送信する。
【0058】
制御機構90は、連続鋳造の駆動および停止の切替が可能となるように構成される。すなわち、制御機構90は、溶湯11を生成する溶解炉、搬送機構50、および冷却水噴射機構60等に電気的に接続され、溶湯11および冷却水C1・C2の供給およびビレット12の引抜等、連続鋳造に関する種々の動作を駆動および停止の切替を行う。
【0059】
このように構成される連続鋳造装置1の動作について説明する。
まず、図1に示すように、連続鋳造装置1のホットトップ30に、溶解炉で生成された溶湯11が、取鍋およびタンディッシュ等を通って介在物が除かれた状態で供給される。そして、溶湯11は、ホットトップ30を通じて鋳型20および中子40の間に供給される。
【0060】
このとき、鋳型20および下型41の冷却通路21・41aには、冷却水C1・C2が供給されている。
従って、各冷却水C1・C2に溶湯11の熱が伝熱し、溶湯11は、鋳型20および下型41の間で冷却されて凝固する。つまり、連続鋳造装置1は、鋳型20および下型41の表面で、ビレット12を成形する。また、ビレット12より上流側では溶湯11がビレット12を加圧している。
【0061】
ビレット12は、搬送機構50によって引き抜かれ、下流側へ向かって移動する。これに伴って溶湯11の湯面11aも下降する(湯面11aの位置が下流側へ向かって移動する)。
一方、溶湯11がビレット12となったとき、溶湯11の湯面11aは上昇する(湯面11aの位置が上流側へ向かって移動する)。
【0062】
連続鋳造装置1では、湯面11aの上昇速度(例えば、各冷却水C1・C2の噴射量等)および下降速度(例えば、引抜速度等)をつりあわせることで湯面11aの位置を所定の高さ位置で維持しながら、連続して鋳造を行う。
【0063】
搬送機構50により引き抜かれたビレットの内周面12aおよび外周面12bには、所定の噴射量で各スリット22・41bより冷却水C1・C2が直接噴射される。
各冷却水C1・C2は、ビレットの内周面12aおよび外周面12bと接触した後で、気化して水蒸気V(図2参照)となる。これにより気化熱が奪われて、ビレットの内周面12aおよび外周面12bは急速に冷却される。
【0064】
これによれば、従来技術にあるような、中子40の表面での冷却に加えて、鋳型20および下型41より引き抜いたビレットの内周面12aの冷却を行うことができる。従って、ビレットの内周面12aの冷却を充分に行うことができる。
このため、ビレットの内周面12aに凹凸部112d(図6参照)が形成されることを抑制できる。つまり、ビレットの内周面12aにおける鋳肌表面性状が悪化することを抑制できる。
【0065】
ビレットの内周面12aと接触して気化した水蒸気Vは、ビレットの内部12cに滞留する。このような水蒸気Vは、図2に示すように、吸引排出機構70により吸引され、吸引排出経路70aを通って外部に排出される。
【0066】
仮に、気化した水蒸気Vがビレットの内部12cに滞留した場合、当該水蒸気Vにより、ビレットの内部12cが高圧化してしまう。
【0067】
前述のように、ビレットの内周面12aは、気化熱により冷却される。このため、ビレットの内部12cが高圧化している状態では、冷却水C2の沸点が上昇し、冷却水C2が気化しにくい状態となってしまう。
つまり、連続鋳造を続けるうちに、ビレットの内部12cが徐々に高圧化するとともに、冷却水C2の沸点も徐々に上昇する。従って、気化熱によりビレットの内周面12aの熱を徐々に奪いにくくなり、ひいては、ビレットの内周面12aにおける冷却速度が徐々に低下してしまう。
【0068】
つまり、吸引排出機構70により水蒸気Vを吸引することで、ビレットの内部12cが高圧化することを防止でき(低圧化でき)、ビレットの内周面12aにおいて冷却水C2の気化を促進できる。つまり、ビレットの内部12cの圧力を、常に連続鋳造開始当初と同じような状態で維持できる。従って、水蒸気Vがビレットの内周面12aに滞留することによるビレットの内周面12aにおける冷却速度の低下を防止できる。
【0069】
また、吸引排出機構70により水蒸気Vを吸引することで、ビレットの内部12cの温度を下げることができる。このため、ビレットの内部12cの温度を、常に連続鋳造開始当初と同じような状態で維持できる。従って、ビレットの内周面12aにおける冷却速度の低下を防止できる。つまり、ビレットの内周面12aにおける冷却速度を向上できる。
【0070】
つまり、連続鋳造を続けるうちにビレットの内周面12aに凹凸部112d(図6参照)が形成されることを抑制できる。つまり、連続鋳造を続けるうちにビレットの内周面12aにおける鋳肌表面性状が悪化することを抑制できる。
