説明

過分極化原子核の富化法および該方法を実施するための装置

【課題】 本発明は過分極化原子核を富化する方法に関する。
【解決手段】 この方法は、293K以下に冷却された溶剤にガス混合物中に流れる過分極原子核を溶解するものである。この方法を実施する装置はチャンバー中に存在する溶剤に溶解している過分極化原子核を脱気するための手段を備えた少なくとも1つのチャンバーを有している。この装置は最大0.04Tの磁場を形成するための手段を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は過分極化原子核の富化法および該方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分極化された希ガスを用いる磁気共鳴断層撮影(MRT)並びに磁気共鳴スペクトロスコピー(NMR)における新規な開発は、医学、物理学および材料科学における用途が期待させる。希ガスの核スピンの大きい分極化は、非特許文献1から知ることができるように、アルカリ金属原子による光ポンプによって達成することができる。
【0003】
材料中への光照射による光ポンプによって一定のエネルギー状態の原子核内電子数は平衡状態に比べて著しく増加されている。この場合、分極とは原子核のスピンまたは電子の整列(配列)の程度を意味する。例えば100%の分極は、全ての核または電子が同様に配向していることを意味する。核または電子の分極と磁気モーメントとは関連している。
【0004】
過分極化した129Xeは例えば人間によって吸入されるかまたは人間に注射される。10〜15秒後に分極化されたキセノンは脳に集まる。磁気共鳴断層撮影によって脳中のこの希ガスの分布が確認される。その結果は更に分析するために利用される。
【0005】
分極化される希ガスの選択はその都度、用途状況に依存する。129Xeは大きい化学的変位を示す。キセノンが例えば表面に吸着された場合には、それの共鳴振動数が著しく変化する。更にキセノンは親油性液体に溶解する。この様な性質を所望する場合には、キセノンが使用される。
【0006】
希ガスのヘリウムは液体に殆ど溶解しない。それ故に、空洞が関係する場合には、同位体のHeが一般に使用される。人間の肺は例えばかゝる空洞である。
【0007】
若干の希ガスは他の価値ある性質を有している。例えば同位体の83Kr、21Neおよび131Xeは、例えば基礎研究においてあるいは表面物理における実験にとって興味の持てる四極子モーメントを有している。これらの希ガスは勿論非常に高価であり、それ故にこれらを多量に使用する用途には適していない。
【0008】
非特許文献2からは、129Xeが次の様に分極化装置中で分極化することは公知である。
【0009】
ガスの準備から始めて、それぞれ1%の129XeおよびN並びに98%のHeの混合物よりなるガス流を容器中でRb−蒸気で富化させそして試料セルに通す。レーザーによって円偏光、要するに、角運動量あるいは光子のスピン全てが同じ方向を指す光を準備する。この試料セル中では光ポンピング可能な種としてのRb−原子がレーザー光線(λ~ 795 nm、Rb D1−ライン)で磁場に向って縦方向に光ポンピングされそしてRb−原子の電子スピンが分極化される。この場合、光子の角運動量はアルカリ原子の遊離電子に移行する。従ってアルカリ原子の電子のスピンは熱平衡状態からの大きなずれを示す。従ってアルカリ原子は分極化される。アルカリ原子と希ガス原子との衝突によってアルカリ原子の電子スピンの分極は希ガス原子に移る。こうして分極化された希ガスが生じる。アルカリ原子の光ポンピングによって生じる、アルカリ原子の電子スピンの分極は、アルカリ電子のスピン交換によっても希ガスの核スピンへ移行される。
【0010】
アルカリ原子は光と相互作用をする大きな光学的双極子モーメントを持っているので、アルカリ原子が使用される。更にアルカリ原子は遊離電子を有しているので、原子当たり2つ以上の電子の間での不利な相互作用は生じ得ない。
【0011】
Heの分圧はガス混合物中において10barまでである。他のもの(キセノンあるいは窒素)の分圧に比較してこれは非常に高い。この比較的に高い分圧が、分極化原子がガラス製セルの試料壁の所に稀にしか到達せず、そこにおいて例えば常磁性中心との相互作用によってそれの分極を失う。Heの分圧の増加と共に、分極化原子がセル壁に不都合にも衝突してしまう確率が減少する。
【0012】
