説明

過充電抑制剤並びにこれを用いた非水電解液及び二次電池

【課題】過充電時、電位が高くなった正極と反応して電解重合すると同時に、電池の内部抵抗を増大させる過充電抑制剤を提供する。
【解決手段】重合性モノマーを繰り返し単位として有するポリマーを用いて過充電抑制剤を作製する。前記重合性モノマーは、少なくともリチウム金属基準による電位が4.3〜5.5Vの条件で電解重合する官能基を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過充電抑制剤並びにこれを用いた非水電解液及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液を含むリチウムイオン二次電池(非水電解液二次電池)は、高電圧(作動電圧4.2V)、高エネルギー密度という特徴を有することから、携帯情報機器分野等において広く利用され、その需要が急速に拡大している。現在では、携帯電話、ノート型パソコンを始めとするモバイル情報化機器用の標準電池としてのポジションを確立している。
【0003】
このリチウム二次電池は、正極、負極、及び非水電解液を構成要素としており、特に、LiMO(Mは、Co、Ni及びMnの群から選択される一種類以上の金属元素を含む。)に代表されるリチウム複合金属酸化物を正極とし、炭素材料又はSi、Sn等を含む金属間化合物を負極とし、電解質塩を非水溶媒(有機溶媒)に溶解させた非水溶液を電解液としたリチウム二次電池が一般に使用されている。
【0004】
この非水溶媒としては、一般に、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等のカーボネート類が使用されている。
【0005】
このようなリチウム二次電池においては、通常の作用電圧(例えば、LiCoOの場合は、満充電時、4.2V)を上回るような過充電が行われた場合に、正極から過剰なリチウムが放出されると同時に、負極において過剰なリチウムの析出が生じ、デンドライトが生じる。そのため、正・負極の両極が化学的に不安定になり、やがては非水電解液中のカーボネート類と反応し、分解等により急激な発熱反応が起こる。これによって、電池全体が異常に発熱し、電池の安全性が損なわれるという問題を生じる。
【0006】
通常は、保護回路等で過充電を防止して内部短絡を引き起こさないように対策されているため、異常な事態には至らない。しかし、充電器又は保護回路の故障等が想定されるため、電池自体の過充電においても安全であることが要求されている。特に、リチウム二次電池のエネルギー密度及び容量が増加するほどこの問題が重要となる。
【0007】
このような問題を解決するため、電解液に添加剤として少量の芳香族化合物を添加することにより、過充電に対する安全性を確保する技術が、特許文献1〜4及び非特許文献1に提案されている。
【0008】
特許文献1〜3には、リチウムイオン電池自体の過充電時の安全性を確保するため、電解液にシクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、3−R−チオフェン、3−クロロチオフェン、フラン等を溶解させたものを用い、過充電時に電池内において気体を発生させて内部電気切断装置を作動させる、導電性ポリマーを発生させる等の手法により、電池の過充電を抑制する技術が開示されている。
【0009】
特許文献4には、非水電解液に、分子量が500以下であり、満充電時の正極電位よりも貴な電位に可逆性酸化還元電位を有するような、π電子軌道をもつ有機化合物を含有する非水電解液二次電池が開示されている。この特許文献においては、上記の有機化合物としてアニソール誘導体等が例示されている。
【0010】
また、非特許文献1には、電気的活性を有する分子量数千程度のチオフェン系のポリマー、例えば、ポリ(3−ブチルチオフェン)(poly(3−butylthiophene))、ポリ(3−フェニルチオフェン)(poly(3−phenylthiophene))を電解液に添加することにより、過充電を抑制することができると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3275998号公報
【特許文献2】特開平9−171840号公報
【特許文献3】特開平10−321258号公報
【特許文献4】特開平7−302614号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Electrochemical and Solid−State Letters、9(1)、A24−A26 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、二次電池の過充電時において電位が高くなった正極と反応して電解重合すると同時に、二次電池の内部抵抗を増大させて過充電を抑制する過充電抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の過充電抑制剤は、重合性モノマーを繰り返し単位として有し、前記重合性モノマーは、少なくともリチウム金属基準による電位が4.3〜5.5Vの条件で電解重合する官能基を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、二次電池の過充電時において二次電池の内部抵抗を増大させて過充電を抑制することができる。
【0016】
また、本発明によれば、高い電位で電解重合する過充電抑制剤を提供することができ、安全性に優れた二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例の非水電解液二次電池用ポリマーのH−NMRスペクトルを示すグラフである。
【図2】実施例の非水電解液二次電池用ポリマーの過充電曲線を示すグラフである。
【図3】実施例の非水電解液二次電池用ポリマーの過充電時におけるdQ/dV−Q曲線を示すグラフである。
【図4】実施例の非水電解液二次電池用ポリマーの白金電極におけるCV曲線を示すグラフである。
【図5】実施例の非水電解液二次電池用ポリマーが電解重合後に白金電極で生成した膜のSEM写真である。
【図6】実施例の非水電解液二次電池用ポリマーが電解重合後に白金電極で生成した膜のSEM写真である。
【図7】実施例の二次電池を示す分解斜視図である。
【図8】実施例の二次電池を示す断面図である。
【図9】実施例の二次電池を示す斜視図である。
【図10】図9のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、芳香族官能基を分子内に有するポリマーを過充電抑制剤として用い、この過充電抑制剤を電解液に溶解した非水電解液、及びこの非水電解液を用いることにより安全性を高めた非水電解液二次電池(リチウム二次電池又は単に二次電池若しくは電池とも呼ぶ。)に関するものである。
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る過充電抑制剤、並びにこれを用いた非水電解液及び二次電池について説明する。
【0020】
前記過充電抑制剤は、重合性モノマーを繰り返し単位として有し、下記化学式(1)で表される。
【0021】
【化1】

【0022】
式中、Xは、重合性モノマーの一つであり、リチウム金属基準による電位が4.3〜5.5Vの条件で電解重合する官能基を有し、Yは、重合性モノマーの一つであり、エーテル結合又はエステル結合を有し、Xであってもよい。aは、1以上の整数である。bは、0又は1以上の整数である。
【0023】
前記過充電抑制剤は、X及びYは、炭素同士の二重結合(C=C不飽和結合)を有する。
【0024】
前記過充電抑制剤は、X及びYは、ビニル基又はアクリレート基を有する。
【0025】
前記過充電抑制剤は、X及びYは、下記化学式(2)又は(3)で表される。
【0026】
【化2】

【0027】
【化3】

【0028】
式中、R及びRは、下記化学式(4)〜(6)のいずれかで表される芳香環を有する官能基であり、R及びRは、炭素数1〜3のアルキル基であって、このアルキル基の水素がフッ素で置換されていてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基又は芳香族官能基を有する基であって、このアルキル基又は芳香族官能基の水素がフッ素で置換されていてもよく、下記化学式(7)で表されるアルコキシ基(Alkoxy group)を介する炭素数1〜6のアルキル基又は芳香族官能基であってもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基又は芳香環を有する官能基であって、このアルキル基又は芳香環を有する官能基の水素がフッ素で置換されていてもよい。c及びeは、1以上の整数であり、d及びfは、0又は1以上の整数である。
【0029】
【化4】

【0030】
【化5】

【0031】
【化6】

【0032】
【化7】

【0033】
式中、Rは、炭素数2〜6のアルキル基又はフェニレン基であって、このアルキル基又はフェニレン基の水素がフッ素で置換されていてもよく、gは、1〜10の整数である。
【0034】
前記過充電抑制剤は、X及びYのうち少なくとも一つは、下記化学式(8)〜(10)の群から選択される。
【0035】
【化8】