また、連続鋳造を続けるうちに湯面11aの位置が下降しないため、ビレットの内周面12aでブレイクアウトが発生することを防止できる。
【0071】
ここで、図2および図3に示すように、引抜速度を引抜速度B1から引抜速度B2に上昇させた場合、湯面11aの下降速度が上昇する。
この場合、例えば、冷却水噴射機構60は、引抜速度の上昇に伴って、冷却水C2の噴射量を増やしてビレットの内周面12aにおける冷却速度を上昇させる(図3に示す矢印C2参照)。また、冷却水C1の噴射量を増やしてビレットの外周面12bにおける冷却速度を上昇させる。これにより、湯面11aの上昇速度を上昇させて、湯面11aの位置を所定の高さ位置で維持する。
【0072】
このように引抜速度を上昇させた際に、冷却水C2の噴射量を引抜速度B2に対応して増加させることにより、ビレットの内周面12aにおける冷却速度を引抜速度B2に追いつかせることができる。また、吸引排出機構70により水蒸気Vを吸引することで、連続鋳造を続けるうちにビレットの内周面12aにおける冷却速度が徐々に低下しない。
【0073】
ここで、従来技術にあるような連続鋳造装置の引抜速度は、ビレットの内周面における冷却速度がある程度低下することを想定した引抜速度(または、ビレットの外周面における冷却速度よりも遅い冷却速度であるビレット内周面における冷却速度に対応する引抜速度)に設定する必要がある。
一方、本実施形態の連続鋳造装置1は、ビレットの内周面12aにおける冷却速度が速く、また、連続鋳造を続けるうちにビレットの内周面12aにおける冷却速度が低下しない。
つまり、冷却水C2の噴射量を引抜速度に対応させることにより、前記従来技術にあるような連続鋳造装置の引抜速度よりもさらに速い引抜速度まで上昇させて鋳造できる。
【0074】
従って、ビレット12の鋳造をより短時間で行うことができるため、ビレット12の生産性を向上できる。
【0075】
また、引抜速度を上昇させることで、より短時間でビレット12を冷却することとなるため、ビレット12の組織が緻密になり、ビレット12の強度(例えば、引張強度等)を向上できる。つまり、ビレット12の製品品質を向上できる。
【0076】
このような連続鋳造を行っているとき、検出機構80の電気回路82には電圧が印加され、検出器83によってその電流値が測定されている。このとき、検出機構80の検出器83の測定値は、一定である。
【0077】
仮に、図4に示すように、ビレットの内周面12aにおける冷却速度に対して、引抜速度B3が速すぎた場合、湯面11aの位置が、鋳型20の下流側端部よりも下流側まで移動するため、ビレットの内周面12aでブレイクアウトが発生する。
図4では、図3に示す引抜速度B2に対応するように冷却水C2の噴射量を設定したままの状態で、引抜速度B2から引抜速度B3にさらに上昇させたことにより、ビレットの内周面12aでブレイクアウトが発生した状態を示している。
【0078】
ビレットの内周面12aでブレイクアウトが発生した場合、鋳型20および下型41より下流側に漏れた溶湯13(以下、単に「漏れた溶湯13」と表記する)は、ビレットの内周面12aに沿って下流側に移動する。言い換えれば、漏れた溶湯13は、ビレットの内周面12aを伝って下流側に移動する。
【0079】
このような漏れた溶湯13は、リング81と接触する(図4に示す符号P参照)。つまり、リング81は、漏れた溶湯13と接触する程度にビレットの内周面12aに接近して配置される。
【0080】
また、リング81は、切欠部81aに対応する位置(つまり、切欠部81aよりリング81の径方向外側)で、ブレイクアウトが発生した場合でも、リング81に漏れた溶湯13が接触するように構成される。
本実施形態では、切欠部81aの幅を漏れた溶湯13の幅よりも小さく設定することで、ビレットの内周面12aのどの位置でブレイクアウトが発生しても、リング81に漏れた溶湯13が接触する構成としている。
【0081】
リング81に漏れた溶湯13が接触したとき、リング81は破断する。この場合、電気回路82に電流が流れなくなり、検出器83の検出値が0(つまり、電流値が0)となる。
【0082】
検出機構80は、検出器83の測定値に所定の閾値を設定しており、当該閾値を下回った場合には、リング81が破断したと判定し、制御機構90に異常信号を送信するようにしている(図4に示す符号S参照)。
【0083】
これにより、連続鋳造装置1は、ビレットの内周面12aでブレイクアウトが発生したことを自動的に検出する。
【0084】
図5に示すように、異常信号を受信した制御機構90は、連続鋳造を非常停止する。すなわち、溶湯11の供給、ビレット12の引抜、および冷却水C1・C2によるビレット12の冷却等を全て停止する。
【0085】
