説明

遊星回転混合装置

【課題】装置構成の簡素化を実現しながら、容器内の物質が筐体の内部空間内に存在する状態のままで、当該物質を外部から確実且つ合理的に加熱可能な遊星回転混合装置を提供する。
【解決手段】筐体2の内部空間3に配設され混合対象の物質を収容可能な容器4と、容器4を公転軸X周りで回転駆動させる公転機構5と、容器4を自転軸Y周りで回転駆動させる自転機構6とを備えた遊星回転混合装置1であって、容器4に対しマイクロ波を照射可能なマイクロ波照射手段50を備え、容器4における物質への熱伝達可能部位4bにマイクロ波を吸収するマイクロ波吸収材料51を配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体の内部空間に配設され混合対象の物質を収容可能な容器と、容器を公転軸周りで回転駆動させる公転機構と、容器を自転軸周りで回転駆動させる自転機構とを備えた遊星回転混合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記遊星回転混合装置は、例えば、容器に、化学薬品、油脂、樹脂、染料、顔料、食品等の液状物、粘性を有する粘稠物、粉体物等の物質を収容し、これら物質の分散・混合や脱泡処理を行う装置である。そして、このような遊星回転混合装置は、例えば、混合対象の物質が収容された容器を容器ホルダに収納した状態で、当該容器ホルダを公転軸周りで公転させるとともに、同時に自転軸周りで自転させることで、容器内の物質の分散・混合や脱泡処理を行うように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の遊星回転混合装置では、上記のような分散・混合や脱泡処理中や処理後に、容器ホルダに容器を収納したままの状態(容器内の物質が筐体の内部空間内に存在する状態)で、当該容器内の物質を外部から加熱又は冷却する構成が提案されている。例えば、分散・混合や脱泡処理中に物質を加熱することで、粘性の低下や化学反応の進行速度が上昇して分散・混合しやすくなったり、また、脱気を促進することができる場合等があるため、このような提案がなされているものである。特許文献1に記載の遊星回転混合装置では、加熱又は冷却する構成として、熱媒体を容器ホルダ等に設けられたジャケット部に通流させて容器内の物質を加熱又は冷却することが開示されている。
【0004】
具体的には、有底筒状に形成された容器ホルダを二重構造にして流路を2系統備えた構造とし、さらに、公転軸及び自転軸もそれぞれ二重構造にして流路を2系統備えた構造として、装置外部に配設された熱媒体供給装置から供給された熱媒体が、公転軸、自転軸、容器ホルダの順に通流し、容器ホルダにて容器内の物質を加熱又は冷却した後、容器ホルダ、自転軸、公転軸の順に通流するジャケット部を備える構成とされている。これにより、熱媒体を利用して、容器ホルダが公転及び自転している最中でも、容器ホルダに収納された容器内の物質を良好に加熱又は冷却可能とされる。
また、特許文献1に記載の遊星回転混合装置では、容器内の物質を加熱するだけでよい場合には、容器ホルダの周りに電気ヒータ(シーズヒータ)を巻回し通電する構成も提案されており、容器ホルダが公転及び自転している最中でも、容器ホルダに収納された容器内の物質を良好に加熱可能とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−71264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の遊星回転混合装置では、熱媒体を通流させるためのジャケット部や熱媒体供給装置が必要となり、装置構成が大型化しやすく大きな設置スペースが必要となる。特に、容器ホルダ、公転軸、自転軸を二重構造にするとともに、容器ホルダが公転及び自転しても熱媒体を漏出なく安定的に供給する構造とする必要があるため、装置構成が非常に複雑化することとなる。
また、電気ヒータを用いて加熱する場合であっても、公転及び自転する容器ホルダに設けた電気ヒータに電力を安定的に供給する構成が必要となるため、上記と同様に装置構成が非常に複雑化することとなる。
従って、装置構成の大型化・複雑化を防止する観点から改善の余地がある。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、装置構成の簡素化を実現しながら、容器内の物質が筐体の内部空間内に存在する状態のままで、当該物質を外部から確実且つ合理的に加熱可能な遊星回転混合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る遊星回転混合装置は、筐体の内部空間に配設され混合対象の物質を収容可能な容器と、前記容器を公転軸周りで回転駆動させる公転機構と、前記容器を自転軸周りで回転駆動させる自転機構とを備えた遊星回転混合装置であって、その特徴構成は、前記容器に対しマイクロ波を照射可能なマイクロ波照射手段を備え、前記容器における前記物質への熱伝達可能部位に前記マイクロ波を吸収するマイクロ波吸収材料を配置した点にある。
