説明

運行記録装置、そのデータ読出方法及び記録媒体

【課題】運行データの取り残しを防止することができる運行記録装置を提供する。
【解決手段】運転手用記録媒体31aが挿入され、デジタルタコグラフ10に接続され、運転手情報が登録されると、運行データの記録が開始する。この後、停車し、再び同じ運転手用記録媒体31aが挿入されると、デジタルタコグラフ10は、運転手情報が登録されてから停車するまでの、直前の運行データを運転手用記録媒体31aに吐き出す(S10)。また、管理者用記録媒体31bが挿入されると、デジタルタコグラフ10は、直前の運行データを管理者用記録媒体31bに吐き出す(S12)。また、バックアップ用記録媒体31cが挿入されると、デジタルタコグラフ10は、バックアップメモリ13bに記録されている運行データを全てバックアップ用記録媒体31cに吐き出す(S14)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運行データを記憶装置に記録する運行記録装置、そのデータ読出方法及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載され、車両の走行速度、走行時間、走行距離等の運行データを記録するデジタルタコグラフが知られている。このデジタルタコグラフにICメモリカード等の記録媒体を挿入し、記録された運行データを吸い上げることが可能である。吸い上げられた運行データは、事務所側のデータ処理装置によって読み取られ、解析ソフトにより運行データの解析が行われる。
【0003】
図9は従来の運行データの記録および記録媒体への書込手順を示すフローチャートである。デジタルタコグラフは、イグニッションキー(IGN)がONになるまで待ち(ステップS101)、IGNがONになると、ICメモリカード(記録媒体)が挿入されるまで待つ(ステップS102)。
【0004】
記録媒体が挿入されると、デジタルタコグラフは、記録媒体に運転手情報があるか否かを判別する(ステップS103)。運転手情報がない場合、デジタルタコグラフは、エラーを発生し(ステップS112)、本処理を終える。
【0005】
一方、運転手情報があると、デジタルタコグラフは、運転手情報をメモリ(SRAM)に登録し、記録媒体を取り出し可能にする(ステップS104)。この後、デジタルタコグラフは、走行速度やエンジン回転数等の運行データのメモリ(SRAM)への記録を開始する(ステップS105)。
【0006】
デジタルタコグラフは、メモリ(SRAM)のワークエリアのデータ容量が一杯になったか否かを判別する(ステップS106)。一杯になっていない場合、デジタルタコグラフは、ステップS105の処理に戻る。一方、一杯になった場合、デジタルタコグラフは、メモリ(SRAM)に記憶された運行データをバックアップメモリ(FROM)に移動させる(ステップS107)。
【0007】
デジタルタコグラフは、停車(停止)中であるか否かを判別し(ステップS108)、停車中でない場合、ステップS105の処理に戻る。一方、停車中になった場合、デジタルタコグラフは、前述した記録媒体が再び挿入されたか否かを判別する(ステップS109)。挿入されない場合、デジタルタコグラフは、ステップS105の処理に戻る。一方、記録媒体が挿入された場合、デジタルタコグラフは、運転手情報が登録されて(タイミングaの時点)から、停車する(タイミングbの時点)までの運行データを記録媒体に書き込む(吐き出す)(ステップS110)。この後、デジタルタコグラフは、記録媒体を取り出し可能にし(ステップ111)、記録媒体が取り出されると、ステップS102の処理に戻る。
【0008】
このように、従来のデジタルタコグラフでは、運転手情報が登録されてから停車後にこの運転手情報が記録された記録媒体が挿入されるまでの、直前の運行データだけを記録媒体に吸い上げることが可能である。これにより、吸い上げ時間の短縮化が図られる。
【0009】
また、従来の運行記録装置として、車両の1回の運行ごとに収集した運行データを記録媒体に記録する車載装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平09−81816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来の運行記録装置では、つぎのような問題があり、その改善が要望された。すなわち、従来のデジタルタコグラフでは、走行終了後に運行データを吸い上げるための記録媒体は、運転手用の1種類のみであった。このため、場合によっては、運行データの取り残しが発生してしまうおそれがあった。
【0012】
例えば、同じ車を運転する運転者が2名いる場合を想定する。運転手が交代する時に、最初に運転していた運転手Aが運行データの吸い上げを行わなかった場合、次に運転する運転手Bは自分の運行データしか吸い上げることができないので、運転手Aの運行データが残されたままとなってしまう。
