説明

過熱蒸気発生装置

【課題】効率的な過熱蒸気の生成が可能となる過熱蒸気発生装置を提供する。
【解決手段】両端が閉塞されその長手方向が略上下方向に配置された筒状容器の外周部に高周波誘導加熱コイルが巻き付けられ、上記筒状容器の長手方向と略同方向に多数の通路を有するとともに電磁誘導により発熱する材料で形成された発熱体が筒状容器内に挿入され、上記発熱体は径方向の外周側の方が上記通路によって形成される空隙の占める面積が大きくなるよう形成され、上記発熱体の中央部には過熱蒸気の原料を発熱体の上方から筒状容器の底部近傍に供給する導入路が設けられ、上記発熱体の上方には過熱蒸気を排出する排出路が設けられ、上記導入路に供給された原料を発熱体の上記多数の通路へ導く流路構造部を存在させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々な技術分野で利用することのできる過熱蒸気発生装置に関し、幅広い温度域、例えば、120℃〜700℃の過熱蒸気を発生させることができ、炊く,煮る,茹でる,蒸す,焼く,燻培,焙煎,乾燥,殺菌,除菌,溶解,溶融,溶着,洗浄,温風,熱風,加湿,空調などのあらゆる熱加工機器や装置に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
従来の過熱蒸気発生装置としては、金属等の磁性材料で構成された缶体に水または飽和水蒸気を導入して缶体が誘導加熱されるもの、あるいは、上記缶体が非磁性材料で構成されこの非磁性材料の中に磁性材料が埋設されているもの、さらには、発熱体に複数の貫通孔を設け金属酸化物で被覆して発熱体の酸化を防ぐ形式のもの、また、加熱容器にパラフィンを充填しこのパラフィン内にスパイラル管を配置し電気ヒーターでパラフィンを加熱するもの等が知られている。
【0003】
しかし、上記缶体やスパイラル管を加熱するものは、加熱伝導面積が缶体やスパイラル管の内表面だけであるため、当該面積が狭く加熱効率が低く加熱時間も長くかかるという問題がある。とくに、パラフィンを介してスパイラル管を加熱する仕組みのものは、高温部での例えば500℃の過熱蒸気の生成は不可能である。さらに、十分な乾燥蒸気が得られず、湿った水蒸気になりやすいという欠点があり多目的の加熱用途としては適切ではない。あるいは、発熱体が非磁性体(コーティング材)に埋設されているものは、高温部での熱ストレスによるコーティング材の損傷による劣化が激しく、耐久性に難がある。また、上述の従来例による装置は、水または飽和水蒸気の導入口と過熱蒸気の排出口とが装置の上下に分かれて配置されているので、加熱コイルや発熱体の交換補修等においては、複雑な分解組み立て作業を必要とするので、熟練した作業者が作業にあたる必要があり、また、作業時間も長くなり生産ラインを一時停止する等、生産性に大きな影響があった。
【0004】
また、食品の加工現場は水の使用頻度が高いため、過熱蒸気発生装置と食品加工機器とを分離配備し、断熱配管で過熱蒸気を食品加工機器に配送しなければならず設備費が高額となり、さらに、電気的な漏電や感電の安全対策も十分に行わなければならず、この点においても設備費の高騰をまねいている。
【特許文献1】特開平9−4803号公報
【特許文献2】特開2003−100427号公報
【特許文献3】特許第2999228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑み提案されたもので、乾燥度の高い過熱蒸気を効率よく発生させることができる耐久性に優れた過熱蒸気発生装置を提供するものであり、加工機器と過熱蒸気発生装置との一体的あるいは近接した敷設が可能となって、漏電や感電のない簡潔な構造により、補修や保守が短時間で経験の浅い作業技術者であっても容易にできる装置を実現するものである。また、効率的な過熱蒸気の生成が可能となる過熱蒸気発生装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の過熱蒸気発生装置は、両端が閉塞された筒状容器の外周部に高周波誘導加熱コイルが巻き付けられ、上記筒状容器内に電磁誘導により発熱する材料で形成された発熱体が挿入され、上記発熱体の中央部には過熱蒸気の原料を発熱体の上方から筒状容器の底部近傍に供給する導入路が設けられ、上記発熱体の上方には過熱蒸気を排出する排出路が設けられ、上記発熱体の導入路よりも径方向の外周側には、上記筒状容器の長手方向と略同方向に多数の通路が形成され、上記発熱体は径方向の外周側の方が上記通路によって形成される空隙の占める面積が大きくなるよう形成され、上記導入路から筒状容器の底部近傍に供給された原料を発熱体の上記多数の通路へ導く流路構造部を存在させていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
すなわち、本発明の過熱蒸気発生装置は、上記発熱体は、径方向の外周側の方が上記通路によって形成される空隙の占める面積が大きくなるよう形成されていることから、誘導磁界強度の分布が、高周波誘導加熱コイルからコイルの巻き半径の中心に向うほど磁束が打ち消され、磁束は発熱体の外表面部分を通るようになる。したがって、このような磁束の表面効果によって効率よく発熱できる外周側の流路面積を大きくして、効率的な過熱蒸気の生成が可能となる。
【0008】
また、上記導入路は、過熱蒸気の原料を発熱体の上方から筒状容器の底部近傍に供給するよう設けられ、上記排出路は、発熱体の上方に過熱蒸気を排出するよう設けられているため、原料は発熱体の上方から供給され、生成された過熱蒸気は発熱体の上方から取り出されるものであるから、上記導入路と排出路が発熱体の片側すなわち上側に配置でき、装置のコンパクト化や配管の簡素化が実現し、さらには保守整備が行いやすくなる。加えて、筒状容器が上下方向に起立した状態で配置され、筒状容器の下位すなわち非発熱領域に原料が供給されるので、水を例にとると、ボイラー等の飽和水蒸気供給設備のないところでも水の供給があれば、水から一気に過熱蒸気を生成することができ、設備の簡素化や設備投資の低減に有効である。
【0009】
