説明

遅延復調デバイス

【課題】平面光波回路(PLC)の面内の温度分布および面内の応力分布を低減した遅延復調デバイスを提供する。
【解決手段】遅延復調デバイス1は、DQPSK信号が入力される光入力導波路2と、光入力導波路2を分岐するY分岐導波路3と、第1のマッハツェンダー干渉計(MZI)4と、第2のマッハツェンダー干渉計5と、を備える。MZI4のアーム導波路8,9の両端部およびMZI5のアーム導波路12,13の両端部が、平面光波回路(PLC)1Aの中心部側に向けてそれぞれ曲げられている。これにより、MZI4のアーム導波路8,9部分のZ方向長さと、MZI5のアーム導波路12,13部分のZ方向長さとがそれぞれ短くなると共に、各MZIの入力側カプラ6,10部分および出力側カプラ7,11部分のZ方向長さもそれぞれ短くなる。各MZI4,5部分の面積が小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ通信に用いる遅延復調デバイス、特に、高密度波長分割多重(DWDM:Dense Wavelength Division Multiplexing)伝送方式の光ファイバ通信においてDQPSK信号を復調させるPLC型のマッハツェンダー干渉計(MZI)を備えた遅延復調デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ブロードバンドの急速な普及を背景に、光伝送システムの高速化(伝送速度40Gbpsへ)の検討が盛んに行われている。しかしながら、伝送速度を上げると、光信号1bitあたりの時間幅が減少し、光ファイバの特性の影響により、信号波形が劣化し、通信回線の品質の劣化を引き起こしてしまうという問題がある。40Gbps級の長距離伝送を行う際には、伝送経路の途中で、光信号を電気に信号に変換して、再び、光信号に変換しなおすといった中継器が必要であるため、既存のファイバ網を使用し、ネットワークを構築することを困難にさせている。
【0003】
このため、現在では光信号の時間幅を拡大させることによって信号波形劣化を低減できる多値変調の差動直交位相変調(DQPSK:Differential Quadrature Phase Shift Keying)等の研究開発が行われている。
【0004】
DQPSKは4つの情報を異なる4つの光位相差に対応させて伝送する、つまり、2ビットのデータから構成される各シンボルの値(0,1,2,3)の4つの情報を、隣接する2つのシンボルの値の変化に応じて搬送波の位相(θ,θ+π/2,θ+π,θ+3π/2)を変化させてデータを伝送する変調方式である。このDQPSK方式を用いた40GbpsDQPSK通信方式では、従来の2値変調方式を用いた40Gbps伝送よりも4倍の距離を伝送できることになる。このDQPSKにより、既存のファイバ網を利用した大都市間のネットワークの構築が可能になると考えられる。
【0005】
従来、このようなDQPSK信号或いはDPSK信号を受信装置において復調するための遅延復調デバイスとして、例えば、特許文献1に記載された光受信回路や特許文献2に記載された復調器が知られている。
【0006】
特許文献1に記載された光受信回路は、1組の光パスの一方に1シンボル遅延素子を備えその1組の光パスを介して入力RZ−DPSK信号、つまり、RZ(Return to zero)変調されたDPSK信号を伝搬する干渉計(マッハツェンダー干渉計)を備える。
【0007】
また、特許文献2には、差動位相変調(DPSK)された光信号或いは差動四値位相変調(DQPSK)された光信号を、マイケルソン干渉計を用いて復調する復調器が開示されている。
【特許文献1】特開2007−60442号公報
【特許文献2】特開2007−151026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、伝送速度が40GbpsのDQPSK方式を用いた40GbpsDQPSK通信方式における遅延検波の際に、1シンボル時間(2ビット分の時間)遅延させる役割を果たすPLC型の2つのMZI回路が使用されている。このとき、FSRが20GHz程度であるため、各MZIの光路長差ΔLが大きくなり、回路レイアウトが大きくなってしまう。回路レイアウトが大きくなると、PLCの面内の温度分布が大きくなって環境温度の変動で中心波長がシフトしてしまったり、PLCの面内の応力分布が大きくなって初期の偏波乖離量Pdλが大きくなってしまうといった問題がある。