【0013】
また、車両が帰庫したとき、その車両に乗車していた乗務員が書き込みボタンを押下しなかったために、乗務員カードにその乗車による運行データが記録されず、その車両に乗車する次の乗務員の乗務員カードにその運行データが記録されずに残されることがある。
【0014】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、運行データの取り残しを防止することができる運行記録装置、そのデータ読出方法及び記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述した目的を達成するために、本発明に係る運行記録装置は、下記(1)〜(8)を特徴としている。
(1) 運行データを記憶装置に記録する運行記録装置であって、
記録媒体が前記運行記録装置に接続されたことを検知する接続検知手段と、
前記接続検知手段によって接続が検知された記録媒体の識別情報を認識する認識手段と、
前記認識手段によって認識された記録媒体の識別情報に対応する読み取り範囲で、前記記憶装置に記憶された運行データを読み出し、前記読み出された運行データを当該記録媒体に書き込む書込手段とを備えたこと。
(2) 上記(1)の構成の運行記録装置であって、
前記認識手段によって認識された前記記録媒体の識別情報が運転手情報である場合、当該運転手情報を登録する登録手段を備え、
前記登録手段によって運転手情報が登録されてから当該運転手情報による運行が終了するまでの運行データを前記記憶装置に運行順に記録すること。
(3) 上記(2)の構成の運行記録装置であって、
前記認識手段によって認識された運転手情報が予め設定された運転手情報に一致するか否かを判別する判別手段を備え、
前記判別手段によって前記運転手情報が予め設定された運転手情報に一致すると判別された場合、前記登録手段は、前記認識手段によって認識された運転手情報を登録すること。
(4) 上記(1)〜(3)のいずれか一つの構成の運行記録装置であって、
前記認識手段によって認識された前記記録媒体の識別情報が運転手情報である場合、前記書込手段は、前記記憶装置に記録された、当該運転手情報の直前の運行データを前記記録媒体に書き込むこと。
(5) 上記(1)の構成の運行記録装置であって、
前記認識手段によって認識された前記記録媒体の識別情報が管理者情報である場合、前記書込手段は、前記記憶装置に記録された直前の運行データを前記記録媒体に書き込むこと。
(6) 上記(1)の構成の運行記録装置であって、
前記認識手段によって認識された前記記録媒体の識別情報がバックアップ情報である場合、前記書込手段は、前記記憶装置に記録された全ての運行データを前記記録媒体に書き込むこと。
(7) 上記(1)の構成の運行記録装置であって、
前記認識手段は、前記記録媒体に記憶された前記識別情報を読み取ることにより、当該識別情報を認識すること。
(8) 上記(1)の構成の運行記録装置であって、
種類の異なる前記記録媒体がそれぞれ接続される複数の接続部を有し、
前記認識手段は、前記接続部に接続された前記記録媒体の種類をもとに、当該記録媒体の識別情報を認識すること。
【0016】
上記(1)の構成の運行記録装置によれば、識別情報に対応する読み取り範囲で運行データを読み出すので、必要に応じた運行データを取り出すことができ、運行データの取り残しを防止することができる。また、運行データの読み出し方を多様化することができる。
上記(2)の構成の運行記録装置によれば、運転手ごとの運行データを記録することができる。また、運転手情報が登録されてから運行を終了するまでの運行データの管理が容易となる。
上記(3)の構成の運行記録装置によれば、識別情報が運転手情報である場合、予め設定された運転手以外の者による運行データの読み出しを防止することができ、セキュリティが向上する。
上記(4)の構成の運行記録装置によれば、直前の運行データだけが記録媒体に書き込まれるので、運行データの読み出し時間を短縮することができる。
上記(5)の構成の運行記録装置によれば、運転手によることなく管理者によっても運行データを読み出すことができ、運行データの取り残しを防止することができる。
上記(6)の構成の運行記録装置によれば、運行データの取り残しを確実に防止することができる。
上記(7)の構成の運行記録装置によれば、識別情報の認識が容易となる。
上記(8)の構成の運行記録装置によれば、記録媒体の種類から識別情報を認識することが可能となる。
【0017】
前述した目的を達成するために、本発明に係る運行記録装置のデータ読出方法は、下記(9)を特徴としている。
(9) 運行データを記憶装置に記録する運行記録装置のデータ読出方法であって、
記録媒体が前記運行記録装置に接続されたことを検知する接続検知ステップと、