また、上記導入路に供給された原料を発熱体の導入路よりも径方向の外周側に形成された多数の通路へ導く流路構造部を存在させているため、原料は流路構造部の箇所で飽和蒸気に変化し、それに連続して発熱体の多数の通路で加速加熱され、瞬時にして過熱蒸気が得られる。このとき、流路構造部は非発熱領域に存在した場合に所定の温度となる。上記導入路に供給された原料、例えば、液体および/または蒸気等の流体は、上記流路構造部から分配されるような状態で発熱体の多数の通路に導かれる。したがって、原料が流路構造部を通過するときに急速加熱を受け、直ちに飽和蒸気となる。この飽和蒸気は、流路構造部の部位で急激に膨張し、この膨張圧力によって多数の通路へ導かれ、該通路を通過するときにもさらに膨張を続けて加速加熱されながら高速で流通して行く。飽和蒸気は上記のような流通過程を経て十分に乾燥した過熱蒸気となり、発熱体の通路を出てから排出路を通って、目的箇所へ供給される。このように、流路構造部の部位に連続した状態で多数の通路が機能するので、高い効率で過熱蒸気の生成が可能となり、消費電力の節減にとっても有利である。
【0010】
本発明の過熱蒸気発生装置において、上記筒状容器内に、上記高周波誘導加熱コイルによって発熱体が加熱される発熱領域と、上記発熱領域の下側に配置された非発熱領域とが設けられている場合には、上記非発熱領域は、高周波誘導加熱コイルによって加熱される発熱領域の下側に配置されているので、非発熱領域は発熱領域からの熱伝導で間接的に加熱される。
【0011】
この場合において、上記非発熱領域は、高周波誘導加熱コイルによって加熱される発熱領域の下側に配置されている場合には、非発熱領域は発熱領域からの熱伝導で間接的に加熱され、これにより非発熱領域の温度は発熱領域よりも低く保たれる。このように低くされた温度の非発熱領域に上記流路構造部が配置されているので、流路構造部に供給された原料は、極度に急加熱急膨張、例えば、爆発的に加熱膨張することがなく、飽和蒸気に変化する。したがって、流路構造部からの飽和蒸気が円滑に発熱体の流路へ流入し、多数の流路における加速加熱が適正に行われる。
【0012】
本発明の過熱蒸気発生装置において、上記筒状容器の上部を閉塞する閉塞部材が筒状容器に対して着脱可能な状態で取り付けられ、上記導入路を構成する導入管と上記排出路を構成する排出管が上記閉塞部材に取り付けられている場合には、上記閉塞部材を取り外すだけで筒状容器内の保守点検ができるので、作業が簡素化される。
【0013】
本発明の過熱蒸気発生装置において、上記発熱体の上側に過熱蒸気の膨張空間が設けられている場合には、発熱体の通路で加速加熱された過熱蒸気が上記膨張空間に噴出し、膨張空間において過熱蒸気生成時の体積膨張による加圧凝集の液滴飛沫を発生させないよう膨張圧緩衝の機能を果たし、排出管から良質の過熱蒸気が排出され、目的箇所へ供給される。
【0014】
本発明の過熱蒸気発生装置において、上記導入路は、発熱体の略中央部を貫通した状態で配置されている場合には、原料が上記流路構造部の部位で放射方向に流動するので、発熱体の通路全域において飽和蒸気の加速加熱が行われて、過熱蒸気が効率よく生成される。
【0015】
本発明の過熱蒸気発生装置において、上記導入管の下端が、上記非発熱領域の上部近傍に存在している場合には、原料が確実に上記流路構造部の部位に供給され、上述のような過程を経て過熱蒸気の生成が着実に行われる。
【0016】
本発明の過熱蒸気発生装置において、上記高周波誘導加熱コイルの最下位コイル部が、上記導入管の下端と略同じ高さ位置に存在している場合には、導入管の下端が、上記最下位コイル部の下側に配置されている非発熱領域の上部近傍に存在することとなり、流路構造部に対する液体供給が的確になされる。
【0017】
本発明の過熱蒸気発生装置において、複数の上記発熱体が、多層状態で筒状容器内に挿入されている場合には、一つ一つの発熱体すなわち単位ブロックの高さを短くすることができるので、1個の発熱体の寸法精度を高いレベルにすることができる。とくに、発熱体が焼結体として形成されている場合には、熱ひずみ等を考慮して、このような単位ブロック化が発熱体の精度管理面で有効である。また、過熱蒸気生成能力の異なった幾種類もの装置を製作する場合には、発熱体の高さ寸法すなわち多数の流路の長さを、発熱体の積層数で所定長さに設定することができるので、各装置の能力に応じた専用の発熱体を準備する必要がなく、単位ブロック化された発熱体を量産することができ、品質管理の簡素化や原価低減にとって有効である。さらに、多層化されていない発熱体であれば、発熱体各部における温度の高低差が所定範囲を越えたときには、伸縮差にともなって発熱体にクラックが発生するおそれがある。しかし、このように発熱体を多層化することにより、個々の発熱体間における相対変位が許容されるので、上記のようなクラック発生の問題が解消される。
【0018】
本発明の過熱蒸気発生装置において、上記筒状容器および発熱体の略水平方向の断面形状が円形である場合には、筒状容器および発熱体を型成形で成形するような場合に成形しやすくなり、製造面において有利である。また、円形断面であるから、熱応力が特定の箇所に集中することがなく、筒状容器や発熱体に課せられる熱伸縮の形状変化が、直径の変化のように単純で均一化され、耐久性向上が図れる。また、原料を筒状容器や発熱体の中心部に供給することにより、発熱体の通路全体に液体ないしは飽和蒸気を分布させることができ、発熱体の通路全体を活用して効率のよい過熱蒸気の生成が可能となる。
【0019】
本発明の過熱蒸気発生装置において、上記発熱体の直径寸法は、発熱体の上記通路方向の高さ寸法と略同じかまたはそれよりも大きくなるよう設定されている場合には、発熱体の通路長さが長くても発熱体の直径寸法程度に設定されるので、発熱体を焼結で製造するようなときに、通路の曲がりや通路断面形状の歪などを許容限度内におさめることができる。
【0020】
本発明の過熱蒸気発生装置において、発熱体の上記多数の通路が、交差する隔壁板で形成された真直ぐな多数の通路である場合には、通路の断面形状を四角いものや6角形のもの等のように、発熱体の機能向上に適した断面形状を自由に設定することができる。とくに、発熱体の比表面積を広く取ることができ、加熱面積を広くして加熱効率を向上させることができる。
