説明

道路トンネル換気制御装置

【課題】低濃度脱硝装置のNO2除去方式には吸収式と吸着式があるが、いずれの方式においても装置のNO2除去性能を維持するために低濃度脱硝装置を構成する吸収剤または吸着剤を再生処理する必要がある。再生処理の周期はNO2の処理量によるため、NO2を含む空気の処理風量が設備保全のための維持管理コストに大きく影響する。
【解決手段】トンネル空気の排出口より排出するNO2量が環境基準を満たすように換気装置の処理風量を決定したとき、バイパス用ダンパーの風量を調整することで、低濃度脱硝装置へ流入する風量が最小となるよう制御し、低濃度脱硝装置を構成する吸収剤または吸着剤の再生処理周期の長期化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル空気の排出口より排出する空気の有害物質を浄化する装置として、電気集じん機、低濃度脱硝装置を備え、かつバイパス用ダンパーを備えた道路トンネルにおける換気制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、道路トンネルにおける換気の目的は、トンネル利用者の安全で快適な通行を確保すること、およびトンネル内における各種の管理業務のための環境を確保することであった。このためには、自動車の排出ガス中に含まれる有害物質が利用者および保守作業員などに生理的な悪影響を与えないようにすること、および良好な視野環境を確保することが必要である。(非特許文献1)。
【0003】
近年は、トンネル内を走行する車両における環境性能の向上により、車両がトンネル内で排出する有害物質の量は低下しており、トンネル内環境の改善を目的とした換気装置を備えた道路トンネルは減少している。一方、都市交通は周辺の住環境への配慮から地下化が進んでいるが、トンネル空気の排出口より排出する空気に含まれる有害成分である浮遊粒子状物質(SPM)や二酸化窒素(NO2)がトンネル空気の排出口周辺における環境に影響を及ぼすことが懸念されている。このようなトンネル空気の排出口より排出する空気に含まれる有害成分を環境基準内に浄化する装置として、SPMに対しては電気集じん機、NO2に対しては低濃度脱硝装置が挙げられる。そのうち低濃度脱硝装置には吸収式および吸着式があり、吸収式はトンネル内の空気に含まれるNO2をアルカリ性の吸収剤により中和して吸収することにより除去し、一方吸着式はトンネル内の空気に含まれるNO2を吸着剤により吸着することにより除去する。いずれの方式においても装置の性能を維持するために吸収剤または吸着剤を再生処理する必要があり、再生処理が低濃度脱硝装置の設備保全のための維持管理コストの多くを占める。
【0004】
また、低濃度脱硝装置のNO2除去性能を長期に渡り維持するために低濃度脱硝装置の入口側には電気集じん機を設置することが提案されている。(特許文献1)現在、低濃度脱硝装置が備えられた道路トンネルでは低濃度脱硝装置と共に電気集じん機を設置することが一般的である。
【0005】
低濃度脱硝装置を含む窒素酸化物除去装置の運転制御については、排風機やジェットファンなどの換気機の運転または停止などの状態により窒素酸化物濃度が最も高くなると考えられるトンネル内の複数の位置に窒素酸化物除去装置を設置して運転制御する方法が提案されている。(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−127400号公報
【特許文献2】特開2008−57168号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】社団法人日本道路協会編集,“道路トンネル技術基準(換気編)・同解説 平成20年改訂版”,丸善株式会社,平成20年,P19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されたような構成において、車両の排出するSPM量とNO2量の違いとSPM量とNO2量に対する環境基準の違いにより、電気集じん機と低濃度脱硝装置に要求される処理風量は必ずしも同一とならない。また、特許文献2に記載されたような運転制御においては、トンネル空気の排出口より排出する空気のSPM除去や低濃度脱硝装置を構成する吸収剤や吸着剤の再生処理周期に対する考慮がされていないことから、低濃度脱硝装置の設備保全のための維持管理コストをより低減することができない。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するため、トンネル空気の排出口より排出する空気の有害物質を浄化する装置として電気集じん機および低濃度脱硝装置を備えたトンネルにおいて、低濃度脱硝装置の性能を長期に渡り維持し、低濃度脱硝装置を構成する吸収剤または吸着剤の再生処理周期の長期化を図るための換気制御を行う道路トンネル換気制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の道路トンネル換気制御装置における電気集じん機および低濃度脱硝装置を含む換気装置の制御は、上記課題を解決するためトンネル空気の排出口より排出されるSPM量およびNO2量が環境基準より決定され道路トンネル換気制御装置において設定されるしきい値より小さくなるような換気装置の処理風量のうち、バイパス用ダンパーの風量を調整することで、低濃度脱硝装置へ流入する風量が最小となるように制御する換気制御方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低濃度脱硝装置の性能を長期に渡り維持し、低濃度脱硝装置を構成する吸収剤または吸着剤の再生処理周期の長期化を図ることができ、低濃度脱硝装置の維持管理コストをより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態1に記載の換気装置の構成図
【図2】同車両台数予測ブロック図
【図3】同電気集じん機処理風量算出フローチャート
【図4】同脱硝装置処理風量算出フローチャート
【図5】同換気装置の設置例を示す図
【図6】同換気装置の他の設置例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について図を参照しながら説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本発明における換気装置50の構成である。図1によれば、換気装置50は電気集じん機1、脱硝装置2、バイパス用ダンパー3、ファン4および換気風路5で構成される。換気装置50に流入する空気6は、電気集じん機1でSPMを除去され、脱硝装置2に流入する空気7とバイパス用ダンパー3に流入する空気8に分けられる。脱硝装置2に流入する空気7は、脱硝装置2でNO2を除去された後、バイパス用ダンパー3に流入する空気8と合流し、ファン4により換気装置50より流出する空気6bとして排出される。
【0015】
図2は、車両台数予測ブロック図である。図2によれば、トンネル坑口付近に設けられる車両台数計測装置10より得られる車両台数の実測データは、車両台数データベース11に大型車および小型車の車種別に時系列データとして蓄積される。この車種別の時系列データと実測された直近車両台数データ12より自己回帰モデルやパターンマッチの手法を用いて車種別の予測車両台数13を算出する。SPM量またはNO2量はこの車種別の予測車両台数を用いて算出する。
【0016】
図3は、電気集じん機1の処理風量算出フローである。図3によれば、まず、車種別の予測車両台数を用いてトンネル内に排出するSPM量を算出する。そして、電気集じん機1の処理風量を一定風量ごと段階的(図3の場合には25m3/sごと)に増加させたとき、換気装置50より流出する空気6bに含まれるSPM量を算出する。この空気6bに含まれるSPM量が、環境基準を基に道路トンネル換気制御装置で設定されるSPMしきい値より小さくなるときの電気集じん機1の最小の処理風量を求めるのである。この処理風量によりファン4を運転するのである。なお、図3によれば、電気集じん機1の処理風量を25m3/sごとに算出しているが、これは電気集じん機1の最大処理風量より決定すればよい。
【0017】
また、車両が排出するSPM量は以下の式で算出される。

