説明

運動負荷制御システムおよび運動負荷の制御方法

【課題】体脂肪の燃焼効率が高い運動負荷を自動的に被験者に課す運動負荷制御システムを提供する。
【解決手段】本発明の運動負荷制御システムは、被験者に負荷を与えて被験者を運動させるための負荷荷重部と、該負荷荷重部によって与えられる負荷の運動中に、被験者が排出する呼気を検出するためのガス分析装置と、該ガス分析装置で検出した呼気の情報に基づいて、被験者の脂質燃焼率が最大となる運動負荷を算出するための負荷演算部と、該負荷演算部で算出した運動負荷に基づいて、負荷荷重部の負荷を調整するための負荷制御部とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動負荷制御システムに関し、特に、被験者の脂肪燃焼効率が高い運動負荷に制御するための運動負荷制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
わが国では人口減少・少子高齢化が進展しており、総人口に対する65歳以上の高齢者が占める割合が急速に増加しつつある。具体的には、2013年になると総人口に対し約25.2%のほぼ4人に1人が高齢者となり、2035年になると総人口に対し約33.7%のほぼ3人に1人が高齢者となると言われている。高齢者ほど医療機関を利用する割合は大きいことから、今後医療の負担が大きくなることが予想される。
【0003】
加えて、若年層においては、生活環境が著しく改善されたこと、IT技術の進展により体を動かす機会が減少したこと等の理由により、メタボリックシンドロームが問題となっており、生活習慣病等の疾病を患う若年層の人口は年々増えてきている。このように若年層においても医療を利用する機会が増えているというのが現状である。
【0004】
メタボリックシンドロームを予防するためには、適度な運動を生活に取り込むことが必要である。しかし、20代〜40代の世代の人々は、運動する時間を確保しにくく、限られた短時間の運動で、いかに効率よく体脂肪を燃焼させるかというところに関心が高まっている。
【0005】
ところで、体脂肪の燃焼効率を示す指標の好適な生体試料の例として、呼気がある。特に、呼気中のアセトンは、脂肪(脂肪酸)、タンパク質(アミノ酸)を分解したときに産出されることから、体脂肪の代謝を示す指標として位置づけられる。体脂肪がアセトンとなって、体外に排出されるメカニズムは以下の通りである。
【0006】
まず、運動して血中グルコースが消費されて不足すると、体内に蓄えられた体脂肪がエネルギーとして利用される。血中の脂肪が代謝されて、アセト酢酸、ヒドロキシ酪酸、アセトン等のケトン体が生成される。生成されたケトン体のうち、アセト酢酸およびヒドロキシ酪酸は肝臓以外の臓器で再利用され、アセトンは肺を介して呼気として外部に排出される。
【0007】
よって、アセトンは、体脂肪を燃焼する過程で生成され、しかも呼気中に含まれて排出される。このため、呼気中のアセトンの濃度を測定することにより、体脂肪の燃焼状況を直接的に知ることができる。
【0008】
また、たとえば特許文献1には、呼気中のアセトンの濃度から体脂肪の燃焼度を算出する体脂肪燃焼量測定装置が開示されている。特許文献1の体脂肪燃焼量測定装置は、呼気中のアセトン濃度を検出するアセトン検知センサと、該アセトン検知センサで検出したアセトン濃度に応じて、体脂肪の燃焼度合いを被験者に伝える報知手段とを備える。
【0009】
特許文献1の体脂肪燃焼量測定装置を用いる場合、被験者は報知手段を確認しながら、体脂肪の燃焼度合いが高い条件で運動し続けることにより、体脂肪を効率的に燃焼することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−349888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の体脂肪燃焼量測定装置を用いる場合、被験者は常に報知手段を確認しながら運動する必要がある。また、被験者の最適な運動負荷は、そのときの被験者の体調や食後からの経過時間にも大きな影響がある。このため、運動するときに毎回自分の最適な運動負荷を調整する必要があり、運動中の被験者に対する負担が大きかった。
【0012】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたものであり、体脂肪の燃焼効率が高い負荷を自動的に被験者に与える運動負荷制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の運動負荷制御システムは、被験者に負荷を与えて被験者を運動させるための負荷荷重部と、該負荷荷重部によって与えられる負荷の運動中に、被験者が排出する呼気を検出するためのガス分析装置と、該ガス分析装置で検出した呼気の情報に基づいて、被験者の脂質燃焼率が最大となる運動負荷を算出するための負荷演算部と、該負荷演算部で算出した運動負荷に基づいて、負荷荷重部の負荷を調整するための負荷制御部とを備えることを特徴とする。
【0014】
負荷演算部で算出された運動負荷を被験者に伝えるための報知手段をさらに備えることが好ましい。ガス分析装置は、呼気を導入するためのガス導入口を有するガス導入部を備えることが好ましい。
【0015】
ガス分析装置は、ガス導入部から供給される呼気を成分分離するためのマイクロカラムを有するガス分離部を備えることが好ましい。
【0016】
負荷演算部は、異なる2点の運動負荷を被験者に与えたときに、被験者が排出する呼気中のアセトン濃度の変化率に基づいて、被験者の脂質燃焼率が最大となる運動負荷を算出することが好ましい。
【0017】
異なる2点の運動負荷を被験者に与えたときに被験者が排出する呼気中のアセトン濃度の変化率が、運動負荷がないときに被験者が排出する呼気中のアセトン濃度に対する、設定した最初の運動負荷のときに被験者が排出する呼気中のアセトン濃度の変化率に0.002を加えた値を、最初に超えたときの運動負荷を最適運動負荷とすることが好ましい。