【0021】
本発明の過熱蒸気発生装置において、発熱体の上記多数の通路が、直径の異なる多数の円筒を同心状に組み合わせて形成した多数の円弧状の空隙である場合には、各サイズの円筒を組み合わせて簡単に円弧状の空隙が形成できる。また、円弧状の空隙によって飽和蒸気が加速加熱される際の流路抵抗を低減することができ、過熱蒸気の生成効率向上にとって有効である。
【0022】
本発明の過熱蒸気発生装置において、上記円筒の肉厚は、発熱体の外周側の方が大きくなるよう設定されている場合には、本装置における誘導磁界強度の分布が、高周波誘導加熱コイルからコイルの巻き半径の中心に向うほど磁束が打ち消され、磁束は発熱体の外表面部分を通るようになる。したがって、このような磁束の表面効果を活かすために、上記円筒の肉厚を外周側の方を大きくしておくことにより、誘導渦電流を誘起しやすくして発熱効率を向上させることができる。
【0023】
本発明の過熱蒸気発生装置において、発熱体の直径方向における上記空隙の幅寸法は、一定または発熱体の外周側の方が大きくなるよう設定されている場合には、上記幅寸法を所定の大きさあるいは外周側の方が大きくなるように設定しておくことにより、上述の磁束の表面効果によって効率よく発熱できる外周側の流路面積を大きくして、効率的な過熱蒸気の生成が可能となる。
【0024】
本発明の過熱蒸気発生装置において、上記材料が、多孔質炭化珪素である場合には、誘導加熱と上記流路構造部としての流路形成が単一材料で形成できる。また、多孔構造による上記流路構造部としての機能が、発熱体の一部において達成され、流路構造部と多数の流路との一連性が簡単な構造のもとに成立する。さらに、本装置を動作させているときと停止させているときの発熱体の温度差が非常に大きな値となるので、それにともなう発熱体の熱伸縮の量も大きく現われる。しかし、多孔質構造により上記熱伸縮が吸収されるので、熱伸縮にともなうクラック発生が防止できる。また、多数の流路自体が上記熱伸縮を吸収する機能を有しているので、上記多孔質構造の熱伸縮の吸収機能が相乗して、クラック発生がより確実に防止できる。
【0025】
本発明の過熱蒸気発生装置において、上記発熱体に酸化チタンの微粉粒を担持した場合には、発熱体の酸化を防ぎ、酸化チタンの触媒効果により自己クリーニング作用で発熱体の表面の清浄な状態を維持でき、発熱体の耐久性が大幅に改善される。
【0026】
本発明の過熱蒸気発生装置において、上記高周波誘導加熱コイルがコイル冷却用の冷媒を流通させる管状材で構成されている場合には、誘導加熱の励磁コイルが冷却管を兼ねた構造とされているので、管材に冷却媒体を流動させることにより、高周波誘導加熱コイルの銅損による発熱やコイルの自己誘導による発熱および過熱蒸気からの輻射,伝導熱による熱酸化劣化を防ぐことができ、装置の耐久性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0028】
図1,図2および図3は、本発明の過熱蒸気発生装置の第1の実施例を示す。
【0029】
図1は、本発明の過熱蒸気発生装置の片側半分を断面状態で示した断面図である。過熱蒸気発生装置全体は、符号1で示されている。長手方向が上下方向(鉛直方向)に向けて配置された筒状容器2は、筒部2aとその下部を閉塞している底板2bから構成され、略水平方向の断面形状が円形とされている。筒状容器2の下部は円盤状の下側支持板3上に載置され、上記下側支持板3上に突出した状態で形成した円形の支持リング3a内にはめ込まれて、ずれ止めが図られている。なお、筒状容器2と下側支持板3と支持リング3aは、同心状に配置されている。
【0030】
一方、筒状容器2の上側は、筒部2aの上部が開放されており、この開放部は円盤状の上側支持板4によって閉塞されている。すなわち、上記上側支持板4の下面に突出した状態で形成した円形の支持リング4aが形成され、この支持リング4a内に筒状容器2の上端部がはめ込まれて、ずれ止めが図られている。なお、筒状容器2と上側支持板4と支持リング4aは、同心状に配置されている。また、筒状容器2の上側を上記底板2bと同様な天井板のような部材で閉塞し、それに上側支持板4を当接するようにしてもよい。上記のように、上側支持板4あるいは上記のような天井板が、筒状容器2の上部の閉塞部材とされている。
【0031】
上側支持板4と下側支持板3との間に、筒状容器2を保持するために、例えば、支持リング4aと3aの内側に雌ねじを形成して筒状容器2の上端部と下端部をそれぞれ上記雌ねじにねじ込むもの等、種々な方法が採用できるが、この例では、筒状容器2の長手方向と同じ方向に筒状容器2の周囲に配列した複数の結合ロッド5を、上側支持板4と下側支持板3に貫通し、上記結合ロッド5の端部に設けたボルト部5aをナット6で締め付けたものである。このような結合ロッド5とナット6を使用することにより、筒状容器2は上側支持板4と下側支持板3との間に挟み付けられた状態になっている。
【0032】
筒状容器2,上側支持板4,下側支持板3等は後述の発熱体を誘導加熱するために、非磁性材料である窒化珪素素材で構成されている。筒状容器2の各部の寸法は、高さ300mm,外径100mm,厚さ5mmである。また、上側支持板4,下側支持板3の寸法は、直径が150mm、結合ロッド5を通す穴4b,3bの穴径は8.5mmであり、この穴4b,3bは上側支持板4および下側支持板3にそれぞれ6個等間隔で設けられている。
【0033】
図3は、筒状容器2内に挿入される発熱体8を示す斜視図および断面図である。上記発熱体8には、筒状容器2の長手方向すなわち上下方向と同方向の多数の通路8aが設けられている。上記多数の通路8aは、多数の交差した隔壁板8bによって構成されている。図3(C)に示されている隔壁板8bは、直角に交差している場合であり、これにより通路8aは、その空間断面は正方形あるいは長方形とされた真直ぐなものとされている。また、同図(D)に示されている隔壁板8bによって形成された通路8aは、通路8aの空間断面が6角形とされたいわゆるハニカム構造であり、このような断面形状の通路8aが真直ぐに配置されている。