【0009】
上記特徴構成によれば、筐体の内部空間に配設される容器に対してマイクロ波が照射されるので、容器において当該容器内の物質への熱伝達可能部位に配置されたマイクロ波吸収材料を筐体の外部から発熱させ、当該発熱した熱をマイクロ波吸収材料から容器を介して伝熱させて、当該容器内の物質を確実に加熱することが可能となる。これにより、筐体の内部空間に配設された容器内の混合対象の物質を公転及び自転させる処理中や処理後において、容器内の物質を筐体の内部空間から取り出すことなく、しかも、筐体の外部から非接触で合理的に加熱することが可能となる。特に、容器内の物質がマイクロ波により直接加熱することができない特性を備えている場合であっても、マイクロ波吸収材料の発熱を利用して容器内の物質を間接的に加熱することができる。
また、この際には、マイクロ波照射手段を、回転する容器に配設することなく、筐体の何れかの箇所で、筐体内の内部空間における容器に対してマイクロ波を照射可能な箇所に配設するだけでよい。さらに、回転する容器には、単に容器内の物質への熱伝達可能部位にマイクロ波吸収材料を設けるだけでよく、容器は簡便な構成とできる。
従って、公転及び自転する容器内の物質を加熱する構成を、非常に簡素化することが可能となる。
なお、容器は公転及び自転により回転するので、容器内の混合対象の物質は均一に分散・混合処理や脱泡処理が施される。
よって、装置構成の簡素化を実現しながら、容器内の物質が筐体の内部空間内に存在する状態のままで、当該物質を外部から確実且つ合理的に加熱可能な遊星回転混合装置を提供することができた。
【0010】
本発明に係る遊星回転混合装置の更なる特徴構成は、前記容器が前記マイクロ波を反射するマイクロ波反射材料で構成され、前記マイクロ波吸収材料が、前記熱伝達可能部位である前記容器の外周面に設けられている点にある。
【0011】
上記特徴構成によれば、容器がマイクロ波を反射するマイクロ波反射材料で構成され、マイクロ波吸収材料が熱伝達可能部位である容器の外周面に設けられているので、マイクロ波照射手段により照射されたマイクロ波は、マイクロ波吸収材料に直接照射されるとともに、容器で反射されてマイクロ波吸収材料に照射されることとなり、当該マイクロ波吸収材料をより効率的に発熱させ、容器を介した伝熱により容器内の物質をより効率的に加熱することが可能となる。
【0012】
本発明に係る遊星回転混合装置の更なる特徴構成は、前記容器が、前記マイクロ波を透過可能なマイクロ波透過性材料で構成された保温材で覆われている点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、容器が、マイクロ波を透過可能なマイクロ波透過性材料で構成された保温材で覆われているので、容器に配置されたマイクロ波吸収材料にマイクロ波が照射されることで発熱した熱が、当該容器及びマイクロ波吸収材料の外側に放熱されるのを保温材により防止することができる。これにより、マイクロ波吸収材料で発熱した熱を、容器を介して効率よく混合対象の容器内の物質に伝熱して加熱することができる。なお、保温材は、マイクロ波透過性材料で構成されているので、保温材の存在によりマイクロ波吸収材料へのマイクロ波の照射を阻害することはない。
【0014】
本発明に係る遊星回転混合装置の更なる特徴構成は、前記公転軸が垂直方向に設けられ、前記マイクロ波照射手段が、前記筐体の側部に配設され、前記マイクロ波照射手段から照射される前記マイクロ波の照射方向が、前記容器に向けられている点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、筐体の側部に配設されたマイクロ波照射手段から照射されるマイクロ波の照射方向が、筐体の内部空間に配設された容器に向けられているので、当該マイクロ波を垂直方向の公転軸周りに公転する容器の公転面に対して平行、又は(当該マイクロ波を容器に照射可能な限度で)所定角度傾斜させて照射することができる。これにより、マイクロ波が照射される範囲(公転面上及びその近傍の範囲)と、容器の移動軌跡(公転面上の公転軌跡である公転円近傍)との重複範囲を大きくすることができ、容器に長い距離及び時間に亘ってマイクロ波を照射できるので、照射効率を向上させることができる。
よって、マイクロ波により、効率よく容器のマイクロ波吸収材料を発熱させ、容器内の物質を加熱することが可能となる。