【0018】
本発明は、運動負荷の制御方法にも関わり、該運動負荷の制御方法は、被験者に与える負荷を段階的に増加させて、被験者に運動させるステップと、被験者の運動中に、被験者が排出する呼気をガス分析装置によって検出するステップと、該ガス分析装置で検出した呼気の情報に基づいて、被験者の脂質燃焼率が最大となる運動負荷を負荷演算部によって算出するステップと、該負荷演算部で算出した運動負荷に基づいて、負荷荷重部の負荷を負荷制御部によって調整するステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の運動負荷制御システムは、上記の構成を有することにより、体脂肪の燃焼効率が高い運動負荷を自動的に被験者に与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の運動負荷制御システムの動作を説明する図である。
【図2】(a)は、ガス分析装置の一例のある状態を示す模式図であり、(b)は、(a)のガス分析装置の別の一状態を示す模式図である。
【図3】ガス分析装置に対し、呼気を導入したときの抵抗変化の出力を示すグラフである。
【図4】各運動負荷を与えたときに、被験者が排出する呼気中のアセトン濃度を示したグラフである。
【図5】各運動負荷を与えたときの、被験者の脂質燃焼量を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。また、本願の図面において、長さ、幅、厚さ等の寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表してはいない。
【0022】
<運動負荷制御システム>
図1は、本発明の運動負荷制御システムを示す図である。本発明の運動負荷制御システムは、図1に示されるように、被験者に負荷を与えて被験者を運動させるための負荷荷重部と、該負荷荷重部によって与えられる負荷の運動中に、被験者が排出する呼気を検出するためのガス分析装置と、該ガス分析装置で検出した呼気の情報に基づいて、被験者の脂質燃焼率が最大となる運動負荷を算出するための負荷演算部と、該負荷演算部で算出した運動負荷に基づいて、負荷荷重部の負荷を調整するための負荷制御部とを備えることを特徴とする。
【0023】
本発明の運動負荷制御システムは、次のようにして用いられる。まず、負荷制御部によって、負荷荷重部の運動負荷を段階的に増加させて、徐々に被験者の運動負荷が重くなるように被験者に運動をさせる。各運動負荷のときに排出される被験者の呼気中をガス分析装置によって検出し、呼気中のアセトン濃度を算出する。このようにして運動負荷を変化させたときの呼気中のアセトン濃度の変化率を算出する。このアセトン濃度の変化率に基づいて、負荷演算部が被験者の脂肪が最も燃焼されやすい運動負荷を決定する。ここで決定した運動負荷を負荷荷重部から被験者に与えることにより、被験者の脂肪が効率よく燃焼するように被験者に運動をさせることができる。
【0024】
このようにして被験者に最適な運動負荷を課することにより、被験者は効率よく自己の体脂肪を燃焼させることができる。このような最適な運動負荷は、負荷演算部で算出された上で、負荷制御部で自動的に設定されて被験者に課せられる。このため、被験者は、刻々と変わる運動負荷の運動を消化するだけで、最適な運動負荷の運動を行なうことができる。
【0025】
図1に示される運動負荷制御システムは、被験者を運動させる運動機器であれば、特に限定されることなく、いかなるものにも導入することができ、たとえばルームランナー、サイクリングマシン、エアロバイク、エルゴメーター、トレッドミル等に搭載して用いることができる。
【0026】
<運動負荷の制御方法>
本発明は、運動負荷の制御方法に関し、該運動負荷の制御方法は、被験者に与える負荷を段階的に増加させて、被験者に運動させるステップと、該被験者の運動中に、被験者が排出する呼気をガス分析装置によって検出するステップと、該ガス分析装置で検出した呼気の情報に基づいて、被験者の脂質燃焼率が最大となる運動負荷を負荷演算部によって算出するステップと、該負荷演算部で算出した運動負荷に基づいて、負荷荷重部の負荷を負荷制御部によって調整するステップとを含むことを特徴とする。
【0027】
このような各ステップを用いて運動負荷を制御することにより、被験者の体脂肪が効率的に燃焼する運動負荷を把握した上で、その運動負荷を被験者に伝えることができ、もって脂肪燃焼効率が高い運動を被験者に課すことができる。以下において、本発明の運動負荷制御システムを構成する各部を説明する。
【0028】
<負荷荷重部>
本発明における負荷荷重部は、被験者に運動させるために被験者に負荷を与えるものである。負荷荷重部としては、被験者に与える運動負荷を調整し得るものであればいかなるものであってもよい。この負荷荷重部の運動負荷は、負荷制御部で制御される。負荷荷重部を例示すると、たとえばサイクリングマシンのペダルの荷重調整部、ランニングベルトのベルトの速度調整部等を挙げることができる。
【0029】
この負荷荷重部によって被験者に与える運動負荷は、後述する負荷制御部によって調整されるが、負荷荷重部が被験者に与えている運動負荷の情報は、負荷荷重部から負荷演算部に伝達される。
【0030】
<負荷演算部>
本発明において、負荷演算部は、被験者の脂肪燃焼率が最大となる運動負荷を算出するために設けられる部位である。被験者の脂肪燃焼率が最大となる運動負荷は、負荷荷重部における運動負荷と、その運動負荷を与えたときに被験者が排出するアセトン濃度とに基づいて算出される。
【0031】