【0036】
【化9】

【0037】
【化10】

【0038】
式中、x1〜x3は、1〜10の整数であり、m1〜m3は、1以上の整数であり、n1〜n3は、0又は1以上の整数である。R〜R10は、炭素数1〜6のアルキル基又は芳香環を有する官能基であって、このアルキル基又は芳香環を有する官能基の水素がフッ素で置換されていてもよい。
【0039】
前記過充電抑制剤は、X及びYのうち少なくとも一つは、下記化学式(11)〜(13)の群から選択される。
【0040】
【化11】

【0041】
【化12】

【0042】
【化13】

【0043】
式中、p1〜p3は、1以上の整数であり、q1〜q3は、0又は1以上の整数である。R11〜R13は、炭素数1〜6のアルキル基又は芳香環を有する官能基であって、このアルキル基又は芳香環を有する官能基の水素がフッ素で置換されていてもよい。
【0044】
前記非水電解液は、非水溶媒と、電解質塩と、上記の過充電抑制剤とを含む。
【0045】
前記非水電解液は、電解質塩は、リチウム塩を含む。
【0046】
前記非水電解液は、非水溶媒は、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを含む。
【0047】
前記二次電池は、正極、負極、セパレータ及び上記の非水電解液を含む。
【0048】
前記二次電池は、正極及び負極は、リチウムを吸蔵放出可能である。
【0049】
以下、更に詳細に説明する。
【0050】
上記化学式(1)における重合性モノマーXは、C=C不飽和結合及びリチウム金属基準で4.3〜5.5Vで電解重合できる官能基を有すれば、特に限定はされない。
【0051】
ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等のC=C不飽和結合を有する有機基を有する重合性モノマーが好適に用いられる。また、C=C不飽和結合が一個であることが望ましい。これは、C=C不飽和結合が二個以上の場合、分子内の架橋反応によって電解液に溶けなくなるからである。
【0052】
上記の重合性モノマーYは、エーテル結合又はエステル結合を有する重合性モノマーである。
【0053】
エーテル結合又はエステル結合を分子内に有するポリマーは、非水溶媒及び電解質塩に対する親和性が高いため、このポリマーを電解液に溶解しやすくし、かつ、電解液の粘度の増加を抑えることができる。
【0054】
これらの重合性モノマーは、電解液への溶解性を高めるものであり、C=C不飽和結合を有すれば、特に限定されることはなく、Xであってもよい。
【0055】
また、C=C不飽和結合が一個であることが望ましい。例えば、エチレンオキシド(EO)を有するエトキシ化フェニルアクリレート(EO=1〜10モル)、メチルアクリレート、エチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノフェニルエーテルアクリレート、テトラエチレングリコールモノフェニルエーテルアクリレート、ラウリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ベンジルアクリレート、エトキシ化フェニルメタクリレート(EO=1〜10モル)、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−(2、4、6−トリブロモフェノキシ)エチルアクリレート等に代表されるアクリレート系モノマー;アリルベンジルエーテル、アリルアルキルエーテル等に代表されるアリルエーテル、アリルアセテート、アリルベンゾエート、アリルオクチルオキサレート、アリルプロピルフタレート、アリルアルキルカーボネート、アリルアルキルフマレート、アリルアルキルイソフタレート、アリルアルキルマロネート、アリルアルキルオキサレート、アリルアルキルフタレート、アリルアルキルセバセート、ジアリルサクシネート、アリルアルキルテレフタレート、アリルアルキルタトレート、アリルアルキルフタレート、エチルアリルマレート、メチルアリルフマレート、メチルメタアリルマレート、アリルメタスルホネート、硫酸メチルアリル等に代表されるアリル官能基を有するカルボン酸等の有機酸エステル又は無機酸エステル;及び酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバル酸ビニル等に代表されるビニル系モノマーが挙げられる。
【0056】
この中で、炭素数1〜3のアルキルアクリレート(メタクリレート)、アリルアルキルエーテル、エトキシ化フェニルアクリレート(EO=0〜5モル)、エトキシ化メチルアクリレート(EO=0〜5モル)、酢酸ビニル等が特に望ましい。
【0057】
また、上記のXにおいて、リチウム金属基準で4.3〜5.5Vで電解重合できる官能基は芳香族官能基である。
【0058】
上記化学式(1)で表されるポリマーは、この芳香族官能基の電解重合によって過充電抑制剤として機能し、所定の電圧で反応し、過充電を抑制するものである。その反応は、電池の作動電圧以上の電圧である。具体的には、リチウム金属基準で4.3〜5.5Vである。
【0059】
ここで、芳香族官能基は、Huckel則を満たす総炭素数が7〜18の芳香族官能基である。
【0060】
具体的には、ビフェニル、2−メチルビフェニル等のアルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ナフタレン、ジベンゾフラン等の芳香族化合物に由来する官能基;2−フルオロビフェニル、3−フルオロビフェニル、4−フルオロビフェニル、4、4’−ジフルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン等の芳香族化合物に由来する部分フッ素化官能基;2、4−ジフルオロアニソール、2、5−ジフルオロアニソール、2、6−ジフルオロアニソール、3、5−ジフルオロアニソール等の含フッ素アニソール化合物に由来する官能基等が挙げられる。
【0061】
これらの芳香族官能基の一部は、置換されていてもよい。また、芳香族官能基は、芳香族環(芳香環)内に炭素以外の元素を含んでもよい。具体的には、S、N、Si、O等の元素である。
【0062】
これらの中で、過充電時の安全性の向上及び電池特性の点から、ビフェニル、2−メチルビフェニル等のアルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等に由来する芳香族官能基;2−フルオロビフェニル、3−フルオロビフェニル、4−フルオロビフェニル、4、4’−ジフルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン等の芳香族化合物に由来する部分フッ素化官能基及びナフチル基が好ましい。
【0063】
ここで、ポリマーとは、上記の重合性モノマーを重合することによって得られる化合物をいう。
【0064】
電気化学的安定性の点からは、重合性モノマーを事前に重合させ、ポリマーを作製した後、このポリマーを精製して用いることが好ましい。
【0065】
材料合成のコストや電解液における溶解度等の点からは、上記のX及びYを含むポリマーがシクロヘキシルベンジル基、ビフェニル基又はナフチル基を含有し、且つ、化学式(2)及び(3)で表される繰り返し単位を含むことが特に好ましい。
【0066】
ここで、R及びRは、上記化学式(4)〜(6)のいずれかで表される芳香環を有する官能基である。R及びRは、炭素数1〜3のアルキル基であって、このアルキル基の水素がフッ素で置換されていてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基又は芳香族官能基を有する基であって、このアルキル基又は芳香族官能基の水素がフッ素で置換されていてもよい。
【0067】
また、Rは、上記化学式(7)で表されるアルコキシ基(Alkoxy group)を介する炭素数1〜6のアルキル基又は芳香族官能基であってもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基又は芳香環を有する官能基であって、このアルキル基又は芳香環を有する官能基の水素がフッ素で置換されていてもよい。c及びeは、1以上の整数であり、d及びfは、0又は1以上の整数である。
【0068】
上記式(7)におけるRは、炭素数2〜6のアルキル基又はフェニレン基であって、このアルキル基又はフェニレン基の水素がフッ素で置換されていてもよい。gは、1〜10の整数である。また、Rの末端部は、特に限定されるものではなく、炭素数1〜6のアルキル基等が付加されていてもよい。
【0069】
また、材料と性能とのバランスの点からは、上記化学式(2)又は(3)のポリマーは、上記化学式(8)〜(13)で表されるポリマーが特に望ましい。
【0070】
ここで、m1〜m3及びp1〜p3は、1以上の整数であり、n1〜n3及びq1〜q3は、0又は1以上の整数である。R〜R13は、炭素数1〜6のアルキル基又は芳香環を有する官能基であって、このアルキル基又は芳香環を有する官能基の水素がフッ素で置換されていてもよい。x1〜x3は、1〜10の整数である。
【0071】
上記化学式(1)において、a+bは、ポリマーの骨格部分(Xユニット及びYユニットの結合部分)の長さを表しているが、aは1以上の整数であり、bは0又は1以上の整数である。また、過充電抑制の特性を向上するため、電解液におけるポリマーの溶解性が確保できれば、XとYとのモル比ができるだけ大きいことが望ましい。しかし、Xの割合が大きすぎると、電解液におけるポリマーの溶解性が低くなる恐れもあるため、分子量、溶解性、過充電性能等のバランスが重要である。X及びYの分子構造にもよるが、XとYとのモル比は0.1〜10が好ましい。
【0072】
なお、ポリマー分子内又は分子間のXユニット及びYユニットとは、それぞれがブロックを形成しつつ結合していてもよく、ランダムに結合していてもよい。すなわち、化学式(1)で表されるポリマー分子において、Xユニット及びYユニットの繰り返し単位a及びbが一定値ではなく、一般の高分子と同様に分布を有していてもよい。
【0073】
非水電解液における上記のポリマーの含有量は、分子内のXの割合とその官能基の分子構造にもよるが、上記のポリマーによる作用をより有効に発揮させる観点から、非水電解液全量中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。なお、非水電解液における上記のポリマーの含有量が多すぎると、非水電解液の粘度が高くなりすぎて電池の負荷特性が低下する可能性がある。また、非水電解液のコストも高くなることから、その含有量は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0074】