【0009】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたもので、その目的は、平面光波回路(PLC)の面内の温度分布および面内の応力分布を低減した遅延復調デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明に係る遅延復調デバイスは、DQPSK信号を復調させる平面光波回路型の遅延復調デバイスであって、前記DQPSK信号が入力される光入力導波路と、前記光入力導波路を分岐するY分岐導波路と、前記Y分岐導波路で分岐された導波路に接続された入力側カプラ、光出力導波路に接続された出力側カプラ、および該両カプラ間に接続された長さの異なる2つのアーム導波路をそれぞれ有する第1および第2のマッハツェンダー干渉計と、を備え、前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計各々の前記2つのアーム導波路の両端部が平面光波回路の中心部側に向けて曲げられていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、(第1および第2のマッハツェンダー干渉計各々の2つのアーム導波路の両端部が平面光波回路(PLC:Planar Lightwave Circuit)の中心部側に向けて曲げられているため、)DQPSK信号が光入力導波路を伝搬する方向をZ方向とすると、各マッハツェンダー干渉計の2つのアーム導波路部分のZ方向長さが短くなる。これと共に、各マッハツェンダー干渉計の入力側カプラおよび出力側カプラの向き、つまり、各カプラでのDQPSK信号の伝搬方向がZ方向に対して傾くので、各マッハツェンダー干渉計の入力側カプラ部分および出力側カプラ部分のZ方向長さがそれぞれ短くなる。
【0012】
このように、各マッハツェンダー干渉計の2つのアーム導波路部分のZ方向長さと、入力側カプラ部分および出力側カプラ部分のZ方向長さとがそれぞれ短くなるので、第1および第2のマッハツェンダー干渉計部分の面積が小さくなり、遅延復調デバイスの平面光波回路全体がコンパクトになる。これにより、平面光波回路の面内の温度分布および面内の応力分布を低減することができる。従って、環境温度変動に対する波長シフトがほとんど無く、初期の偏波乖離量Pdλを小さくした遅延復調デバイスを実現することができる。
【0013】
ここで「DQPSK信号」は、2ビットのデータから構成される各シンボルの値(0,1,2,3)の4つの情報を、隣接する2つのシンボルの値の変化に応じて搬送波の位相(θ,θ+π/2,θ+π,θ+3π/2)の位相情報に変調された差動直交四値位相変調(DQPSK:Differential Quadrature Phase Shift Keying)信号である。また、「平面光波回路」は、光入力導波路、Y分岐導波路、および、第1および第2のマッハツェンダー干渉計を含む回路である。
【0014】
請求項2に記載の発明に係る遅延復調デバイスは、前記Y分岐導波路で分岐された2つの導波路は互いに離間するように上下に曲げられて、前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計の各入力側カプラの入力端にそれぞれ接続され、前記第1のマッハツェンダー干渉計の前記出力側カプラに接続された第1および第2光出力導波路と、前記第2のマッハツェンダー干渉計の前記出力側カプラに接続された第3および第4光出力導波路とは、互いに近づくように上下に曲げられていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、Y分岐導波路で分岐された2つの導波路部分のZ方向長さ、および、第1乃至第4の4つの光出力導波路のZ方向長さも短くなるので、遅延復調デバイスの平面光波回路全体が更にコンパクトになる。これにより、平面光波回路の面内の温度分布および面内の応力分布を更に低減することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明に係る遅延復調デバイスは、前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計各々の前記2つのアーム導波路には、該2つのアーム導波路の一方を伝搬する前記DQPSK信号の位相を前記2つのアーム導波路の他方を伝搬する前記DQPSK信号の位相に対してπだけ遅延させる光路長差ΔLを持たせてあることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、第1のマッハツェンダー干渉計と第2のマッハツェンダー干渉計の位相差をπ/2だけシフトさせるように位相調整することで、第1乃至第4光出力導波路の各出力端(4つの出力ポート)から、互いに位相がπ/2ずつずれた光信号(光強度信号)を出力させることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明に係る遅延復調デバイスは、前記光入力導波路、Y分岐導波路、および前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計は、PLC基板上に形成された平面光波回路上の導波路であることを特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の発明に係る遅延復調デバイスは、前記PLC基板は略正方形の平面形状を有することを特徴とする。この構成によれば、PLCチップが略正方形のコンパクトな遅延復調デバイスが得られる。
