過敏性腸症候群(IBS)を処置するための4−[2−(4−メチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペリジン
過敏性腸症候群の処置における4-[2-(4-メチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペリジン又は医薬的に許容できるその塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過敏性腸症候群(IBS)を処置するための4-[2-(4-メチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペリジンの使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
過敏性腸症候群は鼓腸、腹痛、便秘及び/又は下痢を引き起こす腸の慢性障害である。IBSの症状は解剖学的異常又は代謝異常では説明がついていない。むしろIBSは、相互作用する3つの機序、すなわち腸運動の変化、内臓知覚の増大、及び心理社会的因子の組合せに起因する生物心理社会的障害であると考えられる[非特許文献1]。
【0003】
過敏性腸疾患は、主に女性を冒すありふれた疾患で、欧州及び北アメリカにおける推定有病率は10〜15%である。しかしこの疾患はあまり認識されておらず、実際に公式に診断されるのは、この疾患に冒された人の一部に過ぎない。欧州8カ国においてIBSと診断された患者の有病率は平均でわずか2.8%である[非特許文献2]
【0004】
過敏性腸症候群は、通常、主な排便習慣によって三つのサブグループ、すなわち便秘型(c-IBS)、下痢型(d-IBS)及び便秘と下痢の両症状が交互に起こるIBS(a-IBS)に区分される。
【0005】
過敏性腸症候群は、鎮痙薬、緩下剤、止痢剤、三環系抗うつ薬及び5-HT3アンタゴニストを含むさまざまな治療剤で処置されている。オダンセトロン(Odansetron)は5-HT3アンタゴニストであり、この化合物は便硬度、排便頻度を改善し、疼痛エピソードの回数を減少させることが臨床治験で示されている。同じく5-HT3アンタゴニストであるアロセトロンは腹痛又は腹部不快感及び便意切迫を改善することが示されている[非特許文献2]。アロセトロンは重症下痢型IBSを持つ女性の処置についてFDAによって認可されている。
【0006】
化合物4-[2-(4-メチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペリジンは、特許文献1として公開された国際特許出願において初めて開示され、その国際特許出願において、本化合物はセロトニン輸送阻害剤であることが示された。その後、特許文献2として公開された国際特許出願では、前記化合物の結晶性塩が、5-HT3拮抗作用を含むより広範囲にわたる薬理学的プロファイルと共に開示された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2003/029232号
【特許文献2】国際公開第2007/144006号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Gastroenterol., 120, 652-668, 2001
【非特許文献2】Aliment. Pharmacol. Ther., 24, 183-205, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ある実施形態において本発明は、過敏性腸症候群(IBS)を処置するための方法であって、その必要がある患者に治療有効量の4-[2-(4-メチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペリジン又は治療上許容できるその塩(以下、化合物I)を投与することを含む方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ある実施形態において本発明は、IBSの処置に使用するための化合物Iを提供する。
【0011】
ある実施形態において本発明は、IBSを処置するための医薬の製造における化合物Iの使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】化合物IのHBr付加塩のX線回折パターン。
【図2】化合物IのHBr付加塩溶媒和物のX線回折パターン。
【図3】化合物Iのパルミチン酸付加塩のX線回折パターン。
【図4】化合物IのDL-乳酸付加塩のX線回折パターン。
【図5】化合物Iのアジピン酸付加塩(1:1)(α+β型)のX線回折パターン。
【図6】化合物Iのアジピン酸付加塩(2:1)のX線回折パターン。
【図7】化合物Iのフマル酸付加塩(1:1)のX線回折パターン。
【図8】化合物Iのグルタル酸付加塩(1:1)のX線回折パターン。
【図9】化合物Iのマロン酸付加塩(1:1)α型のX線回折パターン。
【図10】化合物Iのマロン酸付加塩β型のX線回折パターン。
【図11】化合物Iのシュウ酸付加塩(1:1)のX線回折パターン。
【図12】化合物Iのセバコイン酸(sebacoinic acid)付加塩(2:1)のX線回折パターン。
【図13】化合物Iのコハク酸付加塩(2:1)のX線回折パターン。
【図14】化合物IのL-リンゴ酸付加塩(1:1)α型のX線回折パターン。
【図15】化合物IのL-リンゴ酸付加塩(1:1)β型のX線回折パターン。
【図16】化合物IのD-酒石酸付加塩(1:1)のX線回折パターン。
【図17】L-アスパラギン酸との混合状態にある化合物IのL-アスパラギン酸付加塩(1:1)のX線回折パターン。
【図18】Lーアスパラギン酸との混合状態にある化合物IのL-アスパラギン酸付加塩水和物(1:1)のX線回折パターン。
【図19】グルタミン酸一水和物との混合状態にある化合物Iのグルタミン酸付加塩(1:1)のX線回折パターン。
【図20】化合物Iのクエン酸付加塩(2:1)のX線回折パターン。
【図21】化合物IのHCl酸付加塩のX線回折パターン。
【図22】化合物Iのリン酸付加塩(1:1)のX線回折パターン。
【発明を実施するための形態】
【0013】
4-[2-(4-メチルフェニルスルファニル)-フェニル]ピペリジンの構造は
【化1】
である。
【0014】
ある実施形態では、本発明で使用される医薬的に許容できる塩が、無毒性である酸の酸付加塩である。前記の塩には、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、アスコルビン酸、コハク酸、シュウ酸、ビス-メチレンサリチル酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、ケイ皮酸、シトラコン酸、アスパラギン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、イタコン酸、グリコール酸、p-アミノ安息香酸、グルタミン酸、ベンゼンスルホン酸、テオフィリン酢酸、並びに8-ハロテオフィリン、例えば8-ブロモテオフィリンなどの有機酸から製造される塩が含まれる。前記の塩は、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸及び硝酸などの無機塩から製造することもできる。他の有用な塩を実施例1dの表(表1)に列挙する。
【0015】
ある実施形態では、化合物IがHBr付加塩である。
【0016】
ある実施形態では、化合物IがDL-乳酸付加塩、特にその1:1塩である。
【0017】
ある実施形態では、化合物IがL-アスパラギン酸付加塩、特にその1:1塩である。
【0018】
ある実施形態では、化合物Iがグルタミン酸付加塩、特にその1:1塩である。
【0019】
ある実施形態では、化合物Iがグルタル酸付加塩、特にその1:1塩である。
【0020】
ある実施形態では、化合物Iがマロン酸付加塩、特にその1:1塩(これは、二つの同質異像(polymorphic modification)α及びβで存在することが見出され、そのうちのβ型は、より低い溶解度に基づいて、最も安定であると考えられる)である。
【0021】
ある実施形態では、化合物Iが精製された形態にある。「精製された形態」という用語は、その化合物が本質的に他の化合物を含まないこと、又は場合により、他の形態、すなわち前記化合物の多形を含まないことを示すものとする。
【0022】
経口剤形、特に錠剤及びカプセル剤は、投与が容易であり、結果的に服薬率が良好になるため、しばしば患者及び医師に好まれる。錠剤及びカプセル剤の場合、活性成分は結晶性であることが好ましい。
【0023】
化合物Iの結晶は溶媒和物、すなわち溶媒分子が結晶構造の一部を形成している結晶として存在しうる。溶媒和物は水から形成させることができ、この場合、その溶媒和物はしばしば水和物と呼ばれる。あるいは、他の溶媒、例えばエタノール、アセトン、又は酢酸エチルなどから溶媒和物を形成させることもできる。溶媒和物の厳密な量は、しばしば、条件に依存する。例えば水和物は、温度を上昇させるにつれて、又は相対湿度を低下させるにつれて、典型的には水を失うだろう。医薬製剤には、例えば湿度などの条件が変化しても変化しないかわずかしか変化しない化合物の方が適していると、一般にみなされる。水から析出させた場合にHBr付加塩が水和物を形成しないのに対して、コハク酸付加塩、リンゴ酸付加塩及び酒石酸付加塩などの化合物は水和物を形成することに注目されたい。
【0024】
いくつかの化合物は吸湿性である(すなわち、それらは湿気に曝露された時に水を吸収する)。吸湿性は、医薬製剤(特に錠剤又はカプセル剤などの乾燥製剤)として提示しようとする化合物にとっては、望ましくない性質であると、一般にみなされる。ある実施形態において、本発明は、吸湿性の低い結晶を使用する。
【0025】
結晶性活性成分を使用する経口剤形の場合は、前記の結晶が明確に定義されていることも有益である。この文脈において「明確に定義されている(well-defined)」という用語は、特に、化学量論が明確に定義されていること、すなわち塩を形成しているイオン間の比が小さな整数の比、例えば1:1、1:2、2:1、1:1:1などであることを意味する。ある実施形態において、本発明で使用される化合物は、明確に定義された結晶である。
【0026】
活性成分の溶解度も、生物学的利用率に直接的な影響を持ちうるので、剤形の選択にとって重要である。経口剤形の場合、活性成分の溶解度は高い方が、生物学的利用率が増加するので有益であると、一般に考えられている。一部の患者、例えば高齢の患者は、錠剤を嚥下することが困難な場合があり、内服用滴剤(oral drop solution)が、錠剤を嚥下する必要を回避する適切な代替手段になりうる。内服用滴剤の体積を制限するには、溶液中の活性成分濃度を高くする必要があり、ここでも、化合物の高い溶解度が要求される。表3に示すように、DL-乳酸、L-アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタル酸及びマロン酸付加塩は、並外れて高い溶解度を持つ。