上記のポリマーの数平均分子量(Mn)は、上記のポリマーの電解液における溶解性及び溶解後の粘度に依存するため、特に制限はない。数量体のオリゴマーでも良いが、3000〜1000000が好ましい。分子量が大きすぎると、電解液における溶解度が低下する。その結果、上記のポリマーは、電解液に溶解しなくなったり、電解液の粘度が増加したりするため、電池性能が低下する。また、分子量が低すぎると、精製が困難になったり、電池が過充電後の内部抵抗の増加速度が遅くなったりする可能性がある。
【0075】
上記のポリマーの合成方法については、特に制限はなく、従来、知られているバルク重合、溶液重合又は乳化重合のいずれによってもよい。特に、溶液重合が好ましい。
【0076】
また、重合方法は、特に限定はされないが、ラジカル重合が好適に用いられる。重合に際しては、重合開始剤を用いても用いなくてもよい。取り扱いの容易さの点からは、ラジカル重合開始剤を用いるのが好ましい。ラジカル重合開始剤を用いた重合方法は、通常行われている温度範囲及び重合時間で行うことができる。
【0077】
電気化学デバイスに用いられる部材を損なわない目的から、分解温度及び速度の指標である10時間半減期温度としては、30〜90℃の範囲でラジカル重合開始剤を用いるのが好ましい。なお、10時間半減期温度とは、ベンゼン等のラジカル不活性溶媒中の濃度0.01モル/リットルにおける未分解のラジカル重合開始剤の量が10時間で1/2となるのに必要な温度を指すものである。
【0078】
ラジカル重合開始剤の配合量は、重合性化合物に対して0.1〜5wt%であり、好ましくは0.3〜2wt%である。
【0079】
ラジカル重合開始剤としては、t−ブチルペルオキシピバレート、t−ヘキシルペルオキシピバレート、メチルエチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、1、1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3、3、5−トリメチルシクロヘキサン、2、2−ビス(t−ブチルペルオキシ)オクタン、n−ブチル−4、4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、t−ブチルハイドロペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド、2、5−ジメチルヘキサン−2、5−ジハイドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、α、α′−ビス(t−ブチルペルオキシm−イソプロピル)ベンゼン、2、5−ジメチル−2、5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2、5−ジメチル−2、5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、ベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシプロピルカーボネート等の有機過酸化物、2、2′−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕、2、2′−アゾビス{2−メチル−N−〔1、1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕プロピオンアミド}、2、2′−アゾビス{2−メチル−N−〔1、1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル〕プロピオンアミド}、2、2′−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕、2、2′−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジハイドレート、2、2′−アゾビス(2、4、4−トリメチルペンタン)、2、2′−アゾビス(2−メチルプロパン)、ジメチル、2、2′−アゾビスイソブチレート、4、4′−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2、2′−アゾビス〔2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル〕、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。
【0080】
非水電解液に用いる非水溶媒(有機溶媒)としては、高誘電率のものが好ましく、カーボネート類を含むエステル類がより好ましい。中でも、誘電率が30以上のエステルを使用することが推奨される。
【0081】
このような高誘電率のエステルとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、イオウ系エステル(エチレングリコールサルファイト等)等が挙げられる。これらの中でも、環状エステルが好ましく、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネートが特に好ましい。上記の溶媒以外にも、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等に代表される低粘度の極性の鎖状カーボネート、脂肪族の分岐型のカーボネート系化合物を用いることができる。環状カーボネート(特に、エチレンカーボネート)と鎖状カーボネートとの混合溶媒が特に好ましい。
【0082】
さらに、上記の非水溶媒以外にも、プロピオン酸メチル等の鎖状のアルキルエステル類;リン酸トリメチル等の鎖状リン酸トリエステル;3−メトキシプロピオニトリル等のニトリル系溶媒;デンドリマー及びデンドロンに代表されるエーテル結合を有する分岐型化合物等の非水溶媒(有機溶媒)を用いることができる。
【0083】
また、フッ素系の溶媒も用いることができる。
【0084】
フッ素系の溶媒としては、例えば、H(CFOCH、COCH、H(CFOCHCH、H(CFOCHCF、H(CFCHO(CFH等、又は、CFCHFCFOCH、CFCHFCFOCHCH等の直鎖構造の(パーフロロアルキル)アルキルエーテル、若しくは、イソ(パーフロロアルキル)アルキルエーテル、すなわち、2−トリフロロメチルヘキサフロロプロピルメチルエーテル、2−トリフロロメチルヘキサフロロプロピルエチルエーテル、2−トリフロロメチルヘキサフロロプロピルプロピルエーテル、3−トリフロロオクタフロロブチルメチルエーテル、3−トリフロロオクタフロロブチルエチルエーテル、3−トリフロロオクタフロロブチルプロピルエーテル、4−トリフロロデカフロロペンチルメチルエーテル、4−トリフロロデカフロロペンチルエチルエーテル、4−トリフロロデカフロロペンチルプロピルエーテル、5−トリフロロドデカフロロヘキシルメチルエーテル、5−トリフロロドデカフロロヘキシルエチルエーテル、5−トリフロロドデカフロロヘキシルプロピルエーテル、6−トリフロロテトラデカフロロヘプチルメチルエーテル、6−トリフロロテトラデカフロロヘプチルエチルエーテル、6−トリフロロテトラデカフロロヘプチルプロピルエーテル、7−トリフロロヘキサデカフロロオクチルメチルエーテル、7−トリフロロヘキサデカフロロオクチルエチルエーテル、7−トリフロロヘキサデカフロロヘキシルオクチルエーテル等が挙げられる。
【0085】
さらに、上記のイソ(パーフロロアルキル)アルキルエーテルと、上記の直鎖構造の(パーフロロアルキル)アルキルエーテルとを併用することもできる。
【0086】
非水電解液に用いる電解質塩としては、リチウムの過塩素酸塩、有機ホウ素リチウム塩、含フッ素化合物のリチウム塩、リチウムイミド塩等のリチウム塩が好ましい。
【0087】
このような電解質塩の具体例としては、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、LiCFCO、Li(SO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiC(CFSO、LiCnF2n+1SO(n≧2)、LiN(RfOSO(ここで、Rfはフルオロアルキル基)等が挙げられる。これらのリチウム塩の中で、含フッ素有機リチウム塩が特に好ましい。含フッ素有機リチウム塩は、アニオン性が大きく、かつ、イオンに分離しやすいので、非水電解液中において溶解しやすいからである。
【0088】
非水電解液における電解質塩の濃度は、例えば、好ましくは0.3mol/L(モル/リットル)以上、より好ましくは0.7mol/L以上であって、好ましくは1.7mol/L以下、より好ましくは1.2mol/L以下である。電解質塩濃度が低すぎると、イオン伝導度が小さくなることがあり、高すぎると、溶解しきれない電解質塩が析出するおそれがある。
【0089】
また、非水電解液には、これを用いた電池の性能を向上することができる各種の添加剤を添加してもよく、特に制限はない。
【0090】
例えば、C=C不飽和結合を分子内に有する化合物を添加した非水電解液では、これを用いた電池の充放電サイクル特性の低下を抑制できる場合がある。
【0091】
このようなC=C不飽和結合を分子内に有する化合物としては、例えば、C11(シクロヘキシルベンゼン)等の芳香族化合物;H(CFCHOOCCH=CH、F(CFCHCHOOCCH=CH等のフッ素化された脂肪族化合物;フッ素含有芳香族化合物等が挙げられる。また、1、3−プロパンスルトン、1、2−プロパジオール硫酸エステルをはじめとするイオウ元素を有する化合物(例えば、鎖状又は環状スルホン酸エステル、鎖状又は環状の硫酸エステル等)、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フッ化エチレンカーボネート等も使用でき、非常に効果的な場合がある。特に、負極活物質に高結晶炭素材料を用いる場合、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フッ化エチレンカーボネート等との併用はより効果的である。これらの各種添加剤の添加量は、非水電解液全量中、例えば、0.05〜5質量%とすることが好ましい。
【0092】
なお、上記のビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フッ化エチレンカーボネートは、これらを含有する非水電解液を用いた電池を充電することにより、負極表面に保護皮膜を形成し、負極活物質と非水電解液との接触による反応を抑制して、かかる反応による非水電解液の分解等を防止する作用を有している。
【0093】
このほか、非水電解液二次電池の高温特性の改善を達成すべく、非水電解液に酸無水物を添加してもよい。
【0094】