【0034】
上記発熱体8は、通路8aに略直交するすなわち水平方向の断面の外形形状が円形であり、筒状容器2内に、発熱体8の外周面が筒状容器2の内面を摺動する状態で挿入されている。発熱体8は、加熱コイル7によって誘導加熱されるので、渦電流が誘起される炭化珪素を材料として図3に示す形状に成形してから焼結されている。この炭化珪素は後述の流路構造部15を形成するために多孔構造とされ、発熱体8は多孔質炭化珪素を構成材料としている。上記多孔質炭化珪素以外の材料としては、他の磁性非金属材料あるいは磁性金属材料を用いることができる。
【0035】
また、多孔質炭化珪素による多孔構造の部分の気孔率は40〜45%の範囲内に調整製作され、気孔のうち独立気孔と貫通気孔の比は、2:3〜3:4の範囲内で調整されている。図1〜図3に示したものは、気孔率42%である。また、図3(C),(D)に示した通路8aは、200〜400本/1平方インチとされている。
【0036】
上記発熱体8は、その中心部に通孔8cが通路8aと同方向に貫通した状態で設けられ、4つの発熱体8が筒状容器2内に層状状態で挿入され、これにより通孔8cが連通した真直ぐな通路空間を形成するとともに、各発熱体8毎の通路8aも連通している。そして、最下位の発熱体8の下端面は、底板2bの表面に接触している。
【0037】
上記層状状態とされた発熱体8のうちの1つのもの(単位ブロック)は、図3(B)に示すように、その外径をD,高さをHとすると、D≧Hとなるように、外径Dは50〜100mm,高さHは50〜100mmの範囲内に設定するのが好ましく、また、通孔8cの内径は10〜21mmに設定するのが望ましい。図3に示した発熱体8の各部寸法は、外径Dは88mm,高さHは50mm,通孔8cの内径は21mmである。
【0038】
上記筒状容器2の外周部に、高周波誘導加熱コイル(以下、単に加熱コイルと表現する)7が巻き付けられている。上記加熱コイル7は、筒状容器2の所定の高さ範囲に巻き付けられ、このような高さ範囲の設定により、発熱体8が加熱コイル7で加熱される発熱領域L1と、この発熱領域L1の下側に配置されている非発熱領域L2が構成されている。上記非発熱領域L2を形成するために、加熱コイルの最下位コイル部7aは筒状容器2の底板2bから離隔した所定の高さの箇所に存在させてある。
【0039】
上記加熱コイル7は、コイル冷却用の冷媒を流通させるために管状材で構成されており、この例では、銅製の管が用いられ、また、冷媒は水が採用されている。上記加熱コイル7の管状材は、管径12.7mmの材質DCuTとされた銅管であり、コイル内径100mm,巻数10ターン,コイル長さ(コイル高さ)230mmに成形し、加熱コイル7内に筒状容器2を鉛直方向に挿通してある。なお、このコイル高さは、上記は発熱領域L1に略相当している。
【0040】
上記加熱コイル7に誘導される電圧は、トランスで感電電圧以下、例えば、30V〜60Vに降圧して、電流Iを大きくして高周波変調し、例えば、50KHz〜200KHzの範囲内の周波数で出力するようになっている。
【0041】
本発明における過熱蒸気生成のための原料は、前述のように、液体および/または蒸気であるが、上記液体は液体の微細な粒子であるミスト状のものを含み、また、上記蒸気は液体の気化ガス,固体の気化ガスすなわち固体が昇華した蒸気をも含んでいる。本実施例においては、液体としての水が原料とされている。
【0042】
上記非発熱領域L2に過熱蒸気の原料である水を供給するために、発熱体8の中心部に導入路10が上側支持板4を貫通した状態で設けられている。上記導入路10は、真直ぐな導入管11を用いて構成され、上側支持板4を貫通させて上側支持板4に耐熱接着剤等で固定され、発熱体8の通孔8c内に挿入されている。そして、導入管11の下端は、非発熱領域L2の上部付近に存在し、導入管11内の流路空間は通孔8cを経て底板2bの表面に達している。上記導入管11は、非磁性体であるムライトで形成され、外径20mmで、上側支持板4から290mm筒状容器2内に差し込まれている。
【0043】
上記非発熱領域L2に供給された水は、流路構造部15を通過して発熱体8の通路8aに導かれるようになっている。この流路構造部15を形成する方法には種々な構造が採用できる。図1(B)に示した例は、発熱体8の隔壁板8bの多孔構造自体が流路構造部15を形成している。したがって、導入管11から供給された水は、底板2b上に流下し隔壁板8bの多孔構造部分を通過して通路8aに達するようになっている。
【0044】
上記発熱体8の上側の筒状容器2内の空間は、通路8aから噴出した過熱蒸気を膨張させる膨張空間12とされている。非発熱領域L2の寸法は、筒状容器2の全長の5〜30%の範囲に設定するのが好ましく、この例における最良値は10%である。また、膨張空間12の高さL3は、筒状容器2の全長の5〜50%の範囲に設定するのが好ましく、この例における最良値は20%である。
【0045】
上記膨張空間12の上部に排出路13が開口している。上記排出路13は、排出管14を上側支持板4を僅かに貫通させた状態で形成されたもので、排出管14は上側支持板4に耐熱接着剤等で固定されている。上記のように、上側支持板4を貫通している導入管11と排出管14とは、離隔した状態で上側支持板4に一体化されており、上記ナット6を外して上側支持板4を引き上げると、導入管11と排出管14が一体になって筒状容器2から引き出せるようになっている。
【0046】
上記多孔質炭化珪素で形成された発熱体8を、酸化チタンの粒径が0.5〜5μmからなる微粉粒の20%スラリー液に浸漬し乾燥後、600℃で数時間、無酸化炉で焼成し、酸化チタンを多孔質炭化珪素製の発熱体8に担持する。こうすることにより、発熱体8の酸化を防ぎ、酸化チタンの触媒効果により自己クリーニング作用で発熱体8の表面の清浄な状態を維持でき、発熱体8の耐久性が大幅に改善される。
【0047】
上記加熱コイル7による誘導加熱は、発熱体8に誘導される渦電流の渦電流損がジュール熱になることであり、体積当たりの渦電流損をP〔W/m〕,発熱体8の半径をa〔m〕,誘導磁束密度をB〔Wb/m〕,発熱体8の固有抵抗をρ〔Ωm〕,誘導周波数をf〔Hz〕とすると、