【0027】
結晶形は化合物の濾過特性及び加工特性に影響を及ぼす。針状結晶は、濾過がより困難になり、時間がかかるので、製造環境における取り扱いが、より困難になりがちである。与えられた塩の厳密な結晶形は、例えば塩を析出させた時の条件などに依存しうる。本発明のHBr酸付加塩は、エタノール、酢酸及びプロパノールから析出させた場合には針状溶媒和結晶を成長させるが、HBr付加塩を水から析出させた場合は、針状でない非水和型の結晶を成長させて、優れた濾過特性を与える。
【0028】
表3には、溶液pH(Resulting pH)、すなわち塩の飽和溶液のpHも記載する。この性質は重要である。なぜなら、貯蔵中に湿気を完全に避けることは不可能であり、湿気の蓄積が低溶液pH塩を含む錠剤中又は錠剤上でのpH低下を引き起こすことになり、それが貯蔵寿命を減少させうるからである。そのうえ、低い溶液pHを持つ塩は、錠剤を湿式造粒法で製造する場合には、加工装置の腐蝕を引き起こしうる。表3のデータは、HBr、HCl及びアジピン酸付加塩が、この点において優秀でありうることを示唆している。
【0029】
ある実施形態では、化合物Iが、結晶形態のHBr付加塩(特に、精製された形態にあるもの)である。さらにもう一つの実施形態では、前記HBr塩が、X線粉末ディフラクトグラム(XRPD)において、約6.08°、14.81°、19.26°及び25.38°2θにピークを持ち、特に前記HBr塩が図1に図示するXRPDを持つ。
【0030】
ある実施形態では、化合物Iが、結晶形態のDL-乳酸付加塩(1:1)(特に、精製された形態にあるもの)である。さらにもう一つの実施形態では、前記DL-乳酸付加塩が、XRPDにおいて、約5.30°、8.81°、9.44°及び17.24°2θにピークを持ち、特に前記DL乳酸付加塩が図4に図示するXRPDを持つ。
【0031】
ある実施形態では、化合物Iが、結晶形態のL-アスパラギン酸付加塩(1:1)(特に、精製された形態にあるもの)である。さらにもう一つの実施形態では、前記L-アスパラギン酸付加塩が非溶媒和物であり、XRPDにおいて約11.05°、20.16°、20.60°、25.00°2θにピークを持ち、特に前記L-アスパラギン酸塩は、L-アスパラギン酸と混合された場合に、図17に図示するXRPDを持つ。ある実施形態では、前記L-アスパラギン酸付加塩が、水和物(特に、精製された形態にあるもの)である。さらにもう一つの実施形態では、前記L-アスパラギン酸付加塩水和物が、XRPDにおいて約7.80°、13.80°、14.10°、19.63°2θにピークを持ち、特に前記L-アスパラギン酸付加塩水和物は、L-アスパラギン酸と混合された場合に、図18に図示するXRPDを持つ。
【0032】
ある実施形態では、化合物Iが、結晶形態のグルタミン酸付加塩(1:1)(特に、精製された形態にあるもの)である。さらにもう一つの実施形態では、前記グルタミン酸付加塩が、XRPDにおいて約7.71°、14.01°、19.26°、22.57°2θにピークを持ち、特に前記グルタミン酸塩は、グルタミン酸一水和物と混合された場合に、図19に図示するXRPDを持つ。
【0033】
ある実施形態では、化合物Iが、結晶形態のマロン酸付加塩(1:1)(特に、精製された形態にあるもの)である。さらにもう一つの実施形態では、前記マロン酸付加塩がα型であって、XRPDにおいて約10.77°、16.70°、19.93°、24.01°2θにピークを持つか、又は前記マロン酸付加塩がβ型であって、XRPDにおいて約6.08°、10.11°、18.25°、20.26°2θにピークを持ち、特に前記マロン酸付加塩は図9又は図10に図示するXRPDを持つ。
【0034】
ある実施形態では、化合物Iが、結晶形態のグルタル酸付加塩(1:1)(特に、精製された形態にあるもの)である。さらにもう一つの実施形態では、前記グルタル酸付加塩が、XRPDにおいて約9.39°、11.70°、14.05°、及び14.58°2θにピークを持ち、特に前記グルタル酸付加塩が、図8に図示するXRPDを持つ。
【0035】
化合物Iの薬理学的プロファイルは国際公開第2007/144006号として公開された国際特許出願で論じられているが、次のように要約することができる。本化合物は、セロトニン及びノルエピネフリン再取り込みの阻害剤であり、セロトニン受容体2A、2C及び3の阻害剤であり、且つα-1アドレナリン作動性受容体の阻害剤である。
【0036】
化合物Iは、5-HT3受容体を強力に阻害するので、IBSの処置に有用であると考えられる。実施例で示すとおり、化合物Iは、上述のようにIBSの顕著な症状である疼痛にも、強い効果を持つ。
【0037】
ある実施形態では、化合物Iが、1日あたり約0.001〜約100mg/kg体重の量で投与される。
【0038】
典型的経口投薬量は、1日あたり約0.001〜約100mg/kg体重、好ましくは1日あたり約0.01〜約50mg/kg体重の範囲にあり、それが1回又はそれ以上の投薬、例えば1〜3回の投薬で投与される。厳密な投薬量は、投与頻度及び投与様式、処置される対象の性別、年齢、体重及び全身状態、処置される状態の性質及び重症度、並びに処置されるべき併発疾患及び当業者には明白な他の因子に依存するだろう。
【0039】
成人の場合、典型的経口投薬量は、1〜100mg/日の化合物I、例えば1〜30mg/日、又は5〜25mg/日の範囲にある。これは典型的には、0.1〜50mg、例えば1〜25mg、例えば1、5、10、15、20又は25mgの化合物Iを、1日に1回又は2回投与することによって達成されうる。
【0040】
本明細書にいう化合物の「治療有効量」とは、前記化合物の投与を含む治療的介入において、所与の疾患及びその合併症の臨床症状を治癒、軽減又は部分的に抑止するのに十分な量を意味する。これを達成するのに十分な量は「治療有効量」と定義される。この用語は、前記化合物の投与を含む処置において、所与の疾患及びその合併症の臨床症状を治癒、軽減又は部分的に抑止するのに十分な量も包含する。各目的のための有効量は、その疾患又は傷害の重症度並びに対象の体重及び全身状態に依存するだろう。適当な投薬量の決定は、値のマトリクスを作成し、そのマトリクス中の異なる点を試験することにより、日常的な実験を使って達成することができ、それが全て、熟練した医師の通常の技量に含まれることは、理解されるだろう。
【0041】
本明細書において使用する用語「処置」及び「処置する」は、疾患又は障害などの状態と闘うためになされる患者の管理及び医療を意味する。この用語は、患者が患っている所与の状態に関する処置の全範囲、例えばその症状若しくは合併症を軽減するため、その疾患、障害若しくは状態の進行を遅延させるため、その症状及び合併症を軽減し若しくは緩和するため、及び/又はその疾患、障害若しくは状態を治癒させ若しくは排除するため、並びにその状態を防止するためになされる活性化合物の投与などを包含するものとし、この場合、防止は、その疾患、状態、又は障害と闘うためになされる患者の管理及び医療と解釈され、症状又は合併症の発生を防止するための活性化合物の投与を包含する。それでもなお、予防的(防止的)処置と治療的(治癒的)処置は、本発明の二つの別個の態様である。処置される患者は、好ましくは哺乳動物、特にヒトである。特に、処置される患者には、IBSの診断が下されている。
【0042】
化合物Iは、純粋な化合物として単独で、又は医薬的に許容できる担体若しくは賦形剤と組み合わせて、単回投与又は複数回投与で投与することができる。本発明の医薬組成物は、例えば「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」(第19版、Gennaro編、Mack Publishing Co.、ペンシルバニア州イーストン、1995)に開示されているような従来の技法に従い、医薬的に許容できる担体又は希釈剤、並びに他の任意の既知の佐剤及び賦形剤を使って製剤することができる。
【0043】
医薬組成物は、経口、直腸、鼻、肺、局所外用(口腔内及び舌下を含む)、経皮、槽内、腹腔内、膣及び非経口(皮下、筋肉内、髄腔内、静脈内及び皮内を含む)経路など、任意の適切な経路による投与に合わせて、個別に製剤化することができ、経口経路は好ましい。好ましい経路が、処置される対象の全身状態及び年齢、処置される状態の性質並びに選択した活性成分に依存することは理解されるだろう。
【0044】
経口投与用の医薬組成物には、カプセル剤、錠剤、糖衣錠、丸剤、口中錠、粉末剤及び顆粒剤などの固形剤形が含まれる。それらは適宜、コーティングを施して調製することができる。
【0045】
経口投与用の液状剤形には、溶液剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤及びエリキシル剤が含まれる。
【0046】
非経口投与用の医薬組成物には、滅菌された水性及び非水性の注射可能な溶液剤、分散剤、懸濁剤又は乳剤、並びに使用に先だって滅菌注射可能溶液又は分散液に再構成される滅菌粉末剤が含まれる。
【0047】
他の適切な投与形態には、坐剤、噴霧剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、吸入剤、皮膚パッチ、インプラントなどがある。
【0048】
化合物Iは、約0.1〜50mgの量の前記化合物(例えば1mg、5mg、10mg、15mg、20mg又は25mgの化合物I)を含有する単位剤形で投与すると、好都合である。
【0049】
例えば静脈内投与、髄腔内投与、筋肉内投与などの非経口経路の場合、通例、用量は経口投与に用いられる用量の約半分程度である。
【0050】
非経口投与には、滅菌水性溶液、水性プロピレングリコール、水性ビタミンE又はゴマ油若しくはラッカセイ油中の化合物Iの溶液を使用することができる。そのような水性溶液は、必要であれば適切に緩衝化されるべきであり、まず最初に希釈液を十分な食塩水又はグルコースで等張性にする。水性溶液は静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与には特に適している。使用される滅菌水性媒質は全て、当業者に知られる標準的技法により、容易に入手することができる。
【0051】
適切な医薬担体には、不活性固形希釈剤又は充填剤、滅菌水性溶液及び種々の有機溶媒が含まれる。固形担体の例は、ラクトース、白土、スクロース、シクロデキストリン、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸及びセルロースの低級アルキルエーテルである。液状担体の例は、シロップ、ラッカセイ油、オリーブ油、リン脂質、脂肪酸、脂肪酸アミン、ポリオキシエチレン及び水である。化合物Iと医薬的に許容できる担体とを組み合わせることによって形成された医薬組成物は、次に、開示した投与経路に適したさまざまな剤形で、容易に投与される。
【0052】
経口投与に適した、本発明で使用される製剤は、それぞれが予め決定された量の活性成分を含有し、適切な賦形剤を含んでもよい、カプセル剤又は錠剤などの不連続な単位として提示することができる。さらにまた、経口利用可能な製剤は、粉末状若しくは顆粒状であるか、水性若しくは非水性液体中の溶液若しくは懸濁液であるか、水中油型若しくは油中水型の液状乳剤であることができる。