【0020】
請求項6に記載の発明に係る遅延復調デバイスは、前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計は前記平面光波回路の中央上部と中央下部に形成されていることを特徴とする。この構成によれば、平面光波回路全体が更にコンパクトになる。
【0021】
請求項7に記載の発明に係る遅延復調デバイスは、前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計各々の前記2つのアーム導波路の中央部は、互いに平行に延びていることを特徴とする。この構成によれば、第1および第2のマッハツェンダー干渉計各々の、Z方向に垂直な方向の大きさ(外方への突出量)が小さくなるので、平面光波回路全体が更にコンパクトになる。
【0022】
請求項8に記載の発明に係る遅延復調デバイスは、前記第1および第2光出力導波路に、これら2つの光出力導波路の光路長を一致させるための第1遅延部が設けられており、前記第3および第4光出力導波路に、これら2つの光出力導波路の光路長を一致させるための第2遅延部が設けられていることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、第1および第2光出力導波路の光路長を第1遅延部により、第3および第4光出力導波路の光路長を第2遅延部によりそれぞれ一致させることができ、4つの光出力導波路から互いに位相がπ/2ずつずれた光信号を出力させることができる。これにより、第1乃至第4光出力導波路の各出力端のあるPLC基板の端面に、4つの光ファイバからなるファイバアレイを直接に接続することができる。
【0024】
請求項9に記載の発明に係る遅延復調デバイスは、前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計各々の前記2つのアーム導波路の少なくとも一方の上には、ヒータがそれぞれ形成されていることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、第1および第2のマッハツェンダー干渉計のいずれか一方のヒータ或いは両マッハツェンダー干渉計のヒータに電圧を印加して駆動することで、第1および第2のマッハツェンダー干渉計間の位相差をπ/2に調整することができる。
【0026】
請求項10に記載の発明に係る遅延復調デバイスは、前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計各々の中央部には、1/2波長板がそれぞれ配置されていることを特徴とする。この構成によれば、偏波乖離量Pdλを更に小さくすることができる。
【0027】
請求項11に記載の発明に係る遅延復調デバイスは、前記1/2波長板が挿入される溝で、前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計各々の中央部を通る一つの溝が、前記Y分岐導波路に対して前記光入力導波路とは反対側に形成されていることを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、Y分岐導波路からの漏れ光が溝で遮断されるので、DQPSK信号(光信号)がY分岐導波路から漏れ、その漏れ光が光出力導波路の出力端側で再結合し、特性に悪影響を及ぼすのを抑制することができる。
【0029】
請求項12に記載の発明に係る遅延復調デバイスは、前記溝の中央部で、前記Y分岐導波路の分岐部に対向する部分に、樹脂が注入されていることを特徴とする。
【0030】
この構成によれば、Y分岐導波路からの漏れ光が溝に注入された樹脂で遮断されるので、DQPSK信号(光信号)がY分岐導波路から漏れ、その漏れ光が出力ポート側で再結合し、特性に悪影響を及ぼすのを更に抑制することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、平面光波回路(PLC)の面内の温度分布および面内の応力分布を低減した遅延復調デバイスを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明を具体化した一実施形態に係る遅延復調デバイスを、図1乃至図8に基づいて説明する。
【0033】
図1は一実施形態に係る遅延復調デバイスの概略構成を示す平面図、図2はDQPSK方式を用いた光伝送システムの概略構成を示すブロック図である。図3は図1のX−X線に沿った断面図、図4は図1のY−Y線に沿った断面図である。図5は図1に示す遅延復調デバイスの第1遅延部を示す拡大図、図6は図1のZ部の拡大図である。図7は図1に示す遅延復調デバイスの温度特性結果を示すグラフ、図8は遅延復調デバイスのスペクトルを示すグラフである。
【0034】