上記の被験者の脂肪燃焼率は、異なる2点の運動負荷を被験者に与えたときに、被験者が排出する呼気中のアセトン濃度の変化率に基づいて算出される。より特定的に説明すると、異なる2点の運動負荷を被験者に与えたときに被験者が排出する呼気中のアセトン濃度の変化率が、運動負荷がないときに被験者が排出する呼気中のアセトン濃度に対する、設定した最初の運動負荷のときに被験者が排出する呼気中のアセトン濃度の変化率に0.002を加えた値を、最初に超えたときの運動負荷を最適な運動負荷として算出する。このように最適な運動負荷を算出することにより、各被験者のそのときの体調、食後からの経過時間等の体内環境を考慮されることになる。
【0032】
上記の負荷演算部は、最適な運動負荷を算出する機能を有するものであれば、いかなるものをも用いることができる。最適な運動負荷を算出するためには、少なくとも2点間の微分値を算出する機能と、該微分値の差を比較する機能を有している必要がある。このような負荷演算部としては、たとえばCPU等を挙げることができる。
【0033】
次に、エアロバイクを用いて被験者が運動する場合を例にとり、負荷演算部が、最大となる運動負荷を算出する方法を説明する。まず、エアロバイクの負荷荷重部の負荷を0Wから140Wまで1分ごとに20Wずつ段階的に運動負荷を自動的に変化させて被験者に運動をさせる。そして、20Wの運動負荷で1分間被験者を運動させたときの、呼気中のアセトン濃度をガス分析装置によって算出する。次に、運動負荷を40Wに増やして、同様に1分間被験者を運動させたときの呼気中のアセトン濃度を算出する。60W、80W等の運動負荷でも同様に各1分間被験者を運動させて、そのときの呼気中のアセトン濃度を算出する。なお、ガス分析装置の具体的構造は後述する。
【0034】
上記のように各運動負荷のときの呼気中のアセトン濃度を算出すると同時に、運動負荷を変化させたときの呼気中のアセトン濃度の変化率を算出する。すなわちたとえば、運動負荷が40Wのときの呼気中のアセトン濃度をC40とし、運動負荷が60Wのときの呼気中のアセトン濃度をC60とすると、アセトン濃度の変化率(単位:ppm/W)は、(C60−C40)/(60−40)と算出される。
【0035】
このアセトン濃度の変化率が、運動初期のアセトン濃度の変化率(すなわち運動負荷が20Wのときの呼気中のアセトンの排出量の変化率)に0.002ppm/Wを加えた値以上の値に初めてなったときに、脂肪燃焼効率が最も高くなる。このときの運動負荷が負荷演算部から負荷制御部に伝達される。なお、段階的に負荷を増加させて被験者が運動を継続したとしても、上記アセトン濃度の変化率を満たさず、最適な運動負荷を算出し得ない場合も理論上は考えられる。その場合には、運動負荷を0Wに戻し、そこから20Wずつ段階的に負荷を増加させながら運動する必要がある。
【0036】
上記においては、運動負荷を20Wずつ段階的に変化させる場合を説明したが、これのみに限られるものではなく、10W以上20W以下の範囲で段階的に変化することが好ましい。10W未満であると、呼気中のアセトン含有量の変化率が明確になりにくく、20Wを超えると、運動負荷の変化量が大きいため、被験者が連続して運動を行なっているときに被験者に過度の負担がかかる場合がある。
【0037】
<負荷制御部>
本発明において、負荷制御部は、負荷荷重部が被験者に与える運動負荷を制御するために設けられるものである。このような負荷制御部は、負荷演算部で算出された運動負荷を負荷荷重部に伝達し、被験者に与える運動負荷を調整する。このような負荷制御部は、負荷荷重部の運動負荷を調整することができるものであれば、いかなるものであってもよい。負荷制御部としては、たとえばCPU等を挙げることができる。
【0038】
上記の負荷制御部を用いて、上記の負荷演算部で算出された運動負荷を被験者に与えるように負荷荷重部を制御する。これにより被験者は体脂肪の燃焼に最も効率的な運動を自動的に行なうことができる。
【0039】
<報知手段>
本発明の運動負荷制御システムは、負荷演算部で算出された運動負荷を被験者に伝えるための報知手段をさらに備えることが好ましい。報知手段は、被験者に脂肪を効率的に燃焼する運動負荷を示すために設けられるものである。このような報知手段を設けることにより、運動負荷が変化するときを前もって被験者に通知することができる。これにより、被験者の運動負荷が急激に変化されることを抑制することができる。
【0040】
<ガス分析装置>
本発明に用いられるガス分析装置は、被験者が運動中に排出する呼気を分析するために設けられるものであり、特に、呼気中のアセトン濃度を算出するために設けられるものである。このようなガス分析装置の一例を図2を用いて以下に説明する。
【0041】
図2(a)は、ガス分析装置の一例のある状態を示す模式図であり、図2(b)は、(a)のガス分析装置の別の一状態を示す模式図である。本発明のガス分析装置は、図2(a)に示されるように、呼気を導入するためのガス導入口11を備えるガス導入部10と、ガス導入部10から供給される呼気を成分分離するためのマイクロカラム21を備えるガス分離部20と、該ガス分離部20により分離されたガス成分を検出するガス検出部30とを備える。そして、マイクロカラム21は、その内部流路22の壁面に固定相が修飾されており、当該固定相は、30℃での比誘電率が10以上の極性材料からなることが好ましい。
【0042】
このような極性材料からなる固定相をマイクロカラム21の内部流路22の壁面に設けることにより、呼気を成分分離することができ、もってガス分析装置の検出精度を高めることができる。以下においては、本発明のガス分析装置の動作の一例を図2(a)および図2(b)を参照して説明する。
【0043】
本発明のガス分析装置において、図2(a)に示される状態(以下においてこの状態のことを「第1状態」とも記す)では、呼気は、ガス採取部40の導入口から導入されて、ガス導入口11から第1流路12を通じてガス収容部19に供給される。そして、ガス収容部19から第2流路13、ガス排出口14を通じてガス採取部40に排出される。このような呼気の流速は、気流発生手段25により制御される。