【0053】
経口投与に固形担体を使用する場合、その調製物は錠剤であるか、例えば粉末状若しくはペレット状にして硬ゼラチンカプセルに入れるか、又はトローチ剤若しくは口中錠の形態をとりうる。固形担体の量はさまざまでありうるが、通常は約25mg〜約1gになるだろう。
【0054】
液状担体を使用する場合、その調製物はシロップ剤、乳剤、軟ゼラチンカプセル剤又は滅菌注射用液剤、例えば水性若しくは非水性の液状懸濁剤若しくは溶液剤の形態をとりうる。
【0055】
錠剤は、活性成分を通常の佐剤及び/又は希釈剤と混合した後、その混合物を従来の打錠機で圧縮することによって調製することができる。佐剤又は希釈剤の例には、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、滑石、ステアリン酸マグネシウム、ゼラチン、ラクトース、ゴムなどが含まれる。そのような目的に通常使用される他の佐剤又は添加剤、例えば着色剤、着香剤、保存剤などはいずれも、それらが活性成分と適合するのであれば、使用することができる。
【0056】
本発明の化合物を含むカプセル剤は、前記化合物を含む粉末を微結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムと混合し、前記粉末を硬ゼラチンカプセルに入れることによって調製することができる。場合によっては、適切な色素を使って前記カプセル剤を着色してもよい。典型的には、カプセル剤は、0.25〜20%の本発明の化合物、例えば0.5〜1.0%、3.0〜4.0%、14.0〜16.0%の本発明の化合物を含むだろう。これらの強度は、1、5、10、15、20及び25mgの本発明の化合物を単位剤形に入れて都合よく送達するために使用することができる。
【0057】
注射用溶液剤は、活性成分と考えうる添加剤とを注射用の溶媒(好ましくは滅菌水)の一部に溶解し、その溶液を所望の体積に調節し、その溶液を滅菌し、それを適切なアンプル又はバイアルに充填することによって調製することができる。浸透圧調節剤、保存剤、酸化防止剤など、当分野で従来から使用されている任意の適切な添加剤を加えることができる。
【0058】
化合物Iは、国際公開第2003/029232号又は国際公開第2007/144006号に概説されているように調製することができる。化合物Iの塩は、適当な酸を添加した後、析出させることによって調製することができる。析出は、例えば冷却、溶媒の除去、別の溶媒又はその混合物の添加によって引き起こすことができる。
【0059】
本明細書で言及する参考文献は、刊行物、特許出願、及び特許を含めて全て、その文書の組み込みが本明細書のどこか他の項で別途なされているかどうかとは無関係に、各参考文献が参照によって組み込まれることが個別に且つ具体的に示され、本明細書にその全体が(法が許す範囲で最大限に)記載されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0060】
本発明の説明に関して用語「a」及び「an」並びに「the」及び類似する指示対象(referent)の使用は、本明細書に別段の表示がない限り、又は文脈上、明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の両方を包含するとみなすべきである。例えば「化合物(the compound)」という表現は、別段の表示がない限り、さまざまな本発明の「化合物(compounds)」又は記載された特定の態様を指すと理解すべきである。
【0061】
別段の表示がない限り、本明細書に記載する厳密な値は全て、対応する近似値の代表である(例えば、特定の因子又は測定値に関して記載される厳密な典型的値は全て、対応する近似測定値(適宜「約」によって修飾されるもの)をも記載しているとみなすことができる)。
【0062】
1又は複数の要素に関して「を含む(comprising)」「を持つ(having)」「を包含する(including)」又は「含有する(containing)」などの用語を使ってなされる本発明の任意の1又は複数の態様の、本明細書における説明は、別段の明記がない限り、又は文脈上、明らかに矛盾しない限り、その特定の1又は複数の要素「からなる(cosist of)」「から本質的になる(consist essentially of)」又は「を実質的に含む(substantially comprise)」本発明の類似する1又は複数の態様の裏付けを提供するものとする(例えば、特定の要素を含むと本明細書に記載されている組成物は、別段の明記がない限り、又は文脈上、明らかに矛盾しない限り、その要素からなる組成物も記載していると理解すべきである)。
【実施例】
【0063】
分析方法
X線粉末ディフラクトグラム(XRPD)は、CuKα1放射線を使ってPANalytical X'Pert PRO X線回折計で測定した。X'celerator検出器を使用し、反射モードにより、2θ範囲5〜40°で、試料を測定した。元素組成(CHN)はElementarのElementar Vario EL装置で測定した。約4mgの試料を各測定に使用し、結果を2回の測定の平均値として記載する。
【実施例1】
【0064】
実施例1a:化合物IのHBr塩
撹拌してわずかに加熱(約45℃)した油状の4-(2-p-トリルスルファニル-フェニル)-ピペリジン-1-カルボン酸エチルエステル442グラムにAcOH中の33wt%HBr 545ml(5.7M、2.5等量)を加えた。この混合によって10℃の発熱が生じる。最終添加後に、反応混合物を80℃まで加熱し、18時間放置する。試料を取り出してHPLCで分析し、もし完了していなければ、AcOH中の33wt%HBrを追加しなければならない。そうでない場合は、その混合物を25℃まで冷却して、生成物4-(2-p-トリルスルファニル-フェニル)-ピペリジン臭化水素酸塩を析出させる。25℃で1時間の後、その濃厚懸濁液にジエチルエーテル800mlを加える。撹拌をさらに1時間続けてから、生成物を濾過によって単離し、ジエチルエーテル400mlで洗浄し、真空下40℃で終夜乾燥する。化合物Iの臭化水素酸塩が白色固体として単離された。
【0065】
実施例1b:化合物IのHBr塩
2-(4-トリルスルファニル)-フェニルブロミド
窒素で覆った撹拌反応器中で、N-メチル-ピロリドン、NMP(4.5L)に、窒素を20分間吹き込んだ。4-メチルベンゼンチオール(900g、7.25mol)を加え、次に1,2-ジブロモベンゼン(1709g、7.25mol)を加えた。最後にカリウムtert-ブトキシド(813g、7.25mol)を最後の反応物として加えた。反応は発熱的であり、反応混合物の温度を70℃まで上昇させた。次に反応混合物を120℃に2〜3時間加熱した。反応混合物を室温まで冷却した。酢酸エチル(4L)及び塩化ナトリウム水溶液(15%、2.5L)を加えた。その混合物を20分間撹拌した。水相を分離し、新たな酢酸エチル(2L)で抽出した。水相を分離し、有機相を合わせ、塩化ナトリウム溶液(15%、2.5L)で洗浄した。有機相を分離し、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で蒸発させることにより、20〜30%のNMPを含有する赤色油状物を得た。その油状物をメタノールで2倍の体積に希釈し、その混合物を還流した。透明な赤色溶液が得られるまで、メタノールを追加した。その溶液に種晶を入れて室温までゆっくり冷却した。生成物はオフホワイトの結晶として結晶化する。それらを濾過によって単離し、メタノールで洗浄し、減圧乾燥器中、40℃で恒量まで乾燥した。
【0066】
エチル 4-ヒドロキシ-4-(2-(4-トリルスルファニル)フェニル)-ピペリジン-1-カルボキシレート
窒素で覆われた撹拌反応器中で、2-(4-トリルスルファニル)-フェニルブロミド(600g、2.15mol)をヘプタン(4.5L)に懸濁した。室温でヘキサン中の10M BuLi(235mL、2.36mol)を10分かけて加えた。わずかな発熱しか認められなかった。その懸濁液を周囲温度で1時間撹拌した後、-40℃まで冷却した。THF(1.5L)に溶解した1-カルベトキシ-4-ピペリドン(368g、2.15mol)を、反応温度が-40℃未満に保たれる速さを上回らない速さで加えた。反応が完了したら、それを0℃まで温め、温度を10℃未満に保ちながら、1M HCl(1L)を加えた。酸性水相を分離し、酢酸エチル(1L)で抽出した。有機相を合わせ、塩化ナトリウム溶液(15%、1L)で抽出した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発させることにより、半結晶性塊を得た。それをエチルエーテル(250mL)でスラリ化し、濾別した。減圧乾燥器中、40℃で恒量まで乾燥した。
【0067】
エチル 4-(2-(4-トリルスルファニル)フェニル)-ピペリジン-1-カルボキシレート
トリフルオロ酢酸(2.8kg、24.9mol)及びトリエチルシラン(362g、3.1mol)を、効率の良い撹拌機を持つ反応器に投入した。エチル=4-ヒドロキシ-4-(2-(4-トリルスルファニル)フェニル)-ピペリジン-1-カルボキシレート(462g、1.24mol)を粉末ロートから少しずつ加えた。反応はわずかに発熱的だった。温度は50℃まで上昇した。添加を終わらせた後、反応混合物を60℃に18時間温めた。反応混合物を室温まで冷却した。トルエン(750mL)及び水(750mL)を加えた。有機相を単離し、水層を新たなトルエン(750mL)で抽出した。有機相を合わせ、塩化ナトリウム溶液(15%、500mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾去し、濾液を減圧下で蒸発させることによって赤色油状物とし、それをさらに次のステップで加工した。
【0068】
4-(2-(4-トリルスルファニル)フェニル)-ピペリジン臭化水素酸塩
実施例3で得た赤色油状物である粗エチル 4-(2-(4-トリルスルファニル)フェニル)-ピペリジン-1-カルボキシレートを、撹拌反応器において、酢酸中の臭化水素酸(40%、545mL、3.11mol)と混合した。その混合物を80℃で18時間加熱した。その反応混合物を室温まで冷却した。冷却中に生成物が晶出した。室温で1時間後、エチルエーテル(800mL)を反応混合物に加え、その混合物をさらに1時間撹拌した。生成物を濾別し、エチルエーテルで洗浄し、減圧乾燥器中、50℃で恒量まで乾燥した。
【0069】
実施例1c:化合物IのHBr塩の再結晶
化合物IのHBr塩(例えば上記のように調整したもの)10.0グラムの混合物を、H2O 100ml中で加熱還流した。混合物は80〜90℃で透明になり、完全に溶解した。その透明な溶液にチャコール1グラムを加え、還流を15分間続けてから、濾過し、室温まで自然放冷した。冷却中に白色固体の析出が起こり、その懸濁液を室温で1時間撹拌した。濾過し、減圧下40℃で終夜乾燥することにより、化合物IのHBr酸付加塩6.9グラム(69%)を得た。XRPDについては図1を参照されたい。元素分析:3.92%N、59.36%C、6.16%H(理論値:3.85%N、59.34%C、6.09%H)。