前記接続検知ステップで接続が検知された記録媒体の識別情報を認識する認識ステップと、
前記認識ステップで認識された記録媒体の識別情報に対応する読み取り範囲で、前記記憶装置に記憶された運行データを読み出し、前記読み出された運行データを当該記録媒体に書き込む書込ステップとを有すること。
【0018】
上記(9)の構成の運行記録装置のデータ読出方法によれば、必要に応じた運行データを取り出すことができ、運行データの取り残しを防止することができる。また、運行データの読み出し方を多様化することができる。
【0019】
前述した目的を達成するために、本発明に係る記録媒体は、下記(10)を特徴としている。
(10) 運行データを記憶装置に記録する運行記録装置に接続可能な記録媒体であって、
前記運行記録装置によって認識される識別情報を記憶する記憶部を有し、前記運行記録装置によって認識された識別情報に対応する読み取り範囲で、前記記憶装置に記録された運行データが書き込まれること。
【0020】
上記(10)の構成の記録媒体によれば、必要に応じた運行データを取り出すことができ、運行データの取り残しを防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の運行記録装置、そのデータ読出方法及び記録媒体によれば、識別情報に対応する読み取り範囲で運行データを読み出すので、必要に応じた運行データを取り出すことができ、運行データの取り残しを防止することができる。また、運行データの読み出し方を多様化することができる。
【0022】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態におけるデジタルタコグラフ10の構成を示すブロック図である。
【図2】デジタルタコグラフ10の外観および車両30に搭載された各機器の配置を示す図であって、図2(A)はデジタルタコグラフ10の外観を示す概略図であり、図2(B)は車両30に搭載された各機器の配置を示す概略図である。
【図3】デジタルタコグラフ10に接続される記録媒体31およびこの記録媒体31から運行データが読み出されるデータ処理装置50を示す図であって、図3(A)〜図3(C)は記録媒体31を示す図であり、図3(D)はデータ処理装置50を示す図である。
【図4】データ記録部13に運行順に記録された運行データの内容を示す図である。
【図5】運行データの記録および記録媒体31への書込手順を示すフローチャートである。
【図6】運行データの吸い上げ動作を具体的に示す図であって、図6(A)〜図6(C)は、その動作の一工程を示す図である。
【図7】予め決められた運行データの吸い上げ動作の手順が遵守されていない場合の運行データの吸い上げ動作を示す図であって、図7(A)は次の運転手が登録した後に前の運転手が運行データを吸い上げる動作を示す図であり、図7(B)は次の運転手が登録を行わなかった場合の運行データの吸い上げ動作を示す図である。
【図8】図5のフローチャートの変更部分を示す図である。
【図9】従来の運行データの記録および記録媒体への書込手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態における運行記録装置、そのデータ読出方法及び記録媒体について図面を参照しながら説明する。本実施形態の運行記録装置は、車両に搭載され、車両の運行データを記録するデジタルタコグラフに適用される。
【0025】
図1は実施形態におけるデジタルタコグラフ10の構成を示すブロック図である。デジタルタコグラフ10は、CPU11、このCPU11に接続されるデータ処理部12、データ記録部13、LCD14、ブザー15、プリンタ16、記録媒体コネクタ17、電源部18、操作部22、RTC23、速度インタフェース(I/F)19、エンジンI/F20および受信I/F21を有する。
【0026】
CPU11は、デジタルタコグラフ全体を制御するものであり、ROM、RAMなどを内蔵し、このROMに格納された動作プログラムを実行する。
【0027】
データ処理部12は、車速センサ32によって検知された速度パルス信号や、エンジン回転数センサ33によって検知されたエンジン回転パルス信号などをもとに、車速、エンジン回転数、走行距離などの各種データを処理する。
【0028】
データ記録部13は、運行データが記録されるワークエリアとして使用されるデータメモリ(SRAM)13a、このデータメモリ13aのデータ容量が一杯になった場合、データメモリ13aに記録された運行データが移動され、バックアップとして使用されるバックアップメモリ13b、および予め運転手情報が設定されたテーブルメモリ13cを有する。バックアップメモリ13bはデータメモリ13aに比べて大きなデータ容量を有する。また、データ記録部13には、位置情報、走行距離、車速、エンジン回転数、運行時刻、バッテリ電圧などの運行データが記録される。なお、データメモリ13a、バックアップメモリ13b、テーブルメモリ13cのメディアの種類が異なってよいことは勿論である。例えば、データメモリ13aはRAMであり、テーブルメモリ13cはROMであり、バックアップメモリ13bはハードディスクドライブであってもよい。本実施形態では、データメモリ13aにスタティックRAM(SRAM)が用いられ、バックアップメモリ13bにフラッシュメモリ(FROM)が用いられる。