【0044】
一方、第1状態において、キャリアガスを供給する第3流路15は、ガス分離部20のマイクロカラム21と接続されている第4流路16に直接接続される。そして、調圧手段17により流速を調整したキャリアガスが第3流路15から第4流路16を流れ、さらにガス分離部20のマイクロカラム21の順に流れる。
【0045】
次に、第1状態から流路切替機構18を用いて第1流路12、第2流路13、第3流路15、および第4流路16の接続先を切り替えることにより、図2(b)に示される第2状態とする。かかる第2状態では、図2(b)に示されるように、第3流路15とガス収容部19と第4流路16とを接続する。このように第1状態から第2状態に切り替えることにより、第1流路12から導入されたガス収容部19内の呼気が第3流路15から供給されるキャリアガスとともに、第4流路16を通じてガス分離部20のマイクロカラム21に供給される。
【0046】
ガス分離部20に供給された呼気は、マイクロカラム21の内部流路22の壁面の固定相と吸脱着が繰り返されるが、呼気の成分ごとに吸脱着のし易さが異なる。このため固定相によく吸着する成分ほど移動速度が遅くなり、固定相にあまり吸着しない成分ほど移動速度が早くなるというように、呼気を成分分離することができる。
【0047】
呼気がガス分離部20を通過することにより、成分分離された呼気の各ガス成分は順次、ガス検出部30に導入される。かかる各成分をガス検出部30のガスセンサ31により感知する。呼気がガス分析装置に導入されてから、ガスセンサ31がガス成分を感知するまでの時間を保持時間という。当該保持時間は呼気の成分により固有の値を示し、かかる保持時間に基づいて、ガス成分の同定が行なわれる。本発明のガス分析装置は、このようにして呼気のガス成分を検出する。以下において、本発明のガス分析装置を構成する各部をより詳細に説明する。
【0048】
(ガス導入部)
本発明において、ガス導入部10は、呼気の一部をガス分離部20に供給するために設けられるものである。このようなガス導入部10は、図2に示されるような構造のみに限られるものではなく、たとえばガス分離部20に呼気を供給する流路に切換口が備わっていることが好ましい。ガス導入部10は、該切換口を動作させることにより、ガス分離部に供給する呼気の流速を調整することができるものであれば、いかなる構造であってもよい。
【0049】
図2(a)に示されるガス導入部10は、ガス導入口11から呼気を導入するための第1流路12と、導入した呼気の一部をガス排出口14から排出するための第2流路13とを有するとともに、第1流路12と第2流路13とを接続し、かつ呼気を保持するためのガス収容部19をさらに備える。
【0050】
一方、ガス導入部10は、第1流路12および第2流路13とは別の流路として、キャリアガスを導入するための第3流路15と、ガス分離部20に呼気を供給するための第4流路16とを備える。ただし、図2(a)に示される第1状態においては、第3流路15と第4流路16とは、ガス収容部19を介することなく直接接続されている。このため、第3流路15に導入されるキャリアガスは、第4流路16を通じてガス分離部20に供給される。第1状態では、呼気がガス分離部20に供給されることはなく、第1流路12から導入された呼気は、ガス収容部19を通過して、その一部がガス収容部19に保持されるとともに、残部は第2流路13を通じてガス排出口14から排出される。
【0051】
(流路切替機構)
流路切替機構18は、ガス収容部19が第1流路12および第2流路13に接続されている第1状態から、ガス収容部19が第3流路15および第4流路16に接続されている第2状態に切り替えるためにガス導入部10に設けられるものである。流路切替機構18により、図2(a)に示される第1状態から図2(b)に示される第2状態に切り替えられる。第2状態では、上記の第1状態でガス収容部19に保持された呼気が、第3流路15から供給されるキャリアガスとともに第4流路16に流れ、該第4流路16からガス分離部20に供給される。
【0052】
そして、第2状態において、ある一定の時間が経過したとき、ガス収容部19に呼気がなくなったとき、またはガス分離部20に呼気が十分に供給されたとき、流路切替機構18により第2状態から第1状態に切り替える。第2状態から第1状態に切り替わると、第1流路12からガス収容部19に再び呼気が導入される。このように第1状態と第2状態とを交互に切り替えることにより、適切な流量の呼気を適切なタイミングでガス分離部20に導入することができる。
【0053】
なお、図2(b)に示される第2状態においては、第1流路12と第2流路13とはガス収容部19を介することなく、直接接続されている。このため、第2状態において第1流路12に導入される呼気は、第2流路13を通じてガス採取部40に排出される。
【0054】
(調圧手段)
第3流路15は、調圧手段17を備えることが好ましい。このような調圧手段17を備えることにより第3流路15を流れるキャリアガスの流速を制御することができる。このようにキャリアガスの流速を制御することにより、ガス分離部20に一定流量の呼気をキャリアガスとともに供給することができる。
【0055】
このような調圧手段17により制御される流速は、特に限定されずいかなる速度であってもよいが、10cm/sec以上100cm/sec以下であることが好ましい。ただし、内部流路の長さおよび断面積によって、その好ましい流速は異なり、たとえば内部流路の長さが10mで断面積が0.04mm2であるときには、上記の流速の数値範囲の中でも10cm/sec以上50cm/sec以下であることがより好ましく、さらに好ましくは10cm/sec以上30cm/sec以下である。また、内部流路の長さが17mで断面積が0.04mm2であるときには、40cm/sec以上90cm/sec以下であることがより好ましく、さらに好ましくは50cm/sec以上70cm/sec以下である。また、内部流路の長さが6mで断面積が0.58mm2であるときには5cm/sec以上50cm/sec以下であることが好ましく、さらに好ましくは10cm/sec以上30cm/sec以下である。断面積が0.04mm2の場合、流速が10cm/sec未満であると、呼気の成分を検出するまでに要する時間が長くなり、装置のスペック上好ましくない。流速が100cm/secを超えると、流速が早すぎることにより、後のガス分離部20で呼気を成分分離しにくい傾向がある。