【0070】
実施例1d:遊離塩基の原液の調製
酢酸エチル500ml及びH2O 200mlの混合物に化合物IのHBr塩50グラムを加えて、二相スラリを生成させた。このスラリに約25mlの濃NaOHを加えたところ、透明な二相溶液の形成が起こった(pHは13〜14と測定された)。その溶液を激しく15分間撹拌し、有機相を分離した。有機相をH2O 200mlで洗浄し、Na2SO4で乾燥し、濾過し、真空下、60℃で蒸発させることにより、遊離塩基を38グラムの収量(99%)で、ほぼ無色の油状物として得た。
【0071】
酢酸エチルを使って10グラムの油状物を溶解し、体積を150mlに調節することによって、酢酸エチル中の0.235M原液を調製し、そこから1.5ml(遊離塩基100mg)ずつ取って使用した。
【0072】
96vol%EtOHを使って10グラムの油状物を溶解し、体積を100mlに調節することによって、EtOH中の0.353M原液を調製し、そこから1.0ml(遊離塩基100mg)ずつ取って使用した。
【0073】
実施例1e:遊離塩基の原液を使った塩の形成
所与の一定分量を試験管に入れ、撹拌しながら、表1に示すように適当な量の酸を加えた。酸が液体である場合はニートで加え、そうでない場合は、記載の溶媒に溶解してから加えた。混合及び析出の後、撹拌を終夜続け、析出物を濾過によって集めた。真空下、30℃で乾燥する前に、少量の参照試料を取り出し、減圧せずに室温で乾燥した。この手順は溶媒和物について調べるために含めた。いくつかの結果を表1に提示する。XRPDディフラクトグラムを図1〜22に示し、選択したピークの位置を表2に要約する。表3に、水における本発明の化合物の溶解度を、結果として得られる飽和溶液のpHと共に示す。「析出物」という欄は、溶解度決定後に単離された析出物が溶解した化合物と同一であるかどうかを表しており、これは水和物の形成を示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【表3】
【0076】
実施例2:5-HT3A受容体拮抗作用
ヒトホモマ型5-HT3A受容体を発現させる卵母細胞において、5-HTは2600nMのEC50で電流を作動させる。この電流は、オンダンセトロンなどの古典的5-HT3アンタゴニストで拮抗することができる。オンダンセトロンはこの系において1nM未満のKi値を示す。化合物Iは、低濃度(0.1nM〜100nM)では強力な拮抗作用を示し(IC50約10nM/Kb約2nM)、より高濃度(100〜100000nM)で適用した場合にはアゴニスト特性を示して(EC50約2600nM)、5-HTそのものによって誘起される最大電流の約70〜80%の最大電流に達する。ラットホモマー型5-HT3A受容体を発現させる卵母細胞において、5-HTは3.3μMのEC50で電流を作動させる。実験は次のように行った。0.4%MS-222中で10〜15分間麻酔した成熟雌アフリカツメガエル(Xenepus laevis)から、卵母細胞を外科的に摘出した。次にその卵母細胞を、OR2緩衝液(82.5mN NaCl、2.0mM KCl、1.0mM MgCl2及び5.0mM HEPES、pH7.6)中の0.5mg/mlコラゲナーゼ(タイプIA Sigma-Aldrich)により、室温で2〜3時間消化した。卵胞層が取り除かれた卵母細胞を選択し、2mMピルビン酸ナトリウム、0.1U/lペニシリン及び0.1μg/lストレプトマイシンを補足した変法バース塩類緩衝液(Modified Barth's Saline buffer)[88mM NaCl、1mM KCl、15mM HEPES、2.4mM NaHCO3、0.41mM CaCl2、0.82mM MgSO4、0.3mM Ca(NO3)2]中で24時間インキュベートした。ステージIV-IV卵母細胞を同定し、ヒト5-HT3A受容体をコードするcRNA 14〜50pgを含有するヌクレアーゼ不含水12〜48nlを注入し、それを電気生理学的記録に使用するまで18℃でインキュベートしておいた(注入後1〜7日間)。ヒト5-HT3受容体を発現させている卵母細胞を1mlバスに入れ、リンゲル緩衝液(115mM NaCl、2.5mM KCl、10mM HEPES、1.8mM CaCl2、0.1mM MgCl2、pH7.5)で潅流した。寒天で栓をした3M KClを含有する0.5〜1MΩ電極を細胞に突き刺し、GeneClamp 500B増幅器により、-90mVで電圧固定した。卵母細胞をリンゲル緩衝液で潅流し続け、薬物をその潅流液に適用した。5-HTアゴニスト溶液を10〜30秒間適用した。10μM 5-HT刺激に対する濃度応答を測定することによって5-HT3受容体アンタゴニストの効力を調べた。
【0077】
実施例3:神経因性疼痛に対する効果
神経因性疼痛に対する効力を実証するために、化合物Iを神経因性疼痛のホルマリンモデル[Neuropharm.,48,252-263,2005;Pain,51,5-17,1992]で試験した。このモデルでは、マウスの左後足の足底表面にホルマリン(4.5%、20μl)を注射してから、そのマウスを観察のために個別にガラス製ビーカ(容量2リットル)に入れる。ホルマリン注射が引き起こす刺激は、傷害を受けた足をなめるのに費やす時間の量として定量化される特徴的な二相性行動応答を誘起する。第1相(約0〜10分)は直接的な化学刺激及び侵害受容を表すのに対して、第2相(約20〜30分)は神経因性の疼痛を表すと考えられる。これら二つの相は休止時間によって隔てられ、その間は行動が正常に戻る。傷害を受けた足をなめるのに費やした時間の量を二つの相で測定することにより、疼痛刺激の低減に関する試験化合物の有効性が評価される。
【0078】
各群8匹のC57/B6マウス(約25g)を試験した。次の表4は、二つの相、すなわちホルマリン注射の0〜5分後及び20〜30分後において、傷害を受けた足をなめるのに費やされた時間の量を示している。投与した化合物の量は遊離塩基として算出される。
【表4】
【0079】
表4のデータは、直接的な化学刺激及び侵害受容を表す第1相では、化合物Iがほとんど効果を持たないことを明らかにしている。より注目すべきことに、このデータは、第2相において足をなめるのに費やされた時間の明確且つ用量依存的な短縮も明らかにしており、このことは、神経因性疼痛の処置における本発明の化合物の効果を示している。
【0080】
さらにまた、神経因性疼痛の動物モデルにおける化合物Iの潜在的鎮痛効果を評価した。慢性絞扼性神経傷害に続発する末梢単神経障害をラットの右後肢に誘発させ、確立された行動試験(それぞれフォンフライ毛(Von Frey filaments)及びハーグリーブズ足底装置(Hargreaves Plantar Device))を使って、機械的異痛及び熱性痛覚過敏の発生を監視した。10%ヒドロキシプロピル-ベータシクロデキストリン中の化合物Iを1.9、4.8及び7.9mg/kgの用量で皮下投与しても、フォンフライ毛で攻撃したときの右後足の逃避閾値は増加しなかった。しかし、熱性痛覚過敏では、4.8及び7.8mg/kgで足逃避潜時の有意な増加が見られ、鎮痛薬応答を示していた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、過敏性腸症候群(IBS)を処置するための4-[2-(4-メチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペリジンの使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
過敏性腸症候群は鼓腸、腹痛、便秘及び/又は下痢を引き起こす腸の慢性障害である。IBSの症状は解剖学的異常又は代謝異常では説明がついていない。むしろIBSは、相互作用する3つの機序、すなわち腸運動の変化、内臓知覚の増大、及び心理社会的因子の組合せに起因する生物心理社会的障害であると考えられる[非特許文献1]。
【0003】
過敏性腸疾患は、主に女性を冒すありふれた疾患で、欧州及び北アメリカにおける推定有病率は10〜15%である。しかしこの疾患はあまり認識されておらず、実際に公式に診断されるのは、この疾患に冒された人の一部に過ぎない。欧州8カ国においてIBSと診断された患者の有病率は平均でわずか2.8%である[非特許文献2]
【0004】
過敏性腸症候群は、通常、主な排便習慣によって三つのサブグループ、すなわち便秘型(c-IBS)、下痢型(d-IBS)及び便秘と下痢の両症状が交互に起こるIBS(a-IBS)に区分される。
【0005】
過敏性腸症候群は、鎮痙薬、緩下剤、止痢剤、三環系抗うつ薬及び5-HT3アンタゴニストを含むさまざまな治療剤で処置されている。オダンセトロン(Odansetron)は5-HT3アンタゴニストであり、この化合物は便硬度、排便頻度を改善し、疼痛エピソードの回数を減少させることが臨床治験で示されている。同じく5-HT3アンタゴニストであるアロセトロンは腹痛又は腹部不快感及び便意切迫を改善することが示されている[非特許文献2]。アロセトロンは重症下痢型IBSを持つ女性の処置についてFDAによって認可されている。
【0006】
化合物4-[2-(4-メチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペリジンは、特許文献1として公開された国際特許出願において初めて開示され、その国際特許出願において、本化合物はセロトニン輸送阻害剤であることが示された。その後、特許文献2として公開された国際特許出願では、前記化合物の結晶性塩が、5-HT3拮抗作用を含むより広範囲にわたる薬理学的プロファイルと共に開示された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2003/029232号
【特許文献2】国際公開第2007/144006号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Gastroenterol., 120, 652-668, 2001
【非特許文献2】Aliment. Pharmacol. Ther., 24, 183-205, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ある実施形態において本発明は、過敏性腸症候群(IBS)を処置するための方法であって、その必要がある患者に治療有効量の4-[2-(4-メチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペリジン又は治療上許容できるその塩(以下、化合物I)を投与することを含む方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ある実施形態において本発明は、IBSの処置に使用するための化合物Iを提供する。
【0011】