仮に、検出機構80によりビレットの内周面12aでブレイクアウトを検出しない場合、漏れた溶湯13がビレットの内周面12aを伝うため、作業者がビレット12の周囲を目視しても、ビレットの内周面12aでのブレイクアウトを確認できない。
ビレットの内周面12aでのブレイクアウトを確認する手段としては、例えば、溶湯11の供給量が増大したことでブレイクアウトの発生を確認することが考えられる。しかし、引抜速度を速くした場合、溶湯11の供給量が増大するため、正確な判断が難しい。また、ビレットの内周面12aでブレイクアウトを確認するまで時間がかかってしまう。
【0086】
一方、本実施形態の検出機構80によれば、ビレットの内周面12aでのブレイクアウトを速やかに検出できるため、漏れた溶湯13が鋳造設備(例えば、ビレット12を切断するカッター等)と接触することを防止できる。このため、鋳造設備の損傷を防止できる。
また、冷却水噴射機構60より噴射される冷却水C2と、漏れた溶湯13とが接触することによる水蒸気爆発の発生を確実に防止できる。
【0087】
本実施形態の検出機構80は、検出器83で電流値を測定することで電気回路82に電流が流れていることを監視したが、これに限定されるものでない。すなわち、検出機構80の検出器83は、漏れた溶湯13とリング81とが接触したときに変化するものを測定すればよく、例えば、電圧計を用いて電圧値の変化を測定しても構わない。
【0088】
検出機構80は、ビレットの内周面12aでのブレイクアウトを検出する構成としたが、ビレットの外周面12bでのブレイクアウトを検出するために、ビレット12の外側にリング81を配置して、ビレットの内周面12aおよび外周面12bでのブレイクアウトを検出することが好ましい。
【0089】
リング81に漏れた溶湯13を接触させる構成は、本実施形態に限定されるものでない。例えば、鋳造方向に所定の間隔を空けた状態で二つのリングを配置するとともに、当該各リングの切欠部の位相を互いに180°ずらして配置する。そして、各リングを二つの電気回路に接続し、二つの検出器によって各電気回路に流れる電流を監視しても構わない。
【0090】
なお、連続鋳造装置1は、その適用範囲を連続鋳造に限定されるものでなく、他の鋳造方案にも広く適用可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 連続鋳造装置
11 溶湯
12 ビレット
12a ビレットの内周面
12c ビレットの内部
20 鋳型
40 中子
60 冷却水噴射機構(冷却水噴射手段)
70 吸引排出機構(吸引排出手段)
C2 冷却水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型および該鋳型の内側に配置される中子の間に供給される溶湯を冷却して凝固させることによりビレットを成形し、前記鋳型および前記中子から前記ビレットを引き抜くことで、連続して前記ビレットを鋳造する連続鋳造装置であって、
前記ビレットの内部に冷却水を供給するための冷却水供給経路を有し、前記鋳型および前記中子から引き抜かれたビレットの内周面に向けて、前記冷却水供給経路より供給される冷却水を噴射する冷却水噴射手段と、
前記ビレットの内部と前記ビレットの外部とを連通するための吸引排出経路を有し、前記冷却水が前記ビレットの内周面と接触して気化し、前記ビレットの内部に滞留する水蒸気を、前記吸引排出経路より吸引して前記ビレットの外部に排出する吸引排出手段と、
を具備する、
連続鋳造装置。
【請求項2】
前記連続鋳造装置は、
前記ビレットの内周面での溶湯漏れを検知する検出手段をさらに具備し、
前記検出手段は、
電気伝導性を有するとともに前記中子より鋳造方向下流側に配置され、前記鋳型および前記中子より前記鋳造方向下流側に漏れて、前記ビレットの内周面に沿って前記鋳造方向下流側に移動する溶湯と接触することで破断する接触部と、
前記接触部に接続され、前記接触部に電圧を印加する電気回路と、
前記電気回路に電流が流れていることを監視する監視部と、
を備える、
請求項1に記載の連続鋳造装置。
【請求項3】
前記ビレット引抜速度を上昇させた際に、
前記冷却水噴射手段による前記冷却水の噴射量を、前記ビレット引抜速度に対応して増加させる、
請求項1または請求項2に記載の連続鋳造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−81476(P2012−81476A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227020(P2010−227020)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】