P=(πafB)/4ρ〔W/m〕・・・(式1)
と表せる。さらに、(式1)において、磁束密度B〔Wb/m〕は発熱体8の透磁率をμ,加熱コイル7の1m当たりの巻き数をn,加熱コイル電流をIとすると、次式で表せる。
B=μnI・・・(式2)
式2で発熱体8の長さをl〔m〕とすると、筒状容器2に巻ける加熱コイルの巻数NはN=nl、加熱コイルのパイプ径をd〔m〕とするとN≦l/dだから1<n≦l/dの範囲で適当な大きい数値を設定することで発熱効率がよくなる。
【0048】
上記式1および式2から発熱容量または装置の出力容量は、高周波出力の周波数f,電流I,加熱コイル巻数Nと発熱体8の固有抵抗ρの大きさで決まるので、周波数fを大きく取り、電流Iを大きく固有抵抗ρは適当な小さい値とすることが、過熱蒸気発生に必須条件となる。
【0049】
そこで、多孔質炭化珪素を材料として構成された発熱体8の固有抵抗ρを0.1Ωm〜1.0Ωmの範囲内に設定することにより、加熱効率を高くし、温度制御の追従性の向上と過熱蒸気発生までの立上げ時間の短縮を図ることができる。図1〜3に示されている発熱体8の固有抵抗ρは0.62Ωmである。
【0050】
上記図1(A)および(B)に示された流路構造部15によって過熱蒸気が生成されてゆく動作は、つぎのとおりである。まず最初に、加熱コイル7に冷却水を2.5Kg/m、40l/min.の条件で流しておき、次に、水を導入管11から16g/sec.の流量で供給する。この導入管11からの水供給開始信号がフィードバックされて、数ミリ秒遅れて加熱コイル7に100KHzの高周波電流が出力される。なお、出力電力は50Kwに調整されている。
【0051】
上記加熱コイル7への通電により発熱領域L1の発熱体8に誘導渦電流が誘起されて、発熱領域L1が加熱される。このとき、非発熱領域L2の部分に存在している発熱体8へは、発熱領域L1からの熱が伝熱されて非発熱領域L2は間接的に加熱される。ついで、発熱体8の多孔質構造部に毛細管現象で吸収された水は、急速に加熱されて飽和水蒸気となる。この飽和水蒸気に変化する際に水蒸気が急膨張し、この膨張圧力を受けた飽和水蒸気は通路8aを高速で流通し、通路8aの壁面で加速加熱され、瞬時に過熱蒸気が生成される。このようにして生成された過熱蒸気は、膨張空間12内に噴出し、膨張空間12において過熱蒸気生成時の体積膨張による加圧凝集の水滴飛沫を発生させないよう膨張圧緩衝がなされる。そして、排出管14から過熱蒸気が排出され、目的箇所へ供給される。
【0052】
上記高周波電流の出力後、20数秒経過後に650℃の乾燥過熱蒸気が排出管14から排出されることが確認された。そして、1時間当たり62Kgの過熱蒸気の発生が安定して行われることが観測された。また、本装置1を10時間/日を3ヶ月間連続運転しても過熱蒸気の出力低下もなく、装置を解体して発熱体8の状況を点検した結果、発熱体8には劣化等は認められず、損傷も発生していないことが確認された。なお、上記のように数ミリ秒遅れて高周波電流が出力されるタイミングは、種々な信号が入力されて動作する通常の制御装置を用いることにより、容易に設定することができる。
【0053】
図1(C)に示されている流路構造部15は、発熱材料である炭化珪素で形成された発熱体8の隔壁板8bの下端に、発熱体8の直径方向に放射状に複数設けられた流通溝8fによって構成されている。そして、この例では、隔壁板8bは多孔構造ではなく通気性は付与されていない。導入管11から供給された水は、流通溝8fを通過して各通路8aに仕向けられる。なお、上記流通溝8fを設けるとともに隔壁板8bを多孔構造にして、流路構造部15の機能を2重に求めてもよい。この例の過熱蒸気の生成過程は、図1(B)に示した例の生成過程と同じである。また、図示していないが、発熱体8の下端面をわずかに底板2bから浮上させて配置し、これによって形成された僅かの空隙を流路構造部15とすることも可能である。
【0054】
図2に示した例は、流路構造部15が非磁性材料製の流通ブロック16で構成されている。この流通ブロック16は、非磁性材料である窒化珪素を通気性のある多孔構造に成形したり、図示していないが、窒化珪素のブロックに多数の通路穴を設けたりしたものである。
【0055】
図2(A)に示した場合は、導入管11の下側の空間すなわち通孔8cに上記流通ブロック16aが挿入されており、発熱体8は図1(B)に示すように、多孔質炭化珪素でつくられている。流通ブロック16aは発熱体8からの伝導熱で間接的に加熱されている。導入管11から供給された水は、流通ブロック16aを通過して各通路8aに仕向けられる。この例の過熱蒸気の生成過程は、図1(A),(B),(C)に示した例の生成過程と同じである。
【0056】
図2(B)に示した場合は、発熱体8が発熱領域L1の範囲内に配置され、非発熱領域L2全体に流通ブロック16bが配置されている。なお、発熱体8の隔壁板8bは、多孔構造でなくてもよい。流通ブロック16bは発熱体8からの伝導熱で間接的に加熱されている。導入管11から供給された水は、流通ブロック16b内を放射状に拡散して通過し、この通過過渡期に飽和水蒸気に変化し、各通路8a全域に仕向けられる。その後の過熱蒸気の生成過程は、図1(A),(B),(C)に示した例の生成過程と同じである。
【0057】
上記流路構造部15は、水を発熱体8の各通路8aに導き、飽和水蒸気を発生させる機能を果たしている。したがって、流路構造部15の後流側に存在する発熱体8の構造としては、多孔構造を必ずしも採用する必要はない。例えば、図1(C)に示すように、流路構造部15が流通溝8fで形成されている場合には、隔壁板8bは非多孔構造としてもよい。また、図2(B)に示すように、非発熱領域L2の全域に流通ブロック16bを配置して流路構造部15を構成する場合には、流通ブロック16bの上側に配置されている発熱体8を非多孔構造としてもよい。
【0058】
上記第1の実施例の作用効果を列記すると、つぎのとおりである。
【0059】