図1に示す遅延復調デバイス1は、DQPSK信号を復調させる平面光波回路型(PLC型)の遅延復調デバイス(復調器)である。この遅延復調デバイス1は、例えば、伝送速度が40GbpsのDQPSK方式を用いた図2に示す光伝送システムに使用される40GbpsDQPSK用遅延復調デバイスである。
【0035】
この光伝送システムでは、光送信器40から光ファイバ伝送路54に、2ビットのデータから構成される各シンボルの値(0,1,2,3)の4つの情報を、隣接する2つのシンボルの値の変化に応じて搬送波の位相(θ,θ+π/2,θ+π,θ+3π/2)の位相情報に変調されたDQPSK信号が伝送される。光ファイバ伝送路54から光受信器50に送られてきたDQPSK信号は遅延復調デバイス1により4つの光強度信号に変換され、さらには、その光強度信号がバランスドレシーバ51,52により電気信号に変換される。受信電気回路53では、復号化処理などがなされる。
【0036】
図1に示す遅延復調デバイス1は、DQPSK信号が入力される光入力導波路2と、光入力導波路2を分岐するY分岐導波路3と、第1のマッハツェンダー干渉計4と、第2のマッハツェンダー干渉計5と、を備えている。
【0037】
第1のマッハツェンダー干渉計4は、Y分岐導波路3で分岐された2つの導波路の一方に接続された入力側カプラ6と、光出力導波路に接続された出力側カプラ7と、両カプラ6,7間に接続された長さの異なる2つのアーム導波路8,9とを有する。同様に、第2のマッハツェンダー干渉計5は、Y分岐導波路3で分岐された2つの導波路の他方に接続された入力側カプラ10と、光出力導波路に接続された出力側カプラ11と、両カプラ10,11間に接続された長さの異なる2つのアーム導波路12,13とを有する。
【0038】
入力側カプラ6,10および出力側カプラ7,11は、それぞれ2入力×2出力型3dBカプラ(50%方向性結合器)である。第1のマッハツェンダー干渉計4の入力側カプラ6の2つの入力端の一方が、Y分岐導波路3で分岐された2つの導波路14,15の一方の導波路14に接続されている。第2のマッハツェンダー干渉計5の入力側カプラ10の2つの入力端の一方が、Y分岐導波路3で分岐された2つの導波路14,15の他方の導波路15に接続されている。
【0039】
また、第1のマッハツェンダー干渉計4の出力側カプラ7の2つの出力端(スルーポートとクロスポート)は、第1光出力導波路21,第2光出力導波路22にそれぞれ接続されている。同様に、第2のマッハツェンダー干渉計5の出力側カプラ11の2つの出力端(スルーポートとクロスポートは、第3光出力導波路23,第4光出力導波路24にそれぞれ接続されている。
【0040】
また、第1のマッハツェンダー干渉計4の2つのアーム導波路8,9には、その一方(アーム導波路8)を伝搬するDQPSK信号の位相をその他方(アーム導波路9)を伝搬するDQPSK信号の位相に対してπだけ遅延させる光路長差ΔLを持たせてある。同様に、第2のマッハツェンダー干渉計5の2つのアーム導波路12,13には、その一方(アーム導波路12)を伝搬するDQPSK信号の位相をその他方(アーム導波路13)を伝搬するDQPSK信号の位相に対してπだけ遅延させる光路長差ΔLを持たせてある。
【0041】
第1のマッハツェンダー干渉計4のアーム導波路8,9の両端部および第2のマッハツェンダー干渉計5のアーム導波路12,13の両端部が、図1に示すように、平面光波回路(PLC)1Aの中心部側、つまり、平面光波回路1Aを有するPLCチップ1Bの中心部側に向けてそれぞれ曲げられている。ここで、「平面光波回路」は、石英系ガラスでそれぞれ構成された光入力導波路2、Y分岐導波路3、および、第1および第2のマッハツェンダー干渉計4,5などの導波路を含む回路である。この平面光波回路1Aを有する遅延復調デバイス1は、具体的には、次のようにして作製される。
【0042】
火炎堆積法により、図3に示すシリコン基板などのPLC基板30上に、下部クラッド層およびコア層となるシリカ材料(SiO2系のガラス粒子)を堆積し、加熱してガラス膜を溶融透明化する。この後、フォトリソグラフィと反応性イオンエッチングで所望の導波路を形成し、再びFHD法により上部クラッドを形成する。図3では、PLC基板30上に、下部クラッド層および上部クラッド層からなるクラッド層31が形成され、このクラッド層31内にコア層としてアーム導波路8,9が形成されている。PLC基板30は、図1に示すように、略正方形の平面形状を有している。
【0043】
また、Y分岐導波路3で分岐された2つの導波路14,15は、図1に示すように、互いに離間するように上下に曲げられている。その一方の導波路14は第1のマッハツェンダー干渉計4の入力側カプラ6の2つの入力端の一方に接続され、その他方の導波路15はマッハツェンダー干渉計5の入力側カプラ10の2つの入力端の一方に接続されている。ここで、DQPSK信号が光入力導波路2を伝搬する方向をZ方向(図1参照)とすると、導波路14は、Z方向に略垂直な図1で上方向に湾曲しながら延びている。一方、導波路15は、図1でZ方向に略垂直な下方向に湾曲しながら延びている。
【0044】
