説明

道路橋基礎設計方法

【課題】実用できる程度に具体的な、原位置せん断摩擦試験(SBIFT)の計測値に基づく道路橋基礎設計方法を提供する。
【解決手段】まず、SBIFTにより、道路橋基礎設計の対象地となる地盤についてその層毎にせん断応力−垂直応力曲線、及び送水量−垂直応力曲線を求める。そして、該せん断応力−垂直応力曲線から求められる粘着力及び内部摩擦角と、該送水量−垂直応力曲線から求められる側圧値を用いて、該各層毎の周面摩擦力度を算出し、更に、該送水量−垂直応力曲線から変形係数を求める。また、地盤反力係数の推定に用いる、常時補正係数を2と、地震時補正係数を4とする。該層毎の周面摩擦力度は、該層が粘土質層であれば、該せん断応力−垂直応力直線から求められる粘着力及び内部摩擦角と、該送水量−垂直応力曲線から求められる側圧値を用いて算出し、該層が砂質層及び礫層であれば、N値により推定してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路における橋梁の設計方法、特に、基礎杭の配置、本数などを決定する道路橋基礎設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路における橋梁は、「橋、高架の道路等の技術基準」(都市・地域整備局長、道路局長通達)に基づいて設計・施工されており、実際の設計・施工においては、その基準をまとめて解説した道路橋示方書が広く使用されている。
【0003】
上記道路橋示方書による従来の設計法によれば、基礎杭の支持力を設定する際に使用される杭の周面摩擦力や変形係数は、標準貫入試験などで得たN値から間接的に評価された値が採用されていた。しかしながら、このN値は、その測定時に機械的誤差や人為的誤差が生じやすく、土壌によってはその性質を正確に表す指標とならない場合もあった。そのため、N値から推定した地盤定数を基に基礎設計をする場合には、安全率が見込まれる必要があり、結果として、基礎杭の数は、十分な強度を確保するために本来必要となる本数よりも過剰になる傾向があった。そして、実際の工事において、コストが嵩み工期も長くなるという問題を招致していた。
【0004】
なお、変形係数については、あらかじめボーリングした孔に変形係数測定のための測定機を挿入する方法で測定し、その測定値を補正係数によって設計用に修正して使用する場合もある。しかしながら、この方法では、既に開けられたボーリング孔内の地盤に、応力解放によるゆるみが発生するため、実地盤の正確な強さが測定されない可能性が高かった。そのため、上記周面摩擦力の場合と同様、安全率を見込む必要があった。
【0005】
そこで、近年では、地盤の性質をより正確に測定し、過大な安全率を見込むことなく、必要十分な杭を決定できる設計手法が研究されている。そして、そのような設計手法の前提となる、地盤の性質を正確に測定する方法として、原位置せん断摩擦試験(SBIFT)が提案されている。このSBIFTは、自然地盤の応力を緩めることなくセルフボーリングで掘削してそのボーリング孔を利用し、プローブの膨脹とせん断により地盤の強度と変形特性を一体的に測定する試験法である。そして、この試験法によれば、任意の土壌において、せん断強度定数(c、φ又はδ)と変形係数E0を直接求めることができる。なお、SBIFTが提唱されている文献として、例えば、土と基礎Vol45No12の50ページに掲載されている新技術紹介「土の原位置せん断・摩擦強度測定」、土木学会論文集第617号/III−46の191〜200ページに掲載されている「原位置摩擦試験による地盤の強度・変形定数の推定と実務への適用」、或いは土木学会全国大会研究発表会講演概要集620〜621ページに掲載されている「SBIFTによる杭の周面摩擦力の推定について」がある。また、SBIFTを実施するための装置の改良に関する文献として、例えば、実用新案登録第3065030号公報がある。
【特許文献1】実用新案登録第3065030号公報
【非特許文献1】道路橋示方書(I共通編・IV下部構造編)同解説 社団法人日本道路協会発行
【非特許文献2】新技術紹介「土の原位置せん断・摩擦強度測定」、土と基礎、Vol45、No12、pp50
【非特許文献3】原位置摩擦試験による地盤の強度・変形定数の推定と実務への適用、土木学会論文集、第617号/III−46、pp191〜200
【非特許文献4】SBIFTによる杭の周面摩擦力の推定について、土木学会全国大会研究発表会講演概要集、pp620〜621
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記SBIFTでは、任意の土壌のせん断強度定数を直接求めることができるため、これらの計測値を利用して構造物基礎の設計を行うことにより、また、地盤の強さを正確に反映する変形係数を計測することができるため、その変形係数を用いることにより、従来の設計法よりも正確な結果を得ることが、理論的には可能である。しかしながら、SBIFTにより得られた計測値を利用した具体的な設計手法は、未だ提案されていないのが実状である。
【0007】
そこで、本発明の目的は、実用できる程度に具体的な、SBIFTの計測値に基づく道路橋基礎設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる道路橋基礎設計方法では、まず、原位置せん断摩擦試験(SBIFT)により、道路橋基礎設計の対象地となる地盤についてその層毎にせん断応力−垂直応力曲線、及び送水量−垂直応力曲線を求める。そして、該せん断応力−垂直応力曲線から求められる粘着力及び内部摩擦角と、該送水量−垂直応力曲線から求められる側圧値を用いて、該各層毎の周面摩擦力度を算出し、更に、該送水量−垂直応力曲線から変形係数を求める。また、地盤反力係数の推定に用いる、常時補正係数を2と、地震時補正係数を4とする。