【0056】
このような調圧手段17としては、気体の圧力を調整することができるものであればどのようなものを用いてもよく、たとえばコンプレッサー、バルブ、ポンプ、レギュレータ、ガスボンベ等を用いることができる。コンプレッサー、ポンプ等を用いる場合、加圧した空気を減圧弁にて調整した上でガス分離部20に呼気を供給することができる。なお、キャリアガスとしては、たとえばヘリウム等の不活性ガスあるいは空気等を用いることができる。
【0057】
(ガス採取部)
本発明のガス分析装置において、図2(a)に示されるように、ガス採取部40をガス導入口11およびガス排出口14に接続することが好ましい。このようにガス採取部40を接続することにより、呼気をガス導入口11に効率的に導入することができるとともに、呼気を収容するスペースを設けることができる。
【0058】
しかも、このようなガス採取部のスペースは、呼気が、ガス採取部40、第1流路12、ガス収容部19、および第2流路13を循環する循環経路としての役割もなす。
【0059】
ガス採取部40の導入口にはマウスピース、マスク等のように口をあて呼気を直接導入することができるようなものを有することが好ましい。このようにマウスピース、マスク等を有することにより、ガス採取部40に呼気を導入しやすい。
【0060】
そして、ガス採取部40は、呼気の入口および出口に逆止弁41を備えることが好ましい。このようにガス採取部40が逆止弁41を備えることにより、呼気の一部はガス採取部から排出されるが、その残部は、ガス採取部40、第1流路12、ガス収容部19、および第2流路13内に循環させることができる。
【0061】
なお、図2(a)および図2(b)においては、ガス採取部40を用いてガス導入部10に呼気を導入する場合を例示しているが、ガス導入部10に呼気を導入する方法は、ガス採取部40のみに限られるものではなく、ガス導入口11にバッグを直接接続してガス導入部10に呼気を導入してもよい。
【0062】
(気流発生手段)
ガス導入口11またはガス排出口14のいずれか一方もしくは両方に気流発生手段25を設けることが好ましい。このように気流発生手段25を備えることにより、ガス採取部40、第1流路12、ガス収容部19、および第2流路13を呼気が循環するようにすることができるとともに、これを流れる呼気の流速を制御することができる。なお、気流発生手段25により制御される呼気の流速は、特に限定されずいかなる速度であってもよいが、1mL/min以上10mL/min以下であることが好ましい。
【0063】
(ガス分離部)
本発明において、ガス分離部20は、ガス導入部10から導入された呼気に含まれる各種ガス成分を成分分離するために設けられるものであり、具体的には、ガス分離部20に備えられるマイクロカラム21により呼気の成分分離を行なうことを特徴とする。マイクロカラム21を用いることにより、ガス分析装置の小型化および軽量化を達成することができる。
【0064】
ここで、「マイクロカラム」とは、マイクロオーダーの幅および深さを有する微細な流路を備えるチップ状のクロマトグラフィカラムを意味するものである。このようなマイクロカラムの外形は、特に限定されるものではなく、たとえばSiウェハー等の基板を用いて、その外形が縦横数mm〜数十cmで、その厚みを数mm〜数cm程度とすることができる。
【0065】
なお、検出ガスの「成分分離」とは、呼気を構成する全ての成分を各成分ごとに分離する場合はもちろん、呼気を構成する成分のうちのいずれか1の成分を、他の少なくとも1の成分から分離する場合も含まれるものとする。すなわち、呼気が3以上の成分を含む場合、3以上の成分のうちの少なくとも1の成分が他の2以上の成分から分離されている限り、呼気の成分分離の効果を得ることができる。
【0066】
ガス分離部20には、マイクロカラム以外のクロマトグラフィカラムとして、固定相をコーティングした担体を充填したパックドカラム、内壁に固定相が塗布されたキャピラリーカラム等を用いることも考えられるが、これらのクロマトグラフィカラムは、温度を制御するために大きな恒温槽を備える必要があり、ガス分析装置自体が大型化することになりかねず、所期の目的に反することになるため好ましくない。
【0067】
本発明において、マイクロカラム21は、その内部流路22の壁面に固定相が修飾されており、該固定相は、30℃での比誘電率が10以上の極性材料からなることが好ましい。このような10以上の比誘電率を有する極性材料は、強極性であることにより、特に水のような極性物質の流速を著しく遅らせることができ、もって呼気を成分分離することができる。
【0068】
このような10以上の比誘電率を有する極性材料としては、たとえば平均分子量が1000以下のポリエチレングリコールの他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等を挙げることができる。なお、固定相を構成する材料の比誘電率は、誘電率測定装置を用いて算出された値を採用するものとする。
【0069】
固定相が有する極性が強いほど、呼気の各成分ごとの極性差がマイクロカラム中を流れる呼気の流速に差をもたらし、呼気を成分分離しやすいものと考えられる。そして、固定相の極性が強いほど、その材料の比誘電率が高くなる傾向がある。このような比誘電率と極性との関係によると、固定相を構成する材料は11以上の比誘電率を有することがより好ましく、さらに好ましくは13以上の比誘電率を有することである。固定相を構成する材料の比誘電率が10未満であると、呼気を成分分離することができないため好ましくない。