【0029】
LCD14は、走行状態、時刻、緊急時のメッセージなど各種の情報を表示する。ブザー15は、危険な走行状態、不経済な走行、異常状態などの音声ガイダンスを乗務員(運転手)に警報として発する。プリンタ16は、運行データなどを印刷する。
【0030】
記録媒体コネクタ17には、記録媒体31が接続自在である。記録媒体として、ICメモリカードやUSB(Universal Serial Bus)メモリ等を用いることが可能である。
【0031】
速度I/F19には、車速センサ32が接続され、車速センサ32で発生した速度パルス信号が入力される。車速センサ32は、ロータリーエンコーダからなり、走行距離演算用のパルス信号として、後輪(駆動輪)のトランスミッション回転数に応じた数のパルス信号を発生し、速度パルス信号として出力する。
【0032】
エンジンI/F20には、エンジン回転数センサ33が接続され、エンジン回転数センサ33で発生したエンジン回転パルス信号が入力される。エンジン回転数センサには、エンジンのカムシャフト回転を機械的に検知してパルス信号を発生するものや、スパークプラグへの印加電圧を電気的に検知してパルス信号を発生するものがある。
【0033】
受信I/F21には、GPS受信器37が接続される。GPS(Global Positioning System)受信器37は、車両に取り付けられ、複数のGPS衛星からの電波を受信し、車両の現在位置の座標(GPS座標)を表す信号を出力する。
【0034】
電源部18は、イグニッションスイッチ(IGN)35のオンによってバッテリ36から通電され、デジタルタコグラフ10の各部に必要な電源電圧を供給する。また、電源部18は、バッテリ36のバッテリ電圧を検知する。操作部22には、乗務員が操作可能な各種ボタンが設けられている。RTC(Real Time Clock)23は時計ICからなり、現在時刻を計時する。
【0035】
図2(A)、図2(B)はデジタルタコグラフ10の外観および車両30に搭載された各機器の配置を示す図である。図2(A)に示すように、デジタルタコグラフ10の前面には、LCD14、プリンタ16、記録媒体31が接続される記録媒体コネクタ17、および各種の操作ボタンからなる操作部22が設けられている。また、図2(B)には、車両30に搭載された、デジタルタコグラフ10、車速センサ32、エンジン回転数センサ33、バッテリ36およびGPS受信器37の配置関係が示されている。
【0036】
図3(A)〜(D)はデジタルタコグラフ10に接続される記録媒体31およびこの記録媒体31から運行データが読み出されるデータ処理装置50を示す図である。本実施形態では、記録媒体31として、前述したUSBメモリが用いられるが、ICメモリカード等であってもよい。記録媒体31は、運転手情報、管理者情報、バックアップ情報などの識別情報が格納された識別情報記憶部311、および運行データが書き込まれるデータ記憶部312を有する。運転手情報には、運転手であることを示す情報、および運転手名(A,B,C)を識別する情報(ID)が含まれる。また、管理者情報には、1人もしくは特定の複数人に限定された管理者であることを示す情報が含まれる。
【0037】
また、本実施形態では、記録媒体31は、運転手情報が記憶された運転手用記録媒体31a、管理者情報が記憶された管理者用記録媒体31b、バックアップ情報が記憶されたバックアップ用記録媒体31cの3種類に区別される。これらの記録媒体を特に区別する必要がない場合、記録媒体31と総称する。図3(A)、(B)、(C)には、それぞれ運転手用記録媒体31a、管理者用記録媒体31b、バックアップ用記録媒体31cが示されている。ここでは、これらの記録媒体は同一のメディアであるが、区別し易いように異なるメディアにしてもよい。例えば、運転手用記録媒体31aをICカードメモリとし、管理者用記録媒体31bをUSBメモリとし、バックアップ用記録媒体31cをハードディスクドライブとしてもよい。ただし、この場合、記録媒体コネクタは各メディアに対応して複数種類用意される必要がある。
【0038】