【0016】
本発明に係る遊星回転混合装置の更なる特徴構成は、前記容器内の物質の温度を検知する温度センサを備え、運転を制御する制御手段が、前記温度センサからの温度情報に基づいて前記マイクロ波照射手段による前記マイクロ波の照射出力を制御する点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、運転を制御する制御手段が容器内の物質の温度を検知する温度センサからの温度情報に基づいて、マイクロ波照射手段により照射されるマイクロ波の照射出力を制御することができるので、混合対象の物質の温度に対応してリアルタイムにマイクロ波の照射出力を調整することができる。例えば、容器内の物質の温度が混合に適した所定温度よりも低い場合には照射出力を定格出力とし、所定温度以上である場合には照射出力をゼロとするように制御することができる。
よって、容器内の物質の温度管理を、より適切且つ正確に行うことが可能となる。
【0018】
本発明に係る遊星回転混合装置の更なる特徴構成は、前記筐体の内部空間を減圧可能な減圧手段を備え、前記容器の上部に前記内部空間に通ずる貫通孔を設けた点にある。
【0019】
上記特徴構成によれば、容器は貫通孔を備えているので、この貫通孔を介して容器の内部は筐体の内部空間と連通することとなる。これにより、当該内部空間内の圧力を減圧手段により減圧して真空状態とすることで、容器の内部を真空状態とすることができる。
よって、容器を筐体の内部空間に配設したままの状態で、容器内を真空状態として、容器内の物質の脱泡をより確実に行うことができる。
また、内部空間内を減圧した場合には、容器から空気への放熱が抑制されるため、マイクロ波による加熱効率の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】遊星回転混合装置の概略縦断面視図
【図2】蓋体を外した状態における遊星回転混合装置の概略上面視図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の遊星回転混合装置の実施形態について、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本願の遊星回転混合装置1は、筐体2の内部空間3に配設され混合対象の物質を収容可能な容器4と、容器4を公転軸X周りで回転駆動させる公転機構5と、容器4を自転軸Y周りで回転駆動させる自転機構6と、運転を制御する制御手段7とを備えて構成されている。
これにより、本願の遊星回転混合装置1は、基本的に、容器4を公転軸X周りで公転させながら自転軸Y周りで自転させ、公転及び自転により生じた遠心力を容器4内に収容された混合対象の物質に作用させて、当該容器4内に対流を生じさせることで、均一な分散・混合処理や脱泡処理を実行することが可能に構成されている。
【0022】
また、遊星回転混合装置1は、容器4を配設可能な内部空間3を形成する筐体2と、当該筐体2の内部空間3を真空状態に減圧可能な真空ポンプ8(減圧手段の一例)とを備えて構成されている。
これにより、筐体2の内部空間3内に配設された容器4内を真空状態に維持して、上記公転及び自転により生じた容器4内の物質の対流の発生に伴う、数ミクロン以下程度の精度の高い脱泡度での脱泡を実行することが可能に構成されている。
【0023】
以下、遊星回転混合装置1の各部の構成について説明する。
筐体2は、円筒状、多角筒状等の筒状(本実施形態では四角筒状)に形成されており、本体20と、本体20の上部開口21を閉塞する蓋体22と、本体20の下部に位置する台座23とを備えて構成されている。蓋体22が本体20の上部開口21を閉塞することにより、当該蓋体22と本体20とで囲繞された内部空間3が形成される。蓋体22と本体20とはシートパッキン等(図示せず)を介して接合されており、内部空間3は気密状態に維持可能に構成されている。なお、本体20の上部開口21を閉塞した状態の蓋体22を開閉することで、筐体2の内部空間3の上方開口から容器4内の物質の出し入れが可能に構成されている。台座23内には、公転機構5を構成する駆動モータ9(駆動機構の一例)が配設されている。
【0024】
容器4は、円筒状、多角筒状等の有底筒状(本実施形態では円筒状)の容器本体40と、容器本体40の上方開口を閉塞可能な容器蓋体41とを備えて構成され、容器本体40と容器蓋体41とはボルト・ナット等の締結具(図示せず)によりフランジ接合されている。容器4の内部には、混合対象の物質を収容可能な空間を備えて構成されている。このような物質としては、例えば、化学薬品、油脂、樹脂、染料、顔料、食品等の液状物、粘性を有する粘稠物、粉体物等が例示できる。従って、容器4内に、材質、密度、粘度等の特性を異にする2種類以上の物質を収容して、分散・混合や脱泡の処理を行うことができる。なお、1種類の物質を収容して脱泡のみを行うこともできる。