重い希ガス原子、例えばキセノン原子はアルカリ原子との衝突の際に、光ポンピングされたアルカリ原子の分極の著しい緩和を惹き起こす。アルカリ原子の分極化を光ポンピングの際にできるだけ大きく保持するためには、ガス混合物中のキセノンガスの分圧は相応して小さくしなければならない。ガス混合物中のキセノン分圧0.1barですら、レーザー作業は、試料全容積において約70%のアルカリ原子分極を達成するために100ワットの程度まで使用する。
【0013】
129Xeについては、核スピン−分極−構成時間は高いスピン交換−断面積のために20〜40秒の間にある。ルビジウム−キセノン衝突についての非常に大きいルビジウム−スピン破壊率のために、キセノン分圧の最適なスピン交換ポンピングの場合には上述の値を超える必要がなく、従って十分に高いルビジウム分極が保持できる。それ故にかゝる分極化装置においてはHeは緩衝ガスとして線幅を拡げるために使用される。
【0014】
一定距離から吹き込まれそして内部で希ガス原子あるいは原子核が光学的にポンピングされるガラス製試料セルが使用する。
【0015】
この試料セルは従来技術によれば数10ガウスの静止磁場B0に存在しており、この磁場はコイル、特にいわゆるヘルムホルツコイル対(Helmholtzspulen−paar)によって作られる。磁場の方向は試料セルの円筒軸に平行あるいはレーザーの照射方向に平行である。この磁場は分極化原子の搬送に役立つ。レーザー光によって光学的に高分極化されたルビジウム原子はガラス製セル中で特にキセノン原子と衝突しそしてそれの分極をキセノン原子に付与する。
【0016】
分極化装置の出口での代表的な分圧値は〜1014cm−3のRbの数量的部分密度のもとでpHe〜7bar、pN2〜0.07bar、pXe〜0.07barである。129Xeの過分極化の際に、分極化の間のそれの分圧はスピン−交換−光学的ポンピングによって約0.1に制限されている。多くの用途にとって十分な量および密度の過分極化ガスを作製するためには、富化するためにガス中のXe密度を高めなければならない。
【0017】
過分極化された129Xeを富化する方法は特許文献1から公知である。この方法の間に、過分極化された129Xeを含有するガス混合物を富化貯蔵器に流される。この貯蔵器は例えば液体Nで、キセノンを凍結した状態に凝縮するのを実現する温度に冷却し、その結果流れる出口ガスから凍結状態で貯蔵器中で富化される。ルビジウムは残りのガスの融点に比べて高い融点であるために試料セルの出口では壁に分離析出する。分極化された129Xeあるいは残留ガス混合物は試料セルによって完全凍結状態に更に導かれる。この試料セルは、その末端が液体窒素に浸されているガラス製フラスコよりなる。このガラス製フラスコは約1テスラーまでの強度を有する磁場の中に置かれる。約1時間の長い129Xe富化時間を達成するためには、磁場は約1テスラーの大きさでかけなければならない。何故ならば弱い磁場でかつ液体Nの温度では分極化されたXe−アイスの緩和時間は数分しかであり、その結果長い富化時間の間に分極の相当な割合が再び崩壊するからである。比較的長い緩和時間(T1~数時間)は、Xe−アイスが追加的に液体Heの温度で約4Kで富化・貯蔵される時にしか達成することができない。
【0018】
従って、分極化後に129Xeを非常に迅速にかつできるだけ損失なく凍結させ、〜1テスラーの強い磁場によって保存しそして次に再びXe−ガスに蒸発させることを必要とするという欠点がある。しかしながら希ガスを利用するためには、キセノン分極が緩和によって、もはや更に利用できないほどに著しく減退する前の約1〜2時間しか残っていない。強い磁場を用意する費用および129Xeを凝縮するための温度の費用は方法を高価なものとしそしてそれ故に多大な経費を必要とする。
【特許文献1】ヨーロッパ特許第0890066号明細書(B1)
【非特許文献1】Happer等, Phys. Rev. A, 29, 3092 (1984)
【非特許文献2】Driehuys 等、“Appl. Phys. Lett.(1996)”、69、1668
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、過分極化された原子核を富化する経済的な方法を提供することである。更に本発明の課題は、この方法を実施する装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この課題は請求項1の特徴部分全部を含む方法によっておよび併記の請求項に従う装置いよって解決される。有利な実施態様はそれに従属する請求項に示す。
【0021】