また、第1のマッハツェンダー干渉計4の出力側カプラ7の2つの出力端(スルーポートとクロスポート)に第1および第2光出力導波路21,22がそれぞれ接続され、第2のマッハツェンダー干渉計5の出力側カプラ11の2つの出力端(スルーポートとクロスポート)に第3および第4光出力導波路23,24がそれぞれ接続されている。第1および第2光出力導波路21,22と第3および第4光出力導波路23,24とは、図1に示すように、互いに近づくように上下に曲げられている。
【0045】
具体的には、第1および第2光出力導波路21,22は、出力側カプラ7の2つの出力端から、Z方向に略垂直な図1で下方向に湾曲しながら延びている。このような湾曲形状により、第2光出力導波路22の光路長が第1光出力導波路21の光路長よりも長くなっている。一方、第3および第4光出力導波路23,24は、出力側カプラ11の2つの出力端から、Z方向に略垂直な図1で上方向に湾曲しながら延びている。このような湾曲形状により、第3光出力導波路23の光路長が第4光出力導波路24の光路長よりも長くなっている。
【0046】
また、第1および第2のマッハツェンダー干渉計4,5は、図1に示すように、平面光波回路1Aの中央上部と中央下部に形成されている。より具体的には、第1および第2のマッハツェンダー干渉計4,5は、平面光波回路1Aを有するPLCチップ1Bの仮想中心線、例えば、Z方向に延びる光入力導波路2を延長した直線に関して対称な位置に配置されている。
【0047】
マッハツェンダー干渉計4のアーム導波路8.9の中央部、および、マッハツェンダー干渉計5のアーム導波路12,13の中央部は、それぞれ互いに平行に延びている。
【0048】
また、第1および第2光出力導波路21,22には、図1に示すように、これら2つの光出力導波路21,22の光路長を一致させるための第1遅延部41が設けられている。第1遅延部41は、図1および図5に示すように、第1光出力導波路21に接続された導波路43と、第1光出力導波路21よりも光路長の長い第2光出力導波路22に接続された導波路44とを有する。第1遅延部41の2つの導波路43,44は、上記仮想中心線に対して上方へ凸に湾曲している。導波路43には、導波路44よりも光路長を長くするために、2つの直線部43a、43b(図5参照)を設けてある。第1遅延部41の各導波路43,44の出力端が、互いに位相がπだけずれた出力1,2の光信号(a)、(b)(図8参照)をそれぞれ出力する出力ポート(第1、第2出力ポート)になっている。
【0049】
一方、第3および第4光出力導波路23,24には、これら2つの光出力導波路23,24の光路長を一致させるための第2遅延部42が設けられている。第2遅延部42は、図1に示すように、第4光出力導波路24に接続された導波路45と、第4光出力導波路24よりも光路長の長い第3光出力導波路23に接続された導波路46とを有する。第2遅延部42の2つの導波路45,46は、上記仮想中心線に対して下方へ凸に湾曲している。導波路45には、導波路46よりも光路長を長くするために、図5に示す直線部43a、43と同様の2つの直線部を設けてある。第2遅延部42の各導波路46,45の出力端が、互いに位相がπだけずれた出力3,4の光信号(c)、(d)(図8参照)をそれぞれ出力する出力ポート(第3、第4出力ポート)になっている。
【0050】
第1のマッハツェンダー干渉計4は、図1および図3に示すように、一方のアーム導波路8上に形成された第1のヒータA及び第2のヒータCと、他方のアーム導波路9上に形成された第3のヒータB及び第4のヒータDとを備えている。同様に、第2のマッハツェンダー干渉計5は、図1に示すように、一方のアーム導波路12上に形成された第1のヒータE及び第2のヒータGと、他方のアーム導波路13上に形成された第3のヒータF及び第4のヒータHとを備えている。各ヒータA〜Hは、対応するアーム導波路の上方にあって、上部クラッド(図3のクラッド層31)上にスパッタにより形成されたTa系の薄膜ヒータである。図3には、アーム導波路8,9の上方にあって、クラッド層31上に形成されたヒータA,Bを示してある。
【0051】
また、各マッハツェンダー干渉計4,5の中央部には、図1に示すように、偏波乖離量PDλを低減させるために、1/2波長板47,48がそれぞれ配置されている。1/2波長板47,48を挿入するための溝49は、各マッハツェンダー干渉計4,5の中央部のみに形成されているのではなく、各マッハツェンダー干渉計4,5の中央部を通る図1に示すML間の直線に沿ってフルカットされた一つの溝である。また、この溝49は、Y分岐導波路3の分岐部からの漏れ光を溝49で遮断するために、Y分岐導波路3に対して光入力導波路2とは反対側に形成されている。
【0052】
さらに、溝49は、各1/2波長板47,48での反射による損失が起こらないように、各1/2波長板47,48が図4に示すように8°程度に傾けられて溝49内に配置されるように、8°程度傾斜した溝になっている。その溝49の中央部、つまり、Y分岐導波路3の分岐部に対向する部分(図1に示すZ部)には、図6に示すように、Y分岐導波路3の分岐部からの漏れ光をより効果的に遮断するために樹脂60が注入されている。