また、容器蓋体41の上面中央部には、容器4の内部と筐体2の内部空間3内とを連通する貫通孔41aが設けられ、内部空間3内及び容器4の内部とが同圧となるように構成されている。さらに、容器4は、マイクロ波非吸収材料で形成され、例えば、マイクロ波反射材料であるSUS、マイクロ波透過性材料である石英ガラス等が採用できる(本実施形態では、マイクロ波反射材料であるSUSを採用した)。
容器4の底部4aの外側中央部には、自転機構6のユニバーサルジョイント10の上側軸10aが固定されている。
【0025】
公転機構5は、筐体2の本体20の底面20aにおける略中央位置に軸支される出力軸9aを備えた駆動モータ9と、駆動モータ9の出力軸9aを公転軸Xとして公転する一対の支持アーム11と、支持アーム11の外周側に配設された軸受12とを備える。
【0026】
駆動モータ9は、公知の電気モータであり、筐体2の台座23内に配設される。そして駆動モータ9の出力軸9aが台座23から本体20の底部20aを介して上方に突出する形態で、鉛直(垂直)方向に配設されている。出力軸9aは本体20の底面20aに真空用の軸受(図示せず)を介して軸支されており、内部空間3内の気密状態を維持可能に構成されている。出力軸9aの上端には、一対の支持アーム11が取付けられ、当該一対の支持アーム11は、出力軸9aを中心軸(公転軸X)として、水平面と平行な公転面M上で公転可能に構成されている(本実施形態では時計回り方向に公転する例を示した)。なお、一対の支持アーム11のそれぞれは、当該公転面M上において、公転軸Xを中心として対象位置に配置されており、公転時の重量バランスを採ることが可能に構成されている。
【0027】
支持アーム11は、図1に示すように、くの字状に屈曲した形状に形成され、内周側に水平部分11A、外周側に傾斜部分11Bが形成されている。水平部分11Aの内周側端は上述した出力軸9aに固定されている。傾斜部分11Bには軸受12が配設され、当該軸受12は、自転機構6のユニバーサルジョイント10の上側軸10a(自転軸Y)を回転自在に軸支するように配設される。当該上側軸10a(自転軸Y)の上端は、容器4の底部4aの外側中央部に固定されている。なお、ユニバーサルジョイント10の上側軸10aには、軸受12が配設された箇所の傾斜部分11Bの上面に当接する第1拡径部10bと下面に当接する第2拡径部10cとが設けられている。この両拡径部10b、10cにより、上側軸10aが当該上側軸10aに沿う方向へ移動することを規制でき、当該上側軸10aに固定された容器4に対して当該上側軸10aに沿う方向への位置決め機能を実現している。
【0028】
従って、駆動モータ9が出力軸9aを回転駆動することで、一対の支持アーム11が当該出力軸9aを公転軸Xとして公転し、当該支持アーム11の傾斜部分11Bに配設された軸受12を介して上側軸10a(自転軸Y)及び当該上側軸10aに固定された容器4を公転させることができる。
【0029】
自転機構6は、図1及び図2に示すように、外周面に歯列を備えた固定歯車30と、当該固定歯車30の中心軸(公転軸X)を中心として公転する遊星歯車31と、遊星歯車31の中心軸から上方に延出配置されるユニバーサルジョイント10とを備えて構成されている。
【0030】
固定歯車30は、支持部材30aを介して筐体2の本体20の底面20aに固定され、当該底面20aから上方に離間した位置に配設されている。固定歯車30の中心軸は、駆動モータ9の出力軸9aと同軸に構成されている。なお、固定歯車30の中心部には、駆動モータ9の出力軸9aと干渉しないように開口30bが形成されている。
【0031】
遊星歯車31は、固定歯車30よりも小径の歯車であり、当該固定歯車30の外周面に形成された歯列に噛み合う歯列を外周面に備えている。また、遊星歯車31の上面の中心は、ユニバーサルジョイント10の下側軸10dと固着されている。従って、遊星歯車31は、固定歯車30の外周面に沿って公転しながら、遊星歯車31の中心軸(下側軸10d)周りに自転する構成とされている。
【0032】
ユニバーサルジョイント10は、屈曲可能で、かつ回転を伝達可能に構成され、リンク10eを介して下側軸10dと上側軸10aとに分割して構成されている。下側軸10dの下端は遊星歯車31の中心と固着され、上端は上記リンク10eと接続されている。上側軸10aの下端は上記リンク10eと接続され、上端は容器4の底部4aの外側中央部に固定されている。上側軸10aは、上記支持アーム11の傾斜部分11Bに配設された軸受12により軸支されて、当該上側軸10a(自転軸Y)周りで回転自在に構成されている。鉛直方向に配設された下側軸10dに対して上側軸10aは公転軸X側に傾斜して配設されている。即ち、公転軸Xと自転軸Yとは容器4の上方で交差するように傾斜されている。なお、この傾斜角度は、支持アーム11の水平部分11Aに対する傾斜部分11Bの傾斜角度と同一(図1では、30度)に設定されている。