また、図3(D)に示すデータ処理装置50は、コンピュータ本体51、ディスプレイ52、キーボード54、マウス55等からなる汎用のコンピュータシステムで構成される。コンピュータ本体51の前面下部には、前述した運転手用、管理者用、バックアップ用の各記録媒体31が接続される接続コネクタ57が設けられている。データ処理装置50は、記録媒体31に記録された運行データを読み出し、コンピュータ本体51に搭載された解析ソフトで読み出した運行データを解析し、各種のデータ処理を行う。
【0039】
図4はデータ記録部13に運行順に記録された運行データの内容を示す図である。図4では、運行順に、すなわち「運行1」、「運行2」、「運行3」の順番で運行データが記録されている。記録媒体31には、運行データとして、運転者の識別番号(ID)ごとに、走行に応じて刻々変化する、エンジン回転数、走行速度、走行距離、運行時刻、位置座標、バッテリ電圧等のデータが記録される。
【0040】
上記構成を有するデジタルタコグラフ10の動作を示す。図5は運行データの記録および記録媒体31への書込手順を示すフローチャートである。この処理プログラムは、CPU11内のROMに格納されており、CPU11によって実行される。なお、デジタルタコグラフ10内のCPU11には、イグニッションスイッチ(IGN)35がオフでも通電が行われている。
【0041】
CPU11は、イグニッションスイッチ(IGN)35がONになるまで待ち(ステップS1)、IGN35がONになると、運転手用記録媒体31aが挿入されて記録媒体コネクタ17に接続されるまで待つ(ステップS2)。このステップS2において、運転手用記録媒体31aが挿入されて記録媒体コネクタ17に接続されたことを検知する処理は、接続検知手段に相当する。
【0042】
運転手用記録媒体31aが接続されると、CPU11は、運転手用記録媒体31aに運転手情報が記憶されているか否かを判別し、運転手情報の認証を行う(ステップS3)。なお、ステップS3の処理は、自動的に行われてもよいし、運転手によってデジタルタコグラフ10の操作部22に設けられている認証ボタンが押下されたことにより行われてもよい。また、運転手情報の認証を行う場合、単に運転手用記録媒体31aに運転手情報が記憶されているか否かを調べるだけでもよいし、運転手用記録媒体31aに記憶されている運転手情報がデータ記録部13のテーブルメモリ13cに設定されている運転手情報と一致するか否かを判別し、一致する場合、認証OKであるとして運転手情報が記憶されているとしてもよい。
【0043】
ステップS3で運転手情報が記憶されていないと判別された場合、CPU11は、エラーを発生し(ステップS15)、本処理を終える。一方、ステップS3で運転手情報が記憶されていると判別された場合、CPU11は、運転手情報をデータ記録部13内のデータメモリ(SRAM)13aに登録する(この時点をタイミングaとする)とともに、運転手用記録媒体31aの接続を解除して運転手用記録媒体31aを取り出し可能にする(ステップS4)。これにより、乗務員は運転手用記録媒体31aを取り出すことができる。なお、このとき、デジタルタコグラフ10は、運転手情報が登録され、運転手用記録媒体31aが取り出し可能であることをLCD14に表示させてもよい。
【0044】
この後、CPU11は、車速センサ32によって検知された車速パルス信号、エンジン回転数センサ33によって検知されたエンジン回転パルス信号、GPS受信器37によって受信された位置情報、RTC23によって計時された現在時刻などのデータをもとに得られる、走行速度やエンジン回転数等の運行データをデータ記録部13内のデータメモリ(SRAM)13aに記録することを開始する(ステップS5)。
【0045】
CPU11は、データ記録部13内のデータメモリ(SRAM)13aのデータ容量(ワークエリアバッファ)が一杯になったか否かを判別する(ステップS6)。一杯になっていない場合、CPU11は、ステップS5の処理に戻る。一方、一杯になった場合、CPU11は、データ記録部13内のデータメモリ13aに記憶されている運行データをバックアップメモリ(FROM)13bに移動させる(ステップS7)。
【0046】
そして、CPU11は、車速センサ32から得られる車速パルス信号をもとに、停車(停止)中であるか否かを判別し(ステップS8)、停車中でない場合、ステップS5の処理に戻る。ここで、停車中は、停車により運行データの記録が停止している状態を表す。
【0047】
一方、停車中であった場合(この時点をタイミングbとする)、CPU11は、ステップS3で挿入された運転手用記録媒体31aが再び挿入され、デジタルタコグラフ10に接続されたか否かを判別する(ステップS9)。運転手用記録媒体31aが挿入された場合、CPU11は、直前の、つまりステップS3で運転手情報が登録されて(タイミングaの時点)からステップS4で停車する(タイミングbの時点)までの運行データを運転手用記録媒体31aに吐き出す(書き込む)(ステップS10)。この後、CPU11は、運転手用記録媒体31aを取り出し可能にし(ステップS15)、運転手用記録媒体31aが取り出されると、ステップS2の処理に戻る。