【0053】
上記構成を有する遅延復調デバイス1では、第1のマッハツェンダー干渉計4にあっては、光ファイバ伝送路54から光受信器50に送られるDQPSK信号(光信号)がY分岐導波路3で分岐され、その分岐されたDQPSK信号が長さの異なる2つのアーム導波路8,9を伝搬する。マッハツェンダー干渉計4は、一方のアーム導波路8を伝搬するDQPSK信号の位相を他方のアーム導波路9を伝搬する光信号の位相に対して1シンボル分(π)だけ遅延させるようになっている。同様に、第2のマッハツェンダー干渉計5は、一方のアーム導波路12を伝搬するDQPSK信号の位相を他方のアーム導波路13を伝搬する光信号の位相に対して1シンボル分(π)だけ遅延させるようになっている。
【0054】
遅延復調デバイス1は、例えば、マッハツェンダー干渉計4のヒータAとヒータC、或いはヒータBとヒータDを駆動させて偏波乖離量PDλを調整する。この調整後、例えば、ヒータAとヒータCを駆動させて、2つのマッハツェンダー干渉計4,5の位相差がπ/2になるように、位相調整(位相トリミング)を行う。
[実施例]
図3に示すシリコン基板30上に、石英系ガラスで構成される光入力導波路2、Y分岐導波路3、マッハツェンダー干渉計4,5、光出力導波路21乃至24、および2つの遅延部41,42を含む平面光波回路(PLC)1Aを、火炎堆積法(FHD法)、フォトリソグラフィ、反応性イオンエッチングにより形成した40GbpsのDQPSK用の遅延復調デバイス1を作製した。
【0055】
作製した遅延復調デバイス1では、クラッド層の屈折率とコア層の屈折率との差(比屈折率差Δ)を1.5%として、回路サイズ(PLCチップ1Bのサイズ)が25mm×25mmである。
【0056】
偏波乖離量PDλを低減するために、2つのマッハツェンダー干渉計4,5のどちらか一方のマッハツェンダー干渉計のアーム導波路上のヒータに給電して偏波乖離量PDλを低減させた。その後、1/2波長板47,48を溝49に挿入し、2つのマッハツェンダー干渉計4,5の位相差がπ/2になるように、ヒータを駆動して位相調整(位相トリミング)をした。その後、出力1乃至出力4の光信号がそれぞれ出力される導波路43,44,46,45の各端部(出力ポート)のあるPLCチップ1Bの端面1aに4本の光ファイバが整列したファイバアレイを接続し、パッケージングを行った。また、温調機構には、ペルチェ素子とサーミスタを用いた。
【0057】
このように作製した遅延復調デバイス1を含む遅延復調モジュールの温度特性結果を図7に示す。図7は、遅延復調デバイス1(チップ)の制御温度を45℃に設定した際のマッハツェンダー干渉計4のスルーポート(出力側カプラ7の出力端22)での中心波長の初期値からの変動を示す。この図7から明らかなように、0〜70℃の範囲において、±0.5pm以下を実現している。
【0058】
また、図8に、遅延復調デバイス1を含む遅延復調モジュールのスペクトルを示す。図8では、第1遅延部41の各導波路43,44の出力端(第1、第2出力ポート)から出力される互いに位相がπだけずれた出力1,2の光信号(a)、(b)と、第2遅延部42の各導波路46,45の出力端(第3、第4出力ポート)から出力される互いに位相がπだけずれた出力3,4の光信号(c)、(d)とを示してある。そして、光信号(a)、(b)、(c)および(d)は、互いに位相がπ/2ずつずれている。この図8から明らかなように、偏波乖離量PDλが3pm以下の良好な特性が得られている。
【0059】
以上の構成を有する一実施形態によれば、以下のような作用効果を奏する。
○第1のマッハツェンダー干渉計4のアーム導波路8,9の両端部および第2のマッハツェンダー干渉計5のアーム導波路12,13の両端部が、平面光波回路(PLC)1Aの中心部側に向けてそれぞれ曲げられている。この構成により、マッハツェンダー干渉計4のアーム導波路8,9部分のZ方向長さと、マッハツェンダー干渉計5のアーム導波路12,13部分のZ方向長さとがそれぞれ短くなる。これと共に、各マッハツェンダー干渉計4,5の入力側カプラ6,10および出力側カプラ7,11の向き、つまり、各カプラでのDQPSK信号の伝搬方向がZ方向に対して傾くので、各マッハツェンダー干渉計の入力側カプラ6,10部分および出力側カプラ7,11部分のZ方向長さがそれぞれ短くなる。
【0060】
このように、各マッハツェンダー干渉計4,5の2つのアーム導波路部分のZ方向長さと、入力側カプラ部分および出力側カプラ部分のZ方向長さとがそれぞれ短くなるので、各マッハツェンダー干渉計4,5部分の面積が小さくなり、遅延復調デバイス1の平面光波回路1A全体がコンパクトになる。これにより、平面光波回路1Aの面内の温度分布および面内の応力分布を低減することができる。従って、環境温度変動に対する波長シフトがほとんど無く、初期の偏波乖離量Pdλを小さくした遅延復調デバイスを実現することができる。