【0033】
従って、駆動モータ9の出力軸9aが回転することで支持アーム11が出力軸9a(公転軸X)周りに公転し、支持アーム11の傾斜部分11Bに配設された軸受12を介してユニバーサルジョイント10の上側軸10a(自転軸Y)及び下側軸10dが公転する。結果、上側軸10aに固定された容器4が公転軸X周りに公転し、下側軸10dに固着された遊星歯車31が固定歯車30の外周面に沿って公転する。
同時に、遊星歯車31の公転に伴い、当該遊星歯車31が自身の中心軸(下側軸10d)周りに自転することとなり、この遊星歯車31の中心に固着されたユニバーサルジョイント10(上側軸10a及び下側軸10d)も自転し、当該上側軸10aに固定された容器4も自転する(本実施形態では時計回り方向に自転する例を示した)。
よって、駆動モータ9の出力軸9aが回転することにより、容器4は公転しながら自転することとなる。これにより、容器4内の物質に働く遠心力により、公転に伴って、傾斜した容器4の外側内周面に押圧されて容器4の自転軸Yに並行な物質の流れが生じるとともに、自転に伴って、自転方向に物質が連れ回りすることとなり、容器4内の物質の流動方向が複雑となり、物質相互の均一な分散・混合が促進され、また、均一な脱泡が促進されて、短時間で所望の混合材料が得られる構成となる。
【0034】
減圧手段としては、公知の真空ポンプ8等を用いることができる。真空ポンプ8は、図1に示すように、筐体2の本体20の側部20bに配設された吸引口(図示せず)に接続され、筐体2内に形成された内部空間3内の気体、容器4内の気体を吸引して、当該内部空間3内、容器4内を略真空状態とすることが可能に構成されている。
制御手段7は、公知の演算処理手段であり、駆動モータ9、真空ポンプ8等の作動状態を制御可能に構成されている。
【0035】
次に、本願の遊星回転混合装置1の特徴構成について説明する。
本願の遊星回転混合装置1は、上述の基本的構成に加え、マイクロ波を照射可能なマイクロ波照射手段50、マイクロ波を吸収するマイクロ波吸収材料51、マイクロ波吸収材料51の熱が内部空間3の容器4外に放散するのを防止する保温材52、容器4内の物質の温度を検出するサーモグラフィー53(温度センサの一例)、サーモグラフィー53にマイクロ波が照射されるのを防止するパンチングメタル板54(マイクロ波不透過性材料の一例)を備える。
【0036】
マイクロ波照射手段50は、マイクロ波を発振するマイクロ波発振器(図示せず)を備えて構成される。このマイクロ波発振器は筐体2の本体20の側部20bに複数個配設され(本実施形態では2個)、容器4に向けてマイクロ波を照射可能に配置されている。マイクロ波発振器としては、例えば、マイクロ波を照射可能なマグネトロン等を用いることができる。ここで、マイクロ波とは、周波数が300MHz〜3THz程度であり、波長が100μm〜1m程度の電磁波であり、例えば、950MHz、2.45GHz、5.8GHz程度の周波数が含まれる。
【0037】
マイクロ波の照射方向は、容器4に向けられており、主として、容器4が公転する公転面M(水平面)と略平行な方向であり(図1参照)、かつ、容器4が公転する公転軌跡である公転円の接線Eと略平行な方向(図2参照)に設定されている。そのため、図2に示すようにマイクロ波照射手段50は、筐体2の本体20の側部20bで、しかも、上面視において当該側部20bの中央位置よりも端部位置側に変位した箇所に配設されている。
これにより、マイクロ波が照射される範囲(公転面M上で、しかも公転軌跡である公転円の接線Eを含む範囲)と、容器の移動軌跡(公転面M上の公転軌跡である公転円)との重複範囲を大きくすることができ、容器4に長い距離及び時間に亘ってマイクロ波を照射して、照射効率を向上させることができる。
【0038】
容器4は、容器4内の物質に対して熱を伝達可能な部位(熱伝達可能部位)に、マイクロ波を吸収可能なマイクロ波吸収材料51を備えて構成されている。このマイクロ波吸収材料51は、マイクロ波照射手段50から照射されたマイクロ波を吸収して発熱可能に構成されている。例えば、図1に示すように、マイクロ波吸収材料51は、容器4の外周面4b(熱伝達可能部位の一例)に溶射されることにより円筒状に配設されて、外周側から照射されるマイクロ波を吸収する構成とされる。この場合、マイクロ波吸収材料51の内周面は、容器4の外周面と接触する状態となる。マイクロ波吸収材料51としては、例えば、SiC(炭化ケイ素)やFe(酸化鉄)等を採用することができる(本実施形態では、SiCを採用した)。なお、容器4の底面4aの外側(熱伝達可能部位の一例)にマイクロ波吸収材料51を配設することもできる。これにより、容器4内に収容された物質がマイクロ波により加熱することができない物質であっても、容器4自体(マイクロ波吸収材料51)を加熱することにより、容器4を介して当該容器4内の物質を間接的に加熱することが可能となる。