【0048】
一方、ステップS9で運転手用記録媒体31aが挿入されていない場合、CPU11は、管理者用記録媒体31bが挿入され、デジタルタコグラフ10に接続されたか否かを判別する(ステップS11)。管理者用記録媒体31bが挿入された場合、CPU11は、直前の、つまりステップS3で運転手情報が登録されて(タイミングaの時点)からステップS8で停車する(タイミングbの時点)までの運行データを管理者用記録媒体31bに吐き出す(ステップS12)。この後、CPU11は、ステップS15で管理者用記録媒体31bを取り出し可能にし、管理者用記録媒体31bが取り出されると、ステップS2の処理に戻る。
【0049】
一方、ステップS11で管理者用記録媒体31bが挿入されていない場合、CPU11は、バックアップ用記録媒体31cが挿入され、デジタルタコグラフ10に接続されたか否かを判別する(ステップS13)。バックアップ用記録媒体31cが挿入された場合、CPU11は、バックアップメモリ13bに記録されている運行データを全てバックアップ用記録媒体31cに吐き出す(ステップS14)。この後、CPU11は、ステップS15でバックアップ用記録媒体31cを取り出し可能にし、バックアップ用記録媒体31cが取り出されると、ステップS2の処理に戻る。
【0050】
また、ステップS13でバックアップ用記録媒体31cが挿入されていない場合、CPU11はステップS5の処理に戻る。なお、ステップS10、S12、S14の吐き出し(書き込み)動作は、記録媒体31が挿入された自動的に行われてもよいし、運転手によってデジタルタコグラフ10の操作部22に設けられている書込ボタンが押下されたことで行われてもよい。
【0051】
図6(A)〜図6(C)は運行データの吸い上げ動作を具体的に示す図である。図中、d1〜d46は運行データを示す。例えば、運行データd1は、日付として2日に運転手Aが走行した運行データである。運行データd2〜d6においても同様である。なお、運転手用記録媒体31aとして、特に運転手を区別する必要がある場合、例えば運転手Aの運転手用記録媒体31aを運転手A用記録媒体31aAとし、運転手Bの運転手用記録媒体31aを運転手B用記録媒体31aBとし、運転手Cの運転手用記録媒体31aを運転手C用記録媒体31aCとする。
【0052】
図6(A)に示す運転手用記録媒体の吸い上げ動作では、17日に運転手C用記録媒体31aCが挿入されて運転手Cの認証が開始し、運転手Cが登録されると、運行データの作成が開始され、翌日の18日に運転手C用記録媒体31aCが再び挿入されると、直前の、つまり17日と18日の運行データd5、d6が運転手C用記録媒体31aCに吸い上げられる。このとき、17日以前の過去の運行データd1〜d4は、吸い上げ時間短縮のために、通常の運用では吸い上げられない。
【0053】
図6(B)に示す管理者用記録媒体の吸い上げ動作では、車両1において、17日に運転手A用記録媒体31aAが挿入されて運転手Aの認証が開始し、運転手Aが登録されると、運行データの作成が開始され、翌日の18日に管理者用記録媒体31bが挿入されると、直前の、つまり17日と18日の運転手Aの運行データd15、d16が管理者用記録媒体31bに吸い上げられる。このとき、17日以前の過去の運行データd11〜d14は、吸い上げ時間短縮のために、通常の運用では吸い上げられない。
【0054】
また、車両2において、11日に運転手B用記録媒体31aBが挿入されて運転手Bの認証が開始し、運転手Bが登録されると、運行データの作成が開始され、同日の11日に管理者用記録媒体31bが挿入されると、直前の、つまり11日の運転手Bの運行データd24のみが管理者用記録媒体31bに吸い上げられる。このとき、11日以前の過去の運行データd21〜d23は、吸い上げ時間短縮のために、通常の運用では吸い上げられない。
【0055】
また、車両3において、14日に運転手C用記録媒体31aCが挿入されて運転手Cの認証が開始し、運転手Cが登録されると、運行データの作成が開始され、翌日の15日に管理者用記録媒体31bが挿入されると、直前の、つまり14日と15日の運転手Cの運行データd35、d36が管理者用記録媒体31bに吸い上げられる。このとき、14日以前の過去の運行データd31〜d34は、吸い上げ時間短縮のために、通常の運用では吸い上げられない。
【0056】
図6(C)に示すバックアップ用記録媒体の吸い上げ動作では、18日にバックアップ用記録媒体31cが挿入されると、全ての運行データd41〜d46がバックアップ用記録媒体31cに吸い上げられる。
【0057】