この方法は、ガス混合物中の流動性の過分極化原子核を293K以下に冷却された溶媒中に溶解することを特徴としている。
【0022】
溶解性は所定の温度および圧力のもとで溶剤の上に存在するガス空間中の過分極化ガスの密度に対する比としての溶剤中の過分極化ガスの密度として規定される。この溶解性はオストワルト係数とも称される。
【0023】
本発明の範囲においては、室温より下に冷却された特に有機溶剤、例えば炭化水素によって気相に比べて、溶剤中でガスの大きな密度増加が達成されることがわかった。室温より下に冷却された溶剤中には室温に比較して少なくとも2倍の高い溶解性が達成される。これは溶剤中での過分極化原子核を富化するのに利用される。
【0024】
この溶剤は過分極化原子核に対して室温未満で少なくとも2のオストワルト係数を有する。下げた温度では溶解性あるいはオストワルト係数は200までの値に上昇する。室温の上ではオストワルト係数は有利にも1より小さい値もとり得る。
【0025】
本発明の方法は過分極化原子核の富化に決して限定されない。勿論、この方法がガス混合物中の一定の富化すべき成分が該混合物の他の成分に比較して293K以下に冷却された溶剤中に特に良好に溶解する場合には必ず使用できることが判る。
【0026】
例えばここでは、NおよびOを含有する混合物から炭素同位体12Cおよび13Cを富化することが挙げられる。室温より下に冷却された溶剤に溶解した後に炭素同位体を富化させそしてNおよびOから分離される。12Cおよび13Cは続いて同位体分離によって分離される。混合物からの価値あるそれぞれのガスを富化させそして場合によっては別の方法段階で分離することができる。この方法は、経済的にかつ簡単に取り扱うことができるという長所を有している。
【0027】
本発明の別の一つの実施態様においては、この方法のために高粘度の脂肪親和性溶剤が選択される。
【0028】
過分極された129Xeのための溶剤としては例えば標準条件(293k、1bar)で約5のオストワルト係数のトルエンまたは標準条件で約2.5のオストワルト係数を有するエタノールが選択される。
【0029】
ペンタン、アセトン、メタノールおよびブタノールも過分極された希ガスの富化のための一般に適する溶剤である。この溶剤は温度に相応して選択することができる。
【0030】
溶剤は本発明の特に有利な一つの実施態様においては例えば180Kの低温でも液相状態で存在している。
【0031】
本発明の別の一つの実施態様においては、過分極化原子核の溶液の場合には、過分極原子核を含まない純溶剤に比較して溶剤の融点が低下される。
【0032】
このような融点低下は、129Xeが溶解されているトルエンについても本発明において確認された。
【0033】
従って溶剤への過分極原子核の溶解は、従来技術で予期できるよりも低い温度で行われる。この効果は、下げた温度で溶解を迅速に早めて行われるので富化に利用される。
【0034】
溶剤としてのオリーブ油およびベンゼンも同様に高いオストワルト係数を有している。
【0035】
溶剤を適切に選択した場合には、溶解性を所望の通り高めそしてそれ故に過分極化原子核を溶剤中に富化することになる。
【0036】
溶剤には例えばエタノールおよび/またはトルエンが包含される。これら両方の溶剤は室温より下で過分極化原子核に対しての大きな溶解性が本発明にいおいて確認された。これらの溶剤がガス混合物からの他の成分、例えば13Cも富化するのに用いることが考えられる。
【0037】
富化すべき過分極化原子核の場合には、本方法の間に溶剤中でのそれのT−緩和時間は溶剤中での滞留時間よりも長く選択する。この目的のためには、過分極原子核の緩和時間が100秒よりも長い重水素化溶剤、例えばCCD(トルエン)またはCDCDOD(エタノール)を選択することができる。
【0038】
分極化装置のガス流から溶剤中での過分極化希ガスの回収は好ましくは、溶剤が冷却された状態で存在するかまたは未だ冷却されるチャンバー内で行う。他の富化すべきガスも相応してこのようなチャンバー内に導入される。
【0039】
本方法では、富化すべき成分、例えば過分極化希ガスを溶解した後で溶剤からの脱気を合わせて場合によっては行う。この目的のためには溶剤を冷却チャンバーから脱気手段を備えた他のチャンバーに導入してもよい。
【0040】
チャンバーが冷却および加熱手段を備えている限り、一つの同じチャンバーで回収および脱気を実施することも考えられる。
【0041】
チャンバー、特に脱気が行われるチャンバーの容積は、過分極化原子核を富化する場合に内壁での壁接触による核の緩和時間が富化時間よりも長いように選択する。