酸無水物は、負極の表面改質剤として負極表面に複合皮膜の形成に関与し、高温時における電池の貯蔵特性等を更に向上させる機能を有する。また、酸無水物を非水電解液に添加することにより、非水電解液中の水分量を低減させることができるため、この非水電解液を用いた電池内でのガス発生量も減少させることができる。
【0095】
非水電解液に添加する酸無水物については、特に制限はなく、分子内に酸無水物構造を少なくとも1個有する化合物であればよく、複数個有する化合物であってもよい。
【0096】
酸無水物の具体例としては、例えば、無水メリト酸、無水マロン酸、無水マレイン酸、無水酪酸、無水プロピオン酸、無水プルビン酸、無水フタロン酸、無水フタル酸、無水ピロメリト酸、無水乳酸、無水ナフタル酸、無水トルイル酸、無水チオ安息香酸、無水ジフェン酸、無水シトラコン酸、無水ジグリコールアミド酸、無水酢酸、無水琥珀酸、無水桂皮酸、無水グルタル酸、無水グルタコン酸、無水吉草酸、無水イタコン酸、無水イソ酪酸、無水イソ吉草酸、無水安息香酸等が挙げられ、それらの一種類又は二種類以上を用いることができる。また、非水電解液における酸無水物の添加量は、非水電解液全量中、0.05〜1質量%とすることが好ましい。
【0097】
非水電解液二次電池は、上記の非水電解液を有していればよく、その他の構成要素については特に制限はなく、従来公知の非水電解液二次電池と同様のものを採用できる。
【0098】
正極に係る正極活物質には、リチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物が使用でき、例えば、LiMO又はLi(ただし、Mは遷移金属であり、0≦x≦1、0≦y≦2)で表されるリチウム含有複合酸化物、スピネル状の酸化物、層状構造の金属カルコゲン化物、オリビン構造等が挙げられる。
【0099】
その具体例としては、LiCoO等のリチウムコバルト酸化物、LiMn等のリチウムマンガン酸化物、LiNiO等のリチウムニッケル酸化物、Li4/3Ti5/3等のリチウムチタン酸化物、リチウムマンガン・ニッケル複合酸化物、リチウムマンガン・ニッケル・コバルト複合酸化物、二酸化マンガン、五酸化バナジウム、クロム酸化物、等の金属酸化物;LiMPO(M=Fe、Mn、Ni)等のオリビン型の結晶構造を有する材料;二硫化チタン、二硫化モリブデン等の金属硫化物;等が挙げられる。
【0100】
特に、層状構造又はスピネル構造のリチウム含有複合酸化物が好ましく用いられ、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiNi1/2Mn1/2等に代表されるリチウムマンガン・ニッケル複合酸化物、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi0.6Mn0.2Co0.2等に代表されるリチウムマンガン・ニッケル・コバルト複合酸化物、又はLiNi1−x−y―zCoAlMg(ただし、0≦x≦1、0≦y≦0.1、0≦z≦0.1、0≦1−x−y−z≦1)のように構成元素の一部がGe、Ti、Zr、Mg、Al、Mo、Sn等より選ばれる添加元素で置換されたリチウム含有複合酸化物等、充電時の開路電圧がLi基準で4V以上を示すリチウム複合酸化物を正極活物質として用いれば、実施例の非水電解液の特徴を生かすことができ、安全の高い非水電解液二次電池を得ることができる。
【0101】
これらの正極活物質は、一種類単独で使用してもよく、二種類以上を併用してもよい。例えば、層状構造のリチウム含有複合酸化物とスピネル構造のリチウム含有複合酸化物とを共に用いることにより、大容量化及び安全性向上の両立を図ることができる。
【0102】
非水電解液二次電池を構成するための正極は、例えば、上記の正極活物質に、カーボンブラック、アセチレンブラック等の導電助剤や、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシド等の結着剤等を適宜添加して正極合剤を調製し、これをアルミニウム箔等の集電材料を芯材として帯状の成形体に仕上げたものが用いられる。ただし、正極の作製方法は、上記の例のみに限定される訳ではない。
【0103】
実施例の有機電解液二次電池を構成するための負極における負極活物質としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物が使用できる。
【0104】
例えば、リチウム金属単体の他、Al、Si、Sn、In等の合金又はリチウム(Li)に近い低電位で充放電できる酸化物、炭素材料等の各種材料も、負極活物質として用いることができる。
【0105】
実施例の非水電解液二次電池においては、負極活物質としては、リチウムイオンを電気化学的に出し入れ可能な炭素材料が特に好ましい。このような炭素材料としては、例えば、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭等が挙げられる。
【0106】
負極活物質に炭素材料を用いる場合、該炭素材料の(002)面の層間距離d002に関しては、0.37nm以下であることが好ましい。また、電池の高容量化を実現するためd002は、0.35nm以下であることがより好ましく、0.34nm以下であることが更に好ましい。d002の下限値は特に限定されないが、理論的には約0.335nmである。
【0107】
また、炭素材料のc軸方向における結晶子の大きさLcは、3nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、25nm以上であることが更に好ましい。Lcの上限は、特に限定されないが、通常200nm程度である。そして、その平均粒径は、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上であって、好ましくは15μm以下、より好ましくは13μm以下である。また、その純度は99.9%以上であることが望ましい。
【0108】
負極は、例えば、上記の負極活物質、又はその負極活物質に、必要に応じて、導電助剤(カーボンブラック、アセチレンブラック等)、結着剤(ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム等)等を適宜加えて調製した負極合剤を、銅箔等の集電材料を芯材として成形体に仕上げることによって作製される。ただし、負極の作製方法は、上記の例のみに限られることはない。
【0109】
実施例の非水電解液二次電池において、正極と負極とを仕切るためのセパレータも、特に制限はなく、従来公知の非水電解液二次電池において採用されている各種セパレータを用いることができる。
【0110】
例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、又はポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂で形成された微孔性セパレータが好適に用いられる。また、それらの微孔性セパレータ(微孔性フィルム)を重ね合わせて使用することもできる。
【0111】
セパレータの厚さにも特に制限はないが、電池の安全性及び高容量化の両方を考慮して5〜30μmとすることが好ましい。また、セパレータの通気度(秒/100mL)も特に制限はないが、10〜1000(秒/100mL)が好ましく、更に好ましくは50〜800(秒/100mL)であり、特に好ましくは90〜700(秒/100mL)である。
【0112】
実施例の非水電解液二次電池は、例えば、上記の正極と負極との間に、上記のセパレータを挟んで重ね合わせて電極積層体とし、これを巻回して電極巻回体とした後、外装体に装填し、正負極と外装体の正負極端子とをリード体(リード片)等を介して接続し、さらに、実施例の非水電解液を外装体内に注入した後、外装体を封止して作製される。
【0113】
電池の外装体としては、金属製の角形、円筒形等の外装体や、金属(アルミニウム等)ラミネートフィルムで形成されたラミネート外装体等を用いることができる。
【0114】
なお、非水電解液二次電池の製造方法及び電池の構造は、特に限定されないが、d002が0.34nm以下の炭素材料を負極活物質として用いる場合、外装体に正極、負極、セパレータ及び非水電解液を収納した後であって、電池を完全に密閉する前に、充電を行う開放化成工程を設けることが好ましい。
【0115】
これにより、充電初期に発生するガスや電池内の残留水分を電池外に除去することができる。
【0116】
上記の開放化成工程を行った後における電池内のガスの除去方法は、特に限定されるものではなく、自然除去又は真空除去のいずれもよい。また、電池を完全に密閉する前に、電池を押圧等により適宜成形してもよい。
【0117】
実施例の非水電解液二次電池は、安全性に優れており、電池特性も良好であることから、こうした特性を生かして、携帯電話、ノート型パソコン等のモバイル情報機器における駆動電源用の二次電池としてだけではなく、電気自動車やハイブリド電気自動車等の様々な機器の電源として幅広く利用することができる。
【実施例】
【0118】
以下に例を挙げて実施例について更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。なお、以下の記載において、「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0119】
まず、合成した合成物の分子量測定方法及び化合物の同定方法を説明する。
【0120】
(1)分子量測定
ポリスチレンを基準として、下記の条件においてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)測定を行い、合成物の分子量及びその分布を測定した。
【0121】
〔測定条件〕
装置:液体クロマトグラフ装置「L−6000型」((株)日立ハイテクノロジーズ製)
検出器:示差屈折率計(RI)検出器「L−3300型」((株)日立ハイテクノロジーズ製)
カラム:Gelpack GL−R440+R450+R400M
試料濃度:120mg/5mL(ミリグラム/ミリリットル)
カラム温度:25℃
移動相:テトラヒドロフラン(THF)
流量:2.05ml/分(ミリリットル/分)
試料注入量:200マイクロリットル
(2)化合物の同定
下記の核磁気共鳴分光法(NMR、Nuclear Magnetic Resonance)を用いてH−NMR及び13C−NMRのスペクトルを測定し、合成物の同定及びコポリマーの組成の分析を行った。
【0122】
装置:BRUKER AV400M
H:400.13MHz
溶媒:重クロロホルム(CDCl
【実施例1】
【0123】
〔ビフェニル官能基を有するコポリマーの合成〕
上記化学式(8)で示され、x1=2相当の(x1は、オキシエチレンユニットの平均付加数である。)のビフェニル官能基を有するコポリマー(下記化学式(14)で表される。)を合成した。このコポリマーをポリマー(i)と呼ぶ。
【0124】
【化14】