図7(A)、図7(B)は予め決められた運行データの吸い上げ動作の手順が遵守されていない場合の運行データの吸い上げ動作を示す図である。図7(A)は次の運転手が登録した後に前の運転手が運行データを吸い上げる動作を示す。具体的に、タイミングt1で運転手A用記録媒体31aAが挿入されて運転手Aが登録された後、タイミングt2で運転手B用記録媒体31aBが挿入されて運転手Bが登録される。さらに、タイミングt3で運転手Aが運行1の運行データをまだ吸い上げていないことに気付き、運転手Bの登録後に運転手A用記録媒体31aAを挿入する場合、吸い上げられる運行データの範囲は「運行1」である。また、ここで管理者用記録媒体31bを挿入する場合、吸い上げられる運行データの範囲は「運行2」である。さらに、タイミングt3で運転手Aの運行データが吸い上げられた後、タイミングt4で運転手B用記録媒体31aBを挿入すると、このとき吸い上げられる運行データの範囲は「運行2+運行3」である。
【0058】
この図7(A)に示す吸い上げ動作は、前述した図5のフローチャートで示される手順を一部変更することで実現される。図8は図5のフローチャートの変更部分を示す図である。ステップS9において、既にステップS3で挿入された運転手用記録媒体31aAが再び挿入された場合、前述と同様、ステップS10の処理が行われる。一方、ステップS9において、既にステップS3で挿入された運転手用記録媒体31aAが再び挿入されなかった場合、CPU11は、他の運転手用記録媒体31aBが挿入されたか否かを判別する(ステップS9A)。他の運転手用記録媒体31aBが挿入された場合、CPU11は、ステップS3の処理に戻り、運転手Bの情報があるとしてその登録を行い、ステップS4以降の処理を行う。一方、ステップS9Aで他の運転手用記録媒体31aBが挿入されていない場合、CPU11は、前述したステップS11の処理に進む。これにより、図7(A)に示す、予め決められた運行データの吸い上げ手順が遵守されていない場合の運行データの吸い上げ動作が実現される。
【0059】
図7(B)は次の運転手が登録を行わなかった場合の運行データの吸い上げ動作を示す図である。具体的に、タイミングt11で運転手A用記録媒体31aAが挿入されて運転手Aが登録された後、タイミングt12で運転手Aから運転手Bに交代したが、運転手B用記録媒体31aBが挿入されなかったので、運転手Bは登録されていない。さらに、タイミングt13で運転手A用記録媒体31aAあるいは管理者用記録媒体31bを挿入する場合、吸い上げられる運行データの範囲は、「運行1+運行2」である。つまり、運転手Bの「運行2」における運行データは、運転手Aの運行データとして収集される。なお、タイミングt13で運転手B用記録媒体31aBが挿入される場合、運行データの吸い上げは行われず、図7(A)と同様、運転手Bの登録が行われる。
【0060】
このように、本実施形態のデジタルタコグラフでは、運転手情報が登録されてから停車後にこの運転手用記録媒体が挿入されると、直前の運行データを記録媒体に吸い上げることができる。さらに、管理者用記録媒体が挿入されると、運転手以外であっても、直前の運行データを吸い上げることができる。さらに、バックアップ用記録媒体が挿入されると、全ての運行データを吸い上げることができる。このように、記録媒体に記憶された識別情報に対応する読み取り範囲で運行データが読み出されるので、必要に応じた運行データを取り出すことができ、デジタルタコグラフに記録されている運行データの取り残しを防止することができる。また、運行データの読み出し方を多様化することができる。
【0061】
また、運転手情報が登録されてからこの運転手情報による運行が終了するまでの運行データが記録されるので、運転手ごとに運行データを記録することができる。また、運転手情報が登録されてから運行を終了するまでの運行データの管理が容易となる。
【0062】
また、記録媒体に記録された識別情報を読み取るので、識別情報の認識が容易となる。また、直前の運行データだけが記録媒体に書き込まれるので、運行データの読み出し時間を短縮することができる。
【0063】
また、識別情報が運転手情報である場合、予め設定された運転手以外の者による運行データの読み出しを防止することができ、セキュリティが向上する。また、識別情報が管理者情報である場合、直前の運行データが記録媒体に書き込まれるので、運転手によることなく管理者によっても運行データを読み出すことができ、運行データの取り残しを防止することができる。
【0064】
また、識別情報がバックアップ情報である場合、全ての運行データが記録媒体に書き込まれるので、運行データの取り残しを確実に防止することができる。
【0065】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限られるものではなく、特許請求の範囲で示した機能、または本実施形態の構成が持つ機能が達成できる構成であればどのようなものであっても適用可能である。
【0066】