特に、本実施形態では、容器4がマイクロ波反射材料であるSUSで構成されるので、照射されたマイクロ波は、マイクロ波吸収材料51に直接照射されるとともに、容器4で反射されてマイクロ波吸収材料51に照射されることとなり、当該マイクロ波吸収材料51をより効率的に発熱させ、容器4を介した伝熱により容器4内の物質をより効率的に加熱することが可能に構成されている。
【0039】
また、容器4におけるマイクロ波吸収材料51の外周面51aには、当該容器4及びマイクロ波吸収材料51を覆うように、マイクロ波透過性材料で構成された保温材52が設けられている。この保温材52としては、例えば、ガラスウール、セラミックウール等を採用することができる。この保温材52は、マイクロ波吸収材料51の外形に対応した形状を採用することができ、本実施形態では、円筒状に形成されている。この保温材52は、例えば、その外周部を締結バンド等(図示せず)の公知の手段により固定されている。なお、容器蓋体41の上面にも当該保温材52を配設することができる。
保温材52により、マイクロ波の照射により発熱したマイクロ波吸収材料51の熱が、当該マイクロ波吸収材料51の外側へ伝熱し内部空間3内に放熱されるのを防止することができる。従って、マイクロ波吸収材料51で発熱した熱を、容器4を介して効率よく混合対象の容器4内の物質に伝熱して加熱することができる。なお、保温材52は、マイクロ波透過性材料で構成されているので、保温材52の存在によりマイクロ波吸収材料51へのマイクロ波の照射を阻害することはない。
【0040】
筐体2の蓋体22の上部には、容器4内の物質の温度を検出するサーモグラフィー53(温度センサの一例)が配設され、容器4内の物質から放射される赤外線に基づいて当該物質の温度を検出可能に構成されている。検出された容器4内の物質の温度は、温度情報として制御手段7に出力される。
【0041】
筐体2の内部空間3内における本体20と蓋体22との間には、サーモグラフィー53にマイクロ波が照射されるのを防止するパンチングメタル板54が配設されている。パンチングメタル板54は、マイクロ波が透過不能な開口径を備えた複数の穴(図示せず)が形成された板状体で構成される。なお、当該開口径は、照射されるマイクロ波の波長に対応して当該マイクロ波が透過不能となる径に適宜設定される。これにより、パンチングメタル板54は、内部空間3の本体20内で容器4に照射されるマイクロ波が、筐体2の内側壁部で反射等して蓋体22側に照射されたとしてもパンチングメタル板54により遮断されて、蓋体22側に到達することができないように構成されている。なお、パンチングメタル板54の穴(開口径)は、容器4内の物質から放射されサーモグラフィー53が検知対象とする赤外線を透過可能な径に設定されている。
【0042】
次に、本願の遊星回転混合装置1により2種類以上の物質を分散・混合処理及び脱泡処理する動作について説明する。
まず、筐体2の蓋体22を取外し、容器4の容器蓋体41を取外して、混合対象の物質を容器4内に収容し、容器4の容器蓋体41を取付け、筐体2の蓋体22を取付ける。
【0043】
続いて、操作スイッチ等(図示せず)が操作されることにより、制御手段7は、真空ポンプ8の作動を開始させ、筐体2の内部空間3内、容器4内を真空状態とする。真空状態となると、制御手段7は、サーモグラフィー53から容器4内の物質の温度情報の入力を受けて、当該温度情報に基づいてマイクロ波照射手段50のマイクロ波の照射出力を制御する。例えば、制御手段7は、温度情報が容器4内に収容された物質を混合するのに適した所定の温度か否かを判定し、判定の結果、温度情報が所定温度よりも低い場合には照射出力を定格出力とし、所定温度以上である場合には照射出力をゼロとするように制御することができる。
【0044】
そして、制御手段7は、温度情報が所定温度よりも低い場合に、マイクロ波照射手段50の作動を開始させて容器4にマイクロ波を照射する。
これにより、容器4におけるマイクロ波吸収材料51を発熱させ、当該マイクロ波吸収材料51からの伝熱により、容器4を介して容器4内の物質を良好に加熱することができる。
【0045】