【0125】
まず、温度計、還流冷却器及び撹拌装置を装着した50mL(ミリリットル)の2口のナス型フラスコにエトキシ化フェニルアクリレート(EO=2モル)であるジエチレングリコールモノフェニルエーテルアクリレート(4.25g)と4−ビニルビフェニル(0.75g)とを混合し、これに重合開始剤として50mgのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加えた。
【0126】
これにジメチルカーボネート(DMC)を20g入れ、アルゴンガスで容器内の酸素を除去した。その後、アルゴンガスでバブリングしながら、60℃のオイルバスで3時間反応させ、さらに70℃で2時間反応させた。
【0127】
反応終了後、反応混合物に30mLの冷メタノールを徐々に加え、撹拌して沈殿させた。その後、沈殿物を冷メタノールで数回洗浄して未反応のモノマー及び添加剤を除去し、固体状ポリマーを得た。
【0128】
洗浄後のポリマーを60℃で減圧乾燥してメタノールを除去した後、さらに80℃で一晩真空乾燥し、約3.3gの透明であり、粘弾性を有する薄黄色固体状のポリマー(i)を得た。収率は66%であった。
【0129】
ポリマー(i)の構造は、H−NMR(図1)及び13C−NMRで確認した。また、ポリマー(i)分子内でのジエチレングリコールモノフェニルエーテルアクリレートと4−ビニルビフェニルとの比は、H−NMRスペクトルにおける各プロトンピークの面積比から求めたところ、ほぼ仕込量の通りであった。その分子量をGPCで測定したところ、数均分子量は21000であった。
【0130】
<非水電解液の調製>
エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積比1:1:1の混合溶媒にLiPFを1.0mol/L溶解させ、これにポリマー(i)を一定量となるように添加して非水電解液を調製した。なお、非水電解液の調製は、Ar雰囲気中で行った。
【0131】
以下、ポリマー(i)の電解液の組成物を電解液(i)とした。
【0132】
<正極の作製>
93質量部のコバルト酸リチウムLCO(正極活物質)に、導電助剤としてカーボンブラックを3質量部加えて混合した。この混合物にポリフッ化ビニリデン(PVDF)4質量部をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させた溶液を加え、混合して正極合剤含有スラリーを調製した。
【0133】
この正極合剤含有スラリーを70メッシュの網に通過させて粒径の大きなものを取り除いた後、この正極合剤含有スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔で形成された正極集電体の片面に均一に塗付して乾燥した後、プレスしてφ=1.5cmの円形に電極を裁断して正極を作製した。
【0134】
合剤塗布量は100g/mであり、また、電極密度は3.0g/cmであった。
【0135】
<負極の作製>
φ=1.8cmの円形リチウム金属を電極として用いた。
【0136】
<電池の組み立て>
リード付きの正極と負極との間に、厚さ25μmのφ=2.5cmの円形ポリオレフィン製のセパレータを挟み込んで電極群を形成した。
【0137】
そこに、200μL(マイクロリットル)電解液を注液した。その後、電池をアルミ製ラミネートで封入し、電池を作製した。すべての作業はアルゴンボックス内で行った。
【0138】
<電池の評価方法>
1.電池の初期化方法
作製した電池は、12時間室温に放置した後、4.3Vまで0.3CmA相当の0.8mA(電流密度=0.45mA/cm)充電した。その後、3Vまで放電した。
【0139】
このサイクルを2サイクル行うことにより、電池を初期化した。また、2サイクル目の放電容量をこの電池の電池容量とした。また、2サイクル目の放電の際、放電開始後5秒目の電圧降下ΔEと、放電時の電流値Iとから直流抵抗Rを求めた。
【0140】
2.過充電試験
作製した電池は、4.3Vまで電流密度0.45mA/cmの電流値で予備充電した。
【0141】
その後、室温又は60℃において、1CmA相当の2.4mA(電流密度=1.36mA/cm)の電流値で7Vを上限として過充電試験を行った。過充電時の充電量を含む全充電量と電池の正極の理論容量(Liが正極材から全部抜けた時の所要電気量)との比(%)を用いて過充電特性を評価した。また、7Vの上限に達しない場合、電池の正極の理論容量を上限として過充電試験を行った。
【0142】
また、実施例の過充電抑制剤の反応開始電圧に対応する充電量は、一定電圧における充電量の変化値(dQ/dV)及び充電量の曲線(dQ/dV−Q曲線)からの過充電抑制剤の反応ピックから求めた。さらに、初期化後の4.3Vまで充電した上記の電池を1CmA相当の電流値で5Vまで定電流充電して終了し、3時間室温放置後の回路電圧OCVも測定し、正極への過充電の程度を評価した。
【0143】
図2に4wt%ポリマー(i)を添加した上記の電解液の過充電曲線を示す。また、図3に4wt%ポリマー(i)を添加した上記の電解液のdQ/dV−Q曲線を示した。図3において、横軸には、充電量Qに相当する、過充電時の充電量と電池の正極の理論容量との比(%)をとっている。
【0144】
表1は、図2〜3からわかることをまとめたものである。
【0145】
【表1】