【0042】
過分極化原子核のT−時間はなかでもチャンバー内壁とのそれの相互作用によって決められる。チャンバーの内壁および/またはチャンバー間の連結導管の内壁を例えば重水素化モノクロロシランおよび/またはPFA(ペルフルオロアルコキシ化合物)で被覆することによって1時間よりも長いT−時間が達成できる。例えばXe−ガスについては56h/ρ[amagat]の基本T−時間(Xe−Xe−相互作用)に基礎を置くことができる。
【0043】
それ故に本発明の方法では過分極化原子核は公知の方法でよりも長く富化できかつ保存できる。
【0044】
富化する方法の間に、冷却された溶剤中への富化すべき成分あるいは過分極化原子核の溶解および該溶剤からの脱気の各段階を複数回繰り返すことが特に有利であり得る。特に溶剤はこの目的で準備されたチャンバーに導入することができる。このように行うことによってポンピング効果が達成されそして富化するために富化すべき成分の密度を更に高めることが達成できる。
【0045】
溶剤の流れは、各チャンバー中でのまたは圧力平衡容器または貯蔵器中での圧力を制御することによって連続的にまたは半連続的に制御できる。
【0046】
富化すべき成分が過分極化129Xeである場合には、本方法は、貯蔵器媒体中に溶剤次第で僅かの量しかNが溶解されていないという長所を有している。これと反対に公知の凍結法の場合には著しい量のNが凍結されている。
【0047】
本方法を実施する装置は、従ってチャンバー中に存在する溶剤中に溶解されている富化された成分を脱気するための手段を備えた少なくとも1つの該チャンバーを有している。
【0048】
このチャンバーは脱気するための目的のために、例えば加熱コイルおよび/または超音波を発生する手段を装備している。
【0049】
富化すべき成分として過分極化希ガスのためには、それ故にこの装置は最大0.04テスラーの強度の磁場を発生する手段、例えばヘルムホルツコイルを少なくとも1つ装備している。
【0050】
有利にも、過分極した原子核のための強い磁場を発生するために高価で重い磁石はもはや使用する必要がない。
【0051】
富化するために冷却された溶剤を最大たった0.04テスラーの磁場に付さなければならないだけなので、むしろ簡単なヘルムホルツ電磁石または永久磁石で間に合う。このことは人がこの種の装置を携帯しての可動性に影響を及ぼす。
【0052】
同じチャンバー内で回収および脱気を行う場合には、このチャンバーは脱気のための手段の他に冷却手段も装備している。本発明の方法では過分極化原子核の富化が、従来技術に従って使用されるのよりも著しく高い温度で可能とされる。凝縮されたXe−アイスの場合の77Kに比べて、溶剤の温度は富化の間に例えば約180Kに調整することができる。それ故に、溶剤を用いる本発明の富化法の場合に必要とされる温度は標準冷却法および手段、例えばペルチエ要素を備えた手段で達成することができる。これは移動可能装置のための本発明の装置のコンパクト構造化を有利にも可能とする。
【0053】
他のチャンバーで脱気を実施する限り、この装置は、過分極化原子核または他の富化すべき成分が溶解される少なくとも1つのチャンバーおよびこのチャンバーに連結されている他の第二のチャンバーを有している。中で富化されたガスを有する冷たい溶剤は第一のチャンバーから第二のチャンバー内に最初に導かれ、そこにおいてそれの脱気が行われる。第二のチャンバーは次いで溶剤から脱気するための上述の手段を有している。
【0054】
この装置は場合によっては、富化されたガス、例えば過分極された希ガスのための貯蔵器を有している。この貯蔵器は、脱気が行われる一つまたは複数のチャンバーに連結されている。富化された、場合によっては過分極されたガスは貯蔵器に案内される。これに対して溶剤は廃棄されるかまたは冷却下に冷却チャンバー中に戻される。
【0055】
本発明の特に有利な一つの実施態様においては、富化すべき成分、例えば過分極化希ガスを冷却された溶剤に溶解する一つのチャンバーおよびこれが再び脱気される別のチャンバーよりなる相前後して連結された少なくとも2つの構成単位を有している。これによって溶解回収(Einloesung)および脱気よりなるプロセスが繰り返されそして例えば二段階で実施される。これにより溶剤への溶解性あるいは富化を更に高めるのが特に有利である。
【0056】
勿論、293K以下に冷却された溶剤は富化のためだけでなく、むしろ富化すべき成分、例えば特定の過分極化希ガスの貯蔵および運搬にも利用できる。