ある実施形態において本発明は、IBSを処置するための医薬の製造における化合物Iの使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】化合物IのHBr付加塩のX線回折パターン。
【図2】化合物IのHBr付加塩溶媒和物のX線回折パターン。
【図3】化合物Iのパルミチン酸付加塩のX線回折パターン。
【図4】化合物IのDL-乳酸付加塩のX線回折パターン。
【図5】化合物Iのアジピン酸付加塩(1:1)(α+β型)のX線回折パターン。
【図6】化合物Iのアジピン酸付加塩(2:1)のX線回折パターン。
【図7】化合物Iのフマル酸付加塩(1:1)のX線回折パターン。
【図8】化合物Iのグルタル酸付加塩(1:1)のX線回折パターン。
【図9】化合物Iのマロン酸付加塩(1:1)α型のX線回折パターン。
【図10】化合物Iのマロン酸付加塩β型のX線回折パターン。
【図11】化合物Iのシュウ酸付加塩(1:1)のX線回折パターン。
【図12】化合物Iのセバコイン酸(sebacoinic acid)付加塩(2:1)のX線回折パターン。
【図13】化合物Iのコハク酸付加塩(2:1)のX線回折パターン。
【図14】化合物IのL-リンゴ酸付加塩(1:1)α型のX線回折パターン。
【図15】化合物IのL-リンゴ酸付加塩(1:1)β型のX線回折パターン。
【図16】化合物IのD-酒石酸付加塩(1:1)のX線回折パターン。
【図17】L-アスパラギン酸との混合状態にある化合物IのL-アスパラギン酸付加塩(1:1)のX線回折パターン。
【図18】Lーアスパラギン酸との混合状態にある化合物IのL-アスパラギン酸付加塩水和物(1:1)のX線回折パターン。
【図19】グルタミン酸一水和物との混合状態にある化合物Iのグルタミン酸付加塩(1:1)のX線回折パターン。
【図20】化合物Iのクエン酸付加塩(2:1)のX線回折パターン。
【図21】化合物IのHCl酸付加塩のX線回折パターン。
【図22】化合物Iのリン酸付加塩(1:1)のX線回折パターン。
【発明を実施するための形態】
【0013】
4-[2-(4-メチルフェニルスルファニル)-フェニル]ピペリジンの構造は
【化1】
である。
【0014】
ある実施形態では、本発明で使用される医薬的に許容できる塩が、無毒性である酸の酸付加塩である。前記の塩には、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、アスコルビン酸、コハク酸、シュウ酸、ビス-メチレンサリチル酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、ケイ皮酸、シトラコン酸、アスパラギン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、イタコン酸、グリコール酸、p-アミノ安息香酸、グルタミン酸、ベンゼンスルホン酸、テオフィリン酢酸、並びに8-ハロテオフィリン、例えば8-ブロモテオフィリンなどの有機酸から製造される塩が含まれる。前記の塩は、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸及び硝酸などの無機塩から製造することもできる。他の有用な塩を実施例1dの表(表1)に列挙する。
【0015】
ある実施形態では、化合物IがHBr付加塩である。
【0016】
ある実施形態では、化合物IがDL-乳酸付加塩、特にその1:1塩である。
【0017】
ある実施形態では、化合物IがL-アスパラギン酸付加塩、特にその1:1塩である。
【0018】
ある実施形態では、化合物Iがグルタミン酸付加塩、特にその1:1塩である。
【0019】
ある実施形態では、化合物Iがグルタル酸付加塩、特にその1:1塩である。
【0020】
ある実施形態では、化合物Iがマロン酸付加塩、特にその1:1塩(これは、二つの同質異像(polymorphic modification)α及びβで存在することが見出され、そのうちのβ型は、より低い溶解度に基づいて、最も安定であると考えられる)である。
【0021】
ある実施形態では、化合物Iが精製された形態にある。「精製された形態」という用語は、その化合物が本質的に他の化合物を含まないこと、又は場合により、他の形態、すなわち前記化合物の多形を含まないことを示すものとする。
【0022】
経口剤形、特に錠剤及びカプセル剤は、投与が容易であり、結果的に服薬率が良好になるため、しばしば患者及び医師に好まれる。錠剤及びカプセル剤の場合、活性成分は結晶性であることが好ましい。
【0023】
化合物Iの結晶は溶媒和物、すなわち溶媒分子が結晶構造の一部を形成している結晶として存在しうる。溶媒和物は水から形成させることができ、この場合、その溶媒和物はしばしば水和物と呼ばれる。あるいは、他の溶媒、例えばエタノール、アセトン、又は酢酸エチルなどから溶媒和物を形成させることもできる。溶媒和物の厳密な量は、しばしば、条件に依存する。例えば水和物は、温度を上昇させるにつれて、又は相対湿度を低下させるにつれて、典型的には水を失うだろう。医薬製剤には、例えば湿度などの条件が変化しても変化しないかわずかしか変化しない化合物の方が適していると、一般にみなされる。水から析出させた場合にHBr付加塩が水和物を形成しないのに対して、コハク酸付加塩、リンゴ酸付加塩及び酒石酸付加塩などの化合物は水和物を形成することに注目されたい。
【0024】
いくつかの化合物は吸湿性である(すなわち、それらは湿気に曝露された時に水を吸収する)。吸湿性は、医薬製剤(特に錠剤又はカプセル剤などの乾燥製剤)として提示しようとする化合物にとっては、望ましくない性質であると、一般にみなされる。ある実施形態において、本発明は、吸湿性の低い結晶を使用する。
【0025】
結晶性活性成分を使用する経口剤形の場合は、前記の結晶が明確に定義されていることも有益である。この文脈において「明確に定義されている(well-defined)」という用語は、特に、化学量論が明確に定義されていること、すなわち塩を形成しているイオン間の比が小さな整数の比、例えば1:1、1:2、2:1、1:1:1などであることを意味する。ある実施形態において、本発明で使用される化合物は、明確に定義された結晶である。
【0026】
活性成分の溶解度も、生物学的利用率に直接的な影響を持ちうるので、剤形の選択にとって重要である。経口剤形の場合、活性成分の溶解度は高い方が、生物学的利用率が増加するので有益であると、一般に考えられている。一部の患者、例えば高齢の患者は、錠剤を嚥下することが困難な場合があり、内服用滴剤(oral drop solution)が、錠剤を嚥下する必要を回避する適切な代替手段になりうる。内服用滴剤の体積を制限するには、溶液中の活性成分濃度を高くする必要があり、ここでも、化合物の高い溶解度が要求される。表3に示すように、DL-乳酸、L-アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタル酸及びマロン酸付加塩は、並外れて高い溶解度を持つ。
【0027】
結晶形は化合物の濾過特性及び加工特性に影響を及ぼす。針状結晶は、濾過がより困難になり、時間がかかるので、製造環境における取り扱いが、より困難になりがちである。与えられた塩の厳密な結晶形は、例えば塩を析出させた時の条件などに依存しうる。本発明のHBr酸付加塩は、エタノール、酢酸及びプロパノールから析出させた場合には針状溶媒和結晶を成長させるが、HBr付加塩を水から析出させた場合は、針状でない非水和型の結晶を成長させて、優れた濾過特性を与える。
【0028】
表3には、溶液pH(Resulting pH)、すなわち塩の飽和溶液のpHも記載する。この性質は重要である。なぜなら、貯蔵中に湿気を完全に避けることは不可能であり、湿気の蓄積が低溶液pH塩を含む錠剤中又は錠剤上でのpH低下を引き起こすことになり、それが貯蔵寿命を減少させうるからである。そのうえ、低い溶液pHを持つ塩は、錠剤を湿式造粒法で製造する場合には、加工装置の腐蝕を引き起こしうる。表3のデータは、HBr、HCl及びアジピン酸付加塩が、この点において優秀でありうることを示唆している。
【0029】
ある実施形態では、化合物Iが、結晶形態のHBr付加塩(特に、精製された形態にあるもの)である。さらにもう一つの実施形態では、前記HBr塩が、X線粉末ディフラクトグラム(XRPD)において、約6.08°、14.81°、19.26°及び25.38°2θにピークを持ち、特に前記HBr塩が図1に図示するXRPDを持つ。
【0030】
ある実施形態では、化合物Iが、結晶形態のDL-乳酸付加塩(1:1)(特に、精製された形態にあるもの)である。さらにもう一つの実施形態では、前記DL-乳酸付加塩が、XRPDにおいて、約5.30°、8.81°、9.44°及び17.24°2θにピークを持ち、特に前記DL乳酸付加塩が図4に図示するXRPDを持つ。
【0031】
ある実施形態では、化合物Iが、結晶形態のL-アスパラギン酸付加塩(1:1)(特に、精製された形態にあるもの)である。さらにもう一つの実施形態では、前記L-アスパラギン酸付加塩が非溶媒和物であり、XRPDにおいて約11.05°、20.16°、20.60°、25.00°2θにピークを持ち、特に前記L-アスパラギン酸塩は、L-アスパラギン酸と混合された場合に、図17に図示するXRPDを持つ。ある実施形態では、前記L-アスパラギン酸付加塩が、水和物(特に、精製された形態にあるもの)である。さらにもう一つの実施形態では、前記L-アスパラギン酸付加塩水和物が、XRPDにおいて約7.80°、13.80°、14.10°、19.63°2θにピークを持ち、特に前記L-アスパラギン酸付加塩水和物は、L-アスパラギン酸と混合された場合に、図18に図示するXRPDを持つ。
【0032】
ある実施形態では、化合物Iが、結晶形態のグルタミン酸付加塩(1:1)(特に、精製された形態にあるもの)である。さらにもう一つの実施形態では、前記グルタミン酸付加塩が、XRPDにおいて約7.71°、14.01°、19.26°、22.57°2θにピークを持ち、特に前記グルタミン酸塩は、グルタミン酸一水和物と混合された場合に、図19に図示するXRPDを持つ。
【0033】
ある実施形態では、化合物Iが、結晶形態のマロン酸付加塩(1:1)(特に、精製された形態にあるもの)である。さらにもう一つの実施形態では、前記マロン酸付加塩がα型であって、XRPDにおいて約10.77°、16.70°、19.93°、24.01°2θにピークを持つか、又は前記マロン酸付加塩がβ型であって、XRPDにおいて約6.08°、10.11°、18.25°、20.26°2θにピークを持ち、特に前記マロン酸付加塩は図9又は図10に図示するXRPDを持つ。
【0034】
ある実施形態では、化合物Iが、結晶形態のグルタル酸付加塩(1:1)(特に、精製された形態にあるもの)である。さらにもう一つの実施形態では、前記グルタル酸付加塩が、XRPDにおいて約9.39°、11.70°、14.05°、及び14.58°2θにピークを持ち、特に前記グルタル酸付加塩が、図8に図示するXRPDを持つ。
【0035】