【0146】
上記の過充電試験の結果から、ポリマー(i)は、次の特性を有することが明らかになった。
【0147】
1)ポリマー(i)は、過充電状態のLiCoO電極で電解重合し、電位応答性を有する。
【0148】
ポリマー(i)を用いた電池は、60℃で過充電する場合、全充電量と正極材の理論容量との比が約71%に達した時、電圧曲線に電位応答を示す電圧ピークが現れる(図2)。この電圧ピークにおける充電電圧は4.68Vであった。
【0149】
また、同等の充電率において、ポリマー(i)を添加していない系の電池と比べて、ポリマー(i)を添加した系の電池は、電位応答性を示す時点での充電電圧が高かった。これはポリマー(i)が過充電となったLiCoO表面で重合して膜を形成し、結果として電池の抵抗が増加したためと推測される。
【0150】
2)LiCoO電極での電位応答性は温度に依存する。
【0151】
温度の増加に従い、ポリマー(i)の電位応答性が現れる充電電圧が低下する(図2)。25℃(室温)と60℃とで過充電挙動を比較すると、電位応答時の充電電位は、室温で4.86Vであり、60℃で4.68Vであった。
【0152】
5Vまで過充電する時の充電量は、60℃での過充電の場合が明らかに大きい。これは、60℃の場合に、室温に比べて多くのビフェニル官能基が反応し、過充電時において、高電位になった正極でのビフェニル官能基の電解重合により充電電流が消費されたためであると考えられる。これにより、電池への過充電を抑制することができる。
【0153】
3)ポリマー(i)の添加により正極材への過充電が抑制される。
【0154】
室温においては、ポリマー(i)を添加した系と添加していない系とを比較した場合に、5Vまで過充電する時の総充電量が約85%と同等であるが、室温で3時間放置した後、ポリマー(i)を添加していない系のOCVは4.590Vであり、ポリマー(i)を添加した系の4.511Vに比べて約0.08V高い。これは、ポリマー(i)の添加により室温におけるLiCoO正極への過充電量が約8%減少したと意味する。
【0155】
さらに、60℃の場合、ポリマー(i)を添加した系の電池は、5Vまで過充電時の総充電量が多いにもかかわらず、充電後のOCVが4.455Vであり、ポリマー(i)を添加していない系の4.579Vより低い。
【0156】
これらの結果から、ポリマー(i)の添加により正極材への過充電が抑制されることがわかった。
【0157】
以上の結果から、合成したポリマー(i)は、低分子の過充電防止剤と同様の過充電挙動を示し、過充電防止剤として原理的に可能であることが検証できた。
【0158】
3.サイクリックボルタンメトリ(CV)測定
φ=5mmの白金電極を作用極とし、リチウム金属を対極とし、2wt%のポリマー(i)を有する電解液を電解質とする電池(セル)を作製し、これを用いてポリマー(i)の白金極における反応をCV測定で評価した。測定速度は5mV/cmとし、測定電位は3Vから開始し、3〜5.5Vの電位測定範囲で行った。
【0159】
測定装置は、英国ソーラトロン(Solartron)社製の周波数応答アナライザSI1255B型とポテンショスタット/ガルバノスタット(1287型)とを組み合わせて用いた。
【0160】
その電流−電位曲線を図4に示した。
【0161】
本図から、白金電極においても、温度の増加に従い、ポリマー(i)の電位応答性が現れる充電電圧が低下し、電位応答性が温度に依存することがわかった。
【0162】
4.走査型電子顕微鏡(SEM)観察
上記のCV測定後において白金電極の表面に形成されたダークな生成膜をSEMで観察した。
【0163】
セルを解体した後、白金極を取り出してDMCで数回洗浄し、さらにDMCに一晩浸漬した。その後、室温で3時間真空乾燥し、Ptスパッタコーティングで処理した後、走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製S−4800)にて表面測定した(図5及び6)。SEM観察時の加速電圧は5kVであった。
【0164】
図5及び6から、CV測定後、白金電極の表面に、電解液で洗浄しても溶けないポリマー(i)による褐色の膜が形成されていることがわかった。この膜は、その表面が多孔質であり、ポリマー(i)の粒子同士の凝集によって互いに結合して形成されている。また、ポリマー(i)の粒子は、サイズが小さく、滑らかであった。これは、ポリマー(i)が分子内のビフェニル官能基間の架橋反応により高分子化し、電解液に対する溶解性が急速に低下して電極表面で析出したためと推測される。
【0165】
(比較例1)
ポリマー(i)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして非水電解液を調製した。また、この非水電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電池を作製して評価した。
【0166】
その過充電の結果は、図3及び4に示す。
【0167】
(比較例2)
ポリマー(i)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして1wt%のビフェニル非水電解液を調製した。また、この非水電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電池を作製して評価した。
【0168】
図1から、ポリマー(i)は、ビフェニル官能基を有するコポリマーであることがわかる。
【0169】
また、図2〜4から、LCOの非水電解液二次電池にポリマー(i)を含有させた非水電解液を用いた場合、室温で4.85V、60℃で4.68Vとなる最大の電位応答性を示し、且つ、正極表面で膜を形成することがわかる。
【0170】
表1は、実施例のポリマーを作製するためのモノマーの仕込組成を示したものである。
【0171】
表2は、実施例のポリマーを用いた場合の電池の過充電特性を示したものである。
【0172】
表2からも、電池の過充電時において正極への充電が抑えられる同時に、電池の内部抵抗が大きくなることをわかる。
【0173】
【表2】