上記非発熱領域L2は、高周波誘導加熱コイル7によって加熱される発熱領域L1の下側に配置されているので、非発熱領域L2は発熱領域L1からの熱伝導で間接的に加熱され、非発熱領域L2に存在している流路構造部15は所定の温度とされている。上記導入路10に供給された水は、上記流路構造部15から分配されるような状態で発熱体8の多数の通路8aに導かれる。したがって、水が流路構造部15を通過するときに急速加熱を受け、直ちに飽和水蒸気となる。この飽和水蒸気は、流路構造部15の部位で急激に膨張し、この膨張圧力によって多数の通路8aへ導かれ、該通路8aを通過するときにもさらに膨張を続けて加速加熱されながら高速で流通して行く。飽和水蒸気は上記のような流通過程を経て十分に乾燥した過熱蒸気となり、発熱体8の通路8aを出てから排出路13を通って、目的箇所へ供給される。
【0060】
上記のように、水は流路構造部15の箇所で飽和水蒸気に変化し、それに連続して発熱体8の多数の通路8aで加速加熱され、瞬時にして過熱蒸気が得られる。このように、流路構造部15の部位に連続した状態で多数の通路8aが機能するので、高い効率で過熱蒸気の生成が可能となり、消費電力の節減にとっても有利である。
【0061】
上記非発熱領域L2は、高周波誘導加熱コイル7によって加熱される発熱領域L1の下側に配置されているので、非発熱領域L2は発熱領域L1からの熱伝導で間接的に加熱され、これにより非発熱領域L2の温度は発熱領域L1よりも低く保たれる。このように低くされた温度の非発熱領域L2に上記流路構造部15が配置されているので、流路構造部15に供給された水は、極度に急加熱急膨張、例えば、爆発的に加熱膨張することがなく、飽和水蒸気に変化する。したがって、流路構造部15からの飽和水蒸気が円滑に発熱体8の通路8aへ流入し、多数の通路8aにおける加速加熱が適正に行われる。
【0062】
また、水は発熱体8の上方から供給され、生成された過熱蒸気は発熱体8の上方から取り出されるものであるから、上記導入路10と排出路13が発熱体8の片側すなわち上側に配置でき、装置1のコンパクト化や配管の簡素化が実現し、さらには保守整備が行いやすくなる。加えて、筒状容器2が上下方向に起立した状態で配置され、筒状容器2の下位すなわち非発熱領域L2に水が供給されるので、ボイラー等の飽和水蒸気供給設備のないところでも水の供給があれば、水から一気に過熱蒸気を生成することができ、設備の簡素化や設備投資の低減に有効である。
【0063】
上記筒状容器2の上部を閉塞する上側支持板4が筒状容器2に対して着脱可能な状態で取り付けられ、上記導入路10を構成する導入管11と上記排出路13を構成する排出管14が上記上側支持板4に取り付けられているので、上側支持板4を取り外すだけで筒状容器2内の保守点検ができ、作業が簡素化される。
【0064】
上記発熱体8の上側に過熱蒸気の膨張空間12が設けられているので、発熱体8の通路8aで加速加熱された過熱蒸気が上記膨張空間12に噴出し、膨張空間12において過熱蒸気生成時の体積膨張による加圧凝集の水滴飛沫を発生させないよう膨張圧緩衝の機能を果たし、排出管14から良質の過熱蒸気が排出され、目的箇所へ供給される。
【0065】
上記導入路10は、発熱体8の略中央部を貫通した状態で配置されているので、水が上記流路構造部15の部位で放射方向に流動し、発熱体8の通路8a全域において飽和水蒸気の加速加熱が行われて、過熱蒸気が効率よく生成される。
【0066】
上記導入管11の下端が、上記非発熱領域L2の上部近傍に存在していることにより、水が確実に上記流路構造部15の部位に供給され、上述のような過程を経て過熱蒸気の生成が着実に行われる。
【0067】
上記高周波誘導加熱コイル7の最下位コイル部7aが、上記導入管11の下端と略同じ高さ位置に存在していることにより、導入管11の下端が、上記最下位コイル部7aの下側に配置されている非発熱領域L2の上部近傍に存在することとなり、流路構造部15に対する水の供給が的確になされる。
【0068】
複数の上記発熱体8が、多層状態で筒状容器2内に挿入されていることにより、一つ一つの発熱体8すなわち単位ブロックの高さを短くすることができるので、1個の発熱体8の寸法精度を高いレベルにすることができる。とくに、発熱体8が焼結体として形成されている場合には、熱ひずみ等を考慮して、このような単位ブロック化が発熱体8の精度管理面で有効である。また、過熱蒸気生成能力の異なった幾種類もの装置1を製作する場合には、発熱体8の高さ寸法すなわち多数の通路8aの長さを、発熱体8の積層数で所定長さに設定することができるので、各装置1の能力に応じた専用の発熱体を準備する必要がなく、単位ブロック化された発熱体8を量産することができ、品質管理の簡素化や原価低減にとって有効である。さらに、多層化されていない発熱体であれば、発熱体各部における温度の高低差が所定範囲を越えたときには、伸縮差にともなって発熱体にクラックが発生するおそれがある。しかし、このように発熱体8を多層化することにより、個々の発熱体8間における相対変位が許容されるので、上記のようなクラック発生の問題が解消される。
【0069】
上記筒状容器2および発熱体8の略水平方向の断面形状が円形であるから、筒状容器2および発熱体8を型成形で成形するような場合に成形しやすくなり、製造面において有利である。また、円形断面であるから、熱応力が特定の箇所に集中することがなく、筒状容器2や発熱体8に課せられる熱伸縮の形状変化が、直径の変化のように単純で均一化され、耐久性向上が図れる。また、水を筒状容器2や発熱体8の中心部に供給することにより、発熱体8の通路8a全体に水ないしは飽和水蒸気を分布させることができ、発熱体8の通路8a全体を活用して効率のよい過熱蒸気の生成が可能となる。
【0070】
上記発熱体8の直径寸法は、発熱体8の通路8a方向の高さ寸法と略同じかまたはそれよりも大きくなるよう設定されているので、発熱体8の通路8aの長さが長くても発熱体8の直径寸法程度に設定され、発熱体8を焼結で製造するようなときに、通路8aの曲がりや通路8aの断面形状の歪などを許容限度内におさめることができる。
【0071】