化合物Iの薬理学的プロファイルは国際公開第2007/144006号として公開された国際特許出願で論じられているが、次のように要約することができる。本化合物は、セロトニン及びノルエピネフリン再取り込みの阻害剤であり、セロトニン受容体2A、2C及び3の阻害剤であり、且つα-1アドレナリン作動性受容体の阻害剤である。
【0036】
化合物Iは、5-HT3受容体を強力に阻害するので、IBSの処置に有用であると考えられる。実施例で示すとおり、化合物Iは、上述のようにIBSの顕著な症状である疼痛にも、強い効果を持つ。
【0037】
ある実施形態では、化合物Iが、1日あたり約0.001〜約100mg/kg体重の量で投与される。
【0038】
典型的経口投薬量は、1日あたり約0.001〜約100mg/kg体重、好ましくは1日あたり約0.01〜約50mg/kg体重の範囲にあり、それが1回又はそれ以上の投薬、例えば1〜3回の投薬で投与される。厳密な投薬量は、投与頻度及び投与様式、処置される対象の性別、年齢、体重及び全身状態、処置される状態の性質及び重症度、並びに処置されるべき併発疾患及び当業者には明白な他の因子に依存するだろう。
【0039】
成人の場合、典型的経口投薬量は、1〜100mg/日の化合物I、例えば1〜30mg/日、又は5〜25mg/日の範囲にある。これは典型的には、0.1〜50mg、例えば1〜25mg、例えば1、5、10、15、20又は25mgの化合物Iを、1日に1回又は2回投与することによって達成されうる。
【0040】
本明細書にいう化合物の「治療有効量」とは、前記化合物の投与を含む治療的介入において、所与の疾患及びその合併症の臨床症状を治癒、軽減又は部分的に抑止するのに十分な量を意味する。これを達成するのに十分な量は「治療有効量」と定義される。この用語は、前記化合物の投与を含む処置において、所与の疾患及びその合併症の臨床症状を治癒、軽減又は部分的に抑止するのに十分な量も包含する。各目的のための有効量は、その疾患又は傷害の重症度並びに対象の体重及び全身状態に依存するだろう。適当な投薬量の決定は、値のマトリクスを作成し、そのマトリクス中の異なる点を試験することにより、日常的な実験を使って達成することができ、それが全て、熟練した医師の通常の技量に含まれることは、理解されるだろう。
【0041】
本明細書において使用する用語「処置」及び「処置する」は、疾患又は障害などの状態と闘うためになされる患者の管理及び医療を意味する。この用語は、患者が患っている所与の状態に関する処置の全範囲、例えばその症状若しくは合併症を軽減するため、その疾患、障害若しくは状態の進行を遅延させるため、その症状及び合併症を軽減し若しくは緩和するため、及び/又はその疾患、障害若しくは状態を治癒させ若しくは排除するため、並びにその状態を防止するためになされる活性化合物の投与などを包含するものとし、この場合、防止は、その疾患、状態、又は障害と闘うためになされる患者の管理及び医療と解釈され、症状又は合併症の発生を防止するための活性化合物の投与を包含する。それでもなお、予防的(防止的)処置と治療的(治癒的)処置は、本発明の二つの別個の態様である。処置される患者は、好ましくは哺乳動物、特にヒトである。特に、処置される患者には、IBSの診断が下されている。
【0042】
化合物Iは、純粋な化合物として単独で、又は医薬的に許容できる担体若しくは賦形剤と組み合わせて、単回投与又は複数回投与で投与することができる。本発明の医薬組成物は、例えば「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」(第19版、Gennaro編、Mack Publishing Co.、ペンシルバニア州イーストン、1995)に開示されているような従来の技法に従い、医薬的に許容できる担体又は希釈剤、並びに他の任意の既知の佐剤及び賦形剤を使って製剤することができる。
【0043】
医薬組成物は、経口、直腸、鼻、肺、局所外用(口腔内及び舌下を含む)、経皮、槽内、腹腔内、膣及び非経口(皮下、筋肉内、髄腔内、静脈内及び皮内を含む)経路など、任意の適切な経路による投与に合わせて、個別に製剤化することができ、経口経路は好ましい。好ましい経路が、処置される対象の全身状態及び年齢、処置される状態の性質並びに選択した活性成分に依存することは理解されるだろう。
【0044】
経口投与用の医薬組成物には、カプセル剤、錠剤、糖衣錠、丸剤、口中錠、粉末剤及び顆粒剤などの固形剤形が含まれる。それらは適宜、コーティングを施して調製することができる。
【0045】
経口投与用の液状剤形には、溶液剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤及びエリキシル剤が含まれる。
【0046】
非経口投与用の医薬組成物には、滅菌された水性及び非水性の注射可能な溶液剤、分散剤、懸濁剤又は乳剤、並びに使用に先だって滅菌注射可能溶液又は分散液に再構成される滅菌粉末剤が含まれる。
【0047】
他の適切な投与形態には、坐剤、噴霧剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、吸入剤、皮膚パッチ、インプラントなどがある。
【0048】
化合物Iは、約0.1〜50mgの量の前記化合物(例えば1mg、5mg、10mg、15mg、20mg又は25mgの化合物I)を含有する単位剤形で投与すると、好都合である。
【0049】
例えば静脈内投与、髄腔内投与、筋肉内投与などの非経口経路の場合、通例、用量は経口投与に用いられる用量の約半分程度である。
【0050】
非経口投与には、滅菌水性溶液、水性プロピレングリコール、水性ビタミンE又はゴマ油若しくはラッカセイ油中の化合物Iの溶液を使用することができる。そのような水性溶液は、必要であれば適切に緩衝化されるべきであり、まず最初に希釈液を十分な食塩水又はグルコースで等張性にする。水性溶液は静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与には特に適している。使用される滅菌水性媒質は全て、当業者に知られる標準的技法により、容易に入手することができる。
【0051】
適切な医薬担体には、不活性固形希釈剤又は充填剤、滅菌水性溶液及び種々の有機溶媒が含まれる。固形担体の例は、ラクトース、白土、スクロース、シクロデキストリン、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸及びセルロースの低級アルキルエーテルである。液状担体の例は、シロップ、ラッカセイ油、オリーブ油、リン脂質、脂肪酸、脂肪酸アミン、ポリオキシエチレン及び水である。化合物Iと医薬的に許容できる担体とを組み合わせることによって形成された医薬組成物は、次に、開示した投与経路に適したさまざまな剤形で、容易に投与される。
【0052】
経口投与に適した、本発明で使用される製剤は、それぞれが予め決定された量の活性成分を含有し、適切な賦形剤を含んでもよい、カプセル剤又は錠剤などの不連続な単位として提示することができる。さらにまた、経口利用可能な製剤は、粉末状若しくは顆粒状であるか、水性若しくは非水性液体中の溶液若しくは懸濁液であるか、水中油型若しくは油中水型の液状乳剤であることができる。
【0053】
経口投与に固形担体を使用する場合、その調製物は錠剤であるか、例えば粉末状若しくはペレット状にして硬ゼラチンカプセルに入れるか、又はトローチ剤若しくは口中錠の形態をとりうる。固形担体の量はさまざまでありうるが、通常は約25mg〜約1gになるだろう。
【0054】
液状担体を使用する場合、その調製物はシロップ剤、乳剤、軟ゼラチンカプセル剤又は滅菌注射用液剤、例えば水性若しくは非水性の液状懸濁剤若しくは溶液剤の形態をとりうる。
【0055】
錠剤は、活性成分を通常の佐剤及び/又は希釈剤と混合した後、その混合物を従来の打錠機で圧縮することによって調製することができる。佐剤又は希釈剤の例には、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、滑石、ステアリン酸マグネシウム、ゼラチン、ラクトース、ゴムなどが含まれる。そのような目的に通常使用される他の佐剤又は添加剤、例えば着色剤、着香剤、保存剤などはいずれも、それらが活性成分と適合するのであれば、使用することができる。
【0056】
本発明の化合物を含むカプセル剤は、前記化合物を含む粉末を微結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムと混合し、前記粉末を硬ゼラチンカプセルに入れることによって調製することができる。場合によっては、適切な色素を使って前記カプセル剤を着色してもよい。典型的には、カプセル剤は、0.25〜20%の本発明の化合物、例えば0.5〜1.0%、3.0〜4.0%、14.0〜16.0%の本発明の化合物を含むだろう。これらの強度は、1、5、10、15、20及び25mgの本発明の化合物を単位剤形に入れて都合よく送達するために使用することができる。
【0057】
注射用溶液剤は、活性成分と考えうる添加剤とを注射用の溶媒(好ましくは滅菌水)の一部に溶解し、その溶液を所望の体積に調節し、その溶液を滅菌し、それを適切なアンプル又はバイアルに充填することによって調製することができる。浸透圧調節剤、保存剤、酸化防止剤など、当分野で従来から使用されている任意の適切な添加剤を加えることができる。
【0058】
化合物Iは、国際公開第2003/029232号又は国際公開第2007/144006号に概説されているように調製することができる。化合物Iの塩は、適当な酸を添加した後、析出させることによって調製することができる。析出は、例えば冷却、溶媒の除去、別の溶媒又はその混合物の添加によって引き起こすことができる。
【0059】
本明細書で言及する参考文献は、刊行物、特許出願、及び特許を含めて全て、その文書の組み込みが本明細書のどこか他の項で別途なされているかどうかとは無関係に、各参考文献が参照によって組み込まれることが個別に且つ具体的に示され、本明細書にその全体が(法が許す範囲で最大限に)記載されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0060】
本発明の説明に関して用語「a」及び「an」並びに「the」及び類似する指示対象(referent)の使用は、本明細書に別段の表示がない限り、又は文脈上、明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の両方を包含するとみなすべきである。例えば「化合物(the compound)」という表現は、別段の表示がない限り、さまざまな本発明の「化合物(compounds)」又は記載された特定の態様を指すと理解すべきである。
【0061】
別段の表示がない限り、本明細書に記載する厳密な値は全て、対応する近似値の代表である(例えば、特定の因子又は測定値に関して記載される厳密な典型的値は全て、対応する近似測定値(適宜「約」によって修飾されるもの)をも記載しているとみなすことができる)。
【0062】