また、このマイクロ波の照射と同時に、制御手段7は、駆動モータ9の作動を開始させ出力軸9aを所定回転数で回転させる。
これにより、支持アーム11、ユニバーサルジョイント10、遊星歯車31、容器4が出力軸9a(公転軸X)周りに公転し、同時に、遊星歯車31の公転に伴い、当該遊星歯車31が中心軸(下側軸10d)周りに自転することで、ユニバーサルジョイント10、容器4も自転する。
【0046】
従って、容器4内の物質に働く遠心力により、公転に伴って、傾斜した容器4の外側内周面に押圧されて容器4の自転軸Yに並行な物質の流れが生じるとともに、自転に伴って、自転方向に物質が連れ回りすることとなり、容器4内の物質の流動方向が複雑となり、物質相互の均一な分散・混合が促進され、また、分散・混合する際、或いは分散・混合前から物質に含有される気泡は、容器4内が真空状態にされていることにより、均一な脱泡が促進されて、短時間で所望の混合材料が得られる構成となる。よって、容器4内の物質を加熱しながら、均一な分散・混合処理及び脱泡処理を同時に行うことが可能となる。
【0047】
一方で、制御手段7は、サーモグラフィー53からの温度情報が所定温度以上となった場合には、マイクロ波照射手段50の作動を停止し、駆動モータ9の駆動は継続したままとして、容器4内の物質の分散・混合処理及び脱泡処理を行う。なお、駆動モータ9の回転駆動が停止するまでの間は、制御手段7はサーモグラフィー53からの温度情報を監視し、当該温度情報が所定温度よりも低い場合には、所定温度以上となるようにマイクロ波の照射出力をフィードバック制御する。
【0048】
その後、制御手段7は、駆動モータ9の回転駆動を、分散・混合処理及び脱泡処理を開始してから終了するまでの所要時間として予め記憶された時間の間実行させる。そして、その時間が経過すると、駆動モータ9の回転駆動を停止し、分散・混合処理及び脱泡処理を完了する。分散・混合処理及び脱泡処理の完了後、筐体2の蓋体22を取外し、容器4の容器蓋体41を取外して、容器4内の物質を取り出すことができる。
【0049】
よって、本願の遊星回転混合装置1では、装置構成の簡素化を実現しながら、容器4内の物質が筐体2の内部空間3内に存在する状態のままで、当該物質を外部から確実且つ合理的に加熱可能となった。
【0050】
(別実施形態)
(1)上記実施形態では、マイクロ波照射手段50を筐体2の本体20の側部20bに配設したが、容器4内の物質を良好に加熱することができる構成であれば、特にこの構成に限られるものではない。例えば、筐体2の本体20の底部20aや、蓋体22の上部に配設することもできる。
また、マイクロ波照射手段50を四角筒状(方形筒状)に形成された筐体2の本体20の側部20bに配設する場合であっても、側部20bの中央位置に配設することも可能である。
【0051】
(2)上記実施形態では、マイクロ波照射手段50によるマイクロ波の照射方向を、容器4が公転する公転面M(水平面)と略平行な方向であり(図1参照)、かつ、容器4が公転する公転軌跡である公転円の接線Eと略平行な方向(図2参照)に設定したが、容器4内の物質を良好に加熱することができる構成であれば、特にこの構成に限られるものではない。例えば、容器4が公転する公転面M(水平面)に対して所定角度傾斜した方向に照射することもできる。また、容器4が公転する公転軌跡である公転円の接線Eと平行な方向に対して所定角度傾斜した方向に照射することもできる。
【0052】
(3)上記実施形態では、温度センサとして容器4内の物質の温度を、当該物質から放射される赤外線を用いて検出するサーモグラフィー53を採用したが、容器4内の物質の温度を検出することができる構成であれば、特にこの構成に限定されるものではない。例えば、容器4の容器蓋体41の上部に配設され、センサ部(図示せず)が容器蓋体41を貫通して容器4内の物質の温度を直接検出する接触式温度センサ(図示せず)を用いることもできる。この場合、接触式温度センサは、電池で駆動し、検知した温度情報を無線で制御手段7に出力可能に構成することができる。なお、この場合には、マイクロ波不透過性材料としてのパンチングメタル板54を省略することも可能である。
【0053】
(4)上記実施形態では、容器4を自転及び公転させる構成として、主として固定歯車30と遊星歯車31を採用したが、容器4を自転及び公転させることができる構成であれば、特にこの構成に限定されるものではなく、公知の自転機構及び公転機構を採用することができる。また、駆動モータ9を、公転機構の駆動用と自転機構の駆動用とで複数設ける構成とすることもできる。
【0054】