【0070】
ここで、呼気の各成分を分離するのに有効な固定相の材料としては、200以上1000以下の平均分子量を有するポリエチレングリコール(以下においては「PEG」とも記す)を用いることがより好ましい。PEGは、その平均分子量が多いほど粘度が上昇するとともに、その極性が小さくなる傾向にあり、平均分子量が小さいほど粘度が低下するとともに、その極性が強くなる傾向がある。このため、PEGの粘度と極性とのバランスの観点からは、30℃での比誘電率が13.7である平均分子量が600程度のPEG(PEG600)を用いることがさらに好ましい。
【0071】
ポリエチレングリコールの平均分子量が200未満であると、その粘度が低いことによりマイクロカラムの内部流路22の壁面に保持されにくく、ポリエチレングリコールの平均分子量が1000を超えると、十分な極性を有しないことから、呼気の分離能が低下する傾向がある。
【0072】
ここで、固定相の厚みは、マイクロカラムの内部流路の壁面に固定相を修飾したマイクロカラムの断面を、マイクロスコープを用いて観察したときの画像に基づいて直接測定することにより算出されたものを採用する。
【0073】
また、マイクロカラムの内部流路の幅および深さ(高さ)はそれぞれ、たとえば100〜300μm程度とすることができる。マイクロカラムの内部流路の幅および深さは、目的成分の種類やマイクロカラムに導入される呼気の流量などを考慮して決定されることが好ましい。
【0074】
また、内部流路22は、その長さが3m以上20m以下であることが好ましい。内部流路22の長さが3m未満であると、呼気の成分分離を十分に行なうことができず、内部流路22の長さが20mを超えると、測定に要する時間が長時間となるため好ましくない。
【0075】
(ガス検出部)
ガス検出部30は、ガス分離部20で分離されたガス成分を順次検出するための部位であり、ガスセンサ31を用いることが好ましい。本発明において、ガス検出部30は、化学物質を検出するためのガスセンサ31を有する。かかるガスセンサ31としては、半導体センサ、電気化学式ガスセンサ、QCM、FID、赤外線センサ等を用いることができる。これらのセンサの中でも、安価で入手しやすいという観点から、半導体センサを用いることが好ましい。
【0076】
本発明において、ガスセンサ31は、ガス分離部20により分離されたガス成分の出口の近傍に設置することが好ましい。このようにガス成分の出口の近傍にガスセンサ31を設置することにより、目的成分の検出感度を高めることができる。ここで、「ガス成分の出口近傍」とは、ガス成分の出口から0.5mm以上3.0mm以下の範囲にガスセンサ31が位置することを意味する。
【0077】
ガス分離部20とガス検出部30とは、キャピラリーガラスチューブを用いて接続するが、キャピラリーガラスチューブの管径が小さい。このため、キャピラリーガラスチューブのガス成分の出口とガスセンサ31とが離れていると、ガスセンサ31が呼気を感知しにくい傾向にあるため好ましくない。
【0078】
ガスセンサ31は、導線等を介してデジタルマルチメータなどの信号受信機構(図示せず)に接続されることが好ましい。このような信号受信機構は、ガスセンサ31がガス成分を検出すると、ガスセンサ31の定抵抗の電圧値の変化を信号変化として受信するものである必要がある。
【0079】
さらに、信号受信機構はコンピュータに接続されていることが好ましい。ここでのコンピュータとは、信号受信機構が検出した信号データの蓄積し、該信号データをクロマトグラムに変換し、かつその変換したデータの表示を行なうもののことをいう。なお、コンピュータが流路切替機構の機能を有しており、第1状態と第2状態とを切り替える制御を行なってもよい。
【0080】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0081】
(実施例1)
本実施例の運動負荷制御システムに用いられるガス分析装置の作製手順とその性能を説明する。
【0082】
(ガス分析装置の作製方法)
以下の手順により、図2(a)および図2(b)に示されるガス分析装置を作製した。まず、ガス分離部20として、幅が200μmであって深さが200μmの内部流路22を200μmの間隔で蛇行状に形成したものを作製した。
【0083】
具体的には、4インチのシリコンウェハに対し、幅が200μmであって、深さが200μmの蛇行状の溝を200μmの間隔で、フォトリソグラフィ加工をした後にブラスト加工を行なうことにより形成した。そして、シリコン基板の溝を形成した側に対し、6インチ四方のガラス板を陽極接合を用いて密着させた。その後、ダイシングすることにより、9cm四方のマイクロカラムを作製した。
【0084】
このようにして形成された内部流路22の全長は16mであった。このガス分離部20の内部流路22の導入口および排出口に、外径が0.35mmであり、内径が0.25mmであって、その内径の表面が未修飾キャピラリーガラスを取り付けた。
【0085】
一方、平均分子量が600であって、30℃での比誘電率が13.74のポリエチレングリコール(PEG600:ジーエルサイエンス株式会社製)をアセトンに溶解させた1.0%アセトン溶液を準備した。かかる1.0%アセトン溶液をガス分離部20のマイクロカラムの導入口から導入し、内部流路内にアセトン溶液を充填した。
【0086】
そして、ホットプレートを用いてガス分離部20を80℃に昇温した後に10分間保持することにより、内部流路22内のアセトンをほとんど蒸発させた。このようにしてアセトンをほぼ蒸発した後に、溶媒トラップを有するダイヤフラム型ドライ真空ポンプDA−15D(アルバック機工株式会社製)を内部流路22の導入口側に接続した。