【0009】
道路橋基礎設計の対象地となる該地盤が、粘土質層、砂質層及び礫層から構成される場合、該層毎の周面摩擦力度は、該層が粘土質層であれば、該せん断応力−垂直応力直線から求められる粘着力及び内部摩擦角と、該送水量−垂直応力曲線から求められる側圧値を用いて算出し、該層が砂質層及び礫層であれば、N値により推定してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる設計方法によれば、SBIFTにより得られる、地盤の層毎におけるせん断応力−垂直応力直線及び送水量−垂直応力曲線を用いた、周面摩擦力度と地盤反力係数の具体的算出方法が決定しているので、道路橋基礎杭の必要最少本数を実際に決定することができる。
【0011】
また、道路橋基礎設計の対象地となる地盤が、粘土質層、砂質層及び礫層から構成され、砂質層及び礫層が特にもろく崩れやすい場合は、砂質層及び礫層の周面摩擦力度をN値により推定することで、より正確な設計を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明にかかる道路橋基礎設計方法の具体例を、図1〜8を参照しながら説明する。図1は同設計手法のフローチャート図、図2はSBIFTに用いられる試験装置の外観を示す地盤の断面図、図3はSBIFTで求められた応力−せん断変位曲線の一例を示すグラフ、図4はSBIFTで求められた送水量−垂直応力曲線の一例を示すグラフ、図5は図3のグラフを基にして得られたせん断応力−垂直応力直線を示すグラフ、図6は図4のグラフの不連続部を連続させた場合に得られる曲線の概念形状を示すグラフ、図7は変形係数から算出される水平方向地盤反力係数と載荷試験により得られた水平方向地盤反力係数を比較して示すグラフ、図8は設計対象となる道路橋基礎の橋脚構造寸法を示し、(a)は側面図、(b)は橋軸方向から見た正面図である。
【0013】
この設計方法の基本的な流れは、従来と同様、道路橋示方書に従ったものとなる。具体的には、図1に示すように、ステップS1で荷重条件および地盤条件の整理を行い、ステップS2で杭種・杭径を設定し、更に、ステップS3で杭設計条件の整理を行った後、ステップS4で杭配置・杭本数の設定を行う。ただし、この設計方法では、ステップS3の杭設計条件の整理における数値設定方法、具体的には周面摩擦力度設定方法と地盤反力係数設定方法が従来の道路示橋方書に沿ったものと相違し、これらの数値設定方法において特徴を有するものとなっている。そこで、以下ではこれらの数値設定方法について詳述する。
【0014】
この設計方法においては、杭設計条件の整理にあたり、まず、原位置せん断摩擦試験(SBIFT)により、道路橋基礎設計の対象地となる地盤についてその層毎にせん断応力−垂直応力曲線及び送水量−垂直応力曲線を求める。
【0015】
SBIFTは、既述の通り公知技術であり、図2に示すように、先端に掘削手段2を備え周面が自在に膨脹するプローブ1を使用して行う試験である。プローブ1は、内部の空隙を囲うゴム等の弾性材で構成された周壁を備え、その空隙に、水圧ポンプ3により高圧の水を注入することにより膨脹する構造となっている。
【0016】
プローブ1の先端(土中に挿入された状態において下側に配置される端部)には掘削手段2としてビットが設けられ、計測地点への自己掘進による到達が可能となっている。また、基端(土中に挿入された状態において上側に配置される端部)にはボーリングロッド4が接続されており、このボーリングロッド4を介して対象地盤内のプローブ1を引っ張ることが可能となっている。そして、計測地点において、プローブ1を膨脹させ対象地盤の壁面に垂直応力を載荷するとともに、プローブ1に引っ張り力を負荷し対象地盤の壁面にせん断応力を載荷し、その際の地盤のひずみ及びせん断の生じるせん断応力を、測定機5で計測することにより、図3に示すような応力−せん断変位曲線及び図4に示すような送水量−垂直応力曲線を得ることができる。ただし、SBIFTにより得られた応力−せん断変位曲線は、設計に必要な各種値を直接示すものではないため、この曲線から、図5に示すようなせん断応力−垂直応力直線を求める。一方、SBIFTにより得られた送水量−垂直応力曲線は、試験の性質による不連続部分を有するが、図6に示すような連続曲線とその本質は同じであり、設計に必要な各種数値を直接示すものとなっている。なお、図4及び図6の縦軸は送水量となっているが、送水量はプローブ周壁の膨脹すなわち地盤の変形に比例するため、実質的には地盤のひずみを示すものである。
【0017】
せん断応力−垂直応力直線及び送水量−垂直応力曲線が求めることができれば、そのせん断応力−垂直応力直線のせん断応力軸切片の値から粘着力Cを、垂直応力軸に対する傾きから内部摩擦角φを求めることができる。また、送水量−垂直応力曲線の0点側変曲点Pにおける垂直応力から、側圧値P0を求めることができる。そして、各層毎の周面摩擦力度fを、f=C+P0tanφの式により算出する。
【0018】
一方、送水量−垂直応力曲線については、0点側変曲点Pを越える領域の垂直応力軸に対する傾きから、変形係数E0を求める。例えば、図4において、変曲点Pが送水量V2の領域に存在する場合、変形係数E0は、領域V3、V4及びV5の直線L3、L4及びL5の傾きの平均値とする。そして、以下の数式1及び2より、地盤反力係数(鉛直方向及び水平方向)を求める。なお、数式1及び数式2は、道路示橋方書にも示されている。
【数1】