例えば、上記実施形態では、記録媒体の識別情報として、運転手情報、管理者情報、バックアップ情報の3つであったが、3つ以上に分けられていてもよく、例えば、グループ情報、機密情報などに分けられ、それぞれに応じた読み取り範囲が設定されてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、デジタルタコグラフが記録媒体に記憶された識別情報を読み取ることで、識別情報を認識していたが、記録媒体が接続される接続コネクタとして、種類の異なる記録媒体に対応する複数の接続コネクタ(複数の接続部)が設けられている場合、各接続コネクタに対応する記録媒体が接続されることにより、記録媒体の識別情報を認識できるようにしてもよい。これにより、記録媒体の種類から識別情報を認識することが可能となる。
【0068】
また、上記実施形態では、デジタルタコグラフに接続可能な記録媒体は、接続コネクタに挿入されることによりデジタルタコグラフに接続されたが、接続コネクタに挿入することなく、無線信号や赤外線信号により接続されるようにしてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、車両に搭載されたデジタルタコグラフに適用された場合を示したが、本発明の運行記録装置は、車両に限らず、種々の乗り物に適用されてもよい。また、運行データとして、上記実施形態で挙げられたものに限らず、種々の運行状態を示すデータであってもよい。
【符号の説明】
【0070】
10 デジタルタコグラフ
11 CPU
12 データ処理部
13 データ記録部
13a データメモリ
13b バックアップメモリ
13c テーブルメモリ
14 LCD
15 ブザー
16 プリンタ
17 記録媒体コネクタ
18 電源部
19 速度I/F
20 エンジンI/F
21 受信I/F
22 操作部
23 RTC
31 記録媒体
31a 運転手用記録媒体
31b 管理者用記録媒体
31c バックアップ用記録媒体
32 車速センサ
33 エンジン回転数センサ
35 イグニッションスイッチ(IGN)
36 バッテリ
37 GPS受信器
50 データ処理装置
51 コンピュータ本体
52 ディスプレイ
54 キーボード
55 マウス
57 接続コネクタ
311 識別情報記憶部
312 データ記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運行データを記憶装置に記録する運行記録装置であって、
記録媒体が前記運行記録装置に接続されたことを検知する接続検知手段と、
前記接続検知手段によって接続が検知された記録媒体の識別情報を認識する認識手段と、
前記認識手段によって認識された記録媒体の識別情報に対応する読み取り範囲で、前記記憶装置に記憶された運行データを読み出し、前記読み出された運行データを当該記録媒体に書き込む書込手段とを備えたことを特徴とする運行記録装置。
【請求項2】
前記認識手段によって認識された前記記録媒体の識別情報が運転手情報である場合、当該運転手情報を登録する登録手段を備え、
前記登録手段によって運転手情報が登録されてから当該運転手情報による運行が終了するまでの運行データを前記記憶装置に運行順に記録することを特徴とする請求項1記載の運行記録装置。
【請求項3】
前記認識手段によって認識された前記記録媒体の識別情報が管理者情報である場合、前記書込手段は、前記記憶装置に記録された直前の運行データを前記記録媒体に書き込むことを特徴とする請求項1記載の運行記録装置。
【請求項4】
前記認識手段によって認識された前記記録媒体の識別情報がバックアップ情報である場合、前記書込手段は、前記記憶装置に記録された全ての運行データを前記記録媒体に書き込むことを特徴とする請求項1記載の運行記録装置。
【請求項5】
運行データを記憶装置に記録する運行記録装置のデータ読出方法であって、
記録媒体が前記運行記録装置に接続されたことを検知する接続検知ステップと、
前記接続検知ステップで接続が検知された記録媒体の識別情報を認識する認識ステップと、
前記認識ステップで認識された記録媒体の識別情報に対応する読み取り範囲で、前記記憶装置に記憶された運行データを読み出し、前記読み出された運行データを当該記録媒体に書き込む書込ステップとを有することを特徴とする運行記録装置のデータ読出方法。
【請求項6】
運行データを記憶装置に記録する運行記録装置に接続可能な記録媒体であって、
前記運行記録装置によって認識される識別情報を記憶する記憶部を有し、前記運行記録装置によって認識された識別情報に対応する読み取り範囲で、前記記憶装置に記録された運行データが書き込まれることを特徴とする記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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