1又は複数の要素に関して「を含む(comprising)」「を持つ(having)」「を包含する(including)」又は「含有する(containing)」などの用語を使ってなされる本発明の任意の1又は複数の態様の、本明細書における説明は、別段の明記がない限り、又は文脈上、明らかに矛盾しない限り、その特定の1又は複数の要素「からなる(cosist of)」「から本質的になる(consist essentially of)」又は「を実質的に含む(substantially comprise)」本発明の類似する1又は複数の態様の裏付けを提供するものとする(例えば、特定の要素を含むと本明細書に記載されている組成物は、別段の明記がない限り、又は文脈上、明らかに矛盾しない限り、その要素からなる組成物も記載していると理解すべきである)。
【実施例】
【0063】
分析方法
X線粉末ディフラクトグラム(XRPD)は、CuKα1放射線を使ってPANalytical X'Pert PRO X線回折計で測定した。X'celerator検出器を使用し、反射モードにより、2θ範囲5〜40°で、試料を測定した。元素組成(CHN)はElementarのElementar Vario EL装置で測定した。約4mgの試料を各測定に使用し、結果を2回の測定の平均値として記載する。
【実施例1】
【0064】
実施例1a:化合物IのHBr塩
撹拌してわずかに加熱(約45℃)した油状の4-(2-p-トリルスルファニル-フェニル)-ピペリジン-1-カルボン酸エチルエステル442グラムにAcOH中の33wt%HBr 545ml(5.7M、2.5等量)を加えた。この混合によって10℃の発熱が生じる。最終添加後に、反応混合物を80℃まで加熱し、18時間放置する。試料を取り出してHPLCで分析し、もし完了していなければ、AcOH中の33wt%HBrを追加しなければならない。そうでない場合は、その混合物を25℃まで冷却して、生成物4-(2-p-トリルスルファニル-フェニル)-ピペリジン臭化水素酸塩を析出させる。25℃で1時間の後、その濃厚懸濁液にジエチルエーテル800mlを加える。撹拌をさらに1時間続けてから、生成物を濾過によって単離し、ジエチルエーテル400mlで洗浄し、真空下40℃で終夜乾燥する。化合物Iの臭化水素酸塩が白色固体として単離された。
【0065】
実施例1b:化合物IのHBr塩
2-(4-トリルスルファニル)-フェニルブロミド
窒素で覆った撹拌反応器中で、N-メチル-ピロリドン、NMP(4.5L)に、窒素を20分間吹き込んだ。4-メチルベンゼンチオール(900g、7.25mol)を加え、次に1,2-ジブロモベンゼン(1709g、7.25mol)を加えた。最後にカリウムtert-ブトキシド(813g、7.25mol)を最後の反応物として加えた。反応は発熱的であり、反応混合物の温度を70℃まで上昇させた。次に反応混合物を120℃に2〜3時間加熱した。反応混合物を室温まで冷却した。酢酸エチル(4L)及び塩化ナトリウム水溶液(15%、2.5L)を加えた。その混合物を20分間撹拌した。水相を分離し、新たな酢酸エチル(2L)で抽出した。水相を分離し、有機相を合わせ、塩化ナトリウム溶液(15%、2.5L)で洗浄した。有機相を分離し、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で蒸発させることにより、20〜30%のNMPを含有する赤色油状物を得た。その油状物をメタノールで2倍の体積に希釈し、その混合物を還流した。透明な赤色溶液が得られるまで、メタノールを追加した。その溶液に種晶を入れて室温までゆっくり冷却した。生成物はオフホワイトの結晶として結晶化する。それらを濾過によって単離し、メタノールで洗浄し、減圧乾燥器中、40℃で恒量まで乾燥した。
【0066】
エチル 4-ヒドロキシ-4-(2-(4-トリルスルファニル)フェニル)-ピペリジン-1-カルボキシレート
窒素で覆われた撹拌反応器中で、2-(4-トリルスルファニル)-フェニルブロミド(600g、2.15mol)をヘプタン(4.5L)に懸濁した。室温でヘキサン中の10M BuLi(235mL、2.36mol)を10分かけて加えた。わずかな発熱しか認められなかった。その懸濁液を周囲温度で1時間撹拌した後、-40℃まで冷却した。THF(1.5L)に溶解した1-カルベトキシ-4-ピペリドン(368g、2.15mol)を、反応温度が-40℃未満に保たれる速さを上回らない速さで加えた。反応が完了したら、それを0℃まで温め、温度を10℃未満に保ちながら、1M HCl(1L)を加えた。酸性水相を分離し、酢酸エチル(1L)で抽出した。有機相を合わせ、塩化ナトリウム溶液(15%、1L)で抽出した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発させることにより、半結晶性塊を得た。それをエチルエーテル(250mL)でスラリ化し、濾別した。減圧乾燥器中、40℃で恒量まで乾燥した。
【0067】
エチル 4-(2-(4-トリルスルファニル)フェニル)-ピペリジン-1-カルボキシレート
トリフルオロ酢酸(2.8kg、24.9mol)及びトリエチルシラン(362g、3.1mol)を、効率の良い撹拌機を持つ反応器に投入した。エチル=4-ヒドロキシ-4-(2-(4-トリルスルファニル)フェニル)-ピペリジン-1-カルボキシレート(462g、1.24mol)を粉末ロートから少しずつ加えた。反応はわずかに発熱的だった。温度は50℃まで上昇した。添加を終わらせた後、反応混合物を60℃に18時間温めた。反応混合物を室温まで冷却した。トルエン(750mL)及び水(750mL)を加えた。有機相を単離し、水層を新たなトルエン(750mL)で抽出した。有機相を合わせ、塩化ナトリウム溶液(15%、500mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾去し、濾液を減圧下で蒸発させることによって赤色油状物とし、それをさらに次のステップで加工した。
【0068】
4-(2-(4-トリルスルファニル)フェニル)-ピペリジン臭化水素酸塩
実施例3で得た赤色油状物である粗エチル 4-(2-(4-トリルスルファニル)フェニル)-ピペリジン-1-カルボキシレートを、撹拌反応器において、酢酸中の臭化水素酸(40%、545mL、3.11mol)と混合した。その混合物を80℃で18時間加熱した。その反応混合物を室温まで冷却した。冷却中に生成物が晶出した。室温で1時間後、エチルエーテル(800mL)を反応混合物に加え、その混合物をさらに1時間撹拌した。生成物を濾別し、エチルエーテルで洗浄し、減圧乾燥器中、50℃で恒量まで乾燥した。
【0069】
実施例1c:化合物IのHBr塩の再結晶
化合物IのHBr塩(例えば上記のように調整したもの)10.0グラムの混合物を、H2O 100ml中で加熱還流した。混合物は80〜90℃で透明になり、完全に溶解した。その透明な溶液にチャコール1グラムを加え、還流を15分間続けてから、濾過し、室温まで自然放冷した。冷却中に白色固体の析出が起こり、その懸濁液を室温で1時間撹拌した。濾過し、減圧下40℃で終夜乾燥することにより、化合物IのHBr酸付加塩6.9グラム(69%)を得た。XRPDについては図1を参照されたい。元素分析:3.92%N、59.36%C、6.16%H(理論値:3.85%N、59.34%C、6.09%H)。
【0070】
実施例1d:遊離塩基の原液の調製
酢酸エチル500ml及びH2O 200mlの混合物に化合物IのHBr塩50グラムを加えて、二相スラリを生成させた。このスラリに約25mlの濃NaOHを加えたところ、透明な二相溶液の形成が起こった(pHは13〜14と測定された)。その溶液を激しく15分間撹拌し、有機相を分離した。有機相をH2O 200mlで洗浄し、Na2SO4で乾燥し、濾過し、真空下、60℃で蒸発させることにより、遊離塩基を38グラムの収量(99%)で、ほぼ無色の油状物として得た。
【0071】
酢酸エチルを使って10グラムの油状物を溶解し、体積を150mlに調節することによって、酢酸エチル中の0.235M原液を調製し、そこから1.5ml(遊離塩基100mg)ずつ取って使用した。
【0072】
96vol%EtOHを使って10グラムの油状物を溶解し、体積を100mlに調節することによって、EtOH中の0.353M原液を調製し、そこから1.0ml(遊離塩基100mg)ずつ取って使用した。
【0073】
実施例1e:遊離塩基の原液を使った塩の形成
所与の一定分量を試験管に入れ、撹拌しながら、表1に示すように適当な量の酸を加えた。酸が液体である場合はニートで加え、そうでない場合は、記載の溶媒に溶解してから加えた。混合及び析出の後、撹拌を終夜続け、析出物を濾過によって集めた。真空下、30℃で乾燥する前に、少量の参照試料を取り出し、減圧せずに室温で乾燥した。この手順は溶媒和物について調べるために含めた。いくつかの結果を表1に提示する。XRPDディフラクトグラムを図1〜22に示し、選択したピークの位置を表2に要約する。表3に、水における本発明の化合物の溶解度を、結果として得られる飽和溶液のpHと共に示す。「析出物」という欄は、溶解度決定後に単離された析出物が溶解した化合物と同一であるかどうかを表しており、これは水和物の形成を示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【表3】
【0076】
実施例2:5-HT3A受容体拮抗作用
ヒトホモマ型5-HT3A受容体を発現させる卵母細胞において、5-HTは2600nMのEC50で電流を作動させる。この電流は、オンダンセトロンなどの古典的5-HT3アンタゴニストで拮抗することができる。オンダンセトロンはこの系において1nM未満のKi値を示す。化合物Iは、低濃度(0.1nM〜100nM)では強力な拮抗作用を示し(IC50約10nM/Kb約2nM)、より高濃度(100〜100000nM)で適用した場合にはアゴニスト特性を示して(EC50約2600nM)、5-HTそのものによって誘起される最大電流の約70〜80%の最大電流に達する。ラットホモマー型5-HT3A受容体を発現させる卵母細胞において、5-HTは3.3μMのEC50で電流を作動させる。実験は次のように行った。0.4%MS-222中で10〜15分間麻酔した成熟雌アフリカツメガエル(Xenepus laevis)から、卵母細胞を外科的に摘出した。次にその卵母細胞を、OR2緩衝液(82.5mN NaCl、2.0mM KCl、1.0mM MgCl2及び5.0mM HEPES、pH7.6)中の0.5mg/mlコラゲナーゼ(タイプIA Sigma-Aldrich)により、室温で2〜3時間消化した。卵胞層が取り除かれた卵母細胞を選択し、2mMピルビン酸ナトリウム、0.1U/lペニシリン及び0.1μg/lストレプトマイシンを補足した変法バース塩類緩衝液(Modified Barth's Saline buffer)[88mM NaCl、1mM KCl、15mM HEPES、2.4mM NaHCO3、0.41mM CaCl2、0.82mM MgSO4、0.3mM Ca(NO3)2]中で24時間インキュベートした。ステージIV-IV卵母細胞を同定し、ヒト5-HT3A受容体をコードするcRNA 14〜50pgを含有するヌクレアーゼ不含水12〜48nlを注入し、それを電気生理学的記録に使用するまで18℃でインキュベートしておいた(注入後1〜7日間)。ヒト5-HT3受容体を発現させている卵母細胞を1mlバスに入れ、リンゲル緩衝液(115mM NaCl、2.5mM KCl、10mM HEPES、1.8mM CaCl2、0.1mM MgCl2、pH7.5)で潅流した。寒天で栓をした3M KClを含有する0.5〜1MΩ電極を細胞に突き刺し、GeneClamp 500B増幅器により、-90mVで電圧固定した。卵母細胞をリンゲル緩衝液で潅流し続け、薬物をその潅流液に適用した。5-HTアゴニスト溶液を10〜30秒間適用した。10μM 5-HT刺激に対する濃度応答を測定することによって5-HT3受容体アンタゴニストの効力を調べた。