車両が排出するSPM量=(大型車車両台数×大型車SPM排出係数+
小型車車両台数×小型車SPM排出係数)×トンネル長

ここで、大型車SPM排出係数、小型車SPM排出係数は環境影響評価等で使用される値を基に道路トンネル換気制御装置で設定される値であり、車両1台当たりが単位距離を走行したときに排出する値とする。
【0018】
また、換気装置50より流出する空気6bに含まれるSPM量は以下の式で算出される。

換気装置50から排出するSPM量=車両が排出するSPM量×(1−kep)

ここで、kepは電気集じん機1のSPM捕集係数を示す。
【0019】
図4は、脱硝装置2の処理風量算出フローである。図4に示すとおり、まず、車種別の予測車両台数を用いてトンネル内に排出するNO2量を算出する。そして、脱硝装置2の処理風量を一定風量ごとに段階的に増加させたとき、換気装置50より流出する空気6bに含まれるNO2量を算出する。この空気6bに含まれるNO2量が、環境基準を基に換気装置50で設定されるNO2しきい値より小さくなる最小の脱硝装置2の処理風量を求めるのである。なお、図4によれば、脱硝装置2の処理風量を25m3/sごとに算出しているが、これは脱硝装置2の最大処理風量より決定すればよい。
【0020】
また、車両が排出するNO2量は以下の式で算出される。