発熱体8の多数の通路8aが、交差する隔壁板8bで形成された真直ぐな多数の通路8aであることにより、通路8aの断面形状を四角いものや6角形のもの等のように、発熱体8の機能向上に適した断面形状を自由に設定することができる。とくに、発熱体8の比表面積を広く取ることができ、加熱面積を広くして加熱効率を向上させることができる。
【0072】
発熱体8を構成する材料が、多孔質炭化珪素であるから、誘導加熱と上記流路構造部15としての流路形成が単一材料で形成できる。また、多孔構造による流路構造部15としての機能が、発熱体8の一部において達成され、流路構造部15と多数の通路8aとの一連性が簡単な構造のもとに成立する。さらに、本装置1を動作させているときと停止させているときの発熱体8の温度差が非常に大きな値となるので、それにともなう発熱体8の熱伸縮の量も大きく現われる。しかし、多孔質構造により上記熱伸縮が吸収されるので、熱伸縮にともなうクラック発生が防止できる。また、多数の通路8a自体が上記熱伸縮を吸収する機能を有しているので、上記多孔質構造の熱伸縮の吸収機能が相乗して、クラック発生がより確実に防止できる。
【0073】
上記発熱体8に酸化チタンの微粉粒を担持することにより、発熱体8の酸化を防ぎ、酸化チタンの触媒効果により自己クリーニング作用で発熱体8の表面の清浄な状態を維持でき、発熱体8の耐久性が大幅に改善される。
【0074】
上記高周波誘導加熱コイル7がコイル冷却用の冷媒を流通させる管状材で構成されていることにより、誘導加熱の励磁コイルが冷却管を兼ねた構造とされ、管材に冷却媒体を流動させて、高周波誘導加熱コイル7の銅損による発熱やコイルの自己誘導による発熱および過熱蒸気からの輻射,伝導熱による熱酸化劣化を防ぐことができ、装置1の耐久性が向上する。
【0075】
発熱体8は、焼成焼結体であるため、特に、高さH方向(長さ方向)の湾曲歪が大きくなる。そこで、上記のようにD≧Hなる寸法関係とされた単位ブロックとしての発熱体8とすることにより、歪を小さく抑えることができ、焼成の歩留まりが向上し、製品単価のコストダウンに有効である。さらに、発熱体8の歪が少ないため、筒状容器2内にスムーズに挿入でき、また、発熱体8を取り出すときにも円滑な作業ができる。
【0076】
また、上記のようにD≧Hなる寸法関係とされた単位ブロックをあらかじめ準備しておき、必要に応じて所定個数の単位ブロックを積層することにより、所望の過熱蒸気の出力容量の発熱体8を構成することができる。したがって、過熱蒸気の出力容量ごとに幾種類もの専用寸法とされた発熱体8を準備する必要がなく、大量生産による原価低減と良好な品質管理が可能となる。さらに、補修が必要な単位ブロック発熱体だけを対象にして、修理や交換をすればよいので、補修作業が簡素化され経済的である。
【0077】
冷却を兼ねた加熱コイル7には、トランスを介して入力高電圧と絶縁され、感電電圧以下の電圧で加熱コイル7に出力されるので、漏電や感電の危険がないことも、設置の容易さや保安に供することができる。
【0078】
導入管11と排出管14と上側支持板4等を一体化したまま筒状容器2から分離させることができ、また、筒状容器2の外周部に配置した加熱コイル7も簡単に取り外すことができる。さらに、筒状容器2内には発熱体8が挿入された状態で配置されている。したがって、本装置を分解整備するときには、上側支持板4の取り外し、発熱体8の抜き取り、加熱コイル7の取り外しのような簡素化された分解と、この分解の逆である組み立ての作業内容となり、需要家において経験年数の浅い作業技術者であっても、正確な分解整備作業が可能となる。
【0079】
また、上記過熱蒸気が生成される過程において、発熱体8の多孔質構造によってできた飽和水蒸気は、急速膨張とともに加速加熱されながら通路8aを通過するので、乾燥度の高い過熱蒸気が得られる。さらに、上記一連の急速な過熱蒸気の生成により、水から酸素が分離されることなく、無酸素の還元性過熱蒸気が供給できる。
【0080】
さらに、筒状容器2と水または飽和水蒸気を導入する導入管11,排出管14を上側支持板4に取り付け、この上側支持板4が筒状容器2とユニット化されて起立した状態で配置することができる。したがって、筒状容器2の下側に水を溜めることができるので、ボイラー等の飽和水蒸気供給設備のないところでも水の供給があれば、水から一気に過熱蒸気を生成することができる。
【0081】
また、上記実施例においては、水を流路構造部15に供給する場合であるが、この水の供給に代えて導入管11から飽和水蒸気を供給することもできる。この場合には、上記飽和水蒸気が通路8a内に流入し、上記の水の場合と同様な現象のもとに過熱蒸気が生成され、排出管14から目的箇所へ供給される。
【0082】
上述のように装置1が簡素化され、飽和水蒸気供給用のボイラー等が不用であり、さらに、感電等に対する安全性も良好なので、本装置1と各種加工機器との一体化あるいは近接した設備配置が可能となり、設備全体の簡素化や設備投資額の低減等において有利である。
【実施例2】
【0083】
図4は、本発明の過熱蒸気発生装置の第2の実施例を示す。
【0084】
この実施例は、発熱体8が、直径の異なる多数の円筒8dを順次組み合わせて構成されている。すなわち、大径の円筒8d内に小径の円筒8dが挿入された状態になっている。各円筒8dは、直径方向に設けられている結合部8eを介して一体化され、各円筒8dの間に円弧状の隙間で構成された通路8aが形成されている。また、上記円弧状の隙間は全て同じ幅寸法とされている。なお、このような形状の発熱体8を形成する場合には、多孔質炭化珪素素材を型成形して、図4に示すような形状としている。それ以外は、上記実施例と同様であり、同様の部分には同じ符号を付している。
【0085】
発熱体8の多数の通路8aが、直径の異なる多数の円筒8dを同心状に組み合わせて形成した多数の円弧状の空隙であるから、各サイズの円筒8dを組み合わせて簡単に円弧状の空隙が形成できる。また、円弧状の空隙によって飽和水蒸気が加速加熱される際の流路抵抗を低減することができ、過熱蒸気の生成効率向上にとって有効である。それ以外は、上記実施例と同様の作用効果を奏する。
【実施例3】
【0086】
図5は、本発明の過熱蒸気発生装置の第3の実施例を示す。
【0087】