(5)上記実施形態では、容器4の公転方向と自転方向との両方を時計回りとしたが、公転方向と自転方向とは任意の回転方向に設定可能である。例えば、公転方向と自転方向との両方を反時計回りに設定することもでき、この場合には、駆動モータの出力軸の回転方向を変更することで実現できる。また、公転方向と自転方向とがそれぞれ反対方向に回転するように設定することもでき、この場合には、固定歯車30と遊星歯車31との間に、別途、固定歯車を設ける構成とすることで実現できる。
【0055】
(6)上記実施形態では、減圧手段としての真空ポンプ8を用いて筐体2の内部空間3内を真空状態としたが、混合しても気泡の発生が比較的少ない場合には、真空ポンプ8を省略して、大気圧下で物質の混合を実行することもできる。また、内部空間3内を真空状態まで減圧しなくても、混合対象の物質中の気泡を脱泡できる程度の負圧状態とすることとしてもよい。
【0056】
(7)上記実施形態では、公転軸Xに対して自転軸Yを所定角度傾斜させたが、特にこの構成に限定されるものではなく、例えば、自転軸を公転軸と平行に設定してもよい。
【0057】
(8)上記実施形態では、容器4自体を公転及び自転させたが、容器4内の物質を良好に分散・混合や脱泡できるとともに、良好に加熱できる構成であれば、特にこの構成に限定されるものではない。例えば、容器4を容器ホルダ内に収納し、筐体2の内部空間3内において当該容器ホルダごと公転及び自転させる構成とすることもできる。
【0058】
(9)上記実施形態では、ユニバーサルジョイント10の上側軸10aを容器4の底面4aに固定して、容器4を筐体2の内部空間3内から取外すことができない構成として説明したが、容器4を筐体2の内部空間3内から取外すことが可能な構成を採用することもできる。例えば、容器4の底部4aとユニバーサルジョイント10の上側軸10aとを、ボルト・ナット等の公知の連結手段により取外し自在に取付けて、固定する構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したように、装置構成の簡素化を実現しながら、容器内の物質が筐体の内部空間内に存在する状態のままで、当該物質を外部から確実且つ合理的に加熱可能な遊星回転混合装置を提供できた。
【符号の説明】
【0060】
1 遊星回転混合装置
2 筐体
3 内部空間
4 容器(マイクロ波反射材料)
4b 外周面(熱伝達可能部位)
5 公転機構
6 自転機構
7 制御手段
8 真空ポンプ(減圧手段)
20b 側部(本体)
21 上部開口
41a 貫通孔
50 マイクロ波照射手段
51 マイクロ波吸収材料
52 保温材
53 サーモグラフィー(温度センサ)
X 公転軸
Y 自転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体の内部空間に配設され混合対象の物質を収容可能な容器と、
前記容器を公転軸周りで回転駆動させる公転機構と、
前記容器を自転軸周りで回転駆動させる自転機構とを備えた遊星回転混合装置であって、
前記容器に対しマイクロ波を照射可能なマイクロ波照射手段を備え、
前記容器における前記物質への熱伝達可能部位に前記マイクロ波を吸収するマイクロ波吸収材料を配置した遊星回転混合装置。
【請求項2】
前記容器が前記マイクロ波を反射するマイクロ波反射材料で構成され、
前記マイクロ波吸収材料が、前記熱伝達可能部位である前記容器の外周面に設けられている請求項1に記載の遊星回転混合装置。
【請求項3】
前記容器が、前記マイクロ波を透過可能なマイクロ波透過性材料で構成された保温材で覆われている請求項1又は2に記載の遊星回転混合装置。
【請求項4】
前記公転軸が垂直方向に設けられ、前記マイクロ波照射手段が、前記筐体の側部に配設され、前記マイクロ波照射手段から照射される前記マイクロ波の照射方向が、前記容器に向けられている請求項1から3の何れか一項に記載の遊星回転混合装置。
【請求項5】
前記容器内の物質の温度を検知する温度センサを備え、
運転を制御する制御手段が、前記温度センサからの温度情報に基づいて前記マイクロ波照射手段による前記マイクロ波の照射出力を制御する請求項1から4の何れか一項に記載の遊星回転混合装置。
【請求項6】
前記筐体の内部空間を減圧可能な減圧手段を備え、
前記容器の上部に前記内部空間に通ずる貫通孔を設けた請求項1から5の何れか一項に記載の遊星回転混合装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−218300(P2011−218300A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90581(P2010−90581)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000229047)日本スピンドル製造株式会社 (328)
【Fターム(参考)】