車両が排出するNO2量=(大型車車両台数×大型車NO2排出係数+
小型車車両台数×小型車NO2排出係数)×トンネル長

ここで、大型車NO2排出係数、小型車NO2排出係数は環境影響評価等で使用される値を基に換気装置50で設定される値であり、車両1台当たりが単位距離を走行したときに排出する値とする。また、換気装置50より流出する空気6bに含まれるNO2量は以下の式で算出される。

換気装置50より排出するNO2量=
トンネル内NO2量/電気集じん機1の処理風量×
{脱硝装置2の処理風量×(1−kno)+バイパス用ダンパー3の風量}

ただし、電気集じん機1の処理風量=脱硝装置処理風量+バイパス用ダンパー風量

ここで、knoは脱硝装置2のNO2除去係数を示す。
【0021】
図5は、トンネル本坑20に電気集じん機1a、低濃度脱硝装置2aおよびファン4aを設置した換気装置50aの構成例である。バイパス用ダンパー(図示せず)は図1と同様、低濃度脱硝装置2aと並列に設置される。このような換気装置50aによれば、トンネル内空気の一部(空気6)が換気装置50aに流入し、換気装置50aより浄化した空気6bとして排出される。このような換気装置50aにおいて、図4に示したフローにより低濃度脱硝装置2aでの処理風量を最小に抑えることができる。
【0022】
図6は、トンネル本坑20と別にトンネル排気塔21を設け、トンネル排気塔21に電気集じん機1b、低濃度脱硝装置2bおよびファン4bを設置した換気装置50bの構成例である。バイパス用ダンパー(図示せず)は図1と同様低濃度脱硝装置2bと並列に設置される。このような換気装置50bによれば、トンネル内空気を集中的にトンネル排気塔21に導入することでトンネル内空気を浄化する。そして、換気装置50bより浄化した空気6bが排出される。このような換気装置50bによれば、図4で示したフローにより低濃度脱硝装置2bでの処理風量を最小に抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、トンネル空気の排出口より排出する空気を浄化する装置として電気集じん機および低濃度脱硝装置が設置された道路トンネルの換気制御に用いることができる。
【符号の説明】
【0024】
1 電気集じん機
1a、1b 電気集じん機
2 脱硝装置
2a、2b 低濃度脱硝装置
3 バイパス用ダンパー
4 ファン
4a、4b ファン
5 換気風路
6 (換気装置に流入する)空気
6b (換気装置より流出する)空気
7 (脱硝装置に流入する)空気
8 (バイパス用ダンパーに流入する)空気
10 車両台数計測装置
11 車両台数データベース
12 直近車両台数データ
13 予測車両台数
20 トンネル本坑
21 トンネル排気塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内を走行する単位時間当たりの車両台数を予測する手段と、車種ごとのSPM排出係数を設定する手段と、予測した車両台数にSPM排出係数を乗じて単位時間当たりにトンネル内で排出されるSPM量を算出する手段を有する道路トンネル換気制御装置。
【請求項2】
トンネル内を走行する単位時間当たりの車両台数を予測する手段と、NO2排出係数を設定する手段と、予測した車両台数にNO2排出係数を乗じて単位時間当たりにトンネル内で排出されるNO2量を算出する手段を有する道路トンネル換気制御装置。
【請求項3】
環境基準より決定されるSPMしきい値を設定する手段と、前記単位時間当たりにトンネル内で排出されるSPM量をトンネル空気の排出口より排出する際にはSPMしきい値より小さくするような電気集じん機の最小処理風量を決定する手段を有する道路トンネル換気制御装置。
【請求項4】
環境基準より決定されるNO2しきい値を設定する手段と、前記単位時間当たりにトンネル内で排出されるNO2量をトンネル空気の排出口より排出する際にはNO2しきい値より小さくするような低濃度脱硝装置の最小処理風量を選択する手段を有する道路トンネル換気制御装置。
【請求項5】
前記NO2量がしきい値より小さくするような低濃度脱硝装置の最小処理風量を選択する手段より得られる低濃度脱硝装置の処理風量で制御するため、バイパス用ダンパーの風量を調整することで、低濃度脱硝装置へ流入する風量を制御する手段を有する道路トンネル換気制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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