【数2】

【0019】
これら数式1及び2において、補正係数(地盤反力係数の推定に用いる係数)αは、変形係数Eの推定方法に応じて設定する必要があるところ、変形係数EをSBIFTで算出した場合の補正係数αは未だ解明されていない。そこで、変形係数EをSBIFTで算出した場合の補正係数αを以下のように設定する。
【0020】
既述のように、SBIFTでは、ボーリング孔を予め掘ることなく、プローブのセルフボーリングで掘削したボーリング孔を利用するため、自然地盤の応力を緩めることなく、比較的精度の高い変形係数を得ることができる。しかしながら、その変形係数から算出した水平方向地盤反力係数は、載荷試験により得られた水平方向地盤反力係数に対し、若干の差があることがわかった。また、SBIFTで算出した変形係数を2倍にすると、そこから算出した水平方向地盤反力係数は、載荷試験により得られた水平方向地盤反力係数とよく一致することも判明した。図7に、SBIFTで算出した変形係数を2倍にした場合(補正係数α=2)及びSBIFTで算出した変形係数をそのまま採用した場合(補正係数α=1)に算出される水平方向地盤反力係数と、載荷試験により得られた水平方向地盤反力係数との比較を示す。なお、横軸は、基礎の載荷幅Dに対する地表面変位量Sの割合で、道路橋示方書では、変形係数EをN値から推定する場合には、この割合が1%の地点でほぼ一致する関係式E=2800Nを採用している。参考までに、変形係数Eを2800Nと推定した場合に算出される水平方向地盤反力係数も、図7に併せて示す。
【0021】
これらの事実を考慮し、地盤反力係数を求める際の補正係数は、常時(常時補正係数)を2とする。また、地震時(地震時補正係数)は、従来の設計方法と同様、常時の2倍とする。すなわち、この設計方法では4とする。
【0022】
なお、道路橋基礎設計の対象地となる地盤が、粘土質層、砂質層及び礫層から構成され、砂質層及び礫層が特にもろく崩れやすい場合には、砂質層及び礫層の周面摩擦力度をN値により推定する。
【実施例】
【0023】
本発明にかかる道路橋基礎設計方法により、以下の条件の道路橋基礎の設計を行った。
(基本条件)
1)上部工重量:鋼5径間連続狭小箱桁橋
2)橋 長:389.000m
3)桁 長:388.000m
4)支 間 長:69.800m+78.000m+86.000m+87.000m+66.800m
(荷重条件)
1)活 荷 重:B活荷重
2)死荷重反力:Rd=13100kN
3)活荷重反力:RL=3600kN
4)L1設計震度:kh=0.25(Lg),kh=0.26(Tr)
5)地震時水平力:H=3450kN(Lg),H=3450kN(Tr)
6)L2分担重量:Wu=13100kN(Lg),Wu=13100kN(Tr)
(耐震設計に関する区分)
1)重要度別区分:B種(高速自動車国道)
2)地域区別 :B地域(新潟県)
3)地域別補正係数:Cz=0.85
4)地盤種別 :III種地盤
(構造形状・寸法)
1)基礎形式 :鋼管ソイルセメント杭(φ1.2m)
なお、構造寸法は図8に示す通りである。
【0024】
設計の対象地となる地盤についてSBIFT及び標準貫入試験を行い、表1に示す周面摩擦力度及び補正変形係数を求めることができた。なお、表1において、As1、Ag2、Dg1−1、Dp−2、Ds1、Dc1−2及びDg1−2の層の周面摩擦力度は、N値から求めた。そして、表2に示す結果を得ることができた。
【表1】