【0087】
この真空ポンプを数十分間稼動させて、内部流路22内の溶媒を完全に除去することにより、マイクロカラムの内部流路22の壁面に、PEG600からなる固定相を備えるガス分離部20を形成した。このようにして作製したガス分離部20の断面をマイクロスコープで観察し、その固定相の厚みを実測したところ、固定相の厚みは1.0μmであった。このようにして作製されたマイクロカラムをガス分離部20として用いた。
【0088】
次に、ガス導入部10としては、ガスクロマトグラフ用手動ガスサンプラー(ジーエルサイエンス株式会社製)を用いた。ここで、ガスクロマトグラフ用手動ガスサンプラー(以下、「ガスサンプラー」とも記する)は、呼気を導入するための第1流路12と、導入した呼気の一部をガス排出口から排出するための第2流路13と、キャリアガスを導入するための第3流路15と、ガス分離部20に呼気を供給するための第4流路16と、呼気を保持するためのガス収容部19とを有するものである。なお、クロマトグラフ用のガスサンプラーは自動でもよい。
【0089】
一方、ガスサンプラーの第4流路16とガス分離部20とを1/16×0.25 レデューシングユニオンを用いて接続した。これによりガスサンプラーの第3流路15から導入されたキャリアガスを、第4流路16を通じてガス分離部20のマイクロカラム21に導入した。
【0090】
次に、ガス分離部20のマイクロカラム21に対し、キャピラリーチューブの一端を挿入することにより接続した。一方、キャピラリーチューブの他端を、ガス検出部30のガスセンサ31の近傍、すなわちキャピラリーチューブの他端とガスセンサ31とが1.5mmとなるように接続することにより、ガス検出部30を作製した。このようにしてガス分析装置を作製した。
【0091】
<呼気中のアセトン濃度の検出>
体重65kgの男性を被験者とし、その男性が30分間ウォーキングを行なったときに排出される呼気中のアセトン濃度を検出した。その手順を以下に説明する。
【0092】
まず、ニードルバルブによりマイクロカラムに導入するキャリアガス(空気)の圧力を、0.26MPaに調節した。そして、上記で作製したガス分析装置に対し、マウスピースを用いてガス採取部40に呼気を導入した。そして、ガス採取部40内を呼気が循環し始めてから1分後に第1状態から第2状態に切り替えた。そして、第2状態を2秒間保持した後に第1状態に切り替えるという動作を行なった。このようにして、マイクロカラムに呼気50μlを導入した。
【0093】
図3は、ガス分析装置に対し、呼気を導入したときの抵抗変化の出力を示すグラフである。図3のグラフによると、1分48秒の時点で抵抗変化のピークが示されており、その抵抗比は0.86であった。このことから50μlの呼気中には、0.8ppmのアセトンが含まれていることが示される。この結果から、上記で作製されたガス分析装置は、呼気中のアセトン濃度を検出できることが明らかとなった。
【0094】
<運動負荷制御システムの動作>
本実施例では、本発明の運動負荷制御システムを搭載したサイクリングマシンを作製した。このサイクリングマシンの運動負荷制御システムには、上記で作製したガス分析装置を用いた。サイクリングマシンのペダルの重さの増減により運動負荷を調整されるため、サイクリングマシンのペダルが負荷荷重部に相当する。
【0095】
このサイクリングマシンは、ペダルの重さを制御する負荷制御部を有し、該負荷制御部は、負荷荷重部の運動負荷を0W以上250W以下に制御できるものを用いた。被験者はサイクリングマシンのペダルをこぎ続けて運動し、その運動時に排出する呼気を上記のガス分析装置に導入した。
【0096】
このとき、ガス分析装置により呼気中のアセトン濃度を算出し、その算出結果を負荷荷重部による運動負荷の情報とともに負荷演算部に伝達した。ここでの負荷演算部として、パーソナルコンピュータを用いた。
【0097】
負荷演算部は、被験者にかかる運動負荷の情報と、その運動負荷で運動する被験者が排出する呼気中のアセトン濃度の情報とに基づいて、被験者の脂肪燃焼率が最大となる運動負荷を算出する。ここで算出された最適な運動負荷を負荷制御部に伝達し、負荷制御部が負荷荷重部に脂肪燃焼率が最大となる運動負荷を伝達する。このような運動負荷制御システムをサイクリングマシンに組み込んだものを準備した。
【0098】
<運動負荷制御システムの性能評価>
上記のようにして準備したサイクリングマシンを用いて、被験者の体脂肪の燃焼効率が高い運動負荷に自動で制御できるかを検討した。被験者がサイクリングマシンのペダルをこぎ始めてから、サイクリングマシンのペダルの運動負荷を20W、30W、および40Wから145Wまで15W間隔でそれぞれ1分ずつ変更した。各運動負荷のときに排出される呼気をガス分析装置によって分析し、呼気中のアセトン濃度を算出した。その結果を以下の表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
図4は、各運動負荷のときに被験者が排出する呼気中のアセトン濃度を示したグラフである。横軸は、被験者に与える運動負荷を示し、縦軸は、呼気中のアセトン濃度を示す。表1および図4の結果から、0〜20Wで運動負荷を変化させたときのアセトン濃度の変化率は、0.0021であり、その変化率に0.002を加えた値は0.0041である。
【0101】
そして、アセトン濃度の変化率が0.0041を超えるのは、表1に示されるように、サイクリングマシンの運動負荷を55Wにしたときである(この運動負荷のことを最適負荷とも記す)。よって、運動負荷を55Wにしたときに、体脂肪の燃焼効率が最も高いことが負荷演算部によって導き出された。
【0102】
この最適負荷の情報が負荷演算部から自動的に負荷制御部に伝わり、負荷制御部がサイクリングマシンのペダルを最適負荷に設定した。このようにして自動的にサイクリングペダルが最適負荷に設定されることにより、被験者は最適負荷で運動することができた。このように最適負荷で運動したときの脂質燃焼量は以下の通りであった。