【0061】
○Y分岐導波路3で分岐された2つの導波路14,15は互いに離間するように上下に曲げられており、第1および第2光出力導波路21,22と第3および第4光出力導波路23,24とは互いに近づくように上下に曲げられている。この構成により、Y分岐導波路部分3で分岐された2つの導波路14,15のZ方向長さ、および、4つの光出力導波路21乃至24のZ方向長さもそれぞれ短くなるので、遅延復調デバイス1の平面光波回路1A全体が更にコンパクトになる。これにより、平面光波回路の面内の温度分布および面内の応力分布を更に低減することができる。
【0062】
○第1および第2のマッハツェンダー干渉計4,5は、平面光波回路1Aの中央上部と中央下部に形成されているので、平面光波回路1A全体が更にコンパクトになる。
【0063】
○第1および第2光出力導波路21,22には、これら2つの光出力導波路21,22の光路長を一致させるための第1遅延部41が設けられている。また、第3および第4光出力導波路23,24には、これら2つの光出力導波路23,24の光路長を一致させるための第2遅延部42が設けられている。この構成により、第1および第2光出力導波路21,22の光路長を第1遅延部41により、第3および第4光出力導波路23,24の光路長を第2遅延部42によりそれぞれ一致させることができ、4つの光出力導波路から互いに位相がπ/2ずつずれた光信号を出力させることができる。つまり、光出力導波路21,22,23,24にそれぞれ接続された導波路43,44,46,45の出力端(4つの出力ポート)から、互いに位相がπ/2ずつずれた光信号を出力させることができる。これにより、導波路43,44,46,45の各出力端のあるPLCチップ1Bの端面1aに、4つの光ファイバからなるファイバアレイを直接に接続することができる。
【0064】
○1/2波長板47,48を挿入するための溝49は、各マッハツェンダー干渉計4,5の中央部を通る図1に示すML間の直線に沿ってフルカットされた一つの溝であり、この溝49はY分岐導波路3に対して光入力導波路2とは反対側に形成されている。この構成により、Y分岐導波路3の分岐部からの漏れ光が溝49で遮断される。このため、DQPSK信号(光信号)がY分岐導波路3から漏れ、その漏れ光が光出力導波路の出力端(導波路43,44,46,45の各出力端)側で再結合し、特性に悪影響を及ぼすのを抑制することができる。
【0065】
○溝49の中央部には樹脂60が注入されているので、Y分岐導波路3の分岐部からの漏れ光をより効果的に遮断することができる。
【0066】
○各1/2波長板47,48が8°程度に傾けられて溝49内に配置されるので、各1/2波長板47,48での反射による損失を抑制することができる。
【0067】
○各マッハツェンダー干渉計4,5の中央部には、1/2波長板47,48がそれぞれ配置されているので、偏波乖離量PDλを低減させることができる。
【0068】
○各マッハツェンダー干渉計4,5のアーム導波路8,9およびアーム導波路12,13の中央部は、互いに平行に延びているので、Z方向に垂直な方向の大きさ(外方への突出量)が小さくなり、平面光波回路1A全体が更にコンパクトになる。
【0069】
○PLCチップ1Bが略正方形のコンパクトな遅延復調デバイス1が得られる。
なお、図1に示す遅延復調デバイス1では、2つの遅延部41,42を設けてあるが、遅延部41,42の無い遅延復調デバイスにも本発明は適用可能である。この遅延復調デバイスの場合には、光出力導波路21,22の光路長を一致させるための遅延部と、光出力導波路23,24の光路長を一致させるための遅延部とを、PLCチップ1Bの外部に配置する。そして、これら2つの遅延部の後段に、ファイバアレイを接続する構成になる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】一実施形態に係る遅延復調デバイスの概略構成を示す平面図。
【図2】DQPSK方式を用いた光伝送システムの概略構成を示すブロック図。
【図3】図1のX−X線に沿った断面図。
【図4】図1のY−Y線に沿った断面図。
【図5】図1に示す遅延復調デバイスの第1遅延部を示す拡大図。
【図6】図1のZ部の拡大図。
【図7】図1に示す遅延復調デバイスの温度特性結果を示すグラフ。
【図8】遅延復調デバイスのスペクトルを示すグラフ図。
【符号の説明】
【0071】
1…遅延復調デバイス
1A…平面光波回路
1B…PLCチップ
2…光入力導波路
3…Y分岐導波路
4…第1のマッハツェンダー干渉計
5…第2のマッハツェンダー干渉計
6,10…入力側カプラ
7,11…出力側カプラ
8,9,12,13…アーム導波路
14,15…Y分岐導波路で分岐された導波路
21,22,23,24…光出力導波路
30…PLC基板
31…クラッド層
41…第1遅延部
42…第2遅延部
A〜H…ヒータ
47,48…1/2波長板
49…溝