【0174】
【表3】

【実施例2】
【0175】
下記化学式(15)で示されたポリマー(ii)は、上記化学式(14)で示されたポリマー(i)と同種のモノマーを用いて合成した。表1に示した割合を用いたこと以外は、実施例1におけるポリマー(i)の合成と同様にして行った。
【0176】
【化15】

【0177】
ポリマー(i)に代えて上記のポリマー(ii)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして4wt%ポリマー(ii)を有する非水電解液を調製した。また、この非水電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池を作製し、評価した。
【0178】
その結果を表2に示した。
【実施例3】
【0179】
下記化学式(16)で示され、シクロヘキシルベンゼン構造を有するポリマー(iii)を合成した。ポリマー(iii)の合成は、出発原料に4−ビニルシクロヘキシルベンゼン及びジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートを用いたこと以外は、実施例1におけるポリマー(i)の合成と同様にして行った。
【0180】
【化16】

【0181】
ポリマー(i)に代えて上記のポリマー(iii)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして4wt%ポリマー(iii)を有する非水電解液を調製した。また、この非水電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池を作製し、評価した。
【0182】
その結果を表2に示した。
【実施例4】
【0183】
下記化学式(17)で示され、ビフェニル構造を有するポリマー(iv)を合成した。ポリマー(iv)の合成は、出発原料に4−ビニルビフェニル及び酢酸ビニルを用いたこと以外は、実施例1におけるポリマー(i)の合成と同様にして行った。
【0184】
【化17】

【0185】
ポリマー(i)に代えて上記のポリマー(iv)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして4wt%ポリマー(iv)を有する非水電解液を調製した。また、この非水電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池を作製し、評価した。
【0186】
その結果を表2に示した。
【実施例5】
【0187】
下記化学式(18)で示され、シクロヘキシルベンゼン構造を有するポリマー(v)を合成した。ポリマー(v)の合成は、出発原料に4−ビニルシクロヘキシルベンゼン及び酢酸ビニルを用いたこと以外は、実施例1におけるポリマー(i)の合成と同様にして行った。
【0188】
【化18】

【0189】
ポリマー(i)に代えて上記のポリマー(v)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして4wt%ポリマー(v)を有する非水電解液を調製した。また、この非水電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池を作製し、評価した。
【0190】
その結果を表2に示した。
【実施例6】
【0191】
下記化学式(19)で示され、ビフェニル構造を有するポリマー(vi)を合成した。ポリマー(vi)の合成は、出発原料に4−ビフェニルアクリレート及び酢酸ビニルを用いたこと以外は、実施例1におけるポリマー(i)の合成と同様にして行った。
【0192】
【化19】

【0193】
ポリマー(i)に代えて上記のポリマー(vi)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして4wt%ポリマー(vi)を有する非水電解液を調製した。また、この非水電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池を作製し、評価した。
【0194】
その結果を表2に示した。
【実施例7】
【0195】
下記化学式(20)で示され、シクロヘキシルベンジル構造を有するポリマー(vii)を合成した。ポリマー(vii)の合成は、出発原料に4−シクロヘキシルベンジルアクリレート及びジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートを用いたこと以外は、実施例1におけるポリマー(i)の合成と同様にして行った。
【0196】
【化20】

【0197】
ポリマー(i)に代えて上記のポリマー(vii)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして4wt%ポリマー(vii)を有する非水電解液を調製した。また、この非水電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池を作製し、評価した。
【0198】
その結果を表2に示した。
【実施例8】
【0199】
下記化学式(21)で示され、ビフェニル構造を有するポリマー(viii)を合成した。ポリマー(viii)の合成は、出発原料に4−フェニル安息香酸ビニル及び酢酸ビニルを用いたこと以外は、実施例1におけるポリマー(i)の合成と同様にして行った。
【0200】
【化21】

【0201】
ポリマー(i)に代えて上記のポリマー(viii)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして4wt%ポリマー(viii)を有する非水電解液を調製した。また、この非水電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池を作製し、評価した。
【0202】
その結果を表2に示した。
【実施例9】
【0203】
下記化学式(22)で示され、ビフェニル構造を有するポリマー(ix)を合成した。ポリマー(ix)の合成は、出発原料に4−フェニル安息香酸アリル及び酢酸ビニルを用いたこと以外は、実施例1におけるポリマー(i)の合成と同様にして行った。
【0204】
【化22】

【0205】
ポリマー(i)に代えて上記のポリマー(ix)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして4wt%ポリマー(ix)を有する非水電解液を調製した。また、この非水電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池を作製し、評価した。
【0206】
その結果を表2に示した。
【実施例10】
【0207】
下記化学式(23)で示され、シクロヘキシルベンジル構造を有するポリマー(x)を合成した。ポリマー(x)の合成は、出発原料に4−シクロヘキシル安息香酸ビニル及び酢酸ビニルを用いたこと以外は、実施例1におけるポリマー(i)の合成と同様にして行った。
【0208】
【化23】