【0103】
最適負荷(55Wの運動負荷)をサイクリングマシンのペダルにかけて、CO2濃度、O2濃度、および換気量を測定することにより、70分間運動したときの脂質燃焼量を求めた。その結果、70分間の運動により、被験者の脂質が約30g燃焼していることがわかった。
【0104】
また、脂肪燃焼率が最大となる運動負荷に基づいて、最大脂肪燃焼時の酸素消費量(以下において「VO2max」とも記す)を算出した。ここで、VO2maxとは、1分間に体重1kgあたりに取り込む酸素の体積量を意味し、単位はml/kg・分で表される。このVO2maxのときの運動負荷に対し、約10%運動負荷が大きいときの運動負荷(74Wの場合)、約15%運動負荷が大きいときの運動負荷(83Wの場合)、約10%運動負荷が小さいときの運動負荷(40Wの場合)をそれぞれ上記の55Wの運動負荷と同様の方法により測定した。その結果を図5に示す。
【0105】
図5に示されるように、最適な運動負荷で運動したときの脂質燃焼量は、最適な運動負荷から外れた運動負荷で運動したときの脂質燃焼量に比して顕著に高いことが明らかである。このことから、本発明の運動負荷制御システムは、最適な運動負荷を算出するとともに、それを自動的に被験者に課することにより、被験者の体脂肪が燃焼しやすいように運動することができることが明らかとなった。
【0106】
(実施例2)
本実施例では、上記の実施例1の運動負荷制御システムに対し、報知手段として液晶ディスプレイを用いたことが異なる他は、実施例1と同様の構造のサイクリングマシンとした。ここで、液晶ディスプレイは、負荷演算部で算出した運動負荷を被験者に伝達するために設けられるものであり、負荷演算部が最適の運動負荷を算出したときに、その運動負荷を液晶ディスプレイに表示した。
【0107】
このように被験者の体脂肪が最も燃焼しやすい運動負荷を液晶ディスプレイに表示することにより、被験者が運動中に運動負荷を把握することができた。このため、急に運動負荷が変わって被験者が動揺することなく、運動し続けることができた。しかも、最適な運動負荷を課された運動を終えたときの、被験者の脂質燃焼量を表示した。これにより被験者が運動した後に、その運動の成果を目視で確認できた。
【0108】
本発明において上記で好適な実施形態を説明した運動負荷制御システムは、上記に限定されるものではなく、上記以外の構成とすることもできる。
【0109】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0110】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0111】
10 ガス導入部、11 ガス導入口、12 第1流路、13 第2流路、14 ガス排出口、15 第3流路、16 第4流路、17 調圧手段、18 流路切替機構、19 ガス収容部、20 ガス分離部、21 マイクロカラム、22 内部流路、25 気流発生手段、30 ガス検出部、31 ガスセンサ、40 ガス採取部、41 逆止弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に負荷を与えて前記被験者を運動させるための負荷荷重部と、
前記負荷荷重部によって与えられる負荷の運動中に、前記被験者が排出する呼気を検出するためのガス分析装置と、
前記ガス分析装置で検出した呼気の情報に基づいて、前記被験者の脂質燃焼率が最大となる運動負荷を算出するための負荷演算部と、
前記負荷演算部で算出した運動負荷に基づいて、前記負荷荷重部の負荷を調整するための負荷制御部とを備える、運動負荷制御システム。
【請求項2】
前記負荷演算部で算出された運動負荷を前記被験者に伝えるための報知手段をさらに備える、請求項1に記載の運動負荷制御システム。
【請求項3】
前記ガス分析装置は、呼気を導入するためのガス導入口を有するガス導入部を備える、請求項1または2に記載の運動負荷制御システム。
【請求項4】
前記ガス分析装置は、前記ガス導入部から供給される呼気を成分分離するためのマイクロカラムを有するガス分離部を備える、請求項1〜3のいずれかに記載の運動負荷制御システム。
【請求項5】
前記負荷演算部は、異なる2点の運動負荷を被験者に与えたときに、被験者が排出する呼気中のアセトン濃度の変化率に基づいて、前記被験者の脂質燃焼率が最大となる運動負荷を算出する、請求項1〜4のいずれかに記載の運動負荷制御システム。
【請求項6】
前記異なる2点の運動負荷を被験者に与えたときに被験者が排出する呼気中のアセトン濃度の変化率が、前記運動負荷がないときに前記被験者が排出する呼気中のアセトン濃度に対する、設定した最初の運動負荷のときに前記被験者が排出する呼気中のアセトン濃度の変化率に0.002を加えた値を、最初に超えたときの運動負荷を最適運動負荷とする、請求項5に記載の運動負荷制御システム。
【請求項7】
被験者に与える負荷を段階的に増加させて、前記被験者に運動させるステップと、
前記被験者の運動中に、前記被験者が排出する呼気をガス分析装置によって検出するステップと、
前記ガス分析装置で検出した呼気の情報に基づいて、前記被験者の脂質燃焼率が最大となる運動負荷を負荷演算部によって算出するステップと、
前記負荷演算部で算出した運動負荷に基づいて、前記負荷荷重部の負荷を負荷制御部によって調整するステップとを含む、運動負荷の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−11133(P2012−11133A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153243(P2010−153243)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】