60…樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DQPSK信号を復調させる平面光波回路型の遅延復調デバイスであって、
前記DQPSK信号が入力される光入力導波路と、
前記光入力導波路を分岐するY分岐導波路と、
前記Y分岐導波路で分岐された導波路に接続された入力側カプラ、光出力導波路に接続された出力側カプラ、および該両カプラ間に接続された長さの異なる2つのアーム導波路をそれぞれ有する第1および第2のマッハツェンダー干渉計と、を備え、
前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計各々の前記2つのアーム導波路の両端部が平面光波回路の中心部側に向けて曲げられていることを特徴とする遅延復調デバイス。
【請求項2】
前記Y分岐導波路で分岐された2つの導波路は互いに離間するように上下に曲げられて、前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計の各入力側カプラの入力端にそれぞれ接続され、
前記第1のマッハツェンダー干渉計の前記出力側カプラに接続された第1および第2光出力導波路と、前記第2のマッハツェンダー干渉計の前記出力側カプラに接続された第3および第4光出力導波路とは、互いに近づくように上下に曲げられていることを特徴とする請求項1に記載の遅延復調デバイス。
【請求項3】
前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計各々の前記2つのアーム導波路には、該2つのアーム導波路の一方を伝搬する前記DQPSK信号の位相を前記2つのアーム導波路の他方を伝搬する前記DQPSK信号の位相に対してπだけ遅延させる光路長差ΔLを持たせてあることを特徴とする請求項1又は2に記載の遅延復調デバイス。
【請求項4】
前記光入力導波路、Y分岐導波路、および前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計は、PLC基板上に形成された平面光波回路上の導波路であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の遅延復調デバイス。
【請求項5】
前記PLC基板は略正方形の平面形状を有することを特徴とする請求項4に記載の遅延復調デバイス。
【請求項6】
前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計は前記平面光波回路の中央上部と中央下部に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の遅延復調デバイス。
【請求項7】
前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計各々の前記2つのアーム導波路の中央部は、互いに平行に延びていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の遅延復調デバイス。
【請求項8】
前記第1および第2光出力導波路に、これら2つの光出力導波路の光路長を一致させるための第1遅延部が設けられており、前記第3および第4光出力導波路に、これら2つの光出力導波路の光路長を一致させるための第2遅延部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の遅延復調デバイス。
【請求項9】
前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計各々の前記2つのアーム導波路の少なくとも一方の上には、ヒータがそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の遅延復調デバイス。
【請求項10】
前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計各々の中央部には、1/2波長板がそれぞれ配置されていることを特徴とする請求項9に記載の遅延復調デバイス。
【請求項11】
前記1/2波長板が挿入される溝で、前記第1および第2のマッハツェンダー干渉計各々の中央部を通る一つの溝が、前記Y分岐導波路に対して前記光入力導波路とは反対側に形成されていることを特徴とする請求項10に記載の遅延復調デバイス。
【請求項12】
前記溝の中央部で、前記Y分岐導波路の分岐部に対向する部分に、樹脂が注入されていることを特徴とする請求項11に記載の遅延復調デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−237301(P2009−237301A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83640(P2008−83640)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】