【0077】
実施例3:神経因性疼痛に対する効果
神経因性疼痛に対する効力を実証するために、化合物Iを神経因性疼痛のホルマリンモデル[Neuropharm.,48,252-263,2005;Pain,51,5-17,1992]で試験した。このモデルでは、マウスの左後足の足底表面にホルマリン(4.5%、20μl)を注射してから、そのマウスを観察のために個別にガラス製ビーカ(容量2リットル)に入れる。ホルマリン注射が引き起こす刺激は、傷害を受けた足をなめるのに費やす時間の量として定量化される特徴的な二相性行動応答を誘起する。第1相(約0〜10分)は直接的な化学刺激及び侵害受容を表すのに対して、第2相(約20〜30分)は神経因性の疼痛を表すと考えられる。これら二つの相は休止時間によって隔てられ、その間は行動が正常に戻る。傷害を受けた足をなめるのに費やした時間の量を二つの相で測定することにより、疼痛刺激の低減に関する試験化合物の有効性が評価される。
【0078】
各群8匹のC57/B6マウス(約25g)を試験した。次の表4は、二つの相、すなわちホルマリン注射の0〜5分後及び20〜30分後において、傷害を受けた足をなめるのに費やされた時間の量を示している。投与した化合物の量は遊離塩基として算出される。
【表4】
【0079】
表4のデータは、直接的な化学刺激及び侵害受容を表す第1相では、化合物Iがほとんど効果を持たないことを明らかにしている。より注目すべきことに、このデータは、第2相において足をなめるのに費やされた時間の明確且つ用量依存的な短縮も明らかにしており、このことは、神経因性疼痛の処置における本発明の化合物の効果を示している。
【0080】
さらにまた、神経因性疼痛の動物モデルにおける化合物Iの潜在的鎮痛効果を評価した。慢性絞扼性神経傷害に続発する末梢単神経障害をラットの右後肢に誘発させ、確立された行動試験(それぞれフォンフライ毛(Von Frey filaments)及びハーグリーブズ足底装置(Hargreaves Plantar Device))を使って、機械的異痛及び熱性痛覚過敏の発生を監視した。10%ヒドロキシプロピル-ベータシクロデキストリン中の化合物Iを1.9、4.8及び7.9mg/kgの用量で皮下投与しても、フォンフライ毛で攻撃したときの右後足の逃避閾値は増加しなかった。しかし、熱性痛覚過敏では、4.8及び7.8mg/kgで足逃避潜時の有意な増加が見られ、鎮痛薬応答を示していた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過敏性腸症候群を処置するための方法であって、その必要がある患者に治療有効量の4-[2-(4-メチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペリジン又は医薬的に許容できるその塩(化合物I)を投与することを含む方法。
【請求項2】
化合物Iが結晶形態で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化合物IがHBr付加塩である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
HBr付加塩がXPRDにおける約6.08、14.81、19.26及び25.38°2θ(全て±0.1°)のピークを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記HBr付加塩が図1に図示するXRPDを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
化合物Iが1〜20mg/日で投与される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
過敏性腸症候群の処置に使用するための4-[2-(4-メチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペリジン又は医薬的に許容できるその塩(化合物I)。
【請求項8】
結晶形態で投与される、請求項7に記載の化合物I。
【請求項9】
HBr付加塩である、請求項8に記載の化合物I。
【請求項10】
HBr付加塩がXRPDにおける約6.08、14.81、19.26及び25.38°2θ(全て±0.1°)のピークを特徴とする、請求項8に記載の化合物I。
【請求項11】
前記HBr付加塩が図1に図示するXRPDを特徴とする、請求項10に記載の化合物I。
【請求項12】
化合物Iが1〜20mg/日で投与される、請求項7〜11のいずれか一項に記載の化合物I。
【請求項13】
過敏性腸症候群を処置するための医薬の製造における4-[2-(4-メチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペリジン又は医薬的に許容できるその塩(化合物I)の使用。
【請求項14】
化合物Iが結晶形態で投与される、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
化合物IがHBr付加塩である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
HBr付加塩がXPRDにおける約6.08、14.81、19.26及び25.38°2θ(全て±0.1°)のピークを特徴とする、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記HBr付加塩が図1に図示するXRPDを特徴とする、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
化合物Iが1〜20mg/日で投与される、請求項13〜16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項1】
過敏性腸症候群を処置するための方法であって、その必要がある患者に治療有効量の4-[2-(4-メチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペリジン又は医薬的に許容できるその塩(化合物I)を投与することを含む方法。
【請求項2】
化合物Iが結晶形態で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化合物IがHBr付加塩である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
HBr付加塩がXPRDにおける約6.08、14.81、19.26及び25.38°2θ(全て±0.1°)のピークを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記HBr付加塩が図1に図示するXRPDを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
化合物Iが1〜20mg/日で投与される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
過敏性腸症候群の処置に使用するための4-[2-(4-メチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペリジン又は医薬的に許容できるその塩(化合物I)。
【請求項8】
結晶形態で投与される、請求項7に記載の化合物I。
【請求項9】
HBr付加塩である、請求項8に記載の化合物I。
【請求項10】
HBr付加塩がXRPDにおける約6.08、14.81、19.26及び25.38°2θ(全て±0.1°)のピークを特徴とする、請求項8に記載の化合物I。
【請求項11】
前記HBr付加塩が図1に図示するXRPDを特徴とする、請求項10に記載の化合物I。
【請求項12】
化合物Iが1〜20mg/日で投与される、請求項7〜11のいずれか一項に記載の化合物I。
【請求項13】
過敏性腸症候群を処置するための医薬の製造における4-[2-(4-メチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペリジン又は医薬的に許容できるその塩(化合物I)の使用。
【請求項14】
化合物Iが結晶形態で投与される、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
化合物IがHBr付加塩である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
HBr付加塩がXPRDにおける約6.08、14.81、19.26及び25.38°2θ(全て±0.1°)のピークを特徴とする、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記HBr付加塩が図1に図示するXRPDを特徴とする、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
化合物Iが1〜20mg/日で投与される、請求項13〜16のいずれか一項に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公表番号】特表2010−529968(P2010−529968A)
【公表日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511492(P2010−511492)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【国際出願番号】PCT/DK2008/000216
【国際公開番号】WO2008/151632
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(591143065)ハー・ルンドベック・アクチエゼルスカベット (129)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【国際出願番号】PCT/DK2008/000216
【国際公開番号】WO2008/151632
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(591143065)ハー・ルンドベック・アクチエゼルスカベット (129)
【Fターム(参考)】
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