【0057】
一度富化されたガス、特に過分極化希ガスはしかし冷却された溶剤自体においても特に興味が持たれる。本発明の方法は即ち上述の長所に限定されない。多くの用途状況においては、調べようとする対象または物質に、例えば複雑な分子に近寄らせるかまたは多孔質構造中への液体の拡散を調べるために、例えば過分極化129Xeを最初から液体に溶解して使用する必要がある。Xe−アイスから解凍する段階は本発明の方法では有利にも省ける。
【0058】
それ故に溶解した過分極化希ガスを含有する冷却された溶剤はまさに磁気共鳴断層撮影実験のための造影剤である。
【0059】
例えば溶解した129Xeを含有する冷却されたエタノールまたはトルエンを例示する。
【0060】
溶剤が293Kよりも低い温度を有する、過分極化原子核、または13C、235Uまたは238Uを含有する冷たい溶剤はそれ故特に興味が持たれる。この溶剤にはトルエンまたはエタノールの他にペンタンまたは他の溶剤も包含される。かゝる溶剤は
更に本発明を実施例および添付の図面によって更に詳細に説明する。
【0061】
図1は溶剤の温度との関係でのトルエンおよびエタノールへの129Xeの溶解性についての測定結果を示している。
【0062】
図2は本発明の方法を実施するための装置を図示している。
【0063】
図1によれば驚くべきことに、273Kの温度で既に129Xeの溶解性あるいはオストワルト係数が室温に比べて著しく高められることが判る。
【0064】
約240ケルビンの温度では、気相に比べて既に10倍高い129Xe密度がエタノール中においてもトルエン中においても達成される。溶剤中への129Xeのさらに高い溶解性は、180ケルビンの温度に冷却した時に達成される。この場合には気相に比べて既に100倍高い密度がトルエン中でもエタノール中でも達成される。僅かしかないケルビンにさらに冷却することが、オストワルト係数を既に200の値に高めることを実現する(図2)。
【0065】
溶剤がさらに冷却されるならば、溶解性はさらに飛躍的に上昇する。この効果は他の溶剤でもおよび他の過分極化原子核の場合でもまたは13Cを用いても場合によってはその中に溶解された他の成分でも生じる。低温でのこの飛躍的上昇は、過分極化原子核の溶液が過分極化原子核不含の純溶剤に比較して溶剤の融点を低下させることで確認でき、これはまた他の溶剤についても予想できるので、特に興味が持たれる。
【0066】
富化装置は例えば図2から推断できる。
【0067】
過分極化原子核を含有するガス混合物1を分極化装置(図示してない)から、冷却された溶剤を含有する第一のチャンバー2に流す。チャンバー2は溶剤を冷却するための手段を有している。この場合、ガス混合物を含有する溶剤は例えば180Kの温度Tに冷却される。
【0068】
チャンバー2ではガス成分は溶剤中へのそれの溶解性に従って富化されそしてそれ故に互いに分離される。混合物の不必要な成分は弁3によって放出される。過分極化原子核で富化された溶剤は、連結導管を通してチャンバー2から別のチャンバー5に導かれる。チャンバー5は脱気のための手段、例えば超音波発生装置および/または加熱手段を有している。溶剤の脱気はチェンバー5において熱および/または超音波によっても行う。
【0069】
従ってチャンバー5は溶剤からの過分極化原子核のための脱気チャンバー5である。チャンバー5においては溶剤の上の過分極化原子核を脱気することによって、元の溶解されたガスのガス圧を調整する。ガス圧は溶剤チャンバー2中の過分極化原子核(ガス成分)の分圧によって、およびチャンバー2中の温度Tおよびチャンバー5中の温度Tでの溶剤中のこのガス成分の溶解性の比によって決められる。
【0070】
溶剤が導入される脱気チャンバー5は十分大きな容積を有しているので、過分極化核の長いT−緩和時間を保証する。この容積は、約2barのガス圧を調整するように決められる。
【0071】
チャンバー5中での脱気の後に、図2に伸び連なる線によって示されるように、溶解および脱気よりなるプロセスを繰り返すことができる。この目的のためにチャンバー5から出発して第一の富化段階の最後に、過分極化原子核を有するガスがチャンバー6に導かれそしてそこでTの温度に冷却される。溶剤中で富化した後に該溶剤は温度Tのチャンバー8に、脱気のために導入される。チャンバー8は十分な容積を有している。
【0072】
チャンバー6は冷却用のチャンバー2と同様に溶剤を冷却するための冷却装置7を装備している。
【0073】