この実施例は、実施例2における円筒8dの肉厚が、発熱体8の外周側の方が大きくしてある。すなわち、最も外周側の円筒8dの肉厚をT1、その1つ内側の円筒8dの肉厚をT2のように順次Tnまで中心側に向って薄くしてある。なお、このような厚さの変化は、例えば、外周側の2つの円筒8dの肉厚をT1、その次の内側の2つの円筒8dの肉厚をT2のように複数の円筒8d毎に肉厚を薄くしてもよい。さらに、円弧状の隙間の幅寸法は、外周側の方が大きく設定されている。それ以外は、上記各実施例と同様であり、同様の部分には同じ符号を付している。
【0088】
上記円筒8dの肉厚は、発熱体8の外周側の方が大きくなるよう設定されているので、本装置1における誘導磁界強度の分布が、高周波誘導加熱コイル7からコイルの巻き半径の中心に向うほど磁束が打ち消され、磁束は発熱体の外表面部分を通るようになる。したがって、このような磁束の表面効果を活かすために、上記円筒の肉厚を外周側の方を大きくしておくことにより、誘導渦電流を誘起しやすくして発熱効率を向上させることができる。すなわち、本装置1の誘導磁界強度の分布は、磁界をH〔A/m〕,加熱コイル7の巻半径をa〔m〕,コイル電流をI〔A〕とすると、
H=I/2a〔A/m〕・・・(式3)
となるから、コイル巻半径の中心に向うほど磁束が打ち消され、磁束は発熱体8の外表面部側に分布して通るようになる。このような磁束の表皮効果を活かすために、発熱体8の外周側の円筒8dの肉厚を大きくして、誘導渦電流を誘起しやすくして発熱効率を向上することができる。それ以外は、上記各実施例と同様の作用効果を奏する。
【0089】
さらに、発熱体8の直径方向における上記空隙の幅寸法は、一定または発熱体8の外周側の方が大きくなるよう設定されているので、上記幅寸法を所定の大きさあるいは外周側の方が大きくなるように設定しておくことにより、上述の磁束の表面効果によって効率よく発熱できる外周側の流路面積を大きくして、効率的な過熱蒸気の生成が可能となる。
【実施例4】
【0090】
図6は、本発明の過熱蒸気発生装置の第4の実施例を示す。
【0091】
図1等に示されている実施例は、水の導入路10が発熱体8の中心部に配置されているが、図6に示した実施例は、導入路10の位置を変更した場合である。同図(A)に示したものは、導入路10が発熱体8の外周側に円筒状の空間の状態で形成されている。また、同図(B)に示したものは、導入路10が発熱体8の外周側の片側に形成されている。そして、この場合には流通ブロック16bが発熱体8の下側に配置されている。それ以外は、上記各実施例と同様であり、同様の部分には同じ符号を付している。また、作用効果も先に示した各実施例と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明による過熱蒸気発生装置は、筒状容器内に液体および/または蒸気等の原料を流下させて流路構造部で飽和蒸気を発生させ、それに引き続いて発熱体の多数の流路で加速加熱をして、過熱蒸気を生成する。そして、装置の上方から原料を供給し、過熱蒸気は装置の上方に排出させるものである。したがって、十分に乾燥した良質の過熱蒸気が効率よく得られ、装置自体のコンパクト化が可能となる。また、装置の分解整備もユーザーにおいて簡単に行うことができる。上記のように種々な改善がなされた本装置は、顧客から高い評価を受けるものであり、広く市場に普及することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の装置およびその各部の断面図である。
【図2】流路構造部の変形例を示す断面図である。
【図3】発熱体単体と流路の斜視図ならびに発熱体の断面図である。
【図4】他の発熱体単体の斜視図と発熱体の断面図である。
【図5】さらに、他の発熱体単体の斜視図と発熱体の断面図である。
【図6】装置の他の構造例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0094】
1 過熱蒸気発生装置
2 筒状容器
2a 筒部
2b 底板
3 下側支持板
3a 支持リング
3b 穴
4 上側支持板
4a 支持リング
4b 穴
5 結合ロッド
5a ボルト部
6 ナット
7 高周波誘導加熱コイル,加熱コイル
7a 最下位コイル部
8 発熱体
8a 通路
8b 隔壁板
8c 通孔
8d 円筒
8e 結合部
8f 流通溝
L1 発熱領域
L2 非発熱領域
L3 膨張空間の高さ
10 導入路
11 導入管
12 膨張空間
13 排出路
14 排出管
15 流路構造部
16 流通ブロック
16a 流通ブロック
16b 流通ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が閉塞された筒状容器の外周部に高周波誘導加熱コイルが巻き付けられ、上記筒状容器内に電磁誘導により発熱する材料で形成された発熱体が挿入され、上記発熱体の中央部には過熱蒸気の原料を発熱体の上方から筒状容器の底部近傍に供給する導入路が設けられ、上記発熱体の上方には過熱蒸気を排出する排出路が設けられ、上記発熱体の導入路よりも径方向の外周側には、上記筒状容器の長手方向と略同方向に多数の通路が形成され、上記発熱体は径方向の外周側の方が上記通路によって形成される空隙の占める面積が大きくなるよう形成され、上記導入路から筒状容器の底部近傍に供給された原料を発熱体の上記多数の通路へ導く流路構造部を存在させていることを特徴とする過熱蒸気発生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−82700(P2008−82700A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322023(P2007−322023)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【分割の表示】特願2004−36331(P2004−36331)の分割
【原出願日】平成16年2月13日(2004.2.13)
【出願人】(302067903)株式会社パイコーポレーション (11)
【Fターム(参考)】