【表2】

【0025】
また、比較用として、全層の周面摩擦力度及び補正変形係数をN値から求めた場合に得られた結果、すなわち、従来の設計方法により得られた結果を表3及び表4に示す。
【表3】

【表4】

【0026】
上述の通り、この設計方法によれば、SBIFTにより得られる、地盤の層毎におけるせん断応力−垂直応力直線及び送水量−垂直応力曲線を用いた、周面摩擦力度と地盤反力係数の具体的算出方法が決定しているので、道路橋基礎杭の必要最少本数を実際に決定することができる。しかも、その本数は、N値を利用して決定した場合よりも少ないことから、この設計方法により、過大な安全率を見込むことなく、必要十分な杭を決定できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明にかかる道路橋基礎設計方法の具体例のフローチャート図である。
【図2】SBIFTに用いられる試験装置の外観を示す地盤の断面図である。
【図3】SBIFTで求められた応力−せん断変位曲線の一例を示すグラフである。
【図4】SBIFTで求められた送水量−垂直応力曲線の一例を示すグラフである。
【図5】図3のグラフを基にして得られたせん断応力−垂直応力直線を示すグラフである。
【図6】図4のグラフの不連続部を連続させた場合に得られる曲線の概念形状を示すグラフである。
【図7】変形係数から算出される水平方向地盤反力係数と載荷試験により得られた水平方向地盤反力係数を比較して示すグラフである。
【図8】設計対象となる道路橋基礎の橋脚構造寸法を示し、(a)は側面図、(b)は橋軸方向から見た正面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 プローブ
2 掘削手段
3 水圧ポンプ
4 ボーリングロッド
5 測定機
S1 荷重条件および地盤条件の整理工程
S2 杭種・杭径の設定工程
S3 杭設計条件の整理工程
S4 杭配置・杭本数の設定工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原位置せん断摩擦試験(SBIFT)により、道路橋基礎設計の対象地となる地盤についてその層毎にせん断応力−垂直応力直線、及び送水量−垂直応力曲線を求め、
該せん断応力−垂直応力直線から求められる粘着力及び内部摩擦角と、該送水量−垂直応力曲線から求められる側圧値を用いて、該層毎の周面摩擦力度を算出し、
該送水量−垂直応力曲線から変形係数を求め、
地盤反力係数の推定に用いる、常時補正係数を2と、地震時補正係数を4とすることを特徴とする道路橋基礎設計方法。
【請求項2】
該層毎の周面摩擦力度は、該層が粘土質層であれば、該せん断応力−垂直応力直線から求められる粘着力及び内部摩擦角と、該送水量−垂直応力曲線から求められる側圧値を用いて算出され、該層が砂質層及び礫層であれば、N値により推定される請求項1に記載の道路橋基礎設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−270542(P2007−270542A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98589(P2006−98589)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(506045118)株式会社ドーユー大地 (6)
【出願人】(505398941)東日本高速道路株式会社 (66)
【出願人】(505398952)中日本高速道路株式会社 (94)
【出願人】(505398963)西日本高速道路株式会社 (105)
【出願人】(594096667)財団法人高速道路技術センター (10)
【Fターム(参考)】