チャンバー2,6並びに5、8におけるそれぞれの温度TおよびTは必ずしも同じである必要はない。勿論、これらチャンバーは用途状況次第で加熱手段および超音波発生装置を装備していてもよい。チャンバー8からは脱気された過分極化原子核が貯蔵器9に導入される。
【0074】
貯蔵器9の内壁は、過分極化原子核の緩和時間を延長するためにPFAまたはモクロロシランで被覆されている。原則として全てのチャンバー、および装置間の連結導管はこのように形成されていてもよい。
【0075】
溶剤は廃棄液用容器14中に導かれそして廃棄されるか、または再利用するために容器10中に中間貯蔵される。運搬はガス圧によって制御され得る。この目的のためには溶剤を例えば容器10中で圧力平衡に委ねる。廃棄液用容器14は脱気用チャンバー5、8の一方または両方の後に配置されている。
【0076】
次いで溶剤は冷却蛇管11を経て連結導管12を通って再びチャンバー2に戻される。
【0077】
溶剤の入った貯蔵容器13は冷却蛇管11の前に配置されており、使用済み溶剤を交換しそして所定の温度Tに予備冷却してもよい。
【0078】
方法全体は貯蔵器9および圧力平衡容器10の圧力以上に制御することによって連続的にまたは半連続的に制御できる。
【0079】
この方法は図示した弁によって少なくとも部分的に非連続的に制御することができる。さらに、図示してない弁が、例えば廃棄液容器14の方に分岐する前のチャンバー8の後に配置されていてもよい。
【0080】
図2に破線で示されている様に本方法を一段階で実施することも可能である。その場合には、図示されてない別の弁が、チャンバー5から供給される溶剤を場合によっては圧力平衡容器10に案内することを保証するかまたは相応する三角弁を圧力平衡容器10の前で使用する。
【0081】
貯蔵器9にガスを貯蔵するためには、0.01Tより小さい磁場を用意すれば十分である。この目的のためにはヘルムホルツコイルを適当に配置しそして装置の構成要素とする。
【0082】
溶剤(トルエン/エタノール)中で色々な温度での以下の129Xe密度を調整する:
第1段階 第2段階
(チャンバー2) (チャンバー6)
T = 240K, pXe,Sol 〜0,7 bar 〜3,5 bar
T = 200K, pXe,Sol 〜2,1 bar 〜10 bar
T = 180K, pXe,Sol 〜7,0 bar 〜20 bar
ペンタン、アセトン、メタノールおよび他の溶剤でも同様な値が達成される。
【0083】
勿論、かゝる装置にて他の価値あるガス、例えば13Cも富化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】は溶剤の温度との関係でのトルエンおよびエタノールへの129Xeの溶解性についての測定結果を示している。
【図2】は本発明の方法を実施するための装置の態様を示す流れ図を示している。
【符号の説明】
【0085】
1・・・過分極化原子核を含有するガス混合物1
2、6・・・溶剤含有チャンバー
5、8・・・ 脱気用チャンバー
9・・・貯蔵器
10・・・圧力平衡容器
11・・・冷却蛇管
13・・・溶剤貯蔵容器
14・・・廃棄液用容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス混合物の成分を富化する方法において、ガス混合物中の流動性成分を293K以下に冷却された溶剤中に溶解することを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
過分極化原子核を富化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶剤として有機炭化水素を選択することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
過分極化原子核のためにあるいは富化すべき成分のために少なくとも2のオストワルト係数を有する溶剤を選択する、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
溶剤としてエタノール、トルエン、ベンゼン、オリーブ油、ブタノール、ペンタン、メタノールおよび/またはアセトンを選択する請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
129Xeまたは13Cを富化させる、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
重水素化溶剤を選択する、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