【0209】
ポリマー(i)に代えて上記のポリマー(x)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして4wt%ポリマー(x)を有する非水電解液を調製した。また、この非水電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池を作製し、評価した。
【0210】
その結果を表2に示した。
【0211】
表2から、実施例2〜12の非水電解液二次電池は、60℃で過充電した場合、電解液に溶解したポリマーが4.4〜4.8Vの電位範囲において電解重合し、比較例1と比べて正極への充電を抑制していることがわかる。したがって、ポリマー(ii)〜(x)を用いても、ポリマー(i)を用いた場合と同様の効果を奏することがわかる。
【0212】
また、低分子量の過充電添加剤であるビフェニルを有する電池と比べて、過充電後の電池の抵抗が大きく向上したこともわかる。
【0213】
以下、実施例の二次電池の構成について図を用いて説明する。
【0214】
図7は、実施例の二次電池(筒型リチウムイオン電池)を示す分解斜視図である。
【0215】
本図に示す二次電池は、正極1及び負極2がセパレータ3を挟み込み形で積層され、捲回されたものを非水電解液とともに電池缶101に封入した構造を有する。電池蓋103の中央部には、正極1と電気的に接続された正極端子102が設けてある。電池缶101は、負極2と電気的に接続されている。
【0216】
図8は、実施例の二次電池(ラミネート型セル)を示す断面図である。
【0217】
本図に示す二次電池は、正極1及び負極2がセパレータ3を挟み込み形で積層されたものを非水電解液とともに包装体4で密封した構造を有する。正極1は、正極集電体1a及び正極合剤層1bを含み、負極2は、負極集電体2a及び負極合剤層2bを含む。正極集電体1aは、正極端子5に接続してあり、負極集電体2aは、負極端子6に接続してある。
【0218】
図9は、実施例の二次電池(角型電池)を示す斜視図である。
【0219】
本図において、電池110(非水電解液二次電池)は、角型の外装缶112に扁平状捲回電極体を非水電解液とともに封入したものである。蓋板113の中央部には、端子115が絶縁体114を介して設けてある。
【0220】
図10は、図9のA−A断面図である。
【0221】
本図において、正極116及び負極118は、セパレータ117を挟み込む形で捲回され、扁平状捲回電極体119を形成している。外装缶112の底部には、正極116と負極118とが短絡しないように絶縁体120が設けてある。
【0222】
正極116は、正極リード体121を介して蓋板113に接続されている。一方、負極118は、負極リード体122及びリード板124を介して端子115に接続されている。リード板124と蓋板113とが直接接触しないように絶縁体123が挟み込んである。
【0223】
以上の実施例に係る二次電池の構成は例示であり、本発明の二次電池は、これらに限定されるものではなく、上記の過充電抑制剤を適用したものすべてを含む。
【0224】
本発明によれば、電池の過充電時において内部抵抗が増加し、過電圧が増加するため、充電状態を適切に検知して充電電圧を制御することができる。その結果、過充電抑制機能を有する安全性に優れたリチウムイオン電池が提供することが可能となる。
【0225】
また、この過充電抑制剤は、電解液に溶解し、リチウム金属基準による電位が4.3〜5.5Vで作動するため、電池内における電気化学的安定性が高く、電池性能を損なうことなく使用できる。
【0226】
さらに、本発明の過充電抑制剤は、電解重合を生じさせるビフェニル基、シクロヘキシルベンジル基等の官能基が一個のポリマーに密集しているため、モノマーに比べて重合反応が速い。このため、急速に内部抵抗が増加するようになっている。
【0227】
シクロヘキシルベンゼン等の低分子量の化合物は、電解重合によって過充電を抑制する効果がある。しかし、そのすべてが電解重合によって消失した場合、電池の過充電反応が再び始まる。このとき、電解重合の生成物に電池の内部抵抗を増大させる作用がないため、過充電を抑制することができない。
【0228】
この点に関して、本発明の過充電抑制剤は、電解重合による生成物に電池の内部抵抗を増大させる作用を有するため、シクロヘキシルベンゼン等の低分子量の化合物よりも優れている。
【0229】
一方、チオフェンのポリマーは、電気化学的安定性が低く、電池内部で分解しやすく、電池性能を低下させる懸念がある。特に、リチウム金属基準による電位が4.0V以下の条件でも電解重合するため、作動電圧が4.0V以上である現行のリチウムイオン電池(LiCoO等を用いる。)に適用することは困難である。
【0230】
この点に関して、本発明の過充電抑制剤は、電池の作動電圧の範囲内において反応せず、過充電状態になった時に電解重合するとともに、電池の内部抵抗を増加させ、電池反応をシャットダウンさせる機能を有するため、チオフェンのポリマーよりも優れている。
【0231】
また、電池の過充電時において内部抵抗が増加し、過電圧が増加するため、充電状態を適切に検知することができる。このため、電池の制御の面においても有効である。
【符号の説明】
【0232】
1:正極、1a:正極集電体、1b:正極合剤層、2:負極、2a:負極集電体、2b:負極合剤層、3:セパレータ、4:包装体、5:正極端子、6:負極端子、14:正極タブ、15:負極タブ、16:内蓋、17:内圧開放弁、18:ガスケット、19:PTC素子、20:電池蓋、101:電池缶、102:正極端子、103:電池蓋、110:電池、112:外装缶、113:蓋板、114:絶縁体、115:端子、116:正極、117:セパレータ、118:負極、119:扁平状捲回電極体、120:絶縁体、121:正極リード体、122:負極リード体、123:絶縁体、124:リード板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性モノマーを繰り返し単位として有し、下記化学式(1)で表されることを特徴とする過充電抑制剤。
【化1】

(式中、Xは、前記重合性モノマーの一つであり、リチウム金属基準による電位が4.3〜5.5Vの条件で電解重合する官能基を有し、Yは、前記重合性モノマーの一つであり、エーテル結合又はエステル結合を有し、Xであってもよい。aは、1以上の整数である。bは、0又は1以上の整数である。)
【請求項2】
前記X及び前記Yは、炭素同士の二重結合を有することを特徴とする請求項1記載の過充電抑制剤。
【請求項3】
前記X及び前記Yは、ビニル基又はアクリレート基を有することを特徴とする請求項2記載の過充電抑制剤。
【請求項4】
前記X及び前記Yは、下記化学式(2)又は(3)で表されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の過充電抑制剤。
【化2】

【化3】

(式中、R及びRは、下記化学式(4)〜(6)のいずれかで表される芳香環を有する官能基であり、R及びRは、炭素数1〜3のアルキル基であって、このアルキル基の水素がフッ素で置換されていてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基又は芳香族官能基を有する基であって、このアルキル基又は芳香族官能基の水素がフッ素で置換されていてもよく、下記化学式(7)で表されるアルコキシ基を介する炭素数1〜6のアルキル基又は芳香族官能基であってもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基又は芳香環を有する官能基であって、このアルキル基又は芳香環を有する官能基の水素がフッ素で置換されていてもよい。c及びeは、1以上の整数であり、d及びfは、0又は1以上の整数である。)
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

(式中、Rは、炭素数2〜6のアルキル基又はフェニレン基であって、このアルキル基又はフェニレン基の水素がフッ素で置換されていてもよく、gは、1〜10の整数である。)
【請求項5】
前記X及び前記Yのうち少なくとも一つは、下記化学式(8)〜(10)の群から選択されることを特徴とする請求項1記載の過充電抑制剤。
【化8】

【化9】

【化10】

(式中、x1〜x3は、1〜10の整数であり、m1〜m3は、1以上の整数であり、n1〜n3は、0又は1以上の整数である。R〜R10は、炭素数1〜6のアルキル基又は芳香環を有する官能基であって、このアルキル基又は芳香環を有する官能基の水素がフッ素で置換されていてもよい。)
【請求項6】
前記X及び前記Yのうち少なくとも一つは、下記化学式(11)〜(13)の群から選択されることを特徴とする請求項1記載の過充電抑制剤。
【化11】

【化12】

【化13】

(式中、p1〜p3は、1以上の整数であり、q1〜q3は、0又は1以上の整数である。R11〜R13は、炭素数1〜6のアルキル基又は芳香環を有する官能基であって、このアルキル基又は芳香環を有する官能基の水素がフッ素で置換されていてもよい。)
【請求項7】
非水溶媒と、電解質塩と、請求項1〜6のいずれか一項に記載の過充電抑制剤とを含むことを特徴とする非水電解液。
【請求項8】
前記電解質塩は、リチウム塩を含むことを特徴とする請求項7記載の非水電解液。
【請求項9】
前記非水溶媒は、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを含むことを特徴とする請求項7又は8に記載の非水電解液。
【請求項10】
正極、負極、セパレータ及び請求項7〜9のいずれか一項に記載の非水電解液を含むことを特徴とする二次電池。
【請求項11】
前記正極及び前記負極は、リチウムを吸蔵放出可能であることを特徴とする請求項10記載の二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−159550(P2011−159550A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21700(P2010−21700)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】