富化の間に、冷却された溶剤が最大約0.01〜0.04テスラーの磁場にかけられる請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
冷却された溶剤の温度を180Kまでから選択する、請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
上記成分あるいは過分極化原子核の溶解後に溶剤を脱気する請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
溶剤を脱気前に脱気用チャンバーに導入する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
冷却された溶剤に上記成分あるいは過分極化原子核を溶解しおよび該溶剤の脱気を行う各段階を少なくとも1度繰り返す請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
富化すべき成分を溶解することによって溶剤の融点を下げる請求項1〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一つに記載の方法を実施する装置において、富化した成分を脱気するための手段を備えた少なくとも1つのチャンバーを持つことを特徴とする、上記装置。
【請求項15】
冷却装置を備えた少なくとも1つのチャンバーを持つことを特徴とする、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
最大0.04Tの磁場を生じさせる手段を特徴とする請求項14または15に記載の装置。
【請求項17】
少なくとも1つのヘルムホルツコイルおよび/または永久磁石を有する請求項16に記載の装置。
【請求項18】
脱気ガス用チャンバーに連結されている、富化された成分のための貯蔵器を有する、請求項14〜17のいずれか一つに記載の装置。
【請求項19】
各チャンバー、貯蔵器またはその他の連結導管の内壁が特別に重水素化されたモノクロロシランおよび/またはPFAを有する、請求項14〜18のいずれか一つに記載の装置。
【請求項20】
過分極化原子核または13Cを富化、保存および/または運搬するために293K以下に冷却された溶剤を用いる方法。
【請求項21】
溶剤としてエタノール、トルエン、ベンゼン、オリーブ油、ブタノール、ペンタン、メタノールおよび/またはアセトンを用いる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
溶剤として親油性炭化水素を用いる、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
重水素化溶剤を用いる、請求項20〜22のいずれか一つに記載の方法。
【請求項24】
過分極化原子核または13Cを溶解含有する溶剤において、該溶剤が293Kより低い温度を有することを特徴とする、上記溶剤。
【請求項25】
溶剤がエタノール、トルエン、ベンゼン、オリーブ油、ブタノール、ペンタン、メタノールおよび/またはアセトンである、請求項24に記載の溶剤。
【請求項26】
溶剤が重水素化されている、請求項24または25に記載の溶剤。
【請求項27】
過分極化希ガスが129Xeである、請求項24〜26のいずれか一つに記載の溶剤。
【請求項28】
融点が過分極化原子核または13Cを溶解することによって下げられている、請求項24〜27のいずれか一つに記載の溶剤。
【請求項29】
請求項24〜28のいずれか一つに記載の、過分極化原子核を含有する溶剤を含む造影剤。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−521860(P2007−521860A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−548093(P2006−548093)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【国際出願番号】PCT/DE2004/002689
【国際公開番号】WO2005/068359
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(390035448)フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (100)
【Fターム(参考)】